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交差点

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小説大好き
14/10/01 13:38(更新日時)

教習所に行くまで知らなかったんだよな

交差点って本当は「点」じゃないんだって

道と道が交差してできた「面」のことを交差点っていうんだって、教習所で教わって初めて知った

まぁどうでもいいことなんだけど

道とか交差点って、ちょっと人生みたいだなって思う

ひとつの道がひとりの人間で

交差点が人と人との関係

どんな道も日本のどっかでは繋がってんのかな

14/08/30 18:10 追記
☆感想スレ☆
http://mikle.jp/viewthread/2132637
よろしくお願いします

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No.2131155 14/08/26 13:39(スレ作成日時)

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No.51 14/09/06 15:22
小説大好き0 

その次の日曜日、俺はすずちゃんと上野で待ち合わせた。

約束の時間に上野駅の公園口改札へ行くと、すずちゃんが先にきて待っていてくれた。

チェックのシャツに膝丈のパンツという格好のすずちゃんは、やっぱり俺より年上には見えない。

「おはよう」

「おはよう。いい天気だね」

公園内を散歩しながら動物園へ向かった。

「俺、動物園なんて中学のときに学校の行事で行って以来だよ」

「そうなんだ。私、動物園好きだから、大人になってからもけっこうくるのよ」

例の元彼ともきたんだろうかと、ヤキモチを妬く俺は小さい男だ。

園内に入ると、すぐにすずちゃんが見たがっていたパンダ舎がある。

やっぱりパンダは人気があって、通路は混んでいる。

パンダは外の運動場にいた。

「やっぱりパンダ可愛い~」

すずちゃんはスマホを取り出して、寝っ転がっているパンダの写真を何枚も撮っている。

混んでいるのでずっと見ていられなかったけど、すずちゃんは満足したようだった。

そのあと順路に沿って進み、ゴリラや猛獣がいるエリアに行った。

動き回るゴリラをすずちゃんと並んで見ていたら

「すず先生!」

と甲高い声がした。

「未来ちゃん?」

驚いたようにすずちゃんが振り向いた先に、水色のワンピースを着た小さな女の子がいて、その後ろに若いお父さんとお母さんという感じの2人が笑顔で立っていた。

No.52 14/09/06 16:00
小説大好き0 

「こんにちは」

すずちゃんは女の子にそう言ってから、後ろにいる両親らしき2人にも「こんにちは」と言った。

「すず先生、デート?」

未来ちゃんと呼ばれたその子は、マセた感じでそう言った。

「デートっていうか、先生のお友達とパンダに会いにきたの」

「かれしじゃないの?」

「ちがうわよ」

苦笑しながらすずちゃんはそう言った。
まぁまだ彼氏ってわけじゃないし、そうだったとしても父兄もいる前で「彼氏」と言うわけにもいかないだろうな。

「みらいね、おとなになったらたくまくんとデートするの」

「素敵ね」

「未来、先生困ってるよ」

お父さんが助け舟を出してくれた。
未来ちゃんはまだ喋り続けていたけど、お父さんが「どうも、失礼します」と言って未来ちゃんの手を引いたので、すずちゃんは「失礼します」と頭を下げ、俺も会釈して未来ちゃん親子から離れた。

なんとなく、また未来ちゃん親子に会うのも気まずいかと思って、他の動物を見ながら止まらずに順路を進み、最初にいた東園から西園まで移動した。

不忍池の前までくると、すずちゃんは「あー、驚いた」と笑った。

「こういう場所で園児に会っちゃうんだね」

「お母さんたちの間で噂になっちゃうかも」

「そういうもんなの?」

「って、先輩の先生は言ってる」

「おとなしそうなお母さんだったから大丈夫じゃない?」

さっき見た未来ちゃんのお母さんは、服装も派手な感じじゃなかったし、優しそうにただニコニコとしていた。

「うーん。いろいろあるのよ」

すずちゃんの表情が少し曇ったように見えた。

でもそのあとのすずちゃんはいつものように元気だったから、動物園を出たあとに有名な店のあんみつを一緒に食べ、ファッションビルですずちゃんの買い物に付き合ったりした。

夕食はアメ横近くにあるパスタ屋で済ませ、俺はすずちゃんを最寄り駅まで送り、その日は別れた。

別れ際、すずちゃんは
「楽しかった。またどこかに一緒に行こうね」
と言ってくれた。

すずちゃんの失恋の傷は、治ってきたんだろうか。

とりあえず、このまま順調に親しくなれば、そのうち俺から気持ちを伝えることもできるかと思った。

No.53 14/09/06 18:03
小説大好き0 

その次の週の土曜はすずちゃんが言っていた幼稚園のお祭りがあったので、誘うのは遠慮した。

日曜にメールすると、お祭りは雨も降らず、楽しく済んだとすずちゃんからメールが来た。

お祭りが済んですずちゃんの幼稚園での仕事もひと段落したようなので、飲みに誘ってみた。

>>カラオケがいいな

よっぽどカラオケが好きなんだな、とメールを見てつい笑ってしまった。

金曜日の夜にすずちゃんの最寄り駅に近い駅で待ち合わせて、カラオケボックスへ行った。

すずちゃんは楽しそうに歌っている。
きっと幼稚園でも子どもたちとこんな風に歌っているんだろうな。
想像するとすずちゃんも園児みたいで可愛い。

途中すずちゃんがトイレに立ったので、俺はEXILEの新曲を練習で歌った。

ドアが空いてすずちゃんが戻ってきたんだけど、すずちゃんが困ったような顔をしている。

「どうしたの?」

「この間、上野動物園で会った未来ちゃんていたでしょ?お父さんが偶然ここに来てて、なんか相談があるんだけどって言われちゃって」

「え?いま?」

「うん。友達と一緒だって言ったんだけど、少しだけお邪魔できませんか?って」

すずちゃんにしてみれば、幼稚園の父兄だから断りにくいんだろう。

でも普通、いくら娘の幼稚園の担任だからって、プライベートで友達と遊んでるところに割り込んでくるか?

「俺はいいよ」

本当はイヤだったし、変な話だと思ったけど、すずちゃんが困っているみたいだからそう言った。

No.54 14/09/07 08:02
小説大好き0 

「こんばんは。お邪魔してすみません」

すずちゃんの開けたドアから、上野動物園で会った未来ちゃんのお父さんが入ってきた。

ワイシャツと上着を取ったスーツ姿。
いかにも会社帰りのサラリーマンという感じだった。
30歳くらいかな。

「どうぞ、お座りになってください」

すずちゃんに声をかけられて、未来ちゃんのお父さんは空いているスペースに座った。

「野村です」

未来ちゃんのお父さんは俺にそう言って頭を下げた。
俺は一応部外者だから、軽く頭を下げて黙っていた。

「野村さん、ご相談ってなんですか?」

すずちゃんは礼儀正しく野村さんに話しかけた。

「実は未来と妻のことなんですが」

野村さんはそう言って話し始めた。

実はこの間動物園で会った未来ちゃんのお母さんは、未来ちゃんの実の母親ではない。

未来ちゃんを産んだ母親は、未来ちゃんが1歳になってすぐ浮気をして家を出てしまった。
結局離婚ということになって、未来ちゃんは野村さんが育てることになった。

離婚から半年後、知人の紹介でいまの奥さんと知り合い、その半年後に再婚した。

まだ3歳の未来ちゃんはそのことをよく分かっていない。
いまのところ実のお母さんと思っている。

後妻となった奥さんは、未来ちゃんの母親として頑張ってくれている。

ただ最近、未来ちゃんが反抗的で、奥さんもなんとなく持て余しているような気がする。

未来ちゃんは本当の事情をなんとなく察しているのではないか。

幼稚園での様子や、送迎や行事で会う奥さんの様子はどんな雰囲気なのか。
担任のすずちゃんに聞いてみたいと思っていたが、幼稚園に直接電話したり赴いたりするのも大袈裟かと思い迷っていたら、今日偶然ここで会えたので、図々しくもお話させてもらうようにお願いした。

そんな内容だった。

  • << 56 ☆訂正☆ >> × ワイシャツと上着を取ったスーツ姿。 いかにも会社帰りのサラリーマンという感じだった。 >> ○ ネクタイと 上着を取ったスーツ姿。 いかにも会社帰りのサラリーマンという感じだった。

No.55 14/09/07 08:45
小説大好き0 

「未来ちゃんはときどき他のお子さんとケンカやトラブルになることはあります。でもそれは、私や涼子先生が間に入れば解決できる程度のことで、特に未来ちゃんが問題あるお子さんということはありません」

あとから聞いたら、涼子先生というのは先輩の先生らしい。
年少クラスは2人担任がつくことになっていて、すずちゃんは涼子先生と2人で担任をしているんだそうだ。

「お母様に関しても、お迎えのときに未来ちゃんの様子を私たちにお聞きになったり、他のお母様と親しくお話しされたり、未来ちゃんや他のお子さんと遊んだり、私から見ても特に気になるところはありません」

「そうですか」

「はい。だから野村さんが心配なさるお気持ちはわかりますけど、いまのところ未来ちゃんとお母様の様子を気にかけて差し上げるくらいでいいかと思いますが」

「……安心しました」

野村さんはそう言って笑顔を見せた。

「お恥ずかしい話、仕事が忙しくてあまり未来と妻と接する時間もあまりないんです。あの……もしご迷惑でなければ、ご連絡先をお聞きできませんか?」

「え?私のですか?」

「はい。あまりいろんな方に相談できる内容ではないですし、未来は先生をとても慕っているようなので、特に未来のことについては他にもいろいろご相談させていただきたいんです。ご迷惑でしたら言ってください」

