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高熱だと知り長時間放置
彼氏と分かり合えない。納得できない
🍀語りあかそうの里🍀1️⃣0️⃣

NO TITLE②

レス153 HIT数 130640 あ+ あ-

㍊( wPNK )
11/07/14 22:35(更新日時)

本編満レスとなりました。
長々とお付き合い頂き心から感謝致します。
引き続きどうぞ宜しくお願い致しますです。

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No.1361298 10/07/03 01:55(スレ作成日時)

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No.1 10/07/03 21:15
㍊ ( wPNK )

数日振りに帰宅する父親

力無い体を起こし
城は部屋から出る

『父さん、おかえり。どこ行ってたの…?』
『あー勝手にごめん!仕事…うん、仕事忙しくてさ(笑)!風邪治ったか?』

顔も見ずに着替えながら言う

『少し。自分で熱下げることやった…でもやっぱりだるいし咳抜けない。どうしたらいい?』

そこで男は城を見る
そしてギョッとした顔

『何、お前…誰かと思った。城?随分痩せたな。飯は?』
『食べてない…ずっと食べてないよ!水とか氷とかマヨネーズ…食べた。お腹変になりっぱなしだ。お腹空いた…もう食べてもいいだろ!』
『何怒ってんの?食えば良かったろ。冷凍庫にあるのに。』
『説明読んだら火使うやつばかりだ…どうしていいかわからなかったよ!』
『だから前に火の使い方教えたのに逃げたのお前だろ!その歳で肉も焼けないバカお前くらいじゃねー?人のせいにすんな!』
『…。』

だって…
そうなったのは…
お前達のせいなんだ…
そう思ったが言わずに抑える
憎悪感が膨張する…

『しゃあねーガキ!今買ってきたので何か作るから待ってろ。ホラ薬!会社から持ってきた。』

城に向かって投げつける

No.2 10/07/03 21:48
㍊ ( wPNK )

憎悪感が治まる
ご飯作ってくれるんだ
薬も持ってきてくれた

今日はちゃんと父さん…
今、俺…我慢して良かった…

何作ってくれるんだろう
それだけで
また少し嬉しくなる

具合は良くないが
本当にそれだけ…
それだけのことで
ドロドロの気持ちが無くなる

『父さん。』
『あ?』
『学校はどうなった?先生とか何か言ってた?知ってる?』
『実家に何回か電話来てたし校長だか教頭だかも1度は来てたらしいけど。後は知らね。もう行っても無駄なんじゃないの?』
『俺、卒業した?』
『何も言ってこないし、したんじゃね?』

それを聞いて心底喜んだ

やった…!
ばあちゃんは卒業したら
どこでも行けって言った!

先輩は中学卒業したら
稼ぎのいいバイト
紹介してくれるって言った!

いつだったか忘れたけど
鏡も中学卒業して
体がしっかりしたら
弟子入りOKって
言ってくれた…!

大人に近付いた!

『風邪治って体元気になったら働いてもいいだろ?』
『働く?どこで。』
『鳶になるよ。』

男は笑った

『鳶!?何がいいんだあんな低脳職!』
『テイノウショク?何?父さんは仕事何?』

No.3 10/07/03 23:47
㍊ ( wPNK )

『店長さん(笑)。鳶ってアレか、鏡って奴の仕事か?』
『…そう。』
『なれんの?その体で?』
『なるよ。約束したんだ。夢だよ。』

炒飯を渡して
城の横に座る
何となく空気を読む

『俺鏡って言ってない…。』
『あ、そ。』

黙々と炒飯を食べる
ひとつどうしても聞きたい…
どうしても…
自分が掛けた電話
それに対して鏡が
何て言っていたのか

『何て言ってたの?電話。』
『誰。』
『…。』
『あいつか。』

頷くと
笑って顔を覗き込む

『城は元気かって言うから、引っ越したけど元気ですからご心配なくって言ったんだ。そしたらな…ここだけの話、手が掛かって大変な子ですよね、でもそれなら良かった、実はリストラ…失業しました、城に合わす顔ありませんから、逢いに来るって言っても止めてくださいね、だとよ(笑)!』

スプーンを落とす

嘘…
嘘でしょ…
失業って
仕事無くなったの…?
逢いたくないって…?
徹は?
どうするの…これから!

その反応を見てほくそ笑む男

『夢もヘッタクレもねーな。残念でした。逢えないとさ!景気悪いし可哀相にな(笑)。』

城はすかさず言い放つ

『笑うなら嘘だ!』

No.4 10/07/04 00:15
㍊ ( wPNK )

『鏡がそんなこと言うはずない!父さんの嘘だ!笑って言う所じゃない!』
『知らんって(笑)。』
『電話貸して、お願い!鏡と話せばわかるよ?』
『いいから飯食えば?』
『要らない!お腹一杯だ!残してごめんなさい…鏡と話したい、1度だけでいいから、電話貸してよ!』

しがみついて懇願する城
あまりの剣幕に引き
男は突き放した

『だからキョウキョウうるせーって!お前みたいな汗臭いのなんか本当は嫌だったってよ!残すな、食え!』
『鏡はそんなこと言わないんだ!父さんの嘘だ!嘘つき!嘘ばかり!』

癇癪に変わる
慣れてない男は
目がつり上がる…

『せっかく作ってやったのに…キョウキョウ黙れ、全部食え!』
『ずっと食べてなかったからもうこれで充分だ!鏡に逢いたい、逢いたいよ!話したい!』

男は城の顎を片手で掴み
無理矢理口を開けさせ
炒飯を突っ込んだ

男の腕を外そうと
両手で掴むが当然無理…

止まない咳が出て
口から出る

『汚ねぇな!』
『父さんが悪い!入らないって言った!』

一応手だけはあげないように
我慢していたが
もうどうでもよくなった

城の顔を思い切り
叩き倒した…

No.5 10/07/04 00:55
㍊ ( wPNK )

痩せっぽちの軽い城は
テーブルに倒れ込み
過去の恐怖が蘇る

男はヤクザみたいな口調で
起こしては殴る

顔を庇いながら
城はしっかり聞いていた

勝手にヒトんちの事情に
首突っ込んできやがってよぉ
虐待だの騒いで
掻き乱しやがって
偉そうに謝罪しろだの
証拠撮っただの
ウザい野郎の何がいいんだ

誰が渡すか
父親面して正義ぶって
上手くお前洗脳して
俺が父親失格とか植え付けて
ヒトんちのガキを
自分のモンみたいに

態度が気に食わねー絶対渡すか
お前を更にバカにしたのは
あいつだ
泣きベソの甘ったれ坊主がよ

分かるか城
お前はちゃんと
家のことやってりゃいいんだ
あいつがどうこうとか
俺に逆らえばこうなんだよ!
いいな!こうだ!

背中を何度も踏みつける…
怯えて咳き込む城は

咄嗟に外に逃げ出した

逃げ出したが…
ここは街中…
人通りと車の多さにパニック
見られたくない恐怖心

ましてさっき
臭いと言われたばかり…
通行人と目が合う
小汚い物を見るような目…

すぐ階段を上がり
部屋に非難した

理性の飛んだ男は
そこですぐ引き入れ
鍵を掛けた…

そしてまた…

No.6 10/07/04 02:01
㍊ ( wPNK )

徹は昼前にタクシーを呼んで
現場からそう遠くない
城の祖父母の家へ向かった

今日は運良く場所もいいし
もうこの時間しかないと
現場を抜けられない鏡が
昼休憩より少し早めの時間に
徹を切り上げさせて
向かわせた

この時間なら爺さんも
仕事で居ないだろうし
旅行からだって帰ってるはず

徹はタクシーを降りて
祖母を呼び出す

『はい?』

…居た!
ドアチェーンを掛けたまま
徹の姿を見て警戒する

『こんにちは。』
『…どちら様?』

ハッとして頭のタオルを取る

『失礼。前に神崎と一緒に話し合いに来た梶谷ですけど。』
『梶谷…あぁ、まぁ…どうなさいました?』

チェーンを外し玄関へ入れる

『俺近くで仕事中抜けて来たし、時間無いんで単刀直入に言います。城君が引っ越した先の住所教えて欲しいんですけど。』
『それは…。』
『じゃあ市内か市外か。』
『…。』
『口止めされてる?』

