とある家族のお話

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2020/05/27 16:47(更新日時)

私はまり。


5年前に離婚し、現在シングルマザーで小学3年生の息子が1人。


父親は肺がんを患い、闘病の末4年前に他界。


母親は精神疾患を患い、現在精神病院に通院中。


遠方に住む兄の亮介と義姉の千佳さん。


中学3年生の姪と、中学1年生の甥がいる。


2つ下に同じ市内に住む弟の圭介。


私と同じくバツイチで、現在は1人暮らし。


息子のよき遊び相手になってくれる。


弟の子供は元妻が引き取っているが、しばらく会っていないそうだ。


私の母親は、多分だがかなり前から精神疾患があったと思われる。


父親が他界してからひどくなった。


病名は「妄想性障害」


特に被害妄想が酷く、妄想で警察を呼んだり近所の方々にご迷惑をおかけしてしまう様になったため、社会福祉の公的窓口に相談し、現在通っている精神病院の先生にお願いし、強制入院に至った。


母親本人はおかしいと思っていないため、入院する時はとても大変だった。


現在は退院している。


入院する時は近所に住む弟と相談し決めたが、母親には未だに恨まれている。


兄夫婦には電話やLINEで伝えていた。


母親は、兄と弟の嫁をいびりにいびった。


弟の離婚は、母親が大いに関係している。


義姉は遠方に住む事で離婚はしないで済んだ。


私達兄弟が母親を何度止めてもいびりは止めない。


母親は悪い事はしていない、私は正しいと、止めれば止める程興奮し罵詈雑言を言い放つ。


妄想が激しいため、妄想で話をするが母親本人は事実だと思っているため、違うんだよ!と言っても聞き入れてくれる事はない。


否定すれば嘘つき呼ばわりするな!お母さんは正しい!と怒鳴る。


仕方なく合わせれば、やっぱりそうだ!と益々妄想が本当の事だと思い込む。


とても難しい。


でも、私の実母である。


父親がいない今、私達兄弟が母親をみなければならない。



こんな家族のお話です。












No.3034511 (スレ作成日時)

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No.201

それからすぐに、平野さんと川上さんが会社を突然辞めた。


しかも、電話で「昨日付けで辞めます」という酷い辞め方。


社会人として、それはちょっとどうなんだろうか?


総務部は突然2人辞めたため、忙しそうにバタバタしていた。


田中さんが「うるさいのいなくなって良かったねー!総務部は大変そうだけど」と総務部を見て話す。


「総務部自体に恨みはないから、もし何か手伝って!って言われたら手伝うつもり!」


「私もです」


「その時は頑張ろうねー!」


「はい!」


田中さんのお腹もだいぶ大きい。


「お腹の中で、ぽこぽこ動くの!たまに、横腹辺りがむにって押し付けられてる感じがして、もう既に可愛いの!」


「性別はわかったんですか?」


「女の子かなーって先生が言ってた!」


「会える日を楽しみにしてます!」


「私も楽しみー!」


いつもの田中さん。


もう少ししたら、田中さんも産休に入る。


私も、刺された傷のガーゼが取れた。


結構酷い傷跡だけど、雅樹は顔色一つ変えない。


「やっと、まりを抱けるのかなー(笑)」


「でも、ちょっと不安」


「試してみる?」


そう言って襲われた。


久し振りの雅樹とのSEX。


雅樹は足を気遣って、いつもより優しい。


痛みはない。


大丈夫そう。


やっと雅樹との平穏な結婚生活を取り戻した気がする。


会社でも、穏やかな日々が過ぎる。


ある日の朝礼。


和也さんが支社が出来るとの話をした。


場所は隣町。


雅樹の実家がある町。


支社に行くメンバーが発表された。


話の通り、部長が支社長。


雅樹と牧野さんは支社、千葉さんと坂田さんは本社。


私と田中さんは支社、立花さんと渡辺さんは本社。


夫婦でペアにしてくれた。


立花さんとは離れてしまうんだ…。


寂しい。


他にも本社チーム、支社チームにわかれてメンバーが発表された。


足りない人員は募集をかける。


うちから支社まで車で20分くらい。


通えない距離ではない。


いよいよ支社への移動へ向けて動く。



No.202

年末に会社の忘年会があった。


やはり、私と田中さんと立花さんと渡辺さん、雅樹、千葉さん、牧野さん、坂田さんのグループがまとまり座る。


坂田さんと渡辺さんが隣同士で座り、楽しそうに話している。


立花さんが「若いっていいねー」と言って2人を見て微笑む。


田中さんが「加藤さんもまだ20代だよね?」と私を見る。


「はい、一応…」


私が答える。


このグループで、私と渡辺さんと坂田さんは20代、他のメンバーは30代。


「あれ?加藤さんって、まだそんなに若かったの?落ち着き過ぎ!」


千葉さんが笑う。


「また俺だけのけ者にされた!どうして俺だけ本社なんだよ!」


千葉さんが怒っている。


「お前まで支社に行ったら回らないだろ!」


「俺も支社に行きたいなー!…何か寂しくなるよ」


立花さんが「私もですー。千葉さん、のけ者同士で仲良くやりましょ!」と話す。


千葉さんは「立花さんよろしくー」と笑顔。


田中さんが「別れちゃうけど、たまにはみんなでご飯でも食べよー!」と話す。


「そうだねー!」


田中さんは年内でちょっと早目の産休に入る。


しばらく会えなくなる。


年末年始休暇。


結婚して初めてのお正月。


お互いの実家に顔を出す。


私の実家。


母親は上機嫌。


「長谷川さん、いらっしゃい」


「明けましておめでとうございます、お義父さん、お義母さん」


「久し振りよねー。たいしたものじゃないけど食べていって!」


お正月らしい料理が並ぶ。


弟もいた。


「明けましておめでとう、圭介くん」


「おめでとうございます。兄はもう少ししたら来ます」


「そうなんだ。せっかくだしお義兄さんにもご挨拶したい」


「千佳さんは来ませんけど、子供達は来ます」


雅樹は苦笑。


しばらくして兄が来た。


2人目の甥っ子も一緒だった。


姪っ子が、可愛いリュックを背負っていた。


「あけましておめでとーございまーす」


姪っ子からの可愛い挨拶。


私がお年玉をあげる。


「まり!ありがとう!」とニコニコしている。


雅樹が「まりって言わせてるの?」と聞いてきた。


「違うよ!いつの間にかまりって言われてた。おばさんより良くない?」


そう言うと雅樹は「確かに!」と言って笑う。


No.203

父親、母親、兄、姪、甥、弟、私、雅樹という大人数での昼御飯。


母親が色々取り分けてくれる。


雅樹のお皿に、いくらが乗ったお寿司がある。


雅樹が私を見る。


母親に「いくらが嫌いです」とは言えない。


私が食べる。


母親が上機嫌のおかげで楽しく過ごす。


空いたお皿を下げる母親に「お母さん手伝うよ」と声をかける。


「悪いわね」


兄が「母さん!ふきんある?ジュースこぼした!」と叫ぶ。


姪っ子ちゃんが飲んでいたジュースをひっくり返してしまった。


「まり、これ持ってって」


「わかった」


兄は甥っ子を抱っこしているため動けない。


私と雅樹でこぼれたジュースを拭く。


「まり、ごめんなさい」


姪っ子ちゃんがシュンとして謝る。


「大丈夫大丈夫!」


私は姪っ子ちゃんの頭を撫でて優しく声をかける。


雅樹を見て「お兄さんだーれー?」と聞いてきた。


雅樹が「まりの旦那だよ」と言うと「旦那ってなぁに?まりと結婚したの?」と聞いてきた。


女の子ってませてる。


でも可愛い。


「そうだよ、まりと結婚したんだよ。雅樹って言います。よろしくね」


「まさき?」


「そうだよ」


「保育園にも、まさきって言う人いるよ!まさき先生!」


「同じ名前だね」


「じゃあまさきだね」


雅樹は姪っ子ちゃんと話している。


それから雅樹は「まさき」と呼ばれる。


「ねぇ、まさき!一緒に遊ぼ!」


「ん?何して遊ぶ?」


すっかり姪っ子は雅樹になつく。


兄も「すっかり懐いたな」と微笑ましく見ている。


子供にもモテるのか。


母親の片付けも落ち着き、少し話をする。


刺された事は両親にはまだ言っていない。


兄は知っている。


弟が「しばらく実家にいるわ。ねーちゃんの部屋に置いてあるベッド借りるわ」と話す。


「いいよ」


布団もあるし、ちょっと直せばすぐ寝れる。


そろそろ雅樹の実家にも行く時間。


「向こうの家にもご挨拶に行くから、そろそろ行くよ。雅樹、そろそろ…」


姪っ子ちゃんと遊んでいた雅樹に声をかける。


姪っ子が「まさきも、まりも帰るの?」と寂しそうに雅樹に言う。


「ごめんね。また一緒に遊ぼうな」


「うん!」


可愛いバイバイをしてくれた。







No.204

車に乗ると「子供は可愛いな」と話し、笑顔の雅樹。


「遊んでくれてありがとう。すごく喜んでたみたい」


「懐いてくれて嬉しかったよ」


「私は、きなこちゃんに懐いてくれるといいな」


「きなこはまりの事は大好きだよ」


そんな話をしながら雅樹の実家に向かう。


ご実家に着く。


ご両親にお義姉さん夫婦に、きなこちゃんもいた。


お義兄さんとは初対面。


ご挨拶をする。


「弟さんと似てるね。面白い弟さんだね」


「ご迷惑をおかけしませんでしたか?」


「全然!楽しかったよ」


案内されて椅子に座る。


雅樹のご両親もお義姉夫婦は、私が刺された事は知っているみたいで、お義姉さんが「傷口見せて」と言って、お仏壇がある部屋に私を連れていく。


ふすまを閉めて、私はスカートをまくりあげて、パンストを脱いだ。


看護師であるお義姉さん。


「だいぶ傷口は治って来てるね。もう少し経てば、この辺の赤いのは落ち着くはずだよ!これは痛かったでしょう」


「刺された時はそんな感じはなかったんですが、縫ってからが痛かったです」


「可哀想に…まりちゃんを刺したのって、雅樹の前の彼女だよね?」


「はい」


「何度か会った事はあったけどね。余り馴染めなかったから、雅樹は彼女の何がよくて付き合っていたのかわからなかった。あっ、ごめん。パンストはいて大丈夫だよ!」


「はい」


スカートをパンツラインギリギリまで上げてパンストをはいている瞬間に、お義兄さんがふすまをガラっと開けて、何かを話しかけようとしたが、私のパンストをはいている姿を見て目を伏せて、下を向き静かにふすまを閉める。


お義姉さんと2人で笑う。


「タイミング!」


お義姉さんがそう言ってゲラゲラ笑っている。


パンストもはき終わり、お義姉さんと一緒に部屋を出る。


お義兄さんが「さっきはごめんね。見てないから!大丈夫だから!」と焦りながら謝って来た。


私は「大丈夫です!」と笑顔で答える。


お義姉さんはまたゲラゲラと笑う。


雅樹は頭に「?」が浮かんでいる様子。


こちらもお正月らしい料理が並ぶ。


美味しく頂く。


太りそう。


でも美味しい料理。


ごちそうさまでした。




No.205

私の実家に行く前に、神社へ初詣に行った。


カップルや家族連れで賑わっていた。


おみくじをひく。


2人共「大吉」


雅樹が「今年はいい1年になるといいね」と言う。


「そうだね」


「まりの今年の目標は?」


「うーん、何だろ?…事故なく、怪我なく、雅樹と生活する事かなぁ?雅樹は?」


「仕事を頑張る。まりとの子作りも頑張る(笑)」


「今年じゃなく、毎年じゃないの?(笑)」


2人で笑いながら、おみくじを張ってあるロープに巻き付ける。


「寒いから、手が冷たくてうまく巻けない」


私が言うと、雅樹が代わりに巻き付けてくれた。


甘酒の無料配布があり、雅樹と一緒に甘酒を飲む。


「温まるね」


「そうだね」


飲み終わると、近くにあったゴミ箱に紙コップを捨てて、駐車場まで歩く。


その時、雅樹が私の手を握って来た。


「去年まではこうして、手をつないで歩いた事が余りなかったから」


恥ずかしそうに手を握る。


そういえば余りなかったな。


会社の人に見られるのが怖かったから。


でも、今は手を繋いで歩ける。


ちょっとした幸せ。


雅樹の実家から私達の部屋に帰ると、ポストに年賀状が届いていた。


会社関係や、親戚、知り合い、友達。


年賀状だけはやり取りしている人もいる。


立花さんの年賀状は、子供達の写真入り。


可愛い兄弟。


牧野さんと田中さんの年賀状は、私達と同じ様に結婚の挨拶も兼ねた年賀状。


名前のところに(旧姓 田中)と印刷されているのを見て、思わず微笑む。


私も(旧姓 加藤)になっている。


結婚したんだなーと改めて思う瞬間。


千葉さんは、シンプルな年賀状。


裏に一言「今年もよろしく!また遊びに行くから待ってろよ!」と書いてある。


またいつでも遊びに来て下さい!


