とある家族のお話

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2020/05/27 16:47(更新日時)

私はまり。


5年前に離婚し、現在シングルマザーで小学3年生の息子が1人。


父親は肺がんを患い、闘病の末4年前に他界。


母親は精神疾患を患い、現在精神病院に通院中。


遠方に住む兄の亮介と義姉の千佳さん。


中学3年生の姪と、中学1年生の甥がいる。


2つ下に同じ市内に住む弟の圭介。


私と同じくバツイチで、現在は1人暮らし。


息子のよき遊び相手になってくれる。


弟の子供は元妻が引き取っているが、しばらく会っていないそうだ。


私の母親は、多分だがかなり前から精神疾患があったと思われる。


父親が他界してからひどくなった。


病名は「妄想性障害」


特に被害妄想が酷く、妄想で警察を呼んだり近所の方々にご迷惑をおかけしてしまう様になったため、社会福祉の公的窓口に相談し、現在通っている精神病院の先生にお願いし、強制入院に至った。


母親本人はおかしいと思っていないため、入院する時はとても大変だった。


現在は退院している。


入院する時は近所に住む弟と相談し決めたが、母親には未だに恨まれている。


兄夫婦には電話やLINEで伝えていた。


母親は、兄と弟の嫁をいびりにいびった。


弟の離婚は、母親が大いに関係している。


義姉は遠方に住む事で離婚はしないで済んだ。


私達兄弟が母親を何度止めてもいびりは止めない。


母親は悪い事はしていない、私は正しいと、止めれば止める程興奮し罵詈雑言を言い放つ。


妄想が激しいため、妄想で話をするが母親本人は事実だと思っているため、違うんだよ!と言っても聞き入れてくれる事はない。


否定すれば嘘つき呼ばわりするな!お母さんは正しい!と怒鳴る。


仕方なく合わせれば、やっぱりそうだ!と益々妄想が本当の事だと思い込む。


とても難しい。


でも、私の実母である。


父親がいない今、私達兄弟が母親をみなければならない。



こんな家族のお話です。












No.3034511 (スレ作成日時)

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No.301

「どういう意味ですか?」


「長谷川さんもバカだねー。こんなレベルの女が原因で加藤さんと別れるとか」


「ばばあがうるせーよ」


「くそがきは黙れ」


あぁ。


こんな感じの子なのか。


本当にバカだな、雅樹は。


田中さんと更衣室を出る。


「今のやつ、ちょっと録音しちゃったんだよねー!盗聴だからヤバいけど、ちょっと長谷川さんに聞かせてみようか?反応がみたい」


席に行くと、雅樹も斎藤さんも牧野さんもいた。


田中さんが一旦席に戻り、イヤホンを引き出しから取り出す。


聞いてから、雅樹のところに行き「長谷川さん、ちょっと聞いて欲しいものがあるんですけど…」と言って、雅樹の耳にイヤホンをつけた。


雅樹は黙って聞いている。


斎藤くんも牧野さんもその様子を黙って見ている。


聞き終わり、イヤホンをとると無言で机に左肘をつき、左手でおでこと目を覆った。


マスクをしているから、表情はわからない。


田中さんが「さっ、仕事しよう!」と言って、席に戻って来た。


私は雅樹を見た。


泣いている様にも見える。


雅樹は立ち上がり、どこかに行った。


私の携帯が鳴る。


雅樹からのメール。


雅樹がいない席をチラッと見る。


その時に、一瞬斎藤くんと目が合う。


「まりさん。俺は毎日、反省の日々です。優真にも会いたいです。さっきの会話は今朝ですか?本当にバカだなと思いました。一度会社以外で会って話しませんか?」


返信をする。


「養育費はしっかり払ってくれているので、雅樹さんが希望したら優真には会わせます。でも、よりを戻す事は、一切考えていません。浮気相手とお幸せに。あと、早目に離婚届けを提出したいのでよろしくお願いいたします。ここは会社です。公私混同はご遠慮下さい」


斎藤くんがパソコン越しに、黙って私を見ているのがわかる。


しばらくして雅樹が戻って来た。


私を見る。


そして仕事を始める。


私が復帰にしてから、雅樹の声って余り聞いていない。


前はもっと牧野さんとかと話していたのに。


不倫してから、周りの人達も雅樹と少し距離を置いている様に感じた。


でも自業自得だよね。





No.302

立花さんが本社からの用事で支社に来た。


「田中さーん!加藤さーん!」


立花さんが手を振りながら私達のところに来た。


「加藤さんが戻って来たのは聞いたよー!お帰りなさーい!」


「ただいまですー」


懐かしい!


久し振りの3人集合。


牧野さんが「この3人が集まると、色々思い出すなー」と言って笑顔で見ている。


斎藤くんも雅樹も見ている。


3人、また隅っこに移動してこそこそ話。


立花さんが「長谷川さんと離婚したんだって?びっくりしたよ」と言って来た。


「厳密に言うと、まだ離婚届は出してないので、戸籍上はまだ夫婦ですが、今は別に住んでます」


「あんなにラブラブだったのにねー。何か残念だけど、前を向いて頑張ろう!」


「ありがとうございます」


「やりにくくないの?」


「私は大丈夫です。ただ長谷川さんはやりにくそうです」


「だろうねー。千葉さんも心配していたよ?」


「お礼を言っておいて下さい」


「ところでさ、今朝ね、更衣室で加藤さんに喧嘩売る総務のやつがいてね」


そう言って、こそこそと田中さんが立花さんの耳にイヤホンをつける。


今朝の会話を立花さんが聞いている。


「何これ!?」


つい声が大きくなる。


3人一緒に後ろを振り返る。


男性陣が皆こっちを見ている。


また男性陣に背中を向けて、こそこそ話。


「女ヤバくない?」


「そう!こんなやつに浮気されたんだよ?長谷川さんもバカだよねー」


「色々あったんですよ」


「でもさ、加藤さん、元彼女に刺されても長谷川さんと仲良かったのに、よっぽど許せなかったんだね」


「優真が危ない時に合コンみたいなのに参加して、妊娠中に他の女と会っていて、一回許して、もうしない!女とは切った!とか言ってたのに切れてなくて、もう無理だって思いました」


「妊娠中の浮気って許せないよね。わかる。それでも一回許した加藤さん、偉いわー」


「でも無理でした」


「でも、今は優真くんがいるし、何かあったら私も田中さんもいるから、加藤さん頑張って行こうね!」


「ありがとうございます」


「ママ友会やろ!みんなママなんだし、子供同士会わせたい!」


「いいですね!」


やっぱりこのメンバーと話していると楽しい。








No.303

その日の夜。


私と優真で、斎藤くんの家に来ていた。


斎藤くんがピザを頼んでくれて、3人でピザを食べる。


「優真くんはピザ好きか?」


「うん!大好き!だって美味しいから!」


「そうだね、美味しいよね」


「パパも好きだよ!パパね、おしごといそがしくていないんだ。でもママがいるから寂しくないよ!」


「そっか」


斎藤くんが答える。


優真は口の回りがケチャップで真っ赤になっている。


「優真!お口拭こうか」


ティッシュを渡すと、自分で口を拭く。


でも取りきれていない。


斎藤くんが拭いてくれる。


シャワーを借りる。


優真と一緒に入り、一緒に出る。


優真がすっぽんぽんの状態で居間に行く。


「優真!どこ行くの!まだだよ!パンツとシャツ着るよ!おいで!」


優真が脱衣場に戻って来た。


シャツとパンツを着せる。


私もTシャツとスウェットの下をはき、居間に向かう。


「何かいいね。優真くんが素っ裸でこっち来た時は面白かった(笑)」


「ごめんね」


「いいんだよ」


眠そうな優真。


斎藤くんが布団を敷いてくれて、そこで寝かし付ける。


優真は眠かったのか、すぐに寝た。


居間にいた斎藤くん。


「優真、寝たよ」


「早いね」


「よっぽど眠かったみたい」


「なぁ加藤」


「なに?」


「今日、来てくれてありがとう」


「どうしたの?」


「嬉しかったから」


斎藤くんが隣にぴったりくっついた。


キスされた。


電気を消され、その場で押し倒された。


薄明かりの中、斎藤くんの顔が真上にある。


「俺、浮気しない自信あるよ?だって、本社時代から、ずっと加藤の事が好きで今の今まで何年も加藤を思い続けているんだ。俺は長谷川さんみたいに、加藤を悲しませる事は絶対にしない。俺の彼女になってよ」


「…離婚が成立したらね」


「それでもいい。彼女になって」


「…はい」


「もう加藤とする事はないと思っていたけど、またしてもいい?」


「…うん」


またキスされた。


首筋にキスされた。


「あれ?そういえば今日はネックレスしてないね」


「うん。いいの」


そのまま服を脱がされた。





No.304

斎藤くんは、雅樹と違う優しさで私を愛してくれる。


そして良くしゃべる。


「挿れるよ?…あぁ…加藤の中って、すごいあったかくてすごい気持ちいい…」


腰を動かす。


「俺、こんなに幸せな気持ちになるSEXって加藤が初めてだよ。本当に好きな女とのSEXってこんなにいいんだ…」


「私も…」


「ねぇ、もし子供が出来たら生んでくれる?」


「うん」


「じゃあ、中で出していい?」


「うん」


激しく突いてくる。


腰を振りながら「ヤバい、出る。中でいい?」と言う。


「あぁ…うん、中に全部出して」


「出すよ!いくよ!」


腰の動きが止まり、ぐっと奥に腰を突き出す。


「はぁ…全部奥に出しちゃった」


そしてキスをしてきた。


「最高に幸せだったよ」


「私も」


「このまま、ここに住んじゃえよ」


「そういう訳にいかないよ」


「だって俺の彼女だよ?ずっと一緒にいたいじゃん」


「まだ長谷川だもん」


「いつ離婚するの?」


「今月中には離婚届けを出す予定」


「じゃあ出したら、こっち来いよ」


「…優真を会わせるのに、長谷川さんと会わなきゃいけないけど」


「優真くんの父親なんだから、それは別にいいんじゃね?」


「理解してくれるなら」


「普通に「今日、優真を会わせに行く」って言ってくれれば全然大丈夫。だって会わせるだけでしょ?問題ないじゃん」


「ありがとう」


「じゃあ決まりだな。それまでに部屋を片付けておくよ。それとも、広いところに引っ越す?俺、そろそろ引っ越ししようと思ってたから丁度いい」


「でも…」


「加藤が仕事に育児に頑張っているのを見て、俺も何か出来る事がないかなぁ?と思って、色々考えてたんだよ。そしたら俺が加藤と優真くんと一緒に住めば、少しは加藤の負担が減るんじゃないか?って思った。金銭的にも精神的にも。もっと俺を頼れよ」


「…ありがとう」


「頑張り過ぎると疲れてしまうぞ。俺で良かったらずっと側にいるから」


今は心の支えになっているのは間違いない。


斎藤くんの優しさに涙が出る。


雅樹がいなくなった心の隙間は、斎藤くんでいっぱいになっていた。







No.305

雅樹と優真を会わせる約束をした日曜日。


私は、住んでいた買った家に行った。


ちょっと配置は変わったけど、他は余り変わらない。


前に比べて、物は多少雑然としていた。


優真は久し振りのパパに喜ぶ。


雅樹も、久し振りの我が子に嬉しそう。


庭先で2人で楽しそうに遊んでいる。


私はちょっと離れた場所で2人を見守る。


軽く部屋を見回すが、女の気配はない。


寝室に行って見ても、女を連れ込んだ形跡もない。


「別れたのかな?」


今日は離婚届けをもらう約束もしている。


優真が汗びっしょりになって居間に戻って来た。


「おしっこしたい!」


一緒にトイレに行く。


掃除はしてある。


雅樹もそれなりに掃除はする。


トイレが終わると、また庭に出て雅樹と遊ぶ。


雨が降って来た。


雅樹と優真は一緒に居間に戻って来た。


「優真!汗すごいよ?お着替えしよう?」


そう言うと「一緒にシャワーしてきていいか?たまには優真と入りたい」と言う。


「…いいよ」


「よし、優真!パパとシャワーするか!」


「うん!」


「あっ、これ優真の着替え」


私は雅樹に優真の着替えを渡す。


「オッケー」


雅樹は優真の着替えと自分の着替えを持って、優真と一緒にお風呂場に行く。


冷蔵庫を開ける。


余り食料は入っていない。


麦茶と缶コーヒーが何本かと、ちょっとした調味料、玉子とコンビニの惣菜が何個かしか入っていない。


野菜室は、じゃがいもと玉ねぎとトマトしか入っていない。


本当に女と別れた?


