重い女

レス377 HIT数 920656 あ+ あ-


2012/06/10 20:59(更新日時)

当時は地獄だった…



今はその当時を思い出しても、怒りや憎しみ、それと負の感情は沸かなくなった



裏切られ続けた馬鹿な女の90%実話です。



駄文ではありますが良かったら読んで下さい。



どんな事でもコメント頂けるとありがたいです。

No.1711124 (スレ作成日時)

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No.51



ピピピピ…



毎朝5時半に鳴る目覚ましの音にビクッとする。



ほとんど眠ってない。



どうやって夫に聞き出すかずっと考えてた。



以前の私は浮気が発覚した時点で激昂してた。


度重なる浮気で、ある意味免疫がついたのかもしれない。


かと言って、気持ちに余裕など全然なかった。




「ねぇ時間だよ」


トントンと夫の肩を叩く。


「うーーん…ねみぃ…
煙草くれ」


火をつけてから夫に渡す。



「あのさぁ…」


「ん~?」



まだ半分寝てる状態の夫。



「昨日、中井君と一緒ってのは嘘だよね」



「はぁ~?中井だし」




「ふーん…」



夫はまだこの時はあくびをして余裕な態度を見せている。



「私おとーが言ってくれるまで黙ってようと思ったんだけど、やっぱ言うね」



「何?」



目を閉じたまま煙草を吸っている。



「私昨日、◯◯で中井君を見かけたんだけど…おかしいよね?その時間はあんたと一緒のはずなのに」




夫。



完全覚醒。

No.52



「んな訳ないって。
人違いだろ」



煙草の火種が落ちてるのに何度も灰を落とそうとする仕草で夫の動揺が垣間見れる。



「じゃあメール見せて」


「な、なんでだよ」


「昨日の朝中井君からメールきてたでしょ?」


「……」


「それ見せてくれたら私の人違いだったで納得できるし、逆に見せられないのは怪しいよね」



「……」



「ねぇ…どうなの?」



数秒間見つめ合い
夫の口が開いた。



「仕事の材料を買いに行ったのは本当だから」


「誰と?」


「お前が変に誤解すると思ったから中井って言った」


「だから~誰と行ったの?」





「西田」





やっぱり。




「そうやって隠す方が誤解するし怪しいんだよ?」



「部下でも一応女だしお前が気にすると思って俺なりの思いやりのつもりだったんだ」



「好きなの?」


「は???」


「彼女の事が好きなの?」


「それだけは絶対ない!
あいつを女としてなんか見れねーよ」




確かに…。



妻の私が言うのもおかしいけれど、夫の好みはだいたい知っている。


今まで、浮気相手の写メを何度か見た事がある。


夫は綺麗タイプより、可愛いタイプが好みで飲み屋の女と浮気してる割には派手な子は好きではない。


生意気で、でしゃばる女は大嫌い。



お世辞にも綺麗だと言えない彼女は、容姿に限らず、性格的にも全く夫のタイプではなかった。



「勘弁してくれよ~」


「もう嘘つかないで…」


「ごめんな」




夫は私を抱き寄せ
優しくキスをした。

No.53

な… なける。

  • << 55 読んで頂いてありがとうございます😌 この先もっと辛い事が満載です😣 頑張ります💦💦

No.54



あ~

私の勘違いで良かったぁ

本当私ってお馬鹿さんネ

テヘッ!







なんて
思える訳ないっつーの。





哀しいかな



裏切られ続けた私は、そう簡単に信用する事ができない体質になってしまった。



夫の言葉を素直に信用できなくなってる自分も悲しいけど…。




夫曰く


素人は面倒くせーしキャバや風俗の女はプロで後腐れなく単純に遊び。だから浮気とは言わねーの。



どんな持論ですか(呆)




5年程前。



夫が言ういわゆる『素人』の娘との浮気が発覚。


一時、熱が入った夫は、
「少しの間だけ自由にさせてくれ」と出て行った。



女と対峙。


私圧勝。


夫の家出は3日で終了。




激痩せした私に、


「俺が馬鹿だった。心入れ替える。本当にごめん」



どんなに悲しくても悔しくても、私の選択肢は一つしかないじゃん…



夫を愛してる私は
『許す』しかないんだ。



悔しいけれど


惚れた弱み。


私が我慢すればいいんだから…





朝食の後片付けをしながら、ふと思う。




「西田由美も素人じゃん」



思わず口にして苦笑する。



この時ばかりは、夫のアホな持論に賛同する私がいた。

No.55

>> 53 な… なける。

読んで頂いてありがとうございます😌


この先もっと辛い事が満載です😣


頑張ります💦💦

No.56



自分でもわかってる。



私は重くてウザイ女。




好きになるとその人しか見えず、どんな些細な変化にも敏感で常に行動を見ている。





執着。



依存。



泣いた数だけ
重症化してしまった。




子供の笑い声。


愛する人の温もり。


幸せな家族




それをまた失う恐怖。



もう耐えられない。



絶対に手離したくない。




私の執着は加速する。

No.57



今夜も夫の寝息を確認してから静かにリビングに行く。



ケータイの暗証番号を私が知ってるなんて夢にも思ってないだろうな…



私のやってる行為は
卑劣なんだと思う。



だけど、どうしても
自分を抑制する事ができない。



確認せずにはいられない。




そこに幸せがないとわかっていても…。






受信箱


昨日は買い物に付き合ってもらってありがとです😉
休日なのに家族の方々に申し訳なくてちょっと罪悪感⤵⤵



送信箱


気にすんな😜
俺も楽しかったし😄
今日は忙しいけど頑張ろうな👍




―――


和也さんと1日過ごせて嬉しかったから、今日は由美頑張れちゃう❤

また出かけたいな😍






は?



和也さん?



由美だと?





いい歳して何が由美だよ。罪悪感なんかない癖に!



心の中で悪態をつく。




会社の買い物なんて嘘だった。



西田個人の買い物に
夫が付き合っている。



メールの文面は上司と部下の会話ではない。




肩で息をしながらも、妙に冷静に見てる自分が不思議に感じた。




始まった。



私の地獄。

No.58



私は苛々してた。




あの日曜日から5日経過。



2人のメールのやり取りは
毎日行われていた。





―――


和也さんの仕事してる姿
超かっこいい😆
ずっと見てたい😍


―――


とか言いながらサボってんだろ😠
ご褒美やらねーぞ😜


―――


今日早く終わりそうだね✌どこか行きたいなんて由美が言ったらイケナイよね😢


―――


飯食いに行こ👍
先にあがってセブンイレブンの駐車場で待ってろ~😁


―――


嬉しい‼‼‼
うん😆
待ってるね❤





確実に2人の距離は縮まっていた。



ケータイを盗み見してる私は、問い詰める事もできず苛々ばかりが募ってく。



土曜日、仕事が終わらないと言う夫は日曜日の昼近くに帰宅した。


一睡もできなかった私。


でも帰宅した夫に笑顔で
「おかえり」


夫は疲れた顔をしてる。




本当に仕事の疲れ?



