NO TITLE②

レス153 HIT数 130738 あ+ あ-


2011/07/14 22:35(更新日時)

本編満レスとなりました。
長々とお付き合い頂き心から感謝致します。
引き続きどうぞ宜しくお願い致しますです。

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No.1361298 (スレ作成日時)

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No.1

数日振りに帰宅する父親

力無い体を起こし
城は部屋から出る

『父さん、おかえり。どこ行ってたの…?』
『あー勝手にごめん!仕事…うん、仕事忙しくてさ(笑)!風邪治ったか?』

顔も見ずに着替えながら言う

『少し。自分で熱下げることやった…でもやっぱりだるいし咳抜けない。どうしたらいい?』

そこで男は城を見る
そしてギョッとした顔

『何、お前…誰かと思った。城?随分痩せたな。飯は?』
『食べてない…ずっと食べてないよ!水とか氷とかマヨネーズ…食べた。お腹変になりっぱなしだ。お腹空いた…もう食べてもいいだろ!』
『何怒ってんの?食えば良かったろ。冷凍庫にあるのに。』
『説明読んだら火使うやつばかりだ…どうしていいかわからなかったよ!』
『だから前に火の使い方教えたのに逃げたのお前だろ!その歳で肉も焼けないバカお前くらいじゃねー?人のせいにすんな!』
『…。』

だって…
そうなったのは…
お前達のせいなんだ…
そう思ったが言わずに抑える
憎悪感が膨張する…

『しゃあねーガキ!今買ってきたので何か作るから待ってろ。ホラ薬!会社から持ってきた。』

城に向かって投げつける

No.2

憎悪感が治まる
ご飯作ってくれるんだ
薬も持ってきてくれた

今日はちゃんと父さん…
今、俺…我慢して良かった…

何作ってくれるんだろう
それだけで
また少し嬉しくなる

具合は良くないが
本当にそれだけ…
それだけのことで
ドロドロの気持ちが無くなる

『父さん。』
『あ?』
『学校はどうなった?先生とか何か言ってた?知ってる?』
『実家に何回か電話来てたし校長だか教頭だかも1度は来てたらしいけど。後は知らね。もう行っても無駄なんじゃないの?』
『俺、卒業した?』
『何も言ってこないし、したんじゃね?』

それを聞いて心底喜んだ

やった…!
ばあちゃんは卒業したら
どこでも行けって言った!

先輩は中学卒業したら
稼ぎのいいバイト
紹介してくれるって言った!

いつだったか忘れたけど
鏡も中学卒業して
体がしっかりしたら
弟子入りOKって
言ってくれた…!

大人に近付いた!

『風邪治って体元気になったら働いてもいいだろ?』
『働く?どこで。』
『鳶になるよ。』

男は笑った

『鳶!?何がいいんだあんな低脳職!』
『テイノウショク?何?父さんは仕事何?』

No.3

『店長さん(笑)。鳶ってアレか、鏡って奴の仕事か?』
『…そう。』
『なれんの?その体で?』
『なるよ。約束したんだ。夢だよ。』

炒飯を渡して
城の横に座る
何となく空気を読む

『俺鏡って言ってない…。』
『あ、そ。』

黙々と炒飯を食べる
ひとつどうしても聞きたい…
どうしても…
自分が掛けた電話
それに対して鏡が
何て言っていたのか

『何て言ってたの?電話。』
『誰。』
『…。』
『あいつか。』

頷くと
笑って顔を覗き込む

『城は元気かって言うから、引っ越したけど元気ですからご心配なくって言ったんだ。そしたらな…ここだけの話、手が掛かって大変な子ですよね、でもそれなら良かった、実はリストラ…失業しました、城に合わす顔ありませんから、逢いに来るって言っても止めてくださいね、だとよ(笑)!』

スプーンを落とす

嘘…
嘘でしょ…
失業って
仕事無くなったの…?
逢いたくないって…?
徹は?
どうするの…これから!

その反応を見てほくそ笑む男

『夢もヘッタクレもねーな。残念でした。逢えないとさ!景気悪いし可哀相にな(笑)。』

城はすかさず言い放つ

『笑うなら嘘だ!』

No.4

『鏡がそんなこと言うはずない!父さんの嘘だ!笑って言う所じゃない!』
『知らんって(笑)。』
『電話貸して、お願い!鏡と話せばわかるよ?』
『いいから飯食えば?』
『要らない!お腹一杯だ!残してごめんなさい…鏡と話したい、1度だけでいいから、電話貸してよ!』

しがみついて懇願する城
あまりの剣幕に引き
男は突き放した

『だからキョウキョウうるせーって!お前みたいな汗臭いのなんか本当は嫌だったってよ!残すな、食え!』
『鏡はそんなこと言わないんだ!父さんの嘘だ!嘘つき!嘘ばかり!』

癇癪に変わる
慣れてない男は
目がつり上がる…

『せっかく作ってやったのに…キョウキョウ黙れ、全部食え!』
『ずっと食べてなかったからもうこれで充分だ!鏡に逢いたい、逢いたいよ!話したい!』

男は城の顎を片手で掴み
無理矢理口を開けさせ
炒飯を突っ込んだ

男の腕を外そうと
両手で掴むが当然無理…

止まない咳が出て
口から出る

『汚ねぇな!』
『父さんが悪い!入らないって言った!』

一応手だけはあげないように
我慢していたが
もうどうでもよくなった

城の顔を思い切り
叩き倒した…

No.5

痩せっぽちの軽い城は
テーブルに倒れ込み
過去の恐怖が蘇る

男はヤクザみたいな口調で
起こしては殴る

顔を庇いながら
城はしっかり聞いていた

勝手にヒトんちの事情に
首突っ込んできやがってよぉ
虐待だの騒いで
掻き乱しやがって
偉そうに謝罪しろだの
証拠撮っただの
ウザい野郎の何がいいんだ

誰が渡すか
父親面して正義ぶって
上手くお前洗脳して
俺が父親失格とか植え付けて
ヒトんちのガキを
自分のモンみたいに

態度が気に食わねー絶対渡すか
お前を更にバカにしたのは
あいつだ
泣きベソの甘ったれ坊主がよ

分かるか城
お前はちゃんと
家のことやってりゃいいんだ
あいつがどうこうとか
俺に逆らえばこうなんだよ!
いいな!こうだ!

背中を何度も踏みつける…
怯えて咳き込む城は

咄嗟に外に逃げ出した

逃げ出したが…
ここは街中…
人通りと車の多さにパニック
見られたくない恐怖心

ましてさっき
臭いと言われたばかり…
通行人と目が合う
小汚い物を見るような目…

すぐ階段を上がり
部屋に非難した

理性の飛んだ男は
そこですぐ引き入れ
鍵を掛けた…

そしてまた…

No.6

徹は昼前にタクシーを呼んで
現場からそう遠くない
城の祖父母の家へ向かった

今日は運良く場所もいいし
もうこの時間しかないと
現場を抜けられない鏡が
昼休憩より少し早めの時間に
徹を切り上げさせて
向かわせた

この時間なら爺さんも
仕事で居ないだろうし
旅行からだって帰ってるはず

徹はタクシーを降りて
祖母を呼び出す

『はい?』

…居た!
ドアチェーンを掛けたまま
徹の姿を見て警戒する

『こんにちは。』
『…どちら様?』

ハッとして頭のタオルを取る

『失礼。前に神崎と一緒に話し合いに来た梶谷ですけど。』
『梶谷…あぁ、まぁ…どうなさいました?』

チェーンを外し玄関へ入れる

『俺近くで仕事中抜けて来たし、時間無いんで単刀直入に言います。城君が引っ越した先の住所教えて欲しいんですけど。』
『それは…。』
『じゃあ市内か市外か。』
『…。』
『口止めされてる?』

祖母はニコッと笑い返す

『口止めと言うより…本人ではないので私達…シンジが直接連絡すると言ってましたので、まだなら何かあるでしょうからお待ち頂けます?』

徹は祖母の目を見た

『待つ理由は無い。知ってるんだろ。』

No.7

『そんな警戒しなくても元気なのかどうなのかの確認するだけ。大体でもいい。教えてくれます?』
『…それならシンジの電話から…何も家まで行かなくても…。』
『この前言ったこと、覚えてないとは言わせない。自由に鏡の家と行き来できるようにするって話。どうなの?』

戸惑い始める…

『どうなのって、そういう話は夫でないと…。』
『神崎が来ただろ?あいつに断られた。だからあなたに話付けに来た。俺達がここまでするのはね、城君がどう受け止めようと、神崎も俺もあなた達を完全に全て許した訳じゃないから。虐待されて心に傷を負った子が、虐待した奴と2人きりで過ごして…本当に幸せに今過ごせているのか、心配するのは当然。首突っ込んだ俺達が機関に頼ってない分、ちゃんと見届けないといけない責任もある。それは理解してくれますよね?』
『それは…ええ…。』
『あなた達も虐待行為認めて反省したなら、城君が安心して暮らせる環境を作るのに協力するのは当然、むしろ義務だ。シンジさんのあの性格だって流石に親なら分かるだろ?』
『でもちゃんと…可愛がってる様子で…城も父さん父さんって一緒に買物行ったりしてましたから。』

No.8

『あなた達が見てるから、居るから、表向きなだけだったら?あいつは最近まで、実親に実子を自分の子じゃないなんて隠し通して来たんだ。あの話し合いが無かったら一生事実を知らずに墓行きだったんじゃないの?それでもシンジは間違ってない、良いことをしてる、あいつの下で孫は過去に怯えること無く絶対幸せだなんて言い切れる?』

少しずつ納得していく様子…

『他にも調べる手段はあるけど、手間。すぐ知りたい。ついでにあなた達の今現在の考え方も知りたかったから来た。鏡からイワオさんのこと聞いてどれだけ口ばかりの男かってのよーく分かったし。これで拒否なら反省の色もあったもんじゃないけどね。本当に一目会いたいだけなんだ。教えて下さい。市内?市外?県外?』
『…市内…です。車で20分くらいの…。』

徹は紙とペンを取り出し
ハイ、どうぞ!と
メモの準備をすると
玄関が開き
祖父が入ってきた

徹が挨拶をしてペンを構え直す
何となく察知したのか
割って入る…

『前に神崎さんにも言いましたが、本人達の問題なのでそこまで言う必要ないですから。』

ペンを乱暴に置き
祖父を睨んだ

No.9

『本人本人って、この前何を見て聞いて反省したワケ?』

今祖母に言ったことを
再度祖父にも言ってみる

納得はするものの
頑として言わない祖父…

『仕事を抜けて昼飯を食べに来たので…時間がありませんからこれで…。梶谷さんの言いたいことはよく分かります。孫が我々の家庭を選び息子もそれに応じた。もう1度父親としてやるべきことをやると出て行きましたから。大丈夫でしょう。次戻って来たら、神崎さんに連絡したのかと聞くくらいはしておきますから。』

そう言って閉め出された

『クソッ…邪魔しやがって!』

もう1時…
徹も戻らなければと諦める

でも昼飯食いに戻ったなら
すぐ出て来るかもと
隠れて様子を見た

1時半…出て来ない

悔しさを残したまま
鏡に電話を入れた

今日は諦めよう
そこまで押せたなら
次行けばきっと言うから
戻って来い

そう言われて
渋々家を後にした…

No.10

戻って来た徹の不機嫌な様子
鏡は動きながらなだめる

『でもこれでミッチャンなら居場所吐くって確信持てたしな!』
『この俺があと一歩であのクソオヤジ殴りそうだった。』
『お前冷静にキレてヤるから…怖すぎるからやめてくれ(笑)。』

仕事終わってからだと
祖父もいるだろう
明日の現場の場所もまだ未定

『徹、俺明後日から2連休貰えたからさ、今度俺が行く。』

とりあえずは市内
あの家から20分程度の
近い場所だって
それを知っただけでも
安心だった

そして
嘘をつかれたことから
自分と城が
接触しないように
警戒していることも
確信出来た

自分に対して
何か面白くない感情を
ずっと抱えての行動…

それが城に被害を
与えていないことだけを
ひたすら願い続けた…

もうすぐ逢える

No.11

>> 10 『父さん…父さんやめて!痛いよ…死んじゃう!』

泣きながら父と呼ぶ
バカシンジなんて言えば
更に酷い仕打ちになるから…

布団にくるまって
少しでもダメージを減らす

城のボサボサの頭を掴んで
顔を近付ける…

『城…これは虐待か?』
『…わかりません…。』
『誰がどうしてこうなったんだ?なぁ?言え!』
『…俺が…鏡って沢山言ったから…言うこと聞かなかったから…です…。』
『ならこれは虐待か?躾だよな?お前が悪いんだもんなぁ!』
『…っ。』
『あ?聞こえねーよ!』
『し、シツケです…痛い…離して…父さん…ごめんなさい…。』
『熱湯とタバコ…。』
『嫌だ!!』
『聞け!熱湯とタバコはやらない。それこそ後が面倒だしよ!』
『…はい…はい…。』
『大人しく料理洗濯掃除…家事やれ。ちゃんと言うこと聞けばこんなことしねー。』
『…火とお湯は怖いんだ…どうしても…ごめんなさい…。』
『じゃあ食うな。俺は勝手に食べる。お前は冷蔵庫から自分で自分の分食え。材料は適当に突っ込んでおくから。出来なきゃ食うな。キョウキョウ言う前に自分のことやれや。いいな!』
『…はい…。』

No.12

父さんは悪魔だ
言うこと聞いても
一緒にいても
何ひとつ変わらないんだね…

ちゃんと父さんになった時
服買ってくれたり
ご飯作ったり
薬持ってきてくれたのは
凄く嬉しかったのに

どうして鏡が嫌いなの?
鏡は正しいこと
してくれたんだぞ

テイノウショクが何か意味知らない
でもバカにしたのは
間違いないだろ

父さん見ろよ
せっかく治りかけたのに
傷が薄くなってきたのに
また血で汚れる…
顔も…痣だらけ…
骨は折れなかったけど
無理矢理引っ張るから
捻って腫れてるし
本気で殴っただろ…
鏡をバカにしながら…

そんなに鏡が嫌いなの?
俺が鏡大好きって
沢山言ったら
きっともっと怒るね

死んでもいい
どれだけやれば
どこまで酷いことやるか
試したくなってきた

死んだらお前が犯罪者
TVや新聞で有名人だろ
そして
お前とお前の親
ずっと気にしてた世間から
白い目で見られるようになる
それ1番辛いだろ?

面白い方法見つけた(笑)
それで一生胸張って
生活出来なくなるなら…

俺も悪魔になります

鏡には頼らない
でも最後に1度だけね
声聞きたい

ちゃんとありがとうって
伝えます…

No.13

眠りから覚めた城

もう部屋も薄暗く
父親は仕事に行った様子

体を起こす
血と痣と汗と涙で
自分も布団も汚く臭い…

『汚い…でももうシャワーはいいんだ…どうでもいい…どうせ綺麗にならないし。』

部屋を出ようとした
その途端
胃液が逆流して
食べたばかりの炒飯全て
布団の隅に吐き出した…
血も僅かに混じって…

完治しない風邪
そのまま咳込んで
薬を手に取ったが
自分の嘔吐物に捨てた

『いらねぇ…こんなの。』

居間に出て
表通りに面した窓から
通りを見つめる…

どうしてみんなは
綺麗なんだろう

ずっと見ていた中
お洒落な私服で
笑いながら歩いて行く
見覚えのある女子…

あれは…ユウナとミクとサエコだ!
城は窓に張り付いて
無意識に叫ぶ

『ユウナぁー!!』

また見付けて!
また助けて!
でも情けなさ過ぎるから俺…
気持ち悪いから…

あの時はありがとう
空腹が満たされて
一時でも幸せだったから
感謝してる

ユウナ ありがとう
先輩 ありがとう
さようなら…

ニュースになったら
思い出してね俺のこと

ユウナ達を見ながら
声を上げてまた泣き続けた…

No.14

日も暮れて
城の部屋の電気だけが灯る
1人で呟く

『父さんが傷付く方法…知ってるよ。』

紙を何等分かに切り
ペンで10枚くらい
腫れた指でぎこちなく
一生懸命丁寧に何かを書く…

キッチンにあった小箱も
隣に置いて
その表にも書く…


【お父さんへ】

幸せそうに笑う自分の顔と
優しく笑う父親の顔を
表に描いた


見た目はいい感じ
何だろうって期待を持たせて
開けたら中身は…

『…よし。出来た。強い鏡が泣くくらいなんだ。優しい鏡が傷付くくらいなんだ。俺が沢山殴られて死んだら、見える所に置かなきゃ…。』

部屋を見回すが
隠す場所が無い…

とりあえずはここでいいかと
積み重なる服の下に隠す

『楽しみだ!』

死んだら魂になるらしい
そしたら
あいつがこれ見付けて
傷付く所見られるかな…

魂になったら地獄行き
俺はこんな悪い息子だからね

『徹に聞きたかった。俺の兄貴。死んだら本当に魂になれるか…魂にならなかったら…あいつの傷付く顔見れないだろ…。』

布団の隅で孤独な子猫の様に
丸まった

明日は家事しない
いっぱいいっぱい
怒らせなきゃならないから…
おやすみなさい…

No.15

鏡は人差し指を立ながら
両手を組んで目を閉じていた

『…何やってんの?』

徹が冷たい視線で
鏡の行動を咎める

『念。』
『…何?』
『念を送ってんだ。城チャンに。届け~届け~俺のラブコール!』
『呑み過ぎじゃないの(笑)。アンタからのそんなコールごめんだって!余計離れる。』
『そう?んじゃ、やめよ。』

ここは徹の家
一旦家に帰ったが
城が居なくなって
募る寂しさに負け
珍しく鏡から押し掛けた

『ハァ…あ~あ。』
『今度は何だよ(笑)。』
『さっきボス(社長)から電話来てさ。連休削ろうとしやがるから、削ったら覚えてろハゲ!って切っちゃった。』
『ホント頭弱い。ハゲ気にしてんのに。終わったな。リストラ、いやクビだ。おめでとう(笑)。ホームレスのが合うんじゃないの。』
『そうかな?差し入れ待ってるから!でも仕事が邪魔だ…。』
『城君に逢ってから変わったよな。仕事が邪魔なんて。』
『元気かなー。またクラクション鳴らすか!』
『場所のメドも無いのに!通報されるだけだ。1人でやれよ。』
『冷たい子。』

いじける鏡と城を比べる

『賢いから…ヤバかったら上手く逃げる気もする。』

No.16

『お前今、俺と比べて城が賢いからって意味で言ったろ!』
『何も言ってない。思っただけで。』
『あーそう。てか、逃げれないかも。呼ばれてる気がする。』
『意外に爺さん達の言う通り上手くやってるかもしれない。』

鏡はビールの缶を
ゴミ箱に投げ入れた

『有り得ません。俺を呼んでる!きっと戻りたいってベソかいてる!あんな男…。』

幸せだなんて認めない
俺があそこまで元気にした
俺を忘れて連絡よこさない…
そんなのは有り得ない!
きっと何かある
あの男のことだ…!

黙り込んで
表情が変わる鏡…

『でもさ…本当に上手くやってたら…幸せそうならいい…けど俺…素直に喜べねぇよ…なんだこれ…この気持ち…。』
『ヤキモチ。』
『言うなよ!お願いだから徹サン!あんな男に誰がヤキモチなんか!ヤキモチなんて!』

分かりやすい奴と笑いながら
徹はタバコを手に取る

『アンタ達お互い城君を手元に置きたい同士だから。向こうの理由は知らないけど。』
『お前も逢いたいだろ!』
『勿論(笑)。ま、明後日には場所分かるし逢ってからだ。焦るなよ。』
『そうだな!考えても仕方ないか(笑)。』

2人は話題を変えた…

No.17

翌朝
目を覚ました城は
顔や体の痒みが気になった

顔洗ってないし
風呂入ってないからだ

ボリボリと背中をかくと
ビリッと痛みが走り指を見る…

伸びた爪には
剥がれた瘡蓋と血…汚い!
体の匂いを嗅ぐ…臭い!

『いい感じ。』

これならまた汚い臭いって
もっともっと怒る(笑)

居間を見渡すと綿ゴミ
洗濯物が沢山散乱

『もっともっと…。』

怒らせる方法を考える
冷凍庫を開けて
食品を全てシンクへ放り
水でグチャグチャにする

何だか楽しくなってきた

男の部屋を開けて
衣服の山に立ち小便

『早く帰って来いよ!』

心の準備は出来ている
悪魔の息子が悪魔になって
その息子がまた悪魔
面白いだろ?


もっともっと
滅茶苦茶にしてやるつもり…
だけどすぐ具合が悪くなる

部屋に戻り
また横になった

たった今やったことを
思い出してみる

怒るだろうな…
凄く…凄く…
どんなことしてくるかな…
熱湯?火?

震え出す…

死ねるよね?
鏡に最後にお礼言うには
どうしたらいい?

鏡…鏡…
強いでしょ?俺…

だけど本当はね…
凄く…怖い…

怖いよ…

No.18

昼を過ぎても男は戻らない
城は苛々していた

こういう時に限って
…また?

居間のソファーに座って
TVを見て待つ

見覚えのあるミュージシャン
サングラスをかけた雰囲気が
何となく徹を思い出させる

『徹も大好きだった。声聞きたかった。』

もう3時…
父さんが帰って来たとしても
少ししたらまた
仕事に出て行く時間だ

階段から誰か上がる音…
玄関の鍵を開ける音…

帰ってきた…!
城の手がまた震え出す
最後の時が来た…!