懐かしい台所。


余り調理した様子もない。


たまにはカップラーメンでも食べているのか、やかんがコンロの上に置いてある。


このやかん、デザインが気に入って買ったやつだな。


使っていた愛用していた鍋もそのまましまってある。


良く使っていたお皿、スプーンとかももそのまま。


この家を買った時に買った食器棚。


あの時は、こんな日が来るなんて思わなかった。


あんなに楽しく選んでいたのに。


ずっと雅樹と一緒にこの家で暮らす予定だった。


幸せが続くと思っていた。


雅樹が1人暮らしの時からずっと使っているソファーにテーブル。


見ていたら色んな想いが込み上げてしまい泣いていた。



No.306

雅樹と優真がシャワーから上がった。


泣いている私を見て、優真が「ママ、どうしたの?お化けでも見たの?」と言って、私の側に来た。


「何でもないよ!」


私は優真を抱き締めながら涙が止まらない。


「ママ?」


「ごめんね、優真!ごめんね」


雅樹は黙って泣いている私を見ている。


そして「優真、ちょっとママとパパ、お話しするから、こっちでテレビみてようか?」と言って、テレビをつけて、置いていった優真の大好きな仮面ライダーのDVDを入れた。


優真は早速DVDをみている。


しゃがんで泣いている私に「まり」と言って、私の背中をさする。


「ごめん、まり」


「…」


「俺、本当に女とは切った。まり、本当に俺はバカな事をしたと心から反省したんだよ。まりが会社に戻って来て、田中さんと楽しそうに仕事して、立花さんが来た時に3人固まって話をしているのを見て、まりと付き合っている頃を思い出した。あんなにまりの事が大事で大好きで、優真が出来た時もあんなに喜んでいたはずなのに、俺の過ちでこんなにまりを苦しめてしまった。もう2度と浮気はしないと言っても信じてもらえないかも知れないけど、もう一度だけチャンスが欲しい。まりのために、優真のために頑張るから」


黙る私。


「俺、一生かけてでも信頼を取り戻す様に頑張るから。本当に大事な人を裏切る事は絶対にしない。だから戻って来てくれないか?」


「でも私、もう雅樹とは出来ない」


「それでもいい」


「そしたらまたやりたくなって他に女作るじゃん」


「二度と他に女は作らない」


「でも前は一回許して、またすぐに裏切った。信用出来ないし、もう雅樹に愛情はないの」


「今すぐに信用してもらうのは無理なのはわかっている。これから信用してもらえる様に死ぬ気で頑張るから見ていて欲しい」


真剣な眼差しで話す雅樹。


気持ちが少し揺れる。


今、斎藤くんが支えになっている。


でも、雅樹の事をもう一度許そうと思っている私もいる。


雅樹と戻っても、雅樹とする事はないと思う。


でも、夫婦なんだよな。


「…ちょっと時間を下さい」


「いつでもうちに来いよ。メールでいいから連絡ちょうだい。ご飯用意して待ってるから」


「…わかった」





No.307

私は、どうしたらいいんだろう。


優真の事を考えたら、雅樹の元に戻るのがいいのかもしれない。


でも今、私の今の気持ちは斎藤くんにある。


月曜日、仕事でパソコンを見ながら色々考えていたら、マスク姿の雅樹がポンと私に缶コーヒーを持って来てくれた。


多分、頭が煮詰まった顔をしていたのだろう。


「飲みなよ」


「ありがとうございます。頂きます」


そう、私の頭が煮詰まるとコーヒーを飲むのを覚えていてくれた。


斎藤くんは黙って見ている。


日曜日に雅樹と優真を会わせに行くのは伝えたが、よりを戻したい話をされた事は黙っていた。


コーヒーを飲みながら「よし、まずこの仕事をやってしまおう!仕事仕事!」と気持ちを切り替え、パソコンをみる。


雅樹も斎藤くんも、必要以上の事は話さない。


特に斎藤くんはバレない様にすごく気を使っているのがわかる。


昼前に取りかかっていた仕事が終わった。


だいぶ仕事もスムーズに捗って来た。


昼休憩。


田中さんとお弁当。


「加藤さん、何か今日は疲れているみたいだけど大丈夫?」


「大丈夫です。実は、昨日長谷川さんと息子が会う日で久し振りにプライベートで会ったんです」


「うん」


「そしたら、女とは切ったからよりを戻したいと言われまして。一生かけて死ぬ気で信用してもらえる様に頑張るから!もう一回チャンスが欲しいって、真剣に言ってて…」


「戻るの?」


「ちょっと時間を下さいって言いました。はい、わかりました、戻りましょうっていう訳にもいかず」


「そりゃそうでしょう」


「でも、一応はずっと夫婦でやって来ていて…何て言うか、優真のパパでもあるし、もう長谷川さんに気持ちはないけど…優真のために戻った方がいいのか、それとも優真と2人で頑張って行くか悩んでまして」


「本当に女と切れたのかな」


「昨日、部屋に行った時は女の気配はなかったですけど…」


「確かに、前に不倫している時の長谷川さんは常に携帯を片手にしながら仕事していて、暇さえあれば電話をしに行ってたんだけど、今はそれが一切ないんだよなー。本当に別れたのかもね」


「そうだったんですね」


「あっ、それとも彼女に「嫁が職場に戻って来るから連絡出来ない」って言っているだけかも!」


「有り得ますね」






No.308

「仮に戻ったとしても、多分長谷川さんを疑いながら生活をしていく事になりそうで。そんなのうまくいくわけないですよね」


「あっ、ねぇ、今度の土曜日辺りに突撃してみたら?次の日休みだし、女連れ込んでいる確率高そう!「あれ?連絡してなかったっけー?」とか何とか言って」


「やってみようかな?」


「もし、それで女がいたら戻る必要なんてないし、いなければちょっと様子を見てもいいかも。1つの基準としてね。1回しか使えない手かもしれないから、次の手はまた考えよう!」


「ありがとうございます!やってみます!」


ずるい私は、斎藤くんの事は一切田中さんにも言わなかった。


「どうだったか、月曜日に教えてねー!」


「わかりました!」


「相変わらず仲良いねー」


牧野さんが戻って来て、私達に声をかける。


「加藤さんとラブラブだけど、ヤキモチ妬かないでね(笑)」


田中さんが牧野さんに言う。


「妬いちゃうかもなー(笑)」


牧野さんがそう言って笑う。


「加藤さんが戻って来てくれて、また前みたいに雰囲気が明るくなった気がする。今まで結構静かだったから、このエリア」


牧野さんの部署と事務のエリアを囲う様な仕草をする。


「長谷川の不倫の一件で、ちょっと色々あってね、雰囲気余り良くなかったんだ」


田中さんが隣で頷いている。


「俺達も長谷川に裏切られた気持ちになってね。加藤さんとの事を知ってるだけに。だから加藤さんが心配だねって、こいつとも話していたんだ。でも、加藤さんに長谷川の不倫の事を言っていいのかどうなのかわからなくて…そこで、あの復帰前の書類忘れた件での加藤さんからの電話。これは何とかしなきゃ!と思って呼び出したんだ」


「そうだったんですね。ご心配おかけして申し訳ないです」


斎藤くんが戻って来た。


「なぁ、斎藤も思うだろ?」


「何がですか?」


「加藤さんが戻って来てから、雰囲気変わったよな」


「あー。変わりましたねー。明るくなりました。毎朝見る漫才は面白いですし(笑)」


朝からうるさい私と田中さんに、渋谷くんの冷静な突っ込み。


「同級生から見た加藤さんはどう?変わった?」


田中さんが斎藤くんに話を振る。


雅樹の時もそうだけど、知らないとはいえ、こうしてたまに爆弾を落とす。








No.309

斎藤くんは「うーん、どうですかね?こんな感じじゃないですかね?高校生の時も、部活一生懸命頑張ってましたし。あっ、でも見た目は本当に地味でした(笑)今はだいぶ垢抜けましたけど」と言って笑っている。


田中さんが「そうなんだー!」と言って笑っている。


「斎藤くんって、今彼女いないんでしょ?いい顔しているのに何でなんだろう?」


ドキッ。


「いやー、田中さん!そんないい顔じゃないですよー!良くいる日本人顔ですって。田中さんって目が悪くなったりしてません?」


「メガネかなー」


「そうかも知れませんよ?」


「おかしいなー、視力はいいはずなんだけど」


「仕事に育児に頑張っているから疲れてるんですよ!ご家族でゆっくり温泉でもどうですか?」


「いいねー!たまには温泉行って、ゆっくりしたいねー!」


かわすのうまいな。


土曜日。


私は田中さんの作戦を実行する。


私は「子供の迎えがあるので帰ります!」と
定時で退社し、真っ直ぐ幼稚園に優真を迎えに行き、一旦帰って、昨日のうちにあらかじめ作っておいた晩御飯を仕上げる。


時計を見ると19時過ぎ。


もう帰ってるな。


私は優真と一緒に、作ったご飯を持って雅樹のうちに向かった。


雅樹の車はある。


居間の電気はついている。


間違いなくいるのを確認してから、玄関のインターホンを優真に鳴らしてもらう。


優真が背伸びしてインターホンを押しているため、モニターには誰も映ってない。


「はい」


雅樹の声がした。


「パパ!」


「優真!?」


モニターが切れて、あわてて雅樹が玄関を開けた。


仕事から帰って来て、そんなに経ってないのか、まだネクタイがないワイシャツ姿。


「あれ?今日来る日だっけ?」


「連絡してなかったっけ?今日、仕事終わったら行くよってメールしたと思っていた」


「あれ?来てなかったよ?」


「ごめん、それなら送ったつもりになっていたのかも。お邪魔してもいい?」


優真が開いた扉から、玄関の中に入る。


私も後から入り玄関を見る。


女の靴はない。


慌てている様子もなく「さっき、コンビニ経由で帰って来たばかりだから、ちょっと散らかっているけど…」と言って迎えてくれた。


今のところ、怪しい様子はない。



No.310

テーブルの上には、コンビニのお総菜が袋に入ったまま置いてある。


「今日、ご飯作ってきたんだけど一緒に食べる?」


「作って来てくれたの?俺、ずっとコンビニとかスーパーの惣菜ばかりだったからめちゃくちゃ嬉しい!久し振りに、まりのご飯が食べられる!着替えて来る!」


そう言って、ダッシュで階段をかけ上がる。


すぐに戻って来た。


私は、タッパーに入れて持って来たご飯をお皿にあけてチンをした。


「たいしたものじゃないけど」


優真はもう食べていた。


雅樹は「まり、ありがとう…久し振りのまりのご飯…家族でのご飯…嬉しいよ」と言って涙を流す。


「あれ?パパないてるの?」


優真は不思議そうに雅樹を見る。


「ママのご飯が美味しくてね。優真と一緒にご飯食べられるのが嬉しくてね」


「ママのご飯おいしいよ!優真はママのカレーがすき!」


「パパもだよ」


どうやら本当に女と別れた様子。


私がいる間は、一切携帯を触らなかった。


ご飯の後、台所で洗い物。


雅樹と優真は、一緒に怪獣ごっこをして遊んでいる。


雅樹も優真も楽しそう。


片付けも終わった。


「雅樹、余ったご飯、お皿に移して冷蔵庫に入れておいたから、明日にでも食べて」


「ありがとう。まり、今日泊まっていかないか?」


優真が「今日、パパと寝たい!」って言って騒いでいる。


「泊まりの道具、持って来てないよ?」


「じゃあ、持って来る?」


「…今日は帰るよ」


「まりが嫌なら、何もしないから。優真もこう言ってるし、久し振りに家族3人で寝ないか?」


「…わかった。取りに帰る。優真をみていて」


「わかった」


私は、優真と私の着替えを取りに一旦家に帰る。


荷物をまとめて、車に乗り込む。


携帯を見ると、斎藤くんからメールが来ていた。


「お疲れ様、今日は忙しいみたいだから、また連絡します」


着信履歴を見たら、2回程斎藤くんから電話が来ていた。


斎藤くん。


ごめん。


今日は雅樹のところに行きます。


返信をする。


「ごめんなさい。今、気付きました。また連絡します」


すぐに返信。


「わかったよ。おやすみなさい」


優真が待ってるから、急いで雅樹の家に向かう。






No.311

家に着き、玄関の鍵を閉めて居間に向かう。


怪獣ごっこで汗だくの2人。


「ママー!パパとおふろに入る!」


「わかったよ」


私は持って来た優真の着替えをカバンから取り出す。


私もその間に着替える。


和室に入り、押し入れを開ける。


私がゴミ袋に突っ込んでいたアルバムがきれいに戻されていた。


布団を2組、和室に敷いた。


今日はここで寝よう。


2人がシャワーから出てきた。


「まりも入って来なよ。さっぱりするぞ!」


「ありがとう。入ってくるね」


久し振りのこの家でのシャワー。


私が使っていたシャンプーはなくなっていたけど、雅樹のシャンプーを使う。


何か、懐かしい香り。


雅樹の香り。


雅樹に抱かれている時、いつもこのシャンプーの香りに包まれていた。


シャワーを止めて、鏡の中の私を見る。


そして、太ももの傷を見る。


脇腹の傷を見る。


傷だらけの私。


こんな傷だらけで妊娠線もお腹に残る私より、そりゃ若くてキレイな女の子の方がいいよね。


胸だって私より大きいだろうし。


斎藤くんも、きっと傷だらけでびっくりしただろうな。


好きでこんなに傷だらけになった訳ではないけど。


シャワーから上がる。


洗面台でドライヤーをかけて、居間に向かうと和室から雅樹と優真の話し声が聞こえて来た。


幼稚園であった事を話している様子。


嬉しそうに話を聞く雅樹。


優真が「ママも来たよ!ママ!」と言って、私のところに来た。


優真が「ママ?またここでパパとママと優真で一緒にくらそ?パパがいないと寂しいもん。パパ、いっぱい遊んでくれるしたのしいもん!」と言った。


「優真…」


優真からしてみたら、いきなりパパがいなくなって、ママと2人になった感じだから、すごく寂しかったんだろうな。


パパ大好きだもんね。


「ねぇ!ママ!またパパと一緒にくらしたい!」


「うーん…」


返事に困っていたら雅樹が「パパね、ちょっと悪い事をしちゃったから、怖い鬼さんにね怒られていたの。その鬼さんがいいよって言ってくれたらまたパパに会えるよ!」と優真に言った。


心の中で「鬼って私の事?」と思いつつ聞いていた。



No.312

ずっと遊んでいた優真は、疲れたのか眠そう。


右に私、左に雅樹、間に優真を挟んで優真を寝かせる。


可愛い寝顔。


すぐにぐっすり眠ってしまった。


優真が寝たのを確認した雅樹が、優真を間にしたまま話しかけて来た。


「なぁ、まり」


「なに?」


「今日はありがとう」


「突然みたいになってごめんね」


「いや、いいんだ。もしかしたら女がいるんじゃないか?ってチェックするためにいきなり来たのかと思ったけど、ただの連絡し忘れ
なんだもんね」


なかなか鋭い。


「今日は本当に楽しかった。前は当たり前だったのに、今日は家族の有り難さと楽しさを心から感じたよ」


「そう」


「当たり前が当たり前じゃなくなって、こうして改めてまりと優真の存在の大きさを知ったよ」


黙って話を聞く私。


「久し振りにまりのご飯も食べた。やっぱりまりのご飯は美味しいよ」


「ありがとう」


「やっぱり、離婚はやめてよりを戻さないか?」


「でも、きっと雅樹はこの生活が前みたいに当たり前になった時に、同じ事をするんじゃないか?っていう恐怖はある。ずっと雅樹を疑いながら生活をしなきゃいけなくなるのは嫌」