………。




仕事なんて嘘!


絶対あの女と一緒だったんだ!


嘘つき!!


もう黙ってられない!




その確信が欲しく私はケータイを見る機会を伺った。





そしてこの夜


私は怒り狂う。

No.59



夕飯を終えたあと
夫は早々とベッドに入った。


はやる気持ちを抑え
夫が眠りにつくのを待つ。



知りたいけど知りたくない。


私の考え過ぎであってほしい。



夫が寝たのを確認して、
祈るような気持ちでケータイを開く。



土曜日、彼女から13時にきてるメールがその日の最後でその内容も仕事に関する事だけだった。




…え?


これだけ?



『どこ行く』『何する』や『楽しかった』等のメールが絶対にあると思い込んでた私は拍子抜け。




電話で話したのか…


いや、仕事中に隙を見て、こっそり約束するくらい出来るはず。


それとも先週の日曜日に、すでに約束してたとか…




(あー!もう…)




疑い深い自分にイラッとする。




「あ。中井君」



いつも見るのは彼女と交わすメールのみだけど、中井君に送信してるメールに気がついた。



―――


お疲れさん。
今終わって事務所閉めたから、お前もそのまま直帰しちゃっていいよ。
俺月曜日は午前中一杯会議で居ないから、休み明けで大変だけど宜しく頼むな。



送信時刻21:01





やっぱ…


終わってるじゃん!




中井君は社外に出ていた。


事務所では彼女と2人きり。


だからメールする必要はなかった。




体温がグッと上がった。


No.60



夫が乗る車。



ルームランプをつけ、
最初に灰皿を見てみる。



夫のではない、違う銘柄の煙草が何本かあった。



一回り細くてメンソール系の
いかにも女性向けの煙草。



私、スイッチ・オン。



ダッシュボード
サイドボード
ドアポケット



ありとあらゆるところを、何かにとり憑かれたかのように探してる。



ケータイを見た事を言ったとしても特別何か決定的な事があった訳ではなく、部下に飯奢って何が悪いと言うだろう。



それよりもケータイを見ていた事にキレるのが目に見えてわかる。



言い逃げされない為にも、その決定的な証拠を探す事に一心不乱になっていた。





クシュン!


どのくらい時間が経ったのか…。


寒さで身震いする。



昨夜、彼女がこの車に乗ってたのは確実なのに、煙草以外にこれといったのが出てきてくれない。



気がつくと、手が氷のように冷たくなっていた。



12月の冬空。



熱くなった頭も少し冷ましてくれたらいいのに…




ふと見たら後部座席の足元に、くしゃくしゃになった紙袋が置いてある。



手に取り見たら、
ファストフード店の紙袋だった。


中を見ると、ハンバーガーの包みやサラダのカップ等のゴミが入っている。




「これって…」





どれも2個ずつ。




その中にレシートも入ってて、食い入るように見た。



日付は今日。

◯◯店で時間は10:13分


◯◯店は会社とは全く違う場所で、その時間そこにいるのは明らかにおかしい。



しかも2人分。



よく見ると丸められた紙があって、それを伸ばした。




「見つけた!」




なんて思えなかった。




体温は一気に急上昇!



