名前をつけて保存
過去の恋愛を…
男は名前をつけて保存
女は上書き保存
と例えられているが…
だとしたら私は
男っぽい思考回路なんだなと思う
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🍀1
初恋はいつ?
ときかれても答えられない
記憶にない…
覚えているのは小6のときの淡い気持ち
「お前さぁ去年の運動会のダンスで一番前にいたよなぁ?」
始業式…小6になって初めての日そう話しかけてきたのは出席番号が一つ前の坂井くん
同じクラスになるのは初めて
(え…っだれ?初対面なのになんでそんなこと覚えてるの…へんなの…でもすごいなぁ)
それが第一印象だった
🍀2
出席番号が一つ違い
日直や授業のグループはいっしょだった。
「榊は勉強もパソコンも家庭科も…なんでも得意だよなぁ」
坂井くんはそう私を褒めてくれた。
確かに学校の成績はよかったけど…
算数を除いて。
私の算数の不出来を心配した両親に、私は塾に入れられた。
私はほかに習い事をしていたし、これ以上忙しくなるのが嫌で反抗したが…結局行くこととなった。
しかも地域では有名な進学塾。
正直、「できない」子が行く塾ではない…
入塾テストもあった。
もちろん、算数のテストの出来はいまいちだったが…ほかの教科がそこそこだったので受かってしまった。
🍀3
一応納得はしたものの、憂鬱は憂鬱…
そうして私は塾に通い始めた。
「これからよろしくね、榊さん。」
「よろしくお願いします…」
塾講師の木村先生は私の憂鬱な心に気づいてか気づかずか、にこやかに挨拶してくれた。
(若い先生だなぁ…24か25歳くらいかな?)
そう考えながら、先生のあとをついて教室に入る。
「…あれっ!?榊!?」
教室の後ろから私に気づいたのは…坂井くんだった。
🍀4
坂井くん、この塾に通ってたんだ…
驚きながらもうれしく思う自分がいた。
週に一回、学校のあとに塾でも会えるんだぁ…
そう思うと、塾へ通う元気が出てきた。
しかしこの塾には、私のそんな淡い気持ちを邪魔する制度があったのだ。
それは…
2ヶ月月に1回のクラス変更
進学塾のため、クラスは学力別だった。
クラス分けは、同じく2ヶ月に1回行われる全塾テストの成績によって決められる。
🍀5
初めての全塾テスト
私の成績は散々だった…
坂井くんは以前から塾に通っていて、成績も結構よかった。
学校でしか会ってなかったときは、勉強ができるなんて知らなかった…
私は下のクラスにおろされてしまった。
坂井くんはもちろん上のクラス…
寂しかった。
坂井くんに追いつきたい…
それが私の勉強の原動力だった。
しかし努力も虚しく一向に成績は上がらず…
クラスはずっと別だった。
そしてある日…
私は考えてもいなかった現実を知る。
🍀6
学校の休み時間
友達の発言
「なゆちゃんはさぁ、中学どこ受けるの?」
「…えっ!?」
「えって…だって勉強できるし塾にも通ってるし…中学受験するんでしょ?」
「えぇ!?しないよぉ💦算数の成績が悪すぎて親に通わされただけで…」
「そうなのー?てっきり受験するんだと思ってた。だってなゆちゃんの塾に通ってる子たちってほとんど受験するでしょ?」
ほとんど…
そっか進学塾だもんね…
坂井くんも…?
🍀7
私は公立中学に通うつもりでいた。
親も受験はすすめてこないし…
でも…
坂井くんは受験するの?
中学…分かれちゃうの…?
それがたまらなく寂しくて…
やっと自分の気持ちに気づいた。
ほんとは…気づかないようにしてただけかもしれないけど。
だれかを好きになるって
楽しいこともあるけど…
それ以上に苦しいことなのかもしれない
そう思った小6の私…
坂井くんが受験するかどうか…なんとなく確認できないまま、季節は冬になってしまった。
そして、私に思いもよらなかった出来事が起きる…
🍀8
ある夜…
ふと目が覚めると…
リビングに明かりがついていた。
お父さんとお母さん…まだ起きてる…?
ねぼけながら私はリビングに向かって歩く
しかし私は急に歩みを止めることとなる
父と母の
「私たちもう無理よね」
という言葉が聞こえたからだ…
…え…?
私は頭が真っ白になった…
確かに…よく喧嘩はしてたけど…でも…え…?
私は…どうなるの?
🍀9
私は両親に気づかれないように部屋に戻り…
布団をかぶり声を殺して泣いた…
泣いたのなんて久しぶりで…
本当に久しぶりで…
小学校に入学したてのころ、同じクラスの男の子に筆箱を壊されて以来だった。
でも、同じ「泣く」という行為でも…気持ちがちがう。
痛い…とにかく痛かった。
🍀10
私は両親の前では何もしらないふりをして過ごした…
そして両親もまた、私に何かを告げることはなかった
両親のこと…
坂井くんのこと…
私は考えすぎて上の空だったんだと思う…
いつものように塾から帰ろうとしていると…
「榊!ちょっといいか?」
木村先生に呼び止められた。
「はい…」
木村先生に塾の面談室に連れていかれる。
「どうかしたか?最近元気ないぞ?」
「すみません」
「すみませんってことは…何かあったんだな?」
「……」
私は何て言ったらいいかわからなかった。
🍀11
「まぁ言いたくなかったらいいよ。でも生徒の心のケアも教室長の仕事だから。」
「えっ!?」
私は驚いて顔を上げた。
「えってなんだ」
「えっえっ…木村先生って教室長なんですか!?」
「おまっ…いまさらか!?」
先生は呆れているのか笑っているのかわからない表情を見せた。
「だって…先生若いし…」
塾には、40代50代の先生もいた。だれが教室長だなんて考えたこともなかったけど…
「若い…まぁ若いほうかもしれないけど、もう36だぞ?」
「ええぇっ!?」
私はさっきよりも大きな声を出した。
🍀12
「先生…すごく若く見える…24か25くらいだと思ってました…」
「よく言われる」
先生はにっと笑った。
「え、じゃあ結婚してるんですか?」
「してるよ。娘が二人いる」
そうだったんだぁ…
もう半年以上この塾に通っているのに…なにもしらなかったんだなぁ私…
🍀13
その日は結局
先生に私の話はしなかった
私は家に帰り、相変わらずのなにもしらないふり…
父はきょうも帰りが遅い。
父は私が起きる前に家を出て、私が寝てから帰ってくる…そんな毎日を送っていた。
🍀14
私の小学校卒業が近づいてきた…ある日曜日
休日出勤がザラだった父も家にいた。
両親が私を部屋まで呼びにきた。
「なゆ…話があるんだけど…」
私は直感的に感じた。
わかっていたからだと思うが…
こわい
いやだ
ききたくない…
「いや。」
私はそう言って部屋を出ようとはしなかった。
私のその態度を見て、両親も気づいたようだった。
反抗なんてしたことがなかったし…
「なゆ…気づいてるのね…?お父さんとお母さん、離婚するから…」
🍀15
私は両親が部屋の前から立ち去るまで待った。
一言も発さず…
両親の気配がなくなってから、また泣いた。
子はかすがいってことわざがあるけど…あんなの嘘なんだ…
私のことなんてかわいくないんだ…
家出でもしたい気分だったけれど、行くあてなんてなかったし、第一、家から出るためには両親と顔を合わさなければならなかった。
私はずっと部屋に閉じこもっていた。
🍀16
いよいよ卒業式…
両親には
「来なくていい」
と言ったのだが…
出席していた
「なゆが小学校を卒業したら、籍を抜く」
そう言われていた
私は母に引き取られることになった…
母との二人暮らし
中学校生活
私は不安だった…
そして…坂井くん
中学受験する子たちは、3学期は学校を休んで塾に行っている子が多かった。
そんななか、坂井くんは学校に来ていた。
…ということは…受験しなかったのかな…?
今となれば本人にきくなり周りにきくなり、確かめる方法もあっただろうと思うが…
当時はいっぱいいっぱいだった。
🍀17
春休みのある日
私は祖父母の家に預けられた
母が帰ってくると…
「今日、届だしてきたから」
と言われた
いつまでもうじうじしていられない…
私は新生活に向けて前向きになろうと努力した。
🍀19
やっと中学の入学式の日がやってきた
クラス分け表が配られると、私は自分の名前よりも先に坂井くんの名前を探す…
もし同じクラスなら、出席番号はほぼまた一つちがいなのだろうが…
あった!
いた!
よかったー…
安堵とうれしさが込み上げてきた。
ただ…クラスは別だった。
3組と6組…
でも、うれしかった。
🍀20
私は、塾もそのまま同じ塾の中学部に通うこととなった。
世帯主が父から母にかわり…
私は塾で手続きをしなければならなくなった。
現実を突き付けられる手続きに…
また憂鬱になった。
面談室で、木村先生の指示のもと書類を提出する…
大人なら、事情なんて話さなくても感づくんだろうなぁ…私はそう思いながら、木村先生の指示をきく。
先生は特になにも触れず…
「書類はこれでオッケー。授業が始まるから教室に行き」
とやさしく声をかけ出ていった。
🍀21
坂井くんも、同じ塾の中学部に通うことにしたようだった…
うれしかったけど、クラスはいっしょになれそうもない…
小学生のときは算数しか通ってなかった私だが、中学からは国語・数学・英語・理科・社会すべての教科を受けることにした。
一番苦手な算数じゃ、坂井くんと同じクラスになるのは難しい…でも、ほかの教科なら…とも考えた。
でも不純な動機だけでなく(笑)このころには塾が好きになり、中学生になったんだし勉強がんばろう!という気がしていた。
もちろん、坂井くんに追いつきたいという気持ちはあったが…
🍀22
全塾テストで成績がよかった者は、教室に名前が貼りだされる。
坂井くんの名前はいつもあったが、私は載ったことがなかった。
中学校最初の定期テスト…
私はかなり勉強をした。
全塾テストは難しい。
学校の定期テストのほうが簡単だというのはみんな思っていた。
とりあえず、定期テストだけでもいい成績を出そう…
私は必死だった。
🍀23
その結果…定期テストの順位は、学年で一桁だった。
数学は相変わらず悪かったが…あとの4教科でカバーしていた。
数学と国語以外の3教科は学年1位で…学校の先生からはかなり期待されるようになった。
そして、塾にも定期テストの結果を報告する…
木村先生に「すごい!よくがんばったな!塾に入りたては落ちこぼれだったのに…笑」と言われた。
褒められて、期待される…
初めての経験で、うれしかった。
ますます勉強をがんばろうと思った。
🍀24
そして全塾テストでも、成績が伸びていった。
中学部になると、全塾テストは毎月で…クラス分けも毎月行われた。
上位者一覧にも名前が載るようになり…
坂井くんと同じクラスになることができた。
学校ではクラスがちがうけど…
週4日の塾ではクラスがいっしょ。
坂井くんに会えるのがうれしくて…
木村先生の授業はおもしろくてわかりやすくて…
同じ学校の子はもちろん、ちがう学校の子たちとも仲良くなり…
勉強もがんばっただけ成果が出たし…
塾に通うのが楽しかった。
🍀25
勉強をがんばって…がんばって…
成績は伸びる一方
そして夏の全塾テストで…
私は坂井くんに勝ってしまった。
え…?うそ…
私は複雑な気分だった。
私の成績も上がったが、坂井くんの成績が下がったことも起因していた。
追いつきたかった…
坂井くんより少し下くらいの成績を目指していた…
私は坂井くんを抜いたことに、なぜかショックを受けた…
🍀26
坂井くんは、中学校に入ってから部活をがんばっていた。
私は部活には入らず、主に勉強、たまに友達と遊ぶ…そんな日々を送っていた。
成績が逆転してもおかしくない。
坂井くんの成績は落ちていき、秋には私が上のクラス、坂井くんが下のクラスになってしまった。
結局、クラスは離れ離れ…
私が勉強に手を抜けば、同じクラスになれる…なんて思ったこともあった。
でも私は勉強をがんばりつづけた。
周囲の期待に応えたくて…
坂井くんは
「榊はすごいな。こんなに成績よくて」と言っていた…
私があなたに対してずっと思っていたこと…
私はあなたに追いつきたくてがんばってきたの…
🍀27
塾でクラスが分かれてしまったからには、学校で同じクラスになりたかった…
はやく2年生になりたかった。
クラス替えが待ち遠しかった…
私が坂井くんを好きだということは、だれにも言っていなかった。
坂井くんは学校の成績は悪く…態度もあまりよくなく、不良寄りだった。
私は成績優秀・クラス委員長のみんなが認める優等生で…
「なんて坂井なのー!?」と言われることは目に見えていたからだ…
でも私は…
小学生のときに知った、彼のやさしさが忘れられず…
ずっと想いつづけていた。
🍀28
そして待ちに待った進級、クラス替え。
しかし…またもや坂井くんとはクラスが違った。
でも今回は1組と2組…
隣のクラス…1年生のときを考えれば近くなった。
塾での成績は開きが大きくなる一方で…
とうとう坂井くんは、上位者一覧に載ることもなくなってしまった。
このまま、成績は悪いままなのかな…
ということは、高校は分かれちゃうな…
坂井くんと同じ高校を受けるって言ったら、お母さんも学校の先生も塾の先生も…みんな必死になってとめるに決まってる…
🍀29
3年生こそ同じクラスになりたい…
私の願いは、またもや叶わなかった。
結局3年間、クラスはばらばら…
そして悲しむ私に追い討ちをかけるかのように…
坂井くんは塾をやめてしまった。
本当に、話す機会すら失ってしまった。
中学3年生…
私は高校受験をがんばろうと思った。
坂井くんとは高校が離れてしまうだろうけど…自分の行きたい高校に行こう。
私の志望校は、家から一番近い高校で、地域の二番手校。
塾の先生たちにはトップ校を受けるよう、親子そろって散々説得されたが…
私も母も折れることはなかった。
🍀30
私の行きたい高校へ行けばいいと言ってくれた母に感謝した。
坂井くんがやめたあとも、塾には楽しく通った。
友だちも先生たちも、大好きだったから。
塾は私の居場所…
そんなふうにさえ感じていた。
学校のない日は朝8時から夜11時まで塾にこもり…
木村先生には「もう塾に住んでるな笑」と言われた。
そして塾に“住む”ようになって気づいたことが一つ…
>> 30
🍀31
気づいたこと…
疑問に思ったこと
それは
塾の先生たちはいつ寝ていつごはん食べてるの?
ということ
特に教室長の木村先生は…
朝から夜までずっといて…
授業授業授業…
授業の合間にも生徒たちが質問にいく。
質問だけじゃなくてじゃれにいく。
木村先生の授業は本当におもしろくて、全塾きってのスター講師だった。
生徒からの人気も、塾本部からの期待も絶大だった。
私は当時、
私が出会った人のなかで一番、『人気者』って言葉が似合う人だなぁと思っていた
いや、今でも一番だ…
そんな木村先生は、教室が閉まったあとも、教室長会議や講師研修やらで、夜中の3時…ひどいときは朝方の5時まで本部で仕事をしていた。
🍀32
ほかの生徒たちは知らなかったが…
塾で一番塾に住んでいた私に、木村先生は愚痴なのか話してくれた。
私は先生が心配になった。
先生と…先生の家庭が。
うちの両親の離婚の原因の一つに、父の仕事が忙しすぎることがあった。
失礼だよなぁと思いつつも…
「先生…奥さんや娘さんたちと話す時間とかあるんですか?」ときいた。
「まぁ…ないね。もう見捨てられてるかんじかな…」
「でも…娘さんたちまだ小さいですよね?パパと遊べなくて寂しいんじゃ…」
先生…娘さんたちがかわいくないの?
子供がかわいくない親は家庭をかえりみずに仕事をするの?
🍀33
「先生…娘さんたちのお名前は?」
私の口からふと出た質問
「『みお』と『みき』だよ」
「…漢字は?」
「美しい桜で『美桜』、海が輝くで『海輝』…いい名前だろ」
そう言った先生の目は、とても優しく…今まで見たことがない穏やかな表情だった
あぁ…娘さんたちのことはちゃんと大事に思ってるんだな…
そんな顔するんだ…
そう思ったら安心して…
でも、安心以上の気持ちも感じていた。
🍀35
ばかだ…
私は本当にばかだ…
今でもそう思う。
娘さんたちのことを想う先生を見て、惹かれてしまったなんて…
先生は妻子持ち。
家庭を大切にしてほしい…
私は何も望まない。
ただ「かわいい生徒」でいられれば、それ以上何も望まない。
🍀36
塾に“住んでいた”だけあって、私はほかの生徒よりも先生と仲がよかった。
先生は私に、しょっちゅうちょっかいを出してきた。
それに私がつっこむ。
そんな私たちを見て、友達は「夫婦漫才みたい」だとか「どっちが年上かわかんない~」だとか言っていた。
そんな様子から…
先生のことを「かっこいい~」と騒ぐ女の子たちから、私はあまりよく思われていなかった。
でも私は、「かわいい生徒」ポジションを手放す気はなかった。
🍀38
受験が近づくと、塾講師の仕事はますます忙しくなる…
きのうも家に帰ったのは朝6時、そして8時には出勤…
そんな先生の体が心配だった。
そして、奥さんや娘さんたちとの仲も。
「先生…奥さんに愛想つかされたりしないんですか?」
私はまたこんな質問をした。
すると先生は
「…まぁ…みんなが思ってるとおりじゃないかな」
と言った。
…みんなが思ってるとおり…?
それって……
🍀39
それ以上はきけないままだった。
そのまま、私の高校入試が訪れ…一週間後には合格通知が届いた。
よかった…
でもこれでみんなの入試が終わるまで、塾にはもう行けない。
そしてこの塾には高等部はなかったため、塾も卒業になる…
先生に会えなくなる…
🍀40
みんなの入試が終わり、塾の卒業式がやってきた。
先生や友達に久しぶりに会えるのはうれしかったけど…
もう会えなくなる…
「久しぶり。合格おめでとう。」
「ありがとうございます…」
先生が話しかけてきてくれた。
「でも…もう塾に来れないと思うと…寂しいです…」
そう言う私に
「来たらいいよ。授業はないけど…自習しに。」
「…いいんですか?」
「みんなで来たらいいよ。あと、この春から個別指導も始まるんだ。大学生になったら、講師のアルバイトに来たらいいよ。」
アルバイト…先生といっしょに働ける…
私は
「必ず戻ってきます!」
と答えた。
🍀41
卒業式のあと…
先生に
「榊さん!ちょっと」
みんなに気づかれないように呼ばれ、視覚となる廊下に連れていかれた。
「ほんとは生徒には教えちゃだめなんだけど…」
そう言って手渡されたのは…
先生の携帯のメールアドレスが書かれたメモだった。
私は戸惑ったが、うれしくて受けとった。
主です。
すみません💦
🍀34が抜けていました…
まだタイトルの意味が通るまでには時間がかかりますが…よければお付き合いください🙇
名前をつけて保存
上書き保存
どちらが多いのか…
本当に男女でちがうのか…
最近考えていることです。
では、まだ続きます!
