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ナナの冒険
遥か昔、人間とドラゴンは仲良く暮らしていた。
ある時、人間とドラゴンは争う事になってしまった。
それは、山に成るたった1本の木の実をどちらが食べるかである。
ただ、それだけの事で人間とドラゴンは争う事になった。
そして戦いの末に人間がドラゴンに勝利した。
ドラゴンは人間に追われ行き場を無くし考えに考えた。
それで見つけたのが姿を消す事だった…。
人間はどうしてこうも愚かなんだろう。
いつか自分の首を絞めて人間自体いなくなるだろう。
気づいて欲しいアナタの周りには人間と別の命がある事を…。
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>> 150
『生きて行くためだ仕方ないさ。それじゃな。ナナ行こう。』
シロ達は自分達の森を目指した。
『ちょっと待ってよ。』
ナナは慌ててシロ達を追いかけた。そして振り返った。
『イーヌさんまたね。』
ナナは大きく手を振った。イーヌの家族もいつまでも手を振っていた。
『あっシロさん。』
先を飛んでいたシロ達が止まった。
『ナナどうした?』
『あのね。ボク用事があるから行かなくっちゃ。』
『そうなんだ。じゃあここで。また、明日な。』
『明日ねん。』
『明日もクッキーちょうだいね。』
シロ達はそんな事をそれぞれ言った。
『うん。また、明日ね。クッキーはママに貰っておくから大丈夫だよ。バイバイ。』
ナナはシロ達を見送るとおじちゃんの居る池に向かって飛んで行った。おじちゃんは釣りをしながらナナを待ってくれていた。
『お~いナナちゃん。』
おじちゃんはナナに気づき手を振っている。ナナも手を振りながらおじちゃんの居る所に降りた。
『おじちゃんありがとう。』
『いやいや、私は暇だから気にする事はないよ。』
そう言って笑っている。ナナもつられて笑った。
>> 151
笑っては居るが、おじちゃんの言っている意味は分かってないようだった。
『ナナちゃんそれで何を聞きたかったのかな?』
『あのね。ボクこんなに大きくなってきたから、今の洞窟には住めなくなりそうなるんだよね。キジさんはどうしたのかなって?』
『なるほどね。うーん…。』
おじちゃんはしばらく考えてから答えた。
『思い出したよ。君にはつらい話になるかもしれないね。』
『つらい話?』
ナナには理解出来ないでいた。
『それは、君がもうすぐ大人になるって事なんだ。』
『えっボクが大人になるの?』
『そう大人になるんだ。』
おじちゃんはなかなか先の話をしようとしなかった。
『おじちゃんどうしたの?』
ナナはうつむいているおじちゃんの顔を覗き込んだ。
『はっきり言おう。ナナちゃんはもうすぐママとサヨナラしないといけないのだ。』
『サヨナラって…。毎日サヨナラしているよ?』
おじちゃんは頭を横に振った。
『違うよ。永遠にって事だ。君が巣立つ日がきたんだよ。』
『えっどういう事なの?』
ナナはまだ理解出来ない。おじちゃんは何を言っているのだと思った。
>> 152
『ナナちゃん。良く聞いて。前にガミの話をしたよね。』
ナナは思い返していた。
『うん。』
『ガミはある日、私には見えなくなった。多分、ナナちゃんも見えなくなってしまうと思うんだ。そうなったら君のママとはお別れになってしまうんだ。』
昔を思い出したのか、目に涙が光っていた。
『実は少し前から考えていたよ。いつかこんな日が来るって。』
ナナがそんな事を言うとは思っていなかった。
『そうだったか…。でも、お別れと言ってもナナちゃんが大人になると言う事なんだ。新たな出逢いが待っていると思うよ。』
『新たな出逢い…。お別れは寂しいけど、仕方ないのだよね。でも、おじちゃんのおかげで楽しみが増えたよ。』
『そう言ってもらえたら私も嬉しいよ。』
ナナは羽根を羽ばたかせた。
『おじちゃん、また来るね。今日はありがとう。』
ナナはおじちゃんのもとを離れて行った。
『ナナちゃんはガミとは違う種族だから大丈夫だろうか…。まあ、大丈夫だろう。なんと言ってもナナちゃんは…。』
おじちゃんはそう言いながら釣り竿を直し始めた。遠くにナナの飛んで行く姿が見えていた。ナナにはまだ秘密があると言うのだろうか?
