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嬉しい女

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秋子( yuBCh )
12/12/21 20:18(更新日時)

短編小説…

悲しい女の第二段です

よろしかったらお付き合い下さいませ

(*^_^*)

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No.1750468 12/02/17 20:58(スレ作成日時)

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No.1 12/02/17 21:03
秋子 ( yuBCh )

第17章


…死んだ女…

No.2 12/02/17 21:07
秋子 ( yuBCh )

「寒いから出て来なくていいぞ…」

そう言うと

夫の正は首にマフラーを巻き、仕事用バックを小脇に抱えた

「じゃ…」

愛子に右手を上げ微笑むと、両手をコートのポケットに突っ込んで寒そうに出勤して行った

夫、正…59歳


愛子は正の後ろ姿が見えなくなるとドアをそっと閉めた


正の食べ残したトーストをかじり

冷めた珈琲をすすりながら

いつもの朝の連ドラを見る

見終わった所で、

皿やカップを台所に下げてそれを洗い

掃除機をかけようと電気コードを伸ばして

コンセントに差し込んだ…


その時だった…


突然…目の前に暗幕が垂れ下がるように真っ黒になり

意識が遠のきバッタリ倒れた

No.3 12/02/17 21:14
秋子 ( yuBCh )

時間は多分…午前9時30分頃だと思う


今日は誰も訪ねて来る予定はない…

誰とも外で会う約束もしていない


倒れた愛子に気づいてくれるのは


おそらく夫の正が満員電車に揺られて帰ってくる、夕方6時過ぎ頃だろう


それも、残業もなく、仲間から飲みに誘われなければの話しだが…


愛子は倒れたまま、ピクリとも動かない








…やがて

愛子は…

愛子からゆっくり離れて起き上がった…



No.4 12/02/17 21:17
秋子 ( yuBCh )

ゆらゆら茶の間の天井から

横たわる自分の姿をじっと眺めていた



やがて日が暮れて

正が何事もなく予定通りに帰ってきたようだ

真っ暗で、鍵のかかっていない玄関ドアを

正は不思議そうに開け


電気をつけた


「愛子…いるのか…」


やがて、茶の間に横たわる愛子の姿を見つけた正は

一瞬驚いて現状を理解出来ていないのか

体が動かないようだ

だが、すぐ我に返り

「おい!…どうした…愛子!…愛子!…」

No.5 12/02/17 21:21
秋子 ( yuBCh )

愛子を抱き起こし

寝た子を起こすように

「愛子!愛子!」

何度も呼びつづけていた

今までに見たこともないような

厳しい切羽詰まった顔つきになった

やがて気がついたように

震える手で受話器を持ち

救急車を呼んだ


そんな正の慌てふためく様子を


愛子は八畳、茶の間の天井から見ていた…


横たわる自分の姿…

自分を外から眺めるのは勿論始めてだったが…

見慣れた家の中までが

異様な物悲しい光景に映った

No.6 12/02/17 21:24
秋子 ( yuBCh )

サイレンが鳴り止み救急車が着いた

隣近所の人たちの好奇な目が

ストレッチャーで運ばれる愛子を見つめている

愛子の後から正も乗り込み

救急車の大きな後ろのドアがバタンと閉まった


愛子は自分が乗る救急車の上を

泳ぐように 飛ぶように

ぴったりと付いて行った

No.7 12/02/17 21:27
秋子 ( yuBCh )

愛子は広い病室の上をフワフワと浮いていた

そして白いベッドに寝かされている自分を眺めている

頭にいネットの帽子をかぶり赤い筋のチューブが垂れ下がっている


鼻と口は酸素マスクで覆われ

右手に点滴

左腕には血圧計が時々愛子の腕をジリジリと締め付けていた

愛子の隣にはパイプ椅子に正が座っている

心配そうに愛子の手を握り

愛子の寒そうな肩に時々布団をかけている

病室のドアが開いて

ざわめく声とともに 人がなだれ込んできた

息子と嫁それに二人の小さな孫

続いて兄姉 いとこまでがゾロゾロ入ってきた

みんなが愛子を取り巻き、静かに見守っている


まさか…

私は死ぬのだろうか?