男は居間に入るなり
城の姿に驚きながら
スーツを脱ぎ始める

『びっくりした…珍しいな、こんな所に。』

部屋も見回さず
スーツから財布や携帯やら
テーブルに全て置き
急いでシャワーを浴びに
浴室へ入ってしまった

『ちゃんと見ろよな…!』

部屋の汚さも
溜まった洗濯物も
キッチンの酷さも
汚くて臭い俺も…

ふてくされてTVを見る
ふと携帯電話が目に入った

『鏡…!』

すかさず手に取り
番号を押して掛ける

使ったら分かるらしい
鏡と話するには今しかない!

プルルルル…と
何度も虚しく鳴り響く
呼び出し音…

鏡…出てよ…!
最後なんだ…!

No.19

休憩無しで動く男達
どこからか音が鳴る…

『ん?音…鏡さんの携帯じゃないすか?』
『あ、俺か(笑)?ボスじゃねぇだろうな…。』
『ハゲ呼ばわりはマズかったすからねぇ。』
『脅すな(笑)!怖くねーしあんなの!』

軍手を脱いで
胸ポケットから慌てて取り出す

番号を見て表情が変わる…
あの野郎から…?

『…はい?』

警戒して低いトーンで反応する
男だと思ってたのに…
これは…懐かしい…城の声!

『鏡…鏡ですか?』
『城…?』
『鏡?俺…うん城です…!』

胸がジワッと熱くなる
思わず声を張り上げた
動揺して言葉にならない

『城!!どっ(どうして)…バッ(バカヤロウ)、なっ(何してたんだ)…!』
『何?』
『いや…(笑)。元気かよ…!家か!?』
『うん、仕事?徹もいる?』
『いるけど傍にはいない。引っ越したってか!?どこだ?住所言えるか?』
『ワケ分からないまま…気付いたらここに引っ越しだったよ。住所分からない…ごめんなさい…人も車も沢山あって…外出られないんだ…。』
『そうか…街の方だな!心配してたんだぞ、徹と!どうして連絡してこねぇんだよ。』

No.20

『携帯貸してくれない…鏡って言ったら怒るし、悪魔だ…。』

その一言で不安がよぎる

『殴られるのか!?もしかして、また酷いことされてんじゃねぇだろうな?俺の城によ!』

鏡のその言葉に涙が出る
されてるよ…でも言えない…
言った所でもう遅い…

『…大丈夫。ちゃんと父さん…だ…。今シャワーしてるから…勝手に掛けたんだ。鏡と話したかったから…良かった。』

様子がおかしい
鼻をすする音…か細い声…
お前…泣いてねぇか?

『何された。』
『…されてない。』
『隠すな。声で分かる。』
『悪いことしたら怒られるだけ…それ以外…大丈夫。』

どうして嘘を付くのか
もう自分でも理解出来ない
助けに来てって言えば
それまでなのに…

『窓から見える看板教えろ。何でもいい。言え!』
『…。』
『また捜し出して見付けてやっから、言え!!』
『…決めたんだ。鏡…お父さん…ありがとう。徹にも言って…兄貴に…ありがとうって…。』
『何が!!いいから言えよ、城!変だお前!』

鏡の手も額も汗ばんでいた
鳥肌が立った

携帯を落とす音…
男の怒鳴り声と悲鳴…

『城…おい!城!?…コラ糞シンジ、出ろ!!』

No.21

…男は鏡が喚く携帯を
無言で拾ってすぐ切った

『…やってくれたよ。お前…本当…。』

振り向きざま力任せに
携帯を城に投げ付けた

『バカガキ!!』

壁に当たり跳ね返った携帯は
勢いよく城の額に当たった…
額を押さえながら
言葉も出せず怯える城…

酷いことされて
死ぬ覚悟はした
だけど痛みと恐怖は
目を閉じてただ我慢なんて
できるはずもない…

『オゥ!立て!』
『嫌だ…嫌だ…何するの!』
『立て!ゴミ!』
『どこ行くの!何やるの!』

浴槽に放り入れ水を出す…
冷える足…片足ずつ上げる…

『熱湯は嫌…熱湯にしないで!熱いんだ!』
『しねぇよ!臭いからまず洗ってやるってんだ生ゴミ!』

膝くらいまで溜まる水

『あいつに言ったのか?』
『…何、何を!』
『とぼけんな、住所言ったのかって!!』
『…い、言ってない、ありがとうって言っただけ…!』

髪を掴んで壁に打ち付ける

空室の目立つ古い建物は
音が響いても誰も気付かない

『嘘つくなや!』
『住所知らないから…父さん…冷たい、痛いよ…!』

泣いても男には届かない
溜まる水に掴んだ頭を
無理矢理沈めた…

No.22

鏡は愕然としていた…
最後に聞こえた怒鳴り声…

ガキ、ゴラァ!何いじってんだテメェ!殺すぞコラァ!

…ヤクザみたいな口調
バチン!ゴン!と響く音と
例えようの無い悲鳴…

携帯を持つ手が震えて動揺し
嫌な汗が滲む
仲間が呼ぶ声すら聞こえない

あ…あの…男…
城を…殴りやがった…
殴って…あの悲鳴…
普通じゃねぇ…
絶対…怯えてた…!

無意識に
組んだ足場を身軽に駆け降り
ヘルメットを放り投げる

城…城…
殴られてんじゃねぇかよ…
今すぐ行かねぇと…
でも場所が分からない…
仕事…簡単に抜けられない…
終わりまでもう少し…
でも…でもよ…

ありったけの声で叫ぶ

『徹ーーーッッ!!』

その大声に驚いて顔を出す徹
腰道具も外して放り
会社のワゴンに向かって走る
鏡の姿に更に驚く

『呼んだか!?』
『徹!ちょっと抜ける!!代わりに現場、頭張れ!すぐ戻るから!』

そう言ってエンジンをかけ
消えて行った

『どうしたんだ、鏡…。』
『電話で城君と話してたみたいすよ?』

まさか…
徹の胸にも不安の渦
住所聞き出したか
家に聞きに行ったのかも…

No.23

後悔の渦が押し寄せる

どうして連れ帰らなかった?
どうして城の意見を許した?
どうして信じようなんて
思った…?

祖父母の家に向かう…
明日までなんて
待っていられるかよ…!

『助けるって約束した…!』

こんな時に限って
邪魔をする乗用車

漫画を読みながら
チンタラ走る若い男
フラフラ急に割り込む老人
お喋りに夢中な中年の女性
食べるのに夢中で
青になっても発進しない
若い女…

どいつもこいつも苛つく!
どけ!!

クラクションを鳴らして退けさせる

こっちは一刻を争うんだよ!
泣いてたんだ…
大丈夫なんて強がりだ…
城の純粋な心を
踏みにじりやがった…!

ミッチャンに会って
住所さえ抑えればいい話

でももっと危機感持って
早く調べ出せば良かった…
心のどこかでもう
あんなことしないだろうと
安心している部分もあった…
今頃きっとあの野郎に…

走りながらこみ上げてくる

城の言葉…
鏡って言ったら怒るし

使うなと言われた携帯
男の目を盗んで使って
見付かった
その話し相手が俺…
それで…

『…俺が…原因か…!』

No.24

祖父母の家に着くと
車を放り出すように止め
玄関チャイムを何度も鳴らす

居ない…居ないのかよ!
肝心な時に…買い物か!?

焦る気持ちを抑え
携帯を取り出し男にかける
…出るはずもないか…

『クソッ…!』

諦めて車に乗り込む

街の方へ行ってみよう
車も人も多い所なんて
沢山ある
ボケッとしているよりはいい
もしかしたら運良く
男の車から家が見付かるかも
運良く…
駄目だったらまたここへ
その頃にはミッチャンも
戻っているかもしれない…

己の勘だけを頼りに走り出す

何度も何度も呟く

城…ごめん…ごめん…
城…待ってろ…負けんなよ
必ずまた見付けて
野郎ブッ倒してやっからな…!

No.25

苦しい…苦しい…!
息出来ないよ…!

男が押さえ込む力にかなわず
頭を上げられない…
手をバタバタと振り
水を飲む…

『死んでも困るから許してやる…出ろ!』

間一髪で引き上げられた
びしょ濡れの体で
ただただ咳込み水を吐く…

やっぱり必要ないんだ
俺なんか…
散々良いこと言って
死ぬところだった…
でも殺さない卑怯者…!

そのまま城の部屋へ連れ込む

『汚ねぇ…!吐いたのそのままかよ…!』

蹴り飛ばされた城は
床に倒れ込み男を睨む

『死ぬところだった…自分の子が死んでもいいのかよ!』
『死んでないんだから感謝しろ!生意気言うと本当に死ぬぞ?要らねーしお前みたいな役立たずのゴミ!』

腕がわなわなと震え出す…
怒りが込み上げる…
騙された…
裏切られたんだ…
信じてみたかった…
父さんが父さんになって
母さんが会いに来るのを…

嘘ばかり!
信じても良いことない!
許しなんて意味がない!

こいつらは糞!
人間なんて糞!
誰一人信用できるかよ!
鏡と徹も人間…
いつか2人も…

部屋を出て着替え
仕事に行こうとする男の
怒声が響いた…

『小便かけやがったな!!』

No.26

城は冷えた体を起こし
部屋から出て
男の方へ走って叫んだ

『ざまあみろ!』
『…あぁ…?』

男は物凄い形相で睨みつける

『見ろよ悪魔!部屋ゴミだらけだろ!洗濯なんかしてないぞ!キッチン見たか?見てみろよ!』

城の勢いに少々押されながら
居間を見渡し
洗濯物の山に気付き
キッチンへ…

冷蔵庫のドアは全開
シンクに散らばる食品
酒の缶やビンは
流されて空のまま…散乱…

あの城がやったのか?

信じられない光景に
立ち尽くしていた

城は癇癪を起こした時とは
また違う顔…
絶望と憎しみに満ちた顔で
罵声を放ち続ける…

『嘘付きの裏切り者!俺がゴミなら親のお前もゴミだろ!同じ血だからな!ジジィもゴミだ!反省したのに俺の話すら聞かなかったから!ゴミにご飯も服も必要ないんだ!ゴミはゴミ屋敷に住めばいいんだ!部屋見ろよ!俺がやった!頭いいだろ!ゴミ野郎!』

立ち尽くして睨む男を
威嚇するように
時々近付いては
足で床をダンッと蹴り
そしてまた距離を取る…

次から次へと
怒り任せに暴言を吐く…

No.27

『何が普通の生活をしていこうだ!何が父親に戻れただよ!何が…何がチャンスを与えてだ!成長できるだ!自慢の父さんだって言えるようになるの見ていてほしいだよ!全部嘘だ!俺を必要としてるって話も…今要らないって言った!!』

『うるせーな…だから何だよ!実際役立たずだよ、お前はよ!キョウキョウばっかで家事も満足にしねーしな、そのくせ臭くて汚いのだけは相変わらず!弱えーし、ベソばっかだし、ガリでバカで障害持ち!要らねー要らねー、ばい菌君(笑)。ばい菌なんかに構ってらんねーんだわ。仕事行く。逃げんなら好きにしろ。間違いなく歩いてる奴らに軽蔑されるから。汚すぎてゴミ処理場に運ばれるわ(笑)。サヨナラ、ばい菌!』

城は返す言葉が見つからず
歯を食いしばって
涙を流しながら睨み続けた…

そして決めたことを
実行することにした…

こいつが一番腹立てる話
悪魔が一番気分悪くする方法

それで逆上させて
怒らせて
作戦通りに…

No.28

『鏡に比べたら腐れすぎて話にならない。』

『あ、そうかい。』

『お前悔しいんだろ。鏡に劣ってるから。』

『…。』

『鏡みたいに強くも優しくもないし、たくましくもない。何ひとつ良いところない。自分で分かってるんだ。』

『…るせぇな。行け。』

『鏡大好きなのが気に食わないんだ。お前コドモみたいなもんだろ。それヤキモチだ。』

『殴るぞ…!』

『それに鏡が怖いんだな。言うこと正しいから返せないし。』

『うるせーって!』

『鏡はお前なんかに比べたら最高の父さんだ。お前はゴミだし鏡とは比べものにならないけどね。いつか生まれ変わったら、鏡をお手本にした人間になるといいけど。でもきっと、魂は地獄行きだ!』

怒ればいい
怒り狂って掛かってこいと
そんな気持ちで
嫌いな話をふり続けた

男はおもむろに
携帯を取り出し
仕事絡みの人間にかけた

『…あー…俺、ちょっと今日休むわ…。』

切った後
何か考えるように1人頷いて
城の方へ歩き出した…

No.29

ほらね 簡単だろ
仕事休んでまで
俺の相手することを選んだ
もっと怒らせなきゃ(笑)

『クソシンジ、お前との古い記憶はやっぱり暴力しかない!ゴミ以下だ!カスってやつ!』

もっともっと…

『お前の言う通りになんてしない!鏡や徹の言うこと以外は聞かない!お前はお前がお前のことやれよ!』

ほら、凄い顔…

『またきっと鏡が見付けてくれる!お前をうちのめすんだ!鏡は強いんだ!格好いいんだぞ!お前なんかすぐだ!』

怒り狂えばいい…

『鏡の仕事も格好いいんだからな!凄いんだ!重いやつを簡単に持ち上げるし、仕事も速いし!筋肉も凄いんだ!お前みたいに細くて情けなくないぞ!』

さぁ 来いよ…

『鏡と徹が2人で来たら、俺が泣いた分お前を泣かすんだ!鏡と徹が本当の父さんと兄貴だから!俺の本当の家族だから!絶対お前を許さない!鏡と徹にカスはかなわない!』

殴れ!

『次鏡に逢ったら、カスシンジのしてきたカスみたいなことも全部話すんだ!せっかく綺麗にしようと大事にしてくれた俺を、またこんなに汚したカスシンジ!気持ち悪い!お前も化物の糞人間野郎なんだよ!分かったか!』

殺せよ!!

No.30

思い切り殴り倒された…
顔の骨が折れたかもしれない
本気でそう思えるくらい
物凄い激痛だった…

キョウキョウキョウキョウ
何なんだこのクソガキ!
ナメてんのか俺を!!

そう怒鳴りながら…
城の服を剥ぎ取って
蹴り上げ続ける…

肋骨折れたかも
内臓おかしくなったかも

昔から暴行され
上手く体を庇える方法が
ある程度身に付いていたから
幸いそれはなかったが…

やっぱり死ぬって
痛くて苦しいんだなぁ
ただ漠然と
殴られながら思っていた…

裸にされたら
次来るのは決まってる…

『選べ!熱湯と火と犯されんの、どれがいい!』
『どれも嫌だ…!殺せ!』
『選べ!』
『殺してよ!』

引きずって城の部屋へ放る…
ベルトを手にした男は
金具が当たるように
何度も…何度も振り下ろす…

金具によって
えぐられ続ける皮膚…
骨張った体に刻まれる傷…

痛い…痛い…
唇を噛み丸まって耐える…

鏡には頼らないって決めた…
でもこの痛みを
紛らわすかのように
口から勝手に出てくる…

鏡…鏡…!助けて…!
鏡…助けて…
鏡…

鏡…

No.31

仲間達はもう仕事を終え
1ヶ所に固まって
鏡が戻るのを待っていた

『6時半…1時間経過…鏡さん戻って来ないと帰れない(笑)。』
『徹さん、やっぱ携帯繋がらないすか?』
『1度繋がったきり。もうちょっと待てってさ。そして1時間。』
『あの人のもうちょっとはアテにならないすからねぇ(笑)。』
『オレ今日用事あったんだよなぁ~…カミさんから着信11回…帰ったら…怖。』
『鏡に代わりに謝ってもらうべきだね。いいよ、連れてって。クレーム処理上手いからアレ。存在自体が俺にとってはクレームだけど。』
『徹さん毒舌(笑)。』
『あっ、来た。』

鏡が戻って来た

『何してたんだよー。』
『ゴメンッ!』
『ちょっと待ってから1時間すからねぇ(笑)。』
『ゴメンッ!』
『今日の日当分、ちゃんと取り消し申請しとくからみんな許してやって。』
『おー!』
『流石徹さん!』
『いいっすねぇ~。』
『やめて徹様(泣)。』
『城君捜しに行ったんすか?会えました?』
『…いや(笑)。』

鏡の苦笑いで
徹は全て察知した

No.32

>> 31 会社に戻って解散

今度、安~い飯奢るからと
仲間に頭を下げる鏡に
全員がブーイングを浴びせる

徹が待ちきれない様子で聞く

『場所つかめた?』
『いや…留守なんだ…。』
『城君、電話で何て?』

徹の顔を見ずに溜息

『親父が風呂入ってる隙にかけてきたらしくてさ。何で連絡しなかったって言ったら…携帯貸してくれない、俺の名を出せば怒るって…殴られてんのかって聞いたら大丈夫しか言わない。でも泣いてたんだ。見える看板教えろって言ったら黙るし。俺にありがとうって…兄貴にもありがとうって伝えてって。』
『何、それ…。』
『その後がな…携帯落とした音とあいつの怒鳴り声と城の悲鳴聞こえて…焦った。』

祖母に会いに行っても留守
だから街の方暫く走ってみた
手掛かりもないし
また家戻って張ったけど
帰って来なかった

それを聞いて徹は
今からもう1度行こうと誘う

そのつもりだと
鏡も車を家に置いて
徹の車でまた向かった

No.33

『留守だのなんだの、興信所に頼んだ方が早かったんじゃねぇのか。一生恨んでやるジジィとミッチャン。』
『アンタの日頃の行いの結果がこんな所で裏目に出るなんて…。』
『兄サン…どーゆー意味?』

家に着く
思うように進まない苛々から
チャイムに当たる鏡

『そんな連打すんなって!迷惑な奴(笑)。』
『どうせ居ないんじゃねぇのまた。出てこい出てこい出てこいー!』

更に連打する

『誰だ!!』

ドアの奥で怒鳴り声
しまったと顔を見合わせる…

ドアが開くと
祖父が厳つい顔で睨む

『神崎さん…?』
『あ、どうも。これ…チャイム電池切れてると思って。鳴ってるの聞こえなかったんですよね!』

徹がうつむいて笑う

『あぁ(笑)。そうでしたか。…で?』

で?じゃねぇよと思いつつ
用件に入る

『しつこいようですがね、城の居場所…。』

まだ言い切ってないのに
口を出した

『しつこい(笑)!私の口から個人情報は洩らせません。』
『俺の携帯に城からかかってきました。その後シンジさんの怒鳴り声と城の悲鳴。見過ごせません。教えてくださいよ。』

No.34

『怒鳴り声と悲鳴?城がまた悪いことやらかしたのでは…?』
『普通に怒られる程度なら悲鳴なんか上げない!どこまで強情なんだ、一刻を争う。お願いしますよ!』
『もしやっと見付けて城君に何かあったらあなたも共犯者。』

面倒臭いような
どうでもいいような顔…

『もう息子達はここを離れたんですよ。関係ない…関わらないです。』
『そういう問題じゃなくねぇか?あんたの気分なんかそれこそ関係ないんだよ!』
『呆れて言葉にならない。』
『城を殴りつけ何かに打つ音も聞こえた!あの腐ったバカ息子のやることだ!なんなら一緒に来い!それで何も無かったら今の言葉取り消して謝るからよ!』
『そこまで言うなら…お待ち下さい…。』

祖父は奥へ引っ込んだ
住所を調べに行ったのかと
内心徹と喜ぶと
電話を掛け始めたようで…
耳を澄ませて内容を聞いて
ビックリなんてモンじゃなかった…

もしもし?…あぁ今ね
玄関に男2人が押し掛けて
色々訳わからんこと喚いて
帰らないんですわ…
え?1度少し話した程度で…
迷惑してますので…
巡回ついででもいいから
すぐ見に来て下さいませんか
住所は…

『通報しやがった…!』

No.35

笑顔で戻る祖父…
もう少しお待ち下さい
今調べてますから
メモした紙が見つからなくてと
平然と言う

あまりに腹が立ち
ふざけるなと食ってかかる

突然鏡が一目散に逃げ出し
徹も慌てて玄関を出て
車に乗り込んで家を離れた
途中パトカーとすれ違う…

『何逃げてんだよ!置いてくな俺を!』
『ゴメンッ!昔からの条件反射みたいな…(笑)。』
『事情説明すれば良かった話じゃないのか!?』
『どうかなー…パッと見た感じあいつより俺らもお前の車もガラ悪い感じだよなと思うと…どこか不審がられるよなって冷静に考えてたら体が勝手に(笑)。』
『速いんだよ、そういうところばかり!』
『まぁ、警察来たからって口割ることも無いだろうし。職質されるだけストレス溜まるから今回は仕方ない…。』
『やっぱりミツエを落とすのが早いか…。』
『城…大丈夫かな。』
『可哀相だけど1晩だけ耐えてもらうしかないだろ…。』
『徹、泊めて。1人で考えたくねぇ…。』

2人は凹みながら
帰ることにした

No.36

男はやかんで湯を沸かす

ガスコンロを使う音から
裸のまま放り出された城は
熱湯を浴びる覚悟をした

全身から酷い汗が…
一気に布団が湿ってしまった
丸まりながら
ガタガタ震え出す体…

さっきまでは
両足を広げられ
犯される恐怖と戦っていた…

その様子を楽しむだけで
被害は無く終わったが…
次は熱湯…

買ってもらった服を漁る
気休めでもいい
一番生地の厚そうな服
それを何枚も重ねて着た

死ねるのに
どうしてこんなこと…
裸のが全身火傷で
死にやすいじゃないか!