雅樹が「疲れたなー!シャワーしてくる」と言ってお風呂場に向かう。


雅樹が出た後に私も入る。


ベッドに入ると、雅樹が「今年もよろしくー!」と言って襲って来た。


今年最初の雅樹とのSEX。


まだ足を気遣ってくれる。


傷が増えちゃったけど、雅樹は変わらない。


今年はいい1年になります様に。


No.206

会社が始まる。


田中さんが産休に入ったためいない。


いつも賑やかな田中さんがいないため、静かに感じる。


私は、田中さんがいた席に移動。


雅樹が通路を挟んで、真正面にいる。


「よろしくお願いします」


「よろしく」


雅樹が笑顔で答える。


立花さんとは、少し離れたため、前みたいにスーっと来る事はなくなったが、真正面に雅樹がいる席。


前は余り聞こえなかった牧野さんや千葉さんとの会話も聞こえる。


机の引き出しを開けると、田中さんが使っていた文具が少しある。


ホッチキスを出すと、牧野さんとのプリクラが貼ってある。


嬉しそうな田中さんの笑顔と、ちょっとふざけている牧野さんの顔。


思わず笑みが出る。


支社に移動する者は、移動に向けて少しずつ準備をしていく。


雅樹も、牧野さんも準備を始める。


千葉さんが「坂田ー、本社勤務の俺らはゆっくりやろうぜー」と言う。


坂田さんは「はい!」と元気に返事。


牧野さんが「千葉、少し手伝え」と言う。


千葉さんが「俺、お前らみたいに支社に行かないもんねー。長谷川に頼んだらいいんじゃないですかー」と子供みたいにいじけて言う。


雅樹が思わず笑う。


聞こえていた私も思わず笑う。


千葉さん、可愛い(笑)


和也さんが入って来た。


「社長が来週、戻って来る事になりました!皆様のご尽力のおかげです。ありがとう」


拍手が起こる。


社長は、退院後もしばらく自宅療養していた。


元気に復帰するんだ。


本当に良かった。


ここの席は、トラックの運転手さんが点呼に来るカウンターが近い。


カウンターにいる、運行の伊藤さんという50代の男性との席も近い。


伊藤さんが話しかけて来る。


「今度そこの席、加藤さんになったの?」


「田中さんが今、産休なので、その間はこの席です」


「田中さんは明るくて楽しかったけど、加藤さんは真面目に頑張る子だよね。おじさん感心するよ」


「ありがとうございます」


「これあげるから頑張りなさい」


そう言って、一口チョコの小袋ひとつくれた。


「ありがとうございます」


ちょっと話していると、伊藤さんの娘さんと私が同世代だった事がわかる。


だから何となく、口調がお父さんみたいなのか。




No.207

運転手さんが続々点呼に来ると、カウンターが忙しくなる。


伊藤さんともう1人、小沢さんという40代の男性2人が忙しそうに対応する。


コースの確認、アルコールチェッカーでの確認。


アルコールチェッカーに引っ掛かるとトラックを出せない。


たまーに反応してしまう運転手さんがいた。


でも、ほとんどの運転手さんは反応する事はない。


高校の吹奏楽部で一緒だった同級生も、トラック運転手として、いつの間にか入社していた。


カウンターの向こうから「加藤!おはよう!」と手を振る。



その声に、雅樹がカウンターを見る。


「あれ?斎藤くん?いつ入社したの?」


「昨年12月の頭だよー!前から似た人が事務所にいるなーって思ってたんだよ」


「そうなんだ。ごめん、今まで気付かなかった」


「いいのいいの!じゃあ俺、行って来るわ!」


「行ってらっしゃい!」


斎藤くんは笑顔で手を振り、出庫していく。


雅樹が「誰?」と聞いてきた。


「高校の同級生。吹奏楽部でも一緒だったんだ」


「ふぅーん」


すると牧野さんが「長谷川、ヤキモチか?」と冷やかして来た。


雅樹は「違うよ」と言う。


今度は千葉さんが「加藤さん!もっと長谷川にヤキモチ妬かせてやれよ!」と言って笑っている。


「うるさい!」


雅樹がパソコン画面に目を移す。


牧野さんと千葉さんは笑っている。


話を聞いていた伊藤さんが「若いっていいねー。新婚だもん、そういう時期だよね。私はもうヤキモチなんて妬いてくれる事も妬く事もない寂しい人生だよ」と言って笑っている。


それから伊藤さんと、ちょこちょこ話す様になる。


お菓子をもらったり、お茶を買ってくれたり可愛がってくれた。


優しいおじさん。


何かやっぱりお父さんみたい。


伊藤さんと話している分には、雅樹は何も言わない。


ただ、たまにカウンター越しに同級生の斎藤くんと話していると、こっちを見ている。


大丈夫。


斎藤くんと、どうにかなる事は100%ないから安心して!


彼は高校の時からあんな感じなの。


牧野さんや千葉さんがそんな雅樹を見て、いつも雅樹に突っ込む。


それが面白かった。


でも、支社に行ったら、この光景が見られなくなるのか。







No.208

私が、カウンター前を軽く掃除をしていたら、斎藤くんが点呼をしに来た。


「おっ、加藤!おはようさん!」


「あっ、おはよう」


「お前、何かちょっとあか抜けたなー!高校生の時は、存在感なかったけど(笑)」


「存在感なかったのは否定しない(笑)そうかなー?たいした変わってないと思うけど」


「化粧かなぁ?可愛くなったよ(笑)」


「ありがとう。そんなにほめても何も出ないよ?」


「そういえば、今度、同窓会があるみたいだよ?」


「そうなんだ」


「お前、来ないの?前の同窓会の時も来なかったじゃん」


「うん。余りそういうの得意じゃなくて」


「一緒に行かない?多分、お前の実家に案内状行ってるはずだよ?」


「幹事は誰?」


「確か、土屋のはず」


「あー、懐かしい、土屋くんか。土屋くんって今、何してるの?」


「前の同窓会であった時は、実家のクリーニング屋を継ぐって言ってたなー」


「そういえば、クリーニング屋だったね」


ふと視線を感じると、雅樹がじっとこっちを見ている。


牧野さんが隣で笑っている。


伊藤さんが「ほらほら!時間だぞ」と斎藤くんに声をかける。


「あっ、本当だ!じゃあ加藤、またね!」


「うん。行ってらっしゃい!」


手を振り、席に戻る。


席に戻ると、牧野さんが「いやー!こいつ面白かった!ヤキモチ妬きすぎて怒ってんの!」と言って笑っている。


雅樹がじっと私を見ている。


「…あいつと一緒に同窓会に行くの?」


「行きません」


「一緒に行きたいなら、別に行ってもいいんだよ?」


「行きません」


牧野さんが「ヤバい!腹痛い!」と笑っている。


雅樹はムッとした顔で仕事をする。


そんなにヤキモチ妬かないで!


自宅に帰ってからも「あいつ、まりの事が好きなんじゃないの!?」と怒っている。


「大丈夫!有り得ないから!」


「まりは俺の嫁だ!浮気は許さん!」


「浮気はしません!私も雅樹だけ!」


「よろしい、許してやろう(笑)」


「ありがとうございます(笑)」


ヤキモチを妬いてくれるって事は、それだけ好きでいてくれてるって自惚れてもいいのかな?


私は雅樹だけ!


絶対裏切る事はしないから安心して!





No.209

圭介から連絡が来た。


「今日、実家に行ったら、母さんからねーちゃんに同窓会の案内状が来ているって言われて預かったんだけど、これから行ってもいい?」


「いいよ」


「じゃあ、これから行くわ。長谷川さんはいるの?」


「いるよ。今、シャワーしてる」


「わかった。じゃあ後で」


電話を切る。


雅樹がパンツ1枚の姿で「あー、さっぱりしたー!」と言って、お風呂場から出てきた。


「今ね、圭介から電話があって、これから来るって」


「そうなの?じゃあ何か着るかー」


そう言って、スウェットを着た。


インターホンが鳴る。


モニターに、圭介のアップの顔が見える。


「どうぞー」


雅樹がオートロックの鍵を開ける。


玄関のチャイムが鳴る。


「圭介くん、こんばんは!入って入って!」


「お邪魔しまーす」


普段着の圭介。


「ねーちゃん、これ。開封はされてた(笑)」


「だろうと思った」


同窓会の案内状が入った、開封済みの封筒を私に手渡す。


雅樹が「同窓会…」と言って、封筒を見ている。


「ねーちゃん、同窓会に行くの?」


「いかなーい」


「そうなの?」


「余りそういうの得意じゃないから」


「ねーちゃん、飲まないしなー。俺なら喜んで行くけど」


「あんたはねー、こういうの大好きだもんね」


「その通り!(笑)」


「ご飯は?」


「実家で食った」


「そう」


雅樹が姉弟の話を聞いている。


「ねーちゃん、刺されたところはどう?」


「うん、まあ。もう痛みはないしね。ただ、傷はまだちょっとグロいかも」


「そうなんだ。見てみたいけど、いくらねーちゃんとは言え、ねーちゃんのパンツを見るのは抵抗があるからやめとく(笑)」


「そうして(笑)」


雅樹が「圭介くん、お茶でも飲まない?」と言って、ペットボトルのお茶を1本差し出す。


「ありがとうございます。頂きます!」


圭介はさっそくお茶を飲む。


「長谷川さん、あれからどうなりました?」


「圭介くんには感謝しかないよ。弁護士の先生、きちんと対応してくれたよ」


雅樹は圭介と話し始めた。


No.210

雅樹の元彼女は、執行猶予がついた。


示談には一切応じなかった。


弁護士さんを通して、賠償請求をした。


二度と私達に近付かない様に、接見禁止命令。


私も雅樹も、何度か警察にも弁護士事務所にも行った。


法律は難しくてよくわかんないけど、元彼女と2度と会う事がなければ、それでいいや。


そんな話を圭介にした。


「とりあえず、解決したの?」


圭介が言う。


「全てではないけど、まぁ、もう落ち着いたかな?」


「それなら良かった」


「圭介くんには本当に感謝だよ。ありがとう」


「俺は何にもしてないです」


「今度、食事でも」


「ぜひ!俺、明日早いんで、そろそろ帰ります」」


「圭介!ありがとね」


「ねーちゃん、足お大事に。じゃあ長谷川さん、また連絡します」


「わかったよ」


圭介は帰って行く。


雅樹が勝手に同窓会の案内状を見ている。


「会費、5千円だって」


「行かないもん」


「本当に行かないの?」


「うん」


「どうして?」


「興味がないから。友達も余りいなかったし」


「あの運転手は?」


「斎藤くん?別に全然。ただ同じクラスで同じ部活だったってだけだし。同じパーカッションだったから、他のパートの人よりは話したけど、でもそれだけ」


「本当に行かないの?」


「うん」


私はその場で欠席に○をした。


「5千円あったら、雅樹と美味しいもの食べに行く」


「…そっか。じゃあ今度、この会費で2人でうまいもの食べような」


「うん。私もシャワーしてくる」


私はお風呂場に向かう。


今日は、渡辺さんからもらった、いい香りがするボディーソープを使ってみる。


いい感じ!


気分が変わる。


さっぱりしてシャワーから上がる。


雅樹は、ソファーに座り、お茶を飲みながらテレビを観ていた。


もう少ししたら、毎週観ているドラマが入る。


雅樹は、私がドラマを観ている間、テーブルでノートパソコンを開いている。


平和な日常。


ずっと続けばいいな。
















No.211

平和な日々が流れる。


仕事行って、帰って来て雅樹とご飯食べて、一緒に寝て、SEXして。


一緒に買い物行ったり、デートしたり。


テレビを観て笑ったり、感動したり。


喧嘩もしない。


お互い思いやり、大切にして、尊敬している。


たまに千葉さんが来ては飲んでいく。


酔うと連発する千葉さんの下ネタにも、すっかり慣れた。


田中さんから、子供が生まれたと連絡が来た。


立花さんと雅樹と一緒に、仕事帰りに牧野さんと田中さんの赤ちゃんを見に行った。


牧野さんに似ている女の子。


立花さんが慣れた様子で赤ちゃんを抱っこ。


「やっと会えまちたねー」


赤ちゃん言葉で話しかける立花さん。


田中さんが「立花さんはすごい!あの痛みを2回も経験したんだよね?私はもう無理!」と言って、ドーナツクッションに座っている。


牧野さんは立ち合った。


出産の瞬間は、田中さんより泣いていたらしい。


「マジで感動したんだよ。ヤバかった。長谷川も、子供が出来たら立ち合ったらいいよ。人生変わるわ」


牧野さんが力説。


赤ちゃんを抱っこさせてもらう。


可愛いよー!


あれ?


泣きそうになってる。


田中さんに「泣きそうになってる!」と言って、赤ちゃんをママに。


田中さんに抱っこされると、泣きそうになっていた赤ちゃんは泣かない。


やっぱりママは偉大。


牧野さんと田中さんは幸せそうに赤ちゃんを見ている。


牧野家に新しい家族の誕生。


田中さんが、ママになった。


前の彼氏に振られてから、誰かいないかなーって言っていた頃を思い出す。


私も2人に続きたい!


雅樹も赤ちゃんを抱っこ。


でも、どうしたらいいのかわからない様子。


不恰好に抱っこしている。


でもすごく優しい顔で赤ちゃんを見ている。


「牧野、お前に似てるな」


「将来は美人になるぞ!」


牧野さんもパパの顔。


ほっこりとする。





No.212

社長が会社に戻って来た。


少し痩せたけど、若干後遺症は残っているけど、社長が戻って来てくれた事が嬉しい。


ちょっと不自由な社長に変わり、和也さんが指揮を執る。


支社の社屋も完成した。


隣町の町外れ。


作りは本社に似ている。


中を見学する。


まだ何もないからか、すごく広く感じる。


人員が揃うまで、今いる社員で回して行く。


募集をかけると、色んな方々が本社に面接に来る。


部長と和也さんが面接。


緊張している面接待ちの方々。


こっちにも緊張が伝わる。


私と総務部の女性の松山さんと2人で、面接に来た方々の受付をする。


男性、女性、若い方もいれば、30代、40代の方もいる。


会社では1番広い会議室が面接会場。


松山さんが「何か、入社した時の事を思い出しますね」と小声で話しかけて来た。


「そうですね。私も面接の時は緊張しました」


私が答える。


「私もです」


ふと面接待ちをしている、メガネをかけた男性が視界に入る。


あれ?


この人、どっかで見た事がある。


でも思い出せない。


誰だっけ?


モヤモヤする。


その男性を凝視する。


すると男性が視線に気付いたのか、私を見て軽く会釈する。


うーん。


あっ!


思い出した!


高校の時に、私と同じ様に存在感がなくて、私と同じ様にいつも1人でいた人だ!


