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きる( lbwJnb )
12/04/15 23:38(更新日時)

どんなものでも

あなたの望んだ通りのものが届きます。

どんなものでも……

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No.1699335 11/11/04 23:04(スレ作成日時)

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No.2 11/11/04 23:27
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


結婚して十数年

毎日毎日同じことの繰り返し

無関心な夫
自分勝手な子供

虚しかった

寂しかった

そんな時、目にとまった

『どんなものでも』って?

そして、私は堕ちていった……





No.3 11/11/04 23:51
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


そこは『通販のサイト』ではあったが
商品案内が何も無かった

ただ

『必ずご満足いただけます』
『お支払は、あなたに可能な形で』

とだけ記載されていた

一目見ただけで、おかしいしし

まともな大人だったら引っ掛かるどころか

気にもとめないだろう

私は、どうかしていた





No.4 11/11/05 01:17
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


その時の私は

そのページが
なんとなく気になり、眺めていた

そして
催眠術にかかったように

『恋人』と入力

カチッ

手続き完了

『そんなもの、来るわけないし……ね』





No.5 11/11/05 01:57
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


そんな『注文』も忘れた頃だった

その日は特に予定もなく
ひとり、ウインドウショッピング

ゆっくり街を歩いていた

声をかけられ、見ると

スラッとした男の人

スマートなイケメン

年がいもなく、ドキッとし、ぽぅ……としてしまっていた

「リナさん、はじめまして」

と、にっこり微笑んでいる

『なに、この人!?
しかも、どうして、私の名前を知っているの!?』





No.6 11/11/05 07:51
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リナ「あ、あの
何で、私の名前を知っているんですか!?」

彼「リナさんの『ご注文』ですから」

『!?』

わからない

何なの!?この人は
何を言っているの!?
変な人

それにしても
人間とはいい加減なものだ

正直

彼が『サエナイ男』だったら
無視して、その場から去っていたであろう

でも、彼は

カッコいい……





No.7 11/11/05 16:23
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


そんな彼に声をかけられ正直、嫌な気はしない

彼に見とれながら

『一体何なの?』
と、必死に考える

『えっ!?まさか!』

彼「ようやく分かったみたいだね
『あれは』冗談なんかじゃないよ
『必ずご満足いただける商品』
だから、期待して」

と、耳元で囁かれ
ドキッと、する
同時に怖くなったが、

彼の優しく甘いルックスに
完全に堕ちていた

悪魔との契約
地獄への導き
とも知らずに……





No.8 11/11/05 21:41
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


彼「リナさんが
今日はフリーだっていうことは
知っているから

じゃあ、始めようか

恋人なんだからさぁ、デートだよね

どのくらい親密な関係がいい?

まだ知り合ったばかりの初々しいカップルがいい?

今からホテルでもいいよ
大人なんだし、面倒なことはとばしてさ

リナさんの希望通り
どんなことにも応じるよ

さぁ、どうぞ
お姫さま」

混乱したまま
現実味のない話を次々とされ
訳が分からず
どうしたら良いのか分からない

ぼぅ……と、してしまう

ただ

彼はとても感じの良い人で

居心地の良い人で

離れたくなかった

そして

放したくなかった





No.9 11/11/06 09:42
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


彼「リナさん?

何にも言わないけど、大丈夫?

緊張してる?

かわいいじゃん

じゃあ今日はオレに任せて

あ、オレ、リョウ

行こうか」

そう言うと
私の手を握り
歩き出した

リナ「えっ!?あの、ちょっと、えっ!??」

でも、悪い気はしない……

信じられない状況に混乱しながらも
私はその状況に酔い
何かを期待していた

私の日常では決して出会うことの出来ない
格好いい彼に手を引かれ

この先
私は何処へ向かうのだろう

『リョウっていうんだ……』




No.10 11/11/06 21:37
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウに手を引かれながら
我にかえる
『ちょっと、私、何しているの』

リナ「あの、ちょっと待ってください!」

リョウ「んっ?どうかした?」

リナ「どうかした?じゃないです!
何が何だか分からないし
えっと、あの、その……」

年下相手に
こんなに動揺して
情けないことに
上手く言葉も出ない

私、どうかしている

リョウは優しく微笑み

リョウ「全然『免疫』無いの?かわいい人だなぁ
とりあえず、そこのカフェ、入ろうか」





No.11 11/11/06 22:14
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


入ったカフェは
一人でも気軽に入る
慣れたカフェだった

いつもと同じブレンドコーヒーを注文

それにも、かかわらず
上手く口に運べないし
味も全然分からない

聞きたいことも沢山あるのに
しゃべれない

そもそも
細かい詳細を入力したわけでもないのに
何故、私のことを知っているのか?

そう
それだけでも
『普通の組織』ではないし
『恐ろしいこと』だ

冷静に考えれば
直ぐに気付くはずのことに
私は全然気付くことが出来なかった

完全に舞い上がっていた

あまりにも素敵だったリョウに……





No.12 11/11/06 22:46
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「リナさんが困惑するのは当然だよ
そんなこと最初から承知の上のこと

大丈夫
とにかく今日一日オレを試してみなよ

今後のことは、その後で決めればいい

今日は『試し』だから
リナさんに『かかる負担』は無し

でも、きっと
『注文』したくなるよ」

そう言って微笑んでいる

進むも
戻るも
私次第

進まなくては
今まで通り
何も変わらない
何も動かない

そうして私は
パンドラの箱をあけてしまうことになる





No.13 11/11/07 01:22
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「車、用意してある

ここで立ち止まったら
何も始まらない

行こう」

リョウの強引さが
かえって心地よい

『行こう』

そうして私は

会ったばかりの男の人と二人きり

慣れた場所を離れて行く

夢にも思わなかった時間を
過ごすために

忘れられない
蜜の時間を……




No.14 11/11/07 01:51
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「夕方には帰るから、心配しないで」

そう言って高速道路に入る

地理に疎い私は
どこへ向かっているのか
よく分からない

見慣れない景色が
現実を忘れさせてくれる

男の人と二人きりの車内
助手席に乗ることも久しぶり

少しずつ時間を重ねることで
緊張も少しとけてきた

リナ「あっ、海!」

リョウ「海……リナさん、好きだったよね」





No.15 11/11/07 11:36
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リナ「えっ!?何で、そんなこと知っているの?」

穏やかになってきた気分は一転
また緊張がはしり
怖くなる

そんな私に
リョウは穏やかに言った

リョウ「素直に今を楽しめば良いんだよ

せっかくここまで来て
この先、疑って、怖がって、いちいち考え込んでいくわけ?

同じ時間を過ごすのに
心底楽しんでも
疑いながらビクビクしていても
過ごす時間は同じだよ?

だったら
思い切り楽しんだ方がいいじゃん」

そうかも知れない
でも、そんな簡単にはいかない
でも、現実ここまで来てしまった

揺れ動いた

揺れ動きながらも

目の前に広がってくる綺麗な海

爽やかに気持ち良い潮風

現実離れした時間

リョウの存在

それらに惑わされ

もう
全てがどうでも良くなってくる

『溺れてもいい
本能のまま生きよう

きっと、もう
二度とあることではないから……』





No.16 11/11/07 22:16
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


平日の季節はずれの海辺に
人影は無い

穏やかに晴れた今日は
海も穏やかに波打っている

まるで二人だけの異空間にいるような錯覚に陥る

聞きたいことは沢山あるのに
ありすぎてまとまらない

そのせいで
逆に言葉数が減る

『今を素直に楽しむ……』
リョウの言葉がよぎり
段々全てが
ごく自然に受け入れられていった

そんな穏やかなゆっくりとした時間の流れの中で
いつの間にか
リョウとの隔たりは薄れていった

ついさっき会ったばかりとは思えない

リョウには
全てをゆだねてしまえる安心感があった
と同時に
性的にゾクッとするほど惹かれるものが見え隠れする……





No.17 11/11/08 05:50
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「リナ……」

少し前を歩いていたリョウは振り返り
優しく私を抱きしめた

驚き
何も出来ず固まってしまう

リョウ「オレたち『恋人』なんだから

力、抜きなよ」

『そう
リョウとは今は恋人として
ここにいる』

そう思うと徐々に
力が抜け
リョウを感じる……

スリムに見えるが
男を感じる胸

リョウの匂い

リョウの体温

リョウの鼓動

そっと顔を上げると

自然に唇が重なった……

リョウは優しく私の唇を開き
そっと舌を入れてきた

段々激しさを増すリョウに応えながら

砕けてしまいそうになる

『こんな熱いキス
何年ぶりだろう
違う……
こんなキス初めて』





No.18 11/11/08 15:36
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


唇がはなれ

リョウ「……もう、時間だ」

崩れそうになる私の肩をを
リョウは優しく抱き
歩き出す

『これで終わってしまうの……?』

複雑な切なく虚しい気持ちに襲われ
さっきまでとは違う思いに
揺れ動く

短時間の間に
いろんなことがありすぎて
朦朧とする

『もともと、あり得ないこと
これ以上何を期待するというの?

そもそもリョウと
ほんのひとときとはいえ一緒にいたことさえも罪

ここまでにすべきよ

ここで引き返すべきよ』

気付いたら
見慣れた風景が目に入ってきた

『戻ってきたんだ……』

切なさが増してくる

車に乗り込んだ場所に着いた

リョウ「今日の使い心地はどうだった?」





No.19 11/11/09 00:44
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


使い心地?

そう……
そうなんだ……

リョウは『注文商品』

そんなことを言われ

会ったばかりのリョウに心奪われていた自分が

悲しく、情けない、恥ずかしい

『使い心地』
こんな屈辱的なことを言われた時点で

冷静に気付き引き返せば
この先『支払う代価』を思えば

平凡でも、平穏な日々を過ごせたのだろう

今日を思い返しても

戻れるチャンスは
いくらでもあった

でも

出来なかった
ズルズルと誘惑に落ちていった

リョウには

離れたくなくなる
『何か』があった

リョウ「もし、気に入ってもらえたのなら
正式に契約手続きしておいて。
方法は同じだから
PCからよろしく」

リョウは
そう言い残していった





No.20 11/11/09 20:54
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウが目の前から去り

しばらく
ぼんやりと歩き続けていた

どこをどう歩いていたのか覚えていない

とにかく混乱して
落ち着かなかった

リョウとの時間は
夢だったのだろうか

違う

確かにリョウと過ごした時間は存在した

さまようように歩き続け

じきに自宅に戻っていった

そして、また

虚しく、つまらない日常が始まる





No.21 11/11/09 21:18
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


つまらない毎日が続いた

それでも
平凡を受け入れ
真面目に生きて行けば
報われる日が来たのかもしれない

でも
知ってしまった

甘い蜜の味を

知ってしまったがゆえに

更なる甘さが欲しくてたまらなくなった

欲望に取りつかれたら最後

コントロールはきかない
冷静な判断も出来ない

葛藤もあった

抑えられない

イライラする

『欲しい』

たまらなくなり

ページを切り替え
必死に探す

『あった!これだ』

そして

ついに悪魔との契約をしてしまう




No.22 11/11/09 21:55
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


手続きが完了し
急に怖くなってきた

初めてアクセスした時……

気になったものの
『冗談でしょ』
と、忘れていた

それにもかかわらず向こうは
こちらの『完璧な情報』を持って現れた

『お支払はあなたに可能な形で』
って一体どういうことなの?

不気味なことが多い……

『どうしよう
私、何てことを……』

全身から力が抜けていくような感覚に襲われる

それでも

リョウにもう一度会いたかった

どうしても会いたかった

『あのキス』が欲しかった





No.23 11/11/10 14:39
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


手続き完了後
すぐにメールが届く

タイトルは『リョウ』

怖い

でも、戻れない

まだ揺れ動いていた

全て強要されたものではない

全て自分の意志なのだから
潔くなれないのか

欲望に溺れながら
ビクビクする自分に苛立つ

そんな思いが頭の中を駆け巡り
混乱、動揺でガクガクと震える

『やはり止めるべきだった

私には
そんな度胸などないのに

バカだった』

いい歳の大人が
小さな子どものように泣きそうになりながら

震える手でメールを開く




No.24 11/11/10 16:21
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウからのメールは

『ありがとう

勇気を持ってアクセスしてくれて嬉しいよ

良い思い出作ろう

明日10時
この前出会った場所で待っている』

ごく『普通のメール』だった

それに安心し、親近感を覚えた私は、すっかり緩んでしまう

そして、明日の外出ために、てきぱきと家事を済ませていった

「お母さん、何か機嫌いいね
何かいいことあった?」

家族に言われ、ドキッとする

「まぁ理由なんて何でも良いよ
お母さんがイライラしていなければ、それで良いよ」

『えっ!?
私、そんなにイライラしていたの!?』

ショックだった

良い妻であり、良い母であると思っていた

家族のことを最優先し、欲しいもの、やりたいことを我慢してきた

贅沢をしないで、地味に頑張ってきた

それなのに

家族は、私のことをそんな風に思っていた

だったら

好きなことをして、適当に楽しんで、それで生まれる余裕が笑顔を生んで

その笑顔で家族が癒されるのなら

好きなようにした方が良い

リョウとのことで私が癒され

結果、家族が癒されるのなら

家族にとっても、良いことではないか



No.25 11/11/10 21:10
まーくん ( RSjL )


切ない😫

No.26 11/11/10 22:32
きる ( lbwJnb )

まーくんさんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

不規則にはなりますが、出来る限り『一日一回更新』を目標に続けて参りたいと思っております。

本当にありがとうございます。



No.27 11/11/10 23:06
りのすけ ( 7LlBnb )

はじめまして😄


設定と主人公の心の動きがとても面白いです✨

これから堕ちて行くのかなあ😱

応援しています✨
頑張って下さいね!

No.28 11/11/10 23:46
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


『今日の10時か……』

期待と不安、緊張に興奮

夜もほとんど眠れないまま朝を迎えた

十代の女の子の初デートのように浮かれている

何、着ていこう?
メイクは?

そんなことを考えているうちに

ふと、思う

『もう、何年も、自分にかまっていなかったんだ……』

可愛い服なんて無い

メイク道具も古くなっていて、今みんながどんな色を使い、どんなメイクが流行っているのかも、わからない

下着も……綺麗で可愛いものが無い

無性に悲しくなった

悲しくて情けなくて

涙が溢れてきた


いいオバサンの私が……

そんなことでメソメソ泣いている

さぞ、みっともなくて、滑稽な姿だろう

『会えない、もう、リョウには会えない、恥ずかしくて会えない』

メールが届いた

リョウからだ……



No.29 11/11/10 23:54
きる ( lbwJnb )

りのすけさんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

見ず知らずの方に読んでいただいている上に、応援までいただき、本当に嬉しく、ありがたいです。

本当にありがとうございます。



No.30 11/11/11 00:25
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


『おはようリナさん

体調はどう?

緊張したりなんか、していないよね?

リナさんはお客様
オレは商品

だから、リナさん、オレに気なんてつかうなよ

じゃあ、またあとで』

そんなメールだった

どこかで見ているのか?

タイミングがあまりに良すぎる

でも、そんなこと、もうどうでもいい

私は声をあげて泣いていた

そんな風に気づかってもらったことも
本当に久しぶりだった

もう、どんな関係でもいい

もう、どんな格好でもいい

『とにかく行こう』

唯一持っていたワンピースを着た



No.31 11/11/11 21:08
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


待ち合わせの場所へと急ぐ

何かから逃れたいかのように

報われない犠牲を払うことに
もう、疲れた

決して多くを求めていたわけではない

ほんの少しでいい
労ってほしかった

ほんの少しでいい
大切に思ってほしかった

ほんの少しでいい
存在価値を認めてほしかった

『私は私を生きたい』

私は
自分がこんなに張りつめ
ギリギリのラインにいた
という自覚が全くなかった

張りつめた糸は
とうとう限界を迎え
プツリと、切れた

リョウ!

リョウの姿が目に入る

思わず駆け出していた

ゆっくり近づいてきたリョウに

そっと肩を抱かれ

車へとエスコートされる


No.32 11/11/12 00:04
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「勇気を持って、よく来てくれたね」

私は胸がいっぱいで言葉にならない
ただ、頷くだけが精一杯だった

車がどこを走ってきたのか、わからない

一時間くらいしか走っていないにもかかわらず

着いた場所は
童話の中のようだった

静かな森

可愛いペンション風のお家がひっそりと建っていた

そのお家は『自己主張』することなく
風景に溶け込み
吸い込まれてしまいそうな不思議な雰囲気をただよわせていた

『こんなに近くに、こんな場所があったんだ』

現実離れした空間

『私、一体、何処をさまよっているの?』

夢なのか、現実なのか
本当にわからなくなる

リョウ「ここは
誰にも邪魔されない
誰の目も気にしなくていい
今日はここでゆっくり楽しもう」

そう言ってリョウは
私を抱きしめた






No.33 11/11/12 00:32
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「リナさんはお客様だからね

何もしないで
何も考えないで

ただ、好きなことだけをすればいい

ここでは
自分のためだけに過ごせばいい」

テラスに案内される

可愛いテーブルに椅子

リョウ「どうぞ

紅茶いれてくるから」

本当に静かだ

妻でもなく、母でもなく
私が私として

こんなにゆっくり過ごせるのは、いつ以来だろう

ゆっくりすることで、苛立ちは消えてゆき
次第に自分を取り戻してゆく

いろんなことを思い出し
胸がいっぱいになる

楽しかったこと
悲しかったこと
辛かったこと
切なかったこと

涙が溢れてきた

『優しくされれば、優しい気持ちが取り戻せるんだ……』


No.34 11/11/12 00:46
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「ランチも任せて」

『もう、そんな時間なんだ』

リョウはてきぱきとランチまで用意してくれた

サラダ、ピザ、パスタ……
私の好きなものばかり
どれも美味しい

『リョウって、一体、どんな人なんだろう?』

リョウは、私のことをよく知っているのに

私は、リョウのことを何も知らない


No.35 11/11/12 12:52
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウに聞きたいことは沢山あるのに
どう切り出したら良いのかわからない

私は社交的ではなく
コミュニケーションが苦手

人目を惹き付ける魅力もなく
いつも誰かの陰

そもそも
行動力も好奇心も積極性も無い私がここに
リョウと二人きりでいること事態
信じ難いこと

そんな思いが駆け巡るだけで
上手く間をもたすこともできないでいた

リョウはそんな私を見透かすように

リョウ「リナさんの考えていること、わかるよ

オレのことなんて
どうでもいいんじゃない?

『時』には限りがあるんだ

オレたちの関係は
お互いのことを詮索しあう必要は無い、無駄なんだよ

そんなことしなくても
既にこんなにも『近く』にいる

『今だけ』を大切にしようよ……」

そう言いながら

リョウの口が私の口をふさいだ

舌が入り込み
激しく吸われ

あまりの熱さと激しさに

意識が遠のいていきそう

クラクラする……



No.36 11/11/12 20:30
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウは
ゆっくり唇を離すと
そのまま私を抱き上げ歩き出す

驚き
リョウにされるがまま
人形のように動けない私

リョウの言葉
リョウの行動は

年齢を重ねただけの
世間知らずな私には

全て予想が出来ず
驚くことしか出来ない

十代の処女でもないのに
情けないくらい何も知らない

たどり着いた部屋の
綺麗に整えられたベッドに
静かに寝かされる

こんな静かな場所に
大人の男女が二人きり
二人の関係が『恋人同士』なら

この先起こることなんて
驚くようなものではない

だが世間知らずの愚かな私は
恐らく、処女のように震えていたのであろう

リョウ「大丈夫だよ
全てオレにゆだねていればいい

『女に生まれて良かった』と思わせてあげる」



No.37 11/11/13 04:23
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウの暗示のような甘い台詞に酔っていたが我に返る

『いや!』

このまま流されて行くことが嫌なのではない

美しくない身体……
更に年齢を重ね醜く衰えてきている身体を

美しいリョウにさらすわけにはいかない

リョウは
そんな私の思いも既に理解していた

リョウ「いいんだよ

ありのままでいい
そのままでいい

素直に飛び込むんだ」

ありのまま……

全てを否定することなく受け入れてもらえる安心感に

リョウの顔が涙でかすんだ

全てをゆだねて行く



No.38 11/11/13 04:55
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウは
私の緊張をほどいて行くように優しくキスする

ゆっくりとした丁寧な優しいキス

次第に緊張は消えて行った

緊張どころか……

リョウのキスが

私の全身に今まで知らなかった感覚を感じさせる

生まれて初めて

『欲しい』

と身体が身体を求めた

今までの私はセックスを

気持ち良いとも
楽しいとも

思ったことがなかった

ましてや

求めたことなど

一度もなかった


No.39 11/11/13 06:27
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


キスをしながら

リョウは優しくワンピースのファスナーを下ろす

キャミソールの上からも

乳首の突きだしがわかるほど
身体は熱く感度を増していた

リョウの手に乳房が包まれ
そっと揉まれる

乳首が更にきゅんと固くコリっとし
たまらない感覚に襲われた

そのコリコリを指先で
摘まんだり、コロコロ転がしたり……

たまらなくなり

ため息のような小さな声を漏らしてしまう

リョウ「恥ずかしがらないで
素直に感じて……」

やがて
キャミソールも脱がされ
乳房が露に

思わず手で隠してしまう

リョウは微笑みながら

隠した手をほどき

乳首を口に含んだ

口での愛撫に感じすぎて

私は私でなくなってしまいそうになる

リナ「んっ……あっ、あん……」

思わず小さな声を漏らす

今まで

喘ぎ声なんて……出したことがなかった



No.40 11/11/14 06:10
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


乳首を吸われながら

敏感なその部分を舌が優しくいたぶる

『こんなにも感じるなんて……』

リョウの手は私の身体をなぞり
一番敏感な秘部へとたどり着く

瞬間、ビクッと新たな感覚が走る

リナ「あっああんっ……」

『こんなの初めて……』

リョウ「すごく濡れているね……
下着にしみだしてきているよ」

『濡れる!?』

最初リョウの言っている意味が解らなかった

私は出産まで経験しておきながら未だに
本当のセックスを知らずにいたのかもしれない

濡れらすほど
感じたことがなかった

リョウの言葉を理解した瞬間

リナ「えっ!?恥ずかしい!」

リョウ「恥ずかしいことなんかじゃない
素晴らしいことだよ

言っただろ?
『女に生まれて良かったと思わせてあげる』って

開いてあげるよ……」

No.41 11/11/14 23:14
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「これ以上下着を濡らすわけにはいかないよね……」

そして、ショーツも取り除かれ

リョウに
すべてをさらし
身をあずける

リョウ「恥ずかしがらないで

リラックスして

力を抜いて

そう……

綺麗だよ……」

リョウが

見つめている

私の……

一番恥ずかしいところを……

そう思うと

恥ずかしい思いと同時に熱くなり

今まで思ったこともない
信じられない思いになった

『恥ずかしいの……
でも、もっと見て
お願い、もっと……』

すると、突然

秘部に

生暖かく

ものすごく気持ち良い

ゾクッとする感触を覚え

震え上がった



No.42 11/11/15 04:26
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


それは
私には初めての経験

秘部にくちづけを受け

私は本当に
どうかなってしまうのではないか
というほどに狂い乱れた

『そんな恥ずかしいこと!信じられない!
でも……』

リナ「あああんっ……あっ、あっ、んっ……あああん……」

初めて体験する
狂ってしまうほどの最高の感覚に

私は何度も何度も
ヒクヒクと小刻みに震えた

恥ずかしいと思えば思うほど
身体は熱く求める

『これがイク?なの?
止めないで
もっと、お願い、もっと……』

開花された私は

この先
リョウから離れられなくなって行く



No.43 11/11/15 17:48
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウは私の反応を楽しむかのように
未知の部分をめくり開く

舌が一枚一枚を丁寧に開き
溢れる蜜を吸い付くしてくれる

時折聞こえる
いやらしく刺激的な音が恥ずかしく

更に興奮してしまう

そして
一番敏感な小さく突きだした突起部に吸い付かれながら
舌でいたぶるような刺激をされた時

私は最高に昇りつめた

リナ「あああっあああんっ……」

『こんなの

こんなの

初めて……』



No.44 11/11/16 10:18
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


絶頂に達している私は
自分で自分をどうしたら良いのか
わからない

思わず閉じてしまう脚を
リョウはぐっと押さえ
決して閉じることを許さない

『これ以上私
どうなってしまうの……』

リョウは
執拗に
でも優しく
丁寧に
攻め続けてくる

決して雑に乱暴にすることはなかった

そして私は
本当の限界に達し

何かを噴き出してしまった

『恥ずかしい
私、本当に
どうしたら良いの……』

心も身体も
自分のものなのに
どうすることも出来ず

涙が溢れる

そんな私を

リョウは優しく抱きしめてくれた


No.45 11/11/16 16:15
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウは私を優しく抱きながら
耳元で囁く

リョウ「ここからだよ……」

ゾクッとする囁きに

飼い慣らされたかのように反応する私の身体

淫らな自分が恥ずかしい反面

もっと『犯してほしい』と欲した

リョウは私の耳元から首筋へ……
熱いキスをしながら

敏感に火照り
潤いに満ちた秘部を
指で熱くめくり
その奥を掻き乱す


リナ「ああっあああんっ……」

そして

熱く大きくなったリョウが入ってきた

リナ「あああん……」

『気持ち良い……』

私は中で
リョウに吸い付き
リョウを包み込む

入ってくるのを
こんなにも気持ち良く感じるなんて
初めてだった



No.46 11/11/17 09:57
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リナ「んっ……あんっ……あんっ……あんっ……」

『このまま……
このまま時間が止まって欲しい
もう、帰りたくない
ずっと繋がっていたい』

突き上げられる度に私は
リョウの深みにハマって行く

リョウ「……オレたちは
また、しばらく離れなければならないんだ……

今日は間もなく終わる

次を望むなら……

リナ次第だよ……」

リョウに最後に強く突き上げられ

今日が閉じる……



No.47 11/11/17 15:53
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


一気に現実に引き戻される

これが現実

私達の関係は所詮
虚構にすぎない

……心がついていかなかった

ぬけがらのようになってしまい

今まで当たり前にこなせていたことに手間取る

『会いたい……』

蜜の時から
わずか3日しか経っていないにもかかわらず

随分、長い時が過ぎ去ったように感じる

そんな時
封書が届く

『リョウとの時』の請求書だった

金額は
10万……

安い金額ではないが
今の私に払えない額ではなかった

『これなら……』

今まで何一つ贅沢してこなかったのだから

カバンも、靴も、服も、装飾品も、旅行も……我慢してきたのだから

記念日も、誕生日も、プレゼントや外食一切無かったのだから

私は振り込みを済ますと
すぐに『次回』の購入手続きを済ませた

すぐにリョウから
お礼と次回の約束のメールが届く

リョウとの約束で
心の落ち着きが戻り

家事もいつも通り
いや、それ以上にこなしていく



No.48 11/11/18 00:15
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


私は『秘密』を持つことで
心の安定を保つことが出来た

こんな風にしか自分を保てない不健全さ

そんな寂しい家族関係

私の家族は
『私の心の安定』の本当の理由を知らないし
知ろうともしなかった

私の干渉の対象が
自分たち家族でなくなったことに逆に安住し

私達家族は
それぞれ勝手な方向に進んでいく

行き着く先が
家庭崩壊であるとも知らずに……

家族は例え煩わしくとも
心配だから
大切だから
時に関わり過ぎて
ぶつかり
でも
大切なんだと
慰め
いたわり
同じ方向を向き
かけがえの無い絆を深めて行くのであろう

キツイ時もある
辛い時もあるけど

家族がバラバラにならないように家庭を守る

妻となり
ましてや
母となったら
『守る』そして『送り出す』覚悟を決めなくてはならないのであろう

でも、私は……

快楽に溺れて行く

家族のせいにしてはいけない

でも、孤独だった

リョウは隙間を埋め

たっぷりと満たしてくれるから……



No.49 11/11/18 17:56
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウとのことを考える時だけが
心を保つことができる

初恋に溺れる少女のようにのめり込んで行く

でも『悪いことばかり』ではなかった……はず……

つまらない苛立ちが無くなり

イライラすることが無くなった

愚痴や不平不満も
ほとんど言わなくなっていた

リョウとの約束のために家事も早めに片付けていった

そして

お洒落になった

リョウに
少しでも可愛く
少しでも若く
見せたい

そんな努力をする女は
健気だ……

お洒落……

良いことではあるが

大きな破綻への足かせとなっていく

今まで抑圧し過ぎたことで
歯止めが効かなくなっていった



No.50 11/11/18 21:39
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「リナ……綺麗になったね

魅力的だよ

こんなにも濡れて

こんなにも熟れて

垂れてきている……」

リナ「あああんっ、お願い……

もっと……もっと……お願い……

あっあっあんっ……」

リョウ「いやらしいな……

すごく吸い付いてきて……

正直な身体だ

もっと、欲しいって?」

リナ「あああんっあんっあああんっ……」



No.51 11/11/18 23:04
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


こんなに気持ち良いものだったなんて……

こんなに淫らだったなんて……

溺れる自分にさえ酔う

リョウの言う通り
『女に生まれて良かった』のかもしれない

いや
知らないほうが幸せだったのかもしれない

感覚が麻痺し
判断がつかなくなってくる

本当に欲しいもの何なのか?