でも怖い…
物凄い恐怖だ…
トイレにも行けず漏らす…

どうせ汚いからいい
ゴミだし…

やかんのピーッという音
来る…来る…
あの熱さ…
思い出すだけで失神しそうだ

男はTVの前から立ち上がって
キッチンへ…

こんなに覚悟してるのに
カップ麺を開ける音

それはそれで腹が立つ
何だよ…飯か
食ってないで殺しに来いよ!
城は叫んだ

『早く持って来い熱湯!』

無視
少し安心する

死にたいけど
これ以上苦しいのは嫌だ
一気にやって欲しい…

男の携帯が鳴る
少し経ってから男は出た

No.37

『何ですかね。え?あぁ、城は元気ですよ。…アハハ(笑)!アレは一時的にちょっとカチンときましてね、勝手に携帯触るからです。大切なデータだってあるのに…ろくに使い方も分からない城が勝手に触って削除されても困るから!ガツンとやっただけ。』

話の内容から鏡だと察知する

『うるさいねお宅も!ハァ、分かりました、声聞けば満足?ちょっと待ってくださいよ。』

そう言うと城の部屋に入り
服を着込んだ城を見て
何してんだバカと笑う

『お前の大好きなパパからだ。オラ、話せ。助けてとか余計なこと言ったら…わかってんな?』

保留を解除して渡す

…城?俺だ、徹もいるぞ!

鏡の声に安堵感
声が出ない
段々泣き崩れていく城
正面で睨み続ける男

…城?聞いてるか?また泣かされてんのか!あっ…

…城君!俺、徹!痛いことされてないか?

電話の向こうでいつもの2人
俺が話す!返せ!
俺にも話させろよ!
電話の奪い合いをしている…

逢いたい…
俺もそこに行きたい…

息を苦しそうに吐きながら…
睨み付ける男の目を見ながら…

詰まる喉の奥から
やっと声を出せた…

たった一言…
大声で…

No.38

早く 助けてよ…!!


そしてすぐ通話が切れた

徹は携帯を持ったまま
鏡を見た
鏡もかなりの大声だったため
聞こえていたようだ

『助けて…?』
『早く助けてよ…だって。』
『泣いてた?』
『…ウワァーッッてね…その後すぐ切れた…。』
『日中掛かってきた電話…思い出す。見ろ徹、この鳥肌。』
『助けてって叫ぶくらいだからきっとさ…今…。』

部屋に上がったばかりの2人
競うように外に出て
車に乗り直す…


通報にビビッてんじゃねぇよ!

いやアンタだけだったし!

徹!ボコボコにしてでも聞き出すぞ!絶対聞き出す!

何でも力に任せるなよ!傷害取られたら城君助けるも何もないだろ?

大丈夫大丈夫言ってた城が助け求めるんだ。あんにゃろう、何しやがったんだ!

イカれた人間はイカれてることにすら気付かない…救いようない。鏡、城君が何言っても折れるなよ?

当たり前だ!2度と置いてくか!! 3度も足運ばせやがって…!

逃げなきゃ2度で済んだ。

ゴメンッて…(笑)。


家の前に停めると同時に
弾丸のように飛び降り
やっぱりチャイムを連打する鏡


聞き出すまで
絶対に離れないからな!

No.39

死ぬつもりだったけど
鏡と徹の声を聞いたら
逢いたくて
逢いたくて

頼らないって決めたのに
あの2人なら
必ず助けに来てくれる
そんな気持ちがふくらんで

助けてって言ったんだ

余計なこと言ったら
わかってんなって言う
あいつへの抵抗もあった


言った後は首締められて
また裸にされて
沢山殴られて

お前らバカ達のせいで
麺のびちまったって
カップ麺を投げつけられて
熱湯ほどじゃなかったけど…
太ももから下に軽い火傷

どうしてこんな奴に
ここまでされなきゃ
ならないのかって
また憎しみがわいてきて
自分が吐いたものを
拾って投げ付けてやった(笑)

体力が完全に無くなるまで
ゴミ箱ひっくり返したり
シンクのグチャグチャの食品
撒き散らしたり
皿投げたり…

あいつさすがに
少しビビッてた(笑)

空腹や捻挫で
もう限界が来て
足が立たなくなっちゃって
息も苦しくなって…
諦めてヒザついたら
男の反撃が始まった

鏡と徹には悪いけど
逢いたかったけど
助けてなんて言ったけど

計画通りになる
喜びを始めて感じた

これで死ねばこいつら…
俺…頭いいだろ?(笑)

No.40

手に負えない息子
散らかり放題の部屋
汚臭さえ漂う

男も少々疲れ気味
戸惑いも隠せない

ここまでするつもりは
無かった
本当に最初は
ちゃんとしようって決意が
間違いなくあった

城の一挙一動に
上手く対応出来ず
異常になる自分を
知っていたのに

止められない…
何故かわからない…
俺もまた病気なのかと
疑問さえ感じる時もあった…

散々暴れて動けなくなる息子
たった一言悪かったと
手当てもしてやれば
また先は違ったかもしれない
それなのに

止められない…


嫌がる城の足を引き
また部屋へ放る

罵声を放つ城に疑問を持つ

最近は痛めつけても
脅しても全く怯まない
どうしたんだこいつ…

正直、不気味だ
前とは全然違う

自分がやってきたことの
結果がこうさせたのも
誰よりも理解している

口うるさい親を殺すニュースも
たまに聞くようになった

城の今までの発言や行動
男もまた恐怖を感じた

寝てる間に殺されるかもな…

そうなる前に…

No.41

城を部屋に放ると
喚き散らす口を開け
靴下を突っ込んだ

そしてテープで
後頭部と口を何重にも巻く

梱包材の紐で
両手両足をくくり
動けないようにした

抓ったり叩いたり
踏みつけながら言う

なぁ知ってるか城
これでもし
お前が死んで捕まっても
死刑になるとは限らない
自由は奪われるけど
日本の刑は甘いしさ
死刑に反対する団体もいる

お前がこのまま死んでも
なんだかもう
それでもいい気がしてきた…

人間関係も仕事も疲れたし
家も疲れるしさ


それを聞いて
涙が浮かんできた

俺が死んでも
こいつには効き目がない…
無駄なんだ…
無駄死にだよ俺…


男は暴行を止めて続ける

汚い臭い気持ち悪い城
醜くて哀れな城
ばい菌だらけの城
ガリで膿傷だらけの城
死ぬまで女抱けない城
一般常識も基本的な計算も
文字も言葉も運動も
何も知らず出来ない城
生まれた時から
ベソ顔だけは面白かった城

死ぬならどうぞ
死にたくないなら
逃げ出せよ

お前らガキが親を選べない様に
俺ら親もガキ選べねーよ
どうして俺の所に来たんだ?

お互い残念だな
もう寝ていいよ
永遠に(笑)

No.42

いしょ…
いしょ書かなきゃ…

あれ…
死ぬ前に書くんだろ

死んだあと
気持ち知ってもらうのに…
よくTVで見た…

もう
具合悪いのも
痛いのも感じない…

思ったより
ひどいことされなかった…

だけど
力が抜けてく感じ…
頭がグワングワンって
回ってひどい音…

心ぞうの音だけしか
聞こえない…

まだ死なないけど
生きる気力なくしちゃった

死んでも意味ない

でも生きてても…
自分が嫌いなままだよ

聞いたろ
さっきのあいつの言ったこと

生きてても
いいことないし…

鏡と一緒になっても
めいわくしかかけないから…


いしょ書かかなきゃ…

やっぱり生まれて
ごめんなさい
父さんと兄貴
おれが死んだら
家族を解約して
自由にしてください
そして忘れてください
覚えてもらうだけ
おれはおれが恥ずかしいから
お願いだから
忘れてください


書かなきゃ…

寝たら起きれる自信
なくしちゃった…

No.43

『じゃあテメェが来い!一緒に!来いよ!』

鏡は祖父の服を掴んで
引っ張り出そうとした

『神崎さん!そう怒らずに!今シンジに電話入れますよ…!』
『だから!!電話じゃ意味ないって言ってんだ!どうしてそう強情なんだよ!』
『早く助けてって言ったんだ。暴行してるから助けを呼ぶんだろ!急ぎなんだ。』

祖父は2人の剣幕に
冷汗をかいて抵抗する
あまりにも強情すぎる…

『脅されてんのかよ、あのバカ息子に!』
『言うと…何されるか…。』
『何されんだよ!』
『出て行く時…神崎さん達にだけは場所言うなって…言ったら自分でも何するかわからないって…。』

やっぱり口封じのつもり
相当俺に怨恨抱いてる…

『ならそう言えばいいじゃねぇかよ!時間返せこの野郎!自分で勝手に調べたって行くからよ、言え!』
『住所変更さえしていないのに、どうやってですかね?』
『探偵とか後付けたとか色々ある…!くだらねぇ…本当に時間無駄にした!』

怒りが爆発する鏡
徹が紙とペンを用意する

『自分の息子でも何するかわからない…そこが怖いので…。』
『そんなのテメェの教育だ!自業自得だって!』

No.44

男はキッチンや部屋を
片付けていたが

城の様子が気になり
部屋を覗きに行く

『マジ臭ぇ…!』

電気をつけて呼ぶが
返事も音もしない

『何…マジで死んだの?』

鼻をつまんで暫く待つと
苦しそうに頭を振って
手を振り解いた

『寝てただけかよ!』

紛らわしいと
また蹴り飛ばす

『少し片付けるこの部屋…臭すぎてたまんねーわ!』

そう言うと
城を風呂場の浴槽へ放り
水を出した

『少し浸かっとけ!』

手足の自由もきかず
声すら出せない城は
同じ状況に置かれた
過去を思い出して
再び目を閉じた…

布団を畳み
カップ麺や嘔吐物を片付け
衣服を足で端によける

城が作ったプレゼントには
気付かなかった

浴室へ行き水を止め
寝込む城を放置して
居間でTVを見始め
疲れで男もまた
そのまま眠りについた

No.45

鏡の手にはメモ
見ながら住所を追う

祖父は最後まで抵抗したが
運良く帰って来た祖母が
話を聞いて教えてくれた

この前の徹の話を覚えていて
教えるべきだと
祖父に言い聞かせてくれた

『なぁ、徹。ちょっとのんびりし過ぎたな。』

徹も運転しながら
苦笑いをする

『まぁね…けど、城君の決断と実際目の当たりにした普通の父子の光景…アレ見るとどこか油断だってするさ。久々に掛かった電話でも、すぐ本人が素直に早く助けてって言ってくれればさ…もっと本気で俺も頑張ったかも。住所だって留守とか爺さんとか仕事とか…上手く折り合えない部分もあった。俺達なりにやったと思っておかないと。』

勿論徹も後悔だらけ
鏡を励ますためにも
自分で自分を
褒めなきゃならなかった

そうでもしないと
今から逢いに行く城の姿が
あまりに酷かった場合
心の支えが何もない…

傷だらけかも
痩せ細って震えているかも
首輪されて動けないかも…

逢うのが怖い
それ以上だったら…?

俺達はボーッとしていたワケじゃなかったんだと
そう言い聞かせないと…

どんなに自分を責めても
支えが無いんじゃ
立ち直れないだろ…

No.46

本当に20分ばかりの
それほど遠くない場所だった

『ここか?辛気臭せぇ所!』

周囲をビルに囲まれて
日の入らない古い建物
そのせいか空室ばかり…
鏡は苛っとして呟いた

『鳥すら見えねぇじゃん…こんな場所…!』

静かに階段を上がる…
この部屋かと
ノックをしようとすると
徹が鏡の肩を叩き
俺に任せろという仕草

鏡は覗き穴を指で封鎖し
徹が強くノックする…

反応が無い

もう1度ノックすると
慌てて向かってくる足音…

覗き穴を覗くが
真っ暗で何も見えず
警戒しながら声を掛ける男…

『…はい…?』
『アパート管理の者です。お渡ししたい書類がありまして、少しの間だけ開けて頂けますか!?』
『郵便受けに入れてもらえますかね!』
『入らないんです(笑)。重要書類なので。』

住所変更してないみたいだし
宅配は変かなと大家を装う徹

こんな小さなボロアパートで
虐待してる奴なら
警戒して簡単には
開けないかもと予想もした

管理者となれば仕方なくも
開けるだろうと…

チェーンを外し
鍵を開ける音…

ドアが…開いた…!

No.47

力任せにドアを開くと
男の顔色が変わった

『何…何であんたら…!』
『退け。』

説明も無く上がる2人
不法侵入だの何だの叫び出し
両手を広げて封鎖
奥へ行けないよう粘る男

『邪魔すんな。何しに来たかは分かるだろうが。』

鏡が無理矢理押し退けると
男も力で抵抗する

『ちょっと待て!常識無さ過ぎじゃないか!?』
『どの口が言う?シンジさんよ。諦めな。みっともねぇから!』

徹は広げる手を振り払い
部屋へ入る
鏡は男の胸倉を掴んで
引きずり倒す

『凄い…臭い!』
『何だここ…どういった生活してきてんだよ…!』

城が投げた
割れた皿は端に寄せられ…
食品のようなものが
グチャグチャッと散乱し…
中途半端に雑巾で拭いた跡…
ひっくり返ったゴミ…
破けかかったカーテン…
洗濯物も散乱…
埃だらけ…

鏡の怒りが頂点へ…
こんなバカとこんな環境で
また暴力に怯える生活…
こんな…こんな…!

徹の服を捕らえ
奥へ行かせまいと必死な男に
鏡はバッと掴みかかり
徹から引き離しまた倒す
奥の部屋へ急ぎ足で
ドアを開けた…

『城ッ!ここか!?』

No.48

丸められた布団と
脱ぎ捨てられた服の数々
床には嘔吐物のシミや
拭き取ったティッシュの山…
異臭…
日の入らないビル陰の一室…

鏡の夢は夢で済んだ

でもどうしていない!?

『城!俺と徹が来たぞ…!どこだ、おい!』

叫びながら
押入れを開けて覗き
引っ越しのままのダンボールや
服、布団を広げ捜す

徹も隣…男の部屋を
引っ掻き回して捜す

いねぇ…いねぇぞ…!?

部屋から出ると
床に座り込む男に
真っ直ぐ向かい
獣のような目をした鏡は
乱暴に掴み掛かって
立たせて怒鳴った

『どこにやったんだよ!!』

男は何も言わず
鏡から目を逸らす…

ふと妙な空気を感じ
真っ暗な浴室が目についた…

徹がクローゼットを開け
城の名を呼びながら
荷物をひっくり返す音しか
聞こえなかった…

掴んだ男を
テーブルの上に押し倒し
鏡は狭い部屋を走った…


もう聞こえるのは
己の鼓動のみ…

城…城…
まさかな…?
嫌だ…
嫌だぞ…俺は…
さっきから呼んでるのに…
おかしいと思ったんだ…


電気をつけ
浴室を…覗く…

『う…うあぁああっ!!』

部屋中に…外にも
鏡の悲痛な叫びが
こだました…

No.49

『徹…!徹ーーッッ!!』

徹は鏡の叫び声を聞いて
慌てて浴室へ移動した

冷静な徹も身震いする…

浴槽の栓を抜いて水を流し
頬を叩いて名を呼び続ける鏡
その隣に割り込み
手足の紐を解き始める…

『城…城…なんてことを…城、おい!目…開けろよ…!!』
『酷い…信じられない…信じられねーよ…!』

血の気のない肌と唇の色…
体中の痣と
血にまみれた背…
テープで何重にも巻かれ
閉ざされた口…
腫れた…顔…
汚れた頬には涙の跡…
色素の薄かった髪は…
所々が…白くなって…
痩せきった骨のような
小さな体…

水を流し切るとまた栓をし
温かい湯を出し
覚めるまで名を呼び続ける

鏡の震える手では
上手くテープを剥がすことすら出来ず…
徹が手伝った…

そしてまた唖然
徹は消え入りそうな声で呟く

『靴下…靴下を…。』

鏡は目を真っ赤にして
城の顔に両手を当てて
優しい声で呼び直す

城…起きろ…
城…鏡です…
父さんです…
徹兄もいます…
城…おはよう…
現場行くぞ…!


…目が…ゆっくりと開いた

焦点が合わず
何度もまた閉じかける

『城、迎えに来た!』
『…ョウ…。』

No.50

冷たくて寒かった
段々気持ちよくなって
いつの間にか気を失ってた

長い夢を見ていたんだ
目を覚ましたら忘れたけどね

これも
夢だったかはハッキリしないけど
鏡がまた
現場に連れてってくれるって
暗闇の中で声がした

目を開けようとしても
重くて開かなくて
やっと少し開いたら
鏡がいたよ

ぼやけてよくは見えなかった
だけど迎えに来たって
また…また言ってくれて
うん一緒に行くって
そう言いたかったけど
頭も声もおかしくて
鏡って返すしか出来なかった

そしたらにっこり笑った
笑ったと、思います

そしてすぐ
おれの目の前から
鏡はいなくなったんだ

次に目を覚ましたら
徹が
徹が泣いていたのに
すごくおどろいたんだ…

おれの兄貴
たくさんほめてくれたけど
ごめんなさい…

覚えられなかった
でもうれしかった

鏡が笑って
徹がほめてくれて
安心して

意識を失いました

No.51

城の意識が戻って
俺の名を呼んだ
もう大丈夫
城は強い奴だから!

そう思った鏡は徹に
任せたと一言置いて
浴室を出た


暴力はいけません
暴力は暴力しか生まず
暴力によって得られるものは
何にもございません
分かってます
分かってますよ…
昔アホやってた俺自身が
一番よく理解しています

城には見えない
この場所だからこそ
たった1度いま1度だけ
許してください…

痛みを知れ
傷は勿論…心の痛みを

テメェが親父にやられた時の痛み
それを虐待だと
親父を責めるくらい
痛かった記憶があるなら
テメェでストップかけろ

そうすれば
世の中こんな連鎖なんか
悲しい連鎖なんか
生まねぇんだ!
頑張れシンジ!
もう遅いけど

城を泣かせた分
城を傷付けた分
城を裏切った分
城を愛さなかった分
全ての怒りをこの右手に込め
俺はお前を打ちのめす!!


テーブルに腰掛け溜息をつく
血の気の引いた男の顔

目を赤く潤ませた
赤い野獣の鋼のような拳は
彼の顔面めがけて
炸裂した…!

