ついてない女

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2014/07/04 16:37(更新日時)

母子家庭で育った私。


絶対的な立場の母親。


反発しグレた兄。


高校卒業してから勤めていた会社が倒産。


次の仕事が見つかるまでと思いバイトで働き出した、ラブホテルのフロント兼メイクの仕事。


つなぎのつもりが1年になる。


3年付き合って、結婚も考えていた彼氏に振られた。


何人かお付き合いした人もいたけど、絵にかいた様なダメ男ばかり。


男運も悪いらしい。


こんな私は今年は厄年。


お祓いに行った帰りにスピード違反で捕まった。


こんな私のくだらないつぶやきです。


ぼちぼち書いていきます。



13/07/13 11:26 追記
ガラケーからスマホに変えました。


まだうまく使いこなせないため、ご迷惑をお掛け致します。


少し慣れてから改めて更新したいと思います。

No.1740299 (スレ作成日時)

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No.101

篤志が帰ってから落ち着かず、席に戻りぬるくなってしまったコーヒーをグイと飲み干した。


「よし」


椅子を座り直し、仕事に集中した。


夕方4時過ぎ。


一段落し、ちょっと一服しようと喫煙者に向かった。


先客で村上さんがいた。


「お疲れ様です」


「あっ、藤村さん、お疲れ様」


「やっと一区切りつきました😫」


「俺もだよ😅今月は忙しいな」


「ですね」


一服しながら村上さんと話していた。


「ところで藤村さん」


「はい⁉」


「今日の昼間会社に来ていた人って…彼氏…」


「…でした」


「そう…ごめん、話を聞くつもりはなかったんだけど聞こえてしまって」


「いえ、あんなところで話していた私が悪いので」


「…相談なら乗るよ」


そう言って村上さんはタバコを消して、私の肩を軽く叩いて仕事に戻って行った。


もしかして村上さん…話している内容で状況を察した?


そういえば村上さんも前に勤務していた事務の原田さんっていう人からストーカーにあい悩んでいた。


原田さんは当時30歳の人で、お局様として怖い存在だった。


当時、私と直美は入社4年目。


女子社員が私と直美と原田さんと私達より2歳下の明日香ちゃんという人しかいなかった。


原田さんは女子社員にはとても厳しく、私達があげた成果を自分のものにしたり、嫌な仕事は全部私達に押し付け、出来たら「私がやりました」と部長に報告したりする人だった。


「私より目立つな」


「私より可愛い格好はするな」


「私より先に退社するな」


「男性社員とは仕事以外の話しはするな」


毎日の様に私や直美、明日香ちゃんに言っていてうんざりしていた。


ある日、明日香ちゃんが出勤早々大騒ぎをしている。


「明日香ちゃん、どうしたの?」


「藤村さぁーん😫昨日一生懸命残業して作った資料のデータが全部消えてるんです」


「えっ⁉」


「どうしよう…今日までなのに」


明日香ちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。


それを見ていた原田さんが「三宅さん、自分の責任でしょ。死ぬ気で今日中に終わらせなさい」と叱りつけた。


しかし昼休みに男性社員から「三宅、可哀想に…データ消したの原田さんだよ…原田さんが三宅のパソコンをいじってたから「三宅のパソコン、どうかしたんですか?」って聞いたら「ちょっと彼女に頼まれてね」って言ってた」


信じられない。


完全に嫌がらせじゃないか。


明日香ちゃんは必死に資料を作り上げている。


私も直美も、手が空いた時は明日香ちゃんの仕事を手伝った。


そんな私達を口元をゆるめながら見ている原田さん。


要は明日香ちゃんは若いし可愛いから、男性社員からチヤホヤされるのが原田さんは面白くない。


明日香ちゃんは原田さんのターゲットにされていた。


No.102

明日香ちゃんの資料を何とか作り終えた。


「白川さんも藤村さんも本当にありがとうございます😄おかげで無事に終わりました🎵」


「お疲れ😆」


私と直美と声が合う。


「さて、仕事も終わったし女3人でパアーッと飲みにでも行きますか😆」


直美の一言に私と明日香ちゃんは「異議なし✋」と手をあげた。


その様子を見ていた原田さん。


「まだ帰れないわよ…あなた達に言ってるわよね。先輩である私はまだ仕事をしているの。先輩を差し置いて飲みに行くなんて社会人として非常識‼普通は先輩が終わっていない様なら「代わりますよ」でしょ?はい、帰る前にこれやって」


渡されたものは本来原田さんがやらなくてはならない仕事。


「じゃあ頼むわね」


そう言って原田さんは帰って行った。


「はぁ?何、あの女💢」


直美がキレ出した。


「別にやる必要なくない?やらなくて困るのはうちらじゃないし、このまま原田さんの机に戻しておこうよ」


私がそう言いながら渡された仕事をそのまま返した。


「あっ‼でも、一番上のやつだけやろうか😄原田さんの事だからいつも一番上しか見ないし、それだけ見てそのまま部長に渡すんじゃない?」


私がまた一番上の資料だけ持って戻った。


これだけなら3人いれば10分あれば終わる。


チャチャっと済ませて、原田さんの机に戻した。


それから3人で飲みに行き、楽しく帰宅。


「明日、部長に怒られる原田さんを想像したら楽しくなって来た😆」


直美と明日香ちゃんは楽しそうに笑っていた。


翌日。


案の定、一番上しか確認しないで原田さんは部長のところに持って行った。


すぐに「原田くん‼ちょっと来なさい💢」


怒った部長が原田さんを呼ぶ。


「これは一体どういう事だ?きちんと説明してもらおうか?」


原田さんは目を丸くして青ざめていた。


私達3人はその様子をじっと見ていた。


実は資料の間に部長宛に手紙を挟んであった。


大きく「部長のバーカ」と一言書いた手紙。


原田さんは私達を指差し「犯人はあいつらです‼私はこんな事は書いてません‼」と言った。


「何?これは原田くん担当の仕事じゃないのか?あの子達が書いたのなら原田くんはこれ作ってないのか?」


「あっ💦いえ、私が作成しました」


「じゃあ、この手紙は何だ⁉💢」


明日香ちゃんは笑いをこらえている。


小さなイタズラのつもりだったが、想像以上に激怒する部長に私達は「ざまあみろ😜」と心の中で呟いた。


原田さんに少し仕返しが出来た。


延々と部長に叱られている原田さん。


そこへ村上さんが「部長、もういいじゃないですか」と言って話を終了させた。


そんな村上さんを一瞬で好きになってしまった原田さん。


「私を助けてくれた王子様」


原田さんはきっとそう思った事だろう。


それから原田さんは執拗に村上さんに近付く様になった。

No.103

女子社員の中で喫煙者は私だけ。


直美も喫煙者だったが、風邪をこじらし肺炎になった時にピタリとやめた。


明日香ちゃんは初めから吸わないが彼氏さんが喫煙者らしく、煙は気にならないとは言ってくれている。


原田さんは嫌煙家。


タバコの臭いだけで具合が悪くなるそうで、原田さんの前では極力控えていた。


そんな原田さんが珍しく喫煙所に来た。


「藤村さん、村上さん見なかったかしら?」


「今さっきまでいましたけど…多分トイレだと思います」


「そう、ありがとう」


原田さんは足早に喫煙所を後にした。


最初は「村上さんに何か用事でもあったんだろう」くらいにしか思わなかった。


しかし、原田さんの行動がどんどんおかしくなっていく。


ある日、いつもの様に喫煙所で一服していたら村上さんが入って来た。


「お疲れ様です」


「お疲れ」


何気無い会話。


「昨日はコーヒーごちそうさま😄これお返し」


昨日、喫煙所の向かいにある自販機でジュースを買おうとしたら間違えて隣のボタンを押してしまった。


その時にたまたま来た村上さんに「このコーヒーって飲みますか?間違えて買ってしまって😅」と村上さんに声を掛けた。


「あぁ…飲むよ」


「じゃあ良かったら飲んで下さい」


「ありがとう、頂きます」


このコーヒーのお返しで昨日私が飲んでいたジュースを頂いた。


そんなつもりは全くなかったため恐縮してしまう。


「すみません💦頂きます」


「どうぞ😄」


それを何処から見ていたのかは知らないが、一服を終え事務所に戻るとすぐに原田さんに呼ばれた。


「忠告しておく。余り村上さんと親しくしないで💢ジュースまでごちそうになって図々しいこと💢」


「はい?」


「いい⁉村上さんには近付くな💢わかった⁉」


「…はい」


いつも喫煙所であったら何気無い会話をしているだけだ。


特別な事はしていないし、この時は何故原田さんに怒られているのか全く理解が出来なかった。


しかし1週間後。


いつもの様に一服しようとタバコケースを持って喫煙所に行こうとした時に原田さんに呼ばれた。


「藤村さんにお願いがあるんだけど…」


「はい、何でしょうか?」


「これ…村上さんに渡して欲しいの」


渡されたのはB4サイズの封筒。


書類か何かなのかな…?


でも、普通はトラブル防止で直接渡すかデスクの上に置くはず。


疑問はあったものの、私は封筒を預かり喫煙所で一緒になった村上さんに「原田さんからです」と言って渡した。


「原田さん…?ありがとう」


村上さんは軽く首をひねりながら喫煙所を後にした。

No.104

その頃、村上さんの奥さんは妊娠中で切迫早産だという事で入院中だった。


だからこの頃の村上さんはお昼になると、近所のほか弁屋さんでお弁当を買って来たり、同僚達とファーストフードやファミレスにお昼を食べに行ったりしていた。


女子社員は基本的には弁当を持参するが、面倒くさい時や寝坊した時は村上さん達と一緒に食べに行ったり買って来たりしていた。


原田さんはほぼ毎日弁当持参。


ある日、原田さんが重箱を持って来た。


「村上さん‼いつも外食ばかりだと栄養が偏りますから、お弁当を作って来ました😄良かったら一緒に食べませんか⁉」


見た事がないとびきりの笑顔で重箱を差し出す原田さん。


「あぁ…ありがとう💧」


少し引いている村上さん。


原田さんは「昨日の夜から仕込んで作って来たんです😆さっ、食べてみて下さい💕」


原田さんは割り箸を割り、村上さんに差し出した。


「…美味しいよ」


「村上さんに美味しいって言ってもらいたくて頑張って作りました😆」


「…ありがとう」


困った表情の村上さん。


周りの社員も苦笑しながらその光景を見ていた。


それから毎日、村上さんに手作り弁当を持って来た原田さん。


しかしさすがに村上さんは原田さんに対して「原田さん、申し訳ないが手作り弁当はもういいから…」と断った。


原田さんは「わかりました‼村上さんは優しいんですね😆毎日朝早くから起きてお弁当を作っている私を思ってくれているんですね💕」と言って、笑顔で給湯室に消えて言った。


「ははは…😅」


苦笑する村上さん。


弁当はなくなったと思ったら今度は自分で噂を言って歩いた。


「私は村上さんとお付き合いしています」


女子社員は原田さんの言動の一部始終を見ているため嘘だとわかるが、知らない社員達は村上さんに「やるなー村上😁」とからかった。


村上さんが懸命に否定しても「言い訳しなくてもいいって✋」と言ってる人までいた。


頭を抱える村上さん。


「はっきりと原田さんに言ったらいいんじゃないですか?」


喫煙所でタバコを吸いながら村上さんにそう言った。


村上さんは「何度も言ってるんだけど、わかってくれなくて」と困り顔。


どうやら原田さんの中で村上さんの発言全てに於いて超ポジティブに変換されるのであろう。


ある意味、羨ましい思考である。

No.105

原田さんが出勤早々、私と直美に得意気な顔をしてこう言った。


「昨日、村上さんの奥さんのところに行って言ってやったの‼私と村上さんは愛し合ってますからって😄」


私と直美は目が合った。


直美は呆れ顔。


切迫早産で入院中の奥さんに何を言ってるんだ?


村上さんは原田さんの事は愛していないし、逆に迷惑に思っている。


ただ村上さんは優しいし、同じ会社でこれからやりにくくならない様に大人な対応をしているだけだ。


でも原田さんはわかっていない。


優しい=私が好き


原田さんの頭の中でそうなっているのだろう。


その時村上さんも出勤。


原田さんは「村上さぁーん💕」と言いながら出勤した村上さんの元へ駆け寄る。


「…原田さん、ちょっと話があるんだ」


村上さんは難しい顔をしている。


「話ですか?」


一方で期待に胸を膨らませ笑顔の原田さんがいる。


プロポーズでもしてくれると思っているのか?


