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きる( lbwJnb )
12/04/15 23:38(更新日時)

どんなものでも

あなたの望んだ通りのものが届きます。

どんなものでも……

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No.1699335 11/11/04 23:04(スレ作成日時)

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No.251 12/02/20 16:32
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


それから

ユウタは

ポツリ……ポツリ……と今までのことを話し始めた

小さい頃からずっとここで暮らしていること

父母のことは全く知らないこと

病気が発症したこと

最近になって『ここでの暮らし』に違和感を感じはじめていたこと……

話しながら泣き出した

ユウタ「……ごめんね……

レンは僕に

『ここを出よう』って言ってくれたよね

『僕を助けたい』って……

今なら分かるよ

でも、昨日いきなり言われて

びっくりしちゃったんだ

どうしたら良いのか

本当によく分からないし

でも

僕が昨日『うん』と言わなかったから

レンがこんな目に遭っちゃったのかも……って思えてきて

レンが起きなかったら……って思ったら

怖くて

悲しくて

レン

本当に

ごめんなさい」

レン「お前は全く悪くなんかねぇよ

全く悪くなんかないんだ」

レンは必死になって縄をほどこうとしてくれていた

レン「なぁ、ユウタ

オレのポケットに携帯あるか見てくれないか?」

ユウタ「……うん……

無いみたい……」

レン「他も見てくれ」

ユウタ「……やっぱり……無い……」

レン「そうか……」

どこかで落としたか

スタッフ連中に取られたか……


No.252 12/02/21 18:19
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタ「……あっ痛い!!」

レン「大丈夫か!?」

ユウタ「う、うん!

こんなの平気……」

レン「手、切ったのか?

無理するな」

ユウタ「だ、大丈夫大丈夫

平気だよ……」

……

レン「……ユウタ?

……お前、血なかなか止まらないな……

……

お前!?まさか!?

病気って

血液の病気か!?

止めろ!!

もういい!!

動かすな!!」

ユウタ「大丈夫だよ!!

もう少しだから!!」

レン「頼む!!

もう止めてくれ!!」

その時

ガタッ!!

物音が

誰か来た!!


No.253 12/02/22 19:28
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


「いい男が台無しだな」

レン「お前!

どうしてここが分かった!?」

「お前の携帯すぐそこに転がってたぜ

GPSだ

この分の『追加報酬』しっかり頼むぜ

まぁ、オレもさぁ

お前の『熱さ』に

ちょっと熱くなったっていうか……さっ

ひとりでカッコつけんなよ」

情報屋の『奴』だった

レン「助かった

ありがとう」

奴「やけに素直だな

かわいいじゃねぇか

お前が言ってたガキ、そいつか?

んっ?

怪我してんのか?」

レン「そうなんだ

時間が無い

怪我自体は大きくはないが

病気で出血が止まらない」

奴「了解」

No.254 12/02/23 10:18
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「ユウタ

ここを出るぞ

大丈夫か?」

ユウタ「……う、うん……」

ガタン!!

ユウタは立ち上がろうとしたが

ふらつき倒れる

レン「ユウタ!!」

奴「顔色悪いな……」

レン「ユウタはオレが背負っていく

道案内だけ頼む」

奴「道はけっこう厳しいからな

覚悟しろよ」

外は明るくなってきていた

レン「ユウタ

頑張れよ!!」

No.255 12/02/24 14:24
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


奴「思ったより早く進んでいる

あともう少しだ」

無理に夜中に動かず
明け方近くに出たことが正解だった

そして

『奴』のタイミングの良さ

そのおかげで助かった

レン「……本当に助かった

ありがとう……」

奴「礼はまだ早いぜ

油断するな」

山道から

道路らしき道が見えかけた

奴「あそこだ」

このまま切り抜けられると思った瞬間

レン「来たか……」

スタッフの数人が追ってきた

奴「だな……

オレがてきとうに撒いておく

お前はガキを病院へ連れていけ」

そう言うと

車のキーをオレのポケットにねじり混んだ

レン「すまん!!」

奴「こんなのオレは慣れている

じゃあまたな!」


No.256 12/02/25 08:14
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『逃げ切ってくれよ!!』

柄にもなく

祈りながら

『奴』の用意していた車に乗り込む

レン「ユウタ大丈夫か?

病院に向かうからな!!

頑張れよ!!」

ユウタ「……ごめんね……」

さすが『奴』の車だった

ナビにパソコン……

大体のものは揃っていた

直ぐに位置確認をし

車を出す

『とにかく安全な場所に早くユウタを!!』

いきなり知らない病院へユウタをオレが運び込んで

受け入れてもらえるか分からない

オレはある程度町に近付いたところで

救急車に乗り込めるように手配した

その時

バックミラーに追ってくる車が目に入る

レン「ったく!!しつこいぞ!!」

あと少しだ

『今度こそ捕まってたまるか!!

汚いお前らの餌食にはならない!!』


No.257 12/02/26 00:34
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


幹線道路に入った

『絶対に逃げ切ってやる!!』

間もなくして

対向車線を走ってくる救急車が遠目に見えた

一気に加速

救急車に近づき

ハンドルをきった

救急車の前に出て

救急車を止める

ユウタを抱き上げ

車から飛び出した

救急隊員「危ない!!

な、なんてことをするんですか!!」

レン「すみません!!

先ほど、救急車を呼んだ者です!!

この子です!!

お願いします!!」

救急隊員「は!?

ああ、はい、分かりました」

追ってきた車の運転手は

オレを睨み付け

そのまま走り去った

救急隊員もいる中では

今さらユウタをどうすることも出来ない

搬送先の病院を聞き

救急車と一緒に

その場を後にした

次は『奴』のことだ

『上手く逃げ切れただろうか……』


No.258 12/02/26 22:11
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


走り出してすぐ

車内のどこかで

携帯電話が鳴り出す

車を止めて見ると

助手席シートに

携帯電話が

ねじ込んであった

迷ったが……

応答ボタンを押す

相手「お前誰だ?」

『奴』だった!!

レン「オレだ!!レン!!

お前無事か!?」

奴「やっと出たな!!

さっきから何度も電話してたんだぜ!!

ああ!!無事だよ!!

お前こそ大丈夫なのか!?」

レン「ああ」

奴「ガキは!?」

レン「大丈夫だ

もう病院だ」

奴「そうか!!良かった!!

だったら、お前!!

オレの居場所を早く突き止めて迎えに来い!!」

レン「はいはい

分かりました

すぐに見つけてやるから

待ってろ!!」

『良かった』

電話には確かに

何回かの着信履歴があった

だが、全く気付かなかった

ようやく少し落ち着き

ふと、ルームミラーに目をやる

『懲りない連中だ』

まだ追ってきていた

『いい加減にしろ!!

