私は林檎飴
1年前の春先に私の最後の恋が終わった‥―
その日はあの平成23年3月11日
彼と最後に会ったのは平成22年の大晦日
特別な約束も触れ合いもなく、傍目にはちょっと挨拶する程度の仲の様な私達
彼には前科があったから…
彼が犯した罪は決して許される物では無かったから…
全てが落ち着く迄は…
寄り添う事も恋人らしく振る舞う事も暗黙の了解の様に避けていた
誰にも知られてはいけなかった関係
彼は私と私の家族を傷付けたく無いと言ってくれた
保釈されたばかりの彼とただの元同級生の私
会話は全てメールのやり取りだけ
まるでサイトの中でだけ逢えるスレ恋みたいでした…そうあの日迄は
信じられない悪夢によって不意に私は一人取り残されてしまった
そして人知れず儚く消えた恋
誰にも言えない気持ち…全部飲み込んで振り切る様に前に進むしか無かった
あの日私は大切な家族と恋と古里を無くしたのだから…
当時、彼は身内全員に縁を切られて独りぼっちで暮らしていて
私はその家電と彼の携番とアドレスしか知らなかった
彼も家族が何処にいるのかも分からない
まるで詐欺師かスパイみたいっね?と笑ったのが凄く遠い昔の様で
本当にスパイみたいに消えちゃうなんて…思っても見なかった
皮肉だよね?小説よりも現実の方が残酷で呆気ないなんて…
彼に問うても二度と返事は来ない
彼は私を林檎飴だと言ってくれた
派手な大きい方じゃ無くて小さくて可愛い林檎飴だと…
目立たないけど不思議と惹かれて小さな姿に癒される
私はその時どんな顔していたのかな…
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彼の遺体が見付かったと知ったのは丁度1年前の新聞紙面
その時はまだ県内全域が大混乱の最中で…
県内は勿論、古里は壊滅的な大打撃を受けて自衛隊や各都道府県からの応援の警察官や消防車が行方不明者の捜索の真っ只中で…
何もかもが現実離れてしたまるで外国の戦中映画の世界でした…
交通機関が遮断された区域に入る場所へ立ち入るにはある種命懸けで体力のある男性陣が1日掛かりで挑む様な状態
彼を探したくとも車も無い女が一人で向かう事はとても不可能で…
道路が沈んでしまったり橋が流され川には車が浮いたり流されたりの状況下で
すっぽりと無くなった町を目の当たりにした知人は言葉を無くしてしまった
生き残った身内全員で肩を寄せ合い、ひっそりと命を繋いでいる暮らしの中でも不安と恐怖感は膨れ上がり毎日訳も分からず深夜に涙が溢れる日々
死亡者名に彼を見付けた時の後の事は覚えてなくて
後から『あぁ…もう会えないんだ』という気持ちと見付かった安堵の様な複雑な感情が入り交じり言葉にはならなくて…
ただ、真っ暗な知らない場所に迷い込んだ様な心細さだけ覚えてる
プラトニックで中学生みたいな私達の恋
私の心だけを遺してお祭りの屋台みたいに跡形もなく消えちゃった…
彼は知っていたのかな…?
