血の涙
ここは都心から少し離れた大型マンション。
マンション内にはスーパーも広い公園もあり、いつも賑やかだ。
今日も公園は、小さい子どもたちの明るい声が響いている。
🌼初めて小説を書いてみます。
ゆっくりの更新で誤字・脱字等もあると思いますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
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真司「お母さん、僕も菜緒も今は辛いですが、二人で乗り越えていきたいと思ってます。
僕たちが別れてしまったら、天国の由奈が悲しみます。
僕たちだっていずれは由奈のところへ行く日が来ます。
その時まで、向こうで由奈が安心していられるように夫婦で支え合って生きていたいんです。」
母「……そうね、由奈のこと考えるとね。」
注文した料理が運ばれ、なんとなく空気の重いまま、二人は箸を進めた。
食事を終え、菜緒の母が切り出した。
母「真司さんの気持ちは分かったわ。
そこまでの考えがあるなら、無理に別れなさいなんて言わない。
ただ、貴方も自分が思っている以上に疲れているはずだから、無理はしないでね。
菜緒のことも抱え込まず、私たちを頼ってね。」
真司「はい。ありがとうございます。」
二人はファミレスを後にした。
聡の逮捕から数日。
聡は、相変わらず容疑を否認していた。
愛は聡を信じきれないまま、どうすることも出来ずにいた。
真司は、そんな愛をいつも傍で見ていた。
毎晩愛のために食事を作り、少しでも食べてもらおうと必死だった。
真司「聡さんが逮捕されてから、愛さんを支えたいと思いながらも事件のことには触れてはいけない気がして、黙ってたんだけど……
愛さんは今後どうするの?
聡さんを信じるなら、優秀な弁護士を見つけなければいけないし、やることはたくさんあるよ。」
愛「……私は聡を信じきれないでいるんだと思う。
だから…真実を知るのが怖い。
陸のためには早く真実が分かってほしいと思うのに。
本当にどうしていいか分からない。」
真司「愛さんの気持ち、分かるよ。
俺の知る限り、聡さんがそんなことするはずない!
でも…、車から陸くんの服が出てきたとなると、やっぱり……」
愛「………」
真司「いずれにしても、警察に任せるしかないんだよな。
愛さん、俺はずっと愛さんのこと守るから、真実を受け止めて少しずつ進もう。
愛さんは一人じゃないんだよ。俺がいるから。」
愛「ありがとう。」
愛には、もう頼れる人は真司しかいなかった。
陸はおそらく生きて戻っては来ないだろう。
そして、聡とはこの先、今までのように暮らすことはできないだろう。
愛は家族を失い、一人になったことを実感せざるを得なかった。
そんな時に、愛は菜緒を思い出す。
(由奈ちゃんが亡くなったとはいえ、あんなに一生懸命に支えてくれる真司さんがいるのに…。
菜緒さんは支えてもらうばかりで、真司さんには何もしてあげてない。
真司さんは菜緒さんと一緒にいる意味なんてない!)
今まで感じたことのない嫉妬心が、愛の心を支配した。
それでも、真司と二人で過ごす時には嫉妬心を必死に隠した。
本心を見せることで、真司までもが自分の前からいなくなることが怖かった。
愛は菜緒の入院している病院は知っていたが、今は身内しか会わせていないと真司に聞かされていた。
愛は、菜緒が元気になって退院してくるのを想像すると怖かった。
当然、真司とは今のように頻繁には会えなくなるし、二人が一緒にいるところも見かけるだろう。
愛はどうしようもなく菜緒の様子を知りたくなった。
真司は愛のそんな心中は察していなかったが、真司に愛情を注ぐことで陸や聡の事から現実逃避しているのを感じていた。
(今は愛さんの心が穏やかでいられるなら、それでいい…。)
ある日の午後。
真司は仕事に余裕ができたため、早めに切り上げ菜緒の病院に向かった。
病院のエレベーターで菜緒の病室のある階まで行き、歩いていくと、病室の扉の前に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
愛だった。
真司は慌てて愛に駆け寄った。
愛も真司に気付き、気まずそうに俯いた。
真司は菜緒の腕を引っ張るようにして病院を出た。
真司「どういうこと?菜緒には会わないでと言ってあるよね。」
愛は黙って頷く。
真司「それなら、なんでここにいるの?
菜緒に俺たちのことを言うつもり?」
愛「そんなつもりはなかった。
ただ、菜緒さんの様子が気になって…」
真司「そんなこと、俺に聞いてくれればいいじゃないか。
なんでわざわざ来る必要がある?」
愛「菜緒さんが元気になって退院したら、真司さんと一緒にいれなくなるんじゃないかって怖くて…。
そんな事ばかり考えてたら、ここに来てたの。」
真司はゾッとした。
愛がここまで追い詰められていたなんて。
真司「俺は愛さんの支えになれればと思っていたけど、逆に悩ませてしまってたんだね。ごめん。
俺は間違っていたのかな。」
愛「そんなことない!
