『僕と携帯電話とおかん』〜夢物語〜
皆さん本当に申し訳ありませんでした。
心配をしてくださた方、励ましてくださった方、
本当にありがとうございます。
僕は誰一人忘れていません。
ギターとは距離を置き、プロダクションも辞めました。
今は公認会計士の資格修得を目指し仕事をしています。
一年間ほど、ミクルに顔を出す事が出来なかったのは、
僕がずっと大切にしていたあの携帯電話が動かなくなってしまったからです。
今はスマートフォンを使っていまして、
投稿ができず、ずっと眺めているだけでした。
皆さんが心配してくださっていたのを見る事しか出来なかったのが辛かったです。
もう少し早く、お返事を返そうと思っていたのですが、
少し、怖かったです。
たくさんの人の話を読みながら、本当は投稿したかったのですが、勇気が出ませんでした。
本当にごめんなさい。
この一年間、僕は少し母親の事を吹っ切れたと思っています。
時間が経つというのは、正直複雑でした。
あんなに辛かった事が薄れていく…。
少し寂しくもあったんです。
でも、今は友達がたくさんできて、携帯電話は電源が入らないですけど、
新しい出会いがたくさんありました。
「僕と携帯電話とおかん」の話を振り返りながら、
新しく夢物語を綴っていけたらいいなと思ってます。
携帯小説としてますが、また皆さん話しかけてきて下さい。
本編はレス一覧でわかるようにします。
相変わらず、誤字脱字は多いかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
noname.2012/02/08
*
夢。
僕の描いた夢物語。
おかんを幸せにする。
だから、働きたいって何度も喧嘩した。
子供に気を使われる事がおかんにとってどれ程、辛かっただろうか。
何度も衝突した。
パートで働くおかんが日雇いを始めてまで、僕に心配をかけさせないようにしてくれた。
働くようになってやっとわかった。
ギターでお金を稼ぐって決めた時、おかんは本当に、
喜んでくれた。
「やりたい事をやりながらお金は稼ぎなさい。
それが駄目でも与えられた仕事に誇りを持って働きなさいね。
だから、今は夢を持ってがむしゃらに追いかけて。
その為にお母さんも頑張るから。」
反対はされなかった。
やりたい事、夢物語を自分で描けばいい。
今やれる事をやればいい。
そんなことを言ってもらった気がする。
*
1999年
僕は小学5年生。今年の春に6年生になる。
家は貧乏で欲しいものを買ってもらったりはできなかった。
おかんは毎日、朝早くに自転車でスーパーのパートへ出掛ける。
小学生の僕が朝起きるのは8時。
起きると台所には朝ご飯が用意されている。
昨日の晩ご飯の残り物。
ほとんどがスーパーのお総菜。
僕は嫌ではなかった。
自分でチンして食べる。
そして、歩いて小学校へ向かうのが日課だった。
貧乏な僕には友達がいない。
小学校でも会話についていくことができずに一人で机で教科書を読んでいた。
誰も話しかけてはくれない。
放課後僕は真っ直ぐに家に帰る。
そんな毎日新聞の繰り返しだった。
*
僕が家に帰る時間、おかんはまだ帰って来ていない。
家に帰ってもすることがない。
テレビもつけない。
一人でテレビを見るのは電気代が勿体無いから。
小学生にして、既に貧乏であるとは自覚していた。
周りの友達についていけないのだから。
おかんが帰ってきたら一緒に歌番組を見る。
家の中では一人で歌を歌った。
或いは、宿題をするか歴史の教科書を読む。
織田信長、豊臣秀吉、この辺の人物が好きだった。
没頭すると時間を忘れる。
そんな事をしているとおかんが帰ってくる。
手一杯にお総菜などの売れ残りをお土産にして。
それでもおかんは料理が好きだった。
得意な料理はカレーライス。
給食のカレーライスとはまた違うんだ。
人によって味が全く違う。
だから、僕はおかんの作るカレーライスが大好きだった。
*
