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続・ブルームーンストーン

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自由人
20/10/29 23:08(更新日時)

ブルームーンストーンの続編です。

内容は4人で遊んでいた頃の話のブルームーンストーンとは違い、
職場中心の話になってしまいますが、
これも懐かしい思い出日記の様に書いていけたらなと思います。

どうぞよろしくお願い致します。

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No.2726135 18/10/14 16:28(スレ作成日時)

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No.1 18/10/14 16:34
自由人0 

2018年初夏。

とあるダイニングカフェの個室スペース。

森崎有希(ユッキー)
山田勇人(ユータン)
神谷大輔(大ちゃん)

そして私、田村美優(ミューズ)
の4人は久しぶりの再会を喜び合っていた。




4人が初めて出会ったのは25年前、
1993年春。

私、24歳。
ユッキー、22歳。
ユータン、22歳。
そして、大ちゃん、18歳。
だった。

あの頃は楽しかった。
ただみんなと一緒にいられるだけで良かった。

他の3人もきっと同じ思いを持っていたくれたのだろうと思う。

でも私達は結局それぞれ違う道を歩むことになりバラバラになる。

1996年に放送された「白線流し」
というドラマがあった。

男女数人の友情ドラマだったのだが、
あのドラマをみると何となく4人で楽しく騒いでいた事を思い出し感情移入をしてしまっていた。

スピッツが歌う主題歌、
空も飛べるはず。

くじけそうになった時はいつもこの曲を聴き、他の3人もきっとこの空の下で頑張っているんだと思い頑張った。

今でもその思いは変わらない。





「久しぶりだね!乾杯しようか!」

私はグラスを手に持ち3人の顔を見回した。

「おうっ!」

ユータンの声に続き、ユッキーや大ちゃんもグラスを手に持っ。

「お久しぶりですっ!カンパ~イ!」

グラスが軽やかな音を立てる。

「ユータン、本当に久しぶりだね。
20年ぶり?」

「どうだったかな?
駅のホームで…以来?」

ユータンがその時の事を思い出したのかクスクスと思い出し笑いをした。

「あ~あれ以来か。」

恥ずかしい思いをした割には結局ご無沙汰しちゃってたか…

それでも、私の目の前にいるユータンは驚くほど当時のままのユータンで、
時の流れを全く感じさせない事が嬉しかった。

あれから色々あったよね…

あの当時の事を懐かしく思い出す。

そして、それに伴いこのお話も1990年代に戻っていく…

No.2 18/10/14 17:36
自由人 

1997年春。

本社勤務になってから約2年半。

大ちゃんの予想通り、
「会社の都合」で私達のプロジェクトチームは解散した。

「田村さん、来月から〇〇店の副店長としてまた戻ってもらえますか?」

運営部の課長にそう打診される。

「〇〇店ですか?」

〇〇店とは私が新入社員時に配属され、あの3人と出会った店舗の事である。

「はい。今度は副店長としてまたそこで頑張って欲しいです。」

課長がニコニコとしながら頷く。

私に拒否権など無い。

だが、本社に残っても特にやりたい事がもう無かった私には、また現場で頑張る方が良い選択にも思えた。

一応、出世だしね。

無理矢理に自分を納得させる。

「わかりました。
近いうちにそこの店長に挨拶に行ってきます。」

そう答える私に、

「あ、その事なんだけど…」

課長が何かを言いかけた途端、

コンッコンッ!!

2人のいた会議室のドアが大きなノックの音で揺れた。

うおっ、ビックリした。

驚いてドアの方を見つめると、

「どうぞ~!」

と、課長は少し呆れた様な声を出し、その訪問者に入室を促した。

「課長、話があると聞いて来たんですけど、あの話ならいい加減に諦めて下さいよ!
僕も今の店舗をやっと軌道に乗せたところ…」

少しふてぶてしい物の言い方をしながら入って来たその男性を見た私は一瞬その場に凍りついた。

大…ちゃん…?

「え?」

大ちゃんも私の方を向いたまま、驚いたのか動かない。

「こら!神谷!全くお前はいつもガサツだな。」

課長の声に私達の呪縛が一瞬にして解ける。

「あれ?話し中でした?」

先に口を開いたのは大ちゃんの方だった。

No.3 18/10/15 12:52
自由人 

「いや、もう話は終わったんだけどね。」

課長は大ちゃんにも着席を促すかの様に先に会議室の椅子に座りながらそう答える。

「そうっすか。」

そう言いながらも大ちゃんは私から視線を外さない。

くっきりとした切れ長のキレイな二重。
彫りの深い顔立ち。
意思の強そうな口元。

整った顔立ちだが、触れると傷だらけになりそうなトゲトゲとした雰囲気が全体に漂っている。

まるで、出会ったばかりの頃の大ちゃんみたいだ。

怖い…

でも怖いのに、
目を逸らしたいのに何故か逸らせない。
吸い込まれそうな瞳、

大ちゃん…

「ああ、田村さんね、来月から〇〇店の副店長として行ってもらう事にした。」

大ちゃんの視線に気づいた課長が取りなすようにそう言うと、

「〇〇店?」

大ちゃんの眉が神経質そうにピクリと動いた。

「そう、あの〇〇店だよ。」

課長が何故か「あの」という所をわざと強調する。

〇〇店に何か問題でもあるのだろうか…

大ちゃんは強ばった表情のまま何かを考え込んでいる。

当の課長はというと、何か探る様な目で大ちゃんを見ていた。

「別に…俺には関係の無い話ですから。」

大ちゃんの吐き捨てる様な返事を聞き、ハア~っと大きくため息をついた課長は、

「とにかくそこに座って!
あ、田村さん!また何かあったら僕に声をかけて下さい。」

と私に向かって頷いた。

部屋を出ていけという事なんだろうな…

瞬時に察した私は、

「では失礼します。」

と頭を下げて会議室を後にした。

会議室を出て歩き出した途端、バッグの中から微かな着信音が鳴っている事に気づいた。

人気のないホールの端で電話をとる。

「もしもし。」

電話の相手は半年程前から付き合っている恋人の翔平だった。


No.4 18/10/15 18:22
自由人 

私と同い歳の翔平は共通の友人を通じて知り合い…
というごく一般的な出会いをし、
お互い争いを好まない事なかれ主義という性格も一致してのんびり気楽な付き合いを続けていた。