No.52

徹は城の肩から湯をかけ
温めながら体温を調整

冷え切った体は
段々と火照り血色を取り戻す

よく見れば
下半身にうっすらとした
火傷の痕…
あんなに
熱湯や火を怖がっていたのに
また火傷…

前までは無かった
あったとしても
区別がつかなかった白髪…
城のことだから
この先ずっとまた
気にしていくんだろうと
そう思うと辛くなる…

過去の傷痕の上に
更に刻まれた傷
腫れた頬
切れた唇

きっとまた1人
ずっと耐えて戦い続けたんだ
胸が締め付けられた

手足を拘束され口にテープ
浴槽に浸かった姿
正直もう手遅れで
全て遅かった
終わったと思った…

よく生きていてくれたと
思った途端
自分でも驚くほど
涙が溢れてきた

『虐待なんて言葉じゃ片付かねー…。』

突然また城が目を覚ます
今度は焦点も定まり
大きな目で徹を見詰めた

『徹、泣いてる…。』
『泣いてないよ。顔洗ってたんだ。城君、俺達来るまで戦ったろ。部屋とあいつの顔見ればわかる。男だな。格好良すぎる(笑)。俺も見習う。』

その言葉に
顔を歪ませて唇を震わす

そしてまた
ガクッと落ちてしまった…

No.53

『…痛てぇ…!』

男の口と鼻から血
立てずに四つん這いになり
伏せて悶える

鏡はまた近付いて
髪を引き顔を上げさせた

『痛み感じるのか。テメェみたいな奴でも。』
『これだから力しか無いバカの低脳職は…!』
『職種は関係ねぇ。。』
『訴えてやるからな。』

その言葉に鏡は
言葉を詰まらせた

『…本気かよ…?』
『当たり前だ!不法侵入と傷害、恐喝、殺人未遂…何でも取り上げてやるってんだよ!』

また胸倉を掴んで立たせ
壁に叩き付ける

『そういう意味じゃねぇんだよ…!自分のしてきた事はどうだって話だ!何テメェがやってきた犯罪並べてんだ、正真正銘の馬鹿!!これ以上呆れさせんな…訴えた所でテメェが城にやったこと暴露して終わり!俺が持ってる証拠品で完敗!なぁ…マジで言ってんのかって。答えろ!本気かって!!そんなことも理解出来ねぇほどオツムの味噌腐ってんのかって!!俺が言いたいのはそういうことだクソッタレ!!』

そしてまた床に投げ飛ばした

徹が城を洗い
抱き抱えてソファーに寝かし
バスタオルを取りに行く…

『徹…意識は…?』
『オチた。病院行くか?』
『…いや。』

No.54

暗闇になっては光がさして
何度もそのくり返しで
ずっと考えてたこと

光がさしたときは
鏡と徹が来てくれた
いつもの格好で
見つけてくれたんだ
やっぱり格好いいでしょ
おれの父さんと兄貴…
おれのじまんだった

鏡があいつをうちのめす声が
たくさん聞こえて
もっともっとやってって
ずっと思ってたよ

徹がおれの体を大事に
痛まないように動かして
服を着せてくれてるのも
わかってた

おれのために来てくれた
おれを大事にしてくれてる
それだけで幸せ…

そしてまた暗闇が来たとき
どうして見つけたの
どうして水から助けたの
どうして
死なせてくれなかったの

もうすぐで
おれ気持ちよく死ねたのに
もうすぐであいつら
世間から冷たくされたのに

鏡と徹を恨みました


病院も警察も嫌だ…

がんばって起きるから
病院でたくさんの人に
見せないで

警察呼んで
おれの話を大きくしないで
こわいんだ

鏡と徹がいれば
それだけでいいんだって

暗闇と光の
変な感じの中で
ずっとずっと思ってて…

起きろ頭
動けよ体
がんばれ
がんばれよって
変な感じの中から
逃げだそうとしてたんだ…

No.55

城の意識が無いと知った鏡は
また男に視線を落とす
服を掴み引き上げ城の方へ…

『見ろよ、テメェがしたこと。』
『…。』
『信じて許して期待を持って一緒になることを選んだ結果が…純な心を裏切った結果の姿だ。死ぬ所だったんだぞ!』

男は思い出すように言う

『…死にたかったんだよこいつ。殺せって喚いてたし…手に負えない。死んで捕まってもそれでもいいかって思えてつい…抵抗の仕方が半端無いから疲れて…。』

体を拭きながら徹が睨んだ
鏡も抑えられない怒りを
またぶち撒いた

『人の命を何だと思ってんだよ!!勝手に終わらせんな!自分がやってきたことの結果じゃねぇか!…お前とジジィと…どれだけ自分可愛いんだ…被害者ぶるなよ!!この城が手に負えない抵抗をしたくなるほどの傷を負わせたんだよ、テメェが!!』

男をまた壁に叩き付ける
渾身の力で…
そのまま床に倒れた所を
また掴み起こす

『休む暇なんか与えるか!城はもっともっと痛くて恐怖だったんだ!!』

また打ちつける…
何度も繰り返したところで
男は起き上がれなくなった

徹が城を呼び続ける
体温が少し低いと
毛布を運び必死に温め続けた

No.56

『城の苦しみ…悲しみ…絶望に比べたら…これからの精神面での…心の傷との格闘に比べたら…テメェなんか…俺がこの手で息の根止めたとしても…それでも足りないくらいだ!』

息を切らしながら吐き捨てる

車のエンジンをかけ
暖めてくると徹に言い
出て行った

静まり返った部屋に
徹の声だけが響く

『起きろ…目、覚ませよ…起きて俺を安心させてくれ…。』

男は痛々しく立ち
徹に声を掛けた

『…寝てるだけじゃないのか…水…そんな長時間浸かった訳でもないから…。』
『時間の問題じゃないだろ?こんな脂肪も無く骨みたいになった体で、傷を負って…芯まで冷え込むのどれだけ速いと思う。本人がもう生きたくないなんて気力すら失ったら体だって頑張りはしねーぞ?体温が上手く上がらない…手足が冷えて…体温計あるか?』

徹は渡された体温計を挟み待つ
鏡が戻ると同時に病院を勧めた

『…いや…病院は本人が…もう少し何とか…。』
『手遅れになったらどうすんだよ。最悪の事態になったら。』

鏡も城に触れ様子を伺う
35度…

男は毛布をもう1枚出し
城の足元に巻いて呟いた

『手足、さすってみるか…?少しは違うかな…。』

No.57

城の頭側から
両手で頬を温めながら
顔を覗き込む鏡…

『城~起きろー。帰れるんだぞ!せっかく迎えに来たのに。寝るなんて失礼じゃねぇ?もしかして怒ってんの?今頃遅いんだバカ!バカ徹!って。ごめんな~徹なんかのために謝りたくないけど、仕方ねぇ。代わりに謝るわ(笑)!』

『は?…城君、起きて言ってやれ。鏡が通報されたくらいで逃げ出さなきゃもっと早く来れたんじゃないの?34にもなって俺よりお子ちゃまなんだね、いい加減しっかりしてくれないと俺、鏡と歩くだけで恥さらしだよ、勘弁してよね!って(笑)。』

徹が顎を上げて
鏡を嘲笑いながら見下す

『な…お前だって逃げたろ!』
『当たり前だ。アンタなら1人で勝手にひとの車で逃げかねない。現に運転席乗ろうとしたじゃないか!』
『運転してやろうとしただけだって。気遣い!』
『無い無い!昔何度置いてかれたことか。』
『何度って、学ばないお前にも問題あるだろうが!』
『学ぶ学ばない以前に、逃げ足だけは速いから追い付けなかっただけだ!』
『自分の鈍足をひとのせいにすんなって!』
『何かムカつくな。』
『あ?』
『…やるか?』

2人はフンとそっぽを向いた

No.58

意識がなかったんじゃない
寝てたわけでもないんだ

どんなにがんばっても
体が動かなかった

がんばれがんばれって
自分に言ってたけど
全然ダメで…あきらめた…

あいつらのせいで
やっぱりおかしくなった
やっぱりこのまま死んで
嫌な思いさせてやろうって
あきらめた…

おれが死んで
警察につかまるのは平気でも
世間に冷たくされるの嫌だろ?

だからやっぱり…
そう思って
暗闇が広がった時


急に顔が温かくなった
前におれを
見つけてくれた時と同じ
温かい鏡の手だってわかった

鏡と徹のいつものやり取り
ずっと聞こえてた

鏡、通報されたの?
つかまらなかったんだ…
良かった!

徹も逃げたのか
2人の昔はわからないけど
ずっと一緒だったんだね
それなのにどうしてケンカになる?

おれも一緒に話してたんだけど
2人には聞こえなかったみたい…

光に変わった
明るくなってきて
やっぱり鏡と徹といたい
生きたいって
死ぬのはやめよう
痛くて苦しいからって
そう思った時…

体が一気に温かくなって
気持ちよくなって…
体が…軽くなりました

そしてやっと

目が開きました

No.59

男は2人のやり取りを尻目に
汚れた顔を洗い流してから
水枕を荷物から探し出し
熱めの湯を入れ
言い合いをする鏡と徹の間に
割り込んだ

毛布をよけ
城の背の下に置き
またサッと毛布を戻す

そして
すぐその場を離れ
少し距離を置いて床に座り
壁によりかかった
一切口を開かずに…

唖然とする2人
徹が振り向いて言う

『得点稼ぎか?こんなことしても俺は許さない。意識戻って落ち着いたら警察に引き渡してやるよ。機関利用してやる。』

鏡は徹の肩を押さえ男を見る

『そういうこと出来るんじゃねぇか。今の城の本当の父親だった。まぁ、言わせてもらえば本当の父親以上の、城にとっての最強の父親は俺だけど!』

そう言ってハッと後悔する鏡
俺にヤキモチ妬いてるのに
助長させちまった!
ま、どうでもいいや(笑)

城に視線を戻し呼びかける…

『これでだいぶ温まってきたかも…あ…あぁっ…城!』
『起きた!城君おはよう。』

城の目は
覗き込む鏡をしっかり捉え
次に徹を捉える

徹の挨拶に
小さな小さな声で反応

『…お…はよう…。』

鏡と徹は
満面の笑みで城をクシャクシャに撫で
沢山沢山褒め続けた…

No.60

鏡と徹が笑ってた
今まで見たどんな笑顔より
ずっとずっと嬉しそうな顔で
沢山褒めてくれた

やっぱり
死ななくて良かったって
生きてていいんだって
安心したんだ

体が言うこと聞かなくて
暗闇が広がったあと

鏡の手と2人の会話で
周りが明るくなって
体が一気に温かくなったとき
やっと動けたって話したら

あいつが背中に温かいやつ
置いてくれたからだって
鏡に教えてもらっておどろいた

本心はうれしかった…

でも2度と信じないよ
許すことはないし
大嫌いな気持ちは変わらない

一緒にはいられない
一緒にいたくない
顔も見たくないんだ

もうこんなの嫌だ…

おれは自分で自分のことを
片付けなきゃと思って

あいつに言わなきゃと思って
起き上がろうとした

でもまだ起きれなかった
鏡と徹が
手伝って起こしてくれたけど
ひどい頭痛で倒れそうだった

でも自分で1度
鏡たちをうらぎったから

次は自分から言わなきゃ
進めないことだからって

あいつの目を見て
最後に…


最後に
大きい声ではっきり
あいつに言ってやったんだ…

No.61

鏡が父さん

徹が兄貴

俺の家族はこの2人だけ

だからおれ

鏡と一緒に暮らしたい





鏡と徹と 帰ります





3人一緒に

笑顔で…

No.62



男の家を出て運転席に座る徹
鏡も続いてドアを開けた

城の荷物は着ている衣服のみ…
今度は間違いなく3人

城は頭痛がするからと
うつ伏せに倒れ込むように
後部座席に横になる

…徹の車の懐かしい良い香り

徹が鏡に何か話しながら
ダッシュボードから封筒を取り出し
渡しているのを見ていた

『鏡…上着…ちょうだい。』
『ん?上着?…ホレ、鼻水つけんなよ(笑)!』

つけないよ!と言いたげに
膨れた顔の城は仰向けになって
頭から上着を被って寝たフリ決行

…鏡のタバコの匂いが染みた上着
タバコは怖いけど
この匂いは落ち着くんだ

『城、10分くらい徹と待ってろよ!寒くねぇか?』
『…寒くな…い。』

上着を被ったまま
弱々しく返事をするその姿に
鏡はまた笑う

上着に隠れて
泣いてるのを知っていたから…

徹は音楽のボリュームを下げて
そっとしておいた

また階段を上がり
男の部屋へ上がる鏡は
まるで自分の家のような態度で
ソファーに座らせる

『いいから、グダグダ言わねぇで座れって!』
『…今度は何だ…。』

No.63

『ただの確認だけどよ。』
『確認?』

封筒を開けて紙を広げた

『最後の最後まで城を泣かすなんて…もう溜息すら出ねぇし。少しでもさっきの父親らしい行動に感心してしまった自分を悔やむよ俺は…。契約書…違うな、宣誓書…念書…念書って言うのか。要するにこれ見ろ。んで、サインと印!』

男は徹がこの日の為に作成した
紙面の内容を読む

私こと父親・佐伯シンジは息子・城に対し、証拠品に収められた虐待行為・内容を全て認め、希望通り神崎鏡矢と共に生活することを許可し、本人が望み許すまで決して近付かないこと~…を約束します…

そういった約束事が
紙面一杯に書いてあった

『こんなの…!』
『いや、さっき認めたことだろ(笑)。お前の口ほど信用性に欠ける口はこの世にはない!』

テーブルをバンと叩きながら言う

『城が望んで、お前が許可した。そのままだ。口約束で済ませて、後々身に覚えが無い、誘拐だ何だなんて騒がれてもこっちが迷惑!内容自体は間違い無いだろう?』

男はもう1度読み直す…

『シンジ。さっきお前、城になんつった?何ならそれも付け足そうか!?』

No.64

鏡は身を乗り出して
強い口調で問う

『何て言った、最後に!』
『…どこでも行けゴミ…か。』
『どっちがゴミだよ!その一言で今、車で泣いてんだぞ!“私は最後に息子に対して、ゴミはどこでも行くようにと言ったことも踏まえ、神崎鏡矢さんに城の全てを託します”って付け足そうか?どうせもう傍に居ることすら嫌なんだろ。』

おもむろにペンを取りサインをする

『何が嫌なんだよ…城の。』
『…もう扱いすら分からない。確かに最初は…頑張ろうという気もあった…あったのにお宅の名前を連呼し興奮し出すと…手に負えなくなって…殺せと喚く姿の裏に俺に対しての殺意も感じるようになって恐怖すら覚えた…。』

『そんなの…俺の傍から離そうとするからじゃねぇか。城は自らお前と居ることを選んだんだ。変に壁作らないで、自由にこっちとそっちを行き来させてやれば良かった話だろ。そうなることを思って信じての選択だったのに、踏みにじるからあいつだって不安になる。あれだけ酷い虐待してきた奴と2人の世界なんて。そりゃあ、俺が恋しくなるさ。俺しかいねぇから。短期間でも俺と城は互いを信用して深い関わりを築いてきたんだからよ。』

No.65

『お前結局いつも、自分で自分の首締めてんだ。』

男は頭を抱えた
『父親にはなれない…もう無理だ…なりたくない…一緒に居てもどうせ繰り返してしまうし…病気かも…。』

『…そうやって逃げてる内は無理だな(笑)。シンジ君。君を見てると昔の自分思い出して腹立たしいんだよ。俺も城くらいの息子いたっつったよな。君と同じく若くして出来婚、愛の無い生活を続けた上、息子は自殺未遂、見放された。浮気もしたし邪魔臭いと思ってた…可愛いとか思わなくなってた。名前で呼んだ事もそうなかったしよ。だから当然だと思ってる。失敗して初めてわかることもある。時間が経てばゆっくり振り返ることも出来る。嫌でも反省する時間を与えられる。そこで初めて向き合える…その頃には遅いけど(笑)。中には、1人になれて良かったと清々する奴もいるだろうけど…そんな人間にはなって欲しくない。なりたくない。』

黙って聞く男

『子どもなんて母親寄りに育つし、父親なんて金入れりゃいい存在程度にしか思わなかった。俺の親父が仕事で家に殆ど居なかったからな。そういう意識が身に付いてた。』

No.66

鏡は話すつもりは全く無かった
息子の話をした

車で徹と城が待っているのを
気にしつつ…

テーブルに置かれた小箱と手紙
城に話してどう慰められたかも
全て話した

城に出逢い
何故ここまでして
首を突っ込んで来たのか
城の存在にどれだけ救われたか
どれだけ自分も成長出来たか
所々 鏡独自の
冗談や笑いを含めながら
ユニークに語った…

男の沈んだ表情も
鏡のペースに引き込まれ
少しずつ明るくなり
どこか笑顔も
垣間見えた気がした…

『俺は城を完全に奪うつもりはねぇんだ。親はあんただからよ、シンチャン。ただ、やっぱりあんたとジジィがやってきたことの傷は深過ぎるから…少し距離置いて時間を掛けてゆっくり見守ってやらねぇと。自由がきかなかった城に、これら果てしない自由を与えてやって欲しい。城の思う通りに行動させてやってくれ。これだけ、俺と城はお互い必要とし合って来た訳だから、俺と居たいって気持ちも汲んでやって欲しいんだよ…。鳶になりたいって、俺の1番弟子になるのが夢だって言ってる。1人の少年の夢を叶えさせてやりたい。俺らみたいな大人でも、それくらいは実行出来るだろ。』

No.67

『…シンチャン…って俺はお宅の友達じゃないんだけど。』
『え?気にすんなよそんなの!てかさ、突っ込むの?そうやって!しかもこの真剣な熱い話の中で、言うところはそこ!?話聞いてた?シンチャンが駄目ならバカとかクソしか付けられない…いいのか?』
『いや…(笑)。』
『だろ!?外でバッタリ会ってよ、おぅクソシンジ!なんて呼ばれたら恥ずかしくねぇか?呼ぶ俺は別に気にしねぇぞ?』
『それは…嫌かな…(笑)。』

何だか可笑しく思えるのか
引きつり笑う男は顔を歪ませた

『あまり笑わせんな…顔が痛てーんだから。』
『ざまあみろ。正面狙おうとしたけど前歯無くしたら喋れねぇだろうからソコにした(笑)!』

その時
徹が勢いよく部屋に入って来た

『鏡、大丈夫か?…あぁ、残念…無事か。』
『何で無事が残念なんだよ!』
『あまり遅いから負けてボコられてんのかと。面白くない。』

男に敵意を剥き出した態度で
城のいた部屋に行き
衣服の山の中から何かを拾った

『服取りに来たのか?』
『違う。城君に頼まれてさ。』

車に戻ろうと再び玄関に向かう
男の脇を通ると転倒…
拾った物を落とした

No.68

『徹がコケた(笑)!』
『痛…何だよこの床!ちゃんと掃除しろよな!汚いし異臭するしマジ最悪!』
『作業服で良かったろ(笑)!』

腹立たしげに怒る徹
鏡は大笑いしていたが
男が手にした小箱を見て沈黙…

『あ…城君に回収するように言われたんだ。返せ。』

男は鏡をチラッと見て
徹の腕をかわし箱を見つめた…

『返せって!』
『…徹、いいから。』
『いいからじゃない。城君の意思に反するだろ。見つからないようにって言われたんだ。開けるなよ!』


【お父さんへ】

幸せそうに笑う自分の顔と
優しく笑う父親の顔


『俺の似顔絵か…。』

箱のテープを剥がし開ける
鏡と徹も息を飲む…
内容は大体想像つく
2人共もう止めなかった…

深い溜息をつき
ザッと全部見てテーブルに置く

決して上手くはない絵が数枚…
包丁・ピストル・金槌・やかん・火
父親らしき人物の
その腹から血が飛散ったような
グロテスクに表現された絵…

自分が息子から受取った以上の
その絵に
鏡も言葉が全く出なかった

No.69

少し大きめの紙にメッセージ…


これが見つかるころ
おれは死んでると思います

殺してくれることを
望んでたから

あなたに15年生きてきて
初めてお礼します

死んでずっと
呪い続けたかったから

殺してくれて
ありがとう




『…。』
『…。』
『…。』

ショック…誰も口を開けなかった

No.70

『…呆れる。あの子をよくここまで追い詰めた。』

徹が箱に紙を全てしまい
蓋を閉めた

『鏡、ちゃんとサイン貰ったか?法の力は無くても、後々またイチャモン付けられてトラブル起きた時には約束したって証明になるんだからな!あ、印鑑じゃなくて拇印がいい。指紋残そう、指紋!意味は無いけど何となく!気分的に!』

男に朱肉を投げ渡すと
言われるがままに印を押す…

『あと言いたいこと…あるか?城とは本人が望むまで会えなくなるんだ。城が望んでお前が許可した。これでまだ誘拐だの拉致だの言うようなら、その時は俺らも受けて立つぞ。』
『…今…車か?』
『寝てる。話し掛けたって無駄だと思うけどね。』

立ち上がって玄関へ向かう男を
鏡も慌てて追う

『おいおいシンチャン!どうするつもりだよ!?』
『【最後】に挨拶するだけだ。寝てるならそれでもいい。』

3人は部屋を出た

No.71

階段を降りてくる足音
城は寝たフリをしながら
耳を澄ましていた

運転席に回った徹が鍵を開け
城に話し掛けた

『起きてるか?城君、ごめん。箱…見られちゃったよ。』

その言葉に上着をよけて
飛び起きる

『本当に!?開けたの…読んじゃった?あいつ…。』

男がいるのに気付き
怯えた顔でまた上着を被って
横になる

鏡もドアを開けて一言

『遅くなってごめん!シンチャンが【最後】に挨拶したいんだと。聞いてやって。』

最後?挨拶?
どうせまた
どこでも行けゴミってんだろ

反発するように
シートを一発…蹴った

男は助手席に座り
後ろを向いて
躊躇しながら話し掛けた

『城…ゆっくり…1人で反省…するからさ…神崎さんと梶谷さんと…好きなだけ居たらいい。どこかで見かけても邪魔しないし…爺ちゃんにもそう言っておくから。好きに街中歩いて自由にしていい。箱は…あんな風に思わせてしまって…悪かった。ショックだった。でもお前の気持ちを、これからも忘れないように…箱…貰ってもいいかな…。』

No.72

『暫く会えないし顔見せてくれよ…散々なことして勝手だけど…。』

小さな声で返事する

『どうせ汚いしベソとか言うんだろ…ゴミとか…嫌だ。わかったから。いいよ、あっち行って。』
『…。』
『箱…箱の中は…今はあんなこと思ってないし…見られたくなかった…だから捨てるんだ…見たなら…悪い息子でごめんなさい…もう行って。』
『今思ってなくても、一時的にでもそう思わせたからさ…貰っていいだろう?』
『…いいよ。』
『ありがとう。』

そう言うと
徹から箱を受け取り車を降りた

鏡は苦笑いして言う

『何、今生の別れみたいなシケた挨拶してんだよ。普通よ、反省して良い親父だって認めてもらえるようになったら一緒に住もうとか説得するだろ?』
『自信無い…。』
『暗ッ。まぁ、城が会いたいって言ったら連絡するし。城に何かあっても連絡するし。出ろよ、電話!お前は取りあえず、気張って働いて借金やら返済して、身の回り整理しろ。そしたら心にゆとりも出来て、人を思いやる気持ちも出てくるだろうし。周り居なくて寂しかったら良い店連れてってやっから(笑)!』

男の肩を叩いて
鏡も車に乗り込んだ

No.73



『あー…長かった。』
『本当にな。でもこれで今日の所はお終い!』
『後からどうかは分からないけどね。ああいうの。俺は一生信じない。』
『俺だって信用なんかしてないし心底安心もしてない。こんな結果だったんだ。でもお互い憎しみ募らせて戦中断みたいな状態よりゃいい。後はその時その時だ。これ以上今あそこに居ても意味無い。今日は親から確実な許可を得て終わった。一緒に行けって。それだけだ!俺は早く城を恐怖の対象から引き離して休ませてやりてぇって話。なぁ、城!』