名前、何だっけ。


私と違い、確か頭は良かったんだよな。


大学に進学したんだよな。


何故、うちみたいな小さな会社に就職希望なんだろう。


そんな事を考えながら、彼を見ていた。


採用になれば、新年度から入社になる。


あっ!もし会えたら斎藤くんに聞いてみよう。


彼なら知っているはず。


面接も終わり、私も松山さんも仕事に戻る。


雅樹が「たくさん来ていた?」と聞いてきた。


「たくさん来てましたよ!男性も女性も、年齢層も色々」


「そっかー」


その時に、早番から帰って来た斎藤くんがカウンターに来た。


「あっ!ねぇ!斎藤くん、ちょっと待って!」


私の声に「どうした?加藤」と言って私を見る。


私は裏からカウンターの向こう側に行く。


また雅樹がジーっと見ている。





No.213

私は、斎藤くんとカウンター前の隅っこに行く。


「あのね、聞きたい事があって」


「なに?」


「同級生で、私と同じ様に存在感なくて、いつも1人でいた頭が良かった男子って、名前なんていったっけ?」


「えー?」


斎藤くんは、ちょっと考えている。


「あっ、もしかして渋谷か?」


「そうだ!渋谷っていった!ありがとう!」


「渋谷がどうかしたのか?」


「余り大きな声で言えないけど、今日面接に来てた」


「そうなの?あれ?あいつ大学、東京行ってそのまま東京で就職したんじゃなかったっけ?こっちに帰って来たのかな?」


「そうなんだ。ありがとう」


「あいつ、バツイチだって話だけど、まぁプライベートな事は、仕事には関係ないよな。俺も実はバツイチなんだ」


いきなりの驚き発言。


「そうなの!?」


声が大きくなる。


「あっ、ごめん、つい」


「いいよ。色々あるんだよ。加藤はまだ仕事中だろ?俺は帰るから、もう少しちゃんと働けよー!」


「ありがとう!お疲れ様」


斎藤くんは手を上げて帰っていった。


席に戻る。


雅樹が「旦那の前で、あんなに他の男とくっついて話すんだー」と言って来た。


牧野さんが笑っている。


千葉さんが「加藤さん!いいよいいよ!もっとやれ!」と笑っている。


すっかりいじられている雅樹。


立花さんも渡辺さんも笑っていた。


仕事が終わり帰宅。


雅樹が「絶対あいつ、お前の事を狙ってる!」と言う。


「まさかー」


「いいや、獲物を狙う目でまりを見ていた!」


「大丈夫だよ」


「…ちょっと待てよ?まりもこんな気持ちだったんだよな。真野さんの時や、元彼女の時」


「うーん、どうかなぁ?でも真野さんの時は、そんな感じだったかなぁ?モヤモヤはした」


「ごめんよー!」


「気付いてくれたか(笑)」


その日も雅樹に抱かれる。


「まり、俺から離れないでくれ。俺が全力でまりを大事にするから。余りヤキモチを妬かせないでくれー!」


そう言って、激しく私を抱く。


モヤモヤした気持ちを晴らす様に。











No.214

支社への移動が始まる。


支社へ移動する者は忙しくなる。


田中さんはまだ産休中だけど、田中さんの物もまとめる。


まだ日にちはある。


本格的に完全に移動するまでには、産休から戻る予定。


千葉さん、坂田さんも重たい物は手伝ってくれた。


トラック運転手さんも分散される。


増車はするけど、いきなり一気に増やす事は出来ないため、とりあえずベテラン勢はしばらくの間は支社勤務になる。


以前倒れた宮原さんも支社チーム。


元気になって頑張っていた。


斎藤くんは本社残留。


それを聞いた雅樹は、安心した様な顔をしていた。


最近、生理痛が酷い。


女性として生まれたからには仕方がないものではあるけど、生理の時は憂鬱になる。


前は、そうでもなかったんだけどなー。


色々あったから疲れもあるのかな。


腰が痛重い。


ちょうどこの時は生理2日目。


立花さんに「顔色悪いよ?大丈夫?」と聞かれた。


「すみません、今生理で…ちょっと生理痛が酷くて」


「薬はあるの?私、持ってるからあげようか?」


「ありがとうございます。でも、今朝飲んだので大丈夫です」


「無理しないでよ!手伝ってあげるから」


「ありがとうございます」


渡辺さんも「私も生理痛酷いので、気持ちわかります!手伝いますから、何でも言って下さい!」と言って、色々手伝ってくれる。


ありがたい。


自宅に帰っても生理痛がつらい。


雅樹が「大丈夫か?」と聞いてきた。


「飯食える?」


「うん」


「俺、何か作るから少し休んでなよ。顔色悪いよ」


「ありがとう」


私はソファーで少し横になって休む。


雅樹がご飯を作ってくれた。


目玉焼きとウィンナー、昨日私が作って余って冷蔵庫にいれておいた少しの煮物と鶏肉を焼いたやつをチンして出してくれた。


「たいしたもの作れなかったけど」


「全然、ありがとう」


頂きます。


食欲はある。


雅樹が用意してくれた晩御飯を食べる。


後片付けも雅樹がしてくれた。


早目に就寝。



No.215

田中さんが戻って来た。


「ただいまー!」


「おかえりなさーい!」


3人が集まる。


でもこうして一緒にいれるのもあと少し。


1日、1日、3人との時間を大事にしながら働く。


いよいよ、本社勤務最終日。


立花さんと渡辺さんと一緒に働くのも最後。


本社に来たら会えるが、こうして揃うのは最後。


「明日からは田中さんも加藤さんもいないのか…こんなに寂しいんだね」


立花さんは涙を浮かべている。


立花さんの涙に、私も田中さんも涙が出てくる。


渡辺さんが「田中さん!加藤さん!本当に今までお世話になりました!支社に行っても、何かある時は本社に来るし、今度お会いした時は「渡辺も成長したな」って思ってもらえる様に、立花さんを頼りに頑張りますので、支社に行っても頑張って下さい!」と言って、プレゼントでハンカチをくれた。


「渡辺さん、ありがとう」


私も田中さんも涙腺が崩壊。


雅樹も牧野さんも、遠くからその様子を見ていた。


立花さんも「私からも2人にプレゼント」と言って、可愛いポーチをくれた。


「ありがとうございます!」


「支社に行っても、また皆でご飯行こ!もちろん、長谷川さんや牧野さんも一緒に!」


立花さんが笑顔になる。


「お互いの情報交換も大事だしね」


田中さんが言う。


他の部署の人達も、最後のお別れをしている。


千葉さんと坂田さんも、雅樹や牧野さんとお別れ。


坂田さんも涙を見せていた。


今日は土曜日。


日曜日を挟んで、月曜日から支社勤務になる。


雅樹も、ちょっと寂しそう。


でも、これからは支社の要として、部長の元で働く。


私も、田中さんともう1人、明日からの新入社員と3人で頑張る。


月曜日。


新しい支社。


社長に代わり、和也さんが朝の挨拶と共に新入社員の紹介と、配属される部署を発表する。


渋谷くんがいた。


採用されたんだ。


まさかの事務員採用。


理由は、田中さんは子供が小さい、私は新婚でいつ赤ちゃんが出来るかわからない。


事務員不在を避けるために、1人男性を配属するとの事。


事務員兼配車係になる。


本社でいう、伊藤さんや小沢さんみたいな仕事。


配車係には、牧野さんも兼用でやる事になっている。













No.216

1番カウンター側に渋谷くん。


隣に私、その隣に田中さんの席がある。


向かいには本社と同様、牧野さんと雅樹、そして新入社員の高橋さんという男性と、新山さんという女性が配属された。


高橋さんは、牧野さんや雅樹と同年代くらい、新山さんは私より1つ上。


高橋さんは、同業種転職で即戦力、本社時代の千葉さんの位置、新山さんは坂田さんの位置。


新山さんは雅樹の部署の事務的存在。


渋谷くんに挨拶。


「同じ事務員の田中です!」


私も田中さんも、会社では旧姓を名乗る。


ずっとそうだったので、支社でもそうなる。


「加藤です」


渋谷くんが「渋谷です。よろしくお願いいたします」と挨拶。


私が「あの、私、高校の同級生の加藤まりです。覚えてますか?」と聞いてみる。


雅樹が「また同級生!?」と言って渋谷くんを見た。


渋谷くんが「そうなんじゃないかな?と思ってました。面接の時に」と言う。


渋谷くんは気付いていたんだ。


田中さんが「同級生なの?」と聞いてきた。


私が「はい。高校の」と答える。


「そうなんだ!偶然だね!じゃあ全くの初対面ではないから、やり易いんじゃない?」


「…頑張ります」


渋谷くんが答える。


田中さんが指導係。


渋谷くんに一から色々教えて行く。


支社には、本社にはいない掃除の方がいた。


50代後半くらいの、少しふくよかな女性。


この方が掃除をしてくれる事になったので、事務員の当番がなくなった。


松山さんや高橋さんも、雅樹や牧野さんに色々教わりながらメモを取ったり、頷いたりしている。


新しい仲間が増えた。


私も先輩になる。


しばらくは忙しい日々が続く。


支社の軌道に乗るため、皆一生懸命頑張る。


忙しさもあり、余り渋谷くんとは話さないまま。


渋谷くんも田中さんに教わりながら、慣れた感じでパソコンを打つ。


支社勤務から1ヶ月余り。


だいぶ支社のメンバーにも慣れて来た。


支社で歓迎会を開く事になった。


幹事は、営業部の中堅社員2人。


営業の方らしく、爽やかに「歓迎会やりまーす!是非ご参加下さい!」と言って、ビラを配って歩く。


日時は来週の土曜日。


雅樹も私も参加する。








No.217

自宅で雅樹と新人さんの話しになる。


高橋さんも、松山さんも頑張ってくれている、と話が話す。


雅樹が「新山さんって、シングルマザーなんだって。小学生の子供さんと2人で暮らしてるって言ってた」と話す。


「へぇー。そうなんだ」


「高橋さんは、前の会社でも同じ様な仕事をしていたから、やり方だけ教えればすぐ覚えるし、俺も牧野も助かっているよ」


「高橋さんって、どうして前の会社を辞めたの?」


「倒産したんだって。知らないで出勤したら会社に張り紙がしていて入れなかったって言ってた。従業員、皆知らなかったみたいだよ?気の毒だよな」


それは気の毒。


「松山さんはずっと、パートをしていたけど、正社員になりたくてうちに来たらしい。うち、結構融通きくから、シングルマザーにはいいかもな」


「そうだね」


急に子供さんの学校から連絡が来るかもしれないし、うちの会社なら対応してもらえる。


「なぁ、まり。事務の同級生はどうだ?」


「まだ余り話してないし、基本的に田中さんが教えているし、よくわかんない」


「前のトラックの同級生とは全然違うタイプだね」


「うん。私と同じく、いつも1人でいる人だったからね。すごくおとなしいよ。頭はいいけど」


「そんな感じがする」


「でも、皆いい人で良かった!」


「そうだね」


歓迎会の日。


支社長を始め、上司も参加の歓迎会。


部署毎に別れて座る。


新人さんの自己紹介から始まり、次々自己紹介をしていく。


終わると拍手。


渋谷くんの番になる。


「…渋谷雄大です。よろしくお願いいたします」


一言で終わる。


支社長の乾杯で歓迎会が始まる。


田中さんは子供さんを田中さんのお母さんに預けて来た。


やはり、ここでも雅樹と牧野さん、私と田中さんで集まる。


渋谷くんは、1人で料理を食べて、1人で飲んでいる。


田中さんが「渋谷さん!飲んでる?もうなくなるじゃん!次は何飲む?」と話しかける。


田中さんの社交性には脱帽。


田中さんと渋谷さんが話している。


牧野さんが「あの社交性は才能だと思う。誰とでも仲良くなるし、分け隔てなく接する姿は、我が妻ながらすごいと思う」と言う。


私もそう思う。


私の母親とあんなに仲良くなるんだもん。


すごいよ。


No.218

二次会は、前に兄の結婚式の二次会で来たお店。


上司は一次会で帰り、二次会は比較的若い人達。


田中さんは、帰ると言っていた渋谷くんを無理矢理連れて来た。


「主役は二次会参加しないとダメだよー!」


渋谷くんと一緒にいる田中さん。


雅樹が牧野さんに「ヤキモチ妬かないの?」と聞いた。


「いつも、あんな感じだから全然」


多分、雅樹ならヤキモチ妬いてるだろうな。


田中さんがこっちに来た。


「渋谷さんね、ちょっと話してくれる様になった!加藤さん、同級生でしょ?みんなも一緒に話ししない?」


そう言って、私と雅樹と牧野さんを連れて渋谷くんのところに行く。


田中さんが「渋谷さーん!ねぇ、加藤さんって高校時代、どんな感じの子だったの?」と渋谷くんに話しかける。


「加藤さんが、渋谷さんは頭が良かったって言ってたよー!私、勉強出来なかったから、賢い人って尊敬するー!」


「いえ…あぁ、加藤さんって、すごく地味な子でしたよ?でも学祭の吹奏楽部の出し物で、ロックバンドの曲をコピーして、ギターを弾いていた時は、すごいなと思いました」


田中さんが「加藤さん、ギター弾けるの!?すごいね!」と私を見る。


「いえ、初心者です。あれは仕方なく練習をして弾ける様になっただけです」


雅樹が「前の俺の部屋でギター弾いてたじゃん。なかなかうまかったよ?あれから聞いてないけど」と言う。


「渋谷さんは何部だったの?」


「…陸上部です」


私が「そうそう!渋谷くん、砲丸投げで全国大会に行ったはず。すごくないですか?」と話す。


田中さんが「全国大会!?すごいじゃん!」と渋谷くんの肩をパン!と叩く。


「いえ…行っただけで予選敗退でした」


「なかなか全国なんて行けないよ?渋谷さんも加藤さんもすごいわー。私は何にもなーい!」


田中さんがいなければ盛り上がらないであろう会話。


渋谷くんは、田中さんのおかげで少しずつ心を開いて来ているのがわかる。


途中で松山さんと高橋さんも入って来た。


雅樹が「松山さんはお子さん大丈夫なの?」と聞く。


「近所に妹がいるので、妹に子供をお願いして来ました。妹にも子供いて仲良くしているし、今日は妹の家にお泊まりしてます」


「そうなんだ。じゃあいっぱい飲んでも大丈夫だね」


田中さんが言う。

No.219

まだ、松山さんも高橋さんも少し緊張しているのかおとなしい。


その時「田中さーん!加藤さーん!」という声が聞こえた。


振り返ると、立花さんと渡辺さんがいた。


2人共、手を降りながらこっちに走って来た。


「ちょっとー!何でー!」


田中さんが立花さんに抱き付く。


渡辺さんが「今日、本社でも歓迎会だったんです!で、千葉さんがここで二次会をやってるはずだからって教えてくれたので、行っちゃおう!って話しになって、本社の方の二次会行かないで、こっちに来ました!」と話す。