「今日そっちに泊まりに行くけどいい?」

「いいよ。先に着いたら部屋に入ってて。」

そう答えると電話を切った。

翔ちゃん来るって事はもう週末か、
早いな。

最近、曜日の感覚すらないよ。

私は歩き出しながら苦笑した。

翔平と付き合い出した頃に私は引越しをして今のマンションに移った。

前の女性専用マンションに比べ、
セキュリティの問題や家賃の高さが少々気になったが、築浅で日当たりも良いその部屋は予想以上に住み心地が良く、私は気に入っていた。

翔平とは付き合って3ヶ月程で週末は私の部屋で過ごす仲になり、
合鍵も渡し、私達は今や半同棲の様な生活をしている。

さて、今夜は何作ろうかな…
それとも食べに行こうかな…

夕飯の事を考えようとするが頭の中がまとまらない。

大ちゃん。
2年数ヶ月ぶり?
今頃また会うなんて…

さっき見た大ちゃんの顔を思い出す。

出会った頃と同じ怖い顔だったな。

きっと何も連絡しなかった私の事を怒ってるんだろうな…

でも連絡して来なかったのは向こうだって同じで…

やめよう。

今さら、そんな事を蒸し返して思い出しても仕方ない。

もう多分会うことも無いだろうし…

自分で言い聞かせたその言葉に、
気持ちがゆっくり落ちて行くのがわかる。

ダメだ!

私は落ちかけた気持ちを切り替えるべく、降りる予定だった自分のマンションの最寄り駅を2つ乗り越した。

2つ乗り越して降りた駅。
そこは引っ越す前の「最寄り駅」だった。

さてと、歩くか。

〇〇店へは以前は自転車で通ってたんだよね。

歩くと20分くらいかな。

そこそこいい運動にはなりそうだけど、

時間かかりそうだな。

私は携帯電話を取り出すと翔平に電話をかけた。

「ごめん。今度配属される店舗に寄ってから帰るから少し遅くなる。」

そこまでして行くほどの理由は何も無かったのだが、電話を切った私は〇〇店の方に向かってひたすら歩き出した

No.5 18/10/16 12:38
自由人 

スタスタとやや早歩きめで徒歩約15分。

前方左手に懐かしい〇〇店が見えてきた。

懐かしいな。

せっかく来たのだから店内の様子も見ておこう。

店内に入る。

「いらっしゃいませ。」

若い男性社員に挨拶をされる。

お客さんだと思われちゃった。

それは向こうにしたら当たり前の事なのだが、コソコソ何かをしている様な気分になり私は焦った。

今日は様子見のつもりだったけど、
やっぱりちゃんと挨拶して帰ろう。

意を決して、

「あの…すみません。
店長さんはいらっしゃいますか?」

おそるおそる声をかける私に、

「はい、あの、ご用件は何でしょうか?」

彼は少し戸惑った表情で返してくる。

「あ、すみません。
失礼しました、本社の田村と申します。
今度こちらに配属される事になりましたのでちょっとご挨拶に。」

途端に相手の表情が緩んだ。

「あ!そうなんですか。
ちょっとお待ち下さいね!」

彼はバックヤードに繋がるスイングドアを開け中を覗き込み、

「店長、お客様です。」

と声をかけてくれた。

「はいはい。」

と気の良さそうな声がしたかと思うと、30代半ばくらいのいかにも人の良さそうな顔つきの男性がバックヤードから店内に入ってきた。

優しそうな人だ~。

心の中でホッとする。

「あ、お疲れ様です!
本社の田村と申します。
来月からこちらに配属予定なのですがもうご存知ですか?」

「あ~すみません。
まだこちらの方には何も通達は無いですね。
でもうちの副店長が移動予定なので、後釜の方が来てくれるのはわかっていました。」

「そうですか。
本社からの通達って遅いですもんね。」

「そうなんですよね。
僕自身がこの店舗に移動の辞令が来たのは1週間前でしたし。」

「ええっ?1週間じゃ引き継ぎとか大変だったんじゃないですか?」

「いやいや、僕の同期なんか3日前に言われた奴もいましたし。」

「…めちゃくちゃですね。」

「ですね。でも田村さんが来て下さるのが早めにわかって良かったです。
どうぞよろしくお願いしますね。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

私は頭を下げると、

「また改めてちゃんとご挨拶に来ます。」

と、店を後にした。

No.6 18/10/16 22:28
自由人 

「おっと!危ない。」

いつもの様に本社のある方面の電車に乗ろうとした私は危うく踏みとどまった。

今日から引き継ぎのため〇〇店に行くんだった。

逆だよ。逆。

苦笑しながら慌てて反対側のホームへと向かう。

〇〇店はパートの沖さん以外はすっかりスタッフが入れ替わっており、
社員の構成も店長、副店長の私の他には今年入社した新入社員が2人来る予定とのこと。

う~ん。
私もある意味新人みたいなものなのに大丈夫かな…

一抹の不安が頭をよぎるが、あの優しそうな店長の顔が頭に浮かぶ。

うん。
何とか店長を助けられる様に頑張っていかねば!

