無理しないでね 2
無理しないとやっていけないよ。。
誰も助けてはくれない。
無理しないでねって言葉の意味、いつも考えてる。
無理しないでの続きを書いていきます。
書き始めてから長い期間たっていますが、必ず完結を約束します!
読んでいただける方の気持ちを大切にします。。。
批判も中傷も感想も全て受け入れます(^-^)
色んな感情を私に学ばせて下さい!
14/08/31 07:37 追記
子供の進級、進学と心の問題で少し間が空いてしまいましたが、また書いていこうと思います^_^
子供の作文の宿題を一緒に考えているうちに、書くことが好きなことを思い出しました笑
以前のように見えない感情を上手く文章に出来ないかもしれませんが、素直な心で書いていければと思います^_^
レス制限をしているので、苦情などは感想コーナーまで。。(^^;;
ドラマのような出会いは良く行く車用品店だった。
オイル交換からタイヤ交換など車に無知の私は近くの店に良く行き相談していた。
大体仕事の帰り。
制服のまま行く事が多かった。
その日も車検の相談に行き見積もりなどしてもらう事になった。
店員は若い男の子。
普通にかっこいい男の子で一生懸命説明してくれた。
「個人的には買い替えもアリだと思いますよ!売り上げにならないけど 笑」
そんな事を言われ値段や車種の話をしていた。
「お子さんかわいいですね!」
やんちゃな子供の事を気にしてくれていた。
「もし買い替えるなら、知り合いが働いてるとこがあるので話できますから」
親身になってくれていると思った。
「でもねぇ。。うちは四人しかいないから大きいの買っても維持が大変だし、何せお金かかるしね」
そうなんですか?とシングルだと言う事に気づいたようだった。
仕事も自転車で行ける距離だし、前より車使わないしと話をすると
「あのお店辞めたんですか?」
と言って来た。
あれ?私の事を知っている。。
「何度かお話しているんですよ。覚えてないですよね?」
と店員。
確か一度話しかけられた事は覚えていた。前の仕事は結構有名な店だった為、制服のロゴを見て話しかけてきた。
それ以外は全く覚えていない。
その時の印象もない。
その後、店内で見積書を出してもらい、住所や電話番号を書く。
「知り合いに連絡とれたら携帯に連絡してもよろしいですか?」
何の疑いもなく承諾した。
その夜、携帯にメールが来た。
《突然のメール失礼致します。本日はご来店有り難うございました!知り合いと連絡とれたので試乗も含めご来店お待ちしておりますとの事です。》
丁寧な営業文だった。
《有り難うございます!知識がないので色々アドバイスして頂いて感謝しています。》
そんな会話をした。
日にちやら車の事やらメールをし続けていた。
《ところで、私の事良く覚えていましたね》
接客業を長い間していた私にとって、常連客の顔を覚えるのは大切な事だった。
この店員も常連客を覚えるのが得意なのだろう。
接客の仕事を頑張っているように見えた。
私は何度も通っていた事を覚えていてくれて嬉しかった事と前の職まで知っていた事に驚いていてこんなメールをした。
《覚えてますよ!何度も話しかけてますもん!それに。。。実は。。。》
《はい?どうかしましたか?》
《ずっと、あなたの事気になっていたんです。最近来ないなと思っていたのですが転職したんですね。でも、今日、来てくれて、やっと会えた!!って嬉しくて!自分からあなたの担当を引き受けたんです!》
えーーーーー?!!!!
かなり驚いた。
何て返信すればいいんだろう。。
いや、恋愛とかそんなものじゃなくて、ただ何かわからない事を良く聞くから印象が強かったんだ。
《そ、そうなんですか?!でも今日見た通り私には三人子供がいてしかもシングルなんですよ。年もあなたといくつ離れてるか 笑。私話すの好きなのでおしゃべりだから印象に残ってたんですかね。》
《お子さんかわいいですね!また是非連れて来て下さい!話が好きなのはとても良くわかりました。さすが接客業って感じです!年齢とかそんなの関係なくないですか?普段のあなたを見てイイなって思ったのだから》
何か。。この展開は。。何。
《よろしければ仲良くなりたいです。蜜ちゃんって呼んでもいいですか?!》
今時の若者はこんなにも早い展開を不自然だと思わないのだろうか。
聞くと彼は23歳。私より何歳年下なんだか。
わーいわーい!とお花が付いて来そうなメールを見ながら対応に困っていた。
そこへ、裕からのメール。
《時計返して下さい》
お揃いで裕と付けていた時計。裕からもらった物だった。
まあ、新しい彼女にでも渡したいのか。。
それ位にしか思わなかった。
久しぶりのメールは私のつかぬまの安定を乱した。
返すのは構わない。でももう会いたくないし返しようがない。
《これから行く。》
そのメールを最後に返信は途切れた。
どうしようもない恐怖を感じた。
このままでは終わらないとは思っていた。
私は裕からメールが来た事を会社の人に伝えた。
会社の人は細井さん。もう働いて7年目。私が異動した場所にいて、何も解らない私に優しくしてくれた。
入った時から何ヶ月経っても会社に慣れなかった私。
お金の為にと愚痴る事なく働いていた。
覚えが悪く落ちこぼれの私に一つ一つ優しく教えてくれた。
「この仕事、花嫁修業になりますね」
初めてそんな冗談を交えて話かけられた時思わず言ってしまった。
「もう、花嫁にはなりませんよ。こりごりです」
そうですね〜と軽くかわす事も出来たはず。
でも、何故か細井さんには本音で返事をしてしまった。
この言葉から離婚していると察知したらしい。
そんな話から少しづつ話をするようになった。
裕と別れてから細井さんに裕の話もするようになった。
男の立場から意見をもらえる事が出来てすごく参考になった。
この人は私の話をきちんと聞いてくれる。
親身になってもらえた記憶がない私にとって、良き相談相手になっていた。
《いつかは話をしなければならないと思っていました。今日、その日のようです。きちんと話をつけてきます。》
細井さんにメールをすると、すぐに返事をしてくれた。
《大丈夫?!心配だよ。どうなったか落ち着いたら教えてね!》
23歳クンへの返事も忘れ、私は携帯を置いた。
時計さえ返せばいい。
それ以外に何も話はない。
呼吸が荒くなる。
一生のうちの数分だけ!
もう、最後にしたい。。。
しっかりして!