牧野さんが「千葉は?」と聞く。


「千葉さんも多分、坂田さんと一緒にこっち来ているはずです!」


渡辺さんが言う。


立花さんが、高橋さん、松山さん、渋谷くんに「本社勤務の立花と言います。こちらは渡辺さん。以前、田中さんと加藤さんと一緒に働いていたの。よろしくお願いします」と挨拶。


3人は「こちらこそ」と挨拶。


少しして、千葉さんと坂田さんが来た。


雅樹と牧野さんも嬉しそうに千葉さんと坂田さんのところに行き、何かを話している。


やっぱり、このメンバーいいな。


隣にいた渋谷くんが「本社って、面接に行ったところだよね」と聞いてきた。


「そうだよ」


「何か、いいね。仲間って感じがする」


「渋谷くんも、高橋さんも、松山さんもみんな仲間だよ!」


高橋さんと松山さんは2人で話し出した。


私は渋谷くんと立花さんと渡辺さんの元に。


「彼、支社の新入社員で渋谷くんって言って、私の高校の同級生なんです」


立花さんが「そうなの?加藤さん、真面目な子でしょー!仲良くしてあげてね」と渋谷くんの肩を叩く。


しばらくみんなで話をする。


支社に移った何人かも立花さん達に気付いたみたいで、こっちに来て話している。


すごく楽しい時間だった。


解散となる。


出入り口から少し離れたところで話していたけど、立花さんが「そろそろ帰るかな。今日は2人に会えて良かった!」と言って笑っている。


渡辺さんも「私も会えて良かったです!」と笑顔。


「じゃあ、またねー」


手をふって、2人はタクシーに乗って帰って行った。


雅樹と牧野さんさんと千葉さんと坂田さんは、4人で飲む事になった。






No.220

田中さんは牧野さんに「私は帰るよ!お母さんに子供お願いしてるし、泣いてたら困るから!ゆっくり飲んできて!」と言う。


牧野さんは「わかったよー」と言って、手をあげる。


「加藤さんは?」


田中さんが聞いてきた。


雅樹が「一緒に行くか?」と誘う。


千葉さんも牧野さんも「加藤さんも来なよ」と誘ってくれた。


隣にいる渋谷くん。


「渋谷くんも行く?」


雅樹と牧野さんも「一緒に飲もうや」と誘ってくれた。


田中さんが「じゃあ、月曜日に会社で!千葉さん!坂田さん!牧野さんをよろしくお願いします!また会いましょう!バイバイ!」と言って、タクシーに乗って帰って行った。


前に千葉さんと雅樹と牧野さんが並んで歩き、私、渋谷くん、坂田さんがその後ろを歩く。


坂田さんが「皆さん、元気そうで何よりです」と話しかけて来た。


「本当にそうですよね。つい1ヶ月くらい前なんですけど、すごく昔の感覚になりますよね」


「千葉さんがずっと寂しそうにしています。新しく入った人と余り合わないみたいで…」


「そうなんですか?」


「長谷川だったらなー、牧野だったらなー、っていつもこぼしてます」


「ずっと一緒にやって来てましたからね。そうなりますよね」


渋谷くんは黙ってついてきている。


たまに雅樹が後ろを振り返り、私達を見る。


千葉さんがよく行くというバーに入る。


カウンターに横一列に座る。


千葉さん、牧野さん、雅樹、私、渋谷くん、坂田さんの順番。


千葉さんが「お前ら、本社に戻って来いよー!寂しいんだよ!」と言っている。


雅樹が「本社はどうだ?新人入ったろ?」と聞く。


千葉さんが「入ったけど、全然仕事しないんだよ。俺、一生懸命教えてるんだぞ?なっ、坂田!」と1番端に座っている坂田さんに声をかける。


坂田さんが「千葉さん、すごく丁寧に教えてますね」と答える。


「だろ?なのに、次の日になると何にもわかってないんだよ。何十回も教えた!でも出来ません!わかりません!って言われるんだよ。どうしたらいい?」


牧野さんと雅樹に話をふる。


「お前の事、怖いんじゃねーの?」


牧野さんが言う。


「俺、お前らが見たら気持ち悪いと思うくらいに優しく教えてるぞ?これ以上優しくするのは無理だ!」


色々愚痴を言う千葉さん。


No.221

「いくつのやつ?」


雅樹が聞く。


「22歳の新卒」


「あー」


牧野さんと雅樹がハモる。


千葉さんが「そのくせ、定時になったら「帰りまーす」とか言って帰るんだよ。全然使えない!おかげで俺も坂田も毎日残業!シフトは進まんし、今、俺1人でシフト作ってるんだぞ!」と愚痴を言う。


「だから一回、怒ったんだ。やる気出せって。そしたらすぐに部長に「千葉さんにパワハラされました」って言いに行きやがって、俺が部長から怒られるんだぞ?」


坂田さんが「俺は部長に言いました!でも「新人なんだから」って言って取り合ってくれなくて」と話す。


牧野さんが「大変だな、お前」と慰める。


千葉さんが渋谷くんに「新入社員の前でごめんね」と謝る。


渋谷くんは「いえ」と答える。


渋谷くんが私に「本社の人だよね?」と聞く。


「うん。前に長谷川さんや牧野さんと一緒に働いていたの。配車ね」


「そうなんだ」


「渋谷くん、大丈夫?余り飲んでないみたいだけど」


「…加藤さんしか話せる人いなくて、緊張してる」


「大丈夫だよ!みんな優しいよ?」


「うん。でも先輩達の話も聞けて良かったよ」


「ところで渋谷くん、東京にいたんじゃなかったっけ?」


「いたんだけど…離婚して帰って来た」


前に斎藤くんが言ってたのは本当だったんだ。


「そうなんだ。子供はいたの?」


「1人いる。女の子」


「そっか。会えてるの?」


「離婚してから会ってない」


「…何かごめんね。色々聞いちゃって」


「いや、いいよ」


雅樹が話を聞いていたのか「渋谷くん、次は何を飲む?」と聞いてきた。


「ありがとうございます。同じので」


雅樹がマスターに飲み物を注文。


「加藤さんは子供いないの?」


「うん。まだいない」


「離婚原因って聞いてもいい?」


「うん。向こうの不倫。どうしても許せなかった。娘も俺の子じゃなかったし。それがわかった時はショックだったけど、戸籍上は俺の子だよね」


「そっか。ごめん」


何だか申し訳なかった。


これ以上は聞かない様にしよう。


雅樹は私と渋谷くんの聞いていたのか、難しい顔をしていた。










No.222

「加藤さんは幸せそうで何より。田中さんもいい人だし、何か俺、この会社に入ってやっと色々と吹っ切れそうだよ」


「渋谷くん…」


「俺って、人に強く言えないんだ。知ってると思うけど」


「うん」


「前の奥さんが浮気しているのは知っていたんだけど、強く言えなかったんだ。舐められてたのかもしれない。でも好きだったから、色々耐えたよ」


「うん」


「で、娘が生まれて、母親してる前の奥さんを見て、俺、父親になったんだ、頑張らないとと思っていたんだけど、娘が成長するにつれて俺に全然似てなくて。でも聞けなくて。黙ってDNA検査をしたら、親子の関係を否定された」


黙る私。


「それがどうしても許せなかった。だから離婚して帰って来たんだよ。今は、どうしているのか知らない」


「そうなんだ…」


「ごめん、俺酔ってるのかも。暗くなっちゃったね」


坂田さんが「俺、今日はじめましての人間なんですけど、頑張って下さい!この会社、俺も入って本当に良かったと思っています。本社と支社で離れてますけど、また機会があったら飲みませんか?」と言って来た。


「ありがとうございます」


「加藤さんも田中さんも、本当にいい人達ですよ!きっと大丈夫です!吹っ切れますよ!」


坂田さんが優しく渋谷くんに話す。


「これ、俺の携帯番号です。良かったらいつでも連絡下さい!」


坂田さんは、渋谷くんに名刺を渡す。


「ありがとうございます」


渋谷くんも名刺を渡す。


私は、2人のやり取りを見ていた。


飲み会もお開き。


かなり酔っている千葉さん。


坂田さんが「俺、千葉さんを送っていきます!」と言って、タクシーをつかまえる。


雅樹が「月曜日、タクシー代千葉に請求してやれ!」と言うと、坂田さんが「介抱代も上乗せしておきます!」と笑う。


体が大きい千葉さん。


タクシー乗るのも一苦労。


千葉さんと坂田さんを見送る。


牧野さんと渋谷くんも、各々タクシーに乗って帰宅。


私達も帰宅した。

No.223

雅樹がタクシーの中で「渋谷くんの話し、ごめん、聞いてた」と言う。


「彼も大変だったんだな。多分、同級生っていうので、気が緩んでまりに話したのかもな」


「高校時代は余り話した事はなかったんだけどね」


「他の人よりは話しやすかったんだろ。今度、ゆっくり話でも聞いたらいいよ。話せばすっきりする事もあるだろうし」


「いいの?」


「本社のあの運転手ならダメだ!っていうけど、彼なら心配なさそう」


「今度、食事にでも誘ってみるかな?」


「そうしなよ」


自宅に着いた。


もう深夜3時過ぎ。


この日は、2人でゆっくり就寝。


朝、目が覚めたら10時を過ぎていた。


雅樹は起きていた。


「おはよう!今日もいい天気だぞ!」


ベランダをガラリと開ける。


「洗濯日和だね」


ぐっすり寝たからか、目覚めもすっきり。


シャワーする前に、洗濯機を回して洗濯。


洗濯物を干して、掃除機をかける。


そして朝昼兼用のご飯を作る。


ご飯を食べてから雅樹は、奥の部屋で持ち込んだ仕事に取りかかる。


私は、お昼の後片付けをしてから、雅樹の邪魔をしない様に静かに過ごす。


平和な日に感謝。


たまにはこうしてゆっくり過ごす休日も悪くない。


夕方、雅樹が奥の部屋から出てきた。


「終わったー!」


そう言って、あくびをしながらのびをする。


「晩御飯、何食べる?」


「久し振りに、まりのカレーが食べたい!」


「オッケー、じゃあカレー作るね」


カレー作りを始める。


雅樹が後ろから私を抱き締める。


「幸せだな、俺達」


「うん」


「今日は頑張ろうかなー!子作り!」


「考えておく」


そう言いながらも、夜にはちゃんと雅樹を受け入れる。


終わってから「まりとのSEXの時間が、最高に幸せだよ。まりの気持ちよさそうに感じてる姿、たまんないんだよなー!」と言ってキスをされる。


恥ずかしい。


「…だって、気持ちいいんだもん」


「俺も最高に気持ちいいよ。もう一回気持ちよくなろう!エロいまりをもう一回見たい!」


また襲われた。


中で出す。


中に出す瞬間の「まり、出ちゃうよ」って言う雅樹がいつも可愛い。





No.224

牧野さんが1週間、本社に出向する事になった。


千葉さんからSOSが来た。


田中さんが「本社、大変そうみたいだもんね」と言う。


牧野さんから話を聞いたのかな。


支社も軌道に乗り始めた。


業績も順調に伸び始め、新入社員達もだいぶ仕事に慣れて来た。


渋谷くんも一生懸命頑張っている。


すぐに辞めてしまう人もいたけど、ほとんどの人は頑張っていた。


渋谷くんに「どう?だいぶ慣れた?」と聞く。


「おかげ様で」


「今度、一緒にご飯でも行かない?」


「えっ?2人で?」


「うん」


「長谷川さんも一緒に?」


「渋谷くんがそう望むなら。嫌なら無理にとは…」


「行く」


「いつならいい?渋谷くんの都合に合わせるよ」


「加藤さんが良ければ今日でもいいよ。毎日暇してるから」


「じゃあ、今日ご飯行く?」


「2人だと長谷川さんに悪いから、長谷川さんも一緒に…」


「気を使ってくれてありがとう。後で長谷川さんに聞いてみるね」


「うん」


聞いていた田中さん。


「渋谷さんとご飯行くの?」


「うん、田中さんも行きます?」


「ごめん、今日子供が鼻垂らしてて、早く帰ってあげたいんだ」


「そうなんですね」


「楽しんできて!」


今日は保育園には行かずに、田中さんのお母さんが子供さんをみていてくれているらしい。


ママは大変。


「牧野さんもお風呂入れてくれるし、オムツも変えてくれるし、本当に助かる!いいパパしてくれてるよ!」


「いいパパですね」


「子育ては大変だけど、楽しいよ!」


「私もママになりたいです」


「加藤さんなら優しいママになりそう!」


田中さんも、きっといいママしているんだろうな。


牧野さんも優しいから、きっと田中さんを助けながらいいパパしているんだろうな。


夜、私と渋谷くんが待ち合わせ場所であるレストランの前に着いた。


雅樹は少し遅れる。


「長谷川さんは少し遅れるって言ってた。先に食べててって言っていたから、先に入る?」


「うん」


店内に入る。


「いらっしゃいませ!2名様ですか?」


「後でもう1人来ます」


「かしこまりました!ご案内しますね」


店員さんが、小上がりに案内してくれる。







No.225

私と渋谷くんは、テーブルを挟んで座る。


店員さんに「もう1人が来てから食事の注文でも大丈夫ですか?」と聞く。


「大丈夫ですよ!」


「では、すみません、先に飲み物をお願い出来ますか?」


「かしこまりました」


渋谷くんとウーロン茶を頼む。


すぐにウーロン茶が来た。


「お疲れ様でした」


静かに乾杯する。


「渋谷くんは、今実家にいるの?」


「今はね。でも兄夫婦が同居してるから、近いうちにどっかで部屋を借りるよ。何か、居ずらくて」


「そっか」


「加藤さんって、今どこに住んでるの?」


「本社の近く。支社に移ったから遠くなっちゃったけど」


「そうなんだ」


「今日は急にごめんね」


「いいよ、家に帰っても居場所ないし、かえって有り難いよ」


「ご両親も、渋谷くんが帰って来て、喜んでいるんじゃない?」


「…そうでもないよ」


その時、雅樹が店員さんに案内されて私達のところに来た。


渋谷くんが立ち上がり「長谷川さん、お疲れ様です」と挨拶。


「お疲れ様、気を使わないで座って!」


「ありがとうございます」


雅樹は私の隣に座る。


店員さんが「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」と言って下がる。


メニューを選びながら、雅樹が「食べていてくれて良かったのに」と言う。


「渋谷くんが「先輩である長谷川さんより先にご飯は食べられない」って言ってたから、一緒に待ってた」


雅樹は笑い「そんな気を使わなくていいんだよ!気楽に行こう!今日は同級生とその旦那っていう立場での食事なんだし、ねっ!」と渋谷くんに話しかける。


「いえ、誘って頂いて、先に食べるのは…加藤さんも同級生ですが先輩になりますし…」


ちょっと緊張している様子。


雅樹が「渋谷くんは真面目なんだね」と話す。


メニューも決まり、各々注文。


「渋谷くん、戻って来てから、離婚についての事はご両親には話したの?」


私が聞く。


「全部は話してない。浮気された事と娘の父親じゃなかった事は言ったけど…余り興味なさそうだった」


「どういう事?」


「理由はどうあれ、離婚して帰って来るなんて情けないとは言われたけど、今、俺より兄貴のところの子供の事で頭がいっぱいみたいで…」


うつむく渋谷くん。




No.226

「俺の1番上の姪っ子、今年小学生入学なんだ。帰って来た時は、孫に色々買ってあげないといけなかった時期みたいで、俺の話より、孫の幼稚園卒園と入学式の方が大事だったみたい」


