ついてない女
母子家庭で育った私。
絶対的な立場の母親。
反発しグレた兄。
高校卒業してから勤めていた会社が倒産。
次の仕事が見つかるまでと思いバイトで働き出した、ラブホテルのフロント兼メイクの仕事。
つなぎのつもりが1年になる。
3年付き合って、結婚も考えていた彼氏に振られた。
何人かお付き合いした人もいたけど、絵にかいた様なダメ男ばかり。
男運も悪いらしい。
こんな私は今年は厄年。
お祓いに行った帰りにスピード違反で捕まった。
こんな私のくだらないつぶやきです。
ぼちぼち書いていきます。
13/07/13 11:26 追記
ガラケーからスマホに変えました。
まだうまく使いこなせないため、ご迷惑をお掛け致します。
少し慣れてから改めて更新したいと思います。
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その日の夜。
亜希子ちゃんから着信があった。
亜希子ちゃんは私と桑原くんが付き合っているのは知っている。
桑原くんの怪我の具合を心配する電話だった。
そして臨月に入り、赤ちゃんはいつ産まれてもおかしくないという。
性別は女の子らしい。
今の子供は属にいうキラキラネーム、DQNネームというのか変わった名前が多い。
兄と香織さんのところは勇樹と女の子2人は平仮名なので読み方に困る事はないが、甥っ子姪っ子が通う幼稚園のお友達にも不思議な名前が多く、何と読むのか困惑する事もある。
しかし今の時代、そういう名前が多いから違和感はきっとなくなる事だろう。
亜希子ちゃんはまだ名前は考え中との事。
「最後に「か」か「な」がつく名前にしたい😆」と言っていた。
素敵な名前をつけて欲しいと思う。
話しは反れたが、亜希子ちゃんが桑原くんのお見舞いに行きたいと言っていたがまだ身内以外は無理と伝えると、一般病棟に移ったら一緒にお見舞いに行く約束をした。
亜希子ちゃんのお母さんも一緒である。
亜希子ちゃんが独身時代は何度も家に遊びに行っているので、もちろん亜希子ちゃんのお母さんは面識がある。
遊びに行っても仕事でいない事が多かったが、いる時は色々とお世話になった。
亜希子ちゃんは旦那さんとは相変わらずそれなりに上手くいっている様子。
旦那さんは前の会社を辞めて違う会社に転職をしたらしい。
不倫していた汚点を払拭しようと一生懸命の旦那さん。
亜希子ちゃんに未だに頭があがらない。
両親の入籍予定である木曜日。
待ち合わせ場所は、地元でもイチニを争う高級料理店。
ラフな格好ではかなり場違いなので、気に入って買ったはいいが着る機会がなく、クローゼットにしまいっぱなしだったワンピースを引っ張り出した。
約束の時間の10分前に到着。
既に両親は到着していた。
店に入るとボーイさんがいた。
「いらっしゃいませ」
「あの…寺崎の連れなんですが…」
「お待ちしておりました😄ご案内致します」
とても丁寧な挨拶。
薄暗い照明の店内。
ボーイさんの後についていく。
店内はほとんどが個室。
すれ違う店員さんは必ず立ち止まり「いらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀をしてくれる。
恐縮する。
案内されたのは一番奥の部屋。
ボーイさんが部屋の襖をノック。
「失礼致します。お連れ様をご案内致しました」
そう言って襖を開けた。
すると隣同士で仲良く座っていた両親がいた。
「みゆき😄」
父親が笑顔で手を挙げた。
ボーイさんは「失礼致します」とお辞儀をして戻った。
兄は仕事の都合で少し遅れると連絡がきていた。
勇樹くんとゆめちゃんがおたふくになったため、香織さんと子供達は留守番。
両親の左手薬指には光輝く結婚指輪。
交際歴30何年の新婚さんだ。
程なくして兄も到着。
兄は黒のスーツ姿だ。
兄も私も車で来たため、ノンアルコールのビールで乾杯。
家族だけでお祝いが始まった。
「結婚おめでとう」
「ありがとう😄」
嬉しそうな両親。
高そうな料理が運ばれて来た。
何から手をつけていいのかわからない。
私と兄は、ナイフで切ってフォークで口に運ぶという上品な行動に戸惑う。
スープもいつもみたいにお皿を持って飲み干したいがさすがにそれは出来ない。
兄も同じだった。
父親と母親は手慣れた感じで上手に切り分け食べている。
耐えられず料理を運んでくれるボーイさんに「すみません、箸を下さい」と注文。
兄も「箸2善で」と注文。
割り箸が来た。
やっと落ち着いてご飯が食べれる。
こんな上品な食事をする機会なんてまずない。
ナイフとフォークでの食事なんて、しいて言えば結婚式くらいだろう。
両親から入籍の報告があった。
「隆太、みゆき。今日から私は正式な父親だ。本当はもっと前からそうなる予定だったが…。頼りない父親だが、これからもよろしく」
父親は満面の笑みだ。
母親も今のところ癌の再発は見られないが、今でも定期的に病院に通っている。
桑原くんの事を聞かれた。
「次はみゆきの番だな😄」
心配はかけたくなくて桑原くんの事故、入院の事は言わなかった。
食事会も終わった。
父親と母親は仲良く車に乗り込む。
その姿を兄と2人で見守る。
幸せいっぱいの両親は笑顔で手を降って帰って行った。
兄もおたふくの子供が待っているからと帰宅。
私も車に乗り込む。
タバコを取り出すのに助手席に置いたカバンを開けた。
サイレントにしていた携帯が点滅している。
着信かメールが来ているという事だ。
運転席で窓を半分開けてタバコを吸いながら携帯を開いた。
桑原くんのお兄さんからの着信だった。
折り返しお兄さんに電話をするが留守番電話になった。
携帯をまた再びカバンにしまい車を走らせた。
すると今度はお兄さんからの着信。
しかし今度は私が運転中のため出られない。
近くのコンビニの駐車場に車を停めてまたお兄さんに電話をかける。
今度は出てくれた。
「すみません、入れ違いみたいになってしまいました」
「いえ、お忙しい中すみません」
「こちらこそすみません」
「あの、急で申し訳ありませんがこれから少しお時間ありますか?」
「これからですか?はい、大丈夫ですけど…」
桑原くんの事で何か話があるのかもしれない。
電話ではなかなか詳しく話を聞く事も出来ないため、お兄さんと会う事にした。
一度着替えに帰り、お兄さんと待ち合わせの喫茶店に着いた。
既にお兄さんは到着していて、喫茶店の出入口で待っていてくれた。
「遅くなりまして…すみません💦」
「こちらこそ急にお呼びして申し訳ない」
一緒に喫茶店に入り2人共コーヒーを注文した。
お兄さんはいつものスーツ姿ではなく、Tシャツにジーンズというラフな出で立ち。
鼻から下は桑原くんとそっくりだが、目はお兄さんはお父さん似で切れ長、桑原くんはお母さん似でパッチリ二重。
お兄さんもなかなかの男前である。
少しの雑談も交えながら、桑原くんの様子を聞く。
お兄さんとこうしてお話をするのは初めてだ。
とても丁寧な口調のお兄さん。
話していても落ち着きがあり、とても聞きやすい。
気遣いも有難かった。
お兄さんとの時間も慣れて来た時に、お兄さんの口から信じられない事実を聞かされた。
「実は雅之…藤村さん以外にもお付き合いをしている女性がいるみたいです」
それまで冗談を交えながらお兄さんと会話をしていたため、最初は何かの冗談だと思った。
お兄さんの話によるとこうだ。
お兄さんの仕事も営業。
ある日、取引先の近くのコンビニでお昼ご飯を買った。
次の取引先に行くのに余り時間がなかったため、このコンビニの駐車場でご飯を食べていた時、若者仕様の派手な軽自動車が入って来た。
ふとその軽自動車を見た。
その車の助手席から桑原くんが降りた。
お兄さんには全く気付いていない。
運転席から降りた女は、茶髪でキャミソールにミニスカートとかなり露出がある服装をしたスタイルが良い派手な人だったそうだ。
彼女がいるのは聞いていたが、こんな派手な女なのかと驚いた。
すぐにコンビニから出てきた桑原くんと女は、車に乗り込み右折していった。
お兄さんがいたこのコンビニは属にいうラブホテル街のすぐ近く。
右折したという事は紛れもなくラブホテル街に向かった事になる。
それからも何度かその女と桑原くんが一緒なのを見掛けた。
だからその女を私だと思っていたため、初めて会った時に全く違う女だったため驚いたそうだ。
私は背はあるがスタイルは良くないし、髪も黒に近い茶髪。
ミニスカートやキャミソール等露出が多い服はまず着用しない。
見た目はどちらかといえば地味な方だ。
私とは対照的な女。
お兄さんは「雅之のために一生懸命な藤村さんに申し訳なくて…余計なお世話ですが知らせておいた方が賢明かと思いまして」
そう言ってくれた。
お兄さん。
感謝します。
桑原くん。
全く知らなかったよ。
うまくやっていたみたいだね。
私は桑原くんを信じきっていた。
だから疑う事をしなかった。
しかしバレたからには私にも考えがあります。
今はまずは怪我が落ち着く事が第一。
怪我が落ち着いた時に…はっきりさせてもらうから。
お兄さんとの話しも終わり自宅に帰る。
桑原くんが浮気…?
どうもピンと来なかった。
怪しい事は何一つなかったからだ。
でも私と桑原くんはメールやちょっとした電話はほぼ毎日していたが、会える日は少なかった。
だから桑原くんが本当に他の女と浮気をしていたのなら、十分に時間はある。
私は昼間寝て、夜から朝方に行動。
桑原くんは私が寝る頃に起きて仕事が終わった時には既に寝ている。
何一つ疑っていなかったため、気付かなかっただけなのか?
今までの事は嘘だったのか?