No.8 12/02/17 21:36
秋子 ( yuBCh )

その時…

上の孫の裕斗が、集中治療室が珍しいらしく

キョロキョロ眺めていたが


その視線が天井で止まった


愛子と目が合ったのだ

「あッ…バァバがいる!…」

裕斗はとっさに天井を指さして叫んだ

みんなはハッとして

愛子に視線が集中したが

普段から悪戯が過ぎる悠斗の言う事など誰も信用するはずはなく

息子の典明に

典明「ゆう!…バァバは死んでないんだからね…」

そう諭されて

みんなはまたベッドの愛子に視線を戻した

だが裕斗は天井の愛子を不思議そうに見ている

愛子は裕斗に手を振りニッコリ微笑んでみせた

裕斗も小さく手を振った

それから愛子は意識が戻らないまま

みんなは帰って行った

No.9 12/02/17 21:41
秋子 ( yuBCh )

愛子は、眠り続けるベッドの自分を心細く眺めていた…


時々看護師が見回りに来ては

愛子の周りを点検し


愛子を覗き込んでそして居なくなった


集中治療室を見渡すと…

愛子の他に間隔を置いてベッドが2つあり

それぞれ危篤患者が眠っているようだ


隣の窓際には老婆が…

その隣には…
背の高い若者が

愛子のように無表情で窓の外を見ている…

No.10 12/02/17 21:48
秋子 ( yuBCh )

その時…

暗い空の一点が明るくなって

光は集団になりこっちに近づいて来た

そして…

その光は愛子の全身をくるんだ…

一瞬恐怖で体が凍り付いたが…


やがて…光は愛子から離れて隣の老婆に移った


老婆は眩い光に包まれて

窓から外へ抜け


空高く舞い上がり

光は段々小さくなって


そして消えた…

No.11 12/02/17 21:52
秋子 ( yuBCh )

老婆のベッド脇に置いてある、折れ線グラフのモニターが


ピーーとなりだした


すると、看護師と男の先生が小走りに現れた


愛子のベッドの周りのカーテンが勢いよく閉まり…


老婆の姿はベッドごと視界から消えた…


やがて、ベッドを運ぶ音と足音が遠ざかって行き

遠くですすり泣く人の声が聞こえて

キイ…とドアが閉まった


しばらくして再びカーテンが開けられた時には


老婆の寝ていたベッドは、何事も無かったかのように

綺麗にメーキングされていた…

No.12 12/02/17 21:58
秋子 ( yuBCh )

夜中の恐怖も覚めないうちに

朝になった

正が出勤前に寄ってくれた

正 「愛子…おはよう」

愛子の耳元でそう言うと

愛子の手を握り…頬を撫でている

あと半年で還暦の正だ…

正を上から見下げると

こんなに頭の毛が薄かったのかと驚いてしまった

残っている髪の毛には白髪が混ざっている

退職金がいくらか入ったら

二人で九州旅行へ行くはずだった


もし…今夜あの光が現れたら

愛子はこの人を残して…旅立つのだろうか…


愛子は胸が詰まり涙が溢れた…

正は愛子の涙を拭いている…

No.13 12/02/17 22:09
秋子 ( yuBCh )

お昼過ぎになった

小学生三年…孫の悠斗が看護師に連れられてやってきた

床を引きずりそうな白衣を着てマスクをつけていた


悠斗はベッドの愛子の所には行かず

窓際に浮かぶ愛子に近づいてくる


看護師が不思議そうにそれを見ている…


悠斗「バァバ…」


悠斗とはきっちり視線が合う


愛子「…ゆうには見えるんだね…
…」


悠斗はニッコリ笑っている


悠斗「…バァバはどうなっちゃうの?」


愛子「…それはバァバにもわかんないんだよ……」


悠斗が困った顔をしながらベッドの愛子を覗き込んでいる

悠斗「…バァバ…死んじゃうの?…」

愛子はドキッとする

死んだらこの子にも会えなくなってしまう…


愛子の気持ちは暗く落ち込んで行った


やがて悠斗はバイバイと手を振りながら帰った…

No.14 12/02/17 22:16
秋子 ( yuBCh )

また恐怖の夜になった


…今夜はなにも起こりませんように…

愛子は神に祈った…


昨日のあの老婆はどこへ行ったのか

空の上には一体なにがあるのか

死んだらもう自分は自分じゃなくなるのか?


死後の世界なんてあるのか?





ふと窓から暗い外に目をやれば


蛍がポッポと飛んでいる…


こんな真冬に…

蛍?

蛍だと思ったその光はいきなり大きくなり

物凄い速さで近づいて来る!


