友達イジョウ恋人ミマン
友達イジョウ恋人ミマン
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❤51❤
「私はこっち!」
2つの曲を聞き終えると、峰さんは後の方の曲を迷わずに選んだ。
「関口さんは?」
「えっ!?」
えっ、今真野さん、『関口さん』って言ったよねっ?
私の名前、覚えててくれたんだぁ!
なんか、スッゴく嬉しいっ!
「あのっ、どっちがいいか聞いてんだけど…💧」
真野さんにそう言われて、ハタと我にかえる。
そうだ、そうだ、感激に浸ってる場合ではない💧
「あっ、えっとぉ、私も、今のやつの方が…」
私にはこれだけ言うのが、精一杯。
「そっか、サンキュー!」
真野さんは、嬉しそうに森下さんたちの所に戻っていった。
❤52❤
「私も今の峰さんみたいに、真野さんとお話ししたいです!」
私は思わず、峰さんの腕を力一杯つかんで、そう言っていた。
「よっしゃっ、私に任せときっ!」
峰さんは、そんな私の手を握りしめて、そう言ってくれた。
「まず、私にTEL番、教えて!」
「あっ、はい」
私はスケジュール帳のページを1枚やぶると、そこに自分のTEL番号を書いて、峰さんに渡した。
「私たち、結構グループとかで遊びに行くんだけど、関口さん、いつでもOK?」 「はい、あの、あんまり夜遅くなければ…」
「あっ、それは大丈夫。うちら、そんな夜中に遊び歩いたりみたいな事、しないから💧
健全なグループ交際よ(笑)」
「でも、毎日稽古があって、時間ないですよね?」
「まぁ、今はね。でも、多分そろそろ休みがありそうな気がするんだ。
結構みんな頑張って、早いペースで、劇が仕上がってるから…」
「そうなんですか?」
「去年に比べればね。まぁ、またその時んなったら、TELするよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
「もし、関口さん1人で心細かったら、友達連れてきたっていいし」
「はい」
その時は、良子にお願いして一緒に来てもらおう。
❤53❤
そのチャンスは案外早く巡ってきた。
あれから2日後。
峰さんが言った通り、稽古が思ったより順調に進んでるので
「明日、1日休みにしよう」と、新谷さんが言ってくれたのだ。
その日の夕方、早速、峰さんからTELがあった。
「関口さん、明日なんだけど、大丈夫?」
「はいっ、もちろん大丈夫です!」
「じゃあ、10時に吉岡駅で待ち合わせという事で!」
「あのっ、他には誰がくるんですか?」
「うんとぉ、男はぁ、ほらっ、僚と一緒に音響やってる2人!」
その2人とは、森下 優希さん(塩商2年)と小島 卓くん(掘高1年)の事だ。
「で、女はぁ、根沢 美雪と佐藤 香織。2人とも、私と同じ塩高の2年だよ」
❤54❤
私は峰さんのTELの後、良子にTELした。
もちろん、明日の事を頼む為に。
やっぱり、あんまりよく知らない人たちと遊びに行くのに、1人では心細いもん。
「明日?私は大丈夫だよ」
「ホント、ありがとう!
助かるよぉ」
「いや、いや、いいって事よ。
ちょうど私も暇で困ってたしっ」
「でっ、10時に吉岡駅で待ち合わせなんだけど…」
「じゃあ、9時に私と小谷駅で待ち合わせでいいんじゃない?」
「うん、わかった」
❤55❤
次の日。
私が小谷駅へ着くと、良子はまだ来ていなかった。
時計を見ると、8時40分。
そして、8時50分。
「ゴメ~ン、遅くなっちゃって!待ったぁ?」
良子は慌てて、走ってくる。
「ううん、大丈夫だよ」
私は吉岡駅に着くまでの間に、真野さんの事や、峰さんの事、演劇の稽古の事などを話した。
「私は早く、その真野さんとやらに会ってみたいわ!」
「もうねぇ、ホント、カッコイイんだよぉ」
「そんなにカッコイイのぉ?あんたの趣味って、おかしいからなぁ」
「ひっどぉい!」
そうこうしてるうちに、吉岡駅に到着した。
❤56❤
改札口を出ると、まだ峰さんたちの姿は見えなかった。
「私たちが1番早かったみたいだね」
「つうか、私はその中の誰も知らないんだからね。
頼むよ」
「あっ、そうか…」
しばらくすると、峰さんが2人の女の人とこっちに歩いてくる。
「あっ、関口さん、お待たせっ!」
そこで、お互い自己紹介。
「何っ、山根さんって、私と同じ名前じゃん!?」
「そうですねっ!私は、良い子の良に、子供の子なんですけどぉ」
「私は、涼しいに子供の子!」
こんなやってお喋りしてると、男3人がやってきた。
私たちはみんな揃って
「おっそ~いっ!」
すると、男3人もみんな揃って
「わり~っ!」
❤57❤
その日の夜。
いつもは私からTELするのに、今日は珍しく良子の方からかけてきた。
「今日、楽しかったねっ!」「うんっ!で、真野さん、どうだった?カッコよかったでしょ?」
「確かに!最初3人揃って来たけど、すぐ分かったもん!他の2人には、悪いけど💧」
「はは…💧」
「でもさぁ、あんなにカッコよきゃ、もう彼女とかいるんじゃない?」
「!?」
…………
………
……
…
「?お~い!もしも~し!聞いてるかぁ!?」
「…えっ?あっ、ゴメン」
「どうしたの?」
「だって、良子が変な事言うから…」
「変な事?」
「…やっぱいるよね、彼女」「あぁ、その事ね…
明日、峰さんにでも聞いてみたら?」
「そうだね…」
❤58❤
私は良子の言った1言で、それまでの浮かれた気分が、どっかに吹っ飛んでしまった。
『彼女』
やっぱ、あれだけカッコよきゃいるよねぇ…
それに、カッコイイだけじゃなくって、性格もいいし…
ホントに明日、峰さんに聞いてみようかな…
あ~っ、でもなんかあっさり“いるよ!”って言われそうでコワイ…
でも、知りたい!
