待つ人

あまりの寒さで少しいらいらした顔をした私に

［すごいよね！俺感動しちゃったょ！］

と、無邪気にはしゃいでいる


ふとユウトを見ると頭にも肩にも雪が積もっていた

あまりに真剣に見ていたから気付かなかったのかな

と、思うとかわいく見えて、待ってたいらいらも一瞬忘れてしまった

そのまま軽くご飯を食べて次の目的地まで移動した

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次に行ったところでも、その次の場所でも私は待ちぼうけをくらい続けた


３ヶ所目で１時間程、ユウトを待って一人で時間を潰した後

私はついに寒さに耐え切れなくなって、一人で先にホテルまで行くことにした


せっかく楽しみだった旅行なのに、何のために２人で来たんだろう？

１人でホテルにいると、だんだん腹がたってきた

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ユウトがやっとホテルに帰って来た頃には、あまりにイライラしすぎて泣いてしまったんだっけ…



その後仲直りはあやふやになってしまったけど、次の日は２人で一日中手を繋いでくれたっけ


もう京都旅行はずいぶん前のことだけど今思い返すとなんだか心が温かくなる

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ユウトとの手紙のやり取りが始まって、忘れかけていた色々な思い出がよみがえってきた


それでも私にとってユウトとの恋は終ったものだった

思い出は思い出だから温かく思い出せる…

それに付き合い出したばかりの彼のことがあった…

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今の彼 ケイくんとの付き合いがうまくいけばいく程

私の罪悪感は大きくなっていく

手紙ぐらいならと軽い気持ちで始めたユウトとのやりとりが、重くのしかかってくる

その反対にユウトと以前だったらできなかった話しをするのは楽しく感じる自分がいる

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手紙にも２人で行った場所やお店の話ばかりを書いた

その度に強烈に思い出がよみがえってきた

広島には地下鉄がなくて大雪が降った日は車も出せなくて、仕事場まで１時間以上もかけて
歩いて迎えに来てくれたユウト…


横浜で仕事の合間を縫って観光に連れ出してくれたユウト…


あんなにイライラさせられたはずなのに、時間が経ってから思い出すのは彼がやさしくしてくれたことばかりなのはなぜなんだろう？

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そんな彼を放っておけないままに、２人の手紙のやりとりはズルズルと続いていく


半年の間で交わした手紙は100通をゆうに越えて、綴った枚数は1000枚を数える程になっていた

内容は今日あった仕事の出来事なんかのたわいのないものばかりだった…


ある日携帯をつついていると「待ち人 掲示板」というものを発見した…

刑務所に入っている彼氏や旦那を待つ彼女や家族を待ち人というらしいことを知った

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中を覗くと待ち人たちが彼を待つ心情や２人の思い出が綴られていた…

読み進めるうちに私はこの人たちみたいに強くユウトを思っていない気がして
何かを書き込むということはできなかった…


待ち人…

ユウトが出て来る時には誰が彼を待っていてくれるんだろう…

私は何もかも投げ出して彼を迎えに行くことなんて出来ない

そんな強い思いはどこを探しても私の中には無かった

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一気に読んでしまいました。続きが楽しみです。

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>> 59 なみえさん

レスありがとうございます🎶

不規則ですが更新していきますのでぜひまた覗いてみてください😌

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何の迷いも無く、ユウトを待ってると言えたらいいのに

ユウトを一途に待ってくれる誰かがいたらいいのに

もう関係ないと、放っておけたらいいのに

ケイくんだけを見ていれたらいいのに

なにもかもが中途半端な私は事あるごとに気持ちが行ったり来たりしていた


そんな私の心の迷いもそのままにケイくんとの仲は順調だった

一人暮らしの私の部屋にはあの時のユウトとのように、歯ブラシや男ものが並ぶようになった

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パチンコ店の店員のケイくんはなんでも私のワガママを聞いてくれる

一見おっとりな美容師風のひょろっと背の高い人だ

口調も柔らかく、一緒にいて安らげる人

知れば知る程に、この人を傷つけてはいけないなと思うから、何度も口走りそうになるユウトとのことを私は何度も飲みこんだ

なんて身勝手だろうと思う…

でも果たしてどちらが浮気でどちらが本気なんだろう？


自分でもわからなかった

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そんな気持ちとは裏腹に、ケイくんと過ごす時間はだんだんと長くなった…

私の気持ちもどんどんとケイくんに傾いていく

ユウトに出す手紙も日を追って少なくなり、内容もケイくんとのことが増え始めた


ユウトに対して悪いという気は感じなかった

今まで女関係が激しいユウトに振り回されてきたのだ

第一ユウトが私に対して今まで本気だったかどうかも疑わしかったから

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実際にユウトからはやきもちなんか一瞬も感じさせない手紙が返ってきた

それどころか…


＝＝俺も昔その辺りでよく遊んでたよ

俺って地元の広島じゃあ、結構名前知られてるからさ

まぁ、今は何にもできないけど、娑婆に出たらお金かせぎまくるし

捕まってから２年が経とうとしているのにユウトには反省している気配さえなかった

そのころにはユウトが捕まった原因が営利目的による薬物所持であったこと、かたぎではなかったことがわかってきていた

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横浜でユウトがアニキと呼んで親しげにしていた人も同じ時期に捕まり、裁判が２年経ってようやく判決に到ったことも

雑誌から知った…


私は決して後ろめたいことが一つもないような聖人ではないけれど
ユウトのように平気な顔をして人を傷つけられる程悪人にもなれないと思う


ここになって私とユウトには決定的に考え方が違うことに気付いた

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それからというもの私から手紙を書くことはなかったが、ユウトからはそれをさして気にしたふうでもない手紙が来ていた

