忘れたいのに忘れられない。。。

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2013/04/08 08:44(更新日時)

人生には、忘れたくても、忘れられないことがあるものだ。

忘れられないために、苦しむ。

まさかの夫の不倫から、裁判まで。

長い長い、そして忘れられない苦闘の日々。

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No.1713887 (スレ作成日時)

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No.51

娘から携帯を受け取る。


私「ちゃんと謝っていただけたんですか?」


高田「子供を出すのはどうかと思いますけど。」


たぶん、娘に「赤ちゃんじゃないんだから、自分の頭で考えたらどうですか?」と言われたのが相当堪えたんだろう。
そして、この娘の言葉が、後々私を助けることになる。


私「子供は一番の被害者じゃないでしょうか? 主人も悪いけれど、娘はあなたのせいで、殴られたって思ってるわけですから。」


お店に残っている母から、何度も電話が入っていた。
まだまだ話したりないが、待たせるわけにもいかない。

私「ちょっと行かなければならないので、とりあえず電話を切ります。」


すっきりしないまま、電話を切り、お店の中に戻った。

No.52

お店に戻ると、姉家族も到着していた。

母が「なかなか来ないから心配したわよ!」と言った。


お食事は美味しかった。

食欲のない私でも、美味しいと感じた。

久しぶりのまともな食事。


しかし、胃が小さくなっていたのだろう。子供達よりも食べることができなかった。


夫も来るはずだった。

食べるのが大好きな夫は、きっと喜んだだろう。

皆で楽しく過ごすはずだった夜。

一瞬にして、一変してしまった。


馬鹿な夫。

そして、騙され続けていた馬鹿な私。

可哀相な子供達。

No.53

食事が終わり、姉家族と別れ、母と子供達と共に実家に帰った。

翌日は祝日で子供達は休み。

しかし、私は仕事だったため、子供達を実家に預け、私一人が自宅に戻った。



高田里香にはまだまだ話したいことがたくさんあった。

聞きたいこともたくさんあった。


幸い、子供達もいないので、電話もできる。

ただ、出るだろうか。。。。

自宅の固定電話だから、出かけていたら出られないし。



初めて、高田里香と電話に出た時、私は現実でない気がした。

この女が夫と。

その女と私が会話をしている。

本当に、この女は夫と不倫していたのだろうか。

うまく表現できないが、現実じゃない、冗談なんじゃないかという思いがあった。


きっとまた話したら、私の知らない真実が出てくるだろう。

私はまた衝撃を受けるのだろう。

でも、これは起きてしまったこと。

過去は変えられない。

受け止めるしかない。

受け止めるのには、辛い現実だが。

受け止めるしかない。

前に進むしかない。

No.54

高田里香に電話をする。


「もしもし。。。」


電話に出た。今のところ、逃げるつもりはないらしい。


私「まだお尋ねしたいことがあってお電話しました。私は、今回のことで眠れないし、食べれないので、すっかり痩せてしまって。私は子供達のこともあるし、仕事もあるんですよ。ちゃんと本当のこと話してください。主人はあなたの家に行ってましたよね?」

高田「いいえ。来たことはありません。」

私「でも、ごはんのタイマーかけてきたからねってメールしてましたよね?お友達の家で、ご飯のタイマーかけますか?」

高田「・・・メール、全部読んだんですか?」

私「ええ、読みましたよ。」

高田「じゃあ・・・そうです。」

私「何故、嘘をつくんですか? 主人にそう言うように言われたんですか? それとも、私が家に踏み込むのを避けるためですか?」

高田「・・・後者のほうです。」


不倫できる女だけあって、保身のためには平気で嘘をつける女らしい。しかも、私を「あなた」と呼んだ。私は「奥さん」なんだけど。


私「夫は、職場も首になって夜のバイトをしているんですよ。飲食に浪費して、どこにもこれ以上借金できないほど借金をかかえていて。」

高田「とても、そんなふうには見えませんでした。派手に飲食する仲間がいて・・・私はお金がないから、その仲間ではなかったけれど。夜の仕事がとは話していたけれど、そんな仕事だったのは知りませんでした。」

私「私は正直、もう主人には未練がないの。借金がすごいから、たぶん月に100万くらいかかるし、主人は夜のバイト以外は無職だから、収入はないけれど。借金や荷物と一緒に引き取ってもらえたら、それでもういいんだけれど。」

高田「そのくらいの金額なら、頑張ればなんとかなるかも・・・」

私「じゃあ、荷物も送りますから。考えておいてください。」


ガタン


物音が電話口から聞こえた。

私「え?」

高田「こんなこと言える立場じゃないですけど、先月から私も痩せてしまって。
ちょっと椅子から落ちました。」


なんで、高田が痩せなきゃならない? 高田は痩せた理由については話さなかったし、私も尋ねなかった。


この本題と全く関係ないようなやり取りが、いずれ私を救ってくれることになるとは、この時は私も気が付いていなかった。

No.55

さて、、、どうしよう。

夫は自分のやりたいことは、意地でもやり通す人だ。
周りの人に迷惑かけることなんか全く気にしない。
夫の荷物がある限り、それを口実に家に扉を壊してでも入ってくる、必ず。

まずは、荷物をなんとかしなきゃ。

高田が夫の引き取りを拒否したら?

