私はアナタを許します。私が幸せになるために。
初めての携帯小説です。
自分の過去をもとに書いてみようと思いました。
これから書くことは、90%が実話・10%がフィクション(人物名・会社名等)です。
現在私は34歳。
夫(33歳)と息子(2歳)がいます。
結婚したのは3年前。
優しい夫と可愛い息子、そしてかけがえのない友達に囲まれている今、私はとても幸せです。
でも・・・これまで私が歩んできた人生は、自分で選んできた道とはいえ、相当馬鹿なことの連続でした。
両親の離婚、母親からの虐待、いじめ、家出、援助交際、結婚、離婚、出会い系。
そしてDV男との出会い。借金、浮気。
民事再生。
不倫。
なんだかダークな言葉の連続ですが、私が実際に経験してきたことです。
文章力に欠けるので、内容によっては読んでいて不快に思われる描写や、嫌悪感を抱かれる方もいらっしゃるかと思います。
そんな時は、優しくレスしてください(笑)
『ちょっと読みにくい』
『意味が分からない』
などなど・・・。
それでは、こんな私の話で良ければどうぞお付き合いください(^-^)
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★私が生まれたのは34年前。
その時、父は28歳。母は27歳だった。
私の他には、私の5つ上に兄。2つ下に妹。
そして、小さいながらも会社を経営していた祖父母(父方の)と同居をしていた。
私が生まれた時、女の子が欲しかった両親と祖父母は大変喜んだそうだ。
もちろん全く記憶にないが、当時の写真や両親・祖父母・親戚の話からして幼少の頃は何不自由なく裕福に育ったと思う。
田舎の小さな町だが、兄が生まれた昭和40年代後半から祖父の会社は急成長し、私が生まれた年には町の長者番付で1番だったらしい。
祖父には専属の運転手が付き、休日には飛行機で他県まで競馬をしに行っていた。(祖父は大変ギャンブル好きだった)
大きな家、優しい祖母。子煩悩で頼りになる父。怒ると怖いけど料理が上手でいつも私達を抱き締めてくれる母。
兄はバイオリンを習い、私と妹はクラシックバレエにピアノ・バイオリンを習い、着ている服はほとんどが当時百貨店や海外でしか買えなかったブランド品。
外食はホテルや割烹と決まっていたし、旅行と言えば海外だった。
記憶にある限り、5,6歳まではこの生活が続いていたはずだ。
幼稚園でお友達になった子の両親が弁護士だったり、医者だったり。ある芸能人の子もいたのをハッキリ覚えている。
そういう環境で育ったが、自分が恵まれているとか特別だとか思ったことなど一度もなかったし、むしろいつもワンピースや革靴を履いて『女の子らしく』していることが嫌だった。
★『ママの言う通りにしなさい』
これは、まるで母の口癖だったかのように事あるごとに言われてきた台詞だ。
幼稚園を卒園する頃、この台詞が頻繁に母の口から発せられるようになった。
兄や妹と違って要領の悪い私は、母に嫌われたくない一心で、母の言うことは何でも聞いた。
だから、服も母が着せてくれるものを着たし、母が『やってはいけない』ということはやらなかった。
友達と遊ぶのも、母が『お友達』と決めた子としか遊んではいけなかった。
先にも述べたように、親が弁護士、医者、大学の助教授、大手企業の役員・・・の子達。
その子達は皆いつも小奇麗にしていて、習い事もたくさんしていた。
私はその子達と遊んでいても『楽しい!』と感じることは少なかったけど、母の決めたことなのだから間違いないのだと信じるしかなかった。
幼稚園の頃の記憶は、こんな感じでしか覚えていない。
そして私が小学校にあがる頃。
父と母が喧嘩しているのをよく見るようになった。
大抵の場合は、私達が寝た後に喧嘩をしていた。
母がヒステリックになり、父がそれを一生懸命なだめているのだが、母は全く言うことをきかずに家を飛び出してしまう。
只ならぬ雰囲気に、私達も起きる。
私と妹は、そんな両親の様子を泣きながら見ているしかなかったが、兄は私と妹が少しでも泣かないようにと、いつも面白いことを言って笑わせようとしたり『お兄ちゃんが絵本読んでやるよ!』と言って、なんとか私達を寝かせようとしてくれた。
この時のことは、今でも兄にとても感謝している。
本当は私達よりも兄の方何倍も辛かっただろうに・・・。
・・・兄は、私達よりも先に、母から虐待されていたのだ。
★兄が母から虐待されていたのを知った(正確には見た)のは、小学校に入学してすぐの頃。
祖父母は旅行で数日留守にしており、父も出張でいなかった日の夜。
私と妹はリビングでテレビを観ていたと思う。
ソファに座っていたことは覚えている。
母と兄は、兄の部屋で私立中学校を受験する為の勉強をしていた。
すると突然、兄の部屋から
『ごめんなさい!ごめんなさい!』
と兄の声が聞こえてきた。
私と妹は驚いて、ただじっと耳を澄ましていた。
すると今度は母の怒鳴り声が聞こえた。
『なんであんたはそうなの!!ほら!!もう一回!!』
そしてまた兄の大きな声。
『わかったよ!だからお願いだから叩かないで!』
その言葉を聞いて、妹が『お兄ちゃん、叩かれてるの?』と言いながら私の顔を覗き込んできた。
妹も怯えていたのだろう。既に泣いていた。
私は自分がいつも兄にしてもらっているように、妹の頭を撫でながら『大丈夫だよ。お姉ちゃんが見てくるね!』と言って、廊下に出た。
『お兄ちゃんを助けなくちゃ・・・!』
なぜかそう思った。
母の事も大好きなのに、あの時の兄の悲鳴に近い声を聞いた私は兄の事が心配で心配で、自分も息が詰まりそうなほど緊張しているのに、勇気を振り絞って兄の部屋のドアを開けた。
★兄の部屋のドアをそっと開ける。
兄の部屋はドアを開けて正面奥に机があった。
私がドアを開けたことに、母も兄もまだ気付いていない。
兄は、椅子に座り、机に向かって背中を丸めていた。
母は・・・その横で、鬼のような形相で立っていた。
右手には菜箸を持っている。
その様子があまりにも異様で、私はドアを半分開けたまま声を出すこともできずに立ち竦んでしまった。
(どうしよう、どうしよう・・・)
そう思っていると、妹がリビングから小走りでやってきた。
『お姉ちゃん・・・』
妹のその声で、母と兄がドアの方を振り返った。
私もまた、その二人の顔を見てハッとした。
私と妹の姿を見て、母の顔付が変わったのが分かった。
『どうしたの?』
そう言って私と妹の手を繋いでリビングへ戻る母は、いつもの優しい母だった。
だが、兄は一緒にリビングへは来なかった。
・・・兄の部屋から、兄の泣き声が聞こえた。
★その日の夜は、私もなかなか寝付けなかった。
この頃妹は母と寝ていたので、私はリビングの電気が消えていることを確認し、母も妹と一緒に寝てしまったのだろうと思った私は、思い切って兄の部屋に行ってみた。
兄の部屋のドアの隙間から、灯りが見える。
(お兄ちゃん、起きてるんだ!)
リビングに戻ってから兄の姿を見ていなかったので、兄が起きていると知っただけで気持ちが少し明るくなった。
コンコン。
軽くノックをしてドアを開ける。
『お兄ちゃん・・・』
ドアを開けると、兄はベッドにうつ伏せになって本を読んでいた。
『おう。ココロかー。まだ寝ないの?』
本を閉じることなく、兄は上半身を少しあげて私の方を見た。
いつもと変わりないその様子に安堵した私は、自分が気になって仕方がないことを率直に聞いた。
『うん・・・お兄ちゃん、なんで泣いてたの?』
私のその質問に、兄はため息交じりにこう答えた。
『ん~・・・俺にもよく分かんない。』
(そっか・・・お兄ちゃんにも分からないのか・・・)
そう思いながら、ふと兄が読んでいる本に目をやった。
しかし本の表紙よりも、本を持つ兄の手の方が先に目に入った。
両手の甲が真っ黒だった・・・。
★兄の両手を見て、私はまた立ち竦んでしまった。
私のその様子を見て、兄も気が付いた。
『お、お兄ちゃん・・・手・・・どうしたの・・・』
聞くのが怖かったが、どうしても聞かずにいられなかった。
・・・今度は、兄は答えなかった。
『い、痛くないの?大丈夫?』
『ママがしたの?』
『お薬塗らなくていいの?』
私は黙っていられなくて、次々と質問した。
兄は少しの間困った顔をしていたが
『大丈夫だよ・・・でも、誰にも言うなよ』
そう答えながら、また本を読み始めた。
(ママがやったんだ・・・さっき持っていた箸でお兄ちゃんの手を何度も叩いたんだ・・・)
翌日には父も帰って来る。
学校だってある。
兄はその手をどう説明するのだろう。
子供ながらとても心配だった。
私がずっと下を向いて黙っていると『もう寝るぞー』と言って、兄は私の部屋まで一緒に来てくれた。
そして私が寝るまで、当時大人気だったキン肉マンの話をしてくれた。
★残念ながら、翌日の事はあまり覚えていない。
父が出張から帰って来たのが夜遅い時間だったのと、母も兄も笑顔で過ごしていたからだと思う。
それからしばらくは何事もなかった。
実際、私があの場面を目撃してから、兄への虐待は減っていった。
でも、それまでに受けた暴力は『一生忘れられない。結婚した今でも夢に見る。』ほどのものだったそうだ。
(※数年後、兄本人から聞いたが、暴力の詳細については一切語らない。)
そして兄の私立中学の受験が終わり、私も小学2年生になろうとしていた。
妹は幼稚園の年長さんだ。
末っ子の妹は、とにかく甘えん坊でいつも母にべったり。
母がいない時は、常に私のあとを追いかけた。
大人になった今でも、何かと頼りにされる。
妹のことは、後に詳しく説明しようと思う。
・・・兄が無事に私立中学に合格すると、父も母も大喜びだった。
祖父母もとても喜んでいた。
しかし
兄が中学に入学すると同時に、私達の生活はどんどん変化し始めたのだ。
★ある日、またいつものように両親の喧嘩が始まった。
喧嘩といっても、両親の場合はいつも母が一方的に怒鳴っているように見えた。
母が一通り自分の不満を吐き出したら、父が母のことをなだめて終わる。
何度も同じように繰り返す両親の喧嘩に少し慣れてきた私は、その日もまたそのパターンなんだろうと思っていた。
その日、兄は友達の家へ泊まりに行っていて、私と妹は私の部屋で寝ていた。
妹は寝ていたが、私は母の大声で起きてしまったので、そのままじっと様子を伺っていた。
『子供達には、どう説明するんだ』
父の声が聞こえた。
母の声はよく聞こえない。
『お前は母親なんだぞ。自分の言っていることが分かっているのか?』
父の声はハッキリ聞こえた。
私は父のこの言葉を聞いて、得体のしれない大きな不安を抱いた。
(ママの声が聞こえない・・・ママ、何とか言ってよ!お願い!)
そう思ったが、母の声はボソボソと聞こえるだけで、私には母が何を言っているのかは分からなかった。
しばらくすると両親の話し声も聞こえなくなり、私も気が付いた時には朝になっていた。
妹はまだ寝ている。日曜日だったので学校は休み。
私もまだ眠たかったが、昨夜の両親のやりとりが気になったので、とりあえずリビングに行った。
母が朝食の用意をしているはずだ。
それが当たり前のことだったから。
リビングのドアを開けると、そこには祖父母がいた。
2人とも、深刻な顔をしていることは私にも分かった。
父は朝からどこかに電話をかけている。
2世帯住居だった我が家は、祖父母が1階に住んでおり、夕飯だけ一階のダイニングで一緒に食べるようなスタイルをとっていたので、朝のリビングに祖父母がいることは珍しかった。
『あれ?おじいちゃん、おばあちゃん。どうしたの?』
いつもと違う光景に少し戸惑い、朝の挨拶もしないまま祖父母にそう尋ねた。
★『なんでもないの。ちょっとお仕事の話をしていたの。』
祖母は私の方へ歩きながらそう答えてくれた。
父はずっと電話で誰かと話している。
私は母の姿が見えないことが一番の疑問だったので
『ママは?』
と聞いたが、祖母は
『ママはちょっとお出掛けしたの。パパもお仕事だから、今日はおじいちゃんとおばあちゃんとデパートに行こうね。』
と言って朝食の用意をし始めた。
母が日曜の朝から出掛けたことに違和感を感じたが、祖母が言ったことを信じることにした。
妹が起きるのを待って祖父母と一緒に百貨店に行ったが、私は母のことが頭から離れなかった。
だが、妹の終始ニコニコとした楽しそうな様子を見ると、気が紛れた。
(家に帰れば、きっとママが待っててくれる)
何度も自分に言い聞かせるようにそう思ったが、夕方家に帰っても母はいなかった。
兄が帰ってきており、ダイニングのテーブルで父と向かい合って座っている。
2人とも私達の顔を見て笑顔で『おかえり。』と言ってくれたので、不安な気持ちが少し落ち着いた。
妹が『ただいまー!パパ、お兄ちゃん、今日デパートでこれ買ってもらったの!』
と言って、彼女が大好きなドナルドダックのぬいぐるみを高々と掲げて2人に見せる。
父『おー!すごいなぁ。良かったなぁ。』
兄『いいな~。俺も一緒に行きたかったなー。』
妹『お兄ちゃんも一緒にこればよかったのに~。』
父『ちゃんとおじいちゃん達にありがとうって言った?』
妹『だいじょうぶよ!ちゃんとありがとうって言ったよ!』
・・・いつもと変わらない光景。
少し違うことと言えば、ここに母がいないこと。
でも、父と兄の様子を見ていると母がいない状態も長く続かないだろうと思った。
(パパもお兄ちゃんもいつもと変わらない・・・きっとこれからママが帰ってくるんだ。)
(それとも、これからみんなでママを迎えに行くのかな?)