村上さんと原田さんは一緒に事務所から出て行った。


直美が「原田さん…病んでるのかな💧原田さんの思考が全く理解出来ないんだけど😅」


「そのうち原田さんも現実を見たらわかるんじゃない?さっ、うちらは仕事しよう」


今日、明日香ちゃんは入院していたお父さんが退院するらしく有給を取っている。


「多分、原田さんは今日仕事にならないだろうから、明日香ちゃんの分も含めて仕事頑張らなきゃね💦ねっ、直美」


「ラジャー👍」


私と直美は仕事に取り掛かった。


ふとパソコンから目を話すと、席に戻り今にも泣きそうな顔をしている原田さんがいた。


「あぁ…やっと現実を見たかな」


そう思いながらまたパソコンに視線を戻した。


一段落し、タバコケースを持って喫煙所に向かった。


同僚が2人いて、原田さんの話をしていた。


「あの人、おかしいですって‼」


「俺もあの人に付きまとわれたら嫌だなー😫村上さん大変だな」


私は無言のまま一服し、さっさと自分の席に戻った。


終業時間になった。


原田さんが部長のところにいた。


翌日、村上さんが部長に呼ばれて別室で話していた。


何と原田さんは部長に「村上さんに弄ばれて捨てられました。会社を辞めます」と言ったらしい。


ただでさえ人員不足で大変なのに、仕事は出来る原田さんがいなくなるのは会社にとってはかなりの痛手。


何も知らない部長は村上さんを呼んだ。


とんだ騒ぎになってしまった。


結果、村上さんの誤解は解けたが原田さんは辞める形になった。


No.106

引き継ぎも何もしないで、突然原田さんが会社を辞めたため、原田さんの分も仕事をしなくてはならず落ち着くまで毎日残業が続いた。


村上さんに笑顔が戻った。


奥さんにも誤解だというのが理解され、特に問題はなかったそうだ。


それからすぐに奥さんが男の子を出産。


女子社員3人でお金を出し合い、可愛いベビー服セットをプレゼントをしたらすごく喜んでくれた。


原田さんが辞めてから何となく社内の雰囲気も明るくなった。


そんな事もあり、私が篤志にしつこくされているのをほっとけなくなったらしい。


篤志は毎日毎日、婚姻届けを持って会社に来た。


話せる人には事情を話したが、篤志は懲りずに会社に来た。


村上さんが「大変申し訳ありませんが、毎日会社に来られては営業妨害として警察に通報致します。藤村自身が会いたくないと拒否している以上、私達社員も迷惑を被ります。お引き取り下さい」と篤志に言ってくれた。


一言一言をゆっくりと低く冷静に言う村上さん。


ある意味、とても怖く感じる。


篤志は無言のまま帰って行き、二度と会社に来る事はなかった。


すっかり村上さんには迷惑をかけてしまった。


「ご迷惑をかけてすみません」


「大丈夫😄また何かあれば協力するよ」


だから村上さんは女性にモテるんだと実感した。



No.107

そんなある日、会社の同僚同士の飲み会があった。


村上さんの同期である松本さんという先輩が隣の席になった。


松本さんは少しクセがある人。


プライベートでは離婚歴が2回ある。


飲み会も中盤に差し掛かり皆、いい感じで酔っ払い始め向かいに座っていた同僚は愚痴を言い始めた。


すると隣にいた松本さんが「愚痴るくらいなら会社を辞めろ💢誰もお前の愚痴なんか聞きたくない💢それよりも俺は…」


あぁ…始まったよ、俺自慢。


俺はこんなにすごいんだ、俺は皆とは違うんだ、というどうでもいい自慢話を何回もする。


周りにいた人達も「また始まった」みたいな顔をしている。


隣に座っていた私がターゲットになり、俺自慢が続いた。


20分も我慢した。


いい加減、ウンザリして来た私は「松本さんがすごい人なのはわかりました。過去の栄光もわかりました。でももう同じ事何回も聞きたくないです」と言ってしまった。


松本さんの話が止まり、すごい顔になった。


「楽しい話なら聞いていても苦にはなりませんが、松本さんの話しは苦にしかなりません」


「藤村…お前何様だ?」


「…藤村家のお嬢様ですが?」


「お前、そんなんだからいい年して結婚出来ないんじゃないのか?」


そう言ってバカにした様に笑う。


「そう言う松本さんも、そんなんだから2回も奥さんに逃げられるんじゃないんですか?」


「なに⁉💢お前には関係ないだろ💢」


「同じ言葉お返しします。私は結婚は出来ないんじゃなくしないだけです」


周りにいた同僚達は私と松本さんの会話を面白がって聞いている。


「藤村、お前は前から思っていたがお前はこの会社には向いていない、辞めたらどうだ?」


要は俺に歯向かうやつはいなくなれ、という事だろう。


「私は松本さんに雇われている訳ではありませんから別に松本さんに嫌われても痛くも痒くもありません」


チッ💢


舌打ちをされた。


それから松本さんは私には何も言わなくなった。


松本さんは嫌がらせのつもりだろうが、むしろその方が有難い。


松本さんが席を立った。


その時に近くにいた同僚が「藤村、お前すげーな」と声を掛けて来た。


「何が⁉」


「松本さんのあの俺自慢、皆我慢して聞いていたのにお前全部言ってくれた😄聞いていて気持ち良かった」


こんなんじゃいけないのはわかっているのだが…耐えられなかった💧


松本さんの自慢話し。


ある有名芸能人とは高校の同級生で、帰って来る度に飲みに行く程仲が良い。


「じゃあ一緒に写っている写真見せて下さい」と言っても一度も見せてもらっていない。


昔、有名ラーメン店で店を任されていた。


良く良く話を聞くと、ネギを切ったりする裏方さんだった。


昔、暴走族の総長をしていた。


兄に聞いたが、そんなチームもなければそんな名前のやつは知らないとの事。


こんな話しばかりだから、突っ込みたくもなる。

No.108

原田さんが辞めてから約2ヶ月。


新しい女子社員が入社して来た。


まだ20歳の丸山里美。


見た目は普通だが…不思議ちゃんというか、ちょっとおかしな子だった。


真夏でも長袖を着て、良く自分の世界に入る。


言われた仕事はミスも少なくきちんとするが、言われない仕事は一切しない。


日焼け対策で長袖をしているのかと思っていたが、実はリストカットの痕があった。


話し掛ければ話をするが、スイッチが入ると聞いていないプライベートの事を良く話す。


趣味はアニメのコスプレ。


コミケ?というやつは必ず行くそうだ。


アニメの話しになると熱く語るが「申し訳ない、私はアニメに詳しくないから話をされても良くわからないの」と答えると「可哀想な人生ですね」と言われた。


余計なお世話である。


「今日の私服のイメージはルイくんなんです🎵」


そう言われてもピンと来ないが、どうやらアニメの登場人物を真似ているらしい。


それに反応したのがアニメオタクの高橋くん。


やはり高橋くんは知っているのか「その服はルイのブルーの戦闘仕様の服じゃないか😍」とテンションが尋常じゃない程あがっている。


同じ趣味の仲間が出来て高橋くんは嬉しそう。


共通の趣味を持つ仲間が増えるのはいいじゃないか。


2人でアニメの話しで盛り上がって楽しそうにしているのを見てそう感じる。


私は特に夢中になる程の趣味はない。


強いて言うなら…温泉かな?


暇があれば近くの銭湯も含めて車で片道1時間の範囲なら日帰り入浴をしに行く。


ゆっくりのんびり湯船につかっていると、心身共にリラックス出来て疲れが飛ぶ。


至福の一時である。


直美も温泉は好き。


前は良く一緒に入浴しに行っていたが、直美が結婚してからは行っていない。


そういえば最近、ゆっくりと温泉に行ってないな。


たまには近くの銭湯にでも行って、のんびりして来たいものだ。


近くの銭湯は、お風呂上がりの生ビールを一杯飲んでも千円でお釣りが来る庶民には有難い料金で目一杯お風呂が楽しめる。


少し古いが、なかなか味がある。


受付のおばちゃんと仲良くなり、前に行った時にポイントカードのスタンプを一つおまけしてもらった。


20個たまると一回入浴料が無料になる。


あと5回行けば20個だ。


こんな楽しみしかない私だけど、これはこれで幸せな時間である。


No.109

里美ちゃんと2人になる時間があった。


その時に「突然なんですけど、藤村さんってストレス発散ってどうしてますか?」と聞いてきた。


「ストレス?そうだなぁ…お酒飲むか、直美とかとカラオケ行くか温泉入ってゆっくりするとかかなぁ?里美ちゃんは?」


「私は…リストカットです」


この時に何故真夏に長袖を着ているのかを知った。


両腕に無数の傷があった。


「自分を痛めつける事でストレスを発散する事しか出来なくて…あとは録画したアニメをひらすら見る事です」


「自分を傷付けなくても、アニメという趣味があるならそっちに没頭したらいいのに…例えばキャラクターを描いてみるとかさ」


「絵心は全くないんです…だから見る専門で💦」


「上手い下手は関係ないよ、自分が楽しければ😄私も歌はめちゃくちゃ下手だけど、楽しければいいやって思ってカラオケに行くよ」


「そうですよね」


「自分を傷付けても何にもならないよ」


「…はい」


里美ちゃんは下を向いた。


それから里美ちゃんの過去の話を聞いた。


小学校高学年から中学時代はいじめられっこで、この頃の友達は一人もいない。


学校にも行かなくなり、引きこもりになった。


その時からアニメにはまる様になる。


現実逃避が出来て、代わりに悪いやつと戦ってくれてやっつけてくれる。


悪いやつをいじめた相手に置き換えてアニメを見ると、すごく気分がすっきりした。


高校は遠く離れた母親の実家、祖父母宅から通える高校に進学。


高校時代はいじめられる事はなかった。


部活も好きな「アニメ研究会」に入り、仲間も出来て楽しかった。


しかし、仲良しだと思っていた友人から裏切られた。


そのショックから逃れたくてリストカットをする。


それから何かストレスが溜まったらリストカットをする様になったらしい。


「友人からの裏切りって…何をされたの?」と聞いてみた。


少しの無言の後「…当時付き合っていた彼氏を寝取られ、その子と彼氏の赤ちゃんが出来ました」


それは確かにショックな出来事だ。


「で…2人はどうなったの?」


「…出来婚しました。結婚式に招待されましたが、普通招待します?女から「里美には絶対結婚式に来て欲しくて」と言われました。もちろん行きませんでしたけど。あの時の女の顔は一生忘れません」


そんな事があったのか。


人生、何年も生きていれば色んな事がある。


誰もが辛くて悲しい事は嫌だが、必ず訪れる。


でもそれに負けたらダメだ。


辛く悲しい事がある分、絶対幸せも訪れる。


幸せばかりでは「幸せボケ」という言葉がある通り、人間おかしくなる。


この辛さを乗り越えるからこそ、訪れる幸せが何よりも幸福になると信じている。


偉そうだが、里美ちゃんも辛い思いをした分、絶対に幸せが来る。


負けないで頑張って欲しい。


心から願う。


No.110

それから里美ちゃんは何かあれば私に話して来た。


話し相手なら、私で良ければいくらでもお付き合いするよ。


そう言うと、その日から彼氏並みに毎日毎日電話やメールが来た。


失敗した…💧


「今、何してますか?」


「晩御飯は何を食べましたか?」


「明日は何時に起きますか?」


「明日は休みですが何してるんですか?」


こんな感じのメールが1日何回も来る。


私も四六時中、携帯を見ている訳にもいかない。


返事がないと電話があり「迷惑でしたか?私なんて生きていても仕方ないですよね…」と自殺をほのめかす。


夜中にも電話が掛かって来る。


爆睡していたり、飲みに行ったりしていたりして気付かない時もある。


そんな時にも「迷惑ですよね」


うーん…どうしたらいいものやら💧


「あのね、私も仕事以外にも色々する事があるの。だからメールも電話も出来ない事があるけど、別に里美ちゃんを嫌いになった訳じゃないから💦」


それから里美ちゃんの連絡は極端に少なくなった。


ある日、里美ちゃんからカミングアウトされた。


「彼氏が出来ました😆」


話を聞くと、同じアニメ仲間。


共通の趣味を持っている人なら話しも合うだろうし、きっと楽しいだろう。


それからの里美ちゃんは、毎日が楽しそうだった。


たまに喧嘩をした時は相談にのる事もあったが、彼氏と一緒にいる時間を邪魔しちゃいけないと思い、私からの連絡は控えていた。


リストカットもなくなり、精神的にも落ち着いて来たらしく、彼氏さんとはいい関係なんだなというのがわかった。


のちに里美ちゃんはその彼氏と結婚し、退職した。


いつまでも幸せな夫婦でいて欲しい。


No.111

ある日の朝、珍しく寝坊をしてしまった。


直美からの電話で飛び起きた時には、既に出勤時間を過ぎていた。


10分で支度を済ませて急いで車に乗り込んだ。


気持ちばかりが焦る。


信号の赤がじれったい。


信号が変わった。


発進しようとしたその時、突然すごい衝撃に襲われた。


私の車に後ろからワゴン車がそのままノーブレーキで突っ込んで来たのである。


車の後部は大破し、私は車から出るに出られない状態になった。


ワゴン車の運転手さんが降りて来て動揺している運転手さん。


動くと肩に激痛が走り、しかめっ面になる。


遠くから救急車と思われるサイレンの音が近づいて来る。


ハンドルと椅子に挟まり、余り身動きが取れない。


「苦しい…」


声を出したくても言葉にならない。


サイレンが止まった。


意識が遠退く。


救急隊員の声は聞こえるが返事が出来ない。


野次馬が見ている中、救急車に乗せられるまでは記憶にある。


人生初の気絶である。


気がついた時は病院のベッドの上だった。


この間、全く記憶がない。


朦朧とする意識の中で真っ先に視界に入ったのは、心配そうに上から覗き込む制服姿の直美の姿だった。


直美が私に声を掛けるが、私は声が思う様に出ない。


「藤村くん…大丈夫か?」


部長も心配そうに声を掛ける。


今、自分がどんな姿でベッドに横になっているのかもわからない。


怪我の具合は右肩脱臼に右腕(二の腕)骨折、あばら骨にヒビが入っていた。


人生初の入院生活を送る事になった。


父親と母親が病室に来た。


どうやらデートの途中だったらしい。


「いつもみゆきがお世話になっております。みゆきの父です」


父親が病室にいた部長と直美に挨拶をした。


母親は無言のまま、黙って立ち尽くしながら私を見ている。


父親が部長から事故の様子を聞いている。


話し終わると部長は「ご両親も来てくれた様だし、私達はこれで…」そう言って席を立った。


直美は「また明日も来るからね‼みゆき、無事で良かった…」


直美は少し泣きそうになりながら話し、そして父親と母親に頭を下げて、部長と一緒に帰って行った。


とりあえず命があって良かった…身体中痛いが、しばらくの我慢だ。


「今日はちょっと辛いからまた来てくれる?」


父親と母親にこう言うのが精一杯だった。


結局母親は一言も言葉を発する事なく父親と帰って行った。


翌日には兄と香織さんも来た。


兄が「香織がしばらくお前の面倒をみてくれるから😄色々と女性同士の方がいい事もあるだろうし」


「そうよ😄みゆきちゃん‼何でも言ってね😄」


有難い。


香織さんは義姉だけど、実の兄より頼りになる。


「みゆきちゃんは早く怪我を治す事だけ考えて😄」


しばらく香織さんに甘える事にした。

No.112

香織さんはほぼ毎日来てくれた。


兄は仕事が休みである日祝に来てくれた。


「子供は?」


「私の親に預けてるから大丈夫😄うちの親も、孫が可愛くてねー😁喜んでみてくれてるよ」


「まだ小さいのに…」


「みゆきちゃんは何の心配もしなくていいんだよ😄早く怪我を治して😄私ね、一人っ子でしょ?ずっと妹が欲しくてね…みゆきちゃんみたいな妹が出来て嬉しいの‼姉として妹の面倒を見たいの😄だから遠慮しないで何でも言って‼」