そんなチンケな車で追いつけると

本気で思ってんのか?』

オレは
スポーツカーのアクセルをグッと踏み込み

追跡車を適当に撒いて

『奴』を迎えに行った



No.259 12/02/27 23:56
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


奴「遅かったな!!」

レン「都会の雑踏ばかりも飽きるだろ?

山の中の散歩も
たまにはいいもんだろ?」

奴「ホント……良かったな……

これでも
マジで心配したんだぜ

お前のこと」

レン「何なんだよ……

らしくねぇぞ!!

惚れたか?オレに」

奴「……かもな!!」

レン「オレは『その気』ねぇぞ!!

バーカ!!」

そんな馬鹿を言いながらゲラゲラ笑い合った

こんな風に
誰かのために突っ走たのは
初めてだった

本当に良かった

レン「……本当に

ありがとな」

奴「お前こそ

らしくねぇぞ!!

惚れたか?オレに」

レン「かもな!!」

まだ終わっていない

次は闇組織の解体だ


No.260 12/02/29 00:30
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


レン「ユウタ

気分はどうだ?」

ユウタ「いいよ!

レン

ありがとう

僕……

上手く言えないんだけど

今まで僕のためだけに

何かをしてもらったことがなかったから

すごく嬉しかった

レン

僕をおんぶして

あんなに頑張ってくれて

あんなに強くて

嬉しかった



すごく怖かったんだ

独りぼっちにされて……

どうなっちゃうのか

何処へ行くのか

分からなくて……

でも、どうして

レンは

『僕を助けたい』なんて言って

あんなに大変なことしたの?

レンが来なかったら

僕、何処へ行くことになっていたの?

僕、どうなっちゃうの?」

レン「大丈夫だ

もう心配するな

これからはオレが守ってやる

今は治療を頑張るんだ

元気になったら

そうだな……

勉強を教えてやる!

覚悟しとけよ!!」

ユウタ「いいの?



ずっとレンの側にいて
いいの?」

レン「当たり前だ!!

心配するな

おい、泣くな

男だろ!!」


No.261 12/02/29 23:30
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


医師「早速ですが
先日の検査の結果です

良かったですね

あなたとユウタ君のHLAの型(白血球の型)は一致しました

更に詳しい検査も進めたところ移植可能で

つまり、あなたは
ユウタ君のドナーになれます

実に
奇跡的なことです

このまま骨髄移植を進めてもよろしいですか?」

レン「もちろんです!!

一刻も早くお願いします」

ユウタは血液難病で
治療は骨髄移植しかない状態だった

だが骨髄移植に必要なドナーを見つけることは
非常に困難だ

骨髄を提供したいと願ったからといって
誰でもドナーになれるわけではない

まず骨髄移植に必要な白血球の型が一致する確率が低い

それでもドナーを探し求めるが

時間、費用……様々な問題が絡んでくる

そして運良くドナーが見つかったとしても

更に治療費の問題が出てくる

そのため……

ユウタはまともな治療を受けさせてもらっていなかった

見殺し同然で

その上『奉仕(使える臓器提供)』までさせられようとしていた

『ユウタ

もう大丈夫だ

必ず元気になるんだぞ!!』


No.262 12/03/01 21:40
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


そしてオレは

『ある場所』を訪ねた

『母さん』が幼い頃を過ごした場所……

シスター「あなたが……

あなたがレン君……

ユイちゃんの……

こんなに立派になられて……」

シスターは

オレを見るなり

言葉を詰まらせ

涙を流し

暫く話しが出来なかった

……

ようやく落ち着き

オレが『此処』を訪ねなければならなくなった理由を話した

オレが『ボランティア』で行った場所の『裏事情』のこと

ユウタのこと

汚い大人達の犠牲になろうとしている子供達の保護のために
シスターの力が必要であること……

シスターはあまりに悲惨な話しの内容に

絶句であったが

暫くして

静かに答えた

シスター「分かりました

子供達は責任を持ってお引き受けいたします

力になりますので

安心して

計画を進めてください」


No.263 12/03/03 00:41
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


シスター「レン君

ここに来てくれて

ありがとう」

レン「いえ……

こちらこそ

突然に無理なお願いをして申し訳ありません」

シスターは涙ぐんで話しを続けた

シスター「あなたとこんな形でお会いすることになるなんて

夢にも思っていませんでした

ユイちゃん……

あなたのお母さん……ね……

確かに

とても大きな罪を犯して

あなたを産んだわ……

だから

あなたの出産と同時に

あんなことになってしまったのかもしれないわね

でもね

とても純粋で優しい良い子だったの

それに

とても可愛らしくてね

だから

あなたのお父様が惹かれてしまうのも無理なかったかもしれない

そして

とても可哀想な状況で

ここに来たの

私はずっと

ユイちゃんのこと

そして

会ったことのないあなたのことが

気にかかっていたの

だから

こうして

ましてや

こんな形で

あなたに会えるなんて……不思議ね……

とても大変だと思うけど

頑張ってね……

成功を祈っています」


No.264 12/03/04 07:50
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


『急がなければ
また、小さな命が犠牲になる』

出来る限りの情報と証拠を揃えるために奔走した

そして

準備が整い

然るべき機関への

告発に踏み切った

……

テレビの電源を入れる

「大変なことが発覚しました

なんと児童福祉施設を装い

裏で人身売買などを行っていたというのです……」

どの局もワイドショーや情報番組で

この話題ばかりとなった

No.265 12/03/04 22:24
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


シスター「レン君

本当にお疲れさま

大変だったでしょう

子供達のことは心配しないでね

本当は全員一緒にここで生活させてあげたいのだけど

こんなに小さなところでしょ……

みんなバラバラになってしまうことは避けられないの

ごめんなさいね……

でもね

子供達を必ず

大切に愛してくれるところへお願いをするから

心配しないでね

ユウタ君を助け支えてあげてね

ユイちゃん……お母さんも

きっと応援しているわ

ユウタ君が元気になったら

二人で会いに来てね

骨髄移植が成功したら

あなたとユウタ君は

本当の兄弟同然だもの

どうか

移植が成功しますように」

シスターはまた泣いていた

オレはシスターへの挨拶を済ませると

ユウタの待つ病院へ向かった


No.266 12/03/06 02:43
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


ユウタの骨髄移植の準備は順調に進み

オレの骨髄採取の日が来た

医師「では、麻酔をかけていきます

1から順に数を数えてください」

レン「1、2、3、4……」

薄れゆく意識の中……

オレは

『注文』こそしなかったが

適当に答えた『サイト』を思い出していた……

『駆け引きの無い純粋な捧げる愛』

この言葉を入力し送信したことで始まった一連の出来事……

気付けばオレは

何の見返りも求めず

動いていた

危険な目にも遭った

にもかかわらず

スッキリとした清々しい気持ち

満たされた心

今まで

全てに満たされ恵まれた環境にあったはずなのに

得られなかった『何か』に

満たされていた

そして、また

何の見返りも求めず

身体をはって

手術台の上に横になっている

ユウタに何かを求めているわけではない

ユウタに元気になってもらいたい

ただ

それだけだ

ユウタが

オレを信頼し

オレの『社会的立場』に惑わされることなく

オレを慕ってくれる

それが

オレを満たした

オレはきっと……

『何か』を悟った



No.267 12/03/07 09:48
きる ( lbwJnb )

