「随筆」故郷からの招待状

レス0 HIT数 107 あ+ あ-


2024/08/28 17:51(更新日時)

お祝い近付くお仕事は、いよいよ忙しく増え行くに、毎日お会社の机の前に働く真似をしながら、こちらそちらの結婚式お誘いの招待状も、昨年まで偶に届くのをなかなか覚えるべきを、それらは自分が南洋で留学就職を行いし、およそ十五年間を巡っての朋輩に関しては、思うにもそんなに不思議でもなく、ただ自分に親しむ人が普通の人生の定まる寄るべに従っていく始末だけなので、譬え私がいささか独身主義の価値観を持っていても、仲良しの人が結婚するには、お慶びをお伝えできない由もなし。とはいえ今月は予想を外れ、故郷の親から或る小学校の友人が結婚するのを知らせられて、今彼女の事を覚えますと学校では少し荒荒しい女の子であろうを考えるべきか、詳しく言ったら何とか彼女とのお絡みをそんなに稀でもないと思いますし、その荒荒しいというのは、従って表の評判だけなので、実は彼女は感情豊かな女の子でもあって、他人が悪い目に遭いし場合にも危険を避けはしなく、その上で何時も善悪顕に相手を助ける事をするまでに、頭が良く、心が清く、顔面は淑やかなお嬢様のようではなくも、或る意味で端麗で稜角を清楚に見せながら、高い身長に併せてはあたかも我らの憧れに値すべし、そうは彼女についての印象なのに、あいにく私は五年生の学年を果たせし時、急に他の私立学校に転校させられたから、友達とお別れするさえできなくなって、ただそのまま我が懐かしい子供時代をさっそく終えるのがもの覚束なく、譬え未来の為に勉強を続け、有名な中学校に這入って行き、遂に南洋の国で新たな人生を贈るに至っても、お別れすべきあの子供時代の事は、今までも心の中の小さな針の如くにて偶には私の記憶を驚かす。左様は少し哀れな思い出だと見られても、時間は何もかも止まるお暇があってはいなく、あくまでも或る哲学者がおっしゃる、「全て流る」という理のような、流れ済まさないものでありながら、全ての記憶も遂に鏡の中の月として儚く消え去るに、今の彼女は、私と同じく十年ぐらいの社会人お芝居に慣れ行く筈なので、聞いてみたら今は或る地方病院で看護師さんのお仕事をしているらしいし、そのせいであのコロナ禍の三年間を亘っては、言うまでもなくいろんな生死離別を数え切れなく見た事も当然で、子供時代の恐れなき正気扱いも多分既に氷に流るべきお湯の如くして、冷えてももったいないではないだろうか。そもそも彼女は今から、自分を愛でる良人を持っているらしく、それなら社会通念上の優しいお妻として或る安らかな生活を送って最善な結局にも言えまするに、子供の事も、正義の事も、幼い時の喧嘩の事も、次第に自分のお悩みから一蹴して、老人になるまでは私と同じく僅か三十年ぐらい残るかも。ただし外国で急いで働く自分は、彼女の親からの招待状にもお応えするには駄目なので、その遺憾に対しては、今は償い得るかにも関わっていなく、しかも彼女に何かの微かな感情を持っているか否かにもよく分かっていないし、若しくはただ、戻っていかないその時間の足音に対して或る闇の礼讃をしたいだけなのか、今は何となく何時しか彼女に会いたいと思いながら、夜空の雲の糸のいよいよ緩く流れ行くに、月は惟うに、その町のお寝込みを見渡す形で、或る清くて儚くて冷ややかな光をお庭の片隅に洩らすように見えるべく、窓側の机の前の鏡には、我が寂し気な一人顔こそ映るなれ。

タグ

No.4126849 (スレ作成日時)

投稿順
新着順
付箋
該当のレスが一つもありません。
投稿順
新着順
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