「ありがとう」


嬉しかった。


利き腕が負傷しているためご飯を食べるのも一苦労。


香織さんが代わりに食べさせてくれた。


替えの下着や生理用品も兄には言いにくいが、同性である香織さんにはお願いしやすい。


すっかり香織さんにはお世話になった。


直美も仕事が休みの日や、仕事が終わってから来てくれた。


会社の同僚も、何度かお見舞いに来てくれた。


皆、本当にありがとう‼


皆のおかげで怪我の具合も良くなり、退院も近付いて来た。


母親は来てくれる時は必ず父親も一緒。


来ても病室をウロウロしているだけで、すぐに帰る。


はっきり言って邪魔である。


病院のご飯を覗き込み「不味そう」と言い「今日はねこれから寺崎とフレンチ食べるの」とか「今日はのんびり温泉に入って来たの😄」とか言って来る。


「今日からしばらくお見舞いに来れないから」


むしろその方が有難い。


母親は子供の怪我より、父親との時間の方が大切の様だ。


私にぶつかって来た運転手さんがお見舞いに来た。


年齢は30代半ばだろうか?


たくさんのお見舞い品を持って来た。


ちょうどその時は兄と香織さんがいた。


兄と香織さんから責められ、下を向いたままの運転手さん。


名前を柴田さんという。


名刺を頂いた。


会社名を見て驚いた。


勤務先の会社の取引先だった。


直美が来てくれた時に名刺を見せた。


「あぁ…何となくわかるかな」


直美も何となくでも記憶にある様だ。


いよいよ退院の日。


兄と香織さんが迎えに来てくれた。


No.113

兄と香織さん、そしてまだ赤ちゃんだった勇樹くんと4人で退院祝いで、和食レストランでお昼を食べる事にした。


ここなら小上がりがあるし、勇樹くんを寝かせるのにちょうどいい。


勇樹くんの笑顔が癒される。


座椅子にもたれかかりながらお座りをしている勇樹くん。


持参した離乳食を食べてご機嫌さんだった。


兄も香織さんも勇樹くんにデレデレ。


兄は「俺は世界一の親バカ😁」と勇樹くんの自慢話をしていた。


家族っていいな。


兄の家族を見て思う。


兄は「香織がいて勇樹がいて、俺は家族のために働いて、こんな幸せな事はない」


夫婦喧嘩もするが、離婚は考えた事はないらしい。


兄は私以上に母親とぶつかり合った。


だから香織さんには良く「子供を第一に考えて、家庭を大事にして欲しい」と言うらしい。


私も結婚したら同じ考えだ。


香織さんは兄弟がいなく、両親共に働いていたため寂しい思いをしたそうだ。


だから子供は最低3人は欲しい😆と言っていた。


お互いに叶わなかった事を自分の家庭に求める。


だから自分の家庭を本当に大事に思う。


香織さんが勇樹くんを出産の時は難産だった。


丸3日かかった。


兄は仕事を休んでずっと香織さんの側についていた。


香織さんの両親もいた。


私も何か力になれれば、と思い香織さんの側にいた。


陣痛で苦しむ香織さんを見て、涙が止まらなかった。

朝7時半過ぎ。


陣痛室が慌ただしくなる。


「もうすぐよ‼赤ちゃんも頑張ってるんだからお母さんも頑張って‼」


香織さんは唸り声とも悲鳴ともとれる声をあげた。


「フゲ…フゲ…」


声が聞こえた。


「藤村さん‼おめでとうございます‼可愛い男の子が生まれましたよ」


助産師さんの声に兄は香織さんの手を握り号泣。


香織さんの両親も抱き合って喜んでいた。


私も赤ちゃんの誕生に感動し、涙が止まらない。


皆の愛情を目一杯受けて誕生した勇樹くん。


抱っこさせてもらった。


ちっちゃくてふにゃふにゃで、たまに指が動く。


何となく兄に似ている気がする。


赤ちゃんを見ていると笑顔になる。


お座りをしている勇樹くんを見て、思わず誕生の事を思い出した。


ほんわかとした気持ちになる退院祝いだった。


No.114

母親は私が退院したという電話をしても「そう」と言うだけだった。


「これから寺崎が来るから電話を切るよ」


それはそれは…邪魔したね。


自分の事しか考えられない母親に何を言っても無駄だが、少しは心配して欲しかった。


結局「大丈夫?」の一言すら聞けなかった。


少しでも期待した私がバカだった。


退院すぐに直美が武田くんと一緒にうちに来た。


「退院おめでとう✨」


「ありがとう」


「祝い酒といきたいところだけど、まだ飲めないだろうからジュースで乾杯ね🎵」


仕事は退院後もしばらくは傷病でお休み。


私が休みの間の出来事を色々教えてくれた。


取引先の部長が、柴田さんと一緒に謝罪に来たそうだ。


話を聞くと、ぶつかった時は居眠りをしていたそうだ。


信号ばかり見ていて、私の車が視界に入らなかったと言っていた。


余り責める気はない。


入院費用も相手側の保険が出してくれたから手出しはほとんどなかったし、入院中は謝罪しに来てくれた。


車は廃車になってしまったけど、ローンがなかったのがまだ救われた。


父親から譲ってもらった軽自動車。


会社の事務員さん用で用意していた車だが、マニュアル車で不評だったらしくそれを私が欲しいと言って譲り受けた。


私は車へのこだわりは全くない。


しっかり走ってくれれば何でもいい。


田舎だから、また復活したら車を買わなくてはならない。


今度はトランク付きの普通乗用車にしようかな。


直美が「今度、この人車を買い替えるのよ😄みゆき、10万でどう?年式は古いけどメンテナンスはしっかりしていたからまだまだ乗れるよ😄」


武田くんが乗っていた車を10万で譲り受ける事にした。


名義変更もした。


車検も1年半ある。


武田くんが乗っていたのはまさにトランク付きの普通乗用車。


直美との結婚も視野に入れて、ワンボックスに買い替えるそうだ。



これで何とか通勤は出来そうだ。


No.115

武田くんの車が来るまでは足がない。


退院してからもしばらくの間は通院しなくてはならない。


路線バスやタクシーで通っていたが、香織さんが「まだ無理出来ないでしょ?」と時間が空いた時は病院まで送迎してくれた。


「みゆきちゃん、今日これからって時間ある?」


病院からの帰りに香織さんが声を掛ける。


「時間ならたっぷりと」


「じゃあ、一緒にお昼ご飯食べない?今日、ちび助はばあばと遊んでるし…余り遅くまでは無理だけど」


「喜んで😄」


香織さんは近くのレストランの駐車場に入った。


お昼過ぎという事もあり賑わっていた。


日替わりランチセットを注文。


今日のランチセットはミックスフライセット。


デザートに食後のコーヒーもついて780円。


香織さんと色んな話をする。


兄の事は「あいつは~」なんて文句を言いながらも大事に思ってくれているのがわかる。


元ヤンキー同士だから喧嘩は派手だが、後腐れがない。


子供が生まれてからは自称「世界一の親バカ」


何とも微笑ましい話を聞いた。


先日のお笑い番組の話しになり「マジうけた😆」と香織さんは笑っている。


「そういえば…こんな事を聞くのはアレなんだけど…みゆきちゃんって心から笑った事ってある?」


突然聞かれた。


「えっ?」


「いつも笑顔が固いというか、ぎこちないというか…」


「笑う時もあるよ、会社の同僚で飲みに行った時にバカ話しして盛り上がった時とか、それこそお笑い番組をみて笑ったりとか…」


「隆太もそうなんだよね…笑顔がぎこちないのよ。笑うといい男なのに勿体ない」


幼少の頃、兄とバカ話しして笑っていたら必ず母親が「うるせぇな💢」とぶちギレていた。


笑っていると「気持ち悪い」だの「頭おかしくなったか?」だの言われたため、余り笑わなくなった。


すると今度は「何が不満なんだ?」と言われた。


兄もだが、段々と無表情になり感情が余り顔に出なくなった。


だから喜怒哀楽はうまく表現が出来ない。


私は仕事で営業にも行くため「営業スマイル」は出来る様にはなったが、兄は特に必要がないため笑顔がぎこちないんだと思う。


「みゆきは何を考えているかわからない」


直美に言われた事がある。


本人は至って単純なんだが、そうは思ってくれない。


「怒ってるの?」


「眠たいの?」


「何かあったの?」


この3つはだいたい言われる。


兄もきっとそうなんだろうな。


「みゆきちゃん、スマイルスマイル😄怖いよ😅」


「ははは😅」


「笑顔の人間には幸せが来るんだって😄根拠はないけどさ(笑)みゆきちゃんの笑顔は可愛いんだから、笑顔になって幸せになろうぜ👍ねっ🎵」


香織さんはそういえば、いつも笑顔だな。


明るいし優しいし、気さくだし。


怒ると怖いけど。


笑顔か。


心の底から笑った事って…ないかも。


No.116

「私は中卒のバカだけどさ、バカはバカなりに頑張ってるんだ😄中学もロクに通ってないから漢字読めないし計算も出来ないけど、勇樹のママとして恥ずかしくない人間になりたくてね」


