先生迎えにきたよ…
これは自分が成人式目前の実話
小学校低学年の時母親の茶箪笥から自分が保育園児の頃の給食費袋にたくさんの色とりどりのハートマークと「みかせんせいだいすき」と、つたない字で書いてある文字
母親に訪ねると、「あんたそのみかせんせいが好きやったっちゃろ?」
みかせんせい?……あっ!
慌ててアルバムを開くが、彼女の姿はない。
それもそのはず彼女は実習生として2週間赴任してきただけだったのだ。
まぁその事実も後に分かったことなのだが…
新しいレスの受付は終了しました
会いに行こう
そう思ったのは成人式目前のある日。
大人を前にアルバムを見終わって、湧き上がる感情をおさえられなかった。
今となっては顔も思い出せない。名字も分からない。
ただ断片的な記憶の 合間にある先生との日々。
友達とのケンカを止めようとした先生に力を誇示しようとしてその友達をボコボコに殴ったこと
一緒に砂場で遊んだこと
そしてなによりラブレターをダしたこと
詳しく覚えてないが「だいすき。結婚して下さい」みたいなこと
その返事には「おおきくなって会いにきてくれたらね」的なことだった
自分もバカではない
その時のことを鵜呑みにして
「先生!迎えに来たよ!」
と、言うつもりもない。
そのことを母親に話すと
「あんたバカやないと?担任でもないのに覚えてるはずなかろーもん!
いったいどうやって探すつもりね!」
と一括
この話はすぐに家族中に知れ渡り
姉、妹からもバカ呼ばわりされた
当時飼ってた犬からも
「ば~か」
と、言われてるみたいだった
しかしそれが逆に自分のやる気を彷彿せた
「ぜってーあってやる!」
まずは通っていた保育園に電話した。
事情を話すと当時の園長先生はもう退職されており(あたり前か)改装もされ昔の名簿はないとのこと
市役所に行けばそういった記録があるかもしれないと言われた
一気にやる気がなくなった
まぁ15・6年も前なら無理もない話だ
一応お礼を言って電話を切ろうとしたその時
「そうだ。牧田先生(仮名)。牧田先生なら何か知ってるかもしれない。」
牧田先生とは古株の先生で、長くその保育園に勤務してたとのこと
その牧田先生にきいてみて後日連絡するとの内容だった。
後日との話だったがその日のうちに連絡がきた
話はとんとん拍子で進んで行き翌日保育園に向かうこととなった。
言われた通り身分証明書や当時の写真や品物を持って保育園に向かう。
牧田先生とも電話で話したのだがなんと自分のことを覚えていてくれた。
名前では思い出さなかったが牧田先生が持っていた写真を見て思い出してくれたという
当時の自分は凄く泣き虫で毎日のように目を腫らして帰って行った。
見かねた祖父が保育園に怒鳴りにきたこともありそれで覚えてくれていたということだった。
母親からは以前そのことを聞かされていた。
自分の過去の汚点がこんなとこで役に立つとは
苦笑しながら車を保育園へと走らせた
近くのコインパーキングに車を停め保育園の門の前に立った
「入っていいんかいな?」
少し躊躇しながら門を開く
日曜日であたり前だが園児の姿はない。
そのまま職員室に向かって行く。
「すみませーん!」
そう言おうとした瞬間、職員室からこちらを伺う顔があった
目があうやいなやその人は笑顔でかけつけ
「けーちゃん?(仮名)けーちゃんやろ?」
軽く「そうです」の会釈をした。
「まぁー懐かしいー!うん。面影がある!よか男になってからー」
「はぁ…」
「おばちゃん誰かわかるね?」
「牧田先生ですか?」
「そうたい!覚えとってくれたっちゃねー!嬉かー!」
もちろん覚えてたわけではないが自分を知ってるのは牧田先生しかいない。
しばし圧倒されながらも職員室にまぬかれた
驚いた!
牧田先生と現在の園長先生だけかと思っていたら、当時の先生数名に現在の先生数名。
合わせて十数名の人が自分の到着と同時にかんせいをあげたのである
何故現役の先生まで?
話を聴くと園児が昔の先生との約束を果たすべく嫁に貰いに行く
こんな話に興味深々といった…
まぁ言わば野次馬の皆さんだ
牧田先生と電話でちょっと話したのがすでに漏れてるようだった
しかもかなり美化されて…
「女性ってこんな話好きですよねぇ」
ちょっと皮肉めいた言葉も彼女達には通じないようだ
また昔、見覚えある面々に懐かしんで話もした
会話が一区切りしたとこで本題にはいる
「けーちゃんがくる前に調べてたんだけどね…」
牧田先生は袋の中から書類と一冊のアルバムを取り出した
「これは?」
「けーちゃんと電話で話したあと押し入れから引っ張り出してね
同時の資料はこれしかなったんだけど」
そう言いながらアルバムを開きとある写真を指差した
「同時やって来た実習生はこの2人なんだけど…」
その2人並んだ写真を眺めてみる
緊張してるのが写真を通しても感じとれるかのように2人とも表情がこわばっていた
「こっち…かなぁ…」
可愛い方を指差した
はっきり言って2人とも記憶にない
煮えきらない答えに隣のページを指差し
「じゃあこっちは?」
そこには園児達と戯れるスナップ写真
実習最終日なので思い出に撮った写真
正直…
その笑顔を見た時の衝撃は今でも覚えている
一瞬で当時にタイムスリップするかのような…
記憶の奥底に眠っていたものが目覚めたかのような…
ああ…
そう…
彼女こそ…
みかせんせい…
…
ちゃん
けーちゃん
「けーちゃん!」
ふっと我に返る
「どうしたとね?
ぼーっとして」
写真に見入ってニヤけてる自分に対し
クスクス…
と、笑い声が聞こえる
「んでどうすっとね?会いに行く?」
(まちっと余韻にひたらせろや!)とも思ったが
「そうですね。
会いたいです」
自分の正直な気持ちを口にした
すると一枚の紙切れを差し出す
かなり色ばんで折り目の角の方は破れており一目で年代物だとわかる
よく見ると
「教職員連絡表」
と、書かれていた
そこには多分ゴム印で押された先生方の名前と電話番号が示されており、その最後に当時実習生のみかせんせいの名前が手書きで書かれていた
「じゃあ今しなっせ!」
「…はあ?」
「今しなっせ!」
「今ですか?」
「こげんことは早かほうがよか!」
「今はちょっと…」と言うことばも、周りのヤレヤレコールに押し切られ渋々受話器を取った
(何て言おう…)
(不信がられるかな?)
