星に願いを~追悼 優に捧ぐ~
二ヶ月前に、心の底から愛した愛犬チワワの優(まさる)
が12歳8ヶ月の生涯に幕を閉じました。
ここに小さな命が、懸命に病と闘いながら生きていたことを残します。
まだ私は立ち直れずにいます。
ごめんね、マー君。
虹の橋が本当にあるのなら、快適に過ごしていることを願います。
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辛く悲しいことがあった時、誰しも落胆し苦しみます。
けど現実を受け止めたなら、自分の中でコントロールできると思います。
私が、こうして悲しみを綴るのは、まだ受け止められない弱さ、そして綴るにあたり前を向いて過ごしていきたいからなのだと思います。
愛犬、優。愛称マー君と家族の物語。
たくさんの笑顔と、そしてたくさんの涙。
マー君を愛しているから出た感情です。
2002年4月。
ペットショップで縁があり、出逢ったチワワの男の子。
チワワにしては筋肉質で体も大きい。
でも、お顔がとっても可愛い!
真ん丸の顔に瞳、口角が上がった大きな口。
丸くて黒い鼻。
白と茶のブチのロングコートチワワ!
結婚して三ヶ月で犬好きの私達夫婦は、ワンコを家族に迎えました。
名前は優しい子に育って欲しく、優と名付けました。
愛称マー君。
天真爛漫で、すぐに近所で人気者になりお友達も作りました。
小さなことは気にしない後に引かない性格。
そして明るく図太く友好的。
ペットクリニックでも…
「凄く性格の良い子です!大切にしてあげて下さいね!」
絶賛され、親ばかですが鼻高々でした。
表情豊かで、人懐っこいマー君に私も旦那もメロメロ!
なんて可愛いんでしょう!
何度も何度も言ってたっけ。
まだ子供がいなくパートに出てた私は、家に帰ることが、とっても楽しみになった♪
パソコンや携帯のアドレスも、全部マー君の名前入り!
可愛い、大好き、大切!
ずっと一緒にいてね!
そう話しかけると、タッチして私の口をペロペロ。
たまらなく愛しい瞬間。
結婚して、マリッジブルーになった時期もマー君が癒してくれました。
気持ち良い位、ご飯をよく食べ元気に遊びに幸せそうな寝顔を見せてくれる。
ムチムチの肉球。真ん丸な手っ手。
小さなあんよ。
そして太陽みたいな、その笑顔は私達にどれだけ元気をくれたことでしょう。
マー君は、すくすくと成長しました。
本当に元気で勝ち気。雷が落ちても気にしない!
健康にも恵まれクリニックでは〈健康優良児〉とお墨付きを頂きました。
二年後、長女を出産。
マー君と一緒に実家へ里帰り。
赤ちゃんと犬は仲良くできるか、物凄く心配でしたが、マー君は、ただ不思議そうに娘を見つめ攻撃することはありませんでした。
長女も成長し、「まあくん」と言えるようになりました。
マー君はシッポぴんぴん振ってたね。
でも少し寂しい思いもしたよね…
ごめんなさい。
そして良い子でいてくれて、ありがとう…
5年後、次女を出産。
次女は夜泣きが凄かった。
私がDVでもしてるみたいな泣き方…
あちゃちゃ…泣き虫の私に似ちゃったかなぁ?
ベビーカーも乗ってくれない甘えん坊の泣き虫ちゃん。
さすがに次女に付きっきりでマー君、家中オシッコしまくり!
嫌ががらせをして気を引きたかったんだよね…
そして自分の足の毛を地肌が見えるまで口でむしり始めたマー君。
叱っても聞く耳もってくれず、諭すように優しく声をかけ抱き締めたら、立ち直ってくれたよね。
マー君は、我が家の太陽だった。
広い公園へ家族でお弁当もって、一緒に遊んだこともあったね。
お祭りでは焼き鳥を食べた。
ドックカフェでは緊張してクッキー残しちゃったね。
おうちではミサイルみたいに激しく爆走!
ぬいぐるみが大好きで、いつもお口に加えてたね。
長女が、お小遣いでマー君に買ってあげた、にゃんこのぬいぐるみが一番のお気に入りだったでしょう。
気持ちも嬉しかったんだよね。
ディズニーのメロディーを聴いて歌を唄った時はママびっくりしたよ!
一緒に登山した時は、知らない人からもがんばれーってエールをもらったね。
お友達のモモちゃんとマリちゃんとも楽しく遊んでたね。
笑顔が眩しい位に輝いていたよ。
子供たちが幼稚園や小学校に通ってからは、マー君とママがお家で二人きり。
「マー君、今日も宜しくね♪」
「ゴォ‼」
マー君の鼻を鳴らして返事する所も可愛くて仕方なかったよ。
「マー!ご飯だよ!」
ご飯が大好きだから、ご飯って言うとまた明るい笑顔!
