人間(架空)
人生 一人一人違いがあり、共感できる人生、できない人生色々あるだろう ただただ続いていく日々に絶望する時はもあるだろう 人は他人(ひと)、決して自分じゃあない、だから面白い 物語は一人の人間の何気ない日常から始まります (注この小説は一人よがりなものです、自己責任において読み、文句などを言わないようにお願い致します)
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俊男、またこんなところで寝て!
名前を呼ぶ声にぼんやり目を開けると、ノイズしか映っていないテレビ画面が目に入った。
控えめにカチコチ音を鳴らす物体に、まだ焦点の定まらない目を向けると午前3時を回っていた。
もう一度テレビに目を移すと
天皇崩御、新元号は?
などと煩く騒いでいたテレビ画面はやはりノイズしか映していない。
もう3時か
寝起きでぼんやりした頭で時間を思いだしながら、目の前の掘りゴタツに並んだウイスキーの空き瓶やポテチの袋を眺めた。
広も弘也もいつの間にか帰り、俺は一人で寝てしまっていたようだ。
幼なじみの広は酒が好きで、もうひとりのダチの弘也と酒盛りしようと誘ってくれた。
あの日から半年が過ぎ
100キロ近くあった俺の体重は75キロを割っていた。
そんな俺を気遣ってくれたのだろう、広は良い奴だった。
午前8時15分、自宅を飛び出し、カバンを前カゴに放り込んで、自転車を走らせる。
坂ばかりのせいで、通学は行き15分、帰り1時間だった。
氷点下の気温で体から一気に熱が奪われ、残っている酔いと眠気がぬけた。
大通りから、脇に入って200メートルほど進むと、高校の駐輪場が見えてくる。
自転車に乗った小柄な塩沢が声を掛けて来る。
今日何分だった?
毎朝の通学時間を言い合うのが日課だった。
俺は8キロ離れた自宅から13分程で通していた。
塩沢は自転車が好きで、10キロ離れた自宅から18分で通っていた。
俺は速く走ることが大好きで原チャリは小学生から乗っていた。
だから自転車は正直物足りなかったけど自転車を熱く語る塩沢が眩しくて、いつも話を合わせていた。
もうどうでもいい
正直なにも考えたくなかった。
俺が通う高校は、県内でも有数の進学校で、古臭い文武両道、質実剛健が気風だった。
正直旧くから続く因習はうざくて仕方がなかったが、他に行きたい高校もなかったから普通科があるこの高校を選んだ。
成績は中、赤点を取る時もあるがほぼ呼び出しを受けることはなかった。
教室に入り1限の授業を受ける。
この高校は生徒数1500人で1学年500人もいた。
見知った奴だけに挨拶をして、二階の教室にはいった。
かったりい
そんな思いしか思考は産み出さず授業は半分聞いてなかった。
2限が終わって休み時間、広が青い顔で教室に入って来た
広は保育園からの腐れ縁で、親同士も幼なじみだったらから多分物心がつくまえから一緒だった。
具合わるぅ、良く起きれたな
これだけの言葉を話すと広は机に突っ伏して、動かなくなった。
それは授業が始まっても同じで、教科書を立てて寝ていた。
斜め後ろからその姿を見ながら、昨日飲んだものを思い返した。
広が持って来たダルマ、家業の関係て弘也が持って来たワイン2本、俺が用意した40度の焼酎の原酒とビール6缶、つまみは金がないからスナック菓子類
3人であけるにはかなり多かったはずだけと、楽に全部空いていた。
まぁ当たり前か
広の具合悪そうな顔を思いだしながら、なぜ自分は具合が悪くならないのか半分不思議だった。
昼休み購買でパン1個と紙パックのジュースを買い、部活の教室に行った。
教室には同じ部の岡本がいたが、挨拶もしなかった。悪い奴じゃあないが馬が合わないという奴だ。
食欲は皆無、でも食べないと倒れるのが分かる程、俺の身体は弱っていた。
無理に菓子パンを口に入れてジュースで流し込んだ。
こんな生活が半年以上続いていた。
そう全てはあの日からだった。
なにするこのビクッ(女)!
俺は怒鳴った。
あはは、そんなスカしてるからじゃん。
宏美は笑いながら、グラスを置いた。
初めてだった。
身長185、体重100キロの俺にあからさまに喧嘩売って来た女は今までいなかった。
だから余計に腹がたった!
俺が立ち上がると、宏美は俺の手を握り笑った。
力じゃあかなわないに決まってる!