訳がわからなくなる。
しかし不思議と冷静な私がいた。
今は事故に遇い、入院しているのは事実。
まずは桑原くんの怪我の回復を待つしかない。
モヤモヤはあるが、考えていても今はどうしようもない。
仕事に没頭。
桑原くんが入院して2週間が過ぎた。
人工呼吸器が外れた。
しかしずっと薬で眠らされていた桑原くん。
すぐにシャキっと目覚める事は出来ない。
麻酔が完全に覚めるまでは何日間か要するらしい。
落ち着けば一般病棟に移る事が出来る。
その時にゆっくり桑原くんに話を聞こう。
桑原くんが事故に遭ったため、転勤の話しはなくなった。
桑原くんの意識もはっきりし、一般病棟に移る事が決まった。
まずは一安心。
約2週間ずっと眠っていたため、体の筋力が衰えていた。
自力で起き上がる事も出来ない。
水も自分で飲めないため誰かが介助をしなければ何も出来ない。
でも話す事は出来る様になった。
ただ、しばらく人工呼吸器をつけていたため声もつぶれた様な声だ。
まだまだ退院は難しいが、たまに見せる笑顔は変わらなかった。
一般病棟に移ってすぐにお見舞いに行った。
何となくダルそうな感じだったが「藤村…来てくれたのか」とゆっくりと手を差し出してくれた。
まだ派手な女の事は黙っておく。
手術の傷の痛みは少ないが、体の自由がきかないのが一番辛いと言っていた。
「無理はしないで💦」
「ありがとう」
桑原くんはゆっくりと一言ずつ言葉を発する。
この日から毎日、桑原くんのお見舞いは欠かさなかった。
だいたい仕事に行く前の夕方に行く事が多かった。
桑原くんもだいぶ具合も落ち着き、つぶれた様な声から普段の声に戻りつつあり、時間はかかるがベッドから起き上がる事も出来る様になった。
笑顔も増えた。
そろそろ派手な女の話をしても大丈夫そうだ。
そう思い、いつもの様に病室に向かった。
「あら😄みゆきちゃん😄」
病室には桑原くんのお母さんがいた。
お母さんはほぼ毎日来て桑原くんの身の回りのお世話をしている。
「いつもありがとう😄」
「いえ、とんでもない💦」
「お見舞いで頂いたものだけど良かったら食べて😄」
そう言ってマドレーヌの様なお菓子を頂いた。
「ありがとうございます」
桑原くんは一人部屋。
もう少し具合が良くなれば大部屋に移る予定だ。
「おう藤村😄いつも悪いな」
ゆっくりと起き上がりながら話し掛けて来た。
「具合はどう?」
「まぁ、何とかな」
まだ力が入らずダルそうだ。
「今日もこれから仕事か?」
「そう、明日は休みだから少しはゆっくり来れるかな?」
その時お母さんが「みゆきちゃん😄ちょっと私、下の売店に行って来るわね😄ゆっくりしていって」
お母さんはそう言って下の売店に向かった。
今日はお母さんがいるから女の話しは出来ないと思っていたが、売店に行っている今がチャンスだと思いストレートに聞いてみた。
「ねぇ、あのさ、桑原くんって私以外にもホテルに行く様な女いるの?」
「はぁ~⁉」
目を丸くして驚く。
「派手な女と歩いてるところを見たんだけど…」
嘘をついた。
どう出るか見たかったからだ。
「派手な女…?いつ?誰の事だろ…」
桑原くんは心当たりが本当にないのか、それとも頭をフル回転させて言い訳を考えているのかわからない難しい表情をして考え出した。
「それっていつの話し⁉」
「最近の話し」
「最近…⁉うーん…」
また悩み出した。
「わっかんないなぁ」
今度は困惑の表情を見せた。
心当たりがないのか?
それとも惚けているのか?
結局、答えがでないうちにお母さんが売店から帰って来た。
「みゆきちゃん😄良かったら飲んで😄」
ペットボトルのジュースをくれた。
「すみません💦ありがとうございます」
この日は仕事だったため、これ以上長居は出来ずに職場に向かった。
その日のラブホテルは目が回る忙しさだった。
基本的にヘルスが多いと回転率が高い。
201号室から出てきたヘルス嬢、そのまま203号室に向かう。
ご苦労様である。
おかげ様で繁盛しているラブホテル。
改装をする事になった。
外装は何年か前に改装したため綺麗だが、客室をリフォームする事になった。
しばらくの間は休業する事になるが、私達メイクは荷物の運び出し等のため出勤になる。
ベッド等の重たいものは業者に頼むが、備品やタオル等の比較的軽いものをホテルの隣にある社長の自宅と自宅にある物置小屋に運ぶ。
これがメイク以上に大変である。
汗だくになりながら、何日間かかけて全て運び出す。
リフォームが終わったらまた全てまたホテルに戻す。
社長の家の物置小屋と2階の部屋はホテルのもので溢れていた。
リフォームもそろそろ終わりを迎えようとしたある日。
社長が倒れた。
突然「頭が痛い」と言って頭を押さえて倒れた。
「社長‼大丈夫ですか‼」
「誰か‼救急車‼」
従業員は社長の様子に騒然。
社長の娘である真里さんが騒ぎに駆け付けた。
ラブホテルの経理を担当している。
程なくして救急車が到着。
社長は桑原くんが入院している総合病院に運ばれた。
社長は今年70歳。
とても従業員を大事にしてくれる。
私が面接に来た時も「気楽にね」と笑顔だった。
困った事があれば夜中でもすぐに駆け付けてくれた。
背は私より低く、ちょっとお腹も出ているが年の割には若々しい。
趣味の釣りに行きホテルをあける事も度々あるが、釣って来た魚は従業員にくれたりした。
色々お世話になった社長。
何処と無く父親に似ていた社長。
どうか無事であります様に…‼
社長は無理が祟った様だ。
そのまま入院になった。
脳内出血を起こしていた。
70歳という年齢もあり、絶対安静となった。
社長は入院したままリニューアルオープンの日を迎えた。
社長の代わりに真里さんが忙しそうにお祝いを頂いた方々に挨拶回りをしていた。
真里さんはいつもは別の場所で事務的な事をしているので、ホテルの仕事はほとんど知らない。
なのでホテルの事は私達従業員に丸投げ。
逆に都合が良かった。
内装は明るくなり、客室も大きさは変わらないがじゅうたんの部屋も全てフローリングになった。
お風呂も洗面台も全て入れ替えた。
全ての部屋を見て歩く。
生まれ変わったホテルに喜びを感じた。
今日から1ヶ月間はリニューアルオープン記念で記念品の配布と基本料金が千円引きになる。
早速お客さんが来る。
安くなる事もあり、あっという間に満室。
しばらくは目が回る忙しさになりそうだ。
社長はリニューアルオープンの日を心待ちにしていた。
「最近は若い年齢のお客さんが多いから、若者向けの部屋にしたい」
そう言って私達に「どんな感じの部屋なら喜ばれるか?」と相談をしていた。
リニューアル前は夜遅くまで真里さんを含め色んな人達と話し合いをしていた。
社長が元気になったら、リニューアルされたホテルを見てきっとあのいつものはにかんだ様な嬉しそうな顔をするのが目に浮かぶ。
幸い社長は命には別状はなかった。
一安心である。
桑原くんと同じ病院に入院したため、社長の病室にも寄った。
社長は驚異的な回復をみせて、すっかり元気になっていた。
「社長😄体調はいかがですか⁉」
「おー藤村😄来てくれたのか😄」
真里さんのお姉さんである育子さんが社長の身の回りのお世話をしている。
育子さんもホテルの事務にいるため、良く顔を合わせる。
「藤村さん😄わざわざお見舞いに来て頂いてごめんなさいね💦」
「いえ💦実は彼氏が同じ病院に入院してまして…」
すると社長が「なんだ⁉俺はついでなのか⁉」と言って笑った。
「違いますよ💦」
慌てる私を見て、育子さんと社長が笑う。
元気になってくれて良かった😄
退院も近そうだ。
社長のお見舞いも終わり、桑原くんの病室に向かった。
桑原くんの病室の前に着いた時に、中から桑原くんの怒鳴り声が聞こえた。
「お母さんと喧嘩でもしているのかな…💧」
そう思いながら恐る恐る引き戸を開けた。
一斉に視線を浴びた。
桑原くんと一緒にいたのは知らない女の人だった。
パッと見た印象は、キャバクラ嬢?と思う様な派手な女性だった。
派手な女…。
もしかして…
お兄さんが言っていた女性なのか…?
派手な女は私をニヤニヤしながら見て「へぇー、雅之ってこんな女性を好きになるんだ」と小馬鹿にした様に言った。
「どちら様でしょうか?」
私は無表情のまま女性に聞いた。
「私?名乗る程の者じゃないから。雅之、また来るわ✋」
そう言って派手な女は帰って行った。
女が帰ってすぐにすかさず桑原くんに「今の誰⁉」と聞いた。
桑原くんはうつ向きながら「…元嫁」と呟いた。
元嫁⁉
何故元嫁がお見舞いに⁉
私は元嫁の顔は知らないが、お兄さんなら元嫁の顔は知ってるはず。
もし元嫁ならきっとお兄さんなら元嫁だと言うと思う。
疑問に思いながら桑原くんに聞いてみる事にした。
桑原くんに「何故元嫁がお見舞いに来たの⁉」と尋ねた。
「実は…」
桑原くんは話し出した。
離婚してからしばらくは会っていなかったが、ある日会社の飲み会でスナックに行った。
そこでホステスをしていたのが元嫁だった。
最初は全く気付かなかったらしい。
結婚していた時は地味でどちらかというとぽっちゃりしていた元嫁。
しかしホステス姿の元嫁はかなり痩せて派手になっていた。
元嫁から声を掛けられなかったら気付かなかった位、劇的に変わっていた。
最初はその場で終わったがこれを機に元嫁が桑原くんに連絡をしてくる様になった。
私と付き合っていたため無視をしていたがある日、桑原くんが営業先から会社に帰る途中に寄ったコンビニで、これまたばったり元嫁に会ったそうだ。
「良く会うね😄」
元嫁が話し掛けて来た。
「ちょっと話があるんだけど付き合って」
そう言われた桑原くん。
断れば良かったが断るに断れず元嫁と仕事が終わってから会った。
話しというのは「よりを戻したい」というものだったが、私という存在がいたため断った。
しかし元嫁は諦めず、何度も桑原くんに接近。
誰に聞いたかは知らないが今日いきなりお見舞いに来たから怒鳴っていたら私が来た。
というものだった。
ただ、お兄さんの話しは絶対に違うと言い張る。
元嫁とは離婚してからは一度も体の関係はないと。
お兄さんが見たのは元嫁だったのかもしれないが、劇的に変わっていたため気付かなかったのだろうと言っていた。
お兄さんが嘘をついたのだろうか?
