夏の香り
『じゃあ、今日から俺の女ね。』俺のその一言で始まったんだ……。
彼女は顔も体型も俺のタイプだ。初めて会ったばかりで軽く言ってしまった事に少し後悔しながら、助手席に座る彼女を見た。‥‥『…はぃ。』
彼女は少し照れながら微笑んだ。信号が赤に変わった瞬間、俺は彼女を抱き締めずにはいられなかったんだ。
今日、俺と彼女が出会ったのはナンパや運命では無い。俺が経営している
キャバクラの面接の為に車で迎えに来た。彼女を見つけたのは、昼間経営している方の会社の社員。外で仕事する事が多い彼等に可愛い女の子が居たら、声をかけておいてくれと頼んでおいたのだ。
親がリストラされて学費を払えなくなっていた彼女は、部下に声をかけられて少し迷ったが携帯の番号を教えてくれた。
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まだ開店したばかりのキャバには女の子がたりなかった。夕方、会社に顔を出した時に社員の雅に女の子の携番、手に入れましたよと言われた。顔も体もいいっすよぉーと雅は言いながら携番の書いてある紙を渡してきた。
『社長から連絡がいくって言ってありますから。じゃっ、お疲れ様です。』そう言って雅は帰っていった。会社で社員全員が帰るのを待って、雅から貰った紙に目を通した。紙には、名前と年齢と携番が汚い字で書いてあった。
『…カナエ、20歳かぁ。キャバに客の取れる子が入ってくれるといぃんだけどなぁ。』独り言を言いながら携帯を手にとり紙に書いてある番号をおした。
『…はぃ。もしもし…どちら様ですか?』
『こんばんは。昼間、声をかけさせていただいた者に聞いてるとおもうんですが。』
『あっ、はぃ。社長さんから電話がくるって…』
『面接なんですが、いつがいいですかね?』
『あの、…いつでも大丈夫です。でも、車が無いんですけど…』
『じゃあ、今から迎えに行ってもいいですか?』
『…はぃ。待ってます』
『着いたら電話しますから。』
電話で話した限りでは感じの良い子だなぁ。
『さぁ、行くかぁ。』そう言って車の鍵を持って会社を後にした。
20分たらずで彼女と待ち合わせをしたコンビニに着いた。彼女に電話をしようと携帯を手に取ろうとした時…カナエから電話がかかってきた。
『あの、場所わかりました?私、方向音痴だし説明下手だから…』彼女に今ちょうど着いた事を伝えると照れたように笑いすぐに出ると言い、電話を切らないまま彼女を待った。
彼女はすぐに姿を表した。少し息を切らし、長い髪を揺らして…。電話越しに(何処に居ますか?)と言いながらキョロキョロしている。俺はその姿を見て、なぜだか堪らなく抱き締めたくなった。『駐車場のはじに停まってるベンツに乗ってる』と言うと、彼女は俺を見てニコッと笑い歩き出した。俺が車に乗ってと言うと、彼女は(はぃ)と言って乗った。助手席に乗った彼女は緊張しているようで背持たれに背中をつける事もなく固まっていた。『とりあえず食事でもしながら面接しようか』そう言い、車を出した。
彼女はただ真っ直ぐ前を見て黙っていた。
『何か食べたい物はある?』俺は緊張をほぐそうと話し出した。
『社長さんにお任せします。』彼女は俺の目を見つめ微笑んだ。
゙恋におちる゙そんな甘い言葉を言う気は無い。
でも、彼女の瞳には人を引き付けて離さない力がある。それだけは事実だった…。
俺は、『今日から俺の女ね。』と言っていた。自分でも(何を急に言ってるんだ?)と思った。
20も年が離れている子に、しかも会ってから10分たらずで。お互い相手の事を何も知らない。
俺は結婚をしている。と言っても、妻とは離婚の話し合い中だ。落ち着く事のできなかった俺は、遊びで何回浮気をした事か。お互い愛なんてものは無くなっていて、妻にも恋人が居る。4年前から別居しているが、子供が居るから籍は入れたままだった。
『…はぃ。』そう答えた彼女に正直驚いた。でも、恥ずかしそうに微笑んでいる彼女を見た時…俺は本気で惚れてしまったんだ。
信号が赤に変わって俺は彼女を抱き締めた。“愛してる。”口には出さなかったが本気でそう思った。
その時、キャバの店長の高橋から電話がなった。
『あっ、社長っすか?急に女の子が2人休んだんで誰か出れる子居ないっすかねぇ?』
急に女の子が休むのは珍しくない。俺は面接は必要ないと思い、今からそっちに向かうと言って電話を切った。
カナエは不思議そうに俺を見ていたが『カナエちゃんなら面接無しでいい。今日から働いてくれる?』と俺が言うと、『はぃ。』と答えた。
俺は自己紹介をしながら運転をした。結婚して子供が居る事を伝えた時は驚いていたが、もうじき別れる事を言うと笑顔になった。…キャバの事務所についた。事務所と言ってもメイク室もかねてマンションの1室を借りているだけだ。『いちよう、履歴書だけ書いてくれる?』
『はぃ。』
彼女は必ずナンバー1になれる。そう思った。
彼女は初めての水商売に緊張していたが、すぐになれたようだった。
高橋は『新しく入ったカナエちゃん、いいっすねぇ~。結構、客とれるんじゃないっすかぁ?』と言っていた。俺は正直複雑な心境だったが、『そうだな。』とだけ答えておいた。
カナエは顔は小さく、目は二重でパッチリしている。色白で背は小さめ。少し天然で、まさしく世の男達の理想といった感じだ。話している相手の目を真っ直ぐ見つめる。その瞳に吸い込まれそうで少し怖いくらいだ。
カナエを家まで送っていった。くだらない話をしながら。
カナエ-07.8.12-
今日から日記をつける事にした俉今日、バイト帰りに歩いてぃたら男の人に声をかけられた。水商売を紹介されて、働く事にした。1日働ぃてみたけど、結構辛ぃ埈でも、パパ達の為にも稼ぐぞぉ俉いっぱぃ稼いで仕送りしたぃし坥昼間のバイトどうしようかなぁ埈?