🍀43
結局…考えに考えた末…
「榊です。今までありがとうございました。志望校に合格できたのは、先生のおかげです。また遊びに行きますね。」
と…当たり障りのないメールを送った。
返信がきた。
「こちらこそありがとう。榊はがんばりやで、教えがいがあったし…いろいろ話したりするのも楽しかった。」
と…
メールは続いた。
入試が終わった直後は、一番仕事が落ち着いている。
また、高校に入るまえの春休み、友達と塾に遊びに行きもした。
友達にも先生とメールをしていることは黙っていた…
「ほんと生徒に教えちゃだめだけど…」
先生がそう言っていたからだ。
🍀44
ある日…
友達と塾にいると…
「ちょっと本部で仕事があるから」と言って、先生は塾をあとにした。
気にせず友達と高校から出された宿題をする。
入学前なのに宿題がある…進学校だから仕方ないか…
すると先生からメールがきた。
(さっき本部へ行くって言って出ていったのに…なんだろう?)そう思いながらメールを開くと…
メールの内容に目を疑った。
🍀46
だが、そのメールにはまだ続きがあった。
「実は離婚してるんだ」と…
「みんなの思ってるとおり」って…やっぱりそうだったんだ…
私はメールに返信できず、友達の前で平静を装うのに必死だった。
🍀47
先生が帰ってきた。
「先生おかえり~!」
友達は無邪気に言う。
私は顔を上げられない。
先生が講師室に戻る…
どうしよう
どうしよう
どうしよう
好きな人と両想い…?
私の頭の中はぐるぐるしすぎて、もう訳がわからなかった。
しばらくして、先生が廊下に出たのがわかった。
友達にはトイレに行くと言って、私も廊下へ出た。
私を見た先生は、例の視覚になっているところへ…
私もついていった。
🍀48
「ごめん…いきなりあんなメールして…」
「あ、いえ…」
「びっくりしたでしょ…」
「はい…」
私は小さな声で返事をする。
声が出ない…
「でも…本心だから」
どうしよう…
今ここで私が「好きです」って言ったら…
でも声にならず、私は倒れ込むように先生の胸に頭をのせた。
🍀50
また友達の前では平静を装い…
宿題をする。
全然解けないけど…
塾が閉まる時間となり、私たちは塾をあとにした。
「先生ばいば~い!」
そう手を振る友達の横で、うつむいたまま
「さようなら…」
と言うのがやっとだった。
家に帰ると…
先生からメールがきた。
🍀55
「…あ~あ…しちゃった…ごめん、いやだった?」
私は首を小さく横に振る
「じゃあ…もう一回してもいい…?」
私は受け入れた。
罪悪感でいっぱいだったが…
「いっしょにはいられません」とは言えなかった。
これが私の決断…
🍀56
まだ春休み。
相変わらず、友達と塾へ行く。
塾では何もないように振る舞うが…
例の死角となる場所で、抱き合ったりキスしたり…
そんなことも結構繰り返していた。
そして滅多とない先生の休みの日…
二人で出かけた。
🍀57
ウィンドウショッピングをしたり、公園を散歩したり…
でもその最中も、生徒やその保護者…それに他の先生や卒業生…だれかに見つかったらどうしよう…と不安だった。
それに…私たちってどういう関係に見えるんだろう…?
親子でもおかしくない年の差。
先生は10~15歳若く見えるけど…
怪しいよね…
でも先生は街中で手をつなぎたがる。
気にしてるのは私だけ…?
🍀58
「あっ先生見てください!ねこがいますよー!かわいい~」
…私ははっとした。
外で大声で『先生』と呼んでいいのだろうか…
「…『先生』って呼ぶのやめてほしいなぁ。あと敬語も」
「え…っいやっ無理です!!」
「名前で呼んでよ…なゆ…」
『なゆ』…名前で呼ばれるのはうれしかった…
私が名前で呼べば、先生もよろこんでくれるのだろう。
でも…恥ずかしくて…無理だった…
🍀59
春休みは明け、私の高校の入学式。
時期が早かったため、桜は咲く気配もなく残念だったが…淡い水色の空に心が躍った。
私はどうやら早く着きすぎたらしい…教室にはまだだれもいなかった。
ひまだなぁ~と思っていると、先生からメール。
「高校入学おめでとう。やっぱり同い年がいいとか言って浮気するなよ。」
「ありがとうございます。浮気なんてしませんよ!」
と返信した。
ところで…私はこの高校で、探している人がいた。
🍀60
さがしているのは…美佐ちゃん。
面識はない。
美佐ちゃんのお父さんは、教室は違えど私が通っていた塾の講師だそう。
木村先生と、美佐ちゃんのお父さんとは仲がいいらしい…
そして美佐ちゃんは私と同い年で、偶然にも同じ高校に入学が決まったらしい…
たまたまそう知った。
🍀61
だれも来ない…
そう思って私が教室から出ようとすると、一人の女の子が教室に入ってきた。
美人で少しギャルっぽい女の子。
私は
「おはよう!このクラスですか」
と話しかけた。
「うん。」
「私もです!はじめまして、榊なゆです。」
「持田美佐です、よろしく~」
「あ!持田先生の娘さん…?」
「そうだよ~!お父さんの生徒だったの?」
この高校ではじめて会った子が、なんと探していた美佐ちゃんで…
驚いたのを今でも覚えている。
🍀63
美佐ちゃんは、木村先生が離婚したことは知らないようだった。
持田先生が娘に言ってないのか、持田先生も知らないのか…まぁそれはいい。
仲のよかった家族が、なぜばらばらになってしまったのか…
それは、うちにも言えることだけど…
🍀65
でもやっぱり気になって…
数日後、私は先生にきいてしまった。
先生の過去、家族のこと…すべてを知りたいと思った。
「先生…先生はその…いつ離婚したんですか?」
私の突然の質問
「…去年の春」
およそ一年前…
思っていたよりも最近だった。
「どうして…離婚したんですか?」
「…なんでそんなこときくんだ?」
「気になって…あと奥さんどんな人だったのかなぁとか…」
この発言で、空気がかわったのがわかった。
「そんなこときいてどうするんだ!なゆは俺の過去が気になるわけ?俺はなゆとの未来を見たいんだよ」
はじめて怒られた。
私との未来…本当にそんなこと考えてるの?
🍀66
これが、最初で最後の大喧嘩の火種になった…
このあとしばらく、メールも無視されてしまった。
それでも私はひたすら謝罪のメールを送った。
やっと会ってくれることとなり、「じゃあ仲直りのキスな」ってされたキスが、一番うれしかったことだけは今でも覚えている…
🍀67
その日は30分ほどしか会えなかった。
そして、その夜中にメールがきた。
「俺にはなゆが本当に大切なんだ…。これを『愛してる』っていうのかな」と…
でも私は…
じゃあ奥さんのことは愛してなかったの?
愛してない人との間に二人の子をもうけたの?
…そんなことないでしょ?
そう考えて…喜べたりはしなかった。
🍀68
私が好きだから、それでいい…
そう思っていた。
初夏が近づいたある日…
二人で出かけることになった。
かなり久しぶりの先生の休みで、一日かけてのデートも久しぶり。
めったとない休みの日を、私にくれるだけでうれしかった。
いつもどおり車を走らせる。
他愛のない話をしながら…
しかし今日はいつもと違った。
急に車を止めたかと思ったら…
「襲ったりしないから…二人っきりになりたい。」と言われた。
私の目をまっすぐに見ながら…
そんなふうに見つめられたら…
断れなかった。
🍀69
車から降ろされ、手を引かれ向かったのはホテル…
お城じゃなかったのに何となく安心した笑
私にはもちろん初めてで、鍵の借り方一つをとっても驚きだった。
内心…
慣れてるなぁ…
まぁそうだよね…
と思いながらついていく。
エレベーターで
「うれしいよ…」
と抱きしめられた。
襲ったりしない、とか言ってたけど…そんなことないんだろうな…
そう感じていた。
🍀70
部屋に入る。
部屋にはテレビとソファー、テーブル、それとベッドだけで、意外と無機質だな…と思った。
ソファーに隣り合って座る。
なぜかもう一人くらい座れそうな間をあけて…
また話すのは他愛のないこと。
相変わらずソファーは人一人分あいていて、先生は指一本触れてこない。
安心させるための作戦か?と思いつつ、私がさびしくなって距離を詰め、手を握る。
でもそれ以上はなく…
すると突然先生が立ち上がった。
私はよくわからず、とっさに抱き着き、自分からキスをした…
すぐに主導権は奪われ…
「ベッド行こうか…」
そう言って、先生は私の手を引いた。
🍀71
私にはあまり知識がなかった…
ただされるがまま…
ただ受け入れる…
私のことだけを見て、私だけに集中して…それがうれしかったから、特に抵抗はしなかった…
しかし、結果から言うと…
痛くて無理だった…
🍀72
「ごめん。痛いならいいよ。」って頭を撫で、抱きしめてくれたから…それでよかった。
しばらく横になりながら話したりうとうとしたり…
「出よっか」先生が言った。
そのあとは街をぶらぶらし、帰宅した。
🍀73
季節は夏を迎え、夏期講習で先生は忙しくなった。
夏以降は、本当に休みなんてない…
それは、元生徒の私はよくわかっている。
「会いたい」と喚かないので、先生にとって都合がいいだろう…
久しぶりに塾に遊びに行った。
すると見たことのない、若い人が何人かいた…
どうやら今年から始まった、個別指導の大学生講師らしい。
みんなここの卒業生。
私が3年後、そうでありたい姿…
🍀74
私は、大学生のアルバイトさんたちとも仲良くなった。
慎也さん、ひかりさん、晶子(あきこ)さん。
この3人は木村先生ととても仲が良く、私も仲良くしてもらった。
慎也さんは私の高校の先輩でもあった。
ひかりさんは派手めな人で、晶子さんは対照的に少し暗めな印象だった。
🍀75
夏休みはデートは無理だろうな…と思っていたが、先生はなんとか時間をつくってくれた。
お茶するだけの時間しかなかったが…
「…なゆ、満田のことどう思う?」
突然の先生からの質問。
満田はひかりさんの苗字だ。
「どうって…仲良くしていただいてますし、いい人だと思いますけど…」
「だよな。なゆは満田たちと仲いいもんな…」
「…それがどうしたんですか?」
先生はしばらくの沈黙のあと…
「いや…黙っててもアレだし言うけど…満田に告白された」
私は意外と冷静だった…
だって、何となく感じていたから。
同じ人を好きな者の勘みたいなもの?
とにかく、ひかりさんの先生への接し方で、そう感じていた…
🍀76
「そうなんですか…じゃあバイトも、先生のそばにいたいから…?」
そうだけ言った私に、先生は
「いや、あいつは教師志望だから…そのためだと思うよ」
そう返した。
そして
「あ、もちろん断ったからね…?」
と付け足した。
…ライバルの出現に、私は驚くほど冷静だった…
バイトのひかりさんに比べれば、私のほうが先生に会える時間は、圧倒的に少ないのに。
私たちをつなぐのは、主に夜中のメールだった。
そのため私はいつも寝不足だった。
🍀77
夏休みがあけた。
高校生活は正直なところ…そんなに楽しいものではなかった。
美佐ちゃんをはじめ、クラスのみんなとは仲がよかったし…成績もよかったので先生たちからもかわいがられていた。
でも…いつも私はどこか上の空で…先生のことばかり考えていた。
会いたい。
声がききたい。
抱きしめてほしい…
メールすら、一ヶ月近くこないこともあった。
会えるのは三ヶ月に一度くらい…
ただ幸いなことに(?)私はカップルイベントには興味がなかった。
私の誕生日やクリスマス・お正月はスルーされたが別に気にならなかった。
私もバレンタインはスルー、先生の誕生日も、一日おくれてメールをしたのみ。
そして、「あの日」から一年が過ぎた。
私はもうすぐ高校2年生になる…
🍀78
高校2年生になる前の春休み、友達と出掛けていたのから帰ってくると…
「なゆ、あなたに電話があったわよ。中学がいっしょだった石井くんって人から…そんな人いた?」と母。
「石井…?う~ん…いたような…でも顔覚えてないや。クラスいっしょだったけ…卒業アルバム見てみる」
私は卒業アルバムをめくった。
たった1年まえなのに…なつかしい…
そして…いた…石井くん。
3年生で同じクラス。
たった1年まえなのに…忘れていた私って…薄情だなぁ…笑
🍀79
しかし…何の用で電話してきたのか…
1年で忘れるような人…仲がよかったわけがない。
気にはなったが、向こうの連絡先がわからない。
まぁいいか…とほっておいた。
一週間後くらいだろうか…
電話が鳴った。
母が出て、「例の石井くんから」と代わられる。
「もしもし…」
私は恐る恐る電話に出た。
🍀80
「あっ榊なゆさん?」
男の子の明るい声…
「はい…そうですけど…」
「中学がいっしょだった石井って覚えてる?」
「あぁはい…」
…本当はこの間確かめたけど
この人が「石井」だろうから…
「俺、高校で石井といっしょで…あいつのダチ!」
「…はい?」
なっ本人じゃないの!?
友達って…あなたはだれですか…
🍀81
「あ、石井にかわるから」
あぁかわるのね…
びっくりしたじゃない…
「石井が電話するのに勇気が出ないって言うからさぁ、俺がかけたの!じゃあ、ほら石井」
「もしもし…石井です」
「あの…ご用件は…?」
「えっと…その…」
「はい」
「だから…その…」
「はい、何でしょう?」
だんだんいらいらしてきた。
「あの、用がないなら切りますよ?」
「あっ待って!実は…榊さんのこと、ずっと好きだったんだ…」
…はい?
🍀82
いやいやいやいや…
私の記憶に残っていないくらいだから、関わりはなかったはず…なのになぜ?
「中3で同じクラスになったとき…一目惚れしたんだ」
この言葉が私を怒らせた。
私は『一目惚れ』が嫌いだ。
外見だけで何がわかるの?と…
「ごめんなさい。じゃあ…」
と言って電話を切った。
🍀83
卒業してから1年経ったというのにいまさら…と思った。
そして何より一目惚れ発言にむかむかした。
私は外見と性格が一致しないとよく言われる…
そのため、外見だけで判断されるのが嫌だった。
さて…この一件は、先生に言うべきなのか?
先生がひかりさんのことを私に言ったからには…言うべきなんだろうな…そう考えた。
🍀84
先生はこの春、新たに本部での仕事を任されたらしい…
そういうわけで、ますます会う時間もメールする時間もなく…
ただ、「伝えたいことがあります」とだけメールしておいた。
夜中、メールが返ってきた。
それに返信する。
「逆のとき私には言ったし、言ってほしいのかと思いまして…。中学のときの同級生に告白されました。」
返信がきた。
私はその返信にショックを受ける…
🍀85
「俺といても、なゆは幸せにはなれないと思う。その人のところに行ったほうがいいんじゃないかな。」
…いやだ。
私には先生しかいないのに!
「私が幸せかどうかは、私が決めることです。私は、先生なくして幸せにはなれません。」
そう送っても先生は…
「なゆのためには別れたほうがいい」との意見を返してくる。
私は必死だった。
必死に先生にしがみついた…
🍀87
高2になり、私は大学受験のために予備校に通いだした。
私も忙しくなり…メールがさらに減り、会えるのは2、3ヶ月に1度に数十分。
忙しいのはわかっているから、わがまま言って困らせたりしない。
ひたすら「ものわかりのいい彼女」であり続ける…
正直、もう恋人同士とは言えないような関係…
それでも私は先生のことが好きだったから、執着していた。
🍀88
高校や予備校で、男の子から好意を寄せられたことも…何度かあった。
でも私には先生しかいない。
また「離れたほうが幸せだ」なんて言われないように、先生には何も言わない。
今は勉強をがんばる。
先生が喜んでくれるから。
ひかりさんや晶子さんの通う大学は、決して偏差値の高いところではなかったが…
講師のアルバイトには、学歴はいいほうが有利に決まっている。
大学生になったら、塾で働く。
2年後先生といっしょに働くために…今は勉強をがんばる。
🍀89
塾は、初めて私にできた「居場所」だったから…帰りたくて仕方がなかった。
大好きな塾で、大好きな先生と働く…
今まで目標なんてなく生きてきた私の、初めての夢。
しかし…私のこのささやかな夢が、脅かされることとなる…
🍀90
高2の初冬…
先生からのメール。
「俺、異動になるかも…」
異動…?
そうか…うちの塾のスター講師だもんね…異動になったっておかしくない。
先生が異動になったら、いっしょに働けない…
いや、私が先生の異動先の教室で働けばいいのか…
でも、私は自分が過ごした教室で働きたい。
それに、私はほかの先生たちのことも大好きだ。
やっぱり、この教室じゃなきゃいやだ。
異動になる『かも』…
異動になりませんように…
せめて、あと1年半…
少しでもいいから、この教室で先生と働きたい…
そう願った。
🍀92
「なゆ…あなたのお父さんね、再婚して子供も生まれてるらしくてね…今の奥さんが、お父さんが私やなゆとのかかわりを絶てって言ってるそうなの…」
かかわり?
父とは全く会ってない…いや連絡すらとりあっていない。
母は続ける。
「でね、養育費が一気に振り込まれてたわ…」
…そこまでする!?
なんて身勝手な女なの…
私はそう思った。
それは…離婚歴のある人といっしょにいるためには、理解しなければいけないことでしょ?
私は…先生にそんなこと言わない…
おとなげない、情けない、自己中な女…
🍀93
その女に嫌悪感を抱くとともに…
私の罪悪感は強くなった。
私は先生に娘さんたちに会うなとかは言わないにしても、私っていやな存在だよね…
同じ「子供」の立場…
娘さんたちの気持ちは痛いほどよくわかるから…
🍀95
もうすぐ3年生…
受験勉強が本格化し、私は学校の補講や予備校に忙しかった。
会う時間はつくれず…
やっと会えたのはお正月。
お正月はさすがに塾も私の予備校もお休みだ。
とは言え、先生は仕事、私も勉強があったので会えたのは数時間。
それでも満足。
しかし…この夜、最大の事件が起こる…
🍀100
連絡をとらない
別に私たちにとっては普通のことだった…
2ヶ月後、先生から「元気?」とメール。
しかし私は返信しない。
返信しなかったことなんてなかったから…
数日後、「体調崩してる?」とまたメールがきた。
今回は返信した。
「もう会えません。連絡もとりません。」と…
主です。
🍀100を迎えました。
読んでくださっている方は、ありがとうございます。
この話は実話でして、徐々に現在の私に近づいてきます…
私の記憶を元に書いていますし、わかりにくい箇所もあるかと思いますが…
よければお付き合いください!