店舗への挨拶用の
「ちょっと奮発した高級菓子折の」袋を握りしめ、
いざ!

裏口からバックヤードに入ると、
事務所の中からボソボソと店長の声がした。

コンコン!

「おはようございます!
今日からよろしくお願いします!」

元気良く事務所のドアを開けた私の目に、

「あ!田村さん、おはようございます。」

「おはようございます。」

店長と、

店長と、

店長と、

ええええええええっ!?

大ちゃんの姿が飛び込んできた。

「えっ?えっ?えっ?な、なんでここにいるんですか!?」

呆気に取られる私に、

「あれ?本社から何も聞いてないんですか?」

と大ちゃんが少し呆れた様に言う。

「あ、はい…」

「あ~、数日前に本社からの急な決定事項で神谷さんが急遽うちの店に来られる事になったんですよ。
てっきり田村さんは本社の方から聞かされてると思い込んでまして…
あまりにも急な事だったので引き継ぎでこちらもバタバタしてて連絡を怠ってました。
いや、本当に申し訳ない。」

店長が気の毒そうに頭を下げて謝ってくれている。

「えっ?…新入社員の…1人と?して?」

「なんでじゃあっ!!」

大ちゃんがいきなり吠えた。

ちょっ、やめて吠えないで。
余計に焦るぢゃないか。

「えっ?あっ、ふ、副店長…だっけ?」

もう頭が完全にパニック状態。

「それは田村さんでしょ?
僕の後任の神谷店長ですよ。」

優しい声の店長の説明に大ちゃんが黙って軽く頭を下げる。

ボトッ。

突っ立ったままの私の手から、
「ちょっと奮発した高級菓子折」の袋が落下した。

No.7 18/10/18 13:57
自由人 

「で、この書類はここにまとめてありますので…」

初日の引き継ぎは主に書類の置き場所や事務的な内容etc.....

私に引き継ぎをしてくれたのは、先日私が声をかけたあの若い男性社員だった。

この人がここの副店長だったのか。

もう1人いた社員の女の子も移動するらしいし、
本当に総入れ替えなんだな…

副店長になる前にはそのための研修を受ける。

大抵は候補達が一斉に揃って本社で受け、
しかも現場で働きながら数ヶ月かけて何回かに渡って受けるものだが、
大ちゃんの時と同じく必要に迫られた時には急遽「個別指導」の様な形で詰め込みで研修を受ける。

現場で働きながら少しずつ慣れていく他の副店長と違い、知識だけ身につけた新米副店長、しかも頼るべき店長はあの大ちゃん…

う~ん。
不安の1文字しかない…

気まずさもあるし、
とにかくこれもこの引き継ぎ期間中に何とか慣れる様にしていかねば。

それまでは…

うん、とりあえず二人きりになる事はなるべく避けよう、そうしよう。

私がそう心の中で決めた途端、

「田村さん、これからの事も話したいしちょっと外に出ようか。」

と「神谷店長」が誘いに来た。

げげっ。

「あ、いや、まだ取り込み中で…」

もごもご言う私に、

「大体の説明は終わりましたよ?」

副店長君が不思議そうに私を見る。

おいこら兄ちゃん空気読め。

困ってるだろ?
あからさまに。

その気持ちをありったけ目力に込めて副店長君に念を送る。

「あ~!」

副店長君が頷いた。

やった!
念が通じたっ!

「田村さんは引き継ぎ初日ですし、店には僕らも居ますので、遠慮しないでゆっくりミーティングしてきて下さい!」

違~う!
そうじゃな~い!!

「ふ~ん、じゃあ行こうか。」

大ちゃんが有無を言わさず先に立って歩き出す。

「あ、じゃあ後はよろしく…お願いします…」

ボソボソと声をかける私に、

「頑張って下さいね。」

と、副店長君が意味深な笑顔を浮かべてそう言った。

No.8 18/10/21 17:17
自由人 

大ちゃんを追いかけて店内に入ると、
大ちゃんはスイングドアの近くに立ち、店内を見回していた。

その表情は硬い。

「これは1からやり直した方が早いな…」

彼は渋い表情を浮かべながら独り言を漏らす。

やり直し?

この店舗の事には違いないんだろうけど…

もしかすると今からやるミーティングってこれに関する事かな?

とりあえず声をかけなきゃ。


「神谷さん!」

私が呼びかけたのと同時に私の後ろから店長が大ちゃんを呼び止めた。

「神谷さんすみません、さっきの件ですが…」

大ちゃんは私のほうを向き、

「ごめん、もうちょっと待ってて。」

と、店長の方に足早に向かって行ってしまった。

どうしよう…

仕方がないので、またバックヤードに戻る。

「あれ?どうしたんですか?」

副店長君に声をかけられた。

簡単に事情を話すと、

「あの神谷店長も大変ですよね。
あっ大変なのは田村さんか。」

副店長君がまた意味深な笑いを浮かべる。

「さっきから気になってたんだけど、もしかして神谷店長の事を知ってるんですか?」

私の問いに、

「いや僕は直接は知りませんよ。
でもお噂はかなり…ね。」

お噂って…
これまた穏やかならぬ事を…

「どんな噂ですか?
本社には表面的な話題しか入って来なくて、なかなか現場の生の声が聞けてないっていうか…」

「ん?いや悪い噂じゃないですよ。
かなりのやり手で本社からの期待も厚い有望株の店長って事です。」

「それだけですか?
他にもあるんじゃないですか?」

「ん~後は大した事じゃないんですけど、好き嫌いがハッキリしててかなり厳しく、気に入らなければ誰彼構わず噛み付く所からついたあだ名が狂犬。

ついでに言うと、神谷店長に睨まれた人物が何人か病院送りになったとか…」

おいっ!!
こっちの方が十分「大した事」あるわっ!!
むしろメインだわっ!!

