哀れ…

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2013/12/21 05:29(更新日時)

憎しみしか、残らなかったね…

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No.1517561 (スレ作成日時)

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No.1

私が彼と出会ったのは、私が昔、パートで勤めていた会社。


もうかれこれ15年前くらいになる


彼はその会社に出入りする業者で、週2、3回は顔を合わせていた。


見た目はちょっとやんちゃな感じで、いつも私よりずっと年上のパートのおばちゃん達に話しかけられていた。


私はその様子をいつもずっと遠くから眺めていた

No.2

俺が彼女と出会ったのは、俺が脱サラして自分で会社を興してから2年くらい経った頃。


俺が初めて『得意先』として開拓した会社に彼女がいた。


彼女の存在は…
はっきり言って、あまり目立たない感じだったので、最初は挨拶するくらいで特に印象にも残らなかった。


それに…
何処と無く、影があるような感じで、ちょっと近寄りがたかった。

No.3

私は、彼が私に対する様子が、何となく他のパートさんとの違いに気付いていた。


一応は、笑顔で挨拶してくれるのだけれど、直ぐに別のパートさんの方に行く。


私が彼に用事があり、話かけても、用件をお互い伝え合うだけで、
『わかりました』
と言って、車に乗り込んで行ってしまうという感じだった。


私は人見知りする。
それに、大人しく見られる。


彼と話す時、何となく顔がひきつってるのかも知れない…


何故かため息が出た。

No.4

俺は、脱サラする前はある工場に勤めていた。


そこでは何十人ものパートさんを束ね、仕事を振り分け、指導をしていた。


皆、俺よりずいぶん年上のおばちゃんばかりだったので、おばちゃんと話すのは平気だったのだが、彼女のような俺より年下の女性はどうも苦手だった。


…と言うか… 彼女を見ていると、何だか頼り無さそうで、あの頃の俺は、気持ちに余裕も無くて、ついつい必要最小限になってしまっていたのだった。

No.5

私は、25で結婚をした。


主人とは友達の紹介で付き合うようになった。


私より2つ年上で、大人しくて、仕事熱心な人だった。


両親はそんな彼をとても気に入り、私もこの人となら、幸せになれる…
そう信じていた。


けど…

No.6

俺は、かなり若くで結婚をした。


当時付き合っていた女性との間に子供が出来、俺は迷わず結婚を決意した。


けど…ホントは若かったし、もう少し遊びたかった。


だから…
俺は、結婚してから、何人もの女性と付き合った。

No.7

私は、主人以外にお付き合いしたことが無かった。


だから、初めての事が多くて、いつも新鮮だった。


異性と一緒に何処かに遊びに行ったりすることや、食事したり、手を繋ぐことや、キスをするのも、もちろん…


…もちろん、そういう事をするのも、主人が初めてだった。


仕事が忙しい彼だったから、私はワガママを言わないように、彼からの連絡を待っていた。

No.8

俺は、見た目『遊んでそうな男』に見えたらしい。


だから、会社の飲み会や、友達と息抜きする為に遊びに行くと、良く女性が近づいてきた。