理性が吹っ飛んだ。


No.62

読んでます😄どうなるのかドキドキして💨続き楽しみに待ってます💡

  • << 64 コメントありがとうございます✨ 更新遅くなっててスミマセン💦 これからも読んで頂けると嬉しいです😌

No.63

いつも楽しみにして読ませていただいています😃

すごく切なくてやるせない気持ちになりますし、過去の旦那さん方々の気持ちがわかりません…😢
こんなに不安になる結婚ってありませんよね…


早く続きが読みたいです😃

  • << 65 ありがとうございます✨ 信じられませんよね😓 私の好きになるタイプに問題があるのかもしれません💦 これからも宜しくお願いします😌

No.64

>> 62 読んでます😄どうなるのかドキドキして💨続き楽しみに待ってます💡

コメントありがとうございます✨


更新遅くなっててスミマセン💦


これからも読んで頂けると嬉しいです😌

No.65

>> 63 いつも楽しみにして読ませていただいています😃 すごく切なくてやるせない気持ちになりますし、過去の旦那さん方々の気持ちがわかりません…😢 こ…

ありがとうございます✨


信じられませんよね😓


私の好きになるタイプに問題があるのかもしれません💦


これからも宜しくお願いします😌

No.66



5年前、家を出た夫の行為は私に強い不安感を与えた。



また奪われ去られる恐怖。



あんな思いもう絶対に嫌。



自分の中で苦渋の決断をする。



夫が言う、お金で済む
『後腐れがない』男の遊びを黙認するようになった。



それがギリギリ私の精一杯。



馬鹿でも歪んでいても愛する人を失うよりはいい…



浮気癖さえ抜かせば、夫は優しい人で子供も可愛がり会社では人望もあってみんなから慕われている。



そんな夫を格好良く、誇りに思い、心から愛していた。







だけど…




西田由美はだめ。





会社という私が入り込めない領域で毎日時間を共有し仕事が大変になればなる程お互いが共鳴し合い、そこに錯覚した感情が芽生える。



夫がよく言ってた


「西田は本当によくやってくれる」



仕事がどんなに遅くなっても最後まで手伝うのは彼女はあなたの事を好きだからなの…



夫もまた、仕事を通し、
特別な感情を抱くかもしれない。




私は毎日苛々と不安な気持ちで一杯だった。




そんな時の朝帰り…




仕事から完全に逸脱した
2人の証拠を握り締め、私は夫に馬乗りになっていた。


No.67



「昨日何してたのよ!!」


夫は尋常じゃない私の行動に驚き、一瞬で目を覚ました。


「なんだよ、どうしたんだよ」


「朝方まで仕事なんて嘘じゃん!あの女と一緒だったんでしょ!」


「何言ってんだよ。仕事に決まってんだろ。てか、何してんだよ、どけよ」



とぼける夫に馬乗りになってる私は、パジャマのボタンが吹っ飛ぶほど激しく揺さぶり興奮して放った。



「ふざけんな!いつもいつも嘘ばっか言ってんじゃねーよ!!!」




夫の顔色が変わる。




「てめぇ…誰にそんな口きいてんだ」




その低音の声に怯む。




生意気な女は大嫌いで未だ男尊女卑の時代錯誤した考えを持つ夫のキレてるとこは本題とはずれている。



だけどそんな夫を知っているから私も今までどんなに喧嘩しても、そんな態度や言動を夫にした事はなく、この時が初めてだった。



「どけ」



こんな時でも夫に従ってしまう自分が情けなかった。




「朝までどこにいたの」


「だから仕事だって言ってんだろ」


「本当の事言って!もう嘘つかないでよ!」


「いい加減にしろよ!明日も朝早いってのにそんなくだらない事で起こしてんじゃねーよ」



横向いて寝ようとする布団を思いっきりはがし私は言った。



「こんな所で仕事するの!!」


くしゃくしゃになっているラブホテルの割引券を夫の前に叩き付けた。



さすがに動揺する夫。




「ち、違うし」


「何が違うのよ」


「これあれだよ、あれ」


頭をフル回転させて、まさに今言い訳を考えてる真最中の夫にだめ出しする。



「11時過ぎまで事務所で寝てたという人が、どうしてこんな時間にこんな場所でハンバーガー買えるの?しかもこれ2人分じゃん」




沈黙。



私は勝ち誇った気分にすらなった。




「言ったらお前が傷つくだけだろ」



心臓が激しく波打つ。



「私の事は気にしなくていい…お願い本当の事言って」




再び数秒の沈黙。




夫は煙草に火をつけ大きく煙を吐き出してから、ゆっくり口を開いた。




「昨日の夜はお前の言う通り仕事じゃなかった」



「誰かと一緒だったんだよね?」



小さく首を縦に振り



「…昨日は」




私は息を飲んで
夫の次の言葉を待った。

No.68



「昨日は女といた」



わかっていても口に出されるとショックが大きく言いたい事がたくさんあるのに言葉が出てこない…




だけど


沈黙も怖かった。



何か言わなくちゃ…



「どうし…」



言いかけた時夫が遮った。



「西田じゃないから」



「…え?」



「お前は西田との事を疑ってるけど、同じ会社で面倒くさくなるし、あいつを女としては見れないって前にも言ったろ」





彼女じゃない…?




最近は仕事が多忙で飲みには何ヵ月も行ってない。


帰宅も深夜が多く
ご飯とお風呂で即熟睡。


そんな状態で他に女を作る暇なんてあるはずない。



なのに
西田ではない別の女…?



私は混乱しつつも冷静に考えていた。



「じゃあ誰といたの?」



夫は私の顔をチラッと見て



「抜いてきた」



「は?」




「デリだったんだけど俺で最後って言うからそのまま泊まって朝駅まで送る途中でハンバーガー買ったんだよ」


「……」


「こんな事普通言えねーだろ?お前が嫌な思いするんだしよ」


「遊んできたのはマジ悪かったけど、単に男の生理現象だから」


「西田とはありえねーし、お前が心配するような事は一切ないよ」




多弁になる夫。



私は、その夫の顔を物凄く冷静に見ていた。




「…ふーん」



納得いかないような私の態度に夫は



「じゃあ俺はどこで抜けばいいんだよ!」



拒否してレスになった私を責めるかのように若干キレ気味に言った。




それって



逆ギレじゃん…


No.69

一気に読ませていただきました😃

わたしも付き合う人が浮気性の人ばかりで
いつも悩まされてます😣
今の彼氏も過去最高レベルの浮気性で💦💦

携帯って見てもいいことないのに見ちゃいますよね😢

読んでると気持ちが共感できてしまいます😣

続き待ってます!😃✨

No.70

>> 69

はにこさん😄
ありがとうございます✨


私も3番目の旦那の浮気が最高レベルです(笑)


当人でしかわからない辛さだと思うので共感して頂けると、ますます頑張って進めようと思えます👍


これからも読んで頂けると嬉しいです😆

No.71



夫は嘘をついている。



暗黙の了解となってる風俗を言い訳に出してきた。



数秒の間に必死で考え閃いたその言い訳は、いかにも辻褄が合ってるかのように見える。





だけど…



無理があった。





いつもは堂々と『飲み』に行くと言う夫は、仕事を言い訳にする事はなかった。



ましてや、こんな多忙な時に行くような事もない。



夫もそれは自分でもわかっていて日曜日の件もあり、『飲み』と言うと怪しまれるから今は『仕事』と言った方が自然だと思ったのだろう。





毎日メールをしてる事を言ってしまおうか…




いや…



今言ってもまたうまく逃げられ、ケータイ見た事に逆ギレして暗証番号変えられたらまずい。




夫を見ると、回避できたと思っているのか安堵の表情を浮かべて煙草を吸っていた。




嘘をつく、言い訳をする、という事は家庭を壊してまでとは思っていないはず…



今夜はそれで良しとしておく。



動かぬ証拠がない限りどんなに嘘くさい言い訳でも言い通すだろう




もう少し様子を見よう…




「ボタン2個取れちゃってるよ。ったく、バカ力出しやがって」


「次はアソコちょんぎるよ」


「女になるのもいいなぁ」


「アホか…もう寝る!」


「本当に悪かったよ
ごめんな」


キスをしてこようとする夫を手で払い背中を向けて布団に潜った。



(何考えてんのよ)



私は、旦那の嘘と彼女との妄想に苛々して明け方近くまで眠れなかった。

No.72



私はどうしていつも愛する人に裏切られるのだろう…




知らないふりをしてれば
良かったのだろうか…




ううん。




そんな事できるならとっくにしてる。




裏切られ続け傷ついてきた私にそんな気持ちの余裕など全くなかった…





常に心の中にある恐怖。




好きなの


愛してるの



お願い…


行かないで…


どこにも行かないで!!






