哀れ…
憎しみしか、残らなかったね…
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私は単調だけど、それなりに幸せな日々を送っていた。
毎日6時に起きて、主人と私のお弁当を作る。
主人は玉子焼きが好きで、私は義母に味付けを聞き、主人好みの玉子焼きを作る事に努力していた。
二人で食卓を囲み、主人が出かけた後に洗濯物を干してから、自転車を走らせパート先に向かう。
5時にパート先を後にして、近くのスーパーに立ち寄る。
レジの人と顔見知りになり、『明日は卵が安いからね』と言われ、明日は立ち寄らないつもりだったのに、『じゃあ、明日も来ますね』と思わず言ってしまった。
8時に主人が帰宅し、二人でまた食卓を囲み、日付が替わる頃にベッドに潜り込む。
主人の寝息を子守唄にしながら…
俺は、毎日がむしゃらに働いた。
脱サラすると決めた時、嫁に相談したら
『あなたは私が反対しても、もう決めたんでしょ?その代わり、生活レベルをさげるような事はしないでね!』
…と言われた。
ま…ある程度予想がついていたけど、やっぱりため息が出た。
『それは判ってる。けど、軌道にのるまでは我慢してもらわないと…』
と言うと、キッと俺を睨み付け、
『だったら何時まで?』
と聞かれた。
『…1年… 1年待ってくれ。』
俺は嫁の顔を真っ直ぐ見て答えると
『…わかった…』
嫁は一言そう答えた。
確かに俺のワガママで家族を路頭に迷わす訳にはいかない。だから、嫁の気持ちはわかりすぎる程わかった。
けど…
これまで感じていた嫁との距離がまた広まった気がした。
俺はそれに気付きながら、仕事に打ち込む事で曖昧にしていた。
『え…?どういう事ですか…?』
その言葉は俺の頭の中で、ぐるぐる回っていた。 だから、無意識に出た。
『ここだけの話だけど、君の仕事ぶりが面白くないと思っている会社があってね、うちもそこを無視して君に仕事を回すのは立場上出来なくなってね…。 申し訳ないんだが、しばらく我慢して貰えないかな…?もちろん、このまま君を放置するつもりは無いんだ。時期を見て君とはまた取引したいんだ。だから、すまん!』
その人は俺に頭を下げてくれた。
『そうですか…。 残念ですけど、また声をかけて貰えるまで待ちますので、宜しくお願いします…!』
俺もその人に頭を下げた。
明日からどうするかな…
そんな事を考えながら、車を走らせた。
私は、義母からの電話に正直、参っていた。
今回流産した為に、義母の孫への想いが拍車をかけたのだろう。 しかし、日に日に度が過ぎてくると、ホントに辛かった。
私は主人に相談することにした。
『…お袋がそういうのも無理ないんじゃないのか? お前があの時早く病院に行っていたら、こんなことにならなかったんじゃないのか?』
『私だってそれは責任を感じているわ。けど、あの場合、早く病院に行ったとしても…!』
『じゃあ、お前は俺に種馬のように毎日頑張れって言うのか!?』
『…そ …そんな事は言ってないわ!ただ、お義母さんに電話の事を言ってくれたら…!』
『お袋の言うことなんか適当に聞き流しておけよ! そんなくらい出来るだろう!?』
主人は重ねてこうも言った。
『お前、何時まで仕事しないで居るんだ?お前は毎日子作りの事ばっかり考えてるのか?この淫乱女!俺はお前が楽するために働いてるんじゃないんだよ!だから、さっさと働け!』
それから、主人は私とは一切話さなくなり、挙げ句に週のほとんど帰って来なくなった。
また、生活費も出し惜しむようになり、私は仕事を探した。
『俺と… 俺と別れたいのか…?』
『ううん…! 違う! それは違うわ!』
俺は安心した。嫌われた訳じゃ無いんだとわかって安心した。じゃあ…、どうしてなんだろう…?