>> 153
おじちゃんの体が光った。そこにはおじちゃんの姿は無く、大きなドラゴンが現れた。銀色の体に立派な2つの角が生えていた。そして一陣の風が吹くと姿が消えていた。水面には波紋が出来ていた。ナナはその頃、洞窟についていた。入り口に舞い降りた。
『うわぁ~今日は疲れたな。色々ありすぎて眠くなっちゃったな。』
大きな背伸びをした。そのまま眠ってしまった。どれだけ経ったのか、誰かが読んでいる声がした。
『ナナ…ナナ…。』
見上げるとママが立っていた。
『あっママ。いつの間にか眠っちゃった。』
『あははは…。今日は何をして遊んでいたんだい?』
ママはニコニコしながら聞いて来た。そうママは木の実のおかげでナナの言葉が分かるようになっていた。
『今日はね…。』
ナナは今日1日の事を話した。
『へぇ~そりゃ大変だったね。それからどうしたんだい?』
『それからね…。』
シロ達の事やイーヌの家族の話など話した。そしておじちゃんに聞いた事を話そうとした。
『あっナナごめん。もう時間だよ。話の続きはまた明日聞くよ。それじゃ、クッキーをここに置いておくから食べてね。』
ママはそう言って家に帰って行った。
>> 154
ランドセルのカタカタと言う音が森に響いていた。今日は眠い性かその音も子守歌に聞こえた。ナナはまた、眠りついた。最後の日が近づいている事を忘れて…。
何事もなく夜が明けた。
チュンチュン
スズメ達の鳴き声が響いていた。そうシロ達だ。
『ナナ、朝だぞ。起きろ。』
『う~ん?あっおはよう。』
『あっおはようじゃないよ。寝ているのはナナだけだ。』
『本当に…。』
ナナは辺りを見渡した。洞窟のみんなが集まっていた。
『みんなどうしたの?』
ナナは不思議に思い尋ねた。
『いや最近な森で変な鳴き声がするってコイツが言うのだよ。』
それはピンの事だった。
『本当に聞こえるのねん。嘘じゃないのねん。』
ピンはシロの羽根を引っ張りながら言っている。
『痛い痛い羽根が取れる。』
シロの目に少し涙が滲んでいた。
『なら信じてくれるのかん?』
ピンはシロをジッと見た。シロは微動だにせず考えている。その時、誰かが言った。
『実は俺も聞いたよ。今まで聞いた事のない声だったよ。』
声の方を見るとそれはトムスだった。
>> 155
『オレはたまに洞窟から出て、森に食べ物を探しに行くのだけど、近くで"ヒヒィ~ン"って声がね。突然の事でびっくりしてせっかく拾った木の実を全部おとしてしまった。』
『それなら私も聞いた。どこにもいないのにだよ。』
身震いしながら言ったのはキィーだった。森では不思議な鳴き声が聞こえるのは本当のようだ。
『こんな事では森に安心して入れないよ。』
トムスは腕を組み言っている。周りのみんなも頷いている。
『それでナナに頼みがある。』
『何?』
『声の主を見つけ出して欲しい。』
『えっボクが?』
ナナは驚いた。それはそうだ。得体の知れない物を見て来てくれと言われた訳だ。しかし、トムスは当たり前のように話しかけている。
『嫌だよ。ボクだけじゃ怖いよ。』
ナナが半ベソをかきながら言っている。
『それなら、他にも連れていけば良いと思うよ。プー。』
呑気な顔をしてプクが言った。何かを腹一杯食べたのだろう、お腹をさすっている。
『それなら誰が行くんだ?』
みんながお互いを見ている。顔を横に振る者やそっぽを向く者もいた。するとみんなが1匹を見た。それはトムスだった。トムスは驚いた顔をしている。
>> 156
『オレ?無理無理。』
トムスは後ずさりしながら逃げようとしている。周りをみんなが囲みトムスを壁に追いやった。
『おいおい…よせって…勘弁してくれよ。』
トムスは壁に背中をぶつけ止まった。苦笑いしながらみんなを見回す。
『この中で一番勇気があるのはアンタだよ。』
キィーが肝心したように頷く。みんなも合わせて頷いた。
『オレに勇気がある?そうか。そこまで言われたら男がすたる。やるしかないな。』
トムスは今までと違い、胸を張って前に出た。
『よ~し。これで決まった。謎の声の主を探しに行くのはナナとトムスで決定。』
大きな声でキィーが叫んだ。誰ともなく拍手が起こった。
『やっぱり君達は凄いよ。』
完全にみんなにおだてられている2匹。妙に納得してやる気を出している。
『トムスさん行きましょうか?』
ナナが手を出した。トムスは頷くと差し出された手からピョンピョンと頭の方に登って行った。