頼りがいも責任感もあり、優しくて冗談を言い合ってよく笑う。



友達に

「涼子の旦那って本当にいい男だねぇ」と言われて、ちょぴり誇らしく思う。



一緒にいると楽しくて
心から幸せを感じられる。





夫しか見えない。



夫を誰よりも愛している。



他の人には絶対渡さない。





家族で幸せだったあの時。



人が羨むほど仲が良く
愛し合ってた私達。




その記憶が鮮明であるほどそこに依存し手放せない。




彼女の存在が明らかになってからの私はどんどん視野が狭くなり、夫の行動に敏感で、夫の言葉に一喜一憂し、ますます夫に執着していく。





私って本当に




重い女なんだ…


No.73



―――


和也さんが好き…
由美、もうこの気持ち止められない…
わがままは言わないから
和也さんの側に由美を置いて下さい💓

愛してます❤


―――


俺も一緒にいて楽しいよ😉これからもよろしくな✋







「だから違うっつの」



「何がどう違うのよ!好きだの愛しているだのって言葉が出てるじゃん!」




深夜1時。


夫と私は揉めていた。



帰宅した夫がお風呂に入ってる間にケータイを見ようとしたらすでにメール画面になっていた。



閉じ忘れていたのだ。




「てめぇ何勝手に人のケータイ見てんだよ」


「だから、おとーの着信音変えたから、それを聞くのに自分にかけようとしたらメール画面になってたの」


「だからって内容まで見るんじゃねーよ」


「そういうあんただって私のケータイ勝手に開くでしょ」


「俺はいいんだよ!別に疑って見てるわけじゃねーしお前とは違うんだよ」


「なにそれ…」


「それに西田が一方的に言ってるだけで、俺は何とも思っちゃいねぇよ」


「何にもないのに女性があんな風に言う?言うわけないじゃん!」


「んなの知らねーよ」


「あんたもその気になるような事言ってるからでしょ!」


「俺のメール見てみろよ。好きだの惚れただのって一言でも書いてるか?」


「一緒にいて楽しいって言ってるじゃん」


「その程度は言うだろが。仕事も一緒だしやりづらくなるのが一番やだしお愛嬌だっつの」



怒りでなのか悔しさでなのか体の震えが止まらない。





「私、彼女に電話するね」




夫は飲みかけのお茶をこぼした。

No.74



「勘弁してくれよ」


「妻帯者とわかってるのに好きって言う人は信用できないから」


「だからそれは俺が相手にしなきゃ済む話だろ」


「はっきり断ってないじゃん!あんたはそれでいいとしても中途半端に接してると相手の気持ちはどんどん進むんだよ?」


「わかったよ。ちゃんと言うから」


「じゃあ今ここでメールして」


「こんな時間寝てて迷惑だろうが。明日事務所で言うから」


「言ったかどうかなんて、私にはわかんないじゃん」


「大丈夫だって。ちゃんと言うから心配すんなよ」


「約束できるの?」


「あぁ絶対約束する」


「もし嘘ついたら次はおとーに言わず私彼女に電話するから」


「おう。わかった」



この時は夫を信じようと
必死だった。

No.75



奇しくも、翌日から仕事が更に多忙になり深夜2時3時に終わる事がザラになる。



家から車で片道1時間ほどかかる通勤は、睡眠時間を考慮して事務所で寝る事が多くなった。



事務所にはシャワーや寝具が
完備されている。



夫が帰宅しない事によって私は悶々とした毎日を過ごしていた。



夜は何度となく夫に電話してしまう。



電話から聞こえる回りの音で本当に仕事してるのがわかると安心した。



逆に静かな時は

「どこにいるの?」

と、つい聞いてしまう。




「事務所でちょっと待機」


「1人?」


「あ、うん。そうだよ」




…近くにいるんだね。


一緒なんだね。


本当にそこは事務所…?




聞きたいけど聞けない。



忙しくて毎日寝不足で疲れてる夫に、そんな煩わしい事を言うのは気が引けたから…



そのあとまた電話した時は作業の音が聞こえてて本当に事務所にいたとわかり、疑う自分を反省した。




次の日の夜11時。



またいつものように
夫に電話をした。



「レーンが故障して今仕分けがストップしちゃってよ」


「忙しい時に大変だね。大丈夫?寝る時間あるの?」


「レーンが復活するまで何もできないし、うちじゃなく向こうの会社の事だから、とりあえず待機だよ」


「そうなんだぁ3人で?」


「いや、あとは指示書と個数の確認だけだから俺1人で出来るし、ずっと遅かったから今夜は2人とも帰らせたよ」


「そっか。そういえば作業着どうしてんの?」


「車に二着置いてたのを着回してるけどくっせーかも。明日は帰らないと」


私はクスクス笑って

「本当に遅くまでお疲れ様。休める時はゆっくり休んでね」


「お前も早く寝ろ~」


「うん。寂しいから明日は帰って来てほしいな」


「俺も帰りたいよ。
少し仮眠でもしとくよ」


「おやすみ」



忙しい夫には悪いけど
私はニコニコ嬉しくなってた。


最近は揉めてばかりだったから久しぶりに普通に会話ができたのと彼女は帰ったって事で夜中なのにテンションが上がってた。




そうだ!



ご飯もコンビニの弁当ばかりって言ってたし、お弁当と作業着持っててあげよう!



今夜は1人って言ってたし突然行って驚かせてやろ~っと!



テンションが上がった私は夫を喜ばせようと夫のいる場所へと車を走らせた。

No.76



今入ってる会社の敷地内に事務所を構えた日、まだ机やその他の荷物が乱雑になってるって事で私は手伝いに行った事がある。


鍵も一つしかなくとりあえずスペア作るまではドア横にある缶の下に置く事になってた。




夜道は交通量が少ないから40分くらいで到着した。



大きな会社の門を通過する時は、人様の家に勝手に入るようで変に緊張した。



門のすぐ近くに車を停め、その左奥に夫の会社の事務所がある。



正面には大きな倉庫があってそこで24時間体制で作業が行われていた。



私は誰かに会うと気まずいと思い足早に事務所に向かった。



軽く呼吸が乱れてるが
誰にも会わずに済んだ。



事務所の正面はドアだけで窓は反対側にあり、その回りは用水路のようになっている為、中の様子は一切見えない。




静かにドアノブを回してみる。



鍵が掛かってた。



(あれ?仕事始まっちゃったのかなぁ…それとも鍵かけて寝てるのかな)



勝手知ったる私は、缶の下にある鍵を取って静かに開けた。



うるさっ



開けたら正面にあるテレビがやたらと大きな音でついていた。



右側に衝立がありその奥に2畳ほど布団を敷くスペースがある。



机を見ても夫の姿が見えないので私は迷わず衝立の奥に行った。







私はこの光景を
何度目にするのだろう。






男の腕枕に、女は首に腕を絡ませて抱き合うようにして眠っている…。




…おとー……





その脇には怜奈に笑われた白の股引きが脱ぎ捨てられていた。

No.77



ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン…




激しく波打つ鼓動





立ちすくみ体が動かない。






…くっ……



…い…息が…



…苦しい



……けて



…助けて



死んじゃう…



…苦しい



…おとー…



私…死んじゃうよ……




……助けて…



怖い…



怖いよ…



……お願い…




おとー……



……………………………


……………………


……………





いやーーーーーっ!!!