私がそう考えていた時。
祖父母が、父を呼んだ。
★祖父母に呼ばれた父は、祖父母が住む1階のリビングに行くと言って下へ降りて行った。
(※詳細を書き忘れましたが、2世帯住居の1階部分に祖父母、2階部分に私達家族が住んでいました。)
父が下に降りて間もなく、母が帰って来た。
妹が
『あ!ママだ!』
そう言って誰よりも先にまだ玄関にいる母へ駆け寄った。
私はなんだか出遅れてしまった気がして、母に駆け寄ることができないままだ。
その横にいる、私と一緒に出遅れたであろう兄はどんな顔をしているのかと思い、兄の方を見た。
兄は笑顔ではなかった。かと言って怒っている顔でもなく、悲しい顔でもない。
見たことがないような・・・冷たい顔だ。
そして兄だけではなく、玄関で母を出迎える祖父母も、父もそうだった。
妹だけが、無邪気な笑顔で母に抱きついていた。
★『ママ、どこにいってたのー?』
妹は母に抱きついたまま、何度もそう聞いていた。
母は妹のその問いかけには答えず、2階に上がる階段の途中に立っている兄と私の方を向いて
『ママはパパ達とお話があるから、上でお兄ちゃん達と遊んでてね。』
と言って、妹の頭を撫でながら体を離した。
聞き分けの良い妹は
『はーい。』
と返事をしながら嬉しそうに階段を上がってくる。
そのまま私達3人は2階に上がり、兄の部屋でゲームをして過ごした。
そのうち妹が兄のベッドで寝てしまったので、兄と私はゲームをやめようかと話をしていた時。
下から母が勢いよく上がってきて、私達がいる兄の部屋に入ってきた。
母は泣いていたが、それよりもかなり興奮した様子だったので少し怖かった。
そして
『ママはもうこのお家から出ていくから。あんた達はどうする?ママと一緒に行く?』
そう言ったのだ。
・・・一体母は何を言っているのだろう。
★このお家から出ていくから・・・ママと一緒に行く?・・・。
私は母の言っている意味を理解するよりも、母の方を向いて立っていることで精一杯だった。
母の目を見ることができない。
母が怖い。
怒られて感じる『怖い』とは明らかに違う怖さだった。
母が全くの別人のように見えた。
部屋の入口に立っている母の後ろに、下から上がってきた父の姿が見えるのとほぼ同時に、兄の声が聞こえた。
『俺は、行かない。』
兄のハッキリとした口調と父の姿を見てハッとしたが、私は何も言えないままだ。
父『子供達に何を言ったんだ?・・・大輔、(兄の名前)ママに何を言われた?』
父が母の顔を横目で見ながら兄の部屋に入ってきた。
兄『ママはこの家から出ていくんだってさ。俺達はどうする?って聞かれたから、俺は行かないって言ったんだ。』
父『子供達にそんなこと言ってどうするんだ。いい加減にしろ。』
母『もう黙っていても仕方ないじゃない!』
父『いいからやめるんだ。』
母『どうして!?遅かれ早かれ話さなきゃいけないのよ!?だったら今話しても同じことよ!』
父『そういう問題じゃない。子供達の気持ちを考えろって言ってるんだ。』
また次に母が何か言おうとしたが
『・・・もうやめてくれよ!!』
下にいる祖父母にもハッキリ聞こえる程の大きな声で
兄が言った。
★兄の言葉に、父も母も驚いていた。
もちろん私も。
そして兄はしっかりと母の目を見て、間を開けずに話し始めた。
『ママは好きな男の人がいるんだろ!だからパパや俺達を捨てて出て行くんだろ?俺はもう結構前から知ってたよ!』
・・・誰も何も言わずにいた。
兄は続ける
『ママがその人のところに行きたいなら行けばいいだろ!でも俺達には関係ない!頼むから、もうやめてくれよ!』
・・・いつの間にか、祖父母も兄の部屋にいた。
兄の目には、今にも溢れそうなくらいの涙が浮かんでいた・・・。
★『もういいだろ・・・。もういやなんだよ・・・。』
兄は最後まで母の目を見ていた。
父『大輔・・・!ごめん!』
兄が言い終えてすぐに、父が兄を抱き締めた。
祖父は黙っていたが、祖母は『子供にこんなこと言わせるなんて・・・。』と言って泣いていた。
私は・・・相変わらず何も言えなかった。
・・・こんなに騒がしいのに、妹はまだ兄のベッドで寝ている。
(今思えば、それで良かったと思う。まだ就学前の妹には残酷な場面だ。)
そして母も泣いていたが、母の口から出た言葉は兄への謝罪ではなかった。
『そう・・・。知ってたの・・・・・・大輔の気持ちは分かった。じゃあ、好きにしなさい。』
そう言って私の方を見た。
母『ココロは?どうする?パパとママは、もう一緒に住めないの。』
私『・・・。』
答えられるわけがない。
両親共に大好きな私には、どちらかを選ぶことなどできない。
選ぶようなことになるなんて考えたこともなかった。
たった今、母には父の他に好きな男がいると分かっても、この時は母を嫌いだと思うような感情は芽生えなかった。
母は私が答えられないのを分かっていたと思う。
私の返事を待たずに、父と祖父母に何か言い残して出て行ってしまったのだ。
父と祖父母に何を言ったのかは後に聞くことになるが、この時の私は母が私の返事を待たずにまた出て行ってしまったことがショックで、ただただ泣くことしかできなかった。
祖父が寝ている妹を抱きかかえ、祖母と一緒に下へ降りて行く。
父は片方の腕で兄の肩を抱き、もう片方の腕で私のことを抱き寄せた。
私は父の腰にしがみ付いて泣いた。
父のベルトに私の涙がたくさん染み込んでいくのを見ながら
(夢だったらいいのに・・・!夢だったいいのに・・・!)
何度もそう思った。
★この日の出来事は、ここまでは鮮明に覚えている。
だが、次の日のことも、それからはどうして過ごしていたのかも覚えていない。
何かあったとすれば、しばらくは妹が『ママに会いたい』と言って、泣いたり暴れたりすることがあったくらいだと思う。
そして次に母に会ったのは、私と妹が母と一緒に暮らすことになった。と聞かされた時だった。
それも、夏休みに入る一日前。
終業式の日に、担任の先生から聞いた。
終業式が終わってクラスに戻ってから、クラスメイトは次々に通信簿や宿題を受け取っているが、私だけ宿題が渡されなかった。
『先生、私の宿題がありません。』
先生の机にそう言いに行った私に、先生は不思議そうな顔をして
『ココロちゃんは、2学期から転校するから宿題はないよ?』
と言った。
私は一気に体が冷たくなるような気がした。
私『・・・え?』
先生『え?・・・え、もしかして、知らないの?』
私『はい・・・知りません・・・。』
先生『あの・・・ココロちゃんと妹さんは、お母さんと一緒に住むことになったからって・・・お家の人から詳しく聞くと思うから・・・クラスのみんなには今日先生からお話するからね。』
先生は悪くないのだが、この時は先生がとても意地悪な大人に見えた。
それから最後の最後に、先生がみんなに向って
『ココロちゃんは、2学期から転校することになりました。』
と言った。
『えーーー!』
『知らなかったー!』
『なんで~?』
(私も知らなかったよ・・・。)
私は誰の質問にも答えず、下を向いたまま泣いた。
全員でさよならをした後、ほとんどのクラスメイトが私の席に群がった。
その中でも、特に仲良しだったイズミちゃんとトモ子ちゃんが泣きながら
『どうして教えてくれなかったの?』
『いやだよ・・・。寂しいよ・・・。』
と言ってくれた。
他にも泣いたり別れを惜しんでくれた子もいたが、その二人は特に悲しんでいた。
★群がっていたクラスメイト達も徐々に帰り、最後には私とイズミちゃんとトモ子ちゃんの3人になった。
3人になった時、私が
『2人とも、仲良くしてくれてありがとう。』
と言うと、2人は大きな声で
『これからも友達だよ!また遊ぼう!』
『お手紙書くから、ココロちゃんもお手紙書いてね!』
と言ってくれて嬉しかった。
実際、彼女達とはこの後も数年の友情が続いた。
彼女達との話も、今後数年は出てくることになる。
教室で3人、別れを惜しんでいるところに、別のクラスの先生がやってきた。
『ココロちゃんのお父さんが迎えに来ているので、準備してね。準備が終わったら、先生と一緒に校長室に行きましょう。』
と言った。
3人とも『本当にお別れなんだな。』という顔をしたが、2人の言葉に少し元気をもらった私は、その時にできる精一杯の笑顔で
『イズミちゃん、トモ子ちゃん、またね!!』
と言って手を振った。
2人も、やっと泣き止んだ真っ赤な目にまた少し涙を溜めて、ニコニコ笑ってくれた。
『ココロちゃん、絶対お手紙書いてね!』
『ココロちゃん、大好きだからね!』
その言葉を聞いた、私を迎えにきた別のクラスの先生が
『ココロちゃん、素敵なお友達がいて良かったね!』
と言って、私の肩を抱いてくれた。
先生の顔を見上げると、先生も涙ぐんでいた。
★こうして『お別れムード』に浸る暇もなかった私は、そのまま急いで校長室へ向かった。
校長室に入ると、父と校長先生、担任の先生、そして音楽の先生がいた。
(私が通っていた小学校にはマーチングバンドがあり、その顧問をしている音楽の先生というのがいた。)
私が校長室へ入った時には既に大人達の話は終わっていたようで、父が私の荷物を受け取り
『じゃあ、行こうか。ココロ、先生たちに挨拶しよう。』
と言った。
『・・・ありがとうございました。』
他に言うことが思い付かなかったので、これだけ言った。
担任の先生なのに、お別れするのが寂しいとか悲しいとかは全くなかった。
でも、音楽の先生は別だった。
音楽の先生は音楽の時間にいろんな曲を聴かせてくれたり、ピアノを習っていた私に、合唱の時には簡単な伴奏をさせてくれたりした。
それから、3年生になったらマーチングバンドに入らないかと誘ってくれたので、私も3年生になったらそうしようと決めていた。
習い事ではピアノを習っているけれど、マーチングバンドに入ったらサックスをやってみたいという目標も持っていたので、そのことも先生には伝えていたのだ。
でも、みんなの前だと恥ずかしくて何も言えない。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、先生は私の前に来て
『ココロちゃん、いつか先生に、サックスを吹いて見せてね!』
と言ってウインクをした後、笑ってくれた。
先生のウインクにこっちが恥ずかしくなってしまったが、なんだか先生が私の味方をしてくれているようで嬉しい気持ちの方が大きかった。
そして、父と共にもう一度先生達に深々と頭を下げた後、車に乗り学校を後にした。
★『ビックリしただろう?・・・ごめんな・・・。』
車に乗って父が最初に言った言葉だ。
私は何も答えなかったが、頭の中ではこれから自分にどんなことが起きるのか想像するのに必死だった。
妹と一緒に、母と暮らす。
今の家を出て?父と兄は?祖父母は?