本来なら実家だ。
でも、あの気性の激しい姑のことだし、元々自分の息子なのに、私の実家に面倒は押し付けて、知らん顔だった。

今回も、いくら事情を話しても、荷物も引き取らないだろう。

母も無理矢理にでも押しはいってくるだろうし、その結果、暴力をふるってくることを懸念していた。

母は元々、夫の尻拭いを押し付けておきながら、知らぬ存ぜぬの姑と関わるのを嫌がっていたが、私や孫たちに危害が及ばぬようにと電話をして頼むと言ってくれた。

母が頼む話ではないのだが。

No.56

仕事を終え、実家に子供達を迎えに行った。

到着すると、出迎えたのは、母でなく、娘だった。

「おばあちゃま、今ばばと電話してるの。」

家に入ると、母が丁寧に話していた。

憎き婿の母。しかも、面倒は押し付けて知らん顔。

なのに、母は責める言葉一つ言ってない。

母はすごい。

母「里香子が帰ってきたので、代わります。」


えー私、話したくないんだけど。

困った。

また、きっと桑原が不倫したのもあんたのせいだくらいのこと言われる。

嫌だな。。。

恐る恐る電話に出た。

No.57

私「もしもし・・・」

姑は、私にしゃべらせまいとするかのように、いきなりまくし立てた。

姑「もう、里香子さん達だけ幸せになってくれていいから。三人だけ幸せになって!あいつは、野垂れ死ねばいいから!この恩知らずが!!」


私は圧倒されて、言葉が出なかった。

姑の言葉をどう受け取っていいのか。

別れていいと言っているのか。

自分の息子の不始末で、大変になっているのだがー。

姑という立場の人としては当然の発言なのかもしれないが、息子の不始末を詫びるような感じは全くなかった。

もともと恐ろしいほど勝ち気な人なので、責めるような言葉を言わなかっただけ、まだ良かったかもしれない。

だが、その語調は、私を責めているようなものだった。

私「でも、そちらが受け入れて下さらない限り、どんな手を使ってでも、家に来ますから。」

姑「とにかく、一度ゆっくり話しますから。」

No.58

姑は、激情型で自分中心を絵に描いたような人。

おまけに、勝ち気なので、何が何でも頭を下げるようなことは死んでもしない。

母が呆れて言った。

「息子が嫁さんから連絡あったら実家に泊まったことにしてくれと言われたりしたけれど、ただの一度も泊まりにきたことはありません!」と姑が言っていたと。


夫のアリバイ工作だったのだろうが、それをここで暴露するのは、何のため?

自分が息子の不倫を援助していた、いわば公認だったと言いたかったのか?

息子のきたないやり方をともに罵ったことにして、自分が私達の仲間だとアピールしたかったのか。。。

単に興奮して、やたらとしゃべりたかったただけなのか。

姑の意図は全く分からなかった。

とにかく、自分が非難される側にたたされたことが負けず嫌いの姑は、許せなかったんだとは思う。

No.59

母は続けた。

「荷物のことを話したら、そんなもの捨てちゃって下さい!と怒鳴られて、そんなことしたら、逆上して何されるか分かりませんからといったら、やっと冷静にこっちの話を聞き始めた感じでね。」

母はとても理性的で、穏やかな人だからか、激情型の姑と話して疲れた様子だった。

私は母に本当に心配をかけ、苦労をさせて、最低な娘だ。

でも、母だからまだ話を聞いたのだろうけれど、嫁の立場の私から、息子の不始末を聞かされたら、逆上して会話にさえならなかっただろう。

母には本当に申し訳なかったけれど、本当にありがたく思った。

No.60

子ども達は、居間で大人しくDVDを見ていた。

息子が首に湿布を貼っていた。

私「どうしたの?」

息子「首が痛くて、おばあちゃまが貼っておきなさいって。」

私「ふーん。変な格好して、ずっとテレビ見てたんでしょう?」

息子「そうかなー」

私「とにかく、早く寝なさい!」


この時は、まさか後にあんなことになるとは思ってもいなかった。

No.61

子供達と自宅に戻る。

想像すらしなかったとんでもない冬休みが終わる。

子供達は学校へ。

今まで、私は駅まで子供達を送っていたが、これを機に自分達で行ってもらうことにした。

娘は意識不明の怪我から痙攣発作を起こす可能性があるので、人のたくさんいる駅まではと思っていた。

冬の早朝はまだ薄暗い。息子はまだ一年生。手放すには少し不安もあったが、これからの三人だけの生活を考えたら、息子に
も頑張ってもらわなければと思った。

私も仕事もあるが、今後のことを考えなければ。

子供達と私の新しい生活が始まった。

No.62


明日は金曜日。
あと1日頑張れば、休みだ!