私こそごめんなさい。
もうこんなことしないから、今まで通り傍にいて。」
愛は真司にすがるように泣いた。
真司「今は菜緒を見捨てるわけにはいかないんだ。
でも、愛さんのこともちゃんと考えるから…。
だから、そんなに思い詰めないで。
愛してるから傍にいるんだから。」
愛は何度も何度も頷いた。
それ以来、真司は愛が菜緒に近づかないように最善の注意を払った。
愛は不安だから、菜緒が気になるのだろう。
不安感を与えないように、真司は毎晩愛と過ごし、今まで以上に「愛してる」と言葉にした。
そして、愛が求めてくれば愛し合った。
愛が自分に依存すればするほど、喜んでそれに応えた。
愛はそんな真司に安心して愛情を注ぎ、心も落ち着きを取り戻す。
ただ、真司に安心すれば聡と陸のことが頭から離れない。
愛は苦しんでいた。
そんな中、聡は逮捕以来ずっと容疑を否認し続けていた。
(陸を殺してなんかいないんだから、すぐに容疑も晴れて釈放されるだろう。
そして真犯人を捕まえてほしい。)
聡は自分の考えが甘かったことにすぐに気づかされた。
警察は取り調べをするつもりなんてないのだろう。
聡を自供させるために必死なだけだ。
声を荒らげ、時には机を叩いて聡を問い詰めた。
聡「俺は本当に陸を殺してなんかいない。
かわいい我が子を殺す理由がない。
陸がいなくなった日、俺は仕事していたんだ。
ちゃんと調べれば俺が犯人じゃないことは簡単に分かるはずだ。」
聡も自分の無罪を訴えるのに必死だった。
警察「確かにその日、普段通り出勤している。
だが、陸くんがいなくなった時間帯に会社にいなかったことは確認済みだ。」
聡はあの日のことを思い出す。
(ああ、そうだった…。
あの日は会社を出て取引先に行ったものの、向こうに急な来客があって俺はカフェで時間潰してたんだっけ。)
その空白の時間内に公園まで行き、陸を連れ去ることは可能だ。
聡のアリバイは成立しない。
警察は続けた。
警察「それとあんた、浮気してたんだって?
奥さんからの証言だ。
それで、子どもが邪魔になったか?」
聡「それは間違いです。
浮気なんかしていない。」
聡はショックだった。
愛は自分を信じてくれているものだと思っていた。
しかし、実際は浮気していると勘違いし、聡に不利になるような証言をしている。
聡は唯一の心の支えまで失ってしまった。
それからも聡の訴えは受け入れられることはなく、毎日毎日地獄のような取り調べが続く。
聡(俺が殺したと言えば、この苦痛から解放されるのだろうか…。)
そんなことさえ頭を過るほどに辛いものだった。
最初は強気だった聡も、日を追う毎に精神的に追い詰められ、心はボロボロになっていった。
(愛はどうしているんだろう。)
心のどこかで愛が自分を信じて待ってくれていると期待していた。
それだけが、生きる糧になっていた。
愛は真司に本気になるにつれ、聡への愛情はすっかりなくなっていった。
そして、ついには『陸を殺した憎い男』へと変わった。
愛「真司さん、私離婚しようと思う。
仕事、仕事で私たちをほったらかしにして、挙げ句に陸を…。
許せないし、今までのように戻れるはずがないから。」
真司「そうか…、そうだな。
気持ち分かるよ。
離婚したほうが愛さんの気持ちも少しは楽になるかもしれないな。」
愛「それに、私が愛してるのは真司さんだけ……」
真司は唇を塞ぐようにキスをした。
地獄のような毎日を送っていた聡の元に、手紙が届く。
差出人は愛だった。
期待と不安を抱きながら、聡は急いで封を開く。
そこに入っていたのは、愛からの手紙と離婚届だった。
手紙には
『陸にしたことは許せません。
離婚してください。』
と短い言葉で綴られていた。
聡はその場に力なく座り込んだ。
一番信じてほしい人に信じてもらえず、手紙には今までの結婚生活への情すらも感じられない。
(俺はこんなところで、何のために生きているんだろう。
無実だと証明されたとしても、家族もいない。
仕事だってない。
俺には明るい未来なんてないんだ…)
聡は孤独を感じ、絶望した。
事件のことも、真司と愛の関係も知らない菜緒は、少しずつ元気を取り戻していた。
毎日病室にこもりっきりだったが、最近は売店に行ったり、看護師さんと談笑したりできるようになっていた。
真司ともいろいろ話をするようになった。
菜緒「真ちゃん、仕事忙しい時も来てくれてありがとう。
元気になって退院できたら、おいしい料理たくさん作るからね。」
真司「菜緒が元気になってくれることが一番嬉しいよ。
退院はもう少し先だと思うけど、こうやって菜緒といろいろ話できるだけで幸せだなと思う。」
真司は、普通の夫婦のように会話を交せることがこんなに心地よいものなんだと実感していた。
菜緒「私、早く退院したいけど…
マンションに戻るといろいろ思い出してしまいそうで怖くて…」
真司「そっか…」
真司は菜緒を抱き締めた。
真司「ゆっくりでいいんだよ。
辛い気持ちは封じ込めたら辛くなるから。」
愛が聡に離婚届を送って数日後、自宅の電話がなった。
愛「もしもし。」
「木村さんですか?警察です。
ご主人が自殺しました。」
愛「えっ……!」
聡は留置所で、首を吊り自殺したとのことだった。
(陸を殺して後悔したから?
