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天照の巫女~百億分の壱の奇跡~
この物語は完全なフィクションです。フィクションなんで大目に見て下さいね。🙇
主人公「翔太」が異世界で天照(あまてらす)の巫女「華恋」と出会うとこから始まります
何故異世界に連れて行かれたのか?
天照の巫女とは?
華恋の秘密とは?
そして2人が迎える悲しい運命とは?
作者が無い知恵振り絞ったファンタジー、オカルト、恋愛小説です
よろしければ最後までお付き合い願いたいです。
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リビングを抜け玄関口の向こうに女の子はいた。
うつむいてこっちを向き立っていた。
翔太が近づく。
外に出た瞬間、辺りの景色が変わった。
(また幻影か!?)
翔太はとっさに身構えたがどうやら雰囲気が違った。
目の前にはあの女の子とその両親らしき夫婦、兄弟もいる。
見た感じこの別荘の庭のようだ。
親子4人楽しくバーベキューしている。
(なんだ?これ…。)
困惑しながらもその場面を見守った。
不意に場面が変わった。
交通事故のようだ。
あの女の子も含め親子4人が救急車で運ばれる。
その後、生き残ったのはあの子だけだったようだ。
また場面が変わった。
あの子を引き取った親族だろうか、女の子に辛くあたってる。
ピリピリとした食事風景、女の子が水をこぼすと親族の女が平手打ちをする。
泣き出す女の子に今度はうるさいと蹴り上げる。
翔太は怒りに震えていく…。
さらに場面は切り替わる。
女の子が1人居間で遊んでいた。
そこにあの女が帰ってきた。
女の子が押し入れの中の檻に飛び込む。
それを見ていた女が「外にでるな!」と叫び、檻から引きずり出し女の子を殴り倒していた。
「いい加減にしろ!」
翔太は女を掴み払おうとしたが何の抵抗もなくすり抜ける。
翔太の存在に気付くそぶりもない。
どうやら一方的に情景を見せられてるようだ。
次に場面がかわる。
檻を掴み泣き叫ぶ女の子。
檻には鍵がかけられていた。
周りには誰もいない。
食事も与えられないのだろう。
痩せ細っている。
次の場面…
女の子はさらにガリガリに痩せ細っていた。
部屋にはだれもいない。
というより生活感がまるで無かった。
もう何日も帰ってないのだろう。
女の子は押し入れに染み出した水分を木の壁ごとかじりつき口に含んでいた。
「なんだよ…これ…。
地獄じゃないか!」
怒りに全身が震える。
「翔太くん…。」
振り向くと華恋が立っている。
すると急にこの部屋に現実感が出てきた。
檻を見ると、女の子がさっきのように体を丸め小さく震えている。
翔太はすぐに駆け寄り檻に手をかけた。
力を込め鍵ごと檻をこじ開けた。
だが女の子は出て来ない。
「もういいよ…。
もう、恐がることない…。」
女の子はビクッとなっりこちらをうかがう。
「出ておいで…。
お母さんとお父さんのとこへ帰ろう…。」
女の子は一瞬躊躇したが、泣き叫びながら翔太の胸に飛び込んできた。
翔太もとめどなく涙が溢れ出す。
しばらく抱きしめた後、
「華恋…。」
除霊を促した。
華恋がそっと手を触れる。
女の子は光の塵となり浄化されて逝った。
離れぎわ女の子の思念が伝わってきた。
『ありがとう…。』
最後にとびきりの笑顔をみせてくれた。
浄化が終わると空間が歪み翔太たちは何も無い荒野に立っていた。
「あの別荘…。
あの子の楽しかった時の思い出だったんだろうな…。」
華恋は黙ってる。
「華恋…あの子…救えて良かった。」
涙を流しながら華恋を見る。
だが華恋は頷き哀しげな顔をしているものの涙はない。
「華恋は…強いな…。」
華恋が重い口を開く。
「私ね…五百年見てきたから…慣れちゃったのかな…?
冷たい女でしょ。」
明らかに【泣かない】ことに関しての受け答えだった。
「ごめん…。
そんなつもりでいったんじゃ…。」
慌てて涙を拭い背を向けた。
そこに華恋が頭を付け寄りかかる。
「ありがとう…。」
「何が?」
「私のこと…。
信じてくれた…。」
「俺には他に無いからな…。
ってか信じないとやってられない。」
この言葉のやり取りは2人の中に温かいものを感じさせていた。
やがて夜があける。
いきなり初日から物の怪の供養。
しかも徹夜…徹夜?