だから踊ろう?
最後まで一緒にいれたら、謝ったげる。
理不尽な話だった。
俺に踊れるわけがない!
助けを求めて先輩を探したが、女を引っ掛けられたのかフロアに姿はなかった。
ダイジョウブ。
フロアに立って何もできない俺に宏美は笑顔を見せた。
かっ可愛い。
先刻グラスの酒をかけられたことはすっかりとんで、俺を見る瞳から視線を反らすことが出来なかった。
20分程も踊れったたろうか、いつの間にかシンデレラタイム(チークのこと) に入って、宏美と身体をよせていた。
当然パラパラなんてまったく踊れず、盆踊りもかくやというステップを踏んだのに宏美は笑っていた。
い~じゃん、光栄におもいなよ。
(彼氏以外じゃ)あんたが初めてシンデレラ踊った相手だよ。
耳許で囁く声に、俺は完全にはまったことを自覚した。
普通酒をかけられた女に、惚れることがあるのかわからなかった。
でも、宏美に惚れたと自覚していた。
宏美は、頬にキスして俺と離れた。
そして
「ゴメン、半分八つ当たり」
と振り向きながら俺に謝って、そのまま階段を登って外に出て行った。
曲はとっくに終わっていたが、俺は先輩に呼ばれるまで階段をみつめていた。
俺は先輩に頼み込んでディスコに連れて行ってもらった。
メンバーに先輩の知り合いがいないときは金がないのでディスコには入れなかった。
ばかだなぁ、いつ来るかわからないのに
それでも会いたい気持ちをおさえられなかった。
1週間も経ったころ、宏美は現れた
えーこの前の後輩君?
その日は先輩の知り合いのメンバーが居なかったから俺は外の階段脇に座っていた。
どうしたの?中入らないの?
会いたくて、焦がれた人に会えたのに、言葉が出なかった。
どぎまぎしている俺に宏美は近づいて、人差し指で鼻の頭を弾いた。
後輩君!お詫びのキスで舞い上がったかな?
私に会いに来たの?
俺はただ頷くことしかできなかった。
10分後、俺は彼女のレビンの助手席に座っていた。
彼女は、俺を自分の車に連れていき助手席に座らせた。
この間の会話は、うれしさで飛んでしまい、何を喋ったか思い出せないけど凄く恥ずかしいことを話したような気がする。
俺の気持ちは、多分完全に見透かされていた。
名前は?
道が分からない俺は今どこを走っているのかわからずきょろきょろしていて、宏美の声を聞きのがした。
宏美は
名前はなんていうの?
と今度は大声で尋ねた。
俺は何故か気恥ずかしくなりぶっきらぼうに答えた。
ふーん、俊くんか、
で私とどうしたいの?
からかうように、顔を近づけた宏美は、俺の目を覗きこんだ。
車は夜景の綺麗な高台の駐車場にいつのまにか停まっていた。
完全に遊ばれている?
俺は、年上の宏美に遊ばれていると思ったが、精一杯の好きを込めて、キスをした。
唇を押し付けるだけの拙いキスだったが、宏美は嫌がらなかった。
キスの後
私恋人いるよ?
続けて、
ゴメン
という言葉と共に再び唇に暖かい感触があった。
宏美に送ってもらい、自宅に着いた。
有り難う。
宏美はそう言うと紙を手渡した。
私の電話番号だよ。
出ないかも知れないけど留守電にいれといてね。
私に会いたくなったらそこに電話して。もうディスコに行かなくて良いよ
言い終わると同時に、宏美はレビンを出し走り去った。
次の日は朝から、幸せのような不幸せのような耐え難い感情に支配されていた。
俺の気持ちは伝えた。 その事に満足していたが、恋人がいる
この言葉は半分絶望を与えてくれた。
広と弘也、それに後輩を呼んで、卓を囲んだが、気乗りしない俺は、弘也の大三元に振り込んだ。
はぁー
ため息しか出なかった。
調子が出ない俺に、広も弘也も容赦しなかった。
3回やって全部ラス(+_+)俺は神様の不公平を呪った。
夜になり、広達が帰るとやることがなくなって俺はコタツで寝転んだ。
机の上に置いてあったメモを見て、電話をかけるか悩んだ。
恋人が出たら、
ためらうには十分な理由だ。
高校1年に二十歳は大人すぎた。
どうせからかわれていると半分思いながらも、期待を棄てきれなかった。
2、3回の呼び出しの後、受話器がとられた。
ガチャ
その音に心臓が跳び跳ねた。
俊男ですけど、
消え失せそうな声で話すと、
只今留守にしております~
なんだ留守電かよ、緊張して損した。
家の番号を告げて、電話を切った。
やる事がなくなったので、俺は兄貴のツナギを着てそのままバイクに乗って峠に向かった。
古い年代物だったが、これで峠を走るのが好きだった。
家から片道30分、山頂からみる湖はきれいだった。これまで誰かに見せたいと思ったことはなかったが、初めて宏美に見せたいと感じた。
自宅に帰り兄貴にツナギとバイクを返すと、宏美から電話があったことを教えてくれた。
慌てて電話をかけると、受話器が上がり
ハイ、
という男の声が聞こえた。俺はスグに受話器を置いた。
翌日、サボりを決めて自宅で寝ていると、電話が鳴った。
寝ぼけた声で電話を取ると宏美からだった。
ひどいな、昨日電話かけてスグに切ったのはあなたでしょう?
