人間(架空)

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桐生( Y1Ngi )
09/07/26 22:27(更新日時)

人生 一人一人違いがあり、共感できる人生、できない人生色々あるだろう ただただ続いていく日々に絶望する時はもあるだろう 人は他人(ひと)、決して自分じゃあない、だから面白い 物語は一人の人間の何気ない日常から始まります (注この小説は一人よがりなものです、自己責任において読み、文句などを言わないようにお願い致します)

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No.1159685 09/04/20 09:50(スレ作成日時)

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No.51 09/05/02 19:17
桐生 ( Y1Ngi )

特に意識しなくても指は宏美の家の電話番号を覚えていた。

2、3回のコールの後、受話器は上がった。

もしもし、

澄んだ宏美の声が聞こえ、初めて宏美の家に電話を架けた時のように俺は鼓動が早くなるのを感じた。

宏美

名前を呼ぶと、受話器の向こうで息を飲む気配がした。
お互い無言のままたっぷり、5秒は経った。

俊男、もう話せないかと思った。

宏美の声は涙声だった。

俺は宏美の顔を見て謝りたかった。

宏美、M峠に来て。
待ってる。

それだけ告げたところで、電話は通話時間超過で切れてしまった。

No.52 09/05/03 23:40
桐生 ( Y1Ngi )

宏美は来てくれるだろうか?

ずぶ濡れのまま待つ時間は予想以上に長く、売店の自販機にコインを入れて時季外れのココアを飲んだ。

甘くて暖かいココアの味に宏美の部屋に初めて行った日のことを思いだした。

宏美が来たらなんて言おうか?

宏美が来た時のことを考えている内に時間は過ぎていった。

手に持った缶はすっかり冷え、徐々に日本一の山に朝日が当たり出した。

振られたな。

湖に光が当たり出したとき、俺はバイクのエンジンに火を入れた。

No.53 09/05/04 00:03
桐生 ( Y1Ngi )

クシャン!!

自宅に帰り着くまでに、何回クシャミをしただろう、ツナギを脱いだ俺は、そのまま尻餅を突いた。

??力が入らない

目の前にあるハンガーにツナギをかけなければならないのに、立ち上がることが出来なかった。

次第に見ている部屋が左に傾きだし、立ち上がろうとした俺は、炬燵の上に倒れこんだ。
ガシャン

派手な音を立てて、炬燵が潰れた。

隣の部屋から兄が来たが、何を言っているのか解らなかった。

そのまま意識が遠退いた。

No.54 09/05/04 00:16
桐生 ( Y1Ngi )

宏美が笑っている。
追い掛けた俺は、足下にあった草につまづき、転んだ。

宏美は振り返り、俺の手を握って、起き上がらせてくれた。

そして俺にキスして振り返り、何かを大事そうに抱えて俺から離れた。

たちまち、宏美の笑顔は曇り、瞳からは雨が降りだした。

俺は宏美を抱きしめたかったが、闇に捕まり身動きができず、ただ見つめるしか出来なかった。
宏美の口はゆっくり動き、
サ、ヨ、ナ、ラ

と告げた。

視界の端から暗闇に溶けて行き、宏美の姿も闇に消えた。

No.55 09/05/04 00:50
桐生 ( Y1Ngi )

ゆっくりと浮かび上がるように、暗闇から光が戻ってきた。

目の前にある天井は、見慣れた花柄模様入りの化粧合板で、俺の部屋に間違いなかった。
起き上がろうとすると、額からタオルが落ち、右の二の腕に鈍痛が走った。

鈍痛が走った二の腕は、白い脱脂綿がテープで固定されていて、注射を打たれたことは間違いなかった。

身体中汗でびっしょりで気持ちが悪くて、タオルと着替えを取りに一階に降りた。

居間では母がテレビを見ていたが、俺の姿を見ると立ち上がり、頬を叩いた。

親に心配かけるのもいい加減におし。

母に手をあげられたのはこれが初めてだった。

母はすかさず額に手をあて
熱は下がったようだね。肺炎になりかけたから後一日は絶対安静だよ。

言い終わると、また座ってテレビを見だした。

心配かけてごめん。

素直に言えず、心の中で謝り、俺はそのまま着替えて部屋に戻った。

No.56 09/05/06 02:38
桐生 ( Y1Ngi )

翌朝、ベッドから起上がり居間に行った。

父と母はいなかった。
食欲はまったくなかったが、体力を付けるため電気ジャーからご飯をよそって食べた。

一時間ほども過ぎただろうか、普段ほとんど見ない新聞がその日に限って目についた。

広げて地方欄に目を通した。

No.57 09/05/06 02:54
桐生 ( Y1Ngi )