不安で指が震えつつ、ゆっくり一つ一つプッシュボタンを押していく
プルルルル
心臓が高鳴る
プルルルル
落ち着かせるため深呼吸
ガチャ
「あっもしもし…。」
自宅までの道を車で帰っていた。
「今日はかなり体力を消耗したな。」
みかせんせい宅への電話には母親らしき人が出てた
みかせんせいはすでに嫁いでおり静岡に住んでいるとのこと
よほど不信に思われたのか住所はおろか電話番号すら教えてもらえなかった
娘(みかせんせい)にこのことを伝えこちらから連絡を入れるようにするとのこと
再会にはサプライズ的なことを考えていたがすべてパー
まぁ無理もあるまい
15・6年も前の赴任先の、しかも当時の園児が面会を求めたと言っても確かに眉唾もの
そうやすやすと信じてもらえなかった。
だが体力消耗の原因はそれではない。
その後の保母さん達とのよく言うガールズトークに巻き込まれたのだ
牧田先生には一応感謝している
ちょっとおせっかいすぎな面もあるが、彼女の協力なしではこんなに進展しなかっただろう。
本当に進展したのか?
一抹の不安を抱きながらも明日からまたはじまる日常の為ゆっくり休むことにした
その時の自分は飲食店で働いていて、帰宅時間は早番でも夜10時半頃
遅番だと深夜2時を回ることもあった。
先方から連絡があっても多分いない。
母親に自分の休日を教えてその日にかけてもらうよにとお願いした。
しかし本当に大丈夫だろうか?
ウチの母親はかなり抜けており、外から自宅に電話かけておきながら
「あんた今どこおると?」
と訪ねたり
野菜カレーを
「デジタルカレー」
と言うような奴だ
でもここは母親を信じるしかない。
ただひたすら来ないかもしれない連絡を待ち続けた
あれから一週間が過ぎた
が、何の連絡もない
最初3日ぐらいまではソワソワしてたが、一週間も連絡が来ないのをみるとさすがに諦めモードに入ってくる
牧田先生から一枚だけ頂いたみかせんせいの笑顔のスナップ写真
その笑顔を見るたび淡い恋心が蘇ってくる
ため息をつきながら新しく出来たシフト表を電話の横に貼り付けた
「ただいまーっと」
その日も仕事を終え帰宅したのは深夜2時を回る頃だった
いつも通りリビングへ向かうと置き手紙にきずいた
そこには
‘お仕事お疲れ様
今日佐々木さんから電話がありました
明後日の昼にまた電話するそうです,
佐々木?
そっか!みかせんせいは結婚したって言ってた
ということは佐々木は嫁ぎ先の名字だ
心が躍った
遂にたどり着いた
その夜は気持ちが高揚しなかなか寝付けない
何を話そうか
再会の時…など
様々なシュミレーションを頭の中で練り上げ寝付いたのは明け方
そして見事に仕事を寝坊してしまった
そしてついにみかせんせいから電話が来る日。
前日は2時帰宅で興奮してまた眠れなかった。
結局眠りについたのは明け方5時過ぎ!
だけど10時すぎには目が覚めた。
そわそわして熊みたいに家の中をうろちょろ。
部屋に戻り一服しては(未成年だろ!)またうろちょろ。
…
…
そして電話のベルがなる。
深呼吸して受話器を取った。
「もしもし…。」
「もしもし…、
あの…、佐々木と申しますが…。」
「はい…。」
「もしかして…、
けーちゃん?」
「はい…。」
最初は緊張のあまりほとんど話せなかったが、話していくにつれて多弁になっていく。
15分だろうか、
静岡と福岡、電話代も気になって終わったが、楽しい時間を過ごした。
両親からの連絡があったとき、始めはイタズラだと思ったこと。
もちろん自分のことは覚えていなかったが、気になって両親から当時のアルバムや思い出の品を送ってもらったこと。(2週間ほどかかったのはその為)
その中からなんと自分が書いたラブレターを見つけたこと。(これにはビックリ)
ただ…
最後に…
せんせいが病気だと知った…
この時は最後まで病名を明かしてくれなかった。
それが反対に不安を増幅させた。(それか恥ずかしい病気かも?と思ったが)
見舞いに行きたいと言うと、遠いからと断られ。
どうしても会いたいと言うと、理想が崩れるからと断られ。
ならばせめて写真を送って欲しいと言うと、なんとか了承してくれた。
そこで…。
こっちからも写真を送るからと言い、住所を教えてもらった。
本音としては、(これで会いに行ける!)と、内心してやったり。
さっそく店長にお願いし休みをもらった。
季節は12月の冬。
クリスマスムードが漂い始めていた。
なんとか無理言って2連休をもらった。
さっそく計画を立てる。
前日は深夜2時までだから出かけるのは早朝。
新幹線の予約、むこうに着いてからの交通手段、宿、滞在時間、帰りの時間、これらを2日でまとめようとするとかなりのハードスケジュール。
静岡に行ったことのある友達にも相談し、やっとのことで計画終了したのは出発前日だった。
そして当日…。
必要最低限の荷物と思い出の品。お金はかなり余裕を見て財布に入れ、いざ出発!
博多駅から新幹線に乗り、爆睡しながら静岡へと向かった。
(途中はしょって…)
ようやくせんせいの家に着いた。
時間は昼過ぎ。
緊張で2~3ど呼び鈴を押すのをためらったが、意を決して押す。
ピンポーン
返事はない…。
もう一度
ピンポーン
やはり、返事はない…。
…ヤバい…。
留守とは予想してなかった。
病気だと聞いていたので家にいるもんだと思っていた。
サプライズを要していったのがアダに…。
いきなり予定が狂った。
2日しかない時間なだけにかなり焦ってくる。
「と…、とりあえず少し時間を潰して後で来よう。」
(大丈夫、大丈夫。)と自分に言い聞かせたが、焦りはなくならない。
このまま会えずに福岡に帰ったとしたら、このことを知ってる奴等に絶対バカにされる。
1時間後再び訪れる。
しかし誰もいない。
その1時間後、
…やはりいない。
(ヤバいな…。)
そして…。
ピンポーン…
「は~い。」
ようやく人の声がした。
時間は6時を回っていた。
「はい。どちら様でしょ?」
出てきたのはみかせんせいではない。
白髪混じりのおばちゃんだった。
「あの~。突然すみません。
みかせんせいが福岡で保母なさってたころお世話になった○○と申しますが…。」
女性はすぐに「ああ~。」という顔をしてくれた。
どうやらみかせんせいが事前に話してくれていたようだ。
「ちょっと待ってね。
ゆうく~ん。」
(ゆうくん?みかせんせいじゃないの?)