🍀101
先生に別れを告げて、つらかったが…
そろそろ罪悪感に耐え切れなくなっていたので、そういう意味では気が楽になった…
とにもかくにも、今は勉強。
大学入試まであと一年。
別れたとはいえ、先生をがっかりさせるような結果になりたくない。
私の第一志望は、国立大。
🍀102
昔から、私には勉強しかなかった…
運動は苦手で、芸術的なセンスもない。音痴だし…
そしてやっと手に入れた大好きな人も失った私には…もう本当に勉強しか残っていなかった。
しかし…
私は勉強も手放すことになる。
🍀104
夏も終わり、秋がやってきた。
ある日、幼なじみの絢から、
「一緒にオープンキャンパス行ってくれない?」
と頼まれた。
その大学はすぐ近所で、この辺りでは最難関の私立大学。
私はその大学を滑り止めにするつもりだったし、あまりにも絢が必死に頼むので…行くことにした。
絢は勉強はあまり得意でなく、高校も別だった。
🍀105
私立大学ということもあり、学舎はとてもきれい…
学食もおいしいし…笑
キャンパス内は緑が溢れていて、学生たちもキラキラしていた。
この大学なら、楽しい学生生活を送れそう…そう思った。
学部も…私が学びたいものに近い学部があった。
🍀106
私、この大学に通いたい…
そう思った。
絢も絢で、すっかり気に入ったようだ。
「なゆも一緒に通おうよー」と言っていた。
志望大学の変更…
予想通り、高校の先生も予備校も猛反対だった。
しかし私は押し切った。
🍀107
私は勉強を手放し、自分の思いを重視した。
春…私は晴れて地元の私立大学に入学した。
先生のことを吹っ切りたい…新しい生活、それに…新しい恋?を手に入れるんだ!と、私は意気込んでいた。
今まで、勉強ばかりで部活もアルバイトもしていなかった。
まずは部活に入って、アルバイトも始める!
🍀108
部活はすぐに決めた。
練習は平日は朝から夜まで、土日も午前中はあるという厳しいもの。
そうなると、アルバイトは土日の午後しかできない…
接客業なら土日のみでも雇ってくれるところがあるだろうと思ってさがした。
そして見つけた。
土日のみ可、時給もそこそこ、それに家からも近い…
決めた。
面接を受け、翌日には合格の電話をもらった。
🍀109
部活もバイトも決まり、大学生活は順風満帆な滑り出し…
綾はこの大学に落ちてしまったし、私には同じ大学に友達はいなかったが…部活でも学部でも、たくさん友達ができた。
勉強だけじゃない生活、初めて感じた『充実感』…
でも、先生は私の心から出ていってはくれない…
🍀110
アルバイト先には、なんと女の子がいなかった…
店長とチーフ、あと社員2人は男の人、そして学生アルバイターはみんな男の子だった…
そんなことは予想もしていなかった私は、紅一点が寂しかった。
ただ唯一の女の子、そして一番年下ということで、かなりかわいがられはしたが…
🍀111
店長は、どうやらアルバイターからはあまり好かれていないようだった。
一方チーフは、見るからに人のよさそうな人で、アルバイターからの人望もあるようだった。
社員の三木さんは、プレイボーイそうだな…と思った。私の研修をしてくれたのは三木さんだった。
もう一人の社員の佐原さんは、まだ入社一年目で、三木さんと比べると垢抜けていない印象を受けた。
🍀112
私に主に研修をしてくれたのは、三木さんだった。
そのため、やはり社員4人のなかで一番仲よくなった。
歳も近かったし…
佐原さんこそ歳が近かったが、あまりしゃべる人ではないのか…それほど仲よくはなかった。
チーフは、一回り年上でお父さんって感じだった。
二回り年上の先生とは恋人関係だったのに…不思議だ。
店長はセクハラ発言が多く…そこが好きになれなかった。
🍀113
一方部活では、飲み会が開かれた。
部員は私の学年だけで約30人いた。しかし厳しい練習に耐え切れず、辞めに辞めて現在は3分の1しか残っていない。男の子は3人しかいない。
この飲み会がきっかけで、私は一躍部の話題の的となってしまう…
原因は、3人のうち1人の男の子。
🍀114
先輩たちはみんな恋ばな好き。
後輩のスキャンダルを狙っている。
「部内に気になってる人いないの~?」この質問ばかりだ。
この質問に…小田くんが酔った勢いか、「なゆちゃん」と正直に答えてしまったのだ…
🍀115
一同騒然、のち大盛り上がり。
私は
なんなのこの人…
と声も出ない。
そして案の定翌日からも…
ずっと「なゆちゃんはどうなの~?」とか「小田くんのことどう思う!?」とか「もう付き合っちゃえ」とか…
とにかく騒がれた。
🍀116
そんな騒ぎで、私は少し疲れていた。
「おはようございま~す…」
バイトに出勤。
「いつもの元気はどうした~?なんかあったか?あっ、さては彼氏と喧嘩!?笑」
と三木さん。
「いえ違いますけど…」
と返答しつつ、接客業だもん元気に仕事しなきゃ!と気持ちを切り替えた。
「まぁとりあえず元気出せ。そうだ、今度どこか連れてってやるよ」
と今度はチーフ。
「…いいんですか?」
「榊の歓迎会も兼ねてやろう!三木、佐原にも声かけといて。」
「了解っす」
こうして、社員さんたちと出かけることになった。
🍀117
20代30代の男の人3人と、10代の女の子1人。
なんだか妙な4人組…笑
周りの目には、どういう関係に見えるのだろうか。
チーフの車で、ボウリング場やゲームセンターに連れていってもらった。
3人が協力して、私にとぬいぐるみをとってくれてうれしかった。
そのあとは居酒屋に連れていってもらった。
社会人と一緒では、未成年の私はお酒は飲めなかったが…
そして発見が一つ…
佐原さんって思ってたよりもしゃべる人なんだってこと。
佐原さんは三木さんと仲よくじゃれたりしていた。
私にも、いろいろ話しかけてくれた。
🍀118
居酒屋ではいろんな話をきくことができた。
「実は俺のほうが三木さんより年上なんだよね」
と佐原さん。
「え…佐原さん入社一年目ですよね?」
「うん。で、三木さんが二年目。だけど俺大学入るの遅れたから…」
「そうだったんですか…」
まぁ確かに、三木さんより佐原さんのほうが落ち着いてるよな…
でもそれは、佐原さんが寡黙な人だからかと思ってた。
🍀119
この私の歓迎会(?)以降、佐原さんともよく話すようになった。
そして佐原さんの仕事に対する姿勢なども見えてきた。
社員のなかでだれよりも、アルバイターのことを考えてくれていた。
そして、だから佐原さんを慕うアルバイターがたくさんいることも知った。
私も佐原さんを慕うようになった。
もちろんチーフも三木さんも好きだったが…
佐原さんに対してはなんだか…
別な感情もある気がした…
🍀120
先生のことを忘れたい、そのためにほかの人を好きになりたい…
ずっとそう思っていた。
けれど…
やっぱり、好きな人はだれかと聞かれたら…答えは『先生』だ…
佐原さんへのこの気持ちは、ただの憧れなのかな…
自分でもよくわからなかった。
🍀121
部活では…ある日
「なゆちゃん小田くんをふったの!?」
と、同い年の部員、亜衣ちゃんに言われた。
亜衣ちゃんとはかなり仲がよかった。
「えっ!?なにそれ!?ふるも何も…別に告白されてないし…」
「そうなの?じゃあなゆちゃんの態度を見て、小田くんがあきらめたってことだね」
私はよくわからなかったが…亜衣の話によると、小田くんが「なゆちゃんにはふられたも同然」と言ったそうだ。
私は特に冷たくしていたつもりはなかったが…
まぁあれだけ騒がれて私からは何も言わなければ、そうも思うか…
なんにせよ、あきらめてくれたならよかった。
🍀124
小田くんの行動を謎に思いながら、日々は過ぎていった。
季節は秋になっていた。
「お疲れさまでしたー」
そう言ってバイト先から帰ろうとすると…
チーフが
「榊、来週の木曜日空いてる?」
と聞いてきた。
「はい…空いてますけど…」
「よし、じゃあ俺と三木とまたご飯でも行かないか?佐原はその日無理だけど」
「いいんですか?行きます~!」
と元気に返事をしながらも
佐原さんは無理なのかぁ…
と考えてはっとした
なにがっかりしてるの!
チーフと三木さんに失礼だし!
🍀125
そして約束の木曜日。
チーフと三木さんと居酒屋へ行った。
部活に限らずここでもか…というか…
「榊は彼氏いないの?」
と三木さん
「いませんけど…」
「そうなの?いると思ってた~」
「…三木さんは彼女いますよね」
「まぁね」
「ですよね~。三木さんプレイボーイっぽいですもん」
「あぁ、こいつな、二股がバレて修羅場になったことがあるからな~」
とチーフ。
三木さんは見た目通りの人だ笑
🍀126
「モテる男はうらやましいわ!店で独り身は俺だけだしさ~。店長は既婚だし三木も佐原も彼女持ちだから」
あ…っ
佐原さんも彼女いるのか…
佐原さんには三木さんほどの華やかさはないけど…
20代半ばの男の人…彼女がいてもおかしくはないよね…
私はショックを受ける自分に気がついた…
🍀127
私はまだ、先生のことを忘れていない…
好きなのは先生…なのに
三木さんに彼女がいても何とも思わないのに、佐原さんだとショック…?
自分でもよくわからなかった。
ただ、ほかに好きな人ができれば先生のことを忘れられるかな…とは思っていたから…
何となくそばにいた佐原さんを「好きな人」に仕立てあげようとしてたのかな…
🍀128
ショックを表に出すわけにはいかない。
その後居酒屋でも、バイトのときも、いつも通り振る舞っていた。
佐原さんと働いていると、少し切なくはなったけど…
一方部活では、小田くんの行動がエスカレートしている気がする…
「高橋、なゆちゃんの隣座りなよ」とか、言葉にまで出すようになっていた。
そしてそう言われれば従う高橋くん。
よくわからない…
さらに極めつけに
部活で最後3人残ったのにもかかわわらず…
「2人で帰りなよ」と走って帰ってしまった小田くん…
何がしたいのか…
🍀129
高橋くんとしゃべってるのは楽しい。
笑いのツボが合うからかな…心地好い。
いつも通りしゃべり続けながら2人で歩く。
木々が色づいてきた…
少し散歩をしてから帰ろうということになった。
他愛もない話をし、冗談も言い合う…
しかし時々、高橋くんが黙り込むことがあった。
何考えてるのかな?
とは思ったが、あまり気にしなかった。
「風邪ひいたら困るしそろそろ帰ろっか」
私のこの言葉で解散した。
🍀130
夕飯を食べ、お風呂にも入り…
そろそろ寝ようかというときに電話が鳴った。
表示されているのは高橋くんの名前。
高橋くんとは会えばしゃべるけど、電話やメールはしたことがない。
だから何事かと思って電話を取った。
🍀131
「もしもし高橋くん?どうしたの!?」
「いや、その…今大丈夫?」
「大丈夫だよー」
しばらくの沈黙
「…電話でごめん。でも今日って自分の中で決めてたから…。本当は今日の帰りに…告白するつもりだったんだ。ってあれ、これが告白になっちゃった…?」
「…え?えっ!?」
私はただただびっくりしてしまい…
「…返事くれる?」
「え、ちょっと待って…混乱してて…明日!明日じゃだめ?」
「わかった」
「明日の4限ならお互い授業ないよね?だから4限に…私そのあとバイトだけど」
「俺もバイト。でも1時間くらいなら…」
「じゃあ明日…おやすみ」
そう言って電話を切った。
🍀132
……びっくりした…
確かに仲はよかったけど…
高橋くんはいわゆる草食系男子?だし…
過去に彼女はいなかったみたいだし…
いきなり告白されるなんて…
あぁ明日どうしよう…
何て返事しよう…
私はまだ、先生のことを忘れていない…
それに…佐原さんのことが頭をよぎる…
私、どうしちゃったのかな…
3人もの男の人の間で揺れる自分が許せなかった。
とにかくどうしようどうしようと考えて、眠れなかった…
🍀133
寝たのか寝てないのか自分でもわからないまま起床し登校。
1限の授業も上の空…
2限は授業がない。
亜衣ちゃんも1限授業で2限授業なかったな…と思い出し、電話をかける。
「もしもし亜衣ちゃん?2限ひま?」
「ひまだよー。どうしたの?」
「学食来てくれる?」
「うんわかったー行くね」
🍀134
亜衣ちゃんに相談したいけど…
醜い自分を知ってほしくないし、高橋くんのことを口外してしまっていいかわからない…
せっかく学食まで会いにきてくれたのに、私はうじうじしてて申し訳ないなぁと思っていると…
「なゆ…もしやついに高橋くんに告られた?」
「えっ!?」
「えって…そうなんでしょ?なに気づいてなかったの?高橋くんの気持ち。部員みんな知ってると思うけど…」
私は亜衣ちゃんの発言に唖然とした…
「見てたらバレバレだよ高橋くん。先輩たちにもいじられてたなぁ。まぁ、一番最初に高橋くんがなゆのこと好きなのに気づいたのは小田くんだったけど」
え…小田くんが…!?
🍀135
亜衣ちゃんは続ける
「小田くん、『高橋がなゆちゃんのこと好きなら応援する!俺よりも高橋のほうがなゆちゃんには合ってると思う』って言ってたよ。それで、2人をくっつけようとがんばってた笑」
あぁ…
小田くんの行動は…そういうこと…
「で!!なゆは何て返事したの!?」
「混乱しちゃって…今日返事する約束した」
「え~なゆも高橋くんのこと好きなんじゃないの!?」
「えぇ!?そんなこと…💦」
「自覚してないだけじゃない?」
自覚…?
私が好きだと『自覚』してるのは先生だけだ…
主です。
ただいま、人気スレッドの仲間入りをさせていただいていることに気がつきました(>_<)✨
読んでくださっている方がいるんだなぁと喜んでおります。
本当にありがとうございます!!
ただいま小説は、現在から見て「2年前」まできています。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
🍀136
「なゆの恋ばなって聞いたことないなぁ~。なに?ほかに好きな人いるの?」
亜衣ちゃんに言ったら呆れられるかなぁ
どうしよう…
私は迷ったが
意を決して
「その…元彼のことがまだ忘れられなくて…💦」
と言った。
「そうなんだ?別れたのいつ?」
「…2年近く前」
「引きずりすぎっ!でもなんかなゆらし~笑」
「…なゆはさ、高橋くんといるとどんな気持ち?」
「楽しいよ。もっと一緒にいたいと思う。」
「…それって好きってことなんじゃないのかなぁ。」
…そうなのかな…
🍀137
確かに、高橋くんが亜衣ちゃんとかほかの女の子たちじゃなくて、私のところに来てしゃべってくれるのはすごくうれしい…
好き…なのかなぁ…
「私はさ、なゆと高橋くん…付き合ってみたらいいと思う!ほかの部員たちもみんなそう思ってるよ」
「うん…でも、元彼引きずってる彼女とか嫌じゃない?」
「んー、高橋くんはそれでもふられるよりいいと思ってると思うよ。なんせなゆにベタ惚れだからさっ笑」
私は迷ったが…
「わかった。高橋くんにOKしてくる」
「うん!がんばって!」
🍀138
運命の4限目。
「3限終わったよ。どこに行けばいい?」
高橋くんからのメール。
指定した場所で待つ。
高橋くんの姿が見えた。
お互い恥ずかしくて近づけないのがよくわかる…
しかしそうしていては始まらないので、歩みより
「どこか行こうか」
と声をかける。
歩きはじめた私たちだけど、沈黙が続く…
沈黙を破ったのは高橋くんだった。
そこからは、聞いたこともないマシンガントークが始まった。
昨日の晩御飯のおかずとか、今日のお弁当のおかずとか、好きなおかずとか…
なぜかおかずの話ばかり…笑
🍀139
私から切り出すべきなのか…
でも私にも勇気がない…
そうこうしているうちに1時間が過ぎてしまった。
「高橋くん、私…そろそろ帰らないとバイトが…」
「あ、俺も…。駅に向かおうか」
駅までは…何を話したか覚えていない…
乗る電車は反対方面。
改札を通ったところで突然
「怖くて今まで切り出せなくてごめん…。返事くれる?」
「あ…えっと…」
心臓がうるさすぎてめまいがする…
なんで私がこんなに緊張してるの!私は返事する側なのに…私が告白するみたい…
『よろしくお願いします』とか一言言うだけでしょ!
向こうの気持ちわかってるのになんで怖がってるの!
こんなことが頭の中をずーっとぐるぐるしてる…
🍀140
電車が来てしまった。
これに乗らなければバイトに遅れてしまう…
「ごめん💦今夜電話するね!」
「わかった…こちらこそごめん。なかなか切り出せなくて…」
「じゃあね!」
別れ際に…高橋くんが
「気になって皿割るかも…」
と言った。
飲食店のキッチンで働いている高橋くん。
それがかわいくて…
OKしよう!と改めて思った。
🍀141
今夜ちゃんと電話して『よろしくお願いします』って言うんだ!
ずっと脳内で予行演習をしていた。
「…榊?榊!どうしたぼーっとして。」
しまったバイト中だった💦
「すみません!」
…佐原さん…
「何かあったのか?」
「いいえ!すみません、仕事に集中します」
「榊は真面目だなぁ…いや真面目すぎるな…」
🍀142
真面目すぎってことはないと思うけど…
限に今、仕事中にぼーっとしてたわけだし…
とにかく今は、高橋くんに返事をすることで頭がいっぱい。
いつもあっという間のバイトが長く感じる。
「お疲れさまでした~!」
退勤時刻とともに一目散に上がる。
携帯を手に取り
「バイト終わった~」
と高橋くんに送信…しようとした途端
「お疲れさま。バイト終わったよ。」
と高橋くんからメール。
以心伝心みたいでうれしい…
私は早速電話をかけた。
🍀143
すぐに電話に出てくれた。
「もしもし」
「バイトお疲れさま!」
「そっちもお疲れ~」
しかし脳内予行演出も虚しく、本題を切り出せない…
私は返事するだけなのに、私が怖がる意味がわからないって、またそればかりがぐるぐるしてる…
勇気出せ自分っ!