桑原くんが嘘をついているのだろうか?
半信半疑で桑原くんの話を聞いていた。
後日、真実が判明する。
ある日、いつもの様に仕事に向かう前に桑原くんのお見舞いに行こうと支度をし、何気無くポストを覗くと郵便物が届いていた。
電気代の請求書と差出人が書いていない白い封筒。
まず電気代を請求書を開ける。
請求書を入れるバインダーにはさみ、給料日にまとめて支払う。
そして差出人が書いていない謎の白い封筒。
パソコンで宛先が作成されている。
恐る恐る封筒を開けると、何枚か写真だけが出て来た。
見て驚いた。
桑原くんが派手な女と仲良さそうにしている写真と、あつく抱擁しながらキスをしている写真、ラブホテルから出て来た写真。
相手女性は…そう。
まさに病院で見た元嫁であった。
しかしこんな写真を誰が私に送って来たのだろうか?
もしかして…お兄さん⁉
お兄さんに電話をした。
仕事中なのは承知していたが、どうしても今聞きたかった。
「はい、もしもし」
「もしもし、藤村です…お仕事中に申し訳ありません」
「大丈夫です😄今はちょうど休憩していましたから」
「あの、早速なんですが…写真を送ったのはお兄さんですか⁉」
「写真…届きましたか」
やっぱりお兄さんか。
「差出人がなかったものですから…」
「そうでしたか💦それは大変失礼致しました😫」
どうやら書き忘れた様だ。
「何故、この写真を…?」
「兄の私が言うのもおかしな話しなんですが、雅之は女が絶えず家族を巻き込み大変迷惑をしています。藤村さんは本当に雅之の事を大事に思ってくれて真面目な方とお見受けしました。なので、雅之の女癖の悪さを知って頂き別れて頂きたくて…」
お兄さんの話しは桑原くんの離婚してからも女が絶える事はなく、中には妊娠したと家に乗り込んで来た女もいたとか。
私は夜仕事のため、私がいない時間は他の女と遊んでいた事が判明。
何人もの女を泣かせて来たらしい。
この写真は知り合いの探偵にお願いをしたらしい。
探偵から元嫁だと聞き、驚いたそうだ。
お兄さんは「藤村さんには雅之みたいな男ではなく、きちんとした方にきっと出逢えるはずです。余計なお世話ですが…雅之のためにあんなに一生懸命やって頂き、大変心苦しくなってしまいまして」
お兄さんはそう言った。
どうやら桑原くんは相当女癖が悪かった様だ。
いわゆる遊びだろうが、私は器が大きな人間ではない。
こんな写真を見て冷静でいられるかわからないが、写真を持って桑原くんの病院に向かった。
「おう😄藤村😄」
いつもの桑原くんの笑顔。
「どうした?険しい顔をして…」
どうやら早速顔に出ているらしい。
不思議そうに私を見る桑原くん。
「桑原くんに見て欲しいものがあるんだけど…」
私は写真を渡した。
さぁ、どういう言い訳をするか聞いてやろうじゃないか。
桑原くんはあっさり認めた。
桑原くんの言い分はこうだ。
愛しているのはみゆき。
元嫁は遊び。
遊びだから何とも思っていない。
本気になったら浮気だが、遊びは浮気じゃない。
だから言う必要もないし、みゆきとも別れる気はない。
元嫁=ただでやれる女。
風俗と同じ。
みゆきとはすれ違いでなかなか会えないから欲求を発散しただけ。
だからこれは浮気じゃない。
すごい持論を言い出した。
付き合っている人がいても他の女とホテルに行くのは浮気ではなく、気持ちが変わったら浮気になるそうだ。
私には理解出来ない。
聞いてみた。
「私と会えない時に他の女を抱いて私に対して何にも思わなかった?」
「えっ⁉別に何にも…だってあいつには何にも感情ないし」
「もし私が桑原くん以外とやってたとしたら?」
「別に何とも…だってただやるだけならトイレに行って用足しする感覚だし」
これはこれは恐れ入りました。
桑原くんの感覚とは私合わないな。
私と付き合う前に誰と何をしてようが関係ないし気にはしないが、今現在平行しているとなれば普通なら嫌で仕方ないだろう。
はっきり言って気持ちが悪い。
しかし桑原くんは理解出来ない私を理解出来ない様だ。
本当に好きだったため、この桑原くんの話しにはかなりのダメージを受けた。
多分、性欲が衰えるまでは一生このままだろう。
この日を境に桑原くんのお見舞いに行くのを止めた。
桑原くんはある種の病気だ。
そして私に嘘をついた。
冗談だとわかる嘘や許される嘘なら「何言ってんの(笑)」 で済まされるが、桑原くんは笑えない嘘である。
これがどうしても許せなかった。
桑原くんのお見舞いに行かずに2週間が過ぎた。
桑原くんのお兄さんから電話があった。
「雅之、今月末に退院する事になりました」
私は「そうですか」しか言えなかった。
お兄さんに恨みはない。
とても良くして頂き、桑原くんの女癖が悪いという病気を教えてくれた。
お兄さんには桑原くんと別れる旨を伝えた。
「その方がいいと思います」
お兄さんが言った。
うちにある桑原くんの私物を桑原くんの実家に送った。
桑原くんとの思い出の物も処分した。
桑原くんとの楽しかった思い出が辛かったが、過去は過去と割り切り心を鬼にして全て処分した。
お兄さんが言っていた桑原くんが退院の日になった。
この日は休みだったが私は病院に行く事はなく、特に予定もなかったため仕事している間に観れずに録画しておいたドラマをゴロゴロしながら観ていた。
その時、アパートのチャイムが鳴った。
玄関の覗き穴からそっと覗くと桑原くんが立っていた。
私は居留守を使った。
桑原くんは私が部屋にいる事を察知しているのか、チャイムはしばらく鳴り止まなかった。
ひたすら無視の私。
根比べである。
桑原くんに合鍵を渡していなかったのは幸いだ。
桑原くんは諦めたのかチャイムが鳴り止んだ。
すると今度は携帯が鳴った。
桑原くんである。
携帯も出ずに放置。
何度か着信はあったものの直ぐに鳴り止んだ。
本当はしっかり話し合うべきなのだろうが、この時は桑原くんに会いたくなくて卑怯な逃げ方をした。
少し気持ちが落ち着いてから…
そう思っていた。
それからしばらくは桑原くんから音沙汰はなかった。
ある日、桑原くんから一通のメールが届いた。
「みゆきに会って話したい事があります。俺に会ってくれる気になったら連絡下さい」
以前に比べると、少し時間が経ったからか気持ちは落ち着いていた。
しかし桑原くんに会うとまた沸々と怒りが込み上げてくるかもしれない。
かなり悩んだ。
結果、このままいつまでも逃げているのは良くないと判断、今度の私の休みに桑原くんに会う事にした。
桑原くんは退院後もしばらくは自宅療養だとお兄さんが言っていた。
いつまで休みなのかはわからないが、今度の私の休みは大丈夫な様だ。
いよいよその日が来た。
約束は午後3時。
変な緊張感でいっぱいだった。
手のひらが汗ばんでいる。
桑原くんと待ち合わせしているファミレスに着いた。
少し時間が早かったため、ファミレスの駐車場でタバコに火を点けた。
何となく落ち着かなくてソワソワする。
そこへ一台のタクシーが停まった。
降りて来たのは桑原くんだった。
前に比べるとかなり痩せた。
前の様に覇気がない。
ずいぶんと印象が変わっていた。
車の中からタクシーから降りて来た桑原くんを見る。
タバコを消して車を降りた。
「桑原くん」
私から声を掛けた。
「藤村…久し振り」
そう言って軽く右手をあげたが笑顔はなかった。
ご飯は食べて来たため、デザートセットを注文。
お互い何から話していいのかわからない状態で無言が続く。
「お待たせ致しました~」
明るい声で店員さんがデザートセットのチーズケーキと飲み物を持って来た。
チーズケーキを食べながら先に口を開いたのは桑原くんだった。
「藤村…もう本当に俺達無理なのか?」
「だって…」
「他の女とやるのがそんなに嫌なのか?」
「…普通なら嫌だと思うけど」
「だったらどうしてこの世に風俗というものがあるんだ?男は女と違ってたまるんだ…ただそれを発散させるためにそういう女がいるんだろ?それもダメなのか?」
「ダメだね」
「俺は藤村の事を本当に愛しているんだ…本気なんだ…そんな理由で別れたくない」
「そんな理由⁉私にとっては十分理由になると思うけど。そしてもう一つ。嘘をついた。これがどうしても許せない」
黙る桑原くん。
「桑原くんと過ごした時間は楽しい事が多かった。転勤にもついていこうと思った。でも価値観が違う。私は桑原くんが他の女を抱いたその体で帰って来るのは許せない」
「許してもらえないなら…別れるしかないか」
「そうだね…他の女とやっても笑って歓迎してくれる女性を見つけて。ここのケーキ代はごちそうするわ。退院祝いでね…今までどうもありがとう。さようなら」
私は伝票を持って席を立つ。
桑原くんの事は大好きだった。
結婚も考えていた。
でも、心が狭い私は桑原くんの女癖の悪さを容認する事が出来なかった。
嘘をつかれたのが許せなかった。
本当はもっと桑原くんと話したい事はあったが、話したところで何にも変わらないのはわかった。
だから未練はあったが、潔く席を立つ事を選んだ。
この日をもって桑原くんとのお付き合いに終止符を打った。
翌日。
亜希子ちゃんから電話が来た。
「みゆきん😄ご無沙汰ー‼今時間大丈夫⁉」
「元気だった?大丈夫だよ😄」
亜希子ちゃんは臨月に入り、いつ赤ちゃんが生まれてもおかしくない状態だった。
「お腹がパンパン(笑)体重も10キロちょっとも増えたから顔もパンパン(笑)」
そう言って笑っていた。
「あのさ、みゆきん…話変わるんだけど…」
亜希子ちゃんが話を変えた。
昨日の夜、桑原くんから亜希子ちゃんに連絡があったらしい。
「藤村と別れる事になったから」
一言だけの連絡だったらしい。
そこで亜希子ちゃんは何故別れる事になったのか聞きたくて連絡をしてきた。
亜希子ちゃんには全て話した。
亜希子ちゃんは相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
「そうだったのか…」
話し終え、亜希子ちゃんが口を開いた。
「私は亜希子ちゃんみたいに観音様にはなれなかったよ…」
旦那の浮気現場を目の当たりにしても許せる亜希子ちゃんが心からすごいと感心した。
桑原くんと別れてからまだ一晩しか経っていないためまだ傷は癒えていない。
亜希子ちゃんと話しているうちに涙が出て来てしまった。
「みゆきん😄泣きたい時に泣くのが一番すっきりするよ😄落ち着いた時にはまた一緒にご飯でも食べよ✨」