なにやらボソボソ話し声が聞こえる。
そしていかつい男性が出てきた。
男性は笑顔で
「もしかしてけーちゃん?」
「はい。けーちゃんです。」
自分のマヌケな返答に笑い出す男性。
「上がり。」
そう言って手招きする。
「いえいえ。とんでもないです。ちょっとみかせんせいに会いに来ただけですから…。」
すると男性はちょっと間をおいて
「みかから何も聞いてないの?」
「あっ。病気だとはうかがったんですけど…。」
「そうね…。
とりあえず上がり!」
「あっ…はい…。」
この時点でちょっと嫌な予感がした。
部屋に通されとりあえず座る。
2人はみかせんせいの旦那さんとその母親。つまりお義母さんだ。
「わざわざ福岡からきたの?」
「はい…。」
「みかは知ってるんかな?」
「いえ…。驚かそうと思って…。」
「いつまでこっちおれるの?」
「明後日から仕事なので明日には帰ります。」
そんな話しをしていると、お義母さんがアルバムを持ってきた。
そこには自分の知らないみかせんせいがいた。
福岡にいた頃、結婚式、静岡に来てから、ページが進むにつれ会話もはずむ。
しかし突然、お義母さんが涙を流し口を押さえ部屋の外に出ていってしまった。
重い空気が流れた。
そして旦那さんが、“病気”について話しだした。
【白血病】
それがせんせいの体を蝕むヤツの正体だった。
その前に“急性”だか“骨髄性”だかついてたが、詳しく覚えていない。
発覚したのは一年くらい前。
それから様々な治療をしてきたが、どれもあまり効果がなかったらしい。
そして数ヶ月前…
余命を宣告された…
せんせい自身は余命宣告の事実を知らない。
だが、日に日に弱っていく自分の体に薄々感づいてきたのか、口数も減りふさぎ込むことが多かったらしい。
そこに両親からの電話に始まり、アルバムや宝物箱(園児達からの手紙や贈り物)を送ってもらってそれを見たり、先日の自分との電話。
少しずつ明るさが戻ってきたとのこと。
正直旦那さんがその話しを聞いたとき、自分を福岡から連れてこようか!とも思ってたみたいで、何度も何度も感謝された。
最後のほうは、旦那さんも溢れてる涙を我慢できなかった。
しばらくするとお義母さんが寿司をとってくれた。
断ろうかと思ったがせっかくとってもらったので頂くことにした。
正直、あんな話を聞いたあとでは食欲などない。
食事をすませ病院の場所を訊きおいとましようとすると泊まっていくように言われたが、宿をとってると嘘をつき丁重にお断りした。
その帰り際
旦那さんが、
「けーちゃんごめんね…。
ぬけがけした上に幸せにしてやれんで…」
「いえ…。」
そうとしか言えなかった。
それ以上口を開くと泣いてしまいそうで…
それからそのまま病院へと足を運んだ。
もちろん面会時間はとっくに過ぎていて入れるわけでもないが、病室の明かりを目でおっていた。
病室番号と窓の数を照らし合わせる。
「あそこかなぁ…。」
中の構造もわからないので確定はできない。
ただその時は早く会いたい気持ちで一杯だった。
ともかくせんせいの眠る病院に“おやすみ”をして、宿を探しに行った。
その日は近くのカプセルホテルに泊まった。
初めての体験で
(未成年はダメとか言われたらどうしょう…。)
と、心配してたがなんのことない、ラブホと変わらないシステム。
中に入り大幅に狂った予定の立て直しをして床に入った。
朝、モーニングコールで目が覚める。
昨夜もあまりねむれず寝不足気味だったが体は動いた。
朝食をすませ、花屋へ行き、病院へお見舞いに行く。
朝10時からの面会時間5分前には着いた。
急がないと帰りの新幹線の時間に間に合わないからだ。
病院にはギリギリ正午まで。
後は時間との戦いだった。
時計の針が10時を差しすぐに病室へと向かう。
ここに来るまで色々シュミレーションをし、第一声から様々な質問や会話の対応など練っていたので準備は完璧…。
のはずだったが病室の前で全てとんでしまった。
【佐々木 美香】
間違いない。
逸る気持ちと緊張を押さえドアをノックする。
「はい。」
「失礼します。」
ドアを開ける時には緊張しすぎて前を向けなかった。
「おはようございます。」
そう言って前を向く。
そこにみかせんせいがいた。
14年の時を越えてようやく会えた。
大好きだったせんせい…。
ずっと会いたかったせんせい…。
もう、会えないかもしれないせんせい…。
様々な感情が涙と共に溢れ出てくる。
だがみかせんせいはキョトンとしていた。
無理もないだろう。
見ず知らずの男が自分を見て泣いているなんて、今思うとさぞかし不気味だったに違いない。
深々とお辞儀をして話しかける。
「お久しぶりです。
みかせんせい。」
「どなた?」
そこで牧田先生から譲り受けた写真を見せ、
「先生が福岡で研修生の時お世話になった…。」
「え!?
もしかして…
けーちゃん…?」
みかせんせいは目を丸くして口に手をあてた。
「どうして…?」
「え?いつ来たの?」
「どうやってきたの?」
「なんでここが分かったの?」
「仕事は?親には言ってきたの?」
しばしせんせいの質問攻めが続いた。
それを一つ一つ答えていく。
ひと通りの質問がおわるとせんせいは
フゥー
と、息を吐き、のりだした体を再びベッドに戻す。
「けーちゃん…、もっと近くに来て。」
近づく自分にみかせんせいは手を差し出してきた。
それをすぐさま握り返す。
病室は個室だった。
腕には点滴。枕元には酸素マスク。
抗がん剤治療のせいか頭にはニット帽をかぶっており体全体がやせ細っている。
握った手も力を入れると壊れてしまいそうだ。
みかせんせいの病気の重さが、これらからも十分読みとれる。
せんせいが棚の上にあった箱から一枚の紙切れを差し出した。
「これ…、電話で言ってたけーちゃんからもらったラブレター。」
ちょっと間違えると破れてしまうほどボロボロになった紙切れを受け取り、そっと開いてみた。
そこには…
みか…せ…んせ…い…だ…い…すき…け…っ…こんし…て…く…だ…さい…
と、つたない字で書いてあり、周りにお決まりのハートマーク。
下には自分とみかせんせいだろうか、下手くそな絵が書いてある。
「なん?これ…。」
思わず吹き出してしまった。
つたない字というよりほとんど解読不能な文字。
色合いセンス0のハートマーク。
クレヨンで書いたため顔がつぶれてしまっている絵。
トドメはこの紙…。
広告の裏!?
俺、こんなんだったんだ…。
それからせんせいの馴れ初めの話しをした。
せんせいはあの後福岡の保育園に勤務して、友達の紹介である男性と付き合うことになった。
その彼氏の友達が今の旦那さん。
失恋して、励まされて、徐々に芽生えていく恋心を、せんせい也に乙女チックに話してくれた。
「こんなことなら最初っから病院の場所教えておけば良かった。」
「そうでしょ!」
「家には誰がいた?」
「最初お義母さんが出てきて、その後旦那さんが出て来ました。」
「何か話しした?」
「上がらせてもらってアルバムとか見せてもらいましたよ。」
「え~!ウソ!」
「せんせい可愛いかったですよ。」
「何か言ってなかった?」
「ええ…、まぁ…色々と…。」
「病気のこと聞いた?」
一瞬表情が凍りついた。
「…はい。」
「そっか…。
ごめんね…。
元気な姿で会ってあげれなくて…。」
その言葉にパッと上を向く。
下を向くと涙がこぼれそうだったからだ。
一呼吸おいて。
「だから治してください。
治して、今度はせんせいが福岡まで会いに来て下さい!」
せんせいは力無く笑う。
「そうだ!デートしましょう!」
「デート?」
「そうです。もちろん旦那さん公認で!
