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オーダーメイド・ロボット

レス132 HIT数 7433 あ+ あ-

ななこ( ughYh )
09/05/14 12:00(更新日時)

現代に溢れかえる、悲しい事件。

事故、殺人、自然災害。

大切な人を亡くした悲しみから、拡大する鬱病。


そんな現代を救うべくして、誕生したのがこの「オーダーメイド・ロボット」です。


たった一度だけですが、あなたの大切な人に再会できるチャンスです。


どうぞ、少しでも興味を持たれた方はお気軽にご相談下さいませ。

No.1158978 08/12/30 00:27(スレ作成日時)

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No.1 08/12/30 00:41
ななこ ( ughYh )

2040年。

スカイ・カンパニーが開発した「オーダーメイド・ロボット」は、脅威の売り上げを記録した。

決して安いとはいえない金額を支払ってまで、もう一度我が子に会いたい、そう願う親が多いという事であろう。

日本の人口は、年々凶悪な事件により減少している。

「オーダーメイド・ロボット」は、そんな日本の救世主なのかもしれない。

No.2 08/12/30 00:51
ななこ ( ughYh )

「美咲ちゃん。起きて。」

優しい、女の人の声がする。

私は、ゆっくりと目を開けた。

「美咲ちゃん!!」

目の前に、涙ぐんだ女の人。

「この方が、あなたのお母さんですよ。分かりますか?」

女の人の隣にいる、清潔感が漂うスーツの男の人が話しかけてきた。

私は、ゆっくりと頷く。

美咲の記憶は、全て頭の中にインプットされているから。

私は、7月15日、美咲の誕生日に、生まれた。

No.3 08/12/30 00:59
ななこ ( ughYh )

ジリリリ…

耳障りな、目覚ましの音。

私はパン!と目覚まし時計を叩き、もう一度心地よい眠りの中に入ろうとしていた。

「美咲ちゃん!早く起きなさーい!」

下から、母のウルサい声が響く。

だってまだ眠たいんだもん。

私はその声を無視した。

「今日から高校生でしょー!!!遅刻したら恥ずかしいわよー!」

ん…??高校生…??

そうだった!!!

私は、ベットから飛び起きた。

今日は高校の入学式。

なんとか頑張って、第一希望の高校に受かったのに、寝坊なんてしてられない。

私は慌てて、洗面台へと向かった。

No.4 08/12/30 01:06
ななこ ( ughYh )

顔を洗い、髪の毛をブラシでとかす。

今日もばっちり、綺麗なストレートヘアーの出来上がり。

私は部屋へと戻り、長いこと憧れていたブレザーを手に取った。

まだピカピカの新品だ。

チェックのスカートが可愛くて、私は思わず頬擦りした。

ふと、時計を見ると8時10分を指している。

「いけない!本当に遅刻しちゃう!!」

私は制服の感動も満足に味わえないまま、急いで着替え、家を後にした。

「いってきまーす!」

玄関を開けると、眩しいくらいの快晴だった。

No.5 08/12/30 01:16
ななこ ( ughYh )

「みーちゃん、おはよう。」

通学途中の坂道で、チエに会った。

「おはよう、チエ。制服、似合ってるねー!」

チエは幼稚園からの幼なじみ。色白で、色素の薄い栗色の髪の毛を持つ、透明感のある美女だ。

「みーちゃんの方が似合ってるよう。ねえ、このリボンの結び方、変じゃないかな?」

チエが不安そうに、真っ赤なリボンをつまむ。

私はチエの頭をなでなでしながら、

「大丈夫。すごーく、可愛いよ」

と笑顔で返した。

チエが私を見上げて、へへ、と照れたように笑った。

キーンコーン…

遠くで、学校のチャイムが聞こえる…

「やばっ!!チエ、遅刻だ!!」

「うそお!!みーちゃん、ダッシュだ!!」

私達は、一目散に学校へと走り出した。

No.6 08/12/30 01:20
ななこ ( ughYh )

私は、一年一組。

チエは、二組。

私達は、静かな廊下を忍び足で進む。

「じゃあ、また放課後ね。」

私はヒソヒソとチエに耳打ちした。

「うん、また放課後ね。みーちゃん。」

チエもヒソヒソと返す。

私達は、そーっと教室のドアを開けた。

No.7 08/12/30 01:32
ななこ ( ughYh )