本当に大切なものは何なのか?


No.52 11/11/19 00:08
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


そして

届いた請求書に愕然とする

今回の金額は
20万

更にリョウと会うために揃えた服や靴の
カード請求もあった

ただ……
中途半端な蓄えがあったばかりに

今回も何とか切り抜けてしまう

『夜遊びに明け暮れることを思えば大丈夫
私なんて
まだまだ、かわいい方よ……』

何が
そこまで私を麻痺させたのだろう

騙すのも人の仕業
陥れるのも人の仕業
傷つけるのも
裏切るのも

なのに
人は人を
人の温もりを求める

人恋しい……



No.53 11/11/19 15:17
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウから尽くされるほど
金額は上がる

サービスのすべてが商品だった

気分が上がるほど
気持ち良くなるほど
求めるほど
金額が上がる

こんな単位の支払いを続けていたら
すぐに底につく

そんなこと
当然わかっていた

何年も我慢して貯めてきたものを
湯水のように流してしまう

何故こんなことをしてしまうのだろう……

認めてもらえない
家族のために尽くすことが嫌になった

私の反逆
家族への復讐

私は……
才能や光るものが無く

今まで親からも特別ほめてもらえず育ってきた

どこの場でも地味で目立つことがなく

どちらかと言えば
馬鹿にされてきた

だから
例えお金で買ったものでも

大切にされ
尽くされ
そうされる心地良さから抜けたくなかった

張りつめていたものが
切れてしまったから

もう、どうでもいいと
投げやりになっていた

でも
止めたかった

欲望に溺れる自分を
止めたかった

揺れていた時に

リョウからプレゼントが届く



No.54 11/11/20 07:58
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


このプレゼントも……
純粋なプレゼントではない

最終的には『私自身が購入する』

それでも嬉しかった

届けられた綺麗なワンピース

『これが似合うようになりたい』

今まで目を向けなかったことに目が行くようになった

ヘアメイク、エステ、ネイル……

楽しかった

でも……
『自分のためだけ』の自己満足と欲求を満たす贅沢

美しくなりたいと思うこと
美しい妻
綺麗な母

それは悪いことではない

だが……
直接『誰かの役に立つ』わけではない

あくまで
自己満足と限りない欲求を満たす贅沢

どこかで
今の自分が間違っていることに気付いていた

だからなのか……
いつも何となく落ち着かなかった

リョウと関わる私は嘘の私

でも……
一度覚えた蜜の甘さは忘れてられなくて
一度覚えた贅沢からはなかなか抜け出せない

No.55 11/11/20 20:05
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウ「リナ
綺麗だよ
本当に綺麗になった

オレのために?
嬉しいよ」

いつものリョウとは違った

激しく乱暴に攻められる

それが
かえって刺激的で興奮する

犯されるように……

プレゼントされたワンピースは
下品にめくられ

ショーツは外さず
脇から強引に指をねじ込まれ
激しく刺激される

リナ「ああんっ、あっ、あんっ……」

リョウは私の欲求に完璧に応えていた

絶妙なバランス感覚で
完璧に応える

私の内面を知りつくし

押しも引きも完璧だった

リョウは
『私の欲望そのもの』だった

だから
離れられなくなってしまった

今回の請求書額
プレゼント代を含み
50万

そんな馬鹿げた要求も
疑問に思うことなく
平然と振り込んでいた

それよりも私が恐れたことは
リョウが他の誰かのものになることだった


No.56 11/11/21 21:32
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウを失いたくないばかりに
いつしか
リョウの言いなりになっていった

これが
どんなに恐ろしいことか……

既に
僅か一ヶ月ほどで
100万近くのお金を支払うほど馬鹿な私

『良いカモ』だ

リョウ「リナにもっと綺麗になってもらいたくてさ……
これサプリなんだけど
綺麗に痩せられるし
気分も良くなるから
飲んでみて」

リョウの言葉が嬉しくて
何も疑わず

『サプリ』を飲み始めた

No.57 11/11/22 10:40
らら ( ♀ ZfIHh )

>> 56 はじめまして。こういうところで(失礼)こんなは洒落た小説に出会うとは(≧∇≦) 斬新なアイデアにりょうに溺れるがごとく、ハマりそうです(笑)予想を裏切るラストに期待しています。

No.58 11/11/22 21:58
きる ( lbwJnb )

ららさんへ

きるです。

読んいただき
ありがとうございます。
本日の更新が遅れ申し訳ありません。

嬉しいコメントに心より感謝いたします。

お待たせいたしました。

今からスタートいたします。

本当に
ありがとうございます。


No.59 11/11/22 22:31
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウから与えらるもの全てが私を『幸福』にした

今まで感じたことのない
不思議な幸福感で満たされる

特に抱かれる時の
最高な幸福感……

リョウと一緒にいる時だけが
『本当の私でいられる』

貪るように求め

自力で支払える能力を失った

『お金が無いなら我慢しなさい』
私には
もうそんな簡単で当たり前な理性がきかない

我慢出来ない

今すぐ欲しい

今すぐ
どうでも欲しい


No.60 11/11/22 23:04
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


リョウに会えることが
ただ、ただ楽しみで

純粋な少女のように『その時』を待ち

リョウのために自分を可愛く見せる努力をしたり

秘密を持つことの
家族への『負い目』から
家事をいつも以上に頑張ったり

心の余裕から
優しくなれたり

……そんな穏やかな小さな可愛さは

今はもう、無い

あるのは
狂った欲望と借金

家事をまともにこなせなくなり

ふさぎこんだり

無気力になったり

さすがに家族も
異変に気付く


No.61 11/11/23 00:40
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


夫は私に直接聞かなかった

私から話を聞かず
勝手に調べ
離婚の準備を整えていった

『結局最後までそんなものなのか』

夫と私
一体どうして結婚したのか未だにわからない

そのくらい
あっさりしていた

もともとお互い
特別好きだったわけでもなく

何となく知り合い
何となく年齢的に
何となく結婚……

じっくり話し合ったことが無かった

このまま一度も本気でぶつかることもなく

離婚するのか……

正直
夫への未練は無い

それほどにまでに
うすぺらい関係だったことは虚しい

だが今さら
ぶつかるほど関わりを深めてまで
繋ぎ止めたいと思えない

No.62 11/11/23 01:22
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


子供のことは
さすがに堪えた……

どんな理由があろうとも子供に罪は無い

原因は私
最低な母親

子供はいつも親の犠牲になる

思春期に差しかかる年齢にまで成長していただけに

私のことが絶対に許せず受け入れられなかった

当然だ

私は
子供の方からばっさりと切り捨てられたが

切り捨てるだけでは
子供は決して癒されない

子供の心に深く大きな傷を負わせた

ようやく気付いた

本当に大切な存在

でも、もう……

身体が思うように動かない今の私には

どうすることも出来ない

心と身体のカイリが始まっていた


No.63 11/11/23 12:31
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


夫による周到に整えられた離婚には
もう抵抗の余地は無かった

全てを失った私の支えは
リョウだけ

ここまで来て
まだ分からないのか……?

いや
分かっていた
十分に分かっていた

人間は弱い
ひとりでは生きられない
孤独は恐怖……

本当の孤独に追い込まれた時
生命の危機にさらされる

だから
分かっていたけれども
最後の最後まで
すがれる誰かを求めた

リョウ……

リョウは支えになる相手なんかではない

虚構の中の登場人物にしかすぎない

私を陥れた悪魔

でも

最初に踏み込んだのは
紛れもなく
この私

お願い……

もう一度キスしてほしい

もう一度抱きしめてほしい


No.64 11/11/24 00:08
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


『もう、リョウしかいない』

家を出された私はネットカフェで

必死になってお金を食いつないだ

借金で借金をまわし更にまた借金を重ね

とにかく
リョウとの時間と『サプリ』を買うために

必死になった

しかし
限界と終わりは近づいていた……

リョウは最後の最後まで
私から吸い取れるだけ吸い上げる
甘いキスで……

リョウに抱き寄せられ
リョウの顔が近づき
リョウの唇に触れ
舌が優しく入り絡まる……

この最高の感触が

正常な判断を狂わす

リョウは
私の限界を察知したのか……

このキスが最後となる

最後に
今まで見たことのない冷ややかなリョウの目……

その目が気になったが

その時はあえて気にしないようにした

リョウからも切り捨てられたら……

私の生命には
限界がくる……


No.65 11/11/24 14:01
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


『無い!無い!無くなっている!?嘘!!まさか!!……』

『通販サイト』が無くなっていた……

足から全身の力が抜けてゆく

涙がこぼれた……

初めて『サイト』を目にした時から今日までのことが

走馬灯のように
頭の中を駆け巡る

僅か数ヶ月でこんなことになるなんて

数ヶ月前までは考えもしなかった

多少の不満はあっても
このままの生活が続くことが
当たり前だと思っていた

今思えば
ありふれてはいたが
十分な幸せがあった

もう少し強かったら
もう少し精神的大人であったら

つまらない罠にかかることはなかったであろう

大人になり
妻となり
母にまでなることができたのなら

どうして
『今まで受けたものを次世代に受け継いで行く』
という人として大切な使命を果たすことに集中できなかったのだろう

大人になりきれず
いつまでも自分の欲を満たすことばかりだったがために
罠にかかってしまった

涙がとめどもなく溢れた


No.66 11/11/25 16:45
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


もう戻れない

もうやり直せない

どんなに悔やんでも

本当に取り返しのつかないこともある

全てを失った絶望の中で

私は

残念ながら

光を見つけることが出来なかった

ほんの一時でもいい

この孤独の恐怖から救われたかった

現実から逃げたかった

もう何も持っていない私に唯一残されたものが……

リョウからもらった
『サプリ』

あるだけ全部飲み込んだ

『熱い熱い熱い……
何なの?……
サヨナラ……かな……』


No.67 11/11/25 17:02
きる ( lbwJnb )

注文1恋人


「今日のニュースです

今日未明……で

身元不明の女性の変死体が発見されました。

詳しい状況はまだ分かっておりませんが

遺体の状況から、薬物中毒と思われます……」

……サヨナラ

リナ……



No.68 11/11/25 17:16
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


「あっ、あっ、あんっ……お願いもっと、ああんっ……」

『ホント、どうしようもねぇ雌ブタだな……

吸い取れるだけ吸いとってやる

傷つけられた分

お前らのような女から
オレは全てを奪い取ってやる』



No.69 11/11/26 00:34
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


オレは狂った人生を変えたかった

全ては『あの女』が原因
そう、馬鹿な母親のせい

オレは身勝手な親の犠牲になるしかなかった

まだ自立できる年齢ではなかったオレは従うしかなかった

そんな時、目にした

『どんなものでも
あなたの望んだ通りのもの……』って?

マジかよ?
おもしろそうじゃん


No.70 11/11/26 11:00
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


社長「ナオヤ、指名だ。今日もしっかり頼むぞ。」

『……はぁっ?誰……?あぁ、またあのババァ……しょうがねぇなぁ……』

この闇社会で仕事するようになって、どのくらいになるだろう……

……そう
『あの通販サイト』にアクセスして……

オレは
『別の人生』を注文した


No.71 11/11/26 18:31
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


女「ナオヤ会いたかった……ナオヤ……んっ、あっ、んっ……」

『……あの馬鹿女……オレの母親も、男にこんなツラさげてたのかよ?
マジ、キモイ、ウゼェ
そのせいでオレは、オレは……』

濃厚なキスをしながら

舌を噛みちぎってやろうと何度思ったか

首を絞めてやろうて何度思ったか

『お前のガキと旦那、かわいそうにな
一緒に地獄へ引きずりおろしてやる』


No.72 11/11/26 23:55
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


オレの母親……

ある時から様子が変わって

間もなく親父と離婚

そして……

死んだ

……全然、理解出来ない

ただ、急に母親がいない生活となり

散々だった

荒れた生活だった……


No.73 11/11/27 11:39
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


女「あっああんっ……ナオヤ……んっあんっ……ナオヤの全部がスキ……ああんっ……」

仕事だからな
完璧に仕上げてやるよ

最高の蜜を吸わせ
あとは……
食いモンにしてやる

女「あっあっあん、もうダメ、イッちゃう……ああんっ……」

女がイク最高のタイミングで
いっぱいに突き上げてやる

味わったことのない最高の味を教えてやる

女「……ナオヤ……また会える?」

ナオヤ「ええ、もちろん。あなた次第です。

ご連絡お待ちしております。」


No.74 11/11/27 18:04
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


贅沢で、欲深くて、傲慢で、見栄っ張りで、自分勝手な
女ども……

どうせ旦那なり親父なり
『男』に飼われていなきゃ生きていけないペットのような存在のクセに

「もっと愛してほしい」だと?

ふざけるな

お前ら本気で人を愛したことがあるのか?

何もかも求めるばかりで
決して与えることはしない

甘ったれるな



No.75 11/11/27 18:47
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ナオヤ「……綺麗だ
凄く濡れて……
本当に綺麗だよ……」

女「……あんっ、いや……」

ナオヤ「……止めてほしい?」

女「あんっ、ちがう……意地悪……ああんっ……」

オレは……

別の人生を生きるために

『これ』を選ばなければならなかった

目をそむけたい現実をわざわざ見なければならなかった

それならば

『徹底的にやってやる』

No.76 11/11/27 22:35
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


オレが『別の人生』を注文して、しばらくたった頃だった

そもそも
そんな『通販』も、そんな『注文』も信じてはいなかった

そんなもの冗談に決まっている


それが
突然知らない男が現れ
訳のわからないことを言い出した

男「今まで随分ご苦労なされましたね。
さぞ大変だったことでしょう。
お察しいたします。

その分、これからは、思う存分、貴方の思い通りに生きましょう。

準備が整いましたので、お迎えにあがりました。
さあ、参りましょう。」

ナオヤ「はっ!?一体何なんだよ!?

訳わかんねーこと言ってんじゃねーよ!!

ふざけんな!!」

男「驚かれるのも無理ありません。

落ちてください。

わたくしは貴方の『ご注文』を承り、参りました。

ただ、このまま、わたくしを振り切っても何も変わりませんよ。

ご自分から踏み出さなくては、何も変わりませんよ。」


No.77 11/11/27 23:03
きる ( lbwJnb )

>> 76 訂正


No.76

「落ちてください」→
「落ち着いてください」

失礼いたしました。

きる


No.78 11/11/27 23:56
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ナオヤ「えっ!?まさか!?
あの通販!?」

怪しいと思いつつも

紳士的な男の物腰
オレを気づかう態度
的を得た言葉に

複雑な思いになった

今までのオレ……

母親が突然いなくなり
父親と二人の生活……

親父には感謝しているが
仕事しか出来ない親父

家事の全てをオレがやらなければならなかった

幼児ではなかったものの
まだ小学生だったオレにとって
決して楽ではなかった

母親が突然いなくなるというショック

十分な食事も出来ない

一生懸命やっているつもりでも
身だしなみがだらしなくなる

勉強どころではなくなり
成績も落ちていった

そして……

いじめられるようになった……

そんなことが思い出され

悔しくて、悲しくて、虚しくて……どうしようもない思いになる

『変われるのなら
本当に変わることが出来るのなら
やり直して
見返してやる』


No.79 11/11/28 21:32
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


男「意志が固まってきたようですね。
光栄です。

失礼ながら、貴方のことを調べさせていただきました。

是非ともご契約いただきたく存じますが
今のままの貴方には、とても支払える額ではありません。

残念ながら、支払い能力のない方とご契約する訳にはいきません。

そこで、ご提案なのですが
貴方にはわたくしどもと同時に別の契約を結んでいただき
わたくしどもと一緒に『お仕事』という形で、お手伝いいただきます。

これは、貴方にとって少々辛い試練になるかもしれません。

しかし、その分多大な報酬と、必ずご満足いただける商品を保証いたします。

貴方には、やり遂げる才能があります。
素質があります。

必ずご満足いただけると存じます。

いかがでしょうか?」


No.80 11/11/28 22:18
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


『何ごちゃごちゃ訳わかんねーこと言ってんだ……』

反発しながらも

いろんなことが頭の中で駆け巡る

最初の第一声から、おかしい

何故、オレのことをそれほどにまで、よく知っているんだ?

『調べた』って、どういうことなんだ?

いづれにせよ、もう
『知り尽くされている』

この情報化社会では
『個人情報』が
どれほど価値ある金を生む手段となり得るか

握られたら最後
逃げられない

だったら、こっちだって
取れるだけ、取ってやる

どうせ狂った人生なんだ
今さら守るものもない

『やってやる』

No.81 11/11/28 23:15
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ナオヤ「わかった。

やるよ。」

男「ありがとうございます。

良い人生にしましょう。」

オレは、本当に変われるのか?
そんなことがあり得るのか?

どうだっていい

引き返したって
おもしろいことなんて何も無い

そうしてオレは……

闇社会で全くの『別人』となり生きて行く

唯一『ナオヤ』という名前だけを残し

あとは全てを捨てて……

No.82 11/11/29 19:10
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


男「トップを目指すなら、まずは全てにおいて徹底的に一流を身に付けなければなりません。

生半可では通用いたしません。

その覚悟については、よろしいですね?」

想像以上にキツかった

知識、教養、マナー、常識、体力……
短期間に叩き込まなくてはならない

だが、後戻りも逃げ出すこともできない

一度が関わった以上、内部情報の漏洩を防ぐため

もう、まともに暮らすことは出来なくなる仕組みになっていた

生きたいのなら……

『やり遂げる』しか選択肢はない


No.83 11/11/29 19:57
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


男「ナオヤさん

貴方はもう、どこへ出ても恥ずかしくない。

『今の貴方に魅了されない女性はいない』と言っても過言ではないでしょう。

あとは、自信を持って堂々と振る舞ってください。」

ダークスーツに身を包み外見から中身まで装備したオレに『仕事』が与えられた

あらゆる手段を使って
女から金を巻き上げる……


No.84 11/11/29 20:39
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


信じられなかった
『オレを見ない女がいない
振り返らない女がいない』

オレは……
もともと大人しい性格で、決して目立つことのない垢抜けない外見だった
さらに、いじめられた経験から、自信も無くし、陰気な雰囲気だった

そのため、異性に相手にされることは
もちろん無かった

『いけるかもしれない……』

ここまでのオレに対する『設備投資』の返済
そして報酬を得るためには
どうにも『やるしかない』

覚悟と自信を得たオレは、次々に女を落とし、仕事をこなしていった

そうしているうちに
今まででは考えられない額の金が入ってくるようになった



No.85 11/11/30 04:29
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


『……女は、いつまでもお姫様でいたいものなのか……』

女に限ったものではないかもしれないが……
欲望は果てしない

だから、オレのような『仕事』が成り立つのだが
人間の欲深さに、うんざりする

そんな嫌悪感を押し殺し
サービスに徹する

相手に決して恥をかかせないよう
要求にはお望み通り、完璧に応える

最高の夢を見させてあげる

だが……
女を抱きながら
悲しくなる

『お前に愛されたくて必死な小さな魂が、家で膝を抱えて待っていることに、何故気付いてやれねぇんだよ?』



No.86 11/12/01 01:30
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


女「ナオヤ……あっ、あんっ、んっ……このまま繋がっていたい……ずっと、あっあんっ……」

都心ホテルの高層階
眼下にはキラキラ光る夜景が広がっている

クリスマスが近いこの時期はイルミネーションの光も加わり
街は一層輝きを増していた

そんな景色を
まるで自分だけのものに感じながら

この女はオレに抱かれる

窓ガラスに片手をつき

もう片方の腕はオレに絡み

オレにバックから突き上げられ

目を潤ませている

性器の絡み合ういやらしい音、艶かしい声、卑猥な臭いが部屋を満たしている

場所から体位に至るまで
全ての望みを叶えてやる

こうして
女達はオレに溺れて行く

『オレの母親もこんな風に溺れていたのか……
まだガキだったオレは
腹を空かせて、帰ってくるのを
ひたすら恋しく待っていたんだせ……』


No.87 11/12/01 23:12
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


社長「ナオヤ、ちょっといいか?」

ナオヤ「はい」

社長「おまえの客のひとりなんだが、金の振り込みが無い。

面倒だか、ちょっと探ってきてくれないか?」

ナオヤ「はい、承知いたしました」

『あいつか……たくっ、面倒かけやがって……』

今まで、多額にもかかわらず、振り込みは守られていた客だった

甘ったれたあばずれでムカつく女だった

様子を探りに行く

想像以上に、酷く、手入れをされていない古いマンション

留守のようだ……

んっ?違う

何か気配が……

オレの生い立ちから来る直感

子供だ

中に子供がいる

しかも様子がおかしい


No.88 11/12/02 04:57
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


もう夕刻から夜になろうとする時間で辺りは暗くなってきた

部屋の中はテレビがついているようでチラチラ光の色が変わるのが分かるが、電気はつかない……

時折、インターホンを鳴らしてみるが反応は無い

かなり古くて小さな、高級ではない建物でだったため、ドアに耳を近付けると、中の様子がうかがえた

子供向け番組のテレビ音

冬であるにもかかわらず、暖房している様子の無い冷気

咳き込む子供の声

『ヤバイな……』

ちょうど、隣人が帰ってきた

No.89 11/12/02 19:03
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ナオヤ「すみません
突然に申し訳ありません

ちょっと、ここの部屋に住んでいる人のことをおうかがいしたいのですが……」

学生か?フリーターか?といった感じの若い男だった

オレに声をかけられたことが、明らかに迷惑そう

オレは持っていた万札を数枚、そいつににぎらす

すると

隣人「で、何?」

愛想無く口を開いた

ナオヤ「ここに住んでいる人、どんな感じ?」

隣人「……母親っぽい女とガキかな……

女は、ほとんど家にいねーよ、多分……

ガキの泣き声がたまに聞こえてた

最近は声しないけど……

面倒な事件とか、マジ勘弁してほしい」

『マズイ』


No.90 11/12/02 19:57
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


管理会社の連絡先を聞き出し、とにかく連絡する

管理会社「申し訳ございませんが、身元のはっきりしない方に、そういった対応はいたしかねます……」

ナオヤ「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!

命にかかわるかもしれねぇんだぞ!

事件になって報道されたいのか!

そうなったら、お前らもおしまいだ!

それでもいいのか!

とにかく、さっさと鍵持って来い!

来ないなら、警察に連絡する!」

管理会社側は渋々承諾し、15分ほどで来た

ガチャ……

『うっ、何なんだ、この悪臭』

No.91 11/12/03 01:13
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ある程度の予想はしていたが、それ以上に荒れていた

『かなり酷い……』

掃除片付けなど、されているはずもなく

ゴミが散乱し、足の踏み場もない

悪いが靴を脱いで上がることを躊躇させる

換気もされず、淀んだ空気に悪臭

吐き気がする

決して広くない間取りであるにもかかわらず、奥の部屋までを遠く感じる

ゴミをかき分けながら、ドアを開けると

薄汚れた小さな人形のように倒れた姿が目にはいった

ナオヤ「おい!!しっかりしろ!!聞こえるか!!おい!!