「今すぐに…とは言わない。考えて欲しい。優真もあーやって言ってたし」


「しばらく別居は続ける」


「…なぁ。まり。もう俺の事を受け入れられなくなっているんだよな?」


「うん」


「他に好きなやつでも出来たのか?」


「どうして?」


「いや、何となく」


「そっか」


「好きなやついるの?」


「どうかなぁ?」


「いるの?」


「私は優真が一番大好き」


嘘ではない。


優真が一番大事で一番大好き。


「2番目は?」


「田中さんかなぁ?」


「そっか、俺、田中さんに負けたのか」


「ごめんね」


ふふっと笑う雅樹。


「やっぱりまりはいい女だよ」


「今頃気付いたの?(笑)」


「キスしたい」


「ダメ」


「キスだけ」


「絶対それ以上するのわかっているからダメ」


「どうしたらキスさせてくれる?」


「私の気持ちの整理がつくまで」


「どのくらい?」


「わからない」


「そっか」


「今日はもう寝よう?」


「うん。おやすみ」



No.313

朝早かったから眠たいんだけど眠れない。


雅樹も、布団の中でもぞもぞと動いている。


「雅樹、起きてる?」


「起きてる」


「今は何を考えてたの?」


「今日みたいな時間がずっと続いてくれたらいいなーって思って」


「そっか」


ちょっとお互い無言の時間が続く。


「私、ちょっと水を飲んでくる」


「俺も」


2人で布団から出る。


優真はぐっすり眠っている。


薄明かりの中、台所で2人で水を飲む。


台所にコップを置く。


すると雅樹が私を抱き締めた。


「まり。やっぱり俺はまりが一番大好き」


「そのまなっていう子にも同じ事を言ってたんでしょ?」


「違うまり。本当にまりが俺にとって一番の女だよ」


「信用出来ない」


すると雅樹が腕に力を入れた。


「愛してるのはまりだけなんだよ。本当なんだよ…」


無言の私。


でも前なら、こうして抱き締める以前の話だった。


触られるのも苦痛だった。


こんなに抱き締められたら、気持ちが雅樹に戻ってしまいそうになるという事は、少しは雅樹の事を許し始めているのかな。


こんなにフラフラした気持ちでいいのかな。


私も離婚していないのに斎藤くんとやった、という雅樹への罪悪感はある。


「ねぇ雅樹?」


「なに?」


「キスまでなら許してあげる」


「本当に?」


「それ以上はダメだけど」


雅樹は私をまた再びギュッと抱き締めてからキスをした。


何度も何度もキスをしてきた。


「まり。愛してる」


そう言ってキス。


何十回とキスをした。


雅樹の下半身に変化が起きているのはわかるが、それ以上はしてこない。


「眠れる?」


「まりに許してもらえるまでは我慢する」


「そっか」


「うぅ…でもまりを抱きたい」


「我慢するんでしょ?」


「…我慢する」


「じゃあ寝ようか?」


「…うん。意地悪しないで!頑張って我慢するから!もうちょっとだけキスしていい?」


そう言ってキスをしてきた。


首筋にも何回もキスをしてきた。


「そこはダメ」


「だってキスはいいって言ったじゃん」


「私が首筋弱いの知っててキスしたでしょ?」


「俺も我慢してるから、まりにも我慢してもらおうと思って」


「…意地悪」


No.314

結局、優真が寝ている横で雅樹とSEXしてしまう。


雅樹は私が気持ち良くなる場所は知っている。


ガンガン責めて来る。


何度もいかされる。


「やっぱりまりとのSEXが最高だよ」


「あぁ…雅樹」


体は雅樹とのSEXを覚えている。


感じまくる。


体は正直だ。


「あぁ…出ちゃうよまり」


好きな雅樹だ。


中に出す。


終わってから「月曜日、会社で会うの、何か恥ずかしいね」と雅樹が言ってきた。


「そうかもね。ちょっと照れるかもね。そうだ、マスク取れば?」


「取るかな」


「どうしてマスクしてるの?」


「表情を見られたくないから」


「だろうと思った」


「まりが戻って来た初日からしている」


「バレバレじゃん」


「だって、まりが戻って来てどんな顔をすればいいのかわからなかったから」


「確かにねー。私が戻ってすぐの時の雅樹の目、怖かったもんなー」


「どうしたらいいのかわからなかったんだよ」


「月曜日からマスク取る?」


「取る」


「また前みたいに楽しく仕事出来たらいいね」


「そうだね。ありがとう、まり」


キスをされた。


翌朝。


優真は寝癖をつけながら、朝から仮面ライダーに夢中。


雅樹は、優真と一緒に仮面ライダーを見ている。


「かっこいいねー!優真も大きくなったら仮面ライダーになる!」


「そうか!優真ならなれるかもな」


冷蔵庫の中にある玉子で目玉焼き、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁、コンビニで雅樹が買って来ていた野菜サラダをバラバラにして、トマトを切って乗せた。ご飯は炊いた。


「優真!雅樹!朝御飯食べるよ!」


雅樹は、この簡単な朝食を見て「懐かしい…」
と感動している。


「冷蔵庫にあるものだったから、これだけだけど」


「十分だよ!ありがとう」


何か、結婚当初みたい。


幸せだったあの時みたいな時間が流れる。


優真がお茶をひっくり返した。


「あららら、ちょっと待って!」


ふきんを持ってきて、雅樹にパス。


優真は「ごめんなさい」とシュンとしている。


雅樹は、優真の頭を撫でながら「次は気をつけろよー」と優しく言う。


今、すごくいい家族の時間。












No.315

昼御飯は、近くのファミレスに行く。


私達と同様、家族連れの人達がたくさんいた。


何より優真が楽しそう。


その後にショッピングモールに行き、子供向けの遊び場で優真を遊ばせ、優真の服を買い、ちょっとプラプラして、雅樹が住む家に帰って来た。


私が「今日は楽しかった。ありがとう」と言うと、雅樹は「こちらこそ」と笑顔。


優真が「パパとおわかれ?」と聞く。


雅樹が「ごめんな、優真。またパパと遊ぼう!」と優真の頭を撫でる。


「パパは、いつになったら鬼さんゆるしてくれる?」


「多分、近いうちに許してくれるよ!だから今日はママと一緒に帰ろうね!」


「パパ!悪さしたらダメだよ!」


その言葉につい吹き出す私。


「ねー、悪さしたらダメだよねー」


私も言う。


雅樹は「もうしないよ。だから鬼さんが許してくれるまで待っててね!」と言う。


「わかった!ちゃんとごめんなさいしないとダメなんだからね!」


口調が私だ。


「はい!わかりました!」


雅樹が笑いながら言う。


雅樹に見送られ、自分のアパートに着いた。


「優真!また明日から幼稚園だから、ママ準備するからね!」


「うん!これで遊んでもいい?」


「いいけど、ちゃんとお片付けしてね」


「はーい!」


優真は早速、おもちゃを引っ張り出して遊んでいる。


洗濯をしながら携帯を見る。


斎藤くんからメールが来ていた。


「長谷川さんと会って来たの?」


斎藤くんに電話をかけた。


すぐに出た。


「あー。やっと電話出来たわー」


「ごめんね」


「長谷川さんと会ってたの?」


「うん…」


「いや、別にいいんだけど。今日、ショッピングモールで見掛けたから」


「そうなの?」


「セールやってたじゃん?スニーカー欲しくて行ったんだよ。そしたら長谷川さんと加藤と優真くんを見掛けた。楽しそうにしてたね。幸せそうな家族に見えたよ」


「そうなんだ…」


「寄りを戻すの?」


「どうして?」


「いや、見ていてそんな気がしたから。優真くん、楽しそうにしていたし。戻るなら戻りなよ。加藤との事は胸にしまっておくから。話くらいならまた聞いてやるぞ」





No.316

月曜日。


優真を幼稚園に送ってから出勤。


今日は、なかなか優真が起きなくて朝からバタバタだった。


会社の駐車場に着いてから一息着く。


「ふぅ。今日も頑張るか!雅樹は今日、マスク取ってるかな?」


そんな事を思いながら、車を降りた。


「加藤、おはよう」


振り返ると、斎藤くんがちょうど車から降りたところだった。


「おはよう」


「ちょっとだけいい?」


「なに?」


「今日の夜、うちに来れる?」


「優真を迎えに行ってからなら…」


「全然それで大丈夫。ちょっと加藤に話があるんだ」


「わかった。じゃあ後で」


斎藤くんは、軽く右手を上げて先に会社に入って行く。


「おはようございまーす」


席に行くと、渋谷くん以外は出勤していた。


雅樹はマスクを外していた。


「あれ?渋谷くん、どうしたんですか?」


「おばあちゃんが亡くなったらしいの」


田中さんが答える。


「あら…そうなんですね」


「今日は2人よー!頑張らないとねー!」


「はい!」


その時に「おはよー!」と言って、立花さんが走って来た。


「おはようございます!」


「おはよー!」


自然と3人、円陣の様に男性陣に背中を向けて、隅っこでこそこそ話。


立花さんが「今日、長谷川さん、マスク取ってるじゃん!」と話す。


田中さんも「そう!しばらくマスクしていたのに。加藤さん、話しなさい」と私に言う。


「土曜日、子供と一緒に長谷川さんの家に行き泊まって来ました」


「えっ?寄りを戻したの?」


「まだわかりませんが、仲は前よりは改善されました」


「長谷川さんとやっちゃった?」


「…はい」


「へぇー、そこまで改善出来たなら、寄りを戻せるんじゃない?」


「でも、やっぱり頭の片隅にある浮気という現実は抜けないので悩んでます。前は触られるのも嫌だったんですけど…まぁ、そんな感じです」


「浮気した事実は消えないからね。でも、やっぱり加藤さんと長谷川さんってどうしてもセットなんだよなー」


「わかる!」


「長谷川さんと加藤さんがいい方向に行くといいね。息子さんのためにも。ごめんね、私本社戻るわ!」


立花さんは「それじゃーねー」と言って、颯爽と帰って行く。


私と田中さんは笑顔で見送る。




No.317

私がトイレの帰りに、雅樹の机にメモをポンと置く。


「昨日、言い忘れてました。来週の土曜日、優真の親子遠足があります。休み申請お願いします。次回、優真に会えるのはこの日でお願いします」


斎藤くんは、私が雅樹にメモを渡した時にチラっと雅樹の方を見たが、そのまま仕事をする。


今日は何故かわからないけど、入れ替わりでお客様が来るため、田中さんと2人でお客様にお茶出しをする。


昼休憩。


お客様がいたので、田中さんと別れての昼食。


私が早めに入り、田中さんが遅れて入る。


今日も時間がなかったため、コンビニのおにぎりとカップラーメンのお昼御飯。


斎藤くんが「加藤!奇遇だねー!俺も今日、カップラーメンとおにぎりなんだよ」と言ってコンビニの袋から取り出した。


「気が合うねー」


私が言うと「同級生だから?」と斎藤くんが笑いながら答える。


「一緒に食おうぜー!渋谷!席借りるぞ!」


お葬式でいない渋谷くんに断り、渋谷くんの席に座る斎藤くん。


牧野さんが「同級生同士、仲良く食って!何かいいよね、同級生って。昔の話とかたくさんあるでしょう」と笑顔で言って来る。


「結構ありますよー!渋谷もいたら3人で盛り上がりたいところですけど」


「斎藤くん、結構モテモテだったんですよ?ねー、斎藤くん。バレンタインチョコのおこぼれをもらったら、本命チョコでめちゃくちゃ長いラブレターが入っていて、読んじゃった私がすごい罪悪感でー!」


「高2の時だよなー!次の日、加藤がわざわざ俺に持って来てくれたんですよ。一瞬、加藤からのラブレターだと思いました(笑)渋谷も意外とチョコもらってたんだよなー」


「そうそう!渋谷くんは後輩女子から人気があったよね。いやー!懐かしい!」


牧野さんも雅樹も、そんな話を聞きながら笑っていた。


牧野さんと雅樹と高橋さんはお昼に行く。


田中さんはまだ帰って来ない。


斎藤くんが周りに誰もいないのを確認して「加藤、俺引っ越す事にしたんだ」と話す。


「そうなの?」


「加藤の部屋、そろそろ期限だろ?うちに来いよ。部屋が決まったら合鍵を渡す。昨日は電話であーやって言ったけど無理だわ。心にしまえない。側にいて欲しい。今日、その事が言いたくて。でも夜も来て。あっ、牧野さんが帰って来た。同級生に戻るぞ」


No.318

夜、仕事が終わってから、優真を迎えに行ってから、真っ直ぐ斎藤くんの家に向かった。


斎藤くんの車がある。


前に停めたスペースに車を置いてから斎藤くんに電話をする。


「もしもし、斎藤くん?着いたけど…」


「俺も今帰って来たところ。部屋に来て!」


「今、行くね」


優真を連れて、斎藤くんの部屋に行く。


「入って」


優真が「こんばんは!」と挨拶。


「こんばんは!」


斎藤くんも笑顔で挨拶してくれた。


「優真くん、オレンジジュース飲むか?」


「飲む」


斎藤くんは、オレンジジュースを入れてくれた。


そして「弁当で良かったら食わないか?帰りに買って来たんだ」と言ってほか弁をテーブルに置く。


優真用に、子供向けのお弁当も買ってくれていた。


「お金払うよ?」


「いや、いいよ。弁当くらいごちそうさせてよ」


「ありがとう」


優真がお弁当をうまくあげられない。


斎藤くんが開けてくれた。


「頂きます!