息子「ママー。やっぱり首が痛い!湿布貼りたい!」

寝る準備を終えた息子が泣きべそをかきながら訴えた。

私「うーん。でも、寝る時貼ると冷えて風邪ひきそうじゃない?」

息子「でも、すごく痛い。」

私「明日の朝、貼ろうね。」

息子は納得して、寝に行った。

No.63

翌朝。

その冬は、新型インフルエンザが流行り、検温して、記録して登校するきまりになっていた。

朝は低体温の息子は36℃ないのが日常。

ところが、37℃だった。

微妙な発熱。

ふと見ると、左右の差がはっきり分かるほど、片側の首が腫れていた。

私「あーこれ、おたふくかもね。予防接種したのにね。今日は休まなきゃダメだ。」

幸い、仕事は休み。

すぐ近くの掛かり付けの病院へ行った。

私「おたふくじゃないかと思うんですが。」

先生は何故か非常に冷静にゆっくり話した。

「お母さん、これね、おたふくと全然場所が違うのよ。」

私はおたふくにかかったことがない。

私「えっ???」

先生「紹介状書くから、すぐに大学病院行って。悪性リンパ腫の可能性もあるから。」

・・・?

悪性リンパ腫?


頭がまっ白になった。

息子「ママー。僕、立てない・・・」

私「え?」

一年生と言っても、息子は身体が大きい。

おぶってはいけない。

私「ママ、急いで車取ってくるから。」

先生「僕の駐車場があるから、そこにとめなさい。それまで、ここで息子さん預かっておくから。早く行って!」

息子が心配なのと、気が動転しているのでまごつく私を先生は急ぐように促した。

No.64

どうしよう。。。。

息子は、ガン?


家までの坂を駆け上りながら、頭はフル回転していた。



息子はパパっ子だった。

パパに裏切られた上、病気の自分を心配してさえくれないと思ったら、病気と闘う意欲を失うかもしれない。


夫になんて連絡したくない。

でも、息子は・・・

私は迷った。


今は息子が最優先だ。

私の気持ちを封印した。


夫に電話をかけた。

No.65

電話をかける。

「留守番電話に接続します。」

再度、電話。

「留守番電話に接続します。」


やはり、女のところなのか。


嫌だけど、夫に連絡つけるためには高田里香に電話するしかないのかも。


この世で一番話したくない人間。

でも・・・

高田里香に電話をする。

やはり、出なかった。
故意に出ないのかもしれない。

仕方なく、留守番電話にメッセージを残す。

「息子が大病を疑われ、今から大学病院に行きます。夫を出してもらえませんか?」



ほどなく、夫から電話がかかってきた。

「悪性リンパ腫かもしれないから、急いで大学病院に行けって。もう、歩けないって。もう・・・ダメなのかも・・・」


「病院に行くから。何科なんだ?」


「行ってみないと分からない。」

No.66


車をとり、病院に着く。

息子は待合い室の椅子で、看護婦さんに付き添われて、ぐったりして座っていた。

先生が診察室から現れた。


「病院終わったら、電話してね。」

「分かりました。お世話になりました。」


看護婦さんが、心配そうに見送って下さった。


あまりに急な出来事に、現実でないような気がして、不思議な感じだった。

しかし、その表情に、やはりただ事ならない事態なのだと再確認する。

なんで、こんなことに?

いや、そんなこと言っても仕方ない。

私がしっかりしなければ。

No.67

待合いで、息子は一人で座っていられない状況なので、私の膝に座らせた。普段は
おしゃべりの止まらない息子が無言だった。
息子はどうなってしまうのだろうか。


夫が現れた。

息子は朦朧としながら「パパ・・・」とだけ言った。

様々な検査が行われた。

用紙に押された至急の赤いはんこが、私の不安を煽る。

「桑原さん、医師からお話がありますから、小児科のほうに来て下さい。」


小児科に行くと、すぐに診察室に通された。

入ると、医師は一人でなく、その様子がさらに不安を煽る。

医師達は私には分からないことを話し合っていた。

息子はやはり・・・?