「ありがとう」
亜希子ちゃんとの電話を切ってからひたすら泣いた。
泣いて泣いて。
久し振りに泣いた後、汚くなった顔を整えて一人でカラオケに行った。
3時間、手当たり次第曲を入れて歌うというより叫びまくった。
声は枯れたが、気持ちは晴れ晴れだった。
また頑張ろう😄
仕事に打ち込む日々になった。
桑原くんと別れてからしばらくは平穏な日々が続いた。
別れた直後は大袈裟な表現をすれば、全宇宙の不幸を私が背負ったみたいなどん底に陥るが、時間が経ち過去の事になると気持ちも落ち着いて来る。
ある日の事。
私は風邪をひいて39℃の熱が出て、喉も痛くて病院に行き薬をもらい仕事も休んでひたすら自宅で寝ていた。
夜7時半過ぎ。
ダルい体でトイレに起き、携帯を開いた。
メールが3件と兄からの着信が2件。
サイレントにして寝ていたため気がつかなかったのである。
喉が痛く声もかすれていたため兄にメールで返す。
「電話くれてたみたいだけど気付かなくてごめん。風邪をひいてしまい喉が痛いからメールで…」
すると兄からすぐに着信があった。
「喉が痛いからって言ってるのに💧」
そう思いながらも電話に出た。
「みゆき‼具合が悪い時に悪いな…香織が今日から入院する事になってな」
「えっ⁉どうして…どっか悪かったの⁉」
「あぁ、腰のヘルニアが悪化して手術をしなきゃならなくなってさ」
「そうなんだ…」
そういえば最近会った時に香織さん、腰が痛くて辛いと言っていたな。
ヘルニアだったのか。
「お前に手伝って欲しい事があったんだけど具合が悪いなら寝てろ。悪かったな」
香織さんが入院中は子供達は香織さんのご両親が面倒を見るそうだ。
お見舞いに行きたいが風邪をうつす訳にもいかない。
しばらくは入院になるみたいだから、治ってからお見舞いに行く事にした。
1週間後。
風邪も治り香織さんのお見舞いに行った。
兄の自宅の近所にある個人病院。
整形外科では評判が良い病院だ。
「みゆきちゃん😄わざわざありがとう✨」
香織さんは元気な様子。
「具合は?」
「おかげ様で😄みゆきちゃん風邪ひいてたんだって⁉もう大丈夫なの⁉」
「おかげさまで😄」
「もう少ししたら退院なのよ😄隆太には大変な思いさせちゃったし、子供らにも寂しい思いさせちゃったからね、退院したら頑張らなきゃね😄」
「無理はしないで💦」
「大丈夫だよ👍」
笑顔の香織さん。
それから程なくして香織さんは無事に退院。
子供達はママが退院して大喜び😄
やっぱり子供にとってママは最高の存在なんだな。
はしゃぐ子供達を見てそう感じた。
兄家族は私の中で理想の家族。
でも…
もう男は懲り懲り💧
あーあ。
最近、すっかりオヤジ化している。
だから恋愛とは無縁の生活。
基本、出掛ける以外はジャージである。
休みは昼過ぎまで寝て、明るいうちから酒を飲みゴロゴロ。
必要以外は部屋に引きこもり。
洗濯や掃除は気が向いたらまとめてやる。
食事もたまには作るが、8割はカップラーメンやコンビニ弁当。
前はそれなりに掃除もお洒落も頑張っていたが、最近はどうでも良くなっている。
30代も半ばの独身女がこれじゃいけないのはわかっているが…元々面倒くさがりの性格が更に酷くなった。
体重も3キロ増えた。
これじゃ彼氏なんて出来る訳がない。
そもそも出会いがない。
職場は社長以外女性である。
外出もしない。
これといった趣味もない。
亜希子ちゃんも直美も結婚し、以前に比べて会う機会も減った。
犬でも飼いたいがアパートはペット禁止。
仕事のみの毎日。
唯一の楽しみが酒を飲みながら録り溜めしていたドラマを観る事。
これではつまらない人生である。
給料日後に2連休があった。
そうだ、1泊で1人旅もいいな🎵
そう思いパソコンを開き安く泊まれそうなホテルを探して予約。
旅行なんて久し振り😄
テンションが上がる⤴⤴
埃をかぶっていたスーツケースを引っ張り出した。
前日は夜中まで仕事だが、朝は6時には起きての1人旅。
不思議と目覚めは良かった。
スーツケースに着替えやブラシ等を入れ、車の後部座席に積んだ。
好きな音楽を聴きながらの気ままな1人旅。
天気にも恵まれドライブ日和。
夕方6時過ぎに予約していたホテルに着いた。
駐車場に車を停めて、カラカラとスーツケースを引っ張りながらホテルのフロントに着いた。
真新しいビジネスホテル。
「予約していた藤村ですが…」
「藤村様ですね😄お待ちしておりました😄」
50代と思われる上品な口調の男性が笑顔で迎えてくれた。
部屋は8階。
1階はロビーと売店があるが、ホテルの3件隣にはコンビニがあった。
鍵をもらいエレベーターに乗り込み、8階に着いた。
泊まる部屋はエレベーターを降りてすぐの部屋。
少し手狭だが、掃除が行き届いた部屋だ。
仕事柄、つい色々と部屋の中を見て歩く。
カーテンを開けると中々綺麗な街の明かりが光り輝いていた。
夕食はついていないため、荷物を置いて夕食を食べに徒歩で出掛けた。
フロントの男性にオススメのラーメン屋さんを聞いた。
行ってみると並んでいた。
でもせっかくなので最後尾に並ぶ。
30分程で席についた。
値段は少々高めだが、高いだけありとても美味しいラーメンだった。
私は1人でラーメン屋さんに入るのは抵抗はない。
両隣がカップルだったため少し寂しい気分になったがカップルの話を盗み聞きしながらラーメンを食べた。
右隣の若いカップル。
「ねぇーこうちゃん❤見て~このチャーシューおっきい❤」
女性がチャーシューを箸でつかみ上げてこうちゃんに見せる。
こうちゃんは「本当だねーおっきいね😄」と返す。
若いって羨ましいなと思いながら1人ラーメンをすする。
30代半ばの私が同じ事をしてみたらきっとドン引きされるだろう。
「ねぇ見て~❤チャーシューおっきい❤」
「お前の顔と変わらんぞ」
そう言ってくれる人なら救われそうだ。
お腹もいっぱいになり、帰りにホテルに近いコンビニに寄った。
ビールやお茶やさきいか、タバコを買いホテルに戻る。
ジャージに着替えて備え付けのユニットパスでシャワーを浴びた。
テレビをつけながら買って来たビールを飲む。
気分は最高だった。
すごく贅沢な気分になる。
1人旅ってすごく楽しいじゃん🎵
今度はお金貯めて、電車や飛行機で遠くに行ってみるのもいいな😄
何て考えながら至福の一時を過ごす。
翌朝。
7時に起きて朝食バイキング会場へ。
大好きなクロワッサンが山積みになっている。
今日はラブホテルの皆にお土産を買おう🎵
朝食を食べてからホテルの売店を覗いた。
その時。
「…藤村‼」
声を掛けられた。
振り返ると、何とそこには桑原くんの姿があった。
「えっ?桑原くん⁉」
驚きの余り、手に持っていたお土産を落としそうになった。
全身の血の気が一気に沸騰した感覚だった。
「何してんの⁉」
「そういう藤村こそ何してんの⁉」
「何って…1人旅」
「1人旅⁉」
「別にいいじゃん…で、桑原くんは何でここにいるの?」
「俺は友達の結婚式があって泊まってたんだよ」
「そうなんだ…」
その後はしばらくの無言が続いた。
まさかこんなところで桑原くんに会うとは夢にも思ってなかったため、心臓がオーバーヒートしそうなくらいフル回転していた。
きっと顔に出ていたのだろう。
「まるで生き霊に会ったみたいな顔だな(笑)」
桑原くんはそう言って笑っていた。
そして「藤村、やっぱり俺はお前じゃなきゃダメだわ…藤村と別れて藤村の大事さが身に染みてわかった」
「えっ?今、そんな事を言うの⁉」
「今言いたかった」
「無理無理💧女癖悪い人は勘弁✋」
「考え直してみて、まさか藤村に会うとは思わなかったから驚いたよ💦あっ俺もう行く時間だからまた✋」
そう言って桑原くんは軽く手を上げて姿を消した。
…私、どうしたらいいの?
売店でお土産を買い部屋に戻った。
まだドキドキが止まらない。
髪が短くなっていた以外は何も変わらなかった桑原くん。
大好きだった時の笑顔も変わらなかった。
心が揺れる。
荷物をまとめながら色々と考えた。
でも、やっぱり嘘と女癖の悪さは許せない😣
きっとうまくいかないと思う。
やっと桑原くんの事を割り切ったのに…
心から嫌いになった訳ではなかった。
嫌いになれたらどんだけ楽か…
いや、ここで悩んでいても仕方がない‼
せっかくの1人旅、楽しまなきゃ✨
目をギュッとつぶり、頭を軽く左右に振った。
よし‼
座っていた私は両手で太ももを軽く叩き気合いを入れる。
忘れ物がないか確認し、チェックアウト。
精算をして駐車場に向かった。
前から行ってみたかったアウトレットに向かう。
色々見て歩いた。
楽しかった1人旅も終わり無事に我が家に到着。
お土産も結構買ったつもりだったけど、並べてみたら以外に少なかった💧
デジカメにおさめた写真をパソコンに保存。
初めての1人旅は天気にも恵まれ、まずまずの旅行だった。
桑原くんに会わなければ…
モヤモヤが残ってしまった。
それから1週間後。
桑原くんから連絡が来た。
「おう藤村😄この間は1人旅楽しかったか?」
「おかげ様で…で、用件は何⁉」
「何だ⁉ずいぶん冷たいな…いや、特に用はないんだけどさ、この間久し振りに藤村を見たら色々と思い出しちゃってさ😅ちょっと声が聞きたくなってね」
「そう」
桑原くんからの電話は嬉しさ半分、複雑さ半分だった。
「なぁ藤村…」
「何?」
「俺達よりを戻さないか?」
「戻さない」
「そんな簡単に却下しないでよ💦俺改めるから」
「無理だね、そんな簡単に改まる訳がない」
「俺、藤村は俺から離れないっていう自惚れと変な自信があったんだ。だから…藤村がいなくなってからずっと藤村の事を考えてた。バカな俺を責めたよ」
「…」
「なぁもう一回だけチャンスをくれないか?信用を回復するには時間がかかるかもしれないが…」
「…ちょっと考えさせて」
「俺は藤村を裏切り傷付けた。俺が全て悪い。でも本当に反省し心から藤村に謝りたいし、許されるならばまた藤村と一緒にいたい。勝手な男だけど…信じて欲しい」
「…だから少し時間をちょうだい。今すぐに返事は出来ない」
「わかった。また1週間後に連絡する」
本当に勝手な男である。
人の気持ちを振り回すのもいい加減にして欲しい😠
でも…まだ桑原くんへの思いが完全に切れていない私。
信じていいのか…
でも信用するのが怖い。
そう簡単に病気は治るのだろうか?