来た!!


愛子はベッドの下に隠れて

ベッドの足にしがみついた

…助けて!

…助けて!

…まだ死にたくない

…まだ行きたくない

目を閉じた…

No.15 12/02/17 22:22
秋子 ( yuBCh )

すると…


どこかで、ピーーと…あの音がなり始めた


カッカッカッ早い足音…


そして


カーテンがシャッ…シャッ…と閉まる音がした


違った…

自分じゃなかった

でも…

体中…ブルブル震えは止まらない…

No.16 12/02/17 22:29
秋子 ( yuBCh )

愛子は自分じゃなかった事に、とりあえずホッと胸をなで下ろした…

だが…

自分じゃないとすれば、あの若い男の人だろうか?


愛子は浮き上がり

カーテンをすり抜けてそこへ入った

あの若者がまるで眠っているかのように

目を閉じてベッドに寝ていた

夜勤の看護師があくびをかみ殺しながら

若者の体を処置していた

…まだ若いのに

…死は年に関係ない

若くてもお構いなしに連れていってしまう…

若者の乗ったベッドは

看護師二人に押され移動して行く

そして遺族に引き渡された

母親らしき女が気が狂ったように息子にすがり

泣き叫んでいる…



暗い病院の廊下がどこまでも続いていた…

No.17 12/02/17 22:40
秋子 ( yuBCh )

そして夜が明けた…

空になった2つのベッドが並んでいた…

今夜…光が来たら

もう愛子に間違いない…

恐怖におののく…


そんな時

いつものように

出勤前に正が現れた…

正の顔を見ると愛子の心はいくらか落ち着いた

普段は当たり前過ぎて感じた事はなかったが…
「ありがとう…」

愛子は届かないだろうが、心から正に感謝した


正のためにも

なんとか意識を取り戻さなければ!

生き返らなければ!!!


愛子は焦っていた

正「…愛子…おはよう…」

正はいつものように愛子の手を握り…頬を撫でている

No.18 12/02/17 22:46
秋子 ( yuBCh )

正の優しさが嬉しくて

愛子の目から涙が溢れた

だが…

正「…愛子…ごめんな…ウッウッ…」


え?…

どういう事だろう

何故…正は泣いて謝っているのだろう

正「…お前が…この世からいなくなっても…角膜や、内臓は 誰かの中で生き続けるからな…ウッウッ……」


はぁ?!

なに?!

私はまだ生きているのに?

脳死?

だから?

内臓移植?

嘘でしょう?!

嘘でしょう?!

No.19 12/02/17 22:58
秋子 ( yuBCh )

やがて…

息子、嫁、孫、親戚がゾロゾロ

現れた…

正「…さぁ…みんな…母さんと…お別れだ……ウッウッ…」

みんな泣いている

愛子「ゆう!…ゆう!…悠斗!」


悠斗が泣きながら近づいてきた…

悠斗「…バァバ……僕…悲しいけど…バァバがよく言ってたよね…人の役に立つ大人になりなさいって…バァバは偉いね…エーン………エンエン………」

愛子「…まさかバァバはまだ生きてるでしょう?…みんなに言ってよ!…まだ…」


そこへ看護師と医者が神妙な面持ちで現れた


医者「お別れは済みましたか?…では…酸素、点滴はずします…」

そう言った


そんな!!

助けて!!

助けて!!


やがて…

病室の天井からあの光が

愛子めがけて降り注いで来る!…



あ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰ッ!!

No.20 12/02/17 23:04
秋子 ( yuBCh )




目が覚めた…

夢だったのか~

またいつの間にか眠ってしまったらしい…

お昼だ…

腹減った…



…完…

No.21 12/03/02 23:56
秋子 ( yuBCh )

第18章

…小瓶をくれた女…

No.22 12/03/03 00:06
秋子 ( yuBCh )

それは、絵理子が会社の帰りにいつも寄るコンビニでの事だった


週刊誌を片手に持ち…

飲み物を探しに店の奥へ向かって歩き出した


レジとは間逆な位置にある商品棚を通り過ぎようとした時


茶髪で耳にピアスをした

若い男が身を少しかがめ…

ショルダーバックに何かを詰めている


絵理子にはそれはごく自然の仕草に思えたのだが


ピアス男には絵理子の登場は予想外だったらしい


ピアス男は驚いてコメカミがビクンと動いた…


もしや万引き?!