自分に言い聞かせた。
裕の車が駐車場に入ってくるのが見えた。
怖くてたまらない。。
家には入れる訳にはいかない。
玄関の前で待機をした。
裕がゆっくりと近づいて来る。
足音が止まった。。
私は深呼吸し玄関の戸を開けた。
生気のないない裕の顔。
裕は車に向かって歩き出した。
私の足はなかなか前に進んでくれない。
「話、しないの?」
無表情で私に言う。
進まなきゃいけない。
進まないと何も変わらない。
また、深呼吸をし、裕についていった。
後部座席のドアを開け裕は中に入り投げやりな感じで座った。
沈黙。。。
私は時計を後部座席へと置いた。
「もう、返したから。じゃあ。」
家に向かい小走りに戻りかけた時、裕は勢いよく私の元へ走り腕を掴んだ。
「舐めた真似してんじゃねーぞ?!」
私は車へ戻され無理矢理後部座席へ押し込まれた。
裕の手が私の服の下に無理矢理入って来る。
激しく胸を揉まれた。
その手は股に移動し下着の中へ突っ込まれた。
「こうされるの好きなんだろ?!」
その行動に優しさなんてない。
「中で出してやろうか!子供でも作ればもう逃げらんないだろ!まあ・・俺は逃げられるけどな!」
最低の発言だった。
もう、話す価値もない。
裕はそのまま私の中へ挿入した・・・。
拒否することも、受け入れる事も出来ない。
最後のセックスは最低のセックスだ。
頭の中に浮かべていたのは細井さんの姿だった。
話をするだけ、きちんと終わりにする為だと言っていた。
こんな事をしたなんて言えない。
何だか、細井さんを裏切っているような、やり切れない気持ちでいっぱいだった。
でも、どうする事も出来ない。
私が少し我慢すればいい。
裕の発言は最低だけど、本気で中出しなんてするつもりがないのはわかっていた。
そんな事を言って私をいじめている快感。
自分はSだと主張する行為。
そんな自分を演じて楽しんでいるだけのようだった。
表情も変えず裕のされるがままにしていた。
「やっぱり人形相手なんて気持ちよくもないわ」
そう言いさっさと服を着た。
もう、解放して・・
私を自由にして・・
裕は車を降りタバコを吸いはじめた。
私は服を元通りにした後外に出た。
裕は私の返した時計を手に取り外に投げた。
「こんな物、いらねーよ!」
はぁ?何しに来たのよ?
内心そのパフォーマンスに苛立った。
「蜜が持ってない時計なんて意味ない」
元々は一万ちょっとの物、それを私が持ってるのがもったいないと思って取り返しに来たはず。
お揃いの時計を持ってるのが辛くてじゃなく、一万ちょっとの時計を持ってる事自体がもったいないと思っていただけだったと思う。
返してと言われた時、初めて私は借りてた事に気づかされた。
くれたんじゃなかったのね。
何かセコイ人だ。
そう思った。
私は時計を拾い裕に渡した。
「次の大切な人に渡してあげなよ」
裕はまた投げ捨て、いらねえ!と言った。
「じゃあ、私、行くから」
そう言い残し家へ向かった。
裕は私の手を掴み車まで引き戻し車のボンネットに私の体を叩きつけた。
そして髪の毛を掴み振り回された。
「何で俺がこんなに好きなのにわかってくれないんだよ!!」
愛情は暴力に変わった。
私は涙した。
「何で。。こんな事するの。。」
裕は私から手を離した。
私は走って部屋へ戻った。
怖くて怖くて仕方なかった。
裕は勢い良く車を走らせて行った。
行ったのを確認し、外に出て時計を探した。
やはりない。
いらねえ!とかっこよく投げた時計はしっかり持って帰っていた。
大げさなパフォーマンスをしたにもかかわらず、しっかり持って帰っていった時計は感情で取り戻したいと思った訳ではない事がここでわかった。
朝、23歳クンからメールがあった。
《おはようございます。昨日メール途切れちゃいましたね。今日も頑張って下さいね!また夜メールしてもいいですか?》
《ごめんなさい。またメールしますね》
一言メールを送った。
裕とあんな状態にならず綺麗に切れていればこんな複雑な気持ちにはならず楽しくメールが出来ていたのかもしれない。
23歳クンのメールは新鮮だった。
細井さんとの関わりも新鮮だった。
ただ、普通の話が出来る事が嬉しかった。
深入りすればそれだけ悩みも多くなる。
この二人とは深入りはしたくない。
そう感じた。
休みたい感情をおさえ仕事に行くと、細井さんは1人で仕事をしていた。
「おはようございます」
笑顔で言った。
細井さんはすぐにそばに来て
「大丈夫?!」
と心配そうに言ってくれた。
頷く事しか出来ない。
その優しさに抱きしめて欲しいくらいの感情が溢れ出ていた。
でも、それは出来ない。
一から話すには私は重過ぎる。
優しい細井さんに甘えたらいけない。
口を開けば涙が溢れそう。
何も言わずその場を去り仕事についた。
仕事は上の空だった。
早く終わらないかな。。
朝からそんな事ばかり考えていた。
黙々と仕事をする細井さんを周りにバレないように目で追っていた。
話がしたい。。
細井さんは心から優しかった。
そんな細井さんも大きな悩みを抱えていた。
細井さんには家の長男と同じ学年の子がいる。元奥さんと三人で一緒に暮らしている。
少し前に離婚していた。
でも、持家があり子供もまだ小学生の為同じ家に住み、お互い交替で子供の世話をしていた。
どちらも出て行くことが出来ず、離婚していても結婚生活と変わらない生活をしていた。
もう一度、元嫁の気持ちを取り戻したい。
細井さんは私が離婚している事を知った後、気持ちを打ち明けてくれた。
同じ屋根の下に暮らして11年。
記念日には必ずプレゼントを送り気持ちを伝えてきた細井さんの一途な想いを応援したかった。
こんな優しい、一途な人と結婚していた奥さんが羨ましかった。
細井さんには幸せになって欲しい。
自分の事でも大変なのに私の事に巻き込みたくない。
仕事が終わり外に出ると雨が降っていた。
少し前に細井さんが傘をささず歩いていた。
私は小走りに近寄り自分の傘に入れた。
「風邪ひいちゃいますよ」
びっくりした細井さんは笑顔でありがとうと言ってくれた。
この人の笑顔本当に素敵だ。
心が、キュンとしていた。