「あ…あのね…っ返事だけど…」
「うん。焦らなくてもいいけど、待たされるのもつらいからなぁ笑」
「ごめんね💦その…よろしくお願いします…」
「…本当に?」
「うん」
ほっとして…
今日やっと笑うことができた。
「あ、やっと笑ってくれた。今日ずっと笑ってくれないから…もうだめだと思ったよ~」
「えっ!ごめんね」
でも本当に心が軽くなって、あったかくなって…
だから、高橋くんと付き合うことにしてよかったって心底そう思った…
🍀144
「じゃあまた明日ね」
と電話を切り、また電話をかける。
応援してくれた亜衣ちゃんには知らせなきゃ。
「もしもしなゆ!?どうなったの?も~連絡ないから落ち着かなくて!」
「ごめん…あのね、今日大学では返事できなくて…今さっき電話でOKしたよ。」
「そうだったんだぁ…おめでとう!」
「ありがとう。明日…ほかの部員たちにも言うべきかな?」
「みんな応援してたからさ、言ったらみんな祝福してくれると思うよ!」
「そっかぁ…なんか恥ずかしいなぁ笑。でもみんなにも言うね」
電話を切ると、昨夜の睡眠不足せいか睡魔が襲ってきた。
安堵感いっぱいの中、私は眠りについた…。
🍀145
翌日、高橋くんとのことを話すと、みんな本当に喜んでくれた。
小田くんは、「俺がキューピッドだ!」って言っていたらしい(亜衣ちゃん談)。
ただ…一つ問題が浮上した…
高橋くんは、部員みんなといるときも、構わず私に寄ってくる。
必ず隣に座る。
2人きりで帰りたがる。
私は部員同士の輪を乱したくなかった…
いつも2人だけで固まっていては、周りはいい気がしないだろう…
🍀146
私は高橋くん言った。
「部内であんまりひっついてほしくないんだけど…みんなの目があるし…」と。
「なんで?いいじゃん。俺は一緒にいたい」
「私は輪を乱したくないの」
「みんな祝福してくれてるじゃん」
「そうだけど…とにかくお願い。部内であんまりべたべたしないで。」
高橋くんはしぶしぶ…とりあえず納得してくれた。
🍀147
私はそれから…
若干高橋くんを避け気味だったんだと思う…
亜衣ちゃんやほかの子からも
「高橋くんちょっとかわいそう。付き合ったら付き合う前よりもたくさん一緒にいられると思ってたみたいだから…晴れて恋人同士になれたっていうのになゆが避けるから、最近元気ないよ」
と言われてしまった…
さすがに申し訳なくなり、部でも少し一緒にいることにした。
とはいえまだ不十分みたい…
というわけで
「今度2人でどこか行こうよ」
とデートに誘った。
🍀148
誘ってみたはいいものの…
予定が合わない。
というか、私に時間がない。
毎日部活なのはお互い様だけど、私はその上土日は夜までバイト。
12月になれば、部活がオフになる。
それまで待つしかない…
「ごめん、12月に入らなきゃ無理だけど…」
「わかった。それまで楽しみにしとく笑。どこ行きたい?」
どこ…かぁ…
考えてなかった。
普通は映画とか遊園地とか?
…先生とは行ったことなかったなぁ…
って、先生のことはもう考えない!忘れるんだから…!!
「あ、高橋くんの地元に行きたいなっ!高橋くんが生まれ育った街を見てみたい…」
高橋くんが住むのは隣の県。電車で1時間半くらい。
「いいけど…何もないよ?いいの?」
「うん!」
「じゃあ日決めたら言って。迎えに行くし」
「ありがとう」
🍀149
12月になった。
デート当日、授業があった私を大学まで迎えに来てくれた高橋くん。
すぐに地元にUターンで申し訳なかった。
いつも乗る電車の違う路線、乗り換え。
それだけで何だか新鮮だった。
最後に乗り換えた電車は4両編成だった。
8両編成、10両編成の電車しか見たことのなかった私は、それだけで
「かわいい~~❤」
と声を上げた。
「かわいい、ねぇ…笑」
あ、高橋くん呆れた?
まぁいいやかわいいものはかわいいし!
🍀150
4両編成の電車に揺られて、終点まで行く。
結構な田舎なのかなぁと思いながら電車を降りると、駅は近代的なデザインできれい…私の最寄り駅よりも駅ビルも大きい。
「これからどうする?」
「とりあえずお散歩しよ!」
私たちのお決まり、お散歩。
歩いていると、大きな公園を見つけて入る。
池には水鳥がたくさんいて、私はまた「かわいい~」を連呼していた。
そして写真撮影。
🍀151
12月、日暮れがはやい…
私たちは温かい飲み物を買って、ベンチに腰掛けた。
腰掛けるとほぼ同時に、高橋くんに手を握られた。
突然でびっくりしたけどうれしくて…私は高橋くんの肩に身を預けた。
落ち着く、穏やかな時間…
幸せだなって思った…
🍀152
家に帰ると、メールが届いた。
高橋くんからだった。
「今日はありがとう。寒かったし疲れただろうから、あったかくしてゆっくり休んでね。」
文面にくすっと笑いながら返信。
「こちらこそありがとう!楽しかったよ。高橋くんの地元はかわいいものがいっぱいだね!」
「電車に鳥?鳥はわかるけど電車は…」
「えーかわいいよー!」
家に帰ってからも他愛のない話。
こんなやり取りが楽しいって思ってた。
🍀153
私は、いわゆるカップルイベントにはあまり興味がない。
先生とも、誕生日やクリスマス、バレンタインは何もしていない。
もうすぐクリスマスだけど…
私は別に何も考えていなかった。
クリスマスイヴには授業もあったし、部活の集まりもあった。
部活の集まりのあと…
普通に帰ろうとした私を、高橋くんが引き止めた。
🍀154
「今日…このあとどうする?」
んん??
どうするって…別に約束とかしてないよね…?
あぁでも高橋くんにとっては、カップルがクリスマスイヴを共に過ごすのは『当たり前』なんだな…
高橋くんを傷つけたくはないし…私に用事はないし…
「あ…どうしよっか」
と当たり障りのない返事をした。
そしてまた…とりあえずお散歩に笑
🍀156
手はずっとつないでる。
けど…それだけ。
私が初めての彼女みたいだし…
奥手だなぁ…
私は…
自分から抱き着いた。
私は言葉よりも行動で気持ちを表すタイプだ。
抱き着いたのから一旦離れ…
私からキスをした。
🍀157
あ…ファーストキス奪っちゃった??
さすがに男として、初めては自分からしたかった??
まずいことしちゃったかな…
と思っていると
んん!?あれ初めてだよね!?
と思うようなキスに変わっていました…笑
🍀158
クリスマスイヴ、星空の下で初めてのキス…
意図せずに、とてもロマンチックな想い出ができてしまった笑
そんなロマンチックな一夜のあと…しばらくはバイト漬けの日々が始まる。
年明けまでほぼ休みなく、10時間働く日々…
🍀159
年末年始、主にシフトがかぶったのは三木さんだった。
「やっぱり接客は女の子のほうがいいね~。なんでこの店は野郎ばっかかな…」
…三木さんてばそればかり。
年末年始は想像を絶する忙しさで…走り回って、本当に目が回った笑
でも三木さんと働くのは楽しかった。
私の上がりと交代で、佐原さんが出勤する。
「榊お疲れ。忙しかった?」
「忙しかったですよ~。あとお願いします。」
佐原さんと入れ違いなのが…少し残念だなって思ったけど…
いろいろ考える余裕などなく、家はご飯とお風呂と寝るためだけの場所…
年が明けたけど…
高橋くんに年賀メールもしていない…
だめ…しんどい…
明日もバイトだし…
おやすみなさい…
🍀160
そんな日々を送っていて…
高橋くんにメールをしたのは、お正月ムードも消えかけたころだった。
「遅くなってごめんね💦いまさらかもだけど…あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう。バイト忙しかったんだね。」
「冬休み…1回も会えなくてごめんね(>_<)」
「年末年始は忙しいんだもんね。また落ち着いたらどこか行こうね」
「うん…ありがとう」
冬休みは本当にあっという間…
冬休みが明ければ、すぐに大学のテストが始まる。
🍀161
バイト漬けの毎日から、テスト勉強とレポートに追われる毎日にかわる…
高橋くんとは合間合間にメールで励まし合った。
テストが終わったら会おうねって約束して…
テスト期間が終わると、部活のオフも明ける。
お互い、テスト期間の最終日までテストがあるわけではなかったから…
部活が再開するまでの、その隙間に会う約束をした。
🍀162
今回のデートは、繁華街をぶらぶらすることになった。
しかし…そこからどこへ行くかがなかなか決まらない。
私たちはお互い、かなりの優柔不断だ…
何となく歩き、いくつかお店を見てみたりしたが…
なんだか疲れてしまった。
私たちにはお散歩が合っている…と、また高橋くんの地元の公園に行くことになった。
水鳥たちに会いたいし!
🍀163
公園に着き、ベンチで寄り添いながら水鳥を眺める。
いきなり高橋くんが
「髪…ずっと長いの?」
と聞いてきた。
私の髪は、胸まである黒髪のストレート。
「ずっとセミロングかロングだなぁ…」
「そっか。俺は…短い髪のほうが好きなんだよね」
…それは、切ってほしいってことですか…!?
「まぁ別にただ単に俺の好みなんだけど」
🍀164
たまには髪型を変えてみるのもありかな…
そういえば先生は、長い髪がきれいだねって言ってたな…
今は高橋くんが彼氏だもん。
高橋くん色に染まって、先生のことを忘れてしまいたい…
よし!
髪切ろう!
私は決心した。
🍀166
「おはようございまーす」
部活のあとは、バイトへと出勤。
「おはよう榊…髪どうした?失恋か?笑」
そう話し掛けてきたのは…三木さんではなく佐原さん。
三木さんのほうがそういうこと言いそうなのにな…と思った。
「失恋じゃないですよっ」
そう返答だけして、仕事に取り掛かる。
後を追ってくる佐原さん。
「そっか…長いほうが似合ってたのに」
「な…っ佐原さんの好みなんて知りませんよっ!」
佐原さんを振り切り仕事をする。
どきどきしてるのが自分でもわかる…
このどきどきは一体何なのだろうか…
🍀167
佐原さんが隣から話し掛けてくる。
「榊、あの在庫ってまだあった?」
「倉庫の手前から2列目の棚の、右上にありますよ」
私は前を向いたまま返答する…
短くなった髪では、顔が隠れない…
早く倉庫へ行ってください…
しかし私の願いも虚しく…
「さっき見つからなかったんだよね…一緒に倉庫来て」
「…はい…」
そう返事するしかない。
🍀168
もので溢れた倉庫は狭い…
近いです佐原さん…
「…なぁ、榊はこの仕事好き?」
「へっ!?何ですかいきなり…。好きですよ?ほかのスタッフや社員さんもみんな好きですし…女一人はちょっと寂しいですけど」
「そっかぁ…まぁなら榊がいる間は俺も辞めないわ」
え…?
私が何を言う間もなく、目的のものを持って佐原さんは倉庫を出ていってしまった。
🍀169
佐原さん、仕事嫌なの…?
もやもやしたまま、部活はさらに忙しくなる…
しばらくバイトには行けなかった。
部活で高橋くんとのデートの時間もとれなかった。
でも毎日部活で会えるから、それでいいと思っていた。
🍀170
「おはようございます。お久しぶりです」
久々のバイト。
「お~榊!久しぶりだな」
チーフと三木さん。
「長らくお休みをいただいてすみませんでした」
「あ、そうそう、また三木と飲む約束してるんだけど、榊も来ないか?また佐原は無理なんだけどな…」
またまたこのメンバーで集まることとなりました。
🍀171
飲み会(?)当日。
「榊、お前まだ彼氏いないのか?」
いきなりの三木さんの発言に、意表をつかれてあわてふためいてしまった私…
「えっ、なに彼氏できたのか?」
チーフまでのってくる…
もう隠せないな…
ってか隠す必要もないし
「え~…あ、はい…」
そこからは質問攻めにあった。
🍀172
「どこで知り合ったん!?まぁどうせ部活だろうけど」
「…そのどうせですけど…」
「先輩か!?榊は年上彼氏が似合う!」
「いえ同い年です…」
「えっ意外!」
「告白はどっちから?…って榊は自分からするタイプじゃないよな」
「…まぁそうですねぇ…」
「名前は!?」
「聞いてどうするんですか!」
こんな感じでこの日は持ち切りだった。
チーフはまた、「俺だけ独り者」って嘆いていた…
🍀173
バイトを長く休んでいたため、春休みはまたバイト漬けの毎日。
高橋くんと会う時間はつくれなかった。
私は別に平気だった…
先生と滅多に会えなかったのに慣れていたためか…平気だった。
まだ先生を忘れられていないためでもあったのかな…
🍀174
会う時間はつくれなくとも、メールはしていた。
メールを送るのはいつも私からで…少し寂しかった。
でも、高橋くんはとにかく会いたがってくれていた。
「ごめん…バイトが忙しくて」
そうメールする。
週6で9時間入っていると、残り1日は休みたい…
それが私の本心だった。
すると…
「バイトと俺とどっちが大切なの?」
と返ってきた。
🍀175
どっちがって…
比べるものじゃないし…
このとき、自分は『仕事人間』なんだなって知った…
バイトは楽しい。
チーフも三木さんも佐原さんも好き。
3人と働くのが楽しい。
3人の掛け合いを見てるのが好き。
しかし…それが終わりに近づいていた…
🍀176
春休みも終わりに近づいたころ…
チーフに呼ばれた。
「まだここだけの話な。榊には言うけど…」
前置きで鼓動が速くなるのがわかる…
「三木がな、異動になった。あいつ、お前のこと本当にかわいがってたから…。最後まで楽しく働いてやって。あ、本人が言うまでは知らないふりな。俺のおせっかいだから。」
三木さんが…異動…
私を育ててくれて、いつも笑い合いながら仕事をしてきた、大好きな三木さん
悲しくないわけはない…けど
「どこのお店に異動なんですか?」
「あぁ…〇〇店だよ」
「じゃあ栄転ですね」
おめでとうございますって言わなきゃ…
🍀177
チーフに言われたとおり、三木さんの前では何も知らないふりをしなければ…
しかしやはり顔に出たのか…
「なに?今度こそ失恋か?」
佐原さんにそう話し掛けられた。
佐原さんには話してもいいのかな…
「…だって…三木さん…」
「あぁ、知ってるのか…。俺だってショックだよ。三木さんがいなくなるなら、俺もう辞めたい…」
えぇどんだけ~
そんなに三木さんが好きなのかっ!
「…私がいるうちは辞めないんじゃなかったんですか?」
「そうだな…」
そうだな なんだ…
🍀178
三木さんの異動は、今から2週間後…
もう2週間しか一緒に働けないんだ…
しかも来週からは部活の勧誘が始まるから、あまりバイトに来れない…
シフトかぶってるの、何日だろう…
「おはよう榊~」
三木さんが出勤してきた。
佐原さんには気づかれちゃったし…
元気にふるまわなきゃ!
「おはようございまーす!」
🍀179
部活の勧誘期間が始まった。
練習が厳しいため、部員は3分の1残ればいいほう…
だから、それを見据えて必死に勧誘しなければならない。
「あっなゆ見て見て!あのコ、イケメンじゃない??」
「じゃあ亜衣ちゃん勧誘してきなよ」
「イケメンには緊張するから無理ぃ~…」
「え~なにそれ~笑。私はあの女の子たち勧誘してくる!」
かわいい女の子を入れるんだ!
そう私は張り切っていた。
かわいい女の子…
後々悩まされることになるとは知らずに…
🍀180
この年、女の子がたくさん入ってくれた。
男の子は少ない…
私たちの学年と一緒。
さて何人残るかな…
私と高橋くんが付き合っていることは、すぐさま1年生たちに知れ渡ったようだった。
一緒に帰ったりしたからだろうな。
隠す気なんてないからいいんだけど。
🍀181
そして、あっという間に三木さんの最後の出勤日の前日になった。
社員とアルバイターとの関わりが深い職場で、アルバイターを動揺させないためか…
前日まで、三木さんの異動は公表されなかった。
ほかのアルバイターたちも、悲しんでいた…
私は三木さんに
「今日と明日、一緒に最高の仕事をしましょう!」
と誓った。
三木さんはすごく喜んでくれた。
🍀182
そして迎えた最終日…
寂しさでいっぱいだったが…
「他店に行かれるということは…これからライバルですね」
私なりの、さよならのかわりの言葉だった。
「おう。この店の成績は榊にかかってるからな。本当に榊には助けられたよ。チーフや佐原さんをよろしく頼むな笑」
この日は売上も上々で、三木さんを気持ち良く送り出すことができた…と思う。
🍀183
「どうした?元気ない」
「え…っ」
高橋くんと学校帰り。
「あ、ごめん…実はバイト先の社員さんが異動しちゃって…寂しいなって…」
「…社員って男だろ?そんな寂しがるなよ…。嫉妬しちゃう」
しちゃうって…
ぷっと笑ってしまった。
「いやいや社員さんとして好きなだけで…嫉妬する要素はどこにも…」
そう、三木さんには…
……でも佐原さんには…?
一瞬、頭をよぎった。
🍀184
チーフも三木さんも佐原さんも、社員さんとしては平等に好き。
だけど…それなのに
異動したのが三木さんじゃなくて佐原さんだったら、もっと寂しかった気がする…
三木さんに失礼だし!
と思って考えるのをやめたが…
この気持ち、この差は…
🍀185
三木さんが異動してからしばらくして…新入社員が来た。
男の人。
「はじめまして。新入社員の小松です。」
「あ…っはじめまして!榊です。よろしくお願いします!」
感じのいい人だなって思った。
よかった…この人とならうまく仕事できそう♪
佐原さんは、「後輩ができた」と喜んでいた。
🍀186
一方部活では…
後輩たちも打ち解けてくれて、ますます楽しくなってきていた。
中高時代に部活をやっていなかった私に、はじめてできた「部活の後輩」…私にはかわいくて仕方がなかった。
満たされた毎日…のはずなのに、心のひっかかりはとれないまま…まだ先生のことを忘れられずにいた。
高橋くんと付き合って半年以上が過ぎたし、高橋くんのことはちゃんと好き。
それなのに…どうして?
