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レス39 HIT数 3946 あ+ あ-

*ハウエル*( Uc1Hh )
08/09/28 01:40(更新日時)

「……は? 今何て言ったんだ?」

悪魔はキョトンとして聞き返した。

それに対し、天使は小さな声で「二回も言わせないでよ」とつぶやき、うつむく。

「だから、堕天しちゃったんだってば」

天使の深刻そうな横顔を眺めながら、悪魔は考えた。

ここは悪魔らしくあざ笑うべきか。

それとも長年の友として慰めるべきか。

0,3秒の葛藤の後、悪魔は――



*。+゚★・.。*†*。.・☆゚+。*

仲良し天使と悪魔のルームシェア👼👿
前に書きかけ挫折した小説、まだ諦めてません(笑)
つたない文章ですけど、気に入ったら読んでね🐱

No.1158617 08/09/22 01:40(スレ作成日時)

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No.1 08/09/22 02:10
*ハウエル* ( Uc1Hh )

その日は朝から雨。

天使アコルダは駅前で空色の傘をさし、待ち合わせの時間が来るのを待っていた。

気分が沈んでいるというのに、冷たく肌を包む湿気と重い曇天。

彼は白いコートの襟を立てて、ふぅとため息をついた。

銀色の髪に、澄んだ青い瞳。

中性的な面立ちをしているが、彼は男だ。

時間は午後2時半。

待ち合わせ時刻まで、あと30分。

No.2 08/09/22 02:27
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 1 恵淀駅への道はひどく混んでいた。

悪魔ホパは運転席を後ろに下げて背もたれを倒し、足を組んでくつろいでいた。

ワイパーが忙しく動くのをサングラス越しに眺めながら、彼は音楽を楽しんでいる。

逆立てたダークブラウンの髪、サングラスの下の赤い瞳。

渋滞の列が進むたびに、彼の黒い高級車は自動的に前の車との距離をつめた。

時間は午後3時半。

待ち合わせ場所への到着予定時間、あと30分。

No.3 08/09/22 02:45
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 2 第一章 リストラ天使!



駅前に黒い車が現れた。

空色の傘に大量の水をはねて急停車。

窓を下ろし、ホパは「よぅ」と手を上げた。

しかし、アコルダは長く待たされたうえに水を浴びせられ、驚きと怒りと呆れの入り混じった顔をしている。

「なんてことを……! 今何時だと思ってるのさ!?」

「混んでたんだ。がたがた言ってないで乗れよ」

アコルダの抗議をかわして、ホパは言った。

「今日は機嫌が悪いんだな。オレが待ち合わせに遅れなかった日が今までにあったか?」

「ない。でもこんなに泥をかけられたのは初めて」

アコルダは助手席に乗り込みながら、イライラと言った。

No.4 08/09/22 03:06
*ハウエル* ( Uc1Hh )

やれやれと首を振り、ホパはパチンと指を鳴らした。

すると、アコルダの服は完全に乾き、泥の染みもなくなった。

「これで文句ねぇだろ。さて、どこいく?」

「どこでも。ゆっくり話せるところがいいな」

「了解」

ホパはゆっくりと車を発進させた。

天使と悪魔は敵対関係にある。

だが、何世紀もの長い時間をライバルとして過ごすと、さすがに親しみも沸いてくる。

この2人は同じ人間界で仕事をする良きライバルであり、良き友でもあった。

No.5 08/09/22 03:30
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 4 カフェは混んでいたが、天使と悪魔が座った窓向きのカウンターには、自然と誰も近寄らなかった。

2人は雨の町を見下ろしながら黙っている。

沈黙を破ったのは、もちろんホパ。

「……あのなぁ。お前が『話がある』とか言うから、わざわざ車飛ばして来たんだぜ? 何か言えよ」

「ああ、そうだね、うん」

アコルダは少し考えた末に、「えーっと、元気にしてた?」と尋ねた。

すると、ホパは「ああ」と答えてすぐ、

「つか週3回は電話で話してるじゃねぇか」

と言った。

「そうだけど、電話で話すのと会って話すのとは違うじゃない」

「どう違うんだ?」

「電話じゃ、伝わらないことがたくさんあるもの」

ホパは、このときようやくアコルダの元気がないことに気付いた。

No.6 08/09/22 03:49
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 5 「昨日、堕天しちゃってさ」