林檎飴の小さな林檎は、間引きした売物にならない傷物を色を付けた飴でコーティングした腐り掛けた林檎だって事…
一夜だけ脚光を浴びたら次の日には食べて無くなってしまうか…棄てられる
全くいい加減な奴、君は林檎飴なんか食べなかったじゃない…
最初から置いて行かれる運命だったのかな
私は結構演技が得意なタイプらしい…
誰の前でも震災前の自分を演じ続けた、能天気に家族に甘えてひたすら仕事に前向きな少し変わり者な私を…
震災で生活が一変してしまったのも上手く作用していた
新しい職場では控え目に接して被災という事も敢えて笑い話にして同情は買わずに済んだ
同じ県内でも温度差は激しくてちょっと停電や断水があった程度の地域もあったから…
私達みたいに完全に海外から義援金を受け取る様な凄惨な被災者とは大きな隔たりが未だに残ってる…
私は余計にそういう事は表に出したくは無かった…
だって口に出したら泣いてしまう…
帰る場所が無いと思い知らされる
あの人達と二度と会えない事実を口にするのはまだまだ辛いから…
そうやって1年間ただ生活してきた
そう、機械的に
毎日同じ様な行動をして恋愛の仕方も友達の作り方も忘れて…
好意を寄せられると直ぐに距離を作りさりげなく離れる方法も随分上手くなっていた
失うのはもう嫌だった…
置いて行かれる恐怖感と寂寥感に耐えられる気力は残って無いから…
なのに…私は出逢ってしまった
あれが最後の恋だと思っていたのに…
こんな気持ちになるなら…
出逢いたく無かった…
その人の存在を私は知らなかった
知り合いからその人が私と付き合いたいって言っている事を告げられても…
そういう気分なるなんて思いもよらず何となくメアドを受け取ったくらいだったから…
知り合いもその人の仲間にもいい人だから1度話してやって欲しいと頼まれて…(話すだけなら)くらいのつもりだった
私には潔癖症のきらいがあって特に匂いが苦手だった
男性の髭も他人の汗や衣服の汚れも全部嫌で仕方ない面倒臭い女だから恋愛には発展しない自信があった…
既に夜も更けていたからか
初めて見た彼の顔はうっすら無精髭が生えていた…
なのにどうして?あり得ない!そんな筈がない…
ナンデ嫌悪感が沸かないの?
それどころか…はにかんだその人の笑顔を可愛いと思ってしまった
彼とのプラトニックな恋が最後だと思っていたのに……
失う痛みは味わいたくは無いのに…
林檎飴の腐り掛けた林檎は私の心?崩れてカタチも無くなるのかな…
その日の夜…あの日枯れた筈の涙が頬を濡らし私の腐食が進む気がして少しだけ笑えた…
自分の気持ち分からないまま数日が過ぎていく
その人の事が気になる時間は日増しに増えていった
少し長い休憩がある日
その日はカフェで新しいメアドを纏めて登録していた
その時目に止まったその人の名刺…
登録しながら笑顔を思い出して、ついメールしてしまったのは変わり始めた私の意思…
当たり障りのない本文を打って送信したら落ち着かなくなり携帯を閉じてしまった…私何をドキドキしてるの?
彼を忘れた訳じゃ無いのに…
これ以上はきっと…最低な裏切りだ
こんな気持ちは久し振りでそうして思い出したく無かった
林檎飴の飴が溶け始め…
傷んだ出来損ないの林檎が表れて来たのかな…?
その日から…―
メールは日に数回送られてきた
夜の返信には直ぐにメールは返ってくる
いつの間にか…
返事を考えてる間少し気恥ずかしくなったり【ドキドキしている】自分に気が付いてしまった…
恋になるかも知れない……
頭の中で警鐘が鳴っている
『お前にそんな資格があるのか』
『また泣きたいのか』
『彼を忘れたのか』
痛い痛い痛い
頭が押し潰されて胸が裂けそう…
まだ彼を愛してる?たった1年なのに忘れたの?
こんな私に生き残った資格はあったのかな…
自分の気持ちが分からなくなって泣きたいのに泣けない…
勿論誰にも話せなかった…
苦しくても笑って日々を過ごす
何の為に生きているか分からなくなって来た
それでも死を考える事は無かった
生きたかった人を私は知っていたから…
忙しい仕事が救いでもあった
仕事をしていれば何も考えず済んだから…
深夜に帰宅してベッドに潜り込む
その日初めて夢を見た
普段私は夢を見ない
多分、見ているかも知れないけど…忘れてしまうんだと思う。
何年も夢なんか見なかったはずなのに
何時かのお祭りの日が鮮明に蘇った夢を見た
不思議に夢だと分かっている…
そんな夢だった
はっきりと確かに私は彼の顔を覚えている
声も匂いも…
