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あの暑い夏の日

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DQN( obX6h )
12/02/17 21:38(更新日時)



まだまだ暑い盛りの9月の頭に、僕ら家族は引っ越した。


そこで出会った彼女に、僕は人生最大の恋をしたんだ。









No.1669121 11/09/10 23:38(スレ作成日時)

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No.1 11/09/10 23:43
DQN ( obX6h )


「あっつ…」



額から流れる汗を拭いながら、見慣れた風景をもう一度視界にいれる。



いつもなら煩く感じる蝉の鳴き声も、今はただ感慨に耽る為の材料となっていた。




No.2 11/09/10 23:47
DQN ( obX6h )


「雄介ー!準備できたのー!?」

「今行くよ!」



階下から聞こえる母の呼びかけに、声を張り上げて答える。


慣れ親しんだ自分の部屋を、入り口に立ってもう一度振り返る。



閉めきった窓の外には、これから始まる新たな生活への門出を祝うように雲一つない青空が広がっていた。




No.3 11/09/11 00:01
DQN ( obX6h )


親父の運転する車に乗り込んでから約2時間。


高速を降りた車はすぐに、住宅や保育園などが密集する場所へと進んでいった。


…と、静かに車が停車し、窓の外を見ると二階建てのアパートが三棟並んでいた。



どうやらここが、今日から僕らの住処になる場所のようだ。



No.4 11/09/11 00:07
DQN ( obX6h )


「雄介、着いたぞ!ちょっと古いけど良いところだろう!」


親父がちょっと誇らしげにそう言うのを聞きながら、目の前のアパートを見上げる。



二階のベランダに干してあった、真っ白なシーツがやけに眩しく僕の目に映った。





こうして夏休みが明けた最初の土曜日、僕たち三人は新しい街へと引っ越してきたんだ。





No.5 11/09/11 00:18
DQN ( obX6h )


僕の名前は室井雄介。高校二年生だ。

家族構成はそこそこ大手の企業に勤める父に専業主婦の母。

今回の引越しは、本社に栄転が決まった父が急に言い出したことで…元々住んでいた街に持ち家があった為に、てっきり父一人で単身赴任するか無理をしてでも家から通うか…そうすると思っていたのに。



「家から通うのは父さんキツいし、家族は一緒にいるべきだ!家はしばらく貸家にして、みんなで引っ越そう!」



…父のその言葉で、高校生活の半分を過ぎるというこの中途半端な時期に、転校を余儀なくされた。



No.6 11/09/11 00:28
DQN ( obX6h )


元々通っていた高校も、電車で1時間半かかるような場所にあったから引っ越したことでいよいよ通うのは困難になった。


この時期に転校ってのはちょっと抵抗があったけど…仕方ない。親に世話になっている身であまり文句は言えない。



一人っ子で甘やかされて育った割には、ドジでおっちょこちょいな母のもとで育ったせいか面倒見は良い方だ。まぁ大丈夫だろ。



そう軽く考えながら、一階の自分たちの新しい家へと足を運んだ。



No.7 11/09/11 00:33
DQN ( obX6h )


外から見るよりも意外と中は広く、間取りは3DKと三人家族にはちょうど過ごしやすいくらいの広さだった。


予め下見にきていた両親(特に親父)は、なぜか得意気に胸をはっている。



「…なんだよ」


若干面倒に思いながらもそう声をかけると、


「中々良い家だろう!よし、特別に雄介に部屋を選ばせてやる!和室か?それとも洋室か!?」



No.8 11/09/11 00:37
DQN ( obX6h )


「…ていうか俺ベッド持ってきてるし洋室じゃなきゃ困るし。親父たちは元々和室使うつもりで新しく布団も仕立ててただろ」


「あ、バレた?」




年甲斐もなくテヘッと笑って見せる両親に思わず溜め息が漏れる。



この両親のもとで育ったんだから、同年代の子らよりも年上に見られるのも仕方ないのかもしれない。





No.9 11/09/11 12:30
DQN ( obX6h )


自分の荷物も大体片付いた頃、母が部屋にやって来た。


「雄介、同じ棟の人に挨拶に行くわよ!」


「…それって俺も行かなきゃいけないの?」


「当たり前でしょ!家族三人みんなで行くのが礼儀!」




そう言って鼻歌混じりに部屋を出ていく母の後ろ姿を眺める。


「…しゃーない。行くか」




この挨拶で出会ったあの人が、この先僕の心を大きく占める存在になるなんて思いもしなかった。




No.10 11/09/11 12:40
DQN ( obX6h )


お隣さん、階段を上ってすぐの部屋、そして最後の真上の部屋。


一棟に四家族しか住めない小さなアパート。最初の二家族への挨拶を済ませ、最後の部屋のチャイムを鳴らす。




ガタンッ…





鳴らしたチャイムの音がかき消されるくらいの大きな音が響いた。


しばらく待っていると、背の高い少し神経質そうな痩身の男が姿を現した。



「…はい?何か…」


「あ!私どもは今日下の部屋に越してきた室井と申します!これ、つまらないものですがどうぞ受け取って下さい」



親父がそう言ってロールケーキの入った小さな箱を手渡すと、その男性は部屋の奥に向かって声をはりあげた。




No.11 11/09/11 16:53
DQN ( obX6h )