No.68

「まず、リンパ腫ではないと思います。エコーでも、これだけボコボコありますからねー。入院と思ったんですが病室の空きがないんですよ。ご自宅も近いですから、何かあったら救急で来て下さい下さい。
ただ・・・血液検査の値が悪いんですよね。これは、ほっとけない。」

「そうですか・・・」

ホッとしたような、でも、やはり悪いことには変わりなく、なんとも言えない気持ちだった。

でも、息子は死なない、たぶん。

それが何よりありがたかった。

何故、子供達ばかり辛い目にあうのだろうか。

漠然と、何の根拠もないのだが、高田里香の怨みの気がした。

高田里香にとって、子供達は何より邪魔な存在。

例え、私と離婚しても、夫とは一生親子であり、高田里香はそこには一切立ち入れないのだから。

夫とは病院で別れた。

No.69

自宅に戻り、息子の熱を計ると39度を越えていた。

様子が分からないのは心配なので、居間に寝かせた。

熱が高いのは脱水症状?

水分を取らせようとするが、一切受け付けない。
もちろん、食べ物は全く受け付けない。
食べるのが大好きなのに。

本当に入院しなくて大丈夫だったんだろうか。

とにかく、しばらく学校も、私も仕事は無理だ。

学校の担任の先生から電話があった。

「桑原くん、皆勤だったから、どうしたのかと思って。」

「私もおたふく風邪だと思ってたんですが。一応、悪性ではないようなので。でも、当分、学校には行かれないと思います。」

そう話しながらも、学校に行ける日が来るのか不安で仕方なかった。

No.70

息子の熱は翌日も高いまま。

そして、薬以外は何も受け付けない。

夫から電話があった。

「子供達に携帯を買おうと思って。何色がいいかな?」

どんなに子供達がせがんでも、「だめ!」と言い続けてきたというのに。

子供達の点数稼ぎか、私に阻止されずに、自由に子供達と連絡とるためか。

どちらにしても、本当に自分勝手な男だ。

No.71

携帯電話を渡したいと現れた夫。

既に、電話帳には夫の携帯の番号やアドレスが登録されていた。

やっぱり・・・

自分が自由に子供達と連絡取れるようにするためだった。

どこまでも自分中心な男でしかなかった。

子供達は念願の携帯に大喜び。

早速、写真を撮ったりと、すぐに使い方を覚えた。

息病気の息子には、いい退屈しのぎにはなった。

子供は機械ものは大人より早く覚えてしまう。

私達の携帯をいじっていたのもあるかもしれないが。

だがしかし、この携帯がいずれ、高田里香が子供達を攻撃する材料に利用されることになるのだ。

No.72

夫は、もう終わったから、二度と高田里香には関わらないと言った。

ちゃんとやるから、見ていてほしいと言った。

だけど、散々騙された私は、また騙されて傷付くのが恐怖で、ただ怖くて仕方なかった。

インターネットで、不倫に関するサイトを見た。

何故、不倫をするのか、等々不倫に関することを知りたかったからだ。

自分の不倫を赤裸々に当たり前のように書いているブロガーに、疑問を批判でなく冷静に尋ねたこともある。

不倫で検索し、よく行き当たるのは探偵だった。

だが、探偵を雇うようなお金がないとあきらめていた。

だが、ある日「相談無料」の文字に動かされ、フリーダイアルに電話をした。

感じのいい女性が応対してくれた。

「一度、相談員と直接会ってお話してみて下さい、契約しなくても構いません」と言われ、私の連絡先を伝えた。

No.73

息子は、死んでしまうのではないかと思うくらい何も受け付けず、黙ったままだった。

数ヶ月前、娘が怪我をさせられ意識不明だった時のことが思い出されてしまう。

このまま、二度と目を覚ましてくれないんじゃないかとたまらない恐怖に襲われたこと。

息子は元気になるんだろうか。。。たまらない恐怖に襲われた。


しかし、今回も神様が救って下さった。

少しずつ、言葉を発し、飲み物を勧めると飲むようになった。

あの時の安堵感は今でも忘れられない。

No.74


息子は、少しずつ元気になり、会話をするようになった。

やっと、医師から登校の許可が出た。
但し、薬を引き続き飲み続けることと、週に一度の検査を受けることになった。
血液検査の結果は、変わらず悪かったのだ。

すっかり痩せてしまった息子。
しかし、頸はまだ腫れていて、制服のYシャツの第一ボタンをしめることができないほどだった。
 
元気になってくると携帯でパパに電話もするようになっていた。

No.75

そうこうするうちに、調査会社から連絡が入り、日程が調整され相談員に会うことに
なる。

相談員から連絡があり、最寄り駅まで来てくれることになった。

