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【短編】その子八歳

レス1 HIT数 399 あ+ あ-

自由なパンダさん( 10代 )
21/10/03 19:44(更新日時)

 今となっては、昔のことでございます。
 男が東へと旅しておりました。
 いずことも知れぬ人里の、日も暮れようとする時分でございました。
 男は並ぶ家々のひときわ大きな一軒を選ぶと、馬を降りて戸の前に立ち、
「ひんがしの方への旅のうちに日が暮れた。一夜の宿を頂きたい。」
 すると家の主でありましょう、ひどく年老いた女が来て、
「お入りください。」
 男は客人用の部屋へ通されました。男の馬も、従者どもにもしかるべき部屋や厩があてがわれたようです。男は安堵して、携えていた籠から飯を取って食い、満腹になるとそのまま眠ってしまったのです。
 男が目を覚ましたのは夜更けのことでございました。
 何やら屋敷の奥から騒ぎの音がいたします。
「何事ですか。」
男が聞くと、老婆は答えて曰く、
「わたくしには娘が居ります。それが子を成して、ええ、近く産まれるようではございましたが、ついあなた様がたを留めてしまいました。産の穢れのつくやもしれません。いかがいたしましょう。」
「大事ですな。心配ない、己はそのようなことでは動じませぬ。」
「それはようございました。」
老婆はそそくさと娘の方へ向かっていきました。
 しばらく時が経ちました。
 騒ぎがいっそう大きくなってまいります。
「産まれたのであろうか。」
男が新しき子の顔かたちなど思いやっていたところ、男のいる部屋の戸がすっと開きました。
 身の丈八尺はあろうかという巨漢が男の前に現れたのです。
 「この家のものですか。」
大男は答えません。
 「子の様子は。」
刹那、旅の男は底知れぬ恐怖にとらえられてしまいました。
 大男が口を開いたのです。
 その声は耳から熱した油のように注がれて旅の男の心を焼き、身をこわばらせ、眼差しを釘付けにさせました。
 固まっている旅の男の前を、大男が通り過ぎていきます。何度も同じ言葉を繰り返しながら、

  トシハハッサイ、イノチハジガイ

  トシハハッサイ、イノチハジガイ

大男はどこかへ行ってしまいました。




 (続きます)

No.3386309 21/10/02 12:31(スレ作成日時)

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No.1 21/10/03 19:44
自由なパンダさん0 ( 10代 )

 男の背を暁の光が叩くようです。
 座ったまま夜を徹したのでございます。
 足の甲に血が鈍って痛い。膝も軋む。
 男がようやく立ち上がったところへ従者の一人が訪れて、
「お発ちになるべき頃かと存じます。」
「………ああ。」
「……何かございましたか。」
「無い。」
男は旅の身の上でございました。行かねばなりません。男は家を後にします。しかし心は東を向いてはおりません。馬上の男を惑わすものはあの大男でございます。
 一体なんであったのか。闇夜で顔も見えぬほどであったが、相撲人のごとき影、悍しき声、男に違いなかろう。………いや、そも世にあのような男が在りうるか。男はなんと物していたか。トシハハッサイ、イノチハジガイ。年は八歳命は自害。………あの家に若き子は、見ておらん。生まれた子のほかは――
「主、いかがなさいました。」
 「をう。」
 「蛇にでも勾引はされたかのようです。」
蛇。
 ………あの男は鬼神の類ではなかろうか。
 年は八歳命は自害、とは、子の定めを云うたのか。
 男には他に言い様がございませんでした。
 

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