高橋くんへの罪悪感が、限界に達していた…
🍀187
そんなある日の帰り…
「今度同窓会やることになったんだよねー」
と高橋くん。
「そうなんだー。昔好きだった子に会えるかな笑」
と言ってみる。
「まぁ会ったところでなぁ笑」
「でもどんなふうになってるかは見てみたくない?」
「んー…まぁそうだなぁ。そっちは?元彼の話…実は聞いてみたいんだよね」
「えっ!?聞きたいの!?」
まさかの要望にびっくり…
🍀188
高橋くんは、私に過去に彼氏がいたことだけは知っていた。
裏を返せば、それしか知らない…
「いつからいつまで付き合ってたの?」
「んー…中3から高2まで」
「結構長いなぁ…。それだけ付き合ったらさ…忘れられるものなの?」
「え……」
私の心を見透かしたような質問…
うそでも「忘れたよ!今はあなたしか見えない」って言ったほうがいいのかな…
「…忘れてない?」
「あ…うん…ごめん。」
もう正直に答えるしかないなって思った…
🍀189
「どんな人だったの?中学の同級生?」
「ううん…塾の…先生…」
「じゃあ年上だ」
「うん…」
馬鹿正直に答えたら、傷つけてしまうのでは…と思ったが、真実を話すほうが心が軽かった。
「いくつ上だったの?」
「かなり…。その先生ね…離婚歴があってね…。実は…私…の両親も…私が中学入る前に離婚してて…だから…」
高橋くんへの申し訳なさや高橋くんの優しさ…いろんなものを感じて、私は泣き出してしまった。
人前では決して泣かなかった私なのに…
🍀190
両親の離婚のことは、だれにも一切言ってなかった。
だから高橋くんも
「そうだったんだ…」
と驚いていた。
「離婚する人のこと…やっぱり…悪く言う人…多い…から…だれにも言えなかった…」
「そんな差別とか、なくなればいいのにな…。俺は少なくとも、離婚家庭の子だからって気持ちは変わらないよ。…ていうか…何だろうと気持ちは変わらないよ。実は宇宙人でしたーとか言われてもね」
「元彼のこともさ…忘れさせられるような男になるから」
そう言って抱きしめてくれて…
私は人生ではじめて『嬉し泣き』をした…
🍀191
「ごめん…ごめんね…っ」
「もういいから。ってゆーか、次謝ったら怒るからっ。そして泣き止めっ」
「そんなこと言われたら余計に泣き止めない~~」
「えぇ!?そうなの…!?」
この日は本当に幸せだなって思った。
涙が出るほどのうれしい言葉をくれて…
高橋くんの腕の中は落ち着いて…
愛されてるって感じたし、私ももっと好きになったし好きになりたいって思った。
だけど…幸せは長くは続かなかった…
🍀192
私がバイトを初めて、もう1年以上。
後輩が何人も入っては辞め入っては辞めを繰り返していた。
しかし後輩とはいえ年上ばかりだった。
「榊、また新人入ったぞ」
出勤するなりチーフにそう話しかけられる。
「そうなんですか?今度の人は続けてくれたらいいですね~」
「今回はな、お前の同い年が二人」
「同い年ですか!?やった~」
「…二人とも男だけどな笑。まぁ研修頼むぞー」
この職場は、かなり入れ代わりが激しい。
100人入っても50人は数週間、残り50人のうち40人は数ヶ月で辞めてしまう。
1年続くのは100人中2、3人だ…
だから私は、もう立派な『ベテラン』扱いをされる…
🍀194
同い年なだけあって、3人で仲良くなり、バイトのあとにしゃべったりすることも多かった。
「榊は彼氏いるの?」
「いるよ」
「やっぱりかーくっそー」
と西野くん。
「2人は?彼女いないの?」
「…残念ながらいない」
「俺も」
「へー意外。2人ともいそうなのにー」
「榊の彼氏は年上っぽい~」
と西野くん。
「あ、ぽいぽい。榊には年上が似合うよな~」
と長井くんも。
「んー、それよく言われるなぁ。なんでだろう…。でも彼氏同い年だよ」
「まじで!?てか榊を落とせる同い年ってどんな男だよー」
「西野くん…なにそれ笑」
🍀195
仕事中…
「榊、西野と長井と仲いいらしいな」
話しかけてきたのは佐原さん。
「同い年ですからねー」
「…ふーん。たぶらかすなよ」
「はいっ!?なんですかそれっ」
……そういえば…
佐原さんは私に彼氏がいること知らない…よなぁ…
三木さんとチーフから聞いてないっぽいよね…
だって知ったら絶対からかってくるはず…
🍀196
季節は初夏になっていた。
今日は高橋くんの地元に遊びにきた。
「暑くなってきたねー。どこ行こう?」
「じゃあ家来ない?」
「えっ!?」
「親は仕事でいないし…」
「そんな、留守にお邪魔できないよ💦」
高橋くんの家の前までは行ったことがあるが、上がったことはない…
「暑いし行こっ」
半ば強引に手を引かれて、家まで連れていかれた。
🍀197
部屋に通され、エアコンをつけてくれた。
ものは少ないけど広くないため、ベッドに腰掛ける。
このとき…
本当に不思議なのだが、直感的に
「この部屋に来るのはこれが最初で最後だろう」と感じた…
🍀198
男の子の部屋って無駄なものがないなぁ…
私の部屋は、ぬいぐるみや置物であちらこちらが飾られている。
高橋くんの部屋それがなく…
目につくものといえば、いつも着ている洋服がかけられているブティックハンガー、いつも使っているかばんや筆箱・ノートなど…
私が知らないものがない。
だからか、初めて来た感覚がなく、妙に落ち着いていた。
🍀199
部屋ではパソコンでDVDを観たり、ゲームをしたりした。
…そういえば…座るとこなくてベッドに座っちゃったけど…
これは…どうなんだろう…
今は2人で隣に座っている。
一通りはしゃいで、ふと会話が途切れる…
目が合い、どちらともなくキス…
そしてそのままベッドに倒れ込む。
🍀200
こんな状況…高橋くんは初めてだよね…?
そしてこのときも、これが最初で最後になるって感じた…
服の上から体を触っていた手が、服の中に滑り込む…
あっさりと下着のホックを外されてしまった。
初めて…だよね…?
初めてでそんな簡単に外せるものなの…?
私はそんなことを考えていた。
🍀202
私の上にのり、胸に顔を埋める彼の髪を撫でる…
私が髪撫でられるのが好きだから撫でちゃうけど…男の子は別に髪撫でられてもうれしくないのかな?
そのうち、彼の手が下へと伸び…スボンのベルトを外された。
さらにファスナーを下ろし、下着の中に手を入れられかける…
私はその手を払いのけた。
🍀203
別に嫌だったわけではない…
ただ『だめな日』だったのだ…
手を払いのけても払いのけても何回も迫ってくるので若干いらっとしたが…
まぁちゃんと言わなかった私が悪かったと思う…
これがきっかけで嫌いになったとか、そういうことは一切ない。
🍀205
「あれ、榊しばらくバイト来ないの?」
シフト表を見ながら、そう尋ねてきたのは西野くん。
「あーうん、部活で2週間大学に泊まり込みなんだぁ」
「そうなんだ。大変だなぁ」
「でも西野くんと長井くんが入ってくれてよかったー。これで私がいなくても店が回る!2人とも仕事覚えるの早いし✨」
「確かになー。榊に行かせてやれないところだったよほんと」
横で聞いていたチーフが言った。
「榊さんは頼られててすごいねぇ」
さらに小松さんもそう言ってくれる。
🍀206
大学は夏休みに入り、今日から2週間の泊まり込み。
部活は好きだし、高橋くんとも、亜衣ちゃんやほかのみんなともずっと一緒にいられる!
私は泊まり込みが楽しみだった。
でも…この泊まり込みで、私の恋は思いもよらない方向へと転びはじめる…
🍀207
それは突然だった。
部活の練習中…
高橋くんが、自分のミスを認めないのだ…
私は
「ミスは反省するしかないでしょ!」
と言うが聞く耳を持たない…
そんな様子に私はイライラしていた。
先輩の気に障るだろうし、後輩にも示しがつかない。
また、私たち2年生は率先して準備や片付け、1年生への指示出しをしなければならない。
しかし…高橋くんのやる気のないこと…私はますますイライラしてきた。
🍀208
私が注意するからか…
休憩中は私のところへは来ず、1年生の女の子たちの中に1人混ざっていた。
後輩の女の子たちはみんなかわいい…
かわいい女の子に囲まれてニヤニヤしてるんじゃないわよ!
イライラは限界だった。
でも表には出さず、練習に打ち込んだ。
🍀209
さらに…同級生だけで集まっていると、私には構わずにほかの女の子とばかりしゃべっている…特に亜衣ちゃん。
私とよりも、亜衣ちゃんとのほいが話が合っている…
そう感じて悲しくなった。
少し前までは私のことだけを見て、部活にも熱心だったのに…
この豹変ぶりが理解できず、戸惑い
切なかった…
🍀210
本当に、後輩たちにべったり…
1年生の女の子たち、自分たちだけでしゃべったりしたいんじゃないのかなぁ…
先輩邪魔って思われてるかもしれないのに…
それに亜衣ちゃんにもべったりだなぁ…
夜、女部屋。
「…なゆ?どうした疲れた?元気ないけど…」
「亜衣ちゃん…」
「練習に疲れた?…ってなゆは部活大好きだもんね。違うか。…高橋くんとなんかあった?」
「えっそうなのー?やだ悲しいよー。うちの学年唯一のカップルなんだしずっと仲良くしててほしいよー」
ほかの女の子たちもそう言ってくれた。
🍀211
「…うーん、なんか私から気持ちが離れちゃったのかなぁって…」
「高橋くんの気持ちがなゆから?えーそれはなくない?あんなにベタ惚れだったしー」
「でも人の気持ちは変わるし…」
このもやもやは…
やきもち…なのかな…
高橋くんが、後輩や亜衣ちゃんとばかりしゃべってるのがいやだ…
でも、亜衣ちゃんに嫉妬してるなんて、亜衣ちゃん本人の前では言えない…
🍀212
私は慌てて続けた。
「それにさっ、なんか練習にもやる気ないじゃん?それ見てるとイライラしちゃって」
「えっ⁉」
一斉にみんなが驚きの声を上げた。
「え…?なんでそんなにびっくりするの?みんなはそう思わないの?」
「いやそうじゃなくて…なゆちゃんでもイライラしたりするんだ…」
「ほんと、なゆちゃんって穏やかな性格で怒ったところなんて見たことないよねぇ」
みんなが口々にそう言う。
確かに…私は決して短気な性格ではない。
怒ったことなんて…あったっけ?と自分でも思う。
「でも、だからこそそんななゆがイライラするなんて…相当だよね」
亜衣ちゃんがそうまとめた。
🍀213
2週間もの間、寝るとき以外1日中一緒にいると…
イライラが止まらなかった。
別れたほうがいいのかなとまで考えた。
でも…それも何だか悔しい。
別れて、自由にして、後輩や亜衣ちゃんに手を出したりしたら…悔しい。
🍀214
「おはようございまーす!お久しぶりです!」
泊まり込みから帰り、久しぶりのバイト。
「お~榊久しぶり~」
みんなが迎えてくれる。
張り切って仕事をする。
久しぶりの接客…やっぱり楽しいな。
一段落し、カウンターで事務処理を始めた私。
すると佐原さんがやって来て…
「なぁ、榊って彼氏いたんだ?風の噂で聞いたんだけど…」
「はい!?何ですかいきなりっ。しかも風の噂って…」
🍀215
風の噂…
まぁチーフか西野くんか長井くんから聞いたのだろう…
「まだ春は続いてるんですか?」
…なんだその質問。
「続いてますよっ」
「彼氏年上?」
またこの質問かいっ。
「同い年ですけど…」
「え、意外。どうせ部員だろ?」
またその発言かいっ。
🍀217
バイトから上がると、メールが来ていた。
…三井くん…?
三井くんは、同級生の男子部員の最後の一人だ。
高橋くんや小田くんと比べて、関わりが少なかった。
メールの内容は…
映画の誘いだった。
私と三井くんは好きな俳優が一緒で、その俳優が出演する映画を観にいこうというのだ。
私も観たいと思っていた映画だ。
🍀218
以前高橋くんに、その俳優が出演したほかの映画を観たいと言ったとき…
興味がなさそうだったので一緒に観に行くことは叶わなかった。
三井くんとならお互いが楽しめるよねぇ…と思ったが…
二人で出かけるとなると、高橋くんの許可を得るべきなのかな?と考えた。
🍀219
私は高橋くんにメールした。
「男の人と二人で出かけてもいい?」
緊張しながら返信を待つ…
すぐに来た返信は
「別にいいんじゃない」
別にいいって…
もう少し言い方があるんじゃない?
……ううん…
本当は
「行くな」って言ってほしかったんだと思う…
🍀222
「なぁ榊、今度遊びに行かない?」
「えっ佐原さんどうしたんですか急に!」
翌日、店のカウンター。
「いや、榊と遊んだのって榊が入ったばかりのころ1回だけだなって思って。だから俺だけ彼氏のこと知らなかったわけだよな。あ、でも男と遊んだりして彼氏に怒られない?」
あぁ…それはちょうど昨日確認したところです…
「大丈夫です…」
「そっか、放任なんだな。じゃあ大丈夫だな!都合いい日あったら教えて。」
🍀224
映画当日…
待ち合わせ場所に15分早く到着した私。
三井くんは既に来ていた。
「おはよう。はやいね💦」
「あ…あぁ、はやく来ちゃった」
「…とりあえず向かおっか」
うーん…今さらだけど…
三井くんと何を話せばいいのやら…
2万hitありがとうございますm(_ _)m
『現在』の私は就職活動真っ只中です。
このスレはそんな私の息抜きになっております。
わかりづらい点も多々あるかと思います。
お気づきの点がありましたら、ご遠慮なくお申しつけください。
🍀225
まぁ…映画が始まっちゃえば何も気にせずにいられるか…
映画館に到着し、チケットを購入し席に着く。
…始まるまでが長い…
大して話したことのない人と二人で出かけるものじゃないなってことを学習した。
そしてようやく映画が始まり、ほっとした。
🍀226
映画はおもしろかった。
満足満足。
はて…これからどうするか…
と思案していると
「ご飯食べる?」
と聞かれた。
おなかは空いていたので
「うん。じゃあ行こうか~」
と返事をした。
少し遅めのお昼ご飯だ。
🍀227
ファミレスに入る。
注文を済ませ、観た映画の話をする。
なるほど…初デートは映画に行けって言われる意味がわかった。
…まぁこれはデートじゃないけど。
話しているうちに料理が運ばれてきた。
話題があると時間が経つのがはやいね。
🍀228
ファミレスを出る。
もちろん別会計。
さて…私は帰りたい…
いや…帰りたいっていうか…
「…それじゃあこれで…」
「あっうんっバイバイっ!」
三井くんから切り出してくれてよかった!
電車は路線からして違う。
別れたところで…
高橋くんに電話をかける。
🍀229
「…もしもし?どうしたの!?」
電話に出た高橋くんは驚いた様子。
無理もない…
いきなり電話をかけたことなんて、今まで1度もなかったから。
「今…家…?じゃないね。駅?何駅?」
電話ごしに、がやがやとうるさい中に駅のアナウンスが聞こえる。
「今から大学の図書館行こうと思って…今乗換駅」
「大学行くんだ!私も行ってもいい?」
「いいけど…」
「じゃあ着いたらメールするね!」
そう言って電話を切った。
🍀230
大学の図書館前で
「着いたよ~」
とメール。
「今2階」
図書館の2階に上がり、姿を捜す。
みつけた!
「なんか資料探してるの?」
小声で話しかける。
「うん…いいの見つからない」
高橋くんを待つ間、私も本を眺める。
「出よう」
と高橋くん。
「いいの?」
「うん」
🍀231
大学を出て、近くの喫茶店に入る。
隣りあって座る。
こうして並んでいると…
つい触れたくなっちゃう。
つんつんとちょっかいを出しちゃう。
「今日はどうしたの?いきなり電話かけて会いにきて…」
高橋くんが家にいたら、家まで会いにいくつもりだった。
「…会いたくなったんだもん」
そう言ってまた触れる。
🍀233
とりあえず今日は、もう少し一緒にいたい…いたかったのに…
「帰る」
と言い出す高橋くん
「…なんか用事?」
「いや…まぁ用事だ用事!」
「なにそれ~…」
…多分、観たいテレビがあるとかなんだろうな…
🍀234
付き合って10ヶ月…
何が好きで何を考えてるか…
言葉の濁し方も大体わかってきていた。
この日はテレビのために帰ったという自信が今でもある笑
別に「私とテレビとどっちが大切なの!?」とかは言わない。
この日は早々にバイバイした。
🍀235
数日後、今日は亜衣ちゃんとデート。
「久しぶり亜衣ちゃん!」
「なゆ~。泊まり込み以来部員と初めて会うよ~。なゆはそんなことないよね?」
にやにやしてる亜衣ちゃん。
「あ…うん、高橋くんには会ったよ。あと…」
「あと?」
「…三井くんに誘われて映画に行った。」
「えっ!?なんで三井くん!?なゆと仲いいわけでもないのに…」
「好きな俳優が一緒だから、その人の映画を観に…」
「へぇ~~~。三井くんが誘うとか意外ぃ~」
「うん。私もびっくりした…」
🍀236
「それでね…高橋くんに会わずに三井くんと会うのはどうなのって思ったのと…ほかの男の子といると、高橋くんと一緒がいいって思って…映画の後電話して高橋くんに会いに行っちゃった」
「そっかぁ~~~。愛されてるねぇ高橋くん」
亜衣ちゃんはずっとにやにやしてる。
私はなんだかはずかしくなったけど、亜衣ちゃんと話しているのは心地好い…
でも…亜衣ちゃんはいつも私の話を聞くばかりで…
自分のことは話してくれない…
「…ねぇ、亜衣ちゃんは好きな人とかいないの?」
「えっっ!?なにいきなり!」
🍀237
「教えてよ~。私も亜衣ちゃんのこと知りたい!」
「なゆ…。うん、わかった。実は…少し前から、気になってる人はいる…」
「そうなの!?わぁよかったね!」
「うーん…。でも叶いそうにないし…」
「どうして?」
「その人ね…バイト先の社員さんなんだ…」
バイト先の社員さん…
一瞬どきっとした。
🍀238
「その社員さん…あ、名前は柏木さんっていうんだけど。かっこよくはないけど…おもしろくて優しい人なんだ」
「そっかぁ~…」
「…あーあ。言っちゃった。まぁなゆだしいっか。まだほかの誰にも言ってないんだからねー?」
「ありがと亜衣ちゃん」
私はうれしかった。
亜衣ちゃんの恋…うまくいくといいな💕
🍀239
翌日
昨日の亜衣ちゃんとのデートでご機嫌な私。
「おはようございまーす!」
元気よく出勤。
「おー…。」
佐原さんの気のない返事。
そのまま事務室を出ていってしまった。
「おはよう榊」
「チーフ…佐原さんどうかしたんですか?」
「さぁ?どうしたんだろうな。元気ないよな」
「彼女さんと喧嘩とかですかねー?」
私は冗談っぽく言った。
🍀240
「…彼女?あぁ榊知らないのか…。佐原、彼女とはもう別れてるよ。」
「えっ!?いつですか!?」
うそうそ知らなかった!!
「春ごろ…。ちょうど三木の異動が決まったころだよ」
あぁ…あのころ佐原さんが元気なかったの…三木さんの異動だけが原因じゃなかったのか…
🍀241
仕事に取り掛かるため、フロアに出る。
フロアには佐原さん…
「佐原さん、元気ないですね?」
「んー…。榊、元気ちょーだい。」
「はい!?いやどうすれば…💧笑」
「この間出かけようって言ったじゃん。都合つかない?」
「あ~…。来週の木曜か金曜なら大丈夫ですよー」
「俺も木曜と金曜休みだよ。じゃあ木曜どこか行こうか」
🍀242
「…いいんですか?」
「榊がいいなら」
「じゃあ…よろしくお願いします」
「はは、了解~。木曜にまた連絡するな」
…佐原さんと約束しちゃった…
舞い上がってるのが自分でもわかる…
高橋くんがいるのに…
🍀243
木曜日…
いつ連絡が来るかわからないので、とりあえず身支度を整えておいた。
お昼には連絡来るかな?と思っていた。
しかし…お昼を過ぎても、夕方になっても…連絡が来ない。
まさか忘れてる…?
何かあったのかな…
不安になる…
私から連絡しようか…
でもお互い、携帯電話しか知らなかった。
アドレス聞いておくべきだったなぁ…
🍀244
夜になっても連絡がない…
思い切って電話をかけることにした。
番号は知っていたものの、かけたことなんてない…
緊張する…
勇気を出して…発信!
しかし…いくらコールしても出ない…
あきらめて電話を切った。
🍀245
電話を切って数十分後…
電話が鳴った。
佐原さんだ!
「もしもし!?」
「榊ごめん。今朝急に店に呼び出されて…やっと今解放されたよ。連絡もできずに本当に悪かった…」
「そうだったんですか…」
何もなくてよかった。
忘れられてるんじゃなくてよかった。
🍀246
「俺から誘っておいて…ごめんな」
「いいえ!仕方ないですよー」
…明日も佐原さん休みだったよね…
じゃあ明日にって言っていいのかな…
うーん…
いいや聞いちゃえ!