「マー!今日はトリミングの日だよ!」
トリミング先では、シュナちゃんとお友達になったみたいで、嬉しくてたまらなくてプルプル震えながら、シッポが
はち切れそうな位ピンピンふってお出かけしたね。
綺麗になってきて帰ってきて…
「マー!綺麗になったね!」
「ゴォ‼」
ウフフ。やっぱり返事してくれるの。
順風満帆に過ごしてきたマー君に変化が訪れた。
何だかボーっとしてる。
「どうしたの…?」
声をかけ、撫でても一点だけを見つめボーっとしてる。
嫌な予感がした。
パパも娘たちも大丈夫だよと言った。
けど、一緒に過ごす時間が長い私には大丈夫だとは思えなかった。
マー君は、ワンちゃん用のクッキーが大好き。
いつも、待ってましたと言うようにパクパク食べる。
でも、おやつも食べない………
そして、その日の晩。
突然、マー君は、狂ったように自分のシッポをグルグルまわって追いかける。
「マー君……?」
やがてバタンと倒れ、口から泡をふいた……
夜の11時で娘たちは寝ていた。
パパと二人、動揺する。
マー君は手足が突っ張りもがくようにバタバタしている。
「大変だ……大変だーー‼」
パパが動揺を隠せなくなった。
私は何とか冷静さを保ちネットで夜間動物病院の電話番号を調べる。
その間、パパもタウンページで番号を調べている。
「あった!」
パパが大きな声で言った。
「ホント?どこ?」
「ここだ!」
「なに言ってるの!…ペット霊園じゃない!」
「ホントだ………」
「…パパは車を出して!」
「わかった!」
この間も、マー君は口から泡を吹きながら床を転がりながらもがいている……
見るに絶えない光景だった。
そしてパパの車で、マー君を何とか抱き夜間動物病院へ。
車の中でも、もがくマー君。
運転しながらパパは…………
「マー君、頑張れ!!」
叫ぶように言った。
動揺しすぎて情けないパパだけど、それほどマー君が大事だという証拠だ。
娘たちもマー君も大切な我が子。
私は、もがくマー君を抱きしめ、この状態が一体なんなのかもわからず混乱しながら
「マー君、守ってあげるからね!助けてあげるからね!」
何度も言い続けた。
病院へつき、状態を説明し診察室に入る。
凄く緊張していた………
「てんかん発作ですね」
「てんかん…?」
「はい。それが水頭症と言う病気から来ているのか単なる、てんかんなのか、それとも…」
「それとも?」
「脳腫瘍なのか掛かり付けの病院で調べて下さい」
頭の中が真っ白になった。
「脳腫瘍って………」
「まだ、わかりませんが可能性はあります。今日は、てんかん止めの注射をしておきます。あと…」
「あと…?」
気づけば私は泣いていた。
「この子、心臓が悪いですね……今日の発作の衝撃なのかもしれません」
脳……心臓……
あんなに元気だったマー君が、どうしてこんなことに…
ただただ、マー君が心配でならなかった。
マー君、8歳の時の出来事。
夜間動物病院で処置をしてからも、発作はあったけど朝になると落ち着いていた。
朝一番で、掛かり付けのペットクリニックへ。
先生は40歳でハンサムな誠実な人。
ユーモアもある。
「先生…」
「おはようございます!夜間病院から連絡来てました」
「大変なことになっちゃいました…」
「う~ん…でも今は落ち着いてるし、脳腫瘍の可能性は極めて低いです。
今年の異常気象による気圧が原因だと思いますよ。
今年、てんかんのワンちゃん凄く多いんですよ」
それを聞いて少し安心した。
その年は猛暑で、てんかん発作を起こしたのも9月。
そして心臓は、確かに悪くなってるとのこと。
心臓弁膜症。
症状が進めば生涯、投薬が必要となると説明を受けた。
ショックは受けたけど幸いマー君は、また元気な姿を見せてくれた。
平日の夕方までは、マー君とふたりきりの時が多い。
「マー君。今日も宜しくね!」
「ゴォ‼」
以前と同じマー君。
元気に遊び、たくさんご飯を食べ、私にたくさん甘えて………
マー君が大切で仕方ない私。
その愛くるしい姿が生き甲斐だった。
嬉しい時も楽しい時も、悲しい時も体調が悪い時も、どんなときも傍にいてくれた。
けど、安定は永く続かなかった。
走ったらすぐに息切れ。咳。
苦しそうな寝顔。
すぐに掛かり付けのペットクリニックへ。
先生に心臓の音を聞いてもらう。
私の心臓の音は早まる。
「かなり病状は進行しています。いつ心臓発作を起こしてもおかしくありません。
投薬を開始した方が良いでしょう…」
一番、聞きたくなかった答え。
「はい…」
「心臓が悪くても穏やかな環境であれば、長生きできる子もたくさんいますから。
飼い主の吉岡さんがしっかりしないと。ねっ?マサルは吉岡さんが一番好きなんだから」
「はい…頑張ります」
犬とはいえ大切な尊い命。
私は責任をもってマー君を守っていくと決意した。
マー君9歳、心臓の薬の投薬を開始。
毎朝、ねりねりの栄養剤に粉の薬を混ぜ飲ませ続けた。
咳はあるけど幸い心臓発作は起きない。
「マー君が頑張って、お薬飲んでるからだね!」
「ゴォ‼」
ウフフ♪可愛い!
病気はあるけど、薬と上手に付き合って行こう。
娘たちも、マー君のためにルールを決めていた。
マー君が驚くような音は出さない。
家族が笑顔で穏やかでいる。
時にルールは守られてないこともあったけど、娘たちの気持ちが嬉しかった。
そして、また……マー君に、てんかん発作が始まった。
てんかん発作は本当に壮絶で見ていると寿命が縮まる思いだ。
発作の最中は意識はなく苦しみはないが、発作後は42.195kmを走り切ったほどの疲労だと言う………
先生に相談すると、マー君は心臓が悪いから検査はできない…
脳腫瘍の可能性は低いが恐らく水頭症だろうと判断した。
水頭症は名の通り、頭に水がたまる病気。
その影響で脳内に問題が置き、発作が出るみたいだ。
心臓と同じく完治はできない病。
薬でコントロールしていくことになった。
しかし、てんかんを抑える薬を飲んでも発作は出ていた。
薬を飲んでも完全には抑えられないらしい。
どれだけ理不尽に想っただろう………
てんかん発作を起こすと、その影響で心臓に負担がかかるし、私はマー君を守るために東洋医学にも頼った。
効き目はあり、てんかん発作の感覚が延びる。
このまま、現状維持できればと願っていた。
マー君とふたりきりの時間は、発作がおきないかヒヤヒヤしていた。
マー君が少し動くと発作?と焦る。
気を紛らわしたく、パズルを良くしていた。
完成したパズルをパパや娘に見せると……
「わぁ!凄い!大切にしようね」
そう笑顔で言ってくれた。
私は悲しみと不安、色んな想いを抱えながらのパズルだとは言えなかった。
~ある日~
日曜日に娘たちが、書店へ出かけるという。
「ママも一緒に行くよ」
「ううん。亜子と千穂で行く。近いしね~」
今さらですが……長女、亜子。次女、千穂。です。
(仮名)
何だか不思議だった。
パパもスポーツジム行っていないし、マー君と二人きり。
ぐっすりマー君は眠っていた。
この可愛い寝顔……あと何年見れるだろうか…
心臓の状態は、いつどうなってもおかしくない。
加えて水頭症による、てんかん………
マー君を失ったなら立ち直れるだろうか…
1人旅でも、出ようかな…
それに何より、マー君に苦しい思いをさせたくない…
代わってあげられたらいいのに…
考え事をしてると、娘たちが帰って足早に長女の部屋に入って行った。
何だろう?
