🍀強くなれ🍀
私の名前は『幸ゆき』
近所の婆さんの一言で決まった名前。不幸になるのか幸せになるのか…。
私のスタートラインは滅茶苦茶だった。
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私がお腹に宿った時、両親は離婚に向けて動いていた。
そんな事わかるわけもなく、これから待ってる現実も知らず私は産まれた。
覚えてる。眩しい光と共に始まった。3620gの女のコ、幸。
私の人生の始まり。
私と母が住む事になった祖父母の家は、貧乏を絵に書いた様な生活と造りだった。
海岸から近い小高い場所にポツンとあり、周りは山に囲まれていた。
夜になると街灯もなく真っ暗だ。
トイレも風呂も外に別にあり粗末なものだった。
慣れるのにかなりの年月が必要だった。
私が物心ついた頃の記憶、目を冷ますと母は居ない。
『…まま』
私はいつも毎朝泣いて起き母を探した。
仕事へ向かっているので母の姿は無い。それでも泣いて目を覚まし、必死に探す毎日だった。
泣きながら祖母が用意してくれた朝ごはんを一人で食べた。
祖父母も仕事をしていたから朝はいつも一人。
年金を貰っている年齢だったが、きちんと年金を納めて無かった祖父母の年金額は厳しいものだった。
祖父母の子供、母の兄弟は全部で5人。
母が産まれたのが終戦直後。
過酷な時代を乗り越え、必死に生きたが貧乏からは抜けだせず老後を迎えた。
兄弟達も学校にろくに通えず、仕事をしても自分達の生活で精一杯。
誰も祖父母を援助出来なかった。
祖父母の仕事は内職。朝から夕方まで毎日やっても、貰える金額は1万ちょっと。
がんばっても生活が満たされない、二人はいつも喧嘩をしてた。
月曜日から土曜日まで、私は殆ど母には会えず祖父母にも遊んでも貰えず、ただ一人庭で砂遊びしたり家の中でお絵描きをして過ごした。
日曜日、母はぐったりして横になってる事が多かった。
それでも、母の側に寄り沿い一緒に入れることが嬉しかった。
五歳で幼稚園に入園するまで、それは繰り返された。
幼稚園までは自転車で40分。
私を幼稚園に預け、会社に出勤。
昼過ぎに会社を抜けて祖父母に預けるとまた会社に戻る。
自転車に乗り母の腰に手をやる。
うつる母の姿は、幼い私でも分かるくらい辛そうだった。
それでも母は毎朝お弁当を作り、幼稚園の送迎、昼も食べず仕事をこなしていく。
だけどやっぱり疲れが溜まってたんだろう…。
私と話をしてくれなくなった。
幼稚園でも家でも私はしゃべらない子になる。
一人で何をするわけでもなく、みんなの輪にも入れず、ただ半日を母が迎えに来るまで過ごした。
その日もいつも通り始まるはずだった。
先生が画用紙をみんなに配り始め、クレヨンを用意してと指示する。
急いでクレヨンを取りに行き席に戻る。
先生はみんなに向けて大きな声で話し掛ける。
『もうすぐ父の日です。みんなお父さんの絵を描いて絵をプレゼントしようね』
先生の笑顔にみんな一斉にクレヨンを手にとり、夢中で描きだす。
私は一人固まって先に進めない。
みんながわいわい騒ぎながら描く父親の絵も目に入らない。
ただ真っ白な画用紙を見たまま何もできない。
先生が近づき私に言った。
『幸ちゃんはママの絵でいいんだよ』
隣にいた子が不思議がる…。
『先生!なんで幸ちゃんだけママの絵なの?』
また別の子も騒ぎだす。
『パパいないの?』
『幸ちゃんだけずる~い』
ずる~い!ずるい!みんなの声が胸にグサグサ突き刺さる。
真っ白の画用紙がぼやけて見えない。
目にいっぱい涙が溢れ、何も見えない。
涙が一気に流れ、自分でもどうしていいかわからず教室を飛び出した。
靴も履かず前もよく見えず、それでも出口に向かってた。
すぐに先生に追い付かれたけど、私はわんわん泣き続けて息も上手く出来ず混乱してた。
嫌だ!嫌だ!