注文4親愛


親愛……

『愛がオレの中にもあった』

愛は

求めるものでもなく

駆け引きでもない

愛をくれるから与えるというものでもない

何の見返りも求めず

魂に動かされ

純粋に相手の幸せだけを想うことで

愛は生まれ

相手に確実に伝わる

……

愛することで

愛される

全てを悟ったとは言えないが

大きな『何か』を得た

『ありがとうユウタ

必ず元気になるんだぞ

お前はオレの大切な弟だ

じゃあな』


No.268 12/03/08 09:30
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


カツカツカツカツ……

パソコンのキーボードを叩く音だけが響く

『パスワードを入力してください』

カツ……カツカツカツ……

『パスワードが違います』

カツカツカツ……カツ……

『パスワードが違います』

カツカツ……カツカツ……

『OK』

ユウタ「ビンゴ!」


ユウタ『レン……

元気かな

会いたいな

レン

僕のために

本当に何から何まで

ありがとう

レンのおかげで

僕は

こんなに元気になり

最高の教育まで受けさせてもらった

レン

僕は

お父さんもお母さんもいなかったけど

レンはきっと

本当のお父さん、お母さんよりも

僕を

大切にしてくれた

愛してくれた

レンが助けてくれなかったら

僕は

心も

身体も

死んでしまっていたからね……』


No.269 12/03/09 10:18
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


友達「ユウタ!

あのさぁ

お前のこと紹介してくれって頼まれてるんだけどさぁ

今度ちょっと付き合ってくんねぇかなぁ……」

ユウタ「……うん……

ごめん

そういうの苦手なんだよね

レポートも忙しいし……」

友達「だよな

お前がそういうタイプじゃないって
オレ、よく分かってるし

『無理だ』って言ってんのにさ
しつこいんだよ

まぁ……テキトーに断っておくか……

にしても

お前、相当モテるのに

全然、女に興味ねぇんだな」

ユウタ「……うん

いつも、ごめん」

僕はレンに助けてもらった命を

大切に

懸命に

生きた

レンの役に立てるようになりたくて

一生懸命

勉強をした

パソコンやゲームが好きで

大学の工学部に進んだ

教授のすすめもあり

院へ進むことも決まっている


No.270 12/03/11 00:29
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『知識と経験は消えない財産になる』

レンが教えてくれたよね

物は

この世にある『物質』に

残念ながら

絶対的なものは無いであろう……

物である以上

失う可能性がある

だから

目に見える物にこそ

執着するな

惑わされるな

物に頼るな

レンが僕に会いに来てくれた時

真剣な目で

僕の目を見て

教えてくれたことを

僕は

決して忘れない

レンの言葉は

いつも

正しかった

聞いた、その時は理解できなくても

心に留めてきて

間違いなかった

……

様々な制約があり

レンと僕は一緒に暮らすことは出来なかったけど

離れていても

レンは

決して僕を忘れずに

守ってくれていた

だから

寂しくなかった


No.271 12/03/11 00:48
きる ( lbwJnb )

訂正

No.251

「レンは必死になって縄をほどこうとしてくれていた」→
「ユウタは必死になって縄をほどこうとしてくれていた」


大変申し訳ありません

ざっと読み返した際

大きな間違いに気づきました

訂正させていただきます

失礼いたしました


きる


No.272 12/03/11 21:25
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「レン!!

会いたかったよ!!

毎月『この日』だけが

僕の楽しみだからね!!

レンとの話しが

一番楽しくて、おもしろいよ」

レン「オレもだよ

元気そうで良かった

勉強どうだ?」

ユウタ「おもしろいよ

こないだ

こんなことやってみたんだけどさ……」

レンは

毎月

僕の誕生日の日にちと
同じ日にちの日

必ず

会いに来てくれた

そして

僕の話しに

じっくりと耳を傾け

聞いてくれた

十年近く

ずっと変わらず

どんな話しも

決して否定することなく

受け止めてくれた

学校のこと

勉強のこと

将来のこと

愚痴や弱音……

どんなことも真剣に

聞いてくれた

そして

励まし

アドバイスをくれ

時には

叱ってくれた

血縁を否定はしないが……

血縁以上に尊い本当の繋がりもあるのではないか……

……

ユウタ「レン

聞いてる?

今日のレン

何か、いつもと違う……

何かあったの?

具合悪いの?」

レン「あぁ……ゴメン

お前が気にすることないよ

せっかくの日に悪いな」

ユウタ「僕じゃ頼りないだろうけど

レンの味方だし

レンの役に立ちたいんだ

良かったら話して」

レンは穏やかに微笑みながら

レン「ありがとう

お前も

もう一人前だな

安心したよ」

そう言って

その日は終わった

『レン……

やっぱりおかしいよ

何か隠している

僕はね

本当にレンのことを大切に思っている

僕だって

いつまでも子供じゃない

レンが悩んでいることくらい

分かるんだよ

ずっと

レンだけを信じて

レンだけを慕ってきたんだから』


No.273 12/03/12 12:11
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンの様子が気になりながらも

レポートに

研究に

追われ

瞬く間に1ヶ月が過ぎた

気が付けば

『レンと会う』日を迎えていた

……

レンが忙しいことは分かっていた

それでも

まだ幼さが残る頃は

寂しくて恋しくて

夜、電話をかけたりもしていた

高校生頃からは

約束の日の待ち合わせの連絡以外は控えていた

その連絡さえも

仕事の妨げになってはいけない、と

こちらから連絡することはなかった

レンが必ず連絡をくれていたから

だが

その連絡がない

出会ってから今日まで

そんなことは

一度も

なかった

嫌な胸騒ぎ

嫌な予感

同時に

悔やんだ

『あの日

先月のあの日

どうしてもっと

詰め寄らなかったんだ

なにがなんでも

聞き出し

寄り添わなかったんだ』

僕は

レンに

甘えていた

そして

嫌われることを恐れて

どこかで

遠慮していた

本音でぶつかり合ったことが

なかったのかもしれない……

『レンと僕は

そんなうわべだけの

関係じゃない』

No.274 12/03/13 09:46
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『おかけになった電話は電波が届かないか、電源が入っていないためかかりません』

何度かけても

繋がらない

焦る

そんな時

大学の事務関係の人に呼ばれた

『何だろう

こんな時に……』

行って聞いてみると

授業料のことだった

なんと、この先かかるであろう額が全て前納された、という

僕は激しく動揺した

『レン!!