僕にとって、クリスマスは家でケーキを食べる日だった。
サンタさんはケーキを持ってきてくれる。
本当は知っていた。
みんなはゲームソフトを買ってもらったりしているのは。
でも、僕はケーキで良かった。
クリスマスと誕生日に食べるケーキが大好きだった。
そんな僕におかんは小学生最後のクリスマスに欲しいものを聞いてくれた。
本当はあった。どうしても欲しかった…。
しかし、高額でそんなものは頼めない。
大きくなったら不要になってしまうものだったし、僕は諦めていた。
でも、何度もおかんは尋ねてくる。
無理でもいいと思った僕は意を決して伝えた。
自転車が欲しい。ギアの付いたマウンテンバイク。
おかんは満面の笑みだった。
25日のクリスマスの日、給料日だから買いに行こう。
そう言ってくれたおかんに僕は思いっきり甘えた。
*
僕の中学校時代前半は自転車一色だった。
学校も図書館も自転車で駆け抜けた。
しかし、相変わらず友達はできなかったけど、
毎日が楽しかった。
そんな楽しかった中学生活は長くなかった。
部活もせず、友達もいない僕はずっと勉強をしていた。
中学2年生後半になると進路についての話が多くなる。
勉強ができた僕は先生からも受験について少なからず期待をされていた。
しかし、僕は貧乏だ。
高校には行かない。
そう言ってきかなかった。
僕は受験勉強はしない。
おかんは何も言わずにいた。
本当は受験をさせてやりたかった気持ちを隠していた。
何時の間にか家では勉強をしなくなっていく。
高校に通うにはお金がたくさんかかる。
そんな事は僕でもわかっていた。
勉強をしない事で僕は働くという意思をおかんに伝えていた。
*
本屋で赤い過去問を買いに行った。
しかし、持ち合わせでは足りなかったが…。
高校受験について本屋のおじさんに教えてもらいながら、
寮がついている高校は大阪、神戸の私立高校。
寮といっても学校が管理しているところではないようだったが、
インターネットを使って親切に教えてくれた。
難関私立高校を受験。
特待生枠での合格。
僕は県内最難関と呼ばれる私立高校を選んだ。
やるなら本気でやる。
塾に通っていなくても過去問があれば大丈夫。
得るものがあっても失うものはない。
そんな環境が僕には強い味方だった。
図書館で過去問をやりながら実力を試す。
できる。そう感じてからの僕は毎日、ずっと鉛筆を握り続けた。
人生において最も勉強した期間だった。
毎日、15時間の繰り返し。
5475時間勉強をして僕は受験に挑んだ。
>> 21
nomameさん、戻ってきてくれましたね!お帰りなさい!
私は40のおばちゃんです。遅くにできた子どもを生んでしばらくした頃、あなたの携帯小説に出会いました。
いっぱい感動して泣いて、私も我が子(息子です)をnomameさんのような心優しい子に育てたい!と思ったものです。
これからのお話、楽しみにしています。
24歳といったら、今が一番自分自身のために何かできる時期です。自分磨きをたくさんして、ピカピカ輝くような素敵な人生を作り上げていって下さいね(^O^)!
- << 25 ママやんさんへ こんばんは! 土曜、日曜は予備校に缶詰状態ですのでお返事遅れました。 すみません。 目標は高すぎるのですが…、挑戦できるのも早いほうがいいと思ってるんです。 試験に合格した人は大学時代にいっぱい勉強した人達なのですごいと思います。 僕は4年間ギターに明け暮れました。 でも、もっと早く公認会計士試験に挑戦したら良かったとは思ってないです。 人それぞれにその時間の大切な思い出がありますもんね? ママやんさんのスレを見てまた頑張ろうと、目指しはじめた時の事を思い出しました。 ありがとうございます。
>> 22
nomameさん、戻ってきてくれましたね!お帰りなさい!
私は40のおばちゃんです。遅くにできた子どもを生んでしばらくした頃、あなたの携帯…
ママやんさんへ
こんばんは!