ほとぼりがさめたらまた同じ事を繰り返すんじゃないだろうか?
もう傷付きたくない。
桑原くんを本当に好きだったからこそ傷は深い。
悩みに悩んで、いよいよ約束の1週間が来た。
約束の午後2時を少し過ぎた時に桑原くんから着信。
「おう藤村😄今電話大丈夫か?」
いつもの桑原くん。
後ろが少し騒がしい。
どうやら出先からの電話の様だ。
「仕事中だよね」
「ちょっと前に一仕事終わってね、今出先だからうるさいと思うけど」
「仕事中ごめんね」
「大丈夫😄次まで少し時間あるし、これから遅めの昼飯だ🎵」
「お疲れ様」
「おう👍で…藤村、少しは考えてくれたか?」
「うん…」
「冴えない返事だな…やっぱり俺とは無理か?」
「いや…ていうか…ぶっちゃけまだ桑原くんの事は嫌いになれてないのよ、でもまた嘘をつかれたり女作られたりされるんじゃないかって思うと難しい」
「…そっか」
「でも一つだけ」
「何⁉」
「今日から3ヶ月間は恋人候補生という事で時間をあげる。見習い期間中にもし他の女とホテルに行ったり嘘を言ったら即却下、無事に約束を果たせたら恋人に昇格っていう事で」
「マジで⁉オッケー👍俺頑張るから😄これからの俺を見ていてくれ‼藤村を絶対に悲しませる事はしないから‼」
これで良かったのかどうかはわからなかったが、もし本当に桑原くんが更正してくれるなら…
そう思って冗談で「候補生」って表現をしたけど…
まだ桑原くんへの思いが残っていた私。
前みたいに楽しく過ごせるのかわからない。
きっと疑い深くなるだろうが、これからの桑原くんの行動次第では不安も消えるかもしれない。
葛藤の末に出した答えだった。
それから桑原くんは私の気持ちに応えてくれるかの様に信用を回復させようと、マメに連絡をくれる様になった。
今日のラブホテルは給料日後という事もあり、目が回る忙しさだった。
晩御飯も食べる暇もなく、部屋を開けても開けてもエンドレスで掃除が続く。
2時間ぶっ通しで動くとさすがにくたびれてしまった。
掃除する部屋はあったが、水分とニコチン補給で10分程休む事にした。
タバコに火を点けながら携帯を開く。
桑原くんからメールが届いていた。
「明日から2泊3日で出張になった😱朝イチの飛行機だからもう寝ます💤お土産買ってくるからなぁ🎵」
それはそれは。
メールが来たのは2時間前。
もうきっと夢の中だろう。
メールは返さず明日の昼間にでも返そう。
まだ桑原くんの事を心から信用した訳ではないが、前に比べると劇的に何をしているのかわからない時間がなくなった。
元嫁とは切ったとは言っていたが定かではない。
しかし疑っていてはキリがない。
桑原くんの一生懸命さが伝わり嬉しくもあった。
夜中の1時過ぎ。
やっと回転も落ち着いた。
一緒にメイクに入っていた愛ちゃんは「疲れたぁ😫」と言って伸びをしながらあくび。
綾子さんも疲れた様子。
私も控え室の奥で転がりながら伸びをした。
その日仕事を終えて帰ってからは爆睡。
目が覚めたのはお昼近かった。
桑原くんからメールが来ていた。
「現着👍」
どうやら無事に出張先に着いた様だ。
そう思っていたのだが…。
次のメールを見て驚いた。
今日のラブホテルは給料日後という事もあり、目が回る忙しさだった。
晩御飯も食べる暇もなく、部屋を開けても開けてもエンドレスで掃除が続く。
2時間ぶっ通しで動くとさすがにくたびれてしまった。
掃除する部屋はあったが、水分とニコチン補給で10分程休む事にした。
タバコに火を点けながら携帯を開く。
桑原くんからメールが届いていた。
「明日から2泊3日で出張になった😱朝イチの飛行機だからもう寝ます💤お土産買ってくるからなぁ🎵」
それはそれは。
メールが来たのは2時間前。
もうきっと夢の中だろう。
メールは返さず明日の昼間にでも返そう。
まだ桑原くんの事を心から信用した訳ではないが、前に比べると劇的に何をしているのかわからない時間がなくなった。
元嫁とは切ったとは言っていたが定かではない。
しかし疑っていてはキリがない。
桑原くんの一生懸命さが伝わり嬉しくもあった。
夜中の1時過ぎ。
やっと回転も落ち着いた。
一緒にメイクに入っていた愛ちゃんは「疲れたぁ😫」と言って伸びをしながらあくび。
綾子さんも疲れた様子。
私も控え室の奥で転がりながら伸びをした。
その日仕事を終えて帰ってからは爆睡。
目が覚めたのはお昼近かった。
桑原くんからメールが来ていた。
「現着👍」
どうやら無事に出張先に着いた様だ。
そう思っていたのだが…。
次のメールを見て驚いた。
DEAR 藤村みゆき様
本当はメールではなくて直接会って話したかったが恥ずかしいのでメールにしました。
藤村と付き合ってから、俺は藤村に甘えてばかりいた。
藤村が側にいるのが当たり前になっていた。
調子に乗っていた。
事故を起こして入院していた時も、毎日病院に来てくれて励ましてくれた。
仕事も一生懸命で人一倍責任感が強く気も強い藤村。
藤村を失い、自分がした事を反省してもしきれなかった。
なのにこんな俺にもう一度チャンスをくれた藤村。
感謝すると共に二度と過ちを犯す事なく、今度こそは藤村に幸せと笑顔を届けたいと思っています。
俺には藤村が必要。
藤村にとっても俺が必要だと思われる様に信用の回復に努めていきます。
仕事頑張って😄
藤村、愛してるよ。
――――――――――――
何か桑原くんらしくないメールだな。
ちょっとくさいメールだけど…
出張から帰って来たら桑原くんを笑顔で迎えよう。
「愛してるよ」なんて…
30代も半ばになって聞くなんて…恥ずかしいけど嬉しいものだ。
裏切られた事を忘れる事は出来ないかもしれないが、桑原くんをまたもう一度信じてみようと決めた。
今度裏切ったら即解雇してやるんだから😁
出張から帰って来たら、見習いから彼氏に昇格かな?