まさか…親に言えないような本でも…
心配になり、長女の部屋へ向かおうとした時、娘たちが部屋から出てきた。
長女が手に何か持ってる。
「ママ、これ!」
亜子が一枚のポストカードを渡してきた。
それはセピア色で、2羽のツルが朝日を見上げている写真がついていた。
その下に“マー君が元気でいられますように”
マジックでそう書いてあった。
「あんたたち………」
私は胸が熱くなった。
「マー君の写真の隣に張ろうよ!」
「うん……ねぇ、どうしてこの写真を選んだの?」
「亜子ね、この写真からね、希望を感じたの。お願い事も叶いそうな感じがしたの」
「そっか、そっか。ありがとう!壁に貼ろうね」
亜子の言葉を聞いて亜子の成長と思いやりを知った。
とても嬉しかった。
それだけ、みんなマー君が大事なんだよね。
年明けに家族で初詣へ行っては、今年もマー君が無事でありますようにと願った。
家族の御守りを毎年買うが、もちろんマー君の御守りも買う。
千穂は家に帰り、マー君の写真に御守りを張り付けていた……
「あら、張り付けるの?」
「うん!張った方が願い叶うよ」
「そうだね」
次女は、私と話したあとマー君が寝てるベッドへ言ってマー君を撫でていた。
「マー君は、すっごくすっごく可愛いです。すっっごく可愛いです!」
「ゴォ‼」
ウフフ♪微笑ましい光景。
そして1月生まれのマー君は、11歳になった。
さつまいものケーキを作ってあげた。
突然ですがパパは口数も少なく何かと鈍い人。
けれど珍しくマー君と同じく1月が誕生日の私のために食事へ連れていってくれると。
食事の前に娘たちが、硝子館によりたいと言うので、お店へ入った。
綺麗な硝子の小物がいっぱい…………
子供たちが綺麗、可愛い!とはしゃいでいた。
さりげなくパパが………
「ママ、欲しいものない?誕生日だしプレゼントするよ」
「えー!プレゼントなんて久しぶりだね!なしたの?怪しい~」
「そんなことないよ。ママ、いつも頑張ってくれてるから」
誕生日プレゼントは結婚して3年までしか貰ってなかったので素直に嬉しかった。
店内を見渡していると、天使の形のオルゴールがあった。
可愛いな...
誕生月ごとに色が違いメロディーも違う。
1月は赤。
曲は、星に願いを。
「このオルゴール可愛いな。これがいい」
「うん!いいよ」
パパは私にオルゴール。
娘たちに人魚姫のキーホルダーをプレゼントしてくれた。
天使のオルゴールはネジを回すと、天使がくるくる回り音色を奏でる。
ふと、マー君の顔を見るとうっとりした顔をしていた。
オルゴールの音って癒されるもんね。
マー君も1月生まれだから、ふたりのオルゴールにしよう!
それからマー君とふたりきりの時は、よくオルゴールを鳴らすようになった。
脳の病気のマー君にとってオルゴールの音色は脳波に良い気がして。
ホントにオルゴールを鳴らすと、マー君はうっとりする。
その表情に私は安心して行く。
けど、オルゴールの音が終わる時は何だか切ない気分になった。
そして………
ある日の早朝。
私の横で眠るマー君が、てんかん発作を起こした。
慌てて、てんかん止めの座薬を入れてあげる。
だけど二時間後に、また起きた。
いつもは座薬で落ち着くのに………
また三時間後に起きた。
日曜日でペットクリニックは午前までの診療なので、慌てて連れて行く。
使っている座薬より強い、粉薬を処方される。
「これで多分、大丈夫だと思いますよ」
先生が言った。
残念ながら、それでもマー君は発作を繰り返した。
一日で13回も………
見ているのが可哀想で辛いけど、目をそらす訳にはいかない。
翌朝、マー君をまたクリニックへ連れて行く。
このままじゃ脳がパンクしてしまうので、入院を強いられる。
3日、入院して元気な姿でマー君が戻ってきた。
入院して不安だったよね…
マー君は私とパパに沢山甘えてきた。
どうかもう、マー君に苦しみがありませんように。
そう願う私の心をいたぶるかのように、現実は冷たかった。
今度は左目が重度の角膜炎になり、左目が失明...
そして鼻が詰まっているのでクリニックへ相談する。
「何かの炎症かな」
先生は、そう言い抗生物質を処方してくれた。
でも。まったく回復しない。
次に違う薬やステロイドを使ったり点鼻薬も使ったけど効果なし。
マー君は心臓が悪いから検査はできない。
マー君も家族も、とても心配しあらゆることを実行した。
蒸気に鼻を当てる。
ビックスベポラップを首に塗る。
鼻がすーとするお茶を頼む。
蒸しタオルを鼻に当てる。
部屋の湿度を上げる。
...何をしてもダメだった。
恥ずかしい話、風に当たると良いかな!?と思い、マー君を抱いて外を走っていた。
それでもダメだった…
鼻の詰まりは悪化する一方だった。
先生は、てんかん発作により鼻の空洞が狭くなったのかもしれない。と言った。
鼻が詰まっても死に至らない、けど心臓は大切にしないと死に至る。
だから心臓や脳疾患をどうにか、進行を防ぐことを一番に考えましょうと言った。
先生は、マー君のために年末は31日、年明けは元旦だけクリニックを休診にし、携帯の番号も教えてくれた。
連絡をくれれば休診の日も診てくれると。
先生には感謝している。
相変わらず、てんかん発作もあり鼻で息もできず、片目も見えないマー君を思うと、辛くて辛くて、先生に泣いて電話をしたこともあった。
先生は………
「マサルは吉岡さんが思うより、ずっと強い。自分の今の状態を全て受け入れている。
弱い子なら、とっくにストレスに負けて心臓発作を起こして死んでいる。
マサルは頑張っている!
だから吉岡さんも、いつも通りマサルに笑顔で接してあげて」
そう言った。
先生の言う通りだ。
私は、全力でマサルを守らないといけないんだ。
本音は辛かったけど、普通に穏やかに過ごしマー君も12歳を過ぎていた。
ある日、次女の千穂が………
「ママ!マー君のベロに血がついてる!」
血…!?
私は慌ててマー君がいるベッドへ行った。
「マー君!!」
マー君の口元は血だらけになっていた…
一体?なぜ?
