結婚 離婚 男女
松本健太郎
35歳
仕事はしがない営業マン。
結婚して5年半。
妻、優子。
33歳
専業主婦。
娘、かすみ
4歳。
プリキュアとハローキティをこよなく愛する幼稚園児。
俺に良く似ていて世界で一番可愛い娘。
ごくごく普通の家庭であるが、離婚に向けて妻には内密に動いている。
妻、優子とは職場結婚。
年は2つ違うが同期入社だった。
俺は転職組。
優子は新卒。
俺は営業、優子は事務。
余り顔は合わす事はなく、最初は必要最低限の挨拶を交わす程度だった。
親しくなるきっかけとなる会社主催の飲み会があった。
たまたま席が隣になった。
最初はお互い違う同僚と話していた。
違う同僚と話が夢中になっていた優子は、飲んでいたビールを腕で引っ掛けてジョッキをひっくり返し、ジョッキの中に入っていたビールが派手に俺にかかった。
「すみません!本当にごめんなさい!」
「いえ…」
突然の事に一瞬驚いたが、こちらが申し訳ないと思う程、ひたすら誤りながらこぼしたビールを拭く優子。
その後直ぐに飲み会はお開き。
同僚達は二次会に流れたが、俺は服が濡れたのもあり一次会で帰宅した。
翌日。
会社は日曜日で休み。
当時、一人暮らしだった俺は朝から昨日汚れた服を洗濯しながら、お腹が空いたからとカップラーメンのお湯を沸かしていた。
その時に携帯が鳴る。
優子からだった。
優子からの電話は初めてだった。
会社の同僚達の携帯番号とアドレスは皆知っているし、もちろん俺の携帯番号もアドレスも同僚皆知っている。
優子だけが特別という訳ではない。
「はい、松本です」
「おはようございます!福田です。今、お時間大丈夫でしょうか?」
「おはようございます。はい、大丈夫です」
「昨日は大変失礼致しました…」
「いえ、お気になさらず」
「お詫びと言ったらなんですが…今日の夜、空いてましたら夕飯ご馳走させて下さい!」
「いえいえ、逆に申し訳ないので…」
「今日の夜6時にお待ちしています!失礼します!」
そう言って優子から電話を切った。
待ち合わせで言われたのは先日オープンしたばかりのイタリアンレストラン。
さて。
どうしようか。
この時は優子に対してはただの同僚としか見ていなかった。
恋愛感情もなかった。
優子は見た目は可愛かった。
背も低くて目も大きいし、華奢な割に胸もある。
やはり男なら自然に胸に目が行く事もある。
彼女もいなかったし、女性との食事は久し振り。
冴えない男の俺に予定などない。
優子との食事に行く事にした。
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PM6時。
少し前に待ち合わせのレストランに到着。
オープン間もない為か、少し行列が出来ている。
駐車場もいっぱいだったが、幸い一番隅に車を停められるスペースを見つけ停車。
携帯を見ると、優子からメールが来ていた。
「お疲れ様です!お店が混んでいますので、早目に来て席を確保しています(^^)」
メールが来た時間を良く見たら今から30分前。
準備をしていた時でメールに全く気付いていなかった。
慌てて車から降り店に向かう。
お洒落な店内。
出入口付近は待っているお客様でごった返している。
出入口から店内を見回すと、優子の姿を発見。
出入口でお待ちしているお客様に対応している従業員の方に「待ち合わせです」と告げて、優子が座っている席に向かった。
「お疲れ様です。お待たせして申し訳ない」
優子は俺の顔を見るなり笑顔で「大丈夫です!今日はお時間作って下さってありがとうございます!」と言った。
胸を強調した服のため、どうしても目が行く。
笑顔の優子。
ヤバい…可愛い…
他愛もない話をする。
主に仕事の話だったが、優子自身の話も聞く。
優子が中学3年生の時に父親が交通事故死。