私は衝立を布団に向けて
思いっきり倒した。

No.78



夫の目は忙しそうに
右に左に動いてる。



右に私。


左に西田由美。




誰も口を開かない。




夫は立て続けに煙草に火をつける。




西田由美も煙草を吸っている。



それは、車の灰皿にあった銘柄と同じ煙草だった。





毎年恒例になってる、夫の会社のBBQに家族で参加した時に、入社したばかりの彼女に一度会っている。



色黒でショートヘアに口が大きい彼女を見た時、申し訳ないけど『猿』を連想させた。



声も大きく新人の割には、回りに指示をしていたり、ちょっと生意気だなと思った印象があった。



全く夫の好みではない彼女だったから、異性と長時間に渡り仕事をするようになっても私は全然心配してなかった。





それが私の誤算。





毎日過酷な業務をこなし、お互い助け合い、忙しければ忙しい程やり遂げた時の達成感を共有する。



まるで、大変な時期を共に生き抜いてきた戦友のような強い絆がそこに生まれたのかもしれない。




悔しい……




私が出来る事と言えば体の心配や身の回りの世話しかない。




私が入り込めない領域で、2人に特別な感情が芽生えたのが悔しくてたまらなかった。





「何考えてるの…」




沈黙を破ったのは私。


No.79



「よくこんな事できるね」



2人は黙っている。



「ここってラブホ?」



「仕事忙しいって、寝る時間ないって、そう言いながら毎晩毎晩こんな事してたんだ?」



「今日初めてだから」



夫が小さな声で言う。



「私にどれだけ偉そうに言ってた?」


「……」


「言ってたよね?西田は全くタイプじゃないしあの女だけはありえないって」


「……」



「西田さん。あなたは何考えてるの?既婚者だとわかってて平気でこんな事できる人なの!」




「……スイマセン」




顔は神妙にしていながらも爪をいじりながら煙草をふかしている女の態度に私はブチギレた。




ダンッ!!!


机を叩いて立ち上がり



「謝るくらいなら最初からやってんじゃねーよ!!


良識ある人間は既婚者の男に色目使ったりしねーんだよ!


犬猫じゃあるまいし近くにいるものにすぐ手つけて恥ずかしくないの!


あんたは女だったら誰でもいいのかよ!!


大の大人2人が会社でふざけた事やってんじゃねーよ!!!」




もうどっちに言ってるかわからない状態だった。



夫は私の言動に怒らず、
相変わらず目が泳いでた。



激しく肩で息をしてる私は続けた。



「会社の責任者がする行動ではない。


あなたも既婚者とわかっててこんな事して、人を傷つけても何とも思わない人。


こんな事があった以上、
一緒に仕事なんかさせられないから」




「どうするんだよ」



夫の顔は少し赤みがかってて怒りを抑えてるのか動揺してるのかは判断がつかなかった。





「西田さん。




あなた…




会社辞めて下さい」


No.80



西田由美は動揺も見せず
ただ黙っている。



私は煙草に火をつけ言った。



「黙ってても何の解決にもならないんだけど」



「仕事辞めるのは無理です」


「まだ一緒に仕事しようと思ってるの?」


「……」




「じゃあ…


あんたが辞めてよ」


夫に言った。




「無理だろ」



「じゃあどうするのよ!」




進展しないまま
時間ばかりが過ぎて行く。





私は核心に触れた。




「私と離婚して、この人と一緒になりたい?」




西田は組んでた足を戻し、顔を上げ初めて反応を見せた。




夫は眉間に皺を寄せ、
ジッと一点を見つめている。




時間が止まったかのような沈黙が流れる。





静寂。





たまに何か機械的な音が微かに聞こえてくるだけで、音のない空間は耳鳴りがやけに響き重苦しい空気が漂っていた。

No.81



握っている手の中は
じっとり汗をかいている。





こんな状況…




二度と経験したくなかったのに…。





前の夫、健一は私の目の前で女をかばいキスまでしようとした。




あの時の屈辱感は今でも忘れない。






怖い…




逃げたしたい…





私は今



また同じ思いをするのだろうか…。





長い沈黙が、自分の言葉を後悔に変えようとしてる時夫は突然立ち上がった。




私の腕を掴み



「帰ろう」



と言った。





限界だった。




匂ってくるような生々しさを感じるこの空間にいる事が…。




私は彼女の顔は見ず、夫に引っ張られるようにして、その場から離れた。

No.82



くっきりとした月のまわりに無数の輝きを散りばめている冬の夜空。




前を走る夫の車。




どこまでも続く夜空に
テールランプの赤い光が、今日見た光景を何度も浮かび上がらせ、ひどく残酷に私の目に映る。






どうなっちゃうの…?




どうしたいの…?




さっきあの場面で帰ろうと言ったのが答え…?




いや…




あの状況に耐え難かっただけなのかもしれない。





彼女の事が好き…?





抱き合う2人がまた浮かぶ。




私は窓を全開にし吹き込む冷気を全身に浴びながら、喉がつぶれる程大きな声で叫んだ。




「うぁぁあーー!!!!」




嫉妬で狂いそうになる自分を抑える術が他に見つからず、赤いテールランプが滲んで見えた。


No.83



「こんな状況で、もう嘘は言わないで」



「わかってる」



私達はベッドに腰掛けていた。



「どうしてこんな風になっちゃうの?


同じ会社で、しかも部下だよ?


事務所であんな事して中井君が知ったらどうするの?



どうしてあんな事ができるのよ…



どうして…よ…



どうして…」




涙で言葉に詰まる。




「本当に悪かったと思ってる」


「おとーはいつもそうじゃん…いつも口ではそう言うけど本当に悪いなんて思ってないんだよ」


「思ってるよ」


「付き合ってるの?」


「いや、それはない」


「もう嘘つかないでって言ったでしょ?全部話してくれていいから」


「本当に付き合ってるとかじゃないんだ」


「どういう事?」


「俺が仮眠してた時に西田が戻ってきた。

布団の中に入ってきて…

それで…」




「女のせいにしてずるいよ…

いくら布団に入ってきたとしてもそれを受け入れたのは自分の意思じゃない」


「……」


「初めてじゃないんでしょ?