もし、いなかったら…
いなかったら、どうする?
告る?
ううん、そんな勇気ないっ!
じゃあ、いたら?
諦める?
そんな事、無理!
!?
ちょっと待って!
なんで私、真野さんの事、こんなに考えてるのっ!?
『彼女』っていう言葉で、なんでこんなに動揺してるのっ!?
それは、真野さんが好きだから!
そうだっ、私は真野さんがホントに好きなんだ。
今まで分からなかった自分の気持ちが、ようやく分かった。
❤59❤
「私、真野さんの事、好きみたい!」
「はっ!?」
私はあの後、さっき切ったばっかりなのに、良子にTELしていた。
どうしても、今、話しておきたくて。
「何、急にどうしたの?」
「私ねぇ、さっきのTELの後、ずっと考えてて、やっと分かったの。
私、真野さんの事、好きなんだって」
「あんたさぁ…」
「何?」
「アホ?」
「えっ!?」
「今頃自分の気持ちに気付いてんのっ!?
私はとっくに、あんたの気持ち、気付いてたよ💧」
「そっ、そうなの?💧」
「そうなの!」
「私明日、思いきって真野さんに彼女いるか、峰さんに聞いてみる!」
❤60❤
「関口さん、昨日あんまり僚と話してなかったけど、やっぱ緊張してた?」
「そっ、そうですね💧
でもっ、楽しかったです!」
「そっか、そう言ってもらえると、嬉しいよ。
また、次の時も一緒に行く?」
「はい、是非!」
今だっ!
頑張れ、若菜っ!
よしっ!
「あっ、あのっ、真野さんって、かっ、彼女、いるんですかっ?」
うわっ、聞いてしまった…
多分、今の私、超顔まっ赤だ。
心臓だって、バクバクしてる。
「彼女~?う~ん…」
いるっ?
いないっ?
どっちっ?
「ゴメン、私にはそこまで分かんない…」
ガクッ…
「そっ、そうですか。分かりました…」
それから私は、黙ったまま舞台で使う『通知表』を作り続けた。
峰さんも、私に気をつかってか、話しかけてこない。
せっかく勇気を出して、聞いたのに…
❤61❤
「もうこうなったら、直接本人に聞くしかないねっ!」
「えっっ!?」
またしても、良子に報告のTEL。
「そんな事っ、出来ないよぉ」
「思いきって聞いてみなよ!もしかしたら、いないかもしれないじゃん!」
「そりゃ、そうだけどぉ…」
「当たって砕けろ!
もし、砕けた時は私が慰めてやるよ」
「良子ぉ…」
「だから、頑張れ!」
「……よしっ!明日、本人に聞いてみる!」
❤62❤
昨日、ああは言ったものの、いざとなったらなかなか、切り出せない。
ただでさえ、まともに話しできないのに、“彼女いますか?”なんて、聞ける訳がない。
しかも、今日から、ステージを使っての通し稽古だし…
キャストは実際に衣装を着て、メイクしてステージに立つ。
照明や音響は、実際に装置を使ってやってみる。
それ以外の裏方は、本番では黒子になるので、それもその通りやってみる。
一体全体、こんな状況の中で、どうやって聞きゃあいいのよぉ。
❤63❤
今までバラバラにやっていたので、なかなかそれぞれのタイミングが合わない。
演出の新谷さんは、台本片手にあちこち動き回り、指示をする。
各校の先生たちも、観客席から見ている。
真野さんの事で頭が一杯の私は、何度もミスをし、新谷さんや先生たちに叱られた。
❤64❤
真野さんだって見てるのにぃ…
(しかも、音響装置は観客席の上のかなり高い所にあるので、よく見える💧)
恥ずかしい…
こんなんじゃ、例え彼女がいなかったとしても、ダメだよね…
はぁ…
「………さん!」
……
「…関口さんっっ!」
…!?