絵理子はまばたきもせずに

もう一度振り返ってその男を見た


ピアス男はバックを肩にかけ直し

チラッと絵理子を横目で睨むと、自動ドアへ向かった

ファーのついたフードを深くかぶり

人波に紛れてその姿はあっという間に消えてしまった…

No.23 12/03/03 00:08
秋子 ( yuBCh )

絵理子は唖然としてピアス男の消えた入り口を見つめていたが…

店員や客はレジに集中しており

ピアス男の行為には気づかなかったようだ

万引きなのか?…

それともひょっとして

自分の勘違いかも知れない

関わり合いになるのも面倒だと思い

絵理子は、黙ってガラスの陳列棚からビール二本を取り、煙草を買い

そのコンビニを後にした…

No.24 12/03/03 00:13
秋子 ( yuBCh )

繁華街を抜け、細い路地へ曲がって自宅へ急いだ


路地は街灯の明かりだけを頼りに歩く


人通りもなく寂しい道だ


小さい公園の前に来た時だった


後ろから小走りに近づいてくる足音に気づいた


絵理子が止まると足音は止み

歩き出すとまた足音が近づいてきた

気味が悪くて、振り返りたくはないが


絵理子はいっきに振り返った…

すると…それは見覚えのあるファー

あの万引きピアス男が肩にショルダーバックを下げて立っている


ピアス男は絵理子の視線に立ち止まり


そのフードの中から、大きな瞳でギョロリと絵理子を睨んだ…

No.25 12/03/03 00:19
秋子 ( yuBCh )

ピアス男はいきなり大きい声で怒鳴った

ピアス男「ババァ!さっき見ただろッ?!」

その威嚇する鋭い言葉

絵理子に底知れない恐怖が、首から肩中に走った…


絵理子「…なにを?…」

とっさにすっとぼけてみた


ピアス男「見たんだろ!…あのコンビニで…俺がしてた事だよ!…」


大きい男だった

絵理子は恐怖におののいた

絵理子「…見てないですよ…」

ピアス男「嘘つけ…もう…通報したんだろうこの野郎!!!…」

ピアス男はいきなり…

ナイフを絵理子に向けた

驚いた絵理子は

「…ギャー…💦ギャーーーた…た…」


恐怖で…助けて〰の声が出ない


ピアス男「金出せオラ!!…」


絵理子はバックを脇に抱えると


後ずさりして逃げようとしたが

小石につまずき

尻もちをついた

コンビニの袋は道端にたたきつけられた

立ち上がろうにも
腰が抜けて動けない…

だがバックは無意識に抱えたまま放さなかった…

No.26 12/03/03 00:25
秋子 ( yuBCh )

ピアス男「ババァ!バックよこせつってんだよ!…」

ピアス男は転んだ絵理子に馬乗りになって片手でナイフを真上に構えた

「ギャーアーーーー💦アアーーーギャーーーーー💦」


声にならないが

必死で叫んだ!


だが…ピアス男のナイフは暗い天から今にも

絵理子の目の前に振り落ちてきそうだ


絵理子はもうこれで人生は終わりだと思った

その瞬間


「止めろ!!」

どこかで声がした

遠くから走って近づいてくる足音が聞こえた

ピアス男は立ち上がり

「チクショウ!」

そう言ってどこかへ逃げて行った


絵理子はぐったりして立ち上がれない

助かったのだ…

男「逃げられました…あの…大丈夫ですか?」


黒い影の男の人が絵理子を覗き込んでいる

40代くらいのサラリーマン風の男の人だった


男はコンビニの袋を道端から拾い

絵理子の手を引っ張り

絵理子はやっと立ち上がる事ができた

男「…警察へ行って被害届を…」

と男は言いかけたが

放心状態の絵理子には男の声は届かない…


「家はどこです?…」

絵理子は家と言う言葉を聞いて我に帰った

自分の家の方向を指さし

男に支えられながらヨロヨロと歩き出した…

No.27 12/03/03 00:29
秋子 ( yuBCh )

やがて…民家のはずれに来た


絵理子「ここです…」

建物は立派だが、かなり古い家だ

男は格子戸をくぐり絵理子を支え中へ入った

中庭の丸い石を歩き終えると

やっと玄関が見えた

表札に…石川…

そう書いてあった

ガラガラと戸を開けると



絵理子は玄関にヘナヘナと座り込んだ

男は壁にあった電気のスイッチを入れた…

絵理子は…立ち上がり

絵理子「さぁ中へどうぞ…誰もいません…私は一人暮らしですから…」

No.28 12/03/03 00:35
秋子 ( yuBCh )