恐そうな先生が、出席を取っている。

「坂本。」

「はい。」

「斉藤。」

「はい。」

「ん…?」

ソロソロと気付かれない様に教室内を移動していたのに、どうやら気付かれてしまった様だ。

全身から、イヤーな汗が出る。

「お前。遅刻か。名前は?」

うう。

やっぱり、気付かれてしまった。

「瀬戸美咲です…」

恐る恐る、先生の方を見る。

「後で職員室に来なさい。」

…。

やっぱりか。

「はい…」

私は、見事にひとつだけ空いている席に腰を下ろした。

「入学早々遅刻なんて、やるねえ。」

隣の男の子が、ヒソヒソと話かけてくる。

ハハハ…と苦笑いしながら隣を見ると、ニヤニヤ笑う美少年がいた。

なんだ、この美少年は。

私があっけに取られていると、美少年は勝手に自己紹介を始めた。

「俺、三島健。皆からけんちゃんって呼ばれてるから、けんちゃんでいいよ。」

「はあ…」

私は上手く返す事ができない。

「よろしくね、みーちゃん」

けんちゃんは、悪戯っぽい笑顔を浮かべて、こう言った。

No.8 08/12/30 01:42
ななこ ( ughYh )

放課後。

みっちりと担任の先生に絞られた後、ぐったりとしながら靴箱へと向かった。

「あ、みーちゃあーん…」

靴箱には、同じくぐったりとしたチエが。

「もしかして、チエも怒られた?」

チエはこくこくと何回も頷いた。

「入学早々災難だよー。みーちゃん、新しいお友達出来た?」

私はローファーを床にパンと落とし、

「まーねー」

と力なく答えた。

「やっぱりみーちゃんは凄いね。すぐお友達できちゃうね。」

チエは目をキラキラさせている。

私は苦笑いし、

「でも最初の印象が遅刻だからねえ…恥ずかしいよ」

と続けた。

チエは

そうだよねえ…遅刻だもんねえ…

と落ち込んでいる。

そんなチエを見ていると、なんだかかわいそうになった。

「ねえ、チエ。いつもの所、行こうか。」

私の提案に、チエの顔がパっと輝く。

「行こう行こう!」

私達は、学校を飛び出した。

No.9 08/12/30 02:07
ななこ ( ughYh )

私達は、真っ赤なドアを勢い良く開けた。

チリンチリンと、ベルの音が鳴る。

「またあんた達?」

「また来ました!」

「また来ました!」

私とチエは、声を揃えて元気良く挨拶をした。

ここは、「ストロベリーパイ」という名前のカフェ。

私とチエの共通の友達、鈴が働いている。

鈴はああ、とため息をつき、

「いつものヤツでいーの?」

と、ぶっきらぼうに聞いた。

「もちろん。ねえ、チエ。」

「もちろん。ねえ、みーちゃん。」

私達は、一番日当りの良い窓際の席を占領する。

「はいはい。ちょっと待っててね。」

鈴は手をひらひらさせて、奥へと消えていった。

鈴は私達のお姉さん的存在。

黒髪ロングのよく似合う、凛とした美人さんだ。

「今日もすーちゃん、美人だねえ。」

チエがうっとりとした顔で呟く。

「本当だねえ。」

私もうっとりしながら相槌を打った。

No.10 08/12/30 03:29
ななこ ( ughYh )

「おまちどおさま」

私とチエの目の前に、ルビーのようなイチゴが乗ったパイが置かれた。


「うはー!美味しそう!」

「いただきまーす!」


私達のお気に入り、鈴のストロベリーパイ。

甘酸っぱくて、それでいて甘すぎない極上のスイーツ。


「幸せだあ」


私とチエが笑顔で食べるのを、鈴は少し嬉しそうな顔で眺めている。


眩しい日光の中で、こうやって皆で過ごす時間は、とても幸せだった。

No.11 08/12/30 03:43
ななこ ( ughYh )

「そういえば、もうすぐみーちゃんのお父さんの命日だね。」

チエが、ぽつりと言った。


「うん…」


私は、その日が自分の命日でもある事を、誰にも明かしていない。


オーダーメイドロボットは、その存在を家族以外に明かしてはいけないのだ。

例え、どんなに親しい友達だとしても。

「今年も、一緒にお墓参り行こうね。」

チエは寂しそうに呟いた。


「うん。毎年、ありがとうね」


私は微笑んで、チエの頭をくしゃくしゃにした。


「さあて、今日はもう一個食べちゃいますか!」


「食べちゃいますか!」


「鈴、おかわり!」

「おかわり!」


呆れた顔をして鈴がこっちを見た。

「もう!うちは定食やさんじゃないんだからねっ」


私達は顔を見合わせて、笑い転げた。

No.12 08/12/30 03:53
ななこ ( ughYh )