救急車!!救急車呼べ!!」

管理会社の男は呆然と立ちつくしている

ナオヤ「何やってんだ!!この役立たず!!」

No.92 11/12/03 10:59
きる ( lbwJnb )

注文2ミクル


病院に運び込み子供の一命はとりとめた

ただ、オレは保護者でもなければ身内でもない

そんな『素性のわからない』奴に

これ以上、何も出来ない

もどかしく、悔しかった

『くそっ、何が保護者だ
血のつながりなんて、役に立ってねーじゃねーか!』

社長に状況を説明するために電話を入れる


社長がひとこと

社長「わかった。
もう、そこまででいい。深入りするな」

オレのことを知っている社長の優しさだった

だかオレは社長に従わず、女のマンションに戻った

『あの女、許さねー』


No.93 11/12/04 04:23
きる ( lbwJnb )

訂正


No.92

「注文2ミクル」→
「注文2別人生」

失礼いたしました。

きる


No.94 11/12/04 04:59
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


その日、女は帰って来なかった

『一体、どういう神経してんだ?
あのガキ、今日オレが来てなかったら
死んでたかもしれねぇんだぞ……』

この客はかなり若く、見た目は可愛い派手な女だった

多額の支払いも今まで出来ていたことから

まともな職業には就いていないことは明らかだ

まさか、子供がいたとは思わなかった

それから数時間待ったが帰って来なかった

オレは直接客と連絡を取り合うことは許されていない

トラブルになりやすくなるため、必ず事務所を通しての連絡に限られていた

今回の社長からの依頼も
『様子を探ってこい』というだけのもので
それ以上はするなということだった

携帯の番号も知らない

支払いを滞っているから向こうから依頼の連絡は無いだろう

女と接触するには待つしかなかった


No.95 11/12/04 11:02
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


『来た!』

どのくらい待っただろう……

女は辺りを気にしながら身を隠すように、こっちへ向かってくる

オレの社以外にも、支払いを滞っている何かがあるのかもしれない

女はオレに気付くと、ビクッとし『信じられない』といった表情だった

女「ひ、久しぶり……
あ、あの……あのね、ちゃんと払うから、ね」

ナオヤ「当然だ
だがな、今日ここでオレが待っていたのは、そんな理由じゃない!
ガキのことだ!」

オレは『客』に対してはソフトな対応しかしない

『接客中』はどんなことが起きようが、どんな要求をされようが

決して乱れず、怒るなどということはしない

そんなオレが怒りをあらわにしていることに、女は相当動揺している

女「えっ!?何、何言ってんの?ガキって、な、何なの?」


No.96 11/12/04 14:28
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


ナオヤ「ふざけるな!
あの子は今病院だ!
後少し処置が遅れていたら、死んでたんだぞ!」

女「……余計なことしやがって」

ナオヤ「は?
今、何て言った!」

女「余計なことしやがって!
あんなの死んでくれたら、良かったんだよ!
あんなの要らなかったんだ!
あんなのがいるから、男に逃げられるし、遊べないし、金だって好きなだけ使えない
おまけにギャーギャー泣くし
最悪なんだよ!!」

ナオヤ「……おまえ、正気か……?」

女「今だって、仕方がねーから、おにぎりとジュース置きに来てやったんだ!
いないなら、わざわざ見に来ることなかった!
あー、めんどくせ、損した!」

オレは言葉を失った

こいつは話にならない

すると見知らぬ男が現れた

女が近くで待たせていたようだ

女がなかなか戻らないことに苛立っていた


No.97 11/12/04 18:12
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


女「あーっ、ごめーん
何かさぁ、うっとーし奴に絡まれちゃってぇ
困ってたんだよねぇ」

男「おまえ何なんだよ!
何やってんだよ!
こいつはオレの女だ!
手出すな!」

ナオヤ「オレはこんな女に興味はねー!
そんなことのために、この女と話している訳じゃねー!!」

『ここで今こいつらと、まともな話は出来ない』

そう思ったオレは無視して、その場を立ち去ろうとした

ナオヤ「うっ、あっ……おまえ……ったく…な……んなんだ……」

脇腹に初めて感じる痛みが走り……

膝をつき……

倒れこんだ……

女「キャッ、キャーッ!!」


No.98 11/12/05 12:57
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


『マジかよ?なんてことしてくれたんだ……』

どうやらオレは刺されたらしい……

あいつらはオレの血を見て逃げ出した

薄れゆく意識の中でオレは謝っていた

『ごめん、ごめんな……』

病院に運んだ子供と約束したんだ

お互い名前も知らないが

『辛かったよな、寂しかったよな、心細かったよな
寒かっただろ?
お兄ちゃんが必ず迎えにきてやるからな
お兄ちゃんも寂しかったんだ
お兄ちゃんと暮らそう
お兄ちゃんは、おまえを一人ぼっちにはしない』


No.99 11/12/05 13:18
きる ( lbwJnb )

注文2別人生


『約束……守れそうにないな……本当にごめん……』

沢山の金を手にした

女に不自由することもなかった

この数ヶ月で大体やりたいことをやりつくした

だか、いつも、何か足りないものを感じていた

満たされない空洞があった

『母さん……』

オレは……

母さんに笑っていてもらいたかった

抱き締めて欲しかった

オレを捨てないで欲しかった

『母さん……もうすぐ会えるんだね……
……サヨナラ』



No.100 11/12/05 13:40
きる ( lbwJnb )

注文3子供


「あら?今、何週目?体冷やさないように大事にしてね」

「今、何ヵ月?女の子?可愛いわね」

結婚すれば
赤ちゃんは出来るものだと思っていた

結婚すれば
誰でもお母さんになるんだと思っていた


No.101 11/12/05 20:59
きる ( lbwJnb )

注文3子供


私は家族に憧れていた

私には家族がいなかったから

お父さんがいて
お母さんがいて
子供がいる

その形に憧れていた

だから結婚して
子供を大切に育てたかった

子供と一緒に暮らしてあげたかった

でも、やっぱり無理だったのかな……


No.102 11/12/05 21:23
きる ( lbwJnb )

注文3子供


私は気がついたら病院のベッドで寝ていた

3歳か4歳頃だったと思う

それまでは多分ママと暮らしていたんだと思う

パパという人はいなかった

まだ小さかったし、ほとんど覚えていない

気がついたら病院のベッドで

しばらく病院にいて

元気になったら

知らないおばちゃんと一緒に

子供がいっぱいいるお家へ行った

そこが『私のお家』になった

ママはいたはずなんだけど

病院にいた時から今日まで会っていない

どこで何しているのか、生きているのか、死んでしまっているのか

全くわからない

ただ
死にそうだった私を救ってくれた『お兄ちゃん』がいたらしい


No.103 11/12/06 14:38
きる ( lbwJnb )

注文3子供


私ね……

ユイはね……

誰にも言ってないけど

『お兄ちゃん』のお嫁さんになりたかったんだ

『お兄ちゃん』にもう一度会いたかった

毎年
七夕のお願いごとには
「『お兄ちゃん』に会えますように」
って書いていたよ

毎年
クリスマスはプレゼントはいらないから
「『お兄ちゃん』に会わせてください」
って神様に祈っていたよ

でも
会えなかった

私に会いに来てくれる人なんて

私を迎えに来てくれる人なんて

いなかったんだ

願いが叶わず泣く度にシスターがそっと抱き締めてくれたけど

ポッカリ空いた心の穴は埋められなかった


No.104 11/12/06 14:59
ピカチュウ ( ♀ t7m1nb )

続きが気になる(>_<)💕
面白いです!
頑張って書いて下さいね☺
更新待ってます💓

No.105 11/12/06 15:04
きる ( lbwJnb )

注文3子供


ある時シスターに聞いてみた

ユイ「私のママっているのかな?
私を助けてくれた『お兄ちゃん』ってどんな人なのかな?」

シスターは悲しい目をするだけで何も言わなかった

それでわかった……

『もう、聞いてはいけないんだ』

ただ

シスター「ユイちゃんはこうして生かされている

きっと何か使命が残っているんだと思うの

でもね、ユイちゃん

ユイちゃんははとても可愛い女の子だから……

だからこそ
自分を大切に
大切に生きてね」

精神的に幼い私には、まだ深く理解することが出来なかった……

間もなくこの『お家』を出なければならない年齢が近づいていた

外で
たった一人で自立するには厳しい社会に
間もなく私は放り出されてしまう……

No.106 11/12/06 15:25
きる ( lbwJnb )

ピカチュウさんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

お待たせしてしまい申し訳ありません。

コメントはとても励みになります。

ありがとうございます。

一度に沢山の更新
頻繁に更新はなかなか出来ませんが

読んでいただいている方への礼儀とお礼の思いを込め

一日一回は更新して行きたいと思っております。

また、見直しているつもりが

お恥ずかしながら

誤字脱字も多く
申し訳ありません。

読んでいただいている皆様
本当に本当に
ありがとうございます。

No.107 11/12/06 17:57
きる ( lbwJnb )

注文3子供


シスター「ユイちゃん

困ったことがあったら
必ず連絡するのよ

必ず力になるから
一人で抱え込まないでね

遠慮しないで必ず相談してね」

シスターは泣いていた

シスターは私がまだ未熟なことを心から案じ泣いてくれていた

でも仕方がない……

私だって本当は出たくない

不安で不安で……

でも『子供の家』は
常に子供がいっぱいで
経済的にも余裕が無い

今日も今も
ここに来なければ死んでしまう
もっと小さな命が待っているから

大きくなった私は場所を空けてあげなければならない

法律で
一定年齢を越えた子供は出なければならないことになっている

生きるための術を十分に身につけているか、いないかなんて

国家は考えてなんかいない

現在ある法律で処理するだけ

陰にいる私たちの存在なんて知らないし
考えたこともないのだろう


No.108 11/12/06 21:10
きる ( lbwJnb )

注文3子供


私には
わからないこと、知らないことが多すぎたんだと思う

シスターに相談しようにも
何をどう相談したら良いのかもわからなかった

生活の仕方、社会の常識……
何もかも、よくわからないまま毎日過ぎてゆく

とにかくシスターに紹介してもらったパン屋さんのお仕事は
必死になって頑張った

お仕事に行って、アパート帰って、またお仕事に行って……
ひたすら、それを繰り返した

遊んでいるわけではないのに
遊ぶ時間さえないのに
常にギリギリの生活だった

そんな私を悪魔が狙っていた……

No.109 11/12/07 14:17
きる ( lbwJnb )

注文3子供


「社長
やはり社長にかなう相手はいませんね

今日の取引もさすがでした

先方も社長への信頼は絶大なものですし
今回も良い形で進めますね」

サトシ「君もよくやってくれた、ありがとう

明日からまた忙しくなる

今日はここまででいいから
帰ってゆっくりしてくれ」

大きな仕事をまたひとつ成功におさめた

達成感と安堵、充実感に浸る時

無性に寂しくなる

『オレは何のために働いているのか……』

結婚して十年近く経つが子供に恵まれなかった


No.110 11/12/07 23:44
きる ( lbwJnb )

注文3子供


オレは一応『跡取り息子』だった

生まれた時から
それなりの地位、財産は保証されている反面
レールの敷かれた人生

だからといって
それに甘んじることなく努力をしてきた

学歴、経歴……
全てに傷がつかないよう
一流のものを残してきた

そうして自身の力を確立してきた

今までは無我夢中で余裕もなかったためか

若かったこともあってか

特に気にならなかった『家族』とくに『子供』のことが引っ掛かるようになっていた……



No.111 11/12/08 00:04
きる ( lbwJnb )

注文3子供


年齢からくる感傷的なものなのか
やはり遺伝子に組み込まれた本能か

オレは『血を分けた』子供に会いたいと願うようになっていた

『血を分ける』にこだわりすぎたばかりに……

オレは踏み込んではいけない領域に足を踏み入れるのか……

罪を犯すこととなるのか……

『自分の子供』に会いたいと願うことは
そんなにも贅沢なことなのか?
至って自然なことなのではないのか?



No.112 11/12/08 00:32
きる ( lbwJnb )

注文3子供


妻のレイカとは……

表向きには上手くいっていた

セックスレスでもない

ただ……何となく……

掴めない『何か』を感じていた

これは単なる勘でしかなかったが
常に何か引っ掛かる

核心をついてはいけないものを感じていた

そのためか
レイカとは埋められない溝、縮められない距離を感じ

何か満たされない空洞があった


No.113 11/12/08 01:08
恋歌 ( ♀ uU5Ah )

横レス申し訳ないです💦

スミマセン💦

頭の悪い私に、教えて下さい💦💦


ナオヤは、刺されて亡くなってしまったんでしょうか❓

No.114 11/12/08 01:43
きる ( lbwJnb )

恋歌さんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

はい。
「ナオヤは刺されて亡くなる」
というお話しにしています。

まだまだ未熟で
皆様にご理解いただけるように表現出来ておらず
申し訳ありません。

この場をお借りし補足説明させていただきます。

短編で区切りつつ
お話し全体を連動させ

前のお話しで絡んだ人物の視点で次のお話しを進めております。

1の話のリナの子供が

2の話のナオヤ
ナオヤ=『お兄ちゃん』で
ナオヤに助けられた子供が

3の話のユイです
3の話は少しタイプを変え、3人の人物が『子供』というキーワードで絡んでいきます。

コメントありがとうございます。

読んでくださる方の存在が
本当に大きな励みになっております。

本当に本当に
ありがとうございます。

No.115 11/12/08 01:50
恋歌 ( ♀ uU5Ah )

>> 114
ありがとうございます😃


こちらこそ、乏しい想像力と理解力の無さで申し訳ありませんでした💦


小説、とても 面白いです☺


応援してます☺

No.116 11/12/08 03:16
きる ( lbwJnb )

恋歌さんへ

きるです。

こちらこそ
ありがとうございます。

コメントいただくことで
独りよがりになりがちなところを気づかせていただけるので
とてもありがたいです。

疑問に思う方が他にもいらしたでしょうし
丁度、補足が出来て良かったです。

ありがとうございました。

No.117 11/12/08 14:50
はるきち ( zXMPh )

はじめまして😌

毎回 ドキドキしながら読ませてもらってます。

短編連作大好きです。そして、主人公の孤独や陰にひきこまれす


続きを楽しみにしてますが、主様無理なく更新して下さい。


応援してます。

No.118 11/12/08 15:16
きる ( lbwJnb )

はるきちさんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

本当に読んでくださるだけで
とても感謝な上
皆様のあたたかい励ましとご声援には
深く感謝いたしております。

まだまだ修行の身で至らない点も多いですが
コツコツと続けてまいります。

お待たせいたしました。

この後、少しお話しを進めます。

なお
ミクルのメンテナンス予告メッセージが出ていますので

明日の更新が遅れましたら、この場をお借りし先にお詫びいたします。

メンテナンス終了後、また続けてまいりますので

宜しくお願いいたします。

本当に
ありがとうございます。


No.119 11/12/08 15:44
きる ( lbwJnb )

注文3子供


「はっ……うっ……レイカ……イッてもいい?……もう……イク……」

レイカ「あんっダメ……もうちょっと……おねがい……んんっ……はぁん……」

結婚したら何故、子供を生まなくてはならないの?

子供がいなければならない理由って何?

めちゃくちゃやってきて、てきとーに生きてきて、惰性の中で出来た子供を出産して……

だから子育てにすぐ、行き詰まってしまうんじゃないの?

なのに……

『子供がいる』ってだけで評価されて

『子供がいない』ってことで惨めで……

女はどうして、そんなことで優劣をつけられなくてはならないの?

馬鹿にしないでよ……


No.120 11/12/08 16:22
きる ( lbwJnb )

注文3子供


レイカ「……おねがい……はぁんあんっ……めちゃくちゃにして……ああんっ……」

多分、どんな形にしろ

自分なりの確固たる信念を持ち

堂々と生きれば
それで良い

他人は結局
他人に対しては適当なことを言っているにすぎず

その他愛ない言葉で
どれだけ相手を傷つけたかなんて
考えもしないし

言ったはなから
言ったことを忘れていたりもする

そんな適当な言動に振り回されるのは馬鹿馬鹿しい

人の言動に揺れることなく

私は私を生きれば良いのだろう

でも
私は他人の評価が気になり……

自信が持てなかった

現実から逃げ出したくて
忘れたくて

色んな人と体を絡ませた

本当の愛と向かい合うのが怖くて……


No.121 11/12/09 06:10
きる ( lbwJnb )

注文3子供


「……おまえ……マジいいよ……んっ……あっ……たまんね……出してぇ……中で……」

レイカ「んんんっ……ああっ……いいよ……あっああんっ……」

そうして私は
身も心も母親になれないまま

どうしようもなく
ただ存在している

本当は知っている……
サトシの思い……

だから
苦しい……

私はサトシと結婚すべきではなかった

優しすぎるサトシは……

あの日
哀れな私を見捨てることが出来なかった

へたな情けが
後に不幸を招くとは……

皮肉なものだ

優しかったばかりに
不幸になってしまうなんて

世の中上手く
出来ていない……


No.122 11/12/09 10:39
きる ( lbwJnb )

注文3子供


レイカ「おねがい……このまま……このまま……連れ去って……あんっああん……」

たとえ
ほんの一時に過ぎなくても……

快楽に溺れ
忘れてしまいたかった

私はサトシに相応しい女になろうと必死だった

でも
どんなに取り繕っても

やはりボロは出てしまう

サトシはきっと……

そんなくだらない見栄や虚栄に関心は無かった

だからあの時……

純粋に私を哀れに思い救ってくれた

それでも
罪は大きすぎた

私の犯した罪が大きすぎて

許されないから

苦しまなくてはならないのであろう……


No.123 11/12/10 00:41
きる ( lbwJnb )

注文3子供


「……いまさら恥じらいもないだろ?……こんなに濡らして……」

レイカ「んっあっ……あんっ……もっと……ねぇ……あんっ……もっと……イカせて……んっああん……」

見栄と虚栄、そして、どうして他人と同じものを欲しがり、同じように生きようとするのだろう

狭い世界で、そんなつまらない競争をするのだろう

女は特に……

女はどうして、まわりの女が持っているものを自分も手に入れなくては気がすまなくなるのだろう

そんな馬鹿馬鹿しい戦いに翻弄され続け……

『物』だけにとどまるならまだしも
『子供』さえも
自分の思い通りにしようと……

私は…

私の犯した大きな罪のために

子供が産めない

私は若い頃

子供を捨てたから……


No.124 11/12/10 13:19
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


店長「ユイちゃん調子悪そうだね

今日はもう、いいよ

いつも良くやってくれるしね、今日はもう上がって、ゆっくり休んだ方がいい

調子悪かったら、明日も電話だけくれればいいから

元気になったら、また頼むね」

風邪をひいて調子が悪かった

帰りたくなかった

帰ったって
余計に辛いから

しんどくても仕事してるほうがいい

何故かわからないけど

風邪をひいた時
ひとりで部屋にいることが
とても怖い


No.125 11/12/10 13:42
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


仕事を上がったものの

帰りたくなかった

毎日
仕事先のパン屋さんと自宅の往復だけだったから
寄り道の仕方もわからない

ドキドキしながら
ファーストフードに入り
ハンバーガーとポテトと飲み物を何とかオーダー

ユイ「はぁ……」

席に座り何となく携帯を見ていた

『……?
あなたの望んだ通りのものが届きます?
どんなものでも?』

熱で朦朧としてくる意識の中で

私は
『……お兄ちゃん……お兄ちゃん……』

と呼び続けた……


No.126 11/12/10 21:41
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


サトシ「……レイカ……ああ……そうなんだ……遅くなる……じゃあ」

帰りたくなかった

オフィスでひとり
何となくネットの閲覧

仕事が忙しくほとんど『よそ見』することもなかった

ただ今日は……

どうも仕事が手につかず
集中出来ないでいた

『どんなものでも
あなたの望んだ通りのものが届きます』

『何なんだこれは?馬鹿馬鹿しいキャッチフレーズだ』

普段なら見向きもしないが

子供のような
ほんの悪戯心で

『子供』

と手続き完了

『こんなことで本当に可愛い子供が来てくれたら
ほんと世界が変わるよ』

可笑しくて思わず笑ってしまう


No.127 11/12/11 09:54
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


若い頃……
荒れた生活の末
子供が出来てしまった

自分が妊娠しているなんて知らなかった

そのくらい身体に対しても
いい加減な知識しかなかった

言い訳ではないが
家庭も荒んだもので

未熟な人間ばかりの中で
良い解決策をとらないまま
酷い出産をした

酷い状況での出産
未発達な身体での出産

そのまま子供の出来ない身体になっていった

出来ないことをいいことに

矛盾して

出来ないことが悲しくて

傷めつけるように快楽を求めた

愛のあるセックスが

嫌だった……


No.128 11/12/12 09:53
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


『子供』って何なんだろう……

私は『子供』を心の底から望んだことがない

ほとんど産み捨て同然だった『あの子』と

一緒に暮らして時もあったが

『子育て』はしていなかった

大人に大切にしてもらったことのない私は

産んだからといって

『それ』をどうしたら良いのかなんて

わからない……

可愛いとも

思えなかった

邪魔で

うるさい

だけ……


No.129 11/12/12 10:59
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


取り繕いながらの生活

もう限界だって
とうにわかっている

でも
サトシと離れないズルさ
『あんな生活には戻りたくない』

サトシと私では住む世界が違いすぎた

サトシと出会い
結婚したことで

闇の世界から私だけ抜け出せたと思った

でも……

今までとは違う戦いが始まった

サトシには理解出来ない
醜い女同士の戦いといじめ


No.130 11/12/12 21:26
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


「ユイさん
気がつきましたか

熱はさがりました

もう大丈夫ですよ

元気になるまで、ここでしばらくゆっくりなさると良い」

びっくりして飛び起き

ユイ「えっ!?あっ!?私、あのっ!?」

「驚くのも無理ありません

でも心配しなくてもよろしい

落ち着いて聞いてください

貴方は高熱で意識を失っていました

貴方は今まで、たったひとりで本当によく頑張ってこられました

わたくしどもは実は貴方のことをずっと見守っておりました

そして貴方に関わるのに、一番良い時を伺っておりました

ようやく『その時』が来たのです

貴方が強く強く求めたので通じた……とでも申し上げておきましょう

わたくしどもは、貴方が一番慕い求めていた方に関わっております

残念ながら、貴方の求めるお方は、ある事情でお亡くなりになりました

ですが
貴方の求める方と重なる素晴らしい方に貴方は出会い

ある重大な使命を果たすこととなります

幸せにつながるか
苦しみとなるか

現時点では何とも申し上げられませんが

これからは『ひとり』ではありません

今はゆっくり休んでください」

No.131 11/12/13 17:38
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


言われていることに混乱してしまう……

ひとつひとつ理解しながら

でも
よくわからないこともあって……

ただ……

『お兄ちゃん』には
もう『会えない』
ということ

これからは
『ひとりじゃない』
ということ

それが心に深く刻まれ

一体何が始まろうとしているのか……

得体の知れない不安を感じながらも

受け入れて行く

ことの恐ろしさを想像するには

私は幼なすぎた

十分理解出来ないまま

ただ『ひとりじゃない』という

幼い愛に安堵し

従順に従って行く……


No.132 11/12/13 21:17
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


体調も落ち着いてきたため
一度自宅アパートに戻ることとなった

お世話になったことに関して……

『貴方の遠い親戚のようなものです
どうぞ、お気になさらないで』

それを鵜呑みにした……

アパートでひとり……

無性に寂しい

どうしても『ひとり』が辛く

フラフラと夜の街に出た

次々に男の人が声をかけてくる

怖くなって逃げ続けた

『もう帰ろう』

そう、決めたのに

最後の最後

二人組に捕まり
どうにもならなくなった

『どうしよう!怖いよ!誰か助けて!!』

「あっ、すみません!

ごめんなさいね
妹がご迷惑おかけしてしまったようで

はぐれてしまったんですよ

お前、駄目じゃないか勝手に……

田舎から出てきたばかりで

本当にすみません」



No.133 11/12/13 21:37
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


スーツ姿のすらっとした優しそうな男の人が

そう言って

しつこい二人組から
私を引き離し
助けてくれた

「ったく、何なんだよ」

ぶつぶつ言いながら二人組は去っていった

私は怖さと驚きで
ぼーっとしていた

「大丈夫?
ひとりなの?」

ユイ「……はい」

「……

どんな理由があるにせよ
こんな時間にこんな場所でひとりでいることが危険なことくらい
わかるよね?

送るから帰ろう」

涙がこぼれた……


No.134 11/12/13 22:04
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


オフィスを出たものの帰る気には、なれなかった

バーで少しアルコールに浸る

『気分を変えてもう一軒くらい行くか……』

のんびり夜の街の風に当たっていた

まだ、あどけなさの残る女の子が男に絡まれている……

『……まずい……な』

サトシ「あっ、すみません!

ごめんなさいね
妹がご迷惑おかけしてしまったようで

はぐれてしまったんですよ

お前、駄目じゃないか勝手に……

田舎から出てきたばかりで

本当にすみません」


No.135 11/12/14 10:51
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


まだ『子供』の彼女をこのままここへ置いて行くわけにもいかない……

『送って行くか……』

タクシーを拾おうとすると

ぽろぽろ涙を流しながら泣き出した

『まいったな……』

サトシ「大丈夫だよ

家の前まで送るわけじゃない

近くで安全な場所まで送るだけだから

もう帰らないと
家の人が心配するよ」

「……本当にありがとうございます

でも私……

ひとりぼっちだから

誰も私のことなんて

心配してくれる人なんて

いないから……」

彼女の言っている意味が理解出来ず

親に叱られることが恐くて

適当なことを言っているだけだろう……
くらいにしか思わなかった

サトシ「……わかったよ

ここにいると冷えるから

すぐそこのカフェで
君が落ち着くまで待つよ」


No.136 11/12/14 11:09
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


その男の人は

『家まで送る』

と言ってくれたけど

帰りたくなかった

帰りたくなくて黙って泣いている私は

駄々をこねる子供のようだっただろう

男の人は、ちょっと困った表情で

でも優しく

黙って私と一緒に居てくれた

入ったカフェで温かい飲み物を飲みながら

二人で外を眺めていた

すごく温かくて安心する……

『お兄ちゃん』って

こんな感じだったのかな……


No.137 11/12/14 16:30
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


『このひとが
"お兄ちゃん"
だったらいいのにな……』

ユイ「……あの……」

「んっ?」

優しい眼差しを向けられ……

気がつくと

私は
ぽつり……ぽつり……と
今までの自分のことを話していた

その人は黙って真剣に

私の話を聞いてくれた

「……そうだったんだね

君は本当に『ひとりぼっち』だったんだね……」

優しい目が

とても悲しそうになった

でも
私は心配そうに見つめてくれるその目のおかげで

とてもあたたかい気持ちになった


No.138 11/12/15 20:49
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


『本当に"こんな子"がいたなんて……』

彼女が
何故、今日ここでこんなことをしていたのか……

その理由

そこに至るまでの経緯

それを垣間見てしまい

いたたまれない思いになる

『放っておけない』

ただただ

純粋な気持ちだった

この思いが

後に

悲劇に繋がって行くことなど

そして

実は仕組まれていたことなど

この時は

もちろん

気付くはずもなかった……


No.139 11/12/15 21:13
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


サトシ「困ったことがあったら、いつでも連絡くれたらいい

必ず力になるよ

今日出会ったことも運命かもしれない

君はひとりぼっちなんかじゃないよ」

連絡先を伝え

自宅まで送った

小さくて暗いあたたかみの無い部屋が見えた

その部屋に向かって
とぼとぼと歩いて行く彼女の後ろ姿

まだ体調も十分に回復していないようだった

オレはたまらなく切なくなり……

彼女を追いかけ

後から抱き締めた

この時の思いは……

彼女を女性としてではなく
親子の愛情に似た思いだった

しかし

次第に変わって行く……

No.140 11/12/15 21:35
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


サトシ「今日このまま

君をひとりにはできない

部屋をとる

心配しないで

君に決して手出しはしない

ただ側にいさせてくれ

心配なんだ」

彼女は驚いていたが

「ありがとうございます

大丈夫です

ただ

ひとつだけお願いがあります

私やっぱり

ひとりぼっちの夜は辛いんです

だから

あなたから電話をしてほしいんです

私からは出来ません……

だからどうか

あなたから電話をしてもらえませんか

ずっと待っていますから」

悲しいほど切なかった

彼女は

オレの左手薬指に気付いていた……


No.141 11/12/16 10:50
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


「困ったことがあったら、いつでも連絡くれたらいい……君はひとりぼっちなんかじゃないよ」

嬉しかった

『誰かが心配してくれる』

こんなに嬉しくて安心した気持ちは
初めてだった

確かに……

シスターは私なんかのことを無条件に心配してくれた

でもそれは

他の子供達へも平等に向けられる思いで……

独占は出来なかった

それは仕方がないこと

でも

いつも満たされなくて

心は満タンにならなくて

寂しかったんだと思う

気付かないようにしていた

辛すぎるから

その気付かないようにしていた隙間を

この人の優しさが埋めてくれた

これ以上欲張らなければ

良かったのかもしれない

でも

知ってしまったあたたかさを

私は貪り求めるようになって行く

今まで満たされなかった分を

悲しいほどに

埋めたくて……


No.142 11/12/16 13:21
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


「危ないから……」

とアパートまで送ってくれた

部屋が見えてくると

寂しくて……

夜の冷たい風が

更に心を突き刺してくる

『泣いたらダメ』

泣くのはずるいから……

必死でこらえながら

振り向かずに歩いた

『えっ!?』

一瞬何が起こったのか

わからなかった

私は

彼の腕に包み込まれていた

『男の人の腕ってがっしりしているんだなぁ……』

初めての感触だった

お父さんを全く知らなかった私は

男の人の腕が

こんなにも逞しくて

力があることを

知らなかった

男の人の胸が

広くて大きいということを

知らなかった


No.143 11/12/16 15:06
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


サトシの親戚との付き合い

サトシの仕事関係の奥様同士の付き合い

私には考えられないほど困難なことだった

単に『嫌だ』とか『面倒』とか『ストレス』……
そんなレベルではなかった

スラムに近い家庭環境で育ち

学歴どころか小学校もまともに行っていなかった私は

会話ひとつまともに出来ない

何もかも太刀打ち出来ず

馬鹿にされ
蔑まれ

陰湿ないじめを受けた

いじめは……

どんな世界にも
いつの時代も
いくつになっても

存在する

全てにおいて満たされているように見える人達の中でも

陰湿ないじめは存在する

ただひとつ

幸いだった……と言えるのか

それも今となっては何とも言えないが

容姿に恵まれていた私

サトシも含め

男達を落とすことは簡単だった

反面

だからこそ余計に

女達は私のことが気に入らなかったのだろう

綺麗に化粧し着飾った裏の醜い顔に

吐き気がする


No.144 11/12/16 21:56
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


私がサトシの妻である意味なんて無い

サトシはその気にさえなれば女に不自由することは無いのに

それなのにサトシは……

優しく真面目で

至らない私に

不満もぶつけない

裏切らない……

それがかえって

苦しかった

苦しさから逃れようと

私は私と同じにおいのする男を求めた

今日も「遅くなる」との電話……

私は重ねる肉体だけを求めた

『アクセスさえすれば』

いくらでも私の欲望を満たしてくれる

私の肌に合う下品で卑猥な野性的な肉体を……


No.145 11/12/17 09:57
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


「太陽の光の下でみるレイカ
初めてだな……

綺麗だよ

何かあった?

