とある家族のお話

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2020/05/27 16:47(更新日時)

私はまり。


5年前に離婚し、現在シングルマザーで小学3年生の息子が1人。


父親は肺がんを患い、闘病の末4年前に他界。


母親は精神疾患を患い、現在精神病院に通院中。


遠方に住む兄の亮介と義姉の千佳さん。


中学3年生の姪と、中学1年生の甥がいる。


2つ下に同じ市内に住む弟の圭介。


私と同じくバツイチで、現在は1人暮らし。


息子のよき遊び相手になってくれる。


弟の子供は元妻が引き取っているが、しばらく会っていないそうだ。


私の母親は、多分だがかなり前から精神疾患があったと思われる。


父親が他界してからひどくなった。


病名は「妄想性障害」


特に被害妄想が酷く、妄想で警察を呼んだり近所の方々にご迷惑をおかけしてしまう様になったため、社会福祉の公的窓口に相談し、現在通っている精神病院の先生にお願いし、強制入院に至った。


母親本人はおかしいと思っていないため、入院する時はとても大変だった。


現在は退院している。


入院する時は近所に住む弟と相談し決めたが、母親には未だに恨まれている。


兄夫婦には電話やLINEで伝えていた。


母親は、兄と弟の嫁をいびりにいびった。


弟の離婚は、母親が大いに関係している。


義姉は遠方に住む事で離婚はしないで済んだ。


私達兄弟が母親を何度止めてもいびりは止めない。


母親は悪い事はしていない、私は正しいと、止めれば止める程興奮し罵詈雑言を言い放つ。


妄想が激しいため、妄想で話をするが母親本人は事実だと思っているため、違うんだよ!と言っても聞き入れてくれる事はない。


否定すれば嘘つき呼ばわりするな!お母さんは正しい!と怒鳴る。


仕方なく合わせれば、やっぱりそうだ!と益々妄想が本当の事だと思い込む。


とても難しい。


でも、私の実母である。


父親がいない今、私達兄弟が母親をみなければならない。



こんな家族のお話です。












No.3034511 (スレ作成日時)

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No.251

しかし、約束なんて守る母親じゃない。


2日に1回ペースに突然来る。


2階にいて下に降りると母親がいるという事が多くなる。


「用もないのに、来るのやめて。約束したよね?」


「いつそんな約束したのよ。嘘ばっかり言って、お母さんをそうやって悪者にして楽しいのか!」


はぁ…。


ため息が出る。


すると母親が「しーっ」と人差し指を口元に充てる。


「なに?」


「この部屋に盗聴器がついているのよ」


「は?」


「あいつの手下が、あんたを狙っているんだよ」


「ちょっと意味がわからないんだけど」


「最近ね、あの地主のおやじがうちを狙っているのよ。うちが欲しくて、色々と嫌がらせをして私達を追い出そうとしてくるから夜も眠れないんだよ」


「どんな嫌がらせ?」


「朝、どんなに探しても見つからなかったお父さんの靴下が、次の日にタンスの下にポンと置いてあったり、タオルに変な液体をかけられて色が変わっていたりするんだよ」


あれ?


言っている事が何かおかしいぞ。


「お母さん、本気で言ってる?」


「お母さんをばかにするのか!」


「いや、そうじゃなくて、それは事実なの?」


「疑うならうちに来なさい!まだまだ嫌がらせをされた証拠があるんだから!」


「わかった、実家に行くよ」


私は、母親の車に乗り、実家に向かう。



母親の運転は怖い。


昔からだけど、信号待ちで待つのが嫌いなため、ショートカットするんだけど、他人の敷地を勝手に入って抜けて行ったり、いきなりウィンカーもあげずに曲がったり、車線変更したり、ぶつかりそうになったらクラクションを鳴らしまくる。


ひやひやしながら乗っていた。


実家に着く。


その問題のタオルを見せてもらう。


「…これ、どう見ても漂白剤じゃない?」


すると母親は「やっぱりあのおやじは、うちのタオルに漂白剤をかけたという事がわかっただろ!」


「いや、そうじゃなくて、お母さんが洗濯の時に…」


「お母さんがそんな事をする訳がないだろ!お前もあのおやじの手下か!お父さんの靴下だって、何であんなところにあるんだ!おかしいだろ!」



前から、言っている事がおかしいとは思っていたけど、しばらく会わないうちに酷くなっている気がする。





No.252

とりあえず、雅樹にメールをする。


「今、実家にいるんだけど、理由は後で話すから今日、ちょっと遅くなる。ごめんね」


すぐに返信が来た。


「お義母さんの事かな?了解。落ち着いたら連絡下さい」


もう少ししたら、父親が仕事から帰って来る。


帰って来たら、家に勝手に入って来る事を伝えよう。


もうやめてほしいと。


母親はずっと騒いでいるが聞き流す。


すると、圭介が来た。


「あれ?圭介どうしたの?」


「今日、代休なんだ。ちょっとね」


圭介を見た母親は「圭介も見なさい!こんな嫌がらせをされたんだ!まりは、全然信じてくれないんだよ!」と騒いでいる。


「母さんさ、もしそれが本当なら不法侵入じゃん!警察に相談してみたら?」


圭介が言う。


「タオルを証拠で持って行けばいいよ。勝手に家に入って来て、嫌がらせでこんな事をされましたっていいなよ、警察に」


お母さんが「あとね、鍋にこんな白い粉みたいなのをつけられたのよ。舐めてみたら苦いんだよね。変な薬を鍋に塗られたのよ!」と言って、いつも使っている片手鍋を圭介に見せる。


「じゃあ、それも持って警察に行こう。その白い粉はなんなのか調べてもらおう」


「そうしようかしら?圭介、警察に連れてってもらえる?」


「いいよ」


「まりなんかより、圭介の方が理解してくれるわ。やっぱりあんたがおかしいのよ!」


そう言って、母親はタオルと鍋を持って、圭介と一緒に警察署に向かった。


うーん…。


携帯を見ると、雅樹からメールが来ていた。


「圭介くん、着いたかな?」


あぁ、やっぱり雅樹が圭介に連絡をしてくれていたんだ。


「ありがとう、今、圭介と母親は警察署に行ってる。今は実家で父親が帰って来るのを待ってる」


「警察署?」


「うん、理由は後で。とりあえずごめんね。ありがとう」


「(^-^)/」


それから程なくして、父親が帰宅。


父親に、母親が2日に1回ペースで合鍵を使って勝手に家に入って来て迷惑している事、合鍵を渡した経緯、今、圭介と母親がタオルと鍋を持って警察署に行っている事を話した。


父親は黙って私の話を聞いていた。








No.253

父親は、母親が置いていった鍵の束から、うちの鍵を外し、私にくれた。


「お母さんの車の鍵は、しばらくお父さんが預かる。どっかに行く時は、お父さんが運転して一緒に行動する様にする。ただ、お父さんも仕事をしている。もし、いない間に何かあれば、お父さんに連絡を寄越しなさい」


「わかった。ありがとう」


ちょっとホッとする。


圭介と母親が帰宅。


母親は怒っている。


「警察まで私をばかにして!お父さんからも警察に連絡してちょうだい!」


すると父親。


「警察はお前をばかにはしていないだろ。ただお前の言い分が通らなかったから怒っているだけだろ?」


「まり!お前はお父さんに何を吹き込んだ!出ていけ!」


持っていた片手鍋で頭を叩かれた。


圭介が「早く帰れ!」と言って、母親を止めている。


この母親の顔、嫌いだし怖い。


怒りに満ちて、嫌み満載ぶちまけて暴力的になる母親の顔。


兄や弟では力が敵わないから、私を標的にしてくる時の顔。


本当に小さい頃から嫌い。


大っ嫌い。


私は、バンドバッグを持ち、玄関に飛び出す。


でも、足がない。


時間は20時を過ぎている。


雅樹に電話をする。


すぐに出た。


「ごめんね、仕事終わってた?」


「今は家にいる。まりの車があったから家にいるもんだと思ってたけど、いないんだな。お義母さんの車で帰ったの?」


「うん。今、母親に鍋で頭を叩かれて出ていけ!って言われて、出てきたんだけど帰れなくて」


「今から迎えに行くから、あの前の待ち合わせ場所まで行ける?」


「うん、大丈夫」


前の雅樹が住んでいたアパートの前を通る。


懐かしい。


雅樹が停めてあった駐車場には、軽自動車が停まっている。


新しい住人さん。


色んな思い出があるなー。


そう考えながら、雅樹が部屋を借りる前に待ち合わせ場所として使っていた場所に着いた。


人通りは余りなく、夜はちょっと薄暗い。


たまにバス停から歩く人を見掛けるくらい。


雅樹が来てくれた。


「ごめんね、お待たせ」


「大丈夫。ありがとう」


私は雅樹の車の助手席に乗り込む。

No.254

「ご飯食べたの?」


雅樹が私に聞く。


「ううん。食べてない」


「俺も食べてない。何か簡単に食ってくか?」


「…うん」


牛丼屋に入り、簡単にご飯を済ませる。


学生や、サラリーマン風の人で賑わっていた。


自宅に戻る。


雅樹に事の経緯を説明する。


そして、鍵は返って来た事、何かあれば父親に連絡を、と言う事も含めて全て話した。


「これで、しばらく来なきゃいいけど…」


「うーん、まりの母親だから何とも言えないけど、タンスやクローゼットの奥まで開けられるのはちょっとね…」


「ごめん、そうだよね」


「まりが悪い訳ではないんだ。でも…うーん」


もう嫌だ。


今は母親に恨みしかない。


お願い!


もうこれ以上、かき回さないで!


もううちに来ないで!


雅樹にも、かなりの精神的負担をかけている。


これで収まる訳はなく、翌日、母親は何とタクシーでうちまで来て、玄関で騒いでいる。


「鍵を返せ!入れろ!」


あぁー!ダメだ!


ノイローゼになりそう。


「お願いだから帰って…」


「じゃあ、鍵を寄越せ!」


「タクシー代は出すから帰って!」


「鍵を寄越せ!」


「帰らないと、お父さんに連絡するよ!」


「いいよ!お母さんは何も悪い事はしていないだろ!あんたの家の盗聴器を見つけなきゃならないんだよ!」


私は父親に電話をする。


父親の会社も、そう遠くない。


父親がうちに来た。


母親をビンタしているのが聞こえる。


でも、私は玄関を開けない。


涙がぼろぼろ出てきた。


息も少し苦しくなる。


もうやめて!もうやめて!…お願い、もう来ないで…!


私は、呪文の様につぶやく。


しばらく、玄関から動く事が出来なかった。


翌日も母親はタクシーでうちに来ては、玄関で「鍵を寄越せ!」とドアをドンドン、ガチャガチャやりながら、外で叫んでいる。


また父親に連絡。


父親がまた母親を連れて帰る。


もう、ダメかも、私。


精神的に耐えられないかも。


でも、私の母親なんだ。


雅樹に迷惑をかけている。


雅樹との距離を少し感じる。


もうダメかな。


私達。








No.255

「まり?」


雅樹が私を呼ぶ。


「なに?」


「さっきから呼んでいるんだけど…」


「…ごめん」


「まり、少しお義母さんから離れようか?」


「えっ?」


「4日間、有給が取れたんだ。旅行行かない?」


「旅行?」


「うん。勝手に決めちゃったんだけど…来月もしかしたらクレジットカードの請求、ドンと来るかもしれないけど許してくれ。ボーナスも入ったしね。少し気分変わるんじゃない?」


「雅樹…」


「気分を変えてから、お義母さんの事を考えよう」


「いつから?」


「明後日から」


「急だね」


「ここしか有給無理だった。温泉旅館とったぞ!ゆっくり温泉に入ってのんびりしよう!」


「ありがとう」


少し気持ちが落ち着く。


旅行当日。


朝6時に家を出発。


新幹線に乗るため、駅まで向かう。


私達の街は田舎だから、新幹線は停まらない。


新幹線が停まる駅まで電車で向かう。


駅に車を置いておいても、新幹線や在来線利用なら格安で最大6泊まで停めておける。


新幹線なんて何年振りだろうか?


雅樹と隣り合わせで座る。


私は窓側、雅樹は通路側。


車窓も楽しみながら、2人で駅弁を食べる。


最高に楽しい時間。


本日の目的地、東京。


東京は大人になってから来た事がない気がする。


田舎者の私は、人の多さに驚く。


雅樹は仕事で何度か来ているため慣れた様子。


東京駅。


今日は東京に一泊。


切符売り場に行く。


路線図を見てもよく分からない。


雅樹は、切符売り場で切符を買って来た。


「俺もよく分からないから、駅員さんに聞いてきた。電車乗り場こっちだって」


エスカレーターに乗る。


へぇー。


都会の人って、みんな左側に寄って乗るんだ。


すると右側から急いでいるのか、かけ上がる人が何人もいる。


田舎はこんなルールはないから、エスカレーターも自由。


何もかもが違う東京に驚く。


電車に乗る。


そこそこ込み合う車内。


車窓はずっとビルばかり。


隣の駅までの間隔が短い。


あっという間に今日泊まるホテルの最寄り駅に着いた。


人の流れに逆らわずにそのまま改札を抜けたが、ホテルとは全く違う出口。


そんなハプニングもいい思い出になりそう。





No.256

まだチェックインまでには時間があるため、駅にあるコインロッカーに荷物を入れる。


どこを見ても、人の姿。


建物も高い。


見上げて歩く。


まだスカイツリーが出来る前。


私の中で東京といえば聞いた事があるのが、東京タワー、渋谷のハチ公、浅草、新宿歌舞伎町、高尾山くらい。


小さい頃は、富士山は東京にあると思っていた生粋の田舎者。


せっかくだからと行ける範囲で雅樹と色々いってみる。


歌舞伎町を見て「すげー!」


東京タワーを見て「デカっ!」


渋谷のハチ公を見て「…何か小さい」


そんな感じで楽しめた。


チェックインの時間になったため、荷物を預けていた駅まで戻り、荷物を取り出す。


泊まるホテルはちょっとだけ良さそうなホテル。


フロントには若い男性がいた。


「予約していた長谷川です」


フロントの男性はパソコンを見て「長谷川様2名様ですね。お待ちしておりました」と言って、雅樹に名前を書く紙を渡す。


用意された部屋は15階。


フロントから、カードキーをもらい、エレベーターで15階まで行く。


「わぁ!素敵!」


東京のビル群、街並みがキレイに見える。


「きれいだね」


私が言うと雅樹が「夜景もキレイそうだね」と言う。


何もかも嫌な事は忘れてしまいそう。


雅樹がベッドに横になる。


「やべー!気持ちいいぞ!」


私も雅樹の隣で横になる。


見つめ合って笑う。


楽しい!