私が離婚届を送ったから?)
そんな思いが頭の中で錯綜し、愛はしばらく動けずにいた。
愛には頼れる人がいない。
愛の両親も聡の両親も、すでに他界していた。
こんな時にも、愛は一人で対応するしかなかった。
愛は聡の遺体引き渡しなどの手続きの時に、聡の残した遺書も受け取った。
『愛へ
愛に迷惑をかけるが、死を選んだことを許してほしい。
俺は陸を殺してなどいない。
それを警察に必死に話しても、あいつらは俺の話を聞こうともしない。
俺に自供させようと暴力までふるってくる。
ここでの生活は地獄だったよ。
そして俺は陸だけでなく、愛も失った。
もう生きている意味がないんだ。
愛、最後のお願いだ。
絶対に真犯人が捕まるまで、諦めないでほしい。
勝手でごめん。
今までありがとう。
愛と結婚できて幸せだったよ。
聡』
愛は聡の手紙を読み、今までのことを後悔しながら泣いた。
(せめて私だけは聡を信じてあげなければいけなかったのに……。
私はまたかけがえのない人を一人失ってしまった。)
聡の葬儀は密葬にして、愛一人で聡と最期の別れをした。
(なんでこんなことになってしまったのだろう。)
一人でお墓の前に立ち尽くしていた。
気持ちの整理がうまくできない。
それでも、自分がどうするべきか愛はしばらく考えていた。
菜緒は売店に飲み物を買いに行くために談話室の前を通ると、テレビから聞き覚えのある名前を耳にした。
菜緒は足を止め、テレビのニュースを見る。
ニュースでは、陸の事件、聡の自殺が報じられ、菜緒は一連の出来事を初めて知った。
ニュースを見終えてから売店でジュースを買い、部屋に戻った。
ベッドに腰掛け、ジュースを一口飲む。
久しぶりに由奈が好きだったプリンも買っていた。
菜緒はプリンを見つめながら、ニヤリと笑った。
病室を訪れた真司に、菜緒はニュースで見たことを話す。
真司「俺はもちろん知っていたけど、菜緒が体調の悪い時期だったし、話さなかったんだよ。」
菜緒「そうだったの…。」
真司「ショックだろうけど…大丈夫か?」
菜緒「真ちゃん、私は酷い人間ね。
あのニュースを見て、天罰だと思った。
由奈を殺したくせにノウノウと今まで通りに生きてるから、天罰が下ったのよ。」
菜緒の顔は今まで見たことのない、怒りと喜びが混じったひきつった笑顔だった。
菜緒「あの女…愛さんも苦しめばいい!」
真司は菜緒の話を黙って聞くことしか出来なかった。
聡の自殺から数週間。
愛は真犯人を突き止めようと誓った。
まだ陸も発見されていない。
陸と聡のためにそして愛自身のために、聡の遺書を持って警察に行き、聡の無実を証明しようと思った。
しかし、自殺した時点で聡が犯人に間違いないだろうと判断した警察は、なかなか積極的に動いてくれない。
(聡は命をかけて自分の無実を証明したのに…。
このまま警察に任せていても無意味なのだろうか。)
とりあえず警察に捜査を一からやり直してほしいとお願いし、愛は帰宅した。
バッグを置き、携帯をチェックする。
メールが一件来ていた。
『愛さん、お久しぶり。
テレビを見て、事件のことを知りました。
辛い時に力になれなくてごめんね。
ご飯は食べてる?
ちゃんと眠れてる?
親友として、心配です。
菜緒』
愛は突然のメールに驚いた。
菜緒はまだ愛を許してくれていないだろうと思っていた。
そんな菜緒が、自分のことを心配してくれている…。
愛は真司とのことを思い出し、返信するのを躊躇った。
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