アコルダはポツリと言った。

「……は? 今何て言ったんだ?」

ホパはキョトンとして聞き返した。

聞き取れなかったわけではない。

が、聞き間違いかと思ったのだ。

それに対し、アコルダは小さな声で「二回も言わせないでよ」とつぶやき、うつむく。

「だから、堕天しちゃったんだってば」

アコルダはココアから立ち上る湯気に視線を落とした。

「神が、人間界で修行しろって」

深刻そうな横顔を眺めながら、ホパは考える。

ここは悪魔らしくあざ笑うべきか。

それとも長年の友として慰めるべきか。

0,3秒の葛藤の後、ホパはパンと手を打ち、笑った。

No.7 08/09/22 04:07
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 6 「はっはー! マジかよ!」

しかし、アコルダは真剣な面持ちで「マジだよ」と答えただけだった。

ホパは笑うのを止め、咳払いする。

「そもそも、堕天した理由は?」

「人間に善行を促す仕事が上手くいかなくて。ノルマを達成できなかったんだ」

「ああ、戦力外通告か」

ホパは同情して言った。

「近頃の人間は、善なる行為は損するだけだと思っているからな」

「そのようだね。愛と勇気は、もう時代遅れなのかなぁ」

アコーダはガラスを伝う雨水を見上げて言った。

  • << 9 ややあって、ホパは尋ねた。 「で、これからどうするんだ?」 「とりあえずは、働き口を探さなきゃ。お金もほとんどないし」 「住む場所は?」 「先輩が人間界で暮らせる最低限の準備をしてくれたんだ。ぼろアパートらしいけど」 「らしいけどって、まだ行ってねぇのかよ。オレだったら一番に確認するぜ?」 ホパは呆れて言った。 すると、アコルダは少し恥ずかしそうに微笑んだ。 「突然の通告だったから、どうすればいいのかわからなくて」 「ふぅん。それなら、見に行くとしようじゃねぇか」 ぬるくなったココアとコーヒーを飲み干し、2人はアコルダの新居へ向かった。

No.8 08/09/22 04:18
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 7 *。+゚★・.。*†*。.・☆゚+。*

ありゃ💧

>7 最終行

アコーダ➡アコルダ

もともとアコーダという設定だったので、また間違えたらごめんなさい🙇

No.9 08/09/22 05:12
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 7 「はっはー! マジかよ!」 しかし、アコルダは真剣な面持ちで「マジだよ」と答えただけだった。 ホパは笑うのを止め、咳払いする。 「そも… ややあって、ホパは尋ねた。

「で、これからどうするんだ?」

「とりあえずは、働き口を探さなきゃ。お金もほとんどないし」

「住む場所は?」

「先輩が人間界で暮らせる最低限の準備をしてくれたんだ。ぼろアパートらしいけど」

「らしいけどって、まだ行ってねぇのかよ。オレだったら一番に確認するぜ?」

ホパは呆れて言った。

すると、アコルダは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「突然の通告だったから、どうすればいいのかわからなくて」

「ふぅん。それなら、見に行くとしようじゃねぇか」

ぬるくなったココアとコーヒーを飲み干し、2人はアコルダの新居へ向かった。

No.10 08/09/22 05:28
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 9 そのアパートは、倉庫や工場の立ち並ぶ中にひっそりとたたずんでいた。

廊下も階段も、薄汚れていて隅にゴミが溜まっている。

階段を昇ってすぐの部屋の前で、アコルダは立ち止まった。

「ここだ、201号室」

アコルダはドアの札を見上げて言った。

その後ろで、ホパは廊下の窓から外を眺めていた。

路地に散らばる雑誌の残骸が雨にぬれている。

野良猫。

ゴキブリ。

今にも音を立てて剥がれ落ちそうな赤レンガの外壁。

「しみったれた所だな。悪魔だって寄り付きやしねぇ」

ホパは吐き捨てるようにいい、鍵を開けたアコルダについて部屋に入った。

そして、硬直した。

まさか玄関が大理石でできていようとは、ホパでなくても思い到らないだろう。

No.11 08/09/22 05:40
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 10 玄関のすぐ脇にはセパレートのトイレとシャワールーム。