でもその前に昇格試験。
偉そうな私だけど、一度裏切られたんだから…せめてもの仕返し😁
こんな私でも幸せになれるかな。
淡い期待を持ちながら桑原くんが出張から帰るのを待った。
しかしこの淡い期待はすぐに崩れ去った。
元嫁が妊娠したというのだ。
桑原くんが出張から帰りうちに居た時に、桑原くんの携帯に元嫁から着信があった。
電話が終わった直後の桑原くんは顔面蒼白になっていたが、悪いが私には関係のない事だ。
しかも驚いた事に元嫁はもう妊娠5ヶ月目に入り、もう生むしか選択がないとの事。
「この子の父親なんだからみゆきという女と別れて」
そう言われたらしい。
私とよりを戻してからは元嫁とは会っていないらしいが、妊娠したとなると会って話し合わなければならなくなる。
桑原くんは「まさか妊娠なんて…あいつ騙しやがったな💢」と言い出した。
詳しくは知らないが、やる事をやっていたら子供が出来る可能性はある。
まさかこの年で知らなかった訳ではないだろう。
「なぁ藤村…俺はどうしたらいい?」
「そんな事私に聞かれたって知らないよ」
「俺は藤村と一緒にいたいんだ…あいつとはもう終わったのに…」
「生むしかないならお腹の子の父親なんでしょ?元嫁と結婚して一緒に育てていくか、結婚しないなら認知して生まれてから成人するまで養育費を払うかしか選択出来ないんじゃないの?」
「はぁ?藤村、お前他人事だからそんな簡単に言えるのか?両方無理だよ💢」
「じゃあどうすんの?」
「お前はそれでいいのか?」
「仕方ないじゃん…」
「そんなやつだとは思わなかったよ💢」
そう言って桑原くんは立ち上がり玄関のドアを力任せにドン‼と閉めて出て行った。
あぁ…。
もう桑原くんとはダメだな。
今回の事で桑原くんの本性が見えた気がする。
桑原くんへの気持ちが一気に冷めた日であった。
私の気持ちは冷めたが、それでも桑原くんは私と別れたくないと言う。
不思議なもので、まだ桑原くんに想いがある間は嬉しいものだったが気持ちが冷めた今はしつこいとさえ思ってしまう。
桑原くんの言い分はこうだ。
私とは別れる気はない。
むしろ結婚したいと思っている。
元嫁とはもう関係ないから子供が出来ようが俺は関係ないし、認知もしなければ結婚もしないしお金も一切払う気はない。
もっと早く連絡くれれば堕胎という選択をしたが、その期間を過ぎてから連絡をしてくる元嫁が悪い。
一度私と桑原くんと元嫁と3人でしっかり話し合いたい。
というものだった。
多分だが、桑原くん1人だと元嫁に太刀打ちが出来ないために一緒について来て欲しいと言う意味なのかもしれない。
まだ桑原くんは私が桑原くんの事を好きだと思っている様だ。
よし、わかったよ。
一緒に行ってあげる。
その代わりこれが最後だよ、桑原くん。
元嫁との話し合いに一緒に行く事にした。
郊外の静かな住宅街。
たまに犬の散歩をしている人や、買い物袋を下げて歩いている人を見掛けるが、ほとんど人影はない。
近くの公園で遊んでいる子供達の元気な声が響く午後3時過ぎ。
元嫁が住んでいるアパートにいた。
広めの1DKで、私の部屋とは対照的に可愛らしいピンクで統一された女らしい部屋だった。
明るい木目調の正方形のテーブルを挟み、元嫁と桑原くんが正面に座り、私は右に桑原くん、左に元嫁がいる場所に座った。
元嫁が氷が入った冷たい烏龍茶を持って来てくれた。
元嫁は病院で見た時よりも派手さはないが、私を見る目はまるで獲物を狙う肉食動物の様だ。
鋭い目で私を見る。
寺崎美和を思い出した。
「早速なんだけど藤村さん」
元嫁に言われて「はい」と返事をした。
「知ってるとは思うけど私、雅之との子供がお腹にいるの。愛し合った結果よね。だからあなたが邪魔なの」
すると桑原くんが「おい‼藤村が迷惑だろう💢藤村も同じだと思うが俺は藤村と別れるつもりはない‼俺は藤村を愛してるんだ…お前とはやり直すつもりはない」
「じゃあお腹の子供はどうするの⁉」
「知らねーよ💢お前が勝手に生むつもりだったんだろ?迷惑なんだよ💢」
「酷すぎない⁉赤ちゃんを殺せっていうの⁉」
「生みたきゃ勝手に生んで1人で育てりゃいいだろ?」
「あんたの子供なんだから責任取るのが普通だろ⁉」
「だから知らねーって言ってるだろ⁉お前みたいな女ただでやらせてくれなかったら、どうでも良かったし‼ピル飲んでるから妊娠しないって言ってたのに話が違うだろ💢」
「中で出したいってずっと言うからじゃん‼やる度に中で出してりゃ子供も出来るわ💢」
「騙したな💢」
はっきり言ってしまえば、桑原くんに対して気持ちが冷めた今、どうでもいい話であるが、こんな話正直余り聞きたくない話である。
喧嘩が始まった。
私は止める事も間に入る事もしなかった。
元嫁も桑原くんも一歩もひかない。
激しい怒鳴り合いが続いた。
近所迷惑になりそうである。
ついに巻き込まれた。
「あんたさぁー💢さっきから黙って見てるだけなんだけど、何か言ったらどうなの💢⁉」
元嫁が私に話を振ったのである。
「そうだ‼藤村からも言ってやれよ‼俺達は愛し合ってるんだって事をこいつにわからせてやるんだよ‼」
桑原くんも私に話を振った。
「わかりました。じゃあお聞きします」
私は元嫁を見た。
「何よ…」
一瞬身を引いた。
「喧嘩は胎教に良くないですよ、お腹の赤ちゃんもきっとうるさいと思ってますよ」
「…はぁ?」
思ってもいない話しに元嫁は目を丸くした。
「元気な赤ちゃんを生んで下さいね…」
「おい藤村⁉お前何を言ってるんだ⁉」
驚く桑原くん。
「…ねぇ桑原くん。父親になるんだよ?好きだ嫌いだ言ってる場合じゃないよね?」
「おい💢」
桑原くんは私を睨んだ。
「睨むのは構わないけど、私は申し訳ないけど桑原くんに対して何の感情もないの。私は桑原くんと今後付き合うつもりもなければ結婚なんてとんでもない。しいて言えば私の望みはお腹の赤ちゃんの父親として頑張って欲しい」
「あら、あなた話がわかるじゃない😄」
元嫁は今度は笑顔で私を見た。
「元気な赤ちゃんを生んで下さいね、私は今日限りで桑原くんとは完全に縁を切りますから…桑原くん、そういう事だから」
「勝手に決めるな💢藤村、お前おかしいぞ⁉」
「別に?普通だけど?」
「俺は絶対に別れない‼」
「もう二度とうちに来ないで‼連絡もして来ないで‼もしうちに来たら即警察呼ぶから‼何故こうなったのか、自分自身が一番わかるよね」
「話が違う‼」
どうやら都合が悪くなると話が違うとなるらしい。
「もう二度と会う事はないと思うけど元気で✋」
「…何で俺、こいつの前で藤村にフラれなきゃならないんだよ💢」
そう言って近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。
「さようなら」
私は逃げる様に部屋を出て大通りまで出てタクシーに飛び乗り、自分のアパートまで帰って来た。
自分の部屋の前に着いた。
考え事をしながらカバンから鍵を取り出した。
無意識だったのだが、私は玄関の鍵を開けるのに家の鍵ではなく車のキーレスのボタンを家に向かって押していた。
我に返った。
「はっΣ( ̄◇ ̄*)」
思わず笑ってしまった。
「私は何をしてるんだ…」
改めて家の鍵で解錠。
「はぁ…」
ため息をつきながら定位置に腰をおろした。
異様に疲れた。
「今日は早く寝ようかな」
シャワーを浴びて、テレビを観ながら冷蔵庫で冷やしておいたビールを飲む。
バラエティー番組なのだが笑えない自分がいた。
ビールもいつもは350缶を2本飲めば満足していたが、この日は6本開けたが酔わなかった。
気力がない。
ため息しか出ない。
いつもは休みでも夜中まで起きているが、この日は久し振りに22時には布団に入った。
翌朝、8時過ぎに目が覚めた。
布団に入りながら携帯を開く。
そういえば…昨日自宅に帰って来てから一度も携帯を開いていなかった。
音も消していた。
桑原くんから着信の嵐だった。
不思議と桑原くんからのメールは一件もなかった。
「桑原くんはもう過去の人」
そう呟きながら桑原くんを着信拒否にした。
「近いうちに携帯変えようかな」
そう考えているうちにまた眠ってしまった。
再び起きた時には、午後1時近かった。
大きなあくびをしながら布団から這い出た。
寝起きの一服をする。
「あっ…今日って誕生日だった」
自分の誕生日も忘れてしまう程、頭の中は混乱していた。
とは言ってももうめでたい年ではないし、夜はラブホテルの仕事がある。
遅い昼御飯は少し贅沢にピザランチでも頼もうかな。
1人で過ごす誕生日には慣れている。
幼少の頃は兄が祝ってくれたが、最近は1人が多い。
携帯を開くと、亜希子ちゃんと直美から「Happy Birthday❤みゆき❤」というメールが来ていた。
嬉しいものである。
直美は2人目を授かり、亜希子ちゃんももう予定日は近い。
忙しくてなかなか会えない2人だけど、友達以上の大事な存在だ。
1人で誕生日祝いでランチのピザを食べて、仕事に行く準備をする。
出勤前にホテルの社長から電話があった。
社長は無事に退院し、療養しながらホテルを仕切っていた。
「忙しいところ悪いが、今日はいつもより早く出勤出来るか?」
「はい、わかりました」
社長直々に電話とは珍しい。
何かやらかしたのだろうか?
少し不安になりながらも、いつもより40分程早目に出勤した。
ホテルの客室の片隅に「倉庫」と書かれた扉を開ける。
そこは倉庫ではなく、4畳半程の社長室。
社長室とは言っても、元々は本当に倉庫だったところを改装した部屋だ。
小さな机の上にはパソコンと書類が置かれ、すぐ横にテーブルがあり2人掛けのソファーがテーブルを挟んで置いてあった。
余り物はない、さっぱりした部屋だ。
一番最初の面接の時に一度だけ入った事がある。
「失礼します」
「おぉ😄悪かったな、呼び出して」
「いえ」
私は社長に言われてソファーに腰掛けた。
「藤村くんはいつも頑張って働いてもらって助かっているよ」
「いえ、とんでもない」
「早速なんだが、うちの社員にならないか?」
「社員ですか⁉」
驚いた。
まさか社員になる話しになるとは思わなかった。
「社員だと昼間と夜間のシフトになるが…今は夜間~深夜の人が足りないからこのまま夜間専属で頑張ってもらいたいのだが」
「はい」
社会保険も雇用保険もつけてもらえて、僅かだがボーナスも頂けるらしい。
こんな有り難い話しはない。
快く引き受けた。
仕事の内容はたいした変わらないが、金庫の管理と売上金の計算も任される事になる。
来月1日から社員となる。
頑張っていて良かった。
社長には本当に頭が下がる。
こうしてバイトから社員としてラブホテルで働く事となる。
ますます恋愛とは遠ざかる生活になりそうだ。
社員になってすぐ、桑原くんが何の連絡もなく突然うちに来た。
時刻は午後3時過ぎ。
平日だから桑原くんは仕事のはず。
さて、これから仕事に行く支度でもしようかと思っていたところだった。
部屋のチャイムが鳴り、鍵を開ける前に覗き穴から誰かを確認。
そこには桑原くんがいた。
突然の登場に動揺するが「言ったよね?来たら警察呼ぶよって」とドア越しに叫んだ。
「突然来て申し訳ない、藤村にどうしても話したい事があるんだ…これから仕事だろ?手間はとらせない。5分、いや3分でいい。玄関先で構わないから」
「…仕方ない、居座られても困るし」
そう思い私は玄関を開けた。
スーツ姿の桑原くん。
桑原くん愛用のムスクの香水が懐かしく感じる。
桑原くんは玄関に入るなりいきなり私に土下座をした。
「藤村‼本当に色々と迷惑をかけてしまって申し訳なかった‼元嫁の妊娠騒ぎは嘘だったんだ。元嫁が俺と藤村の仲を妬んでついた嘘だった。もう二度とこの様な事はないから…また俺とやり直してくれないか?」
「人騒がせな嘘だね…でももう、桑原くんに何を言われても桑原くんの事を愛せる自信はないよ」
「わかってる。でも俺は藤村を愛しているんだ‼」
そう言って、桑原くんはスウェット姿の私をギュッと抱き締めた。
嫌だ…
桑原くんの事は気持ちが冷めたはずなのに、何故かドキドキしちゃってる。
こんな女たらしな男、割り切ったはずなのに…‼
どうしてドキドキしてるんだよ😢
ダメダメ‼
藤村みゆき、しっかりしないと‼
自分で自分に話しかけている。
でも、ドキドキは収まらない。
「藤村…お前の事は俺が一番わかってる。お前を守れるのは俺しかいない」
抱き締めながら桑原くんは耳元で囁く。
「みゆき…愛してる」
初めて下の名前で呼ばれた。
「忙しい時に悪かったな…じゃあまた」
そう言って桑原くんは玄関から出て行った。
バカな私。
いい年して何をときめいてるんだよ💢
あんな女ったらし、またよりを戻したって苦労するだけだよ?