『では、皆さん行って来ます。』
ナナはそう言うと大きく羽ばたいた。風が起こりナナ達は空高く舞い上がった。下にいるみんなに手を振りながら、謎の声の主を探す為森に向かった。
『さて、どんな奴がいるのかな?』
>> 157
『うん。でも、少し怖いよ。』
ナナは飛びながら震えている。
『ナナは弱虫だな。オレがいるから大丈夫さ。』
トムスはそう言ったが、ナナには震えているのが体を伝わって分かっていた。しかし、その事を言おうとはしなかった。何故なら2匹で怖がっていたらどうしょうもないと思ったからだった。やがて、噂の声がする森の上空に着いた。
『確かこの辺りなんだが…?』
2匹で森を見るがそれらしき物は見つからなかった。
『上から見てても分からないから下に降りてみようよ。』
『あぁ…そうだな。』
トムスの唾を飲み込む音が聞こえていた。かなり緊張しているようだった。森の少し開けた場所に降りた。辺りを見渡すがやはりそれらしい物は見つからない。
『ねぇ…本当にこの辺りなの?』
ナナが何とも言えない顔でトムスに尋ねた。
『ばっきゃろう。オレが嘘でもついているとでも言うのか?』
『いや、そう言う訳じゃないけど…。』
ナナはトムスがこんなに怒るとは思わなかった。だが、これだけ調べて居ないのだから疑いたくもなるものだ。その時だった。
ヒヒィ~ン
近くで鳴き声が聞こえて来た。
>> 158
しかし、どこから聞こえているのか分からなかった。
ヒヒィ~ン
また、聞こえた。木々の枝が広がっていて分からなかったが、森の先は一段落ちた場所があった。どうもそこから謎の声は聞こえているらしかった。
『ナナ…あそこからじゃないか?』
トムズがその方向を指した。一段落ちている性かその辺りははっきり見えなかった。2匹はそこに降りる事にした。
バタバタ…
思っていたより森の木々がある割には暗くない。辺りを見渡した。謎の声は聞こえない。
ガサガサ…
2匹は驚き音の方を見た。微かだが、草が動いていた。
『おっおい。誰かいるのか?いるなら出て来い。』
トムスは強い口調で言った。しかし、姿を出そうとしない。
『ねぇ~こっちから近づいてみようか?』
『本気で言っているのか?』
『うん。』
ナナはあんなに怖がっていたのに大きくなった性か強気だ。
『なら行くか…。』
『うん。』
2匹は音のする方に向かった。トムスはナナの角の後ろに隠れている。そしてナナが1歩踏み出した瞬間ドスンと落ちた。
『いたたた…。』
ナナが落ちて打ったお尻をさすっていた。
>> 159
トムスはナナの角に掴まっていた性かどこも打ってないようだ。すると目の前に何かが現れた。太陽を背にしている性か、姿ははっきり見えないが、ナナより少し小さい事は分かった。
『あなた達は誰?』
尖った言われ方をした。少し上品さも感じられる。
『誰って、俺達に聞く前にお前こそ名を名乗れ。』
トムスは強い口調で言ってはいるが、ナナの角の後ろに隠れて言っている。
『あなた偉そうね。』
それはナナが言ったと思い言い返してきた。
『ボクじゃないよ。』
ナナは手を横に振り、角の後ろのトムスを指差した。
『あなた男のクセにちゃんと出てきて言いなさいよ。』
ちょっと怒っているようだ。そして少し前に出て来た。今まで分からなかった姿がはっきりと見えた。それは赤茶色の馬だった。馬と言ってもサラブレットである。
『ところであなた達。私をここから助けなさい。』
何か話し方は偉そうだ。まるで、人で言うと貴族のようだ。
『なんだよ。藪から棒に…。お前ちょっと偉そうだな。』
『さっきからお前お前って。私にはミユと言う名前があるの。正式にはエクセレントミユよ。』
『エクセレントミユ…。』
ナナとトムスが同時に言った。
>> 160
『なんだよその長い名前。』
トムスは笑いながら言った。
『何がおかしいの?人間が付けてくれた。ちゃんとした名前よ。』
ミユは膨れっ面をした。それを見て更にトムスは笑い出した。別に顔がおかしいのではなく、すましている態度がおかしかったのだった。
『トムスさん笑いすぎだよ。』
トムスはナナの頭の上で腹を抱えながら笑っていた。するとミユがグッと近づきトムスを睨んだ。
『ごめんごめん。』
『もう知らない。』
ミユは怒って後ろを向いた。
『おい、怒ったのか?』
『トムスさんが笑いすぎるからだよ。』
『本当に悪かった。』
トムスは手を合わせ謝った。ミユはチラッとナナ達を見た。そして振り返った。