一体どういうことなんだよ!?

このまま

レンに会えなくなったら……

嫌だ!!

それだけは

絶対に嫌だ!!』


No.275 12/03/14 00:31
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ただ

ただ

呆然とする

『どうしたら

いいんだよ……』

レンは僕の全てだった

でも

考えてみれば

確固たる何かがあるわけでも何でもない

レンにとって

僕なんて

何の利益もない

お荷物にすぎない

今まで

レンの好意だけで成り立ってきた関係だ

それを当然のように受けてきた

甘え過ぎだ

いつ

今日みたいな日が来ても

何ら不思議なことでもない

レンのおかげで

今日まで来ることが出来ただけ

『幸運だった』と感謝し

いい加減

レンを解放してあげるべきだ

……

いや

何か違う……

何か引っ掛かる……

いづれにせよ

このまま

黙っているわけにはいかない


No.276 12/03/14 23:28
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『動かなくては何も始まらない』

どう転ぶにせよ

やらずに後悔するくらいなら

粉々になってもいいから
ぶつかって行く方がいい

『もう、失いかけている』以上
失う恐怖は無い

僕は信じている

レンと僕は

『そんな安い関係なんかじゃない』

……

レンに

『とにかく会おう』と

レンのオフィスに向かった

……

オフィスのあるタワービルを目の当たりにし

情けないことに

圧倒され

ひるんだ

レンの立場

レンの力……

それらを

改めて見せられたようだった

僕はレンのことを知っているつもりで

何も知らなかった

世間知らずで
まだまだ子供だった……と
自覚せざる得ない

ここに来て

レンに守られてきたにすぎないと

思い知らしれ

感謝をするとともに

自分の無力さに

情けなくなった


No.277 12/03/16 06:23
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


受付にレンと会わせてほしい、と頼んだ

全く、らちがあかない……

「アポイントの無い方をお取り次ぎすることはできません」

「どういったご関係なのでしょうか」

「どのようなご用件なのでしょうか」

『社会では当たり前のことが』

答えられない

挙げ句の果てに『不審者』だと

警備員につまみ出された

情けないが

これが『社会』

その『社会』での今の僕の立場は

そんな程度にしかすぎない

つまみ出されてしまう程度にしかすぎなかった

そんな時に……

携帯に着信

『まただ……』

最近

知らない番号の着信が度々あった

毎回、同じ番号だった

無視していた

『しつこいな

しかも、こんな時に…』

仕方なく応答した……


No.278 12/03/17 08:17
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「はい……」

電話の相手「ユウタか?」

男の声だった

聞き覚えのない声

だが

相手は僕のことを知っているようだ

ユウタ「はい

すみませんが

あなたは?」

電話の相手「やっと繋がった

お前に早く会いたいんだ!助けてほしい!!」

『一体、何なんだよ!?

質問に答えろよ!

お前こそ、誰だ!

知らない相手から

お前呼ばわれか!?

しかも

何をそんなに焦ってんだよ!?』

そんなことを思いながらも極力冷静に

ユウタ「もう一度聞きますが

あなた一体

誰なんですか」

電話の相手「ああ、すまん!!

お前覚えてないかな……?

レンとお前が

あの厄介な施設から逃げ出そうとした時に

レンと一緒いたのがオレなんだけど……」

忘れるはずがない!!

名前は知らなかったけど

忘れるわけない!!

レンが『奴』と呼んでいた人だ!!

ユウタ「覚えています!!

でも、何故

あなたが僕に電話を?」

電話の相手(奴)「助けてほしい、レンを……

今度はお前が

レンを助けるんだ!!」


No.279 12/03/17 23:05
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「一体、どういうことなんですか!!

レンが!?

やはりレンに
何かあったんですね!?」

一体

何が

どうなっているんだ!!

混乱する

急にレンと連絡が取れなくなり……
それに合わせて

『あの日』
僕の運命を変えた『あの日』
レンが助けてくれた『あの日』

唯一
レンと僕の味方だった人物が

『レンを助けてほしい』と連絡してきた

レンが『奴』と呼んでいた
その人と僕は

『あの日』以来

一度も会っていない

レンが
その人を『奴』を
信頼していたことは知っていた

僕は『奴』さんと
すぐに会うことになった

『一刻も早く会いたい』と
『奴』さんは焦っていた

一体

何があったんだ……


No.280 12/03/19 07:36
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


とにかく会うことになり

『奴』さんから指定された場所に行った

……

『あっ!!この人だ!!

間違いない!!』

助けてもらった遠い『あの日』

僕は体調が悪く

ほとんどレンに背負ってもらっていた

そんな状況だったし

会ったのも『あの日』が最初で最後

だから記憶に自信がなかったけど

間違いない

この人だ

『ちょっと老けたみたいだけど……

それに僕が大きくなったからかな……小さく見える』

奴「ユウタ!!

お前!!いい男になったな!!

画像や写真で見るより
実物の方が
数倍いい男だ!!

それに
大したもんだ!!

『この場所』に
迷うことなく短時間で来ることが出来た

やっぱり今のお前の力は確かだな

レンを助けることが出来るのは
お前しかいない」

ユウタ「やはり試したんですね」

奴「ああ、そうだ、悪かった

だが
これからすることは
簡単じゃない

お前はコンピューターにかなり精通している
そのお前にしか頼めない

そしてお前は
何よりも
レンを裏切らない」

……

やはり変だと思った

『奴』さんは……
ケイイチさんという

ケイイチさんが指定してきた待ち合わせ場所は

通常、人が会うような場所ではなく
分かりにくい場所だった

人目を避けたいこともあるが

何故こんなにも分かりにくい場所を指定するのか疑問だった

僕がコンピューターの機能をどの程度使えるのか知るために

ケイイチさんは
わざと分かりにくい場所に
少ない情報だけで
僕が来ることが出来るのかを試した


No.281 12/03/20 08:29
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんは
何故こうして僕と会うことになったかを
話し始めた