寝たフリ…?
不安がまた押し寄せる

『何、もしかしてまた迷ってんのか?おい!返せ上着!』

表情が見えない不安から
無理矢理上着を引き剥がす
目は開いているが
鏡と徹を見ないようにしている

『城…具合悪いか?笑顔で戻る約束ですよ?』
『どうした?』
『反応無い…(笑)。』

諦めて前を向く鏡
徹がルームミラーで様子を見ながら
声を掛けた

『城君、これ以上心配させんなよ!返事くらい出来るだろ!結果、不満か?何か悩んでんのか?どうなんだ。』
『…不満じゃないよ…迷ってない…でもどうしていいか分からない…あいつが分からない。』

No.74

『分からない?確かに。ハッキリ言えば俺も分からない。考えても分からない。何話しても分からない。だから、今日はこれ以上居ても意味が無いっての。平行線だからな。俺はお前を連れ戻せて嬉しいだけ!んで、帰ったら、お前にもじ~っっくり言い聞かせなきゃならないこともあるし。あいつだけじゃなくてお前にも!』
『城君、俺も!』
『徹は嫌だ!』
『嫌?何で。』
『怖いから…鏡だけでいい。』

大笑いする鏡
苦笑いする徹

『どれだけの印象なの?俺。まぁ、俺の言いたいことは鏡が言ってくれるだろうし(笑)。明日仕事だ。2人降ろしたら帰るよ。』
『ごめん…。』
『気にするな(笑)。鏡の話、しっかり頭に入れるんだよ。大事な話だ。だから賢い君に言うんだ。』
『はい…。』

怒られるんだ
きっと説教だろ
だって沢山心配させたし
箱にあんなこと書いた…
2人にも見られたくなかった…

城はまた黙り込んで
寝転がってしまった

No.75

マンションの入口前に車を着ける

『徹、お疲れ。いつも助かってる。本ッ当にありがとうございました!』
『これからまた2人だな。良かった。でも油断するなよ。』
『勿論。自分の異常に気付いてた…この前の話し合いの時に比べたら少し違うし。あいつはあいつで何か葛藤してんだろ。自分に勝つか負けるかあいつ次第。本当に更正する努力をするか、また同じく攻撃してくるか。それは様子見なきゃ今の段階じゃ分からないんだ…まっ、城にはもう俺が居る訳だから。2度と同じ結果にはしない。』
『それだけが安心だけどね。』

2人は後ろを向いた
傷だらけの少年は
起き上がって2人を見返す

『徹に礼。』
『うん、徹、本ッ当にありがとうございました…。』
『いや俺の真似しなくていいから(笑)!』

徹はバイザーのアクセに挟めていた
サングラスをひとつ城に渡した

『1人、俺達が来るまで戦った褒美。たった1人の兄貴からたった1人の大切な弟へ。』
『…いいの!?』

笑顔で返す徹
城は早速掛け辺りを見回す

『似合う似合う(笑)!』
『徹、俺は?』
『アンタは余計に迫力出るから必要無い!てか持ってるだろ。』

No.76

車を降りるのも一苦労
鏡が手伝って時間をかけて
ゆっくり…ゆっくりと
車に掴みながら立つ
眉間にシワを寄せて…

前までは見かけなかった
メッシュが入ったような白髪
衣服で見えはしないが
薄く滲んだ背中の血
袖から見える腕は
枝のように細く
幾つもの痛々しい青い痣
指先は腫れて赤くなり
顔にもまた大きな痣
切れた唇は血が固まって
こびり付いたまま変色…

もう夜も遅く
街灯とマンションの明かりしか
そこに光はなかったけど
くっきりと浮かび上がっている

その姿があまりにも悲惨で…
鏡と徹は悲しげな表情で
目を合わせた

城が突然
おれの部屋まだある?なんて
組んだ足場に上がった時と同じ
【弾んだ声】で言うから

思わずグッとくるのを堪え
2人は笑ってごまかした

『無い訳ねぇだろ(笑)!お前の家なんだからよ!』
『安心出来る場所でゆっくり休んで早く治せよ。治ったら行きたい所連れて行ってやるからさ(笑)。』

その言葉に城も笑った
…そんな気がしたが

笑顔が見たいという
2人の願いのせいで
単にそう見えただけだった

No.77

短いクラクションを鳴らし徹は帰った

貰ったサングラスを頭に乗せて
痛々しく歩き出す

『また抱えてやっか(笑)?』
『いい!俺はこんなんでも、もう15歳だし男だから自分で出来ることは自分でやるんだ。』

鏡はその台詞に驚いた
辛い体験ばかりの日々
それなのに
城なりに成長してるんだなと
感心した

エレベーターでは沈黙…
早く部屋に入りたくて
うずうずしてるのが
目に見えて分かる

ドアが開くと真っ先に降り
鏡が鍵を差し込まず
ドアを開けると
やっぱり真っ先に入る城

靴を脱ぎながら問う

『鍵…掛けてないの?』
『お前が合鍵持たずに消えた時はいつも開けてた。いつでも避難したり帰って来れるようにな。どうせ盗まれるモンもねぇしよ(笑)!』

その言葉に
自分がどれだけ心配かけたかを
痛感する…

自分の部屋を開け
1番気に入っている場所
窓際のベッドに座り
窓を全開にした

『何か食う?あいつ、どうせ飯すらろくに食わせなかったんだろ!』

チッと最後に舌打ち

『要らない…明日からはちゃんと食べます…。』
『そ(笑)。疲れたか?寝るなら寝てもいいぞ。』

No.78

『疲れてないけど頭痛い…さっきよりはいいけど…薬飲んだら良くなる?ある?』
『頭痛か、あるある!至急お持ちしますよ。ちょっと待っててくださいませ城様(笑)!』

窓から顔を出して空を見上げる
星や月は全く見えなかったが
これからはまた
日も入るし鳥も見える
そう思うだけで嬉しかった

最高 おれの部屋

鏡が薬と水を持って来る
城に渡してすぐ
ハッとしてまた奪い返し
飲み過ぎ用の胃腸薬だこれ
見ないで持ってきたと
苦笑いしながらまた取りに行く

男の家で
風邪を引いた時を思い出す
鏡とのあまりの違いに
また苛立ちを覚えた

だけどあんなヤツでも
結局薬は持ってきてくれた
飲みはしなかったけど…

そこも思い出し
憎たらしい気持ちを
抑えようと努力する

今度はちゃんと頭痛薬
鏡も黙って城のベッドに腰掛け
一連の動作を見ていた

切れた口で
水を飲む姿が痛々しい

コップを鏡に返し
窓から離れて鏡の隣に座り直す

『話、あるんだろ?あいつへの手紙のこと…?あ、あれはね…。』

言い終えない内に
城の肩を力強く抱き寄せた

『違う!生きててくれてありがとう…そしてごめんな…。』

No.79

おれがあの日
鏡と徹の言うことを聞けば
こんなことには
ならない話だったのに

生きてたことに感謝して
おれに謝ってきた

説教されるんだって
覚悟してたのに…

『服…脱いで背中見せて。消毒してやるから。』

おれを何ひとつ
責めることはなく

一番先に傷の消毒と
ねんざの手当てをして
痛い所は全部見てくれたんだ

なぐられた顔の傷
困った顔でため息ついて
手を当ててきた

『これは…2日くらいで腫れ引くからさ…痣は暫く残るけど。骨折れてなくて良かった…あいつグーでやったろ。』
『わかんない。気付いたら倒れてたんだ…。』

困った顔から
悲しそうな顔になった

今度は手をとって
関節の腫れたのを見る
鏡の手がふるえてた

『うん、折れてない。』
『大丈夫だってば!』
『俺は見なきゃ安心できねぇの。せっかく回復しても…また…体だってせっかく肉付いたのに…また食えよ、沢山。明日は取りあえず肉は無理だけど。』
『どうして。』
『暫く食ってないだろ。そんな良いモン急に食ったら胃が驚いて腹壊すから!』
『それは嫌だ。分かった。』

また汚くなったから
見ないで欲しかったけど
…だまってた

No.80

鏡は優しいんだよ
わかってくれる?

おれ鏡の子なら良かった
鏡と同じ血なら良かった
鏡の子どもが…羨ましかった…

鏡の震える手を見ながら
そう思ってた
そう思って…
勝手に涙が出てきた
見られないように下向いてた

だってベソで面白い顔だから…

『泣け、沢山。知ってたか?お前、泣く度に強くなってるの。俺は知ってた…。』

その言葉でもっと泣いた
笑って言わなかったから…
抑えられなくて
両腕で顔を隠して泣いたんだ

外に聞こえてたかもしれない…
泣きながらあやまった

鏡と徹の言うことを聞かなくて
たくさん心配かけて
チャンスはあったのに逃げなくて
綺麗にしてもらったのに
健康になってきたのに
せっかく1番弟子になるために
たくさん食べて体重増えたのに
またダメな体になって

ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい!!

汚くて臭くて気持ち悪くて
みにくくてばい菌だらけで
ガリでウミキズ(膿傷)だらけで
女抱けなくて何も出来なくて
生まれた時からベソで

どうか嫌わないで
がんばってまた良くなるから

そう言って
あお向けになって
叫んだんだ…

No.81

そしたら窓の外から
上か…となりか分からないけど

うるせーな!
虐待してんのか
通報するぞ!

怒鳴り声が聞こえて
鏡は笑いながらそっと窓閉めた

おれのせいで
鏡が怒られたことに
すごく悲しくなって…
だんだんまた
気持ちが抑えられなくなった

窓に向かって
あいつと一緒にすんなバカヤロウ!
TVの簡単な内容でしか
何も知らないくせに!
すぐ虐待虐待いうなクソヤロウ!
知りたかったら
見に来いおれの体!
鏡は助けてくれたんだぞ!
通報しないで!

そう叫んで窓を叩いたら
鏡が力一杯
窓から引きはなしたんだ

それでも抑えられなくて
鏡に当たった…

おれが悪いの?
あいつが鏡をバカにしたんだ
あいつが知りもしないで
勝手に…!
どうして止める!って

腹が立って
座ってる鏡の足を何回もけった

おれがいたら
やっぱり鏡にめいわくかける
すぐ気持ちが落ちて…
息が苦しくなって…

こんな悪いおれなのに

『城、城、大丈夫だから俺は。通報もされないから!夜中だから静かにしよう、それだけ…俺もお前も何も悪くない!』

泣きそうな顔で
おれを抱き締めてくれたんだ…

No.82

汚くて汗臭いから触るなって
本当はうれしかったけど
そう思われたくなくて
突き放した

『城。俺の目を見て。』

なつかしいその言葉と
顔に伝わる温かい手に
また落ち着いて…

『あいつに言われたんだろ。全部。いいか、聞け!それは言葉の暴力!手足や道具を使って体に傷を付けられたように、言葉を使ってわざと心に傷を付ける暴力。心は手足や道具で傷付けること出来ないからな。お前が望んでそうなったんじゃない。お前はあいつらの勝手な気分で傷だらけの体にされて、それを利用して心も虐められてきたんだ。大人の勝手な理由で、何も悪くないお前を、社会で上手くやっていけない鬱憤を晴らすのに、まだ子どもで弱いお前を利用してストレス解消してきたんだ。それだけ!お前は何もしてないだろ?』

料理が出来なくて
怒らせたことを話した…

『火や熱湯が恐ろしいと思わせたのはジイサンと親父。あんなことされたら、俺だって台所になんか立ちたくない!お前はおかしくない。当然なんだ。悪くない!無理してやらなくても良し!わざとお前に向けた言葉の暴力!ヘナチョコボールだと思え。そんなもんバットで打ち返せ!お前は断然、綺麗です!』

No.83

言葉も暴力になる…
どうしてわざと傷つける?
体の傷は治っても心は治らない
ずっとずっと
その場所に行ったり
ちょっとしたきっかけで
すぐ思い出して悲しくなるのに
それがどれだけ苦しいか
あいつらは分かってくれない…
反省したのにしてないし
必要としてくれたから残った
変わるかもしれないって
やっと本当に
学校のみんなが持ってるみたい
家族らしい家庭に
戻るかもしれないって
信じてみたのに…
信じても裏切るし
平気で嘘もついた
たくさんなぐられて
たくさん怒鳴られて
前と全然変わらない

悔しくて悲しくて
憎くて!憎くて!憎くて!!

たくさん怒らせて
おれを殺すように仕向けた話
言ったんだ…

鏡がまた泣いてた
黙っておれを見たまま
涙が流れただけなんだけど

おれのために泣いてくれる人

それをすごく感じて
感謝の気持ちとは別の
自分では抑えられない気持ちが
一気にあふれてきて
また当たり散らした…
鏡は悪くないのに
鏡なら何言っても
おれから離れないって
知ってたから…
おれは他に言えない
心の悪魔を吐き出した…

1人じゃ抱えきれなかった
鏡しかいなかったから…

No.84

父さんは父さんに戻らない
父さんが父さんになれないのに
鏡がおれの父さんになんか
なれるわけないよ
絶対いつかジャマになるんだ
鏡は優しいから笑ってるけど
心は分からないからね!
信じることも許すことも
何一つ良いことない
その結果がこれだからね!

ねぇ 鏡
あんたもいつか裏切るんだろ
今はこんな【可哀相】な
おれだから泣いてくれるけど
ずっと居れば嫌になるよ!
ジジィとババァだって
最初は優しかった
絶対いつかジャマって思うよ!
鏡だって虐待するよ!
徹だって分からない
鏡も徹も2人は仲間だからな!

お前たち大人はひきょう者だ!
おれは逃げ場が無かった!
虐待されて死んだ子も
みんな逃げ場が無くて死んだ!

あんな奴らでも家族だから
そこしか世界が無かった
他は分からないから怖くて
言うこと聞くしか無かった
なのに酷いことばかり!
酷いことして急に優しくなって
その度におれは
怖がったり喜んだり…
でもすぐまた酷いことばかり!
どっちだよ!

中途ハンパに優しくするな
いつか嫌になって裏切るなら
今の内に追い出せよ!

No.85

自分でも何言いたいのか
わからなくなったけど
優しい鏡に当たることで
バクハツしそうな心を保った

思ってもいないこと
鏡には関係ないこと
何でもいいからぶつけた

頭は落ち着いてた
感情が落ち着いてくれなかった

おれは泣きながら
ベッドの上に
あぐらをかいて座っている
鏡のひざをずっと
蹴ってなぐって叩いてた

それでも怒りがおさまらなくて
カベを蹴ろうとしたんだ…
今思うとすごいバカ…おれ…

カベを蹴る前に
鏡は自分の涙ぬぐったあと
急におれの脇を抱えて
黙って居間に連れてった

夜中の寝室じゃ響きすぎるから
…だと思う

おれは力一杯抵抗した
バカとかクソとかテイノウショク…
鏡をたくさん傷付ける言葉
浴びせた…
抱えられながら
鏡の体をたくさんなぐった

落ち着いた頭は
もしかしたら
これで本当におれを嫌うかも
また捨てられるかも…
2人目の父さんに…

本気でそう思ってて
怖くて仕方なかった…

No.86

ソファーに座ってから
それでもまだ鏡を見上げて
たくさんバカにした

お前もあいつらも
信用出来るか!
いいこと言うのは今だけだろ!
それなら
優しくなんかしなくていい!

鏡は自分の家族とは
仲良しじゃなかったとしても
ちゃんと育ててもらった
おれの深い気持ちなんか
分かるはずない!

徹だって
家族の話は知らないけど
大事な妹がいて
妹も大事にされてて…
徹の体には
火傷やタバコやアザや
汚い傷の痕なんてなかった!

先輩もお母さんは違ったけど
いつも明るいし
酷いことされてなかった
自由だった!

ユウナだって…ユウナなんか
美味しいご飯がたくさん
残るくらい冷蔵庫にあって…
この前家から見た時なんか
おしゃれして楽しそうで
友達と笑ってて…

どうしておれだけ!?
どうしておれが!?
どうしておれを!?

何が違うのみんなと!
みんなが憎いよ!
口先ばかりの大人も憎い!
小学校も中学校も
先生達だってクソだったんだ!

教えてよ!
おれを助けたいなら教えてよ!
鏡!!

…父さんなんか要らないよ…
…兄貴も…
…家族はもう要らない…

おれには元々
無かったものなんだ…

No.87

『…何て言えばいいか…分からない…城…。』

その一言で
おれはソファーに寝転がって
ずっと泣いてた
止まらないんだ…
泣き止まない…
止められない…

サワの子が羨ましい
おれだってあんなだったんだ…
母さんが道間違えたから…
キスして抱き締めて
あいつから守ってくれた時の
母さんのままだったら…
おれだって…
おれだってきっと…!
今は…母さんも…憎い…

憎いよ…憎い…憎い!
普通に毎日ご飯もらえて
殴られないで
綺麗な体の奴らが憎い…!!
生まれたとき
スタートはみんな一緒なのに…!

お前ら大人がこんなにした
あいつらも
おれも治らないよ絶対
何回良くなっても
何回もダメにされる…!
畜生、畜生!

鏡と徹、どうして助けたの
やっぱり死んであいつら
苦しめてやりたかった…!
いつか鏡だって嫌になる…
いつか嫌われるなら
死んでしまえば良かった!
あいつらから離れてた時も…
よく何で生きてるんだろうって
急に思って勝手に涙出てくる
治らないんだ…!

勝手過ぎるよ
しつけって言えば
何でも通ると思いやがって

逃げられないし
こんなことされてんの
助けてなんて言えるかよ!

No.88

横になったまま
足で何度もソファーを蹴るおれの
頭に手を置きながら謝る声…

鏡は悪くないのに
鏡はいつも見付けてくれたのに
どうして謝るの…
おれが今たくさん傷付けたから
謝るんだよね…

次に押し寄せる後悔の波

おれも勝手でしょ?
あいつらと同じ血
おれももう少しで大人になる
…なりたくない

鏡は悪くないよ
ごめんなさい
鏡しかいないから当たっただけ
分かって…嫌わないで…

鏡は大好きなんだ
分かって…

ねぇ どうしたらいい
こんな自分が嫌いなんだ
ヒクツな気分ていうのかな
色々な黒い気持ちでいっぱいで
前に進めなくなったんだ
時が止まるってこういうこと
あいつらにされたこと
ずっと付きまとって
新聞で勉強した…
フラッシュバックっていうんだろ
ささいなことでよく出てくる…
呪われたんだ おれ
あいつら悪魔に…

悪魔なのに
薬持ってきて炒飯作ってくれた
炒飯なんか
すごく美味しくておどろいた
適当とは思えなかった

それだけで感動して
憎たらしい気持ちが消えた
悪魔でも
完全な悪魔じゃなかった
時々は…父さんの顔だった…
そういう部分思い出すと
憎みきれてないのかな…

No.89

鏡はまだ黙って聞いてた

右手をおれの頭に乗せたまま
床に座り込んで
うつむいて…
涙が何粒か落ちたのも見たんだ
でも絶対に手は離さなかった
温もりと震え…伝わってたよ

どれだけ困ってるか知ってた
聞きたくないよね
見たくないよね
おれを大事にしてくれた
鏡だからさ
仕事のあと助けに来て
ずっとおれのために一生懸命で
体はきっと疲れてるのに
こんな時間…
こんな姿…
やっと2人帰れたのに…

すごくうるさかったし
早く疲れ果てて
寝てしまえとか思ったかも
だってまるでおれ
小さい子みたいに
鳴き声も暴れ方も酷かった…

どうして叩かないの?
どうして怒鳴らないの?
どうしてバカにしないの?
どうして?
同じ人間で
1人の子どもを持った
あいつと同じ【父親】なのに
どうしてこうもちがうの?

困らせてごめんなさい
心の中でずっとおれも謝ってた

でもね…鏡

おれのが苦しかったぞ
ずっと辛かったんだ
こんなもんじゃない
こんなのでおれを嫌うなよ
こんなことで嫌うくらいなら
お前はおれを助けられない
誰も分かってくれない
絶望におちいるだけだ

暗闇がまた広がった…

No.91

…目の前にいる
15歳に見えない小柄な少年が
やせ細って傷だらけの体と心で
俺に全力で打ち付ける怒りを
どう受け止めればいいのか
全然分からない

ただただ謝るしか術がなくて…

城の言う通り俺は
【虐待】とは無縁な世界
そこで育ち大人になったから

深い気持ちなんか
分かるようでも
分かってやれなくて…
返す言葉も無くて…
悔しくて…悔しくて…

情けない自分に腹立たしく
悔し涙が自然と溢れて…

ただひとつ確信していたのは
どんなに俺を悪く言っても
俺しかいないから
俺に当たるしかないから
俺に受け止めて欲しいから
甘えてるんだと

やっと今こういう形で
全ての遣り場の無い怒りを
誰にも言えない助けを
俺にぶつけて
試してもいるんだろうかと…

前にも似たようなことがあった

だからそう思ってせめて
出てこない言葉の代わりに
手で伝わればと…
触れることでその温もりから
漠然とでも気持ちは伝わるはず

そう思ってずっと
手を当てて聞いていた…

こんなに長く泣き喚く城を
初めて見た

鏡だって虐待する
徹だって分からない

俺達は大丈夫だと思っていた中
この台詞には驚いたんだ…

No.92

城は叫びの節々で俺を罵倒した

バカ鏡! クソ鏡!
お前なんか幸せなんだ!
やっぱり父さんなんか
ならなくていいよ!
必要無い!
幸せに育ったやつらに
分かってたまるかよ!
どうせ大人なんか嘘ついて
やること同じなんだ!
鳶なんかなれねーよ
おれなんか!
お前みたいな体にもならないし
どうせテイノウショクなんだろ!
こうなったのは
お前ら大人のせいだからな!

