色は匂えど 散りぬるを
ずっと 1人で生きてきた。
お愛想笑いは作っても、媚びは売らない。
少しずつ 老いていくだけの女に 優しい街なんかどこにもない。
世界は美しい。そして 世界は醜い。
着飾った孔雀のよいな女が ドアを開ける。
裸の王様たちが やってくる。
さぁ、虚構の時間の始まり。
酒も男も作り笑いも大嫌い。
でも これが私の生きる道。
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初めての投稿です。
間違えを修正しようとしたら 投稿してしまいました。
タイトルがすでに 間違ってます。
色は匂えど🍧色は匂へど です。
先が思いやられますが、ノンフィクションで 頑張っていきます。
よろしくお願い申しあげます。
この街を選んだのに 理由なんてない。
遠くへ行きたかった。
もっと遠くへ。
逃げたかった。
優しくて親切で お節介で押し付けがましい あの場所から。
どこでも良かった。
誰も私を知らないどこかへ ただ逃げたかった。
物心ついた時 何故か鍵盤を叩いていた。
モーツァルトもショパンも興味ない。
でも 弾かなくちゃ。
今度の ツェルニーに○を貰えなきゃ 叱られる…。
お習字なんて好きじゃない。
ちっとも楽しくない。
足がしびれちゃう。
正座なんて 大嫌い。
でも 書かなくちゃ…。
ママのため息 見たくない。
聞きたくない。
スイミングは大好きだよ。
とっても楽しい。
でも…、タイムがいまいちだからって、真剣にやってないって言わないで。
一生懸命やってるの。
ママに褒められたいの。
私が1番 速くなりたいの。
ホントだよ…。
そろばん3級 落ちてごめんなさい。
今度は 絶対受かるから。
ねぇ ママ。こっちを見て…。
どうして、美樹ちゃんと遊んじゃいけないの?
「親の言うことは聞きなさい!」って…。
「はい」って答えるしかなかったけど、とても とても悲しかったよ。
今なら分かる。
美樹ちゃんのお母さんは 夜のお仕事だったんだね。
お父さんがいなかったんだね。
それが、なんなんだよ。
くだらない。でも あの時代 それは少し特殊なことだった。
ねぇママ。
今、私は ママが見下してた 夜の商売をしているよ。
しかも、自分の店だよ。
テーブル席6つに、カウンター。
小さいけど、女の子を16人 使ってる。
いつの間にか 私がママって呼ばれてるよ。
県をあげての 陸上大会。
吹奏楽では フルート。
なんでも ほどほどに熟した。
だけど、他人より抜きん出るほど すごいものなんか 何1つなかった。
成績も中の上。
なにかも 納得のいかない母親…。
中学1年。秋。
父親の転勤で 中途半端な時期の転校となる。
東北地方から関西へ。
すぐに中間テスト。愕然とした。
教科書が違っていた。
今まで 授業を受けてきたことを こちらではこれからやる。
これから 学ぶはずのことは、すでに終わっていた。
散々なテスト結果。
特に数字は まるで分からない。
母が どんなに怒り狂っても 私には 成す術もない。
転校初日。 違うクラスの子たちも 休み時間のたびに 入れ替わり立ち替わり覗きに来る。
あからさまな値踏みだ。
「可愛いじゃん」
「え~ たいしたことないよ」
不躾な視線と言葉の中、机の前から動くことさえ出来ない。
転校は 初めてじゃない。
小学校も二回ほど 代わった。
大丈夫。初めだけ。こんなことは いつものこと。
すぐに馴染めるよ。
手を握りしめて じっと堪える。
「なぁ、前の学校はどんなん?」
クラスメートが 話しかけてくれる。
すごく嬉しい。
でも イントネーションが…。
転勤族の家庭のため、家では常に 標準語。
ひどい東北弁は無いはずだ。
でも 不安。
笑顔が引き攣る。
私は友達が欲しかった。
早く みんなと仲良しになりたかった。
学校帰り まだ不慣れな道を歩く。
「 家どの辺なん?」
そう 聞かれても 自分でも 良く分からない。
仕方なく 住所を答える。
「ほな、花ちゃんの家の方向じゃな。一緒に帰りゃええが」
花…?ちゃん…?