2つ下に弟がいる。
母親は父親が交通事故死してから一生懸命働き、優子と弟を育ててくれた。
実家は市営住宅で、弟と2人で住んでいる。
俺の事も聞かれた。
俺は両親健在、父親は小さな会社を経営しているが兄貴が跡継ぎをしている事、学生時代は中学・高校と吹奏楽部に所属していた事等話した。
丸い目を更に丸くして笑顔で話を聞いてくれた優子。
女というものに慣れていなかった俺は、レストランでの優子の可愛さに惚れてしまっていた。
食事も終わり、俺もお金を出すと財布を出した。
優子は「約束ですから」と頑なに拒否。
ご馳走になった。
お礼を言い、明日も仕事だし帰ろうかとレストランの駐車場でお別れをする。
すると優子は「…もっと松本さんといたい」と俺のシャツの裾を軽く引っ張りながら恥ずかしそうに俯いた。
ヤバい…マジでヤバい…
俺、そんな可愛い仕草、女性にされた事がないし女性に免疫がないから心臓がばくばく。
「…俺の車に乗る?」
「はい」
俯きながら優子は答えた。
俺の車は普段は普通のセダン。
以前は軽ワゴンに乗っていたが事故を起こしてしまい廃車にした。
父親の車を借りていたが、父親が車を買うからお前にやると言われて、父親の車を名義変更しそのまま乗っている。
たまたまこの日は車検で代車に乗っていた。
「代車だけど…」
「すみません…ワガママ言って」
「いえ…あの…どうしましょうか?」
車に乗ったが、どうしたら良いのかわからない。
優子は助手席に座り俯いたまま。
いつまでもレストランの駐車場にいる訳にいかない。
とりあえず車を出そうと助手席と運転席の間にあるギアに手を乗せた。
すると優子が俺の手の上に手を乗せて来た。
驚いて思わずブレーキを強く踏み、パーキングに入れた。
「えっ?」
俺は思わず優子を見た。
優子は膝の上に置いたハンドバックを左手で強く握りしめながら俯き、こう言った。
「前から松本さんの事が好きでした。あの…私と付き合って下さい!」
もっと驚いた。
こんな冴えない男の何処が良いのかわからない。
優子みたいな可愛い女性は、こんな俺じゃなくて、もっと良い男がいるだろう。
女性から告白されたのは人生初めてだった。
無言だった俺に「迷惑でしたか?あの…忘れて下さい!」
優子は俺を見た。
迷惑なんて思っていない。
驚きと戸惑いで言葉にならないだけだ。
「あの…俺の何処が良いの?」
聞いてみた。
「全部です!」
そう言って俺の左手を優子の胸に持って行く。
柔らかい優子の胸。
久し振りの女性の胸の感触。
理性が飛ぶ寸前。
深呼吸をする。
落ち着け…落ち着け…!
しかし優子はガンガン誘って来る。
上に着ていた服の裾の下から俺の左手を入れて、優子の胸をじかにあてた。
思わず手が動く。
このまま押し倒したくなったが、激混みのレストランの駐車場。
ここで押し倒す訳にいかない。
俺の理性は飛び、優子とホテルに向かった。
それからは優子と会う度にセックスをする様になる。
優子も受け入れてくれた。
優子もセクシー女優顔負けにセクシーだった。
いつしか俺のアパートに優子が居る様になり同棲生活が始まった。
会社の人達にも公認での付き合いになる。
最初は同僚達に驚かれ「美女と野獣」とからかわれたが、皆あたたかく見守ってくれていた。
優子は片付けは苦手だが、料理は美味かった。
仕事でいない母親の代わりに良くご飯を作っていた様だ。
優子との付き合いは幸せだった。
優子の母親と弟にも挨拶に行った。
優子の母親はとても優しくあたたかい人。
弟も明るくて元気な若者という印象だった。
結婚も意識し出したある日。
その日は休みで、朝からセックスしていた。
まるで猿だ。
終わってから優子と裸でまったりしていたら、優子が突然起き上がった。
「ん…?どうした?」
俺は優子に聞いた。