「ただいまー!」

玄関を開けると、ビーフシチューの良い香りが漂っていた。

「おかえり。手洗っておいで」


お母さんは台所にいるみたいだ。


「はーい」


私は靴を脱ぎ散らかし、洗面台に向かった。

No.13 08/12/30 23:13
ななこ ( ughYh )

私は洗面台に向かい、手を洗った後にリビングへ向かった。

テレビのチャンネルを変えながら、床にゴロゴロと寝転がる。


「美咲ちゃん、夕飯並べるの手伝ってー」


「えー面倒くさいよー」


私はブツブツ言いながらも、重い腰を上げた。


サラダに、ビーフシチュー。

ホカホカのご飯。

どれも美味しそうだ。


「いただきまーす!」


お母さんと二人で、手を合わせて食べ始める。


「そういえば。もうすぐ定期検診だから、なるべく早く帰ってきてね」


「はいはい」


私はモグモグしながら返事する。


定期検診とは、私の体を1ヶ月に一回交換する作業の事

No.14 09/01/01 17:50
ななこ ( ughYh )

>> 13 だ。


1ヶ月に一回、体を交換する事で、微妙に成長しているように見えるのだ。


だから、チエも気づいていない。


私の寿命は契約した時点で決まっているらしいのだが、知らされていない。


いつ私の役目が終わるのだろうか。


私は、定期検診の度に、そんな事を考えていた。

No.15 09/01/12 14:42
ななこ ( ughYh )

「本日も異常無しですね。お疲れ様でした。」


私はぺこりとお辞儀をし、部屋を後にした。


秘密厳守な為、待合室にはお母さんが一人だけだった。


「お疲れ様。」


お母さんは私にコートを渡す。


私は受け取り、袖を通す。


「さて、帰ったらお墓参りよ。」


お母さんは立ち上がって、ドアの所まで歩く。


私は後ろから付いて行った。

No.16 09/01/12 17:22
ななこ ( ughYh )

「みーちゃん。迎え来たよー」


チエが家の前で叫んでいる。


「わかったー!!今行くよー」


私は自分の部屋の窓から顔を出して、叫んだ。


「お母さん、チエ達来たよ」


私はリビングに降り、お母さんを呼んだ。


「はあい、ありがとう。もう準備できたから行こうか。」


お母さんが荷物を持ってやってきた。


私は玄関に向かい、靴ひもを結ぶ。


お母さんが車の運転が出来ない為、チエのお父さんが車を出してくれる。


これも、毎年恒例の事だった。

No.17 09/01/12 22:01
ななこ ( ughYh )

空は、快晴。

チエが、車の窓から降り注ぐ太陽の光に目を細める。


栗色の髪の毛が、いつも以上に透き通って見えた。


段々と、田舎の風景になってくる。


色鮮やかな緑を見ていると、なんだか悲しくなった。

No.18 09/01/12 22:08
ななこ ( ughYh )

お母さんがチエのお父さんとお墓の掃除をしている間、私とチエは見晴らしの良い丘の上で他愛もない話をしていた。


「みーちゃん、好きな人出来た?」


チエが私の顔を覗き込みながら言う。


「うーん、今のところまだいないかなあ。チエは?」


話の流れで何となく聞いただけなのに、チエの顔は真っ赤になる。


「いるんだ?!」


私は意地悪な笑みを浮かべて、チエを凝視する。


チエは真っ赤になりながら、

「もうっ!みーちゃんの意地悪っ!」


と言い、私の背中をパカパカ叩いた。

No.19 09/01/13 04:10
ななこ ( ughYh )

「美咲ちゃん、チエちゃん、お掃除終わったわよー」

遠くから聞こえる、お母さんの声。


「えーっ、いいとこだったのにー」


私はあからさまに嫌な顔。


チエはナイスタイミング!といわんばかりに、笑顔で立ち上がった。


「みーちゃん、お父さんに挨拶挨拶!」

「もう。今度は絶対聞かせてもらうからねっ!」


私達は、同時にプッと吹き出すと、お父さんのお墓まで急いだ。

No.20 09/01/13 04:20
ななこ ( ughYh )