「迷惑なんて、そんなことはないです」

そう言って、結局すずちゃんは野村さんとメアドと携帯番号を交換した。

No.56 14/09/07 09:44
小説大好き0 

>> 54 「こんばんは。お邪魔してすみません」 すずちゃんの開けたドアから、上野動物園で会った未来ちゃんのお父さんが入ってきた。 ワイシャ… ☆訂正☆
>> × ワイシャツと上着を取ったスーツ姿。
いかにも会社帰りのサラリーマンという感じだった。

>> ○ ネクタイと
上着を取ったスーツ姿。
いかにも会社帰りのサラリーマンという感じだった。

No.57 14/09/07 21:38
小説大好き0 

野村さんが部屋から出て行くと、すずちゃんはため息をついた。

「なんか、大変そうだね」

「うん。本当は園児の親御さんと個人的に連絡とるなんて、良いことじゃないと思うんだけど、あんな風に言われちゃうと……」

「事情を聞いちゃったしね」

「未来ちゃんの家庭環境は園でも承知してはいたの。野村さんにはああ言ったけど、実際は未来ちゃんは他の園児よりもトラブルが多いの。でも、要注意とまではいかないのも本当なの」

「若いけど優しそうなお母さんだったよね」

「あのお母様も野村さんに話した通りなんだけど、やっぱり未来ちゃんに対して微妙に距離があるかもしれない、って感じるときはあるんだ」

「継母、ってことだもんね」

「未来ちゃんは賢い子なの。勘が鋭いっていうか。だから、野村さんが言ったようになにか勘付いているかもしれないとは思う。でもそんな家庭のことに幼稚園からは迂闊に手も口も出せないし」

「そうなんだ」

「相談に乗ったり、さっきみたいに未来ちゃんやお母様の幼稚園での様子をお話しするくらいしか、私にはできないんだけど、ただ……」

すずちゃんが言いにくそうに言葉を切った。

「ただ?」

「お母様は少し気になるの。なんていうか、お母様グループの中心にいる方で、そこでときどきトラブルがあることを聞くから」

「『ママ友』ってヤツ?」

「そう。関わりの仕方が難しい部分だって、先輩も言ってるから」

No.58 14/09/08 13:08
小説大好き0 

俺からすると、「ママ友」なんて縁のない世界だ。
たまーにテレビやネットで聞くくらいで、大変そうだなとか、めんどくさそうだな、って思う。

でもすずちゃんは、そういう世界と近いところで仕事をしているんだな。

「そういうお母さんだから、すずちゃんは動物園で噂されるとか気にしてたんだね」

「うん。すごくお友達の多い方なのよ。幼稚園にくるお母様たちは、噂好きな人も多いから、ちょっと怖い」

そうだよな。
すずちゃんだって俺とたいして歳も変わらなくて、まだ先生になったばかりだから、そんな世界が怖いのも俺と同じだと思う。

「子どもたちは可愛いんだけど、親御さんとの付き合い方は難しいのよね」

「モンスターペアレント、だっけ」

「そういう感じの親御さんもいるみたい。未来ちゃんのお母様はそういうことはないんだけど。ただ、家庭の問題に入り込むと、場合によってはクレームになったりするだろうし」

「ホント、大変だなぁ。俺じゃ役に立たないかもしれないけど、愚痴くらいならいつでも聞くよ」

「ありがとう。本当は園児やその家庭のことを外部の人に話したりしちゃいけないんだけどね」

「俺もいるのに押しかけてきたのは野村さんだよ。だから今日のことはすずちゃんには責任ないじゃん。すずちゃんから聞いたことは、誰にも話さないようにするし」

「ゴメンね、せっかく誘ってもらったのに、今日はこんな変な成り行きになっちゃって」

「すずちゃんのせいじゃないんだから気にしないでよ」

「ありがとう」

俺はまだ学生で頼りないかもしれないけど、すずちゃんの力になりたいと思った。

No.59 14/09/08 19:34
小説大好き0 

六川さんからは毎日メールがくる。

相変わらず、ちょっと面白い軽い内容ばかり。

そしてたまに食事やお酒に誘われる。
映画やドライブにも誘われる。

私は六川さんの誘いを断らない。

六川さんと一緒にいるのは楽しい。

鎌倉へ行った日、六川さんは私を抱きしめたけど、それ以上のことはしてこなかった。

歩いていると、ときどき手を取られたり、人混みで引き寄せられたりするけど、いつも自然にそうするだけで、私が嫌な気分になるようなことはしない。

「最近那奈ちゃんは笑ってくれることが多いね」

六川さんはそんなことが嬉しそう。

会う回数が増えるにつれて、六川さんに馴染んでいく。

六川さんは私になにか買ってくれようとすることもあるけど、それは断っている。

ただでさえ、学生が出入りするには不相応な場所にも連れていってもらってるのに、服だのアクセサリーだのもらうわけにはいかない。

私はたまにお茶代をださせてもらったりするんだけど、それさえも「那奈ちゃんは学生なんだから」と言われてしまう。

自分でも女の子らしくないと思う。

もっと甘えてワガママを言えるような女の子なら可愛いのに、そう思う。

だから、ダイニングバーでお酒を飲んでいるときに、六川さんにそう言ってみた。

「そう?那奈ちゃんはいまの那奈ちゃんだから可愛いんだけど」

六川さんはそう言った。

No.60 14/09/08 23:30
小説大好き0 

六川さんは私がなにしててもそんなことを言う。

会うたびに、私って六川さんの手の中で転がされてるのかも、って思う。

素っ気なくしても、笑っても、六川さんは同じようにニコニコしているから。

「六川さんは」
いつもそんなこと言うんだから、と続けようとしたときに

「六川先生!」

という声が後ろから聞こえた。

文字で書いたら「ろくかわせんせえー」って感じ。

ゆるふわパーマをかけた可愛い感じの女の人と、サラサラストレートロングのお人形のリカちゃんのお友達みたいな女の人がテーブルの横にきた。

「ああ、こんばんは」

にこやかに六川さんは挨拶する。

「やだー、六川先生。私たちの誘いを断ってこんな可愛い女の子とー」

サラサラの方がそう言った。

「ホントかわいー。こんばんは。何年生?」

そしてゆるふわ。

あー。
悪意の塊。
「何年生?」って、高校生以下に見えるって暗に言ってるんだ。
優しいおねーさんみたいな喋り方の裏にある嫌味。
いくらなんでも高校生をお酒メインのダイニングバーに連れてくることないって分かってるくせに。

このおねーさんたち、六川さんのファンとか、狙ってるとかなんだろうな。
六川さんが私みたいな普通の小娘連れてるのが気に入らない、ってこと。

張り合うのも馬鹿馬鹿しいな。

「中学3年生です。ね、おにいちゃん」

ニコニコ笑いながら私がそう言うと、六川さんは物凄く嬉しそうに笑った。

No.61 14/09/08 23:49
小説大好き0 

「おにいちゃん、この人たち誰?」

「病院で働いてる人だよ。事務の柄本さんと検査室の須藤さん」

「ふーん」

私は聞いておいて興味なさそうにソッポを向く。

いくらなんでも中学生には見えない私。
2人は馬鹿にされたとばかりにムッとしている。
面白い。

「六川先生、中学生って」

サラサラが口を尖らせて言う。
ノリが悪いなぁ。

「うん、見えないでしょ」

さすが六川さんはノッてくれる。

「彼女、どう見たって中学生じゃないですよぅ」

ゆるふわもヒネった返しはできないんだな。
最初に「何年生?」って言ったのは自分なのに。

「おにいちゃん、帰ろうよ」

「うん、そうだね。お二人も職場の人間がいると気を遣うかもしれないしね」

「えー。ご一緒させていただきたかったのにー」

サラサラが言った。

「なにしろ中学生だからね。帰る時間だよ」

六川さんはクスクス笑いながらそう言って、ウェイターさんに向かって合図した。

「それじゃお先に」

六川さんはにこやかに笑い、立ち上がった私の背に手を回してレジへと向かった。

外に出て、店が見えなくなる辺りまで来ると、私は堪えきれなくなって吹き出した。

「あー面白かった。私、性格悪い」

No.62 14/09/09 12:54
小説大好き0 

「別にいいんじゃない?」

六川さんは相変わらず楽しそう。

「六川さん、病院でロリコンって噂されちゃうかもしれないね」

私はそっと六川さんから体を離した。

「どうでもいいよ。髪の毛ふわふわしてた子いるでしょ?あの子が俺のこと好きらしいって、看護師から聞いた」

「ふーん。やっぱりそうなんだ。あの人の方がストレートの人より目が怖かった」

「うん、でもね、彼女は医者である俺が好きなだけであって、医者ではない俺には興味ないタイプだと思うから」

「女は医者が好きだもんね」

「そうみたいだね。那奈ちゃんは医者は好きじゃないの?」

「まだ私18歳だし、結婚相手でもないのに、相手のステイタスまで気にしない」

「どんな人が好きなの?」

「世界で一番私を好きになってくれるひと」

「あとは?」

「ずっと私を好きでいてくれるひと」

「あとは?」

「私を必要としてくれるひと」

「俺はけっこうその条件に当てはまると思うんだけど」

六川さんならそう言うだろうな、って思ってた。

No.63 14/09/09 19:38
小説大好き0 

「那奈ちゃん、最近敬語が減ったね」

「そうかも。最近六川さんとよく会うから」

「笑ってくれるのも増えたね」

「六川さんが楽しいことばっかり言うからでしょ」

「那奈ちゃん」

「?」

「俺は家族がいないでしょ。両親が事故で亡くなった後、お袋さんの弟が保護者になってくれたけど、愛知に住んでるから、俺は両親が遺してくれたいまのマンションに1人で住み続けてる。1人暮らしにはすぐ慣れたけど、ときどき無性に寂しくなるんだ」