「あのね…私、妊娠したみたい」
「えっ?」
「あなたの子供…産んでもいい?」
突然の報告に驚いた。
これだけ優子を抱きまくっていれば子供はいつ出来てもおかしくない。
驚きの後に喜びと不安が交互に湧き上がる。
結婚はするつもりであったが順番が逆になる。
属に言うできちゃった婚だ。
でも優子の事は心の底から愛していたし、子供はまだ実感はなかったが、きっと優子とならあたたかい家庭が作れる。
そう思って入籍に向けて準備を始めた。
まず優子の家族にご挨拶。
優子の母親、義母と弟、義弟に結婚の許しを得る。
義母は子供が出来たと聞いた瞬間、少し笑顔が引きつった。
義弟は「やったな!ねーちゃん!嫁に引き取ってくれて( ̄▽ ̄)
健太郎さん、姉をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げてくれた。
俺も頭を下げた。
問題はうちの親だった。
優子の事を余り良く思わなかった。
兄貴は優子をジロジロと見ながら「弟の何処が良くて結婚するの?あなたの様に可愛い女性がもったいない…」
父親は比較的友好的だったが問題は母親。
あからさまに嫌な顔をして優子と接した。
俺はそんな母親を怒った。
しかし母親は「だって、ねぇ…」と言いながら優子をジロジロ見る。
夏なので暑いのもあったが、少し露出が多い服であった。
華奢な体に大きな胸が強調された服は、母親世代には余り印象が良くないのだろう。
そう思っていた。
結婚式は市内のホテルに決めた。
優子の体調を見ながらの準備になる。
入籍は優子の誕生日に決めた。
優子がそれを望んだからだ。
「バースデー婚って素敵よね」
そう言って笑顔を見せる優子の希望に応えたかった。
会社にも報告。
優子は寿退社をする事になった。
皆祝ってくれた。
優子の送別会と俺たちの結婚祝いをしてくれる事になった。
俺と優子と同期で俺の親しい友人でもある亀田が幹事をやる事になった。
あだ名はカメ。
カメは俺をケン、優子をゆうちゃんと呼ぶ。
送別会と結婚祝いを明日に迎えた日。
俺は明日に仕事を残したくないから、今日のうちに終わらせる仕事はこなして帰る事を優子に告げる。
優子も快諾、優子も手伝ってくれた。
カメをはじめ、同僚達の考えは皆同じだったらしく、定時に帰る人は誰もいなかった。
夜9時を過ぎた頃。
何とか仕事も落ち着いた。
これで明日は定時に帰れる!と皆で帰り支度をしていた時、突然優子が叫んだ。
「助けて!痛い!痛い!」
皆一斉に優子を見た。
優子はその場にへたり込む。
一番近くにいた優子と同じ事務員の先輩、小沢さんが「優子ちゃん!大丈夫⁉︎」と駆け寄る。
俺も慌てて優子に駆け寄った。
優子はお腹に手を当てて痛いと訴えながら泣いている。
小沢さんが救急車を呼んでくれた。
その場にいた同僚達は突然の事に、どうしたら良いのかわからず沈黙。
救急車が到着。
市内で一番大きな総合病院に搬送された。
流産だった。
俺は医者から状態を聞き唖然。
心配だから…と一緒について来てくれた小沢さんは医者の話に号泣。
優子は病院で一晩過ごす事になった。
俺は仕事を休んだ。
優子の側についていたかった。
何もしてやれないが、側にいる事しか出来ないが、優子から離れたくなかった。
一睡もしないで朝を迎える。
医者から帰宅して良いと言われ、タクシーで帰宅。
車は会社に停めたままだったからだ。
その時、俺の携帯に着信があった。
カメからだった。
同僚達皆心配していると。
お前もゆうちゃんも少しゆっくり休めと。
何故かカメの声を聞いた直後、今まで我慢していた気持ちが堰を切ったように溢れ出し泣いた。
カメは黙って付き合ってくれた。
優子は流産を受け入れられず、医者から話を聞いた直後はかなり取り乱していたが、落ち着いたと思ったら今度は泣いていた。