私達は、綺麗になったお父さんのお墓の前に立ち、手を合わせた。


お父さん。

不運な交通事故だったね。

私達が乗っていた車が崖から落ちていく時、お父さんは必死に私を守ろうとしてくれた。


お父さんに会えないのは悲しいけど、私が死んだのは、やっぱり運命だったのだと思う。


だから恨んでなんかいないよ。


そして私が死んだら、オーダーメイド・ロボットを作る契約までしてくれてたね。

私は、お父さんに二度も命を貰った。


だから、これからも、寿命がくるまで、お母さんや友達を大切にしながら生きていきます。


本当にありがとう。

ずっと見守っていて下さい。


お父さん、大好きだよ。

No.21 09/01/13 04:25
ななこ ( ughYh )

私の目からは、涙が一筋流れていた。


チエの目にも、涙が浮かんでいる。


一人っ子だった私は、チエと本当の姉妹の様に一緒にいて、お父さんもチエを本当の娘のように可愛がっていたから…


私はゴシゴシと乱暴に涙を拭き、


「帰ろうか。」


と、無理に笑顔を作り、呟いた。

No.22 09/01/13 04:41
ななこ ( ughYh )

夕食後、自分の部屋に戻り、テレビをつけた。


今から宿題をやっつけなければいけない。

面倒だなあ、と思いつつ、ノートを開いた。


英語って、苦手なんだよなあ…


BGM代わりに聞いていたテレビから、気になる単語が耳に入ってきた。


「次は、オーダーメイド・ロボットに関する事件です。」


私は、ふと手を止めた。


「中学校の同級生に、オーダーメイド・ロボットだと噂されていた坂本啓太君が、今日未明いじめを苦に自殺しました。」

私は呆然とした。


そうなのだ。

オーダーメイド・ロボットは、あまり世間の評判は良くない。

人の命の長さを伸ばす、という行為に嫌悪感を持っている人は沢山いる。


これが、オーダーメイド・ロボットであることを明かせない理由なのだ。


そして、もう一つ。

二度、同じ人間のオーダーメイド・ロボットは作れない。

だから、オーダーメイド・ロボットとしての寿命が、本当の最後になる。


もしも、第三者に、命の長さを宣告されたら?


私だったら、マトモでいられない。


いくらロボットだからとはいえ、感情や考え方は、死んだ美咲と全く同じ。


きっと、発狂してしまう。


私は、急に怖くなってきた。

No.23 09/01/13 04:51
ななこ ( ughYh )

「ちょっと、チエの所行ってくるね。」

私は、リビングでテレビを見ていたお母さんに言った。


「あら、急にどうしたの?」


首だけをこちらに向け、キョトンとした顔。


「宿題で分からない所があってね。教えてもらってくる」


私はノートをヒラヒラさせた。


「お勉強ね。いいことだわ。気を付けていってらっしゃい」

お母さんはニコっと笑った。


「うん、遅くならないうちに帰ってくるから。いってきまーす!」


私はサンダルを突っ掛け、玄関のドアを体で開けた。

No.24 09/01/13 05:09
ななこ ( ughYh )

ピンポーン。 チエの家のインターホンをならす。 「はーい。あっ、みーちゃんだ」 運良く、チエが出た。 「おじゃましまーす!」 私はサンダルを脱ぎ、 チエの部屋に向かった。 「今ね、テレビ見ながらミステリー雑誌読んでたのー」 チエが伏せていた雑誌を持ち、私の目の前に広げた。 満面の、笑み。 そう、チエはオカルトやミステリーなどが大好きなのだ。 チエが話す怪談話は、洒落にならない程怖い。

No.25 09/01/13 05:12
ななこ ( ughYh )

「今週もねー、人肉の味、不気味だったよーっ!」

人肉の味、というのはチエが毎月欠かさず買っているミステリー雑誌の連載の事だ。

私も飛び飛びながら、目を通している。

「あ、気になる!見せて!」

私は持ってきた英語のノートを放り出し、雑誌を受け取った。
「著者のスーさんってさ、女の人かなあ??」
一緒に雑誌を覗き込みながら、チエは首を傾げた。

「一人称が私、だから、女の人じゃないの?」

私は読みながら答える。

「うーん。最初ね、ぜーったい男の人だ!しかも美形だ!っていう自信があったんだけどね、最近文章がヤケに女の人くさいの。」

チエは根拠の無い自信を満々にして語る。
まあ…この子は昔から勘の鋭い子だったから、本当に著者が代わったのかもしれない。

「スーさんは、何人もいるのかもしれないよ?」

私はチエに顔を近付けて、ニヤリと笑った。

「みーちゃんもそう思う?!」

チエは興奮して手を叩く。

本当に、何しても可愛いなあ。

「続いて、次のニュースです」

No.26 09/01/13 05:24
ななこ ( ughYh )