土曜、日曜は予備校に缶詰状態ですのでお返事遅れました。
すみません。
目標は高すぎるのですが…、挑戦できるのも早いほうがいいと思ってるんです。
試験に合格した人は大学時代にいっぱい勉強した人達なのですごいと思います。
僕は4年間ギターに明け暮れました。
でも、もっと早く公認会計士試験に挑戦したら良かったとは思ってないです。
人それぞれにその時間の大切な思い出がありますもんね?
ママやんさんのスレを見てまた頑張ろうと、目指しはじめた時の事を思い出しました。
ありがとうございます。
*
高校受験中、時間が余ってたので、おとんの事を思い出した。
おとんは僕の生まれる一ヶ月前に交通事故で亡くなった。
一月の寒い時期。
1988年の元日。
おとんとお腹を大きくしたおかんは初詣に行った。
僕が元気に生まれてくるように。
雪が積もる神社は寒かったけど、二人と僕ら三人は凄く温かな雰囲気に包まれていた。
それから15日後、おとんはこの世からいなくなってしまった。
おかんは僕を抱えたまま泣いた。
こないだのあの幸せな時間が一瞬にして無くなってしまったから。
おかんは僕をお腹に入れたまま、死んでしまおうと考えた。
おとんの下へ。
でも、僕はおかんのお腹を蹴り続けた。
僕を産んで!お母さん!
陣痛と看護師さんの励ましの中、おかんは僕を生む事を決意した。
産まれたい!
おかんは僕を抱え上げて、おとんが亡くなって以来、初めて笑った。
「あんたがいたから、お母さんはここまで頑張ってこれた!ありがとう。」
僕はおかんのこの言葉を忘れない。
*
高校受験合格と共に僕は春を迎えた。
それと同時に、僕はこの生まれ育った田舎を出て行く事になる。
寮へ。おかんとお別れをする。
最後の掃除、最後の自転車、最後の、
一つ一つの行動が全て最後と感じる。
夏休みに帰ってくればいいじゃないか。
それでも、一つ人生の中で一区切り付く。そんな感じがした。
卒業祝いにおかんが買ってくれた、携帯電話。
僕とおかんを繋ぐ物。
僕と携帯電話とおかん
次の日、おかんが見送る中、僕は泣きながら電車に乗った。
楽しい時も、辛い時もどんな時でも電話して来なさい。
僕はおかんに高校生にしてもらった。
勉強したからではない、おかんが働いてお金を稼いでくれたからという気持ちは絶対に忘れない。
「行って来ます。」
*
僕が高校生活で出会ったもの。
ギター、親友、彼女。
すべてがかけがえのないものだった。
寮のおじさんがくれたアコースティックギター。
僕の趣味の一つ。
この楽器に出会ってから人に気持ちを伝えるのは言葉だけじゃない事を知った。
親友。彼には命の大切さを教えてもらった。
生きるということ。
彼女には人を愛するということ。
飾られた人間ではなくありのままの自分をさらけだせた。
高校に通って本当に良かったと今思っている。
たとえ、今自分が夢に外れてしまったとしていても、
ギターに出会えたこと。彼と生きたこと。彼女に教えてもらったこと。
いまだからこそ、笑って振り返ることができる。
*
僕は高校を卒業してからギターリストへの道を歩んだ。
決して楽ではなかった。
東京という大都会にやって来た田舎者には厳しい世界だったのだ。
上には上がいる。
ただ、田舎で人よりギターが上手であっただけという事を思い知らされた。
そんな時、おかんが倒れてしまった。
僕はスケジュールに穴を開けてでも実家へ駆け付けた。
しかし、これ以上は綴る事ができません。
どれだけ時間が経ったとしても、僕には辛いです。
でも、今辛かった過去を少しずつ受け止め始め出しました。
新しい出会いをしたんです。
阪神淡路大震災を経験した僕は関東大震災の怖さを存分に知っています。
僕の夢物語は昨年の3月からまた進み始めました。
仙台に住んでいた友達へ。
聴いてください。