「びょ、びょ、病院送りってなんなんですか!?」

「さあ?噂ですからね~
真偽の方は何とも。」

副店長君はしれっとした顔で嘯いた。

No.9 18/10/22 20:41
自由人 

この副店長君、大人しそうな顔をして実はなかなか食えない奴。

引きつる私の顔をニコニコしながら面白そうに眺める副店長君。

「まっ僕は神谷店長みたいなタイプ好きですけどね。
彼の下で働いてみたかったなあ。」

なら変わってくれよ!
今すぐ!
遠慮するな。
気持ち良く差し上げよう。

喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込み努めて冷静な声を出そうと努力した。

「でも、その機会はこれからあるかもしれませんよ?」

「いや、残念ながら僕はこの度店長になる事に決定しましたので。」

「あ、おめでとうございます。
なら…無理ですね。」

「神谷店長が地区長になれば可能ですけどね。
案外そんな日も近いかも。」

副店長君は私をからかう様な目をしてフフっと笑っていたが、

「そろそろ戻って来られるんじゃないですか?
行ってらっしゃい。」

と言い残し、スっと倉庫の方に出ていった。

「田村さん!」

それから程なくして大ちゃんが私を探しにバックヤードに入ってきた。

「お待たせ!行こうか。」

「あ、は、はい!」

2人で駐車場に出ると、

「乗って。」

と大ちゃんは車の助手席を指さし、自分も運転席に乗り込んだ。

「昼ご飯まだでしょ。
食べながらミーティングも兼ねようか。
休憩室でやると他のスタッフが気を使ってゆっくり休憩できないだろうし。」

なるほど。

「ここでいい?」

車が入った先は、
かつてよく利用していた職場近くのファミレスだった。

「わあ懐かしい!
何年ぶりだろう。」

思わず声を上げた私に、

「でしょ?」
と大ちゃんも懐かしそうに微笑む。

席に案内され座った途端に、

「住所変わったんだ。」

といきなり大ちゃんが切り出してきた。

「あ、はい。」

「ふ~ん。なんで?
女性専用マンションじゃ彼氏と住めないから?」

「えっ!?
い、いや週末にちょっと泊まりに来るくらいで、住むとかは…」

「なんだ。やっぱり彼氏いるんだ。」

「え、え、大ちゃんも彼女いるよね?
お、お揃いだね…」

「お揃い?」
大ちゃんはフッと鼻で笑うと、

「まあそういうことになるかな。」

と私から視線を外し、メニューに手を伸ばした。

No.10 18/10/23 13:00
自由人 

「さて、早速だけどちょっと質問していいかな?」

注文を済ませるのもそこそこに大ちゃんが切り出してくる。

「今日久しぶりに〇〇店に来たと思うけど、久しぶりに見た店の雰囲気どうだった?」

「え?え~と、どうって…」

「わからない?
じゃあミューズが前にいた時と比べて店の雰囲気どうだった?」

「あ~、何かシーンとしてるっていうか活気が無いというか…」

「他には?」

「え~と前に挨拶に行った時に買い物して帰ろうと思ったら品出し中のスタッフさんが必死で作業をやってて邪魔で…
でも声をかけるのも何だからそのまま帰った。」

「他には?」

大ちゃんはその調子で私に幾つか気になった点を挙げさせると、

「これ見てくれる?」

〇〇店の売り上げ、客数、客単価等が記載された資料を取り出した。

「ここんとこ、〇〇店の売り上げ、客数共に急激に減っている。」

「あ、でもこれは近くに何店か出来た競合店の影響も…」

私の言葉に大ちゃんはフンと鼻で笑う。

「そんな事を言い訳にしている副店長の店は遅かれ早かれ潰れるな。」

きっつう…

「す、すみません。」

「いいか?
競合店対策で1ヶ月後には車で15分程の距離にうちの会社の店舗ができる。
うちよりも更に大きな大型店舗だ。
このままだとうちの店舗は確実にそこに食われる。」

「え?同じ会社の店舗で食い合い?
そんなえげつないこと…」

「えげつない?
それがうちの会社だよ。」

そうなんだ…

「あのタヌキ課長、俺にそれを承知であの店の売り上げを何とかしろとしつこく言ってきた。
そんなもん面倒臭いからと断り続けてたのに…」

大ちゃんはここで言葉を切って、じっと私の顔を見た。

No.11 18/10/23 13:09
自由人 

えっ?
なに?なに?なに?
怖いんですけど…

そんな怯える私の思いを知ってか知らずか大ちゃんは私の顔を見つめたまま更に続ける。

「あ~あ、おかげで前の店舗やこちらの店舗での引き継ぎが大変だよ。
軌道に乗せた前の店舗にいれば楽できてたのになあ。」

「す、すみません。」

何故か謝ってしまう。

「あの…本社から強制的に?」

「いや、前の店舗もまだまだ伸ばせるから本社としては強制してまで俺をそこから出すつもりは無かったよ。
ただ、こちらの地区に思い入れのある課長がしつこかったくらいで。」

「え?
じゃあ余裕で断れたんじゃないですか?
何でこんな損な役回り引き受けたんですか?」

「えっ…何でって…」

急に大ちゃんの気勢が殺がれる。

大ちゃんの迫力に押されっぱなしだった私はようやくここで我に返った。

あれ?
と、いうことは選択権があったにも関わらず〇〇店に自分から進んで来たって事だよね?