一瞬、エアコンのうなり声も、私達の会話も、周りの音全てが消えた。


その一瞬の静寂に、ニュースキャスターの声が響く。


私達は、無意識にテレビへと目を向ける。

「最近、不特定多数を狙う通り魔事件が相次いでいます。被害者は今のところ七名で、全員の死亡が確認されています。」


被害者の写真が次々に画面に現れ、消える。


まだ、若い人ばかりだ。


「通り魔…みーちゃん、怖いよ…」


チエが私の腕をぎゅっと掴む。


「大丈夫だよ。これからは、明るいうちに帰ろうね。」


私はチエの頭を撫でた。


「うん、明るいうちにすーちゃんの所に寄り道して、明るいうちに帰ろうね!」

「寄り道はするんだー!怖がってたくせにー!」


私達は、いつもの様に笑い、いつもの様に、はしゃいでいた。

No.27 09/01/13 05:44
ななこ ( ughYh )

「みーちゃん。英語のノート見せて!」

ザワザワとした教室の中、机に伏せて寝ていた私は、けんちゃんに叩き起こされた。


「うー…夢見てたのにー…」


私は開かない目を無理やりこじ開け、机を漁った。


…ない。


昨日、チエの部屋に置いてきたままだ。

「げっ!」


眠気が一気に吹き飛んだ。


「どーした?」


けんちゃんが首を傾げる。


口を開こうとした瞬間、

「みーちゃんー!」

と、チエの声。


「英語のノート、うちに忘れてたの持ってきたよー!」


「ナイスタイミング!」


私はチエの元に走り、ノートごとチエを抱きしめた。


「わっ!」


「ありがとう、チエ!」


私はチエの頭に頬擦りする。


「もー。みーちゃん、びっくりしたよー。ついでに宿題も終わらせておきましたからねっ!」


私の顔が分かりやすくにやける。


「本っっ当にありがと!」


「ストロベリーパイ、一個分ね!」


「奢らせていただきますっ!」


私達の隣にけんちゃんが割り込む。


「じゃあ俺も着いていくっ!」


ニコニコしながらひょいとノートを奪った。

No.28 09/01/13 05:52
ななこ ( ughYh )

「なんでけんちゃんも一緒ー?」


私はブツブツと文句を言う。


「行きたいから。ね、お願い」


けんちゃんは手を合わせて、陽気なお願いのポーズをした。

「あっ、みーちゃん。今日ね、ミステリー研究会の集まりがあるから、放課後ちょっと遅れるかも。けんちゃんと一緒に待ってて、お願いっ」


今度はチエのお願いポーズ。


ていうか、ミステリー研究会ってナンだろう。

また怪しげな…


「じゃあ決まりだ!チエちゃん、放課後この教室で待ってるからね」


私の返事も聞かず、勝手に約束を決めてしまうけんちゃん。

まあ、いいか。


「はあい!また放課後ね。ばいばい、みーちゃん、けんちゃん。」


チエは小さく手を振って、教室を後にした。

No.29 09/01/13 07:16
ななこ ( ughYh )

放課後。

オレンジ色の夕日が、教室を染めていく。

いつも、おちゃらけているけんちゃんも、黙って夕日を浴びる姿はとてもキレイだ。


あ、目が茶色。


けんちゃんのガラスみたいな目を見ていたら、バッチリ目が合ってしまった。


慌てる私。


けんちゃんは私の様子に気付かずに、普段よりもゆっくりめなペースで話し出した。


「最近の若者ってさ、気持ちの先読み機能がついてないよね。」


「先読み機能?」


私は、けんちゃんの言う「先読み機能」の意味が分からない。

何かの例え…だろうか?