車の前まで傘をさしてあげ、立ち話をした。
「濡れるから少し入りなよ」
細井さんは車の中へ入れてくれた。
手、冷えちゃったねと言いながら私の手を握り暖めてくれた。
その手は冷たい。
私よりも冷たいかもしれない。
でも、その心の暖かさが手を通して伝わった。
私は昨日の事を話した。
言えない事は言わない。
聞かせたくない事は口にしなかった。
「時計、なくなっちゃった」
大切な人と同じ時間を刻んでいた時計をなくし、本当に終わったのだと伝えた。
それは最悪な終わり方だったとも伝えた。
「そんな大きな意味のある時計だなんて知らなかったよ。そんなものなくなってよかったじゃない。本当に頑張ったね」
そう言いながら頭をなでてくれた。
暖かくなった手は私の頭を優しく包み込んでくれた。
「何でそんな奴の事好きだったの?」
「さりげなく手を繋げる所とか、こうやって腕を組みながら歩けたり。。」
そう言いながら細井さんの腕に私の腕を絡ませた。
その行動に驚きもせず、私の話をとてもよく聞いてくれた。
私は少しでも近づけた事が嬉しかった。
「てか、そんなの当たり前じゃね?」
見た目はクールで手も繋がなそうな人。
好きだよなんて言ってくれなさそうな人。
なのに、手を繋ぐのすごく好きと言った。
「私も好きなんです!愛情繋ぎ知ってますか?」
そう言いながらまた細井さんの手をとり、指を絡ませる愛情繋ぎの実演をした。
手を、繋げた。。
胸がキュンとなる。
手を繋いだだけで胸のハートがいっぱいになる。
中学生の頃の片思いの気持ちを思い出した。
現実のドロドロとした関係を一瞬だけ忘れさせてくれた。
子供のお迎えの時間が迫ってきた。
聞いてくれてありがとうと言い車から降りた。
現実に戻る。
今日の夜は何もありませんように。。
ここの所状況が目まぐるしく変化していて心が乱れていた。
何が正しいのかよくらわからなくなっていた。
その夜、23歳クンからメールが来た。
《車検の見積もりが出来ました!いつ頃次来ますか?》
仲良くなりたいと言う23歳クンに対して敬語も使わなくていいしあだ名で呼んでいいよと言った。仲良くなれば私にもメリットがあると思っていた。
《じゃあ敬語使わない。お店だとゆっくり話せないから蜜ちゃんちいきたい。どのへん?》
車検の話をしに来る事は嫌ではなかった。
少しでも安くしてくれると言った23歳クンの気持ちは嬉しかった。
しかし家に来るのは抵抗がある。
《イヤイヤ、家汚いから。近いうちにお店行くよ》
《だいじょーぶ。蜜ちゃん大変。普段の生活みてみたい》
特徴のあるメールだった。
返事のしづらいメール。
《無理無理、それに遅くなっちゃうから、それにすっぴんは見せられないから笑》
そんな私の言葉は聞いちゃいない。
《うん。で、おうち大体どこ?住所わかるよ。すっぴんでも可愛い。自然な蜜ちゃんもみたい。》
断っても言い続けてくるだろう。
この、何と言うか、言い放つ文章。
とりあえず自分の気持ちは言う的な文章に私はのまれていた。
車検も近いしいいか。。。
私は23歳クンが家に来る事を許可した。
車検の見積もり書に住所や電話番号を書いている。住所を辿れば家に来れる。
断っても断っても結局来ちゃったと言う展開は嫌だった。
それに少しでも好意を持ってくれているなら悪い事はされないだろう。
そんな考えだった。
夜中の12時を過ぎ、 23歳クンは走り屋のような車で現れた。
さすが車好きと思わせる派手なステッカーが目立つ。
「来ちゃった」
「来ちゃったね 笑」
何とも言えない空気の中家の中へ案内した。
ダボダボのスウェットに帽子を目深に被り、一生関わらないであろうタイプの23歳クン。顔はかっこよかった。
2人でソファーに座り見積もり書を広げ日頃の事など交え話をした。
「蜜ちゃん彼氏いるの?」
あぁ。。面倒な質問。
「いたけど別れたよ。まだドロドロしてるけどね。リンちゃんはいるんでしょ?」
苗字の漢字の読み方を変えてリンと呼んだ。
「リンちゃんってなんだよ笑。女みたい。俺も少し前に別れたんだ。」
メールとは違いハッキリと話す口調にギャップを感じ可愛いかった。
「結構イケメンだから途切れないでしょー」
そんな冗談を言いながら、仕事に対しての話やお互い接客好きな話で盛り上がった。
一時間半程して遅いから帰りなと言いリンを見送ろうと立ち上がろうとした。
「ねぇ。。ぎゅーってしていい?」
急に上目遣いで甘えた口調になる。
は?
状況が読めない。
特にくっつく訳でもなく(当たり前)微妙な距離をとり話をしていた。
淡々と話す姿に外見ではわからない真面目さや、自分はこうありたいなどの気持ちを話してくれた。
こうやって話す事が出来るって幸せなこと。
相手の気持ちを聞いてそれに答え反応してくれる。
会話が成立しているあたり前な事が嬉しかった。
だからそのまま何事もなくバイバイをするつもりだった。
しかし突然のリンの言葉。
緊張気味に甘えたような口調でお願いされた。
「変な事言ってごめんね。ぎゅーってしたいだけなんだ。ずっとずっと気になってたから。」
その申し訳なさそうな言い方が妙に可愛いかった。
「う、うん。いいよ。」
私がそう言うとリンは私を抱きしめた。
抱きしめる腕がかすかに震えている。
こんな男の子もいるんだ。。
新鮮だった。
「やっと、抱きしめられた。。」
リンは耳元で囁いた。
想われる事の喜び。
こんな若い男の子に今、私は抱きしめられている。
ドキドキとかキュンとかは感じないものの、この年齢になってこんなにも年下の男の子からこんな事されるなんて思ってもいなかった。
震えている腕は次第に強く私を抱きしめた。
「ああ・・嬉しい。夢見てるみたい。」
リンは呟いた。
抱きしめるだけで喜んでくれる、そんなリンが可愛かった。
「ありがとネ」
私も小さな声でリンに言った。
リンの腕の力は抜け、私の顔を見つめた。
「な、何?」
嫌な予感がする。
私の言葉に反応する事なくリンの唇が私の唇に近づいて来る。
とっさに口を手で覆った。
「待って、落ち着こう!キスはダメでしょ!」
「どうして?何でダメ?」
何の為のキス?また、裕の時のようにキスを奪われてそこから恋が始まるの?