「お兄さんは何人お子さんいるの?」


「4人。1番下が、この前生まれた。小1、年中、2歳、0歳」


「賑やかだね」


「毎日、すごいよ。足の踏み場ないし、うるさいけど可愛いのは可愛い。だから俺も甥っ子、姪っ子達に色々買ってあげたり、休みの日は一緒に遊んだりしてるんだけど、兄貴の奥さんに毎回嫌みを言われる」


ご飯が来た。


食べながら話をする。


「俺がいるから、俺の部屋が使えない。帰って来る前は物置として使ってたけど、帰って来て部屋が使えないから狭い!ってずっと言われてる。だから近いうちに引っ越すって言ったら、全員に「その方がいい!」って言われて」


「…何か色々、ごめんね」


「いいんだ。俺はずっとこんな感じだから。両親もいつも兄貴ばかりで、俺はいつもかやの外だったし。こんな俺でも結婚して、家族を持って、やっと家族が出来たと思って喜んでいたら、ずっと嫁に裏切られてたとか…笑うよね。娘が生まれた時は嬉しかったんだけどなー。俺の子じゃなかったけど」


そう言ってフッと悲しそうに笑う。


雅樹は黙って聞いている。


そして「明日からしばらく有給あげるから、明日にでも部屋を探しなさい。引っ越しトラックと人員については、今晩にでも牧野と千葉に都合つけてもらえる様に話しておくから。お金がないなら、給料天引きにしてもらえるはずだから、話を通しておく。社員価格になるから、他に頼むより安い。行動に移そう。仕事は加藤さんと田中さんに甘えて、まずは今の状況から抜け出そう」と話した。


「引っ越しのお金が足りないなら、俺が貸してやる。毎月少しずつ返してもらえれば、それでいい。今は保証人なしでも入れる物件もあるみたいだし、不動産屋さんも色々協力してくれるはずだ」


「長谷川さん、そんなつもりで…」


渋谷くんが恐縮する。


「俺は渋谷くんの上司でもある。真面目に頑張っている部下を助けたい。加藤さんも何かあれば協力する」


私もうんうんと頷く。


「ありがとうございます…俺、こんなに人に優しくしてもらった事ないから…」


渋谷くんは泣いていた。


No.227

「俺もこの会社で、色んな人に助けてもらって今がある。いっぱい迷惑もかけたし、悔しい思いもした。でも、俺の上司や同僚達に、本当に助けてもらった。今度は俺が上司になり、部長に助けてもらった時みたいに悩んでいる部下の力になりたいんだ。加藤さんの同級生なら、尚更力になりたい。渋谷くんにはこれからも頑張ってもらいたいし」


「ありがとうございます!」


渋谷くんはお礼の言葉を連呼しながら泣いている。


翌日から今週いっぱい、渋谷くんは有給を使い休んだ。


田中さんには事情を説明。


「そうだったんだー。何か渋谷くん、いつももの悲しげな感じだったんだよね。これでいい方向に進んでくれるといいね!でも、そんな事を言えちゃう長谷川さんってカッコいいよねー」


「カッコ良かったです」


「のろけかーい!引っ越しが決まったら、渋谷くんに何かお祝いあげようか?」」


「そうですね!」


翌日の夜に、雅樹の電話に渋谷くんから電話があった。


雅樹が電話を切り「渋谷くんの部屋決まったって!支社の近くの1LDKだって言ってたよ」と私に伝えて来た。


トラック代は給料天引きにしたけど、入居費用代は渋谷くんが出したため、雅樹が出す事はなかった。


雅樹が千葉さんに電話をする。


「土曜日に無理矢理入れてもらった!オッケーだったよ。千葉に「土曜日、飯おごれよ」って言われたから、土曜日は千葉と飯食って来るわ」


「わかった!私は土曜日、渋谷くんの引っ越しを手伝いに行って来ようかな?」


「オッケー」


土曜日。


定時で仕事が終わる。


雅樹は千葉さんとご飯を食べに行くため、牧野さんに「千葉と飯に行って来るから帰るわ」と伝える。


牧野さんは「俺は行けないけど、千葉によろしく伝えて」と言う。


雅樹は「了解」と言って退社する。


私も帰る。


田中さんは牧野さんの仕事が終わるのを待っている。


「最近、私の車、調子悪くて。買い替えかなー?だから今日は一緒に出勤しちゃった!牧野さんが終わらないと帰れないの。早く終わらないかなー」


そう言って、自分の席で牧野さんが終わるのを待っていた。


「私は帰りますね」


「加藤さん、お疲れ様!」


田中さんが笑顔で手をふる。


牧野さんも「お疲れ!また月曜日!」と笑顔で答えてくれた。



No.228

教えてもらった渋谷くんのアパート。


住宅街にある、静かな場所。


2階建てのちょっと古いアパート。


ちょっと迷ったけど無事にたどり着いた。


今日行く事は、雅樹経由で伝えてある。


部屋は1階。


102と書かれた部屋の前。


チャイムを鳴らすと、渋谷くんが出た。


「加藤さん、ありがとう。どうぞ入って」


「お邪魔します」


玄関に入るとすぐ右側にトイレがあり、隣に脱衣室とお風呂がある。


居間は6畳程で、奥にも6畳くらいの部屋があった。


物は余りない。


段ボールが10個程と、ゴミ袋に入れられた衣類、奥の部屋にタンスが2個とカラーボックスが3個。


居間には今まで使っていたと思われるこたつと2人掛け用のソファー、テレビとテレビ台、パソコンデスクと、パソコンデスクの上にデスクトップのパソコンが置いてあった。


あとはまだ何もない。


丈が短いカーテンがかかっていた。


冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも炊飯器もない。


「荷物ってこれだけ?」


「うん。これで全部」


「何か手伝う事はある?」


「これだけだし、特にないよ。でも来てくれてありがとう」


「ゴミ袋に入っているやつは?」


「あれ、スーツ類。段ボールに入れれなくてゴミ袋に入れて運んだ」


「スーツ入れる、ケースみたいのなかった?」


「あったけど、俺の服はこれで十分。ケースなんてもったいない」


「シワになっちゃうよ?片付けよう?どこにしまえばいい?」


「ありがとう、こっちなんだ」


備え付けの小さなクローゼットがあり、そこを差す。


私は、ゴミ袋からスーツを出して、整えてからクローゼットにしまう。


ネクタイも乱雑にゴミ袋に入っていたから、一本一本取り出してハンガーにかけた。


空になったゴミ袋が3枚。


「終わったよー」


「ありがとう!」


渋谷くんは、ゴミ袋3枚を回収しに来た。


「明日は家電を買いに行こうかな?と思って。リサイクルショップでも見てくるかな?それとも新品がいいのかな」


「考えるだけで楽しいよね」


「何か俺、長谷川さんと加藤さんに背中を押してもらえて、本当に感謝している。なかなか勇気が出なかったんだ。これからこの部屋から人生の再出発する感じ。頑張るよ」


「うん。頑張って」









No.229

「加藤さん、本当にありがとう。長谷川さんにお世話になった分、月曜日からは仕事で一生懸命恩返しをしていくよ」


「長谷川さんも喜ぶと思うよ」


「うん。頑張るよ。やっと俺の居場所を見つけた感じ」


渋谷くんは、今までとは違う生き生きとした顔になっていた。


「余り長い間いると、長谷川さんに申し訳ないから、今日はもう大丈夫だよ!スーツありがとう」


「そう?まだ全然手伝うよ?」


「俺も一応男だよー?襲うかもしれないよ?(笑)」


「わかりました。帰ります(笑)」


「長谷川さんを裏切るつもりはないから安心して!冗談だから」


「わかってるよ」


笑う渋谷くん。


今まで余り笑った顔は見た事がなかった。


雅樹は千葉さんとご飯を食べて帰る。


私は、適当に家でご飯を済ますか。


でも、作るのはちょっと面倒になって、通り道にあるコンビニに入った。


お弁当でも買って帰ろう。


仕事帰りの人達で、ちょっと込み合うレジ。


高校生と思われる女の子と、40代くらいの女性2人があわただしくレジで対応。


すると私の前のおじさんが高校生に突然ぶちギレた。


「お前、こっちは急いでるんだよ!早くしろよ!」


「すみません!ちょっとお待ち頂けますか?」


「店長出せや!お前じゃ話しにならん!」


高校生は涙目になっている。


ぶちギレているおじさんが、スピードくじで商品が当たったけど商品が見当たらず、一生懸命探している高校生に早くしろよ!とぶちギレていた様子。


周りにいたレジ待ちの人が、おじさんを見ている。


高校生に代わり、隣でレジをしていた女性が対応。


「私が店長です。お話を伺います。うちの従業員がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「お前らの従業員は、くじの景品のものの場所もわからないのか!どんな教育をしているんだ!」


「申し訳ありません」


「商品がないなら、この分の金くれや」


すると、私の後ろにいた5~6歳くらいの女の
子が「どうして、このおじさん怒っているの?マイはおもちゃなくても、あんなに怒らないよ?」と大きな声で話した。


隣に並んでいたサラリーマンが「プッ」と吹き出す。


私もつられて吹き出す。


おじさんは後ろを振り返り、何か怒鳴って帰って行く。


女の子、よくやった!

No.230

雅樹が意外に早く帰って来た。


私は、ご飯も食べて、シャワーもしてパジャマに着替えて、ソファーに座ってお茶を飲みながらテレビを見ていた。


「おかえりなさい!」


「ただいまー!」


「早かったね」


「ご飯だけだからね。中華料理屋に行って来た」


「あそこ美味しいもんね」


「シャワーしてくるよ」


「行ってらっしゃい!」


雅樹は、話をしながら着替えてシャワーをしにいった。


「さっぱりー!」


雅樹がシャワーから上がる。


冷蔵庫を開けて、お茶を取り出してソファーに座っている私の隣に来た。


「渋谷くんの部屋に行って来たの?」


「行って来たよ!ちょっと迷ったけど。でも住宅街で静かなところだった」


「部屋はどんな感じ?」


「玄関入ってすぐに右側にトイレとお風呂があって、6畳くらいの居間ともう1つ同じくらいの大きさの部屋があったよ。ちょっと古いアパートだけど、住みやすそうな部屋」


「そっかー。良かった良かった」


「長谷川さんに背中を押してもらえて感謝してます。月曜日からは仕事で一生懸命恩返しをしていきますって言ってた」


「そっかー。彼にとって少しでも前向きになれたのなら、それで良かった」


「滞在時間はちょっとだったんだけど、少しだけ手伝って来た。家電が何にもないから、明日家電を買いに行くって言ってた」


「家電を一気に揃えるのは、なかなか難しいけど、揃ったら部屋でゆっくり出来るさ」


「そうだね」


「…渋谷くんとは何にもなかったよね?」


「ある訳ないじゃん(笑)」


「だよねー(笑)」


早目に就寝。


翌朝。


朝御飯を食べ終わり、私は片付けをしていた。


雅樹は、布団をベランダに干してくれていた。


その時に、雅樹の携帯が鳴る。


渋谷くんだった。


電話を切ってから「お礼の電話だったよ。彼、本当に真面目で丁寧だよね。こっちが恐縮してしまうよ」と言っていた。


月曜日。


渋谷くんもいつも通り出勤。


雅樹のところに行き「今日からより一層頑張っていきます。よろしくお願いいたします」と挨拶。


雅樹も挨拶。


いつもの朝。


今日も1日頑張っていこう!