ケイイチ「レンのところは
今、サイバー攻撃にあっている

それも執拗にだ

オレも協力して必死で食い止めているが
執拗に攻めてくる

攻撃に負けたら最後
大きなダメージをうけることになるのは
お前にも分かるよな
絶対に負けるわけにはいかない

敵がどんな組織で
何が目的なのか
よく分からない

セキュリティには細心の注意をはらっているにもかかわらず
しつこく攻めてくる

レンのところは
大きな組織だ
ターゲットにされることは当然考慮してきた

だが
今回はどうもおかしい……

正直
誰ひとり
信用できない

まぁ……そんなことを言い出したら
オレのことも信用できないけどな

オレは何度も
『ユウタに協力してもらえ』
と、言ってきた

あいつ……
レンは
お前を巻き込みたくない

だから
レンからお前に
連絡することは絶対にない

今回こうやってお前に会ったことを知ったら

あいつ
相当怒り狂うだろうな

だか、もうそんなことを言っていられる状況じゃない
限界に近い
こうしている今も危ない

絶対に信用できる技術者が必要なんだ」

ユウタ「わかりました
今すぐ、行きましょう

レンが怒っても何しても

やります

もう
レンだけの問題じゃないから!!」

『レン……
水くさいよ……

僕、いつも言ってきたじゃないか
レンの役に立ちたいって

僕だっていつまでも子どもじゃないんだ

そんな風にカッコつけるより

僕は
レンに
笑っていてほしい』


No.282 12/03/21 20:51
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんはレンのオフィスに
すんなりと入って行く

随分慣れた様子だった

しかも表からでなく
『こんな通路があったとは……』
と思うような裏口通路から

僕が邪険に扱われ追い返された場所に
ケイイチさんと一緒に
あっさりとたどり着いた

ケイイチさんは暗証番号を入力し
ドアのロックを解除する

ガチャ

扉が開かれた

ケイイチ「どんな様子だ?レン」

レン「とりあえず今のところ大丈夫だ

お前なぁ……

あれほど
言っておいたにもかかわらず
知らせやがって」

ケイイチ「見てたか」

レン「当たり前だ

モニターにしっかりと
うつっている

ユウタ
悪かったな

お前
もう帰れ」

ユウタ「レン!!

何でそんなこと言うんだよ!!

レンは

僕の気持ちを全然理解していない!!

レン
お願いだよ
僕にも手伝わせてよ

ケイイチさんから話しは聞いたよ

僕は

僕は

レンの役に立ちたいんだ!!

いつまでも

レンに守ってもらうばかりじゃなくて

レンの役に立ちたいんだよ!!」

レン「無理だ!!

これは学校の実習やゲームとは違うんだ!!

お前は

何も知らない!!」

ユウタ「確かに

僕は世間知らずだし
仕事のことは分からない

でも

誰よりも

レンを大切に思っている!!

レンを決して裏切らない!!

レンのためなら死ねる!!

レンに助けてもらった命なんだから!!

僕は

レンそのものなんだ!!

だから!!

レンは

僕を使うべきなんだよ!!

僕は『レンそのもの』なんだよ!!」


No.283 12/03/23 08:05
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチ「レン
お前の気持ちも分かるが

オレはユウタの気持ちも
よく、分かる

それに
現実問題
手助けが要る

もう時間が無いし限界だ

だか信用できる技術者を直ぐに連れてくることができるのか?

今のユウタの力は
けっこうなもんだぜ

何より
お前のことを裏切らない

もう
ユウタにしか頼めないんだよ

レン」

レン「……

ユウタ……

こんなことやらせたくなかった

ごめん……

お前しかいない」

ユウタ「レン
何言ってんだよ!!

僕嬉しいよ!!

レンがもっと近くなって

僕嬉しいよ!!」

ケイイチ「よし!!

とにかく時間が無い

ユウタ

これ見てくれ……」

と僕は
数台あるパソコンの前に座らされた


No.284 12/03/24 10:19
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


僕は直ぐにセキュリティの状態を調べた

厳重に整備されているように感じる……

そんなに簡単に破られるようなホールは見当たらない

むしろ破るのは
かなり困難だ

執拗に攻めてくることや
破りにくいところにわざわざ入り込もうとすることから

ただの悪戯やマニアの仕業ではない

ユウタ「……

内部の誰かが攻めてきていると思う……」

ケイイチ「そうか……

そんな気はしていたがな……

レン
そういうことだ

誰も信用はできない
覚悟しておけよ」

レン「……」

ケイイチ「ユウタ

今までは外からの攻撃から守ることに徹底してきた

敵は内部にいることを前提に
怪しいアクセスその他
洗い出せるか?

だがな、同時に外からの攻撃にも注意しろ

中ばかりに気を取られると
必ず見落とすからな

大丈夫か?」

ユウタ「分かった

とにかくやるよ!!」


No.285 12/03/25 11:19
きる ( lbwJnb )

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何時間ここに座っているだろう……

常に動き続ける通信に
追いつくには限界がある

だが
後から後から追いつくだけで必死な作業を繰り返しているわけにはいかない

しかも
不審なアクセスは複数に及ぶ

発信元も
近距離、遠距離
両方に及んでいる

『社内からも外部からも……
一体どうなっているんだ!?
何かの組織も絡んでいるのかな……』

こんなことに時間を取られていては
通常の業務に支障が出てくる

それも狙いなのかもしれないが

だからと言って
通信を遮断するわけにもいかない

ケイイチさんも必死に対応している

僕は
手をキーボードとマウスから離すことなく
目も画面から離さず

ケイイチさんに声をかけた

ユウタ「ケイイチさん

今までケイイチさんひとりで
この作業をしていたんですか?」

ケイイチさんもまた
手はキーボードとマウス
目は画面を凝視しながら答えた

ケイイチ「そうだ

少し前までは
ひとりでもなんとかなった……

お前なら分かるだろ?
今はもう限界だ

オレは
レンのことが好きだ

勘違いすんなよ!
そっちの気は無い…!

レンという人間が好きなんだ
お前と一緒だ

だから
あいつのために
何とかしてやりたい

冷酷なレンも
お前とオレのことは
大切に思ってくれているはずだ

レン……
お前には話したのかな……

あいつさぁ……
『愛人の子』だろ

しかも
父ちゃんも母ちゃんも
早くに亡くなっている

だから

世間的には恵まれた環境にいたかもしれないが
幼少期は寂しい思いもしてきたし
今でも親族内に信頼出来る人間がいないんだろう

甘えることも
愛されることも
愛することも
出来ないんだろうな

あいつ孤独なんだよ
いつもひとりで戦っている
それが分かるからな……
見ていて放っておけないんだ

何とかしてやりたいんだ

おっと
オレがこんな話したなんて
あいつに言うなよ!!
また
締め上げられるからな!!」

と言いながら
ケイイチさんは笑った

『レン……

僕と一緒だったんだね……』


No.286 12/03/26 12:59
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ユウタ「ケイイチさん……

ざっと見てきて

こちらには落ち度がないことが
よく分かります
これ以上のことを求めるのは酷だと思う


このまま受け身的な
この作業を続けていくことは
無駄ではないかもしれないけど
大変な労力がいる

反面得られる成果は少ない

思い切って

エサをまきませんか?