そんな訳ない。
「ダメなもんはダメ!ぎゅーってするだけって言ったでしょ?!」
「うん。でもチューしたい。」
「ダメダメダメダメダメ!!無理無理無理無理!!」
口を手で覆ったまま拒否し続けた。
「ダメなんて言わないで・・・」
リンのその寂しそうな口調に力を入れていた手を緩めてしまった。
そして私の頬を両手で優しく撫でた。
「お願い。俺の事嫌いにならないで。」
その言葉にどんな反応をしたらいいのか戸惑った。
私を見つめるリン。
そして・・・
リンの唇は私の唇に重なった。
愛情のないキス。
私は目を閉じる事も出来ず体は硬直していた。
ほんの少し前まで全く話した事のない他人だったリン。
なのに、たった数日でキスをしている。
こんな事になるなんて想像もしていなかった。
リンの感情は次第に高ぶっていった。
リンの手は・・私の胸に・・・。
「待って、待って、ほんと落ち着いて!どうしたの?もう、やめようよこんな事!」
「イヤ?」
「無理!」
リンの手を払い、きっぱりと嫌だと言う意思表示をした。
「ごめんね、ごめんね、嫌いになっちゃった?」
何なのこの子は?嫌いとか好きじゃなくて、大事なのは車検の金額なの!
心の中で突っ込みたくなった。
この時の私は細井さんの事が頭の中にあった。
今までに出会えなかった、この先も出会う事はないと思っていた、顔も性格も理想の男性。
でも・・
細井さんの事は好きになってはいけない。
一緒に住んでいる家族がいる。
形は離婚していても、やり直したいと思う相手がいる。
目の前にいる相手は私の事を気にしてくれている。
同時に二人の男が目の前に現れた。
裕への想いを断ち切ってから急に。
好きな人を想う事、愛する事、もう全てに疲れていた。
愛情ではない友情、男女問わず人と関われる事をただ楽しんでいたかった。
リンの行動は楽しむ域を超えていた。
細井さんへの想いは友情ではなくなりかけていた。
やっぱり、男と接すると言う事は不要な感情が付き物なんだ。
「私は嫌いにはならないよ。」
私はリンに微笑んだ。
「良かった・・」
私の色々な感情をリンは知らない。
「ねえ?なんでキスしたの?」
ストレートに聞いてみた。
「だってずっと気になってた人がそばにいるんだよ?好きな人を目の前にしたらキスしたいって思うじゃん。」
「最初からするつもりだったんだ?」
そういう訳じゃないと慌てている姿が何だかかわいい。
「あのねえ、私はリンちゃんより10以上年上なんだよ?もっと若い子周りに沢山いるでしょ?私なんて相手にしてたら彼女できないぞ。」
子供をなだめるような口調で言った。
「年なんて関係なくない?蜜ちゃんの事、年とかそんなの関係なく好きになったんだもん。蜜ちゃんは可愛いよ。話も上手いし人当りもいいし。俺は彼女いらない。何か俺ってすぐ飽きられちゃうんだよね。」
真面目な表情で話し始めた。
「俺って変なんだよね。友達からもよく言われる。言われた事とか言った事すぐ忘れちゃうしさ。友達にも呆れられてる。お前変な奴って。だから彼女が出来て色んな事求められても少し経つと忘れちゃう。そんで喧嘩したり。」
変な奴だとは感じていた。。。汗
「仕事してる姿からはそんな私生活想像もつかないよね。説明も上手いし丁寧だし、すごく話しやすいって思ったよ。」
「説明が長いって嫌がるお客さんもいるんだよね。だから丁寧すぎるのもダメかなあって思ったりしてる。でも蜜ちゃんは話す事が好きだってわかってたし、実際この前お店で話した時、蜜ちゃんと話すのすごく楽しくてすごく幸せだったんだ。」
リンはリンなりに色々な感情の中で生活している。
話を聞いていると芯はしっかりしているような感じがした。
「そう言ってくれてうれしいよ。私も元彼に散々悩まされてねえ・・。何せ私の誕生日に他の女とラブホにいっちゃうような人だったから。」
嫌な思い出、でももう過去の事。
「うわあ・・ありえねー・・・」
当たり前の反応が嬉しかった。
ありえない事をありえないと思ってくれる気持ちが嬉しかった。
「もう過去の話だけどね、向こうは今になって何だかんだ言ってくるけど、もう全て手遅れだからね」
ああ・・何だか気持ちが重たくなってしまった。
私の表情を見てリンはまた、私を抱きしめた。
私は、抵抗しなかった。
そのまま私は押し倒された。
「こんな事しちゃダメだよ」
リンはまた私にキスをした。
リンの手が、私の下半身を触り出す。
押さえられない感情が爆発しているようだった。
「嫌ならやめちゃう?」
もうこんなやりとりは飽きる程経験してきた。
好きでもない人とするこんなやりとりは快楽でも何でもない。
「舐めて・・嫌なら無理しなくていいから」
リンはズボンを下ろした。
さすが若いと思わせるリンのモノ。
愛情の感情を失った私にとって舐める行為は過去の私の感情を思い出させた。
愛がなくても、好きじゃなくても、
相手が求めるのなら
私は相手の感情に合わせる。
舐める事なんてたいした事じゃない。
「無理しなくてもいいよ」
久しぶりにこの言葉を聞いた。
しかもこんな状況で。
そんな言葉も、もう聞き飽きた。
私はリンのモノを咥えた。
「すごい、上手いね」
リンはそう言いながら息を荒くしていた。
リンのモノからは石鹸の香りがした。
その香りは準備の整った香り。
舐めてもらうための香り。
石鹸の香りは私にとって複雑な思いを抱かせる香りになっていた。
何の感情もなく、ただ目の前にあるモノを舐めるだけ。
何も難しい事はない。
咥える事も舐める事も感情さえ持たなければ簡単な事。
リンの手は私の下半身へ。
私の中へ入ってきた。
駄目といいながらも、気持ちいいと感じなくても、指は容赦無く私の中を掻き回す。
「あ。。。」
小さく声を出してしまった。
でもそれはただの癖。
「気持ちいいんでしょ。やめてほしくないならやめないでって言ってみな」
私は黙っていた。
「黙ってたらやめちゃうよ?ほら、ちゃんと言わなきゃ!」
そう言いながら激しく私の中を掻き回した。
リンは意外とSっ気があるセックスが好みらしい。