…何で俺に当たるんだよ…!
逢って間もないなら
そう勘違いしたかもしれない

本心だけど
本心ではないことは承知
ただ城の顔で城の口から
直接言われると
やっぱり辛いものがある

暴力がここまで傷刻んだこと
憎しみがここまで募ったこと
城にここまで言わせたこと

俺も佐伯一家を憎んだ…

怒りをぶちまけて
何かを思い出したように
謝りだして
それでもおさまらない怒りが
また溢れて

錯乱している姿が
凄く…俺も苦しくて

対応の難しさに
脳味噌が硬直し出して
上手く言葉が繋がらなくて
やっと出てきた言葉
それで

大きな地雷
踏んだんだよな…俺…

No.93

大人になると複雑な社会の中で
自分の力で生きなきゃならない
嘘や妬みという毒を武器に
自分を正当化して
更に弱い者を踏み台にして
自分を庇いながらでないと
生きられない弱い奴も
沢山いるから
シンジもそういう
環境だったのかもしれない…

そういう事を踏まえて
大人代表として
【謝る】つもりだったが
単なる大人の言い訳にしか
聞こえないかも
あえて言う必要もないかと思い
簡潔に述べただけだった

『大人の事情もあるから…』
『おれはその勝手な事情でこうなったんだよ!!』

そして噛み付かれた
頭に乗せた俺の腕を咄嗟に掴み
思い切り…

もう言葉や手足じゃ
ダメージも与えられない
自分の痛みなんて分からない
そう感じたんだろう

凄い力で
本気で噛みついてきたんだ…

悲鳴を上げて
頭叩いて振り払う
そんなこと出来る訳ない

出来る立場じゃない…
肉を食い千切られても
仕方ないと思ったから
耐えてた…

城の言う通り
全ては大人の勝手な事情から
始まって狂わされた人生だから
さっきのはやっぱり
勝手な言い訳だっただろうから

今の言葉の懺悔だと思い
気が済むまで
そのままでいた

No.94

基本的なことを…
ごめん…城
本当にどうしていいか
わからないんだ

むしろこんな馬鹿な男
神崎鏡矢に教えて欲しい

どうしたら泣き止む?
どうしたら笑ってくれる?
どうしたらまたお前から
抱き付いてくれる?

俺に出来ることは何かな…
俺がどうしっかりすれば
いいんだろうか…
俺はお前をまた幸せだって
思わせること出来るのかな…
自信持って任せろなんて
もう言えねぇんだ…

だけど自信持って
愛することは出来る
今まで1度もお前を
手放したいと思ったことは無い
今でさえお前が毎日笑う姿を
想像するよ

今のこの姿や言葉から
この先のお前の苦悩を思うと
腕より胸が痛てぇんだ

1人にしたくないです
1人で泣かせたくないです

俺みたいな
虐待についての知識もない
中途半端で父親が終わった男が
お前を見守りたいだなんて
おこがましいにも程があるな

素人が何も持たず
道の無い樹海に踏み入るようで
凄く不安で潰れそうになる

だけどいつもの
俺の名を呼ぶ声だけを頼りに
迷いながらも
死にかけながらでも
絶対命落とさずに
お前に辿り着きたい

城…そのままでいいから
聞いて…

No.95

お前のことだから
また頭で沢山ゴチャゴチャ
言い合ってるんだろ
なぁ、優勢なのは誰だ?

家族を憎む気持ちの奴か?
家族を許したい気持ちの奴か?
俺に怒る気持ちの奴か?
俺に謝る気持ちの奴か?
自分を悔やむ気持ちの奴か?


憎む気持ちが優勢なら
憎めばいいんだ
憎む感情はみんなあるから
持ってて当然
悪いことじゃない…俺にもある

上手く言えないけど…
憎しみの感情をもってこそ
反省させることも出来るし
気付かせてやることも出来る

あの箱の手紙だって
ざまあみろって思ってて良し!

良かった部分を思い出して
許しますなんて言って
憎しみがまだまだ大きいなら
許したことにもならない

お前がされたこと…
小さい内から
怒鳴られて暴力されて
恐怖と痛みで一杯だったことは
躾じゃなく虐待という
れっきとした【犯罪】だから
お前は被害者で
許さなきゃならない権利は無い
本来ならもう
あいつらは逮捕されて
裁かれてるのが普通なんだから

家族だからって
理解しようと苦しむ必要無し!
嫌なら見なくてもいい
自分が悪い所あったからって
好かれようとしなくてもいいと
俺は思うんだ…

No.96

お前は何一つ悪い所はないから
そもそもそんな努力必要無し!

説明下手なんだけど
分かるかな…

同じ血であそこで育ったから
あそこしか世界がなくて
ただあそこに
関わらなくなることに
何か罪悪感を感じるなら…
それを感じてまた
苦しみ悩み続けるなら

1人抱え込まずに教えて欲しい
今みたいに吐いて欲しい
言いにくいなら
また紙でもいいから…

でないと気付いてやれない
俺、鈍感だからよ
そのために
あいつらから引き離して
傍に居る決意したんだ

そんな気持ちになったら
俺がもっともっと努力して
もっともっと外の世界
見せてやるから

俺と徹…
もっと上手い方法で
お前を何度も
こんな目に合わせなくて
済んだかもしれない…
お前の危機を敏感に察知して
ガツンとやれたかもしれない

それは…謝るから…
謝って済むなら簡単な話だけど
そこだけは毎日毎晩
反省してるよ…

いつか俺達が裏切る…
そう思うのも仕方ない

ただ俺
ヘマはこいたりしたけど
お前に逢って今日まで
信用失うことは
しなかったつもりなんだ
そこだけ忘れないで欲しい…
そこだけは…城…
自分で言いたくないけど(笑)

No.97

俺に謝る必要も無い
お前が俺に対して思ってること
大体想像つく

あー…俺が泣いたから
駄目なんだよな

歳とると涙もろくて参るわ
ってか俺まだ30前半だから!
人生の半分も行ってないから!
まぁお前くらいの歳から見たら
30代はオッサンだよな
徹が兄貴ってのがたまに
ズルイとか思うけどさ
いやいいんだ俺は親父で(笑)

城の親父
凄く嬉しかったんだ…本当に
お前から告白されて…
俺いつも自分から
グイグイ行く方だからよ
受け身って
こんな気持ちなんだって
ドキドキしたんだよな…

うん 悪い…何だっけ…
何でこんな話…?

あぁそうそう
お前が俺を信用どうこう以前に
俺しか傍にいないからって
だから
全部ぶちまけてくれてるの
理解してるから
まだあるなら
吐き出していいんだ

鳶になれない奴なんかいない
夢だろ?
体はまた俺の特製シリーズで
作り直せるから
ほら 筋トレグッズも寂しがって
転がったまんまだぞ?

徹やサワ、俺の仲間だって
待ってんだ
俺と同じヘルメット被って
超超ロンはいて
髪赤くして顎髭生やして
イカした鏡矢2世の誕生を!
いや、首振るな(笑)

No.98

どうして俺
真剣に話したい場面なのに
こんなふざけた内容になるのか
いつも自分で謎なんだ
ふざけてるつもりは勿論ない

こういう所で差が出るんだ
徹、ズルイよな?
あいつだって実はかなり
中身ふざけた奴なのに
パッとしたかんじクールだろ?
呑みに行くと
徹さんて知的でクールねって
女の子に言われてんの見ると
何クールぶっちゃってんのお前!
とか思うワケだ(笑)
なぁ、これどう思う?
どうでもいいんだけどよ(笑)!

あーほらまた…
お前の話をしてるのに
お前に相談してどうすんだ俺

城…伝わってるかな
そこが非常に心配なんだけど

ただ
お前の家族がやってきたことに
お前が悔やんで反省すること
しなくていいんだってこと
思った通り感情のままに
自由にしていいんだよって
言いたかったんだ

もうお前を苦しめる人間は
いないから

シンジも言ってただろ
【最後】の挨拶で
俺達と好きなだけ居ろって
見かけても邪魔しない
爺さんにも言っておくってさ

それこそ信用なんねぇかも
しれないけど
それはこれから
俺がちゃんと専属用心棒となり
お前を必ず守るから…

No.99

シンジにはさ…
お前が会いたいって言ったら
連絡するとは言ったけど
シンジからお前に会いたいって
連絡が来ても俺は拒否

城は城が城の判断で
関わればいいと思った

ただ今回の一連の事件の結果…
俺は2人きりで
勝手に会うことは許さない
もしバッタリ会ったら
すぐその場を離れて…
会いたいと思ったら
俺に相談して…

何だか俺
娘を彼氏に取られるの
嫌がる親父みてぇだけど

そのくらい城が大事ってこと…
理解して…

もう見たくない…
名を呼ばれて
やっと見付け出したら
その度に死と隣合わせの状況…

虐待虐待って
簡単に軽く騒ぎ立てる今の時代

俺もニュース見ると
またかよ
酷ぇことすんなぁ
可哀相になぁ
痛かったろーによ
なんて親だ
その程度でしか見てなかった

お前にあの日出逢って
深く関われば関わるほど
その程度の言葉で片付くような
済ませられるような
犯罪じゃないことを知った

だから
今 俺がそんな城に出来ることは
城の1番の理解者になるよう
努力すること
これからずっとずっと
傍にいて助け守り続けること
俺こんなんだけど

そう したい させて欲しい…
城…

No.100

>> 99 …鏡の腕は
おれの歯型がくっきり付いて
血がにじんで変色して
見る見るはれ上がってきた

大人の事情…
その後も話を続けたかったと
思うけど

感情が言うこときかなくて
頭ではこんなことしちゃ
ダメなんだって分かってたのに…
もう暴走しちゃって…

すごく…痛かったと思う…
叩いてでも離したかったと
思うんだ…

そうしてくれて良かったのに
そうしなかった
どうしてだろう…

だって鏡が話している間
ずっと噛み続けていたんだ

これ以上
泣くのも話すのも叩くのも
疲れて
噛むことでおれの
痛みを発散させたんだ


悲鳴を上げてたけど
腕に力入れて
おれに必死に話しかけてた

ちゃんと聞いてたよ

話がそれながら
一生懸命分かってもらおうと
不器用なのに一生懸命…

1番の理解者になってくれる努力
しなくてももうなってるのに
おれが自分を
おさえられないだけなのに

おれのために
努力するって言ってくれて
それがやっぱりうれしくて…
口を鏡からはなした

No.101

鏡はいつもみたいに
絶対怒らないで

『非常に健康で丈夫な歯をお持ちのようで(笑)!』

とか言いながら
噛んだあとをさすってた
痛みで目に涙たまってたのに…

悪いことしたおれって
どう言っていいか困ってたら

ちょっと待てよって
冷蔵庫から
おれの好きな冷たいコーラ
持ってきてくれたんだ

それで細かいこと思い出した

家出したらカギ開けてくれてたし
小腹空いたら食えって
俺の好きなお菓子やジュース
いつも置いてあった

仕事以外の用事で
帰るの遅くはならなかったし
洗濯物干したり
棚の上から物取るのに
おれ用の台作ってくれた

ベランダでタバコを吸うときも
絶対おれの目に
火のついたタバコが
窓ごしに見えないように
かくして持ってた

出かける時も必ず
どこか見たいとこあるかって
聞いてきて
連れてってくれた

他にもたくさん思い出して
今の話もずっと思い出して

鏡だけは信じようって
考え直したんだ

だって本当に
今まで信用失うことは
しなかったから

おれの人生で
おれのために一生懸命だった人
徹もね…

本音じゃなくても
当たり散らしたこと
あやまった

No.102

『鏡…嘘つきは俺です…全部嘘です。あいつらは嫌いだけど…鏡は信じてます…ごめんなさい…嫌わないで。』

『うん。分かってます(笑)。』

『父さんは必要なんだ…あいつじゃない、あいつは…父さんじゃない…時々優しかったけど…やっぱり憎い。憎い方が大きい。じいちゃんもばあちゃんも思い出したら憎い。許せない…会いたくない。じいちゃんは忘れたい。存在、忘れたい。父さんは父さんって呼びたくない。そう呼ぶのやめる…これでいいんだよね。』

『城がそうしたいなら。悪いことじゃない。城にそうされるのがあの人達の背負わなきゃならない罪だからな。』

『はい…それなら少し気持ち楽かも…時々殺したくなる。憎くて憎くて…生きてるのおかしいよ。』

『殺すのは許しません。何故ならあんな酷い事をした彼らを殺しても、罰を受けてしまうのは城だからです。放って置いても人は死ぬんです。殺すくらいなら放置して下さい。父と呼ばず、存在を無くす。充分です。関わらなくて良し。無視。罰を受けたお前を見て悲しむ人がここにいるからです!嫌です、そんなのは!因みにもう1人いますよね!』

『…徹。』

『そうです(笑)!』

No.103

ソファーの上に座り足をダラリと下げ
両腕で体を支えて起こし
疑問や気持ちを
投げ掛ける城

テーブルをよけ城の正面
床にあぐらをかいて座り
丁寧に受け答える鏡

外は既にうっすらと
明るくなりかけていた…
時間なんか全く忘れていた


『1番怖いのは…こうなっちゃうことで…鏡と一緒に居ても…いつかは…やっぱり…嫌になって…躾とか言って叩きたくなるかも…。』

『それは俺を信じてと言うしか…。今までずっとお前やあの一家を見てきて、躾って何だって考えてきたけど。お前は躾けなくても充分しっかりしてるから、俺は躾けるつもりは無いです(笑)。安心して伸び伸びしてください!いけないことは勿論、叱ります。お前が辛い苦しいと追い込むようなことはしないってこと。それじゃあの一家と変わらないから。さっきも言ったけど、今まで1度も手放したいと思ったことないです!1人にしたくないです!1人で泣かせたくないです!自信持って愛することは出来ます!どうして?お前が目の前から消える度に、涙が止まらないからですッッ!!…徹に言うなよ(笑)?』

城は微かに…

『何だよー、素直に笑顔見せてくれって(笑)!』

No.104

日が完全に昇る

ソファーの上で何かの呪縛から
解き放たれたかのように
どこか気持ち良さそうに眠る城
その下で
昨日の仕事の作業服のまま
テーブルに片足を上げ
無防備に爆睡する鏡

血は繋がらなくとも
お互いの願いが叶った日

城の親の承諾を得て
今日から2人は
誰の目を気にすることもなく
堂々と父子として
共に暮らせるという
夢のような…現実

鏡の携帯に着信
夢うつつに携帯をまさぐり
誰からかも確認せずにでる
…10時近く

『…うぁー…。』
『何、うぁーって(笑)。寝てた?悪い。気になったから。』
『…誰…?』
『徹!』
『…あー…そうすか…。分かりましたぁ…。』
『聞けよ(笑)。そして起きろ。城君どうだよ。』

ゆっくり体を起こす

『あー…徹?一服?もう…そんな時間?あれ!何で俺!作業着!?休みじゃないの今日!?』
『知るか。着替えないで寝ただろ。着替える暇無かったか。』
『…そうだ。うん、城は居る。今日はちゃんと居ます(笑)。』
『起きてたら話したい。』
『寝てる。朝方なんだ、俺ら寝入ったの…。』
『分かった。アンタに用はないから、またな(笑)!』

No.105

(何だそりゃ…!)

呆気に取られて携帯を置き
城を起こそうとするが止めた

少し考え込む…
気になる奴がいる

全く動かない城に
毛布を一枚掛け
さっさとシャワーを浴び着替え
置き手紙をして家を出た

向かった先は
城の父…シンジの家

強めにドアをノックすると
少し時間は掛かったが
意外にあっさりとドアが開いた

驚きを隠せない顔の男

『…何…何か…?』
『何かじゃねぇし俺!神崎ですよ!…臭ッ!』

露骨に顔を曇らせ
玄関に入り込む

シンジは昨夜から
一睡もしていない様子で
無精髭と乱れた頭髪
疲れきって老けたような表情…

『寝てねぇのか。』
『…今度は何だよ…。』
『何でもねぇ!誰がテメェなんか気にして様子見に来るかよ!入るぞ。いや臭せぇわ(笑)!掃除のしがい有り過ぎ!どうせこんなことだろうと思った。気になんかしてねぇからな?掃除が好きなんだ俺は。』

そう言って笑いながら
ズカズカと入り込み
コンビニで買ってきた
飲食物をテーブルに置いた

『食え、腹減ると動けねぇだろ。あ、これ俺のね(笑)。他の食って。』

シンジは勢いに圧倒
そのまま座り込む

No.106

息子手作りの小箱

自分が深いショックを受けた姿を
城は知っていながら
同じ方法で用意した

息子に深い怨恨を招いた父親…
自分と重なるその姿にどこか
同情もあったかもしれない

無気力になっているか
全く気にしていないか
それも知りたかった
前者と後者の反応によって
この男の先は
大きく変わるだろう

そして
こういう人間だからこそ
1人にさせたまま
終わりとするべきではない
そう思って…

『お前よ、言いたくないならいいんだけど。あの爺さんにどんな…虐待だって言ったりそうじゃないって言ったりしてたからさ…何かそういう風に思うようなことされたのか?』

唐突な質問に
言うか言うまいかと考え
重苦しく口を開く

『分からない…ただ昔から親父が怖かったのは確かだ…。ああいう性格だろ?気に食わないと、顔真っ赤にして物に当たるし、力もあったから…本人そのつもりでなかったにしろ、よく怪我してた…もうイメージ的に親父は絶対的存在で恐怖だったから…。おふくろもよく耐えてたと思うんだ…手を上げられてるのたまに見てたし。離婚もせずに…尊敬する。その分俺に酷く依存してたかな…。』

No.107

『甘やかされたって言えばそうかもな。おふくろも寂しい人間だったんだろ。それが段々鬱陶しくなってた。城を預けて帰らなかったのも…それが理由。親父は冷静に思い返せば…確かに問題があった時しか手を上げてなかったから…虐待されてたとは言い切れないか…。怒鳴って脅して…お前より強いってアピールすれば、昔の俺みたいに…すぐ大人しくなるし反抗できない。だから城もそうしてやれば簡単だって自然と…。』

『でもさ。痛くて怖かったのは間違い無いんだろ?親父も度が過ぎた部分はあったかもしれないけど。人はそうやって学ぶ能力あるんだから、学んだこと忘れちゃいけねぇよな。』

『…今だから分かる。』

これは城にもよく教えておこう
…そう思った

『信用出来なくて来たんだろ?また口先だけで城を脅かすかもって思って様子見に来たんだ…違うか?』

コーヒーを吹き出しそうになった

『自分で分かってんの(笑)?そういう不信感はある!でもただ、気になるっつーか、心配になっただけ。性格なんだコレ!』

『やっぱり気にして様子見に来たんじゃないか…(笑)。』

『バッ…だ、誰が!掃除が好きなんだ、俺は…!』

No.108

もう起きたかもと
家に居る城を気にしつつ
さっさと食べ終え窓を開け
手際良く掃除を始めた

城が暴れた数々の痕跡
そのシーンを想像すると
いいようのない気持ちになる…

城が来てから自分の家が
いつも綺麗だったことも
ふと思い出した
自分に対して
役立ちたい一心だったよなぁ…

掃除しながら城の話題
シンジから切り出してきた

『城は…どうだ?』
『疲れたのかグッスリ寝て全く起きなかったわ。それだけで取りあえず今の所、体は問題ねぇよ。これ城が暴れた跡だよな?強い奴だったろ(笑)。』
『…あんな…あそこまで反抗するなんて…俺は親父に対してあそこまで出来なかった…。』
『そりゃそうだ。自分がそうだったからって同じやり方で押さえつけりゃいいってもんじゃないからな。子どもには子どもの考えもあるし…1つの人格を所有した1人の人間だし…人形やロボじゃねぇし…。』
『もう無理だろうな…戻っては来ないだろう…。』

そうだなとも
そんなことないとも言えない

『まぁ…お前達を許すってことは自分を抑える…殺すってことだろうから…余程の覚悟がいるかも。簡単に立ち直るのは難しいんじゃねぇか?』

No.109

『1度許してくれたのに駄目にしてしまったからな…もうガキは要らない。』

その言葉にカチン

『いやいやいやいや!要らないじゃねぇし。自分でやってきたことの結果だし!無責任なこと言うなよな!怒っちゃうよ俺!息子が俺を父親って言うの見て悔しくねぇの?俺から奪い返そうとか思わないの?俺に敵意剥き出しだったくせに、失敗して要らないって…要らないって!今度正面狙うぞ?』
『育てる自信無いから。』

手を止めて
雑巾を振り回し怒る鏡

『誰も自信満々で完璧にこなす親なんかいねぇよ!みんな悩んで失敗して反省して学びながら育ててんだ!テメェ1人が崖っぷちみたいな言い方すんなよな!ったく、城が不憫ですよ!要らないなんて…必要とされたくて必要と言われたのが嬉しくてバカシンジの下に残って…こんな目にあって!いーよ、絶対テメェらなんかに返さねぇから!返してたまるかって!はっきり言ってお前より俺に似てるし!見た目のイイ男な所も性格の素直で真面目な所も…誰が返すか、城は俺の下に居る方が幸せなんだ、要らないなんて簡単に言うボケに渡したらまた…ホント信じらんねぇ…だから…ブツブツブツブツ…。』

No.110

『養子にしてもいいけど。』

またまたカチン!