止めな‼
誰かが私にそう言い聞かせる。
でも、楽しかった思い出が蘇る。
何故か思い出って美化されているんだよな。
ふっ切ったはずなのに…
またポッと桑原くんへの気持ちに火が点いた。
この頃は社員になり仕事も増え、体力的にはそうでもないが精神的な負担が増えていた。
誰かに頼りたい気持ちもあった。
バカな私はまた桑原くんとよりを戻すのであった。
しかし以前の様な気持ちになる事はなかった。
相変わらずお互いの仕事の時間が全く違うため、会う時間も限られていた。
でも桑原くんは信用を回復させるために一生懸命だった。
今度は何事もなく平和に過ごしたいところだ。
亜希子ちゃんからメールが来た。
「昨日の夜10時38分に3050グラムの男の子を無事に出産しました❤」
予定日を大幅に過ぎての出産だった。
無事に生まれたのか😄
良かった🎵
早速入院している産婦人科に向かった。
部屋は4人部屋。
手前の右側に亜希子ちゃんがいた。
「亜希子ちゃん😄」
ベッドに横になっていた亜希子ちゃんが「みゆきん😆来てくれたんだ😄」と言いながらゆっくりと起き上がった。
ドーナツみたいなクッションに座りながら「陣痛は痛くて死ぬかと思ったけど、泣き声を聞いた瞬間は涙が止まらなくてね」と出産時の様子を語ってくれた。
新生児室にいる息子を見に行った。
新生児室には6人の生まれたての赤ちゃんが並んでいた。
「可愛い😍」
思わず笑顔になる。
亜希子ちゃんも微笑みながら我が子を見つめる。
出産時には旦那さんも立ち会ったらしいが、陣痛で苦しむ亜希子ちゃんに「頑張れ‼」と言ってずっと側にいてくれたらしい。
これから大変になると思うけど、目一杯赤ちゃんに愛情を注いで素敵なママになって欲しい😄
でも、たまには構ってね😄
亜希子ちゃん、出産お疲れ様。
そしておめでとう❤
朝、突然の吐き気で目が覚めた。
「気持ち悪い…」
布団から慌ててトイレに駆け込む。
落ち着いたと思ってもまた吐き気に襲われる。
「変なものでも食べたかな😞」
昨日の夜は休みだったから自分で餃子を作って食べた。
その餃子にあたったのだろうか?
お腹も下す。
「あぁ…ダメだ…病院行こう」
いきつけの近所の内科に駆け込む。
「あぁ…ウイルス性の胃腸炎だね、周りに誰か胃腸炎の人はいた?」
言われて思い出した。
一昨日、ゆめちゃんの誕生日でプレゼントを渡しに兄のマンションに行った。
肝心の主役であるゆめちゃんがウイルス性の胃腸炎になり、いつも元気なゆめちゃんが大人しかった。
相当具合が悪かったと思われる。
多分、その時にもらっちゃった可能性が高い。
香織さんも具合が悪そうだった。
点滴を打ち、薬をもらって帰宅。
今日…仕事になるかな😅
その時に桑原くんから着信。
「もしもし」
「おう藤村😄どっか出掛けてるのか?」
「うん、病院に行って来た」
「病院?風邪か?」
「ウイルス性の胃腸炎だって」
「胃腸炎?」
「吐き気と下痢が止まらなくてね」
「そっか…いや、今藤村のアパートの近くにいるんだけど車がないから…一緒に飯でも食おうと思ったけど無理だね」
「うん、多分吐くわ」
「そっかそっか💦」
桑原くんとは友達以上彼氏未満の付き合いをしている。
執行猶予中だ。
最近の桑原くんに若干の違和感を感じていた。
前の桑原くんとは明らかに違うのである。
何がどう違うの?と聞かれたらどう説明したらいいのか悩むが…
一緒にいても上の空になっている事が多かったり、「俺なんて生きてる意味あるのかな」と言ってみたり、突然怒鳴ってみたり泣いてみたり…
もしかしたら精神的に疲れているのかもしれない。
ある日、お互いの休みが重なり桑原くんと一緒に食事をしに行った。
私が前から行ってみたかったレストラン。
桑原くんがうちまで迎えに来てくれた。
「おっ?藤村、今日はずいぶん可愛い格好してるじゃん😁」
珍しくスカートをはいてみた。
桑原くんの車の助手席に座る。
桑原くんが好きなバンドの音楽が流れていた。
最初はにこやかに他愛もない話をしていたが、桑原くんの携帯に誰かから着信があった。
携帯をちらっと見た瞬間、眉間にシワを寄せて舌打ちをした。
そして車を停めて電話に出た瞬間「もう二度と電話してくんなって言っただろ⁉あっ⁉💢💢💢ふざけんなよ💢」
ものすごい剣幕で突然怒鳴った。
元嫁だろうと容易に想像出来た。
電話を切り「ふざけんな‼」と言いながら携帯をカバンの中に乱暴にしまった。
気を取り直して運転を再開。
また再び着信。
桑原くんは無視しながら運転。
結局レストランにつくまでの間、桑原くんの着信音が鳴り続いた。
桑原くんの精神的疲労の原因はこれか…?
毎日これだと確かに疲れてしまう。
でも何故、拒否設定にしないのだろうか?
ふと疑問を持ちながらも、笑顔が戻った桑原くんになかなか聞けない。
でも一度、ゆっくり桑原くんの話を聞いてあげないと桑原くんが壊れてしまいそうだった。
その日の夜、桑原くんと話し合ってみる事にした。
「ねぇ、最近様子がおかしいけど何かあった?嫌なら言わなくてもいいけど」
一服をしながらテレビを観ていた桑原くんに後ろから話し掛けた。
桑原くんは無言で振り向いた。
そして一言。
「もう俺、ダメかもしれない」
そう言って深いため息をついた。
「何がどうダメなの?私で良かったら話してみ?聞いてあげるから」
私のこの一言で、何がが外れた様に桑原くんは一気に話し出した。
話をまとめるとこうだ。
まず。
元嫁は言葉は悪いがメンヘラっぽくなり、二度と会わないと言うと腕が血まみれの写真と共に「地獄であなたを待ってる」「一生許さない」といった内容のメールが一晩中届く。
かと思えば「やり直したい」「あなたを愛してる」「ごめんなさい」と言った内容のメールも届く。
拒否してもアドレスを少しずつ変えて送って来る。
電話も拒否しても次から次へと違う電話から掛かって来る。
だから拒否をするのは無駄だと思い、拒否設定を解除した。
夜もなかなか寝付けず、食欲もない。
元嫁のせいで安心した生活が送れない。
元嫁は桑原くんの会社にまで来る様になった。
この間は桑原くんが外回り中に元嫁が会社で暴れながら「桑原雅之をクビにしろ‼」「こいつは私をたぶらかして弄んで捨てた‼制裁を下したい‼」等散々わめき散らしていた。
同僚達がなだめても「邪魔しないで💢」とキレて悪化、押さえ付けたら「触るな💢ワイセツで訴えるぞ‼」とキレまくる。
仕方がなく警察を呼び警察官が元嫁を強引に連れていったらしい。
その事で桑原くんは社長に呼ばれ、現在クビの皮一枚の状態であるとの事。
桑原くんはしきりに「もう疲れた」と言っていた。
私の部屋にいても桑原くんの携帯は常にキラキラ光っている。
うるさいからとサイレントにしていた。
その時、私の携帯が鳴った。
兄からだった。
「みゆき、今時間あるか?」
「あるよ、どうした?」
「実は香織のお父さんが倒れて病院に運ばれたんだ…」
「えっ?」
「香織もお母さんも俺も病院なんだが…今、処置室みたいなところにいるが多分このまま入院になると思う」
詳しい病状は聞かなかったが、私は子供達を保育園に迎えに行く事になった。
桑原くんに事情を説明する。
桑原くんは「俺も行っていいかな…」と言うので、運転手として来てもらう事にした。
保育園に行き、近くにいた保育士さんに声を掛けた。
「藤村と申しますが…」
「あっ、はい😄藤村ゆめちゃんの😄話しは伺っています」
どうやらゆめちゃんの先生だったらしい。
「あっ‼みーちゃん😄」
ゆめちゃんが保育園の玄関で笑顔で元気に手を振っていた。
遅れて勇樹くんとまなちゃんが来た。
勇樹くんは「ママは?」と聞いて来た。
「ママのじいじが病院に運ばれたから、ママはじいじの病院に行ってるの。だから私が来たんだよ」
「じいじ、風邪ひいたの?」
勇樹くんは外靴をはきながら聞いて来た。
まなちゃんは眠たいのかグズっていた。
「風邪ではないよ💦これから病院に行くよ」
そう言って、グズるまなちゃんを抱っこして勇樹くんとゆめちゃんと一緒に車に行った。
桑原くんの姿にゆめちゃんが「みーちゃんのお友達?」と聞いた。
桑原くんは笑顔で「こんにちは😄みーちゃんの友達のまーくんだよ😄」と答えた。
「まーくん、こんにちは😄」
勇樹くんとゆめちゃんは桑原くんに挨拶。
「おっ、ちゃんと挨拶出来るのか😄偉いね😄」
桑原くんは満面の笑顔だ。
病院に到着。
兄に電話。
すると兄はすぐに駐車場まで来てくれた。
「あっ‼パパだ‼」
勇樹くんとゆめちゃんがパパに駆け寄る。
まなちゃんはぐっすり眠ってしまったため、兄は静かにまなちゃんを抱っこした。
兄は桑原くんをちらっと見た。
桑原くんは慌てて走って来て挨拶。
香織さんのお父さんの具合を聞く。
脳内出血を起こしたらしくしばらく危険な状態との事。
無事に回復する事を心から願う。
香織さんとお母さんはお父さんの病院に付きっきりになる。
お母さんは取り乱し、そんなお母さんを優しく抱き締め「大丈夫」と声を掛ける香織さん。
香織さんも辛いだろうが、気丈に取り乱すお母さんを守っていた。
子供達はまだ状況をつかめないのか騒ぎ出す。
兄は子供達を連れて一度帰る事にした。