『デート』がしたいなんてさ……」

陰や暗闇の中ばかりにいた私は

光や明るさが苦手だった……

意識はしていなかったが

気がつくと『闇』に引きずり込まれている

光や善へ這い上がることは困難なのに

闇や悪に落ちることは簡単で一瞬のこと

『暗闇は嫌いなのに……』

「レイカ……

お前は可愛いよ……

そんなに旦那のことが好きなのか?

……妬けるよ……」

海を眺めていた頬を大きな手に包まれ

優しくそっとキスをされた

切ない……

『こんなキスもあるんだ ……』

私は本当は何を求めているんだろう……


No.146 11/12/17 10:28
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


ガチャ……

『……また出掛けているのか……』

最初から束縛はしなかったし、したいとも思わなかったが

最近更にレイカとのすれ違いが増していた

『ちょうどいい……』

プープープー……
トゥルル……

ユイ「もしもし!

本当に電話くれたんですね!

本当に嬉しいです!

でも……

大丈夫なんですか?

無理しないでくださいね」

サトシ「……君はそんな心配なんかしなくていいんだよ

身体大丈夫なのか?」

何年ぶりだっただろう……

付き合い始めの中学生のように

その夜

ユイと明け方まで色んな話をした

一生懸命自分のことを話し
一生懸命オレの話を聞くユイが

可愛いく

楽しかった


No.147 11/12/18 00:39
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


「ユイちゃん
最近明るくなったし
仕事もよくやってくれるし

おばちゃん本当に助かるよ

ありがとうね

ユイちゃん
彼氏でも出来たの?

可愛いし当然か……

でもね
ユイちゃんには幸せになってほしいから

お付き合いする人は
選らばなきゃ駄目だよ

あっ、お節介だね

ごめんね」

ドキッとした

サトシさん……

あれから

電話でお話したり

たまにお食事をご馳走してくれたり……

でも……

『彼氏』なんかじゃない……

好きだけど

大好きなんだけど

好きになってはいけない人だから……


No.148 11/12/18 01:07
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


「レイカ……

綺麗だ……」

窓から

太陽に照らされてキラキラ光る海が全面に広がる

太陽の光が

柄にも無く

私を恥ずかしい思いにさせる

「あんっ……」

後から抱き締められ

首筋を這う唇と吐息に

いつも以上に感じる

背筋に電気が走ったかのように
背中が反る

一瞬視線が合うと

そのまま唇を強く吸われ

もう……立っていられない……

崩れそうな腰をグッと引き寄せ

そのまま抱きかかえられてベットに乱暴に寝かされた

「今日のレイカ最高だよ……

犯してやりたくなる……」


No.149 11/12/18 08:43
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


サトシ「お誕生日おめでとう」

『えっ!?プレゼント!』

サトシ「どうしたの?

あれっ!?オレ、誕生日間違えた!?」

ユイ「……あまりに嬉しくて……私……こんなの初めてだから……」

サトシ「……泣くなよ……」

サトシさんは

優しく頭を撫でてくれた

可愛い綺麗な手袋だった

『こんなお姉さんっぽい手袋に似合う服なんて持ってないよ……』

すごくすごく嬉しかった

楽しい時間はすぐに終わってしまう

『今度はいつ会えるんだろう……』

そんなことばかり考えていた

胸がいっぱいで……

『今日は今日だけは……

特別な日だから

お誕生日だから

許してもらえるよね……』

ユイ「……今日だけは

ずっと一緒にいたいです」

サトシ「……オレだって……

もう抑えられない……」

唇が触れた……

『これが……キス……』


No.150 11/12/18 15:09
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


ユイの誕生日……

レストランで食事をした帰り

ユイ「……今日だけは

ずっと一緒にいたいです」

その言葉が引き金となった

オレはずっと抑えていた……

ユイの気持ちは分かっていた

関わってはいけなかった

だか、放っておけなかった

危なっかしくて

この時も大人として

たしなめるべきなのに

ユイの愛らしさ健気さが

たまらない……

オレは決して踏み込んではいけない深みに

落ちていった……

サトシ「ユイ……

オレ……もう駄目だ……

いい大人でいられない」

眼下はるか下に綺麗な夜景の広がる部屋で

ユイはオレと一緒に

仕組まれた恐ろしい深みに

落ちて行く

快楽に溺れながら……


No.151 11/12/18 18:39
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


ユイを抱き抱え

ゆっくりとベットへ行く

しがみついて少し震えているユイがいとおしい

サトシ「……大丈夫だよ

優しくするし
無理にはしない

力……抜いて……」

そっと寝かせ

瞼にキス

唇にキス……

舌で唇を開こうとしたが

目も口もキュッとつぐんでいる

『可愛い……』

サトシ「口を軽く開いて……

舌を絡ませてみて……」

耳元で囁く……


No.152 11/12/19 01:49
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


剥ぎ取るように服を脱がされ

腕を押さえつけられ

息もできないほど
激しいキスをされる

レイカ「……んっ……あっ……んんっ……」

窓から差し込む明るすぎる太陽の光が

恥ずかしく

淫らにさせる

唇が身体を這う

レイカ「……あっ……あんっ……」

乳輪を舌先で円を描くように愛撫される

わざと一番敏感な部分を外され焦らされるのが

もどかしく
たまらない……

レイカ「……はっ……はっ……はあんっ……」

敏感に感じ過ぎて
息が上がってくる

ようやく

キュッとかたくなった乳頭を吸われ

頂点に達する

レイカ「あああんっ……」

「……レイカ……お前……本当にいい女だぜ……もっと乱れろよ……」

唇がさらに下へと這って行く……


No.153 11/12/20 00:17
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


誕生日の夜

私はサトシさんと

大人への階段をのぼった

『初めての大切な思い出』が

その後

どれだけ大きな支えとなることか……

『初めての体験』は
怖かったから

『サトシさんと』って
願っていたから

願いが叶って

嬉しかった

初めて

『願いが叶った』

と思えた

でも

それは

『正しい願い』じゃなかったから

罰が与えられた……


No.154 11/12/20 00:59
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


ぎこちなく舌を絡ませる幼く純粋なキスに

気持ちが掻き立てられた

ゆっくり丁寧にキスをしながら

ブラウスのボタンを外すと

可愛らしいブラに包まれた胸が現れた

優しく手のひらで包み込むように揉む

目を閉じたまま
時折見せる悩ましい表情

とてもじゃないが
声を出せないでいる様子に

心から
いとおしいと感じる

そっとブラを外す

小さめの未熟な白い膨らみ

ピンとかたくなっている小さなピンクの突起

たまらなくなり
吸い付き舌でたっぷりと愛撫する

『なんて可愛らしいんだ』

ユイは
呼吸が上がってきて
身体をよじる


No.155 11/12/20 20:55
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


そっと触れた……

ユイがビクンと反応する

まだ誰にも開かれていないつぼみ

かたく閉じて
開かれることを
待ちわびている

不安な気持ちとは裏腹に

蜜は小さな口から滴る

指で少しずつ刺激を与えた

優しく丁寧に

ユイはどうしたら良いのかわからないのだろう

ピクン……ピクン……と反応しながら

恥ずかしいのか?

顔を手で覆う

オレはユイの手を掴むと

そのまま腕をオレの首に回し抱きつかせるようにした

キスをしながら

指をゆっくりつぼみの中に滑り込ます

初めての感覚に驚き
『感じた』のだろう

ユイは唇を離し

小さく肩で息をしながら

脚に力を入れ身体をよじる

サトシ「……力……抜いて」

十分に蜜で潤い
少しずつ開き始めた口を指で確認しながら

オレは熱くなったオレを近づけ
少しずつゆっくり入って行く……


No.156 11/12/20 21:29
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


サトシ「……初めは少し痛むと思う……

我慢出来ないようなら無理しないで……

力は……抜くんだよ……」

ユイの様子を見ながら

ユイの呼吸に合わせて

ゆっくり……ゆっくり……

奥へと

入って行く

ようやくたどり着いた

その場所は

あたたかくしっとりとして

オレに吸い付くように

オレを包み込んでくれた

予想すらしていなかった

あまりにも心地いい感覚

オレの方が狂わされる

サトシ「ユイ……奥まで入ったよ……

凄くいい……

……大丈夫?」

ユイはうっすら開いた目の潤んだ瞳でオレを見つめ

小さく頷いた……


No.157 11/12/21 04:06
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


ちょっぴり痛かったけど……

すごく幸せだった

この痛みが嬉しかった

サトシさんと
『ひとつになっている』証だから

サトシさんがゆっくり動く……

サトシさんの動きに私は

身体が熱くなってきて……

頭がぼう……としてきて……

もう、よく分かんなくなってきて……

しばらくするとサトシさんが

私の上でぐったりとした

身体がぴったりとくっつき

感じる

サトシさんの重みが

心地いい

『何だか……眠くなってきたな……』

そのまま私は

眠ってしまう……


No.158 11/12/21 22:07
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


レイカ「あっ……ああんっ……んっ……あんっ……」

乱暴に脚を開かれ

噛みつくように吸い付かれ

淫らに乱れ

身体が小刻みに震え続ける

レイカ「あっあっああんっ……」

現実から逃げたくて

現実を忘れたくて

快楽を激しく求める

「レイカ……もっとよく見せろ……いやらしく挑発してみせろ……」

閉じかけた脚を
すこし恥じらいながら開いてみせる

「最高だせ……もっと可愛がってやるよ……」

いやらしい音を響かせながら

吸いつくされ

舐めまわされ

口でいたぶられ

身体は痙攣するように感じ

意識は遠のいて行くよう……

レイカ「……んっあんっ……最高……よ……」

No.159 11/12/22 08:15
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


『子供が出来ない……
サトシの子供が産めない』

それは『自分の罪』の結果から……

分かっている

分かっているけど

本当に『愛している人の子供がほしい』と望んだ時

初めて……

『産めない』現実が女にとって

『愛する人の子供が産めない』ということが

どれほど『悲しい』かを

身をもって知らされた

それが『自己責任』からであるが故

誰にも悲しみをぶつけることも出来ない

『闇』だけが

私の心の中で広がり続ける

消えない闇を消したくて

子供が出来ないことを馬鹿にする女達を見返したくて

祈るように
貪るように

『子供を望む行為』に依存していった

レイカ「……お願い……はやく……はやく入れて……お願い……」


No.160 11/12/22 09:08
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


「そんなにほしいのか?

淫らな女だ……そういうの好きだせ……

オレをもっと興奮させろよ……

もっといやらしく求めろよ……」

懇願するように
男の反り上がったものをくわえる

私は『それ』がほしい

『それ』で私の奥深くを埋めてほしい

欲しくて欲しくて……

私はしゃぶりつき

いとおしむように舐めあげ

くわえながら奴隷のように男の顔を見上げる

「……はっ……んっ……

プライドの高いお前を服従させているようで……

最高に気持ちいい……

ご褒美やるよ……」

私は四つん這いにさせられ
背中を押さえつけられる

恥ずかしい格好で
恥ずかしい部分を

後から

執拗に舐められ
執拗に眺められる

私の恥ずかしい思いが

私達二人をさらに興奮させる

レイカ「……そんなに見ないで……恥ずかしい……

あっあああんっ……」

そのまま後から

乱暴に入ってきた

いたぶられるように

激しく

強く

突き上げられる

レイカ「ああん……ああん……」

中で私は男を締め付ける

「レイカ……うっ……あっ……

イクっ……あっ……」

果てた

ヒクヒク……と余韻に浸る熱くなった秘部から

ダラダラと熱く淫らなドロリとした液が

脚をつたっていった


No.161 11/12/23 07:48
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


オレはユイとのセックスに
のめり込んでゆく

ユイは身体を重ねる度にどんどん開かれてゆく

ユイは素直に応え
素直に反応した

白くて華奢な身体

みずみずしく張りのある肌

小さめなやわらかい胸

ピンクで潤いに満ちた秘部

すべてが

たまらなくいとおしい

たっぷりと愛撫し

舐めつくし

愛した

こんなに丁寧にゆっくりセックスに没頭したことはなかった

オレの立場では

言えない

口にしてはいけない

だか……

オレはユイを

愛してしまった


No.162 11/12/23 12:50
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


こんなにもサトシさんを求めてしまうなんて……

なんて……
ふしだらなんだろう

でも

欲しい……

あの体温が忘れなれない

裸で抱き締められる

あのあたたかさが

たまらなく恋しい

いけないことだ……って

分かっているけど

サトシさん……

あなたのことが大好きで

あなたが

欲しい


No.163 11/12/23 13:37
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


シスター「ユイちゃん!
よく来てくれたわ!

ユイちゃんのこと
いつも気になっていたのよ

良かった元気そうで

それに

とっても綺麗で大人っぽくなったわ!」

『……シスターごめんなさい……』

私はシスターの顔が見れなかった

ユイ「……あ、あのね、これ……

今日はこれ届けにきたの

明日クリスマス会でしょ

みんなに食べてほしいな、と思って」

働いているパン屋さんで人気のパウンドケーキやマドレーヌを『子供の家』に届けに来た

シスター「ありがとう!

まぁ!美味しそう

こんなに沢山……

これをユイちゃんが作っているのね!すごいわね!

みんな喜ぶわ!

ユイちゃん
本当ありがとう

クリスマス会
ユイちゃんも一緒に過ごせないの?」

ユイ「……うん……お店忙しいし……」

シスター「……そうね……

ユイちゃん……

本当は何か話があるんじゃないの?

いつでもちゃんと聞くから
話して……ね……」

ユイ「……うん……」

『神様、シスター
ごめんなさい……

でも……好きなんです』

私は礼拝堂の前を逃げるように走り
『子供の家』を後にした


No.164 11/12/24 03:44
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


『クリスマスイブ……
みんな楽しそうだな……』

通りを歩くカップルばかり気になった

イブの夜……

『夜が……夜がいやだよ……寂しいよ……サトシさん……


私の居場所なんて無い

神様に近い『子供の家』は
今の私は行けない

サトシさんには会えない

『ひとりで夜が明けるのを待つしかないんだ……』

仕事を終えた私は
まわりを見ないようにうつむきながら
急いでアパートに向かった

ユイ「サトシさん!
どうして!?
どうしてここに!?」

アパートの部屋の前に
サトシさんが……

サトシさんは何も言わず私を抱き締めた


No.165 11/12/24 23:44
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


ユイ「……サトシさん……
ダメだよ……帰らなきゃ……」

サトシ「……ごめん……
オレの方が……
ユイに側にいてもらいたいんだ……頼む……」

『そんなこと言われたら……
気持ち止められないよ……』

雪がちらつく寒いイブの夜

私達は

冷えていた心と身体に

互いに相手のあたたかさが欲しくて

激しく何度も求めた

痛みは快楽に変わり

肌を重ね続けた


No.166 11/12/25 07:38
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


抑えられなかった

オレが悪いということは十分に分かっている

裏切り、背徳、犯した罪……

二人の女を傷つけることになるオレの罪は

許されない

オレはユイを

激しく求めた

欲望のまま抱く

ユイはそんなオレを

余裕を持って包み込めるほど

既に開かれていた

もう……

オレにしがみつき小さく震えていたユイではない

その時オレは様々な出来事から傷つき疲れていた

傷つき、求めるオレを

ユイは優しく包み込み、応える

ユイ「あっ……んんっ……サトシさん……あんっ……」

若く、まだ成熟前の身体を

淫らに濡らし

恥じらいながらも乱れ

時折もらす小さな息づかいと声

オレはそんなユイに

理性を失い

欲望のまま

求め続けた


No.167 11/12/26 08:32
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


医師「こちらがご主人様の検査結果です。

さらに詳しい検査をしなければ、はっきりしたことを今の段階では申し上げられません。

一刻も早く再検査を受けていただき、早急に対応することをおすすめいたします。

ご本人様にも何度かお話し申し上げておりますが、お忙しい方のようで、なかなかご了承いただけません。

そのため、奥様にお伝えしておいた方がよろしいかと思いまして……

……」

私は……

何も知らなかった

ショックで

途中から話がほとんど耳に入らなかった

サトシは命に関わる病気かもしれない

そんな大切なことを私に話してくれなかった……

サトシはいつもそう……

大切なことを私に相談してくれない

私が馬鹿だから?
話しても意味がないとでも思っているの?

夫婦でいる意味ないじゃない……

私はショックとむなしさで涙が止まらなかった


No.168 11/12/26 11:03
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


あの時、私なんかに出会わなければ……

きっと……

サトシは幸せになれた

……15年前

荒れた生活をしていた私は

その夜お金がほしくて
男を探していた

一晩限りで、お金をとれそうな男を……

その時適当に声をかけた男がサトシだった

夜の街に似合わない雰囲気のサトシは
夜の街に慣れていないように見えた

『お坊ちゃん』で簡単に騙せそう

若いから手持ちが少なくても後でゆすれそうだし

ハズレでもルックスいいから、タダでやっても悪くないと思った

レイカ「あの……ちょっと道教えてほしいんですけど……」

優しく丁寧な言葉づかいで親切に教えてくれる

私は続けてあれこれ適当な理由で引き止めた

するとサトシは微笑みながら

サトシ「ナンパしているの?」

と笑った

私は恥ずかしくて
いてもたってもいられなくて
何だか見透かされたような感じが腹立たしく

私は怒ってその場を去った


No.169 11/12/26 11:34
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


サトシ「ちょっと……待ってよ」

『もう!何よ!うるさいわね!』

私はサトシをキッと睨んだ

夜の繁華街

しかもかなり遅い時間帯
少しあか抜けない私を

『家出少女』だと思ったサトシは私を心配した

サトシ「ごめん、怒らないで

行くところ無いんじゃない?

ここは君ひとりで歩いていたら危ない

いいよ朝まで一緒にいよう」

『もう!何なの!あんた!』

と思う半面

ホッとした

季節は冬で寒い

お金もほとんど持っていない

本当にどうしようかと思っていたから……

そして

ラブホテルに入った

サトシ「オレ疲れているし、するつもりないから

君もゆっくり休んで

シャワーも食事も好きにして

じゃあ、おやすみ」

『えっ!?あっ……ほんとに寝ちゃった……』

ソファーで横になったかと思ったら

サトシはそのまま、眠ってしまった

『本当に疲れていたんだ……』

その時はどんな人なのか全く分からなかったけど

申し訳なく思った

そして、好きになった……


No.170 11/12/26 13:03
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


私はほとんど眠れなかった

サトシ「……ん……ああ……

おはよう

あ……ありがとう
毛布掛けてくれたんだね

何時?……

ああ……行かなきゃ……

君、大丈夫?」

サトシは今度は起きたと思ったら

さっさとシャワーを浴び あっと言う間に身支度を整えた

サトシ「君、時間大丈夫?」

レイカ「……私は、べつに……」

サトシ「お腹すかない?

良かったら、ここ出て何か食べていこうよ」


サトシ「あのさ……

会ったばかりで失礼だとは思うんだけど

昨日みたいなこと、もう、やめなよ……

事情があるのかもしれないけど

大切に生きなよ」

そう言って驚くほどのお金を渡された

レイカ「いらない!そんなのいらない!」

サトシ「黙って受け取ってほしい

そのつもりだったんだろ?

受け取らなけらればなければ、君、今晩も同じことするだろ?

そんなことしてほしくないんだ

昨日はオレから誘ってここに入った
気にしなくていい

外では渡せないから」

実際私はお金に困っていた

いくら私でも

このまま言われるまま受け取ることは躊躇した

レイカ「……あなたみたいな人初めて

目的は何?」

サトシ「何も無い

ただ、会ってしまったから、放っておけないだけだ」

レイカ「信じられない……
それだけだなんて」

サトシ「それだけ

さ、何か食べに行こう」

私は『返す』ということで連絡先とお金を受け取った


No.171 11/12/27 03:47
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


サトシと私は
そんな出会いだった……

誠実で優しく真面目なサトシ

『こんな人がいるんだ』

サトシの全てに

男としてではなく

人間として惹かれた

私のまわりは荒んだ人間ばかりだったから

親にも優しくされなかったから

私はサトシを心から慕い

サトシに癒され

初めて

『生きていていいんだ
生まれてきて良かった』

と思えるようになった

そして

時を重ね……結婚

サトシの両親、家族、親戚の反対を押しきって……

サトシがいてくれさえすればいい

下界の生活から這い上がれる

私は嬉しかった

だか……

あまりにも私には住む世界が違いすぎた

分からない、知らないことだらけ

そして女達の醜い裏の姿と陰湿ないじめに

打ちのめされていく

私が受けているいじめを

サトシには理解してもらえなかった

男の前では淑女をたくみに装う女達

私は結局

どこにいても

孤独だった



No.172 11/12/28 07:53
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


『……どうしよう……本当にどうしたらいいの?まさか私に限って…… うそでしょ?』

……生理がこない

不安で

怖くて

おかしくなりそう

サトシさん……

どうしよう……

怒っちゃうかな……

誰にも相談できない

本当にどうしたら良いのかわからない

不安で不安で泣いていたその夜

『……電話……サトシさんからだ!』

怒られても仕方ない

サトシさんにしか相談できない

勇気を持って打ち明けよう

サトシ「……ん?どうした?ユイ、泣いているの?」

サトシさんの優しい声を聞いた途端

言葉にならないくらい泣きじゃくっていた

サトシ「ユイ!何かあったのか!今すぐ行くから!」


No.173 11/12/28 08:22
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


サトシ「ユイ!!」

サトシさんに抱き締められ

心が砕けてしまい
子供のように泣いた

サトシさんは黙って私を抱き締め
頭を優しく撫でてくれていた

ユイ「……サトシさん……ごめんなさい……私……私ね……生理がこないの……」

頭を撫でてくれていた手が止まり

私の顔を笑顔で見つめ

サトシ「ユイ!!一緒に病院へ行こう
ありがとう!ユイ!!」

と言って
ぎゅっと抱き締めてくれた

『ありがとう……って……サトシさん……』

ユイ「……サトシさん……怒らないの?」

サトシ「何でそんなこと言うんだよ?

ユイ、本当にありがとう

オレも父親になれるかもしれないんだな

嬉しいよ……
本当に嬉しい

ありがとう……ユイ」

私をいたわるように
優しくずっと抱いていてくれた


No.174 11/12/29 03:26
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


サトシ「ユイ、ありがとう

心から感謝するよ

こんな素晴らしいことは他にないよ

ありがとう、ユイ」

オレはユイからの
思いがけない『贈り物』が

本当に嬉しかった

本当に奇跡だった

『限られた時間を精一杯生きよう……

そして
生まれてきてくれる命に
オレの持てる全てを与えよう』

オレは長く子供を望んでいたが
もう、諦めていた

そして
『今のオレ』に子供が与えられることは
奇跡的なことだった

オレには

残された時間の限りが迫ってきていた


No.175 11/12/29 03:50
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


レイカ「……あなた……一体何を言っているの……あなたが……あなたに限って……そんなこと……」

サトシ「許されない罪だと重々に承知の上だ

全てレイカに従う

レイカの好きにすればいい

だが、子供の認知だけはする

これだけはゆずるわけにはいかない

オレにとって

たったひとつの

唯一の

望なんだ」

レイカ「相手の女は……相手の女って……一体どんな女なのよ?……聞く権利くらいあるでしょ?……」


No.176 11/12/29 04:13
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


サトシが外で子供を作った……

責めるべき正当な不貞だが

私に責める権利は……無い……

サトシが子供を強く望んでいたことは

もちろん知っていた

私が先天的な理由で子供が望めないのであるならば

サトシの裏切りは

最低で屈辱的なことだ

だが

私が子供を望むことが出来なくなった原因は

全て私自身のだらしなさにあった

その上

私はだらしない若い頃の過ちから

出産したたったひとりの子を捨ててきた


No.177 11/12/29 04:33
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


しかも私は

沢山の男達との情事を重ね続けている

サトシには今まで沢山救ってもらってきたのに

私はサトシを裏切り続けた……

『捨てられるのは……私の方……』

だから『子供のこと』は責められなかった……

だが

これだけではなかった

本当の悪夢は……

私を震え上がらせたのは……

サトシから聞かされた

相手の女の素性……

施設で育った……

ユイ……

ユイ……

ユイは……

私の過ちで生んで

私が捨ててきた子……


No.178 11/12/30 08:04
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


私は何となくいつも不安だった

いつも何かが引っ掛かっていた

私にはいつも
『確かなもの』が無かった

無条件に頼れる存在が無かった

サトシさんが
喜んでくれ祝福してくれ
嬉しかったけど

私は混乱していた

サトシさんはいつでも優しくて私を助けてくれるけど

私の
旦那さんでもない
お父さんでもない
お兄さんでもない

子供を産むなんて
お母さんになるなんて

信じられない

『どうなっちゃうんだろう……

出来ないよ……そんなこと……』

お母さんになるって

どういうことなのか

全く分からない

私は

お母さんを知らないから

私のお母さんも……

十代で私を産み

いなくなった

もし、私にお母さんがいたら……

お母さんは

こんな時、何て言うんだろう……

こんな時、どうするんだろう……

お母さん

お母さん

助けて……

No.179 11/12/31 06:17
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


私は激しく動揺した

どうしてこんなことに!

どうして?

どうして……

実の子供に寝取られた上

その子供が妊娠!?

しかもサトシはユイを本気で愛している……

もちろんサトシはユイが私の子供だなんて知らない

ユイだって私のことなんて覚えてはいないだろう

『あの子は……どこまで私を不幸にすれば気が済むの!

私から奪い取るばかりの疫病神!

あんな子産まなければ私の人生だって違っていたはず

しかも、こんな酷いことをするなんて!

まだ私を苦しめるなんて!

私を恨んでいて仕返しのつもり?