No.231

私はそろそろ退職の時期について、考え始める。


本当なら、既に専業主婦になっている予定だった。


支社も軌道に乗ったし、当初から軌道に乗るまでという話しだった。


今、家計は私が管理している。


雅樹が全ての通帳と印鑑を私に預けている。


雅樹はおこづかい制だけど、特に不満は言わない。


お互いクレジットカードは持っているが、常識的な範囲でおさまっている。


私のお給料とボーナスの大半は貯金に回せた。


贅沢をしなければ、雅樹のお給料だけでも十分やっていけるのがわかったし、ある程度の貯金も出来た。


借金もないし、お互いの車のローンもない。


私が辞めても大丈夫。


私は雅樹に相談をする。


「私の退社の時期について、本格的に考えようと思って」


「そうだよなー。延びに延びちゃったもんな」


「雅樹のお給料だけでも十分やっていけるのもわかったし、会社も軌道に乗ったし、そろそろいいかな?と思って」


「来月は知っての通り繁忙期だから、再来月末付けにする?再来月末なら落ち着くし、新しい事務員も今から募集したら、まりが退職する頃にはだいぶ仕事も覚えてくれるだろうし」


「うん。明日にでも支社長にそう伝える」


「わかった」


このまま在籍をする選択肢もあった。


でも、私が家に入って雅樹を支えたい気持ちは変わらないし、仕事が終わって帰って来てご飯を作って、掃除して…という家事をするのが本当に大変だった。


立花さんや田中さんは本当にすごいよ。


更に子供のお世話もあるんだもんね。


心から尊敬します。


翌朝、田中さんに退職の事を伝える。


「えー!辞めちゃうの!?」


「はい。本当は入籍した時に辞める予定だったのですが延びちゃった感じです」


「このままいよーよー!やだよー!」


田中さんがだだっ子みたいに言う。


「でも決めたので…」


田中さんが黙る。


「…加藤さんがそう決めたのなら!」


笑顔になった。


「ありがとうございます!退職するまでは全力で頑張ります!」


「頑張ろうねー!」


渋谷くんも雅樹も私達の会話を黙って聞いていた。





No.232

退勤時間。


田中さんは今日も牧野さん待ち。


田中さんに急かされて、急いで仕事を切り上げようと頑張っている。


「ほら!早く早く!」


「待って!今、やってるから!」


「菜々子とババが待ってるから、早く帰るよ!」


「わかったからちょっと待ってって!」


雅樹が「手伝うよ」と言う。


田中さんが「長谷川さん!優しい!さすが!」と雅樹をほめる。


雅樹が笑いながら牧野さんの仕事を手伝う。


「私は先に帰りますね!」


田中さんに声をかけた。


「加藤さん!お疲れ様!長谷川さんにはお礼しておくから!」


今日は、田中さんのお母さんの誕生日だと言っていた。


だから早く帰りたいんだろうな。


雅樹も「先に帰ってて」と私に言う。


私は先に帰る事にした。


駐車場に行くと、渋谷くんが待っていた。


「あれ?帰ったんじゃなかったの?」


「加藤さん、辞めちゃうって本当?」


「うん。本当は入籍したら辞める予定だったんだけど、色々あって今まで延長していたの。部長にも伝えたし、再来月いっぱいで退職するよ」


「そうなんだ…何か残念だね」


「そう言ってくれてありがとう!でも、まだ2ヶ月あるから、それまではよろしくね!」


「…うん」


何か言いたそうな渋谷くん。


「どうかしたの?」


「…いや、大丈夫。じゃあまた明日」


「お疲れ様!」


渋谷くんは自分の車に乗り込み帰って行く。


私も車に乗り込み帰宅。


そういえば、再来月に車の車検だな。


もう結構乗っているから、あちこちがたが来ているけど、とりあえず車検が通れば、あと2年は乗れる。


そんな事を考えながら晩御飯を作る。


今日は魚にしよう。


買っておいた魚を焼く。


焼きながら肉じゃがを作る。


そして昨日作って残っていた玉子サラダ。


目を離していたら、魚が少し焦げた。


「大丈夫!大丈夫!食べられる!」


自分に言い聞かせる。


雅樹が帰宅。


「ごめん…魚、少し焼きすぎた」


「食えれば大丈夫!」


失敗しても、いつも優しい雅樹。


文句も言わずに食べてくれる。





No.233

繁忙期に入り、慌ただしい毎日。


残業続き。


帰宅の時間も20時とか21時とかになり、ご飯もスーパーの半額のお惣菜とかお弁当とかになる。


雅樹も疲れているはずだけど、お惣菜でも文句は言わない。


「まりも仕事で疲れてるだろうから、気にしないよ!」


でも、休みの日や、早く帰れる日は頑張って作った。


洗濯も仕事が終わってから洗い、夜や早朝に掃除機は迷惑だと思い、お手軽モップでフローリングの掃除。


ラグマットは、コロコロをかける。


雅樹は、お風呂掃除をしてくれる。


洗濯物を干し終わり、お風呂に入るともう23時を過ぎていたりする。


明日も仕事。


雅樹が先にソファーで寝てしまう事もあった。


「雅樹のYシャツ、クリーニングに出し忘れた!」


慌てて、雅樹のYシャツにアイロンをかけたりする事もあった。


もうぐったり。


そんな毎日が続いていたある日。


私の交代の事務員が入社した。


田中さんと同じ年の岸田さんという女性。


田中さんは顔見知りだったらしく「あれ?久し振り!」と話している。


話を聞くと、田中さんがうちの会社に入る前にいた会社の人との事。


田中さんは、うちに入る前は、パチンコ屋さんの事務をしていた。


岸田さんはホール。


しかし、そのパチンコ屋さんが閉店する事になり、田中さんはうちの会社に転職、岸田さんは別の会社に行ったが、自主退職してうちの会社に来た、という事を聞いた。


「世の中狭いねー!小さな街だから、知り合いが来てもおかしくはないよね!」


田中さんが言う。


知り合いという事で、田中さんも安心した様子。


渋谷くんも挨拶。


岸田さんも田中さんに似た感じの人で、人見知りもなく明るい人。


「岸田と言います!よろしくお願いします!」


笑顔の岸田さん。


感じいい人で良かった。


これなら人見知りの渋谷くんでも、楽しく仕事が出来そう。


田中さんが仕事を教え、私の仕事は渋谷くんが引き継ぐ。


田中さんは岸田さん、私は渋谷くんについて色々教える。


渋谷くんは、前職も事務だったため、引き継ぎも楽に終わった。


繁忙期も脱出し、落ち着いた頃。


私の退職の日も近い。











No.234

退職する2日前に、久し振りの本社に行った。


懐かしく感じる。


初めまして、の方々もいてご挨拶。


立花さんと渡辺さんを見つけた。


席は以前と変わらなかった。


「立花さん!渡辺さん!」


私は2人の席に行き、声をかけた。


立花さんが「加藤さん!」と言って立ち上がり「久し振り!元気だったー!?」と笑顔。


渡辺さんも「加藤さん!お久し振りです!」と笑顔。


それに気付いた千葉さんも坂田さんも声をかけてくれた。


少し話してから「明後日の31日で退職する事になったので、今日は本社にご挨拶に来ました」と話す。


立花さんは「聞いたー。でも結婚したら辞めるって話していたもんね。そっかー。明後日かー。寂しくなるね。でも、加藤さんが決めた事だから、応援するよ!しっかり長谷川さんを支えてね!この間、長谷川さんが本社に来た時にも、ちょっと話したんだけど、たまにはみんなで食事でもしよう!って言ってたんだ。なかなか時間合わないけど実現させよう!」と笑顔で話してくれた。


「はい!是非!」


千葉さんも「また長谷川家に遊びに行くわー!また会う時まで元気で頑張れよ!」と言ってくれた。


坂田さんも渡辺さんも「お食事、楽しみにしていますから!お元気で!」と送り出してくれた。


「皆様には、本当にお世話になりました。明後日で退職しますが、また皆様に会える日を楽しみにしています。本当にありがとうございました!」


この本社であった色んな事を思い出して涙目になる私。


立花さんは泣いていた。


「元気でね」


「ありがとうございます」


最後のご挨拶を終えて、社長室に向かう。


やはり社長室は緊張する。


深呼吸をし、ドアをノック。


「どうぞー!」


和也さんの声がした。


「失礼致します」


社長が社長席に座り、和也さんが隣に立っていた。


「退職のご挨拶に伺いました」


「加藤さんの事は、我が社の為に一生懸命頑張ってくれたと聞いています。とても残念だけど、今までお疲れ様」


和也さんが労いの言葉をかけて下さる。


社長も「加藤くん、今までご苦労様。大変な時もあったが、乗り越えてくれた君に感謝する」と言って下さった。


残念ながら奥様は不在だったけど、最後に社長にご挨拶出来て良かった。


本当にお世話になりました。



No.235

退職の日。


田中さん、牧野さんを始め、今までお世話になった方々に最後のご挨拶をする。


支社長から支社のみんなに「今日で加藤さんは退職致します。長い間、事務員としてずっと頑張って来てくれました。いなくなるのは残念ですが、最後は加藤さんを笑顔で見送りたいと思います。今までお疲れ様」と言ってくれた。


その後、支社長に呼ばれ、自腹で3万円分ものギフトカードをくれた。


「加藤くんには無理言って、ここまで頑張ってもらった。少ないが私からの感謝の気持ちだ。長谷川くんには、これからも頑張ってもらいたい。加藤くんに長谷川くんを支えてもらい、我が社のために裏方として頑張ってほしい」


「ありがとうございます!支社長には本当にお世話になりました」


「もし、また働きたくなった時は、いつでも戻って来なさい」


「ありがとうございます」


最後に田中さんと涙の熱い抱擁、渋谷くんと牧野さんとは握手をして会社を後にした。


制服は後日、クリーニング後に返却。


もし何か忘れ物があったら、雅樹が持ち帰って来る事になっている。


「今日で終わりかー」


駐車場で会社を見る。


寂しいけど、決めた事。


明日からは雅樹の妻として、しっかりサポートをしていこう!


翌月にはお給料と、少しだけど退職金が入る予定。


手続きも今日全て終わった。


退職金が入ったら、連休に温泉でも行ってゆっくりしたいな。


雅樹は普通に仕事のため、まだ会社にいる。


今日はちょっと時間あるし、頑張ってご飯作ろうかな。


スーパーに買い物に行く。


雅樹の好きな鶏の唐揚げと、キャベツが安いからロールキャベツでも作ろう!


食材を買い、うちに帰る。


すると、雅樹宛に宅急便が来た。


差出人は、何かの会社。


「雅樹、何か通販で買い物でもしたのかな?」


荷物を受け取り、雅樹が帰って来るまで奥の部屋に置いておく。


雅樹から「今日は定時で帰れる」とのメールが来る。


よし、それに合わせて鶏の唐揚げと、ロールキャベツ作っちゃおう!


私の愛用書である料理本を開く。


そのうちに見ないでも作れる様になりたいな。







No.236

雅樹が帰宅。


「おかえりなさい!」


「ただいまー!今日、唐揚げなの?うまそう!」


「あっ!そうだ、今日雅樹宛に宅急便が来てたよ?向こうの部屋に置いてあるよ」


「ありがとう!」


雅樹は着替えも兼ねて、奥の部屋に入る。


バリバリバリ!と段ボールを開ける音がする。


私はその間に、ご飯の準備をする。


着替えた雅樹が、何かを持って来た。


席に座ると「まり、今までお疲れ様!」と言って、私が前から欲しいと言っていた好きなブランドのハンドバッグだった。


「店に行ったら取り寄せだって言われて、今日届く様にお願いしていたんだ。退職記念っていうのも何かおかしいけど、今までお世話になりました!って気持ちを込めて」


「ありがとう…」


「実はみんなからなんだ」


「えっ?そうなの?」


「牧野と千葉と坂田と、田中さんと立花さんと、渡辺さんと俺。みんなで話し合って、まりが欲しいと言っていたハンドバッグをプレゼントする事にしたんだ。あとこれも」


そう言って、寄せ書きを書いた色紙をくれた。


真ん中には、立花さんの字で「加藤さん、今までありがとう!」と大きく書かれていて、牧野さん、千葉さん、坂田さん、田中さん、渡辺さん、渋谷くん、松山さん、高橋さん、岸田さんが一言ずつ書いてくれていた。


嬉しい。


涙が溢れて来た。


こんなに嬉しい素敵なプレゼント。


「そしてこれは俺から。小遣いからだから、たいしたもんじゃないけどねー」


照れくさそうに包み紙を私に渡して来た。


包み紙を開けると、お洒落なエプロンが入っていた。


「まりが、こんなエプロンをしてご飯を作ってくれたらいいなー!と思って選んでみた」


大きな花柄のエプロン。


「ありがとう…大事にする」


「ご飯食べよ!冷めちゃう!」


「うん」


胸がいっぱい。


サプライズで、こんなに素敵なプレゼントを用意していてくれたなんて。


本当にありがとう。







No.237

翌朝。


私は雅樹を笑顔で送り出す。


「行ってらっしゃい!」


「今日から「加藤さん」はいないけど、まりのためにも今日からまた頑張って来るよ!」


「うん。頑張って!行ってらっしゃい!みんなにありがとうと伝えてね」


「うん、じゃあ行って来ます!」


玄関までお見送り。


今日から専業主婦。


専業主婦初心者の私は、まだ時間配分がうまく出来ずに、午前中に家事が終わってしまった。


テレビをつけたら、いつもは見れなかった主婦向けのワイドショーとか、再放送のドラマが入っていた。


みんなからもらった寄せ書きを見る。


田中さんからの「ずっと仲間だよ!加藤さん!愛してるよー!ママじゃなくてもママ友会やるよ!」の一言を見て思わず笑みがこぼれる。


「さて、晩御飯は何にするかなー」


冷蔵庫を開ける。


昨日残った唐揚げでお昼ご飯を食べる。


食べながら、今日はさっぱりしたものがいいかな?と思い、料理本を開く。


あっ!これなら私にも作れそう!


色々見ながら晩御飯を決める。


雅樹からメールが来た。


「田中さんが、まりのロッカーの忘れ物を見つけてくれたから、今日持って帰るよ。ハートがキラキラしているポーチ」


「あっ!忘れてた!多分、ロッカーの棚の上にあったやつだと思う!ありがとうと伝えて」


「了解」


中身は生理用のナプキン。


いきなり来た時用に置いておいたやつ。


中身を見られたら、ちょっと恥ずかしい。


テレビを観ていると、好きなバンドのボーカルが女優さんと熱愛!というニュースが流れる。


「へぇー、意外な組み合わせ」


ちょっと驚く。


真野さんも美人だったけど、芸能界ってきっと真野さん以上にキレイな人がたくさんいるんだろうな。


この女優さんも美人だもんな。


実際に会ったら、テレビで観る以上にキレイなんだろうな。


そんな事を考えながらテレビを観る。


平和な日常。


「あれ?もうこんな時間!」


晩御飯作りにとりかかる。


仕事を頑張る雅樹のために、私も頑張る!





No.238

色々奮闘しながらも、専業主婦をする。


そんなある日、チラシに不動産情報が入っていた。


表面は賃貸の物件、裏面は売り物件として中古住宅やマンション、新築物件等が載っていた。


「自分の家かー。憧れはあるな」


色々みてみる。


支社の近くに一戸建てが売り出されていた。


気になりみてみる。


築6年で、間取りは3LDK。


居間が15畳に、キッチンが別で4.5畳、居間の隣に和室があり、2階には6畳と8畳の部屋が2つ。


庭もある。


いいなー。


でも、そう簡単に買えるものではない。


憧れはあるけど、今の部屋も気に入っているし、しばらくはここにいてもいいかな?