「いまも寂しい?」

「那奈ちゃんが横にいると寂しくないよ」

「どうして?」

「世界で一番那奈ちゃんが好きだから」

「それから?」

「ずっと那奈ちゃんのことを好きでいるよ」

「……それから?」

「俺は那奈ちゃんが必要なんだ」

「私、まだ、六川さんにちゃんとしたこと、言ってない」

「言ってみて」

「ここでは言わない」

「人が通るから?」

「ううん。二人きりなら言うかも」

「俺のマンションなら二人きりだよ」

「来て、って言ってくれなきゃ、行かない」

「俺の家においで」

「うん」

私は初めて、自分から六川さんの手を取った。

No.64 14/09/10 11:59
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六川さんのマンション。

同じエリアだから、外からならしょっちゅう見る建物。

その7階に六川さんの住む部屋があった。

六川さんはいままで一度も家に誘ってはこなかった。
手を握ったり、腕や背中へ触れられたりはときどきあったけど、それも強引な感じはしなかった。

六川さんと出会ってもうすぐ2ヶ月。

多分私は六川さんを好きなんだと思う。

でも、本当はまだ自信がない。

六川さんみたいな人が本当に私を好きなのかも

私自身が本気で六川さんを好きなのかも

だから、自分の気持ちを確かめたかった。

「好き」って言葉にしたら、私はどうなるんだろう。

六川さんは、どう思うんだろう。

私が臆病なのは、失恋した経験だけが原因じゃない。

それは自分が一番よく分かってる。

それでも。

本当に六川さんに愛されてるのか、知りたくなった。

だから、六川さんのマンションに連れてきてもらった。

No.65 14/09/10 13:21
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六川さんが住む部屋は3LDKだった。

六川さんの趣味なのか、亡くなったご両親の趣味なのか、インテリアはシンプルでセンスがよかった。

広いリビング。

ここで1人で過ごす六川さんを想像すると、「寂しい」と言った六川さんの気持が解るような気がした。

六川さんがいれてくれたコーヒーをソファーで並んで飲んだ。

私がカップを置くと、六川さんの腕が伸びてきて、私は六川さんに引き寄せられた。

「意地っ張りの那奈ちゃんは、こうでもしないとなにも言えないんでしょ」

六川さん顔が近くにある。

「私、本当はすごい甘えん坊なんだと思うの。六川さんはそれでもいい?」

「いくらでも甘えていいよ」

「本当はすごいヤキモチ妬きなの」

「ヤキモチ妬いて欲しい」

「すごく手がかかってめんどくさい女の子かもしれない」

「そうだね。めんどくさいことばっかり言ってないで、『好き』って言ってごらん」

「……好き」

「もう一回」

「好き」

その言葉に被せるように、六川さんの口が私の口を塞いだ。

そして私は六川さんに抱かれた。

いままで張っていた糸がプツンと切れたみたいに、私は六川さんに甘えていた。

六川さんはそんな私を、ずっと嬉しそうに見つめていた。

私が好きだと言うたびに、倍以上六川さんから好きだと言われた。

ずっと、そのままでいたいと思った。

No.66 14/09/10 15:55
小説大好き0 

「はぁ」

すずちゃんは俺の前でためいきをついた。

「どうしたの?なんか疲れてるみたいだけど」

俺は土曜日の夜、バイトが終わってからすずちゃんの家に近い駅前の居酒屋ですずちゃんと会っていた。

すずちゃんと出会って3ヶ月。

8月は幼稚園も夏休みだから、比較的すずちゃんも余裕があるみたいで、何回か遊んだり、飲みにいったりした。
普段もLINEを送るとちゃんと返事をくれた。

9月に入ると、幼稚園は2学期になって運動会の準備が始まるようで、すずちゃんは忙しくなったみたいだった。

だからなんとなく誘いにくい気がしていたら、すずちゃんから「相談したいことがあるんだけど」とLINEが入ったというわけだ。

「野村さんのこと覚えてる?」

「もちろん。未来ちゃん、だっけ?なにかあったの?」

「野村さんからメールがくるんだけど……」

俺とすずちゃんが上野動物園で未来ちゃん親子に会ったのは7月のアタマだった。
野村さんとカラオケボックスで偶然会って話を聞いたのはその月の中頃。

そのあと幼稚園は夏休みで、その間野村さんからはメールは来なかったそうだ。

それが9月に入って幼稚園が始まると、2、3日おきに野村さんからメールが来るようになった。

「最初は『未来の様子はどうでしょうか?』とかだったんだけど、だんだんなんか内容がおかしくなってきて」

未来ちゃんにもお母さんにも特に変わったところはないから、すずちゃんはその通りに返信する。
そうなるとすずちゃんが野村さんと差し当たり連絡を取る必要もないんだけど、それでも野村さんからはメールが来る。

「『この間一緒だった男の子は彼氏なんですか?』とか、『先生のお誕生日はいつですか?』とか、未来ちゃんには関係ないことを聞かれるようになって。忙しいフリして返信しなかったりすると、『なにか失礼なことがありましたか?』って何回もメールが来るから、『そんなことないですよ』って返信すると、またいろいろ聞かれるメールが来たりして、困ってたの」

それって、野村さんはすずちゃんを口説こうとしてるのかと普通に思える。

「それでもときどき未来ちゃんの話も聞かれるから、メールを断るわけにもいかないでいたら、最近は食事に誘ってきたりするようになって」

No.67 14/09/10 16:17
小説大好き0 

「それって、完全にすずちゃんのこと狙ってるじゃん」

既婚者のくせに、なんてヤツだ。
子どもの幼稚園の先生に手を出そうなんて、普通考えるのか?

「食事に誘われるって言っても、『食事をしながら相談したい』みたいな感じなんだけど……、そんなのお受けするわけにはいかないし。だから最近困ってたの。他の先生とか主任とか、ましてや園長先生にも相談しにくくて」

すずちゃんはそう言ってまたため息をついた。

「すずちゃん」

「え?」

「俺じゃダメかな」

「ダメって?」

「俺、すずちゃんの彼氏にしてもらえないかな」

「野村さん向けに?」

「違うよ。俺はすずちゃんと付き合いたいってずっと思ってたんだ」

「高志くん……」

すずちゃんは驚いたように俺を見ていた。

「すずちゃんが失恋したばっかりなのは分かってる。でも、俺はすずちゃんと付き合いたいんだ。野村さんみたいな変なオッサンにすずちゃんがちょっかい出されないように、俺がすずちゃんを守りたいんだ」

「私、高志くんより年上だし……」

「2つくらい年上のうちに入らないよ。そりゃすずちゃんはもう社会人で俺は学生だから頼りないかもしれないけど、でも、俺、初めて会った日から、ずっとすずちゃんのこと好きだったんだ」

相談があるっていうから個室にしておいて良かった、と俺は喋りながら思っていた。

No.68 14/09/11 12:35
小説大好き0 

「………嬉しい」

すずちゃんは小さな声でそう言った。

「初めて会ったとき、私、あんなみっともないところ見せちゃって。でも、だからかな。高志くんと会うと逆に安心できて、すごく楽しいの。だけど、私は年上だし、失恋したばかりだから、高志くんに軽い女の子だって思われちゃうんじゃないかって思ってた」

「そんなこと思ってたら、好きだなんて言わないよ」

「本当?」

「本当だよ。俺のこと、いますぐ好きになってくれとは言わない。でも、すずちゃんが俺のこと好きになってくれたら、俺と付き合って欲しい」

「………ありがとう」

よし。
NOとは言われなかった!