『もう良いわ。その代わりに私をここから出して…。』
ナナはまだ、この場所の状況が分かってなかった。
『あの…。出しなさいって、なんで自分で出ないのですか?』
ミユはツカツカとナナ達の前に来た。
『な、な、なんだよ。』
トムスは手を十字に構えた。ミユはそんな事は無視して話し出した。
『そりゃ私も自分で出たいのだけど…。ここは壁に囲まれていて出れないの。』
『壁?』
>> 161
辺りを見回すと木々しか見えないが、その奥は壁になっていた。
『それで鳴いていたんだな。』
コクリと頭を縦に振った。
『しかし、何故こんな所に落ちたんだ?』
ミユは急に悲しそうな目をした。何か事情がありそうだ。
『私はこの近くの牧場で育てられているサラブレットなの。毎日、可愛がってもらっていたの。私はそれは大事にされているとばかり思っていた。でも、違ったの…。』
ナナとトムスは黙って話を聞いた。
『それは、私を競走させて勝たせる為だった。私は可愛がってくれるから辛い走り込みも我慢して走ったわ。そのお陰もあってレースで何度も優勝したの。』
『それなら文句ないじゃん。何が問題なわけ?』
トムスが手を頭の後ろにおいて呆れた感じで言った。ミユがチラッと見た。
『トムスさん。シッ!』
ナナが人差し指を立て首を振る。この話には続きがある事がわかったようだ。トムスはハイハイと言う感じで口にチャックをした。
『しかし、最初の方だけだったの。その内に勝てないようになって…。人間はすごくガッカリとしていたわ。そしてある日私は聞いてしまったの…。』
ミユは悲しいと言うより恐怖におののいた顔をした。
>> 162
『もうミユはダメだな…。始末するか?』
『仕方ないよな…。次のレースがダメならな…。』
ミユの目の前で人間達がそんな事を話していた。残酷な話だが、そんなものであった。
『始末って?』
ナナは分からなくて聞いた。
『始末って殺す事なの。私を殺そうとしていたの。』
ミユは体を震わせていた。
『やっぱり人間って酷い生き物だな。何であんな生き物が存在しているんだ?』
トムスは怒ってそんな事を言った。その横で悲しそうな顔をしたナナが居た。
『おいおい、そんな顔するなよ。お前のママは別だ。』
トムスは慌ててそうフォローした。
『そうママはとても優しいよ。』
ナナは少し笑顔が戻った。だが、それを聞いていたミユが今度は悲しそうな顔をした。
『あなたのママは優しいのね。私を育ててくれた人間も優しかったのだけど…。でも、あの後から人間の目つきが変わった。だから怖くなって逃げ出したわ。』
『そうそう人間はどっちにしても勝手なんだ。ミユとやら逃げて正解だ。』
トムスは1匹納得していた。
『私は宛てもなく走りつづけてたどり着いたのがこの森…。そしてこの場所に落ちてしまったの…。』
>> 163
ミユは体のどこかをぶつけているようで、痛そうな顔をした。
『大丈夫?』
ナナは心配そうに尋ねた。
『大丈夫よ。少し足を捻っただけだから…。』
確かに見た感じでは外傷らしきものは無かった。
『ところでここからは出して貰えるの?』
ミユは出会った時のようにつんけんとした言い方をした。トムスとナナはお互いを見て考えた。ナナはミユよりは大きいがこの壁を越えられるかは判断出来なかった。
『ミユさん。とりあえず頑張ってみるよ。その前に準備運動。』
ナナは羽根を動かし運動を始めた。まるでラジオ体操のようだった。
『さて、ミユさん準備は良いかい?』
『ええ、いつでも良いわよ。』
ナナは飛び上がりミユの背中を掴んだ。
『じゃあ行くよ。』
羽根を大きく羽ばたかせミユを持ち上げようとした。少し持ち上がったが、それ以上は上がらなかった。それでもナナは諦めないで何度となく羽ばたいた。だが、何度やっても駄目だったのである。
『やっぱり駄目だ。持ち上がらないよ。』
『もう良いわ。仕方ないもの…。』
ミユは既に諦めていた。すると突然ミユが振り返り森の奥の方を見た。
『今、何か聞こえなかった?』
>> 164
『えっ、何も聞こえないよ。』
トムスも首を横に振った。するとミユがまた言った。
『誰かが私を呼んでいる。』
ナナ達には森を吹き抜ける風の音しか聞こえなかった。
『ミ…ユ…』
『あっ。今聞こえた。』
『うん。確かに聞こえた。』
『誰かが私を呼んでいるわ。』
ナナは飛び上がり辺りを見渡した。森の中を何か動いているのが分かった。