そして、微かに触れ合う肩からの体温も全てありありと知っていた筈だった
なのに夢は色も音も現実と変わらないのに…
それなのに彼の顔だけが逆光で見えなかった
二人で行った事が無かった小さな田舎町の神社の縁日
行きたいと話してた訳では無かったけど…
本当は行きたかった場所
当たり前の恋人らしく歩くのが夢だった…
夢の中で二人で歩いていた
その夢の中では浴衣を着て長い髪をアップして普段しない薄化粧をしている私と、中年に近付いた体系の彼は何時ものジャージ姿だった
小柄で痩せぎすの頼りない幼気な顔をした私と、ムーミンみたいな彼はあまりにもアンバランスで少しだけ笑えた…
だけど
それ以外は本当に現実味のある夢だった…
お祭りの匂いも音もしっかりと伝わってきて歩くと振動や感覚があったから
だけど確かに夢だからか、誰も彼と私後ろ指も差さないし気にもされない
自由を手にした様な不思議な気持ちで彼の半歩後ろを歩いていた
田舎町に良くある事だけど…
小さな町なのにその日だけはとても賑やかて人が活気が溢れる
そんなお祭りの夜
酔っ払いがテキ屋のお兄さんと揉めたり、迷子が泣いて周囲の大人があやしてる
そういう光景を横目で見ながら彼の後ろずっと歩いていた
しばらく歩いて立ち止まる彼の隣へ立つと初めて彼が私を見た
『小さい林檎飴って…○○みたいだな?派手さはないけど何か惹かれる癒し系?』
その時彼が初めて口を開いた
私は『何処が?』って返して
お祭りの林檎飴って言われた時の記憶はそこで終わっていた筈だった
なのに彼は言葉を続けた
『知ってる?林檎飴って飴の下は凄く脆くて儚くて…傷付き易い○○もそうだろ?』
『何回も派手な色の飴で固めて隠してる…お前の大丈夫は本当は全然大丈夫じゃないんじゃないか?』
私は『そう…かな?』と呟くだけで精一杯だった
嗚呼…彼は知っていたそれは忘れていたお祭りの日のメールの会話だった
私の虚勢と強がりを指摘した…彼
その日の会話は確かにメールだったけれど夢には映像を伴いもしかしたら彼がメッセージをくれた?
深夜に送られてきたメールには『誰かに頼って良いんだよ?俺に義理立てしないで誰か見付けろよ』って言ってくれた事
俺達は一緒に幸せにはなれない
お前は誰より他人の為に尽くして自分を押さえてばかりだろう?
見ていて辛い…お前が傷付いてるの無理して笑ってるのは
お前を愛してるから…俺より幸せになって欲しい。
もっと守られて愛されて欲しい…
そんなに小さくて細いのに…何もかも抱え込んで背負ってばかりで必死で我慢して今にも壊れそうだよ?
好きな奴が出来たら俺を忘れてそっちへ行け!
あんまり無理するな…笑顔の○○が一番好きだからさ‥
‥‥常にない饒舌な彼に驚き返事を返せなかった
だけどコレはその内訪れる別れの合図なんだって徐々に思い出していく
受け止め切れず記憶を底へ押し込む事で私を保っていた…
あんな別れが来るとは思わずに……
夢の中で彼が言った言葉は…
私が作り上げた都合のよい内容かと思えるくらいだった
だって、今の今まで忘れていた事だったから…
だけど違う
あの時私は彼からの別離宣告に思え悲しくて記憶の底へ仕舞い込んでいた事だった
お祭りは幼い記憶の中で彼も家族と一緒に来ていた日
私は両親と手を繋ぎ歩いて偶然すれ違ったあの頃ものだった…
単なるクラスメートの私達は本当に視線を交わしただけ…
でも何か気になってしまう光景…覚えたのは違和感だった
幸せな家族と共に歩いていて何故か一人孤立している彼の姿
彼と家族との間に深い溝が見えた気がしたから
その光景は脳裏に刻まれて消えなかった
そのお祭りの日とあの日が重なって夢に表れたのかも知れない…
あの日彼はどんな気持ちで林檎飴を見ていたんだろう…
もう聞く事はかなわないけど…
彼は…………
ずっと最初から孤独の辛さを知っていた
だからこそ私には同じ思いをさせない様に考えてくれていた
そういう不器用な優しい人
恋愛依存体質の私をさりげなく甘やかして
傷付けない様に突き放す
悲しいくらい優しい人
日が経つ度に鮮明な記憶が薄れていく…
だけど、彼の事は何故か色鮮やかなまま…
たぶんきっと…良かった事だけが印象として浮かぶんだろうけれど。
幸せになって欲しかったのは私の方だったんだよ?
いっぱい辛い想いして頑張ってた人
悪い事はしたけど…
幸せになって欲しかった…
思いっきり笑って生きて欲しかった…
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