誰? ってか あなたも誰?
なにがなんだか 分からないうちに 私は花ちゃんと歩いていた。
花ちゃんは スラッと手足が長く 小さな丸い鼻がキュートな 明るい女の子だった。
「月ちゃん 前の学校では部活に入ってたん?」
当たり前に名前を呼んでくれる。
「うん。陸上部」
嬉しくって元気に答える。
「ほんま?うちも陸上部なんよ。今日は家の都合で休み。なぁ、こっちでも入るじゃろ?一緒に走ろ」
「うん。入るつもりだよ。お母さんに確認してみるね」
家に着くまでの間 楽しいひととき。
「ママ!私 また部活やりたい! いいでしょ?」
ただいまも言わずに 早速本題へ。
「部活動も大切ね。でも まだ慣れてないんだから、テストが終わってからにしなさい」
「は~い」
そして…。惨敗な結果に母は一言。
「勉強が追いつくまで 部活は無理ね」
ちゃんとやるから!ちゃんとやって みんなに追いつくから。だから部活もやらせて!
私は 出かかった言葉を飲み込み俯く。
母が右と言えば右なんだ。
お願いしたって どうせ聞いてはもらえない。
花ちゃんと一緒に走りたかった。
毎日 一緒に帰りたかった。
勉強するしかない。
頑張るしかない。
花ちゃんに聞いて 近くの塾を教えてもらう。
教会の牧師様が開いている英語塾と スパルタで有名な数字塾の二つに通うことになった。
「月ちゃんのお母さん、教育ママなん?」
花ちゃんが心配そうに聞く。
1番嫌な質問だった。
そうだけど、そうだって言いたくない。
優しい時だって いっぱいある。
月に2回の外食の時は オシャレをさせてくれる。
クリスマスや誕生日には、友達を呼んでパーティだってしてくれてた。
寒い夜には、布団の上から ぎゅって抱きしめて「月ちゃんの身体 あったまれ~」っておまじないもしてくれる。
そんな時は 私は世界中で1番幸せな子供だよ。
でも… でも…。
「お前んちの 母ちゃんスゲーな」
特に男の子から よく言われた言葉。
「この子は やれば出来るんです。ちゃんと指導して下さい」
母は目を吊り上げて 先生に言う。
大会なんかで 成績を出せない時には 耳を引っ張られて 叱られる。
みんな見てるよ。びっくりして…。
ママ やめて。ごめんなさい。今度は ちゃんとやるから。
「私の成績が悪すぎたから。追いついたら部活してもいいって。2年生になる時は 花ちゃんと毎日一緒だよ」
言ったことを守る為に 私は必死で勉強した。
数学塾の先生は 本当のホントに恐かった。
間違えると 容赦なく罵声が飛んでくる。
「ちばけな!あんごぅ!」
何? どんな意味?
わかんないけど 馬鹿って言われた?
ニュアンスは面白い。
その通りだった…(笑)
2年。クラス替え。
14組もある マンモス校。
奇跡的に 花ちゃんと同じE組。
晴れて 部活も許されて 私と花は 益々親密に。
塾を辞めることは許されなかった。
新たに家庭教師もつけられた。
でも平気。
仲良しの友達も増えて行く。
花は 気になる男の子の話を 口にする。
そーいえば、男の子のことなんか 考える暇もなかったな。
雨に濡れた紫陽花も満開の頃 私に初めての大事件が起きる。
「花ちゃん! ラブレター貰っちゃった」
「ほんまに? 誰なん?なんて?見して!すごーい!」
「よく知らない。隣のF組の子みたい。秋元君だって。知ってる?」
「えっ?あっきん?ほんま?あ~ そりゃ いけんわ…」
花は眉間にシワを寄せて腕組みをした。
「あっきんって呼ばれてるの?どうして、いけないの?」
「神崎の子じゃが」
はっ? 神崎?