お互いに自らの持ち物や服装等を伝え合い、待ち合わせをした。


調査会社の人って、どんな感じなんだろう・・初めてのことに不安が過ぎる。

お金もないのに、何故面談することにしたのか。

今思えば、誰かに全てを聞いてもらいたかったからだったのかもしれない。。。

約束の時間、ほぼぴったりに待ち合わせの駅に行くと、黒いロングコートを着た女性に「桑原さんですか?」と声をかけられた。

No.76

「この度は、無理申しまして申し訳ありません。」


子供達のことを考え、自宅近くまで行くと言ってくれたからだ。


近くのコーヒーショップに連れ立って向かう。

相談員の方は小田さんという名前だった。


どう切り出したか覚えてないが、ろくに働きもせず、私や私の実家のお金で豪遊し、挙げ句の果てに不倫となったこと、子供達の怪我や病気のこと全て話した。



今思うと私は本当に無知だった。

合法的に「慰謝料が請求できる」ということを彼女に会うことで初めて知ったのだ。

No.77

相談員である小田さんは、気さくで話しやすい方だった。

姉御肌的な方で、躊躇なく洗いざらい話せてしまった。

「ご主人、酷すぎるね。許せない。」


自信を失い、進む道すら分からなくなっている私は、何が正しく何が間違っているかの判断にも自信がなかった。既にこの時病んでいたんだと思う。

小田さんは、営業トークの一部として発した言葉だったかもしれない。

だが、当時の私は「私、おかしなこと言ってないんだ。」と励まされたような感じがした。

「主人は、もう終わったから二度と会わないとは言ってますが、信じることができないんです。」

「そりゃそうよね。でも、必ずしも、調査するっていうのは、離婚が前提ではないの。修復するにしても、離婚するにしても、現実を確認したいよね。それから、ゆっくり考えて決めればいいのよ。」

確かにそうだ。

どうするにしても、やってみる価値はあるのかも。

営業トークにのせられたのかもしれないが。

私の気持ちは動いていた。

ただ、金銭的なことが、問題だった。

No.78

「お願いしたい気持ちは山々です。でも、そんなんで生活費ももらえないですから、お金がないんです。」


「働いているんだったら、ローンも組めるわよ。」


「働いてますが、パートですし、主人の借金ですが、もう借金はたくさんなんです。」


「そうよね。借金は嫌よね。どのくらいなら、用意できそう?」


「○○万円くらいです。。。」


「実はね。」
と言いながら、黒いファイルを取り出して開いた。


「本当は最低がこの金額なの。」


その金額は、私が提示した額の1.5倍だった。


とても、無理だ・・・


「でも、大変なのよく分かるし、それでやってみましょうよ。その金額で受けますから。
何も出ないなら、それはそれでいいわけだし。」


大変な思いで働いて貯めたお金をこんなことに使うのは、どうなんだろうと躊躇われた。

でも、今のどこにも進めない状況は何かしら動くかもしれない。

「分かりました。お願いします。」

私は調査を依頼した。

No.79


小田さんは、色々教えてくれた。

離婚する、しないに関わらず、慰謝料が請求できること。

金額の相場や、時効、証拠は既に色々あったが、証拠が必要なことなど。


とにかく、私は本当に無知だった。

「これは、私のアドレスですから。」

小田さんは小さな紙を私に差し出した。

「ありがとうございます。」

コーヒーショップで別れ、私は自宅に帰った。

No.80


家に帰ってから、今日の小田さんとの話を思い返した。


まず、夫の写真がほしいと言われたのだが、一人で写っているものがないし、子供たちの写真は出したくなかった。

あるのは、夫の携帯に消し忘れられていたクリスマスイルミネーションの前で撮った高田里香との写真だった。


調査の日程について。

お金のない私は、一日しか調査を依頼できない。だから、調査の日程を決めるのは慎重にしなければならなかった。
最も動きそうな日・・・週末とは思うが、どうだろうか。


そして、慰謝料について。

弁護士を雇えば、もちろんお金がかかる。でも、自分で請求できるとも言っていた。
慰謝料をもらえば、嫌な思いをさせた子供達にもおいしいものを食べさせたり、ディズニーランドくらい連れて行ってやれるかもしれない。
でも、証拠は、二人の自白とメールのやりとり、それに写真くらいだ。
携帯の通話記録もまだ来ない。
なんとかもっと証拠を見つけて、慰謝料くらいはなんとかできないものだろうか。

No.81

翌日。

調査会社に振り込んだ。

口座の残高は、ほぼなくなった。

私は何故、こんなことしているんだろうか?