「でもさ、野村さんのことは俺も心配だよ。嘘でもいいから、俺のこと彼氏だって言っちゃいなよ」

「それじゃあ高志くんのこと利用してるみたいで……」

「利用すればいいよ。俺はすずちゃんを守れるなら、それでいいんだ」

「野村さん、それでメールとか控えてくれるかな」

「とりあえず今度聞かれたら伝えてみればいいよ。それで野村さんの反応をみてみようよ」

「高志くんに相談してみてよかった。ホントにありがとう」

俺のバイト先のカラオケボックスで泣いていたすずちゃんを見た日から、俺はすずちゃんが好きだ。

すずちゃんが俺を好きになってくれるまで、いくらでも待つ。

自分でも情けないところがある男だと思うけど、すずちゃんのためなら、俺はなんでもできるような気がする。

No.69 14/09/11 16:26
小説大好き0 

「なんか、気持わりーな」

俺は目の前でグレープフルーツを嬉しそうに絞る那奈を見ながらそう言った。

今回は俺から那奈を呼び出した。
もちろん、すずちゃんのことを相談するためだ。

他の友達に相談することを考えないわけじゃないんだけど、なぜか真っ先に那奈を思い浮かべる。

それでメールして、今日また安い居酒屋で那奈と会っている。

会ったときから那奈はご機嫌で、俺に会う前に一杯ひっかけてるのかと思うような雰囲気だった。

最近は生意気でツンツンしてる那奈しか見たことがなかったから、つい「気持わりーな」という台詞が出た。

「気持わりーとはなによ」

案の定、那奈はグレープフルーツを絞る手を止めずに俺を睨んだ。

「なんかウキウキしてるから」

「えっ、そう?」

那奈は驚いたように両手を口に当てた。

ナンだよ、乙女かよ。
ホント、最近の那奈らしくない。

「医者の男と進展したんだろ」

「うふふ。当たり」

俺を睨んでいたときとはまったく違う緩んだ表情。
デレデレじゃねーか。

「付き合うことにしたの?」

「そういうことになったの」

那奈はそう言ってまたうふふと笑う。

「見ちゃいらんねーな」

俺はタバコに火をつけて煙を吸い込むと、那奈に向かって吹いてやった。

とは言うものの。
目の前にいる那奈は可愛かった。

顔が可愛いとかじゃなくて、いかにも幸せそうにしているのが可愛い。

俺と付き合っているときには、ここまで可愛いくなかった。

なんだか少し妬けるような気がした。

No.70 14/09/11 16:42
小説大好き0 

「恋愛するのが怖い、とか言ってたくせに。あっさり転びやがって」

俺はむっつりして文句を言った。

「仕方ないじゃない。好きになっちゃったから」

「こないだだってホントは好きだったんだろ」

「まだ迷ってたの」

「ふーん。なんで迷いが吹っ切れたわけ?」

「吹っ切れたわけじゃないけど………。六川さん、私がなにしても優しいから。意地張り続けるのも馬鹿馬鹿しくなったの。そうしたら、やっぱり好きだって思ったんだもん」

なんだかなぁ。
今日の那奈は本当に可愛いぞ。
でもそれは彼氏のせいであって、俺は関係ない。
別に那奈を好きなわけじゃないけど、微妙にムカツクような。

「ハイハイ。それが決定打なわけね」

「決定打は六川さんが『私が必要だ』って言ってくれたからだもん」

「必要、かぁ」

「誰かに必要とされたいのよ」

いままで浮かれてデレデレしていた那奈が、真顔になったように見えた。

那奈は真剣なんだな。
元彼としては、祝福してやるべきなんだろう。

「良かったじゃん。彼氏ができて。でもなんで俺がいつも那奈の男関係の話を聞かされなくちゃいけないんだよ」

那奈はそれを聞いて最近のツンツンしたいつもの那奈に戻った。

「高志が私を振ったんじゃない。責任とって話くらい聞いてくれてもバチは当たらないんじゃない?だって高志と別れなければ他の人と付き合うこともなかったんだから」

なんだ、それ。
理屈がメチャクチャだ。

でも俺は反論できない。
元カノって、そういうもんなんだろうか。

No.71 14/09/11 18:53
小説大好き0 

「そういえば、高志もなんか話があるとか言ってなかった?」

「そうだよ、俺が相談したいことがあったんだよ」

「聞いてあげるけど?」

なんだかなー。
ノロケられた挙句に上から発言。

やっぱ可愛くないぞ。

それでも俺はすずちゃんが野村さんのことで困っている話をした。
ちゃんとすずちゃんに好きだから付き合いたいって言ったことも話した。

「やだー高志、カッコいいじゃない」

満更お世辞でもない感じで那奈はそう言ってくれた。

「まだ付き合ったわけじゃないけど」

「まぁ高志がその調子で頑張れば、そのうちちゃんと付き合ってもらえるよ」

那奈め。
自分は彼氏と上手くいったからって、余裕の発言だな。

「いまは付き合うよりも、あのオッサンをどうにかしないといけないんだよ」

「なんか変な人みたいだしね。これでなんかトラブルがあったら、そのすずちゃんて彼女、立場が悪くなるんじゃない?」

「だからそうなる前に、オッサンには退場してもらいたいんだよ」

「でもさ、ちょっと気になったんだけど、本当に偶然だったの?」

「なにが?」

「ほら、高志が彼女とカラオケしてるところに偶然そのお父さんが来た、って話。もしかしてその人、彼女のことつけてたんじゃないの?」

俺は那奈に言われて初めてそれに気が付いた。

そういえばあのとき野村さんは1人なのか、友達か同僚と一緒なのかも言っていなかった。

No.72 14/09/12 17:29
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「だから高志は頼りないって言われるのよ」

那奈は容赦なく言い放つ。

「だってあのカラオケボックス、すずちゃんちから近かったから、幼稚園の父兄も近くにいるのかと………」

「彼女が働いてる幼稚園も近くとは限らないでしょ」

そう言えばすずちゃんの家から幼稚園が近いとは聞いていない。

「仰る通りです………」

「とにかくおかしいよ、そのお父さん。彼女は気をつけたほうがいいと思う」

「そうだな」

「なんかあったら助けてあげるからさ」

「え?」

俺は思わず那奈の顔を見た。

「なによ」

「那奈がそんなこと言うと思わなかった」

「フラれた恨みで?そこまで恨んでたら、こうやって会って飲んだりしないけど」

那奈はそんなことを言いながらも、いつものようなツンツンした表情でタバコを吸った。

「那奈って、いいヤツなんだな」

俺はちょっと感動しながらそう言った。

「なによ、今更。そんないい子を振ったくせに」

「やっぱり根に持ってるんじゃないか」

「根に持つのは当たり前。恨んではいないの」

「………ありがとな」

「ふん」

那奈はタバコを灰皿で揉み消すと、グレープフルーツサワーをゴクっと飲んだ。

照れ隠しだ、って分かった。

やっぱり、那奈はちょっと可愛いと思った。

No.73 14/09/12 18:47
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土曜日、私は六川さんとショッピングモールの中にある映画館で映画を観て、ちょっと買い物をしてから、六川さんのマンションにきた。

夕食はなにがいい?と聞かれて、私はデリバリーのピザを食べたいと言った。
六川さんは放っておくとすぐに私をちょっと高いお店に連れていってくれる。

たまになら嬉しいけど、いつも甘えるのは気が引ける。

でも六川さんは私が行きたいと言えば、牛丼屋でもファーストフードでも、どこでも行ってくれて、いつも楽しそうにしている。

私は、私を見て笑っている六川さんが好きだ。

六川さんはスマホでピザを注文すると、冷蔵庫から缶ビールを出してくれた。

「那奈ちゃんのご両親は厳しくないの?」

プルタブを引き上げながら六川さんは言った。

「うん。ちゃんと学校に行ってれば、あとはあんまりうるさく言われない」

「そう。厳しいご両親だったら、ちゃんと送っていって挨拶したほうがいいかと思ったんだけど」

「大丈夫。……ねぇ、今日泊まっていきたいな」

「いいよ」

「じゃあ泊まる」

「『一緒にいたいから』って言わないの?」

「言って欲しい?」

「ぜひ」

「じゃあ言わない」

「またそんなこと言ってる」

六川さんが笑いながら私をソファーに押し付けてキスしようとしたら、インターホンが鳴った。

「ピザがきた!」

私がそう言って六川さんの口を手で押し返すと

「那奈ちゃんは俺よりピザなんだね」

と六川さんは拗ねて見せながら立ち上がった。

No.74 14/09/13 09:02
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六川さんとピザを食べているときに、音を消してある六川さんのスマホがテーブルの上で振動した。

六川さんはスマホを取ろうとしないので、「病院からじゃないの?」と聞いたら、「これはプライベート用だから違うよ」と六川さんは言った。

「見ないの?」

「迷惑メールかな?」

六川さんはそう言ってやっとスマホを手にすると、

「やっぱり迷惑メールだ」

と私に画面を見せた。

>>こんばんは♡いまみんなで○○で飲んでるんですけど、六川先生もきませんか?

「………病院の女の人?」

「こないだ那奈ちゃんも会った人」

「ゆるふわパーマの人?」

「そうそう」

六川さんはスマホを操作して私に画面を見せた。

>>デート中だから無理だよ

六川さんは私の目の前で「送信」をタップした。

「病院でなにか言われちゃわない?」

「別に構わないよ」

「ロリコン疑惑、どうなった?」

「んー?あの日の後?聞かれたよ。『あの子、中学生ってウソでしょー?』って。だからウソだよって言っておいた」

「そしたら?」

「何歳なんだってうるさいから、50歳だって言っておいた」

「ひどい」

私は声を立てて笑った。
あのかわいこぶったゆるふわパーマが膨れっ面で怒るところが目に浮かんだから。

「病院で熟女好きって言われちゃうよ」

「俺、おばあちゃんとかにモテるんだよ」

「それは熟女すぎ」

「そうだねー。70過ぎのおばあちゃんとかいるからね」

No.75 14/09/13 10:13
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「おばあちゃんからもメアドきかれたら教えちゃうの?」