香織さんとお母さんに挨拶をし、私と桑原くんも帰る事に。
翌日の夕方。
この日は仕事だったため仕事に行く準備をしていた。
すると兄から電話があった。
「お父さんが息を引き取った」
言葉が出なかった。
香織さんのお父さんは何度かしかお会いしていなかったが、とても優しそうな笑顔が印象的だった。
まだ60代。
早すぎる死だった。
仕事をお休みして私の両親に連絡。
父親は驚き、母親も突然の訃報に言葉がなかった。
泣き崩れる香織さんのお母さん。
香織さんも唇を噛み締めて震わせながら涙をこらえていた。
そんな香織さんとお母さんの側に兄がいる。
子供達も「じいじ死んじゃったの?」と眠っているじいじの側から離れない。
勇樹くん誕生の時、産声を聞いた瞬間嬉しそうな顔をして「やった‼良かった‼頑張ったな香織‼」と言ってお母さんと抱き合って喜んでいた姿を思い出す。
「香織さん…」
私は香織さんに声を掛けた。
「みゆきちゃん…」
香織さんは私の顔を見た瞬間、何かが外れた様に私に抱きついて号泣。
「香織さん…」
何て声を掛けたらいいのかわからず、黙って香織さんを抱き締めた。
そんな香織さんの姿に兄も涙をこらえきれず流れ落ちた。
無事に香織さんのお父さんの葬儀も終わった。
落ち着いたら兄一家は今住んでいるアパートを引き払い、香織さんの実家で住む事になる。
お父さんを亡くし、憔悴しきっているお母さんを一人にしておけない、と兄が言い同居となる。
それからしばらくしたある日。
兄の引っ越しの手伝いをしに桑原くんと兄のアパートに向かった。
香織さんはまなちゃんをおんぶしながら、せっせと荷造り。
業者には頼まず、兄の友人が勤務している運送屋さんのトラックを格安で借りて荷物を運び出す。
兄と兄の友人、そして桑原くんの男3人で冷蔵庫や洗濯機等の重たいものを運ぶ。
私は香織さんと一緒に荷造りをし、軽いものを玄関先に運ぶ。
勇樹くんやゆめちゃんも一生懸命手伝ってくれた。
まなちゃんはママの背中で泣く事もなく、おりこうさんにしていた。
兄の友人、熊谷さんはヤンキー時代の仲間。
見た目は強面だが、とても優しく良くくだらないおやじギャグを言って笑わせてくれる。
「みゆきちゃん…だっけ?久し振りだね😄」
熊谷さんが話し掛けてくれた。
「ご無沙汰してました」
「しばらく見ないうちにいい女になったなぁー(笑)なぁ隆太😄可愛い妹で羨ましい」
「お世辞うまくなりましたね」
「そっか?(笑)」
「熊谷さんもかっこよくなりましたね」
「おう👍そうだろ?(笑)どうだ?今度飯でも行かねーか?」
こんな会話を桑原くんは近くで黙って聞いていた。
香織さんが「こら‼ヒロ💢妹を彼氏の前で口説くんじゃねー💢」と遠くで叫ぶ。
香織さんとも仲間だったため、夫婦で仲良い友人だった。
「あはは😁冗談だよ(笑)」
そう言って熊谷さんは笑っていたが、桑原くんの目付きが怖かった。
荷物も全て運び出し、後は部屋の掃除をするだけだ。
「掃除は明日にして皆で飯食べようや‼」
兄の一言で掃除を終了させ、近所のファミレスに向かった。
兄夫婦に3人の子供達、私と桑原くんと熊谷さんという大所帯で近所のファミレスに行った。
兄が手伝ってくれたお礼にとご馳走してくれるらしい。
「好きなもの食え😄ファミレスだけど😁」
食べさせてくれるなら何でも有難い。
しかも給料日前の一番財布が寂しい時。
有難く頂きます。
熊谷さんは「本当に好きなもの食っていいのか?」と確認。
「おぉ、いいぞ😄」
兄が言うと熊谷さんは一番高いステーキセットを頼んだ。
香織さんは「やっぱりそうくると思ったよ💧」と諦め顔。
子供達は大好物のハンバーグとデザートのゼリーに大興奮。
まなちゃんはミルクを美味そうに飲んでいた。
桑原くんは遠慮しているのか何も注文をしない。
香織さんが「遠慮しないで😄手伝ってくれて本当に助かりました😄さっ、何がいい?」と桑原くんにメニュー表を開いて渡した。
「すみません…」
そう言いながらメニューを選ぶ。
一服したいが子供達がいるため、この席での喫煙は抵抗があり玄関先にある灰皿に移動。
すると桑原くんも一緒についてきてポケットからタバコを取り出した。
「今日はありがとね」
タバコを吸いながら桑原くんにお礼。
「気にしなくていいよ😄少しでも藤村の家族に協力出来て俺も嬉しいから😄」
桑原くんも一服しながら答えた。
「なぁ藤村、あの熊谷っていう人なんだけど…」
「熊谷さんがどうかした?」
「お前の事狙ってるのか?」
「まさか😅私が中学生くらいから「隆太の妹」って事で可愛がってもらってただけだよ。ていうか熊谷さん結婚してるし」
「はっ?結婚してんの?」
「そうだよ?あんな強面でも2児のパパだし…いつもあんな感じで軽いんだ(笑)」
「そうなんだ…」
何となくホッとした表情。
「まさか熊谷さんの冗談でヤキモチ妬いてたとか?」
「いや…」
恥ずかしそうに下を向く桑原くん。
からかってみる。
「もし熊谷さんが独身なら付き合っていたかもなぁ」
「……💢」
桑原くんは怒った様にタバコの火を消して店に入って行った。
私はニヤニヤしながらタバコの火を消し、皆のテーブルに戻った。
皆で美味しく食事を頂いた。
「あぁ~食った食った」
熊谷さんが満足そうに言った。
「うちの嫁牛肉嫌いだから、ステーキなんてまず食卓にあがらないのよ😞久し振りに食ったら、やっぱり美味いな😍」
「ひろちゃん、牛肉嫌いなんだ」
香織さんがゆめちゃんの口を拭きながら答えた。
熊谷さんの奥さんもどうやら仲間らしい。
今回も一緒に来る予定だったらしいが、パート先が繁忙期だったため休めなかったとか。
熊谷さん夫婦は結婚5年目だが、まだ子供はいない。
「さて、皆食べ終わったし明日仕事だし、そろそろ帰るか?」
兄の一言で皆帰る準備を始めた。
ファミレスの玄関先で解散。
「みゆきちゃん😄今日は本当にありがとね😄」
香織さんが笑顔で話し掛けてくれた。
「すみません、ごちそうさまでした😄」
「みーちゃん、バイバイ😄✋」
子供達も私に笑顔で手を振ってくれた。
「バイバイ😄」
桑原くんも笑顔で子供達に手を振る。
熊谷さんと兄は何やら話している。
解散後、私と桑原くんは一緒に帰る。
「藤村のお兄さん夫婦って何かいいよな」
「兄も「今が人生で一番最高だ」って言ってたし、香織さんも最高のお姉さんだわ」
「ああいう夫婦になりたいな」
「なりたいね」
「なってみるか?」
「誰と⁉」
「誰とって…俺と藤村」
「あぁ…桑原くんじゃ兄みたいにはなれないな」
「なれないか😞」
「なれないか、じゃなくてなってやろうじゃないか‼くらい言えないの?」
「でも…」
「でも、とかだって、とか言い訳はいらない✋」
「…よし、わかった。藤村、俺お兄さんみたいになるから、俺と結婚してくれないか?」
「なるかどうか保証がないから、なったら考えてあげる」
「何だよ⤵」
拗ねる桑原くん。
ちょっといじめてみた。
あの一件以来、桑原くんの事が頼りなく感じる。
もう少ししっかりして欲しい。
そう思ってハッパをかけた。
吉と出るか凶と出るか…。
結果はすぐに出た。
熊谷さんのところは夫婦揃って「ひろ」と呼ばれている。
旦那は弘樹、奥さんは弘美。
兄夫婦他仲間に「紛らわしいな」と言われていた。
翌日の昼過ぎに熊谷さんから連絡が来た。
「みゆきちゃん😄昨日はどうも~😄」
携帯番号は兄から聞いたらしい。
「こんにちは😄」
最初は何気無い世間話をしていた。
「ところでさ、みゆきちゃんの彼氏なんだけど…」
「桑原くんの事ですか?」
「そう、あいつの元嫁の名前知ってる?」
「確か…いずみさんって言ってた気が…」
「富田いずみって言わないか?」
「名字までは…😞」
「あの女は気をつけろ」
「えっ?」
どうやら熊谷さんの話をまとめると、桑原くんの元嫁は精神的な病をお持ちの様だ。
ヒステリーを起こしては部屋をメチャクチャにする。
自分の思い通りにならないと暴れる。
人に意見を求めながらも自分の思った答えが返らないと怒る。
常に上から目線で物を言う。
かと思えば急にしおらしくなり甘えたりして来る。
熊谷さんの奥さんの同級生だったらしい。
「弘美が言っていたよ、こんな事を言ったら申し訳ないが…いずみが結婚したと聞いて耳を疑ったの。でも離婚したと聞いてやっぱりかって」
どうやら桑原くんには同情させる様な嘘を言い、桑原くんを射止めた。
しかし嘘がバレて来たら逆ギレをしたり、甘えたりして桑原くんを縛り付けた。
離婚してからも桑原くんへの執着はおさまらず、今回の妊娠騒動を起こし自分のところに戻って来てくれる様に仕向けた。
桑原くんの女癖が悪いのを利用した、と言ったところか。
狭い小さな町だから、いらん噂は広まる。
何だか良くわからないが、私は変なトラブルに軽く巻き込まれた形になるのかな。
熊谷さんは私と桑原くんの様子をみて察してくれたらしく「いい男じゃないか😄仲良くしろよ」と言っていた。
そうだったんだ。
何かおかしいとは思っていた。
でも女癖が悪いのは誰のせいでもない。
更正出来るのだろうか?
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