「…はっ、はいっっ!」
「はいじゃないでしょっ、いつまでそこに立ってんの!もう次のシーンに入ってるでしょっ!」
私は慌てて、袖に引っ込む。
「そっちじゃないっ、逆っ!」
「すっ、すいませんっっ!」
…あちゃあ💧
また、やっちゃった…
こりゃダメだ…💧
❤65❤
はぁ…
ど~んと、自己嫌悪…
私って、なんでこんなに情けないんだろう…
一通り稽古が終わった後、私は新谷さんに、こっぴどく叱られた。
私が1人で落ち込んでいると
「どうした?なんか、考え事でもしてた?」
真野さんだ!
“あなたの事、考えてたんです!”
な~んて、とても言えない…
「たっ、ただボーッとしてただけです…」
…………
………
……
私は恥ずかしくて、真野さんの顔をまともに見る事ができず、うつむいた。
❤66❤
「ボーッとねぇ…
まぁ、今はいいけど。な~んて言ったら、新谷さんに怒られるけど。
とにかく、本番はボーッとしないように頼むぜ」
そう言うと、真野さんは私の頭をなぜてくれた。
うわっ、なんか超嬉しいんだけどっ!
もしかして、これって脈ありかもっ!?
ちょうど今、ここにいるのは私たちだけ!
聞くなら今しかないっ!
頑張れっ、若菜っっ!
当たって砕けろっ!
いっ、いや、砕けたらイヤだ…💧
……
え~いっ!
「あっ、あのっっ!」
❤67❤
「あっ、そうだ!関口さん!」
「えっ!?」
私が聞くよりも先に、真野さんが口を開いた。
「今、誰もいないから、ちょうどいいや」
えっ!?
え~っっ!?
これって、もしかして!?
真野さんも私の事?
なんだか期待してしまう。
「なんかすっげぇ、恥ずかしいんだけど…」
あっ、やっぱり!
やった~っ!
私は1人で、喜んでしまう。
だって、だって、これってどう考えても“愛の告白”ってやつじゃないっ!
❤68❤
「あのさ…」
「はい」
ドキドキ
ドキドキ
「この前みんなで遊びに行った時、一緒に来てた関口さんの友達、山根さん、だっけ?」
…えっ!?
良子!?
なんで、ここに良子が出てくんの!?
「そっ、そうですけど…」
何、何、一体なんなのっっ!
「オレさぁ…」
まっ、まさかっ!?
いやっ、その続き、聞きたくないっ!
やめて~っ!
❤69❤
「オレ、山根さんに一目惚れってゆうか、そのぉ…」 「……」
「TEL番、教えてもらえないかな?」
サイアク…
真野さん、良子の事、好きになっちゃったんだ…
良子、かわいいもん。
性格だっていいし…
私、まさかこんな展開、想像してなかった…
1人で勘違いして、舞い上がっちゃって、バカみたい…
「…?関口さん?」
…はっ!?
「あ~っ、良子だったら、もう彼氏いるんでダメですよぉ」
ウソ。
良子に彼氏なんて、いない。
それは、私だって知ってる。
良子が真野さんの事、ちょっと気に入ってるのも知ってる。
だけど…
❤70❤
「もう、ラブラブなんですよぉ」
真野さんの顔が一瞬、歪んだ。
良子に彼氏がいるって聞いて、ショックだったみたい。
でも、私の方がもっと、もっと、も~っとショックなんだよ。
「そっ、そっか…それなら、仕方ねぇな…諦めるか…いきなり失恋とは、カナシイけどな」
ゴメン、真野さん、ゴメンナサイ。
私、ウソついて…
でも、2人が付き合うのなんて、絶対イヤだっ!
…だけど、こんな私はもっとイヤだ。
❤71❤
「あっ、そういえば、関口さんもオレになんか用があるんじゃなかった?」
「えっ!?」
「さっき何か言いかけたじゃん」
「あっ…」
もう、それはいいんです…
「なっ、なんでもないです」
「そっか、じゃ、みんなんとこ戻るか!」
「そうですね…」
私は真野さんの後を少し離れて、ついていく。
なんで、良子なの?
なんで、私じゃないの?
かわいくないから?
ボーッとしてるから?