『ナナ、何か見えるか?』
下にいるトムスがそう聞いてきた。
『うん。向こうから何か来ているよ。う~ん良く分からないなぁ…。ちょっと近づいてみる。』
そう言って動いている方へ近づいて行った。そしてちょうど真上に着いた。良く見るとそれは人間だった。1人ではなく何人もいたのだった。ナナは戻って言った。
『何人かの人がこっちに向かっているよ。』
トムスが慌てて言った。
『ミユ、ヤバいよ。人間が近づいている。どこかに隠れないと殺されるぞ。』
『でも、隠れる場所なんてないじゃない。』
『う~ん、仕方ない。あの茂みにでも隠れるか。』
トムスはミユの体を登り、茂みの方に行くように指示をした。そして茂みに隠れた。まあ、隠れると言ってもほとんど見えているのだが…。
>> 165
『ミユ!どこに居るんだ?』
人間達の声が大きくなった。すぐそこまで来ているようだ。ナナは飛んだまま、下を伺っていた。
『俺達が悪かった。だから出て来い。』
そう言いながら必死に探していた。
『えっ!?今なんて言った?』
ミユは背中に居るトムスに尋ねた。
『…ん。出て来いって。』
『違う違う。その前よ。』
『あ~それなら“俺達が悪かった”だったかな。』
『そうそれ…。悪かった…か…。』
ミユは人間の方を見つめ何か考えているようだった。
『どうしたんだ?』
『いや、別に…。』
ガサガサ…
『ヤバい隠れろ。』
トムスとミユは息を潜め茂みに隠れた。すると森の方から何人か降りて来た。
『ヤバい。こっちに来る。もう少し下がれ。』
トムスはミユの耳元でそう言った。ミユはゆっくり下がった。その時だった。
パキッ
人間達がミユ達の方を見た。
『ミユか?そこに居るのか?』
1人の男がゆっくりと近づいて来た。しかし、これ以上下がる所は無かった。ミユ達はどうする事も出来なかった。
『見つかる…。』
その時、一陣の風が吹いた。
ビュン
『何だ?』
その男は辺りを見渡した。
>> 166
そうその風はナナの羽根を羽ばたかせた風だった。
『今の内に逃げて。』
ナナはそう叫んだ。人間達は不思議そうな顔をしていた。その風がナナの起こした風とは思ってもいなかった。その上姿も見えていなかったのだった。そうナナは人間の大人にはもう見えていなかったのだ。
『分かった。』
トムスとミユが逃げようとした。
ガサガサ…
『ミユ!』
とうとう見つかってしまった。
『どうしょう?』
恐怖で2匹は固まった。そして男が飛びついて来た。
『うわ~!』
思わず2匹は目を閉じた。だが、その男の様子が変だ。何か鼻をすするような音がしている。2匹はゆっくりと目を開けた。
『ミユごめんよ。俺が悪かった。もうお前を殺すなんて言わない。俺を許してくれ。』
男の目からは涙が溢れていた。ミユは男の気持ちが分かったのか、ペロッとその涙を舐めた。
『ミユ分かってくれたか…』
男は鼻をズルズルさせながらそう言った。ナナはその様子を笑顔で見つめていた。
『良し。ここからすぐに出してやるからな。』
男は近くに居る他の人間を呼んだ。その人間達もミユを見ると嬉しそうに笑った。
>> 167
『さあ、あそこなら大丈夫だろう。ミユ行くぞ。』
男の言う場所に少し緩やかな部分があるようで、そこに歩きだした。ミユの首にロープを掛け引っ張る者と後ろから押す者とに別れた。
『行くぞ。せーのー。』
ミユも一緒になり登り始めた。しかし、なかなか上がらない。
『もう一度だ。せーのー。』
ズルズル…
やはり途中から滑り落ちてしまう。するとその瞬間ふわっとして軽くなったように感じた。
『今だ。引け~。押せ~。』
ミユはあっという間に上ってしまった。
『やった~。ミユやったな。』
歓喜の声が上がった。実はナナも一緒になってロープを引いたのだった。やっぱり人間達には見えていなかった。ミユはナナを見てウインクをした。それを見たナナは照れくさそうにしていた。
『ミユもう少し頑張ってみような。そしてもう一度勝利を勝ち取ろう。』
そう言ってミユを引っ張った。しかし、ミユは動かなかった。
『どうした?さあ、行こう。』
ミユはナナの方を見ていた。
『ナナ、トムスありがとうござい…ます。』
『おいおい、偉そうにしていた奴がどうした?』
トムスはニヤニヤとした。
『私だって挨拶ぐらいは出来るわよ。』
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