フローリングのダイニングキッチンにはテーブルと椅子が2つ。

おまけに小さなシャンデリア。

その奥には寝室があるようだ。

アコルダは驚きで声が出なかった。

ホパも唖然としている。

「お前の先輩はどんだけ過保護なんだ? こんな裕福な生活で修行になるのかよ」

「正直、よくわからない……」

ホパは寝室の扉を開いて、愕然とした。

部屋の中央に、ビロードの天蓋つきベッドが居座っていたのだ。

その脇から、アコルダが覗く。

「キングサイズ……」

「リストラ先がここじゃあ、人間ども怒ると思うぜ」

No.12 08/09/22 05:47
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 11 天蓋つきベッドに腰を下ろし、ホパはそのまま仰向けに寝そべった。

ああ……天国と地獄がそれぞれベッドを生産したら、たぶん地獄に勝ち目はない。

アコルダはホパの反対側に腰掛け、同じように寝そべった。

房飾りのついた天蓋を見上げながら、アコルダは呟いた。

「そういえば、人間は眠るんだね」

「そうだな」

「お腹も減るし、満腹にもなるんだね」

「そうだな」

「涙も出るし」

「ああ」

「血も出る」

「そうだな」

No.13 08/09/22 06:12
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 12 すると、ホパは少し考えて言った。

「おならやウンコも出る」

「そうだね」

「怪我したら痛ぇし」

「うん」

「ヤりたくもなるし」

「うん……え? 何を?」

「些細なことで死ぬし、それに」

「それに?」

「完全なる善ではいられない」

「……それはわからないよ」

アコーダは少し挑戦的に笑った。

しかし、ホパはきっぱり「いや、無理だな」と言った。

No.14 08/09/22 06:17
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 13 「人間ってのは、たとえ天使のような善人でいようとしたって、大なり小なり邪念が起こる」

アコルダは微笑を浮かべながら答える。

「だけど、そのために教会があるんだよ。人間には、心に芽生えた悪や行った罪を懺悔することが許されている」

「んー」

少し違う気がしたが、ホパはそれ以上何も言わなかった。

――要するにオレが言いたいのは。

――自分の心が少なからず汚れてしまうことに、お前自身が耐えられるかどうかってことだ。

No.15 08/09/22 06:33
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 14 そのとき、唐突に玄関の扉が開かれた。

「アコルダ! いるの?」

入ってきたのは背の高い女だった。

黒のパンツスーツに身を包み、つややかな黒髪を後ろできつく束ねている。

黒縁メガネの奥の茶色い瞳が、驚いて上体を起こす2人を見つけた。

アコルダは驚き、彼女の名を呼んだ。

「マ、マカリヤさん!」

それはアコルダの先輩に当たる天使だった。

しかし、彼女の目はホパをきつく睨みつけている。

「目ざとい悪魔め!」

言うが早いか、マカリヤは胸から大きな十字架を引っ張り出し、ホパに襲い掛かった。

「ぅおわっ」

顔面に押し付けられそうになった十字架をかわし、ホパは喚いた。

「何なんだ、いきなり!」

「黙れ! アコルダを地獄へ引きずり込みに来たな!?」

No.16 08/09/22 07:00
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 15 第二章 理不尽な契約



天使や悪魔にもいろいろいるが、大まかに言えば2種類に分けられる。

一方はホパやアコルダのように、天使がいるから悪魔がいて、悪魔がいるから天使がいるという共存意識の強いもの。

そしてもう一方は、決して相容れることのない、完全に敵視するものだ。

マカリヤはまさに後者だった。

「ちょ、違うんです!」

止めるアコルダを無視して、マカリヤはホパに馬乗りになり、十字架をかかげた。

「堕天使を地獄送りにして手柄を立てるつもり? そうはさせないわ!」

「やめろ! オレは何も……」

振り下ろされる十字架を、ホパは右手で掴んだ。

そのとたん、ジュッと嫌な音がして、彼の手は聖なる炎に包まれた。

「ぐああ!」

「やめて!」

アコルダがマカリヤにしがみつき、彼女をホパから引き離す。

ホパは彼女から逃れ、右手首を左手で握り締めて痛みに悶えた。

「放しなさい!」

「違うんです、ボクが呼んだんです!」

アコーダは必死で叫んだ。

No.17 08/09/22 07:35
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 16 「なんですって?」