私、当たる前に砕けちゃったよ…
はは…
なんだか、悲し過ぎて涙もでないよ…
❤72❤
いつもは、必ずといっていいぐらい良子にTELするのに、その日の夜はなんだかTELするのがイヤで、部屋の電気もつけないまま、ベッドにねっころがっていた。
すると、こういう時に限って向こうからかけてくるんだ。
私は暗がりの中、バックから手探りで携帯を取り出すと、TELにでた。
「どうしたの?」
「どうしたって、何が?」
つい、つっけんどんな言い方になってしまう。
「いや、珍しくTELしてこないから、何かあったのかと思って…」
そうだよっ、おおありだよっ!
「別に…」
「そう…
ねぇ、真野さんに聞いてみた?彼女の事」
………
……
「それがさぁ、やっぱ聞けなかったんだ。
どうしても、勇気がなくって…」
「え~っ、じゃあ、どうすんのぉ?」
「……あっ、ゴメン!
なんか、お母さんが呼んでるみたいっ!じゃあねっ!」
「えっ、ちょっ…」
ピッ…
私はもうこれ以上、真野さんの話をするのがツラくて、ウソついてTEL切っちゃった。
なんか今日の私、ウソついてばっかりだぁ…
携帯を閉じて、握りしめる。
すると、自然と涙が込み上げてきて、次から次へとこぼれ落ちた。
❤73❤
次の日、私はカゼだとウソをついて稽古を休んだ。
真野さんに会いたくなくて…
良子にもあれ以来TELしていないし、かかってきても無視している。
良子はなんにも悪くない…
それは私だって、分かってる…
これがたんなる当て付けだって事も…
でも、分かってはいても、どうしたらいいのか分からない…
真野さんにもウソついちゃったし…
なんか、自分で自分がイヤんなっちゃった…
こんな私、サイテイだよ。
このままじゃイケナイよね?
じゃあ、どうすればいいの?
真野さんに謝って、良子のTEL番教えて。
それで、良子にも謝って、真野さんの事、話すの?
そしたらきっと、2人は付き合うよね?
私はそれを見てるだけ?
…!?
イヤッ!
やっぱり、そんなのイヤだっ!
このまま黙っていよう!
私が話さなきゃ、2人には分かんないし…
❤74❤
あれからずっと悩み続け、結局私は、2人には黙っている事にした。
今日はちゃんと稽古に行こうと家を出ると、なんと、そこには良子が立っていた。
「良子…」
「あんた、昨日のTELの時なんか様子おかしかったし、何度TELしても出ないから、心配で…」
チクッ!
私の良心が痛む。
良子はこんなに私の事、心配してくれているのに、私はそんな良子にウソをついてる。
「ゴッ、ゴメンッ。ちょっとカゼひいてて…
でっ、でも、もう大丈夫っ!」
また、ウソ…
「そっ、そっかぁ、なら良かった。これから、稽古?」
「うん…」
ズキン!
今度は、かなり胸が痛む。
「頑張ってね。本番、必ず見に行くから」
ズキズキ!
ホントにこれでいいの?
…………
………
……
…
❤75❤
「あっ、関口さん、もうカゼは大丈夫なの?」
みんなが私の事を心配してくれる。
ウソなのに…
ここでもまた、胸がズキズキ…
なんか、ここにいるのがツライ…
自分がウソなんてつくから、いけないんじゃん!
分かってるよっ!
でも、どうしようもできないんだよっ!
「…はい。大丈夫です」
そう言うと、自分の持ち場につく。
とにかく今は、稽古に集中しなくっちゃ!
❤76❤
そう思えば思うほど、集中できなくなる。
と、当然ミスをしてしまう。
新谷さんに叱られるっ!
ところが、意外にも新谷さんは
「関口さん、まだ具合悪いんじゃない?ホントに大丈夫?」
と、優しい言葉をかけてくれた。
どうやら、私がまだカゼで具合が悪くて、ボーッとしてると思ったみたい。
そう思った瞬間、何やら熱いモノが込み上げてきた。
「……っ!?」
私はとっさに、その場から逃げ出した。
「関口さん!?」
後ろから新谷さんの声がする。
涙が次から次へと溢れてくる。
私って、サイテイだっ!
「うっ…」
廊下のつきあたりにつくと、その場にしゃがみ込んでしばらく泣いていた。
❤77❤
「関口さん…」
新谷さんが、後を追いかけてきてくれたみたい。
「一体どうしたの?何かあったの?」
そう言いながらハンカチを差し出してくれる。
私はそれを手に取り、涙を拭くと、思いきって新谷さんに話してみようと思った。
私は、何もかも話した。
私が真野さんを好きな事。
でも、真野さんは私の友達が好きな事。
それで、嫉妬して2人にウソをついてしまった事。
それから、昨日のカゼは仮病だった事も…
❤78❤
新谷さんは、そんな私の話を最後まで真剣に聞いていてくれた。
私が話し終えると
「やっぱり、その2人にホントの事、話した方がいいかもね」
静かにそう言った。
「ですよね…」
私は自分でも、そう思う。
「2人とも、きっと分かってくれるよ」
「はい…」
なんか、新谷さんに全部話したら、気持ちが楽になった気がする。
良子には夜TELするとして…
真野さんには、稽古が終わったら話さなきゃ!