男は中へ入って行った

家具や調度品が並んではいるが

今の時代の物ではない

かなり古い…


男はキョロキョロ部屋中を見渡した

絵理子「…さぁソファーへ座って下さい…」


絵理子は湯のみにお茶を注いでいる

絵理子は震えながらお茶を一口飲むと

絵理子「…あぁ…怖かった…お陰で落ち着きました……」


男「…えらい目にあいましたねぇ……顔は見ましたか?」


絵理子「…いえ暗くて…金髪だった事ぐらいしか……」

男「…明日警察へ行った方がいいですよ…」


絵理子は肩から大きく深呼吸して息を吐き出した


絵理子「…あなたが現れなかったら、今頃私は…あぁ恐ろしい…」

絵理子は亀のように首をすぼめた…

絵理子「…さぁお茶飲んで下さい…

あなたは私の命の恩人です…なにかお礼がしたいのですが?…」

No.29 12/03/03 00:39
秋子 ( yuBCh )

男「…お礼だなんて…犯人は逃がしてしまいましたし…でも無事でほんとに良かったですね…」


絵理子「はい…ありがとうございます…あなたのお名前は?」


男「…佐々木です…いやほんとに…気にしないでいいですから…」


壁の振り子時計が8時になろうとしていた

男は帰るつもりか立ち上がろうとした…


絵理子「…佐々木さんちょっと待って下さい…」


絵理子は立ち上がると


梅の絵柄のついた襖を開けて奥へ入って行った

No.30 12/03/03 00:43
秋子 ( yuBCh )

やがて絵理子は

透明のガラスの小瓶を持って表れた…

絵理子「これ…さしあげます…」

佐々木は不思議そうに小瓶を持ち上げた…

中に少量の液体が入っている


小瓶には…

『願心薬』

そう書いた紙が張ってあった

だが紙は茶色に変色して

墨で書いた字も薄くなり

かなりの年代を物語っているようだった

佐々木「…これはなんです?…」

絵理子「…それは…先祖が私に残してくれた秘薬…
何かの時に役立てて下さい…
最後の一本になってしまいました……」


佐々木は怪訝そうに小瓶を見つめて

佐々木「…どう使うのですか?」


絵理子「…本当に困った時に、一滴だけ飲んで…心の中で祈って下さい…」


佐々木は半信半疑で小瓶を持ち帰った…

No.31 12/03/03 00:48
秋子 ( yuBCh )

佐々木は48歳

妻と娘、息子の4人暮らしだ


妻「あなた…遅かったわね‥お腹すいたでしょう…先にお風呂どうぞ~」

優しい妻と家庭があって佐々木は幸せだった…

だが…

風呂で頭を洗う時の手の感触でいつも思う

最近頭がすっかりハゲて

どこからがおでこで

どこからが頭なのか境目が全く分からなくなっていた

佐々木の仕事は営業だった

だが頭の薄さを気にするあまり

得意先との商談もいつしか消極的になってしまっていた


最近の悩みだった…

年のせいとはいえ…頭の毛の量と比例して

気持ちも寂しくなって行くようだ

風呂からあがり

体をバスタオルで拭きながら

洗面所で鏡をみると

蛍光灯の光が頭に反射して

ピカピカ光っている


ふと…

あの小瓶を思い出した…

コートから出して
ふたを開けた

臭いは…

無臭

口を開いて目薬のように小瓶を上から傾けた

一滴…

ポタリ…

口に入った…

味は砂糖水のように甘かった…


まさかこんなもんが…

佐々木は苦笑しながら

飲み込んだ…

そして

…頭に毛が生えますように…

そう念じて…

笑いを我慢しながら風呂場を出た

No.32 12/03/03 00:51
秋子 ( yuBCh )

そして朝…

寝ぼけて頭を触るといつものツルっとした肌触りではない…

まさか!