祖母はニコッと笑い返す

『口止めと言うより…本人ではないので私達…シンジが直接連絡すると言ってましたので、まだなら何かあるでしょうからお待ち頂けます?』

徹は祖母の目を見た

『待つ理由は無い。知ってるんだろ。』

No.7 10/07/04 08:34
㍊ ( wPNK )

『そんな警戒しなくても元気なのかどうなのかの確認するだけ。大体でもいい。教えてくれます?』
『…それならシンジの電話から…何も家まで行かなくても…。』
『この前言ったこと、覚えてないとは言わせない。自由に鏡の家と行き来できるようにするって話。どうなの?』

戸惑い始める…

『どうなのって、そういう話は夫でないと…。』
『神崎が来ただろ?あいつに断られた。だからあなたに話付けに来た。俺達がここまでするのはね、城君がどう受け止めようと、神崎も俺もあなた達を完全に全て許した訳じゃないから。虐待されて心に傷を負った子が、虐待した奴と2人きりで過ごして…本当に幸せに今過ごせているのか、心配するのは当然。首突っ込んだ俺達が機関に頼ってない分、ちゃんと見届けないといけない責任もある。それは理解してくれますよね?』
『それは…ええ…。』
『あなた達も虐待行為認めて反省したなら、城君が安心して暮らせる環境を作るのに協力するのは当然、むしろ義務だ。シンジさんのあの性格だって流石に親なら分かるだろ?』
『でもちゃんと…可愛がってる様子で…城も父さん父さんって一緒に買物行ったりしてましたから。』

No.8 10/07/04 11:11
㍊ ( wPNK )

『あなた達が見てるから、居るから、表向きなだけだったら?あいつは最近まで、実親に実子を自分の子じゃないなんて隠し通して来たんだ。あの話し合いが無かったら一生事実を知らずに墓行きだったんじゃないの?それでもシンジは間違ってない、良いことをしてる、あいつの下で孫は過去に怯えること無く絶対幸せだなんて言い切れる?』

少しずつ納得していく様子…

『他にも調べる手段はあるけど、手間。すぐ知りたい。ついでにあなた達の今現在の考え方も知りたかったから来た。鏡からイワオさんのこと聞いてどれだけ口ばかりの男かってのよーく分かったし。これで拒否なら反省の色もあったもんじゃないけどね。本当に一目会いたいだけなんだ。教えて下さい。市内?市外?県外?』
『…市内…です。車で20分くらいの…。』

徹は紙とペンを取り出し
ハイ、どうぞ!と
メモの準備をすると
玄関が開き
祖父が入ってきた

徹が挨拶をしてペンを構え直す
何となく察知したのか
割って入る…

『前に神崎さんにも言いましたが、本人達の問題なのでそこまで言う必要ないですから。』

ペンを乱暴に置き
祖父を睨んだ

No.9 10/07/05 02:34
㍊ ( wPNK )

『本人本人って、この前何を見て聞いて反省したワケ?』

今祖母に言ったことを
再度祖父にも言ってみる

納得はするものの
頑として言わない祖父…

『仕事を抜けて昼飯を食べに来たので…時間がありませんからこれで…。梶谷さんの言いたいことはよく分かります。孫が我々の家庭を選び息子もそれに応じた。もう1度父親としてやるべきことをやると出て行きましたから。大丈夫でしょう。次戻って来たら、神崎さんに連絡したのかと聞くくらいはしておきますから。』

そう言って閉め出された

『クソッ…邪魔しやがって!』

もう1時…
徹も戻らなければと諦める

でも昼飯食いに戻ったなら
すぐ出て来るかもと
隠れて様子を見た

1時半…出て来ない

悔しさを残したまま
鏡に電話を入れた

今日は諦めよう
そこまで押せたなら
次行けばきっと言うから
戻って来い

そう言われて
渋々家を後にした…

No.10 10/07/05 03:13
㍊ ( wPNK )

戻って来た徹の不機嫌な様子
鏡は動きながらなだめる

『でもこれでミッチャンなら居場所吐くって確信持てたしな!』
『この俺があと一歩であのクソオヤジ殴りそうだった。』
『お前冷静にキレてヤるから…怖すぎるからやめてくれ(笑)。』

仕事終わってからだと
祖父もいるだろう
明日の現場の場所もまだ未定

『徹、俺明後日から2連休貰えたからさ、今度俺が行く。』

とりあえずは市内
あの家から20分程度の
近い場所だって
それを知っただけでも
安心だった

そして
嘘をつかれたことから
自分と城が
接触しないように
警戒していることも
確信出来た

自分に対して
何か面白くない感情を
ずっと抱えての行動…

それが城に被害を
与えていないことだけを
ひたすら願い続けた…

もうすぐ逢える

No.11 10/07/05 08:17
㍊ ( wPNK )

>> 10 『父さん…父さんやめて!痛いよ…死んじゃう!』

泣きながら父と呼ぶ
バカシンジなんて言えば
更に酷い仕打ちになるから…

布団にくるまって
少しでもダメージを減らす

城のボサボサの頭を掴んで
顔を近付ける…

『城…これは虐待か?』
『…わかりません…。』
『誰がどうしてこうなったんだ?なぁ?言え!』
『…俺が…鏡って沢山言ったから…言うこと聞かなかったから…です…。』
『ならこれは虐待か?躾だよな?お前が悪いんだもんなぁ!』
『…っ。』
『あ?聞こえねーよ!』
『し、シツケです…痛い…離して…父さん…ごめんなさい…。』
『熱湯とタバコ…。』
『嫌だ!!』
『聞け!熱湯とタバコはやらない。それこそ後が面倒だしよ!』
『…はい…はい…。』
『大人しく料理洗濯掃除…家事やれ。ちゃんと言うこと聞けばこんなことしねー。』
『…火とお湯は怖いんだ…どうしても…ごめんなさい…。』
『じゃあ食うな。俺は勝手に食べる。お前は冷蔵庫から自分で自分の分食え。材料は適当に突っ込んでおくから。出来なきゃ食うな。キョウキョウ言う前に自分のことやれや。いいな!』
『…はい…。』

No.12 10/07/05 12:20
㍊ ( wPNK )

父さんは悪魔だ
言うこと聞いても
一緒にいても
何ひとつ変わらないんだね…

ちゃんと父さんになった時
服買ってくれたり
ご飯作ったり
薬持ってきてくれたのは
凄く嬉しかったのに

どうして鏡が嫌いなの?
鏡は正しいこと
してくれたんだぞ

テイノウショクが何か意味知らない
でもバカにしたのは
間違いないだろ

父さん見ろよ
せっかく治りかけたのに
傷が薄くなってきたのに
また血で汚れる…
顔も…痣だらけ…
骨は折れなかったけど
無理矢理引っ張るから
捻って腫れてるし
本気で殴っただろ…
鏡をバカにしながら…

そんなに鏡が嫌いなの?
俺が鏡大好きって
沢山言ったら
きっともっと怒るね

死んでもいい
どれだけやれば
どこまで酷いことやるか
試したくなってきた

死んだらお前が犯罪者
TVや新聞で有名人だろ
そして
お前とお前の親
ずっと気にしてた世間から
白い目で見られるようになる
それ1番辛いだろ?