ようやく冷静になったマカリヤは、驚いてアコルダを見た。

「彼は同じ地区で働いていたライバルなんです。その、この世で一番付き合いの長い悪魔なんです」

アコルダは懇願するように、マカリヤの十字架を握った。

「彼がボクに危害を加えようとしていなかったこと、マカリヤさんならわかりますよね?」

マカリヤはアコルダとホパを交互に見やる。

ホパは仰向けにぐったりと倒れ、自分の右手を痛々しげに見つめている。

「自ら堕天したことを悪魔に告げたの?」

低い声でマカリヤが尋ねた。

「はい、あの、その、申し訳ありません」

アコルダは叱られた子供のようにうなだれた。

「この悪魔は、そんなに信用があるわけ」

「信用というか……あまりにわからないことが多すぎて」

マカリヤは呆れたように腰に手を当て、尋問するような口調で言った。

「なぜ、そのわからないことを私や他の天使に聞かなかったの?」

「ボクには、何がわからないのかも、わからなかったんです」

アコルダは今にも泣き出しそうに言った。

No.18 08/09/22 08:17
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 17 しばしの沈黙が、表で雨が止んでいることを告げていた。

窓から金色の日が差し始めた頃、マカリヤは短いため息をついた。

「あなたが堕天したということが広く知れたら、地獄中の悪魔があなたを地獄へ引きずり堕としに来るかもしれないの」

アコルダは少し驚いてマカリヤを見つめた。

「考えてもみなかったって顔ね。今のあなたは、天使の心を持った人間なのよ。悪魔は、清純な魂を地獄に落とすのがお好きですから」

そう言い、ホパを睨んだ。

「悪いけど、口止めさせていただくわ」

「まって」アコルダは、マカリヤの行くてをさえぎった。「ボクは、どんな悪魔の誘惑にも負けません」

そして、にわかに微笑んだ。

「それがきっと、神がボクにお与えになった修行なんだと思います」

No.19 08/09/22 08:31
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 18 ホパは2人の会話を聞きながら、自分の右手を顔の前にかざしていた。

手のひらにくっきりと焼きついた十字のしるしは、いまだに熱を持ってずきずきと痛む。

「くそ……」

呟いて、その手を胸の上に力なく落とした。

その瞬間。

「あっ! っつう!?」

右手の印が胸を焼き、ホパは大声を上げて跳ね起きた。

十字架の力がまだ傷跡に宿っていたのだ。

信じられないというような目で、ホパは右手を見つめた。

そのホパの側に、マカリヤが立った。

No.20 08/09/22 08:53
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 19 「その右手は枷になり、あなたはアコルダに手出しできなくなるでしょう」

ホパは面倒くさそうにマカリヤを振り返った。

「手ぇ出してねぇっつってんだろ」

すると、鼻先に先ほどの十字架が突きつけられ、ホパは身を硬くした。

「その右手は、私との契約の証です。あなたはアコルダの側につき、彼の力になるのです。もしも彼の魂が悪魔の餌食となったとき、あなたはその右手によって焼き殺されるでしょう」

冷酷な宣告。

「冗談だろ!? 下級の悪魔を苛めてそんなに楽しいかよ!」

ホパは必死で訴えた。

「あの、殺さないで……」

アコルダも、控えめに口を挟んだ。

しかし、マカリヤの意思は曲がりそうにない。

「アコルダ、彼を殺されたくないのなら、必ず天使に戻るのよ。あなたが地獄に堕ちたとき、この悪魔は消滅する」

No.21 08/09/22 09:04
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 20 そして、彼女はスッと目を閉じた。

手にした十字架が光り、形を変え始める。

やがて、それは小さな虫かごになった。

アコルダは、今度はホパに何をするのかとひやひやしていた。

彼女がそのかごを開く。

すると、ホパの右手は強い力でその中へ引き寄せられた。

「ホパ!」

アコルダは心配そうに叫ぶ。

ホパは一応抵抗を試みるが、無駄と悟った。

「もう勘弁してくれ!」

アコルダとマカリヤが見つめる中、彼の姿は小さくなってかごに吸い込まれた。

パチリ。

虫かごが閉ざされると、その中には一匹のバッタが入っていた。

No.22 08/09/22 10:17
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 21 「この十字架があなたの生活の助けになると思って届けに来たのだけど、まさしくそのとおりになったわ。グッドタイミングね」