ある時は酔っ払って眠ってしまい、散漫な意識の中で誰かが俺の唇に触れていた事もあった。


けど…


俺の中では、幾ら言い寄られても、誰とでもそういう関係を持つ事はしなかった。


自分に『好き』という感情が無い限りは無理だった。


だから、食事だけの付き合いの女性もいた。


浮気…なんだけど、そこだけは俺の中で貫いた事だった。

No.9

私は結婚してしばらくは二人で過ごしたいと思ったので、主人に『子供はまだ要らない』と言った。


主人は、私の気持ちを受け入れてくれて、『いいよ』と言ってくれた。


だから、私はパートに出ることにした。


それにも主人は賛成してくれた。

No.10

俺にとって嫁は、その頃はもう、ただの同居人だった。


結婚してすぐ子供が授かり、生まれ、手がかからなくなってきた頃だったから、お互いの存在意味は、子供が繋ぎ止めているという感じだった。


子供は無条件でかわいい。


けど、嫁は働きに行く事で自分の世界を作り、俺の事はあまり興味が無い様子だった。


俺は、それがある意味心地良いと思っていた。

No.11

私は単調だけど、それなりに幸せな日々を送っていた。


毎日6時に起きて、主人と私のお弁当を作る。


主人は玉子焼きが好きで、私は義母に味付けを聞き、主人好みの玉子焼きを作る事に努力していた。


二人で食卓を囲み、主人が出かけた後に洗濯物を干してから、自転車を走らせパート先に向かう。


5時にパート先を後にして、近くのスーパーに立ち寄る。


レジの人と顔見知りになり、『明日は卵が安いからね』と言われ、明日は立ち寄らないつもりだったのに、『じゃあ、明日も来ますね』と思わず言ってしまった。


8時に主人が帰宅し、二人でまた食卓を囲み、日付が替わる頃にベッドに潜り込む。

主人の寝息を子守唄にしながら…

No.12

俺は、毎日がむしゃらに働いた。


脱サラすると決めた時、嫁に相談したら
『あなたは私が反対しても、もう決めたんでしょ?その代わり、生活レベルをさげるような事はしないでね!』
…と言われた。


ま…ある程度予想がついていたけど、やっぱりため息が出た。


『それは判ってる。けど、軌道にのるまでは我慢してもらわないと…』
と言うと、キッと俺を睨み付け、
『だったら何時まで?』
と聞かれた。


『…1年… 1年待ってくれ。』
俺は嫁の顔を真っ直ぐ見て答えると
『…わかった…』
嫁は一言そう答えた。


確かに俺のワガママで家族を路頭に迷わす訳にはいかない。だから、嫁の気持ちはわかりすぎる程わかった。


けど…
これまで感じていた嫁との距離がまた広まった気がした。


俺はそれに気付きながら、仕事に打ち込む事で曖昧にしていた。

No.13

単調だけど幸せな毎日から1年が過ぎた頃、私に変化が見られるようになった。


私は… 妊娠した!


ほぼ予定通りに来る毎月のものが遅れていたし、女の勘というのか、予感する自分がいた。


私は仲良しのパート仲間の人にそれとなく話してみた。


すると
『良かったじゃん! おめでとう!』
と、とても喜んでくれた。


で、病院に行きたいのだけど何処がいいのかを尋ねると、彼女のお姉さんが通っていた産婦人科を紹介して貰った。


『来週、時間をつくって行ってくるね』


そういうと、彼女は微笑んでうなずいた。

No.14

1年で軌道にのせる…


そう嫁と約束したので、俺はツテを頼って色んな会社へ行き、仕事をもらえないか、もしその会社がダメなら、別の会社を紹介して貰えないかと言い、朝から夜まで車を走らせた。