ご飯前にシャワーして、さっぱりしたところで雅樹とSEX。


旅先という事もあり、開放的な気分になる。


しばらくベッドでイチャイチャしていたが、段々暗くなり、窓からの景色は夜景に変わって行く。


「わぁ!キレイ!」


私がベッドから夜景を見る。


雅樹が「夜景を見ながら、もう一回しようか!」と言って、部屋の電気を消して、夜景を見ながらもう一回。


それからまた軽くシャワーをして着替えて、ホテル近くのお洒落なレストランで夕食。


そして部屋に帰って来てからまたSEX。


この旅行だけで、雅樹と何回SEXしたかわからない。


今まで以上に愛し合った。


母親のせいで少し離れた気持ちを取り戻す様に。


何回も何回も抱き合う。




No.257

旅行から帰って来た。


雅樹は会社の人達にもお土産を買ったため、色々整理している。


私もスーツケースの中身を整理。


洗濯物を出して、化粧品とかは元の位置に戻す。


私は携帯を開く。


母親から着信が20件以上入っていた。


急に現実に引き戻された。


雅樹には言わない。


「はー!疲れたけど、楽しい旅行だったね!」


雅樹が言う。


「うん、本当に楽しかった!ありがとう!」


「こちらこそ」


「明日仕事行ったら休みだー!頑張ろう!」


そう言いながら、雅樹はシャワーをしにお風呂場に行った。


旅行から戻って来てから、母親が来る事はしばらくなかった。


精神的にも少し落ち着く。


雅樹も笑顔が増えた。


また平和な日常が戻って来た。


新婚当初に比べれば、回数は少し減ったけど雅樹とは愛し合う夫婦生活。


そんなある日。


いつもの様に雅樹とのSEX。


変わらないはずなんだけど、何となく違和感。


すごく気持ちがいいんだけど、いつもとちょっと違う。


翌朝。


雅樹を送り出してから、昨日の違和感について考える。


あれ?


そういえば、生理っていつ来たっけ?


カレンダーを見る。


もうしばらく来ていない事を知る。


もしかして…妊娠した?


私はドラッグストアーに車を走らせる。


以前、田中さんが買ったやつと同じ妊娠検査薬を2本買う。


失敗もあり得る。


急いで帰り、トイレに直行。


説明書を読む。


なるほど、おしっこをかけるのか。


平坦なところに置いて、とりあえずトイレから出る。


10分後。


トイレに行き、検査薬を見る。


はっきりと陽性のところにラインが入っていた。


私、妊娠した!


お腹に雅樹と私の赤ちゃんがいるんだ!


念願だった赤ちゃん。


ずっと出来なくて、諦めかけていた赤ちゃん。


嬉しい!


私は雅樹にメールをする。


「今日、雅樹に大事な話があるので、早く帰って来て下さい」


10分後くらいに「大事な話?気になるから早く帰ります!」と返信。


雅樹もきっと喜んでくれるよね。


私は思わずお腹に手を当てた。




No.258

雅樹は定時ぴったりに「帰る!」とメールが来た。


今日は晩御飯は、ちらし寿司にした。


うちでは、めでたい時は、いつもちらし寿司だった。


ちょっと贅沢に海鮮ちらし寿司にしてみた。


「ただいまー!」


「おかえりなさい!あれ?今日はずいぶん豪華な晩御飯だね!話しって何?」



「まず着替えて来なよ。ゆっくり話そ!」


「わかった!待ってて!」


雅樹は、普段着に着替えて戻って来た。


「えー?何々?ずっと気になってたんだ!」


「実はね…赤ちゃんが出来たの!」


雅樹は一瞬無言になり「…本当に?」と言う。


「うん。今日、妊娠検査薬で陽性反応が出たの!月曜日に産婦人科に行ってみようと思って」


「マジで!?本当に?」


「うん」


「やったじゃん!まり!」


雅樹はすごく喜んでくれた。


「やっと俺達のところにも赤ちゃんが来てくれたんだな!」


「うん」


「まりとこんなに子作り頑張っていたけど、ずっと出来なかったから、諦めていたんだ。良かったよ…本当に良かった!」


雅樹は涙を浮かべていた。


私も30代になっていた。


雅樹はもう何年かで40代。


「来年の今頃は、家族が増えているよ!」


私が言うと雅樹が「嬉しいよ!早く会いたい!」と言って、私のお腹を優しく触る。


「えっ?じゃあもうまりとSEX出来ないの?」


「そんな事もないと思うけど…」


「俺、ずっとまりとSEX出来なかったら死んじゃうよ!子供だって、生まれる前にパパが死んだら可哀想じゃん」


「お腹が張ったりとかしたらヤバイかもしれないけど、わかんないや」


その日はいつになく優しいSEX。


いつも以上に優しく愛撫をしてくれる。


「これからママになるまりに、いっぱい気持ちよくなってもらいたいから!おっぱいも赤ちゃんにとられる前に、俺がいっぱいまりのおっぱいに吸い付いてやる!」


「あっ、ダメ…」


「いっぱい気持ちよくなって…いっぱいいっちゃって。感じているまりは最高に可愛いよ」


今日の雅樹はすごくエロい。



No.259

月曜日、産婦人科に行く。


受付を済ませて、空いていた椅子に座る。


ドキドキした。


産婦人科に受診するのは、人生初めて。


看護師さんに呼ばれて、別室みたいなところで名前、住所の他に、最後の生理はいつか?子供が出来ていたら生みますか?とか聞かれて素直に答える。


そして、採血と血圧測定、「尿検査します」と採尿用の紙コップをもらいトイレへ。


また席で待っている様に言われて待合室に戻る。


名前が呼ばれて、診察室に入る。


40代くらいの先生。


愛想よく「おはようございます」と挨拶してくれる。


さっき、看護師さんが書いていた紙を見てから「ちょっと下着を脱いで、こっちに来て下さい」と言われて、診察室の隣の足を開くベッドに案内された。


スカートをはいていたため、パンツだけ脱いで、スカートをまくりあげて足を開くベッドに乗る。


初めてだからちょっと抵抗があったが、顔が見えない様にウエストの辺りにカーテンがひかれる。


機械を入れられる。


先生が「力を抜いて下さいねー!楽にして!」とカーテンの向こうで声をかけるが、緊張で思わず力が入る。


「足の傷はどうしたの?結構な傷だね」


カーテンの向こうから聞かれたため「ちょっと怪我をしました」と答える。


診察が終わり、また再び診察室の椅子に座る。


「長谷川さん。おめでとうございます。妊娠していますよ。3ヶ月に入ります」


そう言って、エコー写真をもらった。


「これが赤ちゃんです」


先生に言われて、小さく白く写る我が子を写真で初めて見る。


「これは頂けるんですか?」


「もちろんです。どうぞお持ち帰り下さい」


そして「妊娠おめでとうございます」と書かれた冊子みたいなのと、次回の診察日が書かれた紙と、エコー写真と、出産予定日が書かれた紙をもらう。


会計の時に、女性から「役所で母子手帳をもらって来て下さいね!その時に一緒に診察の補助金が出る紙もくれるはずですので、次回からは母子手帳とその紙を一緒に持って来て下さい!」と言われた。


早速役所に行き、母子手帳をもらう。


会計の時に言われた診察の補助金が出る紙も一緒にくれた。


自宅に帰る。


出産予定日は来年。


エコー写真を見る。


にやける私。


雅樹が帰って来たら見せよう。



No.260

雅樹が帰宅早々「産婦人科、どうだった?」と聞いてきた。


「もう少しで3ヶ月に入るって!」


「そっかー!いやー、こんなに嬉しい事はないよ!まり、体大事にして、無理な時は休んでいていいからね!つわりとか大丈夫?」


「うーん、今のところはそんなに…田中さんがつわりがひどかったけど、人によるのかな?」


「楽しみだな!」


日に日に少しずつ大きくなっていくお腹。


雅樹とのSEXの回数は激減したけど、雅樹は「子供とまりのために我慢するよ」と我慢してくれている。


お互いの両親にも赤ちゃんが出来た事を報告。


すると母親が「まりが赤ちゃん生むまで、我が家に住む」と言い出した。


雅樹と2人で全力で止めた。


それでも母親はうちに来る。


うちに来ては、子供の名前を勝手に決めてきたり、和室を勝手に模様替えをしたり、母親の荷物を勝手に持って来たり。


うちに来たら朝から晩までずっといる。


話をすれば、地主さんや兄の嫁さんの千佳さん、他の人の悪口ばかり。


うちに入れなければ、近所迷惑になる様な声で騒ぎまくる。


私がご飯を作れば「まずい」と文句、作らないと「来てやってるんだから、ご飯くらい出せ」と文句。


雅樹にも「父親になるんだから、もう少し落ち着いたらどう?チャラチャラお洒落なんてしないで、この服を着なさい!」と、父親が着る様な服を着る様に強制。


「本当は娘にはもっと若い旦那が良かったのに、仕方なく許してやったんだから。なかなか妊娠しなかったから、絶対に種が悪いと思ってたけど、これでやっと役に立ったな。少しは使えるみたいだね」


雅樹の表情が段々変わっていくのがわかる。


「…お義母さん、申し訳ないですが、帰って頂いてもよろしいですか?」


声が低い。


「何であんたに指図されなきゃならないんだ!娘の家なんだから、私がいたっていいだろう!むしろあんたは他人なんだから、お前が出ていけばいいだろう!」


「お母さん!お母さんが帰れ!勝手に人の家に居座るな!荷物を持って帰って!」


私が母親に叫ぶ。


「まりまで、亮介と同じ様に結婚したら相手にくだらない事を吹き込まれて変わってしまったんだね。お母さんの事を敬う事の出来ないそんな男なんてさっさと離婚しなさい!」


私は気付いたら、母親を思いっきりビンタしていた。


No.261

「まり!目を覚ましなさい!あんたはこの男に騙されているんだよ。あんたの事を本当に思っているのはお母さんなんだよ?なのに、そんな母親をビンタするなんて!」


そう言って、私のお腹を殴った。


すると雅樹が「お義母さん、お言葉ですが、今何をしたかわかりますか?お腹の子を殺そうとしたんですよ?殺人ですよ?わかりますか?」と言って、母親の腕を掴み、そのまま玄関まで引きずり出す。


「母親に向かって何をするんだ!暴力していいと思っているのか!」


雅樹は無言で母親を玄関の外に連れ出し鍵を閉めた。


外で騒いでいたが静かになった。


雅樹は「まり、大丈夫か?ごめん、お義母さんを力ずくで追い出す事をして」と険しい顔はしているものの、謝罪をする。


するとインターホンが鳴りモニターを見ると、隣の家のご主人だった。


雅樹が対応。


「今、長谷川さんのお母様がうちにみえまして、娘婿に暴力を振るわれて追い出された!鍵を開けてもらえる様に、説得して欲しいとおっしゃっていて少し興奮されている様なんですが…」


隣の家にまで迷惑をかけている母親。


自分の思い通りにならなければ、思い通りになる様に卑怯な手も平気で使う。


私達が困ろうが関係ない。


自分の思い通りになればそれでいい。


雅樹が「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません」とお隣さんに謝罪。


玄関を少し開けた瞬間、扉が一気に開き、鬼の形相をした母親が入って来た。


雅樹はひたすらお隣さんに謝罪。


私は父親に連絡をし終わったところ。


もう少しで父親が来る。


それまでの辛抱。


母親は怒りの頂点だったのか、目に入って手に取った靴べらで私の背中を何度も叩く。


「痛い!やめてよ!」


必死でお腹を守る私。


父親が玄関から入って来た。


母親から靴べらを奪い取り、今度は父親が靴べらで母親の背中を思い切り叩く。


「痛い!何すんのよ!」


母親が叫ぶ。


「お前が今、まりにしていた事はこういう事だ!しかもまりはお腹に赤ちゃんがいるんだぞ!赤ちゃんに何かあったらどうするんだ!」


「そんな赤ちゃんは縁がなかっただけだよ!また作れば問題ないじゃないか!」


「お前は命を何だと思っているんだ!」


父親が怒鳴る。


No.262

父親が激怒して、母親を力ずくで抑えつけている。


もう還暦を過ぎた両親。


「やめて!お願いだから…!」


雅樹が止めに入る。


父親が「お前はおかしい!狂ってるんだよ!どれだけ人に迷惑をかければ気が済むんだ!いい加減にしろ!」と怒鳴る。


「狂ってんのはまりとこの男だよ!私は間違ってない!」


「まだ言うか!ふざけんな!」


雅樹が「やめて下さい!」と必死に止めるが、父親が怒り狂っているため、かなりの力で母親を押さえつけていて雅樹も太刀打ち出来ない。


何か、お腹が張ってきた気がする。


赤ちゃん、びっくりしてるのかな。


「やめてー!」


私は絶叫。


「お母さん!もう2度とうちに来るな!もう嫌!お母さんの存在がストレスにしかならないの!もし今度来たら、刺すかもしれない!そのくらいもう嫌なの!早く帰って!帰れ!」


初めて雅樹の前でブチキレた。


「早く帰れよ!もし離婚ってなったら一生恨む。言ってる事おかしいんだよ!盗聴器?変な液体?バカじゃないの?被害妄想で回りを巻き込んで、迷惑をかけて楽しいか?小さい頃から、お母さんの言う事は正しい!逆らうな!って言って、ずっと押さえつけて来たもんな!良く言ってたもんね。10年経てばまりも分かるって。もう30年以上経ったけど、お母さんの言ってる事、やっている事、理解出来ないんだよ!それだけ自分がおかしいの、早く気付けよ!