そんな私を先生が平手打ち。バシッと鈍い音と痛みを感じながら私は倒れる。
あんなに泣きじゃくってた私はまた固まる。
起き上がれない。
しばらくして先生が私を起こし水道がある場所まで連れていく。
「ゆきちゃん口の中お水で洗いなさい!」
先生に言われビクビクしながら水を含む。
ヒリヒリして吐き出すと水が真っ赤だった。
隣で先生が話を続ける。
「まったくめんどくさい子」
騒ぎに気づき他の先生が駆け寄り、状況を説明しだした。
「ゆきちゃんが急に教室から飛び出して転んじゃって、口の中きっちゃったみたいです。私お母さんに連絡してきますから、ちょっとお願いします」
担任はそう告げるとその場を後にした。
連絡を貰って血相をかいて母が迎えに来た。
必死に先生に謝る母、怒ってる先生…。
帰り道母が私に言った。
「どうして先生の言うこと聞かないの。転んで怪我までして!お仕事クビになったらあんたのせいだからね」
必死に涙を堪え、どんなに訴えたくても上手く言葉に出来なかった。
ねぇ誰か教えてよ。
ねぇ、わかんないよ。
怖いよ。
あの時、自分の気持ちが上手く言えたら、この記憶がトラウマにならずにすんだのかな。
その出来事以降の幼稚園は思い出したくないほど、担任からは粗末に扱われた。
担任だけじゃなく、母の私を見る目も変わった。
居場所はあるようで無かった。
母から、産まなきゃ良かった死ねと言われる日もあった。
私はどうしたら良かったんだろ。
それは小学校に入学しても変わらなかった。
母を憎いと思う様になってた。
心の何処かで父親を求めてた。
周りと自分が違う事も。
幼稚園に入るまではわからなかった事も、現実を知り幼いながらにも耐えなきゃいけないとは思ってた。
だけど出来ない。
寂しくて貧乏で、遊び方も子供らしさもない。
私は一人家の近くの堤防に座っては、海を眺め消えたいと思ってた。
誰かが助けに来てくれるそんな淡い期待もあった。
その時浮かぶのは顔も知らない父親だった。
小学校三年。
私はイジメの対象にされた。
臭い汚いと言われ友達なんて居なかった。
風呂には毎日入ってたが髪は毎日洗えなかったから、フケだらけ。
週に一度洗うものだと教えられてたし何も疑わなかった。
私服も殆ど無かったし靴下が穴開けば自分で縫ってなんとかした。
周りが羨ましかった。
イジメは五年の終わりまで続いた。
毎日が苦痛で、先生にも一度訴えたがクラスの晒し者にされただけで何も変わらなかった。
何度も仮病を使って学校も休んだが、嘘だとバレると母は鬼の様に怒った。
1日が長く感じ、朝なんてこなきゃいいのに…そればかり考え枕はいつも濡れてた。
二度自分の首を締めた事があった、ご飯も食べなきゃ死ねると無意味な事もした。
何も変わらない毎日。
だけど一人の転校生によって事態が変わった。
転校生の名前は、真琴。
男っぽい名前の彼女は、色白で髪は栗色。
クラスの皆が一瞬黙るほどの可愛らしい女の子だった。
転校生という事もあり、初日から真琴の周りは人でいっぱいだった。
私はポツンと一人眺めてた。
真琴は明るくスポーツも万能。勉強はイマイチだったけど、失敗も笑いに変えてしまう様な子だった。
すぐに人気者になった。
そんな真琴と私が友達になるのは些細な出来事がきっかけだった。
いつものように通学路を一人で帰っていた時、後ろから私を呼ぶ声がした。
あ…またイジメられる。罵られる…いつもの事に体が勝手に反応し走り出す私。
その声は遠ざかることなく近くなり、私はランドセルを捕まれた。
「はぁはぁ…ゆきちゃん…早いよ。急に走り出すんだもん」
見ると真琴だった。
すぐに目を反らす私に、真琴は一緒に帰ろうよと笑顔で言ってきた。
真琴は何も言わない私の横にピタリと付くと、私の歩幅に合わせながら色々話し出した。
初めてだった。
誰かと横に並んで帰るのは。
通学班はあっても1年の時からいつも列から離れてたし、帰りはお決まりのイジメコース。
逃げて走っての毎日だったから。
真琴はどうして私に話し掛けたんだろ…。
真琴と途中でわかれると私は考えた。
学校でも真琴はいつも私に話し掛けてくる。周りの反応も気にしないのか、帰りも隣に来ては話し掛けて一緒に帰った。
段々真琴の目を見れるようになり、会話が出来るようになった。
私と真琴の事を面白がらないクラスメイトは勿論いた。
それでも真琴は他の子とは違った。
陰口いうこがいれば、自らその輪に入りその場の空気を変えた。みんな真琴が大好きだった。
朝や帰りに私に声を掛けてくれるこが徐々に増えた。
慣れなくて戸惑ったけど、ぎこちない笑顔で私も挨拶を返せるようになる。
真琴はよく私を誉めてくれた。
ゆきちゃんは笑顔がかわいい。
足が速い。
髪型はこうしたらもっと可愛くなるよ。
ゆきちゃん、ゆきちゃん…真琴は私に優しかった。
学校で居場所を見つけ、学校へ行くのが楽しいと感じ始めていた。
あんなに長く苦痛に感じた時間が早く感じた。
土曜日の帰り道、真琴から明日家においでよと誘われた。
真琴と私の家は少し離れていた為、放課後遊ぶことは無かったから、不思議な気持ちになった。
日曜日。
真琴は途中まで迎えに来てくれて、一緒に真琴の自宅に向かった。
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