幸いな事に、得意先と呼べる会社を何社か確保し、仕事をまわしてもらった。


信用を積み上げないとならないので、最初はなかなか大変だったが、サラリーマン時代に経験した事を生かしたので、徐々に軌道にのってきた。


だから、嫁は何も言わなかった。

No.15

主人には何も言わずに、ハッキリとした事が判ってから報告するつもりでいた。


次の週は病院に行けそうになかったので、その次の週の月曜日に休みをとって行く予定にした。


…そして…


悲しい出来事が起きた。

No.16

仕事が軌道にのってきた頃、俺は辛い目にあった。


… それは、ある同業者からの嫌がらせを受けた。


俺はいつも通り得意先である、ある会社に行った。


いつも通り作業をしていると、担当の人が難しい顔をして俺に近寄ってきた。


『…すごい、言いにくい事なんだけど…』

俺は顔を上げてその声のする方に視線を向けた。


『…申し訳ないんだけど、しばらく君のところに仕事を回すわけにいかなくなったんだよ…』


意味を理解するのに時間がかかり、俺は一瞬意識が飛んだような気がした。

No.17

私は、いつものように主人を送り出し、洗濯物を干そうとベランダに出た。


その時… 私は違和感を感じた。


痛みとかそういうのは無かったが、トイレに行くと、出血していた。


私は、来週病院に行くつもりにしていたし、自分の中で妊娠してると思っていたので、敢えて妊娠検査薬を試してはいなかった。


今思えば、自分が無知なばかりに、直ぐに病院に行かずに様子を見る事を選んでしまった。


私は、生理の時のように手当をし、そのまま会社に向かった。

No.18

『え…?どういう事ですか…?』


その言葉は俺の頭の中で、ぐるぐる回っていた。 だから、無意識に出た。


『ここだけの話だけど、君の仕事ぶりが面白くないと思っている会社があってね、うちもそこを無視して君に仕事を回すのは立場上出来なくなってね…。 申し訳ないんだが、しばらく我慢して貰えないかな…?もちろん、このまま君を放置するつもりは無いんだ。時期を見て君とはまた取引したいんだ。だから、すまん!』


その人は俺に頭を下げてくれた。


『そうですか…。 残念ですけど、また声をかけて貰えるまで待ちますので、宜しくお願いします…!』


俺もその人に頭を下げた。


明日からどうするかな…


そんな事を考えながら、車を走らせた。

No.19

仕事をしていても、やっぱり集中出来る訳でもなく、小さなミスを連発した。


パートの先輩には
『今日はどうしたの?』
と言われ、苦笑いするしかなかった。


昼休み…


私はトイレに行き、用を済まそうとした…

…と…その時…








その時の記憶はまだらで…


私は…流産した…

No.20

明日からどうするか…


そんな事を延々考えると悪い方に考えが止まらなくなったので、友達を呼び出し、愚痴を聞いてもらった。


『お前、確かにそれは腹立たしい事だけど、ある意味、お前の仕事ぶりを認めて貰ったという事だぞ。ま…くさらず、地道に頑張るしかないんじゃないか?ピンチはチャンスって言うしな!』