言葉で攻める快感。
「言わないなら入れちゃうよ!」
言っても言わなくても挿入する事に変わりない。
だったら私はSになる。
「入れたいなら入れたいっていいなさい」
リンは更に興奮しているようだった。
裕との切れているのか切れていないのか微妙な関係。
細井さんに対する複雑な気持ち。
そんな想いを抱きながら目の前にいるカーショップの店員と今セックスをしている。
特に気持ちいい訳でもなく、リンの性欲のはけ口となっているだけだと感じていた。
セックスをすると男の本性が見える気がする。
どんなに優しくても、好きだと言ってくれても、自分勝手なセックスをする人は気持ちが冷める。
元々挿入が気持ちいいと思えない私は更に気持ちが冷める。
「あ、イキそう!口に出していい?!」
挿入してわずか数分でリンは絶頂を迎えようとしていた。
いいよ、と私が言った直後、リンの液体は私の口の中へ。
「飲んで!!」
飲んでと言われても飲めるような美味しいものではない。
リンの液体ははっきりとマズイ物だと感じた。
初めて付き合った人の液体を初めて飲んだ時、とんでもない位に気持ち悪くなった記憶がある。3、4日何も食べられない位に胃のムカつきに悩まされた。
その時の気持ち悪さを思い出した位だった。
私は何も言わずリンの手に液体を吐き出した。
「わあーちょっとー!俺の手に出すなんてひどいよー」
慌てて自分で拭いていた。
「自分で出したものは自分で処理しないとね」
ちょっと意地悪そうに私は言った。
リンは行為が終わると私を抱きしめ帰っていった。
1人になり、虚しさだけが残っていた。
何故拒否できなかったのだろう。
何故拒否しなかったのだろう。
リンの事を好きになりたかったのか。
リンとセックスする事でお互いの感情が深くなれると思ったのか。
私は何を望んでいるのか自分で解りたくなかった。
携帯を見ると裕からのメール。
【蜜、ごめん。あんな形で最後にしたくないんだ。もう絶対にあんな事しない。欲を言うならマジで最後に蜜の事抱きたい。それが叶わなくても普通に話をして最後にしたいんだ。お願い、もう一度だけ、本当に最後にする。蜜に会いたい】
裕の最後のお願いを何度も言う事自体信用は出来ない。
裕に対する気持ちは恐怖に変わっていた。
もう、返信も出来ない。
メールを読みながらぼーっとしているとリンからのメール。
【今日はありがと。何かごめんね。自分でも何であんなことしたのかわかんなくて。でも、何か目の前に蜜ちゃんがいたら何か気持ちがおさえられなくて。またメールするね。おやすみなさい】
新しい人との出会いがほしかっただけ。
深入りしたいなんて思ってない。
自分にそう言い聞かせていた。
私はユキにメールを送った。
【遅くにごめんなさい。今最近知り合った男の人と話してました。でもまた元彼からメールが来てて。。はぁ。】
ユキとは裕と別れてからメールを続けていた。
きっかけはきちんと気に入らなかった相手に思いをぶつけてすっきりしたかった私の勝手な行動だった。
しかしいつの間にか子供の話や裕の納得いかない行動などの話で盛り上がり、メル友状態になっていた。
ユキは裕の事となると文句を言いながらもまだ未練があるように思えた。
でも、ユキには彼氏がいる。
ユキの複雑な感情が見え隠れしていた。
【今日は夜勤なの。まだメール来るの?相当あなたの事が好きなんだね。もう受け入れる事は出来ないの?】
【もう無理ですよ。早く終わりにしたいです。。夜勤なんですね、頑張ってくださいねー!ユキさんはもうメールしてないんですか?】
【ありがとう。今はもうしていないよ。それに今の彼を大切にしたいし。。娘もあの人の事は受け入れられないみたいだしね。明日は子供の試合があるの!楽しみなんだ!】
子供が大切なのが伝わる。
時には、こんな髪型にしてあげた、ルーズソックスデビューしたなど細かく教えてくれた。今の彼氏に対する気持ちやこれからの事、自分のやりたいこと、課題なども打ち明けてくれるようになり、いつか会ってみたいとさえ思うようになっていた。
共感出来る内容にユキへの憎しみはなくなっていた。
裕の事を話せる唯一の相手として友達でいたいと思っていた。
私はユキに今の状況を話した。
会社で仲良くしてる人がいる事。
でもその人を好きにはなってはいけない事。
リンの事。
【お互い自分の気持ちに正直でいたいね】
女だから分かり合える事が嬉しかった。
次の日は祭日でも会社は出勤だった。
いつもならだるい出勤。
でも今日は違った。
この日、細井さんとお茶する約束をしていたからだった。
前から仕事が終わった後お茶しようと誘われていたものの、お迎えが。。と断っていた。でも、少しづつ話すうちに本音で話せる楽しい人と思うようになり会社の事も色々と教えてくれていた。
この日なら子供達は実家に泊まりに行く事になっていたので誘いをオッケーした。
初めて2人でちゃんと話す日。
朝、リンからメールがあった。
【おはよ。今日もがんばろ。夜またいきたい。】
【エッチしに来たいの?話ししに来たいの?】
率直に聞いた。
【ただ会いにいきたいだけだもん。でも、蜜ちゃん目の前にしたら。。】
【今日、会社の人にお茶に誘われてるんだ。だから無理だよ。】
他に話したい人がいる事を伝えた。
【嘘?!行かないで!いっちゃやだよ】
【なんで?】
私のメールに返事はない。
私はリンと付き合ってる訳でもない。
それに話をするだけ。
それをリンに制限されるのはおかしい。
夜勤明けのユキからもメールがあった。
【仕事終わったよー。今日も仕事だったよね!頑張ってねー!】
私は今日会社の人とお茶しながら話す事を伝えた。
【蜜ちゃん楽しそうだね。いいなぁ、楽しんできてね】
いつもと違う。何だか心がワクワクしていた。
職場に着き細井さんと挨拶を交わす。
「おはようございます」
その後小さな声で細井さんは言った。
「今日大丈夫?」
私は笑顔で頷いた。
会社が終わるのが待ち遠しい。
仕事もスムーズに進み仕事も終わりに近づく。