面白い方法見つけた(笑)
それで一生胸張って
生活出来なくなるなら…

俺も悪魔になります

鏡には頼らない
でも最後に1度だけね
声聞きたい

ちゃんとありがとうって
伝えます…

No.13 10/07/05 14:40
㍊ ( wPNK )

眠りから覚めた城

もう部屋も薄暗く
父親は仕事に行った様子

体を起こす
血と痣と汗と涙で
自分も布団も汚く臭い…

『汚い…でももうシャワーはいいんだ…どうでもいい…どうせ綺麗にならないし。』

部屋を出ようとした
その途端
胃液が逆流して
食べたばかりの炒飯全て
布団の隅に吐き出した…
血も僅かに混じって…

完治しない風邪
そのまま咳込んで
薬を手に取ったが
自分の嘔吐物に捨てた

『いらねぇ…こんなの。』

居間に出て
表通りに面した窓から
通りを見つめる…

どうしてみんなは
綺麗なんだろう

ずっと見ていた中
お洒落な私服で
笑いながら歩いて行く
見覚えのある女子…

あれは…ユウナとミクとサエコだ!
城は窓に張り付いて
無意識に叫ぶ

『ユウナぁー!!』

また見付けて!
また助けて!
でも情けなさ過ぎるから俺…
気持ち悪いから…

あの時はありがとう
空腹が満たされて
一時でも幸せだったから
感謝してる

ユウナ ありがとう
先輩 ありがとう
さようなら…

ニュースになったら
思い出してね俺のこと

ユウナ達を見ながら
声を上げてまた泣き続けた…

No.14 10/07/05 17:40
㍊ ( wPNK )

日も暮れて
城の部屋の電気だけが灯る
1人で呟く

『父さんが傷付く方法…知ってるよ。』

紙を何等分かに切り
ペンで10枚くらい
腫れた指でぎこちなく
一生懸命丁寧に何かを書く…

キッチンにあった小箱も
隣に置いて
その表にも書く…


【お父さんへ】

幸せそうに笑う自分の顔と
優しく笑う父親の顔を
表に描いた


見た目はいい感じ
何だろうって期待を持たせて
開けたら中身は…

『…よし。出来た。強い鏡が泣くくらいなんだ。優しい鏡が傷付くくらいなんだ。俺が沢山殴られて死んだら、見える所に置かなきゃ…。』

部屋を見回すが
隠す場所が無い…

とりあえずはここでいいかと
積み重なる服の下に隠す

『楽しみだ!』

死んだら魂になるらしい
そしたら
あいつがこれ見付けて
傷付く所見られるかな…

魂になったら地獄行き
俺はこんな悪い息子だからね

『徹に聞きたかった。俺の兄貴。死んだら本当に魂になれるか…魂にならなかったら…あいつの傷付く顔見れないだろ…。』

布団の隅で孤独な子猫の様に
丸まった

明日は家事しない
いっぱいいっぱい
怒らせなきゃならないから…
おやすみなさい…

No.15 10/07/05 20:24
㍊ ( wPNK )

鏡は人差し指を立ながら
両手を組んで目を閉じていた

『…何やってんの?』

徹が冷たい視線で
鏡の行動を咎める

『念。』
『…何?』
『念を送ってんだ。城チャンに。届け~届け~俺のラブコール!』
『呑み過ぎじゃないの(笑)。アンタからのそんなコールごめんだって!余計離れる。』
『そう?んじゃ、やめよ。』

ここは徹の家
一旦家に帰ったが
城が居なくなって
募る寂しさに負け
珍しく鏡から押し掛けた

『ハァ…あ~あ。』
『今度は何だよ(笑)。』
『さっきボス(社長)から電話来てさ。連休削ろうとしやがるから、削ったら覚えてろハゲ!って切っちゃった。』
『ホント頭弱い。ハゲ気にしてんのに。終わったな。リストラ、いやクビだ。おめでとう(笑)。ホームレスのが合うんじゃないの。』
『そうかな?差し入れ待ってるから!でも仕事が邪魔だ…。』
『城君に逢ってから変わったよな。仕事が邪魔なんて。』
『元気かなー。またクラクション鳴らすか!』
『場所のメドも無いのに!通報されるだけだ。1人でやれよ。』
『冷たい子。』

いじける鏡と城を比べる

『賢いから…ヤバかったら上手く逃げる気もする。』

No.16 10/07/05 20:58
㍊ ( wPNK )

『お前今、俺と比べて城が賢いからって意味で言ったろ!』
『何も言ってない。思っただけで。』
『あーそう。てか、逃げれないかも。呼ばれてる気がする。』
『意外に爺さん達の言う通り上手くやってるかもしれない。』

鏡はビールの缶を
ゴミ箱に投げ入れた

『有り得ません。俺を呼んでる!きっと戻りたいってベソかいてる!あんな男…。』

幸せだなんて認めない
俺があそこまで元気にした
俺を忘れて連絡よこさない…
そんなのは有り得ない!
きっと何かある
あの男のことだ…!

黙り込んで
表情が変わる鏡…

『でもさ…本当に上手くやってたら…幸せそうならいい…けど俺…素直に喜べねぇよ…なんだこれ…この気持ち…。』
『ヤキモチ。』
『言うなよ!お願いだから徹サン!あんな男に誰がヤキモチなんか!ヤキモチなんて!』

分かりやすい奴と笑いながら
徹はタバコを手に取る

『アンタ達お互い城君を手元に置きたい同士だから。向こうの理由は知らないけど。』
『お前も逢いたいだろ!』
『勿論(笑)。ま、明後日には場所分かるし逢ってからだ。焦るなよ。』
『そうだな!考えても仕方ないか(笑)。』

2人は話題を変えた…

No.17 10/07/05 21:47
㍊ ( wPNK )

翌朝
目を覚ました城は
顔や体の痒みが気になった

顔洗ってないし
風呂入ってないからだ

ボリボリと背中をかくと
ビリッと痛みが走り指を見る…

伸びた爪には
剥がれた瘡蓋と血…汚い!
体の匂いを嗅ぐ…臭い!

『いい感じ。』

これならまた汚い臭いって
もっともっと怒る(笑)

居間を見渡すと綿ゴミ
洗濯物が沢山散乱

『もっともっと…。』

怒らせる方法を考える
冷凍庫を開けて
食品を全てシンクへ放り
水でグチャグチャにする

何だか楽しくなってきた

男の部屋を開けて
衣服の山に立ち小便

『早く帰って来いよ!』

心の準備は出来ている
悪魔の息子が悪魔になって
その息子がまた悪魔
面白いだろ?


もっともっと
滅茶苦茶にしてやるつもり…
だけどすぐ具合が悪くなる

部屋に戻り
また横になった

たった今やったことを
思い出してみる

怒るだろうな…
凄く…凄く…
どんなことしてくるかな…
熱湯?火?

震え出す…

死ねるよね?
鏡に最後にお礼言うには
どうしたらいい?

鏡…鏡…
強いでしょ?俺…

だけど本当はね…
凄く…怖い…

怖いよ…

No.18 10/07/06 01:22
㍊ ( wPNK )

昼を過ぎても男は戻らない
城は苛々していた

こういう時に限って
…また?

居間のソファーに座って
TVを見て待つ

見覚えのあるミュージシャン
サングラスをかけた雰囲気が
何となく徹を思い出させる

『徹も大好きだった。声聞きたかった。』

もう3時…
父さんが帰って来たとしても
少ししたらまた
仕事に出て行く時間だ

階段から誰か上がる音…
玄関の鍵を開ける音…

帰ってきた…!
城の手がまた震え出す
最後の時が来た…!

男は居間に入るなり
城の姿に驚きながら
スーツを脱ぎ始める

『びっくりした…珍しいな、こんな所に。』

部屋も見回さず
スーツから財布や携帯やら
テーブルに全て置き
急いでシャワーを浴びに
浴室へ入ってしまった

『ちゃんと見ろよな…!』

部屋の汚さも
溜まった洗濯物も
キッチンの酷さも
汚くて臭い俺も…

ふてくされてTVを見る
ふと携帯電話が目に入った

『鏡…!』

すかさず手に取り
番号を押して掛ける

使ったら分かるらしい
鏡と話するには今しかない!

プルルルル…と
何度も虚しく鳴り響く
呼び出し音…

鏡…出てよ…!
最後なんだ…!

No.19 10/07/06 01:56
㍊ ( wPNK )

休憩無しで動く男達
どこからか音が鳴る…

『ん?音…鏡さんの携帯じゃないすか?』
『あ、俺か(笑)?ボスじゃねぇだろうな…。』
『ハゲ呼ばわりはマズかったすからねぇ。』
『脅すな(笑)!怖くねーしあんなの!』

軍手を脱いで
胸ポケットから慌てて取り出す

番号を見て表情が変わる…
あの野郎から…?