正直、俺が一番、言って欲しかった言葉だった。


誰かに背中を押して欲しかったんだ。


お前は迷わずに自分の信じる道を行け、と言って欲しかったんだ。


俺は、また前に進む決意をした。

No.21

処置して貰った日…


主人と義母は私のベッドサイドに居た。


処置後の痛みと、麻酔が覚めきっていない為、しばらく病院で休む事にした。


看護士さんが私の様子を頻繁に伺いに来てくれる。ただでさえ忙しいのに、私を気遣ってくれる、そんな優しさが有り難かった。


ホントはそういう優しさを主人に求めていたが、主人は眉間にシワをよせたまま、義母と何かひそひそ話していた。


痛い下腹部をさすってくれる訳でもなく、『大丈夫か?』などという言葉掛けもない。


私は虚しい気持ちでいっぱいだった。

No.22

嫁は俺の仕事内容や、取引先の数、どれくらいの儲けがあるのか…などには無関心だった。


ただ、毎月最低限の給料を家に入れないと機嫌が悪かった。


1年待ってもらう約束だったので、1年経つと容赦なく生活費を請求してきた。


俺は、嫁の稼ぎが幾らくらいか知らなかったのだが、洋服や下着を見ていると、余裕があるように感じた。


けど、俺の勝手で脱サラした訳だから、言えなかった。

No.23

主人は私に言った。


『どうして早く病院に行かなかったの?』

私は、何も言えなかった。 私の無知さと、考えが甘かったのは否定出来なかったから。


けど、手術後の医者からの話では、元々育たなかった命であって、出血して直ぐに病院に来たとしても、同じ結果になっていただろう、という事だった。


主人も一緒に聞いていたのに…


義母も私を冷たい目で見つめていた。


『ご…ごめんなさい…』


私はその言葉をやっとの思いで吐き出した。

No.24

得意先から取引を断られたけれど、俺はそれをバネにしてまた新たな得意先を開拓したり、既存の得意先を大切にしようとして、今まで以上に頑張った。


時には家庭を顧みないと嫁に言われたが、俺は、仕事をして、軌道にのせて、自分自身が楽になりたかった。


…嫁からの暗黙のプレッシャーから…


おかげで俺は、順調な日々を送ったし、取引を断られた先から、少しずつだけど仕事を回してもらえるようになった。

No.25

この一件から…


主人の私への態度が少しずつ変化してきた。


私と以前のように話をしたりするのも億劫に見えたし、一緒に出かけたりするのも何かにつけて断ってきたし。


それから、義母からの電話が辛かった…


『早く孫の顔が見たいわ。もう、お医者さんから許可が出たんでしょ? 』


確かに、次の生理が来たら妊娠を望んでも良いとは言われたが、私自身、そんな気にならなかったし、主人は残業と言い、毎日帰って来るのが遅かったので、そんなふうな状況にはならなかった。


私は徐々に精神的に追い込まれて行き、仕事も休むようになり、会社から、遠回しに退職を告げられた。

No.26

俺にはその時付き合っていた女性が居た。


俺より少し年上で、とっても優しい人だった。


俺は甘えん坊なところがあって、彼女に仕事の愚痴を聞いてもらっていた。彼女はそういう時は口を挟まず最後まで聞いてくれ、


『そう… けど、あなたはすぐ無理するから… だからちょっと心配』


と言い、俺を母の様な眼差しで見つめる。

もちろん、言い訳にしかならないが、彼女が居たから俺は頑張れたし、嫁に言われることにも耐えられたのかも知れない。


けど… 別れは突然来た…

No.27

私は、義母からの電話に正直、参っていた。


今回流産した為に、義母の孫への想いが拍車をかけたのだろう。 しかし、日に日に度が過ぎてくると、ホントに辛かった。


私は主人に相談することにした。


『…お袋がそういうのも無理ないんじゃないのか? お前があの時早く病院に行っていたら、こんなことにならなかったんじゃないのか?』


『私だってそれは責任を感じているわ。けど、あの場合、早く病院に行ったとしても…!』


『じゃあ、お前は俺に種馬のように毎日頑張れって言うのか!?』


『…そ …そんな事は言ってないわ!ただ、お義母さんに電話の事を言ってくれたら…!』


『お袋の言うことなんか適当に聞き流しておけよ! そんなくらい出来るだろう!?』


主人は重ねてこうも言った。


『お前、何時まで仕事しないで居るんだ?お前は毎日子作りの事ばっかり考えてるのか?この淫乱女!俺はお前が楽するために働いてるんじゃないんだよ!だから、さっさと働け!』


それから、主人は私とは一切話さなくなり、挙げ句に週のほとんど帰って来なくなった。


また、生活費も出し惜しむようになり、私は仕事を探した。

No.28

彼女と、しばらく連絡がとれなくなった。

彼女も結婚していたので、いつも俺の携帯電話に彼女から連絡が来ていたので、俺からは連絡出来なかった。


彼女は、もう俺と付き合いたくなくなったのだろうか? ご主人にばれたのだろうか? 何か事故にあったのだろうか? …考えれば考えるほど辛くなって、仕事に身が入らなくなった。


…そして… 携帯が鳴った。


知らない番号からだった。


『… もしもし…?』


『… あ… 〇〇?』


彼女からだった。


『…どうしたん!? 連絡無いから心配してたんだけど!』


『うん…』


『どうしたん…? 何かあった…?』


彼女は何も言わずにずっと黙っていた。

No.29

『淫乱女かぁ…』


私は主人に言われた言葉を思い出しては、悔しくてよく泣いた。


時にはお酒の力も借りた。


だけど、一時その苦しみから解放されるだけで、何も解決しないし、余計に辛くなったのも事実だった。


私が流産した事がこの今の状況を引き起こしてしまったなら、私は今の状況を受け入れないとならない…


私は自分を責めることを辞めなかった。

No.30

『俺と… 俺と別れたいのか…?』


『ううん…! 違う! それは違うわ!』

俺は安心した。嫌われた訳じゃ無いんだとわかって安心した。じゃあ…、どうしてなんだろう…?