私はマー君の口の中を見た。
「あ……………………」
血の気が引いた。
マー君の歯茎に10円玉くらいの腫瘍ができていた。
まさか…
まさか、まさか…………
癌………?
薄々感じていた。
鼻が通らないのは腫瘍があるのではないかと。
でも検査はできない。
けど、なぜ口内に?
不安でいっぱいになりながらタオルでマー君の血を拭いてあげた。
パパは、癌ではないよ。炎症してるだけだと思うと言った。
私はパパの言葉を信じた。
今まで、たくさん苦しんだんだ。
癌にまでならない!
そう信じてマー君をクリニックへ連れていった。
私は緊張で汗をかいていた。
土曜日だったけど万が一のためパパと二人でクリニックへ行き娘たちにはお留守番を頼んだ。
「吉岡さん!」
名前を呼ばれマー君を抱き、診察室へ…
診察台にマー君を乗せ、先生に口の中を診て貰った。
するとすぐに………
「あぁ………」
「先生……?」
「間違いなく癌です。扁平上皮癌。………多分、目が失明したのもそのせいかな……」
「………どういうことですか?」
私はショックで声を出すのが、やっとだった。
「目の近くに腫瘍が出来て、鼻のあたりに下がってついに口の中まで下がってきたんだと思う……」
「そんな……これからどうなるんですか…?」
「口の中の腫瘍はあっという間に大きくなります……口の中からはみ出てご飯を食べることも困難になるかもしれないです」
私は茫然としパパが背中を擦ってくれた。
「あと…………どれくらい生きれますか…?」
私は答えを聞くのが怖かったけど本当のことが知りたかった。
「一ヶ月くらいだと思います。でもね、色んな症状が出てて今生きてることが奇跡ですよ……先々の心配もわかるけど残された時間を大事に過ごすことがマサルのためだから………」
私は診察台にいるマー君を抱き上げ声を出して泣いた。
一ヶ月…
この温もりが一ヶ月で消えちゃうの……?
こんなに愛しいマー君が
余命一ヶ月なんて………
受け止め切れなかった。
マー君はチワワにしては大きく4・5kgある。
こんな、むっちりして可愛らしいマー君が、あと一ヶ月なんて……
家に帰る前に車の中でシクシク泣いたあと、私は感情を殺した。
そしてマー君がご飯を食べれるうちは好きなものを食べさせてあげようと思った。
それと同時に癌じゃないことも少し期待してた。
マー君は元気!
強い!
マー君は死なない!
ここまで来ても、マー君を失いたくなかった。
「マー君どうだった?」
家に帰り亜子が聞いてきた。
「良性のシコリなんだけど、体に菌が入ってマー君弱ってるの。
優しくしてあげてね」
「うん!治るんでしょ?」
「……うん」
私は嘘をついた。
まだ小学生の我が子に生死の問題で悩ませるのは酷だと思ったからだ。
その日から、マー君と私と家族の病との闘いが始まった。
口の中の腫瘍は、あっという間に大きくなった。
腫瘍から大量に出血する。
ガン細胞から出血してるので出血多量にはならないようだ。
4時間にわたり出血し、ひたすら血を拭う夜もあった。
その大量の血を見て…………………癌なんだなともう否定することは出来なかった。
美味しいものを食べさすと言っても固形物はもうダメだった。
すぐに出血してしまう。
なので、鶏胸肉、ブロッコリー、舞茸、人参、キャベツをフードプロセッサーで混ぜ流動食にした。
マー君はモリモリ食べてくれた。
笑顔も見せてくれる。
「マー君、大好きだよ。大切だよ」
「ゴ………」
もう鼻の返事も弱くなっていた。
でも、食欲もある!大丈夫!
デザートはヨーグルトにバナナを砕いたものをあげていた。
それが一番好きみたいでお皿がキレイになるまでペロペロ舐める。
マー君の日記をつけていたので、今日もご飯完食!
今日も生きてくれてありがとう!
と綴る日は嬉しかった。
反対に今日は何度もてんかん発作あり。
もう何日も吠えていない。
排便ができない。
そう書く日もあった。
- << 27 ある日、マー君が歩いていても、すぐに倒れるようになってしまった。 「マー君………」 私はマー君の体を支える。 マー君は私の顔を見上げ、何かを考えているような顔をしていた。 そして、また倒れては起き上がり自力で歩こうと頑張るマー君の姿があった。 やるせない思いでクリニックへ電話してみた。 「先生…マサルが歩けなくなったり足が弱ってるんです。 何故ですか?」 『…病気の進行です。そのまま歩けなくなるか、また歩き出せるかは個体差があります』 病気の進行... ネットで調べると確かに進行すると歩行困難になると書いてあった… 時間が流れると共に進行してる… でも、もうマー君を苦しめないで欲しい… 私はそう思いながら愛しいマー君を撫でていた。 「あ……」 マー君の鼻の穴から腫瘍がはみ出ていた……… 腫瘍も育っている……… 悲しくて仕方なかったけど、マー君に笑いかけた。 「可愛いよ。大好きだよ」 マー君は笑顔の裏側を、あの時はまだ見抜いていなかったと思う。 安心した顔で瞳を閉じた。
マー君の〈扁平上皮癌〉とは抗がん剤治療や放射線治療をしても必ず再発する病気。
外科的手術では、耳の中に腫瘍が出来れば耳を失うし口内に出来れば口元を失う。
もちろん重度の心臓疾患があるマー君は治療は出来ない。
そのストレスで心臓が停止する可能性が高いからだ。
治療はせず、余生を穏やかに過ごすことを目標としても病は必ず進行し、徐々に骨にまで浸潤し顔も溶けていく。
痛みも強くなっていく。
ここで、もしワンちゃんを飼っている方が、このお話を読んでくれているなら、これは分かってください。
外科的治療をすれば延命はできます。
もちろん再発はあっても抗がん剤治療でも延命はできます。
ただ延命を切望するか、残された余生に穏やかな時間を増やしてあげるかは飼い主さん次第だと思います。
私の場合は肝機能が低下するのを承知で、ステロイドと鎮痛剤を癌がわかってから、マー君に毎日投与しました。
私の望むことは、長く生きて欲しいよりも苦痛を与えたくなかったからです。
マーの体を考え更に痛みを和らげるサプリメントも5種類与えてました。
マッサージをしてあげて、体をカイロであたためたり患部はこおりのうで冷やしていました。
出血しにくくするためです。
効果はあったり、なかったりでしたが……
あくまでも、こんな余生の過ごし方もあると言うことでお読みください。
そして打つ手がない病気ではないので、もしもマーと同じ病気になってしまうワンちゃんがいても希望は捨てないでくださいね。
>> 25
美味しいものを食べさすと言っても固形物はもうダメだった。
すぐに出血してしまう。
なので、鶏胸肉、ブロッコリー、舞茸、人…
ある日、マー君が歩いていても、すぐに倒れるようになってしまった。
「マー君………」
私はマー君の体を支える。
マー君は私の顔を見上げ、何かを考えているような顔をしていた。
そして、また倒れては起き上がり自力で歩こうと頑張るマー君の姿があった。
やるせない思いでクリニックへ電話してみた。
「先生…マサルが歩けなくなったり足が弱ってるんです。
何故ですか?」
『…病気の進行です。そのまま歩けなくなるか、また歩き出せるかは個体差があります』
病気の進行...