「んまあ、詳しく言うとさ、自分の行動によって、相手に危害を加えたり、不快な思いをさせるって事を予想できない人達のこと。」


ああ…。

けんちゃんの言葉を聞いて、昨日のニュースを思い出した。

いじめや、通り魔。

きっと、彼等に「先読み機能」がついていたら。


こんな事件なんて、起きないのかもしれない。

No.30 09/01/13 07:20
ななこ ( ughYh )

「みーちゃんは、ちゃんと先読み機能がついてる。だから大好きだよ」


いつものけんちゃんを装ってるけど、何か違う…


大好きって言葉を意識してしまい、鼓動が早くなる。


「け、けんちゃんっ…」


私が言葉を発するのとほぼ同時に、廊下からパタパタパタ…と小さな足音が聞こえた。

No.31 09/01/13 07:27
ななこ ( ughYh )

私は慌てて口を噤む。

足音は、教室の前で止まり、ほぼ同時にドアがガラッと開いた。


「ごめんね!お待たせっ」


ハアハアと、肩で息をしているチエ。


「遅いよおー!お腹ペコペコだ!」


私は、恥ずかしさを紛らわす為に、わざと明るい声を出した。


「早く行こ行こ!」

チエの腕を引っ張り、カバンを持ち上げる。


「んん?みーちゃん、カバンぺちゃんこだ」


チエが不思議そうにカバンを叩く。


「本当だ」


けんちゃんも、叩く。


「教科書全部置いてるもん」


私は机を指差した。

No.32 09/01/13 07:33
ななこ ( ughYh )

「おやおや。みーちゃん、お忘れですねえ。」


「ですねえ。」


チエと、けんちゃんがニヤニヤ笑う。


な、なんだよっ


まだ「??」状態の私に、二人は顔を見合わせて言った。


「もーすぐ期末テストだよっ」






…!

てっ、テストお!?

やばいっ、本気で忘れてた!


「今日勉強する教科書選ぶから、ちょーっと待ってねっ」


青くなった私を、二人はケラケラ笑いながら見ている。


悔しい。


数学か古文かで悩んでいると、ガラッと教室のドアが開いた。

No.33 09/01/13 07:41
ななこ ( ughYh )

ドアに目をやると、同じクラスの不思議少年が現れた。


「お、電波くん」


けんちゃんが右手を上げると、電波くんはぺこりと会釈した。

電波くんっていうと、悪いあだ名みたいに聞こえるけど、親しみを込めて付けられたあだ名だ。


頭脳明晰、パソコンなんてお手の物な彼は、常に成績がトップ。

背はちょっと低めで、人見知りな電波くんは、けんちゃんとしか話している姿を見た事が無い。


「もしかして、電波くんもミステリー研究会?」


チエと電波くんが同時に頷く。


「…忘れ物、取りに来た」


電波くんは、机から手のひらサイズのパソコンを取り出した。

…どうやって使うんだ、アレ…

No.34 09/01/13 07:46
ななこ ( ughYh )

「そだ、電波くんも今から一緒に寄り道しない?」


けんちゃんがいつもの笑顔で誘う。


「いいね、私も電波くんと話してみたいし」


私も同意する。


チエはどうかな…と、
チエの方を見ると、真っ赤な顔して何回も頷いている。


んん…?

…もしかして、チエの好きな人って…


電波くんは無表情にみんなの顔を見比べて、コクリと頷いていた。

No.35 09/01/13 08:01
ななこ ( ughYh )

チリンチリン。


「こんにちはー!」

私達はゾロゾロと、ストロベリーパイへやって来た。


「あら、今日はいつもより人数が多いね。」


クールな鈴が出迎えてくれる。


「高校のクラスメイトだよん」


私は窓側の席に自分のカバンを投げ込みながら言った。


ちゃっかりチエも窓側キープ。


笑いを堪えながら、けんちゃんが私の隣に座り、電波くんがチエの隣に座った。

鈴が4つ、水を持ってきてくれる。


「いつものやつ、4つでいいのかな?」

「もちろん!」

私とチエは、男の子達の返事も待たずに即答した。


けんちゃんは相変わらず笑いに堪えるのが苦しそう。


電波くんは、やっぱり無表情。

No.36 09/01/13 08:10
ななこ ( ughYh )

「電波くんってね、凄いんだよー!」


突然、チエが話出した。


チエが言うには、電波くんには霊感というものがあるらしい。

なるほど、ミステリー研究会だもんねと一人で納得していたら、電波くんが口を開いた。


「厳密に言うと、霊感では無い。一般人よりも勘が鋭いだけ…」


それだけ言い、一口水を飲む電波くん。

「んーん、あれは絶対霊感だよっ!凄かったもん、電波くん!」


チエは頬をピンク色に染めて、電波くんが如何に凄い事を披露してくれたかを力説。


私には聞き慣れない言葉の羅列でサッパリだったが、電波くんも心なしか嬉しそうだったのでよしとする。


そうこうしている内に、ストロベリーパイが運ばれてきた。

No.37 09/01/13 08:27
ななこ ( ughYh )