普通に待ち合わせして、食事して、どこか遊びに行くのもいい…。」
「…そうね。」
クスッと笑うせんせい。
「じゃあ…、はい!」
小指を突き出して
「約束!」
せんせいの小指が絡んでくる。
「ゆーびきーりげんまん…」
この約束は果たせないかもしれない…。
でも何かにすがっていたかった。
多分、せんせいも…
コンコン…、ガラララ。
不意にドアが開く。
「佐々木さん。
どうですか~?」
看護婦さんが自分に気づき軽くお辞儀をしながら近づいてきた。
「おっ、今日は若い子が来てますね~。」
せんせいが紹介がてら事情を説明する。
「えぇ~!じゃあわざわざ福岡から?」
まぁ…妥当なリアクションだろう。
自分で言うのも何だがこういうケースはかなり珍しいと思う。
「そのせいかしら今日は顔色がいいですね!」
「久しぶりに女に戻っちゃった。」
苦笑いをしてる自分に看護婦さんがこっちを向いて
「すみません…、ちょっと肌を出しますので…」
申し訳なさそうに言う。
「ああ、わかりました。」
そう言って病室を後にした。
チラッと時計を見ると10時半すぎ。
まだ帰るには早すぎる。
病室をでると中で笑い声が聞こえてくる。
…多分自分のことだろう…。
しばらくすると看護婦さんが病室から出てきた。
こっちを向き「終わりましたよ~。」と、満面の笑みで応える。
(なんだよ、その笑みは!)
軽く会釈しかえした。
再び病室に入って椅子に座るやいなや、
「けーちゃん彼女いるの?」
と、聞いてきた。
そういう話をしてたんだろうか、せんせいは目を輝かせている。
「え?いませんよ。」
「そっかー。じゃあ看護婦さん紹介してあげよっか?」
「せんせいからそんな話ききたくないなぁ…。」
「でも、幻滅しちゃったでしょ?
私こんなだし…。」
「だったら泣いたりしませんよ。」
「ごめ~ん。」
そう言いペロッと舌を出す。
その仕草が可愛いのなんのって…。
正直旦那さんに嫉妬した。
窓際には千羽鶴が折られている。
多分園児達が折ったのだろう、よがんだり不格好な鶴もあった。
「こっちでも、保母さん続けてたんですね。」
「ああ、それ?
入院してすぐにね。
大人なら二分もあれば折ってしまえるものでも、子供達にはちょっと難しいでしょ?鶴…。」
「はい。」
「そうやって一生懸命折ってる姿想像しただけでホント泣けてくる。」
しばらくその千羽鶴を見つめていた。
「この子達も、もう小学生かぁ…。
卒園式、出たかったなぁ…。」
せんせいには子供はいない。
作らなかったのか、作れなかったのかは分からない。
でも子供は好きだったようだ。
保母さんなら当たり前か…。
それからも沢山、沢山話しをした。
話しながらもせんせいの表情を観察する。
やっぱり笑顔が一番好きだ。
思いつく限りのバカ話をする。
せんせいが笑う度に自分も嬉しくなってきた。
そうしているとドアをノックする音が聞こえてきた。
お義母さんだ。
「昨日はありがとうございました。」
椅子から立ち上がり深々と礼をする。
「ああ、いいのよそのままで…。」
立ち退こうとする自分を手で制し、荷物を台へ置く。
何げなく見ていると同じ台に乗っていた時計に目が止まる。
11時50…。
もうこんな時間か…。
帰り仕度を始めた。
ふとバッグの中の使い捨てカメラを見つけた。
「そうだ!せんせい写真いいですか?」
せんせいはちょっと困った顔をしたが、
「ちょっと待って、口紅だけ差させて。」
と、化粧ポーチをガラガラさせていた。
「じゃあ、私が撮ってあげよっかね。」
お義母さんにカメラを渡す。
「口紅だけ。」と、言っていたが鏡を見ながらパタパタとファンデーションまでしだした。
普段なら男がイラッとする行動もその時は愛おしく思えた。
「はい、とるよ~。チーズ!」
写真を撮り終えると病室を後にした。
最後にせんせいの手をとり、
「約束、絶対忘れないで下さいよ!」
と、言うと
「うん、分かった。がんばる!」
と、笑顔で答えてくれた。
病室を出るまで何度も礼を言い手を降ってくれた。
それからバスに乗り込み駅へと急いだ。
さっきまで話してたせんせいの顔を思い出す。
その時は病気のショックよりも会えた喜びのほうが強く、本当に、本当に来て良かったという想いで一杯だった。
そのせいか、新幹線の中、福岡までの長い時間でもせんせいと次に会った時やデートの内容など、楽しい想像しかしてなかった。
博多駅から地下鉄、バスを乗り換えて自宅に着いた時は、もう日付が変わる頃になっていた。
「ただいま~。」
もちろん家族はみんな就寝中。
風呂に入り、ベッドに倒れ込む。
やはり体は疲れていたようで、すぐに意識がなくなっていった。
それからまた忙しい日常に戻る。
飲食店には盆も正月もない。
ただただ働いて、家と店とを往復する毎日が続いていく。
そんな中唯一の楽しみがやはりせんせいからの手紙だった。
正月には年賀状。
成人式に送った写真の感想。
何気ない日常を文にしたためたのもあった。
中には旦那さんからの手紙もあり、
『けーちゃんがお見舞いにきてからみかの病状に変化がおきた。
血液中の~の数値や~の数値が正常値に戻り、医者もビックリしているくらい。
ひょっとして本当に奇跡が起きるかもしれない!』
とあり、この手紙を見た時には心が踊った。
その最後に
『治ったらデートに連れて行ってやって下さい。
喜んでお貸しします。』
ともあった。
その後のせんせいからの手紙にも、
『最近調子がいい。』
『食欲も出てきて、笑えるようになった。』
『けーちゃんの御守りのおかげかな!』
と、書いてあった。
実は、初詣に行った際に御守りを購入し、せんせいに送っていた。
(大事に持ってくれてるんだ。)
それだけでも嬉しくなってくる。
たまにだが電話もあった。
もちろん長話は出来ないが、電話の向こうから聞こえてくるせんせいの声はいつも明るく、仕事の疲れを癒やしてくれる。
4月になり桜も散って葉桜に変わる頃、せんせいから手紙が届いた。
『今、病室から桜が見えます。
福岡では散ったころでしょうがこちらは今満開です。
そこでデートの行き先ですが、西公園に行きたいな。
福岡にいた頃、西公園の桜に感動したのを思い出しましたよ。
けーちゃんと手をつないで歩きたいです。』
と、書いてあった。
すぐに返事を書く。
『来年でもいい、再来年でもいい、じっくり治して桜の中を歩きましょう!』
正直、当時桜には興味などなかったが、せんせいと手をつないで桜の下を歩く。
想像しただけで顔がほころぶほど楽しみだった。
だけど…
その手紙を最後に、せんせいから便りが届くことはなかった…
手紙はだいたい2週間に1度、多い時には週に1度のペースで来ていた。
それが1ヶ月来なかった。
不安がよぎる…。
大丈夫…。経過は良好だって書いてあった。
そう自分に言い聞かせ、手紙を待つ日々が続いた。
季節は夏真っ盛り。
まだ手紙は来ない。
さすがに心配で手紙を書く。
『近況が分からず心配です。』
だが返事は来ない。
休みの日には1日中外を見つめ、郵便が届くとすぐさま確かめに玄関に走っていた。
たまらずせんせいの実家にも手紙を書いた。
季節は蝉の声もなくなり秋の足音が聞こえようとしていた。
そう何度も催促の手紙を出すわけにもいかない。
大丈夫…
何度自分に言い聞かせただろう…。
だが嫌な予感が頭から離れることはなかった。
その日も仕事を終え帰宅した。
この頃になるといちいち手紙を調べることもなくなっていた。
いつものように風呂に入り、2階へとのぼる。
部屋に入ると机の上に手紙がある。
もしや!