ネットで調べると確かに進行すると歩行困難になると書いてあった…
時間が流れると共に進行してる…
でも、もうマー君を苦しめないで欲しい…
私はそう思いながら愛しいマー君を撫でていた。
「あ……」
マー君の鼻の穴から腫瘍がはみ出ていた………
腫瘍も育っている………
悲しくて仕方なかったけど、マー君に笑いかけた。
「可愛いよ。大好きだよ」
マー君は笑顔の裏側を、あの時はまだ見抜いていなかったと思う。
安心した顔で瞳を閉じた。
その日からマー君は歩けなくなった。
マー君は、心臓が悪くなってからお散歩できなくなりベランダの窓の側に置いてあるマー君用のベッドから、青空を眺めていた。
歩けなくなり、毎日のように起こるてんかん発作の疲労からか寝たきりになった。
あんなに、お外を見るのが好きだったのに…
心が何度も折れた。
その頃、余命宣告から一ヶ月を過ぎていた。
「ママ、マー君、元気ないね…まだ治らないの?」
次女の千穂が不安そうに聞く。
隣で亜子も不安ながらに芯のある表情を浮かべていた。
「ちょっとね……調子が悪いみたい………あっ!お昼ご飯作るからね!」
「ママ!いいよ。亜子が作る。ママ休んでいて」
「亜子…………」
マー君が歩けなくなり、本格的なお世話が始まってから
今までは私のベッドで一緒に寝てたマー君だけど
落ちたら困るのでベランダの側の青いベッドで四六時中過ごすようになり
私は、その側に布団を敷き、ずっと傍にいた。
夜中に「うーー…ん」と、てんかん発作を起こしては頭を持ち上げて発作が長引かないようにした。
亜子、私が疲れていると察したのだろう。
亜子はチャーハンとトマトと胡瓜のサラダを作ってくれた。
繋がった玉ねぎの微塵切り、荒く切った人参、その不馴れさがまた愛おしかった。
「ママ、マー君、元気になるといいね」
亜子がチャーハンを頬張りながら言う。
「うん、そうだね…」
「ご飯食べたら亜子、マー君に鶴おる!」
「千穂も!」
「パパも!」
「いいね。じゃあママも」
ご飯を食べてから家族で鶴を折り始めた。
千穂は私の天使のオルゴールを流し始める。
星に願いをのメロディーが部屋に優しく流れる。
マー君も落ち着いた表情だった。
子供たちは、折り紙にマー君へのエールを書いてから鶴を折っていた。
“まーくん、またあそぼうね!元気になれますように”
“まあくんはかわいいです”
私は、ただ………
“大好きだよ”
そう書いた。
子供たちの純粋な優しさが私の胸を温かくした。
ありがとう…
一方、マー君はご飯も食べなくなった。
シリコンスプーンにご飯を乗せ口元へ運んでも、そっぽを向く。
何も食べないと衰弱するので、OS1ゼリーをスポイトで口の中に入れて上げた。
マー君…
もうダメなの?
私の悲しみは募っていく。
マー君は歩くことも出来ず、一点だけを見てボーッとする日々が続いた。
けど、再びご飯を食べ始めた!
“ボク、ガンバるよ!みんなのそばで生きていたいよ”
そんな思いが自然と伝わってきた。
口内から出血し、血を飲み込むことにより胃腸がただれ、嘔吐することもあった。
それでもマー君は食べることを諦めなかった。
「マー君、食べてくれてありがとう…」
私がマー君に声をかけると、力強い顔で私の顔を見てくれた。
「コ……………」
返事は弱っている。
でも意志疎通していた。
それとは裏腹にやっぱりボーッとする時もあった。
私は“死”について深く考えるようになっていた。
死んだらどうなるんだろう………
昔は天国が本当にあると信じていた。
けど歳を重ねる度に、天国はどこにあるのか?
天国があるなら、一度きりの人生と言うだろうか?
死んだら呼吸が止まる。
魂だけになっても、息をするわけでもない。話すわけでもない。
ご飯を食べるわけでもない。
以前、精神世界を学んだ時、肉体が滅びたら光になると学んだ。
やっぱり光になるのだろうか?
それとも…………無になるんじゃないだろうか……
考えれば考える程、辛くなってくる。
ただ、たくさんの病気を抱えてしまったマー君だけれど、あなたは愛されるために生まれてきた。
どんなときも私は、マー君を心から愛している。
その思いが届くように、ずっとずっと傍にいた。
ママに魔法が使えなくてごめんね。
魔法が使えたら、マー君の病気を全部、治してあげるのに…
でもね、大好きだよ。愛しているよ。
既にマー君の左目の下瞼の内側からも腫瘍が盛り上がり、目を半分ふさいでいた…
歯茎に腫瘍が広がり、口元は盛り上がっている。
でも、どんな顔でもマー君はマー君!
可愛いよ!
そう思いながら、自分を保つために私は携帯小説を始めた。
以前にも書いていたけど、私の未熟さ故、リタイアしてしまい応援して下さった方々にネット上ではあるけど、新しい作品で楽しんだり、心が動くお話をお届けしたいと考えていた。
話の流れをざっと考え、登場人物の名前や年齢を考える。
そしてスレを建てた。
それが「エキサイトラブ~友達の彼氏と~」の誕生だった。
携帯小説を始めると、思っていたよりも気が紛れた。
とても助けられた!