「おい!愛美!わざわざ引越しの挨拶に来てくださったぞ!」



男性がそう言った直後、長袖のシャツを着た色白の女性が姿を現した。



「まぁ…わざわざすみません。佐々木と申します。こちらこそよろしくお願いします」


そう言いながら軽く頭を下げた女性の姿に、なぜだか分からないが無性に泣きたくなる衝動にかられた。



思えばこの時から、僕の心は彼女に囚われてしまったのかもしれない。




No.12 11/09/11 21:21
DQN ( obX6h )


彼女は佐々木愛美さん。旦那さんと二人暮らしらしい。

年は…多分30歳にはなっていないだろうと思う。


母の話では彼女も専業主婦らしく、日中上の部屋から掃除機の音や洗濯機の音が響いてくるらしい。



挨拶に行ったときに少しだけ、ほんの一分程姿を見ただけなのに、彼女の憂いを含んだような笑顔が忘れられなかった。


結婚しているのに。僕の一回り程も年上で、自分なんて近所の子どもとしか認識されていないだろうに。


…いや、下手したらもう顔も忘れられているかもしれない。
それくらい一瞬の出会いだったのに…僕は寝ても覚めても彼女のことを考えるようになっていた。




No.13 11/09/11 21:50
DQN ( obX6h )


彼女の姿を見掛けることもなく、更に数日が過ぎ…


たまたま夜中まで部屋でゲームをしていた金曜。



いきなり真上からガシャンッ!と何かが割れる音が響いた。


両親はもうとっくに眠っていた為、他に邪魔をする音もなく上の音が遠慮なく響く。



何かが倒れる音や引き摺るような音、そしてこもったように聞こえる怒鳴り声…。



夫婦喧嘩…にしては激しすぎる気がする。



No.14 11/09/11 21:55
DQN ( obX6h )


そこでふっと頭を過ったのは、唯一彼女に会ったあの日のこと。



まだ真夏と言ってもいい程に暑かったあの日、彼女は長袖のシャツを着ていた。


チャイムを鳴らした時の大きな物音。


そして疲れきったような、憂いを含む彼女の表情…。




…まさか…な。
考えすぎだよな。


僕は頭に過った恐ろしい考えを振り切るように、いつの間にか聞こえなくなっていた上の階の物音のことも忘れようと、眠りについた。




No.15 11/09/12 08:36
DQN ( obX6h )


中途半端な時期の転校ということもあり、僕は部活にも入らず学校が終わるとまっすぐ家に帰るという模範的な生活を送っていた。



今日もいつものようにまっすぐ家に帰ると、



「あ、雄介おかえり!悪いけど卵買い忘れちゃったから買ってきてくれない?」


母にそう言われ、鞄だけ置いて買い物に行くことになった。


家の近くにある生活用品も一通り揃うような大きなスーパーに行き、目当ての物を買ってさぁ帰ろうと店から出ると、前を歩く小さな背中が目についた。



No.16 11/09/12 08:41
DQN ( obX6h )


大きな荷物を抱えて、少し足を引き摺るようにして歩くその人は、あの日からずっと気になっていた彼女。


チャンスとばかりに「佐々木さん」と声をかけると、


「…え?」



…と、やっぱり僕のことは覚えていないようで、怪訝な表情で見上げてきた。


やっぱ覚えてるわけないよな…


若干ショックを受けたものの、予想していたからかそこまで顔には出なかったと思う。


「下の階に越してきた室井です。荷物、持ちましょうか?」


No.17 11/09/12 09:14
DQN ( obX6h )


「あ…ありがとう。でもすぐそこだし大丈夫よ」


そう言ってにこっと笑う彼女の口元は、少し赤く腫れていて…今日も長袖のシャツを着る彼女の袖口からは、青アザのできた白い肌が覗いていた。



「…佐々木さん…その口元、どうしたんですか?」


「え?あー…ちょっと躓いちゃって。この年になってもドジが直らなくて困るわ」



少し目を泳がせてそう答える彼女に、胸が張り裂けそうになった。




No.18 11/09/12 10:51
DQN ( obX6h )


人間は、転けてしまってもとっさに顔を庇うようにできている。


躓いたくらいでそんなに赤く腫れるだろうか。


躓いて袖口から覗いてしまうくらいの量のアザができるだろうか。




隣を歩く佐々木さんを見ると、何も苦にしていないかのように真っ直ぐ前を見て歩いている。


その服の下にはきっと、目も当てられないような痛々しい傷が広がっているんだろう。




何を考えるより先に、思わず彼女の肩を掴んでいた。




No.19 11/10/04 09:33
DQN ( obX6h )


「…え?なに…―」

「すっ、すみません!」


掴んだ肩が、あまりに細くて驚いた。少しでも力を入れたら骨が砕けてしまいそうな…


そんな彼女の身体を痛め付けているんであろう、あの男に憎悪にも似た感情が沸き起こる。



「…室井くん。下の名前はなんていうの?」


「あ、…雄介です。室井、雄介」


「じゃあ、雄介くん。そう呼んでもいいかな?」


俺の名前を聞いた彼女は、ニコッと微笑んでそう言った。



日溜まりのような暖かい笑顔を向けてくれる彼女に、今まで以上に夢中になるのも時間の問題だった。




No.20 12/02/17 21:38
なふなふ ( QTDHh )

続き楽しみにしてます。

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