考えても考えても、何も分からない。
確かなことは、私達のいないところで大人達が勝手に物事を決めていたということ。
今までのことを振り返り、せめて今日起きたことの何かひとつでも『仕方がないことなんだ。』と理解しようとするが、『大人は自分達の都合でいろんなことを決めるんだ。私の気持ちなんて関係ないんだ。』と思うことしかできなかった。
途中、父が
『ココロは、ピアノよりもサックスをやってみたいのか?』
と聞いてきた。
この事にだけは
『うん。そうだよ。』
と返事をした。
★家に着くと、母がいた。
久しぶりに母の姿を見て素直に嬉しかったが、それよりも不安の方が断然大きかった。
そして、事の真相を少しでも早く知りたかった。
・・・どんな順番で聞いたのかは忘れてしまったが、私と妹が母と暮らす理由、転校先、そして父と母は離婚したことを聞いた。
それぞれの内容は、このようなものだった。
・私と妹が母と暮らす理由。
妹は就学前で、何より母にべったり。私も父よりも母と過ごす時間の方が長かったのと、何より、女の子には母親の方が必要だろう。ということ。
・転校先。
転校先は、同じ県内だが母の実家がある市。
・その他。
父と母は離婚したが、好きな時に父と兄に会える。祖父母の家にもいつでも行ける。
母の実家で、母方の祖父母と一緒に暮らすこと。
それから後に聞いた話だが、養育費については私と妹2人に対し、当時のお金で毎月20万仕送りしてくれたそうだ。
(ほとんど私達に使われることはなかったが。)
その後は淡々といろんなことが進められ、夏休みに入って2週間後には、私は母方の実家で暮らすことになった。
★引っ越しをするまでの間、私と妹は意外にもワクワクしていた。
両親が離婚したと言っても、いつでも父や兄、祖父母と会えること。
引っ越し先の母の実家がある市は、県内で一番大きい市で都会であること。
この2つの条件だけで、私はまるでこれから楽しい生活の始まりかのように考えていたのだ。
ただひとつ、どうして終業式の日まで転校する話を黙っていたのかが気になった。
後日、父と母に聞いてみた。
『終業式の前に話したら、その後の学校生活が楽しく送れなくなるんじゃないかと思った。残酷かもしれないけれど、終業式の日に話すことにしていた。』
と、2人とも同じことを答えた。
担任の先生が先に話してしまったことは、想定外だったそうだ。
終業式のあの日、最後に父が校長室にいた時、担任は自分が勘違いをして先に私に話をしてしまったことを何度も謝っていたという。
(勘違いをするような曖昧な説明をした両親が悪いので、担任はそれほど悪くないと思うのだが。)
確かにかなり衝撃的であったが、両親の言う通り、終業式の前に事実を聞いていたら私は毎日悶々としていたに違いない。
何をしていても気が重かっただろう。
だから、あれで良かったのかもしれない。
当時の私もそれで納得し、その後何も聞かなくなった。
★兄は中学に入学すると野球部に入り、夏休みに入ると毎日朝早くから部活に行っていたので前のように一緒に遊ぶことはなかったが、顔を合わせれば構ってくれていた。
兄は私と妹が母と暮らすことを夏休みに入る前から知っていたそうだが、その頃は兄も自分のことで精一杯で、私達のことを考える余裕がなかったそうだ。
確かに中学に入学してから、兄はどんどん変わっていった。
声も変わり、身長も伸び、体付きも逞しくなった。
部活の方が楽しいと言って、習っていたバイオリンも辞めた。
私達が引っ越す当日は他の中学校との試合だった為、部活に参加すると言っていたが、前日の夜に私と妹に向って
『お兄ちゃんは、いつでもお前達のお兄ちゃんだぞ。寂しくなったら、いつでも戻ってこいよ。』
と言ってくれた。
兄と離れることは寂しかったが、『いつでも会える。』という気持ちと、中学に入り大人びてきた兄に対して『今までのお兄ちゃんじゃない。』という気持ちがあったので、思ったよりつらくなかった。
★引っ越しの当日は、祖父母と父が一緒に母の実家まで来てくれた。
父の両親と母の両親は仲が良く、特に祖母同士は父と母が離婚した後も何かとやりとりをしていた。
引っ越した後も、週末になると母の実家まで父方の祖父母が2人で私と妹を迎えに来て、父と兄に会いに行く。ということもよくあった。
母方の祖父母も私達は大好きだったので一緒に住めることも嬉しかったし、お互いの祖父母が普通に話していることや、何より週末になると父か祖父母が迎えに来てくれて、遊びに行ったり食事に行くことが嬉しかったので、寂しいと思うことがほとんどなかった。
このスタイルについては、両家の祖父母、父と母でよく話し合ったらしい。
『大人の勝手な都合で離婚して子供は犠牲になるのだから、せめて子供達には寂しい思いはさせないようにしよう。』
確かにこのことは実行されていたと思う。
そして夏休みが終わり新学期が始まった。
私は新しい学校にもすぐに馴染むことができたし、ピアノとバレエも新しい教室で続けていた。
妹も新しい幼稚園で早速お友達ができたと喜んでいた。
母方の祖父母も自営業をしており、自宅の一部を店舗としていたので家に帰れば必ず祖父母がいてくれた。
母は仕事を始め、輸入家具とアンティークを取り扱うショップで働き始めた。
両親が離婚したことは悲しいが、その時の私は『パパとママは離婚しちゃったけど、パパにもいつでも会えるし、おじいちゃんおばあちゃんも一緒だから、寂しくないや。』と、楽観的に考えるようになっていた。
★母の実家での新しい生活にもすっかり慣れた頃、私は3年生になり、妹も小学生になった。
入学する前から新しいランドセルを背負っては『一年生になったら~♪』と子供らしく歌っていた彼女だったが、小学校に入学すると自分から次々といろんなことにチャレンジし始めた。
『英語が習いたいの。』
『公文に行ってみたいな。』
『そろばんも習いたい。』
私は勉強よりも外で遊ぶ方が好きだったので、学校から帰っても家に閉じこもって本を読んだり漢字の練習をしている妹を見て不思議に思ったものだ。
母は、そんな妹の意欲を全面的に応援していた。
昔、母は早稲田(大学)を中退している。
当時母の両親(祖父母)は親戚の借金の保証人になっており、その親戚が夜逃げをしてしまった為、祖父母が借金を肩代わりしたそうだ。
それが原因で、母は泣く泣く大学を中退したと聞いた。
母はそのことがコンプレックスだったのだろう。
私達兄妹には
『たくさん勉強して、いい大学に入りなさい。』
とよく言っていた。
だから妹が自分から勉学に勤しむ姿は、母にとって喜ばしい光景だったと思う。
逆に勉強が苦手だった私は母の言葉を真に受けず、自分の好きなピアノだけを一生懸命やっていた。
運が良かっただけなのだが、小学2年生の終わりに参加したピアノコンクールで優勝してしまったことがある。
その時から母は私に
『もっと勉強をして、もっとピアノを練習しなさい。将来ピアニストになるのよ。』
と言うようになった。
そしていつの間にかピアノ教室から離れ、コンクールの時に審査員を務めていた一人に個人レッスンを受けるようになる。
★ピアノ教室を離れた後の個人レッスンは苦痛でしかなかった。
私が習っていた男性の先生は、とにかく厳しいで有名だった。
少しでも間違えば、容赦なく怒鳴られて頭を叩かれる。
相手が子供だろうと大人だろうと関係なかった。
先生は個人レッスンの講師の他、音大の講師、そしてピアニストとして活動しており、彼のレッスンを受けたいと申し出る人は後を絶たなかったそうだ。
先生は私に次々と難しい曲を弾かせた。
難しすぎて楽譜が読めない時もあったが、それでも『自分で調べて練習してきなさい。』と言われれば家で必死に調べるしかない。
そのかわり、うまく弾くことができると本当に優しい笑顔で『よし。すごく良かった。よくやったな。』と言って頭を撫でてくれる。
まさにアメと鞭だ。
その頃から友達と遊ぶ時間がなくなり、私も家いる時はピアノの練習をするか、それに付随する勉強をする日々に変わっていった。
★気が付けば、好きで続けていたピアノも
『先生に怒られない為に練習する。』
ようになっていた。
自分でそのことに気が付いてからは、レッスンに行くのが嫌で嫌で仕方なかったが、私がピアノを弾いている姿を見ると嬉しそうな母のことを思うと、どうすることもできなかった。
そのうち自分でも『私はピアニストにならなくちゃいけない。』と思うようになり、学校の作文にも将来の夢はピアニストと書いていた。
小学4年生になると今度はコンクールに参加する回数が増える。
ほとんどのコンクールには父と父方の祖父母も来てくれたが、私はステージの上で『本気で頑張る。』というより、自然と覚えた『頑張る振り。』をしていた。
そんな私に気が付いたのかどうかは解らないが、ある日のコンクールの後、父からこう言われた。
『ココロ、そういえば前に言っていたサックスはどうだ?まだやってみたいか?』
目の前がパァッと明るくなるような気がした。
『うん!やってみたい!私、本当はピアノよりサックスをやってみたいよ!』
何の躊躇もなくそう答えたが、その時横で話を聞いていた母が父に向って
『余計な事言わないで。』
と言って少しムッとしていた。
だが、父は母に向って
『いや、前の学校の先生も言っていたんだ。ココロはサックスをやってみたいって。今でもやってみたいなら、やらせてみてもいいんじゃないか?』
と、ムッとする母とは逆に、少し笑顔でそう言ってくれた。
『何言ってるのよ。もうどれだけお金かけてきたと思ってるの?今更何言い出すのよ。』
母は更に不機嫌な顔になったが、父はそれでも続けてくれた。
『何もピアノを辞めろと言っているんじゃない。ただ、2年前にサックスをやってみたいと思った気持ちが今でもあるのなら、やらせてあげようと言っているんだ。』
父の言葉を聞いて母は少し黙っていたが、何か思い付いたように父に向ってこう言った。
『分かった。じゃあそっち(サックス)はアナタが話を勧めてちょうだい。そのかわり、こっち(ピアノ)に影響が出たらすぐに辞めてもらうわよ。』
それを聞いた父はため息交じりに
『だから、それを決めるのはお前じゃなくてココロだろ?』
と言った後、今度は父が怒ったような顔をした。
★私は自分が何の躊躇もなくサックスをやってみたいと言ったことが、実はとんでもないことだったのでは。と思い、申し訳ない気持ちで2人のやりとりを見ていたが、2人が喧嘩をする程揉めるようなことはなく話は決まった。
『よし、じゃあ、パパが早速サックスの先生を探すからな。』
そう言って父も張り切っていた。
家に帰ったら母に怒られるんじゃないかと思って心配だったが、母は
『ピアノも頑張りなさいよ。』
と言っただけで、特に怒っている様子でもなかった。
それからの私は、毎日サックスのことで頭がいっぱいだった。
今までも、母とピアノの楽譜を買いに楽器店に行けば楽譜を選ぶ時間よりもショーケースに並ぶ金色に輝く大小のサックスを眺める時間の方が長かった。
(かっこいいなぁ・・・。これができたらすごいなぁ・・・。)
ずっとそう思っていた。
そもそも、どうして私がそんなにサックスに興味を抱いたかと言えば、何気に見ていたテレビ番組のワンシーンに衝撃を受けたからだった。
黒人の男性が、ステージの上で身体を揺らしながらキラキラと輝くサックスを吹いている。
スポットライトは彼だけを照らし、観客の誰もがうっとりしている。
そんな場面だった。
★父はすぐにサックスを習いに行ける教室を見付けてくれた。
まずは体験レッスンを受けてみてください。とのことで、週末に父と2人で行くことに。
私はたまらなくワクワクしていて、教室に着くまでずっと父の腕に自分の腕を絡めながら『パパ、私すっごく楽しみ!』『あ~、ドキドキしちゃうなぁ。』と言っていた。
『そうだなぁ。パパも楽しみだよ。』と、父もずっとニコニコしていた。
教室は、1階が楽器店になっている5階建てのビルの中にあった。
1階の楽器店にはピアノの楽譜を買いに来ることもあったので、よく知っている場所だった。
父が受付で『今日サックス教室の体験レッスンを予約している高木(父の名字)と申します。』と挨拶をすると、受付の女性はすぐに教室へ案内してくれた。
教室はビルの3階に入っており、サックスの他にはクラリネットの教室もあった。
父と2人で先生を待っていると、父と同じ30代後半くらいの男性が笑顔でやってきた。
父より長く伸ばしたヘアスタイルにはチラホラと白髪が見えたが、なんとも優しそうな笑顔をする人だった。
『はじめまして!こんにちは!』
先生が何か言う前に、私は自分から元気よく挨拶をした。
★『おお~。元気ですね!こちらこそ、はじめまして。こんにちわ!』
先生は更にクシャッとした笑顔になり、私の目線に合わせて少し身を屈めて挨拶をしてくれた。
先に父が『高木と申します。今日はどうぞよろしくお願いします。』と言って頭を下げた。
先生は慌てて『いえ!お父さん、頭を上げてください!頭を下げるのは私の方ですよ!』と言って自分も頭を下げていた。
それから
『私は遠藤と申します。私の方こそ、今日は来てくださってありがとうございます!じゃあ、早速教室の方に行きましょうか。』
そう言って教室に向って歩き出したと思ったら、前のめりに派手に転んだ(笑)
(笑っちゃいけない・・・!)