「ヤキモチ?柄本さんからメールがきたから?」

「プライベート用なんでしょ?」

「整形の先生で女の子大好きな人がいてね。結婚してる癖に、女の子としょっちゅう飲みに行ってるんだ。その先生が俺のメアドを勝手に教えちゃうの」

「本当?」

「ホントだよ。なんなら、いますぐアド変しちゃおうか」

「そんなことしなくていい」

私だって、男の子の友達くらいいるし。
高志なんか元彼だし。
六川さんだって私が元彼と会ってるって知ったら嫌だろうと思う。

「でもあのゆるふわの人は嫌い」

「俺も好きじゃないよ。俺の好みは那奈ちゃんだから」

「ホント?」

「那奈ちゃんは特別だよ」

「ホント?」

「一番大事だよ」

「私も六川さんが好き」

「大好き?」

「大好き」

六川さんの言葉を聞いて、私は安心する。

その日も私は六川さんに抱かれた。

六川さんの腕の中にいると、また私は安心する。

体に触れられて、キスされて、息遣いの激しくなった六川さんの口から何度も「好きだよ」と言われて、私は六川さんの気持ちを感じ取る。

それでも、私はまだ、心のどこかで、いつか六川さんの心が離れていかないかって、不安になる。

好きだと言われるほど

好きだと言うほど

不安になる。

それを忘れるために、私は六川さんに何度でも抱いてもらいたくなる。

No.76 14/09/14 07:57
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愛されたい

愛されたい

愛されたい

那奈だけが好きだ

那奈だけが必要だ

そう言われたい

だから私は臆病になる

好きだと言われ

好きだと言い

それが信実だと思い込んでいたのに

あっさりとそれが消えてしまうこと

誰かの一番になること

それを誰よりも願っているから

No.77 14/09/15 10:16
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すずちゃんは10月にある運動会の準備で忙しいようなので、俺から誘うことは控えている。

でもすずちゃんから、野村さんに俺と付き合っていると伝えることができたと電話で報告があった。

「向こうはどんな感じだった?」

『あぁ、やっぱり彼氏さんだったんですね、って』

「それだけ?」

『うん。運動会を楽しみにしてるから、必ず観にいきます、って』

そうか。
子どもの運動会なら親もくるんだな。

「野村さんもくるんだ」

『運動会で親御さんと話す時間はないと思うんだ。私は子どもたちに付ききりだし、いろいろ忙しいし。野村さんのことは私が気にし過ぎだったのかもしれないね』

「そうかなぁ。子どもとママハハの相談まではアリかと思うけど、彼氏がどうとか食事に誘うとか、やっぱり少し変だよ」

俺は那奈に言われたことを思い出しながら言った。

『うん。誤解されても仕方ないことだよね。だからもしまたそういうことを言われたら、そういうことはできません、ってハッキリ言おうと思うんだ』

「そのほうがいいよ。万一下心がなかったとしても、すずちゃんが迷惑してるって分かってもらわないと」

『うん。私の態度が曖昧だと、野村さんにも迷惑がかかるよね』

「すずちゃんは優しいな。でも変なのは野村さんのほうなんだから、すずちゃんは悪くないよ」

『ありがと。でも最近、ちょっと未来ちゃんとお母様の様子は気になるんだ』

「なんかあったの?」

No.78 14/09/15 10:28
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『特になにかあったわけじゃないんだけど……。お母様が迎えに来ても、未来ちゃんはカバンだけ渡してお庭に走って行っちゃって遊んでるし、お母様も他のお母様とずっと話しているだけで未来ちゃんとあまり話さないし……』

「それは野村さんには伝えたの?」

『うん。家では普通ですから大丈夫だと思います、って』

やっぱり変だ。
そもそも未来ちゃんとお母さんのことが心配だって相談してきたのに、すずちゃんからそんなことを言われてそんな軽い反応なんて。

でもこれ以上すずちゃんに余計な心配をさせても仕方ないのかな。

「野村さんがそう言うなら、あまり深入りしないほうがいいのかもしれないね」

『うん。未来ちゃんのことで相談があればお聞きするけど、こっちから踏み込んだらいけないと思う』

そのあとすずちゃんと運動会が終わったらまたカラオケに行こうとか話して電話を切った。

電話を切ったあとも、俺はなんだかモヤモヤした。

単なる野村さんへのヤキモチとかじゃなくて、なんとなく気持ち悪い。

野村さんが普通に子どもとママハハの関係を心配するいいお父さんで、お母さんは継子を頑張って育てているいいお母さんで、未来ちゃんも普通に元気な幼稚園児であれば、なにも問題はないんだけど。

なんとなく、スッキリしないのが気持ち悪かった。

No.79 14/09/16 16:26
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すずちゃんから運動会が終わったと連絡があった。

久し振りにカラオケに誘って、10月半ばの金曜日の夜、すずちゃんに会った。

前にも行ったカラオケボックスのある駅の改札に行くと、すずちゃんが待っていたんだけど、すずちゃんは浮かない表情だった。
前日の夜にLINEをしたときにはいつもと変わらなかったのに。

「すずちゃん、どうしたの?」

「うん………」

とりあえず前と同じカラオケボックスに入って落ち着いてからすずちゃんに話を聞くことにした。

「なにかあったの?」

「………うん」

すずちゃんは少しの間黙って考えていたけど、バッグの中から封筒を取り出した。

「手紙?」

「ううん」

すずちゃんは封筒を俺に渡して「中を見て」と言った。

封筒の中には写真が入っていた。

すずちゃんの写真だ。

「なんの写真?」

「多分、運動会のときの写真」

「多分」?と思いながら写真を見ると、すずちゃんは髪を二つに結わえていて、いかにも幼稚園の先生という雰囲気で、笑顔でなにかを喋っているように見える。視線はカメラに向いていない。

「隠し撮り?」

「そうだと思う」

「誰が撮ったの?」

「………野村さん、みたい」

「『みたい』って、この写真、誰からもらったの?」

「………未来ちゃんのお母様………」

No.80 14/09/16 16:47
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「え?」

「今日のお迎えのときに、その封筒を渡された」

「なにも言わずに?」

「………そのときは。あとから、メールがきた」

すずちゃんはそう言ってスマホを取り出すと、俺に渡した。
メール画面だ。



>>主人のスマートフォンに先生の写真がたくさんありました。メールの履歴も見ました。どういうことなのか教えていただけませんか? 野村



「………これはつまり、未来ちゃんのお母さんが野村さんのスマホを見て、すずちゃんの写真とか、すずちゃんとのメールとかを見た、っていうことなんだよね」

「うん」

「文章の雰囲気からすると、なんか、すずちゃんのことを、疑ってるのか?」

「そんな気がする。でも私、写真撮られてたことも知らないし、メールも誤解されるような返信なんてしてないの」

「それなのに、疑われてるんだ」

「………どうしたらいいんだろう」

本当に、こういうときはどうするのが一番いいんだろう。

実際すずちゃんは野村さんとはすずちゃんの話しかしていないんだろうし、食事の誘いも受けていない。
この間は俺と付き合っているとも伝えている。

それもメールを読んで知っている上で誤解されているとしたら、すずちゃんが弁解して、未来ちゃんのお母さんは分かってくれるんだろうか。

結局俺は、すずちゃんにまともなアドバイスをしてあげられなかった。

どうしたらすずちゃんが傷付かずに済むのか、考えつかなかった。

ただひたすら意味もなく「大丈夫だよ」とすずちゃんを慰めることしかできなかった。

No.81 14/09/16 17:02
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>> 80 ☆訂正☆
>>×実際すずちゃんは野村さんとはすずちゃんの話しかしていないんだろうし、食事の誘いも受けていない。

○実際すずちゃんは野村さんとは「未来ちゃん」の話しかしていないんだろうし、食事の誘いも受けていない。

No.82 14/09/16 17:17
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「那奈、助けてくれ」

すずちゃんを家の近くまで送ったあと、俺は那奈に電話をかけた。

『どうしたの?』

那奈の声を聞いて、不覚にも俺はホッとしていた。

「この間話したすずちゃんのことなんだ」

俺は勢い込んで那奈に今日のことを話した。

「どうしたらいいと思う?」

『うーん。なんかややこしいね………。会って話す?』

「いいのか?」
もう夜の9時になるんだけど、那奈は出てきてくれるんだ。

『大丈夫だよ』

那奈は自分の最寄駅そばにあるファミレスの名前を俺に言い、いまから行くと言った。

俺は走って駅に向かい、電車に乗った。

電車を降りて駅の外に出ると、那奈に言われたファミレスはすぐに見つかった。

タバコ吸いの那奈だから喫煙席のほうを見ると、那奈が手を上げてくれた。

近付いて行った俺の足が止まった。

入り口からは柱の陰で見えなかった那奈の向かいに、男の人が座っている。

………例の医者の彼氏………

「こんばんは」

28歳って那奈から聞いてたけど、想像していたより若く見える。せいぜい25歳くらい。
いわゆるイケメンって感じでもないけど、いかにも穏やかで優しそうな顔をしている。

座っていても背が高いのが分かる。細身の体型にラフな白いデニムのシャツとジーンズという服装だ。

デート中、だったのか。
なんでそれを言わないんだよ、那奈!

ラブラブな彼氏に元彼会わせて、どうするつもりなんだよ!