慌てて封を開け書かれている文字に目を通す。
鳥肌が立ち、血の気が引いていく…
手紙を握りしめたままその場に呆然と立ち尽くした…
それは…
せんせいの死亡通告書だった…
力なくベッドに座り込む…
不思議と涙は出なかった…
ある程度予想していたからか…?
現実を受け止められなかったからか…?
考えることもできなくなっていた…
脳が麻痺しているようにビリビリ痺れている…
ただ一点をみつめていた…
長い間そうしてたと思う…
気づけば夜が明けていた…
そして仕事に向かう。
いつも通り仕事をこなしていく。
ただ心と頭は空だったと思う。
そして仕事が終わる頃ようやく頭が動きだしたようだった。
そしてようやく理解した…
せんせいはもういない…
ようやく回りだした頭で改めて来た手紙を見る。
告別式は昨日ですでに終わっていた。
死亡時刻は4日前の午後3時
そこを見ると胸が痛み呼吸が苦しくなってくる。
(早いうちに行こう。)
なんとか連休がとれるように明日にでも店長と話をしようと決め床に着いた。
頭が回り始めたはずなのに…
『死亡』という文字に胸が痛むのに…
相変わらず涙は出てこない。
そもそも‘悲しい’という感情がその時は欠落していた。
そのせいか、前日寝てないこともありすぐに眠れた。
「はぁ?またか?
だいたい相手は人妻やろ?
行ってどうなる訳でもなかろーもん。」
店長には詳しく話してなかった。
下手に同情引くのも嫌だったし、言葉にするのが怖かったからかもしれない。
その時も言葉にできず『死亡通告書』を差し出した。
すると店長の顔色が変わり事務所に入って行く。
暫くして出てきた店長が手招きした。
「シフトの都合ついたから、今月は休め。
忌引きにしとくから…。」
自分は何も言えずにただ深々と頭を下げた。
仕事も終わり、帰るころ店長が一言
「今日、ゴメンな…。」
と詫びてくれた。
「いいえ…。」
それだけ言って車に乗り込む。
(別に謝ってもらわんでもよかとい…。)
次の日、早速静岡へ向かった。
今月いっぱいと言っても今日を含め3日。
もちろん前回とは180度気持ちが違う。
3日あれば充分だ。
ふと思った。
何故行くのか?
せんせいに会えないのに。
せんせいにお別れを言うため?
せんせいの遺影に手を合わせるため?
この半年間のせんせいを知るため?
答えは出なかった。
途中何度か引き返そうとも思った。
でも足はせんせいの元へと進んで行く。
帰り道では答えが出ているのだろうか?
分からない。
分からないけど、行かずにはいれなかった。
その日の夕方、せんせいの家に着いた。
中はシンと静まり返っている。
呼び鈴を押すのに躊躇していた。
(前回もそうだったな…。
成長してないな…オレ…。)
苦笑しながら呼び鈴を押す。
中からお義母さんが出てきた。
自分の姿を見るやいなやすぐに旦那さんを呼ぶ。
程なく旦那さんが出てきた。
深々とお辞儀をする。
旦那さんは小さく頷き手招きした。
何か前に会った時より小さく見えた。
家に上がると遺影の前に通される。
しばしその遺影をみつめていた…。
手を合わせ焼香を済ませる。
旦那さんが横に座り何通かの手紙を手渡した。
手紙には
『けーちゃんお元気ですか?』から始まり、日常の出来事や病状について書かれていた。
2通目の封を開ける。
『最近ちょっと思ったんだけど、もし私が独身でけーちゃんと再会してたら…なんて考える時があります。
(この話、旦那には内緒ね。)』
この頃はまだ元気だったんだ…。
そう思ったら不意に感情が揺らぐのを感じた。
そこで旦那さんが語りかける。
ちょうど4月頃お義母さんが怪我をして動けなくなった。
当時ホームヘルパーが普及しておらず、お義母さんの介護、せんせいのお見舞い、家事などを1人でこなしていた。
もちろん仕事もあるのでその時は本当に大変だったらしい。
そんな中、せんせいから頼まれた自分宛ての手紙もつい出しそびれていった。
「けーちゃんがお見舞いに来てくれてからはホントに見違えるほど元気になっていったんだけどねぇ…。」
そんな中、お義母さんの怪我に始まり、旦那さんも余裕がなくなってからはせんせいにあたることもあった。
せんせいもそんな旦那さんの姿を見て泣きながら謝ることもあり病状が悪くなっていった。
「それでもみかは頑張ってたよ!ホントに頑張ってた。
けーちゃんと約束したんだって…。」
悲しげに話す旦那さんの顔を見ると失ってた感情がますます揺れうごく。
そんな中一風変わった手紙を見つけた。
それは封筒に入っておらず紙がそのまま折られただけだった。
『けーちゃん…ゴメンね…約束…守れそうにない…がんばったんだけど…』
所々、文字が崩れて読むのに時間がかかり、しかも中途半端な終わり方。
「これは…?」
旦那さんに見せる。
「あぁ…、この頃みかもギリギリだったんじゃないかな…?」
「ギリギリ?」
「よくドラマで臨終のシーンとかあるけど、実際あんなに安らかに逝くことなんて殆どないよ…。
みかもそうだったけど、凄く苦しんでた。
呼吸器着けても息苦しくて、目は見開いたままで…
それがずっと続くんだよ。
もう見てられなかった。」
言葉の最後が詰まる。
「だから、そうなる前に書いたんじゃないかな…。」
「ぇえ!?」
思わず声が大きくなった。
せんせいの遺影を見る…
遺影の前には沢山の手紙が置かれていた。
園児か小学生の生徒だろうか、遺影の前や下に置いてある箱にも積もられていた。
こんなにも…、こんなにも沢山の人から愛されていたせんせい…。
そんなせんせいが最後に宛てた手紙が自分だった…。
そう思うと…
涙が溢れて…
溢れて…
溢れて…溢れて…溢れて…溢れて…
溢れて…
せんせいが亡くなって初めて泣いた…
声を上げて…
もうこのまま壊れてしまうんじゃないかというほど泣いた。
いや、壊れてた感情が元に戻ったんだろう。
せんせいとの思い出が次々に浮かぶ。
だが小さい頃の思い出などほとんどない。
あるのは再会した2時間のみ…。
たった2時間しかない!