「あのっ明日…明日はだめですか?」
「俺はいいけど…」
「私も大丈夫なのでっ」
「わかった。じゃあ明日な。そうだ、今日アドレス知らなくて困ったんだよね。俺の今から言うからメモして」
🍀247
「では今からメールしますね」
「おうよろしく~」
電話を切り、メールを打つ。
佐原さんのアドレスを手に入れたこと…すごくうれしかったのを、今でも覚えている。
「榊です。無理言って申し訳ありませんでした。明日よろしくお願いします。」
送信っ。
「メールかたいな~。絵文字くらい入れてよ笑。そして敬語とかいらないから」
との返信。
うーん…
かたいかぁ…
まぁかたいけど
でも先生へのメールにだって、絵文字を入れたり敬語を崩したりしなかった。
目上の人には無理だよー…
🍀248
敬語は崩さず、絵文字を所々入れたメールを送ることにした。
明日約束しているというのに、他愛のないメールが続く。
「榊って天然だよね笑」
と送られてきた。
えっ!?
天然とか初めて言われたー!!笑
🍀250
翌日…
「おはよう😃今から迎えに行くよ。車借りたから。」
「おはようございます✨すみません💦ありがとうございます!」
車かぁ…
車持ってないことは知ってたから、電車で出かけるものだと思ってた…
そっか免許は持ってたのね。
車で二人きり…
気まずくならないかな…
🍀251
着いたとの連絡を受け、指定された場所へ向かう。
あれ…かなぁ…?
停まっている車に近づき、中を覗く。
するとドアが開けられ
「おはよう榊」
「おはようございます」
「ん、乗って」
「はい、失礼しまーす…」
「どこ行こうか…とりあえず走らせるな」
そう言って車は発進した。
🍀252
「なぁ、なんかおもしろい話してよ」
「おもしろい話ですか!?」
昨日散々メールしたしなぁ…
話題が…💧
「だって私、バイトと部活しかしてませんし…。いい話題なんてないですよ」
「部活…彼氏と部活一緒だよな?どうなの最近彼氏とは」
「え…」
「うまくいってないの?」
「うーん…。最近イライラしちゃいます」
「どうして?」
「部活の仕事とかサボるから…」
ほかの女の子ばっかり構うから…とは言いたくなかった。
プライドなのかな…
🍀253
「へぇ、榊でもイライラしたりするんだ」
あ、みんなと同じことを…
「榊が怒ってるところなんて見たことないからなぁ。その榊が怒るって相当だな」
また亜衣ちゃんと同じことを…
「そんな彼氏…別れたら?」
「えっっ!?」
黙って聞いていた私が、思わず声を上げた。
🍀254
「彼氏のこと好き?」
「え…っそりゃまぁ…。じゃなかったら付き合ってませんよ」
「ふーん。まぁ、嫌なら別れるのも一つの手だからな。榊はすぐ別れるの嫌いそうだけど」
確かに、私の中で簡単に別れるというのは『悪』だ…
🍀255
おしゃべりしながらドライブして、たまに車を降りてブラブラして…
もう夜になった。
「腹減ったし、飯食いに行くか!何がいい?」
「あ、何でも…」
「はは、予想通りの返答(笑)榊って自分で決めなさそうだよな~」
まぁ図星ですね…
「ごめん、でも車返さなきゃいけないんだよね。家の近所で借りたんだけど…返却時間早くて」
佐原さんの家の近くに向かうことになった。
🍀256
「ごめん、先に降りてここで待ってて。車返してくるから」
車を降りて辺りを見回す。
そこは、名前は知ってるけど来たことがなかった駅だった。
「お待たせ。あ、あれが俺のマンションな」
指さすほうを見る…
本当にこのすぐ近くに住んでるんだなぁ
「じゃあ飯行こうか」
そう言って歩きだした佐原さんのあとをついていく。
🍀258
「はい」
「ありがとうございます」
渡されたメニューに目を通す…
うーん何にしよう…
「榊、決まった?」
「あっすみませんまだ…💦」
「優柔不断~笑。本当榊って期待を裏切らないね」
「じゃあこれでっ」
「了解。すみませーん、注文いいですか?」
佐原さんが注文してくれてる様子を眺めていた…
って…頼みすぎじゃない…?💧
🍀259
スパゲッティが2皿、さらにピザにラザニア、サラダにポテトフライ…
テーブルはきつきつ。
「いただきます」
…佐原さんよく食べるなぁ…
私は何だか、ほほえましい気持ちで佐原さんの食べる姿を眺めていた。
「…何?あんまり見られると落ち着かないんだけど…」
「えっあっすみません💦」
「榊ってしょっちゅうじーっと見てくるよな」
…え💧
そうなのかな…
🍀260
「見つめられたら勘違いする男もいるからな。気をつけろよ。じゃあ出ようか」
伝票を持ちレジに向かう佐原さんを追いかける。
「あのっお金…」
「いいからいいから」
「でも…」
うーん…
でも社会人の男の人に対して、学生の女の子があまりにも払いますって言うのも失礼なのかな…
🍀261
「すみません…ありがとうございます」
「いいよ、今度はおごってもらうからさっ笑」
『今度』…
その言葉にどきっとした
また二人で出かけることがあるのかな…
「じゃあ送るよ。榊ここから一人で帰れそうにないし笑」
帰りは電車だ。
確かに私は方向音痴だし、ここは来たこともない駅…しかも乗り換えなければ家には帰れない。
🍀262
電車に乗り込む。
初めて見る車窓からの景色を眺める。
すると…私の携帯電話が鳴った。
「ん、携帯鳴ってない?大丈夫?」
「あ、メールです…西野くんだ」
「え、西野?」
「はい」
「…ふーん…。結構メール来たりするの?」
「そうですねー、西野くんからはしょっちゅう来ます」
「…西野は榊のことが好きなんだろうな」
「はい!?なんでそうなるんですか!?」
「いや、前から思ってたよ。西野の榊に対する態度を見て…」
「いやいや…西野くんだって、私に彼氏いるの知ってますし…」
「そんなの理由にならないだろ。彼氏がいる女のことは絶対好きにならないってことはないんだから」
なんか佐原さん…怒ってる…?
🍀263
なんとなく気まずい空気が流れる…
「ん、乗り換えだ。降りるぞ」
「はいっ」
乗り換え駅に救われた気がする…
乗り継いだ路線は、私の馴染みの路線。
「帰ってきたー!って気がします笑。安心する~笑」
「行動半径のせまい人だなぁ…」
また佐原さんに呆れられた?
🍀265
その日は、帰ってからも落ち着かなかった。
佐原さんと、もっと一緒にいたい──
確実に、佐原さんに惹かれている自分に気づいてしまった。
先生のことは忘れてない。
高橋くんのことは好き。
それなのに……
🍀266
それ以来、佐原さんからは毎日のようにメールがきた。
西野くんからも、相変わらずメールがきた。
店で会った日も、会わなかった日も。
「あしたから部活が再開します。体鈍ってないか心配です💦」
佐原さんに送信。
「部活頑張って!部活ってことは、毎日彼氏に会うんだよな。気まずくないの?」
「まぁ…若干気まずいです笑」
「そうならないために、次は部活以外で彼氏見つけな笑」
次…次って…💧
🍀267
授業が再開されるよりも早く、部活の練習が再開された。
久しぶりの部活…やっぱり楽しいな。
お昼休みは、同級生の女の子みんなとお昼ご飯。
久しぶりに会ったので、会話も盛り上がる。
そこで…なぜか「どこからが浮気か」という話になった。
🍀268
「私はキスしたらアウトだと思う~」
「それはね~。じゃあ手をつなぐのは?」
「私的にはそれも浮気だよ浮気!」
「2人で出かけるのは?」
「んー、相手に許可を得てたらいいんじゃない?」
「私もそう思う~!隠されたら下心あるんじゃないって思うし」
みんな盛り上がってるなぁ
「なゆちゃんはどう思う!?」
「えっ私!?私はー…」
🍀269
「私は…文字通り気持ちがほかの人に浮ついたら…かな」
「え~意外となゆちゃんが一番厳しー」
「でもそれは相手にだけじゃなくて、自分にも当てはめるから…」
だから…私は
今『浮気』をしてる…んだと思う
そして高橋くんも…
🍀271
夕方…部活の練習が終わった
「なーゆっお疲れ!」
「亜衣ちゃん…お疲れ」
「…なゆさぁ、なんかあった?様子おかしいよ?」
「え…」
「高橋くんとも口きいてなかったでしょ~!話きくよ?ってかきかせなさい笑。お茶して帰ろ!」
「…うん」
大学近くのお店に向かうことにした。
🍀272
「…で?何があった?」
注文した品がそろうとそう切り出した亜衣ちゃん。
「うーん…なんかぐるぐるしちゃって」
「ぐるぐる?」
「高橋くんにはイライラしちゃうし…。元彼のことはまだ忘れられないし…。それなのに…」
「それなのに?」
「その上、ほかに気になる人が…」
「ええ!?」
驚く亜衣ちゃん…
そりゃそうだよね…
自分でもびっくりだし
🍀273
「それだれ!?どこの人!?」
「バイト先の…社員さん…」
「社員さん…私と一緒かぁ」
「そうそう、柏木さんとはどうなの!?」
「望み薄な感じ…って、私の話じゃなくて!!どうするの?じゃあ高橋くんとは別れるの?」
「うーん…」
「まぁ自分の気持ちに素直にね」
素直に…か…
🍀274
私は今、高橋くんへの罪悪感でいっぱい…
そして、ふらふらしてる自分が信じられないし許せない。
自己嫌悪の塊…
『素直』な私は最低だ…
こんな日が…
こんな思いになる日が自分に訪れるだなんて、夢にも思っていなかった。
🍀275
携帯電話が赤いイルミネーションとともにメール受信を伝える。
「ん、なゆメール?」
「…あ、うんその社員さんからだ…」
佐原さんからのメールを心待ちにしている自分がいる…
佐原さんからのメールのイルミネーションは赤。
イルミネーションを個別設定してしまうほど…メールを待っている。
ちなみに、高橋くんは青。
私から見たそのイメージカラーで設定している。
佐原さんは赤、高橋くんは青。
佐原さんが『動』なら高橋くんは『静』だ…
🍀276
「社員さんなんて?」
「今度出かけようって誘い…。でも彼氏いるから誘っていいのかなーって…」
「な~にもう社員さんなゆのこと好きっぽいじゃん」
「えぇ!?そんなことないと思うけど…」
「…なゆってさぁ…ほんと鈍感だよね…。彼氏いるの気にしつつわざわざ誘うってことは、そういうことだと思うけど」
🍀277
「社員さんに彼氏のこと聞かれたりした?」
「うん、それは結構…」
「で、なんて言われた?」
「別れたらって。次は部活以外で彼氏つくれって…」
「それ、別れて俺にしろって言ってるようなものじゃん」
「えぇ~…。深読みしすぎだと思う…」
「……なゆは考えなさすぎだと思う…」
亜衣ちゃんは溜息をつき、呆れた目で私を見ている…
🍀278
「しかもなゆもう少しで誕生日じゃん」
「あぁ…そうだねぇ…」
「高橋くん、なんか考えてくれてるかもしれないよ?」
「…そうかなぁ💧なんも考えてないと思うけど…」
「まぁなゆ自身がカップルイベント気にしないしね💧笑」
🍀279
「とにかくよく考えな」と亜衣ちゃんに言われ、この日はバイバイした。
考えれば考えるほど、頭の中がぐるぐるしてくる…
ただ、もし高橋くんが私の誕生日をちゃんと考えてくれてたら…私も高橋くんを大切にしたい。
そう思った。
「おめでとう」って、ただ一言言ってくれるだけでいい…
🍀280
誕生日までの間…
高橋くんからはメールは来ない。
佐原さんと西野くんからは毎日メールが来る…
西野くんには気が向いたら返信、佐原さんには即返信…
私の気持ちの表れだなって思った。
そして誕生日前日…
携帯電話を開くと、メールがきていた。
佐原さん?
それとも西野くん?
メールを開く。
…え、三井くん…?
メールは三井くんからだった。
何だろうと思いながらメールに目を通す。
🍀281
「明日部活の後、ご飯一緒に食べませんか?」
…はい?
なぜにだ??
明日は…昼まで部活、夕方までバイトだ。
いつもは夜までバイトだけど…
どこかで高橋くんに期待してるのかな…
シフト希望を夕方までにしていた。
とりあえず
「部活の後バイトだから無理💦」
と返信した。
🍀282
返信がきた。
「バイトまでの少しの時間でいいから!」
う~ん…しつこいなぁ…
なんなんだろう?
「バイトすぐ行かないと間に合わないから」
「でもご飯は食べないとバイト行けないでしょ?」
そうだけどー…
家に帰って食べてからバイトに行くつもりだった。
🍀283
結局押し切られてしまった…
そして
「一緒にご飯食べるだけだから…何も期待しないでね」
とメールがきた。
期待するって何を!!
私の誕生日だから?
意味がわからない…
この人…何を考えてるのだろう…
🍀284
三井くんからのメールには返信しないまま…
それなのにまた三井くんからメール。
返信してないのに何なの…
と思いながらメールを開く。
「誕生日おめでとう!」
あぁ…0時ぴったりだ…
何のために0時ぴったりにバースデーメールを送ってきたのか…
すると、今度は同時に何通かメールを受信した。
みんな0時ぴったりのバースデーメールだった。
送ってくれたのは…
高校時代の友達、そして亜衣ちゃんに…佐原さん。
🍀285
友達からのバースデーメールは素直にうれしい。
佐原さんからのも…素直にすごくうれしい。
みんなに返信する。
亜衣ちゃんからは
「高橋くんからメールきた?あと社員さんからは?」
とさらに返信がきた。
「高橋くんからはこないや…。社員さんからはきたよ~。あとなぜか三井くんから…。そしてさらに謎なことに、部活の後一緒にご飯食べよって…」
「そっかぁ高橋くんからはこないかぁ(>_<)てか三井くんなんなの!?意味わからないね!」
ほんと意味わかりません…
🍀286
「三井くん…なゆに気があるわけ?でもなゆには高橋くんがいるってわかってるでしょ!部内で略奪愛とかひどいよねー」
「三井くんそんな女慣れしてたりガツガツした感じじゃないじゃん💦」
「見かけは草食系だよね。でもどうするの?部活の後って…高橋くんに見られたら…」
「やっぱり高橋くんに見られたら微妙かなぁ💦」
「なゆは気にしなくても、高橋くんはどう思うかわかんないよ?」
そっかぁ…
🍀287
翌朝…
部活中も気が重い…
誕生日になぜこんな晴れない気持ちでいなければならないのか…
いよいよ部活の終了時間。
亜衣ちゃんが…
高橋くんに必死に話しかけている…
この間に行けってことだな…
三井くんに手招きされ、渋々ついていく…
🍀288
「私時間ないからね」
念を押す。
「うん」
「時間ないから学食ね」
「わかった」
食堂に入り注文した品を手に席に着く。
「いただきます」
しゃべらない三井くん。
私も黙々と食べる。
「ごちそうさま。じゃあ出よ」
私はそそくさと食器を手に立ち上がった。
🍀289
「最近部活の調子どう?」
食堂を出ると、三井くんが話しかけてきた。
「まぁ普通かな…」
「そっか。俺も普通。うちの部、学年トップの男しか彼女できないってジンクスあったらしいけど…なんで高橋は…」
……は!?
みんな曰く「怒らない」私がぶちっときた。
確かに、部活の成績は高橋くんより三井くんのほうが上だった。
でもそれを『彼女』の私に言うか!?
🍀290
さすがに私だって黙ってらんない…
文句を言おうとした瞬間…
「はいっ」
何やら差し出された。
「…はい?」
「誕生日プレゼント!期待しないでねって言ったけど…あ、これでも期待外れ?」
……何を言ってるのこの人…
唖然としている間に、プレゼントを押し付けられ、走り去っていった…
🍀291
渡されたものの包みは開けないまま…バイトに向かった。
事務室の扉を開ける。
「おはようございますっ」
「お~…榊おはよう。どうした?なんかイライラしてる?」
事務室には佐原さんだけだった。
「なに、誕生日に彼氏と喧嘩?」
「…ちがいます…」
「てか誕生日にバイト入って彼氏怒らないの?」
「大丈夫です…」
🍀293
バイトの制服から着替え、店を出る。
「綺麗な居酒屋あるんだよね。そこでいい?」
「はい」
誕生日に、昼も夜も彼氏と違う男の人といる私って…
でも、高橋くんは誘ってくれないし…
そう思っていると店に着いた。
🍀294
席に着き、メニューを広げる。
「ん~…てか今更だけど、俺といていいのか?彼氏は…」
佐原さんがおもむろに尋ねてきた。
「だって今日おめでとうの一言もないし…いいんです」
「そっか…。それはちょっとひどいな💧じゃあそんな彼氏に振り回されるのから卒業しなよ、20歳になったわけだし」
🍀295
「はい。何でも好きなの頼みなよ。」
そう言って佐原さんは、メニューのお酒のページを広げる。
「え…っでも私だけ…💦」
佐原さんは帰りはバイクだ。
お酒は飲めない…
「俺に気使わなくていいから。20歳のお祝い。お酒好きなんでしょ?…って大声で言ったらだめだな笑。初めてのお酒な笑」
🍀296
「はい、乾杯!」
「ありがとうございます…」
私はカクテル、佐原さんはジュースで乾杯。
「本当に雰囲気のいいお店ですね…」
照明や内装、食器も凝っていて、店員さんも感じがいい…
「そう言ってもらえると、連れてきてよかったよ」
🍀297
「料理もおいしいから。たくさん食べて」
「はい、ありがとうございます」
料理はきれいに盛りつけられていて、崩すのがもったいないくらい…
「…でさ、さっきの話だけど、生まれ変わるんだよな?」
「え…」
「さすがに…彼氏ひどくないか?誕生日におめでとうの一言もないって…。別れる勇気を持ちなよ」
🍀298
誕生日に一緒にいてとか、プレゼントくれとかは思わない…
ただ、メールの一通もないのは悲しい…
いつもメールも私からだし…
愛されてる自信なんて持てない…
それに…
もう、高橋くんよりも…
佐原さんのことが好き。
気づいてしまった以上は…高橋くんとは別れないと。
「…そうですね。別れます。強くなります。」
「よし、もう一杯お酒頼みな。何がいい?」
🍀299
居心地がよく、すっかり長居してしまった…
「じゃあ出ようか」
「あの…お金出しますから…っ」
「誕生日でしょ。金出せ言うと思うか?笑」
「でも私だけお酒も…💦」
「いいから先に店出てて」
🍀301
私のマンションの前まで着いた。
離れがたい…
私の気持ちはすっかり佐原さんに傾いてしまったのがわかる…
もう…本当に高橋くんとは別れよう。
明日…ちゃんと言おう…
「…榊、本当に彼氏と別れるんだよな?」
「はは…別れますよ…」
同じこと考えてたんだなぁ…と思った瞬間…
佐原さんの唇が、私の唇に触れていた…
🍀302
何が起きたのか…
一瞬わからなかった…
唇と唇が離れたとき…
「……は…?」
私の口からやっと出たのは、それだけだった。
「ん、好きだよ」
私の目をまっすぐ見ながら、私の頭をぽんぽんと叩いて…佐原さんはそう言った。
🍀303
私は頭が真っ白で…ただ立ち尽くしていた。
「ちょっ、そんなに固まらないで…怖いから…💦なに、俺の気持ちに気づいてなかったの?」
「え…だってそんな…」
「鈍感~!男の思い通りにならないよなぁ、榊は」
「すみません…」
「まぁそこもいいんだけど…。てかまだ別れてないのにキスしちゃったね。浮気だ浮気~」
「な…っ」
『キスしちゃった』…
先生と同じことを言った…
って一瞬どきっとした…
🍀304
「…てかごめんな。いきなり言うつもりもキスするつもりもなかったんだけど…。俺不器用だしさ…。つい…」
「…は、はぁ…」
「今すっごいドキドキしてる…」
そう言って佐原さんは自分の首に私の手を当てた。
確かに…すごい脈拍…
「…ねぇ、もう一回してもいい…?」
…なんでそれも先生と同じようなこと言うの…
🍀305
拒めなかった…
一回目は不意打ちだったから仕方なかったにしても、二回目を受け入れたのは…
完全に『浮気』だ…
『浮気』じゃなくて、もう『本気』だけど…
あぁ…でも、これでは「告白されたから」高橋くんをふることにしたみたいになってしまった…
順序が入れ替わったことが、少しひっかかった。
🍀306
ふと…頭を過ぎった。
と、いうより…大切なことを思い出した…
「あの…でも、社員とアルバイターって御法度じゃ…」
「あぁ~…まぁ一応ね…でもばれなきゃ大丈夫(笑)」
「ばれなきゃって…」
「彼氏と別れるんだろ?だったら俺のこと…考えてみて。あ、悪い返事でも…これからもご飯くらいつきあってな。じゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさい…」
🍀307
家に帰ってからも、ドキドキが収まらない…
初めて面と向かって告白された。
うれしかった…
返事は…決まっている…
でもその前に、高橋くんと別れなければ…
次に佐原さんに会うまでに、絶対別れないと…
けじめだ
明日…絶対に明日、別れを告げよう…
眠りに就こうとするが…
なんか…頭が…ぼーっとして…
眠れない…
🍀308
翌朝…
「眠れた?笑」
との佐原さんからのメール。
「眠れませんでした…」
と返信。
それに対して
「ぐっすりだったら俺がへこむ笑」
あぁ…眠れなかったから?