「華恋。」
翔太のよびかけに華恋が振り向く。
「俺…全然眠くないんやけど、これも恩恵?」
「そうだよ。
力は大きく分けて5つに分けられる。
そのうち3つは自然の恩恵を受けて蓄えられる。」
「うん…。」
「大地の力は【守護】肉体を護る力。
糧や水分など。
大気の力は【再生】傷ついた肉体を治癒する。
眠気や疲労などもこれね。
光の力は【光陽】これはいったよね。」
「あと2つは?」
「【魂胆】と【心受】この2つは人が作り出す万人にある力。」
「なぁ…。俺にも光陽の力、使えないのか?」
「えっ?」
「俺も、戦いたい。」
「戦ってるじゃん!
現に…。」
「そんなんじゃない!
守られてるだけじゃ…イヤなんだ…。」
華恋を真っ直ぐに見つめる。
「あの物の怪から闇に落とされた時、翔太君自力で這い上がったじゃない?」
「ああ…。」
「あれって光陽の力なんだよね。」
「えっ?そうなの?」
「光陽の力は闇に打ち勝つ力…。精神力もそうなんだよ。」
「精神力…。」
「巫女になるってことは何か特別な力をえるんじゃなく、肉体に宿る内面的な力、自然界の外面的な力のコントロールが出来るようになるだけなの。」
華恋の話しは続く。
「今度除霊する時、私から送られる気の流れを感じてみて。
急には無理だけど、コツさえつかめば簡単な除霊位出来ると思うよ。」
「そう…か…。
次の物の怪までどの位あるの?」
「普通に歩いて一週間位かな…。」
それから翔太の特訓(?)が始まった。
華恋の気の流れを感じとり、霊達のどのあたりにいくのか。
華恋の話では霊にもいろんな種類があり、少しきっかけを与えることで霊界に帰って逝く者もいれば、霊界への道を示してあげないと逝けない者。
未だに未練があり強制的に送還する者。
いちばん後者の者を除霊できるようになれば一人前だという。
翔太は来る日も来る日も除霊にいそしんだ。
…そして一週間後
翔太は自力で供養出来るようになった。
ただ一回の供養に30分かかり1日二回が限度。
しかも終わった後の精神的疲労は凄まじく、立っていられないほど。
華恋の話では力のコントロールがまだ甘く、無駄に精神力を使ってしまう。とのこと。
「でも、お世辞抜きで上達ははやいよ。
センスあるかも。」
「先生に恵まれたからな。」
お互い笑顔で話す。
「今日はゆっくり休んで…。
今夜には物の怪の領域に入る。」
華恋は少し険しい顔で言った。
「なぁ華恋。」
「ん?」
「こないだの物の怪とどっちが強い?」
「今回…かな。
ルートでいくと、ナユタを南下してセッツの方から行くのが近い。
でも、あっちのはもっと強力だから…
はっきり言ってだんだん強くなるって思ってくれていいよ。」
華恋の言い回しだと自力がもっとレベルを上げていかないと。と、いうこと。
握った拳に力がはいる。
「翔太君ってどの位息とめれる?
5~6分大丈夫だよね?」
「5~6分?
できるか!わしゃ魚か!
せいぜい1分…、1分半…、2分はもたない。」
「そっか…。そうだよね…。」
華恋の眉間にしわがよる。
「何?どうした?」
「次の物の怪…水なの。」
「水?」
「思念体ってのは水に溶け込みやすくって、たくさんの思念体がその水に吸収されていく。」
「そうやって水の物の怪の出来上がりってわけ?」
華恋は小さく頷く。
「しかも水だから物理的な攻撃もしてくる。
翔太君と水の中に飛び込んで全て浄化するのに2分弱か…。
厳しいな…。」
「華恋はどの位息とめれるの?」
「う~ん…。
やったことはないけど、多分水中でも動かなければ半永久的だと思うよ。」
「はぁ?」
翔太は目を丸くして口をポカーンと開けている。
「守護の力を使えば体内で酸素が作られるから…。」
「俺にも出来る?」
「コントロールできたらね。」
「ちょっとやってみるよ。命にかかわるから…。」
「そうだね…。」
翔太は息を止め守護の力のコントロールの練習を始めた。
最初はコツが掴めなかったが、華恋の指導の元練習を繰り返しなんとか2~3分の息止めまで成功した。
「ぷはぁ!ハァ…、ハァ…、少しわかってきた。」
「付け焼き刃にしては十分だね。」
結局物の怪との戦いを3日も延ばしてしまっていた。
「翔太君ごめん…。
これ以上はちょっと…。」
華恋がまた1つ真実を述べる…。
「以前話したと思うけど、物の怪は五体、つまりあと四体いるんだよね。