もう大変だったよ
俺は謝りながら電話の相手のことを聞いた。
やっぱり恋人だった。
その日の夜9時過ぎに俺達は会う約束をした。
迎えに来た宏美のレビンに乗り込み、ドライブに出掛けた。
最初は気がつかなかったけど、宏美の左頬は頬骨のあたりがうっすらと腫れていた。
宏美にその事を尋ねると
あー良く見てるんだこのスケベ、そんなに私のことが好き?
とからかいながら真面目になって
あの電話で喧嘩になってね、司に殴られた。
でもほんと良く気付いたね
と教えてくれた。
そして、俺に彼女がいるか聞いて来た。
俺は勇気を振り絞って、宏美に彼女になって欲しいと頼んだが、
私なんかすぐおばちゃんになっちゃうよ。
気持ちはありがたいけどね!
とはぐらかされた。
適当な駐車場に車を停めて、缶コーヒーを飲みながら宏美は色々なことを教えてくれた。
スタンドでアルバイトしていること、アパートで一人で暮らしていること、家族はいるけどほとんど関わりがないこと、恋人になれなかった俺になんでこんなに良く話してくれたのかわからなかった。
そして、デジタルが
1:00
を指したころ、宏美は俺の目を見ていた。
唇に一瞬温もりが伝わった。
別れたの。
おばさんだよ?いいの?
答える代わりに思いっ切り宏美を抱き締めた。
何があったかは聞けなかった。
宏美の顔が間近にあった。もう一度宏美からキスされて、初めて実感が湧いた。
それから宏美は
俊男
と初めて名前を呼んだ。
背中に電気が走った。
宏美を抱き抱え、長いキスをした。
隣に車が停まり、顔を離すと唇をつなぐ糸がブレーキランプで赤く見えた。
宏美に背中を押され、ベッドまで行った。
宏美が入れてくれたココアは温かく、
ココアを飲むほどガキじゃあない
と言おうとした俺の背伸びをたしなめてくれた。
宏美も隣に座ってココアを飲みながらもう一度キスした。
好きな人の部屋は、飾り気がなく、女の子らしいとは言えなかった。
ふとベッドの宮に置かれた写真立てが気になった。
チーム旗をバックに、特攻服を来た男が10人位写っていた。
そして、真ん中に一人だけいる女は、宏美だった。
宏美は嬉しそうに、横に並んだ特攻隊長と書かれた特攻服を着た男に肩を抱かれていた。
俺の視線に気付いた宏美は、写真立てを閉めた。
司?
俺が問うと、宏美は頷いた。
今度写真撮りに行こう!
でもその前にあなたの写真欲しいな。
嫉妬心に苛まれているのを見透かして、宏美は俺の首に両手をかけぶらさがった。
また山猫の瞳が誘惑していた。
俺は中学2年の終わりに初体験はすませていた。
相手は当時憧れていた一つ年上の先輩だった。
先輩には彼氏がいたが、卒業式の後先輩に会いに行った時、卒業記念?だとか訳解らない理由で初体験した。
すごく嬉しくて、でも付き合わないよと言われた時には悲しかった。
先輩の友達から後で聞いたが、彼氏に振られた日らしかった。
それから少しトラウマになって、彼女が出来ても手は出していなかった。
山猫の瞳は揺れながら、キスをせがんだ。
宏美の体を抱き上げ、キスをした。
長いディープキスに、山猫の瞳が仔猫に変わっていた。
宏美は、ベッドに横たわった。
しかし昔のトラウマが俺を引き止めた。
その日はベッドで宏美を抱き締めたまま眠った。
翌朝俺はコーヒーの薫りで目覚めた。
左腕には宏美の重みが残っていた。
キッチンに目を向けると、宏美がコーヒーカップを2つトレーに載せているところだった。
目覚めた?