優真はお腹が空いていたのか、もくもく食べている。


「あっ、ママ!これ、前にパパと一緒に食べたやつと同じだね!」


ファミレスで食べたお子さまランチについていたプリンと同じものがついていた。


「そうだね」


斎藤くんはちょっと寂しそうな顔。


「優真くんはパパ好きか?」


「うん!パパね、今ね、悪さして鬼さんにね、怒られてるから会えないの。ちゃんとごめんなさいするまでダメなんだって」


斎藤くんが吹き出す寸前の顔をしている。


「そっか。パパ悪さしたのか、ダメだね」


「うん、ちゃんとごめんなさいしないとダメなんだよ!パパがね、ちゃんとごめんなさいしたらまたパパとママと一緒にすめるよって言ってた」


斎藤くんが「優真くんはパパと住みたい?」と聞く。


「うん!パパ、一緒に遊んでくれるし優しいもん!」


「そっかー」


斎藤くんはお弁当を食べ始めた。


私は、優真と斎藤くんの話を聞きながら食べる。


優真が「ママ…ごめんなさい。のこしちゃった。もったいないオバケくる?」とシュンとしている。


斎藤くんが「多かったの?」と聞く。


「うん。幼稚園でものこしちゃったから、もったいないオバケ来るよね」


泣きそうな優真。








No.319

斎藤くんが「じゃあ、これ、おじさんが食べてあげるから、もったいないオバケは来ないよ?」と優真に言うと「ほんと?」と顔が明るくなる。


「大丈夫。もったいないオバケが来てもやっつけてあげるから!」


「うん!」


「そうだ、優真くんって仮面ライダー好きなんだよね?映画あるけど見る?」


「みる!」


「じゃあ今、おじさんが用意してあげるから待ってて!」


斎藤くんは、テレビをつけてDVDをセットしてくれた。


「ママ!みていい?」


「いいよ」


早速優真は仮面ライダーに夢中になっている。


「中古なんだけど、優真くんが好きだって言ってたから前に買っておいた」


「ありがとう」


「優真くん、パパ大好きなんだね」


「パパとしてはいいパパだと思う。やっと出来た子供だから、可愛いんだよね、きっと」


「優真くんが言ってた鬼って加藤の事?」


「そうなんじゃないかなぁ?長谷川さんがそう言ってた」


「加藤は戻りたいの?」


「わからない」


「この間って長谷川さんのところに泊まったの?」


「…うん」


「じゃあ、まだ夫婦なんだし、やる事はやったんだよね」


「…」


「そうだよなー、夫婦だもんなー。本当は俺、加藤をこうして部屋に誘っちゃダメなんだよなー。長谷川さんと出来るなら戻っちゃえば?」


「でも、まだ信じられない」


「俺も今は加藤の不倫相手になるけど」


「そうなるよね」


「俺、何かこのまま不倫相手でもいいかなって思って来た。それでも加藤といれるならいいかなって。でも…ヤキモチ妬くよな。俺は日陰の存在だから、堂々と加藤とデート出来ないし」


「…」


「会社では同僚として接するよ?大丈夫」


「私、斎藤くんがいたから頑張って来れた。今の心の支えは斎藤くんなの。斎藤くんの事が好きなの。優真の事は大事。でも斎藤くんも大事なの。長谷川さんは優真のパパ、これだけなの。優真のパパとして、これからも付き合いはあるけど…でも…家族として一緒にいるのは悪くないかもって思っている私もいて…」


何かすごい勝手だよね、私。


斎藤くんとも一緒にいたいけど、雅樹とも家族でいたいって言っている。


許されないよね。


人として。






No.320

「加藤も俺の事を好きでいてくれてるの?」


「うん」


「長谷川さんに気持ちは?」


「前みたいな気持ちはない。浮気された直後の様な嫌悪感はなくなったけど」


「長谷川さんと俺、どっちが好き?」


「斎藤くん」


「じゃあ一緒に住もうか?」


「えっ?」


「長谷川さんと離婚しなよ。優真くんのパパだから会いに行くのはいいよ。でも離婚しなよ。付き合っている時は良かったけど、結婚相手としては合わなかった。それだけだよ。優真くんの事を考えたら離婚を躊躇するのはわかるよ。でも、パパには変わらないと割り切れれば、踏み込めるよ」


「…」


「加藤は優真くんのママだけど、加藤まりって言う1人の女性でもあるんだよ。あっ、長谷川か。まぁいいや。ママである加藤も輝いているけど、1人の女性としてもいい女だと思う。シングルマザーになっても、優真くんは今は寂しいかもしれないけど、大きくなった時に絶対わかってくれる。長谷川さんを疑いながら生活するより、適度に離れた方がいい事もある。

母親である以上、母親であれ、母親が女になるな、子供を生んだなら子供を第一に、離婚したなら自己責任、子供に寂しい思いをさせるな。そうかもしれない。でも、考え方も人それぞれ。1人で頑張っている人もたくさんいるけど、頼れる人がいたら頼っていい。男にのめり込んで、子供を虐待とか放置は論外だけど、加藤は優真くんの事も一生懸命考えている。だから、長谷川さんとの離婚も躊躇しているんだろ?」


黙って話を聞く私。


「俺の場合と状況が違うから何とも言えないけど、離婚したら気持ちは変わる。そしたら視野が狭くなっている今よりは、少しは変わるかもよ?やっぱり長谷川さんがいいと思えば戻ればいいし。まぁ、後は決めるのは加藤だけど」


「…そうだね」


「あくまでも俺の持論ね。世間的に見たら、不倫相手の都合がいい解釈だと思われるだろうけど」


「…」


「今の部屋の退去期限もあるし、俺、部屋を決めて来るよ。ここだとやっぱりちょっと狭いもんな。俺ももう少し広い部屋に引っ越したかったし。ここ、離婚してからずっと住んでるし、いい機会だよ」


優真はずっと仮面ライダーに釘付け。


この時に、私の携帯が鳴る。


圭介からだった。




No.321

「ごめん、弟から。出ていい?」


「いいよ」


私は電話に出る。


「もしもし、どうしたの?」


「ねーちゃん、長谷川さん、やらかしちゃったねー」


「誰から聞いた?」


「誰からも聞いてないけど見た」


「いつ?」


「結構前。最近ではない」


「どこで?」


「街で、長谷川さんを見掛けたから声をかけたら、ねーちゃんじゃない女といた」


「そうなんだ」


「街中のホテルから仲良く出てきたから、わざと声をかけた。びっくりした様な顔をしていたよ。俺は友達と飲みに行ってて、居酒屋から2件目に行く途中だったんだよねー」


「うん」


「一生懸命言い訳してたよ?覚えてないけど」


「そうなんだ」


「でも、ねーちゃんにこんな事言えないじゃん?だから黙ってた」


「そっか」


「でさ、この件でしばらく長谷川さんとは連絡していなかったんだー。そしたらさっき、長谷川さんから連絡があったんだ。ねーちゃん、別居してるんでしょ?優真も一緒に」


「そう」


「俺、言っちゃったんだ。ねーちゃんと離婚してほしいって」


「えっ?」


「何かさ、話を聞いていたらねーちゃんのお腹に優真がいた時からなんでしょ?寂しかったとか何とか言ってたけど不倫していい理由にならないよね。で、ねーちゃんが一回許しても女と切れてなかったんでしょ?その時点でヤバいじゃん。あーあ、俺、長谷川さん、そんな事をする人だと思わなかったからショックだわー」


「ごめんね。圭介にまで心配かけて」


「ねーちゃん、もっとしっかりしなよー」


「ごめん」


「で、前の職場に戻ったんだって?」


「うん…ねぇ圭介、あんたはどこまで聞いてるの?」


「多分全部、長谷川さんから聞いた。長谷川さんも誰かに話を聞いてもらいたかったのかなー。でも俺、嫁の弟だぞ?ねーちゃんの味方しちゃうよね」


「そっか」


「離婚!離婚!長谷川さんはやむ無しみたいな感じだったから、離婚には応じてくれるんじゃね?」


「そっか」


「あと、ねーちゃんに伝えなきゃいけない事がある」


「なに?」


「父さん、癌だって。抗がん剤治療が始まるよ」


「…え?」


No.322

「肺がんだって」


「うそ…」


「何かおかしいと思って病院に行ったら、癌だったらしいよ。もう少しで入院になるから、仕事終わってからでも優真連れて行ってあげたらいいよ。あっ、親には長谷川さんとの事は言ってないから」


「わかった」


「ねーちゃん。今、大変な時に父さんの癌がわかって、精神的にきついかもしれないけど、父さんまだ元気だし、きっと良くなると思うから、余り気落ちしないで!優真の前だけでも明るいママでいろよ。寝たら泣いてもいいから」


携帯を持つ手が震えているのがわかる。


「…うん、ありがとう」


「長谷川さんに父さんの癌の事は、一応伝えてはあるから連絡行くかも」


「わかった」


圭介との電話を切る。


斎藤くんが「何かあったの?」と聞いてきた。


「お父さん、癌だって言われた」


「えっ?」


「肺がんだって。もう少しで抗がん剤治療で入院するって…弟が長谷川さんには伝えてあるから連絡行くかもって…」


「マジか…」


「あと、弟が飲みに行っている時に長谷川さんと女が街中のホテルから出てきたのを見て、わざと声をかけたら、色々言い訳してたって。で、さっき長谷川さんから連絡があって全部聞いたから、離婚して下さいって言ったって。長谷川さんもやむ無しみたいな感じだったから、今なら離婚に応じてくれるかもって言ってた。あと心配してくれてた。余り気落ちしないで、優真の前では明るいママでいろよって。寝たら泣いてもいいからって…」


「いい弟さんだね」


「どうしたらいいんだろう…お父さんが癌…」


「今は癌も治る時代じゃん!絶対加藤のお父さんなら乗り越えてくれるって!」


「そう願いたい」


「明日、優真くんを連れてお父さんに顔を見せて来いよ」


「うん」


優真が「ママ、眠たくなってきた」と目をこすっている。


もう21時半になっていた。


「優真くん、そろそろ帰ってママと寝ようか?」


「お布団に入りたい」


「優真、ごめんね、眠たいね、帰ろうか?」


「うん」


斎藤くんが優真を抱っこしてくれて、車に乗せてくれた。


「ありがとう」


「気をつけてな」


駐車場で斎藤くんに見送られて自宅に着く。


頑張って優真を抱っこ。


優真は眠いからか不機嫌。


着替えだけして布団に入るとすぐに寝た。




No.323

斎藤くんに電話をする。


「今日はありがとう」


「優真くんは寝た?」


「布団に直行だった(笑)」


「加藤、大丈夫か?」


「優真いるし大丈夫」


「こんな時こそいてやりたい。今から行くから待ってて!」


切られた。


10分後。


「多分、加藤ん家近いと思うんだけど、どこ?」


「近くに何があるの?」


「自販機がいっぱい並んでる、小さな商店がある」


「そこの交差点を右に曲がってから2本目を右に曲がったらうちがある。白い小さな古いアパートで、私の車が停まっているからわかるはず。今降りるね」


電話を切り、斎藤くんが来るのを駐車場で待つ。


すぐに斎藤くんの車が見えた。


ジェスチャーで「ここに停めて」と言うと、斎藤くんは従う。


ジャージ姿でリュックを背負い、片手にスーツを抱えていた。


「ごめんね、押し掛けて」


「大丈夫。狭いけどどうぞ」


「お邪魔します」


物が余り無い部屋。


壁には、優真が書いた「パパとママ」「くま」の絵が張ってあり、ひらがなの表もある。


「優真くん、絵がうまいね」


「ありがとう、喜ぶよ」


優真の様子を見に行くと、ぐっすり寝ている。


「明日も仕事なのに…」


「加藤と一緒にいたい」


「ありがとう」


「シャワー借りていい?」


「どうぞ」


「一緒に入る?」


「入りません」


「だよねー(笑)」


男の人って、一緒にお風呂に入りたいものなの?


お風呂場の電気をつける。


「タオルはここに置いておくね。ごゆっくり」


「ありがとう!」


斎藤くんはシャワーする。


でも、斎藤くんが来てくれて良かったかも。


1人なら泣いていた。


斎藤くんがシャワーから出てきた。


「アヒルと像のじょうろ、懐かしかった(笑)うちにもあったなー」


「100均のやつね」


「そうそう!でも子供は喜ぶんだよね(笑)」


「私も入って来るかな?」


「優真くんを見ているから入って来なよ」


「ありがとう」


私もシャワーに入ってさっぱり。


優真は明日の朝だな。


その日も、斎藤くんとSEXをする。


SEXしている間は、何もかも忘れられた。










No.324

翌朝、斎藤くんがいる事にびっくりしている優真。


「あれー?どうしてうちにいるの?」


「優真くんに会いたくて来ちゃった」


斎藤くんは、優真に言うと喜んでいた。


私は優真とシャワーして、その後に斎藤くんがシャワー。


優真の幼稚園の準備、私は仕事に行く準備。


「こら!優真!靴下はきなさい!あれ?ランチョンマットどこ?あった!優真!これ靴下はいたらお片付けして!」


既に準備が終わっていた斎藤くん。


「格闘だな…」


「そうなの!毎朝こんな感じ。優真!靴下おかしくなってる!」


靴下を直し、幼稚園のスモッグを着せて、リュックと帽子を被せる。


斎藤くんとは、駐車場で別れる。


「私は、幼稚園に送ってから行くから!また会社で!」


「バイバイ!」


優真が斎藤くんに手を振る。


斎藤くんも笑顔で手を振る。


幼稚園に優真を連れて行き、途中のコンビニに車を停めてお昼ご飯。


昨日、斎藤くんと頑張ったからなのか、いつもより起きるのが遅くて弁当作るまで時間がなかった。


「おはようございまーす」


出社すると、田中さんと斎藤くんが話をしていた。


田中さんが「加藤さん!おはよう!」と近付いて来た。


その時に、軽く首を傾げる。


「どうしました?」


田中さんが私と斎藤くんを隅っこに連れていく。


そして小声で「あんた達、同じ匂いがするんだけど…シャンプー?整髪剤?かな。どういう事が説明してもらえるかな?」と言って来た。


斎藤くん、私の整髪剤使ったんだな。


田中さんにバレた。


「まあ、理由はゆっくりと」


斎藤くんが小声で言う。


「加藤さんとそういう関係なの?」


「ちょっと色々ありましてねー」


「その色々を聞いているのよ」


「長谷川さん、こっち見てますよ?また後でゆっくりと」


私と田中さんは雅樹を見る。


雅樹がこっちを見ている。


「長谷川さんにバレると、色々ややこしくなると思うので、後でゆっくりお話しします」


「じゃあ昼休憩に」


席に戻ると田中さんがスーっと私の隣に来た。


「斎藤くんとそういう関係なの?長谷川さんと離婚成立したの?」


「離婚はまだです…」


「ヤバくないの?」


「色々ありまして…」


「みんな、どうしちゃったの?」



No.325

昼休憩。


私と斎藤くんと田中さん以外、席を外したのを確認した後に、お弁当を食べながら田中さんが「さあ!お姉さまに話してごらんなさい!」と言う。


「いつから?」


その問いに斎藤くんが「俺、高校生の時から加藤の事が好きだったんですよ。だから本社で会った時は運命だと思いました。でも、こういう関係になったのは、最近ですよ」と話す。


「でも、まだ加藤さん、離婚していないよね?」


「加藤が長谷川さんの浮気を知った日に、泣きながら俺に電話をくれたんです。俺、加藤に頼られた事が嬉しくて。長谷川さんの奥さんだったから、加藤を好きな気持ちを胸にしまっていたんですけど、我慢出来ずにそうなりました」


「加藤さんもどうして…」


「長谷川さんに裏切られた事は、本当にショックでした。しかも最中の時に違う女の名前を呼ぶとか、もうどうしても無理で…。それまでも何回かですが連絡をしていた斎藤くんを頼ってしまいました」