子供が出来るかもしれないし、お金も貯めておかないと。


今日は土曜日。


珍しく雅樹が早く帰って来た。


「今日は早かったね」


「月曜日から出張だってさー。1週間」


「結構長いね」


「出張なんて久し振りだよ。部長と1週間はきついなー。だから今日は早く帰って来た(笑)」


「そうなんだ」


「出張前に、まりにいっぱい癒してもらう(笑)」


そっか、来週いっぱい、雅樹はいないのか。


ちょっと寂しいなー。


その夜は雅樹とSEX。


日曜日も朝から雅樹とやりまくる。


「明日からまりをしばらく抱けなくなる。だからその分、愛しまくる!」


明るいうちから、全てが見える状態で愛しまくる。


雅樹は疲れたのか、パンツ一枚の状態で寝てしまった。


可愛い寝顔。


来週までお預け。


私はベッドから出て、裸のまま着替えを持ってシャワーを浴びる。


シャワーから上がると、服をベッド脇に置きっぱなしなのに気づく。


下着姿でこっそり寝室に戻る。


雅樹がもぞもぞと動いた。


「ん…まり、どうした?」


「ごめん、起こした?」


「まり、愛してるよ。今日のまりも可愛かった」


「恥ずかしい」


「ねぇ、まり。今そこでブラ取ってみて」


「えっ?どうして?」


「とってよー、まりのおっぱい見たいの」


「さっきまでいっぱい見たし、いっぱい触ってたじゃん」


「とらないなら俺がとる!」


雅樹は慣れた手付きで片手でホックを外す。


もう一回始まる。


明日からいないんだもん。


その分、いっぱい愛し合おうね。


No.239

雅樹が1週間の出張に行く。


「まり、今日から1週間いないけど、留守の間頼んだぞ」


「うん。大丈夫」


「しばらくいないからって浮気するなよー!よくあるじゃん!旦那の留守中に…って」


「大丈夫だよ。そんな相手もいないし。雅樹しかしないよ!」


「昨日はいっぱい愛し合ったから、俺も大丈夫!部長じゃ、浮気のしようがないしね(笑)」


2人で笑う。


「じゃあ行って来ます!」


「行ってらっしゃい!」


雅樹を見送る。


1週間、会えない。


いない間、掃除はしっかりするけど、ご飯は私1人だし、適当に済ますか。


一緒に遊びに出かけるっていう友人もいないし、家でゆっくりしよう。


夜になり、お茶としょうゆがない事に気付き、スーパーに買い物に行く。


たまには違うスーパーに行ってみようかな。


久し振りに別のスーパーに行くと、仕事着姿の斎藤くんがいた。


「あれ?斎藤くん?」


「おー!加藤、久し振り!お前、辞めたんだって?」


「辞めたよー!今は専業主婦してる」


「長谷川さんは元気?」


「元気だよ!今日から出張行ってるけど」


「じゃあ自由じゃん!あっ!これから一緒に飯食いに行かね?長谷川さんいないんでしょ?俺、1人暮らしだから、寂しく1人で飯食うより加藤と食った方がうまいし。おごるから!」


悩んだ。


雅樹に斎藤くんとご飯食べたなんて言ったら、きっとヤキモチ妬くだろうな。


「俺の事、信用してないだろ」


「えっ?」


「顔に出てる。嫌ならいいよー」


「いや、別に嫌とかじゃ…」


「よし、じゃああそこのファミレス行く?」


「うん…」


「買い物途中だろ?終わってからでいいからファミレス来いよ。駐車場で待ってるから」


「お茶としょうゆを買いに来ただけだから…」


「俺、終わったからこのままレジ行くから。じゃあ駐車場で」


「…はい」


斎藤くんは足早にレジに向かう。


私も必要なものは、かごに入っている。


私もレジに向かう。


会計を済ませて、スーパーの駐車場に出る。


車に乗ると、雅樹から携帯に着信があった。


折り返す。


No.240

すぐに雅樹が出た。


「もしもしまり?どっか出掛けてたかー!?」


「ごめん、お茶としょうゆがなくて買い物してたら気付かなくて、今携帯見たの!」


「そっか、じゃあ今はスーパーかどっかにいるの?」


「うん。スーパーの駐車場。さっきスーパーで斎藤くんとばったり会って…ご飯に誘われて…」


「斎藤って、あのチャラい運転手か!危険だな。で、行くの?」


「うーん…」


「行って来たらいいよ」


「えっ?」


「俺も会社の同僚とは言え、女性と昼御飯食う事もあるし、別にいいんじゃない?まりの事信じてるし、束縛とかしたくないしな。ゆっくり飯食って来なよ」


「雅樹がそう言ってくれるなら…」


「大丈夫だよ!同級生と飯食うだけだろ?問題ないじゃん」


「うん。雅樹はご飯食べたの?」


「もう少ししたら、部長と行って来るよ。おっさん2人だから、多分ラーメン屋とかだろうけど(笑)ホテルの近くにラーメン屋あったし」


「ホテルは街中?」


「賑やかなところにあるよ」


「そうなんだ」


「そろそろ部長と待ち合わせ時間だから、ちょっと行って来るわ。まりも、同級生とゆっくり飯食って来いよ!じゃあまた後で!」


電話を切る。


雅樹もいいって言ってくれたし、斎藤くんとご飯行って来よう。


ファミレスでご飯食べるだけだもんね。


ファミレスの駐車場に向かうと、ファミレスの出入り口近くで私を待っていた斎藤くんを見つける。


斎藤くんの車の隣に車を停める。


「ごめん、お待たせ」


「全然大丈夫。入るか!」


2人でファミレスに入る。


席を案内される。


当時はまだ禁煙席と喫煙席にわかれていた時代。


斎藤くんは喫煙者。


私は吸わないけど、別に煙は気にならない。


喫煙席に座る。


回りでタバコを吸っている人はいたけど、ある程度換気をしているため、別に気にならない。


「加藤はタバコを吸わないんだっけ」


「吸わないけど気にならないから大丈夫」


「悪いな」


「気にしないで」


そう言って斎藤くんは早速タバコに火を点ける。


メニューを見る。


「私は、チーズハンバーグセットにしようかな?」


「うーん、俺はステーキセットにする!肉食べたい!」


注文し、セットのドリンクバーを取りに行く。


No.241

斎藤くんはコーラ、私はウーロン茶を席まで持って行く。


「加藤と飯なんて初めてだね」


「そうだね」


「女と飯に行くなんて、離婚してからないわー」


「そうなの?モテそうだけど」


「俺が?ないない!そんなモテるなら、寂しい一人暮らしなんてしてないって!」


「いつ離婚したの?」


「うーん、1年半前くらい?」


「そうなんだ、早い結婚だったんだね」


「20歳で、でき婚したからね」


「そうなんだ」


「女って難しいよなー」


「元奥さん?」


「そう。まぁ、俺も悪かったんだけど」


そう言って離婚理由を話す斎藤さん。


途中でご飯が来た。


食べながら話をする。


「子供、双子なんだ」


「そうなの?」


「女の子ね。可愛いぞ、俺に似て」


「斎藤くん、整った顔しているもんね」


「そうか?お世辞でも嬉しいわ。デザート食うならごちそうするぞ(笑)」


「ありがとう(笑)」


「…嫁が、双子産んでから4ヶ月ぐらい実家に帰ってたんだ。里帰り出産で」


「うん」


「嫁の実家が車で1時間半くらいのところだったんだけど、毎週末通ったんだよ」


「うん」


「最初は良かったよ。でもだんだん、嫁の様子がおかしくなって来たんだ」


「というと?」


「行っても「今日は会う気分じゃない」とか言われたり、子供達にも会えずに突き返されたり」


「うん」


「いきなり双子の育児だから、大変だと思って、俺も色々協力したかったんだけど、子供達のおむつを替えたり、ミルクをあげたりしても文句ばかり。「やり方が違う」と言うから聞いたら「考えろ」って言われるし、ゲップを失敗して娘がミルクを戻したら「使えねー、仕事増やしやがって」と俺が何かすれば文句ばかり」


「うん」


「で、聞いたのよ。「俺の何が気に入らないんだ?」って。すると「存在そのものが気に入らない」って言われて、頭にきたわけよ。それでも子供に会いたいから通ったんだよ。そしたらある日、俺に塩ぶっかけて「2度と顔を見せるな!キモいんだよ!」って言われて、とうとう俺がぶちギレた」


「…うん」


「嫁を殴っちゃたんだよなー。初めてだったよ。女に手をあげたの。そしたらDVだ!警察呼んで!って言われてね。実際には呼ばれなかったけど」





No.242

何か色々大変。


「嫁も気が強かったから、かなり激しい言い合いになったよ。向こうの両親が止めに入ったけど関係なかったなー。それから嫁は実家、俺が住んでたアパートで別居してたんだけど、結局離婚したよ。一緒に住んでた期間より、別居の方が長いっていう結婚生活だったなー。ごめんな、新婚のお前に離婚の話とか。加藤って、黙って話を聞いてくれるから、ついペラペラしゃべってしまう」


「話を聞く事くらいしか出来ないけど」


「加藤が独身だったら、俺、加藤に付き合ってって言ってたかも」


「えっ?」


「実は、高校の時、お前の事いいなー!って思ってた。いやー、青春だな!学生時代に思い切って告白していたら違っていたかなー。だから会社で会った時は、一瞬運命じゃないか?と思ったけど人妻なんだもんなー。残念」


「ごめん」


「別に加藤は何にも悪くないよ。俺が勝手に言ってるだけだから。旦那、長谷川さんだもんなー。勝てないわー」


何故かドキドキしている。


「長谷川さん、本社の新入社員がお気に入りだよ。長谷川さんが来たら、ひそひそ話しているのは見た事はある。千葉さんって言ったっけ?背のデカい強面の人。あの人が、長谷川さんが本社に来たら、ボディーガードみたいについて歩いているわ」


「そうなんだ」


「加藤は今、幸せか?」


「うん」


「そっか。その幸せを大事にしろよ。同級生として見守っているわ」


「ありがとう」


「人妻に手を出す勇気はないしね。この気持ちは心にしまっておくよ。今日はありがとう。付き合ってくれて。デザート食うか?これなんかうまそうじゃね?」


「太りそう…」


「大丈夫大丈夫!俺もデザート食うから、一緒に太ろう!」


店員さんを呼び出す。


「これ2つお願いします」


「少々お待ち下さい。お皿下げますね」


店員さんは食べ終わった食器を下げる。


すぐにデザートが来た。


「結構うまいな!」


「そうだね」


デザートも完食し帰る事に。


ごちそうしてくれたため、お礼を言う。


「俺から誘ったんだし、いいって。楽しかったよ」


「私も。ありがとう」


駐車場で車に乗り込もうとした瞬間、斎藤くんが後ろから私を抱き締めた。


「…これは浮気になる?」


ヤバい、何でドキドキしてるの?

No.243

「…ここまでなら」


「これ以上は?」


「…ダメ」


「…わかった」


斎藤くんは離れた。


「これ以上いたら、加藤を襲ってしまいそうだからやめとく。今日はありがとう。じゃあまた」


そう言って、車で帰って行った。


まだドキドキしている。


男性に免疫がない私。


雅樹以外の男性にこんな事をされたのは初めて。


ここまでなら浮気にならないよね。


斎藤くんと2人で会うのはやめておこう。


雅樹を裏切れない。


ドキドキはおさまったけど、少しの罪悪感。


家につく。


「はぁ…」


ソファーに座る。


携帯を見ると、雅樹から着信が2件。


折り返す。


すぐに出る。


「まり!楽しかった?」


「…うん。ありがとう」


「どうした?」


「何でもないよ?雅樹がいないからちょっと寂しくて」


「帰ったら、またいっぱい愛し合おう!だから我慢して待っててね!」


「うん。明日も部長と仕事頑張って!帰って来るの待ってるから」


さすがに斎藤くんに後ろから抱き締められました、とは言えない。


今日は早く寝る!


シャワーに入り、パジャマに着替えて、ベッドに入る。


いつもは隣に雅樹がいるけど、しばらくいない。


「明日は雨って言ってたから、家でおとなしくしてよう」


色々考えているうちに就寝。


斎藤くんの事は考えない様に、あえて忙しく動く。


外は土砂降りの雨。


窓に雨が激しく打ち付ける。


雅樹からメールが来た。


「今、そっち大雨警報出てるってラジオのニュースで聞いたけど大丈夫?」


「土砂降りだよ!でも、私はずっと家から出る予定はないから大丈夫。そっちの天気は?」


「こっちは曇ってる。今にも降りだしそう!」


「気をつけてね」


「ありがとう(^^)v」


それにしてもすごい雨。


ちょっと怖く感じる。


簡単にご飯を済ませ、テレビをつけながら片付けをする。


そんな生活が1週間。


今日は雅樹が帰って来る!


今日のご飯は何にしようかな。


雅樹がくれたエプロンをしながら、料理を頑張る。


雅樹が帰宅。


「ただいまー!」


「おかえりなさい!」


雅樹が私にキス。


無事に帰宅。


またいつもの日常が帰って来た。




No.244

出張に着ていた雅樹のスーツをクリーニングに出そうと、ポケットをあさっていたら、名刺が出てきた。


ん?キャバクラ?


接待にでも使ったのかな?