飛び起きて洗面所へ走った

おでこに生え際があった

黒々ではないが

それは…

一定に…短いが

生えてきていた

テーブルで朝ごはんを食べている佐々木に

妻「…あなた…頭にゴミがついてるわよ…」

そう言うと妻は新しい毛を引っ張った


佐々木「…いてッ…」

妻「…まさか…まさか…」

二人で驚いて顔を見合わせた


一週間もすると

朝シャンしてドライヤーをかけられるまで長くフサフサになっていた…

鏡の前にはもうハゲの面影はなくなっていた

会社でも…

みんなは佐々木はついにヅラを被った…

そう冷やかされたが…

みんなの前で髪を引っ張って

ヅラではない事を立証させた

みんなは唖然とした

No.33 12/03/03 00:54
秋子 ( yuBCh )

A「どうしてだ?…なに塗った?…」

B「薬か?どこで買ったの?…」

C「佐々木~別人だよ!…」

それからの佐々木は

フサフサになった自分に自信が持てるようになり

得意先にも意欲的に出かけて行き

売り上げは増えバリバリ仕事をこなした…

やがて…佐々木の毎日は充実感に満ち溢れて行った…

No.34 12/03/03 00:58
秋子 ( yuBCh )

そして…ある夜の事

コタツに入ってテレビを見ている妻の顔を横から何気なく見ると…

目の下に窪みが出来て、時々笑うと目尻に細くて小さいシワがいくつも出没する…

さらに頬にシミがうっすら

若い時は目がパッチリして

色白でなかなかの美人だったのに

いつの間にか年を重ね、妻の外見は衰えて来ていたのだ…

毎夜、パックをしたり高い化粧品を塗ったり…

小さいローラーを顔中でコロコロ転がしたりしていたが


時々鏡を見てはため息をつく妻に佐々木は気づいていた


…よし💦…


佐々木はトイレへ行くふりをして立ち上がった…


そして…

ポケットから小瓶をとりだした…

No.35 12/03/03 01:02
秋子 ( yuBCh )

朝になった

妻「…おはよう~」

佐々木「おや…朝からご機嫌だね~なんかいい事あったのか?…」

妻は佐々木の顔にに近づいて

妻「…ねぇなんか違わない?」

満面の笑みで自分の顔を指差して妻はそう言った…

佐々木「…ん?なんか違う!肌艶がいいみたいだよ!…」


妻「…でしょう?…でしょう?…やっぱり、日頃の努力の成果がでたのかしら~」


それから妻は変わった…

部屋の中はいつもピカピカだし、料理も一層腕をあげた

子供達にも優しくなった

モチロン佐々木にも…

そして日曜日は夫婦二人で出かける事も多くなった


佐々木夫婦は若返っていった…

No.36 12/03/03 01:06
秋子 ( yuBCh )

そんなある日曜日

息子の春樹(高二)が、野球のユニフォームを着て

朝ご飯に箸もつけずにこう言った


春樹「今日の試合でヒットを打たなきゃ俺…ベンチになるよ…」


今日は他校と練習試合の予定だった

佐々木「…春樹が補欠?…まさか…お前が補欠なんて…お父さんは信じられないぞ!…」

春樹「…後輩に上手い奴がいっぱいいて…実力あったら…先輩も後輩も関係ないし…あぁ…今まで一生懸命頑張って練習してきたのに!…」


春樹は飯も喉に通らないらしい

佐々木と一緒に応援に行く妻も心配そうに

台所から春樹を眺めている…


佐々木はポケットに手を入れながら
またトイレへ行った…

No.37 12/03/03 01:13
秋子 ( yuBCh )

野球の応援へ妻と出かけた

両高校とも互角で点の取り合いになったが…

相手チームのホームランなどで三点差…

春樹のチームは負けていた

そしていよいよ

…9回…裏

春樹達チームの最後の攻撃となった

2アウト満塁


ここでホームランが出れば


逆転サヨナラだ!

誰もが息を飲む!

場内アナウンスが

…バッター8番…キャッチャー佐々木春樹く~ん…


まるで絵に描いたような劇的な場面で春樹の打順が回ってきた…

スリーボール

ツーストライク


カウントに後はない…


ピッチャー投げた…


甘い!…


ど真ん中だ!…


春樹は…


カッキーン!!💦

打った!(゚Д゚)



ピッチャーのはるか頭上を超え


センターバック!バック!