「加藤さん…」


「斎藤くんのおかげで一回、長谷川さんを許そうと思いました。でもまた裏切られました。その時も色々相談にのってもらって…」


「私に言ってくれれば良かったのに…」


「田中さんに迷惑はかけられないと思って。それまでも色々お世話になって、牧野さんにもたくさん迷惑をかけていたので…」


「でも、籍を抜いていない以上、不倫になるよね。加藤さんは離婚するんだよね?」


「はい」


「うーん…斎藤くんも、加藤さんとそういう事になって、万が一の時は責任取れるの?」


「はい、もちろんです…俺、本気で加藤を助けたくて。確かにちょっと暴走してしまって加藤とそういう関係になっちゃいましたけど、泣いている加藤を放っておけなかったんです。でも俺、加藤が長谷川さんのところに戻るならそれでもいいと思っていました。子供の事を一番に考えて、どうしたらいいのか。一緒に考えて来たつもりです。加藤の事が好きだからこそ、俺は裏方で加藤を少しでも支えていきたいと思っていました。今もです。加藤は今のところのアパートが期間限定で、もう少しで切れるんです。金銭的にも助けてあげたくて、一緒に住む話しもしていて…離婚は多分、もう少しですると思います。そしたらいずれは一緒にやっていきたいと思っています」







No.326

田中さんはずっと「うーん」と唸っていた。


「とりあえず、加藤さんは長谷川さんとの離婚だね」


「はい」


「斎藤くん」


「はい」


「離婚してからにして欲しかったなー。でも、もうそうなっちゃったなら仕方ないから、特に長谷川さんにバレない様にうまくやんなさいよ」


「はい」


牧野さんが「おっ?今日は斎藤、事務と昼か?」と言って来た。


「はい、お姉さまのありがたいお話しを拝聴しておりました」


「あら、嫌だ!私を神扱いにしてくれるの?」


「田中さんは神々しい神っていうより七福神の恵比寿様みたいですよね」


「どういう意味よ!」


「親しみやすいって意味です(笑)」


「体型の事を言われてるのかと思ったじゃないのー(笑)最近、太ったのよー」


「そんな田中さんも素敵ですよ!」


「嫌だ!ちょっと牧野さーん。この子いい子だわー」


会話を聞いて、みんなが笑っている。


土曜日。


優真の親子遠足。


雅樹も有給を取り、一緒に来た。


結構、お父さん達も参加している。


バスに乗り、ちょっと離れた大きな公園に着いた。


クラス毎に別れて、親子でじゃんけんゲームをしたり、親子でビニールシートでボールを運ぶゲームをやったり、楽しい遠足。


朝早く起きて、頑張って作ったお弁当。


雅樹も優真も、美味しいとたくさん食べてくれた。


親子遠足も終わり、一旦雅樹の家に帰って来た。


優真は疲れたのかお昼寝中。


離婚届をもらう。


離婚の取り決めとして、雅樹は養育費は支払う。


優真には月2~3回は会わす。


その時は、私と優真が雅樹の家に来る。


優真の誕生日は一緒に過ごす。


幼稚園のイベントには可能な限り参加する。


離婚をするから、女は自由だけど、私達が来ている時だけは遠慮してほしい。


雅樹も納得をしたため、離婚届をもらう。


「俺、女はもういいや。俺はまりと優真がいれば、来てくれればそれでいいよ。もしかしたら、離婚して離れてみて、お互いに必要に感じる事があるかもしれないし」


「そうだね。それまでにお互いが独身ならね」


「前向きの離婚だもんね」


「そうだね」


「また来るから、さようならではないよ?ただ、籍を抜いただけ。家族であるには代わりないから」


「そうだね」




No.327

「ところで、親父さん、肺がんなんでしょ?」


「うん」


「最後にお見舞いに行きたいだけど」


「母親いるけど」


「病院ならそこまで騒がないでしょ?」


「多分」


「親父さんには本当にお世話になった。こんな結果になってしまったけど、最後にお見舞いに行きたい」


「父親の体調がよくなるまで、離婚の事は言わないで。抗がん剤治療を頑張っている父親に心配かけたくない」


「わかった。優真が起きたら行こうか」


「うん」


「なぁ、まり。今日、泊まっていかないか?長谷川家でいられる最後の夜だから」


「荷物持って来てないよ?」


「親父さんの病院の帰りに取りに行こうか」


「わかった」


優真が起きた。


時刻は16時過ぎ。


1時間位お昼寝をしていた。


「優真!これからママのジジのところに行くよー」


「ママのジジ?病院?」


「そうだよ」


「行く!」


3人で父親が入院している呼吸器科病院に向かう。


「お父さん」


「おぉ、まり。優真!長谷川さんもわざわざありがとう」


「いえ、お義父さん、具合はどうですか?」


「何か、食欲がなくてね」


抗がん剤で、ふさふさだった髪の毛は抜け落ち、落武者みたいな髪になっていたが、癌と闘っている証。


でも子供は容赦ない。


「ジジ、髪の毛なくなってるよ?」


「ジジはね、今、病気と闘っているんだよ」


「お母さんは?」


「今、着替えを取りに圭介と一緒に一旦、家に帰っているよ」


「そうなんだ」


「長谷川さん、まりはちゃんと主婦してますか?」


「はい、いつも家族のために頑張ってくれてますよ」


「そうですか。優真は幼稚園楽しいか?」


「うん!今日ね、遠足でパパとママと一緒に行って来たの!」


「楽しかった?」


「うん!」


ニコニコしながら優真を見る父親。


「今日はお母さん戻る前に帰るよ」


「わかった。じゃあ長谷川さん。また!」


雅樹は笑顔で父親に会釈し、優真はバイバイして帰る。


滞在時間は数分だったけど、母親が来る前にどうしても帰りたかった。


荷物を取りに、私のアパートに向かう。


優真と雅樹は駐車場で待っててもらい、泊まりの荷物を準備して、再び雅樹の車に乗り込む。




No.328

晩御飯はカレーを作る。


初めて雅樹に作った料理がカレーだったから、最後の料理もカレーにした。


「まりのカレー、好きだったな」


「初めて雅樹に作った料理もカレーだったよね」


「そうだね…思い出すな」


「ママ!おかわり!」


「優真!すごいね!まだ食べるの?」


「うん、だってママのカレー美味しいもん!」


「たくさん作ったから、いっぱい食べてね」


優真にカレーを盛る。


「俺もおかわり!」


「はいはい(笑)」


雅樹の分も盛る。


長谷川家、最後の団らん。


でも離婚してもこの家には来るけど。


今日、雅樹の家に行く事は、斎藤くんには伝えてある。


カレーを食べ終わり、私は洗い物、雅樹と優真はお風呂に行った。


その時に斎藤くんに「今日、離婚届けをもらいました。あと今日、泊まって帰ります」とメール。


すぐに返信。


「長谷川さんとやったりする?(涙)」


「どうかなぁ?(涙)」


「まだ夫婦だもんなー。離婚届けを出してからは断れよ」


「今日もしないよ」


「本当かどうか、明日確かめようかな(笑)ま、とりあえず優真くんの近くにいてやれよ。じゃあ、明日戻って来たら連絡よろしく」


「わかった」


携帯をしまう。


雅樹と優真がお風呂から上がる。


私も入る。


もう気持ちは吹っ切れている。


離婚して、雅樹も私も再出発。


会社では会うけど、雅樹も吹っ切れた様子で、だいぶ笑顔で話してくる様になった。


斎藤くんとの事は知らないはず。


今日も和室で優真を挟み、優真を寝かし付ける。


優真が眠りについた。


雅樹が「まり。最後だから…最後に妻としてのまりを抱きたい」と私の隣に来た。


雅樹に気持ちはないけど、家族としての情はある。


私を女にしてくれた雅樹との夫婦としては最後のSEX。


受け入れるしかなかった。


もう昔みたいに猿みたいにする事はないけど、ゆっくりゆっくり、夫婦としての最後のSEXをする。


処女をあげた雅樹。


好きだった時は幸せだったよ。


優真も出来たし、色んな悦びを教えてくれたね。


でも、これで最後。


雅樹も最後だと悟ったのか、最後に出す瞬間の時には私をギュッと抱き締めて「まり。ありがとう」と言っていた。





No.329

終わってから、雅樹が一言。、


「まり。俺以外にSEXした事ある?」


「どうして?」


「何か、そんな気がしたから」


「してたって言ったら?」


「相手が気になる」


「してないって言ったら?」


「ほっとする」


「どっちだろうね」


「してるな。誰だ、相手は誰だ!」


「知らなーい」


「でも、仕方ないよな。俺だって他の女としてたんだから」


「そうだね。これからは心置きなく好きなだけ女とやりまくれるよ。良かったね。私も違う男とやりまくろうかなー」


「まり…そんな事言うなよ」


私をギュッと抱き締めて来た。


「挿れないから、触っていていい?」


雅樹が私の体を優しく触ってくる。


好きだった細くて長い指で、胸やお腹、背中、太もも、下半身とゆっくりゆっくり触って行く。


「まりのこの体が好きだ。でももう触れない。だから満足するまで触っていたい。体の傷も好きだった。まりの体の一部だから」


「あっ…雅樹、ダメだよ」


「感じていていいよ。いっぱい触りたい」


下半身を触って来た。


「あれ?まり。すごい濡れてるよ?」


ゆっくり優しく触って来る。


「雅樹…これ以上はダメだよ…」


「挿れないよって言ったじゃん。まり、こんなに濡らしたらダメだよ」


乳首を舐めてきた。


あぁ…もうダメ。


「挿れて下さい…」


「挿れないよ」


「…意地悪しないで…」


「じゃあ、次に優真との面会の時にもまりを抱けるなら挿れてあげる」


「…えっ…」


「じゃあ挿れない」


「あっ…ひどい…」


「あと、まりとやった人教えて」


「…えっ…」


「教えてくれたら挿れてあげる」


「…次に会う時も…雅樹としますから…挿れて下さい」


「あと、誰とやったの?」


「…やってないからわかりません…」


「本当に?」


「…はい」


「本当にまた会った時もSEXしてくれる?」


「…しますから」


「じゃあ挿れるよ」


「ああぁ…」


ヤバい、雅樹にまんまにはめられた。


こんなんじゃ、私、雅樹のセフレに成り下がってしまいそう。


どうしよう…


体は離れられない気がする。




No.330

月曜日。


いつもより早く起きて、役所の時間外窓口に行き、離婚届を提出、受理された。


優真が、ひらがなで「はせがわゆうま」と書ける様になっていたため、会社では加藤だけど、プライベートはそのまま長谷川を名乗る事にした。


会社に行き、田中さんに「さっき離婚届けを出してきました」と小声で報告。


雅樹には目で合図。


雅樹はニコっと笑う。


何か企んでいる様な雅樹の顔。


次は絶対しないもんねー!