うっわ~
謝って損した~
って言うか何で謝ったのかよくわかんないけど。
私のごめんなさいを返して欲しいわ~

「なに?何か文句あるの?」

私の心を読んだのか、大ちゃんが少し子供っぽい口調で絡んでくる。

「あ、いえいえ。
わざわざ自ら苦難の道を選ぶなんてなんでかなと…」


「お待たせ致しました。ハンバーグセットでございます。」

ちょうど話しを割って入る様に注文の品が来た。

「おおっ、これも懐かしいな。
さっ、食べよ。」

大ちゃんはナイフとフォークを取り上げると、
その話はまるで何も無かったかの様に素知らぬ顔でハンバーグを食べ出した。

No.12 18/10/24 13:10
自由人 

「行ってくる。
何かあったら携帯に電話して。」

大ちゃんが私に声をかけてきた。

引き継ぎ期間が終了する同日に新入社員の研修も終わり、研修最終日の午後に各店長が新人を迎えに行く。

「分かりました。」

返事をする私に、

「あ、先日新しい高校生のバイトを2人雇ったから。
今日の夕方来るし色々教えといて。」

軽い感じで大ちゃんが言う。

「え?聞いてませんよ~
そういう事はもっと早くに…」

文句を言いかけるも大ちゃんは手を軽く振ってさっさと出ていってしまった。

ったく…

これは、私がバイトの教育係決定って事だよね。

高校生か。
私にちゃんと指導とかできるかな。

私の頭に初々しい学生さん達の姿が浮かんだ。

恥ずかしがって声もちゃんと出せてなかったらどうしようかな。

ちゃんとそこも指導していかなきゃね。

ふふっ
ちょっと楽しみ。


PM4:00

「今日からバイトで来ました。」

店内で作業をしていた私に不意に後ろから若い男の子の声がかかる。

来たっ!

「は~い!」

満面の笑みを浮かべて振り向いた私の目の前に、
ツンツンの金髪頭に複数のピアスをジャラジャラつけ、いかにもヤンチャそうな顔立ちをした男の子が突っ立っていた。

えっ?

バイトの男の子はいったいどこに…

思わず周りを見回した私に、

「4時に来いって言われたんですけど?」

とにこやかにその金髪君が言う。

えっ?

まさかとは思うけど…
この、はしゃぎ過ぎたスーパーサイヤ人みたいなの…がっ?

頭がクラクラした。

「と、とりあえず事務所に行こうか。」

彼を連れて事務所に入ると向かい合って座った。

って、おい!
サンダル履きやないかいっ!!

「靴は?」

「履いてます!」

「それはサンダルです…」

「え?サンダルは靴に入りませんか?」

……

おやつにバナナは…かよ…

「わかりました。
とりあえず次に来る時は必ずスニーカーか靴で来てください。」

「サンダル動きやすいんですけど…」

どこまでサンダルに拘るんだ…
サンダルの霊にでも取り憑かれてるのか?
1発、かめはめ波でもお見舞いして除霊してやろうか…

「それとその頭…なんですけど。」

私の言葉に、

「これ!なかなかカッコイイと思いませんか?」

と彼は嬉しそうに自分の頭を撫でてみせた。

No.13 18/10/25 12:20
自由人 

「はあ、まあ、確かにカッコイイ…ですけど…」

私の言葉にスーパーサイヤ人は嬉しそうに笑う。

「ちょっと接客業やるには派手過ぎますね。
もう少しだけ暗くできませんか?」

スーパーサイヤ人ちょっと落胆する。

「それと、その耳がちぎれそうな程ぶら下がってるピアス。
数は1つのみで、それもできるだけ目立たない物か透明ピアスにして下さい。」

スーパーサイヤ人更に落胆する。

辞めるなこれは。

はあ、やれやれお疲れ様。

でも一応の形として一通りの説明だけ済ませておくか。

え~ともう1人の子もそろそろ来てるかな?

探しに行こうかと事務所のドアを開けると、ドアの前にものすごくガタイのいい男の子が立っていた。

「あの、今日からバイトで来ました…」

「ああっ!ごめんね、お待たせして。
説明あるから入ってくれる?」

立派な体格に似合わずボソボソっとした声で話す彼を慌てて事務所に招き入れる。

2人を椅子に座らせ、改めて履歴書に目を通した。

スーパーサイヤ人は、
牧田 優也
この春から高3

ガタイ君は、
加瀬 大吾
同じく高3

どうやら2人は中学時代からの友人同士の様であった。

2人が揃った所で簡単なオリエンテーションを行う。

加瀬君のリアクションは薄く、わかっているのかわかっていないのか掴みにくかったが、意外な事に、
「はしゃぎ過ぎのスーパーサイヤ人牧田」が物凄く飲み込みが早い。

この子、頭の回転早いな…

見た目と言っている内容はふざけているが、言葉遣いや態度は基本キッチリしている。

確実に伸びそうで面白そうな子ではあるけど…
まあ次は来ないだろうな。

私はそう確信した。

ところが、私のこの時の確信は半分当たり半分外れた。

高校を卒業後にうちの会社に就職した牧田君は、後にメキメキと頭角を現し、社内でも有名な「やり手の牧田」として知られる存在になるのである。

No.14 18/10/27 20:56
自由人 

「ただいま!」

やっと大ちゃんが新人2人を引き連れて帰ってきた。

新人達は、人当たりは良さそうだが、どことなく我の強さを感じさせる新井 慎太、

お坊ちゃんな雰囲気で、本音をあまり出しなさそうな大川 弘樹、

この2人も個性強そうだな…

もう本当に不安しかない。

こんなメンバーで本当にやっていけるのか?
新米副店長!