マカリヤはやり遂げたというようにため息をつき、言った。

しかし、ホパとアコルダは同じことを思っている。

まさしくバッドタイミング、最低だ。

マカリヤはホパを捕らえた虫かごを、呆然としているアコルダに手渡した。

「夜は必ず、ホパを虫かごに呼び戻しなさい。いいわね」

「あ……の……」

「何!?」

「あ、いえ。そうします」

「悪魔を信用してはいけないわ」

マカリヤは、ふと心配そうな色を眉間に浮かべた。

「人間という生き物はとても鈍感なの。自分が道を踏み外していることにさえ、崖っぷちに立つまで気付かないこともある」

「はい」

自分が人間であることを自覚しようと心に決めつつ、アコルダは申し訳なさそうにかごの中のバッタを見下ろした。

バッタは、もうてこでも動くものかといわんばかりに、かごにしがみついていた。

No.23 08/09/22 10:37
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 22 空が黄昏始めたころ、アコルダはホパの手に包帯を巻いていた。

それはせめてものお詫びであり、己の罪悪感から逃れるための行為でもあった。

「っんだあの天使は!」

ホパは虚空に怒鳴りつけた。

アコルダは恐る恐る言う。

「ごめん、ボクの先輩で……」

「あーこの部屋をこしらえたバ過保護天使か」

そう言い、ベッドの天蓋を見上げる。

「ほんと、こんな目にあわせるつもりは」

「クソッタレ!」

「あの」

「悪魔なめてんのかあの野郎!」

「ねぇホパ落ち着いて」

アコルダは包帯の端を結び終え、しなびた表情で言った。

「ボクが悪かったよ、悪魔のキミを巻き込んではいけなかったんだ。天使たちにも、キミにも迷惑をかけてしまって、申し訳ない」

「フン」

ホパは口をつぐんだ。

そうだ、落ち着かなければ。

とりあえず、今自分が置かれている状況を把握しなければならない。

No.24 08/09/22 10:45
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 23 ホパは厚く包帯を巻いた右手を、恐る恐るつついてみた。

ジュッ。

「あっち! だめだ」

「こんなに巻いたのに。さすが、聖なる力は、ん」

ホパににらまれたので、アコルダはそれ以上言わなかった。

「ペン貸せ」

ホパは言った。

アコルダの持ってきた羽ペンとインク壺にため息をつきつつ、ホパはペン先にインクをたっぷりと含ませた。

そして、さらさらと包帯に怪しげな文字を書き連ねた。

傷の上は、慎重に。

それは悪魔語で、アコルダには理解できなかった。

「うっかり自虐行為なんてごめんだからな」

ホパがペンを得意げに跳ね上げたとき、手のひらに滲み出ていた聖なる力は、右手の内側に封じ込められたのだった。

No.25 08/09/22 10:59
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 24 「要するに、オレはお前のお守役だ」

ホパは両手を合わて封印呪がうまくいったことを確かめながら言った。

「そういうことだね」

アコルダはそう言い、独りぼっちでなくなったことに安心した。

「オレはお前が人間界でしっかり生きていけるように見張ってりゃいいんだな」

「うん」

口に出すのは簡単だが、いざ考えてみると、ホパはいきなり壁にぶち当たった。

そもそも、天使に戻るための生き方ってどんなだ!?

ホパは悪魔である。

彼は善なる行為というものを、客観的にしか知らなかった。

それは、アコルダが悪を客観的にしか知らないことと同じである。

アコルダも、不安になったのだろう、2人は何気なく顔を見合わせた。

こうして、2人のルームシェア生活は強引に、それもかなり不安定な状態で始まったのである。

  • << 27 「意味なんてねぇよ。映画のシーンでよくあるじゃねぇか、冷蔵庫から飲み物を出して飲む」 ホパはもっともらしく言ったが、アコルダは首を振って飲み物を冷蔵庫に戻した。 「人間らしさって何だい?」 アコルダは入り口にもたれ掛かってそう問いかけ、自分でも考えた。 「寂しがりやで、泣き虫だけど負けず嫌いで」 「面倒くさがり」 「臆病だけど強がりで、自分のこと大好きなくせに、時々すごく嫌いになる」 「しかも狡賢い」 「そして、神に愛されている」 「それと同時に、悪魔に尊敬されている」 アコルダは顔をしかめた。 「どういう意味?」 「いや、たまに悪魔も思いつかねぇような残虐なことをやってのけるから」