許せない!』

全く知らない関係のない女ならまだしも

ユイだなんて

よりによってユイが

今の私が一番欲しくて手に入れられないものを手にするなんて

許せない

サトシの子供とサトシの愛を手にしたユイ

許せない


No.180 12/01/01 06:57
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


私はユイの様子をそっと探りに行った

最後にユイの姿を見たのはかなり小さな頃

『わかるだろうか……』

『……!!』

『……多分間違いない』

わかるものなのかもしれない

よほど子供を愛していて探し求めていた場合

私のように決して会いたくないと拒否していた場合……

いづれも強い思いと親なら不思議と

わかるものなのかもしれない……

感動の再会なんてものではなかった

『こんなに近くにいたなんて……』

成長して『女』になったユイ

しかも、サトシを奪い取った憎い女

成長を喜ぶどころか

若くて綺麗で純粋さを持ったユイが憎らしかった

ユイとは真逆な私

私の持っていないものを全て持っているユイが

憎らしい


No.181 12/01/01 23:42
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


「社長

最近の社長、前にも増して勢いありますよね

何か良いことでもありましたか?

素晴らしいこととは思いますが

あまりご無理をなさらないように」

サトシ「ああ、ありがとう

オレが頑張りすぎると仕事が増えて
君にも負担をかけるな」

「いえ、そういう意味では無く

最近の社長、何だか嬉しそうですし」

サトシ「そうかな……

君のことは頼りにしている

よろしく頼むよ」

『もうすぐ父親になれるかもしれない』

その思いがオレに生きる希望、生きる原動力を与えた

かけがえのない大切な守りたい存在のために

オレは必死だった

オレは行く末を見守ってやることが出来ない……

その為にもできる限り多くのものを遺してやりたい

かけがえのない大切な命のために


No.182 12/01/02 07:24
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


医師「おめでとうございます

ここ、わかりますか?

赤ちゃんがここにいます

ご主人もどうぞご覧ください

このピクピク動いているのが心臓

赤ちゃん、元気に頑張っていますよ

お二人で赤ちゃんを大事にしてくださいね」

……

サトシ「ユイ!やったな!!

ありがとう!ユイ!!

大丈夫だよ

オレは必ずユイと子供が困ることがないように守る

信じて安心して

ユイはお腹の子供のことだけを大切にしてくれればいい

心配しなくていい

必ずオレが守る」

不安……

困惑……

でも……

赤ちゃんの心臓

ピクピクと動いている心臓

一生懸命生きようとしているんだ

私の中で

別の心臓が動いて生きようとしている

『頑張れ!!』

かわいかった

不安だけど

これからの私は

ひとりぼっちじゃない!!


No.183 12/01/03 07:32
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


サトシさんは今まで以上に私を大切にしてくれた

毎日来てくれ
支えてくれた

サトシ「ユイ、心配するな

今の段階で正式に結婚出来ないことを本当に申し訳なく思っている……

だか、ユイと子供が困ることがないよう手続きや準備は整えた

万が一オレに何かあったとしても対応出来るように手配もした

まだ若いユイに妊娠出産は正直大変なことだということも重々承知している

その分負担が少しでも軽くなるよう力になる

ユイは何も心配しないで全面的にオレを頼ればいい

お腹が目立ってくる前に仕事もキリをつける準備をした方がいい

お世話になったお店に迷惑はかけられないからな

ユイ、大丈夫だ
何も心配することはない」

サトシさんに守られ幸せだった

でも……

『万が一』って……

何となく

気になった……


No.185 12/01/04 07:40
きる ( lbwJnb )

184さんへ

きるです。

読んでいただき
ありがとうございます。

お返事が遅くなり失礼いたしました。

184さんをはじめ読んでいただいている方々には
心より感謝申し上げます。

また、ゆっくり更新でお待たせいたしておりますこと

この場をお借りしお詫び申し上げます。

今から、また少しお話し進めます。

本当に
ありがとうございます。


No.186 12/01/04 08:11
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


ユイが真面目に健気に生きている姿が

私の神経を余計に逆撫でした

ユイの親として……

普通なら……

『いい子』に育ったことを陰ながら喜ぶものなのか……

私は

『いい子』なユイが

憎らしいだけ

私が捨てたユイが

私に育てられなかったが故に

私とは反対に『いい子』に育ち

私が手に出来なかった幸せを掴もうとしている

本当の愛を掴もうとしている

憎らしい

サトシは私に、ユイと子供のことを告白したものの

私に対しても以前と変わらず

優しく穏やかで

私のことも気づかってくれる

それがかえって私の気持ちを乱す

苛立つ感情のやり場に困り

矛先は

ユイに向かった

No.187 12/01/05 08:07
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


私はそっとユイの後をつけた

駅……

改札を通り……

ホームへ……

かなりの混雑……

騒ホーム端にユイが!

『今だ!』

私の中の悪魔が騒ぐ

『ユイを突き落とせ!』

後ろからそっと近づく……

ユイを突き落とそうと

ユイに手をかけようとした瞬間

誰かに腕をつかまれ引っ張られた

『あなた誰?』

知らない若く背の高い男

モデルのようなルックス

『何なの!!』


No.188 12/01/05 11:05
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


男「いけないな

どんな理由があるにせよダメだよ」

『何なの!!
あんたになんか関係ないでしょ!!』

モデルのようなイケメンは

黙ったまま私の腕を自分の腕にがっちりと組ませ

何事も無かったかのように

真っ直ぐ前を向いて歩き続ける

腕の力が強く外せない

大声出せばいいのかもしれないが

私の声なんて消されそうなくらい雑然としている

それにユイに手をかけようとした一種の興奮状態と緊張

それを予想外に阻止されたことで

放心状態に近い脱力感だった私は男に引かれながら歩くことが

かえって心地良かった

はたから見れば

ごく普通のカップルにしか見えないだろう

混雑の中

周りの人々には

私たちのやり取り
私たちのことなど

気づきもしない
どうでもいい背景にすぎない

改札を出て

人影もまばらになった辺で

ようやく腕を外された


No.189 12/01/05 12:01
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


男「やっと見つけたよ

僕たちは一緒に最期を迎えるのにふさわしい

誰だって一人きりは辛い

最期まで誰かと一緒にいたい

君もそうだ

君はオレから離れられなくなる

そのうち分かるよ

君も随分辛い思いをしてきただろ?

ようやく解放され

楽になれるんだよ

最期まで肌を重ねて一緒にいよう

僕は最期まで君と一緒だよ

決して君を裏切らない

二人きりで誰にも邪魔されず

静かに愛しあうんだ」

『何なのよ……全く……』

私はサトシの告白以来

今まで感じたことのない
かつて体験したことのない

虚脱感に襲われていた

私は散々サトシを裏切ってきたくせに

それでもサトシの愛を信じていた

サトシへの愛は

男女の愛を超え

欲しくても得られなかった親からの無条件の愛のように感じていた

その愛を試すかのように

振り向いてほしくて

もっとかまってほしくて

裏切り続けたいたのかもしれない

でもそれは私の勝手なわがままだった

唯一信じていたサトシを失い空っぽな私を

知らないその男が埋め尽くすのに

時間は必要無かった


No.190 12/01/05 15:22
きる ( lbwJnb )

訂正


No.187

「騒ホーム端にユイが!」→
「ホーム端にユイが!」


No.188

「私の声なんて~雑然としている」→
「私の声なんて~騒然としている」

「放心状態に近い脱力感だった私は」→
「放心状態に近い脱力感におそわれていた私は」


No.189

「君はオレから離れられなくなる」→
「君は僕から離れられなくなる」

「裏切り続けたいたのかもしれない」→
「裏切り続けていたのかもしれない」


申し訳ありません

今回、あまりにもミスが多すぎましたので
訂正を入れさせていただきました

読みづらくなり申し訳ありません

大変失礼いたしました

きる


No.191 12/01/06 10:52
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


医師「順調ですよ

そろそろ、いつ赤ちゃんが来ても良いように準備は整えておいてくださいね

ご主人もしっかりサポートされているので安心ですね

毎回検診にも付き添われ
赤ちゃんもママもお幸せですね」

サトシさんに守られ私は幸せな妊婦生活を送っていた

私には考えられないほど恵まれた生活

セキュリティも確保された素敵な高級マンションで

経済的な心配も一切無く

サトシさんに大切に大切に守られていた

『本当にこのまま幸せな出産が出来るのかな……』

あまりに幸せで

漠然とした不安を感じる

『サトシさんの奥さんのこととか……大丈夫なのかな……

お世話になったパン屋さんのおばちゃんが心配していたな……』

赤ちゃんが出来て、お仕事を辞めなくてはいけなくなり

話が急だったこともあり

サトシさんも事情説明の為にお店に来てくれた

おばちゃんの厳しい表情が忘れられない

いつも優しい笑顔のおばちゃんの厳しい顔……

最後におばちゃんが

おばちゃん「ユイちゃん……

おばちゃんはシスターからユイちゃんをあずかって

ユイちゃんを娘のように大切に思っているんだよ

この社長さん(サトシさん)のようなことは出来ないけど

何かあったらいつでも帰ってこればいいからね

ユイちゃん

赤ちゃんに罪は無いけど

ユイちゃんが犯してしまったことは許されない罪なんだよ

一生背負っていかなければならないんだよ

正直、結婚出来ない男の人とのことは信じるわけにはいかないからね

ユイちゃんも本当にお母さんなるというのなら覚悟がいるよ

ただね……

困ったら帰ってくるんだよ」


No.192 12/01/06 14:18
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


レイカ「離婚は嫌!
私は絶対に離婚はしない!!」

サトシ「レイカの気の済むようにすればいい

全てオレが悪い

レイカに従うよ」

レイカ「それにあなたは……
あなたにはもっと大切なことがあるでしょ!

どういうつもりなの?

それについては何故、何も言わないの?」

サトシ「……聞いたらしいな」

レイカ「ちゃんと治療して……お願い……」

サトシ「もう遅いんだ……
自分でよく分かっている

だから……

精一杯、やるべきことをやっておかなければならない

生まれた時からオレの人生はオレだけのものではない

守らなくてはいけない
果たさなくてはならない
使命がある

子供のことも
そのためだ

完治しないものの治療をしている時間は無い

それより受けたものを確実に次に渡さなくてはならないんだ

誰もオレの短い命の延命なんか望んではいない

それが、ここに、この時に生まれたものの宿命だ

心配は無い
レイカを守る手配も済んでいる

ただ『子供』にだけは手を出させない

どんな手段を使ってでも必ず守る」


No.193 12/01/07 08:29
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


「あなたは
レイカさんは

僕のことなんて覚えていないね……

僕はずっと好きだったんだよ

ずっと探していたんだよ

レイカさんは沢山の男達と絡んできたから

印象の薄かった
地味だった
初めてで下手な僕には見向きもしなかった

今なら満たしてあげられるよ

身体だけじゃなく

心もね……

僕達は運命共同体

最期を一緒に過ごすのに最高のパートナーになれるよ

レイカさん……

君は僕と同じなんだよ

滅茶苦茶やってきて

いい加減疲れてきただろ?

散々やってきた奴には

それ相応の最期ってものがある

人を傷つけて幸せにはなれないんだよ

僕もあなたに狂わされたひとりだからね……」

『何言っているの……この人……』

でも、もう、どうでも良かった

理屈なんて理由なんて

もう、どうでもいい

先のことなんて、どうでもいい

今が良ければ、それでいい

サトシのこともユイのことも

忘れたい

考えたくない

レイカ「そこまで言うなら

あなた

私を楽園に連れて行ってよ

快楽しかない楽園に」

「いいよ、行こう」


No.194 12/01/08 08:06
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


レイカ「あんっ……あっ……ああんっ……わたし……んっ……あ……なたのこと……知らない…… んっ……あんっ……」

「……覚えていないだけだよ……前の僕は今とは……全く違う……あなたに売られたんだよ……僕は……もう……いいんだ……今こうして一緒に……昇れるから……」

若く好色漂う妖しい美しさと何故か……儚さを持つ男に抱かれながら

彼の言っている意味を考える……

レイカ「あっあっああんっ……」

熱く激しく突き上げらるほど

そんなことはどうでもよくて彼を激しく求める

この激しいセックスが

私への復讐で

私の惨めな人生の

最後の男

最後のセックスとなることを

この時はまだ知らなかった

レイカ「……あなた……名前は?……ああんっ……」

「シュン……」


No.195 12/01/09 08:17
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


やっぱり無理だったのか……

私は『普通の家族』に憧れていただけなのに

みんな『普通』に見えるだけで色んなものを抱えているのかもしれない

それでも

お父さん
お母さん
子供

そんな形の人々が楽しそうに笑っている

そんな人達がいっぱいいる

そんな風景を見るたびに

どうして私だけダメなの?

『家族』を知らずに育ってきたから

結局『家族』が分からない

良くも悪くも

育ってきたように連鎖されていってしまう


No.196 12/01/09 11:40
きる ( lbwJnb )

注文3子供ユイ


サトシ「ユイ!ユイ!しっかりしろ!ユイ!!

何とかしてください!

お願いします!!」

看護師「ご主人は、ここでお待ち下さい!」

……

私は……罪を犯した

だから仕方ない……ね……

このままサトシさんに守られ

赤ちゃんと三人で幸せに暮らす……

やっぱり

無理だったみたい……

神様……

ごめんなさい

でも

でも

最後のお願いです

赤ちゃんだけは助けて下さい

お願いします

何だかすごく

すごく寒いよ……

誰かが呼んでいる

誰?

「……ん?お兄ちゃん?お兄ちゃんなの?

ユイね

お兄ちゃんに

お兄ちゃんにずっと会いたかったんだよ

お兄ちゃんのことが一番好きだったんだよ

やっと

やっと

会えた

お兄ちゃん……」

……

医師「最善を尽くしました

赤ちゃんは大丈夫です

お母さんの方は残念ですが……」


No.197 12/01/10 00:23
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


レン……

父さんは

お前が来てくれたことに心から感謝している

だか……

お前に過酷な人生を背負わせなければならない

本当に申し訳ない

お前が一人前になるまで

しっかりと見守ってやりたかった

側で支えてやりたかった

まさか

母さんがあんなことになるなんて……

幼く可愛いお前を悲しませることがませることが辛くて

父さんは初めて

心から『生きたい』と思った

母さんの死を悲しんでいる時間さえ無かった

父さんにも時間が迫っていたんだ

見守ってやれないせめてもの償いとして

出来る限り手を尽くしてきた

お前を信じている

父さんの子だ

必ずやれる

愛しているレン


No.198 12/01/10 06:22
きる ( lbwJnb )

訂正


No.197

「幼く可愛いお前を悲しませることがませることが辛くて」→
「幼く可愛いお前を悲しませることが辛くて」

申し訳ありません

失礼いたしました

きる


No.199 12/01/10 13:46
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


ユイのことは

あまりにも予想外の出来事で

大抵のことには動じないオレも相当こたえた

意識の中で自覚は無かったが

オレの病状の進行から見れば

やはり

こたえていたのだろう

『医療技術の進んだ現代でも、出産時には何が起こるか分からない』

何事にも

『絶対』はあり得ない

分かってはいたが

まさか、自分の身にふりかかるとは

正直

考えていなかった

考える余裕もなかった

起こった現実を責めても何の進歩も無い

時間が無い

レンが守られるよう

グループの後継者となるために

周到な準備に全力を尽くした

……

レイカは……

ユイと子供のことを明かして以来

ほとんど家に戻らなくなった

はっきりとは分からないが

何となくオレの中で引っ掛かるものがあり

レンとレイカは接触させないようにした

様々な失意と混乱の中にいる時

妙なメールが届いた


No.200 12/01/10 14:47
きる ( lbwJnb )

注文3子供サトシ


『男の子の誕生
おめでとうございます

あなたにとってこの上ない喜びとなったことでしょう

あなたの望んだ通りのものがお届けできて、わたくしどももあなた様と同様嬉しい気持ちでおります

ご満足いただけたことでしょう

レン君はあなたの望みに叶う素晴らしい成長を遂げます

どうぞご安心ください

引き換えとなる代償は少々きついものとなってしまいましたが

大きな報酬に代わる代償ですから

ご了承ください

あなたは
素晴らしい男の子を手にした

ユイさんは
あなたという素晴らしい男性に心の欲求を埋めてもらった

レイカさんもまた
求めるパートナーを得てた

皆さんにご満足いただくことが、わたくしどもの喜びです

では残りのお時間が有意義なものとなりますように』

一体何なんだこれは!

寒気がした

今まで起きたことをたどる……

『……まさか』

あれだ、あれに間違いない、でも、まさか……

オレが冗談半分で申し込んだ『子供』

あの直後から起きていたことは

全て仕組まれていたというのか?まさか……

ユイを助けたことで
ユイと関係を持ち
子供が生まれた

ユイの求めていた『お兄ちゃん』の代わりがオレだったのか?

レイカは……
レイカの求めたものは?

分からない……

オレもそろそろ限界が近く

今さらそれをどうこうする力が無い

レン……

もう、それだけでいい

もう、思い残すことはない

もう、十分だ

ありがとう

レン……


No.201 12/01/12 04:41
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


『普通の家族』
『普通の結婚』に憧れていただけなのに……

女ならみんな誰もが思う願いなんじゃないの?

サトシと出会い、結婚して

サトシの優しさに包まれ、癒され

二人きりで静かに暮らすことが出来ていたら……

こんな罠にかかることもなかったのかもしれない

『格が違う』ことでいじめられ

癒された心も次第に荒んでしまい

静かに暮らすことはゆるされなかった

結局逃げた

逃げ場を求めるうちに

落ちていった

レイカ「……私が『売った』って、どういうこと?」

シュン「気付いていないんだね……

あなたは僕を売って金と好みの男を得たんだよ

でもね、誰かを犠牲にして幸せにはなれないんだよ

それに、やってきたことに相応しい結末を迎えるんだよ」


No.202 12/01/13 02:40
慶織森 ( 30代 ♀ Lax3nb )

お金では買えない物が、自分は欲しい。
勇気や努力できる根性に柔軟性や、さっぱりとした諦めや、その他、嫌われないための、対人スキル。

きれいな容姿…。
かな。

No.203 12/01/13 06:38
きる ( lbwJnb )

慶織森さんへ

きるです

コメントありがとうございます

そうですね

慶織森さんのおっしゃるものは

きっと誰もが
「あればいいな、生きやすく、しかも楽しく生きられるだろうな」と
望むものかもしれません

人間はとても不器用で

本当に望むところに到達するには

やはり時間がかかるもので

求めるものが本物であるほど

遠いのかもしれませんね

日々戦いは多いと思います

何が起こるかわからない
何を信じたら良いのかわからない

そんな世の中になってきております

その中で生きるのは
本当に戦いは多いと思います

慶織森さんにとって

今日一日

ひとつでも嬉しいことと出会い

少しでも求める自分に近づけますように

祈っております


No.204 12/01/13 10:31
慶織森 ( 30代 ♀ Lax3nb )

>> 203 そうですね。
容易ではないですよね。
でも、小さい努力ならば、すいすい叶いそうだけど、大きな努力には、必ず、根気を出さなければ、叶わないですよね、人生とは。

私は、運がいい方ではなく、育ち方も悪いから、他人と比較する場合もあり、母のせいとか簡単にするから、苦しい時、あります。

No.205 12/01/13 11:06
きる ( lbwJnb )

慶織森さんへ

きるです

あなたはあなたのままで尊い存在です

これだけは信じてください

どうか
ご自身のことを大切に愛してください

他者との比較の虚しさについて

以前書いていた携帯小説で触れました

小説の内容と外れてしまい

読んでいただいている皆さま、申し訳ありません

ただ

この、わたくしの書いているものを読んでくださり

その中で出てくる色んな思いや疑問に対しては

出来る限りおこたえしたいと思っております

色んな思いや疑問は

他の方にも重なったり
ヒントにつながる
と考えております

そのため、どうぞ、お許しください

小説の続きは夜になりますが、引き続きお付きあいいただけると幸いです

慶織森さん
皆さま

このページを見ていただき

本当にありがとうございます


No.206 12/01/13 21:59
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


帰りたくない

いや……もう……
帰れない

サトシは義理で私とつながっているだけ

しかも『捨てた私の子供』を愛している

そんなところへ戻って

正気でいる自信が無い

シュンと欲望のまま
狂った時間を重ねていった

シュンは卑猥な男達と違い

純粋な雰囲気を持っていた

私は最後の恋をした

滅茶苦茶やってきて

最期に

恋することができるなんて

幸せ……か……

シュンはたまに思い詰めた表情をする

私に何か隠している


No.207 12/01/14 10:26
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


シュンは何度も私を大切に抱いた

決して乱暴にすることは無かった

何度肌を重ねても

『これが最後』かのように惜しむように抱いた

『ずっと私のことが好きだった』と言っていた

『ずっと私のこと探していた』と言っていた

そして
『私に狂わされた』と……

シュンに抱かれる時

思い出せそうで思い出せない

そんな思いに揺れながら

遠い記憶と感覚をたどっていた

『……あっ!』

シュン「……ようやく思い出してくれた?」

荒れた生活の中で重ねた借金の代償に

あいつに売った若い男の子がいた……

何でも私の言いなり

肌が綺麗で多分ルックス的には整っていた

でも
あか抜けない地味な感じが嫌で

ゲイの男に『売った』

そいつはいくつかの闇の店を経営するやり手で

私はそいつに借金があった

そいつは『シュン』のことを相当気に入っていたから

シュン「僕は、あなたの為に我慢し続けたんだよ

多分、あなたの想像をこえると思うな

そして

僕は病気になってしまったんだ

孤独だった

動ける間に

最後に何がしたいか考えたんだ

あなたに会いたいと思った

これからは、あなたが一緒だから

僕は孤独から解放された

嬉しいよ」


No.208 12/01/14 11:58
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


シュンの話にはいつも
『最後』『最期』
という言葉が出てくる

それは何を意味するのか……

レイカ「……あなた、私に何か隠しているでしょ

何が『最後』なの?」

シュン「レイカさん……

僕は

HIVキャリアなんだ」

ピンと来なかった

シュンは

見ただけでは

どこも悪いように見えない……

レイカ「だから

わざと私と接触したの……

それって

殺人じゃない……」

シュン「僕は本当に君が好きなんだよ

君も僕も

まともには生きられない

君自身、一番よく分かっているだろ?

いつか誰もが死ぬんだ

早い方が楽だよ

生きていたって

もう、辛いだけだろ?

裏切り裏切られ

もう、十分だろ?

どれだけ生きたって

生きた分

人の汚さを見るだけじゃないか」


No.209 12/01/15 10:02
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


シュン「キャリアだからって

今すぐどうかなるってものでもないし、抑える薬もある

ただ偏見はあるし、気をつけなければならないこともある

やっぱり孤独なんだよ

直面したものにしか分からない

結局ね

痛みは痛さを体験したものにしか分からない

僕は

心から寄り添い合える誰かと一緒に居たいんだ

人間の本当の恐怖は『孤独』なんだよ

孤独に耐えられる人は

中にはいるかもしれないけどね

僕には無理だ

誰か求めた

レイカさん

あなたなら

『今のあなた』なら分かるだろ?

僕は裏切らないよ

最期まで

あなただけを愛する」


No.210 12/01/15 12:00
きる ( lbwJnb )

注文3子供レイカ


『難しい話はもういいよ

ようは今が良ければいいんでしょ

私はそれでいいよ』

死が差し迫ってきたら

その時どうなるかは

分からない

でも今は

何の感情も無い

色んなことがありすぎて

思考が停止

私の許容範囲は限界

もともと

じっくり考えることが苦手

刹那的な考え方と生き方しか出来ない

余計な関わりがなく

シュンと二人きりでずっと居られるなら

それでいい

今までの全てを忘れて

リセットしよう

リセット出来る私は

一番幸せなのかもね

サヨウナラ


No.211 12/01/16 10:08
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


オレは無償の愛を知らない

注いでくれる人も
注ぐ相手も
いない

生まれた時から

全て整っていた
物理的な全てを手にしていた

ただ

肉親は一人もいなかった

物心つく頃から

父も母もいない

オレを取り巻く人間たちは

とにかくオレが大人になることだけを

肉体的に表面上の成長だけを

待ち望んだ

オレの気持ちや心は

どうでもよかった

オレは

感情の停止した

冷酷なトップに成長した

何もない裸のオレを抱き締めてもらうことを

誰よりも望んでいたのに

叶わなかったから

誰より冷酷にならざる得なかった


No.212 12/01/17 09:55
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


誰のことも信用しなければ信頼している人間も無い

金と権力の中では

誰ひとり『本当の自分を』表さない

人によって大小はあるが

金と権力に惑わされ取り繕う

秘書「今日の接待は必ずいらしてください

先方はお嬢様をお連れになるそうです……」

『まただ……』

オレの地位と容姿にだけ食い付く雌が

オレは一番嫌いなんだ


No.213 12/01/18 09:56
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


女に不自由したこともない

いくらでも好きなようにできた

だか

何も無いオレ自身を

愛してくれる女はいなかった

オレが

愛せないから
愛されないのか

違う

微妙な心の動き

したたかなズルさ

依存

計算……

そんなものが見えてくるから

吐き気がする

からかい半分『お嬢様』に会ってやる


No.214 12/01/19 10:07
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『やっぱりお前もか』

いくら淑女を振る舞ったところで

ちょっとした出来事で
ちょっとした試練で

人間は『素』を表す

どんなにその場を取り繕っても

残念ながら

『普段通りが』
『それまで生きてきたすべてが』
『何を考え、どう行動してきたかが』

すべて表れてしまう

無意識の言動すべてによって

手に取るように見えてしまう

『お前、そんな姿さらけ出して恥ずかしくないのか?

オレがお前のどの部分を見ているのか、一生気づくことも無いんだろうな

オレは、お前みたいな安い馬鹿な女はいらないんだ

足手まといになるだけだ』

すべてが自分中心で

思い通りにならなかった瞬間

すぐに幼児のようなふくれた顔をする

『待つ』
『我慢』ができない

すぐに不満を言う

少なくとも

『大人』なら

多少のことには寛容になり

冷静沈着に行動できないのか


No.215 12/01/20 11:18
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


秘書「社長……

今日の相手のお方もお気に召しませんでしたか……

社長は……

失礼を承知で申し上げますが

社長ご自身だけの問題ではないのです

立場をよくお考えください

立場上、いつまでもおひとりでいるわけにもいきません……」

レン「ああ、わかっている

だが、この時代、いつまでも今のままを維持できるかどうかも分からない

形あるものは

いや、この世のすべてが

明日どうなるかも分からないんだ

そんな中を戦って行く上で

どうでもいい女の相手をしているほど余裕は無い

我が儘で無神経で傲慢なお嬢様は一緒にいるだけで疲れる

そんな女だらけだ

オレが何かしてやるまで何もしないような人間は

女に限らず

もう、うんざりなんだ」

No.216 12/01/20 21:43
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


心を開くとは

どうすることなのだろうか……

心休まるとは

どういうことなのだろうか……

通常は『親』という『特定の大人』との関わりで

人間は人間として『心』が育って行くものであろう……

幼い頃から、特定の人物に継続的に養育されたことが無いオレは

『心』がよく

分からない

大人の都合で養育係は変わっていった

『気に入った人』もいた

幼児特有の『執着』の一種であったのだろう

だか

どんなにオレが望んでも通らなかった

大人たちの都合で変えられて行く

オレは

誰ひとり頼らなくなった

変わらないのは

信じることが出来るのは

自分だけ

そのことが

叩き込まれた

それだけに……

物に対しても

人に対しても

依存し

頼りきって

自立出来ない

そんな奴等に

苛立つ

『オレはパパじゃない
お守りは御免だ』


No.217 12/01/21 10:24
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


人間である以上

どこにいても
どんな世界でも

『欲望』から解き放されることは

不可能に近い

はじめは

小さなささやかな願望にすぎなかったとしても

叶えられたら

感謝するどころか

次の欲望に支配され

必ず

次を望んでいる

落ちることを恐れ

つまらない見栄やプライドに振り回され

人間は

一体

何処を目指しているのか?