『…はい?』

警戒して低いトーンで反応する
男だと思ってたのに…
これは…懐かしい…城の声!

『鏡…鏡ですか?』
『城…?』
『鏡?俺…うん城です…!』

胸がジワッと熱くなる
思わず声を張り上げた
動揺して言葉にならない

『城!!どっ(どうして)…バッ(バカヤロウ)、なっ(何してたんだ)…!』
『何?』
『いや…(笑)。元気かよ…!家か!?』
『うん、仕事?徹もいる?』
『いるけど傍にはいない。引っ越したってか!?どこだ?住所言えるか?』
『ワケ分からないまま…気付いたらここに引っ越しだったよ。住所分からない…ごめんなさい…人も車も沢山あって…外出られないんだ…。』
『そうか…街の方だな!心配してたんだぞ、徹と!どうして連絡してこねぇんだよ。』

No.20 10/07/06 02:26
㍊ ( wPNK )

『携帯貸してくれない…鏡って言ったら怒るし、悪魔だ…。』

その一言で不安がよぎる

『殴られるのか!?もしかして、また酷いことされてんじゃねぇだろうな?俺の城によ!』

鏡のその言葉に涙が出る
されてるよ…でも言えない…
言った所でもう遅い…

『…大丈夫。ちゃんと父さん…だ…。今シャワーしてるから…勝手に掛けたんだ。鏡と話したかったから…良かった。』

様子がおかしい
鼻をすする音…か細い声…
お前…泣いてねぇか?

『何された。』
『…されてない。』
『隠すな。声で分かる。』
『悪いことしたら怒られるだけ…それ以外…大丈夫。』

どうして嘘を付くのか
もう自分でも理解出来ない
助けに来てって言えば
それまでなのに…

『窓から見える看板教えろ。何でもいい。言え!』
『…。』
『また捜し出して見付けてやっから、言え!!』
『…決めたんだ。鏡…お父さん…ありがとう。徹にも言って…兄貴に…ありがとうって…。』
『何が!!いいから言えよ、城!変だお前!』

鏡の手も額も汗ばんでいた
鳥肌が立った

携帯を落とす音…
男の怒鳴り声と悲鳴…

『城…おい!城!?…コラ糞シンジ、出ろ!!』

No.21 10/07/06 19:07
㍊ ( wPNK )

…男は鏡が喚く携帯を
無言で拾ってすぐ切った

『…やってくれたよ。お前…本当…。』

振り向きざま力任せに
携帯を城に投げ付けた

『バカガキ!!』

壁に当たり跳ね返った携帯は
勢いよく城の額に当たった…
額を押さえながら
言葉も出せず怯える城…

酷いことされて
死ぬ覚悟はした
だけど痛みと恐怖は
目を閉じてただ我慢なんて
できるはずもない…

『オゥ!立て!』
『嫌だ…嫌だ…何するの!』
『立て!ゴミ!』
『どこ行くの!何やるの!』

浴槽に放り入れ水を出す…
冷える足…片足ずつ上げる…

『熱湯は嫌…熱湯にしないで!熱いんだ!』
『しねぇよ!臭いからまず洗ってやるってんだ生ゴミ!』

膝くらいまで溜まる水

『あいつに言ったのか?』
『…何、何を!』
『とぼけんな、住所言ったのかって!!』
『…い、言ってない、ありがとうって言っただけ…!』

髪を掴んで壁に打ち付ける

空室の目立つ古い建物は
音が響いても誰も気付かない

『嘘つくなや!』
『住所知らないから…父さん…冷たい、痛いよ…!』

泣いても男には届かない
溜まる水に掴んだ頭を
無理矢理沈めた…

No.22 10/07/06 23:35
㍊ ( wPNK )

鏡は愕然としていた…
最後に聞こえた怒鳴り声…

ガキ、ゴラァ!何いじってんだテメェ!殺すぞコラァ!

…ヤクザみたいな口調
バチン!ゴン!と響く音と
例えようの無い悲鳴…

携帯を持つ手が震えて動揺し
嫌な汗が滲む
仲間が呼ぶ声すら聞こえない

あ…あの…男…
城を…殴りやがった…
殴って…あの悲鳴…
普通じゃねぇ…
絶対…怯えてた…!

無意識に
組んだ足場を身軽に駆け降り
ヘルメットを放り投げる

城…城…
殴られてんじゃねぇかよ…
今すぐ行かねぇと…
でも場所が分からない…
仕事…簡単に抜けられない…
終わりまでもう少し…
でも…でもよ…

ありったけの声で叫ぶ

『徹ーーーッッ!!』

その大声に驚いて顔を出す徹
腰道具も外して放り
会社のワゴンに向かって走る
鏡の姿に更に驚く

『呼んだか!?』
『徹!ちょっと抜ける!!代わりに現場、頭張れ!すぐ戻るから!』

そう言ってエンジンをかけ
消えて行った

『どうしたんだ、鏡…。』
『電話で城君と話してたみたいすよ?』

まさか…
徹の胸にも不安の渦
住所聞き出したか
家に聞きに行ったのかも…

No.23 10/07/07 05:53
㍊ ( wPNK )

後悔の渦が押し寄せる

どうして連れ帰らなかった?
どうして城の意見を許した?
どうして信じようなんて
思った…?

祖父母の家に向かう…
明日までなんて
待っていられるかよ…!

『助けるって約束した…!』

こんな時に限って
邪魔をする乗用車

漫画を読みながら
チンタラ走る若い男
フラフラ急に割り込む老人
お喋りに夢中な中年の女性
食べるのに夢中で
青になっても発進しない
若い女…

どいつもこいつも苛つく!
どけ!!

クラクションを鳴らして退けさせる

こっちは一刻を争うんだよ!
泣いてたんだ…
大丈夫なんて強がりだ…
城の純粋な心を
踏みにじりやがった…!

ミッチャンに会って
住所さえ抑えればいい話

でももっと危機感持って
早く調べ出せば良かった…
心のどこかでもう
あんなことしないだろうと
安心している部分もあった…
今頃きっとあの野郎に…

走りながらこみ上げてくる

城の言葉…
鏡って言ったら怒るし

使うなと言われた携帯
男の目を盗んで使って
見付かった
その話し相手が俺…
それで…

『…俺が…原因か…!』

No.24 10/07/07 08:13
㍊ ( wPNK )

祖父母の家に着くと
車を放り出すように止め
玄関チャイムを何度も鳴らす

居ない…居ないのかよ!
肝心な時に…買い物か!?

焦る気持ちを抑え
携帯を取り出し男にかける
…出るはずもないか…

『クソッ…!』

諦めて車に乗り込む

街の方へ行ってみよう
車も人も多い所なんて
沢山ある
ボケッとしているよりはいい
もしかしたら運良く
男の車から家が見付かるかも
運良く…
駄目だったらまたここへ
その頃にはミッチャンも
戻っているかもしれない…

己の勘だけを頼りに走り出す

何度も何度も呟く

城…ごめん…ごめん…
城…待ってろ…負けんなよ
必ずまた見付けて
野郎ブッ倒してやっからな…!

No.25 10/07/07 12:23
㍊ ( wPNK )

苦しい…苦しい…!
息出来ないよ…!

男が押さえ込む力にかなわず
頭を上げられない…
手をバタバタと振り
水を飲む…

『死んでも困るから許してやる…出ろ!』

間一髪で引き上げられた
びしょ濡れの体で
ただただ咳込み水を吐く…

やっぱり必要ないんだ
俺なんか…
散々良いこと言って
死ぬところだった…
でも殺さない卑怯者…!