この前のホテルの割引券。

彼女と行ったんだよね?」




夫は下を向いたまま


「ごめん」




「付き合ってなくてそんな事する?」


「俺は好きだと言った事も付き合おうとは言った事も一度もないんだ」


「なによそれ…」



ずるい夫の言葉に苛ついてくる。



「ただ…


西田の気持ちに正直悪い気はしてなかった。

この前の土曜日。仕事が早く終わって飯食いに行った時、酒飲んだらいい感じで酔った」



心臓がドクドクする。



「それでどうしたの…?」



「西田はタクシーで帰して俺は車で寝ようとしたら、一緒に車で寝ると言った。

俺もすげぇ眠かったから、西田を後ろに寝かせりゃいいと思って寝ようとした時キスしてきて…」



ドクドクドクドク…


耳を塞ぎたかった。



「お前は信じないと思うけど最初はそんな下心はなかった。

これは本当だから。

酒が入り女から来られた事で抑える事が出来なかったのは事実だから言い訳にしかならねぇけど…」




女の行動も許せないが、
夫のずるさに腹がたった。





「それって…


彼女の気持ちを知りながら自分のはけ口で利用してるだけじゃない!!」

No.84



「そうかもしれない」



夫は下を向いたまま、つけない煙草を指先でずっと回している。



「ひどいね…」


「自分でもそう思う」




夫にはそう言ったが、既婚者にそんな行動を見せる女に同情する気持ちなど更々なかった。




「こんな事があったんだから一緒に仕事はしてほしくない。

彼女が辞められないのなら本社に戻してよ」


「それはちょっと厳しいんだ…」


「どうしてよ!いくらでも代わりの人いるでしょ!」


「今の所は仕事内容が特殊で西田は全部こなせるし、この忙しい時にまた一から人に教える時間もなければ本社も人手不足の状態なんだ。



それに…」



「それに、なによ?」



「中井が来週から本社に戻る」




「え?」




夫の言葉がよく理解できなかった。



「戻るって?今の所に誰か新しく配属されるの?」



「いや…」



「は?どういう事?」



「今の所は西田と2人で回すようになる」




頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。




「仕事辞めるのは無理です」




そう言いきった彼女の言葉に強い意志を感じた理由はこれだったのか…。




「なんでこんな忙しい時に人を減らすのよ!あんたの指示で何とかならないの!」


「規模は小さいが○○社に専属でうちの運送部が入る事になって、人手不足な上に他にできそうなのがいないから中井に任せる事になった。来週から本社で研修が始まる。


こっちも忙しいが、
何とか回すしかないから」



「2人って事は今まで以上に帰りも遅くなるし泊まりも多くなるって事でしょ!


こんな事をしときながら、それを私に認めろって言うの!!」






もう嫌だった…



これ以上傷つくのも
辛い思いもしたくなかった…





あの時…




飛び起きた2人に私はどう映っていたのだろう…



あらわになってる彼女の上半身に急いで布団をかけた夫。



目を当ててられない
その状況に背を向けた私。



急ぎ着替える布の摩擦音にベルトをカチャカチャさせる音が眠る前の2人を連想させいやらしく耳に響き、私の胸をえぐった。





その光景が、この先ずっと私を苦しめる。





この時は




まだ…





序章でしかなかったのだ。

No.85



カタ…カタ…カタ…



パソコンの画面がやけに眩しく、打ち込む指が思うように動かない。



縦に並ぶ数字が歪んで見え凝視すると吐き気がした。




目を閉じ瞼を指で抑える。




閉ざされた視界はやがて無音となり、私を闇へと導いていく…




…………………………





「涼子!」



ハッとして我に返った。



「どこか具合悪い?」



私の顔を心配そうに覗き込みながら言ってる彼女は、会社の先輩で奈緒美。



小さな建設会社の事務員として勤め出してから奈緒美は7年、私はもうすぐ4年になる。



奈緒美は40歳バツ1で、
中2の女の子を女手ひとつで育てている。



入社したての頃は奈緒美の性格のきつさに困惑しその愚痴を夫に漏らしてた記憶がある。



ちょうどその頃の奈緒美は離婚で揉めてる真っ最中で毎日苛々して刺々しく、右も左もわからない私は新人イビリされてると勘違いしキレてから仲が良くなった(苦笑)



愛人が包丁を持って自宅に乗り込んできて警察沙汰になった事。


夜通し続く嫌がらせ電話にノイローゼになりそうな事。


旦那は逃げてばかりで話しにならない事。



そんな辛い胸の内を話してくれて、私も過去の話しをしてから一気に仲が深まった。




「旦那と何かあった?」



奈緒美の言葉にドキッとする。



夫の浮気をある程度知ってる奈緒美だが、西田の事はまだ話してなかった。



「ううん。なんだか昨日眠れなくてボーッとしちゃった」


「今日めっちゃぶっさいくな顔してんよ~」


「ひっどぉーそんな事より奈緒美、○○工業の見積り今日じゃなかったっけ?」


「あ!いっけね!その前に数量の確認しなくちゃいけないんだった」


慌てて電話した奈緒美は、声のトーンを上げ丁寧に話している。


まさかくわえタバコでかけてるなんて相手は思ってもないだろう(苦笑)



確かに奈緒美の言う通り、朝まで眠れず泣き腫らした私の顔は酷いものだ。



でも奈緒美は余計な詮索はしてこない。



いつも彼女には話すのに、今回ばかりは言えずにいた。



話すとそれが現実だと思い知らされるようで口にするのが怖かったから…。

No.86



「ただいまー」



もう一人の事務員
綾香 24歳 独身



「おかえり!
今日は忘れ物ないね?」


「完璧ですってばぁ」


袋をガサガサする奈緒美が


「…付箋は?」


「ぎくっ!」


「ギクッじゃないよー!
ったく、エッチばっかしてるから集中力が欠けるんだよ」


「奈緒美さんも少しはしないと干からびちゃいますょ」


「なにぉぉぉお!」




そんな2人の会話に思わず笑ってしまう。



綾香は入社して1年。


明るくて悪びれない態度も憎めなく、いつも回りに笑みを与えてくれる。



今まで何かしら仕事を持ってた私だけど、この時ばかりは専業主婦でなくて良かったと心から思った。



一時でも忘れさせてくれるこの場所は私にとって大きな救いであり、そしてまた同じような経験を持つ奈緒美はありがたい存在だった。



「涼子さん大丈夫ですかぁ?なんだか顔色悪いですょ」


「あ、うん。
大丈夫、大丈夫」


「無理しないで下さいね!涼子さんが倒れたら愛するダーリンも心配しちゃいますょ」


「あんたは人の心配してないで、明日の現場の確認とって○○にさっさとFAX流しちゃいな」


「はーぃ」


「涼子、あんた無理しないで帰ってもいいんだよ?」


「ありがと。心配かけてごめんね。大丈夫だから」



回りに心配かけて申し訳ないけど、今日は無理しても会社にいたかった。



(ホントごめんね…)



~♪♪♪



と、心の中で思った時
メールが届いた。



夫からだった。



No.87



―――


寝てなかったみたいだし、大丈夫か?

昨日言った事は守るから。

本当にごめん。

何か見つかったか?