耐えてやる。


口をギュッと結ぶ。


斎藤くんが、目の前で私にメールを打ったいる。


サイレントにしている私の携帯がピカピカ光る。


時間差で、携帯を開く。


「今日、離婚届けを出したんだよね?」


返信。


「出したよ!」


また時間差で斎藤くんが返信。


「長谷川さんとやったっぽいな」


「今日からは他人なので、もうしません」


「もう、って事はやったんだな。俺とはしばらくお預けなのに!」


思わず口元が緩む。


「今日からは彼女です。よろしくね」


時間差で斎藤くんが見る。


私を一瞬だけみて、口元が緩む。


今月いっぱいで、今のアパートを出なければならない。


斎藤くんが、今の部屋を出て、あえてちょっと遠くにあるマンションを借りた。


一緒に住むため。


もちろん優真も。


斎藤くんは、自分の子供に会えないからか、すごく優真を可愛がってくれる。


優真も懐いている。


優真は雅樹を「パパ」、斎藤くんを「お兄ちゃん」と呼んでいる。


引っ越し当日は日曜日。


明日には部屋を引き渡さないと行けないため、うちの会社ではない業者に頼み、一気に荷物を持って行ってもらう。


斎藤くんも、1人で引っ越しを頑張る。


同じ日に引っ越し。


住んでいた部屋に戻り、掃除をして、近所に住んでいる雅樹のお義父さんのご友人に菓子折りを持ってご挨拶。


一応、部屋を確認してもらう。


でも住んでいた期間は短いため、比較的キレイな状態で引き渡せた。


雅樹が家賃を払っていたが、雅樹がきついと音をあげたため、私がまともにお給料をもらう様になった時点で私が払う事にした。


住んでいた家の引き渡しは終わった。


斎藤くんに連絡をしてみる。


「頼むー!手伝ってー!」


優真と斎藤くんが住んでいた部屋に向かう。



No.331

長年住んでいた部屋は、掃除が大変そう。


ある程度の掃除が終わった。


優真も手伝ってくれた。


備え付けの棚を軽く拭こうとしたら写真が1枚出てきた。


2歳くらいの双子の女の子が同じ服を来て、可愛い笑顔で仲良く写っている。


斎藤くんに似てる。


斎藤くんの子供たち。


「これ、出てきたよ」


斎藤くんに渡すと、黙って写真を見てからリュックにしまう。


斎藤くんは明日、有給をとっている。


私までとってしまうとバレる可能性があるため私はあえて水曜日に休みを取った。


「何か、飯食って帰るか?」


「まだうちでは作れないしね」


「優真くんは、何か食べたいのないの?」


「うーん…そば!」


「そば?渋いね(笑)えー?蕎麦屋ってあったっけ?」


「あー。前に西町にある蕎麦屋に行った事があるわ」


行ってみるも、残念ながら閉まっていた。


「残念!あそこのラーメン屋に行く?同じ麺だし」


ラーメン屋で晩御飯を食べて、新居に帰宅。


もう20時を回っていた。


とりあえず3人寝れるスペースを確保するべく、布団を敷く部屋の段ボールをどけて行く。


明日使う幼稚園道具や、私の仕事道具とかはあらかじめ出してある。


「あー。何か疲れたなー」


「そうだね」


「俺、明日休みだから、用足しをしながらちまちま片付けているよ」


「うん、ありがとう」


「いやー、すごいね。加藤と一緒に住めるんだよ!?こんな幸せな事はないよ」


「よろしくね」


「こちらこそ」


ふと優真を見ると、疲れてしまったのか、そのままの格好で自分で布団に入って寝ていた。


「手伝ってくれたから、優真くんも疲れちゃったね」


「斎藤くんのお子さんも可愛いね」


「可愛いんだけど、全然会ってないからわかんないわ。もう小学生だとは思うけど、何の連絡もないしね」


でも、我が子には会いたいよね。


「俺には加藤に似た可愛い優真くんがいるしね。口元は長谷川さんだけど(笑)」


「そうだね(笑)」


「なぁ加藤」


「なに?」


「長谷川さんと離婚した事、後悔してない?」


「どうして?してないよ」


「ならいいんだけど…俺を選んでくれてありがとう」


「私も斎藤くんの事が好きだから一緒にいたいしね」


「ありがとう」


No.332

部屋もだいぶ片付けて、部屋らしくなった。


2LDKの部屋。


お互い、余り物がなかったため、比較的さっぱりとしている。


斎藤くんは、雅樹程性欲がないのか、毎日は求めて来ないけど、優真が寝てから週1~2ペースでSEXはしていた。


もう若くないし、それくらいが丁度いいのかな。


田中さんの忠告通り、シャンプーもボディーソープも全部別々にした。


今日は土曜日。


離婚してから初めて雅樹に優真を会わす日。


一泊する。


「絶対長谷川さんとやるなよ」


「大丈夫」


「でも、100%の確率でやってんじゃん」


「戸籍は夫婦だったからね」


「いや、男と女だ。間違いは絶対起こる。日帰りは無理なの?」


「優真が楽しみにしてるのよ…」


「うーん…わかった。信じる」


「ごめんね」


「日曜日、待ってるから早く帰っておいで」


「うん、早めに帰るね」


優真も斎藤くんにバイバイをしている。


「行ってらっしゃい!」


「いってきまーす!」


車に乗り込み、雅樹の住んでいる家に行く。


今日は雅樹がご飯を用意すると言っていた。


車もあるし、居間の電気もついている。


優真がインターホンを鳴らす。


「はーい」


雅樹が玄関を開けてくれた。


いつもと変わらない。


女っ気が全くない。


「今日はピザを取った!」


「やったー!ピザだ!」


優真は大好きなピザに大喜び。


3人でピザを食べ、雅樹と優真はお風呂に入る。


私は後片付けをする。


冷蔵庫を開ける。


相変わらずすっきりした中身。


比較的小綺麗にしている部屋。


久し振りに2階に上がって見る。


寝室以外は物置部屋になっていた。


寝室は変わらない。


たまに布団は干しているみたいで、変な匂いもなかった。


やはり女っ気は一切ない。


下に降りる。


脱衣場から雅樹と優真の楽しそうな話し声が聞こえる。


私もお風呂に入る。


お風呂から上がると、雅樹と優真が一緒に和室に布団を敷いていた。


「あっ!ママ!今ね、パパと一緒にお布団敷いていたんだよ!」


「えらいねー」


頭を撫でてあげると、嬉しそうにしている優真。


いつもと同じく、優真を挟み布団に入る。





No.333

優真が寝た。


すると雅樹が、優真の向こうで「まり、男いるの?」と聞いてきた。


「どうして?」


「今日、優真とお風呂に入っている時に言ってたんだよ。「ママのお友だちのお兄ちゃん」って」


「あー」


「誰?男?」


「うん。そうだね」


「俺の知ってる人?」


「どうして聞くの?だって離婚したんだもん。関係ないよね」


「いや…そうだけど…」


「俺のまり、だったのが急に俺じゃない男の存在が現れて動揺してるとか?」


「…そんな感じ。そいつとはやったの?」


「男と女だからね、雅樹もやるでしょ?」


「まり…俺無理だよ」


「何が?」


「まりが他の男に抱かれているの想像したら、胸が苦しくなるよ」


「私も、雅樹が私を抱いている時に、別の女の名前を呼ばれた時は苦しかったけどね」


「…ごめん」


「もう終わった事だから、別にいいよ」


無言が続く。


「どうして、こうなったんだろうなー」


「雅樹が浮気したからでしょ」


「そうなんだけど…」


「あの過ちがなかったら、私もずっとこの家で専業主婦してたと思う。元は私の母親のせいで、雅樹の気持ちが一瞬でも私から離れてしまったせいなんだけどね。あんな母親じゃなければ、今だって幸せにやってたと思うけど…」


雅樹は泣いている。


「俺が悪かったんだよな。もっと気持ちを強く持っていれば良かったんだよ…」


「実の娘の私でさえ、きつかったもん。雅樹だけが悪い訳じゃないよ」


「まり。本当にごめん」


「もういいよ」


「なぁ、まり」


「なに?」


「男って、斎藤か?」


「どうして?」


「そんな感じがしたから。良く見てるじゃん。お互いに」


「そう?」


「俺と付き合っている時と同じ感じなんだよ。まりと斎藤」


「そう見えるの?」


「うん」


「そっか」


「どうなの?」


「…そうだよ、斎藤くんだよ」


「やっぱりなぁ。そうだと思ったよ」


「つらかった時に助けてくれた。雅樹が浮気に走ってドン底にいた私の心の支えになってくれていた」


「ずっと付き合ってたの?」


「違うよ?付き合ったのは離婚してすぐだよ」


「そうなんだ…斎藤か」


「田中さんしか知らないから黙っていてね」


「わかったよ」




No.334

「雅樹は彼女作らないの?」


「もう女はいいや」


「そっか。でも雅樹ならやりたくならないの?」


「もう、俺40代だよ?さすがに落ち着くよね」


「やりたくなったら、どうしてるの?」


「1人でするしかないよね」


「本当に女いないんだね」


「いないよ。もういらない。まり以外抱けないよ」


「私は斎藤くんがいるから無理だよ。浮気になるから」


「あー。俺が浮気相手になるのか」


「そうだね」


「…俺、もうダメかもしれない」


「どうして?」


「いずれは、またまりと戻れるかもと思って頑張っていたから。何か、俺が浮気相手になるのかって思ったら、心が折れた」


「私は雅樹が浮気している時は、そんな感じ」


「こんなにつらかったんだな」


「やっとわかった?」


「ごめん…」


「…」


黙る私。


ちょっと可哀想な事を言ってしまったかな。


「ちょっと水を飲んでくるね」


「うん」


私は起き上がり、台所で水を飲む。


「ふぅ…」


また戻ると、雅樹が私の寝ていたところにいた。


「しないよ?」


「いいよ。ただ一緒に寝たいだけ」


「…わかった」


私は、雅樹の隣に寝る。


雅樹は私の髪を撫でてくれる。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


だからといって寝れない。


雅樹の胸の中にうずくまってみる。


「まり…」


抱き締められた。


「やっぱり俺、まりの事を愛してる。斎藤には取られたくない」


そう言って、更にギュッと抱き締める。


「斎藤とのSEXは幸せか?」


「…うん」


「そっか…俺とは?」


「…同じくらい幸せだった。初めての相手だったし」


「今、襲ったら受け入れてくれる?」


「体は受け入れると思う。気持ちはわからない」


「またまりに好きになってもらうにはどうしたらいい?」


「わからない。でも情はあるよ。家族としてのね。斎藤くんにはない感情」


不意にキスされた。


「家族って言葉、すごくあったかくていいね。まりに嫌われてはいないと言うのがわかって良かった」


「そうだね。嫌いにはなれないかな」


「ありがとう」





No.335

「まり、ちょっとだけ触っていい?」


「やりたいの?」


「やりたい」


「素直だね」


「うん」


また不意にキスされた。


そして、パジャマの下から下半身を触って来た。


「ダメ」


ちょっと抵抗。


すると私が一番弱いところを触って来た。


ずるい。


「これ以上はダメだよ」


雅樹は無言でパジャマのボタンを片手で外して行く。


乳首を舐めてきた。


「あっ…」


「まり、すごい濡れてるよ…斎藤の時も、こんなに濡らしてるの?エロいな、まりは」


「やだ…やめて…」


「やめていいの?」


「はぁ…ダメ」


下半身は丸出し。


上半身は前が全開の状態。


ぐいぐい攻めてくる。


「あぁ…雅樹、気持ちいい…」


「斎藤にもこんな姿を見せてるんだろ?斎藤より気持ち良くさせてやるよ」


いかされる。


斎藤くんに対してのヤキモチだ。


それを私にぶつけて来ているんだ。


雅樹が挿れて来た。


「あぁ…久し振りの感触…」


少し腰を動かすとすぐ抜いた。


「斎藤といつもやる体位は?」


「…正常位」


無言のまま、また挿れて来た。


「斎藤より、俺とのSEXがいい?」


「雅樹の方が気持ちいい」


「本当に?」


「うん」


ガンガン突いてくる。


私がいきそうになると腰の動きを止める。


「…いや…」


「いきたい?」


「…うん」


「じゃあまた今度してくれる?」


「…わかんない」


「じゃあ抜く」


「ダメ…お願い、いかせて」


「エロいな」


「次も雅樹としますから…」


「斎藤ともするんでしょ?」


「…多分」


無言で突いてくる。


そして「…出していい?」と言う。


そして中で出す。


はぁ…。


ダメだ。


また雅樹とやっちゃった。


雅樹は「やっぱりまりは最高だよ」と言って抱き締めてくれる。


「斎藤へのヤキモチ、全部爆発させたから、月曜日は斎藤と話していてもヤキモチ妬かないよ?浮気相手からの宣戦布告だ!俺から離れられない体にしてやる!見てろ!斎藤!」


少し元気になったみたい。






No.336

こんなんじゃダメだ、私。


斎藤くんを裏切ってるじゃん。


私、雅樹と同じ事してるじゃん。


快く送り出してくれて、私を信じて待ってくれている斎藤くん。


このままなら、絶対私に嫌気がさしてフラれてしまう。


でも、雅樹に仕込まれた体が雅樹とのSEXを受け入れてしまう。


どんな顔をして帰ればいいんだろう。


自己嫌悪。


帰る時に雅樹が「帰ったら、斎藤に会うのか?」と聞いてきた。


「…うん」


すると雅樹は「俺はまた、いつでも待ってるからな、フラれたら戻って来い」と言って来た。


「フラれないもん」


「斎藤に俺とやった事がバレたらどうしようって顔をしてるぞ(笑)」


「何でわかるの?」


「何年ずっと一緒にいたと思ってる?まりの事はわかるよ。俺からは言わないよ?俺は大人だ。あとはまり次第。黙っとけ」


「うん」


「じゃあ月曜日に」


「うん」


「パパ、また遊ぼうね!」


「優真!またな!」


雅樹は優真の頭を撫でる。


斎藤くんが待つマンションに着いた。


荷物を持って部屋に入る。


「加藤、優真くんおかえりなさい!」


「ただいまー!」


優真が答える。


「どうした加藤、疲れた顔してる」


「何か疲れた。これからご飯作るね」


「疲れたなら大丈夫!冷凍食品だけど、パスタがあるからそれで!俺やるから片付けてなよ」


「ありがとう」


「優真くん、一緒にお風呂に入る?」


「うん!昨日はね、パパと入ったんだよ?お兄ちゃんはパパしってる?パパね、カッコいいんだよ!いっしょにいっぱいあそんでくれるんだよ!だからね、パパのこと大好きなんだ!でもね、お兄ちゃんも好き!やさしいから!」


一生懸命話す優真。


斎藤くんは笑顔でうんうんと聞いている。


「斎藤くん。ごめんね、長谷川さんに会った直後だから興奮して…」


「いいよ、別に。優真くんのパパなんだから。よし、今日はお兄ちゃんと入ろう!」


「うん!」


優真と斎藤くんは一緒にお風呂に入る。


私はその間、一泊した荷物を片付ける。


パジャマを見て、雅樹との夜を思い出す。


「はぁ…」


パジャマを脱衣かごに入れる。


荷物を片付けて、一息つく。


斎藤くんと優真がお風呂から上がる。







No.337

冷凍食品のパスタだけだと寂しいため、簡単に野菜サラダを作る。


手抜きしまくり。


「頂きます」


優真はまだ1つは多いため、半分は斎藤くんが食べる。


後片付けをして、やっとゆっくり出来る時間。


「加藤って、すごく一生懸命家事をしてくれるんだね。たまには手抜きでいいんだよ?そんなに頑張らなくていいんだよ?いい奥さんをやっていたんだね」


「そんな事はないよ?私なりに出来る範囲でやってるだけだし」


「俺の元嫁は、専業主婦だったけど、部屋は片付けないし、料理もレトルトとか惣菜が多かったなー。でも加藤は働きながらもきちんと作ってくれる。だから、たまには今日みたいな冷凍食品でも全然大丈夫だからね!俺は料理は余り出来ないけど、片付けとか掃除なら出来るから!」


「ありがとう」


「加藤といると落ち着くよね。心地いいっていうか何ていうか。加藤自身、余りうるさく話さないし、俺の事も考えてくれてるのもわかるし」


「斎藤くんには本当に感謝してる。こんな私を好きでいてくれて、色々考えてくれて、優真の事も可愛がってくれて。斎藤くんとの時間を大事にしたい」


「元嫁がすごく気が強くてヒステリックだったから、家にいても休まらなかった。同じ女でも、こうも違うのか!って思う」


「争い事が嫌いなだけ。ずるいんだ、私」


「加藤は何にもずるくないよ」


「明日から仕事だし、今日は早く寝よう!」


「うん」


雅樹の話しは一切しなかった。


何かを感じ取ったのかもしれない。


翌朝。


いつもの朝。


「優真!幼稚園行くよー!あれ?帽子はどこやったの?あったあった!はい!かぶる!リュック背負う!」


「ママー、おしっこしたい」


「えっ?早く行っておいで!」


「やだ!ママと!」


「はいはい、ちょっと待って」


その様子を支度が終わった斎藤くんが見ている。


「お母さん、頑張って!」


斎藤くんも手伝ってはくれるが、やはり最後は私がやる。


駐車場で斎藤くんと別れる。


「じゃあ会社で!」


「バイバイ!」


優真が斎藤くんに手を振る。


いつもの1日が始まる。



No.338

会社に出勤し、更衣室に行くと、雅樹の浮気相手の友人と同じ総務の若い子が派手な喧嘩をしていた。


私のすぐ後に田中さんも入って来た。


「はいはい、喧嘩はやめやめ!どうした?」


田中さんが仲裁に入る。


若い子が「この女、私の彼氏を寝取ったんです!」と泣いている。


彼氏とは、営業部の若手の子で可愛い顔をしている男の子。


浮気相手の友人は「あんたが構ってあげないから、私が癒してあげただけじゃない!あんたより私の方がいいって言ってくれたんだから!」と叫んでいる。


類は友を呼ぶ。


田中さんが浮気相手の友人に「あんたさ、本当に頭悪いんだねー。人のもの取ったらダメだって小学校で習わなかった?」と言う。


「ちょっと声をかけたらついてきた翔太が悪いじゃん!本当にこの女を好きなら断ればいいじゃん!」


「ちょっと喧嘩してたのよ!まさかその隙にあんたが翔太を寝取るなんて!」


「あんたは所詮、寝取られるしかない女なんだよ!」


私は浮気相手の友人に近付き、思いっきりビンタをした。


「ばばあ!何すんだよ!」


「あなたみたいな女を見てると虫酸が走る」


「あっ!あんたも、まなに旦那寝取られて離婚したんだもんねー!仲間じゃん!」


それを聞いた田中さんが、女の胸ぐらを掴み「あんたみたいな生ゴミにもならない様な屑に、加藤さんをばかにする権利はないんだよ。人の男を取るしか能がないヤリマンが調子に乗るなよ」とにらみをきかし、ドスが聞いた低い声で女に言う。