俺は彼女にその疑問を投げ掛けようとした…その時…


『…あたし… 実は… 癌なの… 』


俺は自分の耳に聞こえた彼女からの言葉がすぐには理解出来なかった。


『… 今ね… 実家の方に戻ってるの。 実家の近くの病院に入院する事になって…
もう…このまま実家に住むと思う。
…あなたには… あなたには… もう… 』

彼女は泣いてそれ以上言葉が出てこなかった。


俺も…泣いた。


これが彼女の声を聞いた最後だった。


その後聞いた話だけれど、彼女は手術をして、今は通院しながら、癌と闘っているらしい。


もう…彼女とは会えないけど… 俺がホントに好きだった女性だった…

No.31

私は生活の為に仕事を探した。


何時までも立ち止まってはいられない。主人には何も期待出来ない。


そして…


私は彼と出会った、あの会社にパートで勤める事になった。

No.32

俺の心には、自分が感じるより以上の穴が空いた。


彼女の存在の大きさを改めて感じた。


けど…
何時までも立ち止まってはいられない。


俺は今以上に仕事に明け暮れた。


暇があると彼女の事を考えてしまうのが怖かったので、許容範囲以上の仕事を引き受け、忙しさで自分の心を誤魔化した。

No.33

やっと見つけたパート先。


そこは私より年上のおばさんが多かった。子育てが一段落してからパートに来たという人や、学費を稼ぐため、生活に追われている人… ホントに様々な感じだった。


私は若いけど、生活に追われてるのはおばさん達と変わりなかったので、早く仕事を覚えて、足手まといにならないようにしたかった。


ここは、よくトラックが出入りする。だから、うちの食堂兼休憩室には、出入りの業者さんが休憩しながら商談したり、お喋りしたりしていた。


私は、たまたま私に仕事を教えてくれる指導係のパートさんと休憩をとるために食堂に来た時に、初めて彼に会った。

No.34

俺はその日、その取引先から呼ばれていた。 どうやら、新商品の企画が通ったらしく、もし製品化されたら、俺のところに仕事をまわすという。電話では何だから、よかったら立ち寄ってくれという事だった。