「何?それ? どうゆう意味?」
「あんなぁ、あそこに住んどる人等とうちらでは 。全然違うんよ」
珍しく歯切れの悪い言い方で 床に目を落としている。
全く理解不能。
「ちゃんと説明して?」
「ん…。あれじゃよ。いわゆる士農工商の下の人達じゃけ」
はい? えっ? つまりそれは、差別ですか?
*神崎という地名は いい加減に私が付けたものです。 もし、該当する地名があれば、深くお詫び申し上げます。
それって 教科書の中の カビの生えた 大昔の出来事じゃないの?
今も そんな風潮が続いてるの?
マジで? 嘘でしょ? 本気で言ってんの?
「花ちゃん… それって納得いかない」
「なんで? 神崎の子等と付きおうたらいかんのは 常識じゃが。月ちゃんは余所から来たから 知らんのじゃろうけど、あいつら 気に入らんと総出で ワヤやりよるけぇ、えらい目にあった子がいっぱいおるんよ。みんな、学校では 普通にしとるけど、外では誰も遊ばんが」
そんな…。
「なんにしたっても 月ちゃんは あっきんのこと 今 初めて知ったんじゃけ、どうでもええが。ラブレター貰って いきなり好きになった訳じゃなかろ?」
そうだけど…。
全然 好きじゃない知らない人だけど、そんな話聞いたら気になるじゃん!
『走る姿が綺麗で ずっと見てました。笑顔が可愛くて いつの間にか好きになっていました』
生まれて初めて そんな風に言ってくれた男の子なんだよ…。
その日から 私の目は あっきんを追うようになった。
誰でも きっかけなんか 些細なことかもしれない。
好きってこととは 全然違う。
ただ自分に興味を持ってくれた人が どんな人なのか知りたかった。
長ランにボンタン。
今の時代からすれば 笑っちゃうね。
なるほど。あっきんは不良なのか。
ラブレターの真面目な雰囲気とは 全然違う訳だ。
いったい どっちがホントのあっきんかな…?
返事を下さいとは 書いてなかった。
だからと言う訳でもないが、返事をするなんて考えてもなかった。
ただ、ただ あっきんを観察する。
そんなある日、花と部活の帰り道。
路地からあっきんが ひょっこりと現れた。
「ひっ!」突然のことに 私と花は 素っ頓狂な声を出す。
「あっ… ごめんな。あの… 話があるんじゃけど、ちょっとええかな?」
私が何か言う前に 花がズイッと前に出た。
「なんなん?」
「わいが話したいんは 月ちゃんじゃ。おめぇは関係ないけぇ、のいてくれ」
「そうはいかんわ。月ちゃんはな、あっきんと話やこ ねーけーな」
花はまるでナイトみたいだ。
ホントは怖いのに 私の為に 精一杯強がってる。
私は なんだかとても 暖かな気持ちになった。
「あっ あの… あっきん…? あの、この間はお手紙ありがとう」
無茶苦茶 勇気を出して 私は二人の間に割り込んだ。
あっきんは 唇の片方をほんの少しあげて
「おぅ! 突然で悪かったな」
と、何故かエラソーに でも 少しハニカミながら言った。
「あんな、月ちゃんは わいのこと知らんじゃろ。じゃけー、知ってもらうんに デートの誘いに来たんじゃ」
へっ? デートとな…?