「赤ちゃん…いなくなっちゃったね」
優子は布団で横になり、天井を見つめたまま言った。
「うん…」
こう答えるのが俺には精一杯だった。
それから何日か経った。
優子の体調も回復し、仕事に復帰。
皆が気を使ってくれる。
優子は逆に申し訳ない、退職する最後の日まで一生懸命頑張る!と真面目に頑張った。
小沢さんは優子をフォローして励ましてくれた。
小沢さんは既婚者で2人のお子さんがいる。
小沢さんも過去に流産を経験しているため気持ちはわかると、だから負けないで頑張って欲しいと。
優子は小沢さんを姉の様に慕っている。
時には厳しいが、いつも優しく見守ってくれる小沢さん。
有難い存在だった。
優子も小沢さんはじめ、同僚達のおかげで笑顔を取り戻した。
優子の誕生日。
この日は仕事を無理矢理定時で帰宅した。
優子が好きなケーキ屋で優子が好きなフルーツタルトを買い、オーダーしていた結婚指輪を受け取りに宝石店へ。
奮発した結婚指輪。
一緒に選んだ。
急いで自宅に帰る。
今日は優子が「今日はご馳走作って待ってるからね」
いつもの可愛い笑顔でそう言っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
優子はキッチンに立ちながら振り返る。
テーブルには優子が頑張って作ってくれた料理が並ぶ。
どれも美味そうだ。
タルトを渡す。
喜んでくれた。
「食後の楽しみで!」
そう言って冷蔵庫にしまう。
「誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
2人で過ごす誕生日。
他愛もない会話。
デザートのタルトも食べて、優子と一緒に片付ける。
そして婚姻届を書く。
一字一句を丁寧に書いていく。
寄り添いながら婚姻届を書いた。
そして、結婚指輪をはめた。
俺から優子の薬指に、優子から俺の薬指に指輪をはめる。
嬉しそうに指輪をはめた左手を見る。
真新しいピカピカの指輪。
「もう一生外さない!」
そう言ってはめた指輪を触る優子。
そして市役所の時間外窓口へ婚姻届を出しに行く。
保証人は優子の母親と俺の父親。
優子が生まれた午後9時42分に合わせて婚姻届を提出。
俺と優子は夫婦になった。
俺と優子の結婚式。
俺の父親が社長というのもあり、来賓の方々が少し多かったが、俺の両親と未婚の兄貴、優子の母親と未婚の弟、亡くなった父親の写真、カメや小沢さんをはじめ会社の同僚、部長、課長も来てくれた。
俺や優子の友人、お世話になった方々含め総勢100人近い方々がお忙しい中結婚式に出席して下さった。
俺は人前に出ると緊張してガチガチになるため、スポットライトを浴びて会場の人が一斉にこっちを見た時、喜ばしいはずなのに緊張の余り顔が無表情だったらしい。
式場のサポート役の方から小声で「笑顔ですよ、笑顔!」
そう言われて無理矢理笑顔を作ったら今度は引きつった顔をしていたらしい。
カメが言っていた。
「急に無表情から引きつった顔をしたから思わず笑ってしまった」との事。
会社のプレゼンも苦手である。
優子と俺の上司である部長の祝辞。
同僚達から歌のプレゼント。
俺の父親は酔っ払って声が大きくなっている。
俺と優子の母親は来て下さった方々にご挨拶回り。
兄貴と優子の弟はひたすら飲んで食べていた。
ウェディングドレス姿の優子。
何着か試着して決めたドレス。
本当に綺麗だった。
皆で記念撮影を撮る。
無表情な俺と満面の笑みの優子。
良い想い出となった。
結婚式後は式を挙げたホテルに泊まった。
プランに入っていたからだ。
比較的広めのダブルの部屋。
階数が高い部屋の為、夜景が素晴らしく綺麗だった。
部屋の電気を暗くし、優子と夜景を楽しむ。