俺は丁度手が空いたので、その会社へ車を走らせた。


『こんにちはっ!!』


『あぁ! こっち!』


担当の人はそう言いながら立ち上がり、『彼にコーヒーお願い』と事務の女の子に声をかけながら、俺を食堂に案内してくれた。


『今日は部長が居るから空気が重くて(笑)此処でもいいか?』


その人の気持ちがよくわかったので、俺は『いいっすよ』と返事した。


…一通りの話が終わり、世間話に花が咲いていた時、何人かのパートさん達が休憩に入ってきた。


その中で、見かけない顔があった。


…そう… 彼女だった。

No.35

彼とうちの会社の人が楽しそうに話しているのが目に入ったので、ちょっと見つめてしまった。


『あぁ、あれ、うちにきている業者さん。』


先輩パートさんがそう教えてくれた。


『そうですか…。楽しそうなので、つい…』


自動販売機で買ったホットレモンティーを両手で包みながら言った。


『どう?もう慣れた?』


そのパートさんはとっても面倒見がいい人で、私はとってもやり易かった。


『はい。丁寧に教えていただいてるので。』


『そ、よかった(笑)』


私もつられて笑顔になった。


しばらく… 笑うという事を忘れていたので、久しぶりという感じだった。


彼は私達に気付いて『いつも、どうも!』と声をかけてきた。そして、外へ出ていった。


『じゃあ、あたし達も仕事もどろうか!』

『はい!』


その日から、彼を見かけると挨拶をするようになった。

No.36

彼女達が入ってきたのはわかっていたけど、担当の人の話が面白くて、ついつい話し込んでしまった。


俺は、彼女を見たのは初めてだったが、また機会が有ればおばちゃんパートさんから紹介があるだろうと思って、そこにいたパートさんみんなに挨拶をして立ち去った。

俺は、外に出ると、荷物を積み込み、従業員の人とパートさんに挨拶して、車に乗り込んだ。


その日から、彼女と挨拶を交わすようになった。


ホントに…最初は何にも感じなかったけど、この後、彼女が俺を苦しめる事になる人物になるとは知るよしもなかった…

No.37

当然ながら、仕事での接点がなかったので、挨拶以上に彼と接する事がない。彼も忙しいのか、倉庫内をせわしく動き回っていた。


『あ、ちょっと来て!』


『明日からあなたはこの人の担当の補助になるから。』


私は別のパートさんと、…彼を紹介された。


『こちらは今日からあなたの指導係の桜井さん。』


『ヨロシクね。何でも聞いてね』


桜井さんはふっくらとした、見た目とっても優しそうなお母さんって感じの人。大学生の娘さんがいるらしい。


『それから、この人はうちの出入り業者さんの松田さん。こないだ、食堂で見たよね?』


『宜しくお願いします。 じゃあ、俺急ぎますから…!』


『あ…! 宜しくお願いします!』


『ホント…落ち着きないよね~(笑)』


桜井さんはクスッと笑い、彼を見送った。

『じゃあ、桜井さん、宜しくね。 中村さん、頑張って。』


肩をポンと叩かれ、指導係のパートさんは行ってしまった。


私はこれから、彼と仕事することになった。

No.38

その日、俺はその会社にいつも通りに行くと、パートの人に呼び止められた。


『忙しいところ悪いけど、ちょっといいかな?』


その人はかなり仕事が出来る人で、社員の人からも一目おかれてる人。断れるわけない。


呼ばれて行くと、俺の担当の桜井さんと、…彼女が立っていた。


今日から桜井さんの補助に入るらしく、挨拶をされた。中村とかいう名前だった。


彼女はとっても大人しく見えた。ちょっと暗い感じにも見えた。華奢で、会社から貸し出された作業用の服がブカブカっぽかった。


独身…だと思っていたが、結婚している事を後で知った。


俺は軽く挨拶して、急いでいたのですぐに車に乗り込み、会社を後にした。

No.39

仕事する…といっても、私は桜井さんの補助だから、桜井さんが彼と話す事がほとんどで、私はそれを横で聞いているだけなので、やっぱり彼との距離は相変わらずだった。


彼は、不機嫌な表情が多かったので、私はいつも緊張していた。 人見知りするから、余計に辛かった。


笑った顔は私が見たのはあの食堂で担当の社員さんと話していた時だけ。


男の人が笑うと、少年の頃のように無邪気な顔になるけど、彼も笑うとそんな感じがしたので、時々あの笑顔がみたいな…って思いながら、仕事中、彼の横顔を見たりしていた。


『中村さん。』


私は彼に呼び止められた。


『これ、伝票ヨロシク。桜井さん居ないから渡しといて。』


『…あ、わかりました。 あ… あのっ!』

私は何か話したい!と急にそんな気持ちになり


『あたし、足手まといにならないよう頑張ります!』


うわぁ~!何喋ってんだろ~と頭の中、パニックになってしまった、その時、


『大丈夫!頑張って下さいね!』


彼はニッコリ笑ってくれた。

No.40

彼女は俺と話す時、声が上ずる。


俺って、そんなに怖いかな…?と思う時もあった。


一緒に仕事する事になった以上、お互い、嫌な思いしないようにしないと…と思っていたが、彼女は桜井さんの補助だったから、直接話す事は無いに等しかった。


彼女はホントに大人しくて、何処と無く影があるような感じがしたし、仕事もまだ研修期間中だから、ちょっと頼りなさげにかんじたから、こちらから話すのはちょっと気が引けた。