欲望と虚栄の中で疲れていた日

何気なく見つけたサイト

『どんなものでも
あなたの望んだ通りのものが届きます』

馬鹿馬鹿しい

だか

何となく気になり

注文こそはしなかったが

適当に答えてみた

『駆け引きの無い
純粋な捧げる愛』

と入力する……


No.218 12/01/22 11:22
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


メールが届いた

『先日はアンケートにご協力いただき誠にありがとうございました

お礼といたしまして

少しアドバイスをお送りいたします

聞き入れるも入れないもご自由です

あなたのお求めなるものは

実に尊く素晴らしいものです

ただ

やはり

欲にまみれ

自分勝手な大人になりきれない大人達で構成された社会

便利でサービスが整い過ぎて『客』は権力者のように振る舞い

張りつめた常に緊張感のある人間関係

半面ほんの少しの試練にも耐えることが出来ず病気になってしまうもろさ

求めるばかりで決して人に与えることはしない

……

あげれはキリがない

荒んだ社会で

本物に出会うことは

困難であるとは思います

あなたは非常に恵まれた環境におられ

だからこそ見えていないものもあります

あなたの素性をすべて隠し

『何も無い』状態だからこそ

見えてくるものもあります

『何も無い』状態なら

あなたに媚びる人間はいません

よろしければ体験なさいませんか?

良いもの

悪いものが

はっきり、お分かりになると思います

素性は一切伺いませんので

あなた自身も

素性は一切明かさないでください

興味を持たれましたら

ご連絡くださいませ

連絡先……



何なんこれは……

しばらく

何となく

見つめていた


No.219 12/01/23 22:09
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


何なんだ

馬鹿にしている

見透かしたような挑発的な文面に

不快感を感じながらも

ひかれていた

素性を隠し

対等な関係

確かにそれならば

いくらか『本質』に近い何かが見えるかもしれない

とりあえず

三日間の休暇を取ったオレは

あるところへ

潜り込むこととなる

No.220 12/01/24 23:32
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


「あ、ボランティアの方ですね!

ありがとうございます!

こんなところまで来ていただき感謝いたします!

『3日ほどいていただける方がいらっしゃる』とだけ伺っております

お願いしたいことは簡単で

子供たちと遊んでいていただければけっこうです

すみません

わたくしどもは手一杯でして

折角お越しいただいたあなたに
何もしてさしあげることができません

いきなりお任せしてしまい申し訳ありませんが

どうぞよろしくお願いいたします

ただ注意していただきたいことがあります

子供たちに

『プライベートな質問』は一切なさらないでください

特に

家族のこと

身体のことは

決して話題にしないでください

では

楽しんでいってくださいね!」

着いていきなり

そんな話を一方的にされ

オレは放り出された

子供「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!

鬼ごっこしよー!」

子供「かくれんぼの方がいいよー!」

子供「サッカーしようよー!」

子供「お兄ちゃん!ねぇあっち行こうよー!

ねぇお兄ちゃん!」

……

『何なんだよ!!
オレ、どうしたらいいんだよ!!』


No.221 12/01/26 11:26
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


子供は苦手だった

早く大人になることを求められてきたオレは

早くから

大人同様に振る舞うことが出来る半面

大人になりきれない部分を隠し持っていた

子供と向き合うと

大人になりきれていない嫌な感覚に
向き合わなければならなくなる

そして素直に感情を出してくる子供を見ると

感情を出せなかった自分の辛さを思い出してしまい

苛立つ

とにかく

オレにとって

最悪な環境だった

だか

固まっているオレに構うことなくまとわりついてくるガキども……

くだらない計算なく

素直に

笑い

泣き

怒る

それが出来ることが

羨ましく思えてくる……


No.222 12/01/27 12:03
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


子供は

時に残酷で

相手の気持ちや状況を構うことなく

言いたいことを言い

聞きたいことを聞いてくる

欲求のままを

一方的にぶつけてくる

子供と関わることで

閉じていた傷が引き裂かれ

不必要な傷みを

また

感じなければならない

気持ちの折り合いをつけ

封印しかかっていたのに

また何故

わざわざ

嫌な思いをしなければならないのか

鬱陶しく

容赦なく踏み込まれる状況にうんざりしたオレは

まとわりつくガキどもを振り払い

帰り支度を始めることにした


No.223 12/01/27 17:52
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


スタッフ「あら!?
もう、お帰りになるんですか!?

確か三日間ほどと……

まだ半日も経っておりませんのに?

無理でしたか……

あ、いえ、ボランティアさんは強制ではありませんから、どうぞご自由に

では、気をつけてお帰りください

ご苦労様でした」

癪にさわった

今まで何でもこなしてきたオレが

何事にも完璧だったはずなのに

しかも
『ご苦労様でした』だと!?

『お疲れ様でした』と言われることはあっても

オレに対して
『ご苦労様』と言う奴はいなかった

子供相手に何やってんだ……

人間が普通に思いつくことは大抵こなしてきた

今、特にやりたいことも思いつかない

このまま帰ってもいつも通り仕事をこなすだけ

『たった三日間だ』

何も得ず

ただ引き下がるのは納得がいかない

『何でもいいから何か掴んでやる』


No.224 12/01/28 10:50
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『ガキども見てろ
なめるな!』

そんなことを思いながら歩いていると

ひとりポツンとしている男の子が目にはいった

幼少期の自分と重なる……

オレは独自の教育のもと

一種の英才教育を受けてきたため

友達は一切いなかった

大人達だけの中で生きてきた……

レン「おい、おまえこんなところで何してんだ?

他の奴等と遊ばないのか?

仲間に入れないのか?」

ゆっくり上げた顔を見て

寒気を感じた

とにかく顔色が悪い

そして子供特有の明るさ元気さが全く無い

『何なんだコイツは……気味が悪い』

明るすぎるうるさいガキも鬱陶しいが

暗くて静かすぎるガキは

不気味だ……


No.225 12/01/29 12:32
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


男の子「……僕、病気だから……」

レン「ん?どこが悪いんだよ?」

男の子「……」

『しまった

プライベートや身体的なことに触れてはいけないんだった』

レン「悪い、ごめん

答えなくていい」

何となく離れられず

傍らに座っていた

しばらくして

男の子「ここへ何しに来たの?」

『そうだよ、オレ、何でこんなところにいるんだよ?』

正直自分でも分からなくなってきた

レン「何でそんなこと聞くんだよ?」

『正直、こっちが聞きたい……』

男の子「ここは親に捨てられた子供が来るんだよ

お兄ちゃんは大人でしょ?

大人なのに何で来たの?

それとも誰かを迎えに来たの?

でもね

迎えに来てもらって出て行く子供は

幸せにはなれないんだって……」

レン「は?

どういう意味なんだよ?」

男の子「……よく、分からない

そういう噂だから……」

意味が分からない

ただ

コイツがひとりポツンとしている理由は

オレの幼少期とは違う……

ということは分かった


No.226 12/01/30 23:29
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


病気……か……

それにしても

『ここを出て行く子供は幸せになれない』

どういうことなのか

ここは

いわゆる

児童福祉施設なのか?

オレはその方面には詳しくない

それにしても

よく分からない

ガキどもと『遊び』ながら

掴んで行くしかない

スタッフ「あら?戻っていらしたんですか?」

いちいち引っ掛かる言い方に苛立ちながら

様子を伺っていた


No.227 12/01/31 10:35
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


子供「えー!!お兄ちゃん分からないの?

仕方がないなぁ

教えてあげるよ」

『な、何!?

馬鹿にしやがって!!』

オレは遊び方が全然分からないし知らない

当然だ

遊んでこなかったのだから

ガキに小馬鹿にされながら

苛立ちながらも

けっこう……

親切に

優しく

一生懸命

教えてくれ

オレが出来ると

ほめてくれる……

何なんだ

この気持ちは……

上手く表現出来ないが

嬉しくて

暖かい気持ちになってきた


No.228 12/02/01 02:52
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


子供という

ある意味

得たいの知れない不可解な生き物に

戸惑いつつも

子供の『純粋な心』に触れていきながら

固まっていたオレの何かが

癒され

溶けてきたように

感じていた

夕食の時間になり

ふと

昼間ポツンとしていた『あいつ』を思い出した

さりげなく探したが

見当たらない

『あいつ、どこにいるんだ?』

それほど人数もいないこじんまりとした、ここで

見つからないのも

おかしい……

スタッフにそれとなく聞いてみる

スタッフ「……おっしゃる意味がよく分かりませんが

そのような子供はおりません」

『何!?

じゃあオレが話しをした奴は幽霊だとでも言うのか!?

そんな訳ないだろ!!』

何かおかしい……


No.229 12/02/02 12:43
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


消灯時間となり

オレは

ボランティア用の宿泊部屋で休むこととなる

宿泊部屋は

寝具が一組置かれているだけ

狭くて殺風景な部屋だった

『オレのいるここは何なのか』

持って来ているのは携帯電話だけだった

手当たり次第のキーワードで検索してみるが

らしいものにヒットしない

それなりにツテはあるが……

今回は周囲に知らせずに来ている

今、余計な詮索をされるのも面倒だ

調査が必要なら帰宅後だ

今は

残り二日間は

かなり原始的だか

自分の目だけで探るしかない

No.230 12/02/03 17:38
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


子供「お兄ちゃん!!


こっちこっちーっ!!

べーっ!!

つかまらないよーだ!!

きゃははははっ!!」

レン「くっそーっ!!

絶対につかまえてやるからな!!

うわっ!!こらっ!!」

『オレが遊んでもらっているのか!?

たくっ!!』

レン「頼む!!

ちょっと休憩!!」

『それにしても

子供の体力ってすげーなー』

感心しながら

ゆっくり歩いていた

『あっ!!いた!!あいつ!!

やっぱり幽霊なんかじゃねーじゃねーか!!』

レン「おいっ!!ちょっと 待て!!」


No.231 12/02/04 02:07
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「お前のこと探してたんだせ

お前さぁ

メシん時もみんなと一緒に食わねぇの?

いつもひとりで何処にいんだよ?」

男の子「……前は……

みんなと一緒にいたよ

でも……

僕……もう……

ここでも『いらない子』だから

みんなとは少しずつ離れて……

明日は『お迎え』が来て出て行くんだ

『奉仕』のために

理由は色々だけど

みんな

いつかは出て行くんだって……

『奉仕』のためにね」

レン「何処へ行くんだよ!!

昨日お前言っただろ!!

『出て行く子供は幸せになれない』って

お前も不幸になるために出て行くとでも言うのか!?

一体どういうことなんだ!!

分かる範囲内でいいから話してみろよ!!」

男の子「……」

レン「……ごめん」

男の子「……

よく分からない……

けど……

ここでお世話になった奉仕のためなんだ……って……」

本当にここは

何なんだ!!

レン「……大丈夫だ

何とかしてやる

何かあったら

助けに行ってやる

お前

名前は?」

男の子「……ユウタ」

レン「ユウタ

オレはレン」


No.232 12/02/04 10:54
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ここは

ただの『恵まれない子供たちの施設』なんかじゃない

明らかに『何か』絡んでいる

オレはガキが嫌いだった

だが

たった数時間に過ぎないが

子供達と過ごして

子供達の純粋さに触れ

オレは頑なに閉ざしたものが

ほんの少しだが

開かれたような気がした

子供は純粋だ

だが

いつまでも

純粋な子供のままではない

日々成長していってしまう

良し悪し関係なく

触れるもの

体験

出会う大人達……

それらによって

自らの意思とは関係無く

成長していってしまう

結果

望まない人格形成に繋がることも

否定できない

良いものが備わっていたとしても

望んだ通りに

良いままでいられないこともある

時に

悪に転じ

犯罪者にもなり得る

子供のままなら許されることも

時が経ち

年齢によって

同じ人間が同じことをしてしも

犯罪者になる

でも中身は同じ

『同じ思い』でやっているに過ぎなくとも

道を外した人間になってしまう


No.233 12/02/06 09:58
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ようは……

関わる人間によって

天使も

悪魔に

転じる

背後に何が関わっているのか

黒幕は何者なのか

分からないが

このまま

ユウタの手綱を放すのは危険だということだけは確かだ

時間がない

レン「オレだけど

悪いが、ちょっと調べほしい……

……それが今、分かる範囲のことだ……」

手短に概要を伝え

電話を切った

それにしても……

オレは何故

会ってばかりの

ハッキリ言って

何の関係もないガキのために

こんなに焦っているんだ


No.234 12/02/07 11:07
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


自分でも分からない『何か』に

掻き立てられるように

動いていた

冷酷で計算でしか動いてこなかったオレが

誰かの為に何かをするのは

初めてかもしれない

こんなにも

得るものが無いものに対して

熱くなるなんて……

レン「ああ……何か分かったか?」

「そこ、かなりヤバイな……」

レン「何が?」

「臓器売買、人身売買が絡んでいる……」

レン「本当なのか!?」

「こんなこと冗談で言うかよ

調べるのけっこう大変だったんだぜ

報酬の方頼むぞ」

レン「ああ、分かってるサンキュ」


No.235 12/02/08 10:38
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『臓器売買に人身売買だと!?』

そんな桁外れな危険にさらされることを思えば

オレは恵まれていたのかもしれない……

オレが生まれて間もなく死んだオヤジ……

オレを残して

さっさと勝手に

死んでいったことを恨んだこともあったが……

オレを案じ

沢山のものを残してくれた

優しい人だった……と聞いている

とにかくオレは

まだ自力でどうにも出来ない無抵抗で無力な子供が

自分の意思とは関係無く

たまたま出会った周りの大人達によって

翻弄されることが

許せない

それは

公平じゃない

オレは

ユウタを探した


No.236 12/02/09 17:19
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタを探しながら

どうしたらいいのかを考える

とにかく時間がない

状況把握にも計画するにも

オレは昨日来たばかりだ

短時間のうちに色々ありすぎて

さすがにオレも

混乱する

ただ

ここは

山奥で集落と離れていることを除けば

高度なセキュリティで囲われているわけでもなく

抜け出すことは出来そうだ

人里離れていることや

まだ幼い子供が獣道を下って行くことは考えにくいためか

その辺りのガードは緩そうだった

問題は

暗い山の中

いかに方向を間違わないようにするかだ

出る時間帯を考え

万が一の時見つけ出してもらえるように手配し

あとは

運と野生の勘

多少のリスクは仕方がない

ぼんやり明日を迎えていたら

ユウタは

理不尽な死をとげなければならなくなる


No.237 12/02/10 14:55
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『こんなことなら

眠るんじゃなかった』

確かに『慣れないこと』をして

昨晩は早々に眠ってしまっていた

まさか

こんなイカれた場所だったとは考えもしなかった

ここの『夜』は

どんな夜なのか……

見張り、巡回、夜間の職員の数……

昨日のオレは『無防備』すぎた

調査を依頼した『奴』に

出来る限りの必要な情報を送ってもらい

万が一の場合のことを頼む

レン「報酬は保障する

面倒掛けるが頼む」

「了解

……お前も人間だったんだな

ガキのためなんかに熱くなりやがって

今のお前

悪くないな

けっこう

好きだぜ

まぁ任せろ

健闘祈ってるぜ」

レン「……」

確かに

らしくない……


No.238 12/02/12 09:39
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタを探しているうちに

昨日は全く気付かなかった『小道』が目にはいった

手入れがされていない

一見、道には見えない道だったが

先に繋がっているようだ

スタッフ「ボランティアさん!

何処へ行くんですか!」

オレは放っておかれていたためスタッフには滅多に会わなかった

それが

急に出てきたスタッフ

『見張られているのか』

レン「『かくれんぼ』しているんで……」

スタッフ「こんなところに子供たちは来ません!」

レン「……そうですか……

では、向こうへ戻ります」

『この先だな……

分かりやすい反応しやがって……』


No.239 12/02/12 19:19
フライパン ( ♀ MGMK )



主さま 毎日チェックして楽しみに読んでます。

レンのこれからが
気になって
気になって…

このスレにレスするのは、楽しみに読んでる方々に失礼だと思うので、

主さま 感想スレを建てて頂けませんか?

No.240 12/02/13 11:44
きる ( lbwJnb )

フライパンさんへ

きるです

楽しみにしていただき
本当にありがとうございます

お待たせして申し訳ありません

本当に感謝しております

感謝の気持ちを込め

夜になってしまいますが

お話を進め

交流スレッドもたてさせていただこうと思います

もう少々お待ちいただきますこと

先にお詫び申し上げます

本当にありがとうございます


No.241 12/02/13 21:21
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「ユウタ!!」

ようやく見つけた

レン「いいか!明日が来る前にオレと一緒にここを抜け出すんだ!!」

ユウタ「……」

レン「おい!どうしたんだよ!?」

ユウタ「……」

レン「聞いてんのか?」

ユウタ「……な、何、言っているの?」

レン「だから!お前を助けたいんだよ!!」

ユウタは怯えるような目でオレを見て

走り出した

レン「おい!!待てよ!!」

時間の無さにオレは焦っていた

考えてみれば当前だ

昨日会ったばかりの

見ず知らずの大人に

いきなりそんなこと言われたら

警戒することこそが

正しい判断だ

ただでさえ

『こういう場所にいる子供は』

大人を信用していない

ユウタにとって今は

オレこそが

『危険な大人』だ……


No.242 12/02/13 22:49
きる ( lbwJnb )

きるです

申し訳ありません

新規スレッドが上手く
たてられずにおります

いつになるか分かりませんが
引き続き試してみますので

上手くたてられたら
是非ご利用ください

それまではこのまま
こちらで交流して参りましょう

皆様どうぞ気軽にお越しください


No.243 12/02/14 07:45
きる ( lbwJnb )

きるです

無事『交流スレッド』をたてることができました

気軽にご利用ください

雑談気分で

気軽にお立ち寄りください

このように皆様と繋がっていけることを

とても嬉しく思います

どうぞよろしくお願いいたします

ありがとうございます


No.244 12/02/14 16:49
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『どうしたらユウタに伝わるんだ……

……

オレは一体、何をしようとしているんだ?

オレは一体、どうしたいんだ?

それに

上手くユウタと逃げたとしても

その後

どうするんだよ……』

柄にも無く

冷静さを失い

暴走したか……

だが

話しが本当なら

オレは

知っていて

見殺しにしたことになる

レン「……たくっ!!

どうしたらいいんだよ!!」

時間がない

どうしたらいいのか分からず

『奴』に電話する

レン「……仕事においてお前のことは信用しているが

あえて、もう一度聞く

話は確かなんだろうな?」

「確かだ

あれからずっと調べている

どうかしたか?」

ユウタに拒否されたことを伝える

「……それは無理もないな」

レン「ユウタに全て明かすか……」

「そんなことしたって無理だ

お前余計に疑われるぜ」

レン「……だな……」

「なぁ

かなり情報は掴んだ

ガキが出て

いきなり『やられる』ことはない

少なくとも2、3日の猶予はある

外から助けに行くことは可能だ

お前も明日、一度そこから出ろ」


No.245 12/02/15 13:59
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


納得していないユウタを無理矢理連れ出すことは

犯罪だ

『たかだか

ガキひとり救ってやれないなんてな……』

こんなにも自分が無力だったとは

こんな虚脱感

初めてだ

何でも出来る……なんて

傲慢だった

オレは改めて

自分が『守られてきた』ことを知った

『なぁ、父さん……

オレ……どうしたらいい?

父さんが生きていたら

これをどう解決する?』

長く濃厚な一日が間もなく終わろうとしている……

何も出来ないまま

ただ自分の無力さだけを突き付けられただけ

消灯時間が過ぎて

かなり経つが

眠れない……

トイレに行くふりをしながらぶらついていた

人の話し声がする……

ヒソヒソ話……

静かな夜間は

少し離れていても

かなりハッキリ聞こえる

その話しの内容に愕然とする

No.246 12/02/16 14:40
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


スタッフA「……多分……何か知っています」

スタッフB「まずいな……」

スタッフA「昼間、誰かに電話をしていました
聞こえてきた内容が……」

スタッフB「で、そのボランティア、ユウタに何か言ってたか?」

スタッフA「それは大丈夫です

ユウタの方は逆に警戒していましたから」

スタッフB「分かった

変な動きをしないか注意しろ

ただの若僧かと思ったんだが……

まさか、警察関係ってことないだろうな?」

スタッフA「それは大丈夫です

警察関係なら逆に『つながり』がありますから

入ってこられないようにしています」

『マジかよ……』

物音に気を付けながら

急いで部屋に戻る

数秒後『見張り』が来た

『あぶねー……』

三日間の滞在予定で

明日帰る予定だったが

そのまま何事もなかったかのように

オレはここを出ることが許されるのだろうか……

おそらく、それは甘い

向こうも命懸けだ

朝を迎える前に出るしかない

『ユウタ必ず助けてやるからな』


No.247 12/02/17 13:50
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


どれだけ注意をしても

土地勘が無く緊張状態の中

焦って夜中に山の中を出ることは危険すぎる

しかも巡回回数が多く感じるのは

決して『気のせい』なんかでは無いだろう

夜明け寸前まで待つことにした

『今だ

ユウタ必ず会おう』

衣類や現金などの荷物は『わざと』部屋に残し

携帯電話のみを持って

そっと部屋を出た

施設を出ることは割りと容易だったが

問題はここからだ

自然は甘くない

風、空気、音、夜明けの明るみなど

慎重に感じながら進んだ

こんなところで倒れてしまったら

ユウタだけでなく

小さな命たちが

汚い大人達の犠牲になる


No.248 12/02/18 14:51
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


少しずつ進んでいた時

あるものに気付いた

木に『記し』のようなものがある

かなり注意して見ないと

まず気付かない

『寄り道はしていられない……だが……』

おおよそ掴んでいた
山を抜けるためのルートと

重なっているようだった

とにかく慎重に進んだ

『何だ?あの建物……』

警戒しながら近づいてみる

外から施錠されたログハウス風な小さな建物

小汚ない小屋のような建物だったら逆に気に止めなかったが

『この辺りには似つかわない小綺麗さ』がかえって不自然だった

窓から中の様子をうかがう……

『……!!
ユウタ!!』

小さなソファーベットに寝ている子供が見えた

ユウタだ

間違いない

「おい!!
見つけたぞ!!
こっちだ!!」

『ヤバイ!!
見つかった!!』


No.249 12/02/19 09:23
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『ったく!!しつこいぞ!!』

向こうも必死だ

執拗に追ってくる

こんなに緊迫感のある『鬼ごっこ』は

正直『いただけない』

そんなことを思った瞬間

前から!

左右からも!!

当然

後にも……

『複数で追い詰められてはな……

反則だぜ!!』

バシッ!!

ドスッ!!

ダンッ!!

「うわっ……あっ……」

「……うっ……」

「……ったく……小僧……なめやがって……」

瞬間!!

レン「うっ……あっ……」

『しまった……

負けるとは思わなかったんだがな……』

ドサッ……


No.250 12/02/19 22:17
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタ「……レン!!レン!!

レンってば!!

起きてよ!!

ねぇ!!

起きて!!

ねぇ……

まさか

死んじゃったの!?

イヤだよ

レン!!

うっっ……ヒック……うっうっ……レン……ヒック……」

レン「……ううっ……あっ……どうなっ……て……」

ユウタ「レン!!しっかりして!!レン!!」

レン「……ユウタ……か?」

ユウタ「うん!!ユウタだよ!!

良かった……

死んじゃったかと思ったよ……グスン……

良かったよ……うっ……グスン……」

レン「……オレ……どうして……ここに……

うっ……あっ……縛られているのか?オレ……」

ユウタ「うん……

僕もよく分かんないんだけど

凄い物音で目が覚めたんだ

そしたら

レンが

縛られたレンが

ここにいたんだ

びっくりしたよ

レン……

何か悪いこと

したの?」


No.251 12/02/20 16:32
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


それから

ユウタは

ポツリ……ポツリ……と今までのことを話し始めた

小さい頃からずっとここで暮らしていること

父母のことは全く知らないこと

病気が発症したこと

最近になって『ここでの暮らし』に違和感を感じはじめていたこと……

話しながら泣き出した

ユウタ「……ごめんね……

レンは僕に

『ここを出よう』って言ってくれたよね

『僕を助けたい』って……

今なら分かるよ

でも、昨日いきなり言われて

びっくりしちゃったんだ

どうしたら良いのか

本当によく分からないし

でも

僕が昨日『うん』と言わなかったから

レンがこんな目に遭っちゃったのかも……って思えてきて

レンが起きなかったら……って思ったら

怖くて

悲しくて

レン

本当に

ごめんなさい」

レン「お前は全く悪くなんかねぇよ

全く悪くなんかないんだ」

レンは必死になって縄をほどこうとしてくれていた

レン「なぁ、ユウタ

オレのポケットに携帯あるか見てくれないか?」

ユウタ「……うん……

無いみたい……」

レン「他も見てくれ」

ユウタ「……やっぱり……無い……」

レン「そうか……」

どこかで落としたか

スタッフ連中に取られたか……


No.252 12/02/21 18:19
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタ「……あっ痛い!!」

レン「大丈夫か!?」

ユウタ「う、うん!

こんなの平気……」

レン「手、切ったのか?

無理するな」

ユウタ「だ、大丈夫大丈夫

平気だよ……」

……

レン「……ユウタ?

……お前、血なかなか止まらないな……

……

お前!?まさか!?

病気って

血液の病気か!?

止めろ!!

もういい!!

動かすな!!」

ユウタ「大丈夫だよ!!

もう少しだから!!」

レン「頼む!!

もう止めてくれ!!」

その時

ガタッ!!

物音が

誰か来た!!


No.253 12/02/22 19:28
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


「いい男が台無しだな」

レン「お前!

どうしてここが分かった!?」

「お前の携帯すぐそこに転がってたぜ

GPSだ

この分の『追加報酬』しっかり頼むぜ

まぁ、オレもさぁ

お前の『熱さ』に

ちょっと熱くなったっていうか……さっ

ひとりでカッコつけんなよ」

情報屋の『奴』だった

レン「助かった

ありがとう」

奴「やけに素直だな

かわいいじゃねぇか

お前が言ってたガキ、そいつか?

んっ?

怪我してんのか?」

レン「そうなんだ

時間が無い

怪我自体は大きくはないが

病気で出血が止まらない」

奴「了解」

No.254 12/02/23 10:18
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「ユウタ

ここを出るぞ

大丈夫か?」

ユウタ「……う、うん……」

ガタン!!