子供が生まれても、絶対お母さんには会わせない。殺そうとしたんだもんな!また作ればいい?やっと出来た子供なんだよ。私が守るべきなのはお母さんじゃなくて、お腹の子供と雅樹なんだよ!私の事をボロクソ言うのはまだいい。雅樹の事をボロクソに言う権利なんてないんだよ。お母さんのせいで、私達夫婦がどれだけ迷惑かかっているかわかるか?死ねばいいのに!早く消えろ!」


私はそのまま2階の寝室に入り、号泣した。


雅樹が私を追いかけて来た。


「まり!」


「来ないで!」


もう色んな感情がぐちゃぐちゃになっている。


初めて雅樹の前でぶちギレてしまった。


もう無理だった。


ストレスが限界だった。


お腹が張る。


寝室の隅っこで、電気もつけずに泣く私。


もう、きっと雅樹にも嫌われた。


母親がいなければ、楽しい妊婦生活が待っていたのに。





No.263

居間が静かになった。


私は泣き止み、黙って隅っこに座ったまま放心状態になっていた。


ドアがノックされる。


「まり、大丈夫か?入ってもいいか?」


雅樹が優しく声をかけながら、寝室に入って来た。


電気をつけようとしたけど「つけないで」と私が言うと、つけないで私の前に座った。


「まり、ご両親は帰ったよ」


「…うん」


「…大丈夫か?」


「…うん」


雅樹も放心状態の私に、何て声をかけていいかわからない様子。


私の頭を撫でる。


「まり、俺は大丈夫だよ」


その言葉に、また涙がこぼれ落ちる。


「まりは今、大事な時期なんだよ?ママになるんだよ?一緒に頑張ろ?」


「雅樹、ごめんね、本当にごめんね」


もう涙が止まらない。


雅樹は黙って泣き止むのを待ってくれた。


「…お腹が張ってきてるんだ。ヤバイかな」


「えっ?まり、ベッドに入って休みなよ。大丈夫?赤ちゃん、びっくりしちゃったかな。もし本当にヤバい様子なら病院に行こう!」


「…ちょっと横になって休んでみる」


「うん。俺はいない方がいいかな?下にいるから、何かあったらすぐ呼んで」


「ありがとう」


雅樹はまた私の頭を撫でて、居間に降りていく。


私はベッドに横になりながらお腹をさする。


少し目立つ様になったお腹。


今、お腹の中で聞いていたよね。


ごめんね。


こんなママでごめんね。


また涙が出る。


そのうちに寝てしまった。


目が覚めた。


枕元の時計を見ると、AM4:48と表示されている。


隣を見ても雅樹はいない。


居間に降りていくと、和室に来客用の布団を敷いて寝ていた。


母親に勝手に模様替えをされて、良くわかんない置物まで置いてある部屋。


私は洗面台についている鏡を見る。


泣きはらした目。


顔も何となく浮腫んでいる。


ブサイクな顔。


普段もブサイクだけど、10倍くらい更にブサイクな顔。


このままシャワーに入ろうかな。


シャワーに入る。


さっぱり。


シャワーから出ると、雅樹が起きていた。


眠れなかったのかな。


かなり眠そうな顔をしている。






No.264

「雅樹、おはよう」


「おはよう、まり。お腹の張りはどう?」


「うん、夜よりはマシになったけど、まだ張りはある」


「病院に連絡してみる?出血とかはあるの?」


「出血は今のところないかな?」


「心配だよ。俺、今日仕事休むから一緒に病院に行こう!」


「でも今日、病院の日じゃないよ?」


「病院に連絡してみよう!24時間対応ってこれに書いてあるよ?」


雅樹は、妊娠がわかった時にもらった冊子を開き、病院に電話をした。


「電話代わってだって」


雅樹が電話を私に渡す。


「もしもし、お電話代わりました」


看護師さんと今の状況について話す。


「今日、病院に来れますか?んー、朝一なら多分先生あいていると思うんですけど」


「わかりました。今日の朝一に伺います」


電話を切り、雅樹に「今日の朝一で診てもらえるって」と伝える。


「わかった、俺も一緒に行く」


でもまだ時間は早い。


「俺もシャワー入って来る。まりは動かなくていいから、ゆっくりテレビでもみてて!」


「ありがとう」


雅樹がシャワーをしに行く。


病院に行く時は化粧はせずにマスクで行く。


洗いっぱなしの髪をセットする。


ちょっと動くとお腹が張るし、何か具合が悪い。


おとなしく座っていよう。


雅樹もシャワーから上がり、髪もセットされていた。


お互い着替えたら、すぐに出掛けられる状態。


雅樹が「朝御飯食えるか?」と聞いてきた。


「余り食欲がない。雅樹が食べるなら用意するよ?」


立ち上がろうとしたら、雅樹が「いいから座ってろ!俺もそんなにお腹はすいてないんだ。昨日買ってきたメロンパン食うよ」と言って、昨日雅樹が仕事帰りに買ってきたメロンパンを食べる。


メロンパンと麦茶という組み合わせの朝御飯。


そろそろ時間になり、雅樹が私の軽自動車に乗り病院に向かう。


その方が車の乗り降りが楽だろう、という雅樹の判断。


病院に着いた。


受付を済ます。


いつも、そこそこ混んでいる病院。


名前が呼ばれて、診察室に入る。


雅樹も一緒に入る。


「旦那さんですか?」


「はい」


雅樹は答える。


診察結果を先生が言う。


「切迫早産ですね。このまま入院しましょう」



No.265

ちょうど妊娠6ヶ月に入った20週の時。


まさかの入院。


ストレスかな。


相当なストレスがかかっていたのかな。


雅樹は、早速入院準備のため、一旦自宅に帰る。


ここの産婦人科は、2階が産科でお産した方々と赤ちゃんが入院している病棟、3階が婦人科で入院している方々。


私は3階に入院になる。


お産の方はピンクの病院着、婦人科の方は、薄明るいグリーンの病院着を着る。


私は、トイレ以外は絶対安静。


張り止めの点滴を打たれる。


病室は広く、4人部屋だけど狭く感じない。


私と同じく切迫早産の方が同じ病室だった。


4人部屋だけど、私を入れて3人。


ベッドのまわりはカーテンで仕切られている。


雅樹が戻って来た。


入院する時に必要だと書いてある紙を持って、一つ一つ確認する雅樹。


「これは、これでいいんだよね?これはちょっと悩んだけど、こっち持って来た!」


「うん、ありがとう」


「まさかの3回目の入院だね」


雅樹が言う。


「3回共まさかの入院だけどね」


「確かに」


雅樹は妙に納得する。


母親に知らせない限り、ここに来る事はないだろう。


ちょっとストレスから解放される。


同じ病室の方々にご迷惑はかけられないため、静かに雅樹と話す。


雅樹が「ごめん、ちょっと会社に電話してくる」と言って、病室から出ていく。


赤ちゃんがちゃんと育つまで、お腹の中で頑張ってもらわないと!


雅樹が戻って来た。


「牧野が明日も休んで、加藤さんの側にいてやれって言ってくれたから、明日も来れるよ!」


看護師さんが来た。


入院手続きのため、雅樹が看護師さんと一緒に病室から出ていく。


しばらくして戻って来た。


「看護師さんに「もし、まりの実母が来ても、絶対に部屋に入れないで下さい」と伝えたから」


「ありがとう」


母親がいない、来ない。


これだけで、大半のストレスは軽減される。


ただ、トイレ以外歩けない。


トイレは斜め向かいにある。


病院内を歩く事も出来ない。


ただ、ベッドの隣に小さな冷蔵庫があるため、雅樹にあらかじめ飲み物とか買ってきてもらえれば大丈夫かな?


あと雑誌があればなー。


絶対安静の入院生活が始まる。





No.266

入院してから4日経った。


仕事終わりに、雅樹と一緒に牧野さんと田中さんがお見舞いに来てくれた。


田中さんは空気を読んだのか、いつものテンションではなく、静かに入って来た。


「お久し振りです!」


「加藤さん!久し振り!長谷川さんから聞いたよー!大丈夫?赤ちゃんのためにも今が辛抱の時だよ!暇潰しにどうぞ」


そう言って、たくさんの雑誌やマンガ本を買って来てくれた。


「リサイクルショップで買ってきたから、遠慮なく読んで!」


「こんなにたくさん、ありがとうございます。お金払います。いくらでしたか?」


「いーのいーの!加藤さんには、これから頑張ってもらわないといけないんだから、ホンの気持ち!前に立花さんが切迫で入院した時に、雑誌は神だったって言ってたのを思い出してさー、昨日仕事終わってから、牧野さんと買いに行って来たんだ!」


「ありがとうございます」


牧野さんからも「今はゆっくり休んでね。長谷川の事は何も心配しなくても大丈夫だから!」と言ってくれた。


「ありがとうございます」


田中さんが耳元で「加藤さん、少し太った?」と言って来た。


「はい」


「私も」


そう言って笑う。


「余り長居も悪いから、そろそろ行くね!加藤さん、ゆっくり休んでね!じゃあね!」


そう言って、牧野夫妻は帰って行く。


雅樹が「見送って来る」と言って、一緒に病室から出ていく。


雅樹が戻って来た。


「牧野さんと田中さんにお礼言っておいて」


「もちろん!まり、調子はどうだ?」


「相変わらず。トイレしか行けないし、暇だよ」


「一応、圭介くんとお義兄さんには伝えてあるから」


「ありがとう」


「早く家に帰りたいな。あれからお母さん、家に来る?」


「いや、来ない」


「なら良かった」


「まりはゆっくり休め。何も気にするな!じゃあ、そろそろ面会時間終わるから帰るね。また明日来るよ」


「うん。おやすみ!」


雅樹が帰る。


帰った後は、急に寂しくなる。


消灯までまだ時間はある。


早速、買ってきてくれたマンガ本を読む。


少女マンガ。


胸キュンシーンに、私も高校生の時に、こんな恋愛したかったなー。


そう思いながらマンガを読む。


今みても、なかなか面白い。


No.267

翌日、朝御飯を食べている時に、私の携帯がピカピカ光っているのに気付く。


携帯はサイレントにしているため、音は鳴らない。


「誰だろ?」


携帯を開くと、斎藤くんからのショートメール。


「久し振り。切迫で入院してるの?お見舞いは行けないけどお大事に」


「おはよう。久し振り。ありがとう」


返事をする。


すぐに返信。


「俺は相変わらずです。長谷川さんと仲良くね」


「はい。斎藤くんも早くいい人見つけてね」


「ありがとう。仕事に行って来ます」


「行ってらっしゃい!」


その後に、斎藤くんのメールアドレスが送られてきた。


とりあえず保存はしておこう。


先生の回診。


内診をされる。


「お腹の張り、だいぶ落ち着いた?」


「はい」


「だからって、動き回ったらダメだよー」


「はい」


「ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます」


入院中は本当に本は神だ。


する事がないから、ずっと本を読んでいる。


同じ病室の人同士は、余り話をしない。


煩わしくなくて、私にはちょうどいい。


ご飯食べて、昼寝して、本を読んで寝る。


みたいな入院生活。


約1ヶ月の入院期間。


先生の許可も出て、無事に退院。


約1ヶ月振りの我が家に帰る。


何か、家に感じる違和感。


何だろ。


でも変わりはない。


気のせいかな?


雅樹は会社を休んで、病院まで来てくれた。


「まりはゆっくり休んでて!」


「ありがとう」


雅樹は色々してくれた。


ご飯作りや掃除などの家事もやってくれた。


母親が来ない安心感から、私も雅樹も落ち着いている。


早いもので、もうすぐ臨月。


お腹の子がいつ生まれてもいい様に、少しずつベビー用品を用意していく。


おむつや産着、布団、ある程度は揃えた。


あとは田中さんや立花さんから雅樹を通してお下がりをもらう。


有り難い。


出産予定日まで1週間。


今まではお腹の中で、うにょうにょ動いているのがわかったけど、余り動かなくなった。


本にも書いてあった。


赤ちゃんも出産準備に入った証拠だと。


いよいよ会えるね!


No.268

予定日より5日早い朝。


ちょうど朝御飯の準備をしていたその時に、お腹の中で何かがはじける感覚がした。


「えっ?なに!?」


その声に雅樹が「どうした!」と台所に来る。


「わかんないけど…多分破水した」


「えっ!?」


下半身が濡れていく感じがする。


雅樹が病院に電話をする。


「今すぐ来て下さい!だって!」


雅樹は仕事に行くつもりでスーツを着ていたが、そのままの姿で病院に向かう。


まとめておいた入院の荷物を持って、私の車に乗り込む。


シートが濡れたら大変だとバスタオルを敷いて、その上に座る。


病院に着く。


雅樹が裏口に車をつけて、中に入って行く。


すると看護師さんと一緒に病院から出てきた。


看護師さんが「歩けますか?大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。


「大丈夫です」


まだ痛みはない。


「俺、車を移動してから行くから!」


雅樹はそう言って、車に乗り込み移動させに行く。


看護師さんと一緒にエレベーターに乗り、2階の産科病棟に向かう。


一番奥にある小さな部屋に通される。


陣痛から分娩が移動しないでそのままこの部屋で可能。


5部屋あり、1部屋が「使用中」の札がかかっていた。


部屋には名前がついていて、私は「ひまわり」と書かれた部屋。


他は「さくら」「ゆり」「ばら」「チューリップ」と花の名前がついていた。


私は早速着替える。


雅樹が入院する荷物を持って部屋に来た。


看護師さんが「旦那さんは立ち会い希望でしたか?」と雅樹に聞く。


「はい」


「あの、立ち会いする旦那さん、途中で具合が悪くなって倒れてしまう方も結構いらっしゃるんですが、その辺りは大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


ベッドがある部屋に移動する。


しばらくして、大便がしたい感覚がじわじわ来る。


雅樹が「俺、ちょっと電話してくるから!」と言って、一旦部屋から出る。


看護師さんに「すみません、大便がしたい感覚が…」と言うと「赤ちゃんが下がってきているので、押されてそういう感覚になりますよ」と言われた。


じわじわと陣痛が襲って来る。


腰が鈍い痛みに襲われる。


雅樹はずっと近くにいてくれた。


看護師さんがたまに様子を見に来てくれる。


いよいよ出産が近い。





No.269

病院に来てから6時間が経過。


陣痛がじわじわから一気に激痛に変わる。


唸る私。


雅樹は「頑張って!」と私の手を握る。


私は陣痛の波が来る度に、雅樹の手をぐっと握る。


「あー!痛い!」


「まり!頑張れ!」


雅樹の手は赤くなっている。


先生が来て内診。


「うーん、まだ子宮口4センチくらいだね。でも今日中には生まれるよ」


えっ?まだかかるの?