「はぁ…」



私は小さく溜め息をついた。




――昨夜



「確かに今まで以上に忙しくなるし帰れない事も多くなると思う。


俺西田にはっきり言うし、どんなに遅くなっても絶対に帰らせる。


誓ってもうあんな事はしない。


今はどんな事言っても信じてもらえないと思う。


お前の気が済む事があれば何でも受け入れるよ。


俺はお前が一番大事だから…」




私はもう言葉が出てこなく沈黙したまま時間だけが過ぎていった。



眠気の限界にきた夫がベッドに横になろうとした時



「シャワー浴びてきて!」



咄嗟に出た言葉に自分でも驚いたが、夫は何も言わず浴室へ向かった。



体を流し戻ってきた夫は、背を向けて布団に入ってる私の頭を撫で



「本当に悪かった」



私は頭まで布団を被り
夫の手をはね除けた。


お互い無言だった。


しばらくして夫の寝息が聞こえてきて、私はあの光景を何度も振り払いながら、布団の中で朝まで咽び泣いていた。





―――


私の気が済む事見つけました。




送信。









本当に



信じていいんだよね…?

No.88



毎日仕事帰りにスーパーに寄り、夕飯の献立に頭を悩ませながら買い物をする。


家に着くと座る間もなく、そのまま台所に立ち仕度を始める。


「怜奈ー学校からのプリントあったら早く出しなさいよー

あ、それとお風呂よろしく~」


「えー」


「えー言わない。ご飯前に一緒に入ろ!」


「よっしゃー!んじゃ洗ってこよ~っと」


夕飯の仕度の合間に怜奈が取り込んでくれた洗濯物を畳む。


お風呂に入り食卓につく時間はいつもだいたい7時過ぎ。


恵美が早く帰宅した時は、かなり楽なのだが、ほぼ毎日10時頃の帰宅で期待は薄い。


週に何度か好きなビールを呑みながら怜奈と馬鹿話しをして2人で楽しく食事をする。


「おやすみ」と9時過ぎには眠くなる怜奈が布団に入り、私は後片付けを終えてホッと一息つく。


帰宅した恵美と彼の事や仕事の愚痴など色々会話をして、お風呂に入ったあと、恵美は自分の部屋に行く。


私はそのあとだいたいテレビを見たり本を読んだりして、たまに、奈緒美や友達と電話やメールをしたりしながら夫の帰りを待つ。


帰宅した夫がお風呂に入ってる間にご飯を温め、夫の食事中にその日あった事や子供の話、その他、他愛もない会話をして一緒に布団に入りキスして眠る。




それが当たり前の日常。




当たり前じゃなくなったのは、夫が帰宅しないのと、私の執拗な電話だった。


No.89



「今日も帰れないの?」


「彼女はまだいるの?」


「遅くなっても帰ってきて」


「私、事務所に行くよ?」


「本当は2人で寝てるんでしょ!!」




21時


22時


23時


2時


3時




「今終わった。すげぇ疲れた。眠くて限界。お前も仕事なんだから早く寝ろよ」


「いないっつーの。お前、この前で納得したんだろ」


「いい加減にしてくれ」


「見に来たきゃ来いよ」


「寝るからな。じゃ」




ツーツーツー…




嘘だ…




嘘だ!




嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!




私は疑心暗鬼の塊となり、狂ってた。

No.90



私の気の済む事。




夫のケータイから彼女に電話をした。




「主人はあなたが初めてじゃないの…


今まで何度もこういう事があった。


既婚者の男を好きになるとあなた自身も傷つくよ。


男のずるさに利用されないで。


主人はあなたを愛してないの」



咽び泣く様子が
電話口から伝わる。



「本当にすみませんでした。


和也さ…いえ、所長の気持ちはわかってました。


私は遊ばれても良かったんです…


でも奥様をそこまで傷つけてるとはわからなくて…


今日所長に、今後私的な付き合いは一切しないとはっきり言われました。


私も自分を恥じ反省してます。


今後二度とあのような事はありません。


誓います。


本当に申し訳ございませんでした」





電話を切ったあと夫を責めた。



憎むべき相手だけど彼女に同情し、男のずるさに腹が立ち、2人を傷つけた事が許せず罵倒した。



夫は罪を受け入れるかのように、終始黙って聞いていた。




でも



終わった事に安堵する気持ちも大きかった。




終わったと思ってた…。

No.91



電話を切ってから30分くらいしてから夫のケータイにメールが来た。




見せてと言う私に、異様なほど拒絶反応を見せた夫。




「お前が嫌な思いするだけだって!」



「いいから見せて…」



「こいつ性格かなり悪いからよ。みんな持て余してんだ」



「見せて…」



「俺、今腹が立ってどうしようもねぇ」



「見せなよ!!!」




―――


ウケル😁


和也さんの奥さんおもしろすぎ(笑)


笑い堪えるのが必死だったよ😆💦💦


まぁいっか😜






なにこれ…

No.92



「なんだよ。今のは。


笑えるのか?


可笑しいか?


お前…バカにするのもいい加減にしろよ!!」




夫は電話で怒っている。




正直、メールにはショックを受けた。



けど…



ホッする私がいた。




性悪女の正体を知り、すぐさま電話して怒ってくれた夫の行動が嬉しく、もうこれで彼女を相手にする事はないと思った。




終えた夫がまた謝る。




私は胸に顔を埋めた。




「もうやだからね…」



「西田とは仕事以外の話しする事はもうないから」



「…うん。信じる」



優しく頭を撫でられ、私は久しぶりに安心した気持ちになれた。



この時の夫は、私を侮辱した彼女に本気で腹が立ったんだと思う。




この何日か後



仕事が終わりそうにないから事務所で寝ると電話があった。



「…1人?」



「さっき帰らせたよ。心配なら見に来てもいいぞ(笑」


「も~そんな体力ありません」


「お前も早く寝ろよ」


「うん。無理しないで頑張ってね」






「…クシュン」




微かだけど…



確かに聞こえた。



それは電話を切る
本当に刹那の時。



夫ではない別の誰か。




西田はいる。

No.93



深夜2時



私は事務所の前にいた。


いつもの位置に鍵はなかった。


車に戻り電話をしてみる。



…留守電。



もう寝てるのか…



夫と彼女が停めてるちょっと離れた会社の駐車場に向かう。



夫の車しか停まってなかった。




私の勘違い…?