そのまま城の部屋へ連れ込む

『汚ねぇ…!吐いたのそのままかよ…!』

蹴り飛ばされた城は
床に倒れ込み男を睨む

『死ぬところだった…自分の子が死んでもいいのかよ!』
『死んでないんだから感謝しろ!生意気言うと本当に死ぬぞ?要らねーしお前みたいな役立たずのゴミ!』

腕がわなわなと震え出す…
怒りが込み上げる…
騙された…
裏切られたんだ…
信じてみたかった…
父さんが父さんになって
母さんが会いに来るのを…

嘘ばかり!
信じても良いことない!
許しなんて意味がない!

こいつらは糞!
人間なんて糞!
誰一人信用できるかよ!
鏡と徹も人間…
いつか2人も…

部屋を出て着替え
仕事に行こうとする男の
怒声が響いた…

『小便かけやがったな!!』

No.26 10/07/07 18:36
㍊ ( wPNK )

城は冷えた体を起こし
部屋から出て
男の方へ走って叫んだ

『ざまあみろ!』
『…あぁ…?』

男は物凄い形相で睨みつける

『見ろよ悪魔!部屋ゴミだらけだろ!洗濯なんかしてないぞ!キッチン見たか?見てみろよ!』

城の勢いに少々押されながら
居間を見渡し
洗濯物の山に気付き
キッチンへ…

冷蔵庫のドアは全開
シンクに散らばる食品
酒の缶やビンは
流されて空のまま…散乱…

あの城がやったのか?

信じられない光景に
立ち尽くしていた

城は癇癪を起こした時とは
また違う顔…
絶望と憎しみに満ちた顔で
罵声を放ち続ける…

『嘘付きの裏切り者!俺がゴミなら親のお前もゴミだろ!同じ血だからな!ジジィもゴミだ!反省したのに俺の話すら聞かなかったから!ゴミにご飯も服も必要ないんだ!ゴミはゴミ屋敷に住めばいいんだ!部屋見ろよ!俺がやった!頭いいだろ!ゴミ野郎!』

立ち尽くして睨む男を
威嚇するように
時々近付いては
足で床をダンッと蹴り
そしてまた距離を取る…

次から次へと
怒り任せに暴言を吐く…

No.27 10/07/07 19:03
㍊ ( wPNK )

『何が普通の生活をしていこうだ!何が父親に戻れただよ!何が…何がチャンスを与えてだ!成長できるだ!自慢の父さんだって言えるようになるの見ていてほしいだよ!全部嘘だ!俺を必要としてるって話も…今要らないって言った!!』

『うるせーな…だから何だよ!実際役立たずだよ、お前はよ!キョウキョウばっかで家事も満足にしねーしな、そのくせ臭くて汚いのだけは相変わらず!弱えーし、ベソばっかだし、ガリでバカで障害持ち!要らねー要らねー、ばい菌君(笑)。ばい菌なんかに構ってらんねーんだわ。仕事行く。逃げんなら好きにしろ。間違いなく歩いてる奴らに軽蔑されるから。汚すぎてゴミ処理場に運ばれるわ(笑)。サヨナラ、ばい菌!』

城は返す言葉が見つからず
歯を食いしばって
涙を流しながら睨み続けた…

そして決めたことを
実行することにした…

こいつが一番腹立てる話
悪魔が一番気分悪くする方法

それで逆上させて
怒らせて
作戦通りに…

No.28 10/07/07 21:14
㍊ ( wPNK )

『鏡に比べたら腐れすぎて話にならない。』

『あ、そうかい。』

『お前悔しいんだろ。鏡に劣ってるから。』

『…。』

『鏡みたいに強くも優しくもないし、たくましくもない。何ひとつ良いところない。自分で分かってるんだ。』

『…るせぇな。行け。』

『鏡大好きなのが気に食わないんだ。お前コドモみたいなもんだろ。それヤキモチだ。』

『殴るぞ…!』

『それに鏡が怖いんだな。言うこと正しいから返せないし。』

『うるせーって!』

『鏡はお前なんかに比べたら最高の父さんだ。お前はゴミだし鏡とは比べものにならないけどね。いつか生まれ変わったら、鏡をお手本にした人間になるといいけど。でもきっと、魂は地獄行きだ!』

怒ればいい
怒り狂って掛かってこいと
そんな気持ちで
嫌いな話をふり続けた

男はおもむろに
携帯を取り出し
仕事絡みの人間にかけた

『…あー…俺、ちょっと今日休むわ…。』

切った後
何か考えるように1人頷いて
城の方へ歩き出した…

No.29 10/07/07 22:05
㍊ ( wPNK )

ほらね 簡単だろ
仕事休んでまで
俺の相手することを選んだ
もっと怒らせなきゃ(笑)

『クソシンジ、お前との古い記憶はやっぱり暴力しかない!ゴミ以下だ!カスってやつ!』

もっともっと…

『お前の言う通りになんてしない!鏡や徹の言うこと以外は聞かない!お前はお前がお前のことやれよ!』

ほら、凄い顔…

『またきっと鏡が見付けてくれる!お前をうちのめすんだ!鏡は強いんだ!格好いいんだぞ!お前なんかすぐだ!』

怒り狂えばいい…

『鏡の仕事も格好いいんだからな!凄いんだ!重いやつを簡単に持ち上げるし、仕事も速いし!筋肉も凄いんだ!お前みたいに細くて情けなくないぞ!』

さぁ 来いよ…

『鏡と徹が2人で来たら、俺が泣いた分お前を泣かすんだ!鏡と徹が本当の父さんと兄貴だから!俺の本当の家族だから!絶対お前を許さない!鏡と徹にカスはかなわない!』

殴れ!

『次鏡に逢ったら、カスシンジのしてきたカスみたいなことも全部話すんだ!せっかく綺麗にしようと大事にしてくれた俺を、またこんなに汚したカスシンジ!気持ち悪い!お前も化物の糞人間野郎なんだよ!分かったか!』

殺せよ!!

No.30 10/07/07 22:31
㍊ ( wPNK )

思い切り殴り倒された…
顔の骨が折れたかもしれない
本気でそう思えるくらい
物凄い激痛だった…

キョウキョウキョウキョウ
何なんだこのクソガキ!
ナメてんのか俺を!!

そう怒鳴りながら…
城の服を剥ぎ取って
蹴り上げ続ける…

肋骨折れたかも
内臓おかしくなったかも

昔から暴行され
上手く体を庇える方法が
ある程度身に付いていたから
幸いそれはなかったが…

やっぱり死ぬって
痛くて苦しいんだなぁ
ただ漠然と
殴られながら思っていた…

裸にされたら
次来るのは決まってる…

『選べ!熱湯と火と犯されんの、どれがいい!』
『どれも嫌だ…!殺せ!』
『選べ!』
『殺してよ!』

引きずって城の部屋へ放る…
ベルトを手にした男は
金具が当たるように
何度も…何度も振り下ろす…

金具によって
えぐられ続ける皮膚…
骨張った体に刻まれる傷…

痛い…痛い…
唇を噛み丸まって耐える…

鏡には頼らないって決めた…
でもこの痛みを
紛らわすかのように
口から勝手に出てくる…

鏡…鏡…!助けて…!
鏡…助けて…
鏡…

鏡…

No.31 10/07/07 23:09
㍊ ( wPNK )

仲間達はもう仕事を終え
1ヶ所に固まって
鏡が戻るのを待っていた

『6時半…1時間経過…鏡さん戻って来ないと帰れない(笑)。』
『徹さん、やっぱ携帯繋がらないすか?』
『1度繋がったきり。もうちょっと待てってさ。そして1時間。』
『あの人のもうちょっとはアテにならないすからねぇ(笑)。』
『オレ今日用事あったんだよなぁ~…カミさんから着信11回…帰ったら…怖。』
『鏡に代わりに謝ってもらうべきだね。いいよ、連れてって。クレーム処理上手いからアレ。存在自体が俺にとってはクレームだけど。』
『徹さん毒舌(笑)。』
『あっ、来た。』

鏡が戻って来た

『何してたんだよー。』
『ゴメンッ!』
『ちょっと待ってから1時間すからねぇ(笑)。』
『ゴメンッ!』
『今日の日当分、ちゃんと取り消し申請しとくからみんな許してやって。』
『おー!』
『流石徹さん!』
『いいっすねぇ~。』
『やめて徹様(泣)。』
『城君捜しに行ったんすか?会えました?』
『…いや(笑)。』