けど、ちょっとしたタイミングで、彼女が俺に自分の今の仕事への意気込みを言ってくれたから、思わず笑ってしまった。


…明日は俺から話そうかな…

No.41

『中村さん。おはようございます』


『ま…松田さん…!』


後ろから声をかけられたのでびっくりした。ちょっと…いや、かなりビクッとなっていたと思う。


『中村さんって、俺と話すとき声が上ずるよね?緊張してんの?』


彼は荷物を運びながら聞いてきた。


『え… あ… すみません。 そんなつもりは…!』


『別にいいけどね(笑) あ、桜井さんは?』


私は、あっちの倉庫です、と言ったら、彼は桜井さんの方に向かった。


声が上ずってるんだ… 急に恥ずかしくなった。

No.42

彼女は俺が後ろから声をかけると、かなり驚いていた。


桜井さんと一緒だと思っていたが、一人で作業していたので、思わず声をかけた。


彼女に俺と話す時、声が上ずる事を聞いたが、彼女は返答にまごついていたので、ま…いいか、と思い、桜井さんの元に行くことにした。


『ね?桜井さん?』


桜井さんが、俺の方に向いた。


『中村さんって俺に緊張してんのかな?』

桜井さんは、ブッと吹き出し


『松田さんって、不機嫌に見えるからじゃないの?あたしもそうだったしね、最初!』


『不機嫌って… 仕事の事が必死になるとそうなるんだって!』


桜井さんは、また笑っていた。

No.43

ある日、ちょっと体調が悪かった。風邪をひいてしまったみたいだった。


桜井さんや他のパートさん、もちろん社員さんが風邪をひいてはいけないと思い、マスクをしていた。


『中村さん、今日はちょっと仕事に余裕あるから、早めに帰ったら?ゆっくり家で休養した方がいいよ?明日は休みだし。』


『…ゴホッ…! すみません… 』


私は桜井さんのお言葉に甘えて早退させてもらった。


いつも作業をしている倉庫をから外に出ると、とっても寒くて、身震いした。


私はロッカー室に向かおうとしたら、丁度見覚えのあるトラックが門から入って来るのが見えた。


…松田さんのトラックだった。


今日は何時もより遅いなぁ…と思いつつ、ますます辛くなる身体に耐えられず、私はその場を後にした。

No.44

今日は他の取引先との商談が長引いたので、この会社に来るのが遅くなった。


会社の門をくぐり、いつも停めているパーキングにトラックを入れ、車を降りると、彼女の後ろ姿が見え、ある建物へと消えていった。


俺は別に気にも留めずに、遅れた分を取り戻す為に荷物を下ろしていたら、桜井さんが声をかけてきた。


『今日は遅かったのね?』


『あぁ… すみません。』


『いいのよ。今日の分少しだし。明日は早く来て貰わないと納期が急ぐ分だから。』

『了解しました。 …さっき中村さん、あそこに入って行くの見たんですけど?』


『あぁ、中村さん、風邪みたいで早退。』

『そうなんですか…?』


『今日は仕事早く終わるっぽかったから、無理しないようにね。あ…!中村さん、お大事にね!』


彼女はその建物から出てきたところを桜井さんの声に反応して、何度も頭を下げていた。

No.45

『ふぅ… やっぱり辛いな…。』


家に帰って熱を計ると、38度近かった。私は、薬箱から風邪薬を出し、菓子パンを一口無理矢理食べてから、薬を飲んで寝る事にした。


『…松田さん… 来るの遅かったな… 』


私はボンヤリ思った…


…どれくらい、時間が経っただろう…


遠くで、ドアの開く音がした。

No.46

『明日から彼女お休みだから、ゆっくり寝たら治るでしょ…? 』