No.26 08/09/22 21:33
*ハウエル* ( Uc1Hh )

第三章



「まずは、真似事からはじめるべきだ」

ホパは言った。

「人間らしさってのを教えてやる」

そういう彼は、ベッドに胡坐をかいて居座っている。

窓はカーテンを閉じ、部屋の中は煌々と明るい。

「まず、部屋では上着を脱ぐ」

そう言われて、アコルダは体がほんのりと火照っていることにようやく気付いた。

「なるほど」

アコルダは白いコートをクローゼットにかけた。

クローゼットには他にも何着か服が用意されていたが、すべて白系統の色をしていた。

ちなみにこのときホパは、襟にファーの付いた黒いジャケットを着ていたのだが、彼は脱がなかった。

「それから冷蔵庫を開けて」

言われたとおりに、アコルダが冷蔵庫の扉を開く。

「ビール」

「ないよ」

「じゃミネラルウォーター」

アコルダは水を少し飲んだ。

「ねぇ、何の意味があるの?」

No.27 08/09/22 21:45
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 25 「要するに、オレはお前のお守役だ」 ホパは両手を合わて封印呪がうまくいったことを確かめながら言った。 「そういうことだね」 アコルダは… 「意味なんてねぇよ。映画のシーンでよくあるじゃねぇか、冷蔵庫から飲み物を出して飲む」

ホパはもっともらしく言ったが、アコルダは首を振って飲み物を冷蔵庫に戻した。

「人間らしさって何だい?」

アコルダは入り口にもたれ掛かってそう問いかけ、自分でも考えた。

「寂しがりやで、泣き虫だけど負けず嫌いで」

「面倒くさがり」

「臆病だけど強がりで、自分のこと大好きなくせに、時々すごく嫌いになる」

「しかも狡賢い」

「そして、神に愛されている」

「それと同時に、悪魔に尊敬されている」

アコルダは顔をしかめた。

「どういう意味?」

「いや、たまに悪魔も思いつかねぇような残虐なことをやってのけるから」

No.28 08/09/22 21:58
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 27 それから、ああでもないくでもないと議論しあった末に、2人は考えることがことごとく無駄であるような気がしてきた。

それに、アコルダは自分の思考が亀のようにのろく、冴えが失われていることに気付いた。

「要するに、生きてればどうにか……ふぁう、なるってことだよ」

「そうだな」

「そんなことより、んー、もう意識が限界みたい」

実を言うと、30分前くらいから記憶があやふやである。

アコルダはのろのろとベッドに登り、うつ伏せに寝転んだ。

そして、枕の上に置いてある虫かごを開いた。

「ちょっ……!」

ホパはバッタになって閉じ込められた。

「お前、オレの味方じゃないのかよ!」

バッタがいらだたしげに触角を揺らしているのを、アコルダは重い瞼の下から見つめていた。

「味方ではないよ。だってボクは……」

そのまま、アコルダの意識は夢の中に吸い込まれていった。

「ちっ」

ホパは部屋を見上げる。

「浪費は怠惰と強欲の第一歩だぜ」

部屋中の明かりがふっと消えて、後には安らかな寝息が漂っていた。

  • << 30 第三章 日常と非日常 「……ルダ……アコルダ、おい、アコルダ」 「んー……」 目を覚ましたアコルダは、自分の体が粘土か何かになってしまったのかと思った。 無重力の心地よさから引き戻された気分だ。 ぼやけた視界に、朝日に包まれた部屋が浮かびあがり、「ああそうだ、ボクは堕天したのだ」と思い出した。 「起きたか? だったら早くここを開けな。狭いし退屈で死にそうだぜ」 バッタが枕もとの虫かごの中を跳ね回っている。 アコルダは寝ぼけ眼のまま虫かごを取り、蓋を開いた。 飛び出したばったの姿は、一瞬にして背の高い男の姿に変わった。 黒いジャケット、そして右手には呪詛の書かれた包帯。 ホパが背骨を鳴らしながら伸びをしている横で、アコルダは目をこすった。 「おはよ」