ごめん朝は食べないんだ。コーヒーで良い?
宏美の言葉に頷き、昨夜のことを思い出した。
彼氏でいいんだよな?
宏美に向かって呟いてみる。
宏美は俺の横に座って
後悔してももう遅いよ、逃がさないからね?
と冗談っぽく囁いて、頬にキスした。
その後、真剣な目で俺を見て
私、そんなに魅力ない?
と唇を尖らせた。
その仕草が可愛くて、抱き寄せてキスした。
焦ることないでしょ?俺とはすぐ終わるの?
と言うと、宏美に思い切り腕をつねられた。
幸せだった。
宏美に家まで送ってもらった。
完全に遅刻の時間だったからゆっくり着替えて学校に向かった。
家を出る時に丁度畑から母が戻ってきた
何処行ってたの俊男、お父さんカンカンよ。
口うるさい小言は聞きたくなかった。
俺は無視して、自転車に乗って学校に向かった。
広に声をかけながら、席についた。
昨日の司が気になっていた俺は写真のチーム名を思い出していた。
名前だけなら知っていたが詳しくは知らなかった。
先輩に話を聞いてが長州連合の1チームだったが、解散しつチームはもうなくなっていると教えてくれた。
広と弘也の家に寄って、夜9時過ぎに自宅に帰ると、玄関の土間に父が立っていた。
近づくといきなり殴られた。
家にいるのが嫌なら出ていけ。
親父の言葉に学ランのまま家を飛び出した。
自転車に乗って、そのまま駅に行き電車の時間を確認すると、学ランを脱いで下に着たトレーナー姿になった。
そして終電前の電車に乗って、K市に向かった。
行く宛はなかった。
K市に着いて、繁華街をぶらついた。
宏美に会ったディスコにも足を運んだが、学生ズボンでは入れてくれなかった。
何の力もない俺は、無性に宏美の声が聞きたかった。
手近な電話ボックスに入り、宏美の家に電話をかけた。
数瞬の間があって、宏美の声が聞こえた。
もしもし?
俺は泣き出しそうになり、声が出せなかった。
俊男?何かあったの、今何処?
息使いでわかったようだった。
いま出会ったディスコにいる。
それしか言えなかった。
そこにいて。
それだけ言うと、宏美は電話を切った。
宏美が来るまで、最低30分はかかるはずだった。
人が一人通るのがようやっとの路地裏を歩き、腕を駐車場のフェンスに掛けて寄り掛かった。
その駐車場は宏美がレビンを停めていた場所だから、ここに居れば宏美が来てくれると思った。
すると後ろの方から、何人かの声が聞こえ、あの独特の臭いがした。
勘弁してくれよ。
俺の後ろから手にビニール袋を持った男が声を掛けてきた。
兄ちゃん、真面目なコーコーセイは帰る時間だよ、だからお金はいらないよねぇ
正直腕っ節には自信があった。
相手はパン僧、居ても3人位までだろう。
逃げても良かったが、父に殴られていた事が好戦的にさせた。
うるせー触んじゃあねえよ!
振り向きざまにパン僧の手を裏拳で払いのけた。
すると奥から焦点が定まらない、虚ろな目をした男が3人出てきた。
しまった
予想より1人多い
後悔したが始めた喧嘩は止められなかった。
シンナーが効いて、痛みに鈍いのか、男達はなかなか倒れなかった。
それでも身に付いた柔道技と空手の蹴りで2人は動かなくなった。
横合いからスゥイングで殴り掛かってきた3人目を前で捌いて膝をみぞおちに叩き込んだとき、
ヤロー!
という声と同時に後頭部に衝撃があった。
痛いというより熱かった。そのまま前に倒れ、意識がボンヤリしたところを踏みつけられた。
意識が遠くなった時にクルマの止まる音が聞こえた。
ぼんやりとしていた視界が鮮明になった。
白い天井に見覚えはなく、俺は横を向いた。
痛っ
後頭部が痛んだが、すぐちかくに宏美の寝顔が見えて安心した。
見覚えがないと思った天井は、宏美の部屋だった。
上半身を起こすと部屋の角に、毛布に包って男が眠っていた。
気が付いたか?