終わりの鐘と共に細井さんは私の所へ来て道の確認などした。
場所までの道がよくわからないことを伝えると、
「じゃあ後ろからついてきなよ。」
と言ってくれた。
ただついていく事だけなのに、何だかとてもドキドキした。
ロッカーに行きメールを開くとリンから数通のメールが入っていた。
【やっぱり行っちゃうの?】
【えーん。行かないで】
【さみしい】
【会社の人って一緒に住んでる人も子供もいるんでしょ?そんな人と何を話すの?俺は相手はいないもん!】
ただ話をしたいだけだから行って来ると簡潔にメールをした。
現に本当に話がしたいだけだった。
何か奥深い感情を感じる細井さんとは深い話が出来ると感じていた。
細井さんは駐車場で待っていてくれた。
じゃあついてきてねと言いお互い車に乗り込む。
細井さんの運転はゆっくりで信号も気にしながら走行してくれた。
そんな優しさに心が暖まる。
20分程で現地に着いた。
お疲れさまとお互い言い中へ入る。
カウンターでメニューを見ながら何がいいか2人で悩んだ。
その時の私達の距離はとても近く、腕が触れ合う程。自然とその距離を受け入れていた。
やっぱり細井さんのそばにいると心が暖まる。
メニューも決まり財布を出すと、
「いいよ、俺が誘ったんだから」
とお金を払ってくれた。
申し訳ないからと言ったものの、その払い方があまりにスマートで、素直にお礼を言った。
たいした事ではないのかもしれない。
でも、このたいした事のない事に小さな幸せを感じた。
最近感じる事が出来なかった気持ちだった。
席に座り話を始める。
会社の事、元奥さんの事、子供の事、私も大好きなシルバーアクセサリーの話や趣味の話、全ての話に会話のキャッチボールが出来た。
話すだけ、聞くだけではなく、意見を言い合いそれに共感し、笑顔になる。
話す事が大好きな私は本当に幸せな時間だった。
楽しかった時間はあっという間に過ぎていった。
私達は店を出て外でタバコを吸った。そこでも話は盛り上がり帰るタイミングを見つけたくない程だった。
「じゃあ、そろそろ行きますか」
細井さんが言い、車へ向った。
「今日は本当に楽しかったです。ありがとう。」
私は別れ際に言った。
細井さんは手を差し出し握手を求めてきた。
私はその手をしっかりと握る。
。。。離したくない。。。
この人を抱きしめたい。
一瞬、思ってはいけない感情を持ってしまった。
「ありがとう!」
そう言い、私の手を離した。
私の歪んだ感情は必要ない。
細井さんのありがとうは友情への一歩が成立するのかもしれない、そう思わせてくれる言い方だった。
細井さんは車が見えなくなる迄見送ってくれた。
幸せ。
それしか言葉は見つからない。
しかし、その幸せもつかの間だった。
裕からのメール。
【待ってるから】
その一言で、すぐに意味がわかってしまった。
裕は家の駐車場にいる。
私が帰るのを待っている。
私は恐怖で一気に動機がしてきた。
家に近づく程動悸は激しくなる。
あそこを曲がれば。。。
車が家の敷地に入るとやはり裕の車が停められていた。
私は足早に家の中に入った。
電気をつけて数分後、ドアをノックする音が聞こえる。
私は聞こえないフリをした。
携帯の電源も切った。
ドアは何度もノックされる。
怖い。。。
無視をしてお風呂に入った。
するとお風呂の窓をノックしてきた。
もう本当にやめて。
これ以上私の心を不安定にしないで。
シャワーの音で誤魔化す。
その後しばらく静かになったのもつかの間、お風呂から出て電気を消すとまたドアをノックしてきた。
もう、どうにもならない。。。
私は着替え、ドアを開けた。
裕は柱にもたれうつむいていた。
その姿は演技に見えてならなかった。
私が何も声をかける事もなく呆れた態度を見せていると裕は車に向って歩き始めた。
その姿を黙って見ていると
「話、するんでしょ?」
と少し怒った口調で言ってきた。
話なんてしたくない。
でも仕方がない。
裕の後ろを歩き車へ向った。
後部座席に2人で座る。
「で、やってきた?」
裕から発せられた私への言葉。
セックスしてきたんでしょと言わんばかりに笑いながら言った。
やはり、この人は最低の人間だ。
「久しぶりに他の男とやってどうだったの?」
鼻で笑ながら裕が言う。
「会社の人はそんな軽い人じゃないから」
裕は今日私が会社の人と会う事を知っていた。
私はネット上で誰にも言えない自分の心を吐き出していた。
嬉しい事。
悲しい事。
ムカついた事。
裕に対する怒りや、気持ちの変化などもその中で言っていた。
裕は必ず私の言葉を見つけ出す。
時にはネット上で返事をもらう事もあった。
別れてからも、もう気持ちがない事を解ってほしかった為にネット上から想いを発信していた。
新しい出会いも全て隠さず言う事で裕に気持ちがない事を再確認してほしかった。
「随分楽しみにしてたんだね。てかさ、離婚してるにしろ、相手と一緒に住んでるんでしょ?子供も。それってハッキリ言って不倫とかわんねーじゃん」
「私は付き合うとかそんな事考えてない。会社の人が幸せになって笑顔でいて欲しいだけ。もし好きになっても片思いでいいから。そんな事ないけど。あのさ、やってきたとか言うの失礼じゃない?!」
細井さんを悪く言っているようで相当ムカついていた。
「あのさ、何しに来たの?もう返す物もない、気持もない、ガソリンもったいないだけだから。」
少しの沈黙の後、裕は私を抱きしめた。
私は体全体で拒否をした。
「蜜、怖がらないで。この前の事ちゃんと謝りたかった。俺は蜜に嫉妬してる。今、蜜の心にいるのが俺じゃないのが気が狂いそうな位に嫌だ。」
私は何も言葉を返せなかった。
「蜜、今だけでいい。目の前の俺だけを見てて欲しい。演技でもいい。もう一度、蜜の優しさに触れたいんだ」
裕は演技でもいいと言った。
だから、私は、演技をした。
裕を抱きしめた。
裕の抱きしめる力はとても強かった。
私も裕の体を強く抱きしめた。
今、私の中に私はいない。