それでも２ヶ月を過ぎると流石に心配になり始めたらしく


＝＝いつ返事をくれるの？
＝＝元気にしてる？

という問い掛けが多くなってきた

それでも返事をしないでいると

＝＝ワガママいいすぎてごめん
＝＝俺への文句でもいいかは返事がほしい


そんな弱気な言葉に移りかわった

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その弱気さに私はなんだかげんなりしてユウトに対する興味も情も反比例してなくなっていった

初めて手紙を書いてからそろそろ季節が２周目を折り返すころのことだった


既に同棲に近い形だったケイくんとの生活で
私の体の中に変化がおこり始めた

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いくら風邪をひいても食欲だけは落ちなかった私の食はどんどんと細くなり、一日中吐き気がするようになった…

まさか…ね…

避妊にはきをつけていたはずだし…

そんな思いとは裏腹に味覚も変わり、
酸っぱいものが食べたくなる


私は勘違いだと思いたくて検査薬を買いに走った

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結果は陽性…

何度試しても結果は同じだった

予期せぬ妊娠だったけれど、自分でも不思議なことに嬉しくて幸せな気持ちが込み上げてきた


今まで特に子供が好きでもなかったけれど、自分の体さえ愛しくてたまらない

初めての充実感だった


私は嬉しい気持ちをおさえてケイくんの帰りを待った

順番は違うけどきっと喜んでくれる

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ほどなくしてケイくんが帰ってきた
［おかえり～
話があるんだけど、私子供ができたみたいなの！］

［………］

ケイくんは何も言わない…
いくら待っても返事はなかった

その瞬間私は全てを悟った…


彼は喜んではくれてないことを…
そしてこの子の行く末を…


次の日ケイくんから告げられたのは予想通りの言葉だった

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［俺には誰かの人生を背負うほどの決意はない…

本当にごめん］


夢見てた子供との３人の生活は本当に夢のまま実現することはなかった

彼はテキパキと病院を探し日にちまで決めてしまった


予定はちょうど１週間後…
私はその間どうにか１人で育てる方法を考えた
でもいい解決策は思い浮かばないままその日を迎えた…


会話がないままの車中で逃げ出すことを考えた…

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麻酔がきいてくる最後の時までそのことばかり考えていた…


それから意識が遠くなってからはあっけないものだった

痛みも実感もなく、むしろつわりがなくなったことで体は楽なくらいだった


でも夜になるにつれ私はいてもたってもいられなくなった


何に対してのあせりなのかわからないけれど無償に時間が経つのが遅く感じられて喪失感がつのった

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ケイくんは何事もなかったかのように寝息をたてている横

真っ暗な部屋の片隅で私は息を殺して泣いた

ケイくんに腹がたつ反面、失うのが怖くて何も言えなかった…


だから来る日も来る日もケイくんがいない間私は泣きつづけていた

子連れの人を見る度に外でもいたたまれなくて自然に涙が溢れた

人があたり前に出来たことがどうして出来ないんだろう？

不思議なものでまだ顔すらわからない２週間ぽっちの命が私の想像の中ではいつだって悲しげだった

本当にごめんなさい…


後悔で泣く続ける日々の中で、ケイくんから話があると切り出された

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もう２人でいるのはつらい…

そういったまま彼は私から去って行った…


もう止められないほどに私は泣いて泣いて泣き続けた

後悔と自分に対する怒りとケイくんへの恨みで自分ですらコントロールがきかなくなった…


よくこんなに泣けるものだと思う…

涙はいつ涸れるんだろう…

昔人の身体の70パーセントは水分だと聞いた

それが全部流れてしまうんぢゃないのかと思うほど涙は止まらなかった

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そんな日が永遠に続くかと思うほど長く感じられる中で私の怒りや後悔は自分に向けられるようになった

寒い中、一人でベランダに一晩中座ってみたり

手首に剃刀を当てることも何度となくあった


死にたいとかそんな気はなかったけれど

心の痛みは身体の痛みも伴うらしく

ただひたすら逃げ出したかった


悩みも人に自業自得だと言われるのが怖くて相談すらできなかった

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ある日田舎の母から

［同級生のまりちゃんから結婚式の招待状が届いてたから、そっちに送っといたわよ］


と、電話がかかってきた


私はせつなさと久々に聞く母の声で何とか［わかった］と答えるのがやっとだった


電話を切った後、仕方なく郵便受けを覗きに行った

今は誰かの幸せそうな知らせなんか聞きたくなかったのに…

とぼとぼと力なく久しく見ることも無かった自分の郵便受けを開けると、チラシやダイレクトメールに混じってユウトからの手紙が落ちた

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私が彼の存在すら忘れていた間、ユウトは１０通以上も手紙を送っていたらしい…

私は友達からの結婚式の招待状を後回しにして、ユウトからの手紙を消印の早い順に開けて読んでいった


最初の頃の手紙にはいつもの明るい調子で刑務所の中で聞いた噂話なんかのとりとめのない話が綴られていた


私がケイくんと付き合いはじめたころの日付だった

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それが日付を追うごとに
[なにかあった？]

[大丈夫？]

［心配してる…］

という言葉が増えていっていた…

私は心配してくれてる人がいたことが、素直に嬉しくて久々に温かい気持ちになった

ユウトになら自分の今のつらいことが素直にに話せるかもしれない…

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ユウトにはありのままを書いた…

私がおろかだったこと
ケイクンに対するどうしようもない恨み

自分に対する怒りで自分を傷つけてしまっていること


自分勝手だと思うけれど、誰かに聞いて欲しかった

ユウトなら受け止めてくれる
なぜかそんな気がした

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