頭が痛い…ぼーっとする…
それに…体が痛い…
体の節々が…
🍀309
これは…部活に行くのは無理なんじゃってくらい…体が重い…
熱を計ると…
39度…
母に促され病院へ行った。
診断結果はインフルエンザ…
1週間は自宅から出ないようにと言われてしまった。
1週間高橋くんに別れ話ができない…
🍀310
部活にインフルエンザの旨をメールした。
バイトも行けない…電話しなきゃ。
店に電話をかける。
出たのはチーフだった。
「わかった。お大事にな」
「すみません、ご迷惑をおかけして…」
「いいからゆっくり休め。そのかわり治ったら必死に働けよ」
チーフなりの愛情を感じつつ…電話を切った。
🍀311
薬も効き、ぐっすり眠ると随分よくなった。
もう眠れない…
ひまだなぁ…
携帯を開き、ネットを見る…
すると偶然、占いのサイトが目にとまった。
「あなたの恋の決断、それでいいの?」だって…
私の決断かぁ…
ちょうど大きな決断を下したところですよ…
🍀312
まぁ結果なんて気にしないけど…
ひまだし占ってみようかな。
誕生日やらを入力し、診断のコマンドを押す。
結果は…
「あなたの今の決断は、後々後悔するでしょう。」
つまり…
高橋くんをふって佐原さんを選んだことを、後々後悔するってこと…?
いやいや結果なんて気にしないんだから!!
もう決めたんだから…
🍀313
夜…
メールが来た。
佐原さんだった。
「インフルエンザだって聞いたよ。大丈夫?」
「薬飲んで寝たら楽になりました。ご迷惑おかけしてすみません」
「チーフと俺で何とかするから心配するな。あと西野が進んで榊の代わりにバイト出るって言ってたし」
「ありがとうございます。西野くんがですか?」
「チーフも西野は榊に気があるんだろうなって言ってたよ」
…え💧
チーフまで…💦
🍀314
私は話題を変えた。
「次に佐原さんに会うまでに、彼氏と別れます。本当は今日別れようと思ってたんですけど…。だから正しくは『別れるまで会わない』ですかね」
「え、どうしたのいきなり」
「私なりのけじめです」
「そうか。待ってるよ」
これは…もう返事したも同然だよね…
🍀315
「ところで彼氏からはお見舞いメールきたの?部活一緒なんだからインフルエンザってことは伝わるでしょ?」
「そうですね。知ってるはずです。でもメールはきません」
「そうか…。それは本当に彼氏失格じゃないか?まぁもう別れるんだからいいけどな」
彼氏失格…か…
またメールがきた。
今度は亜衣ちゃん。
🍀316
「なゆ大丈夫!?💦お大事にね」
「ありがと~。大丈夫だよ~」
「そっかよかった。高橋くんからはお見舞いメールきた?てか誕生日も結局メールなし?」
「うん、両方きてないよ~」
「高橋くん…ひどくない?💦社員さんからはメールきた?」
「うん、きた。っていうか今メールしてる笑」
「そっか~。なゆの気持ちが社員さんに傾くのも仕方ないね…」
仕方ない…のかなぁ…
私はやっぱり罪悪感が拭えないけど…
🍀317
佐原さんと亜衣ちゃんと二人を相手にメール。
ひまを持て余していた私にはありがたい。
「体つらくないなら…電話してもいい?」
佐原さんのこの言葉はとてもうれしかったが…
「すみません、声が出ないんです…」
インフルエンザで声が出なくなったのは初めてだった。
🍀318
病気のときに構ってくれる佐原さんに、ますます惹かれ…早く高橋くんと別れたくて仕方がないと思ってきた。
とにかく別れたい。
別れて自由になって…佐原さんのもとへ行きたい。
今すぐにでも別れたい…
でも会えない。
電話すらできない。
「メールで別れ話って、なしですかね…?」
佐原さんに聞いてしまう私って…と思うが、止められなかった。
🍀320
すぐに返信がきた。
「できるけど?」
ただそれだけ。
病気の私を気遣う言葉は添えられていない。
やっぱり私への愛情なんてもうないんだろうな…
私よりも、後輩たちや亜衣ちゃんのほうがいいんだもんね…
自由にしてあげる。
「ごめん…別れたい」
ドキドキしながら返信メールを開く。
まさか嫌だとは言わないよね…
「それはもう固い意思で?」
「うん」
「そうか。わかった。まぁ元々俺にはもったいない彼女だったしね…。俺でいいのかなって思ってた。こんな日が来るだろうとも思ってた。」
「そんなこと思ってたの…?」
🍀322
「ずっと思ってたよ。モテるもんね~かわいいから。俺にはもったいない。ほかにもっと似合う人いるよなって…思ってた」
そんなふうに思ってくれてたなら…
もっと私だけのことを見ていてほしかった…
そうしたら、こんな結果には…
🍀323
メールをもう終わらせようと、私は送った。
「いろいろあったけど…楽しかったよ。ありがとう!これからも部員としてよろしくね」
達成感?開放感?
でも虚無感…
心のどこかで…
少しは別れたくないって言ってほしかったんだろうな…
その寂しさと、これで佐原さんのもとへ行けるといううれしさとで…複雑だった。
この感情も最低だな…
🍀324
「メール終わりました」
佐原さんにメール。
「無事別れられた?」
「はい」
「そっか。じゃあインフルエンザ治ったら会ってな」
そうだ…亜衣ちゃんにも報告しなきゃ…
「実は…今メールで高橋くんと別れちゃった」
……なんて返信くるかな…ドキドキ…
🍀326
それからインフルエンザが治るまでの一週間、佐原さんはずっとメールをくれた。
あと西野くんからもメールはきた。
「もうすっかり治りましたよー✨」
一週間後、佐原さんにメール。
「そっか。よかった✨じゃあ明日にでも会える?気早い?笑」
「私も会いたいです…」
「じゃあ明日な」
やった!胸が高鳴る。
🍀327
翌日、佐原さんの仕事が終われば会うことになった。
どうすればいいんだろう…?
返事しなきゃなのかな。
「好きです」?
「つき合ってください」?
うーん…
でも…別れてすぐにつき合うのは抵抗があるし…
気持ちは決まってるけど、少しは待つべきなのかなって…
🍀328
仕事帰りで時間はあまりない。
公園で会うことになった。
病み上がりだけど…大丈夫!
連絡を受け公園に向かう。
「お疲れさまです!お久しぶりです笑」
「寒いけど大丈夫?はい」
そう言って佐原さんは暖かい缶コーヒーを手渡してくれた。
「ありがとうございます!あったかーい…これがあれば大丈夫です!」
「まぁすぐ冷めるけど笑」
私たちはベンチに腰掛けた。
🍀329
「そうだ…佐原さんは体調大丈夫ですか?」
「どうして?」
「えっいやだって…」
私がインフルエンザを発症する前日に一緒にいたし、キスまでしたし…
だけど恥ずかしくて言えない。
私が黙っていると…
「そうそう、実は榊にいい知らせがあるんだなぁ~。まぁそれは次出勤したときのお楽しみ!」
「え~何ですかそれ!気になるじゃないですか!」
冷えかけたコーヒーはもう飲んでしまったし、寒くなってきた。
体をさする私に気づいた佐原さんが、自分の上着を私にかけてくれた。
「え…っいいです!それじゃ佐原さんが寒い…」
「いいよ。俺は大丈夫だから」
「でも…」
「ん~…じゃあこうしてたら寒くない笑」
そう言った佐原さんの腕と胸に、私の体はすっぽりと収まった。
🍀330
「…嫌がってないってのは俺の自惚れ?」
「自惚れじゃないです…」
一瞬体が離れ、今度は唇と唇が重なる…
そしてまた私の体は佐原さんに収まる。
「好き」って言うべきなのかな…?
「自惚れじゃない」って言ったんだしこれで答え?
でも…正式につき合うにはまだ…
うーん…でもでもつき合ってるのと変わらない気も…
🍀331
結局はっきりと気持ちは告げないまま別れた。
明日からはまた部活とバイトの日々!
練習休んじゃって体鈍ってるだろうし…頑張らなきゃ!
「おはようー!」
「あっなゆ~!もう完全復活した!?」
翌日、部活に行くと亜衣ちゃんが迎えてくれた。
「うん大丈夫!」
「なゆちゃーん!心配したよー!」
ほかのみんなも次々と声をかけてくれる。
「ありがとう。ごめんね…」
あ…
高橋くん…
🍀332
「…おはよ!」
私は声をかけた。
「…ん、おはよ…」
そう小さく返事をしただけで、高橋くんはその場を去ってしまった。
避けられた…?
「高橋くん、気まずそうだね。まぁふられた人の気持ちはふられた人にしかわかんないよね…」
「…えっ!?なにそれどういうこと!?なゆちゃん高橋くんふったの!?」
その場にいたみんなが声を上げる。
「あっ…あーうん…そう…」
「こらー!いつまでもしゃべってないで練習!」
「はーい…」
先輩にたたかれ練習に出る。
🍀334
「実は…新しく女の子のアルバイターが入った!」
「えっ!本当ですか!?」
「榊の1つ下の子がな。しっかり面倒見てやれよ」
「よかったね榊さん」
「はいっ!」
やったー女の子!
初めての女の子の後輩だ!
このとき、私には喜び以外の気持ちはなかった。
そう、このときは…
🍀335
「望月まいです。よろしくお願いします」
「榊なゆです!こちらこそよろしくお願いします!」
「病み上がりなのにテンション高いな~榊」
私たちの自己紹介を横で見ていたチーフと佐原さんが声を揃えた。
「だって女の子ですよ女の子!私今までずっと女一人で寂しかったの~だから望月さんが入ってくれてうれしい!」
「そうなんですか…」
「じゃあ榊、望月の研修は任せたからな」
「はーいっチーフ!じゃあ望月さんついて来てください」
この日は望月さんに一通りの研修をし、バイトを終えた。
🍀336
その後、佐原さんとは週に一回程度会うようになっていた。
私の部活のあとにご飯を食べて、散歩をするのがコース。
手はつなぐしキスもする。
カップルと何ら変わりない…けど、どこか「つき合ってない」という壁がある気がする。
やっぱり私がはっきり言わなきゃだめなんだよね…
「まだ別れたばかり」って思うけど…
この中途半端も嫌。
決めた!
ちゃんと言う!
今度のデートで言うっ!
🍀337
そしてデートの日…
いつも通りご飯を食べ、家まで送ってもらう。
そして近所の公園でおしゃべり。
私はずっと言おう言おうと思っていた。
が…言えない。
高橋くんのときといい…
相手の気持ちはわかっているのに、なぜ言えないのか…
私は面と向かって「好き」と言ったことがない…
ドキドキしすぎてめまいがする…
🍀338
私はまずこう切り出した。
「あの~…私、何も言ってないじゃないですか…?それって…どうなのかなって…」
恥ずかしくて抽象的に言うのがやっと。
はたしてこれで伝わるのか…
「そうだね。まあ俺のことただのおっさんって思ってたらこんなことしないでしょ?笑」
私たちの手は握られている。
「はい…でもやっぱりちゃんと言わなきゃって思って…」
「言ってくれるの?じゃあ言ってほしいな笑」
よし言えっ私!!
🍀339
しかし…言えない…
ほんと意気地無し…
なんと…
言えないまま1時間が経ってしまった…
我ながら呆れる…
「ん~…もう無理しなくていいよ。気持ちは伝わってるし…」
佐原さんも呆れてるよね?
言わなきゃ…
言わなきゃ何となく感じてる『壁』のようなものは取り払えないと思うから…
それからさらに1時間が経とうとしていた…
🍀340
呆れて帰られたら嫌だ…
私は意を決して言った。
背伸びをして首に腕を回し
「好きですよ…」
恥ずかしさと返ってくる言葉を恐れる気持ちから、そのまま口づけた。
すると佐原さんは私を抱き上げて
「ありがとう」
と言ってくれた。
🍀341
これで正式に「恋人同士」…
高橋くんと別れてまだ一ヶ月だった。
私の頭も心も、佐原さんでいっぱい…
でも高橋くんに避けられた悲しさとか、先生の面影は心にちらつく…妙な感覚は抜けない。
高橋くんとは毎日顔を合わせる…
時間が解決してくれるのを待つしかない。
先生とは…もう会うことはないだろうけど…
🍀342
そんなとき…
塾時代の友達から「塾の同窓会をやろう!」というメールがきた。
みんなに会いたい!
私は参加することにした。
塾の同窓会は一ヶ月後。
みんなに久しぶりに会えるのが待ち遠しかった。
この時、期部活は試合前で忙しく、バイトも望月さんの研修で忙しかった。
「研修張り切ってんな~榊」
「あ、西野くん長井くんおはよー」
望月さんの研修中に、二人が話しかけてきた。
🍀343
「ほらっ二人とも仕事に戻りなよっ」
「はいはい。榊は厳しいね~」
ぶつぶつ言いながら、西野くんと長井くんはその場を去った。
「榊さん、西野さんと長井さんと仲がいいですね」
「同い年だからね~」
「特に西野さんと仲がいいって聞きました」
「あ~…笑。そう…」
もう望月さんにまで…
変に広まらないでほしいなぁ…💧
🍀344
今日は待ちに待った塾の同窓会。
開催場所の小さな居酒屋。
「みんな久しぶり~!」
「あーなゆちゃんだー!」
「うわ榊さんめっちゃ久しぶり!」
懐かしい顔ぶれ。
「はいは~い、みんな注目~!ここでサプライズです!」
幹事をしてくれた子が大きな声を上げた。
「なんと!今日は木村先生に来てもらうことになっています!」
……え……!?
ええぇぇっ!?
🍀345
「きゃーっ本当ー!?」
「いいぞ幹事ー!」
盛り上がるみんなをよそに、私は一人パニックだった。
どんな顔して会えばいいの…!?
いやみんないるんだし「普通」でいいのよね「普通」で!
あくまで「先生と生徒」の再会!
「それでは登場してもらいましょう!我らが恩師木村先生どうぞ~!」
みんなの拍手の中、先生が店に入ってきた。
🍀346
「おーっすみんな久しぶり~!」
先生…髪型が変わった…
…少し痩せた?疲れてる?
年取ったって感じる…
あ…
目が合ってしまった…
思わず逸らす。
「じゃあ久々の再会にかんぱ~い!」
うう…落ち着かない…
🍀347
飲み会も中盤に差し掛かったころ…
「よ」
私の隣に先生が腰掛けた。
一気に体温が上がったような感覚がした。
私のテーブルに座っていた子たちは今、みんな席を外している…
「久しぶりだな」
「お久しぶりです…」
あ…
変わらないたばこと香水の混じった香り…
その香りに、ますます体温が上がる。
🍀348
「…俺変わった?」
「そうですね、外見は…。でも香りは変わらないです…」
思わずそう答えてはっとした。
「香り」とか…なんか…💦
先生はふっと笑い、
「そうか」
とだけ答えた。
そしてしばらくの沈黙のうち…
「…彼氏できた?」
「あ…」
🍀349
そのとき、塾友達の声が飛んだ。
「先生ー!見てよこいつ馬鹿ー!」
「うわっなにしてんだお前」
先生は席を立った。
私はほっとした…
この体温は、お酒のせいだけじゃない…
あの懐かしい香りに包まれ続けたら…
🍀350
「では一次会はこれにてお開きです!二次会行く人~!てかまだ8時過ぎだし、みんな来るよね?」
みんな二次会に行くみたい…
先生も…
「…あっ、ごめん、私帰るね…」
これ以上先生と同じ空間にはいられない。
「えー!?寂しいよ行こうよなゆちゃん」
「ごめんね…あさってまでの課題に手つけてなくて」
適当に嘘をついた。
「そうなの?残念…」
「また集まろうね!」
「うん、ありがとう!じゃあばいばい」
🍀351
家に着き、ベッドに倒れ込む。
……ん…?
携帯が鳴ってる…気がする…
てか…
あれ…私寝てた…?
どうやらお酒が手伝って、私は眠っていたようだ…
寝ぼけながら携帯を手に取る。
メールだ…
え…
先生から…!?
🍀352
一気に眠気も酔いも醒め、メールを開ける。
「今日は久しぶりに顔を見られてうれしかった。ますますきれいになったね笑」
先生…
とりあえず当たり障りのない返信。
「私もお会いできてうれしかったです」
すぐにまたメールが来た。
「今度は二人で会いたい。彼氏いるかって答え…聞けなかったけど」
二人で…って…
🍀353
私はこのメールに
「先生こそ彼女はいないんですか?」
とだけ返信した。
「いたら誘わないよ」
「いたら誘わない」…ってことはつまり…そういうこと?