「あんた、何言おんね?」
花が叫ぶ。
「ずーずーしぃ男じゃの。なんで 月ちゃんが あんたとデートせな いけんの?」
あっきんは 目に見えて、しゅんと肩を落とした。
「やっぱ ダメかいの?」
「あっ!あのね。デートじゃなくて、みんなと遊びに行くのはどうかな?」
こんな風に提案した時点で 私はあっきんに逆に興味を示したんだと思う。
花は目を白黒させながらも この後の話に渋々承知してくれた。
月子 14才。男の子を交えた初めてのお出かけ。
「なぁ、どこ行くん?」
当日、男女四人で顔を合わせた後、花が不機嫌そうに聞く。
「外野は黙っとれ!今日は、わいと月ちゃんの初デートじゃ。お前はオマケじゃ」
映画にボーリング。
思ってたより ずっと ずっと楽しい1日だった。
花の家から たった5分の距離を あっきんが送ってくれた。
「月ちゃん、わいは神崎の人間じゃけ、みんなが どう噂しよるか、ほんまは よう知っとる。でも、月ちゃんが好きじゃ」
そして、私の言葉を聞かずに
「ほんな、今日はありがとな」
と言って 走って行ってしまった。
小さくなる 後ろ姿を 私は黙って見送った。
「あっきん 結構いい奴じゃね」
次の日の 花の言葉。
何故か 無性に嬉しかった。
「神崎の子じゃなけれゃぁな」
続く言葉にがっかり…。
やっぱ そこか…。
この日から あっきんは部活帰りの 私と花を2㍍ほど 距離を保ちながら 毎日送ってくれるようになった。
「なぁ、あっきん」
たまに 花が後ろを振り返って話しかけることもあったが 基本黙ってついてきた。
言葉を交わすのは 花がいなくなった5分間。
それでも 確実に私とあっきんの距離は縮んでいった。
主さん、今晩は。
このお話は、単純に慈母とも鬼母とも言い切れないお母さんとの関係の他に
同和問題などもリアルに描かれていて興味深いです。
他の読者の方々のためにも
感想スレを立てていただけませんか?
二人で遊びに行かないかと 何度か誘われたが、部活や塾で なにかと忙しい。
なにより、母の反応が怖い。
「ごめんね、うちの親 うるさくて」
なんだか 自分のいい子ちゃんぶりが ひどく恥ずかしくて 小さくなってしまう。
「月ちゃんは女の子じゃし、おかんは月ちゃんが よっぽど大事なんじゃな」
馬鹿にされるかと思ったのに、何故かあっきんは 少し誇らしげに言った。
「ありがとう」
「あ~? 何が?」
「ううん、なんとなく」
ちょっと 小さめなリーゼントが 少しだけ格好良く思えた。
夏休みに入ってからは 毎日デートした。
と、言っても 学校の近くの公園で、部活帰りに小1時間ほどの おしゃべり。
もちろん、花と3人で。
この頃 花はあっきんの神崎話を口にしなくなっていた。
蒸し暑い深夜、網戸のあちら側から 囁くような声がする。
「月ちゃん 月ちゃん」
驚く私に あっきんは
「なんとのぅ 会いたくてな、家だけでも見よう思うたら、明かりがついてるけぇ、ごめんな」と言葉を続けた。
今だったら ストーカーだよ!
「ママに見つかったら 殺されちゃうよ」
少し焦る私。
「そうか? ほんなら命懸けじゃのぉ」
二人で顔を合わせて クスクス笑う。
「こんな時間まで勉強か? わいなら気が狂うで」
「ううん、してる振り。ホントは こっそりラジオ聞いてた」
「なら、ジュース買いに行こか」
無理 無理 無理 ぜーったい無理!
夜中に 家を抜け出すなんて!