エサになるような情報を……」

ケイイチ「お前もそう思うか……

荒手だが
やってみる価値はある

相手の目的もわかるかもしれない

お前となら何とか対応も出来るしな」

レンに早速確認をとる

レンは黙って少し考えていた

そして……

レン「分かった

オレも腹くくる」と

僕は正直
『どうして?そこまで?』
と思った

レンには
既におおよそ検討がついていたようだ

そして
グループ解体の覚悟までを見据えていた


No.287 12/03/27 14:07
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


僕の提案は確かに
『荒い』かもしれない

だからと言って

『レンは大袈裟だな、腹くくる……なんて……』と事を軽く考えていた

だから

僕は

『子ども』なんだ……ね……

レンは

それだけ大きなものを

たったひとりで

背負ってきた

正直

今でも

分からないよ

本当に良かったのか……

僕は

一生

レンを越えることは

出来ない

レンも

ケイイチさんも

僕を決して責めなかった

むしろ
「ありがとう」
と言われ

それが

かえって

僕の心を

突き刺した

……

僕とケイイチさんは
仕掛けをした

数分後から
ネット内は乱れはじめ
みるみるうちに
パニック状態となる

予想以上に酷い

酷い内部分裂

味方など
一人もいない

もう
誰もが
それぞれ

孤独な戦士だったのだ

レン「こうなったのは

オレの責任だ

オレの存在が招いた結果だ

分かってはいたが……

覚悟が出来なかった

ユウタ

ありがとう」


No.288 12/03/28 14:20
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


男「失礼します!!
社長!!
大変なことになっています!!」

間もなくして

いかにも『社内で偉い人』『幹部』……
と思われる人が

厳しい表情で飛び込んできた

レン「分かっている

ちょうどいい

今から緊急役員会議を開く
役員を召集しろ」

男たち「一体どういうことなんですか!!」

男たちにどよめきが起こる

レン「全員集まったら話をする」

男たち「急に一体どうしたというのですか!!」

レン「急なことではない!!

いい加減にしろ!!

お前たちにも自覚はあるだろ!!

安住に溺れ

くだらないことでお互いがお互いの足を引っ張りあい

それぞれ自分のことばかり

まともな仕事をしている奴が一体どれだけいるんだ?

そんな仕事は仕事とは言えない!!

やるだけ無駄だ、無意味だ!!

もはや存在する意味がない

役に立たないことを続けるのは
社会を蝕む害虫と同じだ!!」

男たち「な、なんてことを……

落ち着いてください……」

レン「言った通りにしろ!!

早く役員連中を集めろ!!」

男たちは青ざめ
あたふたとし始めた


No.289 12/03/30 00:17
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


男たちは
ケイイチさんと僕を
睨み付け
部屋を出ていった

部屋の外は
バタバタと走る足音
時には罵声もとび
騒然としている

数時間前の静かな落ち着いたオフィスが
信じられないほどの混乱にみちていた

僕は自分のしたことに
ガクガクと震えた

ユウタ「レン!!レン!!

ぼ、僕は

なんて、なんてことをしてしまったんだ!!」

レンは

全く取り乱すこともなく

冷静に

レン「ユウタ

大丈夫だ

いづれこうなることは分かっていた

今までオレの腹が決まらなかっただけだ

決断する時が来たんだ

外部からつつかれたり
不祥事で
みっともない姿をさらしたり

情報の漏洩なんかで
関係のない人に迷惑をかけたりする前に

決断出来て良かったよ

ユウタ

ありがとうな」

ユウタ「レン……レン……」

レンは僕の髪をくしゃくしゃっとしながら
頭を撫でた

ケイイチさんは僕の肩をポンポンと軽く叩いた

ケイイチ「レン

腹決まったんなら
さっさと片づけて

パァーッと羽伸ばそうぜ!」


No.290 12/03/30 21:53
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


そして
緊急役員会議が開かれた

ケイイチさんと僕は
もちろん同席はしなかったが
近くの部屋で
レンの指示に従いシステムの対応に当たった

会議は相当荒れていることが
伝わってくる

僕は
そんな状況に動揺し
作業に集中できなかった

ケイイチさんは僕の動揺に見兼ねたのか

ケイイチ「ユウタ

落ち着け

と言っても
落ち着いていられないことは分かる

お前は賢いからな……

余計に事態の重さが理解出来るから
震えるんだろう

だかな



やるしかない

『あの日』

ギリギリの状況で
レンはお前を助けた

今度はお前がレンを助けるために
お前はここに来たんだぞ

レンのために

今すぐ

『強い大人』になれ

レンの指示通りに処理することで

レンと会社が
スキャンダルで社会の晒し者になるようなみっともない状況だけは
避けられる

レンは
亡くなった親父さんや今まで積み上げてきた沢山の人たちを思って

迷惑や被害がでないように
対応策を既に用意していた

お前とオレがやっていることが、それだ

ただ
のんびりはしていられない

時間が勝負だ

とにかく今は作業に集中しろ

それだけだ」

ケイイチさんに言われ
はっ、とする

そうだ

レンを助けるために
ここまで来たんだ

僕のちっぽけな思いなど
今は
必要ないし
役にも立たない

レンの重荷にはなりたくない

レンの力になりたい!!


No.291 12/03/31 22:15
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ケイイチさんの言葉で
僕の気持ちは切り替わった

全神経を集中させ

通常何時間……
いや何日もかかるであろう残務処理を
ひたすら処理し続ける

そして
ミスは許されない

たったひとつのミスが
たったひとつの情報のもれが
命取りに
なりかねない

『今』しかない

それら全てを
『今』やらなくてはならない

もう最初で最後

『後から』も『やり直し』も無い

……

そうしているうちに

『妙な』信号……?かアクセス……?に気づいた

全てが

その『妙な』信号の後に
『妙な』動きをし始めていたのだ

『何なんだ……?』

明らかに何か絡んでいる気がした

ユウタ「……ケイイチさん……

これ……

何か変だよね……」

ケイイチ「……」

ユウタ「ちょっと調べてみる」

ケイイチ「気を付けろよ」

僕のプライベート用のパソコンでアクセスしてみた


No.292 12/04/02 11:21
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


『何なんだ!?これは!?』

アクセスを続けると反応はあるものの

開いても開いても
また扉がある

だが

逃げたり、はぐらかされたりしているようには見えず

厳重に閉ざされた扉を
ひとつひとつ鍵で開いて行くような

クイズ問題を解いて行くような

挑戦的な態度だった

『進んでいる』手応えはある

慎重にアクセスしながら進んでいった

ユウタ「な、何なんだ、これ!?」

ケイイチ「いきなりデカイ声だすな!!
マジでビビる

どうした!?」

(パソコンからのメッセージ)