先生の話を聞いて、まだ出産までいかない事を知る。


雅樹は、トイレと電話以外はずっといてくれた。


病院に来て、12時間が経過。


雅樹も少し疲れた様子。


「まり、頑張れ!俺は、近くにいてあげる事しか出来ないけど」


そう言いながら、私の顔の汗をタオルで拭いてくれる。


先生が来た。


ちょっとあわただしくなる。


「長谷川さん!頑張って!赤ちゃんの頭が見え始めましたよ!」


返事をする余裕がない。


ただただ、陣痛の痛みに耐える。


「はい!いきんで!そうそう!もう一回!」


いきんでは唸る。


「もう少し!頑張って!はい!いきんで!」


その時に、ヌルンと出た感覚がした。


「おめでとうございます!男の子ですよ!」


まだ泣かない。


一瞬不安になる。


「ふえ…ふえ…」


泣いた!


ちょっとしてから、今さっき生まれた我が子を看護師さんが見せてくれた。


まだ濡れていて、所々に若干血がついている。


雅樹は生まれる瞬間から号泣している。


私も赤ちゃんを見た瞬間に涙が出てきた。


赤ちゃんはそのまま、どこかに連れていかれた。


雅樹が「まり!良く頑張った!感動したよ。ありがとう!ありがとう!」と言って目を真っ赤にしている。


さっきまで、あんなに陣痛で苦しかったのに、今はそうでもない。


お腹に手を当てる。


あんなにパンパンで固かったお腹が、ぶよぶよとしている。


赤ちゃんが青いバスタオルに包まれて、キレイになって戻って来た。


「はじめまして!よろしくね!」


赤ちゃんを抱っこした看護師さんが私達に言う。


そして私の隣に寝かせてくれた。


ぐっすり眠っている我が子。


雅樹と2人で赤ちゃんを見る。


無事に生まれた。










No.270

我が子に優真と名付けた。


優しく真っ直ぐに育って欲しい、との願いを込めて。


良くミルクを飲み、良く寝て、泣き声は元気ないい子。


母乳も、おっぱいが小さいからか、有り難い事に出なくて困るという事もなく、優真は母乳で元気に育ってくれた。


雅樹も、おむつを替えてくれたり、沐浴してくれたりと育児に協力をしてくれた。


ただ繁忙期になると、残業続きで出来る事も限られてしまったが、積極的に頑張ってくれていた。


慣れない育児に奮闘する毎日。


1日があっという間に過ぎていく。


父親には生まれた事は伝えたけど、母親には直接言ってない。


牧野さん夫妻、立花さん、千葉さん、坂田さん、渡辺さん、渋谷くん、斎藤くん、高橋さん、支社長他、会社の皆様からお祝いを頂く。


お返し物を買いに行くのは雅樹に任せた。


兄と弟、雅樹のご両親、お義姉さん夫妻からもお祝いを頂いた。


千佳さんが、甥っ子のお下がりをたくさんくれた。


まだ大きなサイズだけど、結構新しい服もあり有り難く頂戴する。


生まれてから早いもので1ヶ月が経ち、1ヶ月検診に向かう。


私も優真も問題ないと言われて一安心。


1ヶ月検診が終わり、性交渉はオッケーと言われ、出産してから初めて雅樹とSEXをした。


痛かった。


優真を生んでから、余り雅樹とSEXする事も少なくなる。


前はやりまくっていたけど、今は1ヶ月に数回あるかどうか。


育児優先で私は優真と和室で寝て、雅樹は一人でベッドで寝る生活に変わって行く。


優真が隣に寝ている状態でのSEXは、どうしても優真が起きないだろうか?とか考えてしまい、前みたいに雅樹を受け入れる事が出来なくなってしまっていた。


雅樹もそんな私を見て、前ほど私を抱く事もなくなる。


雅樹は結構、性欲が強いから、きっと我慢しているんだろうな。


本当は前みたいに雅樹を受け入れたいけど、どうしても受け入れられない。


ある日。


私と優真が寝ている和室に雅樹が来た。


「まり…俺、爆発しそうなんだ。久し振りにSEXしよ?」


「でも今、優真寝たばかりだし…」


「じゃあ口でして。もう我慢出来ないよ…」


前はそんな事言う人じゃなかったのに…。






No.271

雅樹が愛撫もなしに、無言で私のパジャマの下だけ脱がして、いきなり挿れて来た。


「待って!やめて!」


雅樹は私の足を開いて力強くつかみ、無言挿れながら腰を振ってくる。


上半身はパジャマを来たまま。


「ダメ!ちょっと待って…」


「あー、まり、気持ちいいよ…」


いつもならたくさん愛撫もしてくれるし、たくさんキスもしてくれる。


こんなにいきなり挿れて、裸じゃない状態のSEXは初めて。


いつもの「まり、出ちゃうよ…」っていう言葉もなく「はぁ…」っていう吐息と共に腰の動きが止まる。


中で出した。


終わってから雅樹が「ごめん、我慢出来なかった」と言って、ティッシュで拭いてからパンツをはいてそのまま寝室に行ってしまった。


雅樹、どうしたの?


いつもの雅樹じゃない。


それからも、私を愛してくれるSEXではなく、性処理みたいなSEXが続いた。


キスなし、愛撫なし、いきなり挿れてきて無言で腰をひたすら振り続けて中に出して、すぐに寝室に行く。


この頃から、雅樹が変わって来た気がする。


「雅樹、最近どうしたの?」


私が休みで家にいた雅樹に声をかける。


「別に何でもないよ」


「だって、最近、私とのSEXに愛を感じないから」


「そんな事もないと思うけど?」


「最近の雅樹、ちょっとおかしいよ?」


「…なぁ、まり」


「なに?」


「もうすぐ優真も1歳になるよな?」


「うん」


「まりは優真を生んでから、何か変わってしまったんだよな。俺とSEXしていても、前みたいに感じてくれなくなったし、優真ばかりで全然俺とSEXしてくれない。夫婦生活がないのって、離婚事案にもなるんだよ?」


「だって、いきなり挿れて来て、無言で腰を振ってるだけだよ?私、何にも気持ち良くないし」


「じゃあ、めちゃくちゃ気持ち良くしてやるよ」


そう言って、優真の前でその場で押し倒された。


「ダメ!優真見てるよ!」


「まだわかんないよ」


キスされる。


服を脱がされる。


雅樹が怖い。


抵抗出来ないよ。


居間のソファーで裸でSEX。


下半身を触られる。


「まりもイケよ。優真の前で女になれよ。気持ち良くなれよ!」


下半身を触られながら雅樹がバックで挿れてきた。




No.272

「あぁ…ダメ、いっちゃうよ…気持ちいい…」


「もっと気持ち良くなれよ!」


雅樹はガンガン後ろから突いてくる。


でも優真が気になる。


そんな私を止める様に、私の感じるところを触って来る。


「優真じゃなくて、俺だけ見てくれ!今、俺とまりは愛し合っているんだよ。優真にもパパとママはこうして愛し合って優真が生まれたんだよって見せてやるんだ」


気持ちいい。


力が抜けて立てなくなる。


雅樹は私をラグマットの上に寝かせて正常位で腰を振ってくる。


「まり、すごい濡れてる。エロいよまり。もっともっと気持ち良くなって」


「あぁ…雅樹…」


優真を生んでから、こんなに乱れまくったSEXは初めてだった。


「まり、愛してるよ…」


「私も愛してる」


たくさんキスをしてきた。


「まり、出ちゃうよ…」と言って、中に出す。


優真を見ると、この間買ってあげたおもちゃに夢中になっていた。


終わってから「雅樹…寂しかったの?」と聞く。


「…うん、でも今のSEXでまりの気持ちが離れてないのはわかった。突然ごめん。服着ようか?」


いつもの雅樹に戻った。


それから、優真が寝てから、雅樹と愛し合う様になった。


前みたいに性処理みたいなものではなく、いつもの優しいSEX。


優真は大事。


でも雅樹も大事。


子供が起きている時にSEXしたのは、この1回だけだけど、優真も成長してくると気付く様になるんじゃないだろうか?


たまに雅樹の実家に優真を預けて、ホテルで朝からやりまくる事もあった。


お互いの気持ちを確かめ合う。


雅樹はもう40歳になるのに、性欲は衰えない。


優真はすくすく育ってくれる。


歩く様になり、目を離せられなくなる。


ちょっと目を離すと、部屋はおもちゃが散乱している。


片付けている目の前で、おもちゃが散乱。


雅樹のご両親にとっては初孫。


可愛くて仕方がない様子で、いつも色んなおもちゃを買ってくれる。


雅樹が「甘やかさないで!」と言っても「ジジババの楽しみを奪わないで!」と言ってはおもちゃや服を買ってくれる。


雅樹のお父さんも定年退職し、優真と遊ぶのを何より楽しみにしている。







No.273

優真が2歳になった。


色々話す様になり、益々可愛くなる。


いたずら盛りであり、自我も出て来て手を焼くけど、やっぱり可愛い我が子。


ちょっときつく叱りつけて泣く優真。


寝ている姿を見て「ちょっときつく叱り過ぎたかな?」と反省する日々。


雅樹は優しいけど、叱るところは叱る。


優真がパパに叱られて、泣きながら「ママー」と歩いて来る姿は可愛すぎる。


そんなある日。


母親が「孫に合わせろ」と突然やって来た。


「嫌だ」


「何故だ!」


「殺そうとしたから」


「お母さんがいつそんな事をしたんだ!そうやってお母さんを悪く言うのは止めなさい!」


「会わせたくなったら行くから」


「そう言うけど、全く来ないじゃないか!」


「お父さん呼ぶね」


私は父親に連絡。


「俺が本屋に行ってる間に、また行ったか!今向かう」


しばらく外で騒いでいたが、父親が来るとおとなしくなった。


私は、優真がお腹にいる時にされた事を許す気はない。


いくら母親でも。


ただ、全く会わせないのは可哀想だろうと、数ヵ月に一回程度、実家に連れていくのはせめてもの情け。


父親には会わせたいし。


そんなある日。


天気が良かったため、優真を連れて近くの公園までお散歩しに行く。


優真は色々な物に興味を持って、あちこち寄り道をしながら公園まで歩く。


私の携帯が鳴る。


斎藤くんからのメールだった。


「加藤、心して読め。長谷川さん、女いるぞ」


「まさかー!悪い冗談はやめて」


すると雅樹と女が会社の駐車場でキスしている写メが添付されてきた。


血の気がひくのがわかる。


手が震える。


「嘘だよね?合成だよね?」


「お前も支社の駐車場の景色、覚えてるだろ?」


確かに、支社の裏の2階建ての建物が写っている。


「これは誰が撮ったの?」


「俺。加藤に黙っていようと思った。何かの間違いじゃないかと思った。でも加藤の事を思って知らせた。相談なら乗るぞ」


嘘だよね?


だって雅樹、優真の事を可愛がってくれてるし、あれから雅樹とはちゃんと愛し合っているよ?


何かの間違いだよね?




No.274

「ただいまー!今日のご飯は麻婆豆腐かー!着替えてくる!」


そう言って着替えに行く。


いつもの雅樹。


優真が「パパー!」と言って、雅樹の後をついていく。


「優真ー!パパと一緒に風呂入るか!」


「うん!」


その様子を見ていて、斎藤くんが何か誤解をしてるんじゃないか?


たまたまそういう風に写メが撮れただけだよ。


雅樹が会社の駐車場で、他の女とキスする訳ないじゃん!


きつい冗談言うなー!


これは雅樹には黙っておこう。


聞き流しておこう。


「まり!ご飯食べたら、優真と風呂に入って来るよ!」


「わかったよ!」


「パパとおふろ!」


「なー。パパとお風呂入るんだもんな!」


「うん!」


日常の家族の会話。


私が余計な事を言って、この日常を壊したくない。


ぐっと我慢。


それからも変わらない日常。


優真も今度で3歳。


スーパーに買い物に行った時に、幼稚園の来年度の園児募集の張り紙を見つけた。


毎週木曜日に、親同伴で幼稚園で遊べる事が出来ると書いてあったから、記載されている電話番号に電話をかけてみる。


「本格的に幼稚園に入園前に、子供が慣れる様に週1回、幼稚園の広場を解放して、幼稚園の先生の手遊びや絵本の読み聞かせ、ちょっとした体操等をやっています、よろしければ今度の木曜日いかがですか?」


「是非お願いします!」


名前と連絡先を告げ、木曜日の10時までに来園する約束をした。


雅樹に話してみると「優真も同じ年齢の子供達と遊ぶのも、楽しいだろうし、連れていってみたらいいよ!友達も出来るかもしれないし」と大賛成。


これで少しでも慣れたら、来年度はこの幼稚園に入園する方向で考えてみる。


木曜日。


「優真ー!今日は楽しいところに行くんだよ!」


「ママもいく?」


「もちろん、ママも一緒に行くよー!」


上靴とタオルを持って来て下さい、と言っていたので、上靴とタオルを持って幼稚園に向かう。


園庭の門が開いていた。


近くにいた先生に「お電話させて頂いた長谷川なんですが…」と聞くと「長谷川優真くんですね!」と言って、しゃがんで優真に「こんにちは!」と挨拶。


優真は少し恥ずかしがり、私の足の後ろに隠れる。









No.275

先生が「優真くん、あそこでね、これから楽しい楽しいお話が始まるんだよー!ママと一緒に見てみよっか!」と優真に優しく言う。


優真は気になるのか、足の横から顔を出して様子を見る。


「ママと一緒に行って見よう!」


すると優真が私の顔を見た。


「優真、行ってみよっか!楽しいお話が始まるんだって!」


「いく!」


先生は「どうぞー!」と言って、私達を案内してくれた。


他にも親子が15組程来ていた。


会釈をしながら、後ろの空いている席に座る。


若い先生2人が紙芝居を読んでくれた。


主人公のタヌキがとても可愛い絵。


分かりやすく、とても楽しい紙芝居。


優真を見ると、真剣に紙芝居を見入っている。


紙芝居が終わると、きている親子で簡単な指遊び。


優真は楽しそうに指遊びをしている。


約2時間、楽しい時間を過ごす。


帰り際に、幼稚園のパンフレットをもらった。


先生も明るいし、幼稚園も新しいし、雰囲気もいい。


しかも給食が出るらしい。


少し幼稚園代は高めだけど悪くない。


何より優真が「またきたい!」と言っていた。


来週も来る約束をし帰宅。


夜に雅樹に幼稚園のパンフレットを見せる。


毎月、誕生日会や何かのイベント、運動会、親子バス遠足、お遊戯会、夏祭り、色んな行事もある。


雅樹も「良さそうなところだね。何より優真が楽しそうに話していた。検討してみようか?」と話す。


それからも優真と、毎週木曜日の午前中は幼稚園に行っていた。


何度か行くと、優真もすっかり慣れて、いつも最後にする体操はすっかり覚えて、家でもする様になった。


何より楽しそう。


それが一番の決め手になり、この幼稚園に入園申込書を出す。


人気がある幼稚園みたいで、入園申込書を出す時は行列が出来ていたけど、優真の様にプレで通っている子や、上の子が通っている、又は通っていた子は優先入園が出来る。


優真が幼稚園に通う様になれば、少しは自分の時間が出来るかな?