そして携帯小説の筆を止め、ご飯支度を始めた時、後ろからトットット………足音が聞こえた。
もしかして………
後ろを振り返った。
そこにはフラフラしながらも私に向かって歩いてくるマー君の姿があった。
「マー君!」
久しぶりに私の目に映った、マー君の姿を見て目頭が熱くなった。
元気な頃は、ご飯支度していると足元に来たりしてたもんね……
私は嬉しくて嬉しくて、マー君を抱き上げた。
高い高いをし、マー君に何度もキスをした。
マー君も、ずっと抱っこしていて欲しいかのように私にしがみつく。
マー君の温もり。
マー君の柔らかい匂い。
マー君のむっちりした体。
愛おしくてたまらない。
その日はパパや子供たちが帰ってきて歩き出したことを伝えると…………
「マー君は、まだまだ大丈夫だ!」
本当に嬉しそうなパパ。
「マー君、やった!」
喜ぶ娘たち。
もう、こんな日が来るとは思わなかった。
ご飯もモリモリ食べ、部屋の中をゆっくり歩くマー君。
奇跡が起これば良いのにと思っていた。
昼間は、以前のようにベランダの窓辺からマー君は外を眺めていた。
窓をあけてあげると、窓から顔を出し気持ち良さそうにしている。
「マー君、気持ち良いね。お空もキレイだね」
マー君は、黙って外を見続けていた。
それからマー君は、てんかん発作を起こしながらも、ご飯をモリモリ食べ自力で歩いていた。
生命力を感じた………
余命宣告から二ヶ月が過ぎる。
また、マー君が歩けなくなってしまった。
オムツをしてご飯やお水を飲ませる。
目の腫瘍も大きくなっている……
相変わらず口内の腫瘍からは出血がある。
ヨレヨレなマー君。
悲しくて仕方なかった。
それでも私が玄関をはいてドアを開けると、這いつくばって玄関まできた………
マー君が這いつくばった場所は血だらけだった…
「どこにも行かないよ………」
マー君を抱き上げる。
マー君は私にしがみついた。
体調も悪いし心細いんだよね……
抱っこして、ベランダから外を見させてあげてももう見なくなっていた。
やるせない思いでマー君のベッドに寝かせると、呼吸がおかしい。
「はー……はー…ゴロゴロゴロゴロ」
呼吸がゴロゴロ言っている。
確か死が近づくと呼吸がゴロゴロ言うはずだ。
私はもう我慢できず、マー君から見えない場所で号泣してしまった。
何とも言えない気持ち。
たくさん不自由があって、これ以上生きて!とも願えない。
だけど来年の1月も一緒に誕生日を迎えたい…
でも、その願いはもう叶わないのだろう……
それならもう一切苦しみを与えたくない…
泣きながら色んなことを思い詰めた。
飛んで跳ねて元気だった頃の姿を思い出にするのが、たまらなく切なかった。
マー君は呼吸を苦しそうに、寝たきりのまま。
元気な頃は大好きなクッキーを私が手に持ったら弾むような足取りで歩き、笑顔を見せてくれたね。
心臓が悪くなってからは家でお風呂に入って、あがったら大はしゃぎしたよね。
毎朝、ご飯欲しいよ!って私の口元をペロペロしてきたよね。
ご飯を食べたあとは大好きな、にゃんこのぬいぐるみを加えて私の顔をチラチラ見ながら楽しそうに遊んでいたね。
思い出にすることが、こんなに悲しいなんて…
ある日の朝、私の肩を誰かが叩いた。
ん………
目を覚ます。
そして横を見るとマー君が立っていた!
「マー君?」
声をかけると私の口元をペロ…ペロ…とゆっくり舐めてきた。
嘘....!
「マー君、立てたの?」
「ゴッ!」
マー君がまた歩き出した…
忘れもしない9月27日の朝の出来事。
久しぶりに見た元気な表情。
信じられない...
また歩き出してくれるなんて…
幸せだった。
犬のマー君が、ただ歩いているだけで。
その日から、夜ご飯もテーブルの横に来て一緒に食べた。
自分でオシッコもするようになった。
ベランダから空を眺めながら「うわん!」
元気よく吠える。
嬉しかった、とても。感動した。その姿に。
私は久しぶりにマー君の伸びた毛をカットし、シャンプータオルで体を拭いてあげた。
気持ち良さそうなマー君…
短く毛をカットして…
「男前ですよ!」
マー君の頭を撫でてあげた。
パパも子供たちも喜んでいた。
その4日後。
マー君が激しい、てんかん発作を何度も起こした。
その発作で、また寝たきりになってしまった……
ご飯を食べる量も減る。
排便もできない。
またオムツになった。
私は、あの時、どうしてパパにあんなことを言ったのかまだわからない。
「…パパ。覚悟して欲しい」
「えっ?なんで?また元気になるよ!」
「いや……9月は越すけど……とにかく覚悟して…」
パパは悲しい顔をした。
「俺が仕事の日に逝ってしまったら、葬儀に出れない……やだよ」
「大丈夫。マー君は、ちゃんと考えている。パパのことも子供たちのことも」
「…」
何故、あんなことを言ったのだろう。
わからない。
やがて、マー君は奇声を上げるようになった。
「キャアーーーアアアーーーギャー!!」
前からボーっとし一点だけを、たまに見つめるようになったとき何となく感じた…
癌が脳か脳の近くに転移したかもしれないと。
マー君の奇声を聞いて子供たちは泣いた。
パパは震えていた。
男の人は女性より繊細だ。
私はマー君を抱き締め外へ出た。
「気持ちいいね?」
マー君の奇声が治まった………
でも家に戻すとまた奇声を上げる。
私はパパも子供たちも仕事や学校があるので寝かせた。
夜中も、奇声を上げる。
私は平気ではなかった。
マー君が可哀想で失うのが、とてつもなく怖かった。
そのせいか左側の顔がずっと痙攣していた。
少しだけ寝て朝を迎える。
パパや子供たちが会社や学校へ行く時………
マー君は、立っては転び、転んでは立ち、みんなを見送った。
「ママ、マー君行ってきます…」
みんなの声は弱かった。
そして、マー君が目を背けたい行動を起こした。
「ううう………ギャーーアアア!!」
苦しそうに叫び続け、頭を床に打ち続けた。
私が体を支えても打ち続けた………
私は泣いてしまった………
やがて力尽きたマー君は、眠りについた。
私はペットクリニックに相談する。
先生に、安楽死の選択もあると言われた。
私は泣きながら考えた。
命の選別…………
このまま苦しませるのか、安楽死させるのか………
賛否両論だと思うけど、私は安楽死を選べなかった………
最期までマー君の傍にいると決めた。
奇声が始まってから更に弱ってしまい、ある日の夜…………思い出の詰まった寝室へマー君を抱いて連れて行く…
「マー君?この場所で、ずっと一緒に寝てたね。
ママの足元で、マーはぬいぐるみで遊んでたね。
古いソファがある時は、マーはソファで昼寝してたね。覚えてる?