「高志、六川さんだよ」

那奈は涼しい顔をしてそう言った。

No.83 14/09/17 10:37
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「……あ、どうも、あの、七瀬です」

この流れだと、俺も挨拶するしかない。

「那奈ちゃんの高校の同級生の高志くんでしょ?まぁ座って」

六川さんはニコニコと笑いながら俺に椅子を勧める。

「あ、私が六川さんの隣にいけばいいね」

那奈は立ち上がって六川さんの隣に移動すると、「ほら、高志」と俺に座るように促した。

仕方なく俺は座り、店員にドリンクバーをオーダーした。

「高志、とりあえず飲み物取ってこよう」

那奈は立ち上がって六川さんにもお代わりを聞き、2人分のカップを持って俺と一緒にドリンクバーへ向かった。

「那奈~、なんで彼氏が一緒なんだよ」

「ダメだった?」

「普通、デート中に元彼の相談は受けないだろ」

「暇だったし。六川さんには元彼だなんて言ってないし。それにさ、私たちみたいな学生がごちゃごちゃ悩むより、社会人に話を聞いたほうがいいんじゃない?」

「それにしたって、あの人だって、いい気はしないだろ」

「大丈夫だと思うけど。六川さん、変わってるけどいい人だし。それに女の多い職場で働いてる人なのよ。彼女のこと相談するには悪くないと思うけど?」

確かに、学生の俺や那奈は、社会人のことはいまひとつピンとこない。しかも、すずちゃんは微妙な話に巻き込まれている。

大人のアドバイスは欲しいかもしれない。

すずちゃんには悪いけど、こうなったら六川さんに相談してみようと思った。

No.84 14/09/17 15:09
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那奈が六川さんに俺とすずちゃんのことをどこまで話しているかは分からないけど、とりあえずすずちゃんと俺が出会った経緯なんかは省いて、すずちゃんが困っている状況を説明した。

六川さんは俺が話している間、タバコを吸ってコーヒーを飲みながら、余計な口は挟まずに聞いてくれた。

「その奥さんはそのすずちゃんっていう先生と旦那さんの関係を怪しんでる、ってことなんだね」

「そうだと思います」

「その人、なんて名前か聞いてもいい?」

「野村さんです」

「お子さんの名前は?」

「未来ちゃんです」

「………その子、ウチの患者さんだ」

「ホント?」

那奈が初めて口を挟んだ。

「うん。夜間外来に蕁麻疹で受診してね。たまたま俺がいて診たんだ。確かお母さんが1人でお子さん連れてきてた。そのあと、湿疹とかでも皮膚科にきてたよ」

「なんか、普通のお母さんだね」

「そうだね。後妻さんとは知らなかったよ」

ちょっと意外だった。
すずちゃんの話を聞いて、未来ちゃんのお母さんは気の強いママハハで、あまり子どもの面倒を見ていないようなイメージを俺の頭の中で勝手に作っていたみたいだ。

「お父さんのほうは、メールを送ってきたり、写真を隠し撮りするくらいだから、その先生を好きなんだね。で、それを奥さんが見て、誤解してると」

「そうです。どうしたら彼女の立場を悪くしないで済むと思いますか?」

「とりあえず、すぐに勤め先の幼稚園の責任者に相談するべきだね。うしろめたいことがないんだから、変に噂になる前に報告しておいたほうがいい」

「彼女はそれをしたくないみたいなんですけど」

「もうお母さんが直接先生に接触してきてるからね。先生だけじゃ、誤解は解けないと思うよ」

No.85 14/09/17 17:28
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「大丈夫かな」

「どうも思い込みで誤解してるみたいだからね。先生がいくら弁解しても聞いてくれないんじゃないかな。そのうち周囲のお母さんとかに相談とかしだしたら、勝手に噂が大きくなって、結局先生が悪者にされて収拾つかなくなりそうな気がするよ」

「女の人って怖いもんね」

自分も女のくせに、那奈はそう言った。

「うん、怖いよ。俺はロリコンにされちゃったからね」

「中学生と付き合ってるって?」

「そうそう」

途中から那奈と六川さんにしか分からない話になって、俺はなんとなく仲間はずれな気分になった。
まぁ仕方ないんだけど。

「とにかく、早くなんとかしたほうがいいと思うよ」

「わかりました」

俺はそう言って立ち上がり、

「なんかいきなりなのに、相談に乗ってくれてありがとうございました」

と六川さんに頭を下げた。

「那奈ちゃんの友達だからね。またなにかあったら相談に乗るよ。皮膚科の領分なら、健康相談も受け付けるから」

六川さんは楽しそうにそう言った。

「もう帰るの?」

那奈はコーヒーを飲みながらそう言った。

「うん、帰ってすずちゃんに電話してみるよ」

俺はもう一度六川さんに軽く会釈して、那奈には「ありがとな」と言って店を出た。

電車の中で、那奈は幸せそうだったなと思った。

六川さんはやっぱり年齢相応に大人で、余裕が感じられた。
那奈は六川さんにベタベタしたりはしていなかったのに、口調のところどころに甘えた感じがあった。

やっぱ、俺ってガキなんだなと思った。

No.86 14/09/18 13:00
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もうすぐあの日がくる

花とお線香とたくさんのお菓子とジュースを持って、墓地へいく

小さなころは、花や緑に溢れた公園みたいな墓地へ行くのはピクニックと同じだった

その日の私のおやつは、いつもお墓にお供えしたもののお下がりだった

少しずつ私が大きくなり、気が付いたら、その場所へいくことは、楽しくもなんともない、奇妙な義務になっていた

いきたくない

そう思っても、毎年あの場所へいかなくてはいけない

墓地の一角にある、小さな墓石

掃除なんかしなくても、雑草ひとつ生えていない

毎月5日に掃除をしている人がいるから

それでも私は墓石を磨く

ゴミなど落ちていない周囲を掃き清める

手を合わせる私の心の中は

いつも真っ暗だ

No.87 14/09/18 17:10
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「那奈ちゃんは高志くんと仲がいいんだね」

六川さんのマンションに戻って軽く飲み始めたら、六川さんがそう言った。

「うん。大学で同じ高校だったの高志だけだし。2年のとき同じクラスだったの」

もちろん、高志と高校時代に付き合っていたことは一言も言わない。
今日だって、高志の好きな人についての相談だったから、六川さんに頼んだだけ。

「ヤキモチ、妬いてくれたの?」

「妬いた。でも彼は好きな人がいるから許す」

「ありがと」

「厄介ごとがうまく解決するといいんだけどね」

「正直言って、私や高志みたいな学生じゃ、どうしたらいいのかわからない」

「俺もよく知ってるわけじゃないけど、普通に考えて、幼稚園の先生と園児の父親がどうこう、なんて、厄介なトラブルになりそうだと思うよ。先生になったばかりだっていうしね。要領よく立ち回れればいいんだけど」

「お父さんからは勝手に好かれて、お母さんからは勝手に誤解されて、なんだか可哀想」

会ったこともないけど、私は「すずちゃん」という人に同情した。
失恋したばかりなのに、自分はなにも悪くないのに変なトラブルに巻き込まれて。

「高志、ちゃんと彼女を守ってあげられるかな」

「好きな人のことだからね。那奈ちゃんのことは俺が守りたいな」

「守ってくれるの?」

「大事だからね。那奈ちゃんの悩みは俺がなんとかしたいよ」

私は六川さんの顔を見た。

「悩みはないけど」

「そう?でも俺にも話してないことがあるでしょ」

「……それはあるけど」

「いつか話したくなったら話して」

No.88 14/09/18 19:03
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六川さんの言葉は、私にとって甘い誘惑だった。

私の体の奥にヘドロみたいに溜まっているものを、言葉にして六川さんに全部話してしまえば、どんなにいいだろう。

だって六川さんは、私にそんな部分があることを気付いている。

どうして六川さんには分かっちゃうんだろう。

全て曝け出したくなる。

でも、言えない。
言いたくない。

言葉にしてしまうのが怖い。

「私を嫌いにならないで」

気がついたら、そう言っていた。

「どうして泣いてるの?」

「わかんない」

「那奈ちゃんが好きだよ」

「うん」

「初めてあった日からずっと、俺は那奈ちゃんが好きだ」

「うん」

「ずっと一緒にいて」

「うん」

六川さんに抱きしめられると、いろんなことを忘れられる。

六川さんは寂しいと言ってた。

私で六川さんの寂しさを埋めてあげられるんだろうか。

私は本当は弱いのに。

いつの間に私はこんなに六川さんを好きになってしまったんだろう。

好きになればなるほど、六川さんを失いたくない気持ちが強くなっていく。

もっともっと、六川さんから必要とされたい。

No.89 14/09/19 11:57
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すずちゃんの置かれた状況は、結果として悪くなった。

すずちゃんは俺と相談して、主任の先生や園長先生に野村さん夫婦のことを報告した。
幼稚園側からはまず最初に個人的に相談を受けたことがすずちゃんの判断ミスだと言われた。
ただ、未来ちゃんのお母さんがママハハだというデリケートな事情もあるので、その辺はまぁ仕方ないという空気にはなったらしい。

だけど、幼稚園が対応しようとした矢先に、未来ちゃんのお母さんが幼稚園に乗り込んできてしまった。

主任の先生と園長先生が対応して、すずちゃんは同席させてもらえなかったようなんだけど、未来ちゃんのお母さんは思いつめて感情的になっていて、すずちゃんと野村さんが不倫していると思い込んでいるらしい。

結局、日を改めて野村さんも呼んで、話をするということになってしまった。

そして、なぜかすずちゃんは園長先生から「病欠」するように指示された。

「なんですずちゃんが休まなくちゃいけないんだよ」

電話で話を聞いた俺は、すずちゃんにそう言った。

『話を大きくしないためにも、騒ぎが落ち着くまで出勤しないようにしたほうがいいって言われちゃった』

電話の向こうから聞こえるすずちゃんの声は、疲れ切っていた。

「すずちゃんはなにも悪くないのに」

『やっぱり連絡先なんか教えちゃったのが良くなかったんだよね。だからこんなことになっちゃって………。私、どうなるんだろう』

「とりあえず、野村さんも一緒に話し合うことになったんでしょ?そこで誤解が解ければなんとかなるんじゃない?」

『そうだといいんだけど………』

野村さんも交えた話し合いは、今度の金曜日の夜に、幼稚園ですることになったらしい。

野村さんからすずちゃんへは連絡が来なくなっているから、野村さんがいまなにを考えているかは分からない。

「すずちゃん、俺、その日は幼稚園の近くで待ってるよ」

『そんな………。時間かかるし、悪いよ』

「すずちゃんのことが心配なんだ」

『ありがとう』

そう言ってくれたけど、すずちゃんの声は沈んだままだった。

No.90 14/09/19 15:38
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話し合いの日、俺は親父の車を借り、すずちゃんから聞いた場所にある幼稚園の近くまで行った。