プルプル首を振る私に 窓の向こうから 手を差し延べる あっきん。
「靴無いし…」
「わいのを貸したる。わいは裸足で平気じゃけ」
意を決して あっきんの手を取った。
初めて触る 男の子の手は 思いがけず サラっとしてた。
近くの販売機で オレンジジュースを買う。
私は とても興奮してた。
「ねぇ、ママに内緒で こんなことするなんて 私 すっごい悪い子だよ」
はしゃぎまくって 話してるのに 返事がない。
「あっきん…? どうしたの?」
振り返ると あっきんは ハッとしたように顔をあげた。
「いや、影見とった」
「影?」
街灯に写し出された 二人の影が 大きく長く伸びている。
「ほら、こうして 影を重ねるとな、わしら 手を繋いどるみたいじゃろ。影が仲良う くっついとるなぁ思うて」
照れたように、はにかむ あっきん。
なんか ジンときた。
「ホントだ。仲良しだね…」
そこで 本当に手を繋いで… とは ならなかった。
影を重ねて 黙って歩いた。
それから 夜中にあっきんは ちょくちょく現れた。
もう 窓から抜け出すことはなかったが 窓越しにコソコソと話をする。
「月ちゃんは勉強が好きじゃのぉ」
「好きだったらいいんだけどね…。苦痛だから ちっとも覚えない」
「わいのように 投げ出さんけぇ 立派じゃよ」
「親が怖いだけだよ。ホントはやりたくない」
話してるうちに ジワッと涙が浮かんできた。
すると、
「ノート 1枚くれや」
と あっきんは手を出してきた。
正方形に紙を切って 何やら器用に折り紙を始める。
「出来上がり」
「紙風船だ!」
「それしか出来んけどな、小さい頃、よぅ、ばあちゃんが作ってくれようた。元気になるおまじないじゃよ」
それから あっきんは来るたびに 紙風船を1つずつ作ってくれるようになった。
秋の虫が涼しげな音色を奏でる頃、とうとう あっきんの夜の訪問は 母にバレることとなる。
私たちは 少し警戒心を怠っていたのだと思う。
そして、こんなことは、バレると相場は決まっているのだ…。
「おばさん、ごめんなさい。月ちゃんは悪くない。わいが勝手に来たんじゃ」
母に引っ張たかれる私を見て あっきんは 窓の向こうから上半身を乗り出して、ひたすら謝り続ける。
「あなたは とにかく帰りなさい!こんな時間に 家を抜け出すなんて なんて呆れた子なの!ご両親は知ってるの? あなたのような子は、2度と月子に近寄らないで!」
叱られるのは覚悟してた。
叱られるようなことをしたから。
でも どこでどう情報を仕入れて来たのか 次の日、母はあっきんの出生をとやかく言い出した。
「肌の色や 生まれた場所で 人を差別するのは 恥ずかしいことだって ママは言ってきたじゃない。なのに そこを言うなんておかしいよ!」
私は 抗議する。
「親に口答えするなんて、あの子の影響ね。あんな頭して 夜中に女の子の家に平気で来て、育ちが悪い子と付き合うとそうなるのよ。どんなところで 生まれても きちんとした子ならママは何も言いません!」
嘘こけよ!!
「あんな、不良に惑わされて あんたって子は!」
話なんて聞いてもらえない。
怒らす行為を 私は確かにした。
決して 褒められたことじゃない。
でも、あっきんはママが言うようなひどい子じゃない。
私が何か言えば言うほど、彼は悪い子に仕立てあげられていく。
「何かあってからじゃ遅いのよ!」
何かって なんですか?
「学校でも手を焼く 札付きのワルらしいじゃない!」
勝手に話作んなよ。
「もう あの子と関わるのは やめなさい!」
とても 優しかったんだよ。
ママは紙風船を作ってもらったことないくせに!
机の上の紙風船の数だけ、優しい人だって知らないくせに!
「あんな地区の子と噂にでもなったら みっともなくて、ママは外も歩けないわ。恥ずかしいマネはしないで頂戴」
クソばばぁ!