香織さんは中学を卒業してからアルバイトでコンビニで働いていた。


頑張りが認められて、アルバイトながら昼間の責任者になり、シフト作成なんかも任された。


努力の賜物である。


結婚、出産でコンビニは辞めたが店長からは「またいつでも戻って来て下さい」と言ってくれたらしい。


こんな香織さんの事を、誰もバカになんてしないよ。


素敵なママだよ✨


兄もいい奥さんもらって幸せ者だ。


ただやはり、母親に対しては少し距離がある。


そりゃそうだ。


私や兄は母親だから仕方ないけど、実の母親でさえ余り関わりたくないと思うんだから、他人なら尚更だ。


父親も母親の何処が良くて一緒にいるのか理解し難い。


香織さんとの楽しいお昼も食べて、香織さんにアパートまで送ってもらった。


帰って来てから鏡の前で笑ってみた。


ニッ😁


…変な顔😅


笑顔の練習。


やっぱりひきつる。


顔の筋肉が言う事を聞かない。


またニッ😁


端からみたらおかしな人だが、誰もいないから目一杯笑顔の練習をする。


顎の筋肉が痛くなってきたため止めた。


目が笑っていないため怖い。


営業先の人も、良くこんな怖い顔の私にキレたりしないな。


私なら「バカにしてるのか⁉」と思うかもしれない。


その時に母親から電話が来た。


「金貸して」


傷病中でまともに給料がもらえないと知ってるのに…貸しても返って来ないし、働いてなくても金は出てく。


「ないよ」


「2万でいいから」


「だからないって」


「貯金から出せばいいでしょ」


「金を貸して欲しい理由は?」


「美容室に行きたいんだよ」


「別に美容室に行かなくても死なないから貸せない」


「娘なら親が困っていたら助けるもんだろ⁉💢」


「あんたは娘が入院している時に何か助けてくれたか?」


「いいから金貸せよ💢」


「嫌だ」


あぁ…こんな母親、本当にいらない。


No.117

武田くんの車が来た。


全ての手続きは武田くんがしてくれた。


車もピカピカにしてくれた。


オイル交換もしてくれた。


武田くんにオーディオの使い方や給油口を開ける場所等を聞き、武田くんを助手席に乗せて運転してみる。


思っていた以上に運転しやすい。


だいぶ慣れて来た。


武田くんを自宅まで送る。


既に直美と一緒に暮らしていたため、直美にも挨拶したかったが用事があり留守だった。


しばらく慣れるために運転する。


いい車を譲ってもらった😄


母親に言うとまた足代わりに使われると思い、しばらくは黙っていた。


母親は一応免許はあるが、ペーパードライバーのため運転する事を恐れる。


傷病期間も終わり、職場に復帰した。


しばらく振りの会社。


すっかりご無沙汰していた会社だが、何の変わりもなかったが私が休んでいた間に新入社員が入って来た。


名前は矢崎さんという男性。


私と同じ年だった。


私が定時制で通っていた高校の全日制で通っていた。


全日制は市内で一番の進学校。


有名大学を卒業したらしい。


頭はいいみたいだが、何か鼻につく言い方をする。


「藤村さんって年いくつですか?」


「同じみたいですよ」


「何だ…タメか、気を使って損した」


それから「定時制の人と同じ職場か…俺も落ちぶれたもんだな」だの「タメに色々教えられたくねー」だの文句を言うため、私からは何も言わなくなった。


他の人にも「何処の大学出身ですか?」と聞き高卒ならば「何だ高卒か」と言ったりする。


「僕は有名大学を出たから偉い」


そう思っている様だ。


しかし父親が警察官である直美には腰が低い。


どうやら仕事や学歴で人を見るらしい。


そんな矢崎さんが会社に馴染める訳がなく、半年で辞めた。


「あの人は何処に行ってもダメだわ」


辞めてから皆にこう言われてしまった。


色んな人がいるもんだ。


No.118

高校を卒業してから永年勤務していた会社が倒産するとは、夢にも思わなかった。


確かに、倒産する1年前くらいからおかしいと思う事はあった。


あれだけ出張という名目で散々旅行に行っていた専務や常務も旅行の回数が一気に減り、残業代もなくなり倒産する年のボーナスはなくなった。


社用車もなくなり、営業には自分の車を使わなくてはならないが燃料代は自腹。


更に「経費削減」とうるさくなった。


そして倒産。


不景気のあおりを受けたのもあるが、社長家族が会社のお金を私物化していたのも倒産した理由に含まれる。


再就職するにも、なかなか仕事が決まらずに大変な人もいた。


特に部長。


年齢も50代。


頭を抱えていた。


まだ若い人達は、さほど苦労はしなかったみたいだが私の様に中途半端な年代は就職も大変だ。


面接に行き思ったのは「資格」は重要だということ。


「経験」はあるが「資格」はない。


やはり資格を持っている人には敵わない。


色々面接に行った。


しかし、ことごとく落とされる。


そこで社員にこだわらずにアルバイトで探したらラブホテルを見つけた。


時給が高かったのが一番の理由だが、ラブホテルの裏側にも興味があった。


数えるくらいしかラブホテルは利用した事はないが、どんな仕事なのだろうか?とは思っていた。


だいたいの人は「ラブホテルに勤務してます」というと興味半分で色々と聞かれる。


営業妨害になるかもしれないが、衛生上は余り良くない。


ホテルによって違うと思うが、お風呂掃除にはお客さんが体を拭いたタオルで水滴を拭く。


もちろん洗濯はするが、雑巾も一緒に洗う。


ブラシは使い回し。


一応、髪の毛は一本残らず取り消毒液の中には入れるが、誰が使ったかわからないブラシをまた袋に入れてセットする。


コップ類は使用したらもちろん洗うが、いちいち部屋から出したりしない。


部屋の洗面所で洗い、トイレ掃除をしている間に蛇口から熱湯を出しておく。


消毒も兼ねているが、その方が水滴が残らない。


出来れば使用済みのゴムはティッシュに包んで捨てて頂けると有難い。


たまにそのまま捨ててあるが、1年経った今も使用済みのゴムを直接掴むのは抵抗がある。


No.119

あと、たまにあるのがお風呂の排水口の網に茶色い物体がある事がある。


これが一番処理に困る。


何故トイレではなくお風呂の排水口にあるのかは疑問だが、これと嘔吐の処理が一番辛い。


あと、食べ物や飲み物の持ち込みは全然構わないのだが、何故か多いのがピザとお寿司。


この2つはダントツだ。


あと、腕時計とピアスとネックレス等の装飾品の忘れ物が多い。


お帰りの際は、今一度確認をして頂きたい。


たまに備品を壊しても黙ったままのお客さんがいる。


コップを割ってしまったりお皿を割ってしまったりしても請求は一切しない。


私達も掃除の途中に割ってしまう事もある。


割ってしまった時はフロントまで一報を頂きたい。


滞在中は別のコップをお持ちするし、そう言った時は掃除道具も変わるからだ。


以前、何も知らずに掃除に入り欠片がグッサリと足に刺さった事がある。


今日も仕事だったが、お風呂にお湯が入りっぱなしのお客さんが多かった😢


お湯は抜いていって頂けると本当に有難い。


掃除する立場の人間の愚痴なので「そうなんだー」程度で聞き流して頂ければ…


m(__)m


余談だが、今日のお客さん。


ヘルス嬢を呼ぶつもりだったんだろう。


男性一人で部屋に入った。


しかし女の子がいなかったのか、来るのが遅くしびれを切らしたのか帰ってしまった。


掃除で部屋に入ると、ゴムが尋常じゃない大きさに膨らませて置いてあった。


思わず今日のメンバーだったゆうちゃんと純子さんと3人で笑ってしまった。


余程暇とみえて、膨らませたゴムが3個あった。


かなりの肺活量がある男性だった様だ。


No.120

ラブホテルは勤務してみないと知らなかった事が色々ある。


普通のビジネスホテルも多分一緒だと思うが「前に利用していたお客さんの形跡を残さない」


だから髪の毛一本落ちているのも許されない。


服にガムテープをくっつけて、毛が落ちていたらガムテープにくっつけて取る。


お風呂の水滴も残す事は許されない。


たまに見落として不備があると、フロント専属のおばちゃんに叱られたり、お客さんからのクレームになる。


だからしっかりと短時間で確認しなくてはならないため、ハードな仕事ではあるがダイエットにはいい仕事である。


汗だくになりながら動くため、変に間食をしなければだいたい痩せるし、筋肉もつく。


私も3キロ痩せた。


少し体も締まった気がする。


しかし帰って来てからのお酒が良くないのか、最近また太って来た。


今更なのだが、私は身長はそれなりにある。


ヒールを履いたら170センチはゆうに越える。


バイト先で一番背が高いため、電球の交換には真っ先に使われる。


もう少し小さくても良かった。


倒産した会社でもそうだった。


いつもヒールを履いていたため、男性社員と目線が一緒になる人が多かった。


気にする人はちょっと離れて歩いたり、ヒールではなく普通の靴を履いていた。


直美が157センチと女性では一番丁度良い身長で羨ましかった。


直美は直美で「みゆきは背があるから羨ましい」と言っていた。


お互い無い物ねだりである。


明日香ちゃんは150センチないくらい。


私とは頭一つ分くらいの違いがあった。


ちなみに兄は185センチある。


まるでチョモランマだ。


No.121

フロント専門で和子さんという50代後半のおばちゃんがいる。


30代で旦那さんを病気で亡くし、2人の子供を女手一つで育て上げた。


長男は結婚し、孫も出来たと喜んでいた。


少し口が悪く気分屋なところはあるが、別に悪い人ではない。


ただ最近腰を痛めたらしく階段の昇り降りが辛そうだ。


「若い頃はこんな痛みは我慢出来たけど、年をとるとダメだねぇ…でも働かなきゃ食ってけないし、頑張らないとね」


最近良く言う言葉だ。


「私はみゆきちゃんくらいの時に旦那が白血病で亡くなってね…まだ小さかった子供らのためにも頑張らなきゃならないと思ってがむしゃらだったよ…気がつきゃ、子供らも大きくなって今では父親やってるんだからなぁ」


孫が誕生した時は勤務中だったが、連絡が入り「悪いけど交代してもらえる?」と言って一目散に病院に向かった。


翌日、孫の写真を見せてもらった。


嬉しそうにしている和子さん。


和子さんは母親と同じ年。


色々話を聞いていると…母親と同じ中学校だという事がわかった。


「藤村恭子って知ってますか?」


聞いてみた。


「藤村…?」


しばらく考えていたが「あぁー藤村恭子ちゃんね😄同じクラスだったな‼」


世の中狭いなと実感した。


「私の母親なんです…」


「あらまぁ~娘さんだったの⁉」


「はい😅」


「彼女、若い頃は男子からモテてたのよ😄目がぱっちりしていて綺麗な子でね😄」


「どうやら似なかったみたいです😅」


学生時代の母親の事を聞いてみた。


No.122

和子さんと母親は、特に親しいという訳ではなかった。


母親はいつも一人でいる、地味な子だったらしい。


ただ可愛かったため、男子からは人気があった。


いつもボロボロのカバンや靴でいたため「家が貧乏なのかな?」くらいにしか思わなかった。


成績は良くクラスのトップ10には必ず名前があった。


中学校を卒業してからは一切会ってないし連絡もしていないから、それからどうなったのかは知らないと言っていた。


そうなんだ。


母親は地味だが頭は良く、男子からはモテてたのか。


「お母さんは元気なの?」


「あの、今は癌を患いまして入院しています」


「あらそうなの…手術はしたの?」


「はい、手術は終わり転移はしていないみたいなので多分もうじき退院は出来ると思います」


「大変だね…大事にね」


「ありがとうございます」


少しでも母親の話が聞けた。


きっと母親は、根は真面目で優しい人なんだろうな。


和子さんの話では「学校内に迷い込んで来た憔悴した子猫を真っ先に駆け寄って助けてあげてた」と言っていた。


今の母親からは想像が出来ない。


中学時代のままなら、きっと素敵な母親になっていただろう。


母親は動物は好きだ。


特に猫が好きらしく、猫が近くにいると必ず「おいで」ポーズをとる。


猫は可愛いが、私は猫アレルギーのため近寄れない。


母親は一応は猫アレルギーの私に気を使ってくれていたらしい。


猫を触った手で絶対私を触らなかった。


近くに連れて来なかった。


ぬいぐるみは平気だからと猫のぬいぐるみを家に置いてあった。


本当は猫を飼いたかったんだろうが我慢していた。


私が猫アレルギーじゃなければ良かったね。


母親よ…ごめん。


鼻水と涙とくしゃみが止まらなくなるの。


これが辛い💧


不思議と猫以外は平気なんだけどね。


No.123

私がまだ小学生だった時に一度だけ、母親の継母に会った事がある。


学校から帰ると、うちのマンションの前に派手なおばさんが立っていた。


「あんたが恭子の娘か?」


「…誰?」


「恭子の娘は挨拶も出来ないのか?」


そういうあんたは誰なんだ?


心の中で呟く。


「お母さんは?」


「誰ですか?」


「松美と言えばわかるよ」


「松美…ばあちゃん?」


継母の名前だけは知っていた。


「他人の子供に気安くばあちゃんなんて呼ばれたくないね、いいからお母さん呼んでちょうだい‼」


「お母さんは今日は帰って来ないよ」


「そんな訳ないだろうよ」


その時に兄も学校から帰宅した。


派手なおばさんが私に話しかけているため「あんた誰だ?」と言いながら私の前に出て庇ってくれた。


「あんたは恭子の息子?」


「母親に何の用だ?」


「子供には関係ない‼母親を呼べ💢」


「いないよ」


「そんな訳ないだろ💢」


「おばさん、しつこい💢いないったらいない‼帰れ‼」


派手なおばさんは眉間にシワを寄せて私達兄弟を睨み付けて帰って行った。


「兄ちゃん、あの人「松美」って言ってたよ」


「松美?…ふぅーん」


そう言いながら兄は部屋の鍵を開けた。


母親に何の用事があったのかはこの時は知らなかった。


後日、母親が酔っ払った時に松美ばあちゃんが家に来た理由を知る。


この時、母親の腹違いの一番下の弟が大学を卒業したが就職が決まらなかった。


そこで父親の会社に弟をコネで就職させたかった。


父親の会社は市内ではまずまず知られている会社。


地元では知名度が高いため父親の会社に就職させれば継母も鼻は高い。


そこで母親に「あんたは姉だろ?」と言ってコネを利用したかったが母親が断った。


「二度と来るな💢」


継母に塩をまいて怒鳴った。


「あんたとあんたの子供らには二度と会いたくない‼私はあんた達を一生許さない」


そう言ってドアを閉めた。


それから今まで一度も会っていないし、生きているのかどうかなのも知らない。


No.124

先日、亜希子ちゃんの結婚式があり招待された。


小さな結婚式だったが、とてもあたたかい素晴らしい結婚式だった。


亜希子ちゃんお母さんは、結婚式が始まった当初から号泣。


やっと泣き止んだと思ったら、亜希子ちゃんの手紙でまた号泣。


妹さんがずっと泣いているお母さんに寄り添っていた。


亜希子ちゃんの友人席には高校時代の友人が何人かいて、ちょっとした同窓会になった。


その中に桑原くんがいた。


桑原くんは亜希子ちゃんとは保育園から高校までずっと一緒の幼なじみ。


母親同士が親友なんだとか。


すごく真面目で口数は少ないが、話し掛けると会話して来る。


実は高校時代、桑原くんの事がちょっと好きだった。


最初の彼氏と別れてから落ち込んでいた時に、珍しく桑原くんから「元気ないね」と話し掛けて来てくれた。


他愛もない話をしているうちに、その優しさにキュン💓ときた。


叶わぬ恋ではあったが、高校時代の良き思い出である。


桑原くんとは成人式で会って以来だから、10数年振りになる。


かけていなかった眼鏡をかけている以外は、何にも変わらなかった。


しかし、桑原くんから見た私は変わったらしく「最初誰かわからなかったよ😅」と言っていた。


「化粧だよ、きっと」


「女性って怖いね(笑)」


笑顔も変わらない。


桑原くんは今は独身。


一度結婚したが、一年半で離婚したらしい。


子供はいなかった。


離婚理由までは聞かなかったが、離婚は相当大変だった様だ。


桑原くんとアドレス交換をする。


「今度、暇が合えば飯でも行こう😄」


「そうだね😄」


何か懐かしい顔ぶれに、高校時代に戻った気がして楽しかった。


つい飲みすぎて翌日二日酔い💧


仕事が休みで良かった😅


No.125

香織さんのおじいちゃんが亡くなった。


お葬式の間、兄夫婦のアパートで勇樹くんとゆめちゃんを見る事になった。


じっとしている事がない勇樹くんとゆめちゃん。


おもちゃの奪い合いで喧嘩。


ゆめちゃんは何でも「いやいや」で言う事を聞かない。


何度怒っただろうか?