いやいやいつまでもこんな小娘に構ってる場合じゃないですよ先生。
私は忘れられてないけど…
🍀354
でも…私には佐原さんがいる。
高橋くんを捨ててまで選んだ人が…
佐原さんのことを裏切ることはできない。
もう誰のことも裏切りたくない…
私は先生からの誘いを断った。
佐原さんのことだけを見ていく…その誓いだ。
🍀355
今日もバイト。
一緒に入っているのは長井くんとまいちゃん。
望月さんとはまいちゃん、なゆさんと呼び合うようになっていた。
それで…
まいちゃんと長井くんを見ていてピンときたんだけど…
まいちゃんは長井くんのことが好きなんだろうな…
長井くんは背が高いし…
何より優しいしモテるのわかる。
🍀356
私は西野くんにメールで聞いてみた。
「長井くんって彼女つくらないのかなぁ?」
「あ~でも長井狙ってる女の子はいるらしいよ」
そうなんだ…
うーんじゃあまいちゃんとはくっつかない?
って余計なお世話だよね私…
🍀357
「なゆさーん聞いてください!」
別の日、私と会うなり飛んできたまいちゃん。
「どうしたの?」
「昨日佐原さんがバイトのあとご飯連れていってくれて~。佐原さん優しいしかっこいいしかわいいし…。佐原さん大好き!」
……え!?
あれ長井くんは…?
私の思い過ごし!?
いやでも『好き』ってどういう『好き』なのか…
🍀358
昨日は…
佐原さんは仕事、私は部活だった。
で、まいちゃんはバイトだったのね…
私はよく友達に「放任だねぇ」と言われる。
「私以外の女と二人で食事なんて行かないで!」とか言う気はない。
それはいいんだけど…
まいちゃんが本当に佐原さんのことを好きになったら…
つき合っている事実を黙っていることが申し訳ない…
🍀359
それからもまいちゃんは、私と会うたびに「佐原さんかっこいい」「佐原さんかわいい」「佐原さん大好き」を連呼する…
佐原さんの顔はかっこよくもかわいくもないと思うけど💧笑
私はそれを何となく流すしかない…
そんな日が続いていた。
「…なゆ?何かあったでしょ~笑」
「亜衣ちゃん…」
部活の後、亜衣ちゃんに声をかけられた。
亜衣ちゃんはほんとに私のことお見通しだなぁ…
🍀360
「バイトの後輩がね…佐原さん好き好き言ってるんだよね…」
「あぁ女の子入ったってなゆ喜んでたよね!その子が恋敵になっちゃったわけか…」
「恋敵…なのかなぁ…。でもそれならつき合ってるの隠してるのって罪だよね…」
「まぁそうなるねぇ…。でも隠しとくしかないんでしょ?とりあえず自信持ちな!私は社員さんとつき合えてるなゆがうらやましいよ」
「亜衣ちゃんは柏木さんとは進展ないの?」
「ないない!てか何する勇気もないよ~💦」
そっかぁ…
私が亜衣ちゃんの力になれたらいいのにな…
🍀361
数日後…
「インフルエンザにかかってしまった…」
今は授業中、それは佐原さんからのメール。
「えっ!?大丈夫ですか!?」
「熱出て病院行ったら…インフルエンザだって…」
「しんどいですか?」
「体だるい…。けど榊の顔見たら元気になるかな笑」
「何かほしいものあるなら届けますよ。私もうインフルエンザかかったからうつらないでしょうし」
インフルエンザの型が違ったらうつるけど…
きっと同じ型だ!と信じることにした。
🍀362
「え?本当に来てくれるの…?」
「だって一人暮らしの病気はつらいでしょう?部活休んで行きます」
病気以外で部活を休むのなんて初めてだ…
私は教室を飛び出し、駅へ向かった。
前にマンションは教えてもらったから…行ける。
男の人の一人暮らしの部屋に行くってことが何を意味するのかくらい…わかってる。
いやでも病人だしね💧
🍀363
飲み物やゼリーを買い、部屋番号を聞き佐原さんの部屋に向かった。
「大丈夫ですか?これ…。ゼリーなら食べられるかなって…」
「ありがとう」
「とりあえずしんどいなら横になってください💦」
佐原さんを寝かせ、布団をかける。
おでこに手をあてる…熱い…
「あ…手冷たくて気持ちいー」
あ…
今の佐原さんはかわいかった…かも…
🍀364
「……本当にうつらないかな?」
「大丈夫だと思います」
すると佐原さんは私を引き寄せキスをした。
「添い寝してくれる?」
佐原さんはベッドの端に寄り、布団を開けた。
私は布団に潜り込んだ…
🍀365
佐原さんは私を抱きしめる…
「元気出てきた笑。ありがとう」
またキスを交わす…
次第に唇が首筋におりていく…
そして私を抱きしめていた腕は外され…手が私の胸をつたう…
……えっ病人だよね!?
「元気出てきた」って…
男の人って病気のときでもそうなの!?
すごいなぁ笑
私は変に関心してしまった…笑
🍀366
でもそれ以上はないまま…
いつの間にか二人で眠ってしまっていた。
大好きな人の腕の中で眠るのが、こんなに心地好くて幸せだとは…
この恋が、今までで最大の波乱を含むものになるだなんて、このときは知らなかったから…
🍀367
翌日、私はバイト。
チーフは…
「まったく佐原は…社員が体調管理できてないんじゃ示しがつかん💨」
と言っていた。
まぁ確かに…
「おととい佐原さんかわいかったんですよ~❤」
また私に飛んでくるまいちゃん。
「かわいかったって笑」
おととい…インフルエンザ発症した日か。
「だって体調悪くて弱ってて…かわいかったぁ❤インフルエンザだったんですねぇ~~大丈夫かなぁ?看病行こうかなぁ~~」
まいちゃん…どこまで本気なのか…
🍀368
お見舞い以来、佐原さんの家に行くことも多くなった。
「おじゃましまーす。シュークリーム買ってきたよ~」
「おっありがとー」
「とりあえず冷蔵庫入れとくね」
「……榊さぁ、最近敬語使わなくなったよね」
「え…っ。あぁそういえば…」
私は冷蔵庫の扉を閉めながら答える。
🍀369
「いやいいんだよ。仕事中はちゃんとしてるし。ただちょっと意外だっただけ笑」
「……自分でもびっくりです…」
「自分でもって笑。てか今だけ敬語になってるし笑」
先生とはつき合いだしても、敬語はやめてと言われても、ずっと敬語だったのに…
だから自分でも驚きだった。
🍀370
先生に比べると歳が近いからか…
「社員とアルバイター」のほうが「先生と生徒」よりも上下関係が薄いからか…
尊敬の度合いが違うからか…
それとも、先生よりも佐原さんに対してのほうが、私が心を開いているからなのか…
何にせよ、先生とよりもいい関係が築けたらいいな…
🍀371
「そうだ榊、見てこれ」
そう言って佐原さんは自分の携帯を差し出した。
私はそれを受け取る。
「うわ…きれーっ」
画面に映っていたのは、夕焼けの写真だった。
「でしょ。この間撮ったんだ。待受にしちゃった」
本当にきれいだなぁ…
私が見とれていると…時間が経ちすぎたため、画面の照明が消えてしまった。
照明をつけようと、私は適当にキーを押した。
すると…
表示されたのは、待受画面ではなかった。
そしてその画面に、私はショックを受けた。
🍀372
私が偶然押してしまったのは、いわゆる「ペア機能」のキーだったらしい…
そしてその指定相手の名前は女性…
しかも私はこの名前を…この人が誰なのかを知っている
チーフや三木さんから聞いて覚えていたから…
佐原さんの元彼女だ
🍀374
携帯は私の手に握られていたため、佐原さんは私がそれを見てしまったことには気づいていない。
私は慌てて待受画面に戻すと
「ありがとう」
と佐原さんに携帯を返した。
……ペア機能を解除し忘れてただけ…?
でも別れたの半年以上も前だよね?
設定したことすら忘れてた?
でも私が偶然ペア機能のキーに触れたように…佐原さん自身もその画面を見ることくらいあるんじゃないの?
見たら解除しない?
🍀376
その日はそのことには触れず、いつも通り過ごした。
「もうすぐ終電だから…帰るね」
「うん。駅まで送るよ」
駅でばいばい。
帰りの電車に揺られながらも…頭から離れない。
でも…問い詰めるつもりはない。
ずっと気にはなっていたが、そのまま季節は流れ…冬になった。
クリスマスが近づいてきた。
🍀377
「クリスマスは家来るでしょ?」
佐原さんからメールがきた。
「イヴはバイトだから、25なら…」
「わかった」
相変わらずイベントに興味のない私は、普通にクリスマスイヴにバイトを入れていた。
バイト先では、クリスマスにはサンタの格好をする…それも楽みだった。
「あはは、チーフ似合いますね~」
「だろ!でもやっぱり女の子が着るといいね~!」
チーフは私とまいちゃんを見て満足そうだ。
今日はクリスマスイヴ…
佐原さんは24、25と休みだった。
🍀378
「いらっしゃい」
25日、佐原さんが出迎えてくれた。
「渡すの忘れたら困るから…はい、クリスマスプレゼント」
きれいな紙袋を渡された。
とある有名なブランドの紙袋。
クリスマスプレゼント…
彼氏からもらったのは初めてだった。
そんなだから、私は何も用意してなかった。
『普通』はクリスマスプレゼント交換し合うのかな?
こいつ何も用意してないのかって思われてる?
考えていると…
「開けてみて」
そう促された。
🍀379
紙袋から箱を取り出し、厳重な包装を解く。
「きれい…」
出てきたのは、きらきらと輝く置物だった。
「好きそうだと思って」
「うん、ありがとう…」
そうは言ったものの、またひっかかることが一つ…
このブランドの紙袋が、佐原さんの部屋にいくつかあったからだ。
🍀380
私は置物を元通りに箱に戻し、紙袋に入れた。
「えっ、紙袋ごと持って帰るの?」
佐原さんが不思議そうにそう言った。
やっぱりね…
今までの彼女にも同じブランドのものをプレゼントしてきたんでしょ。
それで今までの彼女は紙袋は置いて帰っていた…と。
だから家には紙袋があるし、私が持って帰ろうとしたことが不思議なんだね。
元彼女にあげたのと同じブランドのものを渡されたのが、少し悲しかったけど…仕方ないよね。
女の子が好きなブランドだし。
🍀381
その日もいつも通り、終電まで佐原さんの家にいた。
翌日からはバイト三昧。
バイトから上がると、メールがきていた。
三井くんからだった。
「冬休み、また映画か何か行きませんか?」
冬休みはほぼ毎日バイトが入っている。勉強だってしなくちゃならないし…遊ぶ時間なんてない。
その旨を返信した。
しかし…ほかに遊ぶ人いないの?
なんで私を誘うかなぁ…
このときはそのくらいにしか思っていなかった。
🍀382
三井くんにはああ言ったけど、なんとか時間をやりくりして佐原さんとは会った。
そんな冬休みも明け、部活も再開。
もうすぐ先輩たちは引退する…
同級生に、私は提案した。
「ねぇ、先輩たちに寄せ書きと何かプレゼントしようよー」
「いいね!何がいいかなぁ?」「今度みんなで買いに行こうか!」
女の子たちは既に盛り上がっている。
「男の先輩には何渡せばいいかわかんないねー💦高橋くん、何がいいと思う?男目線で!」
「…え、あ~…うーん…。何でもいいんじゃない?」
私の問い掛けに対して、高橋くんはそうとだけ言って去ってしまった。
🍀383
……まだ避けられてるのかな、私…
私は友達に戻りたかったけど、そんなの私のわがままなのかな?
こうやって避けられるのは悲しい…
「なに、高橋くんまだなゆのこと避けてるわけ?」
「亜衣ちゃん…うーん、そうみたいだね💦」
「まあなゆにふられて相当へこんでたのは見ててわかったけど」
「ねー」
ほかのみんなも頷く。
やっぱり私が悪いんだよね…
🍀384
部活の後はバイト。
「おはようございまーす」
いつも通り事務室に入ると…
事務室では女の子が二人、店長とチーフから話をされていた。
「えっ新人さんですか!?女の子が二人も!」
「お~榊、また研修頼んだぞー。二人の大先輩だぞ。あいさつな」
🍀385
「宮田理央です。よろしくお願いします」
「元木紅です。よろしくお願いします」
「理央ちゃんと紅ちゃん!女の子が少ない職場だけどよろしくね~」
女の子が倍増した♪と私はうれしかった。
この二人が、まいちゃん以上に私に波乱をもたらすとは…このときは思っていなかった…
🍀386
「今まで本当にありがとうございました!!」
「みんなもありがとう~。引退寂しいよ~」
今日は部活の先輩の引退の日。
私たちは寄せ書きとマグカップを先輩に贈った。
これでついに私たちが執行体…かぁ…。
そう思っていると…
高橋くんと目が合った。
すぐさま逸らされてしまった。
これから一緒に部を引っ張っていかなきゃならないのに、これでは……
🍀387
「亜衣ちゃん帰ろー」
私は声をかけた。
「あ…なゆごめん、私図書館寄らなきゃだから…先帰ってて」
「そっか~。課題?がんばってね!ばいばい」
「うん、ばいばい」
その場には高橋くんもいた。
「高橋くんは帰らないの?」
「…うん」
私と帰りたくないってことなのかなぁ…。
「そっか。ばいばい」
また返事もしてくれない。
🍀388
「おはようまいちゃん」
バイトに行き、フロアにまいちゃんを見つけ声をかけた。
「あ、なゆさん…おはようございます…」
「…どうしたの?なんか元気ないけど…」
「……失恋したんです」
「えっ!?」
それは佐原さんにってこと!?
🍀389
「……え、あの失恋て…?」
「だって…彼女いるなんて知らなかったから…」
まいちゃんは下を向いたまま答える。
「彼女いるの知ってたら、告白なんてしなかったのに…」
「…えーと……まいちゃん、それって…」
私は必死に動揺を隠しながら尋ねる。
するとまいちゃんは顔を上げ、こう発した。
「なゆさんは長井さんに彼女いるの…知ってたんですか!?」
……えっ!?
長井くん!?
🍀390
とりあえずまいちゃんの質問に答える。
「いや…知らなかったけど…」
「前聞いたときいないって言ってたのに…」
まいちゃんはまた下を向いてしまった。
長井くんに彼女?
……あー…
西野くんが言ってた、長井くんが狙ってるっていってた子とうまくいったのかな。
しかし…まいちゃんはやっぱり長井くんが好きだったの!?
じゃああの佐原さん好き好きオーラは一体…
🍀391
「つらいのはわかるけど、接客業だからね!お客様の前ではちゃんと笑ってね」
「……はい……」
「とりあえず今日はなるべく私が接客行くから…ねっ」
「…ありがとうございます」
大丈夫かなぁまいちゃん…
もっともこの心配は、後に無駄だった気がすることになるのだが…
🍀392
「おはよー」
西野くんが出勤してきた。
「あ、西野くんおはよー。じゃあ私上がるね。まいちゃん、お先です」
「…お疲れさまです」
よりによって今日まいちゃん勤務時間長いんだもんなぁ…
西野くんが私と入れ代わり、まいちゃんと西野くんは閉店まで勤務だ。
🍀393
翌日
「亜衣ちゃんおはよー」
「…あ、なゆおはよ…」
?
亜衣ちゃんの様子がおかしい
どうしたのかな…
昨日図書館行ってたし課題で寝てないのかな…
しかし…
翌日もその翌日も…
亜衣ちゃんはなんか様子が変だった。
なんていうか…
私に何か隠してるような…
🍀394
部活の帰り道…
私は思い切って聞いてみることにした。
「…ねぇ亜衣ちゃん、何かあったの?」
「え…」
動揺しているのがわかる。
「私には言えないこと?いつも私ばっかり亜衣ちゃんに話聞いてもらってるし…私も亜衣ちゃんの力になりたいよ。私じゃ無理…?」
「ちが…っ。なゆ違うよ…」
「じゃあ何…」
「…なゆ、落ち着いて…怒らないで聞いてほしいんだけど…」「うん」
「…高橋くんのことなんだけどね…」
えっ高橋くん!?
🍀395
なぜこの場で高橋くんの名前が出るのか、私には理解できなかった。
「高橋くんがどうかしたの…?」
「…うん、あのね…私の思い込みとかじゃなくて…高橋くん、今私のこと好きみたいなんだよね…」
「え……」
一瞬、頭が真っ白になった。
ショック受けてる?私…
確かに高橋くんは私よりも亜衣ちゃんにべったりだったけど…
本当に本気で亜衣ちゃんのことが好きなの?
🍀396
てか…なんで亜衣ちゃんはそう思ったの?
高橋くん…はっきり意思表示したの?
いやでも亜衣ちゃん…
「みたい」って言った…
「…告白されたの?」
「ううん、それはまだ…。
ただ…最近やたらメール来るし一緒に帰ろって言われるし…
それにこの間…ほら、私図書館行くからってなゆに先に帰ってもらった日…高橋くんがついて来て…
その帰り道に…手つながれた。それも恋人つなぎ…」
「えっ!?」
🍀397
「あ、私は高橋くんのことは友達としか思ってないよ!つき合うとかありえないから!」
「…じゃあふりほどいたの?」
「…それは……できなかった」
「なんで?好きでもない人に手つながれて嫌じゃないの?」
ふりほどけなかったっていうのは…
亜衣ちゃんも高橋くんのことが好きなんじゃないの?
「ありえない」って言うなら…ふりほどくでしょ?
てか「ありえない」って…一応私の元彼なんだけどな笑
🍀398
「てか…高橋くん、いつの間にそんな軽いってか肉食系っていうか…になったんだろ笑。
私のときはそんなことなかったのに」
「それは…高橋くん、なゆのことが本当に好きだったからだよ。
二人がつき合う前…相談にのってたけど、純粋に本気でなゆのこと好きなんだなぁって思った。
本気だからこそ慎重だったんだよ。
私のことは…本気じゃないと思う。」
本気だって感じられないならなおさら…
どうして拒絶しなかったの?
「あ、ねぇ…。実際のところ、高橋くんとのつき合いってどうだった?」
「えっ!?」
それ今聞きますか!?
🍀399
「ど…どうって…💧」
何をどう答えればいいわけ?
困惑する私に亜衣ちゃんはさらに追い打ちをかける。
「ぶっちゃけ…どこまでいったの?」
「はい!?」
「高橋くん草食系だったじゃん?一応…。今はわからないけど笑
何もなかったのかなぁって」
「いや…何もなかったとは言わないけど…」
「そうなの!?え~意外~!押し倒されたの!?どうだった!?」
亜衣ちゃんは何を思ってこんなことを聞くのか…
そしてなに私も正直に答えてるかな…💧
初めの頃から読んでいます。
コツコツまめに更新されているのが嬉しかったです。
削除されたコメントの方は他の過激な小説に慣れすぎてしまったのでしょう。
私はそうは思いませんので。
友達の恋愛話聞いてるみたいで楽しいですよ。
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