んっ、稽古!?
やだっ、そういえば今、稽古中じゃなかったっけ!?
❤79❤
「すいません、新谷さん、稽古中に…」
私がそう謝ると
「えっ、そういえば、そうだったっけ?忘れてた…💧まぁ、平気、平気!」
新谷さんはそう言って、私の背中をバシバシ叩いた。
新谷さん…
……
こうして私たちは、みんなの待つホールへ戻った。
「ゴメン、ゴメン!
さぁっ、稽古開始!最初っからね!」
新谷さんは、思いっきり元気な声でそう言った。
「すいませんでした」
私も謝ると、自分の持ち場に戻った。
まるで何事もなかったかのように、稽古は進んでいった。
私、もう大丈夫!
だって、決めたんだもん!ちゃんと2人に謝って、ホントの事、話すって!
そして、真野さんの事は諦めるってね。
……でも、それはちょっと自信ないなぁ…
諦められるかな…
……
…
❤80❤
そしてついに、稽古が終了した。
音響室の出入口の所で、真野さんが出てくるのを待つ。
深呼吸をする。
落ち着け、落ち着け…
自分に言い聞かせる。
しばらくすると、他の2人と一緒に真野さんが出てきた。
「すいません、真野さん。ちょっといいですか?」
「えっ、いいけど、何?」
「あっ、あのぉ…ここじゃ、ちょっと…」
私が他の2人をチラッと見ると、その2人も察してくれたらしく
「じゃ、オレらは先に行ってるわ」
と、私たちをその場に残して、立ち去っていった。
❤81❤
「あのっ、私、真野さんに謝らなきゃいけない事があるんです!」
「えっ、何っ、突然!?」
私はそこで、軽く深呼吸すると、後はもう一気に話し出した。
「私、ウソついてたんです。良子に彼氏がいるって。ホントは、彼氏なんていないんです。
それに、良子、真野さんの事、カッコイイって言ってました」
「!?」
真野さんは、あまりにも突然な言葉に、何がなんだか分からないといった顔をしている。
しばらくして
「なんでまた、そんなウソを!?」
今度は、怪訝そうに眉を少ししかめている。
私はその先が言えなくなってしまい、真野さんの顔もまともに見る事ができず、うつむいてしまった。
❤82❤
「関口さん、ちゃんと訳を話してくれないか?」
真野さんにせかされて、私はうつむいたまま
「…っ、私、真野さんの事が、好きだったんです。
いっ、いえっ、今、今も好きです…」
小さく震える声で、やっとの思いでそう言った。
「……ゴメン。オレ、なんにも知らなくて…
ゴメンな、ホントにゴメン…」
なんでっ!?
謝らないでよ!
余計、せつなくなるじゃない…
謝られれば謝られるほど、自分の失恋が確かなモノになっていくようで、涙が溢れてくる。
でも、思いきって顔をあげて
「これ、良子のTEL番です。きっと、喜ぶと思います」
上着のポケットから、小さなメモ用紙を取り出すと、真野さんに手渡した。
❤83❤
今度は、良子に謝らなくっちゃ!
大丈夫、真野さんにだって言えたんだから、良子にも言えるはず!
でも、そう思いながらも、少し手が震えてしまう。
「…っ、良子っ、ゴメン!」私は、良子がTELにでるのと同時に、すぐさま謝った。
「なっ、何っ、急にっ!?」当然の事ながら、良子は驚いている。
ゴックン…
ツバを飲み込む。
「じっ…」
「真野さんの事でしょ?」
「!?」
「実はついさっき真野さんからTELがあって、あんたの事全部聞いたんだ」
え~っ!?
私、真野さんより先に良子にTELして、全てを話さなきゃって思ってたのに!
予想以上に真野さんのTELが早いのに、驚いた。
「…そいゆう事なの…ゴメン。怒ってる…よね?」
「あったりまえでしょっ!」「ホント、ゴメンナサイ…」「まぁ、あんたの気持ちも分かるから、特別に許してあげよう」
「良子ぉぉ」
❤84❤
「私、まだそんなにすぐには真野さんの事、諦められないと思うけど、別に2人の仲は邪魔しないから」
「何、2人の仲って?」
「何って、良子と真野さんの…」
「ちょっと待った。あんた、なんか勘違いしてない?」
「えっ?」
「私“真野さんからあんたの事を聞いた”とは言ったけど、“真野さんと付き合う”なんて、1言も言ってないぞ」
「…えっ!?何、それ、どうゆう事ぉ!?