転落事故、死者1名

見出しの下に信じられない名前があった。

小田原宏美さん

俺は弾かれたように電話を手に取り、宏美に電話をかけた。

呼び出し音が鳴る

早く出てくれ、冗談だろう
受話器からは呼び出し音が鳴り続けるだけだった。

何回呼び出し音がなったか数えてなかったが、回数が増える度に新聞記事が俺の中で現実になって迫ってきた。

ガシャン

受話器を置いた俺は、ハンマーで頭を殴られたような目眩を感じたが不思議と涙は出なかった。

No.58 09/05/08 07:06
桐生 ( Y1Ngi )

頭が混乱して、何をやったのかわからなかった。

右手首辺りが熱くなり、次第に心臓が刻むリズムに合わせて疼いた。
気がついたら居間のサッシガラスが割れていて、右手首辺りがざっくり切れていた。

その痛みで少し冷静さを取り戻せた。

No.59 09/05/10 22:36
桐生 ( Y1Ngi )

親が帰って来る前に、手当てをしなければならなかった。

右手首の切り傷からは血が滴り落ち、畳に吸い込まれていた。

救急箱を出して、簡単な消毒をして、ガーゼを傷口に被せ包帯を巻いた。

簡単な作業の筈だが、利き手がつかえないだけで時間がかかった。
頭にはなぜ電話で謝って置かなかったのか、なんであの日に限って峠に呼び出したのか、自分を責める言葉が考えれば考えるほど浮かんでは消えた。

そして宏美の笑顔が俺の名前を呼び、そして離れて行くビジョンが浮かんでは消えて、辛かった。

No.60 09/05/10 22:59
桐生 ( Y1Ngi )

血だらけの畳を雑巾で拭い、そのまま自分の部屋へ戻った。

ドアを開け、部屋に入りベッドに横たわる。

なんで涙がでない?


自分が泣いていないことに気付き、恋人が死んだのに泣いていない自分が薄情な人間に思え、嫌になった。
胸が苦しくて悲しくて、自分が原因で宏美が死んだことに腹を立てていたのに、涙は出て来なかった。

昼には母が戻ったが、居間のガラスを割った理由は目眩で倒れた拍子に割ったことにした。

ただベッドに座ったまま時間が過ぎ、西の窓から入る光はオレンジ色になっていた。

No.61 09/05/16 08:33
桐生 ( Y1Ngi )

夕闇に包まれた頃、パニックに陥っていた心が少しだけ落ち着いた。

司に連絡を

宏美の家についてあまりに知らなすぎ、家の連絡先も運ばれた病院も分からない俺は、司に頼ることにした。

タイマンの時に教わった連絡先に電話を架けると、すぐに司の落ち着いた声が聞こえた。

No.62 09/05/16 08:50
桐生 ( Y1Ngi )

司は俺から電話が架かってくることがわかっていたようだった。
受話器の向こう側にある、圧倒的な怒りは感じられたが、その口調は平静だった。

葬式は甲府に住む親族だけでやるようだ墓は知らん。アパートは来週には引き払う。
もう、会うことは出来ないしアパートに行くだけ無駄だ。
俺にはこれ以上お前と話すことはない、2度と姿を見せるな。

司はそれだけ言うと、勝手に受話器を置いた。

目の前がグンニャリ歪み、足元から力が抜けた。
子機を置いてベッドに横たわると、意識が遠退いた。

No.63 09/05/17 18:40
桐生 ( Y1Ngi )

俺は、ふと机の上の雑多になメモに混じっておかれていた、宏美からの手紙を見た。

5通の内、消印の古いものから見出した。

中には、子供と言ったことを謝る文と、とにかく直接会って話がしたいと書いてあった。

4通目まで同じで、5通目は青色の便箋が2枚入っていた。

俊夫、子供と言ったこと、本当にごめんなさい。
謝って済むとは思っていない。
でもとにかく、私に会って欲しい。
どうしても貴方に話さなければならないことがあるの。

私の中に命が生まれたの。だからこの手紙を読んだら、すぐに私と会って。

私は生みたいの、

男の子だったら、
洸(あきら)
女の子だったら
瑞季
とつけるつもり、早くしないと勝手に決めちゃうから。

だから早くお願い。


手に持った便箋の文字が、落下した光で溶けて滲んだ。

俺は号泣した。

No.64 09/05/17 19:57
桐生 ( Y1Ngi )