鏡の苦笑いで
徹は全て察知した

No.32 10/07/07 23:32
㍊ ( wPNK )

>> 31 会社に戻って解散

今度、安~い飯奢るからと
仲間に頭を下げる鏡に
全員がブーイングを浴びせる

徹が待ちきれない様子で聞く

『場所つかめた?』
『いや…留守なんだ…。』
『城君、電話で何て?』

徹の顔を見ずに溜息

『親父が風呂入ってる隙にかけてきたらしくてさ。何で連絡しなかったって言ったら…携帯貸してくれない、俺の名を出せば怒るって…殴られてんのかって聞いたら大丈夫しか言わない。でも泣いてたんだ。見える看板教えろって言ったら黙るし。俺にありがとうって…兄貴にもありがとうって伝えてって。』
『何、それ…。』
『その後がな…携帯落とした音とあいつの怒鳴り声と城の悲鳴聞こえて…焦った。』

祖母に会いに行っても留守
だから街の方暫く走ってみた
手掛かりもないし
また家戻って張ったけど
帰って来なかった

それを聞いて徹は
今からもう1度行こうと誘う

そのつもりだと
鏡も車を家に置いて
徹の車でまた向かった

No.33 10/07/08 00:20
㍊ ( wPNK )

『留守だのなんだの、興信所に頼んだ方が早かったんじゃねぇのか。一生恨んでやるジジィとミッチャン。』
『アンタの日頃の行いの結果がこんな所で裏目に出るなんて…。』
『兄サン…どーゆー意味?』

家に着く
思うように進まない苛々から
チャイムに当たる鏡

『そんな連打すんなって!迷惑な奴(笑)。』
『どうせ居ないんじゃねぇのまた。出てこい出てこい出てこいー!』

更に連打する

『誰だ!!』

ドアの奥で怒鳴り声
しまったと顔を見合わせる…

ドアが開くと
祖父が厳つい顔で睨む

『神崎さん…?』
『あ、どうも。これ…チャイム電池切れてると思って。鳴ってるの聞こえなかったんですよね!』

徹がうつむいて笑う

『あぁ(笑)。そうでしたか。…で?』

で?じゃねぇよと思いつつ
用件に入る

『しつこいようですがね、城の居場所…。』

まだ言い切ってないのに
口を出した

『しつこい(笑)!私の口から個人情報は洩らせません。』
『俺の携帯に城からかかってきました。その後シンジさんの怒鳴り声と城の悲鳴。見過ごせません。教えてくださいよ。』

No.34 10/07/08 07:47
㍊ ( wPNK )

『怒鳴り声と悲鳴?城がまた悪いことやらかしたのでは…?』
『普通に怒られる程度なら悲鳴なんか上げない!どこまで強情なんだ、一刻を争う。お願いしますよ!』
『もしやっと見付けて城君に何かあったらあなたも共犯者。』

面倒臭いような
どうでもいいような顔…

『もう息子達はここを離れたんですよ。関係ない…関わらないです。』
『そういう問題じゃなくねぇか?あんたの気分なんかそれこそ関係ないんだよ!』
『呆れて言葉にならない。』
『城を殴りつけ何かに打つ音も聞こえた!あの腐ったバカ息子のやることだ!なんなら一緒に来い!それで何も無かったら今の言葉取り消して謝るからよ!』
『そこまで言うなら…お待ち下さい…。』

祖父は奥へ引っ込んだ
住所を調べに行ったのかと
内心徹と喜ぶと
電話を掛け始めたようで…
耳を澄ませて内容を聞いて
ビックリなんてモンじゃなかった…

もしもし?…あぁ今ね
玄関に男2人が押し掛けて
色々訳わからんこと喚いて
帰らないんですわ…
え?1度少し話した程度で…
迷惑してますので…
巡回ついででもいいから
すぐ見に来て下さいませんか
住所は…

『通報しやがった…!』

No.35 10/07/08 08:17
㍊ ( wPNK )

笑顔で戻る祖父…
もう少しお待ち下さい
今調べてますから
メモした紙が見つからなくてと
平然と言う

あまりに腹が立ち
ふざけるなと食ってかかる

突然鏡が一目散に逃げ出し
徹も慌てて玄関を出て
車に乗り込んで家を離れた
途中パトカーとすれ違う…

『何逃げてんだよ!置いてくな俺を!』
『ゴメンッ!昔からの条件反射みたいな…(笑)。』
『事情説明すれば良かった話じゃないのか!?』
『どうかなー…パッと見た感じあいつより俺らもお前の車もガラ悪い感じだよなと思うと…どこか不審がられるよなって冷静に考えてたら体が勝手に(笑)。』
『速いんだよ、そういうところばかり!』
『まぁ、警察来たからって口割ることも無いだろうし。職質されるだけストレス溜まるから今回は仕方ない…。』
『やっぱりミツエを落とすのが早いか…。』
『城…大丈夫かな。』
『可哀相だけど1晩だけ耐えてもらうしかないだろ…。』
『徹、泊めて。1人で考えたくねぇ…。』

2人は凹みながら
帰ることにした

No.36 10/07/08 10:19
㍊ ( wPNK )

男はやかんで湯を沸かす

ガスコンロを使う音から
裸のまま放り出された城は
熱湯を浴びる覚悟をした

全身から酷い汗が…
一気に布団が湿ってしまった
丸まりながら
ガタガタ震え出す体…

さっきまでは
両足を広げられ
犯される恐怖と戦っていた…

その様子を楽しむだけで
被害は無く終わったが…
次は熱湯…

買ってもらった服を漁る
気休めでもいい
一番生地の厚そうな服
それを何枚も重ねて着た

死ねるのに
どうしてこんなこと…
裸のが全身火傷で
死にやすいじゃないか!

でも怖い…
物凄い恐怖だ…
トイレにも行けず漏らす…

どうせ汚いからいい
ゴミだし…

やかんのピーッという音
来る…来る…
あの熱さ…
思い出すだけで失神しそうだ

男はTVの前から立ち上がって
キッチンへ…

こんなに覚悟してるのに
カップ麺を開ける音

それはそれで腹が立つ
何だよ…飯か
食ってないで殺しに来いよ!
城は叫んだ

『早く持って来い熱湯!』

無視
少し安心する

死にたいけど
これ以上苦しいのは嫌だ
一気にやって欲しい…

男の携帯が鳴る
少し経ってから男は出た

No.37 10/07/08 10:47
㍊ ( wPNK )

『何ですかね。え?あぁ、城は元気ですよ。…アハハ(笑)!アレは一時的にちょっとカチンときましてね、勝手に携帯触るからです。大切なデータだってあるのに…ろくに使い方も分からない城が勝手に触って削除されても困るから!ガツンとやっただけ。』

話の内容から鏡だと察知する

『うるさいねお宅も!ハァ、分かりました、声聞けば満足?ちょっと待ってくださいよ。』

そう言うと城の部屋に入り
服を着込んだ城を見て
何してんだバカと笑う

『お前の大好きなパパからだ。オラ、話せ。助けてとか余計なこと言ったら…わかってんな?』

保留を解除して渡す

…城?俺だ、徹もいるぞ!

鏡の声に安堵感
声が出ない
段々泣き崩れていく城
正面で睨み続ける男

…城?聞いてるか?また泣かされてんのか!あっ…

…城君!俺、徹!痛いことされてないか?

電話の向こうでいつもの2人
俺が話す!返せ!
俺にも話させろよ!
電話の奪い合いをしている…

逢いたい…
俺もそこに行きたい…

息を苦しそうに吐きながら…
睨み付ける男の目を見ながら…

詰まる喉の奥から
やっと声を出せた…

たった一言…
大声で…

No.38 10/07/08 15:25
㍊ ( wPNK )

早く 助けてよ…!!