ゆめちゃんはまだトイレがうまく出来ないため、トイレも一緒に行く。


育児って本当に大変😞


おやつの時だけはおとなしい(笑)


天気もいいし、近所の公園に散歩しに行った。


ゆめちゃんは靴を嫌がり、靴を履かせるだけで一苦労した。


近所の公園では兄弟仲良く滑り台を滑ったりブランコに乗ったりと楽しそうにしていた。


その間に公園の中に灰皿を見つけて、子供達の目が届く範囲で一服していた。


タバコの火を消すのに一瞬目を離したその時、突然ゆめちゃんが泣き出した。


慌てて見ると、ゆめちゃんが滑り台の階段を踏み外して落ちてしまった。


幸い打撲で済んだが、心臓が止まるかと思った。


ゆめちゃんが「みーたん、みーたん」と言いながら私のところに来た。


「みーたん、はい😄」と言って差し出されたのが、犬の様な形をした手のひらサイズの石だった。


「ワンワンみたいだね😄可愛いね😄」


「うん、ワンワン😄」


無邪気な笑顔に思わず抱き締めた。



愛情いっぱいで育っている勇樹くんとゆめちゃんは、やんちゃだけど優しくて笑顔で、一緒にいるこっちが元気になる。


勇樹くんが「みゆきちゃん‼おしっこしたい😫」と股間をおさえながら走って来た。


「おしっこ⁉トイレこっちだよ」


ゆめちゃんを抱き抱えてトイレに走った。


それからもしばらく公園で遊んでいたが、家に帰ると疲れたのか2人共眠りについた。


私も慣れない子守りに疲れてしまい、いつの間にか眠っていた様だ。


携帯の着信音で目が覚めた。


兄からだった。


無事にお葬式が終わり帰るとの事。


一緒に晩御飯どうだ?と言われて即答で「食べる」と答える。


近所のファミレスで晩御飯を食べた。


疲れたが楽しい1日だった。


毎日毎日、子供達と奮闘する世のお父さんお母さん達。


尊敬します。


No.126

つい先日、珍しく父親から連絡が来た。


母親はまだ癌で入院中。


「ちょっとみゆきに話があるんだ…今度の休みはいつだ?」


「明後日休みだけど」


「何か予定はあったか?」


「午前中は無理だけど、午後からなら別に何もないけど?」


前日は夜中まで仕事のため、午前中はゆっくりしたかった。


明後日の夕方から会う約束をし電話を切った。


当日。


父親との待ち合わせ場所である高そうな料亭に着いた。


父親は既に店にいた。


着物を来た女性に個室に案内された。


そこには食べた事もない、高級料理が並べられていた。


最近手抜きでカップラーメンとか納豆ご飯とかで間に合わせてる私には、想像出来ない様なご馳走だ。


「こんな高そうな店、良く来るの?」


「何度か」


多分、接待か何かで使うのだろう。


「話の前にまずはご飯食べようか😄」


「頂きます」


カニなんて何年振りだろうか?


カニは好きだが剥くのが面倒くさい。


しかし父親は手慣れた感じでカニを剥いては口に運ぶ。


何故かカニを食べている時は無言になる。


遠くから有線なのか、琴の音色の正月に良く聞く様な音楽が流れる。


カニ以外にもお刺身や色んな小鉢に目にも楽しめる色鮮やかな料理が並ぶ。


もう多分、宝くじにでも当たらない限りこんなご馳走は食べられないと思い、食べる前に携帯のカメラにおさめて保存した。


高級過ぎて、お腹を壊さないか心配である。


お腹もいっぱいになった。


飾りで付いていた笹の葉以外は全て完食。


父親も喫煙者であるため、一緒に一服をする。


食事中は他愛もない話や母親の病状についての話をする。


「さて、みゆき。お腹も膨らんだし一服もしたし、本題に入るかな?」


「そうだね」


そう言うと、父親はあぐらから正座に座り直した。


私もそれを見て、崩していた足を正座に直した。


そして父親は私を真っ直ぐ見つめて話し始めた。




No.127

「みゆき、私は美和と別れて恭子と一緒になりたいと思っている」


「はっ?」


「もう美和には疲れた…それに比べれば恭子は一緒にいて飽きる事がないんだ、恭子が癌になりこうして入院し闘病している姿を見ると、私が守ってあげなきゃいけないと思ってね」


何だそりゃ。


寺崎美和がそうなったのは父親よ、あんたのせいでもあるんじゃないのか?


本妻の立場なら、自分の旦那が他に女を作りしかも2人も子供を生ませて何十年も養っている。


この状況で平常心でいられる妻っているのか?


母親は、あんたに捨てられたくなくて金をかけて外見を磨いているし、子供よりあんたを優先してきたからそう思うんだよ。


父親は母親よりいくらかまともだと思ったが、そんなに変わらない様だ。


まだ父親の話は続く。


「美和との子供らも独立したし、長男は会社を継ぐと宅建の資格も取り別の会社で修行中だ。来年には息子に任せて隠居も考えている。そしたら恭子とずっと一緒にいれるから、退院後のフォローは私が出来る」


あぁ…父親は何にもわかっていないらしい。


「別にいいんじゃない?反対する理由は何にもないし」


「そうか😄みゆきには苦労をかけてしまったが、いい娘に育ってくれて安心したよ」


「…」


まぁ、この父親に何を言ってもわからないだろうな。


親子には変わりないが、私ももう30代。


自分の事は自分で出来るしある程度の判別もつくと思っているが、あなた達の考えはこの年になっても理解出来ない。


「本妻には話してあるの?」


「まだ」


「すぐに離婚届けを書いてくれるとは思わないけど?」


「それは承知してるよ。何とかなるさ」


父親よ、そんなんで良く社長やっているな。


「恭子と結婚したら、みゆきは藤村から寺崎に名前が変わるんだな…寺崎みゆきか。悪くないな😄」


Σ( ̄□ ̄;)


そうだ…そうだよね。


母親が入籍するという事は、まだ嫁いでいない私も名字変わるんだよね。


言われるまで気付かなかった💧


この年で名字が変わるって誰しもが「結婚」だと思うよね。


今更「寺崎」になるのも面倒くさいな💧


私自身の結婚で名字が変わるのと、母親の結婚で名字が変わるのと全然違う。


いくつになっても親に振り回されるのか😞


No.128

父親の話はまだ続いた。


「恭子と入籍をしたら、みゆきにお願いがあるんだ」


「お願い?何?」


「寺崎になったら、今の仕事は即辞めて欲しい」


「どうして?」


「寺崎グループの社長の娘がラブホテルにアルバイトで勤務してるなんて恥ずかしいだろう。まともな仕事に就きなさい」


要は世間体か。


「嫌だ」


「何故だ?ラブホテル勤務なんて堂々と言えるのか?」


「言えるけど?別に疚しい訳でも悪い事をしている訳でも何でもないし、何がそんなに恥ずかしいの?要はあれ?「社長の娘さんは仕事は何をされてるんですか?」って聞かれた時に「ラブホテルでアルバイトしてる」って言うのが恥ずかしいんでしょ?」


「そうじゃない…」


「じゃあ何⁉私はラブホテルの社長に拾ってくれたから今の生活があるし、確かに仕事はハードだけど楽しい職場だし辞める理由が見付からない。世間体だけで辞めろと言われても困る‼」


「みゆき‼父親の言う事を聞きなさい‼生活に困っているなら私が何とかしてやるし…そうだ、みゆき。うちの会社に来ないか?みゆきなら即課長待遇だ」


「絶対嫌だ」


「何故だ💢今の生活よりは楽になるんだぞ?」


知識も経験もないド素人が「社長の娘」というだけでいきなり課長なんかになったら風当たりが強すぎるし従業員は嫌だろう。


余計な気を使わなきゃならないし、余計な事は言えない。


確かにお金はあって困るものではないが、今の生活が丁度良い。


貯金はなかなか難しいが借金も特にない。


人並みに生活は出来てるし、衣食住も特に困っていない。


今のままの生活が一番いい。


父親よ、お金だけじゃないんだよ。


「今の仕事は辞めないし、今の生活のままがいい。反対するなら母親との入籍も反対する」


「みゆき‼」


この年になって初めて父親に怒鳴られた。


No.129

「お前は何もわかっていない‼いいか?お前は私の唯一の娘だ…娘の幸せを願わない親がいるのか?みゆきには幸せになってもらいたいんだよ」


「…」


「だからそんなラブホテルなんて辞めなさい‼うちの会社で働きなさい‼」


「絶対嫌だ‼」


「みゆき‼」


「あんたに私の人生をとやかく言われたくないんだよ💢何が父親だ‼父親らしい事、何かしたのか?物を買ってくれるだけが父親じゃないんだよ💢今更、父親ヅラしてんじゃないよ‼」


「みゆき…」


「私は小さい頃、休みの日は家族で動物園に行ったり、ピクニックしたり、旅行に行ったって話を聞いて友達がすごく羨ましかった。あんたは近所の公園にすら連れてってもくれず、誕生日も入学式も卒業式もプレゼントと得意の「これで何か食べなさい」とお金だけよこして母親と消えたよな?家族での思い出が何一つないんだよ…何故母親とは旅行や食事に行くのに、私や兄ちゃんはいつも留守番だったんだ?」


「…」


黙る父親。


「で、今更父親だって威張られてもうるさいだけ💢私は今の職場を辞める気はないし、あんたの会社にも行く気はない‼母親と結婚も勝手にしたきゃしなよ。」

私は一気に喋った。


「みゆき…悪かった…」


「父親って、一家の大黒柱として家族のために働いて、子供の面倒を見て、たまには家族でご飯を食べに行ったり旅行に行ったり、たくさんの愛情と思い出を作ってくれる。時には優しく、時には厳しく子供のために叱ってくれる。


父親ってそうなんじゃないの?あんたは戸籍だけ。
私から見たら、ただの盛りのついたおっさん」


黙る父親。


今までの色んな思いが爆発してしまった。


No.130

小さい頃は、父親に甘えたい時もあった。


でも、甘えると母親の冷たい視線が気になり甘える事も出来なかった。


一度も一緒に寝たりお風呂に入ってくれる事はなかったね。


「お父さんの絵」を書いてもニコニコして「みゆきは絵が上手だね」と言って誉めてくれただけで、翌日にはゴミ箱に捨ててあったね。


忘れもしないのが兄が小学校卒業の日。


卒業式には出ないで、母親とデートに行き夜に酔っ払って帰って来たね。


母親といちゃつきながら「隆太、卒業おめでとう」と言いながらそのまま母親の寝室に消えて、ドアを半開きにした状態でセックスしてたね。


あの時の兄の悔しそうな顔は知ってるの?


他の友達はきっと家族でご飯を囲んでお祝いをしていたんだろう。


なのにうちの両親はさかりつき、子供のお祝いは二の次。


兄弟でカップラーメンすすってたんだよ?


父親なら子供のお祝い事の時くらい、何故一緒にいてくれなかった?