と思ったが、父は既に吹き出していた。
『ぷっ!・・・だ、大丈夫ですか!?』
そう言いながら肩が震えている。
私はこれからサックスを教わるかもしれない先生に対して失礼だと思い、必死に笑いを堪えていた。
『す、すみません。靴紐を踏んでしまって・・・。』
先生はすぐに起き上がったが、髪の毛が少し乱れていた。
その姿がまた父と私のツボにはまってしまった。
父は顔を真っ赤にして壁の方を向いて咳払いをしている。
私も下を向いて唇を噛みしめた。
先生は乱れた髪を直しながら恥ずかしそうに
『笑っちゃいますよね・・・ははは。』
と言って笑った。
★教室に入ると、父と先生が話をし始めた。
4歳からピアノを始めたこと、現在のピアノのレベルについてなど詳しく説明していたと思う。
先生はメモを取りながら真剣な表情で聞いていた。
2人の話が終わると、父は教室から出て行くことになり、私は先生と2人になった。
先生は私に
『今ね、お父さんからココロさんのことを教えてもらいました。ココロさんはピアノが上手なんだね。』
と言って笑ってくれた。
私は『上手では、ないです。』とだけ答えて、先生が話を続けてくれるのを待った。
『ピアノが弾けるということは、楽譜はもう読めるということなのだから、まず自分は何も分からないんだ。と決め付けないでね。』
先生のこの言葉を聞いた私は、安心感でいっぱいになった。
それからサックスにはいくつかの種類があり、音色も違うこと、役割も違うことなどを教えてくれた。
そして体験にはアルトサックスを使うことになった。
★初めて手にするアルトサックスは思っていたより重かったが、私は感激していた。
先生も、私の嬉しそうな様子を見て
『お!似合いますね!』
などと煽ててくれた。
最初は持ち方を覚えるだけでも大変だったが、先生が『まずは音を出してみましょう。』と言ってお手本を見せてくれたあたりから私も真剣だった。
サックスを吹いている先生は、ついさっき、廊下で派手に転んだ人と同じだとは思えないくらい素敵に見える。
私は音を出すまでに少し汗ばんでしまう程時間がかかってしまったが、それでも音が出せた時はとても嬉しかった。
それから程無くして体験レッスンは終了となった。
父が教室に戻り、先生と話をする。
先生は私のことを『飲み込みが早く、本人のやる気が伝わってきました。』と言ってくれていた。
父は『あとは本人に任せようと思っています。』
と言って、レッスンの受講については後日連絡すると約束した。
先生に挨拶をして、その後父と私はランチを食べに行くことにしたが、その時点で私の気持ちはもう決まっていた。
レストランに入り、メニューを決めると私から父に
『パパ、私あの先生に習いたい!』
とお願いした。
父は『他の教室は体験してみなくていいのか?』と聞いてきたが
『私、あの先生がいいな。お願い、私ちゃんと練習するから、すぐに返事して!』と興奮気味で答える私に、父は苦笑いしながら了解してくれた。
★それから10年以上、私は遠藤先生にレッスンを受けることになる。
ピアノとの両立はとても大変だったが、ピアノの練習が終われば少しの時間でもサックスが吹けると思えば頑張れた。
父が買ってくれたアルトサックスを鏡の前で練習する私の姿を見て、妹も『お姉ちゃん、かっこいいね!』と言って褒めてくれた。
祖父母は聞き慣れないサックスの音に驚いていたが、文句を言うことなく見守ってくれていた。
母も、なんとか私なりに両立している私を見て関心しているようだった。
しかし、6年生に上がるまではピアノをメインでやっていた私だが、やがてサックスをメインで練習するようになる。
そして同じ頃、一緒に住んでいた祖父が突然の心筋梗塞で他界してしまう。
それから間もなく、母の私に対する暴力が始まった。
★母方の祖父と母は、あまり仲が良くなかった。
母はずっと、自分が大学を中退したのは祖父のせいだと言っていた。
大学を卒業したら通訳になる夢があったのに、それを叶えられなかったのは全て祖父の責任なのだと本人に向って言っているのを目撃したこともある。
祖父は祖父で、父と母が離婚する原因となった母の浮気を知った時
『この恥知らず!もう2度と帰ってくるな!お前とは縁を切る!』
と言って、実家に離婚の話をしに帰省した母を叩き出したそうだ。
離婚後、母が実家に戻ることも猛反対していたが、私と妹が一緒に住むという話になれば反対などできなかったという。
それから、母が浮気をした男性とは離婚後も続いていたことも許せなかったようだ。
私は母の帰りが遅い時には仕事で遅いものだと思っていたが、実際は男性と会っていたり、週末私達が父の元へ行く時には母も男性と外泊していた。
父から毎月振り込まれる20万円の養育費も、祖父母には毎月10万円だと説明していたらしく、私と妹の習い事の月謝と積立であっという間に消えてしまうからと生活費も入れていなかったそうだ。
実際は積立などされておらず、自分の給料と、養育費の半分以上は全て母一人で使っていた。
祖母は母の言いなりで、母が強く言えば一切何も言い返すことができない性格だった。
母はそのこともフル活用していたと思う。
大事な話は2人に話すのではなく、祖母に簡単に説明して終わり。
祖父と母は顔を合わせてもほとんど話らしい話をしなかったので、祖父も母の事は祖母から聞くことで把握していた。
私と妹のことはとても可愛がってくれていたが、たまに私達の前で母のことを悪く言う時もあった。
『子供をほったらかしで・・・。』
『あいつは自分のことしか考えていないんだ。』
こういう時、私達は祖母が母を庇うのではと祖母の方を見たが、母の時と同じで祖母は祖父の話も黙って聞いているだけだった。
そのうち養育費の話がバレると、祖父は母に向ってこう言ったそうだ。
『お前は子供達が可愛いから2人の親権をとったんじゃないだろう!金が欲しかっただけだろう!』
母が何と答えたのかは知らないが、この時の祖父は本気でそう思ったのだろう。
★こういった母と祖父の話は、全て父方の祖母から聞いた。
どうして父方の祖母から聞くことになったのか。
その経緯はこうだった。
祖父が心筋梗塞で亡くなって1年も経たないうちに、今度は祖母が末期の胃ガンで倒れてしまう。
祖母は自分がもう長くはないと悟ったのだろう。
入院中、見舞いに訪れた父方の祖母に、これまでの母と祖父のこと、離婚後の母の言動を全て話したそうだ。
そして
『こうなってしまったのは、全て娘(母)を育てた私の責任だ。本当に申し訳ない。孫達が大人になって、もしこの話が必要な時がきたら話して欲しい。』
と頼んだ。
私がこの話を聞いたのは、20歳の時だった。
★祖父が亡くなった時、母は祖父の亡骸の横で声を殺して泣いていた。
祖父が亡くなる前日も、2人は言い争っていたそうだ。
自分の父親と喧嘩をしたまま永遠の別れをすることになった母は、あの時どんな気持ちだったのだろう。
そして祖父の葬儀が終わり日常に戻ると、母の生活は目に見えて変化し始める。
祖父が生きていた時はどんなに遅くなろうと帰宅していたのだが、その後は外泊することが多くなった。
朝起きると、母の姿は見えない。
祖母が1人で忙しそうに朝食の準備をして家事をこなす。
祖母は、祖父と2人で経営していた店舗を縮小して1人で仕事を続けていた。
祖母はこの時63歳。
私は6年生になり、妹は4年生。
私と妹は、身体の小さな祖母が1人で家事をこなしている姿を見て『私達もお手伝いをしよう!』と話し合い、それからは私が掃除と食事の準備、妹は洗濯物を取り込むのと簡単な買い物を担当することになった。
掃除はそれなりにできたとしても、今まで料理をしたことがない私には、食事の準備は勉強より大変!
祖母は、最初から付きっ切りで教えてくれた。
少しでも祖母の負担を減らそうと始めたお手伝いが、かえって負担を増やしてしまった。
それでも徐々に私が料理を覚え始めると、私が作った不格好な料理を『おいしい。おいしい。』と言って食べてくれた。
そして、既にピアノの練習よりサックスの練習をメインでするようになっていた私は、家のこととサックスの練習で1日が終わるようになり、ほとんど練習をせずにピアノのレッスンに行く為、当然次のステップに進めずに帰ってくるようになる。
『ピアノ、もう辞めたいな。』
毎日そう思っていた。
★ある日、もうどうしてもピアノのレッスンに行きたくなかった私は、初めてレッスンをサボることにした。
祖母にしつこくお願いして、具合が悪いから休むと伝えてもらったのだ。
祖母は最初とても渋っていたが、私がピアノを辞めたいと思っていることを知ったのと、普段家のことも手伝ってくれて助かるから、今回だけだよ。と言って引き受けてくれた。
私はピアノのレッスンに行かなくて良くなったことが嬉しくて、その日は久しぶりに友達の家に遊びに行くことにした。
母にはレッスンに言ったと嘘を付けばいいと思っていた。
だが、そういう時に限って普段は考えられないような偶然が起きたりするものだ。
家を出る前、友達の家に向う途中には大きい郵便局があることを思い出し、前の学校で仲が良かったイズミちゃんに書いた手紙をそこで出してから行くことにした。
まだ切手を貼っていなかったので、郵便局の中に入り切手を買った。
切手を貼り、手紙をポストに投函して出ようとした時。
『ココロ。』
と、どこからか母の声が聞こえた。
振り返ると、私が入ってきた入り口とは反対の入り口に母がいた。
ピアノのレッスンに行っているはずの私が郵便局にいるのだから、母は驚いていた。
私の方に歩いてくると
『ピアノは?どうしたの?』
と聞いてきた。
私はとっさに嘘を付いた。
『あ、あのね、今日は先生が用事ができたからレッスンはお休みです。って連絡がきたんだ。』
母の顔がみるみる変わっていく。
『先生から?電話がきたの?』
『うん。そうだよ。』
じわじわと手のひらが汗ばんでくるのを感じた。
★母は私の目をじっと見ていたが、私は母の目を見ることができずに逸らしてしまった。
私はその時点で嘘を付いているのがバレてしまうと思ったが、実は既に、母は私が嘘を付いていると分かっていた。
母は無言で私の腕を掴み、郵便局の外に連れて行った。
そして
『さっきまで、ママの働いているお店に先生がいたの。でもこれからココロのレッスンがあるからって帰って行ったのよ。』
『・・・。』
黙って下を向く私に、母は続けた。
『先生がお店にソファを見に来てくれたんだけど、ココロのレッスンの時間に合わせて帰って行ったのよ。その先生が用事ができたからってココロに電話かけてきたの?』
『・・・。』
もう駄目だ。嘘を付いたと認めよう・・・。
そう思い、母に向って
『ごめんなさい。嘘です。』
と言った。
次の瞬間、左耳がキーンと鳴り、私は右を向いていた。
・・・左耳と左頬がジンジンする。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、すぐに母に平手打ちされたのだと気付いた。
★母に平手打ちをされたと気付いたが、私は母の方を向くことができなかった。
両手で左頬を覆い、下を向いた。
まさか人前でこんなことをされると思わなかったし、もう少し私の話も聞いてくれるだろうと思った。
だが、母は次に私の左肩を拳で叩いてきた。
ドン。ドン。
叩きながら
『なんなのアンタ!!嘘付いて何やってんのよ!!』
と大声で怒鳴る。
平手打ちなら悪いことをした時に何度かされたことがあったが、拳で叩かれたことは無かったので怖かった。
私は『ごめんなさい・・・。』と言った後は、ただじっと身体に力を入れて立っているだけだった。
それから母は仕事の用足しで郵便局に来ていたので職場へ戻ったが、最後に
『家に帰ったら、覚悟しておきなさいよ。』
と言い残した。
私は友達の家に行くことをやめ、そのまま家へ帰った。
★家について、友達の家に電話をかける。
急な用事で行けなくなったと伝えた。
今日は人に嘘を付いてばかりだと思った。
祖母と妹は買い物に出掛けていて、家には私1人。
・・・モヤモヤした気持ちでいっぱいだった。
母が『覚悟しておきなさい。』と言ったのはどういう意味なのだろう。
帰ってきたらお説教だからね。という意味なのか。
それとももう一度叩かれるのか。
私は、叩かれておしまいなら叩かれる方が良いと思っていた。
母のお説教は時間が長く、ひたすら相手を否定し続ける。
特に私は要領が悪い分、指摘されることが多かった。
私も子供の親となった今、自分が母から言われてきたことを時々思い出すが、我が子に言うべき事ではなかろう。と思う言葉が多々ある。
幼いころは『ママの言う通りにしなさい。』と言われ続けたが、祖父が亡くなった後は『だからアンタは駄目なのよ。』だった。
『アンタの〇〇が駄目。〇〇も駄目。それから〇〇も駄目。・・・どうしてそうなの?』
そんなこと私だって知らない。
母にそう言われる度、毎回そう思っていた。
またあの時間を繰り返すくらいなら、一度思い切り叩いて母の気が済むのならそっちの方が良い。
今日は私のことを怒るために早く帰宅するだろうが、どうせまた明日から外泊したり帰りが遅くなるだろう。
今日だけ我慢しよう。
祖母と妹が帰ってくる頃には、そう思っていた。
★祖母と妹が帰ってくると、私は気持ちを切り換えて祖母と一緒に食事の準備をした。
食事の準備をしながら母との出来事を話す。
祖母は『おばあちゃんも一緒に謝るから。今日はおばあちゃんも悪かった。』
と言ってくれたが、私はそんなことをしたら余計母が怒るような気がした。
それから3人で夕飯を食べた後、祖母は妹が通う英語スクールへ妹を送って行った。
母が帰宅するまではまだ時間があったので、私は食器を洗ってから母の食事の準備をすることにした。
食器を洗い、泡を流そうかと思ったところで玄関が開くことが聞こえた。
・・・母だった。
祖母と妹が家を出る時間をちゃんと把握して帰ってきたのだ。
母はキッチンにいる私に向って『ただいま。』とも言わず
『おばあちゃん達はスクールに行ったんでしょ。』
と言った。
『うん・・・。おかえりなさい。』
私がおかえりと言ったことなど、どうでも良かったのだろう。
シンクに重なる食器を見て
『アンタ、人に嘘付いといてよくご飯なんか食べられるわね。』
と、とても軽蔑した口調で言った後、肩から下げていた自分のバッグを床に叩き付けた。
『あぁ、もう!アンタのその顔見てると本当に頭にくる!!』
『アンタのその顔。』・・・私はどんな顔をしていたのだろうか。
★『まず何か言うことないの!?』
黙って立ち尽くす私に向って母が言う。
『・・・今日は、嘘を付いてごめんなさい。もうしません。』
言うことならそれしか思い浮かばない。
しかし、母はその答え方には満足してくれなかった。
『ただ謝るだけなら誰だってできる!!本当に悪いと思うならもっとちゃんと謝りなさい!!』
(もっと、ちゃんと謝る??)