「お姉さん、今から何します?」

ボーッと考えている私に、サイヤ人牧田が探るように声をかけてくる。

「お姉さん言うな、私は田村です。」

そう言いながらも2人に目で合図をし3人で事務所を出ると、入れ替わりに大ちゃんが新人の2人を事務所に座らせた。

「今から軽~くオリエンテーションやるから!」

大ちゃんが意味ありげにニヤニヤしながら言うのを新人2人は真剣な顔で頷きながら聞いている。

やれやれ。

初日からあまりとばさないで下さいよ?

私はため息をつき事務所のドアを閉めた。

大ちゃんが2人にオリエンテーションをしている間に、私はバイト2人を従え店内に入り、店内での作業の説明を行う。

品出し、レジ業務がバイトの主な仕事になるが、ベテランになると発注や売り場作成も任される事等も説明。

「店内に人も少ないし、ちょっと空いてるレジを触ってみようか。」

端っこにあるレジにキーを差し込み起動させると「研修モード」にセットする。

「これでレジに商品を通しても売上に反映されないから、少し練習してみよう。」

私の言葉に2人は「おおっ!」といった表情でいそいそとレジの周りに寄って来た。

「2人ともバイト経験は?」

私はまず加瀬君をレジの前に立たせながらそう聞いた。

「親せきの居酒屋と新聞配達!」

牧田君がすぐに元気良く答えてきたが、加瀬君は黙ってレジ前で俯いている。

「バイト経験ないよな。」

牧田君が代わって応えると、

「ずっと〇〇ばかりやってたから…」

と加瀬君はある格闘技の名称を出した。

「そうなんだ、強そうだね。」

「もうやってないから別に…」

シーン。

「ダイゴ、顔に似合わないから暗くなんなよ!」

牧田君の能天気な声で少し重い空気が一変。

「顔に似合わないって何だよ!」

文句を言う加瀬君の声はさっきよりも元気になっている。

「よしっ!じゃやりましょか。」

私は加瀬君の横に立ち、レジ操作を開始した。

No.15 18/10/27 21:51
自由人 

私達が〇〇店に揃って3ヶ月。

心配していた新入社員も新人バイトも何とか店に馴染んできていた。

新入社員の新井慎太と大川弘樹は性格が逆で「神谷店長」に対する接し方もまるで逆。

すぐに大ちゃんに懐き、大ちゃんの考えている事を察する能力に長けていた新井君。

仕事の能力はそこそこあるが、私と同じ様に大ちゃんに気圧されるばかりで、なかなか完全に実力を発揮できない大川君。

全く違うタイプの2人だったが、妙にウマが合うのか互いに足りない所を上手く補い合い、それぞれそれなりの成長ぶりを見せていた。

「来月の地区会議はミューズも一緒においで。」

前月、シフト決めの際に大ちゃんはそう言うと、私の返事を待たずに勝手にシフトを組んでしまった。

「会議は夕方の5時からだから、俺とミューズは早番で、あいつら2人はまとめて遅番でいいだろ。」

地区会議の場所は2ヶ月前にできたばかりの新店舗。

車で15分程の距離にある。

大ちゃんが
「あの店舗ができたらうちは食われる。」
と言っていた例の店舗だ。

幸いまだ大きな影響は出ていなかったが、遅かれ早かれ売り上げに影響も出て来るだろう。

それに加え、その店舗の店長は以前のここの店の副店長君。

田上 洋介 26歳。

童顔で大人しそうな見た目とは裏腹にかなり頭がキレる一筋縄ではいかないタイプとの事。

なかなか厄介な相手だな。
私は彼と話した時抱いた、食えない相手という印象を思い出し気が重くなった。

会議当日、

「じゃあ行ってくる、何かあったら電話して!」

大ちゃんが機嫌良く社員君達に声をかけると私達は揃って店を出た。

「他の店舗に出向いて会議なんて初めてです。」

少し緊張気味に話す私に、

「大丈夫、同じ地区の親睦会を兼ねてるみたいなもんだから気楽なもんだよ。」

大ちゃんがのんびりと答える。

「はい。」

頷く私に、

「同じ地区なんだから仲間みたいなもんだよ。
だから仲良くやって?
そのために他の店長たちへ引き合せるのも兼ねてるし。」

と、大ちゃんが優しく言う。

そうなんだ。

大ちゃんの心遣いに感謝した。

新米副店長頑張ります!