結局、翌朝熱が下がった俺は宏美のアパートに行ったが誰も居ず、警察に行っても、親族の連絡先は教えて貰えず家はわからずじまいだった。




それからだった、何を見ても景色は灰色で、意味を持たなくなったのは、、、

No.65 09/05/17 20:36
桐生 ( Y1Ngi )

あの日から俺は痩せ続けた。
最愛の人と子供を同時に、しかも自分の馬鹿で亡くした衝撃は、俺の心を打ちのめし、最低限の食べ物以外一切受け付けず吐く身体に変えた。

夏休みが終わった時には、あまりの激やせぶりに担任に呼び出され、シャブでもやっていないかと疑われた。

体重は益々落ち、次第に頭痛と目眩が1日中止まらなくなった。

このままじゃ、死ぬかな、そう思いながらもどうでも良かった。



第1部

No.66 09/05/23 06:23
桐生 ( Y1Ngi )

人間、第2部
『分身』

高校3年4月、俺の体重は72キロまで減っていた。
不思議なもので、あまり食べなくてもそれ以上体重は落ちなかった。

まるで土のような顔色と、ひきつった作り笑いがいつしか俺のトレードマークになっていた。

心から笑うことが出来ない。

虚無感、焦燥感に駆られることがしばしばあった。

そんなとき、あいつに出会った。

No.67 09/05/23 15:23
桐生 ( Y1Ngi )

俊男くんってあなた?

全校集会の帰り、名前を呼び止められた。

声を掛けてきたのは背の低めな見知らぬ女子だった。

範子から聞いていたけど、本当に背が高いね。
私は4組の河原律子、範子の友達、よろしくね。

範子は俺の中学時代に仲が良かった女子で隣の女子高に通っていた。

No.68 09/05/23 18:58
桐生 ( Y1Ngi )

夜、久し振りに範子に電話を架けると、

聞いた聞いた、律子から、突然声を架けられて、ぽかんとしてたんだってね。
最近なんだか振られたらしいって聞いたからさ、律子女友達多いから紹介して貰えば?

と大声で範子はまくしたてた。

よけいなお世話だ、てめぇこそ、男作れや!

と俺は毒づいたが、感謝していた。

No.69 09/06/06 22:41
てる ( Y1Ngi )

年齢に合わない
ニューミュージック、テクノ、マンガの趣味
すべて律子とは趣味が被った。

お互い気味が悪いくらい趣味が合いすぎていた。

そんなある日放課後の教室で2人きりになった。

No.70 09/06/06 23:01
桐生 ( Y1Ngi )

ねぇとしちゃん、ノリが彼女なの?

突然の律子の質問に、俺は応えることができなかった。
範子とは今は何もない。
正直な気持ちだった。
でも口からはなにも応えることができなかった。
沈黙が支配する部室に広達が入ってきた。
二人きりの微妙な時間は消え失せた。

No.71 09/06/07 05:40
桐生 ( Y1Ngi )

律子と付き合うに連れて、自然と女友達が増えた。
すぐ近くの女子高の同級生などとも遊ぶようになった。
高校生らしい昼間の遊び、刺激は少なかったが、気は晴れた。

俺の体重は70キロの手前で下げ止まった。
しかし相変わらず食欲はなく、昼飯は菓子パン1個の生活だったが、あの虚無感喪失感が薄らいでいった。

No.72 09/06/08 21:49
桐生 ( Y1Ngi )

ボウリングの帰り道、たまたま律子と2人きりになった。
自転車を引いて駅前まで一緒に歩いた。
夏手前の夕日はワイシャツを汗で重くした。
夕日の中で、律子は立ち止まった。
周りは住宅街の切れ目の畑で人気はなかった。

としちやん、私明日は名古屋の彼の所に行く、だから,,,

それ以上律子は話さなかった。
律子には以前名古屋に男がいると聞いていたが、詳しい話は聞いていなかった。
そしてこの時の俺には律子の言葉の意味が分からなかった。
自分の気持ちは何処に向かっているかも定かではなかった。

No.73 09/07/26 22:27
桐生 ( Y1Ngi )

翌週、進路最終確認があった。
国立理系、あの日から、下降を続けていた成績では、目標の大学には難しいと言われたが、結局志望校は変えなかった。

夕方、律子の教室を訪ねた、しかしあの日から律子は何日か学校を休んでいた。
何があったかは知る由もなかったが、心配になり、その日の夜電話をかけた。

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