美容室に行ったり、のんびり買い物したり。


積極的な子ではないけど、とても優しい子。


自分の気持ちを伝えるのが苦手で、うまく言えない時は泣いたり怒ったりする事もあるけど、お友達と遊ぶ様になれば少しは変わってくれるかな?






No.276

優真が幼稚園に入園前は、色々作らなきゃいけないものや、用意しなきゃいけないものがあり、あわただしい日々だった。


なかなか雅樹との時間も取れなかった。


上靴やハンカチ、水筒、ランチョンマット、色々準備に走り、他に家事もして、優真が寝てから慣れないミシンと格闘。


大変だったけど息子のために必死だった。


昼間は優真との時間を大切にしたかったから、夜にミシンを使っていた。


雅樹も理解してくれていると思っていた。


もちろんまたSEXの回数も自然と減っていく。


私が忙しそうにしているのを見て、気を使ってくれていると思っていた。


雅樹が浮気をしていた。


斎藤くんが言っていた事は、本当だった。


優真の入園式の2日前。


頑張って作っていたものも全て完成し、後は入園式を待つばかりの時。


私もスーツをクリーニングに出して、靴も買って、入園式に備えていた。


優真が寝てから、久し振りに雅樹とSEXをした。


挿れている時に「まな、愛してるよ」と言った。


私はまり。


雅樹は名前を違っている事に気付いていない。


終わってから聞いてみた。


「どうして今日、私としたの?」


「したかったから」


「まなさんと?」


「えっ?」


「私の名前、間違えてたよ」


「聞き間違えじゃないの?」


「名前を?」


「…」


以外にあっさり浮気がばれ、認めた。


「まり、ごめん」


「いつから?」


「…まりが入院した辺りから」


「誰?」


「会社の取引先の人」


「ふぅーん。その人の事を考えながら私とやってたんだ。だから名前間違えたんだね」


「違う!」


「もう3年も裏切られてたのかー!」


「まりが、俺の事を構ってくれないから!」


「だから浮気したと」


「寂しかったんだよ」


「…言い訳なら聞くけど?」


「…ごめん」


ここで、ふと退院した時の違和感を思い出す。


女を部屋に連れ込んでいたから!?


最低。


雅樹がそんな人だったなんて。


私は服を着て、荷物をまとめる。


入園式に持って行く一式も全て持ち、そして優真を抱っこして車に乗り込む。


優真は寝惚けている。


雅樹が追いかけて来たけど無視。


逃げる様に車を走らせた。





No.277

10分程車を市内に向けて走らせると、河川敷があり、そこの駐車場に車を停めた。


優真は睡魔に勝てないのか、チャイルドシートに乗ったまま爆睡している。


私は寝ている優真を見て、号泣した。


時間を見ると23時過ぎ。


斎藤くん、起きてるかな。


メールをしようと携帯を開くと、雅樹からの着信で履歴が埋まっている。


今は雅樹と話したくない。


斎藤くんにメールをしようとしても雅樹から着信が続く。


ひらすら無視。


「まだ起きてますか?」


斎藤くんにメール。


すぐに返信。


「起きてるよ。どうした?」


「ちょっとだけ、電話していい?」


するとすぐに斎藤くんから電話が来た。


「加藤?どうした?こんな時間に…」


「ごめん。ちょっと話がしたくて…」


そう言うと涙が止まらなくなった。


「どうした?今、どこにいる?長谷川さんと何かあったの?迎えに行こうか?それともうちに来る?散らかってるけど」


号泣し、私は話が出来ない。


「…加藤、長谷川さんの事か?浮気認めたとか?」


その言葉に「うん」と泣きながら返事。


「…俺んち来て、ゆっくり話を聞いてやるよ」


「…子供もいるけど」


「別にいいよ。来いよ。大丈夫。子供の前で加藤を襲ったりしないから」


斎藤くん家の住所を教えてもらう。


そんなに離れていない。


ちょうど本社と支社の間くらいの場所。


結構キレイなマンション。


「着きました。斎藤くんの車の前に停まってる」


「今行く」


すぐに斎藤くんが部屋から出て来た。


「車、こっち停めて」


言われた場所に、車を移動。


後ろの座席にいる息子を抱っこしてくれる。


荷物を持って、斎藤くんの部屋に入る。


「お邪魔します」


「散らかってるけどどうぞ」


雅樹以外の男性の部屋に入るのは初めて。


男性の部屋らしく、雑然としているが、別に足の踏み場がない訳でもなく、色んなものが所々にごちゃと置いてある。


1LDKの部屋。


優真は寝惚けている。


「ママ、おしっこしたい」


斎藤くんが「こっち」とトイレに案内してくれて電気をつけてくれた。


優真と一緒にトイレをして、部屋に戻る。


優真は「ママ、眠たい」と言って、私の膝を枕にしてまた寝てしまった。


No.278

「可愛いね。加藤に似てるね」


斎藤くんは優真を見て微笑む。


「何歳?3歳位だよね?」


「うん。明後日入園式なの」


「だからあんなに荷物があったのか。ところで、長谷川さんと喧嘩したの?」


「喧嘩って言うか…ちょっと言いにくいんだけど…意外な感じで浮気がばれて、長谷川さんが認めた」


「どうした?長谷川さんとやってる最中にばれたとか?」


「どうしてわかるの?」


「だって、そんな感じしたから」


「…やってる最中に、違う女の名前を言われた」


「きついねー」


「で、聞いたらあっさり認めた。この子の出産する時には、女いたんだね。斎藤くんが前に送って来た写メ、嘘だと思ってた。でも本当だった。あんなに大好きだったのにな。3年も裏切られてた」


「会社でも、ちょっと様子がおかしい時があるんだよ。牧野さんも様子がおかしいのは気付いているはず。でも長谷川さん、うまいんだよ。だからまだ浮気している事は誰も知らない」


「そうなんだ」


「俺なら加藤を絶対悲しませたりしないんだけどなー。行くところないなら、うちにいる?俺は構わないし、会社にも言わないし。その代わり、加藤を襲うかもしれないけど」


「…」


「まだ人妻だもんな、息子もいるし。出来ないよ」


「人様に見せられる体じゃないの。傷だらけだし、出産でお腹たるんだし」


「でも長谷川さんとはやってるんだろ?」


「…一応旦那だし」


「お前、少し寝れば?」


「斎藤くん、明日も仕事なんでしょ?」


「あれ?聞いてない?明日から今週いっぱい支社を改装するから、支社休みでその間、本社で回すの。だから俺は明日と明後日休みなんだ」


「そうなの?初耳」


「長谷川さんも明日と明後日、休みのはずだよ?」


「聞いてない」


「あれー?俺、余計な事を言ったみたいだね」


「…」


「さっきから、ずっと加藤の携帯、ブーブー言ってるぞ?長谷川さんじゃないのか?」


「今は話したくない」


「俺と一回やってみる?そしたら長谷川さんの事を許せるかもしれないよ?」


「いや…それは…」


「さっきまで長谷川さんとやってたんだもんな。無理だよね。俺はいけるけど?」


「…」


ヤバい、斎藤くん、私の傷付いた心の隙間にグイグイ入って来る。


負けそう。

No.279

「長谷川さんの事はまだ好き?」


「わかんないよ。気持ちがぐちゃぐちゃ」


「今はどうしたい?」


「…わかんない」


「明後日、優真くんの入園式なんだよね?優真くん、楽しみにしているんでしょ?パパも一緒にって思っているんでしょ?」


「…うん」


「そしたらまず話し合いじゃないの?これからどうするのか、どうしたいのか、しっかり話し合った方がいいよ。第三者を交えて。お前、弟いたよな?入ってもらえるなら入ってもらえば?俺が行くと、ややこしくなりそうだから」


「…うん」


「逃げてたって何の解決にもならないよ?辛いかもしれないけど、優真くんのためにも頑張らないと!」


「ありがとう」


「まずは今日はゆっくり休め。狭いけど。俺の布団使え!一応休みの日には干したり洗濯したりしてるから汚くはないはず」


「いいよ、私はここで優真と寝るから?」


「俺と優真くんと寝ようか?あっ、ちょっと俺、シャワーしてきていい?ちょうどシャワーしようと思ってたところにお前から電話来たんだよ。お前も入るか?やった後は入った方がいいぞ(笑)」


「うるさい!早くシャワーしてきなよ」


あははー!と笑いながらシャワーをしに向かう斎藤くん。


優真の寝顔を見る。


ぐっすり眠っている。


この子は一回寝ると、朝までなかなか起きない。


斎藤くんの誘惑に負けそうになるけど、斎藤くんに電話した時は、ただ話を聞いて欲しくて勢いで来ちゃったけど…よく考えたら男の部屋に来るって事は、そうなっても仕方ないよね。


雅樹も他の女とやっていた。


私がもし斎藤くんとしちゃったら…同じになってしまうって事か。


雅樹を許す?


許せる?


私が斎藤くんとやったら許せる?


雅樹は私が斎藤くんとしちゃったのがわかったらどう思う?


優真は?


優真のためにも雅樹に戻った方がいいよね。


パパ大好きだもんね。


でも、今は雅樹と話したくないし顔も見たくない。


このまま斎藤くんの家にずっといる訳にもいかない。


どうしたらいいの?


考えていたら、斎藤くんがシャワーから上がった。


「加藤も入れば?使い捨てなら歯ブラシもあるよ?」


「…ありがとう」


「優真くんは俺が見てるから入っておいでよ」


シャワーを借りる事にした。




No.280

シャワーをする。


結構斎藤くんって、きれいにしてるんだ。


お風呂場も脱衣場も意外にすっきり片付いている。


フェイスタオルを勝手に借りて、体を洗う。


雅樹とのSEXを思い出し、ごしごし洗う。


今は雅樹の全てを洗い流したい。


中に出されたものも洗い流したいが、それは無理。


とりあえず洗いまくる。


あれからずっとつけているネックレス。


結婚指輪。


見ると、雅樹の笑顔を思い出す。


涙が出てくる。


ダメダメ!


顔を洗う。


よし!


すっきりした!