しかも今この日本に集まってるって。」
「うん…。」
「それってある一体の物の怪…。私は【鴉】って呼んでるんだけど、そいつが引き寄せてるの。」
「鴉…。」
「鴉は五百年かけて世界中の物の怪を吸収して恐ろしい物の怪になり、まだその途中…。
今いる残り3体との合体がすむとより恐ろしい物の怪になる。
だから…。」
「わかった。
時間がないと…。」
「うん…。」
「大丈夫!あとは実戦でどうにかする!」
「うん…。ありがとう。」
「なぁ…、鴉の目的ってなんだ?」
「わからない。
四百年前、一度鴉と対峙したけど、その時すでに恐ろしい力を持っていた。」
「えっ?そうなんだ…。」
「結局負けちゃったけどね…。
やっぱり媒体になる人がいないと浄化できないし、力を削ぐことも出来ない。
だから私は四百年かけて翔太君を探し続けた。
鴉は四百年かけてより強くなった。」
2人の間に沈黙ができる。
「華恋…。」
「ん?」
「勝とうな!絶対!」
「うん…。」
華恋は優しく微笑む。
四百年…。
言葉にすると簡単だが、翔太はその重みを感じていた。
そしてその夜。
2人は丘の上に伏せ、眼下にある湖を眺めていた。
「これよ。」
「これ全部?話と違くない!」
「以前は池ぐらいの大きさだったのに、これほど大きくなるなんて…。
この物の怪も意思があるから鴉に取り込まれないように、自分も大きくなったんだ。」
その時華恋が身構える。
「翔太君!気をつけて!すでに動きだしてる!」
だが、特に変わった様子はない。
ゴゴゴゴゴ…
突然地鳴りがなりだした。
「翔太君!下!」
翔太の足元から水が飛び出す。
その水は手の形となり翔太の足を掴んだ。
「翔太君!」
その水は翔太をそのまま湖に引きずり込んだ。
まるで獲物を自分の巣に持ち帰るように。
全ては一瞬の出来事だった。
物の怪はそのまま翔太を湖の中に引きずり込んだ。
だが翔太は冷静だった。
普通こういう場合は悲鳴をあげて肺の空気を出してしまうが、翔太は入水する直前に大きく息を吸い込んだのだ。
(よし!これで少しは戦える!)
真っ暗闇の水の中で足を引っ張っられてる。
常人ならそれだけでパニックをおこすところだ。
翔太は下を見た。
禍々しい髑髏が両足を掴んでる。
翔太はその手を握り締め念を入れた。
一瞬掴んでる手が緩んだが放すまでには至らない。
(駄目か!)
ついに翔太は底まで引きずり込まれてしまっていた。
そして物の怪の恐怖が始まった。
湖の底から無数の髑髏が、水中からは人の生首が、次々に翔太に襲いかかってくる。
しかし翔太はあせらなかった。
目を閉じ意識を集中し、華恋が来るまで息を続かせようとした。
だが息を止めての訓練の時と、全身が水に浸かっている時ではかなり違う。
(もつか…?華恋…!)
肺に入るわずかな酸素も息苦しさに追いつかない。
カ…レン…ハ…コ…ナイ…。
脳の中に直接響く声が翔太の心を弱らせる。
ゴボッ…!
(ヤバい!限界だ…!華恋…!)
意識を失いかけたその時…。
ごおおおぉぉぉー!!
辺りに風の壁ができ水を押しのける。
まるで竜巻の中心にいるような感じだ。
「翔太君ー!」
その上から華恋が降りてくる。
華恋は翔太のとこまで舞い降りると翔太の腕を肩に回した。
「飛ぶよ!」
そういうと翔太を担いだまま水面までの10メートル位の高さまで飛び上がってそのまま空中疾走、沖までたどり着いたのである。
「翔太君!大丈夫?」
「く…来るのが、おせえんだよ…。」
翔太はとびそうな意識のなか、精一杯の強がりを言った。
安心するのもつかの間、今度は津波となって襲いかかる。
津波はそのまま翔太達をのみこんだ。
だが2人の体の周りから無数の光の塵が舞い上がる。
触れた思念体をかたっぱなしから浄化していく。
しかし水の勢いは凄まじく2人は吹き飛ばされた。
それでも華恋は翔太の体を離さない。
襲いかかる水が躊躇している。
しばし間ができた。
「華恋!さっきの、式神使ったのか?」
「うん!あまり乱発は出来ないけど。」
「十分だ!…で、どうする?こっちから行くか?」
「さっき水に触れた時数多の思念体を感じた。
思ってた数よりはるかに多い。
水中はリスクが大きすぎるから、このまま岸辺で力を削いでいこう。」
「分かった。」
翔太がじりっじりっとにじみよる。
ゴゴゴゴゴ…!