毛布の男は、俺を見ながら立ち上がって、毛布を畳んだ。
四人相手に喧嘩売るとは、無茶な坊主だ。
怪我は大したことはなくて良かったな
それだけ言うと、畳んだ毛布を床に置き、そのままドアから出て行った。
そのツラは俺が一番見たくない男だった。
ドアが閉まる音で、宏美が目を覚ました。
俊男、大丈夫?
心配そうに覗きこむ瞳に、これ以上心配をかけたくなかった。
俺はベッドから起きると、宏美を抱き締めた。
ゴメン、助けてくれたの司なんだね?
俺の問いに宏美は頷いた。絶対に作りたくない借りを作ってしまったことに後悔した。
そして宏美は多分初めから起きていたと思いながらキスをした。
その日は一日宏美と一緒にいた。
近くの衣料品店で買ってきてくれた、下着とスウェットに着替え、二人きりでいろいろな事を話した。
そして初めて、宏美の手料理を食べた。
宏美の作った焼きそばは、特別な物は何も入っていなかったけど、美味かった。
夕方、宏美は
明日は仕事だけど今日も泊まって行く?
と言った。
宏美には父との一件を話してあったから帰りヅライと分かってのことだった。
うん、
曖昧に頷く俺の横に宏美は座った。
そして両手で俺の頬を挟み自分の方向に向け、真顔で
いつまでも居て良いけど、(父から)逃げないでね。
と言ってキスした。
翌朝、宏美に送ってもらい自宅に帰った。
宏美は昨日スタンドを無断欠勤していた。
宏美は明るく
なんとかなるよ、いつものことだから
と笑っていたが、俺のために休んでくれたことが嬉しくて、また申し訳なかった。
自宅に入ると父が待っていた。
学校はどうするつもりだ?
怒らないで尋ねてきた父に拍子抜けしたが、父自身昔は親と喧嘩ばかりしていたと聞いたことを思い出した。
きちんと話しをしなければいけない。
父に
彼女がいること、結婚を考えていること、養えるようになりたいと思っていること
全てを話した。
彼女は受けてくれたのか?
父の冷静な突っ込みに、俺はプロポーズすらしていないのに結婚のことを話していたことに気付かされた。
父は冷静だった。
学校は最低限卒業しろ、後はお前の好きにしていい。父がこんなに聞き分けが良いなんて思っていなかった。
学校に行って、夜宏美に会う。
そんな生活が始まった。
12月のテスト休みに、初めてアルバイトをした。
土木作業の現場はきつかったが、欲しい金額を貯めるには最適だった。
初めてのプレゼントは、小さな指輪だった。
クリスマスイブ
宏美のアパートで2人きり、手作りの小さなケーキにロウソクを立てた。
暗闇にロウソクの炎で照らされる宏美の顔は、可愛くて、5歳という歳の差を忘れさせた。
宏美の手を握って、プレゼントを手に握らせた。
宏美が包みを開け、箱を見たとき、明らかに顔が変わった。
俺は胸の鼓動が早まり、胸が苦しくなった。
だけど、勇気を出して言わなければならなかった。
指輪はそのために買ったのだから。
恐る恐るといった感じで、宏美が箱を開ける。
山猫の瞳が大きく見開かれた時、俺は精一杯の勇気で
学校出たら働くから、結婚して欲しい。
と言った。
高校生のおままごとと言われるのは分かっていたが、俺は真剣だった。
宏美は、何も言わす左手を出した。
宏美の指に指輪をはめるとありがとう。
と言って、抱きついてキスしてきた。
そして、目に涙を浮かべながら、俺が渡した箱より2回りも大きい箱を手渡してくれた。
箱を開けると
クロームシルバーに輝く腕輪
が入っていた。
貴方を逮捕します
宏美は笑いながら腕輪を俺の右腕につけた。
宏美の耳にはお揃いのピアスが光っていた。
2人で過ごす日々は、時には喧嘩もしたが、素敵で全てが輝いて見えた。
相変わらず無免許でバイクに乗り、宏美のアパートまで行って怒られもしたが、2人の仲は順調で毎日会っていた。
4月になり、もう少しでゴールデンウィークになるころ、俺は司から呼び出された。
宏美には嘘をついて、深夜約束の公園に行った。
公園には司があの写真の特攻服を着て一人で待っていた。
本当は以前助けて貰ったお礼を言いたかったが、司からは無言の圧力が発散されていて、話し出せる雰囲気ではなかった。
司は
俺とタイマンしろ、前のことはこれでチャラだ
と言った。
理由が分からず、俺は
あなたとやり合う理由はない。
と言ったが、司は近づいて俺の胸ぐらを掴んだ。
やらねーんならそれでもいい、こっちで勝手するだけだ!