まぁ、仕事で行ったのなら別に何とも思わない。


裏には、女の子のものと思われる携帯番号が書いてある。


休みで家にいた雅樹に名刺を見せる。


「キャバクラ行ったの?これ、ポケットに入ってたけど」


「あれ?捨てたと思ったけど入ってた?接待で行ったんだ。変な誤解はしないで!」


「別に仕事なら何とも思わないから。キャバクラって、女の子と飲むんでしょ?」


「うん…まぁ」


「変な気起こさなかった?」


「起こす訳ないじゃん!」


「でも、男だしね。ずっと部長の顔を見ていたら息抜きしたくなるよね(笑)だって部長の顔、怖いもん」


「誤解はしないで!仕事だから!」


焦っている雅樹。


「わかってるよ!」


私が笑うと雅樹も笑う。


「やっぱりまりの笑顔は癒される。明日からまた頑張ろうと思える。明日は朝一で本社に行かないといけないんだー。面倒くさいな」


「雅樹って、本社に行ったら、千葉さんがずっと一緒について歩くの?」


「何で知ってるの?」


「斎藤くんとご飯行った時に言ってたから。千葉さんが雅樹のボディーガードみたいだって言ってた」


笑う雅樹。


「確かにデカいし強面だし、ボディーガードみたいだよなー!例えが面白い(笑)」


「明日も千葉さんに守ってもらってね」


「そうするよ(笑)ところで、まりは同級生と何にもなかったよねー」


「うーん、どうかなぁ?」


「マジで!?」


驚く雅樹。


「大丈夫!雅樹を裏切る様な事はしてないよ!ファミレスでご飯食べて話していただけ!」


「だよねー」


安心した様な顔の雅樹。


後ろから抱き締められた事と、ちょっとドキドキしてしまった事は、墓場まで持っていこう。


もう斎藤くんとは2人きりで会わないから。






No.245

斎藤くんとの事も忘れかけてたしばらくしたある日の昼下がり。


昨晩のおかずの余りで、テレビを観ながらご飯を食べていた時に、私の携帯が鳴った。


登録されていない、知らない携帯番号。


「誰だろ…」


不審に思いながらも電話に出た。


「はい…もしもし」


「あっ、加藤?俺、斎藤です」


「斎藤くん!?何で私の番号知ってるの?」


「…ちょっとね。今大丈夫?」


「大丈夫だけど…」


「俺、来月1日付けで支社に行く事になったんだ。しかも事務に入る。上司は長谷川さんになる」


トラックに乗っていた人が事務職に入るのは、珍しい事ではない。


支社長も部長も、千葉さんも、元々はトラック運転手。


雅樹も、松山さんが再婚して旦那さんの転勤で辞める話はしていた。


松山さんの後に斎藤さんが入るのか。


「でも、どうして事務職を希望したの?」


「支社の事務職が足りないって話を聞いて、なら俺がなる!って手を挙げたんだ。俺も前職事務だったし。長谷川さんの下に入るのは本当に偶然」


「そうなんだ」


「渋谷もいるんだろ?」


「うん」


「仲良くさせてもらうよ。色々と」


「えっ、何か怖い」


「大丈夫。でも、俺、やっぱり加藤が好きだわ。旦那に宣戦布告しちゃおうかな?」


「やめて」


「冗談だよ(笑)とりあえずご挨拶と思ってね」


「…はい」


不安しかない。


斎藤くん、雅樹に変な事言わないよね。


その日の夜に雅樹が「あのまりの同級生の運転手、来月から松山さんの後に入るんだって!」と話して来た。


知ってる。とは言えず「そうなんだー」と答えた。


とうとう、その日が来た。


雅樹が出勤前に「今日からまりの同級生と一緒だよ。どんなやつなのか楽しみにしているよ」と言う。


「…詳しくはわからないけど、前職は事務していたって言ってたから、基本的な事はわかるんじゃないかな?頑張って!」


「そっかー!なら仕事覚えるのは早いかもね!じゃあ行って来ます」


「行ってらっしゃい!」


雅樹を玄関で見送る。


大丈夫かな。


不安が駆け巡る。


雅樹が帰って来るまで落ち着かない1日だった。






No.246

雅樹が帰宅。


「ただいまー!」


「おかえりなさい!今日、斎藤くん、どうだった?」


「おー、彼、チャラい奴かと思っていたけど、なかなかいい奴!一回教えた事は次には確実にやるし、パソコンも慣れてる。牧野もほめてたよ。渋谷くんとも仲良く話していたし。田中さんが「あれ?斎藤さんってよく見たらいい男じゃん!」って言って喜んでいたよ(笑)」


「そうなんだ」


「牧野は「悪かったな、いい男じゃなくて」ってぶつぶつ言ってたわ(笑)」


「想像出来る(笑)」


2人で笑う。


この様子なら心配はなさそう。


良かった。


このまま平和に過ごしてもらえるといいな。


願いが叶っているのか、何事もなく時が過ぎていく。


取り越し苦労だったのかな。


私は相変わらずの主婦業。


早いもので、結婚してから4年目に入ろうとしていた時。


雅樹が突然「家でも買おうか」と言い出した。


前に、牧野さん、千葉さん、田中さん、立花さん、渡辺さん、私、雅樹の7人で飲み会を開いた。


坂田さんは用事があり参加出来なかった。


久し振りに皆に会った時に、牧野さんと田中さんが「家を買った」という話をしていて、後日、雅樹とお祝いを持って行った事があった。


郊外の住宅街にある家。


広い玄関。


14畳あるという居間に、6畳のキッチン。


居間の隣に4畳半程の和室がある。


2階に上がると、6畳程の部屋が3つに上の部屋にもトイレがついていた。


雅樹が「いい家じゃん!」というと、牧野さんが「中古だけどね。じいさんになるまでローンを払う事になるけど、住んでいたアパートと似た様な家賃だったし、思い切って買う事にしたんだ」と話す。


田中さんも「買って良かったと思う。私もばあさんになるまで頑張って働くし!」と笑顔。


牧野家は2人目の子供も生まれて、4人家族になっていた。


幸せそうな牧野家を見て、雅樹も影響されたのかな。


「俺も、もう結構いい年になってきたし、家を買うなら今かなと思ってね」


ちょうどチラシで入ってきた不動産情報を見る。


前に私が見ていた時にあった支社近くの家は掲載されていなかったが、今度の休みに、不動産屋さんに行ってみる事にした。





No.247

不動産屋さんに行く。


50代くらいの白髪が混じる男性が対応してくれた。


頭金はいくら出せるのか、という話をしてから、仮審査を通してもらう。


何と通過した。


毎月の支払い額、金利の変動がない一定のもの、私達の希望を色々聞いてくれる不動産屋さん。


何度か不動産屋さんに通い、ある程度の目処が立ち、物件を見て歩いた。


全て中古住宅だったけど、皆築年数も新しく、比較的キレイな家だった。


雅樹の実家から車で5分程のところに、日当たりも良く、庭もあり、住みやすそうな住宅があった。


近くに少し大きめの公園、コンビニ、交番があった。


少し行くと雅樹の母校でもある小学校、中学校があり、スーパーもある。


キッチンとお風呂場は、新品がついている。


カウンターキッチンで、居間が見渡せる。


キッチンも広い。


居間も広い。


居間の隣に4畳半の和室がある。


2階は階段を登ると、小さな踊り場みたいなところがあり、3畳程のベランダへ行く窓がついている。


2階には8畳の部屋が2つ、4畳のクローゼット
があった。


雅樹も私も気に入る。


雅樹が「ここなら、俺の実家が近いから、もし万が一何かあっても安心だし、何より会社が近くなる。ここにしない?」と私に言う。


私も、今まで見た中で一番気に入った家。


「ここに決めます!」


頭金と必要な書類は後日持って来る話をして帰宅。


「あの家、良かったよなー」


「そうだね」


「審査も大丈夫だったし、後は購入に向けての準備だな」


「うん」


「俺も会社抜け出して手伝うから!」


「ありがとう」


何度か不動産屋に通ったけど、無事に家を購入出来た。


入居前に、ハウスクリーニングの方がきれいにしてくれて、ピカピカの新居。


今住んでいるマンションに退去の連絡。


今回の引っ越しも会社のトラックを使う。


牧野さんと渋谷くんが手伝いに来てくれる予定。


千葉さんは「俺、その日、親戚の結婚式でいけないんだ。手伝えなくて悪いな。その代わり、引っ越し祝いは盛大にやるから!」と言っていた。


ありがとうございます。


いよいよ、新居に引っ越す日程も決まった。








No.248

私も雅樹も、お互いの実家に連絡。


唯一、反対したのが私の母親だった。


母親は、勝手に色々思い描いていたみたいで「旦那の実家の近くは絶対にダメ!」


「どうしてお母さんに相談もなく、勝手に家を買うんだ!」


「まりは、うちの近くに住んでもらう予定で、知り合いに話を通していたんだよ!」


「今からでもキャンセルして、こっちに来なさい!」


騒ぎまくる。


「今からキャンセルなんて無理に決まってるよ」


私が言う。


「無理じゃない!何て言う不動産屋?お母さんがキャンセルしておくから教えなさい!」


「そんな電話で簡単にキャンセルなんて出来る訳ないじゃん!」


「お母さんは、あんたのためを思って、知り合いに安く家を譲ってもらおうとしていたのよ!いいからそっちに引っ越せ!」


「無理だよ…」


母親が言う知り合いって言うのは、近所に住んでいる地主さん。


ご迷惑をおかけしたんじゃないか?と不安になり、その方のご自宅に菓子折りを持ってご挨拶に行く。


私が小さい頃から、色々と可愛がって頂いた。


「母がご迷惑をおかけしたのではないかと思い、謝罪に伺いました」


すると奥さんの方が「まりちゃん、そんな気を使わなくていいのよ!ただね…ちょっと無理なお話しだったので困ってはいたのよ」


「本当に申し訳ありません」


話を聞いたら、地主さんだから、色々一軒家やアパートを持っているため、その中の一軒家を100万で娘に譲れ!と言うものだった。


しかも一番新しい家。


地主で金はあるんだろうから、ない人から金は取るな。近所のよしみでそのくらい融通きかせてくれてもいいだろう!と言っていたらしい。


無茶苦茶だよ。


100万で家を譲れって…。


何度も謝罪。


地主さんご夫婦は、すごくいい人。


本当に申し訳ない。


母親の暴走は、最近ちょっと酷くなって来ている。


雅樹のご両親は、すごく喜んで下さった。


「近くなら、何かあっても助け合えるわね」


雅樹のお義母さんは、そう言ってくれたのに、うちの母親は…。


雅樹に話すと、何とも言えない微妙な顔をしていた。


そりゃそうだよな。





No.249

新しい我が家。


牧野さんも渋谷くんも、忙しいのに引っ越しを手伝ってくれた。


渋谷くんが「いい家だね」と言って、部屋を色々見ている。


牧野さんも、渋谷くんと一緒に部屋を見て歩いている。


「風呂きれいじゃん!」


「システムキッチンじゃん!加藤さんも料理、楽しくなるね!」


「庭広い!これならみんなでバーベキューでも出来そうだね!」


色んな事を言いながら見て歩く。


「そうだね、今度バーベキューでもしたいね!」


雅樹が言う。


近所迷惑にならない様に楽しめれば。


引っ越しも落ち着き、ご近所に挨拶まわり。


左隣は古い空き家。


右隣は、私達と同じか少し上くらいのご夫婦と、小学生のお子さんが2人。


「隣に引っ越して来ました長谷川と申します」


雅樹と2人でご挨拶。


とても感じ良いご夫婦。


「ご丁寧にありがとうございます。うちは男の子2人がうるさい盛りで、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」


「いえいえ!子供さんが元気なのはいい事です!お気になさらず!」


居間から、子供たちの騒ぐ声が聞こえていた。


その隣の家にご挨拶。


町内会長さんのお宅だった。


60代~70代前半と思われるご夫婦。


「隣の隣に引っ越しできた長谷川と申します。色々ご指導頂ければ…」


「いやー!若い夫婦が引っ越して来てくれて嬉しいよ。今、若いのは隣の合田さんと、うちの裏の馬渕さんくらいだからねー。後はみんな年寄りばっかりだよ。一応ね、町内会長やっているから、何かあったら私に言ってもらえれば!よろしく」


そう言った後、早速町内会費の徴収と、ゴミに関しての注意などの説明を受ける。


「年に何回か、町内のごみ拾いをやったり、そこの公園で花見をしたりする予定なんだ。若い人にも参加してほしいし、手伝って欲しい」


「はい、喜んでご協力させて頂きます」


雅樹が笑顔で答える。


お話好きのご主人。


奥様は最初に顔を出して下さったが、家の電話が鳴ったため、居間に引き返した。


皆、いい人そう。


他の方々にもご挨拶。


2軒程留守だったけど、皆、笑顔でご挨拶をして下さった。










No.250

前の部屋を借りた時はおとなしかった母親。


家を買った途端、いきなり来る事が増えた。


何の連絡もなく、本当に突然来る。


自分の母親、入れない訳にいかない。


「お母さん、来るなら一言言って欲しいんだけど…」


「どうして娘の家に来るのに、いちいち連絡しなきゃならないんだ!いつからお前はそんなに偉くなったんだ!」


雅樹もいる。


雅樹が「お義母さん、ご連絡頂ければきちんとおもてなし出来ますし…」と言うと「別にそんなおもてなしなんて望んでない。私が来たいから来て、何が悪い!」と話を聞いてくれない。


そう言って、部屋中を見て歩き、タンスの中まで見て歩く。


「お母さん、やめて」


「親が娘のものを見て、何が悪い!やましいものでもあるのか?」


「そうじゃなくて、雅樹のものもあるし…」


「だから何だ、他人でもあるまいし」


雅樹は黙って見ている。


「なんだこれ、趣味悪いカーテンだねー。お母さんがいいの買ってつけてあげるから、玄関の鍵を寄越しなさい」


「いや、それは…」


「親が娘の家の鍵を持ったらダメな理由はないだろ。あんたの旦那は仕事でいないんだし、あんたに何かあった時にどうする?」


「でも、雅樹のご両親には合鍵渡していないし…」


「近いんだから必要ないだろ!市内じゃなくて隣町に家を買ったんだ。鍵を渡して親を安心させるのが常識だろう!」


「今、合鍵ないし…」


「どっちかのをくれればいいだろ!1人が持っていれば合鍵作れるだろ!どこまでバカなんだ!お前は!合鍵をくれるまでは帰りません!」


困った。


私は雅樹を見る。


「わかりました、お母さん。鍵を渡します。ただ約束をして欲しい事があります」


雅樹が言う。


「本当に必要な時以外は入らないで下さい。申し訳ないですが、ここは私とまりさんが買った家です」


「わかったわよ、偉そうに。早く鍵を寄越しなさい!」


雅樹が自分の鍵を渡す。


「約束は守って下さいね」


母親は鍵を受けとると、無言のまま玄関に行く。


鍵が本物かを確かめている。


本物だとわかると「また来るわー!」と言って帰って行く。









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