またさっきの地鳴りだ。
「華恋!」
翔太は自分の腰に手を回している華恋の腕を握り締め後ろに飛び退く。
案の定地面から水の手が吹き出した。
(そんな何度も引っかかるか!)
今度は翔太が水の手に飛びつき、それに合わせて華恋も念を送る。
予想外の動きに物の怪も戸惑ったのか水の動きが止まった。
一気に駆け寄り津波の根元に手を入れる。
浄化とともに津波が崩れ落ちてきた。
サッと飛び退きまた陸の方へと駆け上がる。
こうやってヒット&アウェイを繰り返し徐々に力を削いでいく。
長い戦いになってきた。
かれこれ1時間はたっただろうか、翔太はもちろん華恋も疲労の色を隠せない。
「なんて数…。
取り込んだ魂の量なら一番かもしれない。」
だが物の怪も弱ってきてるようだった。
始めと比べ明らかに動きが鈍く水面も下がってきた。
ゴゴゴゴゴ…!
みたびあの地鳴りだ。
(またか?)
だが今度は様子が違う。
地鳴りは鳴り止まず足元が激しく揺れる。終いには立っていられなくなる。
ドドドドドドォォォ!!
さらに激しい揺れとともに2人の体が浮き上がる。
浮き上がったのは2人だけではなかった。
2人を中心とした半径5メートルの地面ごと宙に浮いていた。
直接水に触れてる訳ではないので浄化は出来ない。
「くっ…!」
式神を使おうというのか、華恋が印を結びだした。…が翔太がそれを止めた。
「このまま行こう。
奴も相当弱ってる。」
翔太の力強い言葉に華恋も力強く頷いた。
水面が巨大な髑髏の形に盛り上がる。
2人はその口の中へと地面ごと吸い込まれていった。
着水の衝撃を避けるため飛び上がる2人。
髑髏となった水が2人を飲み込もうと口を開ける。
「いくよ!翔太君!」
「ああ!」
お互いの強い意思確認をした後、湖の中に潜り込んでいった。
水に触れた瞬間から浄化が始まった。
次々と魂が浄化され無数の光の塵が天へと昇っていく。
そうはさせじと水流を生み出し2人を引き離しにかかった。
どうやら2人一緒に飲み込んだことから多少の犠牲は覚悟の上のようだ。
それが証拠に浄化されながらも水流の勢いは衰えない。
それどころかだんだん速く、強くなっていく。
始めは離さないように強く抱き合っていたが、猛然と襲いかかる水流に体が離れていく。
2人が離されるのが先か、浄化しきるのが先か、はたまた翔太が溺死するのが先か、お互いが命を懸けたデッドヒートが始まった。
すでに目は開けられる状態ではない。
お互い相手の腕を掴むのが精一杯な状況。
上下左右に体が振られ肉がえぐれ骨がきしむ。
華恋が掴んでいる腕が痛い。
華恋もそうだろう。
その中でも華恋は浄化し続けてる。
(まてよ。俺がこんだけ痛いってことは華奢な華恋はもっと痛いんじゃ?)
翔太は激しい水流の中、少し目を開ける。
華恋の体があちこち振られていた。
いや、振られていたのは翔太の方かもしれない。
その中華恋の顔が苦痛で歪む。
(華恋…!)
その時思わず華恋の腕を掴む力が緩む。
お互いの体が引き離され、翔太はもちろん華恋も暗い水の中へと消えていってしまった。
2人が引き離された途端水流が止んだ。
翔太の息はすでに限界。幸い足を引っ張る手も出てこない。
翔太は必死に水面へと泳いだ。
ザバァ。
水面から顔を出す翔太。
そこで翔太が目にしたのは、水面に立つ華恋と例の髑髏をかたどった水の物の怪。
激しい戦闘…というか、髑髏が放つ水の鞭に防戦一方の華恋。
周りを見ると水位は半分以上減っている。
物の怪にも巨大化するほどの力は残っていないようだ。
「かっ…。」
翔太は華恋を呼ぶ声を止めて陸へと泳ぎ出した。
今叫んでも水中では足手まといになるだけとの判断だった。
岸までたどり着き再び華恋を見る。
華恋はまともに防御も出来ずついには膝をつく。
それでも容赦なく打ちつける水の鞭。
翔太は怒りに震えた。
「おらぁ!こい!化け物!」
物の怪が翔太を振り返る。
「俺が相手だ!こっち来いやぁ!」
物の怪の目が怪しく光った。
それと同時に湖から水の手が伸び翔太に襲いかかる。
ガシッ!