ユウタは立ち上がろうとしたが

ふらつき倒れる

レン「ユウタ!!」

奴「顔色悪いな……」

レン「ユウタはオレが背負っていく

道案内だけ頼む」

奴「道はけっこう厳しいからな

覚悟しろよ」

外は明るくなってきていた

レン「ユウタ

頑張れよ!!」

No.255 12/02/24 14:24
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


奴「思ったより早く進んでいる

あともう少しだ」

無理に夜中に動かず
明け方近くに出たことが正解だった

そして

『奴』のタイミングの良さ

そのおかげで助かった

レン「……本当に助かった

ありがとう……」

奴「礼はまだ早いぜ

油断するな」

山道から

道路らしき道が見えかけた

奴「あそこだ」

このまま切り抜けられると思った瞬間

レン「来たか……」

スタッフの数人が追ってきた

奴「だな……

オレがてきとうに撒いておく

お前はガキを病院へ連れていけ」

そう言うと

車のキーをオレのポケットにねじり混んだ

レン「すまん!!」

奴「こんなのオレは慣れている

じゃあまたな!」


No.256 12/02/25 08:14
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『逃げ切ってくれよ!!』

柄にもなく

祈りながら

『奴』の用意していた車に乗り込む

レン「ユウタ大丈夫か?

病院に向かうからな!!

頑張れよ!!」

ユウタ「……ごめんね……」

さすが『奴』の車だった

ナビにパソコン……

大体のものは揃っていた

直ぐに位置確認をし

車を出す

『とにかく安全な場所に早くユウタを!!』

いきなり知らない病院へユウタをオレが運び込んで

受け入れてもらえるか分からない

オレはある程度町に近付いたところで

救急車に乗り込めるように手配した

その時

バックミラーに追ってくる車が目に入る

レン「ったく!!しつこいぞ!!」

あと少しだ

『今度こそ捕まってたまるか!!

汚いお前らの餌食にはならない!!』


No.257 12/02/26 00:34
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


幹線道路に入った

『絶対に逃げ切ってやる!!』

間もなくして

対向車線を走ってくる救急車が遠目に見えた

一気に加速

救急車に近づき

ハンドルをきった

救急車の前に出て

救急車を止める

ユウタを抱き上げ

車から飛び出した

救急隊員「危ない!!

な、なんてことをするんですか!!」

レン「すみません!!

先ほど、救急車を呼んだ者です!!

この子です!!

お願いします!!」

救急隊員「は!?

ああ、はい、分かりました」

追ってきた車の運転手は

オレを睨み付け

そのまま走り去った

救急隊員もいる中では

今さらユウタをどうすることも出来ない

搬送先の病院を聞き

救急車と一緒に

その場を後にした

次は『奴』のことだ

『上手く逃げ切れただろうか……』


No.258 12/02/26 22:11
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


走り出してすぐ

車内のどこかで

携帯電話が鳴り出す

車を止めて見ると

助手席シートに

携帯電話が

ねじ込んであった

迷ったが……

応答ボタンを押す

相手「お前誰だ?」

『奴』だった!!

レン「オレだ!!レン!!

お前無事か!?」

奴「やっと出たな!!

さっきから何度も電話してたんだぜ!!

ああ!!無事だよ!!

お前こそ大丈夫なのか!?」

レン「ああ」

奴「ガキは!?」

レン「大丈夫だ

もう病院だ」

奴「そうか!!良かった!!

だったら、お前!!

オレの居場所を早く突き止めて迎えに来い!!」

レン「はいはい

分かりました

すぐに見つけてやるから

待ってろ!!」

『良かった』

電話には確かに

何回かの着信履歴があった

だが、全く気付かなかった

ようやく少し落ち着き

ふと、ルームミラーに目をやる

『懲りない連中だ』

まだ追ってきていた

『いい加減にしろ!!

そんなチンケな車で追いつけると

本気で思ってんのか?』

オレは
スポーツカーのアクセルをグッと踏み込み

追跡車を適当に撒いて

『奴』を迎えに行った



No.259 12/02/27 23:56
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


奴「遅かったな!!」

レン「都会の雑踏ばかりも飽きるだろ?

山の中の散歩も
たまにはいいもんだろ?」

奴「ホント……良かったな……

これでも
マジで心配したんだぜ

お前のこと」

レン「何なんだよ……

らしくねぇぞ!!

惚れたか?オレに」

奴「……かもな!!」

レン「オレは『その気』ねぇぞ!!

バーカ!!」

そんな馬鹿を言いながらゲラゲラ笑い合った

こんな風に
誰かのために突っ走たのは
初めてだった

本当に良かった

レン「……本当に

ありがとな」

奴「お前こそ

らしくねぇぞ!!

惚れたか?オレに」

レン「かもな!!」

まだ終わっていない

次は闇組織の解体だ


No.260 12/02/29 00:30
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「ユウタ

気分はどうだ?」

ユウタ「いいよ!

レン

ありがとう

僕……

上手く言えないんだけど

今まで僕のためだけに

何かをしてもらったことがなかったから

すごく嬉しかった

レン

僕をおんぶして

あんなに頑張ってくれて

あんなに強くて

嬉しかった



すごく怖かったんだ

独りぼっちにされて……

どうなっちゃうのか

何処へ行くのか

分からなくて……

でも、どうして

レンは

『僕を助けたい』なんて言って

あんなに大変なことしたの?

レンが来なかったら

僕、何処へ行くことになっていたの?

僕、どうなっちゃうの?」

レン「大丈夫だ

もう心配するな

これからはオレが守ってやる

今は治療を頑張るんだ

元気になったら

そうだな……

勉強を教えてやる!

覚悟しとけよ!!」

ユウタ「いいの?



ずっとレンの側にいて
いいの?」

レン「当たり前だ!!

心配するな

おい、泣くな

男だろ!!」


No.261 12/02/29 23:30
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


医師「早速ですが
先日の検査の結果です

良かったですね

あなたとユウタ君のHLAの型(白血球の型)は一致しました

更に詳しい検査も進めたところ移植可能で

つまり、あなたは
ユウタ君のドナーになれます

実に
奇跡的なことです

このまま骨髄移植を進めてもよろしいですか?」

レン「もちろんです!!

一刻も早くお願いします」

ユウタは血液難病で
治療は骨髄移植しかない状態だった

だが骨髄移植に必要なドナーを見つけることは
非常に困難だ

骨髄を提供したいと願ったからといって
誰でもドナーになれるわけではない

まず骨髄移植に必要な白血球の型が一致する確率が低い

それでもドナーを探し求めるが

時間、費用……様々な問題が絡んでくる

そして運良くドナーが見つかったとしても

更に治療費の問題が出てくる

そのため……

ユウタはまともな治療を受けさせてもらっていなかった

見殺し同然で

その上『奉仕(使える臓器提供)』までさせられようとしていた

『ユウタ

もう大丈夫だ

必ず元気になるんだぞ!!』


No.262 12/03/01 21:40
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


そしてオレは

『ある場所』を訪ねた

『母さん』が幼い頃を過ごした場所……

シスター「あなたが……

あなたがレン君……

ユイちゃんの……

こんなに立派になられて……」

シスターは

オレを見るなり

言葉を詰まらせ

涙を流し

暫く話しが出来なかった

……

ようやく落ち着き

オレが『此処』を訪ねなければならなくなった理由を話した

オレが『ボランティア』で行った場所の『裏事情』のこと

ユウタのこと

汚い大人達の犠牲になろうとしている子供達の保護のために
シスターの力が必要であること……

シスターはあまりに悲惨な話しの内容に

絶句であったが

暫くして

静かに答えた

シスター「分かりました

子供達は責任を持ってお引き受けいたします

力になりますので

安心して

計画を進めてください」


No.263 12/03/03 00:41
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


シスター「レン君

ここに来てくれて

ありがとう」

レン「いえ……

こちらこそ

突然に無理なお願いをして申し訳ありません」

シスターは涙ぐんで話しを続けた

シスター「あなたとこんな形でお会いすることになるなんて

夢にも思っていませんでした

ユイちゃん……

あなたのお母さん……ね……

確かに

とても大きな罪を犯して

あなたを産んだわ……

だから

あなたの出産と同時に

あんなことになってしまったのかもしれないわね

でもね

とても純粋で優しい良い子だったの

それに

とても可愛らしくてね

だから

あなたのお父様が惹かれてしまうのも無理なかったかもしれない

そして

とても可哀想な状況で

ここに来たの

私はずっと

ユイちゃんのこと

そして

会ったことのないあなたのことが

気にかかっていたの

だから

こうして

ましてや

こんな形で

あなたに会えるなんて……不思議ね……

とても大変だと思うけど

頑張ってね……

成功を祈っています」


No.264 12/03/04 07:50
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『急がなければ
また、小さな命が犠牲になる』

出来る限りの情報と証拠を揃えるために奔走した

そして

準備が整い

然るべき機関への

告発に踏み切った

……

テレビの電源を入れる

「大変なことが発覚しました

なんと児童福祉施設を装い

裏で人身売買などを行っていたというのです……」

どの局もワイドショーや情報番組で

この話題ばかりとなった

No.265 12/03/04 22:24
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


シスター「レン君

本当にお疲れさま

大変だったでしょう

子供達のことは心配しないでね

本当は全員一緒にここで生活させてあげたいのだけど

こんなに小さなところでしょ……

みんなバラバラになってしまうことは避けられないの

ごめんなさいね……

でもね

子供達を必ず

大切に愛してくれるところへお願いをするから

心配しないでね

ユウタ君を助け支えてあげてね

ユイちゃん……お母さんも

きっと応援しているわ

ユウタ君が元気になったら

二人で会いに来てね

骨髄移植が成功したら

あなたとユウタ君は

本当の兄弟同然だもの

どうか

移植が成功しますように」

シスターはまた泣いていた

オレはシスターへの挨拶を済ませると

ユウタの待つ病院へ向かった


No.266 12/03/06 02:43
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタの骨髄移植の準備は順調に進み

オレの骨髄採取の日が来た

医師「では、麻酔をかけていきます

1から順に数を数えてください」

レン「1、2、3、4……」

薄れゆく意識の中……

オレは

『注文』こそしなかったが

適当に答えた『サイト』を思い出していた……

『駆け引きの無い純粋な捧げる愛』

この言葉を入力し送信したことで始まった一連の出来事……

気付けばオレは

何の見返りも求めず

動いていた

危険な目にも遭った

にもかかわらず

スッキリとした清々しい気持ち

満たされた心

今まで

全てに満たされ恵まれた環境にあったはずなのに

得られなかった『何か』に

満たされていた

そして、また

何の見返りも求めず

身体をはって

手術台の上に横になっている

ユウタに何かを求めているわけではない

ユウタに元気になってもらいたい

ただ

それだけだ

ユウタが

オレを信頼し

オレの『社会的立場』に惑わされることなく

オレを慕ってくれる

それが

オレを満たした

オレはきっと……

『何か』を悟った



No.267 12/03/07 09:48
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


親愛……

『愛がオレの中にもあった』

愛は

求めるものでもなく

駆け引きでもない

愛をくれるから与えるというものでもない

何の見返りも求めず

魂に動かされ

純粋に相手の幸せだけを想うことで

愛は生まれ

相手に確実に伝わる

……

愛することで

愛される

全てを悟ったとは言えないが

大きな『何か』を得た

『ありがとうユウタ

必ず元気になるんだぞ

お前はオレの大切な弟だ

じゃあな』


No.268 12/03/08 09:30
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


カツカツカツカツ……

パソコンのキーボードを叩く音だけが響く

『パスワードを入力してください』

カツ……カツカツカツ……

『パスワードが違います』

カツカツカツ……カツ……

『パスワードが違います』

カツカツ……カツカツ……

『OK』

ユウタ「ビンゴ!」


ユウタ『レン……

元気かな

会いたいな

レン

僕のために

本当に何から何まで

ありがとう

レンのおかげで

僕は

こんなに元気になり

最高の教育まで受けさせてもらった

レン

僕は

お父さんもお母さんもいなかったけど

レンはきっと

本当のお父さん、お母さんよりも

僕を

大切にしてくれた

愛してくれた

レンが助けてくれなかったら

僕は

心も

身体も

死んでしまっていたからね……』


No.269 12/03/09 10:18
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


友達「ユウタ!

あのさぁ

お前のこと紹介してくれって頼まれてるんだけどさぁ

今度ちょっと付き合ってくんねぇかなぁ……」

ユウタ「……うん……

ごめん

そういうの苦手なんだよね

レポートも忙しいし……」

友達「だよな

お前がそういうタイプじゃないって
オレ、よく分かってるし

『無理だ』って言ってんのにさ
しつこいんだよ

まぁ……テキトーに断っておくか……

にしても

お前、相当モテるのに

全然、女に興味ねぇんだな」

ユウタ「……うん

いつも、ごめん」

僕はレンに助けてもらった命を

大切に

懸命に

生きた

レンの役に立てるようになりたくて

一生懸命

勉強をした

パソコンやゲームが好きで

大学の工学部に進んだ

教授のすすめもあり

院へ進むことも決まっている


No.270 12/03/11 00:29
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『知識と経験は消えない財産になる』

レンが教えてくれたよね

物は

この世にある『物質』に

残念ながら

絶対的なものは無いであろう……

物である以上

失う可能性がある

だから

目に見える物にこそ

執着するな

惑わされるな

物に頼るな

レンが僕に会いに来てくれた時

真剣な目で

僕の目を見て

教えてくれたことを

僕は

決して忘れない

レンの言葉は

いつも

正しかった

聞いた、その時は理解できなくても

心に留めてきて

間違いなかった

……

様々な制約があり

レンと僕は一緒に暮らすことは出来なかったけど

離れていても

レンは

決して僕を忘れずに

守ってくれていた

だから

寂しくなかった


No.271 12/03/11 00:48
きる ( lbwJnb )

訂正

No.251

「レンは必死になって縄をほどこうとしてくれていた」→
「ユウタは必死になって縄をほどこうとしてくれていた」


大変申し訳ありません

ざっと読み返した際

大きな間違いに気づきました

訂正させていただきます

失礼いたしました


きる


No.272 12/03/11 21:25
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「レン!!

会いたかったよ!!

毎月『この日』だけが

僕の楽しみだからね!!

レンとの話しが

一番楽しくて、おもしろいよ」

レン「オレもだよ

元気そうで良かった

勉強どうだ?」

ユウタ「おもしろいよ

こないだ

こんなことやってみたんだけどさ……」

レンは

毎月

僕の誕生日の日にちと
同じ日にちの日

必ず

会いに来てくれた

そして

僕の話しに

じっくりと耳を傾け

聞いてくれた

十年近く

ずっと変わらず

どんな話しも

決して否定することなく

受け止めてくれた

学校のこと

勉強のこと

将来のこと

愚痴や弱音……

どんなことも真剣に

聞いてくれた

そして

励まし

アドバイスをくれ

時には

叱ってくれた

血縁を否定はしないが……

血縁以上に尊い本当の繋がりもあるのではないか……

……

ユウタ「レン

聞いてる?

今日のレン

何か、いつもと違う……

何かあったの?

具合悪いの?」

レン「あぁ……ゴメン

お前が気にすることないよ

せっかくの日に悪いな」

ユウタ「僕じゃ頼りないだろうけど

レンの味方だし

レンの役に立ちたいんだ

良かったら話して」

レンは穏やかに微笑みながら

レン「ありがとう

お前も

もう一人前だな

安心したよ」

そう言って

その日は終わった

『レン……

やっぱりおかしいよ

何か隠している

僕はね

本当にレンのことを大切に思っている

僕だって

いつまでも子供じゃない

レンが悩んでいることくらい

分かるんだよ

ずっと

レンだけを信じて

レンだけを慕ってきたんだから』


No.273 12/03/12 12:11
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンの様子が気になりながらも

レポートに

研究に

追われ

瞬く間に1ヶ月が過ぎた

気が付けば

『レンと会う』日を迎えていた

……

レンが忙しいことは分かっていた

それでも

まだ幼さが残る頃は

寂しくて恋しくて

夜、電話をかけたりもしていた

高校生頃からは

約束の日の待ち合わせの連絡以外は控えていた

その連絡さえも

仕事の妨げになってはいけない、と

こちらから連絡することはなかった

レンが必ず連絡をくれていたから

だが

その連絡がない

出会ってから今日まで

そんなことは

一度も

なかった

嫌な胸騒ぎ

嫌な予感

同時に

悔やんだ

『あの日

先月のあの日

どうしてもっと

詰め寄らなかったんだ

なにがなんでも

聞き出し

寄り添わなかったんだ』

僕は

レンに

甘えていた

そして

嫌われることを恐れて

どこかで

遠慮していた

本音でぶつかり合ったことが

なかったのかもしれない……

『レンと僕は

そんなうわべだけの

関係じゃない』

No.274 12/03/13 09:46
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『おかけになった電話は電波が届かないか、電源が入っていないためかかりません』

何度かけても

繋がらない

焦る

そんな時

大学の事務関係の人に呼ばれた

『何だろう

こんな時に……』

行って聞いてみると

授業料のことだった

なんと、この先かかるであろう額が全て前納された、という

僕は激しく動揺した

『レン!!

一体どういうことなんだよ!?

このまま

レンに会えなくなったら……

嫌だ!!

それだけは

絶対に嫌だ!!』


No.275 12/03/14 00:31
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ただ

ただ

呆然とする

『どうしたら

いいんだよ……』

レンは僕の全てだった

でも

考えてみれば

確固たる何かがあるわけでも何でもない

レンにとって

僕なんて

何の利益もない

お荷物にすぎない

今まで

レンの好意だけで成り立ってきた関係だ

それを当然のように受けてきた

甘え過ぎだ

いつ

今日みたいな日が来ても

何ら不思議なことでもない

レンのおかげで

今日まで来ることが出来ただけ

『幸運だった』と感謝し

いい加減

レンを解放してあげるべきだ

……

いや

何か違う……

何か引っ掛かる……

いづれにせよ

このまま

黙っているわけにはいかない


No.276 12/03/14 23:28
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『動かなくては何も始まらない』

どう転ぶにせよ

やらずに後悔するくらいなら

粉々になってもいいから
ぶつかって行く方がいい

『もう、失いかけている』以上
失う恐怖は無い

僕は信じている

レンと僕は

『そんな安い関係なんかじゃない』

……

レンに

『とにかく会おう』と

レンのオフィスに向かった

……

オフィスのあるタワービルを目の当たりにし

情けないことに

圧倒され

ひるんだ

レンの立場

レンの力……

それらを

改めて見せられたようだった

僕はレンのことを知っているつもりで

何も知らなかった

世間知らずで
まだまだ子供だった……と
自覚せざる得ない

ここに来て

レンに守られてきたにすぎないと

思い知らしれ

感謝をするとともに

自分の無力さに

情けなくなった


No.277 12/03/16 06:23
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


受付にレンと会わせてほしい、と頼んだ

全く、らちがあかない……

「アポイントの無い方をお取り次ぎすることはできません」

「どういったご関係なのでしょうか」

「どのようなご用件なのでしょうか」

『社会では当たり前のことが』

答えられない

挙げ句の果てに『不審者』だと

警備員につまみ出された

情けないが

これが『社会』

その『社会』での今の僕の立場は

そんな程度にしかすぎない

つまみ出されてしまう程度にしかすぎなかった

そんな時に……

携帯に着信

『まただ……』

最近

知らない番号の着信が度々あった

毎回、同じ番号だった

無視していた

『しつこいな

しかも、こんな時に…』

仕方なく応答した……


No.278 12/03/17 08:17
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「はい……」

電話の相手「ユウタか?」

男の声だった

聞き覚えのない声

だが

相手は僕のことを知っているようだ

ユウタ「はい

すみませんが

あなたは?」

電話の相手「やっと繋がった

お前に早く会いたいんだ!助けてほしい!!」

『一体、何なんだよ!?

質問に答えろよ!

お前こそ、誰だ!

知らない相手から

お前呼ばわれか!?

しかも

何をそんなに焦ってんだよ!?』

そんなことを思いながらも極力冷静に

ユウタ「もう一度聞きますが

あなた一体

誰なんですか」

電話の相手「ああ、すまん!!

お前覚えてないかな……?

レンとお前が

あの厄介な施設から逃げ出そうとした時に

レンと一緒いたのがオレなんだけど……」

忘れるはずがない!!

名前は知らなかったけど

忘れるわけない!!

レンが『奴』と呼んでいた人だ!!

ユウタ「覚えています!!

でも、何故

あなたが僕に電話を?」

電話の相手(奴)「助けてほしい、レンを……

今度はお前が

レンを助けるんだ!!」


No.279 12/03/17 23:05
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「一体、どういうことなんですか!!

レンが!?

やはりレンに
何かあったんですね!?」

一体

何が

どうなっているんだ!!

混乱する

急にレンと連絡が取れなくなり……
それに合わせて

『あの日』
僕の運命を変えた『あの日』
レンが助けてくれた『あの日』

唯一
レンと僕の味方だった人物が

『レンを助けてほしい』と連絡してきた

レンが『奴』と呼んでいた
その人と僕は

『あの日』以来

一度も会っていない

レンが
その人を『奴』を
信頼していたことは知っていた

僕は『奴』さんと
すぐに会うことになった

『一刻も早く会いたい』と
『奴』さんは焦っていた

一体

何があったんだ……


No.280 12/03/19 07:36
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


とにかく会うことになり

『奴』さんから指定された場所に行った

……

『あっ!!この人だ!!

間違いない!!』

助けてもらった遠い『あの日』

僕は体調が悪く

ほとんどレンに背負ってもらっていた

そんな状況だったし

会ったのも『あの日』が最初で最後

だから記憶に自信がなかったけど

間違いない

この人だ

『ちょっと老けたみたいだけど……

それに僕が大きくなったからかな……小さく見える』

奴「ユウタ!!

お前!!いい男になったな!!

画像や写真で見るより
実物の方が
数倍いい男だ!!

それに
大したもんだ!!

『この場所』に
迷うことなく短時間で来ることが出来た

やっぱり今のお前の力は確かだな

レンを助けることが出来るのは
お前しかいない」

ユウタ「やはり試したんですね」

奴「ああ、そうだ、悪かった

だが
これからすることは
簡単じゃない

お前はコンピューターにかなり精通している
そのお前にしか頼めない

そしてお前は
何よりも
レンを裏切らない」

……

やはり変だと思った

『奴』さんは……
ケイイチさんという

ケイイチさんが指定してきた待ち合わせ場所は

通常、人が会うような場所ではなく
分かりにくい場所だった

人目を避けたいこともあるが

何故こんなにも分かりにくい場所を指定するのか疑問だった

僕がコンピューターの機能をどの程度使えるのか知るために

ケイイチさんは
わざと分かりにくい場所に
少ない情報だけで
僕が来ることが出来るのかを試した


No.281 12/03/20 08:29
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんは
何故こうして僕と会うことになったかを
話し始めた

ケイイチ「レンのところは
今、サイバー攻撃にあっている

それも執拗にだ

オレも協力して必死で食い止めているが
執拗に攻めてくる

攻撃に負けたら最後
大きなダメージをうけることになるのは
お前にも分かるよな
絶対に負けるわけにはいかない

敵がどんな組織で
何が目的なのか
よく分からない

セキュリティには細心の注意をはらっているにもかかわらず
しつこく攻めてくる

レンのところは
大きな組織だ
ターゲットにされることは当然考慮してきた

だが
今回はどうもおかしい……

正直
誰ひとり
信用できない

まぁ……そんなことを言い出したら
オレのことも信用できないけどな

オレは何度も
『ユウタに協力してもらえ』
と、言ってきた

あいつ……
レンは
お前を巻き込みたくない

だから
レンからお前に
連絡することは絶対にない

今回こうやってお前に会ったことを知ったら

あいつ
相当怒り狂うだろうな

だか、もうそんなことを言っていられる状況じゃない
限界に近い
こうしている今も危ない

絶対に信用できる技術者が必要なんだ」

ユウタ「わかりました
今すぐ、行きましょう

レンが怒っても何しても

やります

もう
レンだけの問題じゃないから!!」

『レン……
水くさいよ……

僕、いつも言ってきたじゃないか
レンの役に立ちたいって

僕だっていつまでも子どもじゃないんだ

そんな風にカッコつけるより

僕は
レンに
笑っていてほしい』


No.282 12/03/21 20:51
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんはレンのオフィスに
すんなりと入って行く

随分慣れた様子だった

しかも表からでなく
『こんな通路があったとは……』
と思うような裏口通路から

僕が邪険に扱われ追い返された場所に
ケイイチさんと一緒に
あっさりとたどり着いた

ケイイチさんは暗証番号を入力し
ドアのロックを解除する

ガチャ

扉が開かれた

ケイイチ「どんな様子だ?レン」

レン「とりあえず今のところ大丈夫だ

お前なぁ……

あれほど
言っておいたにもかかわらず
知らせやがって」

ケイイチ「見てたか」

レン「当たり前だ

モニターにしっかりと
うつっている

ユウタ
悪かったな

お前
もう帰れ」

ユウタ「レン!!

何でそんなこと言うんだよ!!

レンは

僕の気持ちを全然理解していない!!

レン
お願いだよ
僕にも手伝わせてよ

ケイイチさんから話しは聞いたよ

僕は

僕は

レンの役に立ちたいんだ!!

いつまでも

レンに守ってもらうばかりじゃなくて

レンの役に立ちたいんだよ!!」

レン「無理だ!!

これは学校の実習やゲームとは違うんだ!!

お前は

何も知らない!!」

ユウタ「確かに

僕は世間知らずだし
仕事のことは分からない

でも

誰よりも

レンを大切に思っている!!

レンを決して裏切らない!!

レンのためなら死ねる!!

レンに助けてもらった命なんだから!!

僕は

レンそのものなんだ!!

だから!!

レンは

僕を使うべきなんだよ!!

僕は『レンそのもの』なんだよ!!」


No.283 12/03/23 08:05
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチ「レン
お前の気持ちも分かるが

オレはユウタの気持ちも
よく、分かる

それに
現実問題
手助けが要る

もう時間が無いし限界だ

だか信用できる技術者を直ぐに連れてくることができるのか?

今のユウタの力は
けっこうなもんだぜ

何より
お前のことを裏切らない

もう
ユウタにしか頼めないんだよ

レン」

レン「……

ユウタ……

こんなことやらせたくなかった

ごめん……

お前しかいない」

ユウタ「レン
何言ってんだよ!!

僕嬉しいよ!!

レンがもっと近くなって

僕嬉しいよ!!」

ケイイチ「よし!!

とにかく時間が無い

ユウタ

これ見てくれ……」

と僕は
数台あるパソコンの前に座らされた


No.284 12/03/24 10:19
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


僕は直ぐにセキュリティの状態を調べた

厳重に整備されているように感じる……

そんなに簡単に破られるようなホールは見当たらない

むしろ破るのは
かなり困難だ

執拗に攻めてくることや
破りにくいところにわざわざ入り込もうとすることから

ただの悪戯やマニアの仕業ではない

ユウタ「……

内部の誰かが攻めてきていると思う……」

ケイイチ「そうか……

そんな気はしていたがな……

レン
そういうことだ

誰も信用はできない
覚悟しておけよ」

レン「……」

ケイイチ「ユウタ

今までは外からの攻撃から守ることに徹底してきた

敵は内部にいることを前提に
怪しいアクセスその他
洗い出せるか?