『タイヨウとツキのうた』
〜あらすじ〜 完
『タイヨウとツキのうた』
東京都目黒区の事務所が大きく揺れた。
音合わせの練習は中断し一斉に外へ非難した。
あの時、何が起こったのかはわからなかった。
ニュースを見るまではこんな大惨事になっているとは夢にも思っていなかった。
その時、僕は事務所とは別でバンドを組んでいた。
ベースを担当していたマコト(仮名)とドラムを担当していたユウマ(仮名)。
マコトは東京都の国分寺、ユウマは東京都の錦糸町出身。
ボーカルは宮城県仙台市出身のヒロト(仮名)。
僕はほとんど仕事がなく、オファーがあった時に全体のマネージャーから連絡を受けてテレビ出演をするという形態。
メインはこの4人で組んでいたバンドだった。
大学の文化祭の余興とかでしか活動はなかったけどそれなりに楽しんでいた。
出会いはアルバイト。
僕は港区赤坂にある飲食店で働いていた。
そこでたまたまお客でやって来た彼等と知り合った。
閉店になってもなかなか帰らなかった彼らに声をかけた。
始めは早く帰ってほしかった。
お店の片付けをしながら彼らが帰るのを待っていた。
カラオケの電源を落とすとテレビのDAMチャンネルが消え、お店の中は静かになって行く。
彼らが歌っている曲が耳に入ってきたんだ。
ビブラートが綺麗なヒロトの声が隣の部屋まで聴こえてくる。
僕は仕事を忘れてずっとその歌声を聴いていた。
暫くして彼らの部屋から歌声が消えた。
僕はずっと聴きいってしまっていた。
もう終わりなんだと思う。
もっと聴いていたいと思った。
レジに戻って彼らの勘定をする。
領収書を発行するように言われた。
宛名は、自分でも知っている大手のミュージック会社だった。
僕は思わず声を掛けてしまった。
「バンドやってるですか?」
これが僕たちの出逢い。
ヒロトの声に魅力されて、三人に自分の名刺を渡した事が僕たちの絆の始まりだ。
僕たちはプライベートで遊ぶようになった。
アルバイトして、貯めたお金でお酒を覚えた。
マコは酒豪で介護役、ユウマとヒロトと僕は、
記憶を忘れるくらい飲み潰れた。
今までにこんな経験をしたことはなかった。
楽しかった。友達、仲間が出来たのだから。
誰一人の過去を僕は知らない。
誰も僕の過去を知らない。
ただ、音楽が好きで、やりたいように生きている。
それが幸せだった。
おかんが死んで落ち込んでいた気持ちも徐々に消えて行く。
おかんがやりたいことをやりながら夢を追っかければいつか生きてて良かったと思える日が来るということを教えてくれた。
その通りだった。僕は最高に幸せだった。
過去に縛られない。
良い意味でも悪い意味でもない。ちょうど中間地点。
マコの進めで僕たちはバンドを組む事にした。
フリーではなくバンドとして活動する。
そういう夢を作り上げた。
二年間、僕たちは共に生きた。
それぞれが違うアルバイトをこなしながら、週に4回、時間を作って演奏をする。
いつのまにか僕の一人の部屋は明るくなっていた。
月を見るのも一緒、太陽が登る時に眠りにつくのも一緒。
一人暮らしをしている感覚がない。
必ず誰かが僕の家に上がり込む。
何もない部屋だからこそ、アジトのように使っていた。
お金がないのは皆一緒だった。
仕事がない為、アルバイトで生計を立てる。
スーパーのお惣菜を買いに行っては昔の味を思い出す。
公園で木登りをしながら隠れんぼをした。
川沿いをどこまでも当ても無く歩いて見た。
一人じゃなくて、四人で。
おかんが死んで立ち直れたのはこんな仲間がいたからだったんだ。
マコトには彼女がいた。
高校時代からずっと付き合っている美人な彼女。
ユウマにもいた。
小さくて可愛い女の子。
僕とヒロトにはいない。
どちらも不器用で恋愛には無縁だった。
ヒロトには昔の彼女の話をよくした。