決まってお祝いの時はいなかったね。


お金だけもらっても嬉しくないよ。


両親が恋しい時期はいてくれず、今更になり父親ヅラされる。


あんたは社長としたら出来る人間なんだろう。


だから一代でここまでの企業に成長した。


しかし父親としては最低だよ。


でも…強く言えないんだ。


所詮は「愛人の子」だから。


寺崎美和との子供は3人共大学を出て、何不自由なく成人した。


きっとお祝い事の時は家族でご馳走を囲んで楽しく祝っていただろう。


ひがみなんだ。


寂しかったんだ。


私も兄も愛人の子だから我慢していたんだ。


でも…一回くらいは家族4人で祝って欲しかった。


ごめん…わがままだよね。


「ごめん…言い過ぎた」


父親に謝る。


「いや…いいんだ。こっちこそ何もしてやれなくて」


「ごめん…今日は帰るわ」


「…そうか」


父親を残して、先に個室を出た。


駐車場に停めてあった車に乗り込むと同時に、何かがプチンと切れた様に涙が止まらなかった。


何故こんなに涙が出るのかはわからない。


泣いて泣いて…。


落ち着いた頃には父親の車はなかった。


No.131

翌日の昼間、布団でゴロゴロしている時に寺崎美和から連絡が来た。


父親の携帯電話から私の番号を見つけたらしい。


「ご無沙汰してます。寺崎の家内の美和です」


「…こんにちは」


「今、少しお時間あるかしら?」


「はい…大丈夫です」


「早速なんだけど、今朝主人から「離婚したい」と言われたわ」


「やっぱり…そうですか」


「…その返事はご存知だったみたいね」


「昨日、父に会ってそう言われました」


一瞬の沈黙の後に「あぁ…昨日の夜はあなたと会っていたのね…人と待ち合わせしてると言って外出したもんだから」


「そうですか」


「なら話は早いわ。あなたに協力して頂きたい事があるの」


「協力…ですか?」


「そう。電話じゃあれだから会って頂けないかしら?」


「はぁ…でも、夜は仕事ですけど」


「長くはならないわ」


「仕事までに終わるなら大丈夫ですけど」


「1時に待ち合わせ出来る?」


ふと時計を見ると12時前。


これから急いで支度をすれば何とか間に合う。


寺崎美和から待ち合わせの喫茶店を聞き、支度をして車に乗り込んだ。


車内で一服しながら好きなFMラジオの番組を聞いていた。


ちょうど12星座のランキングをやっていた。


私の星座は6位だった。


微妙だなと思いつつアドバイスを聞いた。


「感情のコントロールが大切‼イラっときても明るく笑顔で過ごしてね😄ラッキーカラーはグレー⤴😄」


感情のコントロールか…。


難しいが…偶然にも今日のラッキーカラーであるグレーの服を着ている。


寺崎美和とは、大福を母親の口に無理矢理突っ込まれたあの出来事があった時以来だ。


あの目力に耐えられるか心配だが、自分に気合いを入れて待ち合わせ場所に着いた。


以前、この喫茶店に来た事がある。


倒産した会社に勤務していた時に、営業先に行く前に時間もあるし一服していこうと思い入った。


ここのコーヒーは美味しいと記憶している。


レトロな雰囲気の喫茶店。


「いらっしゃいませ」


マスターと思われる中年の男性がカウンターから声を掛けた。


その時に一番端のボックス席にいる寺崎美和が視界に入った。


「待ち合わせです」


マスターと思われる男性に伝えると笑顔で頷いた。


私に気付いた寺崎美和が軽く手を上げた。


私はペコリと軽くお辞儀をし、寺崎美和の向かいに座った。


「ご注文は」


「コーヒーで」


「かしこまりました」


男性の奥さんと思われる中年の女性が笑顔で注文をとりに来た。


「わざわざすみませんでしたね」


寺崎美和が話す。


「いえ」


顔は笑っているが目が笑っていない。


やっぱり怖い…この目力。


コーヒーが来て一口飲んだ。


「では、早速」


そう言って寺崎美和は紙をカバンから取り出した。

No.132

その紙には約款みたいな事が書いてあった。


甲、寺崎英雄は乙、寺崎美和に慰謝料として一括で五千万を支払う事。


甲は乙に慰謝料の他に生活費として毎月五拾万円を終身支払う事。


甲が所有するマンションの家賃収入等売上金の半分を乙に支払う事。


甲の私的財産は全て乙に譲渡する事。


――――――――


全て金の話しじゃないか。


「離婚と言われた時に寺崎に渡そうと思って、弁護士の先生にお願いして作成してもらったのよ。この条件全てを寺崎が約束してくれるなら、今すぐ離婚してもいいわ。さすがに弁護士の先生も「無茶苦茶ですね」と言っていたけどね」


「…」


言葉が出てこなかった。


「これでも妥協したのよ?私の最後の愛情ね」


「…これ、父親が納得しますかね?」


「納得も何も、離婚と言ってきたのは寺崎の方よ?この条件を飲んでくれなければ離婚はしないわ。今まで何十年と我慢してきたんですから、これくらい可愛いもんじゃない」


そして、もう一枚の約款をカバンから取り出した。


上記の約款に不服がある場合、異議申し立てが出来る。


尚、以下の条件は上記の条件が不履行になった場合のみ成立する。


甲は今後一切、藤村恭子との面会及び電話連絡等はしない。


もし、今後面会及び電話連絡等をした時点で甲は乙に五千万の慰謝料請求が出来る。


甲は乙に慰謝料として弐百万円支払う。


――――――――


「2百万は慰謝料としては妥当な金額なのよ、寺崎はどっちを選ぶでしょうね」


「…」


要は離婚するなら、父親からお金をあるだけもらい、離婚しないなら母親との縁を切ろって事か。


父親にとっては難しい選択だろうが仕方がない事だ。


更に寺崎美和は続ける。


「あなたに協力というのは、あなたが寺崎の不倫相手の娘であって、寺崎の不倫は本当だという事を証明して欲しいのよ」


「一応、認知してくれているので戸籍をとればわかるかと思うんですが…」


「そうじゃないの。寺崎は多分簡単には条件は飲まないと思うの。裁判になると思うわ。それであなたが証人になって欲しいの…お礼はするわ」


何だか大変な事に巻き込まれてしまいそうだ。


No.133

「費用は私が支払うのでDNA鑑定を受けて欲しいの」


「DNA鑑定…ですか?」


「そう、DNA鑑定だと親子だという証拠がはっきりするでしょ?裁判の時に少しでも有利になるのよ」


「はぁ…」


「それで申し訳ないんだけど、鑑定を受ける同意書に名前と住所と生年月日を書いて欲しいの」


「…印鑑持って来てないですけど」


「そう、私も言い忘れてたからね…じゃあ持ち帰っていいから明日までに書いてきて頂けるかしら?」


ここで断れば、喫茶店にいる人達に迷惑がかかる様な大きな声で怒鳴り、騒ぎ出すのが安易に想像出来た。


それも困る。


この用紙を持ち帰れば、とりあえず明日まで考える時間が出来る。


「わかりました、明日までに書いておきます」


「頼むわね、明日また1時にこの喫茶店で待ち合わせでいいかしら?」


「わかりました」


「呼んだのは私だから、コーヒー代は私が支払うわ。では明日、よろしく頼むわね」


「すみません、ご馳走様です」


私は寺崎美和に軽く頭を下げて、喫茶店を後にした。


まだ出勤するまで時間があった。


急いで自宅に帰り、兄に相談してみる事にした。


平日だから仕事中だと思うけど…時間がない。


兄の携帯に電話を掛けるが留守電になった。


「兄ちゃん?みゆきです。ちょっと兄ちゃんに話があって…もし夕方までに少しでも時間があれば電話下さい」


留守電に吹き込んだ。


10分後、兄から着信があった。


「おう、みゆき、悪かったな電話に出られなくて…何かあったか?」


「今って時間ある?」


「休憩に入ったばかりだから少しならあるぞ?」


「あのさ、今さっき父親の本妻寺崎美和に呼び出されて…」


今までの事を全て兄に話をした。


兄は黙って聞いていた。


すると兄は「今、ちょっと時間作るから俺の会社の近くに来れるか?」


「わかった」


私は用紙を持って兄の勤務先である自動車整備工場へと車を走らせた。


「着いた」


兄の携帯にメールを入れる。


兄はすぐに作業着姿で会社から出てきた。


「オイル臭いが我慢してくれ」


「別に気にしないから」


兄を助手席に乗せて、兄の会社のすぐ近くにある公園の駐車場に車を停めた。


No.134

兄は作業着のポケットからコーラを2本取り出した。


「飲むか?」


「ありがとう」


コーラをもらって一口飲む。


久し振りに飲むコーラ。


たまに飲むと美味しい。


兄もコーラを飲むとタバコに火を点けた。


「みゆきはこれから仕事なんだろ?」


「そう、あと1時間くらいしか時間ないけど」


「そうか、俺も余り長い時間は無理だから早速…あの女に関わるのは止めておけ」


「寺崎美和の事?」


「そうだ、あの女はヤバい」


「ヤバい?」


兄の話をまとめるとこうだ。


寺崎美和は兄のところにも何度か訪ねていた。


自分の息子達以外に「息子」がいるのが、どうしても許せなかったらしい。


理由は父親の遺産がわずかでも兄に渡る可能性がある事が面白くなかった。


そこで寺崎美和が兄に「遺産相続は拒否する書類を書いて欲しい」と用紙を持って来た。


兄は父親の遺産は全く興味がなかったため、二つ返事で署名した。


それだけではおさまらず、今度は「生きていたらどんなに拒否をしても寺崎が渡すと言ったら困るから死んで欲しい」と言って来た。


「おばさん、俺はあんたみたいに金亡者じゃないから✋別に遺産なんかいらないし、俺を巻き込まないでくれ」


「所詮は愛人の子供、レベルも知れてる。あんたもあんたの嫁も中卒のバカ(笑)あんたらの子供のレベルもわかるわね」


この言葉で兄がキレた。


「確かに俺は愛人の息子で中学もロクに通ってないバカだけどよ、あんたに嫁や子供の事を悪く言われる筋合いはないんだよ💢おばさん、母親以上にあんたは終わってんな、遺産遺産ってうるせえんだよ💢そんなもんいらねーし‼俺が生きようが死のうが俺の人生、他人のあんたとやかく言われたくねーよ💢」


元ヤンキーの凄味に恐れを為したのか寺崎美和は逃げる様に帰った。


今度は寺崎美和は兄の会社に電話を掛けた。


「愛人の息子を良く雇ってますね」


社長は兄の家庭環境は知っていた。


だから話を聞いたところで驚かない。


「承知の上で雇っています。彼は出来る社員ですからそんなくだらない事で辞めてもらう理由にはなりません」


寺崎美和は兄の存在が面白くないが、兄にキレられ直接会えなくなったため、今度は勤務先の会社に連絡をしてクビにしてもらおうと思ったがそれもうまくいかなかった。


寺崎美和の中では、会社をクビになれば収入がなくなる。


そうなると父親のお金を目当てにするだろう。


しかし拒否という形にしておけば、兄一家が困る。


それを「所詮は愛人の息子、うちの可愛い息子達とはやっぱり出来が違う」と笑いたかったんだろう。


ただ優越感に浸りたかったのか、幼稚なやり方に思わず笑ってしまった。


No.135

「あの寺崎美和という女はただの金亡者だ、あんな女に関わっているとこっちまでおかしくなる。みゆきにそうして声を掛けるのは、人がいいみゆきを見透かしてるんだ。もし今回協力なんてしたら異常なまでにしつこいぞ?「あの子ならうまく利用出来る」なんて思われたら、お前自分で自分の首をしめる事になるぞ?あの女には関わるな、明日兄ちゃんも一緒に行ってやる、だから断れ」


そして兄は寺崎美和の子供の話をした。


「知ってるか?あの女の一番下の息子、有名大学を出たはいいが就職が決まらずニートやってるよ、人生初めての挫折で引きこもりさ」


だから、尚更兄を敵対視してるのか。


「親父の会社に情けで就職したが、全く仕事が出来ないクセに「俺は社長の息子だから」って威張り、社員から総すかんくらってまた引きこもり(笑)さすがの親父も「あいつはダメだ」とぼやいていたよ」


お金には何不自由なく育ち、何でも手に入りわがまま放題育った結果か。


苦労は知らない、頭を下げる事を知らない、何もしなくてもお金は入る。


何か嫌な事があればすぐ辞めて、楽な方ばかり。


確かにそれが一番楽だが、人間としてはダメになる気がする。


あの母親も「嫌なら辞めていいわよ」なんて言ってるのだろう。


金だけじゃないんだよ。


つくづくそう感じた。


明日は寺崎美和に何を言われても頑なに拒否しよう。


「俺そろそろヤバいから戻るわ」


私も帰って支度をしないといけない時間になった。


兄を送り、自宅に帰り着替えて仕事に向かった。


No.136

翌日、兄は仕事を早退してうちに来てくれた。


兄の車で待ち合わせの喫茶店に向かった。


少し緊張しつつも「兄ちゃんがいるなら大丈夫」と自分に言い聞かせながら、兄と一緒に店に入った。


「いらっしゃいませ」


昨日と同じ笑顔のマスターがカウンターから迎えてくれた。


「待ち合わせです」


昨日と同じ席にいた寺崎美和を見つけて、兄と一緒に席に向かった。


兄の姿を見ると、眉間にシワを寄せて「あなたに用はありませんが?」と強めの口調で話した。


「俺には用があったので妹と一緒に来ました」


その時に「ご注文は?」と笑顔で注文を取りに来た。


「コーヒーと…兄ちゃんは?」


「あっ、どうしようかな…俺もコーヒーでいいや」


「コーヒー2つですね😄かしこまりました😄」


感じよさそうな女性は注文を取ると足早に席を離れた。


「早速なんだけど、昨日のやつは書いて来て頂けたかしら?」


「その事なんですが…」


兄が返事をした。


「申し訳ないんですが、協力は出来ません」


「はっ?何を言ってるの?」


寺崎美和は驚いたのか目を見開いた。


「俺達兄弟はあなたの旦那は父親になるので父親の頼みなら聞きますが、あなたは赤の他人です。他人のあなたの頼みは聞けません」


「今更、何を言ってるの⁉あんたじゃ話しにならないわ…みゆきさん、あなたは話を聞いて下さるわよね?」


「すみません…」


「昨日と話が違うじゃない‼」


寺崎美和が叫ぶ。


その時に申し訳なさそうに「コーヒーをお持ちしました😅」と言って女性がコーヒーを届けに来た。


コーヒーを飲みながらしばらく無言の3人。


「…みゆきさん、私はあなたなら話をわかってもらえると信じてお話しをしました。この男は話が通じません。いても話す事もないし邪魔なだけです。お引き取り下さい」


「そういう訳にはいかないんだよ、おばさん。妹に金輪際関わらないで欲しい」


「約束はきちんと果たしてもらいます。DNA鑑定を受けて頂きます」


「おばさん、日本語わかるか?妹には金輪際関わらないで欲しい」


「みゆきさん、あなたのためでもあるのよ?さっ、ここに名前を書いて」


寺崎美和は兄の話を無視し、鑑定同意書にサインをさせようと必死だ。



私は用紙を見ながら寺崎美和に「一つ聞いてもいいですか?」と尋ねた。


「何かしら?」


「何故、そこまでしてお金が欲しいんでしょうか?」


「私は自分とお金しか信用しない。お金は裏切らない。生活していかなくてはならないしね」


「毎月いくらかかるんですか?」


「最低でも50万はかかるでしょう?」


「最低で50万⁉」


黙っていた兄も驚いたのか私と声が揃った。


「…何にそんなにかかるんですか?」


「何って…普通にかかるじゃない…」


金持ちの金銭感覚はわからない。


No.137

「まぁ、あなたみたいな人間はせいぜい稼いでも20万がいいとこかしら?」


寺崎美和は兄に小馬鹿にした様に言った。


「中卒は所詮その程度よね(笑)必死に頑張ったって大卒には負けるわ」


兄は黙って聞いていた。


「うちの息子達はあなたと違って一流大学を出て、立派に育ってくれたわ‼あなたみたいな息子がいなくて良かったわよ…やっぱり母親がちゃんとしてるとレベルも違うみたいね(笑)」