自分がどんな表情をしているのかがわからない。
「蜜、キスして。」
その言葉にドキドキもしない、嬉しさも感じない、怒りも憎しみも感じなかった。
言われるがままに私は裕にキスをした。
舌を絡め合う濃厚なキス。
「蜜。。やり直したい」
きっとその言葉が出ると思っていた。
私の行動を伺いながらその言葉のタイミングを狙っていた。
私が拒否をしない事で、裕への気持ちが少しづつ戻っていると感じていたと思う。
やっぱり裕は私を見ていてはくれなかったと確信した。
表情も感情も、何も感じてくれてはいなかった。
その時の私は自分の顔が何処にあるのかわからない位無表情だった。
行動は演技出来ても、表情までは演技する事が出来なかった。
気持ちがないのに笑顔なんて作れる訳がない。
そんな私の表情を見る事もせず、ただ、行動だけで、しかも自分で演技でもいいと言ったはずなのに、何か勘違いをしている。
私は無言で首を横に振った。
「別れてからずっと蜜の事ばかり考えて、何も手につかないんだよ。他の男と2人きりで会ったりとか、嫉妬ばかりして。蜜さえ居てくれれば何もいらない。」
少しの沈黙の後、私は口を開いた。
「誕生日に元カノとホテルに行った。ずっと繋がってた。連絡しないでと言ってもメールをしていた。もう全てが遅い。私がどんなに求めても私だけを見てくれなかった。誰に必要とされたいのかわからない。必要とされたいのは私だけじゃないってわかった。もう、気持ちは戻らない」
裕は泣いていた。
「裕、強くなって。本当に大切な物が何なのか良く考えて。」
「蜜は。。会社の奴の事が好きなの?幸せにはなれないよ、絶対に。不倫の先に幸せは絶対にない。いつかは家族の元に帰る。もう充分わかってるだろ?」
不倫じゃない。
家族の元に戻るなんてわかってる。
離婚届けなんてただの紙切れだから、気持ちがあればまた紙切れ一枚で婚姻関係になれる。細井さんの幸せを願ってる。
「裕には関係ないから。」
細井さんへの想いを裕に話す必要はない。
「蜜は誰にも渡したくない!」
裕はそう言い、服の中に手を突っ込んで来た。
この展開ももう飽きた。
いちいち裕の感情に付き合うのもバカバカしい。
「触らないで!」
私はその手をはねのけた。
怒りと恐怖で動揺していた。
いつもならこのような時持っていない携帯が、たまたまポケットの中に入っていた。私は落ち着きを取り戻す為、送られてきたメールをチェックした。
どんな相手に対しても一緒にいる人の前で携帯をいじるのは好きじゃない。
相手がいるのに、携帯を見る事でその瞬間は一人の世界に入ってしまう。
相手には関係ない世界。
相手にも、何かあったかな?と思わせたくない。
相手が彼氏なら尚更だった。
二人でいる時は二人で同じ事を共有していたい。だから時々カフェなどでカップルがお互いに携帯をいじっている姿を見ると何だか悲しくなる。
私も裕がよく私の前でゲームを始めたりする事が嫌だった。
二人でいるのに、私が見えていない。。。
でも、今は違う。
二人で居ても気持ちは別々、むしろ、嫌ってくれた方が都合がいい。
たまったメールが次々と受信される。
[蜜ちゃん、メールちょうだい!!!]
リンからのメールもあった。
・・・・今は軽く無視。
[今日はありがとう!]
細井さんからのメールもあった。でも今は・・・。
[私はあなたに謝らなければならない事があります。]
気になるメールが入っていた。
私はそのメールを読み始めた。
[私はあなたに謝らなければならない事があります。実は、今までのメールを、全てあの人に見せてしまいました。どうしても断り切れず、どうしても嫌われたくなく、あなたとのやり取りを全て見せてしまいました。本当にごめんなさい。あなたから返事を貰うのはとても怖い。だから返信はしないで。]
ユキからのメールだった。
ユキは子供思いできちんと自分の考えを持っているにも関わらず男に対しては弱い心を抑える事が出来ない人だとわかっていた。
私とのやりとりは、ママ友と言うか、メル友と言うか、相談したりアドバイスしたり。。
メールをするきっかけは怒りをぶちまける為だったのに、いつの間にか仲良くなっていた。
裕の事も2人で話した。
裕の事になると口数は少なくなる。
彼はあなたしか見えてないから。
それが決まり文句だった。
ユキの事を完全に信用していた訳じゃない。
でも、悪い人ではないと感じていた。
私が心を開く事でユキも本音を言いやすい状況を作ってきた。
でも。。。
ユキは私を裏切った。
細井さんと会う事も、細井さんに対する気持ちも、リンの事も、裕には本当に気持ちがない事も、今の状況も、全て裕に筒抜けだった。
あの頃の気持ちが蘇る。
私を置いて2人で会ってた頃の嫌な気持ちが。。。
裕にもう気持ちは無くても何故か悔しい。
「全部知ってるんだね。」
私は呆れたように言った。
「何が?」
俺は何も知らないと言うような言い方だった。
私は何も言わずため息をついた。
沈黙。。。
「。。。彼女を責めないでほしい。俺が無理矢理言わせただけだから、ユキは何も悪くない。」
彼女、ユキ、ユキをかばう裕。
その一つ一つに苛立ちを感じた。
「またホテルでも行って話したの?2人で。そんなに好きなら付き合えばいいじゃない。何でここにいるの?ユキさんだって裕の事忘れてないんでしょ?まだ好きなんでしょ?好きだって言ってくれてるんだし、一度は好きになった相手なんだから付き合ってみればいいでしょ!彼女を責めないで?責める気持ちなんてないわ。むしろ正直に言ってくれたユキさんが偉いと思う。黙ってればわからないのに。」
一気に言い放った。
ユキに対しては確かに苛立ちもあった。
でもそれ以上に裕の汚いやり方に苛立ちを感じていた。
ユキの気持ちを利用している裕が許せない。
「で?またやってきたの?!そんな話をしながら!?」
「確かに。。セックスはした。自分の気持ちを確かめる為にも。でもやっぱりユキじゃダメなんだってはっきりわかった。それに。。。」
こいつはアホか。
何で私にそれを言う?!