だって、良子、真野さんの事、カッコイイって言ってたじゃん!?」
「確かにカッコイイとは言った。それは認める。
でも、付き合うつもりはない」
「やだ、良子。私に気なんて使わなくっていいのに…」
「だから、そうでなくって。私には、他に好きな人がいるの…」
「えっ、聞いてない!」
「今、言った!
とにかく、そうゆう事」
「……!?」
私は、しばらく何も言えなかった。
❤85❤
「じゃっ、じゃあ、良子、真野さんをふったのっ!?」
「まぁ、そうゆう事になるわな」
「え~っっ!?」
「でも、私真野さんに、“友達としては、またみんなで一緒に遊びに行ったりしたい”って、言ったの」
「そしたら、真野さん、なんて?」
「えっ、“友達じゃイヤだ”って…」
「そりゃ、そうでしょ💧」
「でも、私には他に好きな人がいるからって、言ったら…」
「言ったら?」
「“じゃあ、その中間にしてくれ!”って。
変なの。ねぇ?」
「はは…なんか真野さんらしいっ」
「だねっ」
「ってゆうか、そう言えば、良子の好きな人って誰なの?」
「えっ、言わなきゃダメ?」「ダメ!」
「…和也さん」
「…?和也さんって?」
「もぅ、あんたのお兄さんっ!」
「へっ!?」
そうなの、なんか今さらだけど、私には3つ上の兄貴がいるのだ。
まさか、良子の好きな相手か兄貴とは…💧
❤86❤
「関口さん、昨日の話なんだけど…」
真野さんの方から、話しかけてきてくれた。
「あっ、はい。良子から、聞きました」
「なんか、オレの方が先にTELしちゃったみたいでさ💧てっきり関口さんから、オレの話がいってると思ってたから、焦っちまったよ」
「私も、まさか真野さんの方が早くTELしてるとは思わなくって、ビックリしました」
「はは…山根さんも最初、かなりビックリしてたよ」 「でしょうね…💧」
「…山根さんからみんな聞いた?」
「あっ、はい、一応…」
「じゃあ、オレがフラれたって事も…?」
「そっ、そうですね、はい…」
「そっかぁ。なんか山根さん、好きな人がいるらしいんだよね…」
「はぁ…そっ、そうみたいですね💧」
まさか“それは私の兄です”なんて、とてもじゃないけど、言えない…💧
❤87❤
私はあの後も、何度か真野さんや峰さんたちと遊びに行ったりして、そのお陰でなんとか男の人とも、普通に(?)話せるようになってきた。
演劇部に入って良かった!
最初は、なかなかみんなの中に入っていけなくて、辞めてしまおうとさえ思ったくらいなのに、今では、楽しくて仕方がない。
でも、どんどん日にちが過ぎ、合同演劇の稽古も、残すところ後わずかになってきた。
こうやってみんなで、ワイワイ騒ぐことも、本番が終わってしまえばできないんだよね…
❤88❤
「お~い、みんな、差し入れだぞぉ!」
いよいよ明日にリハーサルを控え、少しずつみんなの中に、緊張感が漂い始めている時、前にも差し入れを持ってきてくれたOB3人がやってきた。
「わ~い、ありがとう!」
「やった~!」
みんなで3人に駆け寄り、早速お菓子やジュースを広げ始めた。
今度は私もちゃんと、仲間入り。
この時、それまでのみんなの緊張感が少し、ほぐれたような気がした。
「いよいよ明日、リハーサルなんだって?」
「そうなの」
「オレらも見に来ていい?」「別にいいけど、その代わり、本番もちゃんと見に来てよ」
「もちろん」
と、これは高橋さんと新谷さんの会話。
そう、明日はリハーサル!ミスしないようにしなくちゃね!
❤89❤
「明日リハーサルなんだけど、なんだか今から緊張してきちゃったよぉ」
「なんで、あんたがそんなに緊張するのよ💧」
「だって、一応、私だって舞台にでるんだよぉ」
「黒子で、でしょ?」
「そうだけど…」
もうほとんど、毎晩の恒例になってしまっている、良子とのTEL。
「本番、見に来てくれるんでしょ?」
「うん。あんたの立派な黒子姿を、よ~く見ててあげる(笑)」
「何それ~(笑)」
「ねぇ、もちろん和也さんも見にくるんでしょ?」
「“オレは勉強があるから、行かない”だってさっ」 「え~っ、残念…」
「ねぇ、良子、ホントにあんなのがいいの?