小田さんに、振込終了のメールをした。

早速、調査の日程やらの調整が始まった。


と同時に、どうしても慰謝料の支払いをしてもらいたいという気持ちが強くなった。


今思えば、調査会社に調査を依頼したのは慰謝料を請求するための証拠集めのためというよりは、夫を信用していいのかどうかを知りたかったためだと思う。


私は、高田里香に慰謝料の支払いを求める内容をファックスで送った。

無理な金額は請求しなかった。

とにかく、我が家として高田里香に費やしたと思われる金額を提示した。

No.82

慰謝料100万。。。

その金額にしたのには、わけがあった。

以前、夫は無職で借金だらけで一月そのくらいかかると言った時、高田里香は「頑張ればなんとかなるかも。」と言ったからだ。

それも一度に払えとは要求せず、分割でよいと伝えた。

返事を聞くため電話をすると、態度は一変して、お金がないので払えないと言い出した。

私は「我が家が毎日、大変な思いをして生活し、私も必死に働いて稼いだお金は全てあなたが使っていたんです。今も食べるものにも困ってます。」と言うと、

高田里香は「私だって今日は家にあるもので食べなきゃって思っていたし。」と言った。

私は「私は自分は食べなくても子供達は食べさせなければなりません。」と言った。


私は呆れた。

あまりにも幼稚な反応だったからだ。

夫にとっては、この幼稚さが都合が良かったのだろう。

そして、小学生の娘も呆れた理由だったのだろうと理解できた。

No.83

小田さんと調査に関して、打ち合わせをし、日程も決まった。

ドキドキしながらも、その日が待ち遠しかった。

調査の結果が全てではない。

だが、客観的な結果がほしかった。


とうとう、その日がやってきた。

深夜の仕事を終えた夫が電話をしてきた。

「電池ないから、電源切るから。今からじじいの見舞いに病院に行くから。」と夫は言って電話をきった。


調査開始。

No.84

その日は、冬晴れのいいお天気。

子供達と家で過ごす予定になっていた。

不眠で体調の悪い私は、食事を作る以外は横になっていた。

高田里香の家に行けば、証拠となり、今後のことについては、私にとって有利になる。

だが、私は何故だか行かないでくれ、逃げてくれと願っていた。

女とは一切関わらないと約束したことを守ってくれると信じたかった。

夫が私を裏切らないと思いたかった。

No.85

…♪♪♪♪

携帯が鳴った。

小田さんからだ。

胸騒ぎがする。

「ご主人ね、やっぱり相手の所に向かっていて。ただ、電動自転車はやっぱり厳しくて、見失ったみたいなの。住所分からないのよね?」


「…分かりません…」


「せめて、町名だけでもわからない?」


「すみません。分かりません。前にお伝えしたように、最寄り駅しか。」


にわかには、信じられない事実だった。

いや、信じたくなかった。


私は、あんなに騙され利用されてきたのに、夫を信じようとしていたのだ。


私は打ちのめされた。

私は本当にお人好しの馬鹿だった。

No.86

小田さんに尋ねた。

「どの辺りまで追跡できていたのか分かりますか?」

「聞いてないけど、調査員に尋ねてみようか?」

「お願いできますか?」

「折り返し電話しますから、ちょっと待っててね。」

小田さんは、それを知ってどうするんだ? という雰囲気だったが、承諾してくれた。

確かに、それを聞いても役には立たない。だが、私はこの期に及んでも、夫が自分の言葉を守らずに高田里香の家に行ったとは信じたくなかった。

高田里香の自宅から離れた場所で夫の姿を見失ったのなら、他の所に向かう途中だったとも考えられる。

私は僅かな可能性も捨てたくはなかった。

私はどこまでも、どこまでも馬鹿な女だった。

No.87

夫に電話をしてみたが、やはり電源を切っている。

高田里香にも電話をするが、もちろん出ない。

しばらくすると、小田さんから電話があった。

「○○○駅前まで行ったところまでは確認してるのよ。」


「そうですか。。。」


駅は、高田里香の自宅の最寄り駅だった。


私は行ったこともない土地だし、夫にも何のゆかりもない土地だ。

可能性は無惨にもあっさり消された。