『だ、だ、だからよ!簡単に自分の子を捨てるなっての!!子育て難しいし疲れるし辛いから要らなーい、養子にどうぞーって、え?ねぇ、どういう神経?子どもはいつからゴミになったんだ?そういう恐ろしいことポンポン口に出すゴミみたいな親が増えるから今の時代、被害受ける子どもが増えるんだって!養子になんかしねぇよ?放棄すんなや!テメェがあの日両親と城の前で実親だってはっきり言ったんだから死ぬまで抱えて行け!!』

しまったと内心思う

『(笑)。一晩中そう…思ってた。もう疲れて…自信ないし要らない。神崎なら勝手に面倒見てくれるし、渡せば俺自由になるわって。でもそれはそれでやっぱり嫌なんだよ…城が嫌がってもやっぱり息子なんだ…変な部分だけど機嫌伺う時の顔が昔の面影そのままで…そんな些細な所で12年前のあの時の城なんだなって思って。そういう顔させて罪悪感があった反面…自分の息子って自覚が…。』

『…なんだよ!クソ紛らわしい!要するに、改めて自分の子だって実感湧いたってことか?遅いんだ今頃!時間無いから手動かして話せ!俺もだけど。』

No.111

シンジのペースに飲まれる自分
憤りと情けなさを感じつつ
彼は彼なりに
思い直していることが
嬉しかった

でもひとつ失敗した…
城の服の山を片付けながら
さり気に聞く

『なぁ、シンジ君。』
『何。』
『遠慮なく養子にくれてもいいよ(笑)?』
『嫌だね!』
『さっき養子にしていいっつったじゃねぇかよ!』
『さっき養子になんかしねぇよっつったな。』
『…ッ!誘導しやがったな!』
『そのカッとなりやすい単純な性格、簡単なこと(笑)。』

やられた…

『テープにでも証拠として収めたなら別だけどよ!』
『証拠以前の問題では?言った言わないの前に親である俺がそれは認めない。それだけ。』
『へーへーそうですか!!』

畜生!腹立たしい!
何て野郎だ…
憎たらしい奴だよ
何で俺こんな奴の様子見に
心配して来たんだ!?
何で俺一生懸命
掃除しちゃってるワケ!?

『それそっちじゃない。あっち置いてくれ。』
『どっちだよ!』
『あっち。あの棚の上。』
『そっちとかあっちとか分かりにくいんだって!何で…何で俺…いつの間にか使われてちゃってんだよ…?』
『邪魔。こっちやって。』
『…ッ!』

No.112

1時間ばかり手伝った所で
大体片付いた

『あとはもういいな?臭いのも大分消えたし。城起きてっかもしんねぇし帰るわ。ずっと食って…食わせてねぇんだろ。何か作ってやんなきゃ。』

軽く睨む鏡
シンジは気まずそうに頷いた

『なぁ…ひとつ正直に答えてくれるか?城、俺のことあの後何か言ってたかなって。』

少し躊躇したが
言ってやるべきだと判断した

『俺にさ…自分の気持ち解るかよ、こうなったのはお前達大人のせいだってずっと泣き喚いてて…感情のままにもう自由に生きろって意味で憎むなら憎めって話したら、父さんを父さんって呼ぶの止める、じいちゃんは存在忘れたい、殺したくなるって。殺すことは駄目だって説明したけど。まぁ…仕方ないだろ…お前はその言葉背負って更生する努力して生きろ。』

『…逆勘当…か。仕方ない。』
『仕方ないじゃなくてなぁー何で諦めるかな!』
『お宅の口からだってたった今出ただろ…。』
『俺はいいんだ、お前は実の親だぞ?しかもそこまで反省してて、なんで諦めんのって!』
『どうしたらいいんだよ…。』
『そんなの知るかよ!俺に聞くなって!』

No.113

『諦めた訳じゃないけど…城がそこまで嫌うなら…またやり直したい、いつかまた親と認めてもらいたい、今度こそ懺悔したいって思っても…信用を回復することは無理だ…もうどうしようもない話だ。どうしろと?』

だから俺に聞くなって…
そこまで城を想えるなら
言ってみろよ!

例え今城に届かなくても
せめて俺に今までのやり取りが
無駄じゃなかったんだって
安心させてくれや…

『じゃあいいんだな、これで。どうしようもねぇしな!そりゃ城は一生テメェのこと許さないかもしれねぇよ?1度ならず2度、どこでも行けなんて捨てたんだ。それでも心のどこかで…母親も兄弟もいないあいつが…ただ1人の直の家族である父親が、また父親に戻る日を夢見てたとしても!嫌われてるからどうにもならねぇからって放置でいいんだな?じいさんみたいに記憶から削除されても仕方ないんだよなぁ!?だって無理なんだし!』

車の鍵とタバコを手に取り
玄関へ向かう

『人の心は変わるんだ。変わらない奴のが稀だと思う。努力すりゃいつか伝わる時が来る。努力しなきゃ伝わらない。ハナッから無理無理言う奴は無理でしょーけれどもねッ!』

No.114

『心は変わる…確かに。いつの間にかあんたへの妙な苛立ちも不思議と今はない。こうして知れば…。』

『だろ?惚れたか?』

『城はさ…。』

『いやスルーすんなよ(笑)!』

『(笑)。城は俺を忌み嫌って当然な立場だし、俺もそんなあの子を無理矢理どうこうする資格もない。だから俺から城を怯えさせたり不快にさせることはもうしない。俺はあの子を良い意味で放置する。合わす顔もない。なんて言うか…城自らこんな俺でも…父と呼ばずとも…心のどこかで父親という意識を持ってくれている可能性があるなら…いつか会いたいと言ってくれる日が来るまで、自分を見直し続けようと思う。いつかもしまたその日が来たら…親父はやっぱり親父だったって思ってもらえるようにさ。こんな心底恨まれて目の前からただ消えるなんて…それはそれで辛い。』

シンジは笑って
いつもの挑発的な顔になった

『神崎に城は渡さない。いつか必ず見直させる。それまで、城が望む限りただ1人信頼を置いてるあんたに預けるだけ。城は俺を憎むなら憎めばいい。次会った時はその思い覆してやる。そしてあんたから引き離してあんたを泣かす。』

No.115

『そうだ!それをお前の口から俺が聞きたかった(笑)!』

俺から奪い返すと
偽りの無いその目で…

反省してますだなんて
上辺だけのような言葉でなく
1人の人間の
父親としての在り方を
しっかり考え直して生きると
心に誓ってほしかった

俺 肩の荷が降りたよ…
人は変われるんだ
今この男は変わった

嘘だらけで信用性に欠ける
あの時の濁った空気じゃない

…鏡は笑顔で
シンジの肩を突いた

『心底バカでもクソでもなかったな。ここに来た甲斐があったって訳だ。是非ともその日が来るのを楽しみにしてるさ。』

そして
笑顔のまま続けた
仁王立ちして腕を組む

『んで、シンジ君。今、俺は君の嘘偽りの無いであろう本心をしっかり受け止めました。単なる【俺の自己満足】の為にどうしても聞きたかった台詞を聞くことが出来ました。』

シンジは顔を曇らせた

『単なる…神崎の…自己満足…どういう…?』

No.116

『そ。今の言葉で、城の理想の父親になる確率は0ではなくなった。自分の非道を見返すことなく息子は要らないと言う人間じゃなくなった。そんな言葉聞きたくなかった。可能性があるなら、人の親としての心を取り戻して欲しかった!その為に俺は来て、気付いてもらえた。それだけで俺は大満足だ。けどこれは所詮、大人同士の話し合いの中で気持ちにケジメ付けたってだけの結果。』

鏡の顔から笑みが消える

『実際、城は許さないと思うぞ。心のどこかで親だからって葛藤はあるけど、憎しみ苦しみは一生消えない。さっきも言ったけど一生会いたがらないかもしれねぇ。俺は城の意思を尊重するだけ。時が経ってから、シンジは心から反省してたからそろそろどうだ?なんて一切言うつもりはねぇからなってこと。俺に預けるってことはそういうこと。俺が離したくないからじゃねぇぞ。本人が決める道だって言いてぇんだよ。』

『…戻らなかったら…?』

『諦めろ。それが【虐待】の結末。城の心からお前は抹殺されたんだ。あいつが大人になって1人で歩き始めたら、俺も手離す。心の中から抹殺された父親の代わりとなって相談に乗り見守っていくだけだ。』

No.117

『心の中で抹殺…う…俺もだけどよ…3年…音沙汰無し…。』

『心の中で抹殺…確かに衝撃的かも…そう泣くな…神崎。』

『いや泣いてない。あともし再会する時が来たら最初は俺も立ち会う!俺だってこんなんだけど、今回も自分に非があったって反省しまくって凹んだんだ。だからシンジ不信で城の壁になってもおかしくないだろ?理不尽に会わない方がいいとか城には言わない。けど、考えさせる。本当にいいのかどうか。後悔すんなよって。』

『紛らわしいのはどっちだよ…分かった。城を神崎に預けると決めたんだ。口出しはしない。俺はまた来てくれた時に備えて…頑張ってみるさ…借金も返さなきゃ…身辺片付いて気持ちにゆとりが出来たらまた変われるかもしれない。そんな気もしてきたよ。』

鏡は頷いてドアを開け
じゃあなと言って出る

これだけ言うなら
きっと…今度こそ…

『あ、おい!』

シンジは玄関から身を乗り出し
呼び止めた

『お節介なあんたのことだ。親父とおふくろの所にも行くつもりだろう?』

今日でなくても
シンジの言う通り
もう一度行くつもりだった

人の心は変わる
変わらない奴のが稀なんだ…

No.118

『行くだけ無駄ってのはまさにあの親父のことだ。』

『無駄?』

『何を話そうとしても強情な性格だからさ。行った所で城はシンジに返しました、従って我々は何もわかりません!とくるぞ。城を連れて出る前がそうだった。城は疫病神扱いさ。俺に対しても、城はお前の息子なんだから全て責任持って行くなら連れて行けだったし。』

ここの住所を聞き出す時を
思い出した

強情で無責任な男
城が離れて
もう全て片付いたと思っている

むしろきっと
関わりたくないとか
知らぬ存ぜぬで通すんだろう
目に見えるようだ…

『…謝罪は嘘っぽい感じじゃなかったんだけどな。』

『嘘じゃないから全て忘れたいのかもよ。関わらない方いい。俺からのせめてもの忠告。』

城は既に祖父の存在を
忘れようとしていた

許すと言った城が…
今回も余程腹立たしかったのか

『心が変わらない稀な奴の代表。城のことに関しては全て俺さ…もう親父の中では。』

『…分かった。城はもう存在忘れるつもりだから…俺も関わらないようにする。』

『親父はおふくろに軽蔑されながら生きればいい。おふくろは大丈夫だから。』

No.119

そこまで言うと
シンジは改まった様子で見送った

『神崎。不甲斐ない俺のせいで悪いけど城を…息子をよろしくお願いします。いつか見返してやるからな。必ず…そして…ありがとう。』

気まずそうに微かに笑う
その顔にどこか城の面影…
やっぱり父子なんだなと
鏡は柔らかい笑みで返す

『俺は城の前に建つ壁だぞ!いいな、城の気が変わった時は俺を打ち倒してでも奪いに来いよ(笑)!』

『最後にひとつ。どうして城に…ひとんちのガキにそこまでのめり込める?』

階段を降りながら答える

『俺、城チャン愛してますから(笑)!今はただそれだけでーす!』

真っ黒い車は
早く城の元にと言わんばかりに
勢い良く去って行った

No.120



買い物袋を片手に急いで帰る

居間に城の姿は無い
部屋に居るんだろう

バババッと袋を開け
昼飯を作り始めると
城が部屋から出て来た

『あいつの所行ったんだ…。』
『あぁ、ちょっと知りたいこともあってさ!今後のこともあるし。腹減ったろ?もうちょい待てよ。』

城はキッチンに入らず
立ったまま無表情で黙り込む

『…何?何すか?何か??』

頭をうなだれてソワソワしながら
小声で告白した

『カガミ…割っちゃったんだ。』
『どこの!?』
『洗面所…。』

火を止めて慌てて見に行くと
破片が見事に散乱…
心の中でギャーッッと叫んだ

『ど…どうして割った?』
『…ドライヤーで。』
『え?ドライヤー…あぁっ!ドライヤーも壊れてんじゃねぇか!いやそうじゃなくて、どうしてこういうことしたんだって言ってんの!怪我は!?』

首を横に振り座り込んで
頭を抱え込んだ

『化物なんだ…!』
『…。』
『シャワーして髪乾かそうとしたら…顔は腫れて青くなってるし!髪…15歳なのに白髪って…恥ずかしいよ、悪魔みたいな顔だし…体もやっぱり汚くて!心が急に黒くなって気付いたら…。』

No.121

鏡は城を立たせて
飯作って片付けるから
居間か部屋で待機!と言い
キッチンへ戻った

城は部屋でなく居間を選んだ

忙しなく手を動かしながら
城に話し掛ける

『手ぇ出す前に抑えられないのか?こうなるって分かってんだろ?』
『…分かるけど…頭でゴチャゴチャ言うから…頭から沢山の自分が…化け物だとか違うよとか…うるさいから…でも追い出せない…頭が追い出せないから体がああいうことして追い出そうとするんだ…。』
『…なるほどね。』

城の前に
出来上がった料理をトンと置き
聞こえないように溜息をついて
洗面所の片付けに入る

鏡を不機嫌にさせたと
小さくなりながら食べ始める城
反省しながら…

久々に腹に入れる鏡の料理の
あまりの美味しさに夢中

掃除機をかけて片付け終え
その城の姿に思わず笑う

『美味いか?』
『美味いです…。』
『まだあるぞ?食う?』
『食う。』

しゃあねーなぁ
許してやるか(笑)!

皿一杯に
鏡矢特製胃腸に優し過ぎる野菜玉子スープを盛って渡すと
すぐ車の鍵を手に取った

『ドライヤー買ってくる。あと俺、いいこと思い付いたし(笑)!』

No.122

思い付いたって言っても
本当にいいかどうかなんて
知らん!

今更だけど今まで
こういう状態の城に対して
正しく接してやれたのか
城は満足できてたのかなんて
知らん!

ただ俺は
城と居て得た
城に対する知識と勘で
こうした方がいいのかもって
何とかやってきたんだ

城が少しでも楽になる方法
城の頭の中の討議討論する
脳味噌の中の奴らが
少しでも解放される方法…

成功するかどうかなんて
毎度のことながら知らん!
ただ何となく
これしかないなと思ったんだ…

駄目なら違う策を考えればいい


あんなことをした後
また留守にしている間に
自分を責めて
大変な事になっていたら困ると
鏡は大急ぎで帰った

城は鏡の思い通りに丁度
片付けられた洗面所で
割れ残ったカガミを見ながら
自分のしたことの悪事を
責め続けていた所だった…

『そんな見たってカガミは戻らねぇって(笑)!管理会社に電話して交換してもらうから。』
『…ごめんなさい。』
『ドライヤーは必需品だからな。無きゃ困る。もう武器にすんなよ?お前も怪我するんだから!』
『はい…。』
『それでこれ、ここに置いておくから。』

No.123

『お前がよく利用する場所。自分の部屋、居間、洗面所に置いておきます!ここは洗濯機もあるし風呂も一緒だから、割と利用するだろ。』

ノートと鉛筆を置いた

『何を書く?』
『何でもいい。お前はいつも1人で頭で葛藤して混線してパンクするんだ。それに、嫌なことを不意に思い出しても吐き出す所がないから、また頭が一杯一杯になる。俺がいつも傍に居て、すぐ聞いてやれたら…それが一番いいんだけど。仕事あるし限度があるからさ…苦しくなって体が動き出す前に、これに書き殴れ。文章じゃなくてもいい。頭の中、心の叫びをそのまま…コピーする努力して…。仕事から帰ったらちゃんと見るから。書いてから時間が経って落ち着いて、やっぱり俺に知られたくないってのは破いて捨ててもいい。やり直しもきくし…それなりに整理も付くだろ?お前の苦悩をしっかり受け止めないと、俺は口先ばかりになっちゃうってのもある…助けるって約束した。暴力からだけじゃなくずっとだからな?だからこれがいいかなって思ったんだ。面と向かって言えないこともあるだろうし。無理して義務的な意識で書く必要はない。どうでしょう(笑)?』

No.124

まっさらなノートと鉛筆を
手に取ってパラパラとめくる城
何も書いてない新品のノート…

『そんなの…そんな簡単なもんじゃないよ。俺の心の悪魔なんて。』

ボソッと呟いて置いた
膝を立てて床に座り込む

鏡はいつもの柔らかい笑みで
城の隣にあぐらをかいて座り
ノートと鉛筆を取って
最初のページにサラサラッと
何かを書いて城に渡す

『返事頂戴(笑)!』

城は読んだあと
大きな瞳で鏡を見返し
少し時間をかけ
ぎこちない手付きで
言われた通り返事を書いた

それを読んで
また何か書いて城に渡す

今度はすんなり書き込み
顔と耳を真っ赤にしながら
鏡に返す…

『うん、こうやって思いのまま書いて。いつもどんな時も、お前の心と頭の中を知りたいからな(笑)!』

頭にポンと手を乗せ立ち上がり
鏡は移動した

城はまた読み直して頷き
最後のページの一番下に
一言メッセージを書いて置いた

洗面所、自分の部屋、居間の
手の届く所に一冊ずつ


鏡と城の心の橋が掛かった

No.125

城へ
俺は今、幸せです!
何故なら
夢がかなったからです
最高の息子、城と共に
最高の息子、城のために
また一緒にこの家で
城が許すかぎり
城が望むかぎり
歩んで行けるからです
これが今の俺の気持ちです!
城の気持ちはどうですか?


鏡へ
鏡といるのはうれしいです
だけどおれの気持ちは
怖いです 不安です
きらわれたくないです
化け物だからです
悪い子だと思うし
だからおれは幸せじゃないです
やく病神かもしれないから
捨てるなら今の内に
捨ててほしいです


息子を捨てる親はいません
息子を化け物あつかいする
親もいません
ここには悪魔はいません!
父さんは城を愛しています
父さんは城を愛し続けます
見ててください
そして愛を学んでください!


鏡はおれの父さん
今日からそう呼びます
父さんは大好きです
それは幸せだとおもいます
おれの気持ちです





おれもいつか
父さんみたいな父さんに
なりたいです
がんばります

No.126



大きな大きな建物に
足場を手早く組んでいく男達

会社のワゴンの隣に
鏡の真っ黒い車が並ぶ

運転席にはボサボサ頭の
痩せて小柄な
15歳に見えない少年が1人

車の雑誌とおやつを広げ
時折身を乗り出し
父と兄の姿を目で追う

ダボダボズボンのスーパーマンの背は
今日も力強く逞しく
そして広く格好良い

おれも早くああなるんだ
沢山食べて体を作って
父さんと兄貴の役に立つんだ

膨らむ夢を胸に
エンジンのかからない車のハンドルを
力一杯握った

働いて金貯めて車も買う
兄貴と約束したからね
おれの車で旅行するって

…仕事を終えて
皆が戻ってくるのが見えた
ドアを開けて城は叫ぶ

『終わった!?』
『終わったぞ!さて帰るか!』
『帰る…?約束が違うよ!』
『嘘だって(笑)。サワ、一式持ってきた?貸せ!』

徹が笑いながら突っ込む

『相当楽しみなんだな。城、心構えしておかなきゃ駄目なことがある。』
『どんなこと?』
『鏡はオッサンだから、これ以上激しい運動すると体力限界で倒れるかもしれない。救急車は119番。覚えておいた方がいい。』
『コラ徹!』

No.127

城と鏡と徹とサワ
4人は河川敷へ向かった

弾かれたように
助手席から飛び降りる城

その手にはグローブとボール
作業着のまま降りる3人

父子といったらキャッチボール!
という鏡の提案で決行

『久々すねぇ。』
『サワ、お前もチビスケが成長したらキャッチボールから入るんだ。ボールで心を交わし合う!男の浪漫ですよ!』
『ウチ女の子す。』
『あ、そ。知ってるけど。』
『早く!』

急かす城を初めて見た

鏡が徹にボールを投げる
素手で見事にキャッチし投げ返す
城がおれに投げてと叫ぶ
今度はサワに放る
サワから徹…徹から鏡…鏡から…

前にゲームセンターで
城のコントロールが良かったのを
鏡は覚えていた

『城!ピッチャーやれ!』
『じゃあ、まずは俺が。』

徹がバットを握り
何度かブンッと振り回す

『言っちゃなんだけど。俺、野球は大の得意だからさ。一発で打ち返すよ。見てろ(笑)。』
『本当に?おれだって小学校の時、これだけは褒められたよ。勝負だ。』
『俺はデッドボールの乱闘だけ活躍した!』


キャッチャーの鏡に狙いを定め
思い切りボールを投げた

No.128

カッキーーーン!