玉は場外へと…消え去った!…

No.38 12/03/03 01:19
秋子 ( yuBCh )

そして…

また何日かたった

それは夜…

佐々木「千春は今夜も遅いのか?」

娘の千春は…25歳

彼氏と付き合って丸三年過ぎていた…


佐々木「…もう11時だぞ!…嫁入り前の娘が…こんなに遅くまで!…」

妻「…千春も もう子供じゃないんだし…」


佐々木「…だいたいあの彼氏は…付き合ってから一度も顔を出さないじゃないか!…結婚する気はあるのか?…まったく…人の娘をなんだと思ってるんだ!…」

妻「…そうなんですよ…煮え切らないというか…一度別れたらしいんですけどね…でも…またダラダラ付き合い始めて…千春は、まだ好きなんでしょうねぇ…」

そこへ千春が帰ってきた


千春「ただいま…」

佐々木「…何時だと思ってるんだ!…千春!…世の中にはいい男がいっぱいいるんだぞ!…あんな優柔不断な男は…さっさと別れちまえ!…」

千春は二階へ駆け上がった…

No.39 12/03/03 01:23
秋子 ( yuBCh )

夫婦は階段の下で心配そうに耳を済ませている


佐々木は階段をそっと登り


千春の部屋のドアまで近寄って


耳を傍だてている…


「…ウッウッ…」


千春は声を潰して泣いているらしい…


娘が泣く事は親にとっては

この世の地獄だ…

辛いのは親の自分たちではなく…


千春が一番辛いのだ…


夫婦は切なくて肩をガックリ落とした…


やがて…佐々木はトイレへ駆け込んだ…

No.40 12/03/03 01:27
秋子 ( yuBCh )

それから1ヶ月ほど経ったある日曜日


朝から出かけていた千春が夕方

男を連れて帰ってきた…

夫婦は目を驚かせて二人を出迎えた

男は名前を言い

「お邪魔します」

そう礼儀正しく夫婦に挨拶をして

家の中へ入ってきた…


佐々木は千春を洗面所へ連れ込み


佐々木「…あいつか?…あれが優柔不断彼氏か?」


そう聞いてみた


千春「…違うわよお父さん!…あの優柔不断男とは、とっくに別れたわ!…私…目が冷めたの!…お父さんの言う通り…すぐに、いい彼ができたわ!…」


佐々木「!!!…」


それから半年後


千春はこの男と盛大な結婚式を挙げた…

No.41 12/03/03 01:30
秋子 ( yuBCh )

そして五年が過ぎた

佐々木には孫も二人できて…

息子の春樹も社会人になり

夫婦二人悠々自適な生活を送っていた


ある日…

会社の健康診断があって、その結果で佐々木は思いがけない事を言われた

血液に気になる数値があると言われ

大きな病院で検査入院となった…

それは…まさかの…

…癌だった

進行性で…

余命半年…

佐々木は事実を受け入れられず…

毎日ぼんやり生きていた…

No.42 12/03/03 01:32
秋子 ( yuBCh )

もう一度あの小瓶を…

幸せ過ぎて

すり忘れていた小瓶

どこにやってしまったのか

探した…

あった!

机の引き出しに転がっていた

必ず望みを叶えてくれた小瓶…

もう一度だけ

お願いしてみよう

佐々木は小瓶を高く持ち上げ

ひっくり返して口をあけた…

だが…

もう一滴も 残ってはいなかった

佐々木はあの小瓶をくれた女の所へ急いだ…

No.43 12/03/03 01:37
秋子 ( yuBCh )

格子戸の前に立った

懐かしい

佐々木「ごめんください!…佐々木です!…」

石川の表札もそのままだ

ガラガラ

佐々木「ごめんください!…石川さん!…」


絵理子「はい…」

声が聞こえた…

絵理子「どちら様?…」

佐々木「…佐々木です!…ご無沙汰してました…」

絵理子「佐々木さん…どうぞ中へ…お入りになって…」

佐々木は靴を脱いで中へ入って行った

中はあの時のままだが

ソファーに寝ているのは

見たこともない痩せ細った白髪の老婆だった

佐々木「…あの…石川さんは?」

絵理子「…佐々木さん…私が石川ですよ…」

五年の間にこんなに老け込むなんて信じられないが…

絵理子「私の命の恩人の佐々木さん…お久しぶりでしたねぇ…今日はまた何か用事でも?…」


佐々木「実は…俺…癌で…余命半年って言われて…その…また…小瓶を分けて戴けないかと…」


絵理子「…そう…癌ですか…それは良かったです…」

No.44 12/03/03 01:45
秋子 ( yuBCh )

良かった?!