夫は二度と関わらないとの自らの言葉を自ら違えて、高田里香に会いに行っていた。

私はどこまでも馬鹿にされた女だった。

No.88

夫に電話がつながったのは、それから一時間くらい後だろうか。

その時は、夫の父の病院にいた。

「どこにいたの?」と尋ねると、

「だから、病院にいたって言ってるだろ?しつけーな!」と繰り返した。


根負けして「違うよね? 中○○駅に行ったよね?」と言うと。

「金がないから血を売りに行ったんだよ!」と言った。

確かに中○○駅の近くに、大学病院はあるが。

夫のはなしでは、病院の周りにそういうブローカーがウロウロしているという。

どこまで、ファンタジーの世界に生きているのやら。

そこを追及しても仕方ないので、そのファンタジーは取り沙汰せずに

「血を売りに行ったかもしれないけど、高田里香に会いに行ったよね?」と尋ねた。

夫は何度でも根気よく否定した。

私も諦めなかった。

しかし、とうとう夫は「でも、いなかったから帰ってきた。」と白状した。

実は会ったのかもしれない。

でも、そんなことはどうでも良かった。

夫は高田里香に会うために向かった。

その事実だけで充分だった。

No.89

小田さんから再度連絡があった。

「この前は最後まで追跡できなかたので、料金は頂かないで、調査をさせて頂きます。日程を決めてお知らせ下さいね。」

私は正直、もう結果に満足していた。


自分で決めたことを守ろうともしない。

高田里香がそんなに必要なら、そっちに行けばいい。


むしろ、行ってほしい。

払うあてのない借金ごと。


払うあてのない借金の支払いのために、父の形見の金貨を全て勝手に持ち出して売却してしまっていた。

初めはなくなったことに気付いた時、子供達がおもちゃにして、おもちゃ箱に持って行ったと思って、子供達を疑った。
その様子を見ていた夫は黙っていた。

私は盗人と一緒に住んでいたのだ。


子供達のためにも、自分のためにも、こんな人いらない。

No.90


私の気持ちは、離婚へと一歩一歩進んでいた。

家も半分は私の持ち物だが、自分が住んでいない家のローンを自分中心な夫が払い続けるかどうかは、かなり怪しい。

私は家を空けることを考え始めた。

最初に思いついたのは、数年前死んだ飼い犬の遺骨を埋葬することだった。

まず彼をしかるべき所に収めよう。

火葬した所に共同墓地があることが分かり、埋葬することになった。

子供達は拒否したが、まずは彼だけでも落ち着いた場所で安らかに眠ってもらいたかったので、説得した。

子供達は、どうしてもパパと一緒に埋葬に行くと言って、譲らない。

私は夫の顔は見たくなかったが、そこは私が譲歩することにした。

No.91

約束の日

出発の時間がきても、夫は現れない。

携帯に電話するが、出ない。

埋葬の時間も予約が必要で、遅れるわけにはいかなかった。

子供達は必死にパパに電話したが、出ない。

「パパと一緒に皆で見送るんだ!」

子供達はパパを待たずに出発することを頑なに拒絶。

とにかく出発しようと説得し、犬の遺骨と家を出た。

車に乗ってからも、子供達はパパに電話をし続けた。

「どこにいるんだろう。。。」

子供達は必死だった。

「電話に出られないのかもしれないし。」と私が言うと、

「まさか。でも、もしかしたら」と子供達はどこかに電話をかけた。

「出ないよ!」

「留守電に残そう。」

まさかと思った私は「一体、どこにかけてるの?変な所に電話しちゃだめよ!」


「ママは黙ってて。」


「あのー桑原ですが、お父さん出してもらえますか?いい加減にしてもらえませんかね。」

子供達は高田里香に電話していたのだ。

「やめなさい!」

後部座席で電話する子供達を運転する私が制止することは難しい。

「やめなさい!」

繰り返し叫ぶしかなかった。

No.92


子供達は、私が叫ぶのも無視し、繰り返しダイアルしていたようだった。

あの時、電話をひったくり取り上げていたらと後々後悔した。

だが、埋葬の予約時間にただでも遅刻気味だったことで、わざわざ遠くまで行くのに、門前払いされたら困るという気持ちで車をとばしていたため、あまり運転の得意でない私には、運転に集中し制止しきれなかったのだ。