No.29 08/09/22 22:01
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 28 *。+゚★・.。*†*。.・☆゚+。*

>26 冒頭

『第三章』という記述は間違いです🙇

次から第三章が始まります。

No.30 08/09/23 00:14
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 28 それから、ああでもないくでもないと議論しあった末に、2人は考えることがことごとく無駄であるような気がしてきた。 それに、アコルダは自分の思… 第三章 日常と非日常



「……ルダ……アコルダ、おい、アコルダ」

「んー……」

目を覚ましたアコルダは、自分の体が粘土か何かになってしまったのかと思った。

無重力の心地よさから引き戻された気分だ。

ぼやけた視界に、朝日に包まれた部屋が浮かびあがり、「ああそうだ、ボクは堕天したのだ」と思い出した。

「起きたか? だったら早くここを開けな。狭いし退屈で死にそうだぜ」

バッタが枕もとの虫かごの中を跳ね回っている。

アコルダは寝ぼけ眼のまま虫かごを取り、蓋を開いた。

飛び出したばったの姿は、一瞬にして背の高い男の姿に変わった。

黒いジャケット、そして右手には呪詛の書かれた包帯。

ホパが背骨を鳴らしながら伸びをしている横で、アコルダは目をこすった。

「おはよ」

No.31 08/09/23 00:27
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 30 アコルダがカーテンを開けたので、ホパはまぶしそうに顔をしかめ、サングラスを掛けた。

ひとつ大あくびをすると、アコルダの目はパッチリと冴えた。

そして、一呼吸おいてから「スゴイ!」と感嘆の声を漏らした。

「何が?」

「睡眠だよ。生まれ変わった気分! ちょっと口の中がモゴモゴするけど」

「はぁ? お前生まれ変わったことあるのかよ」

「ない」アコルダは窓を開き、涼しい風と暖かい朝日を浴びた。「でも、たぶんこんな感じだと思う」

ホパはこういったアコルダの感受性には、時々着いていけなくなる。

「意味がわからん。『生まれ変わった気分』じゃなくて、それが『眠って目覚めた気分』なんだ。早く顔洗ってこいよ」

  • << 33 アコルダはまず、鏡で自分の寝起きの顔をしげしげと眺めた。 目がはれぼったくて、目やにもついている。 口元も心なしかだらしない。 そんな自分の顔に笑いながら、彼は顔を洗った。 そして、鼻先やあごから水を滴らせながら洗面所を出てきた。 「ちょ、おいおい、顔を洗ったら拭けよ」 ホパが言う。 そして、袖でぬぐおうとするアコルダの腕を止めた。 「そうじゃなくて、ちゃんとタオルで拭くんだ」 どこから取り出したのか、彼は茶色い上質なタオルでアコルダの顔をくるりと拭いた。 「うぶぶ。そんな決まりごとがあるの?」 「そうじゃねぇけど……人間社会でうまくやっていくには清潔感も必要だぜ」

No.33 08/09/24 04:43
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 31 アコルダがカーテンを開けたので、ホパはまぶしそうに顔をしかめ、サングラスを掛けた。 ひとつ大あくびをすると、アコルダの目はパッチリと冴えた… アコルダはまず、鏡で自分の寝起きの顔をしげしげと眺めた。

目がはれぼったくて、目やにもついている。

口元も心なしかだらしない。

そんな自分の顔に笑いながら、彼は顔を洗った。

そして、鼻先やあごから水を滴らせながら洗面所を出てきた。

「ちょ、おいおい、顔を洗ったら拭けよ」

ホパが言う。

そして、袖でぬぐおうとするアコルダの腕を止めた。

「そうじゃなくて、ちゃんとタオルで拭くんだ」

どこから取り出したのか、彼は茶色い上質なタオルでアコルダの顔をくるりと拭いた。

「うぶぶ。そんな決まりごとがあるの?」

「そうじゃねぇけど……人間社会でうまくやっていくには清潔感も必要だぜ」

No.34 08/09/24 04:49
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 33 アコルダはタオルを受け取って残った水滴をふき取った。