『流石
ユウタさん

ここまで来ることが出来たとは大したものです

あなたがここに来た
ということは
おそらく
『その時』が来た
ということでしょう

レンさんも決断された
ということですね

皆様の新しい門出を祝福いたしましょう

……わたくしはテロリストや真の黒幕や根っからの悪党なんかではありません

ただ
皆様の幸せを願い

皆様の望みを叶える手助けをしたり、ヒントを与えただけです

寂しい主婦に甘い快楽を……
惨めな青年に夢の時間を……
孤独な大人にかけがえのない存在を……
愛に飢えた少女に深い愛を……
快楽でしか生きられない女に絶えない快楽を……
愛を知らない青年に本当の愛を……
血縁が全てだと思う少年に血縁だけが全てではないない事実を……
そして
地位と権力の魅力に取りつかれたレンさんの会社の人間たちに
地位や権力を手にするためのヒントを……

実際に行動し
行き着くところまで行ったのは
全て皆様自身の決断と行動によるものです

しかしながら
皆様の行動によって
実に面白い人間模様を見せていただきました
求めすぎて破滅する姿を……ね

ありがとう

さぁ、わたくしも十分楽しませていただき
そろそろ飽きてきたので

この辺りでお開きとしよう

それにしても
ユウタさん
君はなかなかの腕前だね

今まで何人か
ここへ来ようとしたが
残念な結果だった

ここまで迷うことなく
たどり着いたのは
君ひとりだったよ

若い君たちに幸あれ

幸運を祈るよ』

No.293 12/04/03 10:25
きる ( lbwJnb )

訂正

No.292

「~血縁だけが全てではないない事実を……」→
「~血縁だけが全てではない事実を……」

申し訳ありませんでした

初歩的なミスで雰囲気を壊してしまい
申し訳ありません

失礼いたしました



☆お知らせ☆

このあと、お話ひとつ進めさせていただきます

きる


No.294 12/04/03 11:14
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


不気味なメッセージに

僕はどうしたら良いのか分からない

ユウタ「……ケイイチさん

何なんだろう、これ……

どうしよう……」

ケイイチさんはメッセージを2、3回読み返し
黙っている

それから
少し考えて……
口を開いた

ケイイチ「悪趣味だな……

今のこの騒ぎも
レンの出生も……いや、その前からも
絡んでいる何かの存在があったのか……

まさか全部繋がっていたとはな……

だが
『こいつ』も言っているが

実際に動いたのは
全て本人の意志だ

どう動くか計算されていたにせよ

強制されたり脅されたりしたわけではないのなら
自己責任だ

今回のことで
レンは

自分の欲にまみれた人々ばかり集まりで
誰ひとり信用できず
仕事の機能を果たさなくなった組織のリセットに踏み切った

それは
『こいつ』の差し金がきっかけだったにしろ
そんなドロドロとした体制だったことは事実で

だからこそ
連中は『こいつ』の罠にかかった

そのドロドロした人の集まりで、ドロドロした体制が出来上がっていた事実に気づいたのは

レンの洞察力だ

その結果リセットに踏み切ったことも

レンの決断力と行動力だ

だから

今動いていることに関しては
『こいつ』は
関係無い

ということだ

ユウタ

今オレたちがしなければならないことは

レンの指示に従った
レンのサポートだ

お前もオレも
レンと利害だけで繋がっている安い関係じゃないだろ?

『こいつ』は後回しで
今はさっさと仕事片づけようぜ!!」


No.295 12/04/04 11:15
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンは組織の解体後の話を続けていた

いきなり身勝手な解体に踏み切り
関わっていた人たちに迷惑をかけるのは
あまりに大人気ない

その辺りに対しては義理堅く誠実なレンは
恩を仇でかえすようなことはしない

そのため
フォローや対応
大切なデータの扱いなど
話し合いは続いていた

だが
もともと身勝手な乱れた人間たち集まり

それを相手に話し合いがスムーズに進むわけは無い
難航していた

そのため
ケイイチさんと僕は
最悪の場合を想定し
全ての後始末に対応出来るよう
大切なデータにロックをかけ
とにかく外部の関係無い人たちに
火の粉がとぶことがないように
大きなスキャンダルにならないように
守ることに徹した

レンの最後の仕事になるかもしれない
おそらく
レンはこれを最後に
経済界から身を引く

せめてものはなむけに……

ケイイチ「よし
これで大丈夫だ!!

はぁぁ疲れたな

こんなに緊張と集中し続けたのも久しぶりだな

サンキュ、ユウタ

オレひとりだったら無理だった

やっぱりお前に頼んで良かったよ
お前とじゃなかったら
出来なかったよ」

僕は
言葉が出なかった

数時間のうちに
色んなことがありすぎて……
放心状態だった


……ケイイチさんと待ち合わせて……レンのオフィスに来て……セキュリティチェック……

そんなことが
わずか24時間くらいで行われ

24時間前と
24時間後で

レンと僕たちを取り巻く世界は
変わってしまった

そして
あれだ……

パソコンへ届いた不気味なメッセージ

レンに
メッセージのことは伝えていない


No.296 12/04/05 13:01
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


あの不気味なメッセージが事実なら

レンに助けてもらった僕のことも
仕組まれていたのか……?

でも僕は

どんな理由にせよ

レンが『あの日』来てくれなかったら
助けてくれなかったら

身も心も

死んでしまっていた

偶然も
必然も
計算も……

関係ない

そんなのでは計り知れない『レンの愛』が

僕を救ってくれた

仕組まれた相手によって
レンと僕が出会ったとしても

レンの考え方によっては

あっさり僕のことを切り捨てるという選択もあった

パソコンの相手が

善か悪か

光か闇か

今の僕には判断できない

ユウタ「……ケイイチさん

あのメッセージ

レンに伝えた方が良いのかな……

こんなことになって

レンにとって

良かったのかな……」

ケイイチ「どっちでも良いんじゃねぇの?

言いたきゃ言えば良いし
黙っていても良いし

どっちにしても
早かれ遅かれ
解体する組織だったことは間違いない

親族同士のドロドロが酷すぎて
発展の見込みも無かったからな

もともとオレは
レンの役職とか立場に釣られてアイツとつるんでいたわけじゃない
レンのことが単純に好きなんだよな

くどいようだが
『そっちの気』はねぇからな!
あはははっ!!