癌で良かった?!

佐々木は耳を疑った…

絵理子「佐々木さん…小瓶はあれが最後の一本でした…佐々木さんは、何滴お飲みになりました?」

佐々木「…4滴です…」

絵理子「…4滴だと……400年…

私はもう300歳を超えました…

でも佐々木さんは癌だから…多分…あと…
100年ぐらいですよ…
あんまり長生きもねぇ…」


佐々木「…」


絵理子「…私はもう生きる事に飽き飽きしていたの…だから…
…最後の一瓶は
…佐々木さんにあげたのです…

フフフ…私…もうそろそろ寿命が来たみたいです…」


佐々木は全身から冷たい汗が吹き出した…



…完…

No.45 12/03/11 13:53
秋子 ( yuBCh )

…第19章…



…ラーメンを作る女…

No.46 12/03/11 13:55
秋子 ( yuBCh )

それは…
冬も終わりに近付いた…

春が恋しいある昼下がりの事だった

ピンポーン…

今日は誰も来る予定などないのに

一体誰だろう


尚美のパート先のラーメン店は今日火曜日が定休日だ

息子は学校へ行き旦那は仕事

家には誰もいない

完璧に一人だけの休みの日だ

誰にも邪魔されたくはなかった

インターホンのモニターを覗くと

見覚えのない学生風の若い男だった

訪問販売?
なんだろ?



No.47 12/03/11 13:59
秋子 ( yuBCh )

面倒くさいから、居留守を決めこもうとしたが…

ピンポーン…


ピンポーン…


帰ってくれればいいのに

イラっとしながらモニターを覗き込んだ

最近の画像はカラーで鮮明に映る事を知っているのだろうか

男はメガネをかけて寝起きのようなボサボサ頭

最近こんな汚い髪型が流行っているらしい

要するに手入れをしなくていいような頭って事だ

それに栄養の悪そうな痩せた顔立ち

ピンポーン


男はキョロキョロ鏡でも見るようにカメラを覗き込んでいる

まともに目が合うとかなり気色悪い

No.48 12/03/11 14:02
秋子 ( yuBCh )

あぁ…仕方がない


尚美は
インターホンの受話器をとった!

尚美「…はい」

男は住人がいた事が意外だったのか

目をおおきくして

驚いている

尚美「…どちら様?」

男「あの 東日本大震災の募金をお願いして回ってます!」

尚美「…はぁ?どこの団体?」

男「…全日本大学地震災害研究連合です!」

やたら長い名前だ

ありそうでなさそうで…

無理やり作った名前のような気もする…

なんか胡散臭い

尚美「…あのぅ…そういうの困るんですよね
私募金は他でもしてますから…
よそへお願いしたらどうです?」

男「…いくらでもいいので…」

尚美「…お断りします」


モニター男は…尚美にはっきり拒否された事に心がくじけたのか下を向いている


尚美「…お引き取りください!」

男「……はい…すみませんでした」

意外に素直な返事が帰ってきた!




No.49 12/03/11 14:06
秋子 ( yuBCh )

モニターを覗くと

男は頭を下げて後ろを向き歩き出した

こんなに押しが弱くて募金など集まるのだろうか?

まぁいい関係ない……

とにかく帰ってくれて安堵した

せっかく録画したテレビドラマ一週間分

一人でゆっくり見たかったのだ

途中で邪魔されたが珈琲を用意してソファーに腰を落とした


するとまた…


ピンポーン

なんだ?

今度は誰だ?

モニターを見ると、またあいつだ!

断られてなんか文句でもあるのか?

苛立って返事をした

尚美「…なんでしょうか?」


No.50 12/03/11 14:09
秋子 ( yuBCh )

男「あ…あの…お腹が痛くて…トイレを貸して頂けないでしょうか」


はぁ?トイレ?うちのトイレ?冗談でしょう

どこの誰かもわからない男を家にあげるワケにはいかない

なんとか阻止しようと頭を捻った


尚美「…あのコンビニとかスーパーとか」

男「…それが…近くにないんですよお願いしますよ!」

ここは住宅街…

商店コンビニまでは程遠い…

男「…あぁあああ…もれそう…」

男は切羽詰まっているようだ!

今度はさすがに押しが強い

家の前でもらされても困る

でも中じやない…外だし

私には関係ない

でも関係あるかも?

ああ…仕方がない

見殺しにはできないか…



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