めちゃくちゃ怖い。


そして、髪を掴んで壁に一回叩きつける。


女は田中さんの怖さに涙目になっている。


髪を掴みながら「男を取ってすみませんでしたって謝れ」と言う。


「でも…」


「でもじゃねーよ!謝れ!」


田中さんが怒鳴る。


若い子は黙ってその様子を見ている。


「お前さ、人の事をばかにし過ぎ」


黙る女。


女の腕を掴み「事務所行こうか」と言って無理矢理連れていく。


若い子と私も一緒についていく。


怖い顔の田中さんに無理矢理腕を捕まれて事務所に入る女。


総務の古い人は「あーあ、田中さんを怒らせて」とひそひそ話しているのが聞こえる。


事務所の奥にいた斎藤くんや雅樹達もこっちを見ている。





No.339

営業にいた翔太くんは、状況を飲み込んだのか、青い顔をしていた。


田中さんが「ちょっと来い」と翔太くんを呼ぶ。


「はい」


青い顔をしてこっちに来た。


「話し合え」


そして、若い子に「こんなやつ、別れなさい」と優しく言う。


女は泣いていた。


総務って、相変わらず癖がある人が多い。


総務の人達も、何となく状況を察したのか、女を白い目で見ている。


この女、これで会社の男関係で揉めたのは3回目だった。


田中さんが「着替えられなかったじゃん!加藤さん、戻ろう!」と私に声をかける。


再び更衣室に向かう。


「田中さん、怖かったです」


「そう?軽くジャブ程度だよ?あんな若い子に本気で行くわけないじゃん」


着替えながら話す田中さん。


あれでジャブ!?


本気でいったらどうなってるの!?


怖すぎる…。


制服に着替えて田中さんと一緒に事務所に入る。


何やら総務部では揉めている様子だけど、私と田中さんは素通りして席に向かう。


「おはようございます」


「おはよう!何だかわからないけど、朝から元気だねー」


牧野さんが言う。


「田中さん、怖かったです」


「お姉さまを怒らす人が悪い!仕事するよー」


田中さんは席につく。


雅樹は含みのある微笑みで私を見ている。


無視!無視!


斎藤くんには、雅樹にバレた事は言っていない。


以前に比べると、また牧野さんと雅樹が話をする様になった。


牧野さんもだいぶ、雅樹への怒りがおさまって来たのかもしれない。


田中さんが大きなあくびをする。


斎藤くんが「吸い込まれそう」と言って笑っている。


ちょっと平和な時間。


そんな時に会社に電話。


斎藤くんが電話を取る。


「加藤、幼稚園から電話。3番」


「えっ?幼稚園?」


思わず声をあげる。


優真に何かあったの?


焦りながら電話に出る。


私は電話で話しながら雅樹を見る。


雅樹は真剣な顔をして、パソコンの手を止めて私を見ている。


斎藤くんも私を見ている。










No.340

「お電話変わりました。優真の母です」


「お母さん!本当に申し訳ありません!」


焦っている先生。


「すみません、優真に何かあったんですか?」


「優真くん、園庭の砂場にあるロープで出来た小さな階段のところで転んで、ロープでおでこをぱっくり切ってしまいまして、今他の先生がついて、救急車で病院に運ばれまして…本当に申し訳ありません!」


泣きそうになる。


心臓がバクバクしている。


受話器を持つ手が震えている。


「どこの病院ですか!?」


その言葉に雅樹が私のところに来た。


周りのみんなも私を見ている。


「総合病院です」


「今、病院に向かいます」


雅樹が「優真に何があった!?」と聞いてきた。


「幼稚園の砂場にあるロープでおでこをぱっくり切って救急車で運ばれたって…」


「病院は?」


「総合病院」


田中さんが「2人共、すぐ行って!」と言う。


私と雅樹は一緒に、雅樹の車に乗って総合病院に向かう。


優真!


涙が止まらない。


体が震える。


無言で運転する雅樹。


病院に着き、雅樹と走って救急外来に行くと、エプロンをした先生2人が「長谷川さん!申し訳ありませんでした!」と謝罪。


雅樹が「優真は!?」と聞くと「今、ここの処置室にいます」と指をさす。


中からかすかに優真の泣き声が聞こえる。


私は処置室のドアをノックする。


中から「はい」と声が聞こえる。


「すみません、長谷川優真の母です」


そう言うと、処置室の扉があく。


「お母さんですか?」


「はい」


「どうぞ入って下さい」


「父親もいます」


「お父さんもどうぞ」


雅樹と2人で中に入る。


優真が「ママー!ママー!」と言って泣いている。


着ていたスモッグは血だらけになっていた。


「優真!」


「ママー!」


動こうとする優真を「動かないで!」と言いながら医者が優真のおでこを縫っている。


12針縫った。


優真はベッドから起き上がると、靴下のまま泣きながら私のところに走って来た。


「ママー!ママー!」


泣きすぎて、泣きじゃくりをしている。


私は優真を抱き締める。


「怖かったね。痛かったね。頑張ったよ、優真」


雅樹が先生から話を聞いている。






No.341

優真のおでこには、大きなガーゼが貼ってある。


「傷が目立たない様にしたつもりですが、若干痕は残るかもしれません。途中経過もみたいので、また今度の金曜日に連れて来て下さい」


「わかりました」


「優真くん、頑張ってましたから誉めてあげて下さい」


「ありがとうございます」


医者にお礼を言う。


それから看護師さんから、傷口の消毒の仕方や、傷口に貼るテーピングみたいなやつをもらい、説明を受ける。


雅樹と私は看護師さんの話を聞く。


処置室から出ると、幼稚園の先生達が優真に「優真くん、ごめんね、怖かったね」と言って泣いていた。


おでこに大きなガーゼを貼って、血だらけのスモッグ姿の優真。


先生達の「ごめんね」に「いいよ」と答える。


園長先生が来た。


「長谷川さん、本当に申し訳ありませんでした!」


90度にも腰を曲げて謝る園長先生。


「スモッグは新品ですぐにご用意します!砂場のロープの階段は、今日中に撤去致します!年度内の幼稚園代は頂けません!全ての保証も致します!」


何度も何度も頭を下げる園長先生と2人の先生。


一度、幼稚園に伺う約束をして、先生達は帰って行く。


「優真、とりあえずスモッグ脱ごうか」


雅樹が優真のスモッグを脱がす。


中に着ていた服は、スモッグのおかげで汚れていなかった。


「パパもいっしょだったの?」


「パパもママも同じところで働いているんだよ」


「そうなんだ」


雅樹が「まり、優真連れて一旦帰れ」と言う。


「でも、会社に全部置いて来ているから…」


「持っていってあげるか?…それとも斎藤に持たすか?」


「一旦、優真を連れて会社に行く。そして支社長に事情を説明して休む」


「わかった」


雅樹が運転して、後部座席に私と優真が座る。


おとなしい優真。


怖かったね。


私は斎藤くんにメールをする。


「これから優真を会社に連れていきます。バレたらヤバいので、私達の姿が見えたら隠れて下さい」


「わかった。優真くんは大丈夫だったの?」


「おでこを12針縫った」


「可哀想に、痛くて怖かっただろうね」


「だから、今日これから支社長に話をして、ちょっとお休みをもらおうかと思って」


「わかった」



No.342

会社に着く直前に、斎藤くんにメール。


「間も無く着きます」


「はい」


雅樹が優真を抱っこして車からおろす。


私と手を繋いで会社に入る。


「パパとママの会社だから、静かにしていてね」


「うん」


優真は返事をする。


事務所に入ると、みんな私達の方を見る。


田中さんが走って来た。


優真のおでこのガーゼを見て「可哀想に…痛かったね」と優真に言う。


私が「ちょっと支社長に休みをもらえないか話して来ます」と言うと、田中さんが「私、優真くんをみていてあげるから、支社長に話して来なよ」と言ってくれた。


私と雅樹は一旦席に戻る。


斎藤くんの姿はない。


田中さんがこそっと「消えたよ。多分鍵と携帯を持って行ったから車にいると思う」と教えてくれた。


優真に「ここ、ママの席だからここに座って待っていられる?」と聞くと「パパがいい」と言っている。


雅樹が私の席の隣に丸椅子を持って来た。


「優真、これでいいか?」


「うん」


「隣のお姉さんも遊んでくれるよ」


「お姉さんね、優真くんが喜ぶマジック知ってるんだよ?見る?」


「見る!」


さすが2児のママ。


私はこの間に支社長に今日の話をする。


とりあえず今日明日と金曜日は休みをくれた。


「子供さんといてあげなさい」


「ありがとうございます」


支社長を出る。


席に戻ると、渋谷くんも牧野さんも高橋さんもみんなで優真を囲んでいた。


「ありがとうございました」


雅樹が「休み取れた?」と聞いてきた。


「今日と明日と金曜日は休みが取れました」


「なら良かった」


「優真!今日と明日はね、ママお休み取れたから、これから帰ろうか」


「パパは?」


「パパはお仕事」


「パパも!」


泣きそうになっている優真。


「パパはお仕事だから、ママと帰ろう?」


雅樹が言うと、優真は「パパもいっしょじゃなきゃやだ!」と泣き出した。


牧野さんが「今日くらい、一緒にいてやれ。怖かったんだろうから、パパも一緒にいて欲しいんだろ。あとは斎藤と高橋くんと俺でやるから」と雅樹に言う。


「ありがとう…じゃあ優真、パパも今日帰れるって。だから一緒に帰ろうか」


「パパもいっしょなら帰る」


私と雅樹は帰り支度をして、優真と会社を出る。


No.343

雅樹が「俺んちに来るか?」と言う。


「そうだね。私も車だから、優真と一緒に雅樹のところに行く。ちょっと幼稚園に電話してから行くから待ってて」


「わかった、先に帰ってる」


雅樹は先に車を出した。


私は斎藤くんにメールをした。


「帰ります」


すぐに返信。


「知ってる。後半はずっと裏から見てたから。長谷川さんも一緒に帰るんだろ?優真くんといてあげてな」


「見てたの?ごめんね、とりあえず長谷川さんのところに行きます。今日は帰るから」


「わかったよ」


それから幼稚園に電話をする。


明日、幼稚園に行くという事と、優真のリュックと帽子は一晩預かってもらいたい事を伝える。


ご了承頂いたため、車を出す。


後ろを見ると、優真がチャイルドシートに座りながらぐっすり眠っていた。


雅樹の家に着いた。


一旦車を玄関前につけて雅樹を呼ぶ。


「ごめん、優真寝ちゃったから手伝ってくれる?」


「今行く」


雅樹が出て来て優真を抱っこして、和室に連れていく。


私があわてて布団を敷く。


優真を寝かせる。


雅樹が「悪い、俺着替えてくるわ」と言って、2階にあがって行く。


その間に車を移動させて、和室に戻り寝ている優真の頭を撫でる。


雅樹が降りてきた。


「優真、びっくりしたんだろうな」


「そうだね、頭だから血はすごい出るし、痛いし、怖いし、ママもパパもいないし…すごく頑張ったと思う」


「でも、まだこの怪我で済んで良かった。病院に運ばれたって聞いた時は、生きた心地がしなかったよ」


「本当、優真を見るまで震えが止まらなかった」


2人で寝ている優真を見ながら話をする。


「しばらくうちにいない?」


雅樹が言う。


「どうして?」


「優真が落ち着くまで」


「うーん…」


「パパにいて欲しいって言ってくれたんだ。いてあげたいんだよ」


「うーん…でもなー」


「優真のパパは俺だよ?斎藤じゃない」


「そうだけど…」


「俺は優真のために一緒にいてあげたいんだよ」


「…わかった。じゃあ着替え取って来るよ」


「優真の着替えなら、うちにあるよ。この間、いつうちに来てもいい様に買ったんだ」


優真の好きな仮面ライダーのパジャマの上下とシャツとパンツをタンスから出して来た。


No.344

「優真、喜ぶよ」


「結構するんだな、キャラクターものって」


「そうだよ」


「でも、息子のために選んでいるって楽しかった」


「そっか」


「まりは、これ着ろよ」


私が忘れていったTシャツ記事の上下。


「何故か、俺のタンスの中に入ってた。洗濯してあるから綺麗だよ」


「下着の替えがない」


「…ちょっと待ってて」


袋に入った新品の下着を持って来た。


「さすがに買いに行くのは恥ずかしかったから、ネットで買った。サイズは合っているはず」


「わざわざ買ってくれたの?」


「いつも着替えを取りに帰るの面倒だろ?だから一組くらいうちに置いておいてもいいかなーと思って。開けてみて」


私が好きなデザインの下着の上下。


「いつも、そんな感じのつけてただろ?ちゃんと見てるんだぞ(笑)」


「ありがとう。でも今日帰るって言っちゃったんだよな」


「帰るって何?一緒に住んでるの?」


ヤバい。


つい言っちゃった。


「実は…」


「早くない?」


「私の部屋が期間限定だったし、その時にそういう話になって…」


「ふぅーん」


雅樹がヤキモチを妬き出した。


「斎藤に今日は長谷川のうちに泊まって、SEXしてから帰りまーすって言っとけ」


「バカじゃないの?言える訳ないじゃん。それ目的じゃないでしょ?優真のためでしょ?」


「そうだよ。やっぱりあいつ、まりの事を狙ってたんじゃないか!本社にいた時からどうも好きじゃなかったんだよなー」


「事務所に来てから誉めてたじゃん」


「仕事は確かに覚えは早かったよ。でもまりを女にするのも早いやつだな!」


「だって、雅樹とは離婚したもん」


「そうだけど早すぎないか?まだそんなに経ってないじゃん!」


「しー!優真起きるよ」


黙る雅樹。


「なぁ、まり」


「なに?」


「優真と一緒に戻って来てくれよ」


「戻らない」


「斎藤がいなくても?」


「わからない」


「はぁー」


雅樹は深いため息をつく。


「今日も、まりを抱いていい?」


「やっぱり帰る」


「帰らないで」


「じゃあしない?」


「わからない。まりが我慢出来るならしない」


「私は出来るよ?」


「ほぉ。言ったな?」


優真がもそもそ動く。


起きたかな?