夫は笑いながら言ってた。


「心配なら見に来てもいいぞ」



本当に一緒にいたら
そんな事言うだろうか…




だけど…



押し殺すようにくしゃみをする『女の声』を確かに聞いた。



でも私の勘違いだとしたら疲れて寝てる夫を叩き起こすなんて出来ない。




一緒にいたとしても…




もう二度とあの光景を目にしたくない。




モヤモヤする気持ちを抑えながら事務所を後にした。




この日から



私は疑心暗鬼に支配されてしまったのだ。

No.94



「もういい加減にしてくれよ!!」


「あんな事しといて何でそんな事言えるわけ?!」


「このくそ忙しい時にくだらない電話毎日何回も何回もかけてきては同じ事ばかり言いやがって!」


「いくら何でも二週間も帰れないってある?!しかも日曜日もだよ?」


「だから何回同じ事言わせんだ!仕事が詰まってて日曜もやらないと処理できねーんだよ!」


「最近は夜かけても電話出ない事多くなったし全部が全部本当に仕事なの!!」


「何ひとつ仕事の事わかんねーくせしやがって勝手な事言ってんじゃねーよ!」


「そうだね。彼女だったら全部わかるし私なんかよりさぞ理解もしてくれるんだろうね」


「お前と話してると頭がおかしくなりそうだ」


「こっちなんかとっくにおかしくなってるよ!本当はいるんでしょ!毎日一緒に寝てるんでしょ!!」


「マジでいい加減にしろ。もういいわ。そう思いたきゃ勝手に思ってろ!」



「ちょっ…


もしもし?もし…」





日に日に喧嘩は増えていった。




No.95



疲れてる夫に本当はあんな事言いたくないのに…




いつも遅くまでお疲れ様。体だけは気をつけてね
帰る日は、おとーの好きなオムライス作って待ってるね!




…そう


可愛く言いたいのに…




彼女もいる同じ空間で寝食をし、帰宅しない事で私の不安を煽る。





どうしてもっと気を使ってくれないの?



私と何日も顔合わせてないのに、彼女とは1日の半分以上を毎日一緒に過ごしてるんだよ?



しかも…


あんな事があったその場所で…



ほんのちょっとでも私の為に無理してくれたら許せるかもしれないのに…



少しは安心させてくれたっていいじゃない…



優しくしてくれたっていいじゃない…






私は、自分の事しか考えられなくなっていたのだろうか…





その翌日




夫は半月振りに帰宅した。

No.96



夫はまっすぐ怜奈の部屋に行き、寝てる怜奈の頭を撫でている。




「お風呂?」


「あぁ」


「ご飯?」


「食う」




なんだか落ち着かず、電話では散々言い争ってたのに顔を合わせると単語のぶつ切りみたいな会話しかできないでいる。



お風呂に入った夫。



ケータイを目の前に、私は見るのをためらっていた。



この中に不幸があったら…



精神力が限界に近く、これ以上の苦痛を耐える自信がなかった。



手にはしてみたものの、
どうしても開く事ができず元に戻した。




ご飯を食べ始める。




沈黙。




その沈黙が何故か私に重くのし掛かる。



激務の日々。



そんな時に毎日疑う私を責めるかのような無言の制裁。



いたたまれなくなった私はただその沈黙を破りたかっただけだった…。




「今日さぁ…」



「もうやめろ。
いい加減にしてくれ。」



「そうじゃなくて…」



「寝る」




寝室のドアが冷たく閉じられた。




まだ湯気の立つ味噌汁を
茫然と見つめてる。





私が悪いの……?




私が……




「…ウッ…ヒック…」





両手で顔を覆い、寝室に届かないよう必死に泣き声を殺した。


No.97



………………………


………………



夫の寝顔は毎日の大変さを物語っていた。




疑心暗鬼となり醜態をさらした自分を悔い恥じ、また自分自身が情けなくて夫に申し訳ない気持ちで一杯だった。




熟睡している夫に



何度も何度も謝る。




「…ウック…ヒッ…ク…

おとー…ごめんね。

本当にごめんね…ヒック…」




家族の為に、毎日大変な中頑張ってくれてる。




もう疑うのはよそう…


ケータイも見ない。


いつも笑顔でいる。




私は…



夫の…



一番の安らぎでありたい。





本当にごめんなさい…。





ごめんなさい…

No.98



…夫の背中に寄り添って




いつの間にか眠ってた。





「?」





お腹に回した右手に固いものが触れた。




半分お腹で踏んづけて開きっぱなしになってるケータイだった。




(……もう


見ないって決めたんだ)




体の下になって折れたらいけないと思い閉じて枕元に置こうと思った。







「!!」






……………凍りつく。






日付は3日前




時間は、PM11:14分




男の後頭部が見え女に覆い被さるようにし女の左手は背中にまわってる。




その下で…



目を閉じる女の顔…




夫と西田の唇は重なっていた…




事務所ではない。



白の大きな枕に白のシーツ



ベッドの上には、青く光るパネルに花の形をした電気スタンド。




どこかのラブホテル。




画像は5枚。



どれもこれも
キスしてるのばかり…



事務所で抱き合って


布団で抱き合って


車の中でも抱き合って






キスキスキスキスキス…

No.99



―――


和也さんのチュー
由美いつも溶けちゃう❤


さっきは仕事中におねだりしちゃってごめんねっ😁


してもしても
全然足りないんだもん😍


好き過ぎて困っちゃう💦


―――


お前といると落ちつくよ。


今日も一緒に寝ような😄



―――


昨日は由美めちゃ乱れちゃってハズカシー😆💦💦


事務所でHって妙に興奮しちゃう❤


今夜もしよ?(笑)


また奥さん乗り込んできたら大変だけど😜


―――


体力持たねー😱


鍵は外に置かないしお前の車も○○に置いてるから大丈夫


腹減った~
早く上がって来いよ‼


昼飯行くぞ👍


―――


今夜は和也さん家に帰っちゃったからすごく寂しい😢


由美ね…
本当に和也さんが好き…


和也さんが仕事してる姿はめっちゃかっこよくて由美のモノ💓って思っちゃう❤


奥さんには悪いと思うけどもう気持ちは止められない


和也さんの全てが好き‼


ずっと由美と一緒にいてね…


―――


由美



愛してるよ







さっき…



寝る前に送ってた



彼女への



愛してるよ



のメール…







「てめぇ…」





突然の夫の声に




一瞬




心臓が




停まった…




「何見てんだよ」




と、思った。

No.100

読んでいる私まで 胸が締め付けられる思いです。 私は 旦那やパートナーに 裏切れた経験はないですが 同じ女として 胸が 張り裂けそうです、 旦那も 女も 主さんの手におえる 状況では ないですよね 社会的に 制裁を加えても 足りない。 会社には 言えなかったんですか? 二人とも クビにする 覚悟で。

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