無事に到着。

焦っているのに、娘は遺骨を抱きかかえて、車から降りてこない。

娘は遺骨を抱きしめて涙を流していた。

娘は諦めることなくパパに電話をしていた。

受付の人に到着を知らせ、娘が遺骨を離さないことを伝えた。

受付の人は一緒に車まで来てくれ、娘の様子を見て涙ぐんだ。

娘が愛犬との別れが辛くて拒否していると思ったからだろう。

実際は、愛犬との別れが辛いだけでなく、パパが約束を守らなかったことがつらかったのだ。

娘は長い説得ののち、車から出てきた。

親子三人で、それぞれ色んな思いの涙を流して、愛犬を埋葬した。

No.93


納骨し、家に帰る途中、夫から電話が入る。

夫の父が入院する病院で寝入ってしまったと言い訳した。

そんな話があるわけがない。

夫は何の罪悪感も躊躇もなく嘘をつくが、とにかく嘘は下手だった。


めったに会えなくなった子供達との約束も守らず、子供達は、パパを少しずつ諦めていった。

No.94

それから、ふと気付くと、子供達は度々高田里香に電話をしていた。

わざとなのか、たまたまなのか高田里香は電話には出なかったようだった。

子供達は留守電に長々と文句を言っていたようだった。

仕事で留守番が増えたことで、彼らの行動を監視、抑制しきれていなかった。

そこまで、子供達が高田里香を恨んでいたということなのだが、卑劣な女は子供達をも平気で攻撃してくるような人間だった。

No.95

娘が代休の日。娘は大学病院で検査だった。

私は仕事が休めず、気になりながらも病院に送り仕事に行った。

職場にいると娘から着信。

何かあったのかと焦って電話すると、「ママ、電源切ってたんだけどね。中国人から電話があったみたいで。」

夫が最初、高田里香のことを中国人だと言ったことで、子供達は中国人と呼んでいた。

「え?なんで?」

「分からないけど。」

娘は不安げだった。

No.96


急いで、高田里香に電話をした。

珍しくすぐにでた。

「娘に電話したそうですけど、何か?」

「えー。共通の携帯かと思って。」

「娘は病院にいて、一人で検査を受けていて。やめてもらえますか?あれは、子供達の携帯ですから。」

「ごめんなさ~い。分かりました。」

「私、仕事中なので、失礼します。」


どう考えたら、共通の携帯っていう考えが浮かび、確信までしてしまうのか。

それまでも度々感じてきたが、高田里香は頭のきれるタイプではなかったようだ。

No.97


その頃、私は夫とのことをどうするつもりだったのか。

夫はとにかく離婚を拒否した。

見栄張りな夫だから、バツイチにはなりたくなかったんだろうし、物欲の塊だから、家も半分私が持っていたので、そういう物質的なことが理由だったのだろう。

私は…どうすべきか迷っていた。

ただ、二度と騙されたくなかった。


息子にGPSのついた機械?を安全のために持たせていた。

それを夫に持たせたら?

でも、気付かれないようにしなければ。

初めは、電動自転車につけようとしたが、見つかる可能性もあるし、落ちてしまうかもしれないので諦めた。

幸い(?)夫はだらさしなく、カバンの中を整理したりはしない。

夫を昼間、家に呼んだ。

夫は喜んで現れ、深夜の仕事に備えてすぐに寝入った。

夫の靴下に機器をいれ、かばんのポケットに入れた。

充電が切れるまでは、位置確認できる。

夫は何も気付かないまま、そのカバンを持って出て行った。

No.98

位置確認の機器は順調だった。

だが、時々、充電しなければならなかった。

仕方なく、時々、夫を家に入れた。

寝入っている間に充電。 

また、カバンに戻した。

夫は全く気付いていなかった。


高田里香とのことはそのままになっていた。。

謝罪も慰謝料の支払いも拒否。

探偵に使ってしまったので、弁護士さんを雇うお金などない。

インターネットを見ると、行政書士が内容証明を作成し、送付してくれるらしい。

費用も払えない額ではなかった。

不安もあったが、連絡をとってみることにした。

No.99

行政書士に連絡をしてみると、すぐに返事をくれた。

資料もすぐに届いた。

費用もさほどではない。

とにかく頼んでみよう。

しかし、一つ大きな問題があった。

住所が分からなければ、内容証明を送ることはできない。

調査会社に頼むのは、もう金銭的に厳しい。

直接聞くしかない。

No.100

もう、高田里香とは話したくなかった。

でも、仕方ない。

私は電話をした。


「書類をおくりたいので住所を教えて下さい。」


「住所は教えられません。」


「別に家に行くつもりはありません。だいたい、引っ越すって言っておきながら、まだ田舎に帰ってないんですね。夫は家に来たことがないとか、本当に嘘が多いですね。」

嘘つきという言葉が高田里香のスイッチを入れたのかもしれない。突然、逆切れし始めた。

「あんたこそ、嘘つきじゃないよ!子供が死にそうとか言いながら、私に電話してきて、なぁんだ、生きてるんだって。」

「息子が難治の病気の可能性があると言われたのは本当のことですよ。病院で聞いてもらっていいですけど?」

高田里香は、自分が分が悪いと思ったのか、「もう、いいです!」とまたもや逆切れだった。

「あなたは、不法行為をしたんですよ。自分の立場を考えたら、どうです?」


「じゃ、教えますけど、変なことしないでよね!」


「私にはあなたみたいに自分のことだけを考えていたらいいわけじゃなくて、守らなきゃならないものがありますから。」


高田里香は逆切れしたまま、怒鳴るように住所を言った。

これが高田里香との最後の会話となった。

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