相変わらず絶品のストロベリーパイを頬張りながら、私達はお喋りを楽しんだ。

「そういえば、電波くんの妹、占い出来るらしいね?」


けんちゃんが言う。

電波くんの妹の占い…

何だかとてつもなく当たりそうな予感。

「えっ!そうなの?占ってもらいたいなー!」


チエが目を輝かせる。

きっと恋占いがしたいんだろうな、とニヤニヤしながらチエを見た。


目が合う。


チエは私の心を見透かした様に、ぷうと頬を膨らませた。


「…占い、の類かな…。巫女だから、ちょっと違う感じもするけど」


「へえー!電波くんの妹は、巫女さんなんだ?」

私は驚いた。


具体的に巫女さんってどんな人か分からないけど、何か凄い!


「楽しそうな話してるね!私も混ぜて!」


鈴が興味深々な顔で見ている。


私は、鈴が占いに興味を示した事が意外だった。

今まで以上に親近感が湧く。


私達5人は大いに盛り上がり、テスト明けの日曜日に、電波くんの妹に会いに行く約束をした。

No.38 09/01/14 01:13
ななこ ( ughYh )

キーンコーンカーンコーン…


期末テスト最後のチャイムが鳴る。


私はぐったりして机に頭を乗せた。


みんなの様子を観察する。


けんちゃんは…

相変わらず元気。


電波くんは…


無表情。


多分余裕だった…はず。


私は自分の頭の悪さに心底悲しくなった。


赤点、なかったらいいなあ…

No.39 09/01/14 01:20
ななこ ( ughYh )

放課後、みんなで集まって「いつもの所」へと向かった。


「みーちゃん、テストどうだった?」


チエが屈託のない笑顔で言う。


「うう…あまり聞かないで…」


私の反応にけんちゃんはケラケラと大笑いし、


「まあまあ。落ち込むな落ち込むな」


と、私の頭をクシャクシャにした。


「そうそう、みーちゃん。落ち込むな落ち込むな」


チエまで私の頭を撫で回す。


「ああっ!もうっ!」


私がプンプンと怒ると、一瞬だけ電波くんが笑った。


「あっ!電波くん笑ったあ!」


チエが嬉しそうに叫ぶ。

けんちゃんも

「笑った!笑った!」

と、大はしゃぎ。


みんなに注目された電波くんは、無表情だけど、顔がほんのりピンク色になった。


照れてるのかな?

なんだか可愛くなって、私もつられて笑った。

No.40 09/01/14 01:35
ななこ ( ughYh )

今日はストロベリーパイを5人で食べた。

久しぶりに鈴の両親が店番をするみたいだ。


鈴を加え、お喋りがまた加速する私達。

「もうすぐ約束の日曜日だねー。」


チエが嬉しそうに言う。

鈴も

「占ってもらいたい事をリストアップしてるんだよね。早く電波くんの妹に会いたい!」

と、心底待ち遠しいみたいだ。


「そいや、妹さんの名前何ていうの?」

私はイチゴをモグモグ食べながら聞いた。


「…葵。目が見えない。」


電波くんはポツリと呟いた。


詳しく聞くと、生まれつき盲目だった葵ちゃんだが、生活に支障が出ないくらい勘が冴えているらしい。

No.41 09/01/14 17:14
ななこ ( ughYh )

「…両親も最初は本当は見えているんじゃないかって、疑っていたらしい」


不思議な感じがまた魅力的で、私は葵ちゃんに益々早く会いたくなった。


「じゃあ、そろそろ暗くなってきたし、お開きにしましょうか」


鈴がそう言うと、みんな頷きそれぞれ椅子から立ち上がる。

すると、伝票をパッと取り、みんなの分を支払うけんちゃん。


私は慌ててけんちゃんの所へ走った。


「いいよっ、自分で払うよー」


焦って財布を取り出した私の前に、右手をヒラヒラさせてけんちゃんは


「テストお疲れ様って事で、俺からのプレゼント」


と言った。


けんちゃんって、こんなに気前良かったっけ…?