社長さんに俺の女になれみたく言われた。今まで一目惚れなんてした事無かったから、Yesと言った自分にビックリだなぁ。でも、本当に好きになっちゃった炻炻明日からも頑張るぞぉ俉
-07.8.13-
今日もキャバに行ってきた。社長さんに、名前で呼んでいぃよと言われた。龍飛さんって呼んだら、龍でいぃよって…炻炻
龍さんの為にも頑張るぞぉ坥俉
-07.8.14-
今日はしつこぃお客さんが居て疲れた埈でも毎日、龍さんが送迎してくれるから嬉しぃな炻運転してる時に手をつないでてくれて幸せだなぁ坥
彼女は毎日熱心に働いていた。働きだして3日。『カナエちゃん偉いっすねぇ。しつこい客相手に丁寧に相手して。あの厄介な客がボトル入れてますよぉ。』そう言いながら高橋が事務所に入ってきた。
『カナエには人を引き付ける力があるんだよな。すごいよ、彼女は。』
俺がそう言うと、高橋は『彼女は期待できますね。』と言って、一服して店に戻っていった。
その時、メイクの由香が入ってきた。
由香は簡単に言えば俺の元彼女だ。ちょうど働く所がみつからなかった由香にキャバのメイクをさせた。働き始めてすぐ俺から別れをきりだしだが未だに別れる気は無いの一点張りだった。
由香は何も言わずメイク道具を片付けていた。
『由香、そろそろ本気で別れてくれないか。』
俺がそう言った事が聞こえないかのように、
『今度、映画観に行こうか。』と由香は笑顔で答えた。
俺がため息をついた時だった。由香はカミソリを手首にあて『別れるなら死んでやる。』そう呟いた。
俺は面倒になって、またため息をついて事務所を出た。
(店の様子でも見てくるか。)そう考えながら歩いていると、ちょうどカナエが客の見送りをするために出てきた。かなり客に気に入られたみたいだな。俺は楽しそうに客と話しているカナエを見て、無償にカナエを自分だけの物にしたくなった。
自分で自分を止められなくなりそうで怖かった。
落ち着く為に一服してから店に入っていった。
客の入りも良いし、大丈夫そうだな。
『あっ社長。今日はとくに問題も無いっすね。』
と、高橋が近付いてきた。『高橋、悪いんだが由香に今日はもう帰っていいと言っておいてくれるか。事務所に居るから。』俺がそう言うと高橋は、ういっすと言い店から出ていった。
高橋が戻ってきた。
『由香さん、明日は休みたいって言ってましたよぉ。』
俺は、由香の恋愛を仕事にまで持ち込む性格が面倒になっていた。
『新しいメイク探すか。求人だしてみてくれ。』
『由香さんは店の女の子達と仲良いっすからねぇ。女の子達が怒るんじゃないっすかぁ。』
確かに高橋の言う事は間違いでは無い。店のオープンからメイクをしている由香に女の子達は相談をしたり、まるで友達のように接していた。
(俺がカナエと付き合ってる事も知られたらうるさいだろうな。
早いこと別れる事に納得させなきゃなぁ。)
そんな事を考えながら事務所に戻った。
事務所に帰ると由香はもう居なかった。…電話がなった。
『もしもし、由香です。明日休ませて。』
『急に休みって、迷惑になるの分からないか?』
『…じゃあ、今から会える?』
『悪いけど、送迎あるし。それに別れ話したはずだけど?』
『…明日、やっぱり行く。おやすみ。』
なんなんだ?あいつは何がしたいんだ?
俺は考え事をしながら寝てしまった。
…はっ。寝ちゃったのかぁ~。ん~、と伸びをしながら時計を見た。(もう朝かぁ。あっ、カナエの送迎!…高橋が送って行ったのか?…ん?)
カナエは事務所の隅に置いてあるソファで眠っていた。
『…カナ。ごめんな、寝ちゃって。』
『…あっ龍さん、おはようございますっ。カナも寝ちゃった。』カナエは飛び起きて、微笑んだ。
『さぁ、帰るか。』
俺は戸締まりをしてカナエを送っていった。
『ごめんな。カナエ、待っててくれたんだな。』
『はぃ。店長が送ってくれるって言ったんですけど…龍さんと居たくて』
カナエは時々、計算でもしてるんじゃないかと思うくらいに俺の胸をうつ言葉を言う。由香とはキッチリ別れようと思った。カナエが他に好きな人ができて俺から離れていくまで見守っていこうと決めたんだ…。
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