シャワーする時に持って来たバッグから替えの下着を取り出す。


一緒にいつも着ている、ダボッとしたスウェットに着替える。


「ありがとう!さっぱりした!優真は起きなかった?」


「大丈夫だったよ。加藤のスウェット姿って初めて見る。可愛いじゃん」


「そんなに誉めなくても」


「優真くん、ここじゃあ可哀想だから、もう一組布団あるから敷いておいたよ。俺は加藤と寝るから、優真くんにはここでゆっくり寝てもらおう!」


「私は優真と寝るから、斎藤くんはゆっくり一人で寝なよ」


すると斎藤くん、優真を敷いた布団に寝かせてくれてから、部屋の電気を消す。


「加藤、俺は加藤の事が好きなんだよ。でも長谷川さんの奥さんだからずっと我慢してきた。でも、今回加藤が俺を頼ってくれて本当に嬉しかった」


そう言って抱き締められた。


「前回はこれでお預けだった。今日はこの先も解禁して」


「…」


キスされた。


すごく優しいキス。


何度もキスされた。


私も胸がキュンとなる。


斎藤くんを受け入れた。


斎藤くんの布団に入る。


キスされた。


「加藤、本当にいいの?俺、最後までやっちゃうよ?止めるならまだ理性がきいてる今だよ?」


「…任せる」


「もうダメだ!加藤!今まで我慢してきた分、めちゃくちゃにしてやる!」


そう言ってまたキスしてきた。


そして首筋にもキス。


スウェットを脱がされ、ブラもキスしながら片手で外す。


雅樹以外の男性とは初めてのSEX。


雅樹とは全然違う。


やっぱり斎藤くんも女慣れしている感じがする。









No.281

「…挿れちゃうよ?」


「うん」


「本当にいいの?」


「我慢出来るの?」


「出来ない、挿れるよ?…あぁ…加藤の中、あったかくて気持ちいいよ」


「あぁ…私も、斎藤くんのが入っているのがわかる…」


斎藤くんが腰を振る。


「加藤、愛してるよ。俺、ずっと加藤とこうしたかった…気持ちいいよ」


「私も気持ちいい」


「長谷川さんと、どっちが気持ちいい?」


「…斎藤くん」


腰を振りながらたくさんキスをしてくる。


私も応える。


「ねぇ、女の子ってここを触るともっと気持ちいいんでしょ?」


斎藤くんは挿れながら、一番敏感なところを触る。


「やだ…ダメ」


思わずのけ反る。


「ヤバい、加藤エロ過ぎ、長谷川さんはいつもこんなエロい加藤を見ていたのか…たまんねーよ。こんなにいい女なのに」


激しく突いてくる。


「ヤバい、俺、出る!どこに出す?」


「中でいいよ」


「マジで?中に出していいの?」


「お願い、中に出して」


「本当に中で出すよ」


「うん」


斎藤くんは一瞬抜こうとしたが、私がギュッと腰を押さえて中に出した。


「中に出しちゃったよ?」


「いいよ」


「お前エロ過ぎ」


「そんな事ないよ」


雅樹よりやっている最中、よくしゃべる。


雅樹とは違う男性とやってしまった。


相手が変わると、同じSEXでも全然違う事がわかった。


新鮮に感じる。


今まで雅樹しか知らなかったから、ちょっと不思議な感覚。


きっと雅樹も私以外の女とやっていて、新鮮に感じた事だろう。


「不倫しちゃったね」


斎藤くんが言う。


「長谷川さんはいいなー。加藤を嫁さんに出来て。浮気するくらいなら、俺に譲ってくれないかなー!俺は絶対加藤を悲しませない自信があるんだけどなー」


「斎藤くん…」


「エッチしている時の加藤ってヤバいね!俺、女を抱いたの離婚以来だよ」


「そうなの?」


「だから加藤の中で暴発したじゃん!多分すごい事になってるよ」


キスをしてくる。


「もう一回する?」


「えっ?」


「だって…触って」


斎藤くんの物が大きくなっていた。


斎藤くんも私の下半身を触る。


「もう一回挿れていい?」


「…うん」


もう一回始まった。


No.282

2回目が終わる。


「加藤とのエッチは、今回が最初で最後かな、きっと。長谷川さんのところに戻るなら、俺との事は、墓場まで持っていけ。離婚するなら、またチャンスありかな?」


「わからない…けど、今回の事は誰にも言わない。墓場まで持って行く。でも斎藤くんとエッチして、また違う人とする感覚を発見出来た」


「えっ?どういう事?」


「私、長谷川さんしか知らなかったから」


「マジで?じゃあ、長谷川さんに処女あげたって事?」


「…うん」


「そうなんだー。じゃあ俺が2人目って事か?」


「そうなる」


「へぇー、何かすごいね」


「何が?」


「だって、初めての相手と結婚して、子供生んだって事だよね?」


「うん」


「すごいね!俺の元嫁は処女じゃなかったなー」


「人それぞれだしね」


服を着て、そのまま就寝。


優真の「ママ!」っていう声で目が覚めた。


「優真!おはよう!おいで!」


優真は笑顔で私が横になっている横に入り込んできた。


「パパは?」


「今日はママのお友達のところに来ているから、パパはいないよ?今日はおうちに帰ろうね!」


「うん」


斎藤くんが、隣でモゾモゾ動いた。


「パパかー」


斎藤くんが呟く。


「俺がパパになりたいよ…」


また隣で呟く。


優真が「だーれー?」と斎藤くんに言う。


「ママのお友達だよ!よろしくね!」


斎藤くんが起き上がり、優真に挨拶。


「ママのおともだち?」


「そうだよ!明日から幼稚園だろ?ママみたいにお友達いっぱい作れよ!」


「うん!幼稚園ね、たのしみなの!ママみたいにいっぱいおともだちつくるよ!」


「いい子だね!優真くんは」


「うん!」


ほめられて嬉しそう。


「オレンジジュース飲めるか?」


「のめるよ」


「じゃあ、今用意してあげるからいい子出来るかな?」


「できる!」


「よし!じゃあいい子で待ってろよ!」


「うん!」


斎藤くんは優真にジュースを入れてくれた。


「優真!なんて言うの?」


「ありがとうございます!いただきます!」


「おー!えらいねー!どういたしまして」


笑顔の斎藤くん。


きっと、子供は好きなんだろうな。


No.283

携帯を見る。


夜中2時過ぎまで、雅樹の着信で埋まっていた。


ちょうど斎藤くんとやっていた時。


優真は持って来たおもちゃで遊んでいる。


「斎藤くん。何か色々ありがとう」


「何が?」


「何か、色々救われた気がする」


「なら良かった。また何かあったら、いつでも連絡してこい!メールと発着信は消しとけ」


「うん」


「連絡先は消すなよ」


「大丈夫」


「いいママしてるな。いい子に育つよ」


「ありがとう」


「加藤の背中と足と横腹と腕の傷は、俺の思い出として残しておくよ。裸にならないとわからないから」


「うん。私も斎藤くんの太ももの内側にあるタトゥーは思い出として残しておくよ」


「そうだね(笑)」


「優真!そろそろおうちに帰ろうか?お片付けしようー!」


「おうちに帰るの?」


「帰るよー!ママのお友達にバイバイして!」


「バイバイ」


「うん、バイバイ!」


「ありがとう。じゃあまた」


「うん。頑張って!」


笑顔で玄関先まで見送ってくれた。


車に乗り込み、駐車場から出る。


近くのコンビニの駐車場に車を停める。


携帯を開く。


今さっき、また雅樹から着信があった。


「ふぅ…」


深呼吸をして、雅樹に電話をかける。


すぐに出た。


「まり?やっと繋がった!どこにいるの?」


「ちょっと出先。ねぇ雅樹。今日時間あるならゆっくり話がしたい」


「大丈夫。帰って来てくれる?待ってるよ。優真は?」


「ちゃんといるよ。ご心配なく」


「わかった。待ってる」


「今、市内だから、15分から20分くらい」


「待ってるよ」


電話を切る。


その後、優真と一緒にコンビニに入り、お茶とコーヒー、優真のジュースを買い、車に乗り込む。


コーヒーを飲み「よし」と気合いを入れる。


今なら雅樹を許してあげれる。


私も同じだから。


仲直りしよう。


そう思い、自宅に向けて車を走らせる。


自宅に着くと、雅樹が玄関で土下座をしていた。


「まりさん!この度は本当に申し訳ありませんでした!女とは切りました。もう絶対に裏切りません!どうか許して下さい!」


眠れてなかったのか、目の下のくまが酷い。






No.284

「パパ、どうしたの?」


優真がびっくりしている。


「…雅樹、とりあえず入ろうか」


私と優真が先に居間に入り、後から雅樹が居間に来た。


優真に「今、パパとママ、大事なお話をするから、こっちのお部屋で遊んでいて!」と言うと「うん!」と言って、和室に入って行く。


優真を見るため、和室のふすまは全開にして、私と雅樹が向かい合わせで座る。


何か、雅樹の事を見ても、余り何も感じない自分がいる。


あんなに好きだったのに。


あんなに浮気されて悲しかったのに。


雅樹は、唇を噛み締めてじっと座っている。


「まり…ごめん」


「何に対して?」


「浮気した事」


「女とは切ったんでしょ?」


「はい」


「一つ聞いていい?」


「はい」


「私が入院している間、この家に女連れ込んだ?」


「はい」


「どこでやったの?」


「ベッドです」


「何回連れ込んだの?」


「数えてませんが、4~5回はあります」


「そうですか…楽しかったですか?」


「いえ、まりに罪悪感はありました」


「でも、女との関係は切れなかったと」


「すみません」


「もし、私が同じ様に他の男とやっていたとしたら、どう思う?」


「嫌です。嫌という権利はないですが」


「もう2度と浮気をしないと誓える?」


「誓います!もう2度としません!」


「あと、私が浮気をしていたら私を抱けますか?」


「…他の男との事を想像して、ヤキモチでうまく抱けないかもしれません」


「でも、雅樹は他の女を抱いた手で私も抱いていたって事だけど」


「正直、ばれないでうまくやれると思っていました。まりは優しいから大丈夫、と根拠のない自信と自惚れがありました。本当にすみません」


「…わかりました。今回は許します。本当に女と切れている、という条件で。今日以降に女と会った場合は、次はありません」


雅樹は「ありがとう!ありがとう!」と何度も謝罪をしていた。


でも、何だろう。


どうでもいいやっていう気持ちも芽生えて来ている。


優真のパパ、という感情しかない感じ。


私も罪悪感はあるけど…。


再構築しよう。


でも、しばらく雅樹とのSEXは受け入れられないかもしれない。


No.285

優真の入園式も終わり、優真は毎日元気に幼稚園に行く。


幼稚園に行きたくない!という事もなく、帰って来てから、楽しそうに幼稚園での出来事を話してくれる。


雅樹も、仕事から帰って来たら、一生懸命幼稚園の話をする優真の話をうんうんと聞いている。


優真が寝てから、雅樹が誘って来た。


余り乗り気じゃなかったけど誘いに乗る。


斎藤くんとしてからは初めての雅樹とのSEX。


驚く程、覚めた私がいた。


雅樹は「まり、俺はやっぱりまりしかいないよ…愛してるよ」と言ってキスをしてくるが、何とも思わない。


ただ、体は反応する。


雅樹が挿れて来た。


気持ちはいいが、冷静に腰を動かしている雅樹に合わせている私がいた。


今なら、前の様に下半身だけ脱いで、愛撫なしの雅樹が出すだけのSEXの方がいいかも、とも思った。


雅樹への気持ちが覚めたのかな。


雅樹が中に出す。


「まり、今日も可愛かったよ」


そう言ってキスをしてきた。


でも、他の女ともこうしてやってたんだろうなー。


何の気持ちもないSEXって、何かむなしい。


体だけは反応するけど。


優真のパパとして、再構築していくと決めたからには雅樹とのSEXも受け入れなければならない。


でも段々と苦痛になり始めて来た。


そうなると、雅樹も段々誘わなくなって来た。


ある日。


雅樹が珍しく、会社の書類を忘れた。


支社に電話をする。


牧野さんが電話に出た。


「牧野さん?加藤です。ご無沙汰しています」


「あれー?加藤さん?長谷川、今日休みだよ?有給とってるよ?」


「あの…長谷川さんが書類を忘れたので、電話をしたんですけど…今朝、普通に出勤して行ったんですけど…」


すると小声になり「昼休み、ちょっと抜け出すから話出来る?支社近くの喫茶店、わかるよね?」と話す。


「はい、大丈夫です」


「じゃあお昼にね」


「はい」


もう、雅樹とはダメかもな。


雅樹はモテるだろうし、性欲強いし、私がもう雅樹を受け入れられない。


女には困らないだろうし、もういっそのこと離婚して、優真と2人で生活する方がいいのかな。


仕事探さなきゃな。




No.286

牧野さんとの待ち合わせ場所である、喫茶店に着いた。


まだ昼休みちょっと前。


牧野さんが来るまで、車の中で待つ。


携帯を開くと、斎藤くんからのメール。


「牧野さんと会うの?俺、牧野さんの隣の席だから、昼に会うの聞こえた。牧野さんは多分、長谷川さんの女の事は知ってるはず。聞いたらいいよ」


「ありがとう。私、もう長谷川さんを受け入れられない。再構築をしようとしたけど、また裏切られた。もう無理かなぁ」


仕事中のはすだけど、すぐに返信。


「離婚するの?」


「それも視野にいれてる」


「そっか。とりあえず今日、牧野さんに話を聞いてもらえ。今、牧野さん向かったわ」


「ありがとう」


昼休憩時間少し前。


牧野さんが来た。


「久し振り!ごめんね、呼び出して」


「いえ、大丈夫です。こちらこそ時間作って頂きありがとうございます」


「いや、一回加藤さんと話をしてみたかったから。とりあえず入ろうか?」


「はい」


一緒に喫茶店に入る。


牧野さんが「昼だから、俺ちょっとこのセット食べながらでいい?」と言ってきたので「どうぞどうぞ。私はジュース飲みます」と答える。


「何か一緒に食べない?お腹すいてないならパフェとか」


「じゃあ、チョコレートパフェにします」


店員さんを呼び、メニューを注文。


「早速なんだけど、一体長谷川家は何があったの?あんなにラブラブで幸せそうだったのに」


「どこで狂っちゃったんでしょうかね」


「長谷川が「加藤さんの母親がちょっと苦手」とこぼしてた。お母さんと何かあったんだろ?その辺りから、長谷川の様子がおかしくなって来たんだよ」


「…そうなんですね」


「加藤さん、切迫で入院していたでしょ?その時に、総務のやつらに飲みに誘われたんだよ。俺は行かなかったけど、どうやらその飲み会で知り合った女が取引先の女で、長谷川の事を気に入って、加藤さんがいない隙間に入ってきたみたいで…ずるずると続いていたみたい」


「そうなんですか」


「長谷川は、俺も男だし、あんな誘惑されたら負けるよなって言ったんだよ。真野さんの時にあんなに誘惑されても反応しなかったやつが、そう言ったんだよ。その時に、加藤さんとうまくいってないのかなって、心配になってね」





No.287

あれだけ母親に暴言吐かれたら、確かにメンタルやられるよな。


実の娘で、あれだけキレたんだもん。


雅樹の気持ちが離れたのも、母親のせいだったのか。


「加藤さん、何か今の女と付き合ってから長谷川も少し変わった気がする。今の長谷川、余り好きじゃない。ちょっと下世話な話をするけど、長谷川との夫婦生活はどうなの?」


「最近は余りないです。浮気が発覚してからは私が受け入れられなくて。それでも少しは頑張ったんですが…」


「そうだよな。気持ちはわかるよ。妊娠している時の浮気って辛いよね」


「あの…ちょっと言いにくいんですが、浮気がばれたのも、私とやってる時に違う女の名前を言われて…」


「うわ、引くわー。長谷川、ヤバいじゃん。もういっそのこと、長谷川と離れてみたら?冷却期間っていうの?ちょっと離れて生活してみるのもありだよ!」


「でも私、会社辞めてから専業主婦で来たから…」


「会社に戻って来る?支社が嫌なら本社に掛け合う?」


「でも…やっぱりちょっとやりにくいですよ」


「そっかー。でも割り切って戻って来たら?前みたいに「長谷川さん」「加藤さん」で乗りきれるよ。こんな田舎街なら、仕事っていったって大したないし。そしたら前みたいに戻れるかもよ?あの時が一番楽しかったし」


「考えてみます」


「まずは仕事探そう!頑張ろう!支社長にさりげなく聞いてみてあげるよ」


「ありがとうございます」


「戻ってきたら、うちのも喜ぶと思うし、俺も協力するし」


「ありがとうございます」


確かに勤務していた会社は、小さい割に福利厚生はしっかりしている。


有給も育休もとりやすいし、ある程度の融通もきく。


もし優真が幼稚園からお迎えの電話が来ても抜けやすい。


他の会社は知らないけど、一からより仕事はやり易いかも。


もし雅樹と離婚しても、付き合っていた時みたいに「長谷川さん」「加藤さん」で通せば乗りきれそう。


斎藤くんもいるし。


今日、女とやりまくって帰って来るのかな。


それでもいいや。


知らなかったふりをしておく。


喧嘩したくないし。




No.288

雅樹は19時過ぎにスーツ姿で帰って来た。


知らないふりして「お帰りなさい!」と言う。


「ただいまー!今日のご飯はなに?」


いつもの雅樹。


「今日は魚。優真のリクエスト!ママと一緒に選んだんだもんねー」


優真は「うん!パパと食べようと思って、ママとおさかなえらんだんだよ!」と雅樹に近付く。


雅樹は「そうか!優真が選んでくれたのか!じゃあきっと美味しいお魚だな!」と言って、優真の頭を撫でる。


優真は「うん!パパと食べる!」と雅樹に笑顔を見せる。


ご飯を食べて、お風呂に入り、優真を寝かせる。


「ねぇ雅樹、話があるんだけど」


テレビをみていた雅樹に声をかける。


「なに?」


「ごめん、こっちに来てくれる?」


雅樹はテレビを消して、テーブルに来た。


「あのね、私達、ちょっと今、色んなものをかけ違えた状態になっていると思うの。それでね、ちょっとお互いに考える期間として、別居してみない?」


「えっ?別居?優真は?」


「優真は私が一緒に連れていきます。そして私も仕事をしようと思って。別居となると働かないと生活出来ないし」


「どこで働くの?」


「まだわからないけど、復職しようかな」


「えっ?会社に戻って来るの?それはダメだよ」


「ダメな理由は?」


「…戻ってきても、今仕事ないし」


「休日出勤してるのに?また前みたいに「長谷川さん」「加藤さん」で、仕事での付き合いでいいじゃん。昔からいる人は、皆それでわかっているし、新しい人は知らないんだから、それを通せば…」