だから
アイツの立場がどうなっても
アイツはアイツだから
それで良いんだ

正直『金』にならなくても
もう、良いんだ

まっ、金はあったに越したことはねぇなからな

くれるなら
もらっておくけどな!

アイツ

そんなに

ちっちぇ奴じゃねぇよ

本音でぶつかってみたら良いんじゃねぇの?」


No.297 12/04/06 15:24
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


ガチャ

ドアが開き
レンが入ってきた

ケイイチ「おぅ、お疲れ

こっちは完璧だ

ユウタのおかげだな」

レン「ありがとな
助かったよ

お前らが助けてくれなかったら
大変なことになっていた……
オレひとりきりじゃ
どうしようもなかった
これで
綺麗に幕が降ろせる

恩に着るよ」

ケイイチ「ああ、腹へった
レン
何か旨いもん食わせろ!!」

レン「何でも好きなもん食わせてやるよ!!

ユウタ、行こうぜ!!」

ユウタ「……」

レン「どうした?
腹減りすぎで
立てねぇのか?

うーん、背負ってやるには
ちょっと、でかくなりすぎて背負ってやんねぇな」

ケイイチさんは笑いながら

ケイイチ「オレ、先行ってるから」

と出て行った

ユウタ「……」

レン「どうしたんだよ……」

ユウタ「……レン

ちょっと
これ……

見てくれないかな……」

『このままじゃ駄目だ』

僕は

あの不気味なメッセージを
レンに見せた

レンの気持ちを
レンの本音を

知りたい


No.298 12/04/07 15:30
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レンが
パソコンのメッセージを読み始めた

『レンは
どう思うのだろう……』

僕は
何とも言えない複雑な気持ちになり

俯いていた

一読するとレンは

レン「で?何?」

ユウタ「えっ!?だから……

僕は……

僕のしたことで

かえって……

レンに

迷惑をかけたんじゃないか……って……

僕のしたことが

正しかったのか、どうか分からない……

それに

『あの日』

レンは
僕なんかに……

僕なんかに
関わったりなんかさえしなければ

危ない目に遭うこともなく
こんなことにもならなかったかもしれない

でも僕は……

『あの日』

レンに会えなかったら
レンが助けてくれなかったら



ここには

いなかった

レン無くしては
僕は存在さえ出来なかった

僕にとって
レンは

本当のお父さんお母さん
いや
それ以上の存在なんだ

だから……

レン



こんな事実を知って

本当に

どうしたら良いのか

分からない」

身体が震えていた

レンは穏やかに言った

レン「なぁユウタ……

オレも同じようなこと考えていたのかもしれない……

『あの日』

まだ判断の出来ない子供だったお前を

オレが無理矢理連れ出そうとしなければ

『ユウタには違った幸せがあったのかもしれない』って

いつも自問自答してきた

だからかな

お前に嫌われないか
お前に責められないか
って

必死だった

連れ出してしまった以上

お前を守り抜く責任がある

必死だった

だから
納得のいかない仕事もこなしてきた

お前を守るために

仕事にはもともと疑問があった

生まれたときから
仕組まれていたしな

生まれたときから
敵の多い中を生きてきた

オレは正妻の子供ではなかったし
そもそも正妻も
とんだあばずれだったと
聞いている

オレを潰そうと企む奴は沢山いた

そんな中で生きてきて

ちょっとした出来事がきっかけで
『こいつ』だな(パソコンの主)……
お前に出会った

初めて会った時のお前の
子供とは思えない暗い雰囲気が

正直

不気味だった

言い方悪くてごめんな

だがな

『お前と逃げる』
と決めた時から

お前から陰湿な陰が消えた

だから

オレは間違っていなかった
と信じたい

オレの方だよ

お前に嫌われたくなくて

必死だったのは」

ユウタ「レン!!
僕は!!

本当に感謝している!!

レン!!

本当に本当に!!

ありがとう!!」

子供みたいに

泣いた

『あの日』の僕のように


No.299 12/04/08 17:26
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


レン「ユウタ……
オレたちはさぁ

このイカれた奴(パソコンにメッセージを送ってきた相手)にとっての
良い餌食にすぎなかったのかもしれない

でも
オレは

何もしないまま
生まれた時からのレールに沿って
死ぬまで決まった通りをこなし
愛することも
愛されることも
知らないまま
人生を終わって行くことから
自分から抜け出すことが出来て
本当に良かったと思っている

予想外の展開に正直不安もあった
リスクもあった

だが
それ以上に

『オレ自身が知らないオレ』が分かった

あのまま動かなかったら
人間らしく生きられなかったかもしれない

この先
世の中が
どう変わって行くのか

目まぐるしく変化して行く中で
どう変わって行くのか

分からない

だからこそ

安住に甘んじることなく
柔軟に適応して行くことが不可欠だろう

伝統を守る重要性や使命もあるが

たまりすぎた膿は一度出してしまわなければ
再生も出来ない

オレの使命は
そこにあったのだ
と思っている

それに気付かせ
動かし
愛することで
愛されることを
教えてくれたのが

ユウタ
お前なんだよ

感謝しているのは
オレも同じだ

お前が
『あの日』を悔やまず
オレのことを嫌わずにいてくれたことが分かった

ありがとう

あと少し仕上げがある

まぁ見ててくれ

お前に恥ずかしくないように
カッコ良くきめるからさ

ケイイチも待っている

旨いもん
食いに行こうぜ!!」

ユウタ「……うん!!

レン……

カッコ良いよ!!」

子供みたいに泣きながら喋る僕を見て
レンは大笑いしていた


No.300 12/04/09 23:16
きる ( lbwJnb )

注文5最終章


最後に

僕は

不気味なメッセージを送ってきた相手を

突き止めるべきか

もうこれ以上関わることは避けるべきか

迷っていた

もし
突き止めるのなら
迷っている時間など無い

ただ

僕自身は

レンとのわだかまりもとけ

大きな仕事に切りをつけた今……

正直

もう関わらなくても良いのではないか……

と思った

というより……

疲労もピークに達していたこともあり

判断もつかなければ
思考も停止……
というのが正しかったかもしれない

……それさえも見透かしていたのか……?

メールを受信

そこには

ただ

一言

『サヨナラ』

とだけ

あった

『当然もう間に合わない』
ということだ

急いでアクセスしてみたが

やはり

後の祭り

そうして

得たいのしれないその闇の存在は

スゥーッと……

闇の中へ消えて行った

それっきり何も

分からない

相手もかなりの技術者……

追跡されるような痕跡は残さなかった

その様子を見ていたレンは

レン「ユウタ

お前も、もう疲れただろ
オレもだ

もう、いいよ」

突き止めようとはしていなかったとはいえ……

僕は

ただ

呆然

としていた

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