あんなの、『勉強が趣味』みたいなクソ真面目なヤツだよ💧」
「何言ってんの!そこがいいんじゃない!」
「そうかぁ?…」
私にはどう見ても、真野さんの方がよく見えるんだけどなぁ…
う~ん、人の好みは分からない…
❤90❤
次の日。
「いい、みんな。今日はリハーサルだけど、本番のつもりで、気を引き締めてやってね!」
「はいっ!」
まず、新谷さんがみんなに気合いをいれる。
観客席には、各校の顧問の先生の他に、昨日来てくれたOBの3人も座っている。
そして、リハーサルが始まった。
ヤバイ、みんな緊張しているせいか、小さなミスが目立つ。
私も1回、セットの配置を間違えてしまった。
「ダメだっ!もう1回最初から、やり直しっ!
そんなんでどうするっ!
もう明日は本番なんだぞっ!しっかりしろっ、しっかりっ!」
ついに見るにみかねた宮下先生が、私たちを怒鳴りつけた。
他の先生や3人のOBたちも、不安そうに見ている。
そして、2回目。
なんとかミスもなく、最後までやりとげた。
ふぅ…
明日もうまくいくといいけど…
❤91❤
そして、ついに本番当日。
まだまだ開演前だというのに、それぞれの家族や友達たちが、続々と集まってきた。
広い観客席は、段々うまっていく。
「若菜っ!」
良子だっ!
「頑張ってね。私、見てるから」
「うん、ありがとう」
良子は、峰さんや真野さんたちにも挨拶すると、ホールに入っていった。
峰さんの友達(もう私の友達でもある)、根沢さんと佐藤さんも来てくれた。
もちろん、あのOB3人組も…
「さあっ、みんな、いよいよだ!もう、ミスは許されない!いいねっ!」
「はいっっ!」
新谷さんもみんなも緊張のせいか、それからは誰も口をきかなかった。
ただ黙々と、最終チェックをする。
開演5分前。
そして、開演のブザーが鳴り、舞台の幕が開く…
❤92❤
「お疲れさまでした~っ!」
本番は見事に大成功。
観客席からは、割れんばかりの大拍手。
そして、今から打ち上げ。
ホントは、ここでビールでも飲みたいとこだけど、一応そこはまだ未成年だという事で、仕方なくジュースで乾杯!
なんか、長かったような、短かったような…
もうこれで、他の学校のみんなと会えないのかと思うと、少し悲しくなる。
「3年はこれが最後だけど、2年と1年!また来年も頼むぞ!」
新谷さんがそう言うと、森下さんが
「じゃあ、先輩たちは、差し入れお願いしますねっ」と、言ったからみんな大爆笑!
ホントにこれで終わりなんだね…
❤93❤
「若菜っ、お疲れさん!」
「どうも」
「なかなか立派な黒子姿だったぞ」
「なんかそれって、嬉しいのか嬉しくないのか、微妙…💧」
「もうすぐ夏休みも終わりだね」
「げっ、宿題全然やってないっ!」
「あっ、私も…」
「明日から一緒に頑張ろうか…」
「じゃあ、若菜んちでやろう!」
「なんで?」
「決まってるじゃない。
和也さんに会えるからよっ」
「絶対良子、趣味悪い」
「何よぉ。でもホント、あんた私が言うまで気付かなかったの?
私、もう結構前から、和也さんの事好きだったんだけど…」
「全然そんな事、夢にも思わなかったよ」
「まぁ、とにかく、明日10時に若菜んち行くから」
「わかった。待ってるね」
❤94❤
ピンポーン
次の日、良子は10時きっかりにやってきた。
玄関のドアを開けて中へ通すと、ちょうどそこに兄貴が現れた。
「おっ、良子ちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔しま~す!」
良子ってば、声裏返ってる💧
2階へ上がり、私の部屋へはいると
「やっぱ、和也さんカッコイイ!」
良子の目はウルウルしている。
「そうかなぁ?」
まぁ、私は妹だから、そう思うのだろうけど、確かに、兄貴はあれでも(?)結構もてるのだ。
でも、当の本人は前にも言った通り、『勉強が趣味』みたいな真面目人間だから、女にはあまり興味がないらしい…
あっ、だからって『あっち』って訳じゃあないのよっ!(ちなみに…)
コンコン
「は~い」
ドアを開けると、兄貴がおぼんにジュースを2つのっけて立っている。
「母さんがジュースだって」「あっ、ありがとう」
私はそれを受けとる。
❤95❤
「良子ちゃん、もし分かんないとこあったら、教えてあげるから」
「えっ、ホントですかっ!ありがとうございます」
何よっ、それ!妹の私には全然教えてくれないくせに!