「そんな簡単なもんじゃないよ」


「じゃあ私と優真、生活出来ないよ」


「他にもあるだろ」


「例えば?」


「スーパーとか、コンビニとか、掃除の仕事とか…」


「主婦ならね、いいと思うよ?でも、私はそうじゃないの。生活があるの」


「別に別居なんてしなくても…」


「…今のままなら、私は雅樹とやっていく自信がありません。雅樹を嫌いになりたくないから別居したいの。この家のローンもあるから雅樹に負担をかけたくないから、私も働いて生活をしていきたいんです。お互いに良い方向に進めるための前向きの別居です。もし、これで別の方向に進んでしまったら、離婚も視野に入れて考えます」

















No.289

「まり…でも行くあてはあるのか?」


「これから探します。私は、雅樹とずっと一緒にいたくて、一生雅樹なら幸せに暮らせる、そう思っていた。でも、私の母親のせいで、雅樹の気持ちが離れていってしまい、浮気した。許そうと思った。でも…今日、有給とってたんだね。誰とどこに行っていたの?前に言ったよね?次はないよって」


黙っているつもりだったけど、話しているうちに悲しくなってきてしまい、つい言ってしまう。


「…ごめん。まり」


「誰とどこに行ってたの?」


「…」


「何故言えないの?女と切れてなかったのかな?あの土下座は幻だったのかな?もう女とは切った!2度とこういう事はしないから!って言ってたのは幻聴だったのかな?」


「…ごめん、まり、違うんだ」


「じゃあなに?」


「彼女に別れ話をしようと思って、今日会いに言ったんだ…でも、別れてくれなくて…別れるなら死んでやる!って言われて…」


「私を刺した女と一緒じゃん。また私、刺されるの?」


「違う!そうじゃない」


「じゃあなに?」


「…それで、仕方なくずっと一緒にいた」


「で?別れたの?」


「いや…その…」


「別れてないんだ。で、結局その女とやりまくってきたんじゃないの?」


「…」


「否定はしないんだね」


「ごめん」


「他の女とのSEXは、さぞかし良かっただろうね。私とのSEXには飽きたかな?愛を感じないから、刺激が欲しくなったかな?」


私はあくまでも冷静にしていたつもりだったけど、何故か笑いが込み上げて来た。


「あははー!雅樹って、嘘つけないんだよねー。だから雅樹が言えば言う程、私を追い込んでいるの気づかないんだよねー!私より、まなちゃんの方がいいんだよねー!何かウケる!あんなに私の事を愛してくれていた雅樹は、もういないんだよねー!」


雅樹は壊れて笑っている私を黙って見ている。


「まり…」


そう言って、私を抱き締めようとした。


「触らないで!さっきまで他の女を抱いていた手で私や優真を触らないで!」


私は雅樹から離れた。


多分、すごい顔をしていたんだと思う。


雅樹はその場から動かなかった。


私はずるかった。


私だって、斎藤くんとやっていたのに隠した。


雅樹だけ悪者にした。





No.290

雅樹は、そのままどこかに出掛けた。


女のところにでも行くのかな。


行けばいいよ。


その女とやりまくってきたらいいよ。


私なんかより、ずっといい女なんだろうから。


私は、優真と2人で生きていくよ。


雅樹なんていらない。


楽しい思い出もいっぱいある。


でも、それを全て打ち消すくらい浮気というのは強力な一撃。


一瞬で楽しかった思い出も壊された。


飾ってあった結婚式の写真、色々出掛けた時の写真、全て写真たてごと床に叩きつけた。


あれからずっとつけていたネックレス、結婚してからずっとつけていた指輪も床に叩きつけた。


ずっと大事にしていたけど、もういいや。


スカートをまくりあげ、元彼女に刺された傷を見る。


一生消えない傷。


私は傷口を一回パンと叩いた。


消えればいいのに。


この傷口を見たら思い出すから。


押し入れにしまっていたアルバムも全部引っ張り出して、ごみ袋に突っ込んで、そのまま放置した。


泣くわけでもなく、怒っているわけでもなく、ただ淡々と雅樹との思い出を消し去りたかった。


雅樹はその日は帰って来なかった。


翌日。


私は優真を幼稚園に送り出した後、荷物をまとめた。


元々、そんなに荷物は多くない。


実家から持って来たタンスと鏡台は捨てるつもりで荷物をまとめる。


行くあてはない。


斎藤くんにはこれ以上迷惑をかけられない。


実家にも帰れない。


いっそのこと、このまま優真と遠くに行こうかな。


優真を幼稚園に迎えに行くまで、まだ時間はある。


私が独身の時に貯めていた通帳を開く。


引っ越しとかでちょっと使ってしまったけど、まだ残っている。


ちょっとだけおろして、引っ越し費用にしよう。


その時に私の携帯が鳴る。


雅樹のお義姉さんからだった。


「もしもし?まりちゃん!昨日、職場の人から美味しいメロンをもらったんだけど、いるならこれから届けに行ってもいい?」


「…はい」


「まりちゃん?どうしたの?何かあった?」


いつもと違う私に気付いたお義姉さん。


「とりあえずこれから行くから!」


実家にいたみたいで、すぐにうちに来た。


部屋の中と私の様子を見て「まりちゃん、何があったの?言って!」と言ってきた。









No.291

「まりちゃん?雅樹と何かあったの?どうしたの?」


「…何でもないです」


「何でもない訳ないでしょう!話して!」


「…雅樹さんに他の女がいました。優真が生まれる前からの付き合いみたいです」


「本当なの?」


「はい、本人は認めました。一回は許しました。でもすぐ裏切られました。昨日も話し合いをしようと思っていましたが、私が感情的になってしまい、雅樹さんが出て行ったきり、昨晩から帰って来ていません」


「まりちゃん、大丈夫?」


「大丈夫です」


多分、私の目がヤバかったのだろう。


「…大丈夫じゃないみたいだね。くそやろうが!まりちゃんをこんな目にあわせやがって!」


お義姉さんが雅樹に電話をかけた。


「雅樹!あんたは何をやっているんだ!今すぐに帰って来い!帰って来なければ会社に乗り込むぞ!わかったか!」


すごい声で雅樹を怒鳴り付けている。


お義姉さんがご両親にも電話をかけている。


ご両親もすぐにうちに来た。


私は、ソファーにボーっと座っている状態。


散乱した部屋。


「まりちゃん?」


お義母さんが私に声をかける。


「…はい」


「まりちゃん…!」


お義母さんが突然泣き出した。


あれー?


どうしてお義母さんが泣いているのだろう。


お義父さんは、黙っている。


お義姉さんが「あのバカ、まりちゃんをこんなにして、絶対許さない」と怒りをあらわにしている。


お義姉さんが、ご両親に私が話した事を説明している。


その時に、雅樹が帰って来た。


そして土下座。


「申し訳ありませんでした!」


お義姉さんが「お前は、まりちゃんをこんなに悲しませやがって、何してるんだよ!」と言って、土下座している雅樹の髪をつかみあげ、雅樹の頭を振り回している。


「ねーちゃん!ごめん!」


「私じゃない!まりちゃんに謝れ!」


「痛いって!」


「うるさい‼️まりちゃんの心に比べれば、お前の痛みなんてくそだよ!恥を知れ!」


「わかったから離してくれ!」


「うるさい!黙れ!」


お義姉さんがぶちギレている。








No.292

お義父さんが「雅樹、まりさんの苦しみがわかるか?あそこを見てみろ」と言って、私が叩きつけて粉々になった写真たてが散乱し、近くにずっとつけていたネックレスと結婚指輪が転がっているスペースを指差す。


お義姉さんが雅樹から離れ、雅樹がじっとその場所を見ている。


「あれがまりさんの今の気持ちだよ。わかるか?わかるのか?」


お義父さんが怒鳴る。


「一時の快楽に溺れた結果、全てを失うって事だ!まりさんがどんな思いでいたかわかるのか?お前はまりさんや優真、私達をも裏切った。まりさんは一回は許したそうじゃないか。何故また裏切る?昨日も帰って来なかったそうじゃないか!どこへ行っていたんだ!女か!」


黙ったままの雅樹。


そんな雅樹にしびれを切らしたのか、お義父さんが雅樹を殴った。


「見損なったよ。育て方を間違えた様だ。まりさんから本当に許してもらえるまで2度とうちには来るな!」


お義母さんは、ずっと泣いている。


お義父さんが「まりさんと話がしたい。おい、優真の迎えはお前がいけるか?」とお義母さんに言う。


お義母さんは「私が行きます。うちで優真をみてますから」と言う。


お義姉さんが「私もまりちゃんと話がしたい」と言う。


雅樹はずっと黙ったまま。


お義母さんが「私、そろそろ優真の迎えに行って来ますね。まりさん、優真がよく遊んでいるおもちゃ、借りていくわよ?」と言って、置いてあったおもちゃをいくつか袋に入れて持って行く。


ダイニングテーブルに、私とお父さんが横並び、私の迎えに雅樹、雅樹の隣にお義姉さんが座る。


お義父さんが「まりさん、ゆっくりでいい。答えて欲しい」と私に言う。


「まりさんは、雅樹の事を許す気はある?」


「…一回許したので、次はないです」


「それでいい。離婚も考えているという事でいいんだね?」


「…はい。優真の親権は私がもらいます」


「もちろんだ。この男はただの戸籍だけの父親だ。父親を名乗る資格はない。ただ戸籍は父親だ。優真の養育費はしっかり優真に払う様に私達も責任を持つ」


するとお義姉さんが「まりちゃん!こんなやつ、離婚でいいよ。慰謝料もしっかりまりちゃんと優真にも払わないと。雅樹の相手からも取れるんだよね」と話した瞬間、雅樹が「いや…相手は、ちょっと…」と言って来た。







No.293

お義父さんが「お前、今の状況がわかっているのか!」と一喝。


話し合いの結果、私と優真は、お義父さんのご友人が所有している小さなアパートの一室をお義父さんの計らいで一時的に借りる事が出来る様になった。


家賃は私の生活が落ち着くまで雅樹が支払う。


慰謝料は雅樹の相手にも請求。


市役所勤務のお義兄さんのつてで弁護士さんを紹介してもらう事になった。


雅樹には慰謝料と養育費を請求。


この家には雅樹が住む。


離婚は決定になる。


雅樹に「離婚してから今の女と一緒になりたいと言ったとしたら、親子の縁を切る」と言うお義父さん。


雅樹が「俺、家のローンとまりの家賃払って、養育費と慰謝料まで払ったら何も残らなくなる」と言っていたが「お前が浮気した結果だろ。そんな事を言っている時点で反省の色なしだな。まりさん、この事も弁護士さんにきちんと話しなさい」と言う。


「雅樹、浮気をするという事は、こういう事だ。お前が撒いた種だ。きちんと責任を取りなさい。もう元には戻れない。後悔しても遅い」


お義父さんが言うと、黙ってしまった。


「お義父さん、お義姉さん、こうなってしまったのは私や私の母親のせいでもあります。雅樹さんばかりが悪い訳ではありません。優真の父親としては合格でした。優真から父親を奪う形になるので心苦しいのですし、私がもっと頑張れば、我慢すれば良かったのかもしれません。離婚しても、優真には会わせます」


お義姉さんが「雅樹、まりちゃん、本当にいい子なんだよ?雅樹の事を本当に大事に思ってくれていたんだよ?出産だって、命懸けで雅樹との子供を生んでくれたんだよ?たまに私がこの家に来た時も、何より雅樹や優真の事を考えて、話してくれていたんだよ?雅樹の女トラブルに巻き込まれて刺された時だって、雅樹の事を悪く言わなかったし。こんなにいい子を悲しませた罪は重いわ」と言ってくれた。