すずちゃんが働く幼稚園は、電車ならすずちゃんの最寄駅から途中で乗り換えがあって、20分。

野村さんと会ったカラオケボックスは、すずちゃんの最寄駅近くだった。

幼稚園って、俺が小さい頃もそうだったけど、家から近いところに行くもんだよな。
だから、野村さんの家も幼稚園からそんなに遠くないはずで、都心で働く野村さんがあのカラオケボックスに偶然いたのは不自然なんだ。

今更だけど、やっぱりあのとき野村さんはすずちゃんの後をつけていたんだと思う。

話し合いは夜の7時からだ。
俺は7時10分前に幼稚園から少し離れたところにあるコンビニに車を停めて、車の中ですずちゃんを待つことにした。

すると、コンビニの前を野村さんが通り過ぎるのが見えた。

仕事帰りのスーツ姿で、幼稚園に向かって歩いている。

俺はその姿を見て、ゾッとした。

コンビニの明かりに薄く照らされた野村さんの顔は、笑っていた。

車の中からでも、満面の笑みなのが分かった。
笑い声が聞こえてきそうなくらいだった。

野村さんは、今日の話し合いが自分の不倫疑惑についてだってことくらい分かっているはずだ。

それなのに、笑っている。

俺は嫌な予感がして、車を降りて野村さんに気付かれないように幼稚園へ続いた。

No.91 14/09/20 17:02
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野村さんは幼稚園の前に着くと、門の横にある通用門を開けて中へ入っていった。

さすがに部外者の俺が中へ入るのはマズイかなと思って、門の外から野村さんが入っていくのを見ていた。

門の中は園庭になっていて、建物は園庭に面して廊下があるらしく、窓から野村さんが一室に入っていくのが見えた。

野村さんが入った部屋は建物の一番端だった。俺がいる歩道から回ると、多分その部屋なんだろうなと思う窓があったけど、閉まっていたし、建物と歩道の間にはフェンスもあるから中の様子は分からない。

だけど、近くにバス停があったので、スマホをいじりながらバスを待っているようなフリをして、幼稚園のフェンスに寄りかかった。

10分くらいそうしていたら、窓から女の人の声が聞こえたような気がした。

なにを言っているのかは分からないけど、未来ちゃんのお母さんなんじゃないかと思った。

続いてまた同じような声が聞こえた。
なにかを叫んでいるような感じだった。

そしてあまり間をおかずに、ガチャンガチャンと耳障りな金属音がして、さっき野村さんが入っていった門から女の人が出てきた。

「離して!」

ヒステリックな女の人の声が聞こえた。

「まだ話は終わってないだろう?」

野村さんの声だ。
ヒステリックな奥さんと対照的に、気持ち悪いくらい落ち着いている。

俺は気がついたら2人に近寄って「こんばんは」と間抜けな挨拶をしていた。

No.92 14/09/20 17:21
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「君は………」

野村さんは俺を覚えているのかいないのか、幼稚園の建物から漏れる薄明かりの中で、不思議そうに俺を見た。

「動物園とカラオケボックスでお会いしました。七瀬といいます。すずちゃん……先生と付き合ってます」

俺がそう言うと、未来ちゃんのお母さんが弾かれたように俺を見た。

「騙されないんだから!」

「嘘じゃないです。俺、すずちゃんと一緒に野村さんの相談、聞いてたんです」

「嘘!」

「本当です。お願いです。俺の話、聞いてください」

ギラギラしていた未来ちゃんのお母さんの目が、少しだけ和らいだように見えた。

「………僕は君と会ったことなんてないけど」

野村さんは薄く笑いながら俺に言った。

「忘れてるならそれでもいいです。でも俺はすずちゃんの恋人として、誤解があるなら奥さんや園長先生に話をさせてもらいたいんです」

「君は、部外者だろう?あまり余計な首を突っ込まないで欲しいな」

「奥さん、お願いです」

俺は野村さんは無視して、未来ちゃんのお母さんに言った。

「どうぞ」

その声に顔を向けると、ゴリラみたいな雰囲気の男の人が立っていた。

「園長先生」

野村さんがそう言ったので、この人が園長先生だと分かった。

俺は園長先生に小さく頭を下げて、園長先生と一緒に幼稚園に入った。

No.93 14/09/20 21:01
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「高志くん………!」

園長先生に案内されて、さっき野村さんが入っていった部屋へ入ると、応接用のソファーの横に真っ白な顔をしたすずちゃんがいた。

すずちゃんの隣には、20代後半くらいの女の人がいて、その横に中年の女の人がいた。
多分若いほうがすずちゃんと一緒に担任をしている先生で、中年のほうが主任の先生なんだろう。
2人ともいかにも学生といった感じの俺が突然現れたことに驚いているみたいだった。

園長先生と俺の後から未来ちゃんのお母さんが入ってきて、少し間が空いて野村さんが入ってきた。

未来ちゃんのお母さんはさっきより少しだけ落ち着いているように見えた。
野村さんはさっきまでの薄笑いを消して、沈痛な表情をしている。

「秋本先生のご友人の……」

園長先生がそう言って俺を見たので、俺は

「七瀬です」

と言った。

「彼が話をさせて欲しいと言うから、お連れしたよ」

園長先生がそう言った。
ゴリラみたいにいかつい雰囲気に似合わない、優しい話し方をする人だった。

園長先生は野村さん夫妻に座るように言ってから、目顔で俺を促してくれたので、俺は深呼吸して話し始めた。

「俺は、彼女と……すずさんと付き合ってます。すずさんが野村さんとなにかあるんじゃないかって誤解されてるみたいなんで、話をさせてもらいたいと思ってます」

No.94 14/09/20 21:28
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落ち着け。

そう自分に言い聞かせながら、俺は一呼吸置いた。

「俺はすずさんと上野動物園へいったとき、そこにいる野村さんご夫婦と、未来ちゃんに偶然会いました。その半月くらい後に、今度は彼女の家の近くのカラオケボックスで野村さん……お父さん1人だけとまた偶然会いました。そのとき、野村さんは未来ちゃんのことを彼女に相談して、そして連絡先を交換したんです」

「それは、すず先生も野村さんも同じ説明ですね」

主任の先生がそう言ったので、俺は小さく頷いた。

「そのあとしばらく経って、彼女は野村さんから相談以外のメールがきたり、食事に誘われるようになったと言って困っていました。俺は彼女と付き合ってるんです。ずっと相談を受けていたし、彼女が野村さんと特別な関係なんかないのは、俺がよく知ってます」

俺はそこまで言って、大きく息を吐いた。

「……でも野村さんは、すず先生が自分に好意を持っていて、既に深いお付き合いをしていると仰ってるんです」

「違います!」

主任の先生が言った言葉に、すずちゃんは即座に反論した。

「すず先生からメールの遣り取りも見せてもらったけど、都合の悪いメールは削除もできるし……。お母様は疑念をお持ちだし、野村さんはお付き合いをしていると仰っているし……、正直言ってすず先生と七瀬さんのお話をそのまま鵜呑みにするわけにもいかないんですよ」

主任の先生はそう続けた。

No.95 14/09/20 21:57
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なんでだ。
どうして野村さんは、すずちゃんともう付き合っているなんて言うんだ。

一連の話の流れからして、野村さんがすずちゃんを好きなのは確かなんだろう。

だけど、どうしてそれを隠さない?
奥さんと子どもがいたら、普通は隠れてすることなんじゃないのか?

未来ちゃんのお母さんは、野村さんのスマホを見たと言っている。
普通は疚しいことがあったら、ロックしたりしないのか?