私が心の中で決意を新たにした所で車は新店舗の駐車場に着いた。

No.16 18/10/28 14:03
自由人 

〇〇店とは比べものにならないほど新店舗は大きくて立派だった。

店舗横にある細い通路を奥に進むと横手に小さな入口のドアがある。
そこを開けて入ると、うちの店舗の倍以上はある広いバックヤードがあり、突き当りに事務所と休憩室のドアが並んでいる。

ミーティング室はどこなんだろう。

キョロキョロと見回す私に、

「こっち。」

と、大ちゃんが反対側の方に立って手招きする。

見ると反対側にもドアがあり、入ると広いスペースの真ん中に長テーブルが2つくっつけて置かれ、その周りに10脚ほどパイプ椅子が置かれていた。

はあ、広いな…
うちとは桁違いだ。

少々気後れしつつも大ちゃんと並んで隣に座る。

と、ガヤガヤと賑やかな声が近づいてきて、ガチャっとドアが開く音と共に地区長と他店の店長達が談笑しながら入ってきた。

「あ!お疲れ様です!」

慌てて立ち上がり頭を下げて挨拶をする私の横で、

「お疲れっす。」
と大ちゃんも軽く頭を下げてにこやかに挨拶をした。

「お?今日は彼女も同伴か?」

地区長がニコニコしながら冗談を飛ばすと、

「まあ彼女って言うより、妻ですね。」

と大ちゃんがにやける。

ぐげげ。

「あはは、田村さん、余り緊張しないで。噂のやんちゃ坊主の監視役をこれからもしっかり頼みますよ。」

ひきつる私に地区長はそう優しく声をかけてくれると、

「さて、ここの店長もすぐに来ると思うしとりあえず始めていようか。」

と椅子に座り資料を取り出した。

途端に和やかな空気は一変してピリリとしたムードが広がる。

「まずは、✕✕店…」

皆に地区全店の資料を配り終えた地区長が資料を元に各店の売り上げ状況や問題点、対策、施策等を質問したり報告を受けたりしていく。

「次は〇〇店…」

地区がそう読み上げた途端、

コンコン!

ノックの音がして、

「遅くなりました。」

と、この店舗の店長の田上洋介店長が入ってきた。

田上店長は大ちゃんの方に少し目をやると軽く頭を下げ席に着く。

「じゃあ、〇〇店。」

地区長が再びうちの店舗の資料を読み上げる。

「神谷店長はまだ〇〇店に配属されて3ヶ月ほどだし、周りに競合店も次々にできたという事で大変だとは思うが…」

「競合店なんて目じゃないですよ。」

いきなり大ちゃんが鼻で笑う様に地区長の話を遮った。

No.17 18/10/29 00:56
自由人 

「ん?」

地区長の不思議そうな声を無視するかの様に、

「とりあえず僕にとって負けられない相手はココですから。」

大ちゃんが冗談ぽく笑いながら言う。

おい…でも目はぜんぜん笑ってないぞ?

「それは光栄…と言っていいのか?
まあでも勝ち負けじゃなく同じ地区同士助け合って…」

「地区長、本社からも色々言われてるんでしょ?〇〇店の事。
助け合い?
うちを食う店はどこも敵ですよ。」

大ちゃんはゆったりと笑いながら返す。

おいおいっ!笑いながら毒を吐くんじゃない!