雅樹はただ黙っていた。


もう雅樹への気持ちは完全に冷めていた。


それから離婚届けを出すまでにはちょっと時間がかかった。


弁護士さんのところに行ったり、引っ越したりあわただしかったのもあるが、私は元いた会社に復帰したのもある。


牧野さんが直接、社長と和也さんに掛け合ってくれた。


私はまた支社所属になった。









No.294

引っ越し先のアパートは1LDK。


少し古いけど、優真と2人で暮らすには文句なしの部屋。


ありがたい。


まだ何もない部屋。


タンスと鏡台は、後日業者さんと取りに行く予定。


雅樹と買った家には何年も住まないでお別れする事になったけど、雅樹と一緒に暮らすならこのアパートの方がいい。


優真が「ママと2人?パパは?」と言って来た。


まだ幼稚園児の子供に、何て説明しようか悩んだけど「パパはお仕事が忙しくなるからしばらくいないの。だから優真はママと2人で一緒にここに住むんだよ」と説明した。


いずれはわかる事だけど、今の優真にはまだ難しい。


幼稚園は以前妊娠比べたら離れたけど、支社に行く途中にあるため問題ない。


働く事になった事と離婚をする事は、お便りで優真の先生に伝えて、延長保育に申し込んでくれた。


19時厳守だけど、延長保育分幼稚園代は上がるけど、シングルマザーとして働く身としては、この有り難い制度を活用させてもらう事にした。


復職する2日前。


斎藤くんに連絡をした。


「会社に戻る事にした」


「長谷川さんと離婚するんだろ?だから加藤が戻るって聞いてびっくりした」


「斎藤くんは相変わらず長谷川さんと同じ部署?」


「同じだよ。多分、加藤の席は俺の真向かいになる。渋谷の隣」


「そうなんだ」


「右隣が牧野さん、左隣が長谷川さん。いやー、長谷川さん、どんな顔して加藤と顔を合わすんだろ」


「大丈夫、私はうまくやる自信はある」


「俺はどうしたらいい?」


「普通にしてて。墓場まで持っていくんでしょ?」


「何か女って強いね」


「優真を1人で育てるっていう覚悟があるから」


「俺も出来る事があれば協力するよ」


「ありがとう」


斎藤くんとは頻繁にやり取りをしている訳ではないが、何かあれば連絡している。


あれから、斎藤くんの家に行ってないし、会ってないし、SEXもあの日だけだけど、私の心の支えになっていた。


いよいよ復職の日。


優真を幼稚園まで送り、支社に向かう。


牧野さんに感謝。


そして、また私を使ってくれた社長と和也さんに感謝。


ひと荷物を持って、支社の中に入る。


「懐かしい!」


色んな事を思い出す。





No.295

3分の2は知らない人になっていたが、逆に都合がいい。


支社長がいた。


「支社長!ご無沙汰しておきます。加藤です。またお世話になる事になりました。よろしくお願いいたします」


支社長は挨拶もそこそこ、いきなり「ちょっとこっちにいいか?」と別室に呼ばれた。


小さな会議室に入る。


「長谷川くんと離婚するって本当?」


「はい。短い結婚生活で…せっかくご祝福下さったのに申し訳ないです」


「いや、それはいいんだけど…大丈夫なの?長谷川くんがいたらやりにくくないの?」


「全然大丈夫です。私は。彼はわかりませんが。でも絶対にご迷惑をお掛けする事はありません」


「聞きにくいんだけど…離婚理由って長谷川くんの不倫って聞いたんだけど…」


「私の辛抱が足りなかったんです。あと支社長にお願いがあるんです」


「なに?」


「昔からいる方々は仕方ないですが、私を知らない方々に、私と長谷川さんが夫婦だったと言う事は黙っていて欲しいんです。だから、普通に今日から入る新人です!みたいな感じでお願いします」


「デリケートな部分だし、あえて言うつもりはないよ」


「ありがとうございます」


「でも、加藤くん、見た目は余り変わらないけど雰囲気変わったね。前はおとなしい感じだったけど、たくましくなったというか、強くなったというか」


「シングルマザーですから!頑張ります!」


「何かあったら私に言いなさい」


「ありがとうございます!」


支社長と一緒に部屋を出ると、早速マスク姿の雅樹がいた。


多分、私に表情を見せたくないんだろう。


支社長が私を見る。


私は支社長にニコっと笑顔を向ける。


支社長と話しているうちに、続々従業員が従業員が出社していた。


「加藤さーん!」


ひときわ大きな声で私を呼ぶ。


「田中さーん!戻って来ちゃいましたー!」


「お帰りー!」


「ただいまですー!」


事務席で抱き合う。


マスク姿の雅樹と、向かいの席にいる牧野さんには見慣れた懐かしい光景だろうが、斎藤くんは目を丸くして私達を見ている。


田中さんが「更衣室の場所変わってたでしょー?改装した時に奥に追いやられたの!制服大丈夫だった?」と話す。


「見て下さい!サイズ変わらないんですよ!」


私は両手を広げる。



No.296

「加藤さん、すごいじゃん!」


「ちょっとだけ頑張りました!」


そして懐かしのこそこそ話。


「ねぇ、長谷川さんと離婚するんでしょ?大丈夫?」


「大丈夫です!もう吹っ切れたし、付き合っていた時みたいに割り切って頑張ります!牧野さんが復帰の後押しをしてくれた事には本当に感謝しています」


「牧野さんから聞いて、目玉飛び出ると思ったくらいびっくりしたのよ。もし何かあったら言って!私も牧野さんも加藤さんの味方だから!」


「ありがとうございます」


渋谷くんに「田中さん、加藤さん、そろそろ時間ですよー」と言われて振り返る。


牧野さんは笑顔、斎藤くんは半笑い、マスク姿の雅樹は目線が怖かった。


田中さんがまたこそこそと「長谷川さん、怖いよ?」と話す。


「大丈夫です」


私は雅樹に宣戦布告。


ニコっと笑顔を返す。


雅樹はじっと見ている。


斎藤くんも見ている。


支社長から簡単に紹介された。


「知っている人もいるかもしれませんが、今日から事務で頑張ってくれる加藤まりさんです」


「加藤です。よろしくお願いします!」


従業員が拍手をくれる。


私は早速席に座る。


久し振りのデスク。


変わらない。


田中さんが立花さんみたいに、椅子ごとスーっと隣に来た。


「本当は、今の私の席が加藤さんだったの。でも、長谷川さんの真向かいじゃやりにくいと思って、向かいと隣に同級生を配置したから」


「ありがとうございます」


「渋谷くんも、斎藤くんも高橋さんも面識あるし、牧野さんは知っての通りだからやり易いでしょ?」


「楽しみにしてました」


「また頑張ろうね!」


「はい!」


すると渋谷くんに「私語多いですよー」と注意された。


「はーい」


2人で返事をして、田中さんは席に戻る。


斎藤くんが笑いをこらえきれなかったみたいで「俺、毎日この漫才みたいなやり取りを見なきゃいけないんですか?」と言って笑っている。


牧野さんが「そのうちに見慣れるよ。多分今日から毎日こんな感じだから」と言って笑っている。


雅樹は相変わらずこっちをみているが、マスクをしているため表情はわからない。









No.297

忘れている事もあったけど、渋谷くんや田中さんに教わりながら、何とか感覚を戻そうと必死の初日。


昼休憩。


私も田中さんもお弁当。


前みたいに密着しながら、こそこそ話す。


「今までやってみて、長谷川さんの存在ってどんな感じ?」


「別に普通です。ただの先輩です」


「前と同じ感じ?」


「前とは気持ちが違うので見方は変わりましたが、会社では先輩です」


「そっかー。私さ、どうしても気になって長谷川さんを見ちゃうんだよね。顔はパソコンに向いているんだけど、視線はずっと加藤さんを見てるの」


「長谷川さんは復帰に反対してましたからね」


「だろうね」


「でも私は大丈夫です!楽しいですよー!またこうして田中さんと仕事出来るし」


「私もー!俄然やる気出るわ。ところで、刺された傷って今は何でもないの?」


「見てみます?」


私は弁当箱を机に置いて、周りに男子がいないのを確認してからスカートをめくりあげる。


「結構な傷だね」


そう言って田中さんがスカートをめくりあげている時に、牧野さんと斎藤くんが帰って来た。


「何してんの?何で加藤さんのパンツ見てるの?」


牧野さんが私達を見て驚く。


斎藤くんはすぐに傷口を見ているとわかったみたいで何も言わない。


「嫌だ、ちょっと!私、変態みたいな言い方しないでよ!」


田中さんがあわてて私のスカートを直す。


牧野さんと斎藤くんが笑っている。


雅樹は渋谷くんと高橋さんとご飯に行った様子。


田中さんが牧野さんに「ねぇ、長谷川さん怖いよ」とこそこそ話す。


「今は仕方ないよ。気にするな」


「長谷川さんは加藤さんの復帰には反対だったって加藤さん言ってた」


「そりゃそうだろ」


こそこそのつもりでも、私と斎藤くんには聞こえている。


私は斎藤くんを見る。


「頑張れよ」


「ありがとう。今日連絡する」


「わかった」


小さな声で私達も話をする。


雅樹達も帰って来た。


各々席に座り、午後からの仕事に入る。


何とか無事に初日が終わる。


時間は18時を少し回ったところ。


男性陣はまだパソコンを見ている。


私と田中さんは「子供の迎えがあるので失礼します!」と一緒に言う。


雅樹は無言でこっちを見る。






No.298

牧野さんは笑いながら「お疲れ様!」と挨拶。


斎藤くんは「俺も終わりましたー!」と言って伸びをした。


私は着替えて、優真を迎えに行く。


延長保育初日で慣れていなかったのか、迎えに行った時に玄関で先生から「優真くん、ずっと「ママ来ない」って泣いていて…」と教えてくれた。


私の姿を見た優真は嬉しそうに先生に「ママ来た!ママだよ!」って言って私に向かって走って来た。


「優真!リュックと帽子は?」


「あっ!」


そう言って、あわててリュックと帽子を取りに一旦戻る。


先生に挨拶をして車に乗り込む。


「今日、ママおそかったね!」


そう言ってふてくされている。


「ごめんね、ママお仕事始めたから、これからずっと遅いよ」


「えー?」


「でもママ、頑張って働かないと優真におもちゃ買ってあげられないよ?」


「…じゃあがまんする」


「ごめんね、優真。ママといたいよね、でもママがお休みの日はずっとママが一緒だから、それまで頑張ろうー!」


「おー!」


後ろの席で、右手をあげる優真。


「今日は何食べたい?」


「アイス食べたい」


「アイスはご飯じゃないよ?」


「うーん、じゃあカレー!」


「カレーか。よし、帰ったらママ作るから待っててね!」


「うん!」


他愛ない親子の会話。


自宅に着き、早速カレー作り。


優真は早速おもちゃで遊び出す。


仮面ライダーのおもちゃがお気に入り。


一人で戦いごっこをしている。


カレーが出来た。


「暑いから、フーフーして食べるんだよ?頂きます」


「いただきまーす!」


親子2人でのご飯。


幸せな時。


幼稚園であった事を一生懸命話してくれる。


私はうんうんと聞きながらご飯を食べる。


一緒にお風呂に入り、一緒に寝る。


21時半過ぎ。


優真はぐっすり眠っている。


私は斎藤くんにメールする。


「お疲れ様。電話しても大丈夫?」


すると斎藤くんから着信。





No.299

「加藤、お疲れ様。優真くんは寝たの?」


「うん、ぐっすり寝てる」


「だいぶ2人暮らしには慣れたか?」


「おかげさまで、まだやっと家電が揃い始めて来たばかりだけど」


「そっか。ところで、会社では前も田中さんといつもあんな感じだったの?」


「そうだよ」


「加藤も田中さんも嬉しそうに話していたし、何より楽しそうだったから安心したよ」


「懐かしかった。最初、会社に入った時は色々思い出したけど」


「そうだよな。なぁ、加藤」


「なに?」


「俺と一緒に暮らさない?」


「えっ?」


「だって、そこ期間限定なんでしょ?」


「まぁ」


「なら、うちに来なよ。ここ狭いけど、親子2人来てもなんとかなるよ?」


「いやいや、これ以上斎藤くんに迷惑かけられないし、話を聞いてもらえるだけで十分だよ」


「俺の彼女になってよ」


「えっ?」


「俺の側にいてよ。加藤と優真くんを大事にするから」


「まだ離婚成立していないし…」


「じゃあ離婚したら彼女になってくれる?」


「考えておく」


「何だよ、俺フラれたの?」


「違うよ」


「じゃあ、俺の彼女になってくれるっていう事で。会社にバレない自信はある」


「本当に?」


「隣、長谷川さんだぞ?バレたら俺、会社辞めなきゃ」


「確かに」


「今日、長谷川さん、マスクして余りしゃべらなかったね」


「多分、私に表情見られたくなかったんじゃないかなぁ?」


「さすが奥様!わかってるねー(笑)」


「やめてよ」


「あはは!加藤と話していると楽しいよ」


「私も」


「今度の土曜日、俺んちに来ない?」


「それってお泊まり?」


「うん。もちろん優真くんも一緒に」


「という事は?」


「うん、そういう事。俺とするの嫌?」


「嫌じゃない」


「加藤、エロくなるしな(笑)」


「やめて」


「だって今日、田中さんにパンツ見せてたじゃん!俺にも見せてよ(笑)」


「違うから!」


「じゃあ明日また会社で」


「うん」


「土曜日、待ってる」


「わかった」


斎藤くんとの電話。


楽しい時間。


土曜日、会いに行こう。






No.300

土曜日。


土曜日は幼稚園自体は休みだけど、お弁当持参で預り保育をしてくれている。


朝5時過ぎに起きて、優真のお弁当作り。


その余り物で、私のお弁当を作る。


優真がお気に入りの仮面ライダーのお弁当箱に、優真が好きなものを詰める。


シャワーして準備して、優真を起こす。


優真の寝癖が酷かったから、寝癖を直し、幼稚園の準備をして、2人で車に乗り込む。


幼稚園で優真を見送り出勤。


雅樹と出勤が重なる。


「おはようございます」


「…おはよう。加藤さん、ちょっといい?」


「私的な事ならまた後でメール下さい」


私は、そう言って更衣室に向かう。


総務部の人がいた。


「おはようございます」


「おはようございます、ねぇ、加藤さんって長谷川さんの元奥様なんですよね?」


「…仕事と何か関係ありますか?」


初めて会話をする人。


いきなりの会話がこれか。


「離婚の原因って、やっぱりまなとの不倫ですか?」


この子、雅樹の相手を知っているのか。


「まな、長谷川さんと結婚するって言ってましたよ?」


「そうですか。お好きにどうぞ」


「何とも思いませんか?」


「別に何とも。まだ籍は抜いてないので、今は出来ないと思いますけど」


「早く離婚してあげてもらえます?」


「今は無理です」


「未練があるんですか?まなに、長谷川さんを取られて捨てられたくせに、良く戻ってこようと思いましたね」


「あなたに何の関係がありますか?」


「まなにも慰謝料請求とか、がめついおばさん、お金いっぱい入って、さぞかし懐が潤っているんじゃないですか?何かおごって下さいよ」


「お断りします」


私は淡々と着替えながら話をする。


すると奥から田中さんが出てきた。


田中さんのロッカーは一番奥にある。


田中さんが「あんたさ、長谷川さんの浮気相手の友達?」と言って来た。


「浮気相手じゃないですよ?新しい奥さんの友達です」


「長谷川さん、あんたの友達と結婚はしないんじゃないかなぁ?」


「どうしてですか?まなと結婚するために長谷川さんが離婚してくれたって、まなが言ってましたよ?」


「あんたみたいな友達がいる、まなって女のレベルもしれてるよ」





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