裕は話を続けた。
「蜜を幸せに出来るのは俺じゃないかもしれないって諦めも今はある。でも、少なくとも会社の奴より俺は蜜を幸せに出来る!蜜はこのままじゃ絶対幸せになれない。幸せになれないのに黙って見ているなんて出来ない。一緒に住んでるんだよ?!口では何て言ってるか知らないけど、相手とセックスだってしてるんだよ?!」
「もうやめて!!聞きたくない!!裕がそんな事言う権利ない!会社の人とは恋愛感情なんて持つつもりない!!」
私は泣いていた。裕の自分勝手な言葉に、現実を突き付けられている言葉に。
その姿を見た裕はまた私を抱きしめた。
もう突き放す気持ちさえ残っていない。
人を愛するとどうして最後には幸せにはなれないんだろう。。。
裕は私にキスをした。
私は抵抗しなかった。
涙がとまらず、どうにもならない。
もう、何だっていい。
裕の手は私の服を一枚づつ脱がしていった。
胸を揉まれても何も感じない。
手は私の下半身へ。。。
裕の指が私の中へ入ってくる。
「人形とセックスしたってつまんないでしょ。私、人形だから」
泣きながら言う。
「俺は今の蜜も愛してる」
何も感じない。嬉しくも悲しくもない。
今の私は本当に人形になっていた。
裕のモノが私の中に入ってくる。
「子供作っちゃえば蜜はもう俺のものになるよね?」
その言葉に我にかえった。
「やめて!もう裕の事愛してない!」
思い切り抵抗した。
「やめない!ずっと蜜としたかった。」
裕の力にはかなわなかった。裕はそのまま動き続けた。
「中に出すよ。。。」
耳元で言った。
「やめて!!!!」
そう言うのと同時に裕の液体は私のお腹に放出された。
私は裕とセックスをしてしまった。
「今日やっぱり蜜が好きだって事確信した。でも、蜜が幸せになるのに俺が邪魔なら俺は身を引かなきゃいけない。でも、会社の奴に渡す位なら俺は身を引かないから」
「もう、疲れた。。帰る」
何も考えたくなかった。
「また連絡する」
裕はそう言い素直に私を家に向かわせた。
家に戻り考えた。
何で私はこんなに弱いんだろう。
自分を責めた。
今日、細井さんと会ってすごく楽しかった。次に誘われた事も本当に嬉しかった。頭では踏み入れてはいけないとわかっていても、心はもっと親しくなりたいと感じていた。
人を好きになったって幸せになれるとは限らない。
同じ事の繰り返し。
もっと細井さんと親しくなれば、私は必ず傷つくのはわかっている。
人を愛する事が、私が強くなれない原因なのかもしれない。
もっと、自分に強くなりたい。
誰に何を言われても、動じない心がどうしても手に入れられない。
ぼーっとしながら携帯を開き返信を始めた。
【おつかれー。今日はなかなか楽しかったよ。】
リンに送った。
【今日はありがとう。最後の握手とっても嬉しかったです。何か久しぶりに会話のキャッチボールが出来て嬉しかったぁ。話せるって本当いいですね。】
細井さんにも送った。
細井さんはすぐに返事をくれた。
【俺もすごく楽しかったよ。こんなに話せる人いなかったから。蜜ちゃんとはまたゆっくり話したいなぁ。あ、クリスマスプレゼントいつ見にいけそう?予定教えてね】
細井さんのメールにまた、涙した。
私もすごく楽しかった。
憧れの細井さんと会社を離れ話せる事がとても嬉しかった。こんなにも素敵な人が身近にいる事が幸せだった。
でも、今、私は裕と。。。
そんな状況は細井さんは知らない。
でも、細井さんももしかしたら今日、一緒に住んでいる人と私と同じ行為をしたのかもしれない。
考えたくないことばかり頭に浮かんでくる。
付き合ってる訳じゃないのに。
細井さんは私のものではないのに。
何故か心が苦しい。
次の日も家へ来た。
この日は玄関に立ちつくし何か言いたそうに私をにらんでいる。
「何」
変わらない態度でいると、
「俺の事、顔も見たくない程むかつくんだろ?嫌いで仕方ないんだろ?」
と静かにキレていた。
私は何も言わないまま目をそらす。
「ねえ、一緒に死んでよ」
いつもなら演技としか捉えられない言葉もこの時はさすがに本気で怖くなった。
「包丁どこにあんの?貸してよ。蜜の事刺して俺も死ぬから」
裕は家に勝手に入ろうとした。
「やめて!包丁なんかない!」
裕の腕をつかみ思い切り引っ張った。裕の力には全く及ばないものの、引きとめる事しか出来ない。
「一緒に死のうよ?!蜜といられないなら生きてたってしょうがない!!」
何で私が一緒に死なないといけないの?!
狂ってる。。
この人はもうおかしい!!
本気で刺されそうな状況になっていた。下手に刺激すると本当に殺されるかもしれない身の危険を感じた。
私が必死になっている姿に今度は首に手をかけてきた。
「殺したいほど蜜が好きなんだ・・」
裕の中にこんな人格がいるとは思っていなかった。
別れてから少しづつおかしくなっていく。
そんな姿を見るのが嫌だった。
「裕、もうやめようよ」
泣きながら訴える。
こんな私の言葉も裕には届かない。
何で好きでもない相手にここまで振り回されないといけないのか、心はかなり疲れていた。
弱くなっている人を放っておけない私の性格を知ってる裕は自分の弱さを最大限私に見せつけていた。
蜜がいないと・・蜜がいないと・・
そんな事ばかり言う裕がうっとおしい。
「もう帰ってよ・・」
その言葉にうつむきながら車へ戻る。
何も解決はしていない。だからまた裕は来る。
お酒の瓶を片手に持ち、車を降りすぐにそのお酒を口にする。
寝不足とお酒で言っている事もわからない。
こうやって自分の弱さを見せる事で、私がいないと生きていけないんだと言う感情を持たせる事が狙いだったと思う。
こんな状況が数日おきにしばらく続いた。
時間が経つにつれ、リンとのメールのやりとりも減っていった。
元々車検の話から一気に話が進み複雑な関係になってしまった。
車検は他の車屋に頼む事にし、リンにもそれを伝えた。
家に来たいだの、会社の人と仲良くしないでだの言うわりには、リン本人の生活は全く言わない。
あまり興味もなかった。
メールを返信しない事でリンとは自然に連絡を取らなくなった。
結果的にはやり逃げになってしまったのかもしれない。
でもポツリポツリと自分の日々の気持ちを話していたリンは悪い人ではないと思っている。
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私のままで会話が成立していた事。
それはやり逃げよりも私の心に響いていた。
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