そう言って鼻で笑った。


すると兄が「そうですね、一流大学出てもニートしてる立派な息子さんがいてお母さんも鼻が高いでしょう。社長の息子でもレベルが違うんですね、やっぱり母親がこうだと息子も息子だ(笑)」


「何よ‼あなたみたいな人間に息子を悪く言われる筋合いはないわよ💢」


寺崎美和が叫んだ。


「悪くは言ってませんよ?事実を言ってるだけですが?」


兄はいたずらっ子の様な表情で寺崎美和を見た。


「俺は中卒ですが、どんな一流大学を出てもニートじゃねぇ…(笑)まだ俺の方が世間から見たらマシだと思いますよ?」


「明はとても素晴らしい子なの💢なのに、皆息子が一流大学を出てるから僻んでいるだけよ💢あの会社のバカ共はあんなに明をしかりつけて…明が可哀想じゃない‼だからあんな会社は辞めて正解‼もっと明に合った会社を見つけるまで休んでいるだけでニートじゃないわ💢」



あの会社とは最初に勤めた会社であると思われる。


母親がこれじゃ…息子の将来が見えた気がする。


「親思いの優しい子よ?未だに「ママ」って言ってなついてくれて…成績も優秀で大学では大学教授からも一目置かれていたんだから…」


どうでもいい息子の自慢話が始まってしまった。


兄が小声で「ただのマザコンじゃねーか⤵何がママだよ…気持ちわり😱」


兄は息子の自慢話を得意気にする寺崎美和の話しは全く聞いておらず、テーブルの下で香織さんにメールをしていた。


寺崎美和の自慢話も終わった。


すっかりコーヒーも冷めてしまった。


「じゃ、離婚したらその自慢の息子さんに面倒をみてもらって下さい😄俺達は関係ありませんから、もう二度と連絡して来ないで下さい。連絡してきた時点であなたの約款の内容を全て父親に話します。困るのはあなたでしょ?みゆき、帰るぞ」


そう言って兄は席を立った。


私も急いで席を立ち、コーヒー代で千円をテーブルの上に置いて逃げる様に兄の後を追いかけた。


寺崎美和は黙ったまま席に座っていた。


私だけなら兄みたいには言えなかった。


多少なり寺崎美和に同情があるからだ。


長年不倫されている辛い気持ちもわかる。


母親の存在が憎いのもわかる。


同じ女として。


でも…あんなやつでも母親だ。


長年愛人やってても憎くても、やっぱりいざとなれば母親の味方をしてしまう。


兄みたいにバッサリと割り切る事が出来ない。


変なところがお人好しである。


No.138

あくまでも私の勝手な想像だが、寺崎美和は最初はきっとこんな性格ではなかったんだと思う。


何処かで間違えてしまったのだろう。


私も彼女の立場になったら、きっともっともっと歪んでしまっているだろう。


我慢して我慢して…今の彼女がいるのだろう。


ちゃんとした年齢はわからないが、多分母親と同じ様な年齢だと思われる。


50代半ばから後半。


結婚してからのほとんどは母親・藤村恭子という存在に悩まされていた事になる。


きっと結婚した当初は希望や夢を持っていただろう。


それを母親という存在が全てぶち壊してしまった。


父親と寺崎美和はお見合い結婚だと聞いた事がある。


父親はまだ当時は社長とは言っても駆け出しで、会社もまだ小さな不動産屋だった。


最初は寺崎美和も事務員として働いていたらしいが、長男を妊娠してからは事務員を辞めて専業主婦になったらしい。


幸せなはずの結婚生活も、旦那の浮気ですぐに崩れてしまう。


寺崎美和の心労は計り知れない。


何故、妻がいるのに愛人を作るのだろうか。


父親は妻だけを愛し、家庭を大事にする事は出来なかったのだろうか。


だとしたら私はここにはいなかったのだが😅


たくさんのお金を使い、母親と2人の子供を養った父親。


世のお父さん達は、家庭を大事にして家族のために頑張っている方達がほとんどではないだろうか?


たまの楽しみで休みの日は趣味に没頭したり、家族サービスをしたり。


たまには隠れてエッチな動画を見たりする事もあるだろうが、このくらいならバレてもまだ笑って済ませる範囲だろう。


中には嫌がる奥様もいるだろうが、あくまでも私の中での話しなので、ここは流して頂きたい。


話しは変わるが、以前直美と「どこからが浮気になるのか?」という話をした事がある。


個人差はあると思うが、直美と私の意見は「私に罪悪感を感じた瞬間から」だった。


例えば、女性と1対1で食事に行っても何とも思わなければ全然🆗。


しかし、ちょっとでも「下心」が芽生えた時点でアウト。


芽生えた瞬間が=罪悪感


そういう話でまとまった。


罪悪感が芽生えるならまだいいが、全く悪いと思っていない人もいる。


父親がその代表だろう。


皆様はどうだろうか?


旦那様や彼氏の「ここからはダメ」という境界線はどこですか?


私の父親は全くの論外ですね⤵


でも父親は私の母親以外に「女」はいない。


ある意味一途だが、その目を是非妻である寺崎美和に向けて欲しかった。


不倫をしてもいい事なんて一つもないのに。


No.139

ラブホテルで一緒に働くシングルマザーの愛ちゃんも元旦那さんとの離婚理由は元旦那さんの浮気が原因だったらしい。


「浮気」が「本気」になり元旦那から離婚したいと言われて離婚したが、離婚するまでには色々と苦労したそうだ。


離婚してすぐに元旦那さんが浮気相手と結婚したが、1年で離婚。


「やっぱり愛しかいない」と都合良い事を言って来たらしいが「もうあんたの顔は見たくない‼二度と姿を見せないで💢」と突き放してからは何をしているのかは知らないらしい。


最初はパパが大好きな娘さんからパパを奪う事に躊躇したが、離婚に後悔はないそうだ。


昼間の仕事だけでは生活がきついとの理由で、週2~3日ペースでラブホテルでバイトをしている。


娘さんには何回か会った事があるが、きちんと挨拶が出来る可愛い娘さんだ。


「男はもう懲り懲り💦娘が親元から離れて一人になった時に茶飲み友達くらいは欲しいけどね😄」


愛ちゃんはとてもしっかりしていて、誰よりも気が付きラブホテルの仕事もテキパキこなす。


たまに見せるママの顔は、とてもいい顔になる。


愛ちゃんがママなら、きっと娘さんは素敵な女の子になるだろう✨


愛ちゃんはちょっと口うるさいママだけど、休みの日には良く親子で買い物に行ったりカラオケに行ったりしている。


仲が良い親子で羨ましい😄



バイト先のラブホテルで離婚経験がないのは私と23歳のギャル美容師のゆうちゃんだけ。


純子さんはバツ2、絵美さんもバツ1。


社長もバツ1。


皆の話を聞いていると結婚って怖いと感じる事もある。


純子さんは40代で勤務歴10年のベテラン。


社長からも信頼されて、唯一メイクの人間でお金の管理を任されている。


仕事も早いし、夜のメイクのまとめ役。


良く食べ、良く笑い、良く喋る純子さん。


お菓子作りが趣味らしく、休みの日に作ったクッキーやケーキを良く持って来てくれる。


プロ並みに綺麗で美味しいので、いつも楽しみにしている。


悩みは「痩せない事」と良く話している。


いつも明るい純子さん。


その笑顔の裏には壮絶な過去があった。


No.140

純子さんの最初の旦那さんは、高校生から付き合っていた人。


長い交際期間を経て結婚。


毎日が幸せだったそうだ。


結婚してすぐに妊娠。


喜びも束の間、流産してしまう。


泣きじゃくる純子さんに旦那さんは優しく声を掛けた。


そしてまた妊娠。


今度は流産しない様にと気をつけていたのだが、また流産。


この辺りから旦那さんの態度がおかしくなって来た。


そして3回目の妊娠。


「今度こそは大丈夫‼」


そう信じていたが3度目の流産。


この時に旦那から言われた言葉が「お前は女として欠陥品だ、流産ばかりしやがって💢」


この一言で旦那への愛情は冷めたらしい。


その後、旦那は他に女を作りトドメの一言。


「女が妊娠した。欠陥品のお前と違って順調に育っている。俺は俺の子供を生むと言ってくれているあいつと子供と幸せになりたい。離婚してくれ」


しかも相手の女性からも「奥さんって流産ばかりする欠陥品なんですってね(笑)奥さんとは授からなかった赤ちゃんは、私のところに来てくれました😄子供の父親を私に下さい」


純子さんは「のし付けてあげるわよ、あんな男💢あんたも惨めね、あの男自己破産してるからローンも組めないし仕事も限られる。まぁせいぜい頑張って」


そう言って電話を切った。


それからすぐに離婚が成立。


ご丁寧に「赤ちゃんが生まれました😄」というハガキが来たが、すぐに離婚したと聞いたそうだ。


産婦人科で調べてもらったが、特に異常は見付からないと言われたらしい。


精神的に追い込まれたそうだが、助けてくれたのが2番目の旦那になる人だった。


幼なじみだったらしく、親同士が親しい。


結婚する話しになった時も「身内になれて嬉しい😆」と祝福してくれた。


親のすすめもあり、交際3ヶ月で入籍。


昔から知っているため、何か恥ずかしかったそうだ。


2番目の旦那さんとの間に赤ちゃんが授かったが、今度は無事に出産。


一卵性のそっくりな双子ちゃんが誕生した。


やっと授かった我が子。


嬉しくて帝王切開の傷の痛みも忘れるくらいだったそうだ。


幸せ絶頂だったある日、ちょっとした事件が起こる。


No.141

旦那さんが出勤途中に事故を起こしてしまう。


事故の原因は旦那さんの脇見運転。


旦那さんは軽症で済んだが、相手の運転手さんは重傷を負ってしまった。


連絡を受けた純子さんはまだ6ヶ月の双子の子供を抱えて旦那さんのところへ向かった。


相手は70代のおじいちゃん。


パニックになっているとはいえ、旦那さんが信じられない一言を吐いた。


「あのじいさんが突然前に出てきた。ぶつかって下さいと言ってるみたいもんだろ⁉なのにどうして俺が悪くなるんだ⁉あんなじじい、二度と運転なんかするな💢」


耳を疑った。


自分が脇見してぶつかっていながら、相手男性をじじい呼ばわり。


謝罪の言葉は一つもなく「俺は悪くない」と言っている旦那に純子さんはビンタをした。


相手男性に謝罪しに行くと言えば「俺は悪くないから行かない」の一点張り。


この事が離婚のきっかけになったそうだ。


親権をめぐり、もめたそうだが裁判の結果親権は純子さんに渡り、旦那さんは毎月養育費を支払う事になった。


今、この双子ちゃんも独立したそうだ。


以前に純子さんと絵美さんと飲みに行った時に、酔った純子さんが話していた。


「男って本当に勝手😠」


絵美さんも「本当に💢」と相槌を打った。


絵美さんの離婚原因は旦那のDVとモラハラ。


精神的に追いやられ、弁護士を挟み離婚をしたそうだ。


絵美さんもシングルマザーとして、中学生になる息子と小学生の息子を育てているが「上の息子が反抗期でね😞」とこぼしていた。


皆、シングルマザーとして頑張っているんだ。


絵美さんが「結婚している時に、些細な事で怒り私を殴る旦那に子供らが「ママを殴るな😠」と言って私の前に立って私を守ってくれた時は涙が出たわ。そんな息子達に「うるせぇ💢クソガキ💢」と言って殴る旦那を見て離婚を決めた。毎日毎日怯えた目で父親を見る息子達が可哀想で…。離婚してからは息子達に笑顔が増えて、今じゃ立派な反抗期(笑)この間なんか「クソババア💢」って言われたわよ😱」