桜井さんはそう言って、倉庫に入って行った。


『彼女って、フルタイムですよね?疲れでも出たのかな…?』


『うん、詳しい事は知らないけど、家に居てもつまんないから、フルで働きたいって言ったらしいよ。』


『彼女、独身でしょ?』


『ううん、結婚してるみたいよ。左の薬指見てみたら?』


『俺、そんなとこ見ないですよ(笑)』


『松田さんの奥さんもしてるでしょ?』


『うちは最初から無いです。あっても、もう外してるでしょうね、仲悪いから(笑)』

桜井さんもつられて苦笑いしていた。
じゃあ、旦那さんに看病してもらえるんだ…と思い、俺は桜井さんに挨拶をして、会社を後にした。

No.47

この家に黙って入って来るのはあの人しかいない…


『… おかえりなさい。』


彼は無言で寝室に入って来た。私は布団の中から言った。


主人は私の方をちらっと見て、言った。


『へぇ… 今頃から布団! 何ていいご身分なんだろな!』


『ち、違うわっ!私、熱があって、さっき仕事から帰って来て寝てただけよ!』


『うるさいっ!! お前は俺に口答えするのか! ははぁ~ん、お前、もしかして、仕事って、ここに誰か連れ込んで!!』


『…えっっ! あなた、何言ってるの!?』


私は主人の言葉に愕然とした。


『…ま… お前が何しようと勝手だけど…。 あ、お袋がお前と離婚しろってうるさいんだよな。 ま、離婚しても良いんだけど、俺、仕事で大変でさ、今、離婚すると何かと面倒だから、離婚はしない。ただ、お前は此処から出て行けよ!』


そう言い残して、寝室のドアを強く閉めて行った。


私は…泣いた…。

No.48

『今日も疲れたな…』


家に帰ると、嫁が、夕飯の後片付けをし始めていた。


『おかえり。』


『ただいま。』


俺は手を洗い、冷蔵庫からビールを出す。ダイニングテーブルの上の、冷めた料理をただ、黙って口に放り込む。


テレビから聞こえてくるつまらないお笑いタレントのうるさい声をボンヤリ聞きながら、ビールをグラスに注ぐ。


『…明日は、あたし早出だから。』


『…ん。おやすみ。』


嫁は、早出と遅出のある仕事で、早い時は4時に起きて子供たちのお弁当を作ってから仕事に行く。


必要最低限の会話にも慣れた。


子供達も高校生と中学生。父親なんて面倒なだけなようで、上の息子は俺と目も合わせない。


幸い、下の娘は俺になついているので、まだ学校の事など話してくれる。


『さて… 風呂でも行くか…』

No.49

風邪で寝込んでいただけなのに、あんな風に誤解されて…


それに、離婚は自分の都合でしない、けど、お前はここを出て行け…


ホントに自分勝手、ホントに曲がった考え方…


情けなくて、悔しくて、腹立たしくて、涙が止まらなかった。


また…あたし…ひとりぼっちだね…

No.50

風呂に入ってると、入口のすりガラスに、人影が見えた。


『…パパ? おかえり』


『…ん? あぁ… ただいま』


娘だった。歯を磨きに来たのかな…?


『何か疲れてんね…?』


『ん… まぁな… けど、大丈夫だ』


『そっか… 来月さぁ、買い物付き合ってよ』


『うん、いいけど。何か欲しいのか?』


話を聞くと、部活で要る物があるらしくて、嫁には言いにくいらしい。


『了解。 早くおやすみ』


『うん、ありがと。おやすみ』


ま…物をねだられるだけのパパだけど、ちゃんと俺の事を気遣ってくれる、可愛い娘だ。

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