どう謝ればよいのか考えていると、母がまた軽蔑する口調で言った。
『・・・だからアンタは駄目なのよ。本当に人に謝る時は、土下座するもんでしょ?そんなことも分からないの?』
(そうか。土下座すればいいんだ。)
私はキッチンの床に正座して、頭を下げた。
『今日は嘘を付いて、本当に申し訳ありませんでした。もう2度としません。約束します。』
思い付く限りの丁寧な謝罪の言葉を口にした。
これで母も少しは落ち着いてくれるかもしれない。
だが、そうではなかった。
この日を境に、私への暴力が始まったのだ。
★母が良いと言うまで、顔を上げるのはやめようと思っていた。
次に母が何と言うのか分からないが、今はちゃんと頭を下げていよう。
そして母が口を開いた。
『・・・何それ?それで謝ったつもりなの?』
私は目を閉じていたが、母のその言葉を聞いて目を見開いた。
(これじゃ駄目なんだ・・・。じゃあ、どうすれば・・・。)
いくら考えても答えが見つからないので、母に聞いた。
『じゃあ・・・どうすればいいのか教えてください。』
そう聞いた直後だった。
急に頭が持ち上げられる。
視界のほとんどが自分の髪の毛で遮られる。
『この馬鹿!!謝り方ひとつもろくに知らないの!?アンタ今日自分が何したか分かってんの!?反省している人間がご飯なんか食べられるかっていうのよ!!』
母が私の髪の毛を鷲掴みにして上に持ち上げていたのだ。
声を出して泣きたいような痛みだったが、それよりも恐怖の方が強くて涙だけが流れる。
今日の母はどうしてこんなに恐ろしいのだろうと感じたが、きっと私がそれ程ひどいことをしたからだと思った。
『反省なんかしてないでしょ!?アンタのその態度を見れば分かるわ!!』
そう続ける母に向って
『ごめんなさい!本当に悪いと思ってます!』
と悲鳴に近い声で訴えたが、母は聞いていないようだった。
そのまま私の頭を何度も床に叩き付け、私への怒りを口にする。
『本当に何なのよ!!』
その後何度叩き付けられたのだろうか。
額が床に叩き付けられる感覚に慣れてしまう頃、母の手が止まった。
★母は手を止めたが、今度は私の前髪を掴んで引っ張り上げた。
そのまま私は顔を上げる。
母は私の顔を見ると
『泣いたら許されると思ったら、大間違いよ!!』
と言って、今度は拳で頭を横から殴ってきた。
母の付けている指輪が当たり、強い痛みを感じたのでとっさに両手で頭を覆う。
それが更に母の怒りを煽る。
『手をどけなさい!!どけろ!!』
そう言って、両手で覆っている上からも殴ってきた。
(ママは普通じゃない・・・。)
この時ハッキリそう思った。
母が帰宅してからどのくらい経過していたのだろう。
私は床に向って体を丸めながら、一刻も早く祖母が帰って来てくれることだけを願った。
そして母の声が怒鳴り声から叫び声のように変わった。
『この馬鹿!!何度言ったら分かる!!!!』
次は、頭を覆っていた両手を下から蹴り上げられた。
★頭を覆っていた両手を蹴り上げられた私は、そのまま反射的にギュッと目と閉じて体を横にひねった。
母は言葉にならない叫び声をあげながら、私を蹴り始める。
母が何と言っているのか聞き取れない。
(痛い・・・!もうやめて!)
何度もそう思ったが、何か言えば更にひどいことをさるんじゃないかと、とても口にできなかった。
そして
『本当に・・・馬鹿で駄目な子!!』
最後にそう言って、背中を強く蹴られた。
『うっ!』
と声を漏らしてしまったが、顔を上げずにそのままじっとしていると
『いつまでそうやってるの!さっさと洗い物済ませてしまいなさい!』
母はそう言って自分の部屋へ行ってしまった。
私は何かを考える余裕などなく、すぐに立ち上がって残りの洗い物を済ませた。
後から後から涙が溢れてくるが、それすら悪いことをしているような気がしてしまう。
洗い物が終わった後も、ボーッとしていたらまた母に殴られたりするのではないかと思ったので、とにかく何かをしようとウロウロしていると、再び母がやってきて
『誰にも言うんじゃないわよ。』
と言ってテーブルについた。
『うん。言うわけないよ!だって私が悪いんだもん。』
・・・母の顔を見ることはできなかったが、私は明るい声で答えた。
★それからすぐに祖母が帰ってきた。
私は母に部屋に行くように言われていたので、自分の部屋で机に向ってじっとしていた。
祖母と母の話声が聞こえる。
よく聞こえないが、祖母が私を庇っているようなことを言っていた。
母は祖母に強い口調で怒っていたが、やがて落ち着いた声に変わり、話の内容も別の話になったようだった。
とりあえずホッとした私はお風呂に入ることにした。
洗面台の鏡に映る自分の顔と身体を良く見てみると、あちこち赤くなっていた。
頭を覆っていた両手の甲も、母の爪や指輪が当たったのか、引っ掻いたような傷跡が数本付いていた。
一番気になったのは頭だったので、そっと髪の毛を掻き分けて頭皮を確認すると、母の指輪が当たったところが少し裂けていた。
もう出血はしていなかったが、血が固まってこびりついている。
その日は頭を洗うのをやめた。
お風呂から上がると妹が帰ってきたので少し話をしようと思ったが、なんだか急激に眠くなったので妹の顔を見る前に自分の部屋で眠ってしまった。
★祖母は、私が母に暴力を受けていたことは一切知らずに亡くなった。
知らなくて良かったと思う。
末期の胃ガンで苦しむ祖母の姿は、私達も見ていて辛かった。
祖母が入院してからは母も早く帰宅するようになり、私への暴力もほとんどなかったので、このままなくなると思っていた。
そして祖母が入院中に私は中学生になり、妹は5年生になった。
中学に入った私は、迷わずに吹奏楽部へ入部する。
アルトサックスを習っているということで、担当は問題なくアルトサックスに決まった。
これで思い切りサックスが吹けると思って嬉しかった。
友達のほとんどは運動部へ入部し、あの先輩がカッコイイ!この先輩もカッコイイ!と楽しそうにしている。
小学校から一緒だった男子達も声変わりしたり、身体が大きくなったり、Hな話題で盛り上がったりするようになっていた。
1学期の半ば頃には付き合い始めたりする子がいたりして、自分たちはまるで大人になったかのような気がしていた。
私もバスケット部の3年生にカッコイイと思う先輩がいたが、吹奏楽部でひっそり練習している私とは全く接点がないし、先輩には2年生で一番可愛いと言われる彼女がいると聞いていたので、憧れのまま自分の胸に閉まっておいた。
毎日部活が終わって急いで家に帰って食事の準備をする。
それからピアノの練習をして、宿題を済ませる。
食事をしてお風呂に入ればあっという間に寝る時間だ。
サックスは学校で吹けていたから良かった。
レッスンの練習曲はなかなかできなかったが、遠藤先生とのレッスンは楽しかったので一度も嫌だと思ったことはなかった。
こうした生活リズムが出来上がってきた頃、祖母が亡くなった。
★祖母が亡くなった後、母はまた帰りが遅くなったり、外泊することが増えた。
その頃には私もそれがどういうことなのか理解していたし、妹も自分の事は自分でするようになっていたので、母がいないことに寂しさを感じることもなかったようだ。
そして夏休みに入ってすぐに、母から『マンションを買ったから、引っ越す。』ことを告げられる。
引っ越し先は今住んでいる家からわずか10分程の地区だったが、新しいマンション街でいかにも『都会的』なところだ。
母はとても嬉しそうだったが、私は突然のことに驚いたし、そもそもそんなお金どうしたのだろうと不思議で仕方がなかった。
母に遺産相続したことを聞いて安心したが、マンション購入と同時に車も買い換えた母に不安を感じたのも事実だ。
妹は新しいマンションに住めるのも嬉しいし、それに塾に通うのが楽になると喜んでいた。
私も嬉しかった。
母は私のピアノとサックスの練習の為にと言って、新居の一部屋を防音にしてくれていたのだ。
その事で、それまで祖母のいないところで暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりしたが、そんなこともう忘れようと思った。
新居への引っ越しは父と兄も手伝いに来てくれた。
母が自分から頼んでいたようだ。
きっと新居を自慢したかったのもあると思う。
引っ越しが終わって間もなく、今度は今まで住んでいた家(土地)が売れたと聞いた。
★大金が入った母の生活は、益々派手になっていく。
仕事もうまくいっていたようで、勤めているお店の新店の店長を任されていた。
恋愛もそうだ。新居には付き合っている男性を連れてきて、私達と一緒に食事をしたり、買い物に行くこともあった。
会社を経営しているという母の彼氏は外車に乗っており、いつもセンスの良い服を着ていた。
紳士的な身のこなし一つ一つがスマートで、とても洗練されているように見えた。
何もかもが新しく洗練された新居の住み心地は抜群に良かったが、やはり母の機嫌が悪い時には突然手を挙げられたりすることがあった。
平手打ちだったり、拳で身体を殴られたり。
そうすると、母は気持ちが落ち着くようだった。
そして決まって
『アンタは黙っていればいいから。』
そう言うのだ。
私も、ただ黙っていれば事が終わるんだと思い始め、いつの間にか慣れてしまっていた。
★母が手をあげる時、そこに妹はいない。
私のピアノとサックスのレッスンは週末にまとまっていたが、妹は週の半分塾と英語スクールに通っていたので、平日母と私が2人になる時間はいくらでもあった。
機嫌が良い時は一緒に食事をして会話をするが、機嫌が悪い時は無言で私の部屋に入ってきて突然手をあげる。
『掃除機がかけられていない。』
『洗い物が残っている。』
『テストの点数が悪い。』
理由は様々だ。
手をあげない時は、食器を割ったり物に当たり散らす。
そして妹が帰ってくる前に割れた食器を私に片付けさせる。
・・・今でも考える。母はただストレス発散したかったのだろうか。
いまだに答えは見つからない。
★学校生活は楽しかった。
夏休みが終わると、3年生は部活を引退する。
私の憧れだったバスケ部の先輩の練習姿を見ることもなくなった。
その後は校内や帰り道で見かけるだけになったが、特に何も考えることはなかった。
友達の何人かは恋をしていたが、私は自分に自信が無かったし、学校と家のことで毎日がいっぱいいっぱいで、そんな余裕も無かった。
いつか私も素敵な恋ができたらいいな。くらいは思っていたけれど・・・。
そんなある日、部活が終わって帰ろうと支度をしていた時、同じクラスでバレー部の高橋君から声を掛けられた。
『よぅ。ココロー。』
『お、高橋。どうしたの?』
高橋君はクラスのムードメーカー。いつもふざけたことを言ってはみんなを笑わせてくれていた。
私と彼は小学校の5・6年と同じクラスだったので、中学に入ってからもくだらない話をしたりお互いからかったりしていた。
私の問いかけに、彼は少し気まずそうな顔をしたが、ニヤニヤしながら
『ちょっと時間ある?』
と聞いてきた。
『うん。少しならあるよ。』
そう答えると
『そっか。じゃあさ、あのさ、ちょっと来てくれる?』
変な言い方が気になったが、言われた通り着いて行った。
立ち止まったのは2年生の教室前。
2年生の教室に何の用があるのかと思ったが、その用はすぐに分かった。
教室の中には、高橋君と同じバレー部の2年生の先輩がいた。
★高橋君は私の顔を見ずに
『まぁ、あとは先輩から聞いてよ。じゃ。』
と言い残していなくなってしまった。
『え!うそ、ちょっと!』
私の言葉に手を振って去って行った彼の姿に一瞬ムカついたが、教室の中にいた先輩がすぐに廊下に出てきたので、それ以上は何も言えなくなってしまった。
その先輩は小野先輩。
1年生の女子で小野先輩がカッコイイと言っている子が何人かいたので、名前と顔は知っていた。
『来てもらってごめんね。俺2年の小野隆(たかし)。高橋と同じバレー部です。』
小野先輩は緊張していたのか、真っ赤な顔をしていた。よく見ると耳まで赤い。
『いえ・・・。』
私はどこに目線を合わせていいのか分からずに、いろんなところを見ていた。
『あのさ、ココロちゃんは彼氏とか好きな人とかいないの?』
『いません。』
『そっか・・・あのさ・・・急に驚くかもしれないけど、俺、夏休みの前からココロちゃんのこと気になってて・・・それで、もし良かったら友達からでいいから付き合ってもらえないかな?』
『え・・・。』
それから続く沈黙。
その時の私の頭の中はこんな状態。
(え!友達から付き合うって何!?夏休み前から私の事気になってたの!?いつ、どこで??全然分からない・・・もしかして、高橋と一緒にからかってるのかな??)