俺は彼女にその疑問を投げ掛けようとした…その時…
『…あたし… 実は… 癌なの… 』
俺は自分の耳に聞こえた彼女からの言葉がすぐには理解出来なかった。
『… 今ね… 実家の方に戻ってるの。 実家の近くの病院に入院する事になって…
もう…このまま実家に住むと思う。
…あなたには… あなたには… もう… 』
彼女は泣いてそれ以上言葉が出てこなかった。
俺も…泣いた。
これが彼女の声を聞いた最後だった。
その後聞いた話だけれど、彼女は手術をして、今は通院しながら、癌と闘っているらしい。
もう…彼女とは会えないけど… 俺がホントに好きだった女性だった…
俺はその日、その取引先から呼ばれていた。 どうやら、新商品の企画が通ったらしく、もし製品化されたら、俺のところに仕事をまわすという。電話では何だから、よかったら立ち寄ってくれという事だった。
俺は丁度手が空いたので、その会社へ車を走らせた。
『こんにちはっ!!』
『あぁ! こっち!』
担当の人はそう言いながら立ち上がり、『彼にコーヒーお願い』と事務の女の子に声をかけながら、俺を食堂に案内してくれた。
『今日は部長が居るから空気が重くて(笑)此処でもいいか?』
その人の気持ちがよくわかったので、俺は『いいっすよ』と返事した。
…一通りの話が終わり、世間話に花が咲いていた時、何人かのパートさん達が休憩に入ってきた。
その中で、見かけない顔があった。
…そう… 彼女だった。
彼とうちの会社の人が楽しそうに話しているのが目に入ったので、ちょっと見つめてしまった。
『あぁ、あれ、うちにきている業者さん。』
先輩パートさんがそう教えてくれた。
『そうですか…。楽しそうなので、つい…』
自動販売機で買ったホットレモンティーを両手で包みながら言った。
『どう?もう慣れた?』
そのパートさんはとっても面倒見がいい人で、私はとってもやり易かった。
『はい。丁寧に教えていただいてるので。』
『そ、よかった(笑)』
私もつられて笑顔になった。
しばらく… 笑うという事を忘れていたので、久しぶりという感じだった。
彼は私達に気付いて『いつも、どうも!』と声をかけてきた。そして、外へ出ていった。
『じゃあ、あたし達も仕事もどろうか!』
『はい!』
その日から、彼を見かけると挨拶をするようになった。
当然ながら、仕事での接点がなかったので、挨拶以上に彼と接する事がない。彼も忙しいのか、倉庫内をせわしく動き回っていた。
『あ、ちょっと来て!』
『明日からあなたはこの人の担当の補助になるから。』
私は別のパートさんと、…彼を紹介された。
『こちらは今日からあなたの指導係の桜井さん。』
『ヨロシクね。何でも聞いてね』
桜井さんはふっくらとした、見た目とっても優しそうなお母さんって感じの人。大学生の娘さんがいるらしい。
『それから、この人はうちの出入り業者さんの松田さん。こないだ、食堂で見たよね?』
『宜しくお願いします。 じゃあ、俺急ぎますから…!』
『あ…! 宜しくお願いします!』
『ホント…落ち着きないよね~(笑)』
桜井さんはクスッと笑い、彼を見送った。
『じゃあ、桜井さん、宜しくね。 中村さん、頑張って。』
肩をポンと叩かれ、指導係のパートさんは行ってしまった。
私はこれから、彼と仕事することになった。
仕事する…といっても、私は桜井さんの補助だから、桜井さんが彼と話す事がほとんどで、私はそれを横で聞いているだけなので、やっぱり彼との距離は相変わらずだった。
彼は、不機嫌な表情が多かったので、私はいつも緊張していた。 人見知りするから、余計に辛かった。
笑った顔は私が見たのはあの食堂で担当の社員さんと話していた時だけ。
男の人が笑うと、少年の頃のように無邪気な顔になるけど、彼も笑うとそんな感じがしたので、時々あの笑顔がみたいな…って思いながら、仕事中、彼の横顔を見たりしていた。
『中村さん。』
私は彼に呼び止められた。
『これ、伝票ヨロシク。桜井さん居ないから渡しといて。』
『…あ、わかりました。 あ… あのっ!』
私は何か話したい!と急にそんな気持ちになり
『あたし、足手まといにならないよう頑張ります!』
うわぁ~!何喋ってんだろ~と頭の中、パニックになってしまった、その時、
『大丈夫!頑張って下さいね!』