司が吐き捨てるように言い終わるのと、鼻っ柱に痛みが走るのはほぼ同時だった。
一発頭突きを食らって、俺はキレた。
司の左頬に思いっきり拳を叩きつけた。
司は避けもせず俺の拳を受け、堪えた。
てめぇはかるいんだよ
司はそのまま、前蹴りを放ち、俺を吹き飛ばした。
2回、3回、司は俺の蹴りや拳を受けたが、怯まずやり返してきた。
体力でも腕力でも俺の方が上の筈なのに、ボコボコに殴られ俺は意識を失った。
「…相手になんてことすんのよ。」
「それは、あいつがお前を…」
「だからと言って子供相手にこんなことする理由になるの?」
朦朧としていた意識が、ゆっくり浮かび上がった。
そしてうまく開かない目をゆっくりと開いた。
「だから俺の女に戻れ、何も心配いらない。」
目を開けて最初に見たものは、宏美が司にキスされているところだった。
バチン
宏美は司の頬を思いっきりひっぱたいた。
俺が身動きしたのが見えたのか、俺が寝かされている公園のベンチに宏美は走ってきた。
まだ起きちゃダメだって
起き上がろうとする俺を宏美は止めようとしたが、俺は立ち上がった。
殴られ過ぎたのか、耳鳴りがして、足が地面をふみしめている感触が乏しかった。
「てりゅぇ、いとのおんにゃに」(てめぇ、ひとの女に)
殴られて、上手く口を聞けず、俺はようやくそれだけ喋った。
ガキはガキらしく、見合った女探せ、お前じゃあ宏美は守れない。
司はそれだけ言うと、車に乗って走り去った。
宏美は俺の脇で支えるようにしてくれていた。
俺は、タイマンで負けたこと、宏美がキスしたこと、そして何より意識が戻りかけの時に聞いた宏美が『子供』と呼んでいたことが頭の中で渦を巻き、宏美を見ることが出来なかった。
そのショックが心配そうに覗きこむ宏美に対し
帰ってくれ、一人にして欲しい。
という言葉を言わせた。
それでも宏美は、アパートに行こうと何度も言ったが、俺はそのことばを無視して乗ってきたバイクにノーヘルで乗った。
流れる涙は風圧のせいにして、家に帰った。
その日以来、宏美には会わなくなった。
宏美から何回も電話があり、折り返し架けて欲しいと伝言があった。
手紙も何通か来ていたが、封書で、開ける気にもならなかった。
宏美に裏切られた
その思いしかなく、本当に何が大切なのか解らなかった。
夜のツーリングはその距離を日に日に増やしていた。
全ての事が疎ましくなり、何をやっても面白くなかった。
あの夜、司にボコボコにされた夜から1月近くが過ぎていた。
深夜、バイクに乗って出掛けた俺は、雨に降られ、びしょ濡れになった。
どうせ濡れたなら、いつもの峠までいくのもおもしろいか。
俺はバイクを峠に向かわせた。
雨は容赦なく身体を叩く、峠に着いた時には、自分の身体が氷のように冷たく感じられた。
右腕に違和感を感じた俺は、自分の右腕に光る腕輪を見た。
あのクリスマス以来、片時も離したことのない腕輪だったが、うざったく思え、外した。
外した時に腕輪の内側にふれた指が違和感を感じた。
雨の降るなか、売店の街灯で違和感の元を探すと、
I LOVE YOU FOR EVER
H TO T
初めて気付く、彫り込みがそこにあった。
なんだよ、こんなもん!!
腕輪を地面に叩きつけた。
カーン、カラカラ
乾いた音を立て、腕輪は一度高く跳ねて、すぐに止まった。
左腕の腕時計を見ると午前1時を回っていた。
5月×日
腕時計のデイト部分を見て俺は、苦笑した。
今日、俺の誕生日じゃん、
17歳になったことを自覚した時 、何故か宏美の顔を無性に見たくなった。
俊男の誕生日は、仕事休むから一日中一緒にいようよ。
雨足はいつのまにか遅くなり、霧雨に煙るように見える湖に架かる大橋のライトが綺麗だった。
宏美と交わした約束が、俺の頑なな心の扉をこじ開けた。
宏美にこの景色を見せたい。宏美に会いたい。
腕輪を拾い上げ、電話ボックスに駆け込んだ。
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