やがてその沈黙に耐えられなくなったのか、小野先輩が言った。
『すぐに返事しなくてもいいから・・・考えてみて。』
★これが私の人生初の告白された話。
その日は家に帰っても何も手に着かなくて、逆に母から具合でも悪いのかと聞かれてしまうほどだった。
夜には母の彼氏も来ていたので、母の機嫌が良かったのもあったのだろう。
私は小野先輩が言っていた『友達から付き合う。』意味が分からなくて悶々としたまま眠りについた。
次の日、教室に入るとすぐに高橋君が私の所へやってきた。
『おっす!昨日はごめんなー。』
ごめんと言いながら顔はニヤニヤしている。
『別に。』
『え、怒ってんの?』
私のそっけない返事に少し困った顔をしていたが、それよりも話の詳細を知りたくてウズウズしている方が強く伝わってきた。
私は何も話すことがないので、特に何を言うわけでもなくそのままやり過ごしたが、私が小野先輩から告白されたことはその日のうちにあっという間に噂になった。
私は誰にも話していないが、学生の頃のそういう話は特にあっという間に広まるものだ。
休み時間の度に女子達が代わる代わる聞いてくる。
『小野先輩に告白されたって、本当!?』
『どうするの?付き合うの?』
どの質問にもまともに答えられない。
昼休み、クラスで一番仲が良かった恵美子に相談してみた。
恵美子は『友達から付き合って。ってことは、まずは友達になって。ってことだよ。』と教えてくれた。
(友達になって、それでもし良ければ付き合ってってことなのかぁ。)
そう考えると、友達になるのは嫌ではないので断るのも変だと思った。
★それから数日後、私は小野先輩の自宅に電話をした。
(電話番号は告白された日に渡された。)
電話で『友達になるのは大丈夫です。』と伝えると、小野先輩は
『ホント!?ありがとう。あ、でもまだ無理に付き合うとか考えなくていいからさ。』と言って喜んでくれた。
私も小野先輩のテンションの上がりっぷりが可笑しくて、そのまま少し話し込んでしまった。
30分近く話した頃、電話代を気にかけてくれた先輩が掛け直すと言ってくれたが、その日はそこで電話を切った。
30分足らずの会話だったが、小野先輩の事が色々分かったような気がした。
それから小野先輩と仲良くなり始めると、今度は一部の女子達から陰口をたたかれるようになっていく。
最初は私も気付かなかったし、周りの友達も気にしていなかった。
でも、その陰口が段々エスカレートしていくことになる。
そのきっかけとなったのは、私が憧れていたバスケ部の3年生の先輩から告白されたことだった。
その先輩の名前は阿部隆弘(たかひろ)
私の事は夏休みに入る前から知っていたという。
アルトサックスを習っている子が吹奏楽部に入部してきたと、同じクラスの吹奏楽部の子が言っていたことがきっかけで知ったらしい。
告白されたのは学校の帰り道。
後ろから声を掛けられて振り返ると、彼がいた。
『ごめん、ちょっといいかな?』
彼にそう言われた時、私は既に心臓がドキドキして緊張していたと思う。
初めて近くで見る彼は、遠目に見ていたより断然カッコ良くて背も高く、声も低かった。
『あの、文化祭でサックス吹いてたよね?』
・・・その日の2週間前の文化祭、私は吹奏楽部の催しものに参加していた。
その時にソロで演奏するパートがあったのだが、その時すぐ近くで見ていてくれたと言う。
私は全く気が付かなかった。
そのことを話し終えると、彼は真っ直ぐに私の顔を見て
『その前からずっと気になっていたんだけど、あれで余計好きになったみたいなんだ。・・・もし、彼氏も好きな人もいないなら、俺と付き合ってください!』
と言って頭を下げた。
・・・まるで夢みたいだと思った。
★これには私も舞い上がった。
ただ見ているだけだった憧れの先輩が、今は目の前で自分に付き合って欲しいと頭を下げている。
その姿に胸がキューンとときめいた私は、今までただの憧れだと思ってしまい込んでいた気持ちは、恋だったことに気付いた。
これまで感じたことのない感情が全身から溢れだしそうだった。
本当はすぐにでも返事をしたかったが、小野先輩のことが頭をよぎったので
『あの、少しだけ、待ってもらえますか?』
と言って、その日はお互いの連絡先を交換して帰ることにした。
家に帰ってからの私は、完全にどうかしていた。
ずっと鏡を見てはため息をつき、食事も喉を通らない。
いつも通りの時間にベッドに入るものの、眠くならないし本を読んでも頭に入らない。
考えることは阿部先輩のことだけ。
会いたい。会って話がしたい。声が聴きたい。
何度もそう思っているうち、ようやく眠りについた。
★次の日、私は自分から小野先輩に電話を掛けた。
自分の気持ちを正直に話そうと思い、阿部先輩の名前は伏せて話をしてみた。
小野先輩は『そっかー。好きなことに気が付いちゃったんだな。じゃあ、俺は諦めないと。』と明るく振舞ってくれて、最後には『頑張ってな!でも、付き合ってたわけじゃないし、これからも友達なのは変わらないから、何かあったらいつでも相談してな!』と言ってくれた。
小野先輩の優しさに胸が痛んだが、『付き合ってたわけじゃない。』の言葉に救われたのもまた事実だ。
そのまますぐに阿部先輩に返事をするのも気が引けたので、少し間を空けようと思った。
それから1週間後、阿部先輩に返事をした。
★付き合い始めた私達は、お互いを名前で呼び合うことに決めた。
(※以降は阿部先輩→隆弘とします。)
お互い周りの友達にだけ報告したが、それでも2人のことはすぐに噂になった。
3年生、2年生の女子の中には、わざわざ教室まで私の顔を見に来る人もいた。
『ふーん。普通の子だね。』
だいたいがこんな感じのことを言って終わり。
最初はとても嫌だったが、そんなことも長くは続かないので気にしなくなった。
隆弘と話すのは、電話と学校の外。
私は部活があったし、隆弘は部活を引退してからは塾に通っていたので、電話で話したり彼が塾の帰りにうちのマンションの下に寄って話をする。そんな付き合いがメイン。
そもそも『付き合う』ってどんなことをすれば良いのか分からなかった私には、デートやお互いの家に行くということまでは考えられなかった。
ただ話をするだけで充分満足していたし、友達に『手繋いだり、キスとかしないの~?』なんてからかわれると、そんなこと恥ずかしくてとんでもないと思っていた。
隆弘は学年でも常にトップの成績だったし、受験するのも地区では一番の進学校。
勉強の邪魔はしたくないし、私も自分の習い事がある。
だから電話をするのも彼の塾の帰りに『会おうか。』と約束をするのも、いつも隆弘から言われるまで何も言わなかった。
そんな付き合いが2ヶ月近く続き、季節も冬になった。
★冬休みに入る直前のこと。隆弘に
『クリスマス、一緒にプレゼント見に行かない?』と誘われた。
生まれて初めてのデートに舞い上がったというより、混乱した(笑)
何を着ていけばいいの?
クリスマスプレゼント、私はどうすればいい?
お金はいくら持っていけばいい?
デートって、何時頃まで?
散々悩んだ挙句、当日は紺のダッフルコートにジーンズ。それに少しだけクリスマスを意識して赤いバッグを選んだ。
そしてその時一番のお気に入りだったラルフローレンのチェックのマフラーを巻いた。
財布には貯金箱に貯めておいたお小遣いを合わせて5000円。
隆弘へのクリスマスプレゼントも、その日一緒に見て買おうと決めた。
13歳の私にとっては初めてのデートで大冒険。
でも、当日マンションまで迎えに来てくれた隆弘がいつもより大人っぽくてオシャレだったので、私は自分の服装があまりにも子供っぽいことが恥ずかしくなってしまった。
『わ、私、こんな格好で恥ずかしいよ。3年生はやっぱり違うなぁ。私、やっぱり着替えてくるね!』
そう言ってマンションに戻ろうとした時、隆弘が私の腕を軽く掴んで
『何でだよ!大丈夫だよ!可愛いよ。』
と言って笑ってくれた。
★そのまま隆弘は私の手を握り
『よし、今日はこれで歩くぞ!』
そしてそのままグングン歩き始めた。
私は嬉しさと恥ずかしさで一気に顔が熱くなってしまった。
隆弘の手は、手袋なんかいらないくらい暖かくて心地よかった。
『本当はさ、クリスマスプレゼントだから内緒で選んでビックリさせようかと思ったんだけど、やっぱり欲しいものをプレゼントするのが一番いいかと思ってさ。』
『冬休みっていっても、毎日朝から夕方まで塾だから休みって感じじゃないよなー。』
『受験が終わったら映画とか遊園地に行きてぇ。』
隆弘も緊張していたのか、この日は普段よりもおしゃべりだった。
私もそれが楽しくて、彼の話をずっと笑顔で聞いていた。
それから2人でいくつかのお店を巡り、私はセサミストリートの目覚まし時計をプレゼントしてもらい、彼には手袋をプレゼントした。
★あっと言う間に夕方になり、お互い中学生の私達はもう帰る時間だ。
お互い自分の家族にはまだ内緒にしていたので、極端に帰りが遅くなるのはまずい。
私達はずっと手を繋いでいたが、帰り道はお互いなんとなく会話が少なかった。
少しでも一緒にいようと、いつもよりゆっくり歩いていたつもりだったが、あっという間にマンションの前に着いてしまった。
私は帰り際に寂しい雰囲気になるのが嫌だったので、隆弘の手を放しながら元気にこう言った。
『じゃあ・・・今日は楽しかったね!プレゼントもすごく嬉しい!今日から使うからね!ありがとう!』
隆弘もいつもの笑顔で
『俺も!すげー楽しかった!俺、手袋今ここで開けて使っちゃおうかな。』
なんてちょっとふざけて答える。
『あはは、それもいいけどね。』
お互い、どこかぎこちない会話。
そして
『あのさ・・・今・・・キスなんて、していい?』
隆弘は今まで見たことがない恥ずかしそうな顔をしながらそう言って、告白してくれた時と同じように、真っ直ぐに私を見た。
『え!キ、キス!・・・どこに!?どうやって!?』
なんて馬鹿なことを言ってしまったのかと今でも情けなく思うが、この時はついとっさに出てしまったのだから仕方がない。
私が上擦った声でそう答えたので、隆弘もプッと吹き出した。
『どこって・・・クチ。だろ、普通。それに、ここからじゃできない。』
彼のその答えに、なんて大人なんだと思ってしまった。
それにカッコ良すぎる(笑)
私が何も言えずモジモジして下を向いている間に、隆弘の靴が私の視界に入った。
今顔を上げれば隆弘がいる。そう思った。
『はい。もうここまできちゃったし。』
『・・・うん。』
『人、来ないかな。』
『・・・来るかも。』
『じゃ、顔上げて?』
『・・・緊張して上がりません。』
『俺だって緊張してるよ。』
『・・・じゃあ・・・上げます・・・。』
ギュッと目を閉じて顔を上げた。
・・・チュッ。
ほんの一瞬の出来事。
『・・・うぉ。恥ずかし!』
『・・・はは。私も。』
これが私のファーストキス。
★冬休み中は何度か隆弘の家に遊びに行った。
キス以上の事はしなかったが、今まで以上に仲良くなっていった。
隆弘の両親は2人とも弁護士をしていて、普段はどちらも帰りが遅いこと。
2つ上にお兄さんがいて、隆弘が受験する高校に通っていること。
将来の夢は、かっこいい刑事だということ。
そんな話を『家族全員優秀なんだなぁ。』と思って聞いていると、『ココロんちは?』と聞かれたので少し困った。
両親が離婚して、今は母と妹と住んでいることは伝えてあったが、いざ何か聞かれるとどう話していいのか分からなかった。
でも、隆弘には何でも話せる気がして、今までのことを話してみることにした。
隆弘は、優しい顔でうんうんと頷いて聞いていたが、母の話になると段々顔付が変わっていった。
それから話し終わったあと
『なぁ・・・それって、暴力なんじゃないの?ちょっと考えられないんだけど。』
『・・・やっぱり・・・そうなのかな?』
『暴力』・・・その言葉を誰かに言われるのが怖かった。
隆弘『うん・・・。だって、グーで殴るとか蹴るとか、何も言わずにいきなり殴られるとかさ・・・。』
私『最初は・・・私が悪いことしたから・・・。』
隆弘『それでも、普通はそこまでしないよ。』
私『そうなのかな・・・。』
隆弘『そうだよ。まず人を殴ること自体駄目だと思う。』
そのまま私は黙り込んでしまった。
★黙り込んでしまった私に気を遣った隆弘は
『まぁ、今はそんなことされないんだろ?もし今度されたら、俺に言いなよ。普通じゃ考えらんないしさ。』
と言って私の頭にポンと手を置いた。
『そうだね・・・今度されたら・・・話すね。』
・・・隆弘にはもう言えない。そう思った。
やはり母は普通じゃないのだ。
改めて人からそう言われるとショックだが、自分の中で母へ対する何かが少し変わった。
そして今度母が手をあげた時、初めてその理由を聞いてみようと思った。
★冬休みが終わり、隆弘も受験に向けてラストスパートに入った。
3年生全体がなんとなくピリピリしている感じだった。
そんなある日。
いつものように学校に着いて下駄箱を開けると、上靴が無かった。
誰かが間違ったのかと思い、自分の下駄箱の近くのクラスメイトに聞いてみたが、みんな自分の名前が書いてある上靴を履いていた。
・・・嫌な予感がした。
誰かが意図的にやったんだ。そう思うと朝から憂鬱で仕方がなかったが、とにかくどうにかしなくてはならない。
急いで職員室に向い、先生には上靴が壊れたからと言って新しい上靴を買った。
教室に入ると、恵美子が心配していた。
『遅かったから休みかと思ったよー。どしたの?寝坊しちゃった?』
『ううん。違うの。あのね、上靴がなくなってたんだ。』
恵美子の顔が一瞬で変わる。
『うそ・・・。』
『うん。だから先生に新しい上靴頼んでからきたの。』
恵美子は私の新しい上靴を見る。
『やだ・・・。誰がそんなことするの。』
『ね。ほんと朝から嫌だよ。』
恵美子も不安を隠しきれない顔をしていたが、何か思い付いたように
『そんなことするやつ、見付けたら今度はこっちがやっつけてやろ!』
と言って笑ってくれた。
その笑顔に私も救われて、その日は普通に過ごすことができた。
★それから徐々に、私の物が無くなったり、落書きされたりするようになる。
落書きの文字は、明らかに女の子の字。
私は恵美子以外にこのことは話さなかった。
やがてその犯人は2年生の女子だと分かるのだが、分かるまではいろんなことをされた。
掃除の後、ゴミを捨てに行こうと校舎の外に出て歩いていると、上から画鋲が降ってきた。
家のポストに私宛の手紙。封を開けると赤いペンで『死ね』と大きく書いてあった。
部活で使っていたアルトサックスに『バカ』『死ね』と傷が付いていた。
朝学校に着くと、私の机だけが廊下に出されていた。
そのうち、同じクラスの女子からも同じようなことをされた。