これから増やしていくはずだったのに!
旦那さんが抱き寄せてくれた。
それでも止まらない。
せんせい…
せんせい。
せんせい!
どれほど泣いたか、そのまま倒れこむように眠ってしまっていた。
翌朝…
気づいたら布団に寝かされていた。
状況が掴めない。
辺りを見回し記憶を辿る。
(せんせいの家…か?)
とりあえず部屋をでた。
台所にはお義母さんがいた。
「あの~、すみません…。」
寝ぼけていたのか、とりあえず謝った。
「あら、起きたね?」
その言葉に旦那さんもヒョコッと顔をだす。
「おお…。オハヨー。
昨日はビックリしたよ。
最初救急車呼ぼうとしたけど、どうも寝てるだけみたいだったから…。」
言葉の途中で旦那さんがプッと吹き出す。
「にしても凄い顔やね、洗っておいで。」
お義母さんに連れられ洗面台へ。
そこで鏡を見た。
思わず吹き出してしまった。
「デメタンや…、デメタンがおる…。」
髪はボサボサ、目は充血し腫れ上がっている。
すぐにおいとましようと思ったが、こんなんじゃ外にでられない。
顔を洗って手で髪を整える。
暫く冷水で目を冷やしたが効果はない。
台所にもどる。
「お腹すいたやろ?
ご飯食べるね?」
「いえ…、大丈夫です。食欲ないんで…。
それより氷あります?」
「氷?」
「ちょっと目ぇ冷やしたいんで…。」
「ああ、それなら…。」
お義母さんは冷凍庫をガサゴソしだし、アイスノンを出してタオルでくるんで手渡してくれた。
(あぁ…気持ちいい…)
「けーちゃん、こっち座り。」
アイスノンをずらして見てみると、旦那さんが椅子を引いてくれていた。
そこに腰掛けようとした瞬間…
(そうだ、その前に…)
「ちょっとすみません…。」
アイスノンをテーブルの上に置いてせんせいの祭壇の前に座る。
「せんせい…。」
遺影のせんせいは笑っていた。
元気だった頃のせんせいだ…。
自分はこの頃のせんせいを知らない…。
暫く遺影を見つめる。
正直この時何を考えていたのか覚えていない。
というか何も考えてなかったと思う。
ただ、見ることができなかったせんせいの元気な姿をみつめていた…。
1時間ほど休ませてもらった。
その間お義母さんや旦那さんといろんな話をした。
合間合間に弔問客が訪れる。
目の腫れもだいぶひき弔問客も帰った頃、自分もおいとましようと考えた。
帰ると伝えた時、旦那さんからある部屋に通された。
そこはせんせいの部屋らしく服がかけられ小物が置かれている。
「みかの遺品なんやけど、何か貰ってやってくれんかな…。」
微かにいい匂いがする。
これがせんせいの匂いかな?
匂いの出どころを探した。
すると棚に置かれていたコロンを手に取る。
「あぁ、それはいつもみかがつけてたヤツだ。」
「これ…いいですか?
俺、せんせいの匂い知らないんですよ。」
「そっか…。っていうかけーちゃん匂いフェチ?」
「まぁ、ちょっと…。」
すると目の前に見覚えのある白い麦わら帽子が目に止まった。
「これ…。」
せんせいとは実質2時間しか会ってない。
それなのに何故見覚えがあるんだろうか?
「あ~、それか…」
ふと見ると旦那さんが苦笑している。
「それをかぶってるみかが1番好きでねぇ…。
だから遺影もその写真にしたんだよ。」
あっそうか。
それで見覚えがあったのか。
「見る目あるねぇ~お客さん。」
「あっいえ、いいです。
そんな大事なもの…。」
「いや、いいよ。
俺にはこっちがあるから。」
そう言うと机の上にあった青いキャップをかぶった。
「これ、俺と初めて会った時かぶって来た帽子。」
「それもいいなぁ…。」
自分の思いがけない言葉に旦那さんは大笑いした。
「けーちゃんとあってからのみかが、何で病状が良くなってきたのかわかった気がするよ。
けーちゃんは人を元気にさせる力がある。
実際、みかが死んでから今日初めて笑ったよ。
寝起きの顔といい、今といい…ね。」
嬉しい言葉に思わず涙を浮かべる。
「俺…そんないい人間じゃないっスよ。」
こぼれそうな涙を我慢するかのように歯を食いしばって答えた。
「俺もせんせいがなんで旦那さんを選んだか分かった気がします。
俺も旦那さんのこと好きだから。」
そう言うと旦那さんは苦笑しながら下を向く。
「泣かせること言うなよ。」
「お互い様です。」
「な~んしようとね。」
お義母さんが部屋に入って来た。
2人してコソコソ涙を拭く。
靴を履きせんせいの家を後にする。
右手に麦わら帽子、ナップサックの中にコロンと写真。
この写真は遺影と同じ物。
ネガがあるからと、旦那さんが持たせてくれた。
「けーちゃん、またおいで。
みかも喜ぶと思うから。」
「はい、また来ます。
お義母さんもお元気で!」
最後にガッチリと握手をして2人に見送られながら歩いていった。
帰りの新幹線の中、ナップサックを開ける。
コロンのいい香りがした。
写真を取り出し何度も眺めては、こぼれ落ちそうな涙をグッと我慢する。
何故もっと話さなかったんだろう…
何故もっと会いに行かなかったんだろう…
何故もっと早くに行動しなかったんだろう…
何故もっと…
今出てくるのは後悔と自責の念ばかりだ。
せんせい…
もっと…
もっと…
話したかった…
もっと…
もっと…
触れ合いたかった…
せんせい…
会いたいよ…
家に着くと、今まで抑えてた感情が爆発し…
また…
泣き崩れてしまった…
「せんせい、おはよ。」
部屋に飾った写真立て、それに寄り添うように置かれた麦わら帽子。
隣にはコロン。
今日も訪れる日常をただ生きて行く…
忙しい毎日がせんせいの【死】の悲しみを少しずつ溶かしていく…
そんな中…
ある日夢を見た…
石垣の階段を上り、その先には桜並木…
そこに1人の女性が立っていた…
女性はこちらを向き優しく微笑んでいる…
その女性に手を振り大声で叫んだ…
『せんせい、迎えに来たよ…』
そんな…
そんな…
悲しい夢だった…
完
- << 80 すごくすごく いいお話でした ハラハラと涙がまだ止まりません 先生の… けーちゃんの… 旦那さんの… お義母さんの… 一生懸命さが伝わってきます… 会いたいけど、会えないって辛いですね 私にもそんな人達がいます。 会いたいなって 思い浮かべるのは よく してもらった事ばかり… ホント 夢でもいいから出てきてって思ってます⭐ ミクルでこんなに泣いたの初めてです… まだ 涙が止まりません… 悲しいだけじゃなく 感動の涙でもあります ありがとです🌸 質問です みなさんの近況は教えて もらえますか❓
主です。
自分に起きた物語はこれで終了します。
最後まで読んで下さった皆さん、下手くそな文章で読みづらかったと思います。
本当にありがとうございました。
物語を書くに至って、はしょった部分がかなりありました。
例えば最初の保育園に向かってからせんせいの実家を突き止める場面。
実際はホントにホントに苦労しました。
いくつもの保育園を何度も回り、いろんな先生方の協力の元の成果だったんです。
5月のGW明けから10月末までかかりました。
でもそんなのダラダラ書きたくなかったし、書きたいのは別にあったので消去したんです。
これから先は質問、感想コーナーとして同スレに💬下さい。
プライバシーに引っかからない程度に答えていきます。
ではまた👋
けーちゃん、お疲れ様です。
めちゃくちゃ感動しました、泣けた~😭
文章から各人物や風景がすごく浮かんできましたよ。
ステキなお話をありがとう✨
- << 78 べっちゃさん 💬ありがとうございます。 本文でも書きましたが当時、せんせいの出せなかった手紙を見た時のあの悲しみは今でも忘れられません。 その悲しみをどう伝えればいいか? 実はこの小説を書くに至って最大の難関でした。 自分はその情景を体験してるのでどんな文章でも思い出して泣けてきます。 でも読者はそうはいかない。 んで出来たのがあの情景文でした。 100%満足とはいきませんでしたが、泣けた。と聞くと共感してくれたことに嬉しく思います。 (嬉しく思うという表現に不快に感じた方すみません💧 言葉が思いつきませんでした。)
>> 75
けーちゃん、お疲れ様です。
めちゃくちゃ感動しました、泣けた~😭
文章から各人物や風景がすごく浮かんできましたよ。
ステキなお話をあり…
べっちゃさん
💬ありがとうございます。
本文でも書きましたが当時、せんせいの出せなかった手紙を見た時のあの悲しみは今でも忘れられません。
その悲しみをどう伝えればいいか?