うんうん。と聞いてくれる。
聞いてくれるだけでよかった。
ヒロトはそんな僕の昔話を歌詞にした。
なんかすごく恥ずかしかったけど、
嬉しかった気がする。
「ヒロトには彼女いないのか?」
僕はそれとなく聞いた。
ヒロトは笑ながら「いないよ」と言う。
だから、僕の家に一番遊びにきていたのはヒロトだった。
マイペースで本音を言わないヒロトは、
誰よりも仲間思いで優しいやつだった。
「ヒロトはなんで歌を始めたの?」
「ん〜なんとなくかな。」
決してなんとなくでここまで練習したりする奴なんていない。
動機は何であれ、ヒロトにもきっと過去に色々あったのかななんて思う。
だって、ヒロトの作る歌詞はほとんどがバラードの切ない歌詞ばかりだったから。
ヒロトは仙台出身、たくさん雪が降る場所だったらしく、
僕たちにスノーボードを教えてくれた。
出会って始めての冬、ヒロトは僕たち三人をスノボーに連れて行ってくれた。
始めてのスノーボードに挑戦する。
新潟苗場。
ユーミンのライブ場所。
雪が降り積もる中、
「春よ来い。」
雪桜。
まだまだ、見たことも感じたこともない事ばかりだ。
Snow MUSIC
いつか、こんな綺麗な場所で、
ギターを弾いてみたい。
苗場の事を僕たちは、
「雪姫」
と呼んだ。
来年も雪姫に桜が舞う頃、もう一度、
四人で来よう。
ヒロトが企画したSnowMUSICツアーは
僕たちに寒い場所でも綺麗に咲き誇る桜という、強い勇気をくれた。
「雪姫に舞う桜」
ギターで弦を弾いてみる。
どの音が表現に合うのか。
マコもユウマも考えた。僕たちの宿題は与えられた音楽を弾くだけではない。
自分達で作り上げなければならない。
個人で仕事をしているんではなかった。
マコが気に入らないといえば作り直し、
一つの曲を作り上げる事がどれ程に難しいかを感じる。
昔、自分で作った曲は、弾き語りであって、違った音と音と結ぶ事は別次元だった。
与えられたものを演奏する事は練習すれば出来る。
一から作り上げる為には別の音を勉強しなければならない。
ユウマとヒロトが喧嘩したのはこの事が始まりだった。
ヒロトは歌詞を付けて歌うだけ。
最も自分の声が生きるキーとリズムを求める。
ここのリズムは16拍子ではなく8拍子に変えてくれ、
ここのキーのフレットを下げてくれ、上げてくれ。
それは自分勝手だと。
ボーカルが全てじゃないかもしれない。
しかし、聴いている人にはそう映るかもしれない。
良い曲を作りたいという願いはぶつかり合いなしでは決して生まれない。
誰かが折れても生まれない。
簡単な事では決してなかった。
作曲に必要なのはギターとピアノ。
マコはギターもピアノも弾く事ができる。
ベースは一人では練習していても上手くなったかどうかの判断は難しい。
だからマコはピアノも同時に練習した。
ユウマはドラムとギター。
音楽を聴きながらそれにあわせて練習をする。
ヒロトは歌とギター。
僕はギターだけ。
しかし、三人とも僕が一番上手いと言ってくれた。
だからこそ、僕は他の楽器を弾こうとは考えない。
ギターソロを誰にも負けないように練習する。
それぞれが毎日のように練習をするけれど、
曲はなかなか出来上がらなかった。
個人の活動もある。
そちらの練習だっておろそかにしてはいけない。
マコの口から出た言葉はあまりにもヒロトには辛かったのかもしれない。
「今は個人の仕事に専念しよう。」
ユウマは同意した。
解散するわけではなかった。休止という言葉が適切なのかもしれない。
デビューもしていないけれども。
僕は必死で反対した。
しかし、マコもユウマも意見を変えない。
解散ではないのだから、今はもっと個人の腕と経験を重要視しよう。
ヒロトが首を縦に振って、休止が決まった。
みんな、わかってはいたと思う。
ボーカルが個人では何もできないことぐらい。