そう言いながらも息子の話を笑顔でする絵美さん。


母は強し‼


No.142

みゆきです。


なかなか更新が出来なくて申し訳ありません😫


ゴールデンウィークで人員不足もあり、半端じゃない忙しさと昼間のメイクさんが急に辞めたため、穴埋めで私が入ったためなかなか時間が出来ません💦


落ち着きましたら更新しますので、しばらくお待ち下さい。


仕事中なので取り急ぎ失礼します。


m(__)m


No.143

みゆきです。


やっと魔のゴールデンウィークも終わり、今日は今までが嘘の様に暇な1日でした。


昼のメイクさん、いきなり「今日付けで辞めます」


この忙しい時期にそれはないだろう💢


シフトの穴埋めで従業員は睡眠時間と休み返上で頑張ってました。


せめてゴールデンウィークが明けてからにして欲しかった😞


辞める時はいきなりはやめましょう。


また更新を再開しますのでお付き合い下さい‼


m(__)m


No.144

母親が入院する病院に行った。


母親は薬の影響なのか痩せたが、口は元気な様だ。


「病院のご飯は不味い」だの「自由がないからつまんない」だの文句を言う。


薬の副作用は辛い様だが、文句を言う元気があるならしばらくは大丈夫だろう。


母親が「寺崎から「結婚しようか?」って言われたわ。今更何なの?」と文句は言うものの、まんざらではない様子。


「いいんじゃない?寺崎恭子になるのも😄」


「もうこの年で名前が変わるのは面倒くさい」


でも、母親はきっといつかは父親の妻になりたいとは思っていただろう。


口では文句を言ってはいるが、表情は青白いものの目は輝いている。


しかし、病院に行く前に寺崎美和から連絡があった。


「あなただけはわかってくれてると思ったのに残念だわ…私は絶対に寺崎とは離婚はしない。あの条件以上を突き付けられても絶対に離婚はしない。離婚してあなたのお母さんと一緒になるくらいなら死んだ方がマシよ‼」


そう言っていた。


寺崎美和も意地がある。


プライドもある。


今まで苦しめられた相手にそう簡単に旦那を渡せるか💢という事だろう。


寺崎美和から父親の悪口を散々聞かされた。


でも離婚はしないらしい。


話を聞いている私は「そんなにどうしようもないやつなら、さっさと離婚したらいいのに」と思うのだが…


寺崎美和と離婚が成立しなければ、母親との結婚は出来ない。


父親はどうするのだろうか?


聞いてみたくなった。


No.145

「もしもし、お父さん⁉」


「おう、みゆきか😄」


「ちょっとお父さんに話があってね」


少しの沈黙の後「今日の夜は空いてるか?」


「今日は休みだから空いてるよ」


「じゃあ、夜にゆっくり話そう」


待ち合わせ場所を聞き電話を切った。


夜6時。


スーツ姿の父親が待ち合わせ場所に来た。


待ち合わせ場所はこれまた前とは違う高級料理屋さん。


前は和食だったが、今日はフレンチ。


メニュー表を見ただけではどんなものか想像がつかない様な長い名前のメニューがたくさんある。


わかるのが「バニラアイスクリームのストロベリークリーム添え」くらい😅


「好きなの選んでいいよ」と言われても、そもそもこんなメニュー見せられても全くわかんない。


とりあえず「牛肉のワインソース煮込み」というやつを頼んでみる。


どう見ても「ビーフシチュー」だ。


ビーフシチューと何が違うのかわからないが、とても美味しい。


ついてきたパンも高そうだ。


父親は色んなものを頼む。


実際に来たものとメニュー表を見比べて「あぁ…これがこのメニューか」と心の中で呟く。


高いだけあり、見た目も豪華だが味は最高だった。


食事も終わり、父親に話を切り出す。


「ねぇ、お母さんと結婚するの?」


「したいとは思っている」


私は寺崎美和と会い、色々話した事を全て父親に話した。


父親は寺崎美和に怒り心頭と言った様子。


「最近、様子がおかしかったのはそれか‼」


話を聞くと、父親が離婚を切り出してから全くという程会話がなかったのに、急に話して来る様になり、妙に優しい。


お見送りなどしてくれた事がないのに、最近は「いってらっしゃい😄」と笑顔で見送る。


「何か企んでいる」


そう思っていたが、みゆきの話を聞いて納得した。


というものだった。


もし何も企みはなくても寺崎美和は父親にそう思われてしまうのだろうか。


少し気の毒に感じる。


父親は寺崎美和とは離婚し母親と一緒になるという気持ちには変わらない様だ。


そして、父親の会社を継がせるのは寺崎美和の長男ではなく、兄である藤村隆太にしたいと言い出した。


兄はきっとOKはしないだろうが、父親の気持ちは固い様だ。


理由は「苦労を知らない長男が会社のトップに立っても先は見えるし、美和が口を出すのは目に見えている。一切の関わりを絶つため長男には継がせない」だそうだ。


父親も離婚に向けて動き出す。


No.146

父親は早速、離婚に向けての準備で弁護士の先生をお願いした。


長い付き合いだという弁護士の先生は、見た目は普通のおじさまだが目が鋭い。


何もかも見抜かれてしまうのではないだろうか?と思った程だ。


父親に連れられて弁護士の先生の話を聞いたが…


まず先生の難しい言葉の意味がわからず、とりあえず「うん、うん」と聞くだけで全く理解は出来ていない。


法律の本を出されて「ここに記載されている通り…」と先生が指で辿って説明をしてくれているのに、私の頭が追い付かない。


まるで知らない国の言葉を読んでいる感覚だ。


バカもここまで来ると怖いものはないかもしれない。


もう少し学生時代に頭を使っておけば良かったと後悔😞


父親は理解をしているのか、色々と先生と話をしている。


父親が出した離婚の条件はこうだ。


慰謝料は今までの不倫の代償として、裁判で決められた慰謝料を一括で寺崎美和に支払う。


養育費は子供3人全員成人しているためなし。


離婚したら一切の面会及び連絡は拒否。


父親からも一切の面会及び連絡はしない。


時期社長には長男ではなく藤村隆太が就任。


今の住居は売却し、売却代金は3人の息子達で分ける。


これに反対したのが長男。


寺崎グループの社長になれると思い、あぐらをかいていた長男。


突然の白紙に驚きと怒りから父親と大喧嘩になった。


父親は「離婚したらお前は寺崎ではなく母親側の石川家の人間になる。寺崎じゃなくなるお前に後は継がせない」と頑なに拒否。


モメにもめた。


兄は兄で「俺は会社を継ぐ気は一切ない」とこれまた拒否。


兄とも話し合いが続けられた。

No.147

兄は「俺は整備士で整備士免許もあるから自動車整備関係の会社ならまだしも、何の知識も経験めないのにいきなり不動産屋の社長になれと言われても困るし、俺は今の仕事も会社も好きだから辞める気は全くない」


それを聞いた長男は「俺は宅建の資格も取り、他社で経験も積んでいる。そんなド素人よりも俺の方が相応しい」


しかし、父親はぶれる事はなかった。


「美和と一切の手を切るために長男を社長にする訳にはいかないんだ‼隆太はまだ若い。今から不動産の勉強をしても遅くはないだろう」


「俺みたいな人間は社長の器じゃない」


「お前なら大丈夫だ😄色々話しは聞いている。今の会社でもうまく仕切ってやってるらしいじゃないか😄」


「だって社長と息子入れても10人しかいない会社だぞ⁉あんたの会社とは訳が違う」


「何事も経験だ。違う世界も勉強になるぞ」


「いや、好きな仕事がいい」


父親も頑固だが、兄も相当頑固だ。


何日も父親と兄は話し合いが続いた。


香織さんも困惑している様子だったが「ねぇ…隆太…お義父さんがここまで仰ってるし…隆太の気持ちはわかるけど…少し折れてみたら?」


香織さんは申し訳なさそうに話し出した。


後から聞いた本音は「毎日来るお義父さんが気の毒になって」と言っていた。


香織さんも最初は兄が社長になるのは反対していた。


しかし毎日父親が来て真剣に話し、兄に土下座までしている父親を見たくなかったんだと思う。


「耐えられなかった」と言っていた。


兄は香織さんの訴えを聞き入れて、仕方なく社長になる事にしたが、しばらくは今の整備士の仕事は続けたいと父親に言った。


父親の「もちろんだ」の返事に納得していた。


あとは寺崎美和と3人の息子達だ。


一筋縄にはいかなかった。


No.148

話し合いがつかずに裁判に持ち込む事になった。


寺崎美和は「離婚はしない」の一点張り。


長男は「社長は俺がなる」


次男は「俺も親父の会社から去りたくない」


三男は「俺は楽出来れば何でもいい」


長男は「俺は父親の会社を継ぐつもりで、不動産一筋で頑張って来た。宅建の資格も取り勉強のために他社で働いている。いずれは親父が築き上げた会社を任せてもらおうと思っていた。俺のこの10年は何だったんだ⁉」


そう訴えた。


会社経営はそう簡単なものじゃない。


長男は不動産の勉強と共に経営学も学んで来た様だ。


家族だけの会社ならまだしも、たくさんの従業員がいるグループの社長となると何の経験も学もないド素人の兄が社長なんて絶対無理だ。


兄も「俺みたいな人間が社長なんて無理だ‼不動産のふの字も知らない俺がいきなり社長になったって、仕事なんか出来る訳がない。長男が社長になるべきだ‼」


兄はそう訴えた。


親の離婚に巻き込まれた子供5人。


母親は違えど、血の繋がりはある。


余り争いたくない。


兄は今の仕事は辞める気はないし、社長なんてとんでもない。


一時はOKの返事はしたが、出来るなら今すぐに撤回したい。


長男は会社を継ぎたい。


父親よ、それでいいじゃないか。


巻き込まないでくれ。


いよいよ、裁判の判決が出る日を迎えた。


No.149

結局、父親と寺崎美和は離婚した。


寺崎美和が折れたのだ。


寺崎美和の条件を父親が飲む形になった。


①長男を社長に、次男も常務ないし専務に、三男は寺崎美和が引き取る。


②不倫の代償の慰謝料として、現在住んでいる住居の権利は寺崎美和に譲渡する。


この2つのみだった。


寺崎美和が「もう疲れてしまいました。好きにして下さい」と一言。


かなり疲れた様な表情をしていた。


旦那に不倫され、長年愛人だった女と再婚を前提とした離婚。


寺崎美和は今までの贅沢な暮らしが捨てられずに離婚を拒否していた。


他に、妻としてのプライドもあった。


しかし、寺崎美和は心身共に限界を迎えてしまった。


「楽になりたい」とも話していた。


プライドより、贅沢な暮らしより楽になりたいという気持ちが強かった。


寺崎美和は離婚してから、人が変わった様に地味になり、性格も穏やかになった。


きっと「社長婦人」という肩書きが外れ、有りのままの自分に戻り、不倫旦那に悩まされる事もなくなり気持ちが楽になったのかもしれない。


「みゆきさん。あなたには色々迷惑をかけたわね。もう会う事はないけど…お元気で」


そう言った彼女は、何処か寂しげだった。


離婚する時は、かなり神経を磨り減らすと聞いた。


今まで築いてきたものがなくなる時でもある。


父親が母親という愛人を作らなければ…


父親が会社の社長じゃなければ…


また違う結果になっていたのかもしれない。


No.150

先日、いつもの様ラブホテルで勤務していた。


「今日は暇だねぇ…」


給料日前の平日という事もあり、お客さんは少なかった。


そこへカップルが仲良く手を繋いで入って来た。


モニターで何気無くお客さんの顔を見ると…あれ?


このお客さん、もしかして…亜希子ちゃんの旦那さん⁉


いやいや、まさかな。


似てるだけかもしれないし…


でも…似すぎてる。


駐車場の方のモニターに切り替える。


ナンバーを確認し、亜希子ちゃんにメールをしてみる。


「聞きたい事があるんだけど、亜希子ちゃんの旦那さんの車のナンバーってゾロ目⁉」


すぐに亜希子ちゃんから返信があった。


「そうだよ😄何かあった?」


「いや、さっき旦那さんに似た人とすれ違ったんだ💦旦那さんの車知らないから、亜希子ちゃんの旦那さんだったのかな?と思って」


「そっか😄」


嘘をついた。


まさか、旦那さんが違う女とうちのラブホテルに来てます、とは言えなかった。

「旦那さんは帰り遅いの?」


「最近仕事忙しいみたいなんだよね💦」


どうやら仕事だと嘘をついて、うちのラブホテルに来ているらしい。


何の疑いもなく旦那の帰りを待つ亜希子ちゃん。


そこへ、旦那さんが入室した部屋から内線があった。


「コスプレのナースを貸して下さい」


うちは種類は少ないが、無料でコスプレをレンタルしている。


その中の一つにナースがある。


コスプレを旦那さんが入室した部屋に届ける。


棚があるのでそこにコスプレを置くから、お客さんと顔を合わせる事はない。


休憩時間を目一杯滞在し、亜希子ちゃんの旦那さんは退室。


部屋は貸し出したコスプレが散乱し、テレビはアダルトチャンネルのまま、使用したゴムも2個ゴミ箱に入っていた。


悲しくなった。


高校からの友人の旦那さんの不倫行為の後片付けをしなくてはならないとは…。

悩んだ。


亜希子ちゃんに知らせるべきか、知らせないべきか。

一応、証拠はおさえておき今は亜希子ちゃんへの報告は出来ない。


少し様子を見てみる事にした。


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