実はこの小説を書くに至って最大の難関でした。
自分はその情景を体験してるのでどんな文章でも思い出して泣けてきます。
でも読者はそうはいかない。
んで出来たのがあの情景文でした。
100%満足とはいきませんでしたが、泣けた。と聞くと共感してくれたことに嬉しく思います。
(嬉しく思うという表現に不快に感じた方すみません💧
言葉が思いつきませんでした。)
>> 68
「せんせい、おはよ。」
部屋に飾った写真立て、それに寄り添うように置かれた麦わら帽子。
隣にはコロン。
今日も訪れる日常をただ生き…
すごくすごく いいお話でした
ハラハラと涙がまだ止まりません
先生の…
けーちゃんの…
旦那さんの…
お義母さんの…
一生懸命さが伝わってきます…
会いたいけど、会えないって辛いですね
私にもそんな人達がいます。
会いたいなって 思い浮かべるのは
よく してもらった事ばかり…
ホント 夢でもいいから出てきてって思ってます⭐
ミクルでこんなに泣いたの初めてです…
まだ 涙が止まりません…
悲しいだけじゃなく
感動の涙でもあります
ありがとです🌸
質問です
みなさんの近況は教えて もらえますか❓
- << 84 Youさん とても嬉しい💬ありがとうございます。 今現在交流あるのは旦那さんだけですね。 お義母さんからそろそろ再婚をと、言われてるらしいですがまだ独身です。 自分も正直旦那さんには幸せになって欲しいからそう思ってるんですが、おがましくて言えません💧
同じく福岡出身の者です😃
読みながら「あれ?福岡の人やん😲✨」と状況がたくさん頭に浮かんできました。
幼稚園の頃とはいえ、こんなにこんなに想ってもらえたなんてみか先生は幸せですね☺
主さんの文章とても読みやすかったです。
また次はフィクションでいいので、作品を拝見出来ればいいなと思います。
福岡はここ最近暑くなりましたが、お身体に気を付けてお過ごしください。
ありがとうございました😊
- << 85 ママさん 梅雨明けしてから一気に暑くなりましたね。 まだ体がついていかずほとほと参ってます😥 次の作品、考えてなかったんですが、いろんな方の応援やメッセージを拝見すると、また書いてみようかな?と思ってます。 その時は宜しくですばい😁
まずはけーちゃん、とてもとても辛くて切ない想いを乗り越えて 今 しあわせなんですね😌よかった。
西公園に住んでいたことがあって、西公園の桜を知っているのでよけい切なかった。博多弁も。。
まるでドラマのように常に情景が目に浮かんでいました。ありがとうございました。
- << 86 たかなさんも福岡の方なんですね😃 あの次の桜の時期に、せんせいの写真を持って西公園に行きましたよ。 実はこの時が初来園でした。 せんせいが「感動した」って言うのがすぐに分かるほど綺麗で広大で素晴らしい場所でした。 帰りには長浜食べてきました😃🍜 でも最近マナーが悪い人が増えて、落書きやゴミの散乱が多くとても腹立たしいです!💢 自分も含め、この場所に思い出や思い入れがある方も沢山いるはずなので、綺麗なまま残していきたいですよね☝
ストレートな純粋な想いがとても伝わって来ました。読み終わり心が洗われるような清々しい気分になりました☺
きっと主様の彼女になられる方はこの想いを一緒に大切にしてくれる素敵な人が現れる(もう既にいるかな?)と思っております✨
自分も昔からケイちゃんとかおケイちゃんって呼ばれてたから何か照れ臭い感じで読んでました…
こんばんは😃
読ませていただきました。
切ないお話でしたけど、状況がすごく浮かんできて感動しました😢
私は今幼稚園教諭をしています(以前は保育士をしていました)
自分が実習していた頃を思い出しました(もう10年くらい前ですが…💦)
毎日慣れない環境と実習日誌に追われて大変でした😫
そんな中で、たった2~3週間しかいなかった自分を慕ってくれて覚えていてくれるなんて先生として担任を持った子ども以上に嬉しいと思います😃
みかせんせいも、そんな気分だったんじゃないかと想像します☺
同じ職種の人間として言わせてもらうなら、先生として(実習生時代も含め)関わった子どもたちはみんな幸せでいてほしいと思っています😊
どんなにヤンチャで手がかかったとしても😁
天国へ行かれたみかせんせいも主さんの幸せを祈っていると思います😊
私もみかせんせいのような先生になれるように頑張りたいと思いました😃
長々と失礼しました💦
ご家族と幸せにお過ごしください💕
主さん✨初めまして😊
あたしは静岡に住んでいます。
静岡も田舎ですがなかなか広いので探すのは苦労したでしょうね…😣
ホント感動しました😢
いつまでもみかせんせいを忘れずに奥様とお子様を大切にしてくださいね🎵
初めまして🍀
私も福岡に住んでます✨
主さんと同じ空を眺めて同じ街並みを見てるんですね⭐
もしかして福岡と言っても市内からだいぶ離れてますか??😺
娘が来年卒園します。
娘もみか先生のように素晴らしい先生方と出逢えてたら良いです❤
十何年たっても園児の事覚えてくれてるって.先生としては勿論みか先生が実に素晴らしい方だった事が伺えます🍀
本当に切なさが伝わりました😿
次のお話し楽しみに待っとくけん⭐
ピノコさん
💬ありがとうございます。
当時は早良区に住んでましたよ。
最近福岡はあっついですよね~💦
どこかでピノコさんとすれ違っているかもしれません。
そう考えるとなんか不思議な気持ちです。
⭐次回作ちょっと待っときんしゃい。
今、構想ば練りよるけんが…。
ばってんこげん暑かとなんも思い浮かばんとよ。😁
主さん素敵なお話ありがとうございました☺
つらかったですね。
でも、みか先生は、けーちゃんに再会出来てから、とても幸せだったと思います☺✨
私は数年前まで幼稚園で働いていました。関わったこども達、一人一人とても大切に思っています。 こども達からもらったお手紙やプレゼント、いまでも宝物です☺✨
そんな子が、大きくなって会いに来てくれるなんて、こんな嬉しい事はありません✨
みか先生の旦那さんの言うとおり、けーちゃんに、力をもらった人はたくさんいると思いますよ😊
思い出してつらくなる事もあると思います。
でも、後悔しないで、前を向いて頑張って下さいね😊
私もけーちゃんに元気もらいました✨
ありがとう☺✨
- << 117 カズミさん とても、とても嬉しい感想をありがとうございます😢 カズミさんも大切な宝物があるんですね。 大事に大事に持っていて下さい。 園児は好きでもない先生に手紙なんか書きませんよ。 カズミさんも園児達の心に残るいい先生だった証拠です。 これからも💪ってください。
けーちゃん、月並みな幸せが「幸せ」なのかもよ?