それでも、このままでは駄目だという判断だった。
桜がまだ咲き誇る前に、ヒロトは一時的に実家に戻った。
みんな、理不尽過ぎる。
僕は少し、失望してしまった。
三月、みんなで約束した雪姫の桜を見に行くことはできなかった。
暫くの間、一人ぼっちになる。事務所に通ってギターの腕を磨く毎日。
仕事をたんたんとこなす毎日。
好きだから追いかけていた夢がいつのまにか自分一人ではなく、仲間と一緒に追いかける夢に変わっていたことを実感する。
荒川沿いへ勇気を出して向かう。
ここは、東京に来た時にずっと一人でいた場所だった。
だいちゃんに会いたい。
彼女に会いたい。
おかんに会いたい。
…、
あの頃に戻りたい…。
そう思わせる場所。
過去を蘇らせる音と風、香り。
マコもユウマもみんなそれぞれ家族が近くにいる。
ヒロトの気持がわかった気がした。
誰か、そばにいてくれないかな。って思う。
始めて東京に来た時から4年くらいかな
彼女と別れて4年と半年。
今でもまだ好きなのかなって思う。
赤坂で幸せそうな彼女を見た時から、僕は彼女に対する自分の気持を心の奥底にしまった。
おかんのこともあって忘れていた時間もあった。
でも、ふと思い出すと胸が痛い。
狭い狭い世界にいるのはわかっている。
忘れなければいけないと言うこともわかっている。
仕事の世界は本当に広かった。
自分は小さな小さな生き物で、直ぐに踏み潰されてしまう。
だから、マコ達と一緒にいて頑張って来れた。
一生懸命に自分を表現した。
あの頃とは雰囲気が変わったのかな、
お金も少しずつ稼ぐようになって、
ダサい筈の自分が、東京に染まってきている。
ダサいほうがよかった…。
中身がなんにも変わってやいないのだから。
ギターを取り出したら、今の気持を表現できる曲を探す。
これから仕事を頑張ろうとか、
桜が咲く季節を迎える感じとか、
大切な人を見つけようとか、
そんな気持じゃなかった。
勝手に指が弦を押さえ始める。
右手がゆっくりアルペジオを刻む。
彼女に会いに行きたいとか、
あの頃に戻りたいとか、
頑張って自分を磨こうとしたけどダサかったとか、
そんなのばっかり。
流行りの歌も歌えなくて、
お洒落をしても駄目で、
そんな僕。
あの頃に戻りたいとか、彼女と夢を追っかけてたとか、
ずっと、聴いていて、心の奥に閉まった曲が勝手に流れてくる。
つまらないことだって、二人で笑っていたよね…。
「シングルベッド」…。
本当に大好きだった…ずっと大好きだった。
弾かないようにしてたのに…、
一人になるとなんでこんなに、
脆くなってしまうんだろう。
涙がシトシトと零れ落ちた。
「もしもし、お父さん。今日の夜、新幹線で帰るよ。
ちょっと疲れただけだから心配しないでいいよ。」
お父さんからの電話だとすぐに気が付いた。
盗み聞きをするつもりはなかったけど、僕の足はその場から動こうとしない。
「色々、頑張ってきたけどさ、東京は似合わなかったよ。
大学で出てきて、みんなそれぞれ就職していって、就職が決まらなかった僕だけ取り残されたって相談したでしょ?
でもその後、一生懸命自分の好きな歌で頑張ろうとやってきたんだけどさ、やっぱ、現実は辛かったよ。
だから、僕、帰って家継ぐね…。」
ヒロトの声はどんどんかすれていく。
僕とは違う涙…。一緒なのかもしれないけど、
少し違っていた。
お父さんという存在に悩みを打ち明けている分、
誰かに心配をかけているということ。
ごめんねと言う涙はお父さんに向けられていた。
「学費…ごめんね。」
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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