【掌編】めんつゆ、てんぷら、猪鹿蝶

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自由なパンダさん（ 10代）
2021/09/20 20:33(更新日時)

仕事を終えて
リビングへの扉を開けると、
交わされるはずだった会話が食卓の上をふわふわ漂っているようだ。
静かだ、
惣菜のパックの音が非常に響いてきこえる。
てんぷらの油がにじみ出て表面がつるつるして食欲が失せる。
やっぱりちょっと手を入れようか、
どうやって、
そうだ夏の
めんつゆ、
あれで煮込んでしまったらどうだろう。
そして取り出しためんつゆは
いつの間にか賞味期限がちょっとすぎていて、
何でもないことなのだが、
そのはずなのだが、
遅刻を叱責されたような
苦しさがすっと刺さるのだった。

親子鍋なんてのもあるよなあ、
卵に火が通って行くのを眺めながらふと思い出す、
コンロの高さのせいだが
鍋の調子を見ながら立っていると
自然と下を向く格好になって、
気持ちが重い。
こういう何にもないときに落ち込むことは
本当に深みにはまる。
一人暮らし向いてないのかなあ、
一人で幸せになれないのに
二人で幸せになれるはずがないようにも思う。

食事がすんだら、
眠りの準備の前に少しだけ遊ぶ。
オンライン対戦の花札。
画面の向こうにも、
何百人のひとりが生きているのかな。
何十人か。
何人か。
私だけか。
〈こいこい　しますか？〉
〈はい〉

〈猪鹿蝶　７点
　タン　　２点
　七点以上倍　×２
　計　　　１８点〉
はは、
圧勝だね。
はあ。
そう、
暮らすってこういうことなのだろうか？
もっと大仰なものじゃなくて？
私は
これはもっと別な言い方があるのじゃないかと、
考えても勉強していない。
私は
生きるという意味の言葉を、
「生きる」ひとつしか知らないのが
とても残念に感じた。

了