けーちゃんが幸せだと
みかせんせいも幸せだと思う。
けーちゃんに、そこまで想われた、みかせんせいが羨ましいです😆
けーちゃんは切なく苦しく、でも素敵な経験をしましたね😄
今は汚れていたとしても
みかせんせいとの思い出は美しいままですよ😌
感動しました。
けーちゃんの行動力すごいですね。
けーちゃんも、みかせんせいもご家族も、けーちゃんの周りの方々がみんな優しくて素敵でした。
お話の内容も、文章力も素晴らしいです。
この思い出、小説、主さんの大事な宝物ですね…
私にも、白血病で亡くなった友達います。
心配かけたくなかったみたいで、ごく親しい人以外には病名教えてくれなくて、お見舞いも行けず、たまにメールしましたが、亡くなる2ヶ月前に出したメールには返事が返って来なかったので、それきりになってしまった。
亡くなったあと、ご主人ともうまく連絡取り合えないで、遠方でもあり、縁が切れてしまいました。
ただ、人づてに「最期まで泣き言ひとつ言わなかった、強かった、病気になるまえにすごくいっぱい旅行したり楽しみまくってたから、太く短く幸せに人生終わらせたんだね」と伝え聞きました。
何も力になれなかった私の中では心残りがあるけど、彼女が幸せな人生だったなら…と納得するしかないです。
だから、けーちゃんとみかせんせいとご主人との交流は羨ましいです。
素晴らしい思い出を胸に、これからもお幸せに♪
長文失礼しました…
大人になるまでに 沢山の先生(保育園、幼稚園、学校に塾の先生)に巡り会いますよね。その中でも たった2週間しかいなかった先生が 記憶に残っていて しかも再会出来た事は 奇跡に近い事だと思います。亡くなられたのは非常に悲しいですが・・・。でも会えてよかったです。行動に移すのが 少し遅かったら 会えなかったかもしれないし。純粋な気持ちが 間に合わせてくれたんですね。これからも心のなかで大事な存在となるでしょう🎵
なんか うまく言えないけど 有難うございました。
はじめまして。レスとかスレとか未だによく判っていない掲示板初心者🔰ですが、今日一気に読ませていただきました。
病名を知った時は『まさかの展開』と思いましたが…😢😢😢
とてもいいお話を提供していただき、ありがとうございました。
そして一日も早く『白血病』や『癌』が『昔は不治の病だったんだぞ』って言える世界を…。医療関係者には頑張ってほしいものです。
主様もせんせいの想い出を、いつまでも大切にしてくださいね。
久しぶりに感動…😭そして切ない気持ちになりました😭
私も九州から静岡に移り住んでますが本当に遠いですよね💦
主サンの行動力すごいと思います😲
文章も凄く読みやすくて次々と頭の中に風景が浮かんできました😃
最後まで読みました💨
私も過去に最愛の子供を亡くしました⤵
私の人生は終わったと思った…💦
それももう17年前‼
人の『死』って周りの人の人生まで変えてしまうものですよね😫
けいちゃんの先生に会いに行った行動は素敵な事だと思います‼
その行動によって先生、旦那さん、お義母さん、そしてけいちゃんの人生にも影響があったんですから💡
私も前向きに生きる事が出来ています🌟
生きている人にしか味わえない感動をお互いに感じながら頑張りましょうね🎵
16歳 男です
今一気に読みました
久しぶりに泣きました
過去に色々あって、「もう自分は泣けない」って思ってました
でも今自分がまだ泣けるんだって思いました
けーちゃん本当に有り難う
知ってますか?
「その人にとっての一番悲しい思い出を誰かに聞かせたくなったとき、聞かせれるようになったとき、その人は笑える人になったんですよ」
保証します‼
けーちゃんは
一生涯笑ってすごせます
何様発言失礼しました。
けーちゃん
あまりにも一所懸命で泣いてしまいました。
みかせんせいは、けーちゃんに会えて、先生冥利につきる日々を過ごしたと思います。
旦那さんと連絡を取り続けているのも、旦那にとっても嬉しいことでしょう。
けーちゃんの幸せを陰ながらお祈りしています。
この小説を書き終えて1ヶ月。
未だに続く感想レスに只々感謝しております!🙏
1人1人にお返しレスしなくてはいけないと思ったのですが、同じ言葉の繰り返しでレスを埋めたくないので、ひとまとめに感謝のお返しレスとさせて頂きます💦
本当にありがとうございました!🙇
いい話でした…
こんな事もあるんだなぁ…と感じました。
自分に置き換えて考えても、主さんみたいに行動しないような気がします。
辛かったかもですが、逢えて本当に良かったですね。
感動しました。
いい話をありがとう。
泣きました。
私が26歳の時、3つ上の姉が病気で亡くなくなりました。
去年 私は息子を出産して、2人の小さな子供をおいて逝った お姉ちゃんは、どんなに無念だっただろうと、言葉に出来ない気持ちが溢れます。
逢いたいですよね。本当に逢いたい。触れたいし、声が聞きたい。私のお姉ちゃんも、笑顔が優しい 笑顔が一番いい顔でした。
今一気に読みました。
読み終えてから1時間はたちますが、色々な事を考え、涙が止まらず、レスしてしまいました。
最近、身近な大切な人を亡くしました。
悲しいのに、日常におわれ、泣けなかったのですが、気持ちがかぶる所が多々あり、大泣きしてしまいました。
明日からまた頑張れそうです。
とても純粋で素直なお話をありがとう✨
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
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