マー君用のサマーベッドではよくホリホリしてたね。覚えてる?
ほら……これ古い布団だよ……この布団でも一緒に寝てたよね…
この赤いボックス…マーのオモチャたくさん入ってるね……」
私は涙が溢れてきた。
「コ…コー…」
「マー君!返事してくれたの?ありがとう…ありがとう…マー君、ママ……マー君と出逢えて良かった…ありがとう…」
そのあとは外へ連れていってあげて、外の空気を吸わせてあげた。
「気持ちいい?……お外の匂い好きだもんね。ほら………あの芝生でマリちゃんとモモちゃんと遊んだね……マー君、一生懸命、楽しそうに走ってたね。
あっあそこの家にチョコがいたね。
マー君、チョコ大好きだったよね。函館で元気にしてるかな……」
マー君は、私にピトッと顔をよせた。
まるで「楽しかったよ、全部覚えてるよ…」と言ってるみたいだった。
その夜も奇声をあげたり、てんかん発作が続いた。
落ち着いたらマー君の可愛い寝顔を見つめていた。
「マー君………もう頑張らなくていいよ……」
眠っているマー君にそう呟いた。
~10月3日~
午前に掃除を済ませ、毎日寝不足なのでマー君が寝るベッドの傍に布団を敷き仮眠を始めた。
すると…
「ハッ…ハッ…ハッ……」
マー君の呼吸が短くなっていた。
「マー君どうしたの?」
「ハッ………ハッ………ハッ……………」
私はマー君を抱き上げた。
マー君の心拍が伝わる。
ちゃんと心臓が動いている………
そしてまた、マー君をベッドに横にさせてあげた。
マー君は目を開けていた。
「マー君……?」
マーの目の前で手を振っても反応しない。
顔を近づけても見えてるはずの右目とも目が合わない。
もう、マー君は目も見えてなく朦朧としていた……
マー君のシッポをさわった……
細くなりきったシッポ………
お腹もペタンコだった…………
ただ、むっちりとした手と足は健在だった。
その愛くるしい手と足を握ったり撫でていた。
心の中は恐怖と悲しみでいっぱい………
そして…
「ハァ…ハァ…ハァ…………………………………」
マー君の呼吸が止まった。
「マー君!?」
マー君の心拍を確認した。
心臓……………動いてない………………
マー君が、大好きなマー君が死んでしまった……
「マー君!!!いやだよ………!!!マー君!?マーーー君…………」
私は泣きながら叫んでいた。
私はしばらくもう呼吸をしなくなったマー君を見つめていた。
「……よく頑張った。もう苦しくないね……」
ようやく言葉が出て、マー君の亡骸を抱き上げた。
マー君の死に顔は微笑んでいた。
10月3日金曜日。15時すぎ…余命宣告から三ヶ月後。マー君は旅立った…
マー君…やっぱり私達家族のことを考えて旅立ったの?
パパや子供たちが土日休みだし、みんなに送ってもらえるし、みんな送れなかったらどうしよう…って悩んでたものね…
死の瞬間と言う恐怖もパパや子供たちには見せたくなかったんだよね…
マー君……たくさん病気も抱えてたのに最期まで闘い続けたね。
マー君…あんた、なかなか立派じゃないの…
自分のことで精一杯なはずなはのに、家族のこともちゃんと考えて……
だけど……悲しいよ………
マー君、どこにいったの?
どこにいったの…?
私はどうしてこんなに涙が出るのだろうと思うくらい泣いた。
泣きながらマー君の亡骸にちょうど良い段ボールを用意し使っていたタオルを中に入れ高さを出した。
その時、次女の千穂が帰宅した。
私の泣き顔に千穂が状態を察したようだ。
「…ママ?マー君………」
「……マー君ね、天国へ行ったよ」
千穂はマー君の亡骸に触れた。
「マー君………いやぁ!マー君!…ねぇ、ママ!生き返らないの?」
「うん………」
「やだよぉ。マー君……どこ行ったの?」
「天国だよ……」
「天国ってどんなところ?」
「ここよりずっと幸せな場所だよ……」
「ホントに?」
ガチャン……
次に亜子が帰ってきた。
「ただい…………えっ?マー…君?ママ、マー君、死んじゃったの?」
「うん……まったく苦しまなかったよ…」
亜子は何も言わず、静かに泣いた。
泣きながらマー君の亡骸を愛しそうに撫でていた。
「マー君、マー君は幸せだったよね……?亜子はマー君といて幸せだったよ…」
仔猫のような声の亜子がそう言った。
「亜子、千穂。マー君にお花買いにいこう」
「「うん……」」
3人でマー君に花を買った。
男の子だから水色や黄色の花を多くし、家につきマー君の亡骸を花で囲った。
「これも……」
亜子が、みんなで折った鶴と大好きだったにゃんこのぬいぐるみもマー君の傍に添えた。
その日パパが帰宅し、パパはマー君の亡骸を撫でて号泣した。
「…動かないね…マー君………」
パパには電話でマー君が天に召されたことを伝えていた。
パパは泣き続けた。
あんなに泣いているパパを初めて見た……
我が子同然に可愛がってきたもんね……
思えばさ、夫婦喧嘩した時、二人の拠り所はマー君で私達が仲直りしたらマー君ニコって笑ったよね。
色んな思い出が頭の中を駆け巡る……
その日の夜は布団の横にマー君の亡骸を寝かせ隣で眠った。
マー君の可愛い手を握りながら…
翌日マー君の葬儀を行った。
アメージングレインが流れ、子供の声の朗読が流れる。
みなさん きょうぼくは
てんしになります
いままで たくさんなでてくれて
ありがとう
おいしいものをたくさんたべさせてくれて
ありがとう
みなさんとはなれるのは
さびしいけれど
これからは おそらから
みなさんのことをみまもっています
いままで ほんとうに
ありがとう
いつまでも おげんきで
そしてどうか おしあわせに………
葬儀は流れ、火葬する前にマー君の亡骸に最後のお別れの時。
みんなでマー君を花で囲った。
「マー君、さようなら…」
「マー君…バイバイ」
「マー君、ありがとう…」
家族がみんな一言ずつ言う。
みんな胸がいっぱいだったと思う。
パパは泣きっぱなしだった……
私はマー君に、さよならは言えない……そう思った。
「マー君、またね!ずっと大好きだよ…」
うん、この言葉しかない。
またね、マー君、さよならは言わないよ。
いつかまたきっと会おう。
マー君、ママは今、普通にしてるけど、あなたが目に映らなくなって、たまらなく寂しい日々が待ってると思うの。
きっと、ひっそり泣いてしまう日もあると思う。
そんな時は、バカだなって笑ってください。
そして覚えていて。
マー君、心から愛しているよ。
後日。
ペットクリニックの先生に挨拶へ行った。
「先生……マサル亡くなりました……」
「えっ………」
「とても穏やかな幕引きでした。それだけが慰めです……」
マー君は顔が溶けることも腫瘍が口から飛び出ることもなく、最期までご飯を食べ静かに息を引き取った。
それは不幸中の幸い……なのだろうか。
「そうですか………吉岡さん………」
「はい…」
「よく頑張った!本当によく頑張った!」
「…」
そして先生は、マー君のカルテを持ってきた。
「見て。この分厚いカルテ。これだけマサルは困難を乗り越えて吉岡さんもここに通ってくれた。
正直、あんなに心臓が悪くて水頭症がもあって、癌にもなって…よくあそこまで生きた。
やっぱりマサルは強かった!