恵美子以外のほとんど子からの無視。
体育の時間は私だけいないもののように扱われ、ボールをぶつけられたり『間違った』と言って蹴られる。
恵美子が『いい加減にしな!』とキレてくれたことがあったが、そうすれば恵美子も何かされると思って『いいから、大丈夫。』と言ってやめてもらった。
私は自分に原因があるからそうされると思っていたし、何か悪いことをしたのなら教えて欲しいと本気で考えていた。
恵美子は『隆弘先輩と付き合ってるからだよ。みんなひがんでるだけだよ!』と言っていたが、本当にそれだけの理由なのか不思議でならなかった。
★学校に行くのが億劫で仕方がなかったが、恵美子がいてくれると思うと休めなかった。
しかし、恵美子は2年生になる前の春休みに転校してしまうことになった。
都会は転勤族が多いから仕方のないことだが、この時はとても悲しくて不安になった。
隆弘は卒業してしまうし、唯一の友達の恵美子が転校してしまう。
恵美子は『先生に相談しよう!このままじゃ駄目だよ!』と言ってくれたが、どこか冷たい感じのする担任には、どうしても相談する気になれなかった。
もちろん隆弘にも言わなかった。受験を控えているのに、余計な心配などかけるわけにはいかない。
結局私は誰にも相談せずにそのまま春休みに入ることになる。
隆弘は無事に志望校に合格し、恵美子は名古屋に引っ越して行った。
私は、2年生になった。
★春休みは隆弘と映画を観たり、街でデートしたり楽しい時間を過ごしたが、少しでも油断すると学校のことを思い出して憂鬱になった。
隆弘には余計な心配はかけたくないし、自分がいじめられていると思われるのも嫌だった。
ただ、家の中では沈んでいた。
それは母にもハッキリ伝わっており、母の機嫌が悪い時
『アンタのその顔見てると、こっちまで気分が悪くなるのよ。学校であったことなんか家の中に持ち込まないで。』
と言われたことがある。
それを聞いて、母は最初から聞く耳など持っていないことが分かった。
2年生になってクラス替えがあったが、状況はあまり変わらなかった。
恵美子がいなくなったことで、いじめはエスカレートした。
机の上に『すべった』と言って給食がぶちまけられる。
トイレに入っていると、上から水をかけられる。
傘を持って行けば焼却炉に捨てられる。
お弁当の日は1人で屋上へ続く階段で食べた。
担任も見て見ない振りだった。
また上靴が無くなった。
私は下駄箱に上靴を入れるのをやめ、毎日持ち帰った。
そして、家に帰っても何も手につかなくなってきた。
6年生になった妹は私立中学を受験したいと言って、毎日勉強している。
彼女はこの時既に『医者になりたい。』と言っていた。
母も、そんな妹に全力を注いでいた。
私が部屋で泣いていようと、食事が喉を通らない日があろうと、私にはまるで関心がないようだった。
★この頃には、父と兄に会うのも2ヶ月に1度あるかないかになっていた。
兄は第一志望の国立大に合格し、1人暮らしを始めていた。
やはり父も母も喜んでいた。
『親父と同じ仕事がしたいんだ。』
そう言って目標を持って進んでいると聞いた。
兄も妹も確実に自分の信念を持っているんだと思うと、自分だけ取り残された感じがしてまた落ち込んだ。
高校生になった隆弘も、毎日楽しそうだった。
男子校の生活は思っていた以上に楽しくて、自分には合っていると言っていた。
部活も中学と同じバスケ部に入り、彼はどんどん身長が伸びた。
会う度に大人っぽくなっていた。
サラサラとしてロングヘアで、スカートを短くした女子高生を見かけると、自分のことが子供っぽくてダサいと思えてならなかった。
『本当は、隆弘もあんな人と付き合いたいんじゃないのかな・・・。』
そんな不安もあった。
そして、いつもより部活が長引いた日。
帰りに、隆弘とロングヘアの綺麗な女の子が一緒に本屋にいるのを見てしまった。
★思わず隠れてしまった。
声を掛けても良かったのかもしれないが、笑顔で本を選んでいる2人の雰囲気がとてもお似合いのカップルに見えてしまい、隠れてしまう自分が情けなくて悲しくて、胸が締め付けられた。
夜に隆弘から電話があった。
何を話して良いのか分からなくてただ黙っていると
『どうしたの?なんか元気ないよ?』
と心配そうに聞いてくれたが、私は不愛想に
『別に・・・。』
と言ってまた黙ってしまった。
『なんだよー。どうしたんだよ。なんかおかしいぞ!』
今度は元気な声でそう聞いてくれる隆弘に、思い切って聞いてみた
『今日さ、学校終わってからどこか行った?』
『今日?うん、本屋に寄ったけど。』
『1人で?』
『うん。1人だよ。』
(・・・嘘だ。1人じゃないくせに。本当は女の人も一緒だったでしょ。)
そう聞けば良いのに、何も聞けないまま話を変えて電話を切った。
隆弘が嘘を付いたと思った私は、そのままベッドにうつ伏せになって泣いてしまった。
★部屋で泣いていると、母が部屋に入ってきた。
ベッドにうつ伏せになって泣いている私の姿をみた母は
『アンタまた泣いてるの?一体何なの?学校で何かあるの?』
と聞いてきた。
『別に何もないよ。』
と答えて顔を拭いた。そして机に向って宿題をする振りをした。
『だったらどうして泣いてんのよ。何かあるなら話してみたら?』
その時の珍しく優しい口調の母に、私も甘えたくなってしまったが、言えばまた私が悪いんだと言われて終わるだけだと思い
『最近、彼氏と喧嘩しちゃうんだ。それだけ!』
と笑って答えた。
春休み中に1度隆弘に会ったことがある母は、彼を気に入っていた。
『そう。まぁたまには喧嘩することもあるわよ。自分が悪いと思う時は、早く謝りなさいよ。』
母も笑顔でそう言って部屋を出て行った。
これでいい。
学校でのことは言ってはいけない。
★隆弘に嘘を付かれたと思い込み、学校でも居場所がないと思った私は、学校に行くのが本当に嫌になった。
今までは隆弘も学校に行っているのだから、自分も学校には行こうと自分を奮い立たせて行っていた。
だが、もうその意味もないような気がした。
それでも次の日、ノロノロと準備をして学校に行った。
・・・下駄箱がメチャクチャに潰されていた。
なんとかこじ開けたら、中にはゴミがぎっしり詰まっていた。
教室に入ろうとすると、女子たちが私の机を廊下に運び出しているところだった。
『げ!きたよ!』
『やばっ!』
そう言って教室の入り口に机を投げ出して逃げて行く。
自分で机を元の位置に戻す。
それを黙って見ているクラスメイト達。
悔しくて恥ずかしくて涙が出た。
この日は授業が始まっても、涙が止まらなかった。
先生も何も聞いてこない。
一日最後まで持ち堪えたが、私は決めた。
どうせ学校には私を心配する友達もいない。担任も面倒なことが減ったと思うだけだろう。
母にはすぐバレだろうが、それならそれでいい。
殴られるならそれでもいい。
私は学校に行くのをやめた。
★学校には連絡しなかった。
何かあれば電話がくるだろう。その時に言えばいい。
毎日母と妹は私よりも先に出るので問題は無かった。
家に1人になった私は隆弘のことばかり考えていた。
今日は電話がくるだろう。何を話そう。あの女の人は誰?友達?
もし『好きな人。』なんて言われたらどうしよう。
話をするのが怖い。
結局学校を休んでいる後ろめたさもあって、その日は電話がきても妹に頼んで居留守を使ってしまった。
学校からはお昼前に電話があった。
『病院に行っていました。電話できなくてすみません。熱が下がらないのでしばらく休みます。』
担任は『分かった。お大事に。』と言って電話を切った。
★学校に行くのをやめると、ピアノを弾くことも辞めた。
でも、サックスだけは吹いた。
その時だけは夢中になれる。嫌なことを忘れられる。
母と妹が家を出た後、部屋に閉じこもって本を読んだりボーッとしたり、サックスを吹く。
隆弘からの電話には妹に頼んで『具合が悪いから寝ている。』と言ってもらい、出なかった。
1週間、そんな生活をした。
それからすぐに、母にバレる。
案の定、勝手に1週間も学校を休んだ私に、母は当然の如く怒りまくった。
そして曖昧な返事しかしない私に、手をあげる。
殴られて学校に行かなくて済むのなら、いくらでも殴ってくれ。という気持ちだった。
妹はその時初めて、私が母に殴られているところを見た。
ただ黙って殴られる私と、鬼のような顔をして私に手をあげる母を見て、妹は身体を震わせて泣いていた。
『ごめん・・・。』
妹にはそう思った。
★『学校には自分から連絡しなさいよ!!』
殴っても蹴っても何も言わない私に、遂に母が根をあげた。
廊下に転がる私に向ってそう言い捨てると、妹を連れてどこかへ行ってしまった。
体中が痛かったが、私は初めて母に勝ったような気分だった。
ゆっくりと体を起こし、シャワーを浴びた。
鏡に映った身体には、思ったより痣はできていない。
でも、顔が紫色に腫れていた。
瞼はボクサーのように紫色に膨らんでいる。
唇も切れて膨らんでいた。
そういえば、途中から手ではなくて皮のスリッパの底になってたっけ。
スリッパでビンタされ続けると、こんな顔になるのか・・・。
すごいな。
そう思いながら軽くしかめっ面をしてみる。
ちょっと表情を作るだけで頬がビリリと痛んだ。
これじゃ学校に行けないな。と思ったが、そういえば学校には行かないんだったと思い出して少し可笑しかった。
シャワーを浴びながら、身体を洗おうと屈んだ時。
腰に激痛が走った。
後ろを向いて鏡で確認すると、腰が横一直線に裂けていた。
思い出してみると、ダイニングの椅子で殴られたことしか記憶にない。
傷の形的にも、ダイニングの椅子の淵の形くらいだ。
私が体を丸めている姿勢に椅子を振り下ろした時、ベルトの間に腰の皮膚が挟まって裂けたのだろうと勝手にそう思った。
とりあえず血を流そうと思いシャワーを当てたが、痛くて何度か休憩しながら済ませた。
シャワーを浴びて着替えてベッドに横になったが、痛くて眠れなかった。
何度か電話が鳴ったが、きっと隆弘だろうと思い出なかった。
そしてその日、母と妹は帰って来なかった。
★次の日、母と妹は帰って来たが私と話そうとはしなかった。
そんな状態が数日続いていた間、食事は自分のだけは作っていたが、母と妹は外食していたようだ。
2人が帰って来ると、私は部屋に閉じこもる。
隆弘からの電話も減っていた。
(もうこのまま駄目なんだろうな・・・。)
そう思っていたが、隆弘はそうじゃなかった。
隆弘と話さなくなってから2週間が過ぎた頃。
隆弘が家に来た。
顔を見たら胸が熱くなってしまい、とても追い返すことはできなかった。
まだ顔の傷が残っている私の顔を見て、隆弘はひどく動揺していた。
『どうしたの?それ。』
『はは・・・ちょっと。』
『お母さん?』
『んー・・・まぁ、そんな感じ。』
私は外に行く時につけていたマスクをつけて顔を隠した。
隆弘『電話も出ないし・・・。前の電話でなんか変だったしさ。何があるの?』
私『ごめんね・・・何でもないんだよ。』
隆弘『何でもないわけねーじゃん。つか、まずその顔なんとかしなきゃ。』
私『これでもだいぶ良くなったんだ。だから平気。』
隆弘『嘘だろ?これで?一体どんなことされたらそんな顔になんだよ。』
私『私が悪いことしたからさ・・・。ほんと、大丈夫だよ。』
隆弘『だから普通じゃないって!何とかしなきゃ駄目だよ!』
隆弘も段々興奮してきた。
私もなんとかして欲しいと何度も思ったが、どうすれば良いのか方法が見つからなかったからこうしてきたのだ。
それに、こうなった原因であること。
私は今学校には行っていない。
それを隆弘に言うことは嫌だった。
★『俺・・・親に相談してみるよ。』
隆弘がそう言った時、思わずしがみ付いてしまった。
『お願い!それはやめて!』
必死にお願いする私に向って
『じゃあ他にどうするんだよ。誰か大人に相談しなきゃ駄目だろ。』
隆弘は本気で心配してくれているんだ。
そう思うと嬉しかった。
だが、他人に知られるわけにはいかない。
私はとっさに
『お父さん・・・私のお父さんに話してみるから!』
と言った。
『お父さんか。・・・そっか。確かにそれが一番いいかもな。じゃあ、絶対すぐに話せよ。』
『分かった。話す。だから、隆弘は誰にも言わないで!お願い!』
『分かったよ。言わない。約束する。』
そう言って私の頭を撫でた。
(今なら聞けるかな・・・。)
隆弘と話したことで気持ちが楽になった私は、あの日、本屋で隆弘と女の人が一緒だったところを見てしまったと切り出した。
★隆弘は『なんだっけ?』というような顔をして聞いていたが、私の話を聞き終わると笑ってこう言った。
『あの人は塾で一緒だった人だよ。本屋で偶然会ったから話したんだ。もしかして、勘違いした?』
私はその話を聞いて下を向いてしまった。
自分はなんて馬鹿なんだろうと思った。
下を向いていると、隆弘が私の顔を覗き込んでくる。
『てか、何で声掛けないんだよ。ココロは俺の彼女なのにおかしいだろ!』
そうして私の頭をグシャグシャに撫でまわすと、ギュッと抱き締めた。
『も~・・・嫌われたのかと思ったよ・・・。すげー心配だったんだけど。』
『嫌いになんかなってないよ・・・ただ、私が勘違いしちゃって・・・私、こんなんだし・・・隆弘は高校生になってどんどん変わっちゃうし・・・。』
そう言いながら涙が出てきた。
相変わらず情けないことを言っている自分が嫌だと思ったが、その時は止まらなかった。
『なんだよそれー。そしたら俺だって同じだよ。ココロが他に好きなやつできたらどうしよ。とか考える時あるよ。』
『そんなことあるわけないよ・・・隆弘が大好きだもん。今日もっともっと好きになったし・・・。』
そして私も隆弘の背中に手をまわした。
★私はこの時初めて隆弘の背中に手をまわした。
今までキスはしても、抱き合ったりすることはしなかった。
手を繋いだり、肩にもたれかかることはあっても、抱き合うことは更に生々しいことのような気がして、できなかった。
私が手をまわすと、隆弘の腕に力が入った。
『ココロー。俺、ココロが大好き。』
そう言って思い切り抱き締められる。
『いたた・・・ちょっと力強すぎるよー。』
久しぶりに笑っている自分がいた。
隆弘が私のマスクを外して、キスをした。
いつもなら、軽いキスで終わるはずだった。
最初はそう。チュッと触れ合うキスだったのに。
2回目のキスは、今までの可愛いキスとは違かった。
舌が、ゆっくり入ってきた・・・。
『・・・んん!』
思わず目を開けて体を離そうとしてしまったが、隆弘は力を緩めなかった。
部屋が薄暗くなってきたせいもあって、隆弘の顔が良く見えない。
私もまた目を閉じたが、隆弘の息遣いが荒くなってきたことがハッキリ分かる。
(どうしよう・・・!怖い・・・!)