これじゃあまるで、自分からバレるように仕向けてるみたいじゃないか。

本当に野村さんがすずちゃんと付き合っているなら、なにもかもブチまけてでも奥さんと別れたいと思うこともあるのかもしれない。

だけど、すずちゃんは野村さんとなんか付き合っていない。

おかしい。
野村さんのやっていることはメチャクチャだ。

「………ひどいわ」

低い声が聞こえた。

「ひどい」

未来ちゃんのお母さんが、虚ろな顔でつぶやくようにそう言っていた。

「お母さん」

主任の先生が労わるように未来ちゃんのお母さんの腕に手を添えると、未来ちゃんのお母さんはそれを鋭く払った。

「前の奥さんを追い出してまで私と結婚してくれたのに、どうして違う女と付き合うの?」

「追い出して?」

俺は思わず問い返した。
だって野村さんは前の奥さんは浮気して出て行ったと言っていた。

「そうよ。離婚する前から私と付き合ってたの。育児で疲れてた奥さんがもっと追い込まれるようにわざと辛く当たって、精神的に不安定にさせて、それを理由に離婚したのよ」

No.96 14/09/21 18:57
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「香織!」

野村さんの怒りを含んだ声が飛んだ。

「いまそんなことを言い出すことはないだろう!」

「奥さんは未来ちゃんを引き取りたがっていたのに、あなたは無理矢理親権を取り上げたんじゃない!私と一緒に未来ちゃんを育てたいって言ったじゃない!それなのに、私を捨てて、また違う女を未来ちゃんの母親にするつもりなの?」

「そんな風にすぐ感情的になるから、お前は未来の母親には相応しくないんだ!だから未来も最近反抗的なんだ!」

「未来ちゃんはただの反抗期よ!」

「違う、お前が駄目な母親だから、未来が反抗するんだ。未来はすず先生の言うことなら聞くじゃないか。未来はお前なんかよりすず先生のほうが好きなんだよ!」

「だから先生に言い寄ったって言うの?」

「違う!僕がすず先生を選んだんだ。だから未来も先生に懐いたんだよ。入園式ですず先生を初めて見たとき、僕が香織を選んだことは間違いだってすぐに分かったんだ。未来だって、すず先生は可愛くて優しいから好きだって言ってるんだ!」

2人が怒鳴り合う中、俺を含めた他の人間は呆然と2人を見ているだけだった。

狂ってる。
野村さんはすずちゃんを気に入って、未来ちゃんの母親にしたがっている。
すずちゃんの意思なんて関係ないんだ。

「なんですずちゃんのことが好きなら、立場が悪くなるようなことをするんだよ!こんな騒ぎになったら、すずちゃんは先生を辞めなくちゃいけないじゃないか!」

俺は野村さんに言い放った。

No.97 14/09/22 10:30
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「当たり前じゃないか。先生が僕と結婚したら、もう働かないで未来の母親になるんだから。香織は僕にも未来にも相応しい女じゃなかったんだから、大人しく身を引けばいいんだ」

野村さんは薄笑いを浮かべながらそう言った。

「……もしかして、野村さん。アンタ、わざと奥さんにすずちゃんのことばれるようにしてたのかよ」

「香織は前の妻を追い出した女だからね。自分も同じように捨てられるかもしれないとでも思って、ときどき僕の携帯をチェックしてるのは知ってたよ。勝手に誤解したのは香織だよ」

「アンタ、自分のことしか考えてないのかよ。前の奥さんも、そこにいる奥さんも、すずちゃんのことも、なにも考えてないじゃないか。未来ちゃんだって、実のお母さんとそんな理由で引き離されて、幸せなはずないじゃないか」

「君みたいな子どもには解らないよ。大丈夫。こうなったからにはすず先生は仕事を辞めて僕と結婚すれば幸せになれるし、未来だって大好きなすず先生がママになるんだから嬉しいはずだ。香織は慰謝料を渡すから、それで身軽になって勝手にやり直せばいいだろう。君みたいな学生と違って、僕は収入も資産もちゃんと持ってるんだ。子どもは引っ込んでいた方がいいよ」

すずちゃんは泣いていた。
未来ちゃんのお母さんは放心したように座っていた。

「いい加減にしてください」

静かだけど、よく通る低い声がした。

「なんですか?園長先生」

野村さんは園長先生のほうへ顔を向けた。

「この件は、児童相談所に通告させてもらいます」

「なぜですか?未来は虐待などされていない。私は未来を大事にしているし、この女がいなくても、ちゃんと先生が代わりに………」

「秋本先生がそんな話をお受けするわけがないでしょう。ちゃんとこんなに立派な恋人がいて、真面目に一生懸命に子ども達と接してきた秋本先生が、喜んで後妻になると、本気で考えているんですか?」

「香織がいなくなったら、未来の母親がいなくなるんですよ。僕が選んで、未来も懐いているすず先生は、未来を見捨てたりはしないでしょう?」

「実のお母さんがいるじゃないですか」

園長先生がそう言うと、野村さんは目を剥いた。

No.98 14/09/22 11:53
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「あんな女になにができるんですか。心を病んで出て行った女ですよ。あんな女に未来は渡せません」

「そこまで追い込んだのは貴方でしょう?こちらにいるお母さんも、こんなことになっては今までのようにはいかないでしょう。もちろん、すず先生が貴方と結婚する意志があるとは思えません。だから児童相談所にお話して、未来ちゃんにとって一番良い方法を考えるんです」

「余計なことをするな!あんたは無関係だろう!」

「無関係じゃありません!私は、この園に通う子ども達に責任があるんです!こんな話を聞いて、黙っているわけにはいきません!」

野村さんは園長先生の言葉を聞きながら、黙って顔を赤黒くしていた。

そしてしばらく園長先生を睨みつけたあと、「失礼だ!」と言い捨てて、部屋から出て行った。

部屋の中は静まり返っていた。

「………申し訳ありませんでした」

静寂を破ってすずちゃんの声が響いた。

すずちゃんは床に膝をついて、未来ちゃんのお母さんに頭を下げていた。

「私が、軽率なことをしたばかりに、こんな……こんなことになってしまって。お母様と未来ちゃんに、なんてお詫びしたらいいのか、分かりません」

「……自業自得です」

未来ちゃんのお母さんは、すずちゃんをぼんやり見ながら言った。

「はい、申し訳ありません」

「……違います。自業自得は、私なんです」

未来ちゃんのお母さん、香織さんはうつろなまま話し始めた。

香織さんは短大を卒業して野村さんと同じ会社に入った。
野村さんの部下だった香織さんは、野村さんを好きになり、野村さんも最初から香織さんを好きだったと言った。

野村さんは前の奥さんが精神を病んでいると言っていた。だから、離婚したいと何度も香織さんに言った。離婚して、香織さんに未来ちゃんのお母さんになって欲しいと言われ、それを信じた香織さんは会社を辞め、前の奥さんを追い出す形で後妻になった。

会社の人も香織さん自身も、野村さんの話を信じていたから、香織さんも罪悪感はなかったそうだ。

だけど、結婚してみたら、まだ当時は1歳だった未来ちゃんの育児は大変で、しかも野村さんは香織さんとの間に子どもは望まなかった。
良妻賢母を求められるだけで、結婚前のように優しく接してくれることもなくなった。

No.99 14/09/22 16:32
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未来ちゃんが成長するにつれ、反抗的になってくると、やっぱり実の母親ではないからと思うようになってきた。
実の母親なら、もっと上手くいくんじゃないか。
そんな不安を野村さんに話してもまともに聞いてもくれない。

次第に香織さんはそのうち自分も前妻のように捨てられるのではないかと思うようになっていった。
野村さんの携帯電話をチェックするようになったのも、その頃からだ。

そして、野村さんがすずちゃんとやり取りしたメールや、隠し撮りの写真を見つけた。

香織さんは野村さんが今度はすずちゃんと結婚したいと考えていると思い込んでしまった。

「すず先生………ごめんなさい」

香織さんは最後にそう言った。

結局その日は、園長先生が香織さんを彼女の実家まで送ることになった。
未来ちゃんは野村さんの実家に預けているらしい。

俺はすずちゃんを自分の車で自宅まで送った。

車の中で、俺もすずちゃんもずっと無言だった。

すずちゃんの家の近くで車を停めると、すずちゃんが

「高志くん、今日はありがとう。………ごめんね」

と言った。

「ううん。俺………結局なんの役にも立たなかった」

「そんなことないよ。………嬉しかった」

すずちゃんはそう言って自分の家に入って行った。

当然だけど、すずちゃんは元気がなかった。

園長先生に付き添われて歩いて行った香織さんも、生気のない人形みたいだった。

俺はただやり切れない気分だった。

No.100 14/09/22 17:17
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その後、メールや電話でときどきすずちゃんから話を聞いた。

未来ちゃんは、いまは実のお母さんの元にいるらしい。
園長先生が児童相談所に相談し、そうなったらしい。
実のお母さんは離婚後、自分の実家に帰っていて、いまは精神的にも落ち着いて仕事もしている。
これから家庭裁判所で手続きをして、未来ちゃんの親権をお母さんに移すことになるそうだ。

後妻の香織さんも実家に帰ってしまった。
これから弁護士を頼んで、離婚を進めるらしい。

野村さんは前妻と香織さんに対抗するために自分も弁護士を頼んでいるそうだ。

そして、すずちゃんは。

結局幼稚園を退職することになった。

香織さんは仲のいい他のお母さんに今回のことを相談していたので、噂が立ってしまっていた。

すずちゃんに後ろ暗いことはなにもなくても、野村さんがしたことは、十分周囲の好奇の目を集めた。

未来ちゃんも香織ちゃんも、もう幼稚園へ来ることはないのだけど、すずちゃんがいる限り、噂はしばらく収まらないだろう。

すずちゃんは自分から退職を申し出た。
園長先生は引き止めたようだけど、結局このまますずちゃんが先生を続けてもすずちゃんが辛い思いをするだけだし、幼稚園の評判も落ちるのは確かだったから、すずちゃんは体調不良を理由に退職することになった。

園長先生は、自分のつてですずちゃんに次の職場を紹介した。
静岡県にある私立保育園の保育士に欠員があり、来月からそこで働くことになった。

いまは実家に住んでいるすずちゃんは、静岡でひとり暮らしをすることになる。

引越し予定の3日前、俺はやっとすずちゃんに会えた。
それまではメールや電話のやり取りだけだった。

カラオケボックスも、居酒屋も無理だった。
すずちゃんが人目につくのを嫌がったからだ。

ゆっくり話ができるようにと、俺はまた親父の車を借りて、日が落ちてからすずちゃんと会った。

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