そしてすぐ通話が切れた

徹は携帯を持ったまま
鏡を見た
鏡もかなりの大声だったため
聞こえていたようだ

『助けて…?』
『早く助けてよ…だって。』
『泣いてた?』
『…ウワァーッッてね…その後すぐ切れた…。』
『日中掛かってきた電話…思い出す。見ろ徹、この鳥肌。』
『助けてって叫ぶくらいだからきっとさ…今…。』

部屋に上がったばかりの2人
競うように外に出て
車に乗り直す…


通報にビビッてんじゃねぇよ!

いやアンタだけだったし!

徹!ボコボコにしてでも聞き出すぞ!絶対聞き出す!

何でも力に任せるなよ!傷害取られたら城君助けるも何もないだろ?

大丈夫大丈夫言ってた城が助け求めるんだ。あんにゃろう、何しやがったんだ!

イカれた人間はイカれてることにすら気付かない…救いようない。鏡、城君が何言っても折れるなよ?

当たり前だ!2度と置いてくか!! 3度も足運ばせやがって…!

逃げなきゃ2度で済んだ。

ゴメンッて…(笑)。


家の前に停めると同時に
弾丸のように飛び降り
やっぱりチャイムを連打する鏡


聞き出すまで
絶対に離れないからな!

No.39 10/07/08 15:56
㍊ ( wPNK )

死ぬつもりだったけど
鏡と徹の声を聞いたら
逢いたくて
逢いたくて

頼らないって決めたのに
あの2人なら
必ず助けに来てくれる
そんな気持ちがふくらんで

助けてって言ったんだ

余計なこと言ったら
わかってんなって言う
あいつへの抵抗もあった


言った後は首締められて
また裸にされて
沢山殴られて

お前らバカ達のせいで
麺のびちまったって
カップ麺を投げつけられて
熱湯ほどじゃなかったけど…
太ももから下に軽い火傷

どうしてこんな奴に
ここまでされなきゃ
ならないのかって
また憎しみがわいてきて
自分が吐いたものを
拾って投げ付けてやった(笑)

体力が完全に無くなるまで
ゴミ箱ひっくり返したり
シンクのグチャグチャの食品
撒き散らしたり
皿投げたり…

あいつさすがに
少しビビッてた(笑)

空腹や捻挫で
もう限界が来て
足が立たなくなっちゃって
息も苦しくなって…
諦めてヒザついたら
男の反撃が始まった

鏡と徹には悪いけど
逢いたかったけど
助けてなんて言ったけど

計画通りになる
喜びを始めて感じた

これで死ねばこいつら…
俺…頭いいだろ?(笑)

No.40 10/07/08 16:18
㍊ ( wPNK )

手に負えない息子
散らかり放題の部屋
汚臭さえ漂う

男も少々疲れ気味
戸惑いも隠せない

ここまでするつもりは
無かった
本当に最初は
ちゃんとしようって決意が
間違いなくあった

城の一挙一動に
上手く対応出来ず
異常になる自分を
知っていたのに

止められない…
何故かわからない…
俺もまた病気なのかと
疑問さえ感じる時もあった…

散々暴れて動けなくなる息子
たった一言悪かったと
手当てもしてやれば
また先は違ったかもしれない
それなのに

止められない…


嫌がる城の足を引き
また部屋へ放る

罵声を放つ城に疑問を持つ

最近は痛めつけても
脅しても全く怯まない
どうしたんだこいつ…

正直、不気味だ
前とは全然違う

自分がやってきたことの
結果がこうさせたのも
誰よりも理解している

口うるさい親を殺すニュースも
たまに聞くようになった

城の今までの発言や行動
男もまた恐怖を感じた

寝てる間に殺されるかもな…

そうなる前に…

No.41 10/07/08 16:48
㍊ ( wPNK )

城を部屋に放ると
喚き散らす口を開け
靴下を突っ込んだ

そしてテープで
後頭部と口を何重にも巻く

梱包材の紐で
両手両足をくくり
動けないようにした

抓ったり叩いたり
踏みつけながら言う

なぁ知ってるか城
これでもし
お前が死んで捕まっても
死刑になるとは限らない
自由は奪われるけど
日本の刑は甘いしさ
死刑に反対する団体もいる

お前がこのまま死んでも
なんだかもう
それでもいい気がしてきた…

人間関係も仕事も疲れたし
家も疲れるしさ


それを聞いて
涙が浮かんできた

俺が死んでも
こいつには効き目がない…
無駄なんだ…
無駄死にだよ俺…


男は暴行を止めて続ける

汚い臭い気持ち悪い城
醜くて哀れな城
ばい菌だらけの城
ガリで膿傷だらけの城
死ぬまで女抱けない城
一般常識も基本的な計算も
文字も言葉も運動も
何も知らず出来ない城
生まれた時から
ベソ顔だけは面白かった城

死ぬならどうぞ
死にたくないなら
逃げ出せよ

お前らガキが親を選べない様に
俺ら親もガキ選べねーよ
どうして俺の所に来たんだ?

お互い残念だな
もう寝ていいよ
永遠に(笑)

No.42 10/07/08 19:06
㍊ ( wPNK )

いしょ…
いしょ書かなきゃ…

あれ…
死ぬ前に書くんだろ

死んだあと
気持ち知ってもらうのに…
よくTVで見た…

もう
具合悪いのも
痛いのも感じない…

思ったより
ひどいことされなかった…

だけど
力が抜けてく感じ…
頭がグワングワンって
回ってひどい音…

心ぞうの音だけしか
聞こえない…

まだ死なないけど
生きる気力なくしちゃった

死んでも意味ない

でも生きてても…
自分が嫌いなままだよ

聞いたろ
さっきのあいつの言ったこと

生きてても
いいことないし…

鏡と一緒になっても
めいわくしかかけないから…


いしょ書かかなきゃ…

やっぱり生まれて
ごめんなさい
父さんと兄貴
おれが死んだら
家族を解約して
自由にしてください
そして忘れてください
覚えてもらうだけ
おれはおれが恥ずかしいから
お願いだから
忘れてください


書かなきゃ…

寝たら起きれる自信
なくしちゃった…

No.43 10/07/08 19:34
㍊ ( wPNK )

『じゃあテメェが来い!一緒に!来いよ!』

鏡は祖父の服を掴んで
引っ張り出そうとした

『神崎さん!そう怒らずに!今シンジに電話入れますよ…!』
『だから!!電話じゃ意味ないって言ってんだ!どうしてそう強情なんだよ!』
『早く助けてって言ったんだ。暴行してるから助けを呼ぶんだろ!急ぎなんだ。』

祖父は2人の剣幕に
冷汗をかいて抵抗する
あまりにも強情すぎる…

『脅されてんのかよ、あのバカ息子に!』
『言うと…何されるか…。』
『何されんだよ!』
『出て行く時…神崎さん達にだけは場所言うなって…言ったら自分でも何するかわからないって…。』

やっぱり口封じのつもり
相当俺に怨恨抱いてる…

『ならそう言えばいいじゃねぇかよ!時間返せこの野郎!自分で勝手に調べたって行くからよ、言え!』
『住所変更さえしていないのに、どうやってですかね?』
『探偵とか後付けたとか色々ある…!くだらねぇ…本当に時間無駄にした!』

怒りが爆発する鏡
徹が紙とペンを用意する

『自分の息子でも何するかわからない…そこが怖いので…。』
『そんなのテメェの教育だ!自業自得だって!』

No.44 10/07/08 19:55
㍊ ( wPNK )

男はキッチンや部屋を
片付けていたが

城の様子が気になり
部屋を覗きに行く

『マジ臭ぇ…!』

電気をつけて呼ぶが
返事も音もしない

『何…マジで死んだの?』

鼻をつまんで暫く待つと
苦しそうに頭を振って
手を振り解いた

『寝てただけかよ!』

紛らわしいと
また蹴り飛ばす

『少し片付けるこの部屋…臭すぎてたまんねーわ!』

そう言うと
城を風呂場の浴槽へ放り
水を出した

『少し浸かっとけ!』

手足の自由もきかず
声すら出せない城は
同じ状況に置かれた
過去を思い出して
再び目を閉じた…

布団を畳み
カップ麺や嘔吐物を片付け
衣服を足で端によける

城が作ったプレゼントには
気付かなかった

浴室へ行き水を止め
寝込む城を放置して
居間でTVを見始め
疲れで男もまた
そのまま眠りについた

No.45 10/07/08 22:38
㍊ ( wPNK )