No.345

「…ママ?」


「ん?起きた?ママもパパもいるよ?」


「おしっこしたい」


「おいで」


優真をトイレに連れていく。


まだ少し寝惚けている優真。


おでこのガーゼが気になるのか触る。


「触ったらバイ菌入って、腫れちゃうよ?」


「やだ」


「じゃあ触らない」


「うん…これ取っていい?」


「ダメだよ」


「取りたい!」


「ダメ」


そんなやり取りを雅樹が見ている。


優真が起きて、おもちゃで遊び出した。


しばらくの間は、激しい運動が出来ないため、怪獣ごっこはお預け。


私は、斎藤くんにメールをする。


「今日は優真の希望で、長谷川さんのうちに泊まる事になりました」


「そうだろうと思った。わかった」」


優真は、だいぶ元気になって来た。


「今日は、ママが優真の好きなもの作ってあげる。何食べたい?」


「うーん…?」


しばらく悩んでから「カレー食べたい!ママのカレー美味しいもん!」と言う。


刺激物ダメって書いてあったけど、カレー大丈夫なのかな…。


雅樹が「唐辛子大量とかならヤバいかもしれないけど、少しなら大丈夫じゃない?」と言う。


カレーの食材を3人で買いに行く。


雅樹も優真と手を繋ぎながら、楽しそうに私の後ろからついてくる。


つい、色々と買ってしまう。


帰ってからカレー作り。


優真向けに甘口カレー。


雅樹は優真と一緒にトランプで遊んでいる。


「おー、優真勝ったー!」


「パパ!もう一回やろ?」


「よし、もう一回やろうか?」


「うん!」


微笑ましい光景に、思わず顔の筋肉も緩む。


「はーい!カレー出来たよー!片付けて!」


「はーい」


雅樹と優真はトランプを片付ける。


3人でご飯。


「頂きます!」


優真も雅樹も、もくもく食べている。


「優真!やっぱりママのカレーは美味しいね!」


「美味しいね!」


「ありがとう」


食べ終わり、片付けが終わってから優真のおでこの傷の消毒をする。


優真が不安そうな顔をしている。


「大丈夫だよ!」


お風呂に入り寝る支度をして、布団に入る。


「ねぇママ?」


「なに?優真」


「このままずっと、パパとママと優真の3人でここにいたい」




No.346

雅樹が「パパも、このまま優真とママといたい」と言う。


「パパはまだ鬼さんにごめんなさいしてないの?」


「ごめんなさいはしたよ?あとは鬼さんの「いいよ」を聞くのを待ってるんだ」


「じゃあ、それが終わったらまたいっしょにいれるの?」


「そうだよ。優真は今、ママとママのお友達のお兄ちゃんと一緒にいるんだろ?」


「うん、そうだよ」


「お兄ちゃんの事は好き?」


「好きだよ!お兄ちゃんね、すっごく優しいんだよ!まえにママが泣いていた時に、お兄ちゃんがママの事をいいこいいこしてた」


その言葉に雅樹が私を見る。


「パパとお兄ちゃん、どっちが好き?」


「うーん…どっちも好き!」


「そっか、優真、もう寝ようか?」


「おやすみ!」


「おやすみ」


優真が寝た。


雅樹が「斎藤がまりにいいこいいこしていたの?」と聞いてきた。


「…前にね」


「俺も、まりをいいこいいこしたいなー」


「私じゃなくて、優真にいいこいいこしてあげなよ」


「今日、まりが我慢出来たらしなくてもいいって言ってたよな?我慢出来るか試そうか?」


「いや、いいよ。雅樹は明日も仕事でしょ?早く寝なよ」


「明日は俺も一緒に幼稚園に行くから、牧野に言っておいた」


「そうなの?」


「だから、ゆっくりまりを攻められる」


雅樹が隣に来た。


「斎藤くんを裏切れないよ」


「別れて戻って来いよ。まりは、俺じゃなきゃダメなんだよ。だって、今までも俺を拒否しようと思えば拒否できたのに、俺とSEXして感じまくってたろ?あんなに感じまくっているまりは、俺しか知らないと思っているから」


キスされた。


抵抗出来ない様に、雅樹の左手で私の手を押さえつける。


右手で着ていたTシャツをまくりあげる。


体が雅樹を求め始めている。


抵抗はやめた。


このまま雅樹を受け入れる。


心は斎藤くんにあるのに、体は雅樹を求めてしまう。


あぁ…ダメ、気持ちいい。


「…もっと奥まで突いて」


「あぁ…まり、気持ちいいよ…愛してる」


付き合っていた時の様に、お互い本能のままやりまくる。


感じまくる。


最低だな、私。




No.347

それからも、生活の基盤は斎藤くん。


優真との面会の時は雅樹の家に泊まる生活を過ごす。


斎藤くんは、雅樹の事は何も言って来ない。


私も言わない。


斎藤くんは私が面会で雅樹の家に泊まる度に雅樹とSEXをしているのは気付いているのかもしれないけど、何も言わない。


優真のおでこの傷は、抜糸も終わり順調に治って来ている。


元気に幼稚園に通っている。


たまに、優真を連れて父親のお見舞いに行く。


父親は薬のせいか、すっかりおじいさんになっていた。


痩せていた。


でも優真を見ると笑顔になる。


雅樹と面会の時は、たまに雅樹も一緒にお見舞いに行く。


離婚をした事は知っている圭介がいる時もあるが、お互い父親の前では普通に接する。


父親はゆっくりと癌が進行していた。


痩せて弱って行く父親を見ると、胸が苦しくなる。


父親も母親も、まだ私と雅樹が離婚したのは知らない。


斎藤くんはまだ父親には会った事はないけど、色々と心配をしてくれる。


闘病中の父親。


極力、心配はかけたくないからと父親の前では常に笑顔でいた。


母親も毎日、父親の病院に通っては父親の側にいる。


優真も年長さんになっていた。


父親が「優真、ジジが優真にランドセルを買ってあげるよ。一緒に選びに行こうな」と言って笑顔。


もう退院出来ない事は、何となくわかっていた。


でも、ここで泣いたら父親に気付かれてしまう。


「ありがとう!」


目一杯の笑顔で答える。


雅樹も「親父さん、すっかりおじいさんになっちゃったな」と寂しそう。


仕事が繁忙期に入る。


毎日残業が続く。


幼稚園のお迎えも、いつもギリギリになっていた。


斎藤くんも毎日残業が続き、ちょっと大変な時期だったけど、お互いの協力もあり頑張った。


雅樹と付き合っていた時みたいに余り一緒に外出する事もなく、休みでも家にいる事が多い。


雅樹も田中さんも黙っていてくれたのもあり、会社の皆には斎藤くんとの事はバレずに来ている。


変わらない斎藤くん。


いつもありがとう。







No.348

ある時の就寝時。


斎藤くんが「加藤ってさ、これからどうしようと思ってんの?」と聞いてきた。


「どうして?」


「俺さ、加藤と生活してきて、すごく一生懸命加藤が俺のために頑張ってくれているのは本当に嬉しいんだ」


「うん」


「でも、長谷川さんの事を割り切ろうと思っても割り切れなくなって来ている自分がいる…優真くんの父親だから、会わすのはわかる。でも、泊まっている時に長谷川さんとやってるんだろ?」


「…」


「わかるよ。そりゃーね。でも割り切れなくなってきた。俺と結婚したら、長谷川さんと切ってくれる?」


「えっ?」


「俺、あんまりしないし、加藤が欲求不満を長谷川さんにぶつけているのかなって。加藤は長谷川さんが好きなの?それとも長谷川さんとのSEXが好きなの?」


「好きなのは斎藤くん」


「じゃあ、どうして長谷川さんとしちゃうの?俺さー、いつも加藤が優真くんと長谷川さんのところに行った日の夜に「今頃、長谷川さんと加藤、頑張ってるんだろうなー」って思いながらゲームしてるんだ。何かむなしいよね。俺って何なんだろって。俺が毎日、加藤としたら長谷川さんとしない?」


「斎藤くん。ごめんなさい」


「加藤、長谷川さんが初めての相手だって言ってたもんね。体が長谷川さんを求めているの?俺だけじゃ満足しないって事だろ?俺、長谷川さんみたいにモテる訳でも、女をたくさん抱いて来た訳でもないから、加藤を満足させてあげられないかもしれないけど、気持ちは誰にも負けてないと思ってた」


黙る私。


「俺、加藤との事を真剣に考えているからこそ、どうしても長谷川さんの事が割り切れなくて。今までの事は過去として流す。でもこれからは長谷川さんとしないで欲しい。俺と結婚しない?」


キスされた。


「バツイチ同士だけど。俺、長谷川さんみたいにSEXうまくないけど、加藤を離したくないんだ。こんなに女性を愛した事がないんだよ…だから尚更、加藤が長谷川さんとしてると思うと苦しいんだよ。俺から離れないでくれよ…」


斎藤くんがまたキスしてきた。


「長谷川さんって、どんなキスするの?どんなSEXするの?激しいの?優しいの?加藤が離れられないSEXなんだろ?」


ちょっと乱暴に私の服を脱がせて来た。



No.349

「加藤は俺の女なんだよ…大事な人なんだよ…なのに、他の男に抱かれてるのかよ…」


斎藤くんが私をギュッと力強く抱き締める。


「俺、もう耐えられないよ…もう長谷川さんとはしないでくれよ…俺だけ見ていてくれよ」


斎藤くんはいつになく激しく私を抱く。


「長谷川さんとはいつもこんなに激しくしてるのか?あー!ダメだよ、加藤、俺おかしくなりそう!」


そう言って腰を振る。


「俺だけじゃダメか?加藤をこんなに愛しているのに…!」


「斎藤くん…」


キスをされる。


「加藤の中に全部ぶちまけてやる!」


そう言って、腰の動きが止まる。


しばらくして「もう一回するぞ」と、また腰を振る。


「ちょっと待って…」


「何でだよ、長谷川さんとは何回してるんだよ…どうして俺はダメなんだよ…加藤…いや、まり。まりの事が好きなんだよ…」


ドキッ。


初めて斎藤くんにまりって言われた。


「俺とのSEXじゃ満足しないんだろ?満足するまで、まりを抱き続けるよ…」


いつもは優しい斎藤くん。


こんなに乱暴な斎藤くんは初めて。


何度も私を抱く。


「まり、いけよ、感じろよ。長谷川さんの時はもっと乱れてるんだろ?俺にもエロいまりを見せてくれよ」


「あぁ…斎藤くん」


「名前で呼んで?」


「…智也」


明け方まで斎藤くんとSEX。


翌日は仕事。


余り寝ないまま仕事に行く。


お昼を食べると、すごい睡魔に襲われる。


斎藤くんも襲われた様子。


私は机で伏せて仮眠。


斎藤くんは車で寝ていた。


田中さんに起こされる。


「加藤さん?もうそろそろ起きよう?」


「あっ、はい…起きます」


まだボーっとしている。


「あれ?斎藤がいないぞ?あいつどこ行った?」


渋谷くんが探している。


雅樹からメール。


「お前ら、昨日遅くまで頑張ってたのか!?」


「ごめんね」


雅樹は、ムスッとした様子で斎藤くんを起こしに車に向かう。


斎藤くんが雅樹と帰って来た。


眠そう。


今日は早く寝ようね。




No.350

その日の夜。


斎藤くんと優真とご飯を食べていると、圭介から電話が来た。


「どうした?」


「ねーちゃん、今って大丈夫?」


「ご飯食べてるとこ」


「じゃあ食い終わってからでいいから折り返して」


「別に今でもいいよ?大事な話し?」


「大事な話し」


「じゃあ今聞く」


「ねーちゃん、来週の月曜日って休みか半休取れる?出来れば長谷川さんも」


「どうしたの?」


「父さん、もうダメなんだ。緩和ケアに入る。月曜日の10時にモルヒネ打つよ。家族で一応…ね」


「えっ…モルヒネ?」


「そう。先生からの話しもあるから月曜日10時に病院に来て。長谷川さんとは離婚した事、父さんまだ知らないから、長谷川さんにも来て欲しい。父さん、長谷川さんの事が大好きだから」


「わかった、長谷川さんにも聞いてみるよ」


「頼むね」


「千佳さんは?」


「さすがに来るんじゃね?わからないけど」


「わかった」


電話を切る。


斎藤くんが「弟さん?」と聞いてきた。


「うん…お父さん、もうダメなんだって…月曜日10時にモルヒネ打つから、離婚した事を知らない長谷川さんを連れて病院に来てって」


「ご両親、離婚知らないの!?」


「ちょうど父親の癌が見つかった時期と重なって、闘病中の父親には心配かけたくなくて言ってなかったの」


「そっか…それは仕方ないな」


「ごめん…長谷川さんに電話してもいい?」


「そういう理由なら構わないよ。優真くん、見ていてあげるから大丈夫」


「ありがとう」


私は奥の部屋に移動し、雅樹に電話をする。


「あれ?まり、珍しいね。どうしたの?」


「今って話して大丈夫?」


「大丈夫だよ?家だし、誰もいないし」


「あのね、今、圭介から電話があってね…」


「うん」


「お父さんが…」


言った瞬間、ダムが崩壊した様に涙が止まらなくなった。


「まり?大丈夫か?」


雅樹が電話の向こうで叫んでいる。


私の変化に斎藤くんが部屋に来た。


「加藤?どうした?」


携帯を持って、涙が止まらない私。


斎藤くんが、意を決した様子で私から電話を取り、雅樹と話す。


「長谷川さん。お疲れ様です。斎藤です」







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