澄み渡る青空に
景気良く響くバットの音

城は口を開けて目で追った
若いんだから球拾いやれと
鏡と徹に外野に回された
サワが全力で走る

徹がニヤッと顎を上げ
悔しそうな城を見た

『一発ホームラン(笑)。参ったか?俺は強いよ。』
『もう1回!』

何度投げても打つ徹
ムキになり出す城

少しは手加減してやれよと
鏡が苦笑いした
そんな甘えは必要無いと
不適な笑みを返された

鏡にバットを渡しチェンジする

『言っちゃなんだけど。俺、野球は大の得意でもないからさ。一発で打ち返せる球、ください(笑)!』
『真似するな。しかも内容情けなくなってる(笑)。』
『よし来い、城!』

徹の手元に狙いを定め
投げつけると
振った鏡の手からバットが抜け
徹に当たった…!

それに加えて城のボールが
バットを交わした徹の腹に
見事命中


…いつもの2人の口喧嘩が
今日も派手に勃発した

No.129

徹は俺から見りゃ
あの話し合いの日のように
機転効いて助かる部分もあれば
こうやって
何かとすぐ突っかかってきて
面倒だなぁオイと思う時もある

今だって謝ってんのにホラ
わざとだろとか…
もうちょいで
頭割れるとこだったとか…
うるさいんだよな(笑)

割れなかったんだから
いーじゃねぇかよ
ダメ?あ、そ!

サワは腹抱えて笑ってるし
城はオロオロしてるし

毎度のことなんだからいいけど
俺もつい面倒くさくなって
ブン投げてやろうと胸倉掴んだら
徹も胸倉掴んできて
お互い身動き取れなくなってさ

お互い引くにも引けず
段々ムキになってしまいまして
更に理性も失いかけてしまい

何だオイ! やるかオイ!

情けないことに
大の大人2人がチョット本気に
揉め合いだして…


チョット本気に
なっちゃいまして…

空気を察知したサワが
警察だ!って叫んだ瞬間
お互い瞬時にバッと離れて
辺りを見回した
条件反射ってヤツだけど(笑)

それが面白かったんだなぁ…
笑いのツボが
よくわからなかったけどさ

No.130

城が笑った


一瞬だったけど

手を叩いて

無邪気に

声を上げて…




俺と徹とサワ
ビックリして城を見たら

自分で自分に
驚いた顔してて

それがまた
妙にカワイくてさ(笑)!






…感動した

No.131

―城の笑顔に乾杯しよう

サワと別れ
鏡の車でバイキングへ向かう3人

初めてのバイキング
開放感溢れる雰囲気と人の多さ
物怖じしながら
鏡と徹の後に付いて歩く城


好きな料理を好きなだけ盛っていいんだぞ。こうやって取っていくんだ。食ったこと無いのもあるだろ?沢山沢山食って大きくなれ!おかわりも自由ですから!

本当に?ここの全部の種類食べても怒られないんだよね?デザートもあんなにある…凄いね!おれ肉食べたい、父さんは?

俺は酒呑みたい!

アンタはメロンソーダで我慢しろ。俺は呑むよ。泊まるからよろしく。

何だよそれ!チョットだけ!な~んてね(笑)!

うん、絶対メロンソーダがいいよ。飲酒運転は駄目だ。事故起こすかもしれないし警察に捕まるんだぞ。

城、言ってやれ(笑)。そんなことしたら父さんクビ!オッサンて呼ぶからな!

うん、父さんクビ!オッサンて呼ぶからな!

勘弁して(笑)!徹調に洗脳されないでって!

だって俺のが信頼性高いし。そうだろ?弟。

ハハッ!うん、そうです兄貴(笑)!

そうですか(笑)!参りました、お二方(笑)!

No.132



背中の鷹は消えたけど
今度は本物の見えない翼が
城の背ではばたき出し
父の背を追い始めました

いつも空腹で
いつも怯え
いつも隠れ
いつも泣きながら
いつも戦い続けた
傷だらけで
痩せっぽちの小柄な少年が

ダボダボズボンのスーパーマン2人に
両側から囲まれ歩く後ろ姿を
想像してください

腹は満たされ
その表情は明るく
堂々とした足取りで胸を張り
満面の笑みを浮かべ
恐怖心を抱くこともなく
あのさ、父さん!ねぇ、兄貴!
と呼びながら
ひたすら望み夢見た通りの
【家族】と共に
新しい人生を歩み始めた
その姿を…

鏡の車の屋根に立ち
バイキングの美味しい香りを漂わす
満足気な3人をアーと威嚇するカラス

アーッ!愛車にフンしやがった!
…と憤慨する鏡と
アーッ!って、アンタもカラスか?
…なんて突っ込む徹の傍で
ダメッ!追い払わないで!
…と飽きる事無く
こいつ意外とカワイイ顔してると
飛び去るまで見詰め続ける
穏やかな表情の城

…誰が想像できたでしょうか


城君
元気ですか?
笑えていますか?
何をしていますか?
今あなたは幸せですか?

No.133

―城の手記(抜粋)―


おれ 笑えるんだ…。

自分の笑い声にびっくりした。父さんも兄貴もサワも、みんな止まってだまっておれを見るから恥ずかしくなった。口に手を当ててふさいでたら、父さんがすごくよろこんで、肩を抱いて頭をグシャグシャにしてきた。

兄貴はまたたくさんほめてくれたね、おれのこと。笑顔最高だね、いい男だ、鏡に似なくて良かったよ、れっきとした俺の弟だって。父さんが意味わかんねぇって、いい男なのは俺のかもし出すオーラ?が何とかって、2人でおれの取り合いになった。それがすごくうれしかったのは一生忘れない。サワがどっちもどっちで中の下って言ったから、2人はサワをやっつけた。面白くてまた笑った。

なんかスッキリしたんだ。笑うっていいね!サワの赤ちゃんは小さくてもたくさん笑ってたから安心だね。

この日は大切な日です。だから書いておくんだ。これからの自分の夢を確認できたからね。

父さんの1番弟子になって家族で働きたいです。そのかせいだ金で、父さん以上の格好いい車買って、家族旅行ってしてみたい。おれが運転するから2人は酒のんでいいんだ。これが今の、これからの、おれの夢。

No.134

父さんは愛を学んでくださいって言ったけど…愛ってやっぱり今もよく分からない。だけどきっと、父さんがおれに対して毎日笑ってくれること、毎日笑わせてくれること、体重見て増えてたら喜んでくれること、色々教えてくれたり見せてくれたり、だめな事をしたらちゃんと時間を取って、納得するまでていねいに話し合ったり。時々、思い出して心がくずれておかしくなって、消えたくなって泣きわめいても、絶対はなれずにそばにいてくれること。ノートにたくさん書きなぐった心の毒をひとつも見逃さなかったことと、一生けん命知ろうとしてくれたこと。はっきりした答えは分からないんだけど、それがきっと愛、なのかな?

城がされたことはどれだけ苦しくて嫌なのか、城が1番わかってるはずだから、人を傷付けて心を悪魔にさせる人間にならないように努力しなきゃなって言葉は、そうだとすごく思ったから、メモに書いておれのベッドの横に貼っておくことにした。


心の悪魔が
時々顔を出して
そいつは強すぎて
どんな方法でも
たおせないよ…

でも
今日は幸せって
思えたこと
前より増えているから
それだけで


今 おれは 幸せです

No.135

―鏡より―

城の笑顔ひとつで俺と徹は、やっと背負っていた物を放り出す事ができました。
俺1人ではまず無理だった…徹の存在。親友でライバルで、こういう事には全く無関心な奴だったのに。いざ目の当たりにしたらショックだったようで…俺の為にって手を貸してくれて。
バイキングから帰って、俺もやっと最高に上手い酒を手にしながら城が寝た後、心から素直にありがとうなって頭下げたら、城よこせと来たもんだから…またもや喧嘩になったことは言うまでもない…。

あ、俺らの話なんかどうでもいいですよね!


作者が城の話を公開した場合、読者の方々は勿論その後の城が気になるでしょう。

虐待によって成長が止まっていた身体は、身長も少しずつ伸び体重も増え、健康そのものの体つきになりました。

性格は人見知りが激しく、心のブロックが崩れ出すと非常に冷静かつ攻撃的で抑えがきかず、冷めきった状態にはなりますが、普段は素直で本当に優しく、俺達慣れた人間の前では活発で声上げて笑っています。よくキャッチボールしようと連れ出され、時々筋肉痛に悩まされたりしたもんです。まだ30代ですけど!

No.136

精神的な問題については、あまり変わりはないかもしれないです。

火や熱湯への恐怖。他人への不信感。傷はだいぶ薄まったとはいえ、やはり全身に刻まれ、適正な治療をしてやれなかった為に痛々しく濃く残った火傷痕を見ては、時折カガミの前で声を上げ崩れ泣くこともあります。多感な時期でもあり、肌を露出し流行のファッションで歩く若者の姿を見ては、部屋に引きこもる。雑誌のファッション部分をカッターで切り刻む。それでも、海に入ってみたいと言うので、暗くなってから連れて行ったこともありました。あの時のはしゃぎ様、忘れないですよ。

あとは恋愛ですね。異性への関心は芽生えるものの、俺以外聞くのも話すのも嫌だと。徹でも嫌がります。祖父からの暴行の激痛に加え、父親に見せられたリアルで卑猥なシーンと音声、言葉の暴力。家庭を持ってみたい気持ちはあっても、その一歩にすら及びません。痛くて気持ちの悪い最低で卑劣な行為と言います。驚いたのは…おれ男?とたまに確認を取ることです。通常、男女によって成されるべき行為への歪まされた認識ではないかと…思うんですが…ですからTVでもそういうシーンが出たら即変えますね。

No.137

変わらずと言うより、酷くなったのかもしれない…どんなに言い聞かせても一時的なもので完全な終わりはない…笑顔の後に見るそれらの姿は余計に辛いですが、本人はもっと苦しんでいると思うと、傍に人がいるからこその甘えでもあるんだと自分に言い聞かせています。城が好きですから苦ではないです。

城の祖父については、シンジの言う通り。1度用があって訪れましたが、城の存在はまるで無かったかのようでした。もう関わらないから、勘弁してくれと。祖母だけです。城はどうですか、いざという時、シンジは連絡つきますかと聞いてきたのは。

父親シンジ。孤独な彼には何か伝わったのか仕事に対する姿勢も変わり、支えてくれる人が出来たとかの話は聞きました。城の存在や虐待した事全てさらけ出すと、相手も受け止め気も楽になったと。再婚はまだ頭に無い。城が望まなければ会うことはしないと誓った彼の精一杯の償い…城の将来の為の積み立だそうです。いつか会えたらこの金で許してではなく、自由を奪った分、自由を楽しむ自分の為に使えと言うんだと…それでもいいんですよ。彼は変わった。城本人がどう捉えるかは全く読めないけど、城なら…ね。

No.138

そして、今日まで城は1度も父親に会いたいと言った事は無いです。だけど、気にはしていた時もありました。

シンジはまだあそこに居る?
シンジは働いてる?
シンジは反省してるのかな?
嫌いなのにあいつの事を考える
すごく苦しい!なんで!

祖父母に関しては、ノートにすら、やられた事は書かれても名を上げる事や存在を醸し出すような事は何ひとつ無いです。

仕事。一度だけ夢を叶えさせました。ヘルメット被せて軍手履かせて、簡単な事を手伝わせて。上にはあげてやれなかったけど、必死に出来る事やってました。呼べば、はい!はい!って(笑)。まだ筋肉すら無いのに…板すら持ち上げられる程の力も無くて当然なのに…それが悔しかったのか、筋肉付くまでは行かないって、この日以降、誘っても1人で行けば!って怒られましたね(笑)。

城を手離したくない。でも心に変化が起きて、シンジも確実に問題無いようなら、理想の家族から本当の家族に戻るのもいいかなって…徹と話しています。俺達の承諾得る為のチェックは非常に、厳しいけどな!

No.139



鏡の家に家族3人が揃う

いつもと変わらない
鏡と徹の漫才みたいな喧嘩と
それを見て騒ぐ城の声が響く


ベランダには
鳥が大好きな城が
鳥を毎日近くで見られるように
パンを細かく刻んで箱に入れた
専用餌場

今では見なくても
雀の絵を上手に描けるように
なったらしい


城の部屋―

机の上には
積み上げられた車の雑誌と
お気に入りのサングラスとキャップ
新品のグローブとボール

ベッドの脇には
父の教えが1枚と
父の1番弟子として
初めて働いた現場で
3人揃って撮った写真が1枚

大好きな父と兄に
両側から肩を組まれ
お揃いのヘルメットと軍手で
ピースしている笑顔の城…


鏡の部屋―

車の雑誌が詰まってた棚は
すっかり城に持ち出され
今はただ空っぽで寂しい棚

いいモン見つけたから
お前にやると城に渡すと
おれ新しいのがいい
買って!と即断られ
寂しげに放置されたままの
昔使ってたボロボロのグローブ

ベッドの脇には
誕生日プレゼントが1枚と
その隣りにもう1枚…

No.140

父さんへ

今日は父の日です
いつも働いてくれてありがとう
おれからのプレゼントです
父さんからもらった
小づかいを貯めて買ったから
うれしくないかもしれないけど
このタバコを吸って一服して
このビールで疲れをとってね!

おれね、そういえばって
思い出したんだけど
城って呼ばれるの怖かったのに
今はもう怖くないんだ
不思議だね!
そうやっていつも見てください
おれも父さんをアイしています

虐待はたくさんあるのに
赤ちゃんや小さい子も
命おとしたりしてるのに
おれだけ助けてもらって
今、幸せだなんて思って
ひきょう者です

だけど
父さんが教えてくれたこと

苦しくて嫌なことは
おれが1番わかってるはずだから
人を傷付けて
心を悪魔にさせる人間に
ならないように努力すること
誓います

おれみたいな子がいたら
父さんや兄貴みたいに
声かけて何とかしてあげること
できたらいいな!

がんばります!





        ―完―

No.143

―後書き

読者の皆様、本編完読心よりお礼申し上げます。あまり長々と綴るのもどうかと思いながら結局は長くなりますから、遠慮なく長々綴らせて頂きます。

【当事者と作者】
気にされてる方、多かったですね(笑)。私が虐待について関心を示していた頃、よくあるパターンですが、私の知人と全く似た雰囲気の方に某サイトで知り合いました。徹(仮名)。一見クールな感じですがどこかユニークで、虐待に関する話題に触れた時、私の安易なイメージの押し付けから彼の逆鱗に触れてしまいました。やたらリアリティ溢れる話から、自分の過ちを反省しつつ少し詳しく聞く内に城(仮名)と鏡(仮名)の存在を知り衝撃を受けました。ですから私は、城でも鏡でも徹でもサワでも通行人でも鳥や虫やそよ風さんでもありません。しがない一般人です。

No.144

【小説と作者】
徹から城の話を聞く内にひとつの物語が漠然と組み上がっていきました。虐待に関心が高まりつつある今の時代だからこそ、あえてひとつの物語として公表することにより、特に虐待について無知な人々、育児に悩む人々、加害者に訴えかけられるものがあるんじゃないかと思いまして、彼に説得を始めました。徹は勿論…交渉決裂。城を晒すなと。そう思っても仕方ないですね。私は専門家でもプロでもないですから、ひとつの小説として上手く最後まで書き上げるなんて保証すらありません。下手すると、本人達のプライバシー全て暴露しかけません。ただ、暑苦しい思いだけは通じたのか、たまたま私の地元に鏡が訪れる機会があるからと、話を通し紹介してくれました。城の保護者の判断に任せると。ある程度徹から聞いていた為か、初対面でも彼は少しばかりの資料を持参して来てくれました。城の生の筆跡のノートと、1枚の写真。ノートは本当に生々しく、心の思いや叫び、怒り、細かく書かれていまして…更にショックしか受けなかった。目が大きいのが印象的で、可愛い…の表現が似合った男の子でした。徹の顔もその時初めて知りました。

No.145

鏡は2日ほど滞在する予定だったので、そのノートを拝借して一部を小説風に書き換えてみました。帰り際にノートを返す時、共に渡し返事を待った所、リアル過ぎる気もするけれど読みやすい…という言葉を頂きました。鏡は城の人生を公表することに、大きな躊躇はしなかったようです。何故なら、いつだったか城がたまたま虐待に関する記事を呼んだ時、「おれはこういう事されて、こうなった。虐待はこんなひどいことなんだぞって言えたら、無くなるのかな」と言っていたからだそうです。そこで今回、何気に「もしもお前の人生が小説となった場合…勿論、仮名使ったりして俺達だって世間一般的には分からないように上手く作り上げて、虐待の真相を知ってもらって大勢の人に考えさせたいって話が来た場合、どうする?」と聞くと、「本当に俺だってみんなに分からないならいい、それで小さい子どもが虐待されなくて悪魔も減るならいいけど、おれは読みたくないし関わりたくない、そういう話もききたくないから、やるなら父さんが勝手にやって」と言うのが答えだったそうで、お互い試してみることにした…というのがきっかけです。

No.146

【城と鏡と作品】
非常に取り留めのない文章になりますので淡々としか語れないことを許してくださればと思います。㍊は鏡に、ならやってみ!と言われ、あらゆるデータや証拠品を預けられました。自ら挑戦しようとして、初めて失敗したと感じた瞬間です。1人の少年が隠し通してきた人生を託されたのですから。データや証拠品を触れる事に恐怖すら感じ、執筆の方向性すら見失いました。でも万人に伝えなければ…それだけです。ペンをとる気になれたのは。

その時に約束したこと。

①当事者または関わったこと(現場仲間や所在地等)全て一切のプライバシーを暴露しないこと。
ですから、ノンフィクションをもとにと言っても多少特徴を変えたり手を加えたりはしてあります。例えば、現実にたまたま会った人の体を見て、その傷痕…君は城なのでは?と言うようなことがあったとしても、それは無いと。そこは何より大切な部分ですので。勿論、ご了承くださってると思います。

No.148

②出来上がった作品を公開前に必ず読ませて欲しい。
要するに鏡の添削を通すこと。当然ですね。ド素人の凡人が作るのですから、様々な危険性や不安要素盛り沢山です。それなりに話を繋げザッと完成させ、鏡のもとへ送り付けること数回。駄目だリアル過ぎる、いやここはその方が…徹も加わって目を通し。ほぼOKで感心の言葉を頂きました。データだけでは足りない部分、削除するべき部分、こういう意図じゃない、この時はこうした、ああいう意味だから、こんな状態だったと律儀に片隅にメモして返してくれたり。それを足したり引いたりして書き直し。城の細かい心理描写はノートからですね。話し合い前日に鏡と徹に泣きながら渡したノート。あれがメインです。本編では1冊ですが実際は3冊に細かく。本編の内容量に合わせてあえて1冊にしました。と、いう流れが事実をもとにしたノンフィクションですという経過です。

No.149

③PC・携帯・本等、掲載する場所は作者の自由だが感想については直接目を通したくないので作者が集約して通知して欲しい。
これも当然かもしれません。「城に対して行った事が必ずしも正義だと言える事ばかりではないはず。正直万人の目に晒すのは怖い。ただ知りたい。虐待を知らない人、または何か迷う気持ちに城の叫びがどう届いたか。俺達はただ城1人の為に、城が笑う為に必死だっただけ。結果城にとってはこれで良かっただろうけど、非難を浴びて当然の内容かもしれない。浴びてしまうと今現在城と自信持って向き合い続ける気持ちに迷いが生じてしまうから、お互いを知らない世界での大した規制の無い掲示板には関わらない」この言葉だけで理解頂けると思います。彼等が望んでいるのは、城の話を通し虐待という行為がどれだけ非道で、それについてどう感じ心の中で何を思いましたかという点です。

No.150

…と、ここまで書き込みましたが。あとは答えられる範囲で答えたいと思いますので、感想・雑談スレへお願いします。

また、感想へのレス優先していってます。遅れ気味ですが(汗)。これは作者個人の勝手な意思ですので、ヤメナサイと言わずただ読んで頂ければ幸いです。

質問はこちらかそちらのスレで返事しますね。

あ…
急かさないで下さい(笑)。
苦手です。
できるだけ頑張ります。
無理だけは致しません。


誓います。

No.151

今現在、沢山の感想や意見が寄せられ、集約しながら思うことが色々ありました。感想スレでは何度か述べていましたが、改めて話したい事がありまして。

このミクルに掲載した小説は、実際立ち上げたものから部分抜粋したいわゆる未完成版です。

皆さんから寄せられた感想や意見をまとめ、当事者達に送付し許可が下れば完全版としていずれ別サイトにて公開したい次第です。その際、ここでの【NO TITLE】とはまた違った話の繋ぎになる所も多々あると思います。携帯小説版として変換していますので、文体も変わり、こちらで慣れた方には読み辛い状態になるかもしれません。ご了承下さい。

感想スレは様子を見ながら⑦で終える予定です。感想に対する返事が⑦で終わらなかった場合は⑧も有り得ますが、まだ定かではありません。

とても御礼の申しようがない程に読者様の気持ちを受け取りました。本当にありがとうございました。集約作業が追いつかない状態です(笑)。

城の勇気、鏡の強さ、徹の優しさが【虐待】にまつわる全ての方の心に届き、これからも何かしら絶大な力となって1人でも多くの親の皆さん、子ども達に素晴らしい笑顔が戻ることを切に願い続けます。

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