この日は、いつにも増して優子を激しく抱きまくった。
流産してからしばらくの間、セックスしていなかった。
優子の心身的負担を考えたのもあるが、しばらくの間はダメですと医師から言われていた。
解禁になってからも控えていたが、この日の夜は欲求を抑える事が出来なかった。
優子が本当に愛おしかった。
何度も何度も抱いた。
結婚式直後、新婚旅行に向かう。
3泊4日の旅。
温泉、観光、地元の方々とのちょっとした交流、食事、何もかもが素晴らしく、本当に楽しかった。
幸い天気にも恵まれた。
優子も楽しそうにしている。
優子が喜んでくれるだけで俺も楽しかったし嬉しかった。
親兄弟、会社の同僚、友人達にお土産を買う。
新婚旅行から帰り、いつもの日々が始まる。
俺は仕事へ、優子は専業主婦。
仕事から帰ると、優子が迎えてくれて温かい御飯が待っている。
仕事も順調、こんな幸せな事はない。
ただ、幸せは長くは続かなかった。
俺の父親に癌が見つかった。
胃癌だった。
長期の入院を余儀なくされる。
前から調子が悪いとは言っていたが、まさか癌だったとは。
父親が癌だと母親から聞いた時は、驚きの余り一瞬頭の回路が止まった。
優子にも伝える。
優子も目を丸くして驚いていた。
母親は父親の看病で病院と自宅の行き来で忙しい。
兄貴は父親の代わりに会社を切り盛りする毎日。
仕事が休みの日は俺も兄貴の仕事を手伝った。
忙しかったが父親の回復を願い、必死に頑張った。
優子も忙しい俺のために尽くしてくれた。
この頃から優子の様子が違って見えた。
忙しかったため、なかなか優子との時間が作れずにセックスの回数も減った。
優子は寂しそうにしていたが…
後日、大変な事態になっていく事になる。
この日は日曜日。
本業の仕事は休みだったが、父親の会社に朝から手伝いに行っていた。
午前11時半頃、一区切りついたため兄貴と近くのファミレスに御飯を食べに行く。
休日の昼間という事もあり、家族連れやカップルで混み合っていた。
冴えない男2人組は俺らだけ。
兄貴と対面で食事をしていたら、突然兄貴の動きが止まった。
「どうした?」
俺は兄貴に聞いた。
「あの端っこの方に座ってんの、お前の嫁じゃね?」
俺は兄貴の目線の先、後ろを振り返る。
優子だ。
楽しそうな笑顔だ。
友達と御飯でも食べてるのかな。
ふと視線を優子と一緒にいる人へ視線を移す。
俺からは後ろ姿だったから良くわからないが女性の様だ。
ちょっとホッとする。
声を掛けに行く。
優子が「あれ〜?仕事終わったの?」と俺に聞く。
一緒にいたのは結婚式にも来てくれた優子の友人である鈴木あかねさん。
高校時代からの友人らしい。
「旦那さん、こんにちは!すみません、優子お借りしてます!遅くならないうちに帰りますので」
「いえ、ごゆっくり(^-^)」
近くまで来たから優子に一緒にお昼どう?と誘い出したと言っていた。
席に戻ると兄貴は御飯を完食し、暇そうに携帯をいじっていた。
「早く食え」
兄貴は携帯をいじりながら俺に一言。
「俺も結婚したいな、まず相手だな」
その後の一言に耳を疑う。
「旦那の兄貴に色目を使わない嫁がいいな、お前の嫁みたいな」
「は?」
兄貴、今サラリと何て言った?
「お前の嫁、お前の事が好きとかじゃなく、うちの会社が好きなだけだ、要は金目当て」
俺は怒った。
「俺が可愛い嫁をもらってひがんでるのか⁉︎見苦しい」
「今だけ夢見てたらいいよ、そのうち現実を目の当たりにしたら目が醒めるよ」
兄貴は携帯をいじりながら俺に言う。
俺は後ろを振り返り、まだ友人と談笑している優子を見た。
兄貴の「早く食え、もう行くぞ」の言葉で顔を元に戻し、残っていた御飯を完食し店を出た。
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