「私、全部教えてもらおうかなっ!」
良子はまた、目をウルウルさせている。
「あのね…💧そんな事したら、良子がただのオバカだと思われるだけだよ」
私が呆れながら、そう言うと
「そっかぁ。じゃあ、自分で頑張ろう」
良子は早速、テーブルに宿題のプリントを広げ始めた。
❤96❤
私たちはなんとか、兄貴に頼らずに宿題を終わらせる事ができた。
ただし、答えがあってるかどうかは別として…💧
「じゃあ、次は学校で会おうね!」
「うん、そうだね」
私は良子を玄関まで送る。
「お邪魔しました!」
良子はそう言うと帰っていった。
と、ほぼ同時に兄貴がやってきた。
「全然オレんとこに聞きにこなかったけど、ちゃんとできたのか?」
「あったりまえでしょ」
私は胸を張る。
「ふ~ん」
兄貴はそれだけ言うと、なんだか自分が頼られなかったのが少し不満げな顔をする。
良子はこれがいいのか…
私は思わず、兄貴の顔をマジマジと眺めた。
「なっ、なんだよ!?」
「別に」
「変なヤツだなぁ💧」
❤97❤
そして、ついに2学期が始まった。
クラスのあちこちで、夏休みにあった出来事などをそれぞれでお喋りしていて、クラスの中はとっても賑やか。
中には
「夏休みの間中、部活だったから、どこにも遊びに行けなかった」
と、不満を言う人もいる。
私と良子が真野さんや峰さんたちと遊びに行った事や、合同演劇の事などを話して、盛り上がっていると、クラスの中でも割りと仲のいい3人が走り寄ってきた。
土屋 明美、山本 和美、大橋 玲奈だ。
「ねぇ、ねぇ、2人とも夏休みどうだった?
彼氏とかできた?」
「できないよぉ」
私と良子は、同時にそう答える。
「あんたたち、できたの?」と、良子が逆に聞き返す。
「まぁね!」
今度は、3人が同時にVサインを出した。
「え~っ、いいなぁ」
と、私と良子。
「へっへ~」
彼氏かぁ…
私にもできるのかなぁ…
❤98❤
2学期最初の部活の日。
私が視聴覚室へ行くと、もう先輩たちは集まっていた。
「すいません。遅くなりました」
「いいって。それより、合同演劇、お疲れさん!」
新谷さんがにこやかに、そう言ってくれた。
「あっ、お疲れさまでした」私もペコッと頭をさげる。
「で、次は文化祭なんだけど…」
「文化祭、ですか?」
「そう、今度はその練習を始めないとね」
「でも、この人数じゃ…💧」
私はつい、思った事を口に出してしまった。
「そうなのよ。だから、いつも音響や照明は、他の友達にお願いしてるの。
なんか、情けないけどね💧」
と、川島さん。
「で、何をやるか、今から考えるとこなの」
今度は、山崎さん。
すると、丸山さんが
「先輩たちは、もうこれが最後になるから、何かおもしろい劇にしたいなって、思ってるんだよね」
続けて市村さんも
「そうそう、思いっきり笑えるヤツねっ」
❤99❤
「喜劇、ですか?」
私が聞くと
新谷さんが
「そうだね。できれば、みんなを笑わせられるようなのがいいよね。
で、当然だけど、関口さんもキャストだからね」
と、私の肩を叩いた。
そして
「まぁ、合同演劇に比べりゃ、小さなもんだけど、それでもしっかり、発声練習をしてもらうからね」
と、続けた。
そういえば、私、入部していきなり合同演劇に参加する事になって、しかも、裏方だったから、発声練習とかって1回もした事がないんだった。
「発声練習って、“あめんぼ あおいな あいうえお”とかってやつですよね?」
私は、そんなのをどっかで聞いた事があるのを思い出した。
「まぁ、それもあるけど、後、活舌や腹式呼吸の練習とかもあるね。
どう、早速少しやってみる?」
そう言うと新谷さんは、私の為に黒板に活舌で言う言葉を書いて、説明してくれた。
❤100❤
ある日の日曜日。
私は、良子に買い物に付き合ってほしいと頼まれて、吉岡まで行く事になった。
いつものように小谷駅で待ち合わせすると、良子は、約束の10分前にやってきた。
私たちは、電車に揺られ、吉岡駅に着いた。
「ところで良子、一体何買うの?」
「うん、洋服とか」
「洋服かぁ。私も少し買おうかなっ」
私たちが洋服やかわいい小物などを見ながら、ブラブラしていると、突然、すれ違った男の人に後ろから声をかけられた。
「あれっ、確か、関口さんだよね?」
私がビックリして振り返ると、どこかで見た事のある男の人が立っている。
誰だっけ?
「オレだよ、オレ。覚えてない?合同演劇の…」
相手がそこまで言いかけた時、はっと思い出した。
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