ほ~ら周りの店舗の皆さんがあからさまにドン引きしてらっしゃる…

「そうか神谷君らしいな。
〇〇店はここらの郊外型店舗では最も古い店だから本社の思い入れも強いのは確かだし、僕もできる限り力にはなるつもりだ。」

地区長は穏やかな笑顔を大ちゃんに向けると、

「では次の△△店…」

と次に話を進めた。



私にとって大波乱となった会議は2時間ほどかかり、

「もう7時過ぎか、俺達は退店の時間だな。
店に電話をかけて特に何も問題が無いようならこのまま直接帰るか。」

と、大ちゃんはミーティング室の外に電話をかけに出て行った。

はあ、荷物も何もかも置きっぱなしで…

大ちゃんの残した荷物を自分のカバンと共にまとめて手に持ち、ミーティング室を出ようとした私に、

「田村さんお疲れ様でした。」

と田上店長が声をかけてきた。

「あ、お疲れ様です。
あの…先程は…」

もごもごと言いながら頭を下げる私に、

「やっぱり神谷店長は面白い。
僕は神谷店長みたいなタイプは好きですよ。」

田上店長がニコニコとしながら答える。

でも…貴方様の目も全く笑っていらっしゃらない様に見えるのは私の気のせいかしら?…

「うちの店長は何せ強烈な負けず嫌いでして…」

「あはは、そうですね。」

「いやもう、本当に気がやたら強くてもう。」

「あはは、さすが狂犬の異名を持つだけの事はある。
戦国武将の織田信長公を思い起こさせますよ彼は。
敵も多そうですし部下に寝首をかかれなきゃいいんですけどね。」

「そうですね。でも…」

少しカチンときた私は田上店長の顔を正面から見据えた。

No.18 18/10/29 12:59
自由人 

「うちの店長が織田信長だとするならば、田上店長は徳川家康といった所でしょうか。」

「僕が?」

「はい。狂犬の噂とは逆に冷静でなかなかの策士でいらっしゃるとのお噂を少し耳にしましたもので…」

「え?僕が策士家の家康?」

田上店長は少しボカンとした後に、

「じゃあ田村さんは濃姫ってとこですか。」

と即座に笑いながら言い返してきた。

「いや…濃姫ってわけでは…」

「いやいや濃姫でしょう?
それとも明智光秀にでもなるつもりなのかな?」

少し皮肉を込めたつもりがガッツリ笑いながら返されてしまった…

「田上店長、じゃあまた!」

声がしたかと思うと、
ドアを開け顔だけ覗かせた大ちゃんが田上店長に声をかけ、私の顔をチラッと見たかと思うとそのままぷいっと外に出て行ってしまった。

うげっ、なんなんだよ。

引きつる私に、
「神谷店長は何歳でしたっけ?」と田上店長が問いかけてきた。

「え~と23歳です。」

「マジか。僕より3つも歳下には見えないな。」

「ええ…むしろ…歳上に…みえる…かと…」

「あはは!顔立ちが大人っぽいですからね~。」

田上店長は可笑しそうに笑うと、

「さ、早く行かないと、せっかちな彼がヤキモキしながら待ってますよ?」

と、ミーティング室のドアを開けながら私に出るようにと促してくれた。

「あっ、すみません。では。」

慌てて頭を下げ挨拶をして外に出ようとした私の後ろから、

「困った事があったらいつでも言って下さいね。力になりますよ。」

と、田上店長の愉快そうな声が追いかけて来た。

No.19 18/10/29 21:02
自由人 

「何を話してたの?」

車を発進させながら大ちゃんがわざと明るく聞いてくる。

「あ~、うちの店長が織田信長タイプなら、田上店長は徳川家康ですねって…」

「ふ~ん、それどういう意味?」

「いや、田上店長が神谷店長はキャラ的に織田信長を思わせると言うから、まあちょっとそれに乗っけて田上店長を策略家と言われた徳川家康に例えたわけで…
ちょっと…嫌味だったんだけどね…」

「ふ~ん、要は田上店長に喧嘩売ってたってわけね。」

おい…先に喧嘩の叩き売りをしたのは誰だよ…

「まあいいや。それよりもこの後予定ある?」

「えっ?ううん特にないけど…」

「そうか。じゃあ夕飯食べて帰ろうか?」

「うん。いつものファミレス?」

「いや、ちょっと遠出でもいい?」

「あ、うん。」

私の返事に大ちゃんは高速道路方面へ車を走らせた。

「今、実家から通ってるの?」

「うん、やっと隣の地区に良さそうな2LDKのマンション見つけたから近々家を出るけど。」

「2LDK?一人暮らしなのに?」

「あ~…彼女も…住むんだ。」

大ちゃんが少し言いにくそうに答えた。

「そっか。遠距離じゃ寂しい思いさせるもんね。良かったね。」

そう言いながらもフッと心が寂しくなる。

いやいや何考えてるのよ。

私だって翔平という彼氏いるじゃない。

「ミューズはどうなの?
彼氏とラブラブなんでしょ?」

大ちゃんに聞き返され、少し答えに詰まった。

「う~ん、ラブラブと言うよりも、
一緒にいても疲れない相手って言うか、気楽に過ごせる関係っていう感じ。」

「そっか。それが1番大事じゃないの?
疲れる相手なんてまずダメでしょ。」

「そうかもね…」

疲れる相手はダメか…

やはり私達は
ダメになって当たり前の相性だったんだな。

「俺は疲れるタイプなんかな。
顔色を伺いながらビクビクするのに疲れたってフラれても仕方ないんだよな。」

大ちゃんがポツンと呟いた。

思わずドキン!とする。

私のこと?

「高校の時付き合ってた子だけど…」

あ、なんだ違うのか。
ビックリした。
それにしても、やはりみんな同じ事を思うんだね。

妙な所で共感をする。

「雨、降ってきたな。」

空は晴れているのに雨が降っている。

「狐の嫁入りって言ったっけ?」

私は独り言の様に窓の外を見ながら呟いた。

No.20 18/10/30 12:47
自由人 

「本当に1番欲しいものほど手に入らないよな…」

大ちゃんが私の呟きにまるで噛み合わない言葉を呟く。

大ちゃん?

「もしかして…まだ昔の彼女さんの事を?」

「いや、それはない。
完全に吹っ切れてる。
こうやって人に話せてるのがその証拠。」

「そうなんだ。彼女もいるしね。
ちゃんと大事にしてあげてる?」

「うん。今度の同棲の事もあいつが寂しいのは嫌だって言うから休日潰してずっと部屋探ししてた。
間取りもあいつが気に入る間取りが見つかるまで俺1人でも徹底的に探したし。」

「あれ?2人で探さなかったの?」

「うん。遠いからいちいち来るの面倒臭いしって託されてた。
俺の探した物件の品定めだけはして文句ばっかり言ってたけどね。
でも今の物件を見せたら喜んでくれてたからそれでいいんだ。」

「彼女のこと本当に好きなんだね。」

そう言いながらも、私は内心大ちゃんの彼女さんが羨ましかった。

「好き…か。
これ以上何も失いたくないって思うから、好きだ離したくないと思う相手と、
手に入らないと思うから、逆に欲しくて欲しくて仕方ないと思う無いものねだり?的に好きな相手と、どっちが本当の好きなんだろう…」

「どっちが?
う~ん、どっちなんだろう。
難しいこと言うね。」

「ミューズならどっちだと思う?」

私は…
どっちなんだろう。

「私は…私ならこれ以上失いたくないって思う方かな?
無理だとわかってても恋焦がれるのは辛すぎるし、途中で諦めちゃうだろうから。」

私は完全に大ちゃんの事を思いながらそう言っていた。

手に入らないものを今更望んでも仕方ないと思う自分がいる。
だからそれはきっと本当の好きじゃない…

「そっか。変な事聞いてごめん。」

大ちゃんは車のワイパーを止め、

「雨、上がったな。」

と言った。

「本当だね。」

私は車の窓越しに空を見上げた。

「そういえば、さっき田上店長にミューズはノーヒメだとか言われてなかった?」

大ちゃんが急に話題を変えてふってくる。

ノーヒメ?
ああ、濃姫ね。
聞こえてたのか。

濃姫。
織田信長公の正室。
このお二人、
ドラマ等、創作の世界ではよくベストカップルの様に描かれている。

「さあ?ノーヒメってなんだろうね。
私もよくわからなかった。」

何となく大ちゃんに言ってはいけない気がした私はシラを切った。

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