そのとき、ふわりと暖かい匂いがして、彼はタオルから顔を上げる。

キッチンのテーブルに、豪華な朝食が用意されていた。

ぽかんとしているアコルダに、ホパが言った。

「さぁ、朝食にしようぜ」

ホパが指を鳴らすと、皿の上のパンがこんがりと焼け、グラスにミルクが満たされた。

これで、準備は整った。

しかし、アコルダは少し考えた末に、「食べられないよ」と寂しそうに言った。

No.35 08/09/24 05:16
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 34 椅子に座って得意げに足を組んでいたホパは、予想外の言葉に目を丸くした。

そして、不満そうにふんと鼻を鳴らし、「好き嫌いするなよ」と言った。

「そうじゃないよ」

アコルダが言う。

「アレルギー?」

「違う」

「量が多すぎた?」

「そうじゃなくて」

アコルダはゆっくりと空いている椅子のほうへ歩き、背もたれに手を置いて申し訳なさそうに言った。

「ボク、考えたんだ。この部屋も、家具も、水道から出る水も、この服も、みんな天使が恵んでくれたものだ」

「それで?」

「このタオルとこの食事は、君が恵んでくれた」

「それが?」

「ボクは、もう人間なんだよ。君や天使の力に頼るわけにはいかないんだ。自分の力で、現実的に生きていかなくちゃならないと思うんだ」

No.36 08/09/24 05:35
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 35 すると、ホパはさもくだらないというような顔をした。

「じゃあどうするんだ? 食事もとらずに、水浸しの顔で、部屋を家具ごと引き払って、服も貧しい人間にくれてやって、自分は素っ裸で道端に暮らすのかよ」

「それじゃあ捕まっちゃうよ……」

アコルダは弱弱しく言った。

「今のボクは、君たちの恵みがなければ人間界で暮らし始めることはできない。だけど、これは神からの貸しなんだ」

「オレは悪魔だ」

「どっちでもいいよ。とにかく、これは努力せずに与えられたものなんだ。ボクはいつか、この貸しを返す。ボクの助けを必要としている人にね」

「勝手にしろよ。それでどうしてこの朝食が食えないんだ」

「我慢できるからだよ」

「ん?」

「ボクはこんなに必要ない」

No.37 08/09/25 01:23
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 36 はぁ。

ホパはため息をついてパチンと指を鳴らした。

テーブルの上は一瞬にして片付き、トーストとミルクが残った。

「ありがとう」

「ホント、天使ってのは面倒くさいぜ」

アコルダは席について十字を切り、トーストをかじった。

「お前は天からの授け物だとか、神への貸しだとか言うけどさ」

ホパは向かいで瓶入りの炭酸を飲みながら言った。

「もっと単純に、友達からの心遣いだとは思わないわけ?」

すると、アコルダは「もちろんそう思ってるよ」と答えた。

「だけど、もっと広い心で見れば、すべては神が与えてくださったものだ」

「友達も?」

「神が引き合わせてくださる」

「んー」ホパは呻る。「んー何か違う」

「そりゃ、ボクと君とじゃ考え方も違うと思うよ。君が偉大なる神のことをどう思っているか知らないけど」」

No.38 08/09/25 01:25
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 37 「オレが思うに、神はガキだ。わがままで褒められるのが好きで、いつも遊んでる」

ホパはゲップの後にそう言った。

No.39 08/09/28 01:40
*ハウエル* ( Uc1Hh )

>> 38 アコルダが食べ終わるのを待って、ホパは席を立った。

「どこに行くの?」

アコルダが尋ねると、ホパはさも当然と言わんばかりに「地獄」と答えた。

「オレだって暇じゃねんだよ」

そう言って得意げに眉を上げると、ホパはするりと玄関の扉から出て行った。

一人残ったアコルダは、お茶を飲んでほっと一息ついた。

ホパが人間界での生活の協力者になったことは心強いが、同時に少し厄介でもある。

2人は友とは言えど、天使と悪魔なのだ。

気が合わないことも少なくはない。

まぁ、なんとかなるだろうか、とアコルダは思った。

少なくとも天使よりは人間のほうが、悪魔の気持ちを理解できるかもしれない。

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