でも たかだか中坊の非力な私には 成す術もなかった。
学校でも 口を聞いてはならないと釘をさされ、そして私はそうしたのだ。
彼の方からも 近寄ってこなかった。
時折 廊下ですれ違うことはあっても 彼はチラリとも 私を見なかった。
花との帰り道。
「あんな、月ちゃん。あっきんな、自分のせいで 月ちゃんが よおけぇ叱られて 顔向け出来ん言いよったよ。なんかな、月ちゃんのお母さん、学校にも あんたらぁが近寄らんよう見張っとけみたいなこと、言ったみたいじゃな。もう絶対 月ちゃんに迷惑かけとうないって言いよった」
そうか…。学校にまで行ったのか。
「月ちゃんも可哀相じゃけど、あっきんも可哀相じゃな」
花ちゃんは そっと手を繋いでくれた。
そうして、私の淡い初恋は終わった。
そして、これを境に私と母の間には 大きくて暗い溝ができる。
私は 母に深い嫌悪感を抱いた。
体裁や偏見の塊が 偉そうに 頭から私を抑えつける。
こんな大人には 絶対ならない。
母のようにだけは なりたくない。
自分に固く誓った。
3年生になり、私の希望ではなく、母の希望した高校へ向けての受験勉強が始まる。
10月に入るとすぐに 思いがけないことを言い渡される。
「パパの転勤が決まったわ。3週間後 関東へ引っ越しよ」
「そんな…。私 こんな時期に転校したくない。こっちにいたい」
「わがまま言わないの。仕方ないでしょ。自分のものは自分で荷造りしなさいよ」
「受験なんだよ!ママが行けって言う高校に入る為に 私 一生懸命やってきたのに!」
「パパを一人にさせる気?家族は離れちゃいけないの。高校はどこにでもあるけど、家族は1つだけなんだから」
そうだけど…。
「私、友達とも離れたくない」
「高校に行けば みんなバラバラでしょ? 関東の高校で 新しく友達作れば いいじゃないの」
そうだけど…。
「ねぇ、お願い。ここにいたい」
「パパに単身しろって言うの?冷たい子ね」
なんで そうなるの?
私の気持ちなんて お構いなしのママの方が 冷たいじゃない。
だいたい パパなんて出張だらけで 家になんて ほとんどいないじゃん!
もう 決定事項だ。
何を言っても 無理だ。
私は一晩中 泣き続けた。
翌日 友達に引っ越しの件を話す。
「月ちゃん いなくなっちゃうん?」
「嫌じゃよ。なんとかならんの?」
ありがとう…。でも どうにもならないよ。
「せめて 今月末の球技大会は 一緒にやろうや」
「そうじゃよ、最後のイベントじゃけぇ、みんなで思い出作らにゃぁ。1週間だけ延ばしてもらお。みんなでお母さんに頼めば そのくらいなら 聞いてもらえるじゃろ」
母を良く知ってる花だけは、微妙な表情をした。
それでも みんなと一緒に来てくれた。
でも、やっぱりみんなの気持ちも 届かなかった。
母がなんて言ったか 覚えてない。
こんなに良い友達に恵まれて月子は幸せねとか、みんなの気持ちは嬉しいわとか そんな風なことだった気がする。
でも たった1週間の期間さえ、私の為には与えてもらえなかった。
悲しみと みんなの気持ちへの感謝が私の中で交差して 言葉もなく、ただ、うな垂れていた。
引っ越し当日。
日曜だった為 クラスメートや部活の友達が 見送りに来てくれた。
「元気でな」
「手紙書いてな」
「遊びに来てな」
1人 1人と言葉を交わす。
少し離れた場所に あっきんの姿を見つける。
来てくれたんだ。ありがとう。
そして、永久にさようなら。 心の中で呟く。
両親に促され、父の車に乗り込む。
ラジオから『さよなら模様』が流れていた。
♪だから、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、抱いてよ。
いつものさよならする時みたいに 抱きしめて。
たった一言で 別れ告げないで♪
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