No.42 09/01/15 00:25
ななこ ( ughYh )

私達は、それぞれ帰路についた。


私はチエと同じ方向。

けんちゃんと電波くんは反対の方向。


鈴は、お店の片付けを手伝うらしい。


「また日曜日ねー!」


「おー。またなー」

No.43 09/01/15 00:34
ななこ ( ughYh )

日曜日。

張り切った私達は、午前中に
「ストロベリーパイ」
へと集合した。


けんちゃんはカジュアルな格好。


電波くんはちょっと高そうな服。

チエは薄いピンクのワンピース。

鈴は赤のタートルネックが良く似合っている。


「…じゃあ、行こうか」

電波くんの合図で、私達は出発した。

No.44 09/01/15 00:48
ななこ ( ughYh )

セミが鳴いている。

焼け付くアスファルトに、サワサワと心地良い音で揺れる木の枝。


空には真っ白な入道雲が浮かんでいる。

「もう、夏だねえ。暑い暑いっ」


チエがパタパタと手を扇ぐ。


「もうすぐ夏休みだもんねえ。早いなあ。」


私は日焼けしないように、手で顔に影を作った。


「私ノースリーブ選んで正解だったかも。」


鈴が勝ち誇った顔で言う。


「でもタートルネックじゃーん。暑そう暑そう」


私はべえっと舌を出し、いやーな顔をした。


「暑そう暑そうっ!」


チエも続く。


「なんだあ、その顔はっ!」


鈴はムッとして、私達の頭をぐしゃぐしゃにした。


「きゃははは!痛い痛いっ!」


あまりの力にしゃがみ込む私達。


「こらこら。じゃれあってないでちゃんと付いて来いよー!」


遠くで、けんちゃんの声がした。

No.45 09/01/15 00:52
ななこ ( ughYh )

電波くんの家は、立派な神社に隣接していた。


夏なのに、空気がひんやりと冷たい。


「すっごーい…」


その姿に圧倒される私達。


「…こっち…」


電波くんが指差した方へ、私達は歩き出した。

No.46 09/01/15 00:56
ななこ ( ughYh )

畳が永遠と続く様な気がする、広い部屋の中へ案内された。

普段は襖で仕切られている様だ。


一枚の襖が、私達の前に現れた。


電波くんを先頭に、私達は立ち止まる。

「葵。入るよ。」


「…いいよ。」


小さく、可愛らしい声が返事をした。


いよいよ、葵ちゃんとご対面だ。

No.47 09/01/15 23:13
ななこ ( ughYh )

畳の部屋の真ん中に、黒々とした艶のある長い髪の女の子がいた。
髪の毛は、畳の上に広がるほど長かった。


そして彼女の目は、一点を見つめたまま動かない。


「はじめまして。」

これが、葵ちゃんとの出会いだった。

No.48 09/01/15 23:23
ななこ ( ughYh )

私達は、お土産に持ってきたお茶菓子を食べながら、しばらく話をした。


葵ちゃんはまだ13歳。

基本的に無口なのは電波くんにそっくりだけど、時折見せる笑顔がとてもかわいい。


私とチエがふざけて、けんちゃんや鈴をからかっている時もクスクス笑っていた。


大分打ち解けてきた頃に、葵ちゃんから切り出してくれた。

「多分、みなさん一人一人と話をした方が良いと思うので。1人ずつ、順番に奥の部屋へ来てもらえますか?」


私達はそれぞれ頷く。

それが見えているかのように、葵ちゃんは立ち上がり、奥の部屋へと消えていった。

No.49 09/01/15 23:28
ななこ ( ughYh )

まずは、鈴から。

残った私たちは、電波くんの持っていたトランプで遊んでいた。


最初に神経衰弱をしたのだが、電波くんの一人勝ち。


電波くんに順番が回ってくると、その時点で終了となる…


チエは、すごーい!すごーい!を連発しながら喜んでいたが、私とけんちゃんはムスっとしていた。

「電波くん凄すぎてつまらなーい!」


畳に寝転がる私。

けんちゃんも

「つまらなーい!」

を連発し、畳にゴロゴロ転がっていた。

No.50 09/01/15 23:31
ななこ ( ughYh )

そんな事をしているうちに、鈴が戻ってきた。

なんか、浮かない表情。


「どーした?近々太りますよーとか言われた?」


けんちゃんがふざけて言った質問にも、

「ちょっと違う…かな」


と、いつもの調子じゃない。


首をかしげながら、次はけんちゃんが奥の部屋に向かった。

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