こんなに病気があって、ここまで生きたんだから大往生だ!」
「ありがとうございます………先生にも凄くお世話になりました」
「辛くなったらいつでも来てください。それも僕の仕事ですから」
先生には本当に助けられた。
とても親身になってくれた。
先生...ありがとう。
日々は流れ一人で家にいる時、とてつもなく悲しくなってきた。
すると、カーテンの端に何かが見えた。
それは、にゃんこのぬいぐるみだった。
マー君の亡骸に添えたのになぜ?
私はぬいぐるみを手にとり、嗚咽をもらしながら泣いた。
「マー君なの?わざとおいてったの?」
そのぬいぐるみは今でも大事にしている。
それから我が家は悲しみに包まれた。
しくしく泣く亜子。
「マー君帰ってこないかなぁ?」
本気で願い号泣する千穂。
マー君を失ったショックで過敏性大腸炎になってしまったパパ。
私は、マー君のお骨を抱き寝ていた。
~ある日のこと~
日中、家で一人でソファに座っていた。
マー君のことを考えていた。
大変だった介護もマー君を失って、介護していた時が一番愛おしかったと胸を痛めた。
闘病こそが辛くても一番、絆が深まる気がする。
その時だった。
♪♪♪~
「えっ?」
天使の形のオルゴールのメロディ「星に願いを」
が流れ始めた。
どうしてなの?
オルゴール自体は動いてない...
もしかして、マー君なの?
悲しく切ない、星に願いを。
突然流れたことをずっと忘れない。
次女の千穂の7歳の誕生日が近づき、ある日の土曜、家族でプレゼントを見に行った。
「千穂、ビーズでつくるアクセサリーセットが欲しいんだよね?」
千穂は以前、そう言っていた。
「ううん」
「え?違うの?」
「うん!」
「じゃ、何が欲しいの?」
「ワンワン!」
「はぁ~?ダメ!絶対にダメ!」
「やだやだやぁだ!!マー君、いなくて千穂どうにかなりそうなの!」
千穂は、出先で泣き出した。
「…俺も犬が欲しい。子供たちも生まれた時から犬のいる生活だし飼ってあげようよ」
「パパ…」
「ママ……!亜子もお世話するから!」
3対1の意見で、取り敢えずペットショップへ行くことに。
「ママ!見て見て~!」
「なに?」
「このマルチーズ、千穂にそっくり!」
亜子が弾むような声で言った。
マルチーズの女の子見ると、ビックリ。
顔の具が中央に集まってる千穂に激似だった。
千穂は照れくさそうに...
「決まり!この子に決まり!名前はココチャン!」
名前まで決めてるとは…
そしてみんなで話し合いお留守番を考えてもう一匹、元気のよいパピチワをココチャンの相手に選んだ。
男の子で名前はぺぺ。
それから賑やかな日々が始まった。
新しいわんこに子供たちもパパも喜んでいたけどマー君のことは忘れられない。
ただ、気は紛れる。
パパの体調も治った。
私は楽しんでいいのか…新しい犬を可愛がっていいのかマー君を思うと葛藤していた。
けれど、不思議なくらいぺぺはマー君にそっくりになってきた。
ドキッとしてしまうほどに………
こう考えることにした。
この子たちはマー君からの贈り物なんだと。
............
マー君へ
私もパパも亜子も千穂も、マー君と言うかけがえのない家族を亡くし心にぽっかり穴が空きました。
私は12年8か月一緒にいたマー君を思い出すと今でも涙が出ます。
マーは幸せだっただろうか?
そう思うけど元気で皆に好かれ愛され、最期まで愛され慣れ親しんだ家で最期を迎え、きっと幸せだったと信じています。
マー君がいなくなって、たまらなく寂しいけれど私は自分の残された人生を歩んでいかなければなりません。
そして、私の心の中には大好きなマー君がいつもいます。
正直、悲しいです。
すごく逢いたいです。
でも、強く生きたんだからマーのように私も現実を受け止めていかなくてはなりません。
新しい家族がいます。
ぺぺとココです。
二匹いてもマー君のことが消えません。
いや、一生消しません。
吉岡家は、パパとママ、長男 優 次男 ぺぺ 長女 亜子 次女 千穂 三女 ココです。
マー君は永遠に私達家族の中で生き続けます。
マー君…闘病生活よく頑張ったね。
偉かったよ。そして代わってあげられなくてごめんね…
そして、今まで本当に喜びや幸せをありがとう。
私達の愛犬になってくれてありがとう。
私の作ったご飯を食べてくれてありがとう。
強さを教えてくれてありがとう。
たくさん、たくさん“ありがとう”
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おわり
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