彼はニッコリ笑ってくれた。
ある日、ちょっと体調が悪かった。風邪をひいてしまったみたいだった。
桜井さんや他のパートさん、もちろん社員さんが風邪をひいてはいけないと思い、マスクをしていた。
『中村さん、今日はちょっと仕事に余裕あるから、早めに帰ったら?ゆっくり家で休養した方がいいよ?明日は休みだし。』
『…ゴホッ…! すみません… 』
私は桜井さんのお言葉に甘えて早退させてもらった。
いつも作業をしている倉庫をから外に出ると、とっても寒くて、身震いした。
私はロッカー室に向かおうとしたら、丁度見覚えのあるトラックが門から入って来るのが見えた。
…松田さんのトラックだった。
今日は何時もより遅いなぁ…と思いつつ、ますます辛くなる身体に耐えられず、私はその場を後にした。
今日は他の取引先との商談が長引いたので、この会社に来るのが遅くなった。
会社の門をくぐり、いつも停めているパーキングにトラックを入れ、車を降りると、彼女の後ろ姿が見え、ある建物へと消えていった。
俺は別に気にも留めずに、遅れた分を取り戻す為に荷物を下ろしていたら、桜井さんが声をかけてきた。
『今日は遅かったのね?』
『あぁ… すみません。』
『いいのよ。今日の分少しだし。明日は早く来て貰わないと納期が急ぐ分だから。』
『了解しました。 …さっき中村さん、あそこに入って行くの見たんですけど?』
『あぁ、中村さん、風邪みたいで早退。』
『そうなんですか…?』
『今日は仕事早く終わるっぽかったから、無理しないようにね。あ…!中村さん、お大事にね!』
彼女はその建物から出てきたところを桜井さんの声に反応して、何度も頭を下げていた。
『明日から彼女お休みだから、ゆっくり寝たら治るでしょ…? 』
桜井さんはそう言って、倉庫に入って行った。
『彼女って、フルタイムですよね?疲れでも出たのかな…?』
『うん、詳しい事は知らないけど、家に居てもつまんないから、フルで働きたいって言ったらしいよ。』
『彼女、独身でしょ?』
『ううん、結婚してるみたいよ。左の薬指見てみたら?』
『俺、そんなとこ見ないですよ(笑)』
『松田さんの奥さんもしてるでしょ?』
『うちは最初から無いです。あっても、もう外してるでしょうね、仲悪いから(笑)』
桜井さんもつられて苦笑いしていた。
じゃあ、旦那さんに看病してもらえるんだ…と思い、俺は桜井さんに挨拶をして、会社を後にした。
この家に黙って入って来るのはあの人しかいない…
『… おかえりなさい。』
彼は無言で寝室に入って来た。私は布団の中から言った。
主人は私の方をちらっと見て、言った。
『へぇ… 今頃から布団! 何ていいご身分なんだろな!』
『ち、違うわっ!私、熱があって、さっき仕事から帰って来て寝てただけよ!』
『うるさいっ!! お前は俺に口答えするのか! ははぁ~ん、お前、もしかして、仕事って、ここに誰か連れ込んで!!』
『…えっっ! あなた、何言ってるの!?』
私は主人の言葉に愕然とした。
『…ま… お前が何しようと勝手だけど…。 あ、お袋がお前と離婚しろってうるさいんだよな。 ま、離婚しても良いんだけど、俺、仕事で大変でさ、今、離婚すると何かと面倒だから、離婚はしない。ただ、お前は此処から出て行けよ!』
そう言い残して、寝室のドアを強く閉めて行った。
私は…泣いた…。
『今日も疲れたな…』
家に帰ると、嫁が、夕飯の後片付けをし始めていた。
『おかえり。』
『ただいま。』
俺は手を洗い、冷蔵庫からビールを出す。ダイニングテーブルの上の、冷めた料理をただ、黙って口に放り込む。
テレビから聞こえてくるつまらないお笑いタレントのうるさい声をボンヤリ聞きながら、ビールをグラスに注ぐ。
『…明日は、あたし早出だから。』
『…ん。おやすみ。』
嫁は、早出と遅出のある仕事で、早い時は4時に起きて子供たちのお弁当を作ってから仕事に行く。
必要最低限の会話にも慣れた。
子供達も高校生と中学生。父親なんて面倒なだけなようで、上の息子は俺と目も合わせない。
幸い、下の娘は俺になついているので、まだ学校の事など話してくれる。
『さて… 風呂でも行くか…』
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