そう思う反面、隆弘の舌が自分の口の中で優しく動く感触が気持ち良かった。
そのうち、私も隆弘の動きに合わせるように舌を動かし始めた。
★ぎこちないけれど、お互いの舌がゆっくり絡み合う。
自分は何てことをしているんだろうと思いながらも、身体が熱くなっていくのを感じていた。
隆弘の右手が、少しずつ、ゆっくりと移動する。
その手が、まだ完全に膨らみ切っていない私の胸の上で止まった。
そして…優しく、フワッと包み込まれる。
『…んぁっ…。』
思わず声が洩れてしまった。
その声に驚いたのか、隆弘が
『ごめん…!痛い?』
そう言って体を離し、私の顔を見た。
『ん…ううん…痛くないよ…大丈夫。』
私は自分が出した声が恥ずかしくてたまらなくなり、思わず両手で顔を覆ってしまった。
★『ごめん!泣いてるの?』
顔を覆ってしまった私に、隆弘が慌てた様子で聞いてきた。
私は顔を覆ったまま
『違うの!泣いてないよ…恥ずかしいんだよ~。』
と答えた。
『俺だって…恥ずかしいよ…。でも、やっぱまだ早いよな!…うん、まだ早い!』
この時の隆弘の顔は見ていないが、隆弘の言い方で、彼も本当に恥ずかしいんだろうな。と思った。
『…だけど…すげー興奮した!』
『も~、やめてよ~。』
そうして2人で顔を見合わせて笑った。
その日はそれでおしまい。
私も隆弘が帰ったあとは、今日自分がしてしまったことを何度も思い出して恥ずかしくなった。
(でも…気持ち良かった…。)
本当はそう思う自分もいたが、気付かない振りをしていた。
☆---それから14年後---。
『あ…あっ…お願い…もうやめて…うぁっ…。』
『嫌だ…まだやめない…。』
彼はそう言うと、私の両脚を持ち上げて自分の両肩にのせた。
それが、私は一番弱い。
『お願い…もうっ…本当…に…あぁっ…駄目…あっ…!』
今夜はこれでもう何度目だろう。
私はガクガクと震えながら、彼の腕を掴む。
そして私が果てるのを確認すると、ようやく彼も自分を解放した。
…シャワーを浴びた後、ルームサービスで注文しておいたワインを開けた。
ホテルの最上階にある部屋。
目下に広がる夜景をぼんやりと眺めながら、私は煙草に火を付けた。
『煙草…まだやめられないの?』
彼はそう言って、ソファに座る私の前にグラスを置いた。
『やめられない訳じゃないけど…。』
(セックスした後は、吸いたくなるの。って言ってるでしょ。)
『今日は吸ってなかったから、徐々に減らして禁煙するのかと思ってたよ。』
『ん…。確かにそう。』
私はワインを口に含み、ゆっくり飲み込んだ。
『俺、これが今年初ボジョレー。』
『あ、そうか。アナタはそうだよね。』
『ココロは初日に店で飲んだだろ?』
『もちろん。ここ数年は毎年そうだもの。』
私は煙草を吸い終えると、再びベッドに戻った。
☆『あのさ、この前の話しだけど…。』
彼はベッドに横になる私の隣に座り、私の頭を撫でながら切り出した。
『本当に、真剣に考えてみて欲しいんだ。』
私は上体を起こして頬杖をつきながら答える。
『将来有望な刑事さんが、借金があって背中に刺青してる女を奥さんにするなんて、有り得ないわよ。…あ、援助交際もしてた。って付け忘れた。』
『…ぷっ、なんだよそれ。そう言えば俺が納得するような言い方みたいだ。』
私の言い方が可笑しかったのか、彼は少し笑っていた。
『ふふ…。だって本当のことじゃない。普通に聞いたら変な話しよ。』
『だからー、それが普通も何も、いいかどうかを決めるのは、俺達だろ?』
彼はそう言って私の髪をクシャクシャと撫で回しながらベッドに倒れた。
…昔と変わらない。
話しをしながら、最初は優しく頭を撫でて、最後にクシャクシャと撫で回す。
人に惑わされたり振り回されず、自分でしっかり手応えを掴みながら進もうとするところ。
だから、夢も叶えた。
『かっこいい刑事になりたい。』
あの時そう言っていた彼が、今また私の隣にいる
。
30歳になった隆弘は、刑事になっていた。
☆隆弘と再会した時、私は28歳になっていた。
昼間は建設会社のOL。
夜はクラブでホステスをしながらサックスを演奏していた。
最初は借金を返済する為に始めた夜の仕事だったが、いつの間にか本腰を入れるようになった。
元々グランドピアノを一台置いている、演奏スペースのある店だったが、ピアノ専属のスタッフは雇っておらず、週末やイベント時にアルバイトをお願いする程度だった。
私もピアノは弾けたが、人前で弾くことは考えていなかったので口にしなかった。
だが、オーナーの誕生日パーティーで私が余興にサックスを演奏した時。
オーナーやスタッフ達から
『ちょっと、店で演奏してみない?』
という話になり、最初はただのノリで承諾した私だが、これが思いのほかウケが良かった。
☆『ピアノとアルトサックスの生演奏を聴きながら飲める店がある。』
そんな口コミが広がり、興味を持ってくれた人の数だけ、客数も増えていった。
ホステスの時はカクテルドレス。
サックスを演奏する時は、男性スタッフと同じ白シャツに黒いパンツ。
それぞれメイクだって全く違う。
そのギャップも面白かったのかもしれない。
一体どんな人間なのかと、地元のローカル誌やフリーペーパーから、取材の依頼も増えた。
私は自分の顔を世間に晒すのは怖かったので、顔を出すことだけはずっと断った。
それに、自分は浮かれていられる人間じゃないと常々思っていた。
☆その時、私は民事再生の裁判中だった。
---2年半付き合った男は酷いDVで、浮気を繰り返し、金にもとことんだらしがなかった。
私がその男の子供を妊娠するまで、男は独身だと言っていたが、妊娠が発覚すると実は既婚者だという。
訳が分からない私に、子供を堕ろせと怒鳴りながら殴る蹴るの暴行を加え、最後に階段から突き落とされた。
出血をしながら『病院に連れて行って欲しい。』そう懇願する私に、男は更に暴力を振るった。
結局、お腹の子の命は助からなかった…。
私も全身の怪我と出血がひどく、10日間入院した。
誰にも相談もせず話しもしなかったので、全て1人で済ませた。
退院後、男は深く反省したと言って再び私の前に現れる。
離婚はまだしていないが、離婚に向けて話し合い中だと言って、私の部屋に転がり込んできた。
もう全てがどうでも良いと思っていた私は、男の好きなようにさせた。
あっという間に私の貯金を全て使い果たし、足りなくなると銀行や消費者金融から借りさせた。
何度か断ったが、その度に気を失うほど殴られた。
そのうち生きていることも意味がないと思い始め、全て男の言いなりになる。
行動を監視され、制限される。
そして、私にはもう金を貸してくれるところもなくなった。
☆私の利用価値がなくなると、最終的に私の部屋だけを利用した。
私が居ない間に女を連れ込む。
浮気を問いただすと、また殴られた。
…今までは金の為だけに私を必要としている振りをしていただけで、最初から私自身などどうでも良かったのだ。
ようやく目が覚めた私は、そこで初めて、失ってしまった我が子に対して誓った。
『自分から逃げてはいけない。受け入れて、立ち上がってやり直そう。』
☆そう決めた私は、その瞬間から強くなろうと前を向いていた。
もうこの男には屈しない。
男が私を利用したのは、私もまた、この男に依存していたからだ。
自分が弱かったから。
ただ、それだけのこと。
次の日、早速行動に移した。
私1人では出来ないこともある。
誰かに話すことが始まりの一歩だった。
…そして妹に、初めて打ち明けた。
☆妹は、話の最初から最後まで冷静に聞いていたが、電話を切る前
『私はいつでもお姉ちゃんの味方だよ。だから一緒に頑張ろう。』
そう言ってくれた。
それから妹と2人で綿密な計画を立て、妹に私の部屋へ来てもらった。
私は家族と疎遠だと思っていた男は、妹の突然の訪問に動揺していた。
妹は医者だと話してはいたが、実際顔を見るのは初めてだったせいもあり、男の今まで見たことのない外面の良さに笑えた。
そこで妹がこう言い始めた。
『お姉ちゃん、全然連絡よこさないから、みんな心配しちゃって。悪い男にでも引っ掛かってるんじゃないか~。なんて言ってるよー。』
『でも、こんなに素敵な彼がいるなら安心だね!あ、お姉ちゃんから話しは聞いてます。とっても頼りになる素敵な彼だって自慢してくるんですよ~。』
ニヤニヤと嬉しそうな顔で照れる振りをする男。
『あ、それでねー、そろそろ私も家を出ることにしたんだけど、どうせならお姉ちゃんと住もうと思って。今日はその話しで来たんだ!』
男の表情が変わっていく。
『電話で話すことじゃないと思って。それに実際家賃だって光熱費だって、折半だとお互い助かるじゃない?』
『それでさー、突然なんだけど、今日からお願い!』
男はポカンとしていた。
私も無理のない自然な返答をする。
『え~!今日から?あんたは相変わらず何でも突然だねー。まぁ断る理由もないから別にいいけど。ね?』
そう言って男の方を見た。
『いやいや~…そりゃ、駄目だなんて言う理由がないですよ~。』
…やっぱりね。外面だけは人一倍いいんだ。
その言葉を聞いた妹は身を乗り出して
『本当~!じゃあ早速彼氏も呼んじゃお~!今夜はみんなで飲も!決まりね!』
と言って、その場で電話を掛け始めた。
☆妹は電話を切った後、申し訳なさそうな顔をして
『ごめーん、彼氏に電話したら、彼氏の友達も一緒に来たい。って。…いいかな?』
私は男の方を見ながら
『え~?…どうしようかな~?』
と言ってみた。
案の定
『いや、全然いいよ!』
と満面の笑みでそう言った。
私も妹も笑いを堪えるのに必死だった。
それから数時間後。
妹の彼氏とその友達がやって来た。
そう、彼氏と友達。
『彼氏』は1人でも、『友達』は1人だとは限らない。
妹の彼氏は、『友達』を3人連れてきた。
私も大袈裟に驚いてみせたが、もちろん計画通りだ。
それから更に追い討ちをかける。
彼等の職業はそれぞれ『警察官』『弁護士』『医者』にしてもらった。
…実際その場に『弁護士』はいなかったが。
☆それからの時間は、男を除いた全員が計画通りの話題にアドリブのリアクションをしながら過ごした。
医者の彼がDVについて切り出し、警察官の彼と弁護士の彼が如何にも的な専門用語を並べながら熱く語る。
これには男も顔色を変えていた。
そして、もう居たたまれなくなったのだろう。
自分から
『じゃあ、自分は明日早いんで…そろそろ失礼します。』
(※本当は仕事なんかしていない。)
と言って席を立った。
私は玄関まで見送る振りをしながら
『どこに行くの?こんな時間に行くところあるの?』
と精一杯の演技で心配してやった。
男は
『車で寝るから大丈夫。』
と言って出て行こうとしたが、合い鍵を返してもらうまでが計画なので、とっさに妹を呼んだ。
『あ、ちょっと下まで送るから、鍵持って来てくれる?』
『え~?鍵?これ?』
そう言ってキーケースを持ってくる妹。
それを受け取って『あれ?家の鍵がない!』と慌てる私。
『そういえば、さっきみんなでコンビニ行った時、お姉ちゃんの鍵で締めたけど、帰りは彼の鍵で開けたもんねー。』
『どっかで落としたかも…。』
『探しに行きますか?』
そんなやり取りを見た男が
『いや、いいよ。俺の鍵渡すから。』
と言った。
『あ、そうだよね。』
全員がそう言って、私は鍵を受け取った。
…男がマンションの外に出て行ったのを上から確認する私達。
そして
『…ぷっ!』
『あはははは!!』
『あの顔見た!?』
私は心の底から笑っていた。
☆その後は1度も男に会っていない。
男は携帯も私名義で持っていたので、次の日解約してやった。
何度か私の携帯に知らない番号や公衆電話から着信があったが、全て拒否した。
それから少しずつ前進した。
借金を把握し、弁護士を探して相談をした。
消費者金融のカードは全て男が持っていたが問題なかった。
全ての返済をストップし、任意整理することになった。
必要書類の提出だけでも時間がかかったが、確実に前進していた。
弁護士の話しでは、月々の返済額はおそらく今までの半分以下になるだろうと言われた。
それから半年後に裁判の結果が分かり、弁護士が言っていた通り、月々の返済額はそれまでの半分以下になった。
それを3年で返済するということで決まった。
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