鏡の手にはメモ
見ながら住所を追う

祖父は最後まで抵抗したが
運良く帰って来た祖母が
話を聞いて教えてくれた

この前の徹の話を覚えていて
教えるべきだと
祖父に言い聞かせてくれた

『なぁ、徹。ちょっとのんびりし過ぎたな。』

徹も運転しながら
苦笑いをする

『まぁね…けど、城君の決断と実際目の当たりにした普通の父子の光景…アレ見るとどこか油断だってするさ。久々に掛かった電話でも、すぐ本人が素直に早く助けてって言ってくれればさ…もっと本気で俺も頑張ったかも。住所だって留守とか爺さんとか仕事とか…上手く折り合えない部分もあった。俺達なりにやったと思っておかないと。』

勿論徹も後悔だらけ
鏡を励ますためにも
自分で自分を
褒めなきゃならなかった

そうでもしないと
今から逢いに行く城の姿が
あまりに酷かった場合
心の支えが何もない…

傷だらけかも
痩せ細って震えているかも
首輪されて動けないかも…

逢うのが怖い
それ以上だったら…?

俺達はボーッとしていたワケじゃなかったんだと
そう言い聞かせないと…

どんなに自分を責めても
支えが無いんじゃ
立ち直れないだろ…

No.46 10/07/08 23:23
㍊ ( wPNK )

本当に20分ばかりの
それほど遠くない場所だった

『ここか?辛気臭せぇ所!』

周囲をビルに囲まれて
日の入らない古い建物
そのせいか空室ばかり…
鏡は苛っとして呟いた

『鳥すら見えねぇじゃん…こんな場所…!』

静かに階段を上がる…
この部屋かと
ノックをしようとすると
徹が鏡の肩を叩き
俺に任せろという仕草

鏡は覗き穴を指で封鎖し
徹が強くノックする…

反応が無い

もう1度ノックすると
慌てて向かってくる足音…

覗き穴を覗くが
真っ暗で何も見えず
警戒しながら声を掛ける男…

『…はい…?』
『アパート管理の者です。お渡ししたい書類がありまして、少しの間だけ開けて頂けますか!?』
『郵便受けに入れてもらえますかね!』
『入らないんです(笑)。重要書類なので。』

住所変更してないみたいだし
宅配は変かなと大家を装う徹

こんな小さなボロアパートで
虐待してる奴なら
警戒して簡単には
開けないかもと予想もした

管理者となれば仕方なくも
開けるだろうと…

チェーンを外し
鍵を開ける音…

ドアが…開いた…!

No.47 10/07/09 00:41
㍊ ( wPNK )

力任せにドアを開くと
男の顔色が変わった

『何…何であんたら…!』
『退け。』

説明も無く上がる2人
不法侵入だの何だの叫び出し
両手を広げて封鎖
奥へ行けないよう粘る男

『邪魔すんな。何しに来たかは分かるだろうが。』

鏡が無理矢理押し退けると
男も力で抵抗する

『ちょっと待て!常識無さ過ぎじゃないか!?』
『どの口が言う?シンジさんよ。諦めな。みっともねぇから!』

徹は広げる手を振り払い
部屋へ入る
鏡は男の胸倉を掴んで
引きずり倒す

『凄い…臭い!』
『何だここ…どういった生活してきてんだよ…!』

城が投げた
割れた皿は端に寄せられ…
食品のようなものが
グチャグチャッと散乱し…
中途半端に雑巾で拭いた跡…
ひっくり返ったゴミ…
破けかかったカーテン…
洗濯物も散乱…
埃だらけ…

鏡の怒りが頂点へ…
こんなバカとこんな環境で
また暴力に怯える生活…
こんな…こんな…!

徹の服を捕らえ
奥へ行かせまいと必死な男に
鏡はバッと掴みかかり
徹から引き離しまた倒す
奥の部屋へ急ぎ足で
ドアを開けた…

『城ッ!ここか!?』

No.48 10/07/10 00:31
㍊ ( wPNK )

丸められた布団と
脱ぎ捨てられた服の数々
床には嘔吐物のシミや
拭き取ったティッシュの山…
異臭…
日の入らないビル陰の一室…

鏡の夢は夢で済んだ

でもどうしていない!?

『城!俺と徹が来たぞ…!どこだ、おい!』

叫びながら
押入れを開けて覗き
引っ越しのままのダンボールや
服、布団を広げ捜す

徹も隣…男の部屋を
引っ掻き回して捜す

いねぇ…いねぇぞ…!?

部屋から出ると
床に座り込む男に
真っ直ぐ向かい
獣のような目をした鏡は
乱暴に掴み掛かって
立たせて怒鳴った

『どこにやったんだよ!!』

男は何も言わず
鏡から目を逸らす…

ふと妙な空気を感じ
真っ暗な浴室が目についた…

徹がクローゼットを開け
城の名を呼びながら
荷物をひっくり返す音しか
聞こえなかった…

掴んだ男を
テーブルの上に押し倒し
鏡は狭い部屋を走った…


もう聞こえるのは
己の鼓動のみ…

城…城…
まさかな…?
嫌だ…
嫌だぞ…俺は…
さっきから呼んでるのに…
おかしいと思ったんだ…


電気をつけ
浴室を…覗く…

『う…うあぁああっ!!』

部屋中に…外にも
鏡の悲痛な叫びが
こだました…

No.49 10/07/10 01:12
㍊ ( wPNK )

『徹…!徹ーーッッ!!』

徹は鏡の叫び声を聞いて
慌てて浴室へ移動した

冷静な徹も身震いする…

浴槽の栓を抜いて水を流し
頬を叩いて名を呼び続ける鏡
その隣に割り込み
手足の紐を解き始める…

『城…城…なんてことを…城、おい!目…開けろよ…!!』
『酷い…信じられない…信じられねーよ…!』

血の気のない肌と唇の色…
体中の痣と
血にまみれた背…
テープで何重にも巻かれ
閉ざされた口…
腫れた…顔…
汚れた頬には涙の跡…
色素の薄かった髪は…
所々が…白くなって…
痩せきった骨のような
小さな体…

水を流し切るとまた栓をし
温かい湯を出し
覚めるまで名を呼び続ける

鏡の震える手では
上手くテープを剥がすことすら出来ず…
徹が手伝った…

そしてまた唖然
徹は消え入りそうな声で呟く

『靴下…靴下を…。』

鏡は目を真っ赤にして
城の顔に両手を当てて
優しい声で呼び直す

城…起きろ…
城…鏡です…
父さんです…
徹兄もいます…
城…おはよう…
現場行くぞ…!


…目が…ゆっくりと開いた

焦点が合わず
何度もまた閉じかける

『城、迎えに来た!』
『…ョウ…。』

No.50 10/07/10 01:37
㍊ ( wPNK )

冷たくて寒かった
段々気持ちよくなって
いつの間にか気を失ってた

長い夢を見ていたんだ
目を覚ましたら忘れたけどね

これも
夢だったかはハッキリしないけど
鏡がまた
現場に連れてってくれるって
暗闇の中で声がした

目を開けようとしても
重くて開かなくて
やっと少し開いたら
鏡がいたよ

ぼやけてよくは見えなかった
だけど迎えに来たって
また…また言ってくれて
うん一緒に行くって
そう言いたかったけど
頭も声もおかしくて
鏡って返すしか出来なかった

そしたらにっこり笑った
笑ったと、思います

そしてすぐ
おれの目の前から
鏡はいなくなったんだ

次に目を覚ましたら
徹が
徹が泣いていたのに
すごくおどろいたんだ…

おれの兄貴
たくさんほめてくれたけど
ごめんなさい…

覚えられなかった
でもうれしかった

鏡が笑って
徹がほめてくれて
安心して

意識を失いました

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