だがな、同時に外からの攻撃にも注意しろ

中ばかりに気を取られると
必ず見落とすからな

大丈夫か?」

ユウタ「分かった

とにかくやるよ!!」


No.285 12/03/25 11:19
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


何時間ここに座っているだろう……

常に動き続ける通信に
追いつくには限界がある

だが
後から後から追いつくだけで必死な作業を繰り返しているわけにはいかない

しかも
不審なアクセスは複数に及ぶ

発信元も
近距離、遠距離
両方に及んでいる

『社内からも外部からも……
一体どうなっているんだ!?
何かの組織も絡んでいるのかな……』

こんなことに時間を取られていては
通常の業務に支障が出てくる

それも狙いなのかもしれないが

だからと言って
通信を遮断するわけにもいかない

ケイイチさんも必死に対応している

僕は
手をキーボードとマウスから離すことなく
目も画面から離さず

ケイイチさんに声をかけた

ユウタ「ケイイチさん

今までケイイチさんひとりで
この作業をしていたんですか?」

ケイイチさんもまた
手はキーボードとマウス
目は画面を凝視しながら答えた

ケイイチ「そうだ

少し前までは
ひとりでもなんとかなった……

お前なら分かるだろ?
今はもう限界だ

オレは
レンのことが好きだ

勘違いすんなよ!
そっちの気は無い…!

レンという人間が好きなんだ
お前と一緒だ

だから
あいつのために
何とかしてやりたい

冷酷なレンも
お前とオレのことは
大切に思ってくれているはずだ

レン……
お前には話したのかな……

あいつさぁ……
『愛人の子』だろ

しかも
父ちゃんも母ちゃんも
早くに亡くなっている

だから

世間的には恵まれた環境にいたかもしれないが
幼少期は寂しい思いもしてきたし
今でも親族内に信頼出来る人間がいないんだろう

甘えることも
愛されることも
愛することも
出来ないんだろうな

あいつ孤独なんだよ
いつもひとりで戦っている
それが分かるからな……
見ていて放っておけないんだ

何とかしてやりたいんだ

おっと
オレがこんな話したなんて
あいつに言うなよ!!
また
締め上げられるからな!!」

と言いながら
ケイイチさんは笑った

『レン……

僕と一緒だったんだね……』


No.286 12/03/26 12:59
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「ケイイチさん……

ざっと見てきて

こちらには落ち度がないことが
よく分かります
これ以上のことを求めるのは酷だと思う


このまま受け身的な
この作業を続けていくことは
無駄ではないかもしれないけど
大変な労力がいる

反面得られる成果は少ない

思い切って

エサをまきませんか?

エサになるような情報を……」

ケイイチ「お前もそう思うか……

荒手だが
やってみる価値はある

相手の目的もわかるかもしれない

お前となら何とか対応も出来るしな」

レンに早速確認をとる

レンは黙って少し考えていた

そして……

レン「分かった

オレも腹くくる」と

僕は正直
『どうして?そこまで?』
と思った

レンには
既におおよそ検討がついていたようだ

そして
グループ解体の覚悟までを見据えていた


No.287 12/03/27 14:07
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


僕の提案は確かに
『荒い』かもしれない

だからと言って

『レンは大袈裟だな、腹くくる……なんて……』と事を軽く考えていた

だから

僕は

『子ども』なんだ……ね……

レンは

それだけ大きなものを

たったひとりで

背負ってきた

正直

今でも

分からないよ

本当に良かったのか……

僕は

一生

レンを越えることは

出来ない

レンも

ケイイチさんも

僕を決して責めなかった

むしろ
「ありがとう」
と言われ

それが

かえって

僕の心を

突き刺した

……

僕とケイイチさんは
仕掛けをした

数分後から
ネット内は乱れはじめ
みるみるうちに
パニック状態となる

予想以上に酷い

酷い内部分裂

味方など
一人もいない

もう
誰もが
それぞれ

孤独な戦士だったのだ

レン「こうなったのは

オレの責任だ

オレの存在が招いた結果だ

分かってはいたが……

覚悟が出来なかった

ユウタ

ありがとう」


No.288 12/03/28 14:20
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


男「失礼します!!
社長!!
大変なことになっています!!」

間もなくして

いかにも『社内で偉い人』『幹部』……
と思われる人が

厳しい表情で飛び込んできた

レン「分かっている

ちょうどいい

今から緊急役員会議を開く
役員を召集しろ」

男たち「一体どういうことなんですか!!」

男たちにどよめきが起こる

レン「全員集まったら話をする」

男たち「急に一体どうしたというのですか!!」

レン「急なことではない!!

いい加減にしろ!!

お前たちにも自覚はあるだろ!!

安住に溺れ

くだらないことでお互いがお互いの足を引っ張りあい

それぞれ自分のことばかり

まともな仕事をしている奴が一体どれだけいるんだ?

そんな仕事は仕事とは言えない!!

やるだけ無駄だ、無意味だ!!

もはや存在する意味がない

役に立たないことを続けるのは
社会を蝕む害虫と同じだ!!」

男たち「な、なんてことを……

落ち着いてください……」

レン「言った通りにしろ!!

早く役員連中を集めろ!!」

男たちは青ざめ
あたふたとし始めた


No.289 12/03/30 00:17
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


男たちは
ケイイチさんと僕を
睨み付け
部屋を出ていった

部屋の外は
バタバタと走る足音
時には罵声もとび
騒然としている

数時間前の静かな落ち着いたオフィスが
信じられないほどの混乱にみちていた

僕は自分のしたことに
ガクガクと震えた

ユウタ「レン!!レン!!

ぼ、僕は

なんて、なんてことをしてしまったんだ!!」

レンは

全く取り乱すこともなく

冷静に

レン「ユウタ

大丈夫だ

いづれこうなることは分かっていた

今までオレの腹が決まらなかっただけだ

決断する時が来たんだ

外部からつつかれたり
不祥事で
みっともない姿をさらしたり

情報の漏洩なんかで
関係のない人に迷惑をかけたりする前に

決断出来て良かったよ

ユウタ

ありがとうな」

ユウタ「レン……レン……」

レンは僕の髪をくしゃくしゃっとしながら
頭を撫でた

ケイイチさんは僕の肩をポンポンと軽く叩いた

ケイイチ「レン

腹決まったんなら
さっさと片づけて

パァーッと羽伸ばそうぜ!」


No.290 12/03/30 21:53
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


そして
緊急役員会議が開かれた

ケイイチさんと僕は
もちろん同席はしなかったが
近くの部屋で
レンの指示に従いシステムの対応に当たった

会議は相当荒れていることが
伝わってくる

僕は
そんな状況に動揺し
作業に集中できなかった

ケイイチさんは僕の動揺に見兼ねたのか

ケイイチ「ユウタ

落ち着け

と言っても
落ち着いていられないことは分かる

お前は賢いからな……

余計に事態の重さが理解出来るから
震えるんだろう

だかな



やるしかない

『あの日』

ギリギリの状況で
レンはお前を助けた

今度はお前がレンを助けるために
お前はここに来たんだぞ

レンのために

今すぐ

『強い大人』になれ

レンの指示通りに処理することで

レンと会社が
スキャンダルで社会の晒し者になるようなみっともない状況だけは
避けられる

レンは
亡くなった親父さんや今まで積み上げてきた沢山の人たちを思って

迷惑や被害がでないように
対応策を既に用意していた

お前とオレがやっていることが、それだ

ただ
のんびりはしていられない

時間が勝負だ

とにかく今は作業に集中しろ

それだけだ」

ケイイチさんに言われ
はっ、とする

そうだ

レンを助けるために
ここまで来たんだ

僕のちっぽけな思いなど
今は
必要ないし
役にも立たない

レンの重荷にはなりたくない

レンの力になりたい!!


No.291 12/03/31 22:15
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんの言葉で
僕の気持ちは切り替わった

全神経を集中させ

通常何時間……
いや何日もかかるであろう残務処理を
ひたすら処理し続ける

そして
ミスは許されない

たったひとつのミスが
たったひとつの情報のもれが
命取りに
なりかねない

『今』しかない

それら全てを
『今』やらなくてはならない

もう最初で最後

『後から』も『やり直し』も無い

……

そうしているうちに

『妙な』信号……?かアクセス……?に気づいた

全てが

その『妙な』信号の後に
『妙な』動きをし始めていたのだ

『何なんだ……?』

明らかに何か絡んでいる気がした

ユウタ「……ケイイチさん……

これ……

何か変だよね……」

ケイイチ「……」

ユウタ「ちょっと調べてみる」

ケイイチ「気を付けろよ」

僕のプライベート用のパソコンでアクセスしてみた


No.292 12/04/02 11:21
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『何なんだ!?これは!?』

アクセスを続けると反応はあるものの

開いても開いても
また扉がある

だが

逃げたり、はぐらかされたりしているようには見えず

厳重に閉ざされた扉を
ひとつひとつ鍵で開いて行くような

クイズ問題を解いて行くような

挑戦的な態度だった

『進んでいる』手応えはある

慎重にアクセスしながら進んでいった

ユウタ「な、何なんだ、これ!?」

ケイイチ「いきなりデカイ声だすな!!
マジでビビる

どうした!?」

(パソコンからのメッセージ)

『流石
ユウタさん

ここまで来ることが出来たとは大したものです

あなたがここに来た
ということは
おそらく
『その時』が来た
ということでしょう

レンさんも決断された
ということですね

皆様の新しい門出を祝福いたしましょう

……わたくしはテロリストや真の黒幕や根っからの悪党なんかではありません

ただ
皆様の幸せを願い

皆様の望みを叶える手助けをしたり、ヒントを与えただけです

寂しい主婦に甘い快楽を……
惨めな青年に夢の時間を……
孤独な大人にかけがえのない存在を……
愛に飢えた少女に深い愛を……
快楽でしか生きられない女に絶えない快楽を……
愛を知らない青年に本当の愛を……
血縁が全てだと思う少年に血縁だけが全てではないない事実を……
そして
地位と権力の魅力に取りつかれたレンさんの会社の人間たちに
地位や権力を手にするためのヒントを……

実際に行動し
行き着くところまで行ったのは
全て皆様自身の決断と行動によるものです

しかしながら
皆様の行動によって
実に面白い人間模様を見せていただきました
求めすぎて破滅する姿を……ね

ありがとう

さぁ、わたくしも十分楽しませていただき
そろそろ飽きてきたので

この辺りでお開きとしよう

それにしても
ユウタさん
君はなかなかの腕前だね

今まで何人か
ここへ来ようとしたが
残念な結果だった

ここまで迷うことなく
たどり着いたのは
君ひとりだったよ

若い君たちに幸あれ

幸運を祈るよ』

No.293 12/04/03 10:25
きる ( lbwJnb )

訂正

No.292

「~血縁だけが全てではないない事実を……」→
「~血縁だけが全てではない事実を……」

申し訳ありませんでした

初歩的なミスで雰囲気を壊してしまい
申し訳ありません

失礼いたしました



☆お知らせ☆

このあと、お話ひとつ進めさせていただきます

きる


No.294 12/04/03 11:14
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


不気味なメッセージに

僕はどうしたら良いのか分からない

ユウタ「……ケイイチさん

何なんだろう、これ……

どうしよう……」

ケイイチさんはメッセージを2、3回読み返し
黙っている

それから
少し考えて……
口を開いた

ケイイチ「悪趣味だな……

今のこの騒ぎも
レンの出生も……いや、その前からも
絡んでいる何かの存在があったのか……

まさか全部繋がっていたとはな……

だが
『こいつ』も言っているが

実際に動いたのは
全て本人の意志だ

どう動くか計算されていたにせよ

強制されたり脅されたりしたわけではないのなら
自己責任だ

今回のことで
レンは

自分の欲にまみれた人々ばかり集まりで
誰ひとり信用できず
仕事の機能を果たさなくなった組織のリセットに踏み切った

それは
『こいつ』の差し金がきっかけだったにしろ
そんなドロドロとした体制だったことは事実で

だからこそ
連中は『こいつ』の罠にかかった

そのドロドロした人の集まりで、ドロドロした体制が出来上がっていた事実に気づいたのは

レンの洞察力だ

その結果リセットに踏み切ったことも

レンの決断力と行動力だ

だから

今動いていることに関しては
『こいつ』は
関係無い

ということだ

ユウタ

今オレたちがしなければならないことは

レンの指示に従った
レンのサポートだ

お前もオレも
レンと利害だけで繋がっている安い関係じゃないだろ?

『こいつ』は後回しで
今はさっさと仕事片づけようぜ!!」


No.295 12/04/04 11:15
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンは組織の解体後の話を続けていた

いきなり身勝手な解体に踏み切り
関わっていた人たちに迷惑をかけるのは
あまりに大人気ない

その辺りに対しては義理堅く誠実なレンは
恩を仇でかえすようなことはしない

そのため
フォローや対応
大切なデータの扱いなど
話し合いは続いていた

だが
もともと身勝手な乱れた人間たち集まり

それを相手に話し合いがスムーズに進むわけは無い
難航していた

そのため
ケイイチさんと僕は
最悪の場合を想定し
全ての後始末に対応出来るよう
大切なデータにロックをかけ
とにかく外部の関係無い人たちに
火の粉がとぶことがないように
大きなスキャンダルにならないように
守ることに徹した

レンの最後の仕事になるかもしれない
おそらく
レンはこれを最後に
経済界から身を引く

せめてものはなむけに……

ケイイチ「よし
これで大丈夫だ!!

はぁぁ疲れたな

こんなに緊張と集中し続けたのも久しぶりだな

サンキュ、ユウタ

オレひとりだったら無理だった

やっぱりお前に頼んで良かったよ
お前とじゃなかったら
出来なかったよ」

僕は
言葉が出なかった

数時間のうちに
色んなことがありすぎて……
放心状態だった


……ケイイチさんと待ち合わせて……レンのオフィスに来て……セキュリティチェック……

そんなことが
わずか24時間くらいで行われ

24時間前と
24時間後で

レンと僕たちを取り巻く世界は
変わってしまった

そして
あれだ……

パソコンへ届いた不気味なメッセージ

レンに
メッセージのことは伝えていない


No.296 12/04/05 13:01
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


あの不気味なメッセージが事実なら

レンに助けてもらった僕のことも
仕組まれていたのか……?

でも僕は

どんな理由にせよ

レンが『あの日』来てくれなかったら
助けてくれなかったら

身も心も

死んでしまっていた

偶然も
必然も
計算も……

関係ない

そんなのでは計り知れない『レンの愛』が

僕を救ってくれた

仕組まれた相手によって
レンと僕が出会ったとしても

レンの考え方によっては

あっさり僕のことを切り捨てるという選択もあった

パソコンの相手が

善か悪か

光か闇か

今の僕には判断できない

ユウタ「……ケイイチさん

あのメッセージ

レンに伝えた方が良いのかな……

こんなことになって

レンにとって

良かったのかな……」

ケイイチ「どっちでも良いんじゃねぇの?

言いたきゃ言えば良いし
黙っていても良いし

どっちにしても
早かれ遅かれ
解体する組織だったことは間違いない

親族同士のドロドロが酷すぎて
発展の見込みも無かったからな

もともとオレは
レンの役職とか立場に釣られてアイツとつるんでいたわけじゃない
レンのことが単純に好きなんだよな

くどいようだが
『そっちの気』はねぇからな!
あはははっ!!


だから
アイツの立場がどうなっても
アイツはアイツだから
それで良いんだ

正直『金』にならなくても
もう、良いんだ

まっ、金はあったに越したことはねぇなからな

くれるなら
もらっておくけどな!

アイツ

そんなに

ちっちぇ奴じゃねぇよ

本音でぶつかってみたら良いんじゃねぇの?」


No.297 12/04/06 15:24
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ガチャ

ドアが開き
レンが入ってきた

ケイイチ「おぅ、お疲れ

こっちは完璧だ

ユウタのおかげだな」

レン「ありがとな
助かったよ

お前らが助けてくれなかったら
大変なことになっていた……
オレひとりきりじゃ
どうしようもなかった
これで
綺麗に幕が降ろせる

恩に着るよ」

ケイイチ「ああ、腹へった
レン
何か旨いもん食わせろ!!」

レン「何でも好きなもん食わせてやるよ!!

ユウタ、行こうぜ!!」

ユウタ「……」

レン「どうした?
腹減りすぎで
立てねぇのか?

うーん、背負ってやるには
ちょっと、でかくなりすぎて背負ってやんねぇな」

ケイイチさんは笑いながら

ケイイチ「オレ、先行ってるから」

と出て行った

ユウタ「……」

レン「どうしたんだよ……」

ユウタ「……レン

ちょっと
これ……

見てくれないかな……」

『このままじゃ駄目だ』

僕は

あの不気味なメッセージを
レンに見せた

レンの気持ちを
レンの本音を

知りたい


No.298 12/04/07 15:30
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンが
パソコンのメッセージを読み始めた

『レンは
どう思うのだろう……』

僕は
何とも言えない複雑な気持ちになり

俯いていた

一読するとレンは

レン「で?何?」

ユウタ「えっ!?だから……

僕は……

僕のしたことで

かえって……

レンに

迷惑をかけたんじゃないか……って……

僕のしたことが

正しかったのか、どうか分からない……

それに

『あの日』

レンは
僕なんかに……

僕なんかに
関わったりなんかさえしなければ

危ない目に遭うこともなく
こんなことにもならなかったかもしれない

でも僕は……

『あの日』

レンに会えなかったら
レンが助けてくれなかったら



ここには

いなかった

レン無くしては
僕は存在さえ出来なかった

僕にとって
レンは

本当のお父さんお母さん
いや
それ以上の存在なんだ

だから……

レン



こんな事実を知って

本当に

どうしたら良いのか

分からない」

身体が震えていた

レンは穏やかに言った

レン「なぁユウタ……

オレも同じようなこと考えていたのかもしれない……

『あの日』

まだ判断の出来ない子供だったお前を

オレが無理矢理連れ出そうとしなければ

『ユウタには違った幸せがあったのかもしれない』って

いつも自問自答してきた

だからかな

お前に嫌われないか
お前に責められないか
って

必死だった

連れ出してしまった以上

お前を守り抜く責任がある

必死だった

だから
納得のいかない仕事もこなしてきた

お前を守るために

仕事にはもともと疑問があった

生まれたときから
仕組まれていたしな

生まれたときから
敵の多い中を生きてきた

オレは正妻の子供ではなかったし
そもそも正妻も
とんだあばずれだったと
聞いている

オレを潰そうと企む奴は沢山いた

そんな中で生きてきて

ちょっとした出来事がきっかけで
『こいつ』だな(パソコンの主)……
お前に出会った

初めて会った時のお前の
子供とは思えない暗い雰囲気が

正直

不気味だった

言い方悪くてごめんな

だがな

『お前と逃げる』
と決めた時から

お前から陰湿な陰が消えた

だから

オレは間違っていなかった
と信じたい

オレの方だよ

お前に嫌われたくなくて

必死だったのは」

ユウタ「レン!!
僕は!!

本当に感謝している!!

レン!!

本当に本当に!!

ありがとう!!」

子供みたいに

泣いた

『あの日』の僕のように


No.299 12/04/08 17:26
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レン「ユウタ……
オレたちはさぁ

このイカれた奴(パソコンにメッセージを送ってきた相手)にとっての
良い餌食にすぎなかったのかもしれない

でも
オレは

何もしないまま
生まれた時からのレールに沿って
死ぬまで決まった通りをこなし
愛することも
愛されることも
知らないまま
人生を終わって行くことから
自分から抜け出すことが出来て
本当に良かったと思っている

予想外の展開に正直不安もあった
リスクもあった

だが
それ以上に

『オレ自身が知らないオレ』が分かった

あのまま動かなかったら
人間らしく生きられなかったかもしれない

この先
世の中が
どう変わって行くのか

目まぐるしく変化して行く中で
どう変わって行くのか

分からない

だからこそ

安住に甘んじることなく
柔軟に適応して行くことが不可欠だろう

伝統を守る重要性や使命もあるが

たまりすぎた膿は一度出してしまわなければ
再生も出来ない

オレの使命は
そこにあったのだ
と思っている

それに気付かせ
動かし
愛することで
愛されることを
教えてくれたのが

ユウタ
お前なんだよ

感謝しているのは
オレも同じだ

お前が
『あの日』を悔やまず
オレのことを嫌わずにいてくれたことが分かった

ありがとう

あと少し仕上げがある

まぁ見ててくれ

お前に恥ずかしくないように
カッコ良くきめるからさ

ケイイチも待っている

旨いもん
食いに行こうぜ!!」

ユウタ「……うん!!

レン……

カッコ良いよ!!」

子供みたいに泣きながら喋る僕を見て
レンは大笑いしていた


No.300 12/04/09 23:16
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


最後に

僕は

不気味なメッセージを送ってきた相手を

突き止めるべきか

もうこれ以上関わることは避けるべきか

迷っていた

もし
突き止めるのなら
迷っている時間など無い

ただ

僕自身は

レンとのわだかまりもとけ

大きな仕事に切りをつけた今……

正直

もう関わらなくても良いのではないか……

と思った

というより……

疲労もピークに達していたこともあり

判断もつかなければ
思考も停止……
というのが正しかったかもしれない

……それさえも見透かしていたのか……?

メールを受信

そこには

ただ

一言

『サヨナラ』

とだけ

あった

『当然もう間に合わない』
ということだ

急いでアクセスしてみたが

やはり

後の祭り

そうして

得たいのしれないその闇の存在は

スゥーッと……

闇の中へ消えて行った

それっきり何も

分からない

相手もかなりの技術者……

追跡されるような痕跡は残さなかった

その様子を見ていたレンは

レン「ユウタ

お前も、もう疲れただろ
オレもだ

もう、いいよ」

突き止めようとはしていなかったとはいえ……

僕は

ただ

呆然

としていた

No.301 12/04/11 05:22
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『……うん……?あぁ……部屋に戻ってきていたんだ……』

気が付くと

僕は自分の部屋のベットで眠っていた

どのくらい眠っていたのだろう……

『……あまりに短時間のうちに色んなことがあった……

頭の中が混乱したまま
レンと一緒に外に出て

レンとケイイチさんと……

えーっと……それから……

お酒も飲んでいたような気がする……

一体、今は、何月何日の何時なんだ?』

日付と時間を知りたくてテレビの電源を入れた

ユウタ「……あっ!!レン!!

レン

いつの間に……」

テレビの画面には

ビシッとスーツを着たレンが映った

記者会見だ

レンは

少なからず経済界に影響を与える事業のトップだった

マスコミに対し
冷静に対応するレンの姿があった


No.302 12/04/12 21:35
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


残務処理に追われていたレンにようやく会うことができたのは

あれから、しばらく経ってからだった

ユウタ「レン

会見、見たよ

僕には
まだまだ分からないことが多いけど……

けじめの付け方っていうか……
何となく
分かったような気がするよ

レン

カッコ良かったよ」

今のレンは

穏やかだ

『レンって、こんなに穏やかだったっけ……』

こんなレンを見たのは

初めてだった

『これが本当のレンだったんだね……

レン

今まで本当に

大変だったんだね』

ユウタ「レン

これから、どうするの?」

レン「……そうだな……

まだ、明確には言えないけどな

ただ

これからはさ

自分の為にだけ、利益の為にだけではなくて

誰か役に立ちたい……
っていうか

そんな仕事……
出来たら良いよな

柄にもないけどな!!」

ユウタ「柄にもないなんて
そんなことないよ!!

今のレン

前よりカッコ良いよ!!

僕さ……

僕にもさ

手伝わせてよ、仕事」

レン「いいのか?

今のオレ……

何にも無いよ……」

ユウタ「何言ってんだよ、レン!!

レンがいれば良いんだよ!!

一緒にやるために!!

僕は今まで頑張ってきたんだよ!!

それが夢だったんだよ!!」

ガチャ!!

ノックも無く
いきなり開くドアに驚くと

ケイイチさんが入ってきた

ケイイチ「お前ら熱いな!!

聞こえてたぜ!!

邪魔するぜ!!

オレも入れろ!!」

レン「お前いつも
いきなりだな!!

たち悪いぞ!!」

そう言いながら

レンは嬉しそうだった

『レン

僕たちきっと

良い仕事が出来るよ

楽しくなりそうだね』


No.303 12/04/14 01:27
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『情報を制するものが世の中を制する……』

確かにそれも一理はある

だが

情報は

あくまで

ツールの一種に過ぎないのではないか

情報に

溺れ

翻弄されることの

恐ろしさ

『情報を制する』間はいい

だが

逆に

『情報に制されたら』

最後

人生を

下手すると

命までを

制されてしまう

……

レンと僕は

誰かの情報の操作で出会った

レンとの出会いは

僕にとって

大きな恵みだったが……

あの不気味なパソコンからのメッセージを読む限り

決して『プラスばかり』とはいえないのではないか……

情報を握られたら最後……

自分自身を制し

正しく判断し行動しなければ

餌食となる

人の欲望は

残念ながら

限りない

だからこそ

罠を仕掛けられれば

残念ながら

引っ掛かる

僕は

これからは

レンと

ケイイチさんと

『情報を制する』

決して

『情報に制される』ことがないように

闇とは

戦って行くから

見てろよ


No.304 12/04/15 11:16
きる ( lbwJnb )

あとがき


『私は熱いのは苦手でね

下手に追跡されて
面倒に関わることは
性に合わない

だから

ほとぼりが冷めるまで
闇の中で休ませてもらうよ

そう

全て

君たちの欲望が
全ての展開を
生み出したのだよ
自分自身でね

私は
ヒントを与えたにすぎない
裁かれることもない

己の欲望によって
己が裁かれたにすぎない

人間の欲望に
限界はない

生きている限り
欲望に
苦しみ
求める

だから
隙をつく罠が張られる

必ず
罠に
かかる人間は
いるからね

また始めてみたくなったら
やってみるよ

欲望を弄ぶ

ゲームをね』



No.305 12/04/15 11:46
きる ( lbwJnb )

読んでくださいました皆様へ


本当にありがとうございました

誤字脱字、意味不明の文など……
読み返すほどに恥ずかしくなるような箇所も多々ある中

あたたかく見守っていただき

その上
更新をお待ちいただき

更に
励ましや応援までいただいて

本当に
ありがとうございました

嬉しかったです

知らない場所で
知らない人が
待っていてくださる……

考えるほどに
不思議で

思えば思うほど
嬉しいです

ありがとうございました

皆様がいてくださることが
『全て』でした

皆様がいてくださるから
ここまで来ることが出来ました

感謝の思いでいっぱいです

ありがとうございました

今後は『交流スレ』での予告通り、まずは途中書きになっているものを完成させます

大変恐縮ではございますが
タイトルを紹介させていただきます

『知られたくない秘密…』
バンドルネームは『怜』です

処女作で、更に、そそうやミスが目立ちますが

よろしければ

また、いらしてくださいませ

本当に
ここまで
ありがとうございました


No.306 12/04/15 23:38
きる ( lbwJnb )

お詫び


申し訳ありません

未完成の前作の続きを完成させようと、検索しましたところ

最終投稿が一年を経過した古いスレッドとなっており

閉鎖扱いで
投稿が出来ない状態になっておりました

大変申し訳ありません

結果
『知られたくない秘密…』は
やはり、このまま終わりにせざる得なくなりました

本当に申し訳ありません

無念です

約一年前
続きを投稿出来なくなりました時

せめてものお詫びと感謝の気持ちを込め

ここに表示は出来ませんが

パソコン対応のネット小説サイトに完結編を載せました

しかしながら……

ここで始めたお話を
ここで完結に出来なかったことは
改めてお詫び申し上げます
申し訳ありません

今後は
この件も『交流スレ』でお伝えしております通り
『闇のネット通販番外編』として
少しタイトルを変えたお話をスタートさせていただきたく存じます

よろしければ
また、おつきあいくださいませ

本当にそそっかしく
申し訳ありません

失礼いたしました

きる


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