翔太はその手首を掴み…、
ドシュウ…!
一瞬で浄化した。
怒りのせいか翔太はそれに気づかない。
それを見た物の怪がもの凄いスピードで翔太に迫り来る。
物の怪と翔太はつかみ合う形になった。
「おらぁ!」
膝で物の怪の頭を打ち上げ首が吹っ飛ぶ。
だがすぐさま新しい頭が再生され翔太の肩口に食らいついた。
「ぐあぁ!」
肩に激痛が走る。
翔太も頭を掴み必死に念を送るがビクともしない。
そこに華恋が割って入る。
華恋の手が翔太に触れる瞬間、物の怪は身を返し湖へと帰っていく。
「翔太君!」
肩口の傷はかなり深く、肩から手の先にかけて真っ赤に染まっていた。
華恋が【再生】と【守護】の力を流し込む。
そこへとどめとばかりに物の怪が今後は水の塊となり、猛スピードで翔太めがけて突進してきた。
翔太は軽い衝撃を受け横に倒れる。
そして目の前で、まるで車に跳ねられた人のように吹き飛ばされる華恋の姿を見た。
華恋の体がくの字に曲がる。
それでも物の怪は執拗に華恋の腹を食い破るがごとく攻め続け、ついには激しい衝撃音とともに大岩に叩きつけられた。
華恋の体は力なく崩れ落ちそのまま倒れこむ…、全ては一瞬の出来事だった。
その時、翔太の中で何かがはじけた。
「きっさまあぁぁー!!」
怒りに満ちた翔太が物の怪に迫る。
物の怪もそれに気付き翔太に襲いかかる。
「うらあっ!」
翔太が物の怪を蹴り上げる。
すると水の塊はそのばに落ち、髑髏だけが宙へと放り出される。
物の怪と水が分離した瞬間だった。
華恋の方をチラッと見る。
片膝をつき腹を押さえているが目は死んでない。
しかも目が合うとコクンと頷いた。
翔太が飛び上がる。
続いて華恋も飛び上がる。
物の怪はそれを見て慌てて水を呼び寄せる。
翔太は髑髏の両目に指を入れ掴む。
だが肝心の華恋が来ない。
先ほどのダメージのせいか、うずくまっていた。
翔太はとっさに、迫り来る水と髑髏の間に体を入れる。
ドドドォ
翔太の体が水に押され吹っ飛ぶ。
(ビンゴ!)
その先には華恋。
はじかれた水はその後を追う。
「華恋ー!」
華恋が翔太の手に触れた。
カッ
断末魔の叫びとともに浄化される物の怪。
それと同時に眩い閃光が目を貫く。
その光の中で翔太は再び地獄を見る…
真っ赤に燃える街…
逃げ惑う人々…
どうやら戦争のようだ…
街並みや人種、言葉からここが日本でないことがわかる。
その中逃げ惑う人々とは反対方向にはしる1人の男がいた。
何か叫んでる。
人の名前のようだ。
降ってくる火の粉に身を焦がし、飛び散るガラスや破片に傷つきながらも男は走る。
途中燃え盛る人や、瓦礫に挟まれ助けを乞う人を振り切り男は走る。
その男を焼けおちた家の瓦礫が襲う。
男は瓦礫の下敷きになってしまった。
どの位時が経っただろうか、男は目を覚ました。
激痛に顔を歪ませながらも男はイモムシの様に瓦礫から這い出した。
だが男の右腕はすでに死んでいた。
男はゆっくり歩き出し、やがて焼けおちた家の前に立つ。
残された左腕で瓦礫をどかしていくと、そこにうずくまり丸焦げになった人の死体。
男は躊躇しながらも目を瞑り死体を裏返しそっと目を開けた。
女の人だ。
奥さんだろうか、男はその場で泣き崩れてしまった。
すると、その女の腹部が微かに動いた。
男が衣服を剥がす。
そこにはその男の息子だろうか、2~3歳位の子供が息絶え絶えに動いている。
母親は身を挺して我が子を守ったのだ。
男はすぐさま我が子を抱き上げ話しかけている。
子供は目を微かに開け、父親に何か訴えかけているようだ。
男は瓦礫を取り除き大きなカメの蓋を開けた。
柄杓でかき回してみたが何もない。
どうやら水を探しているようだ。
近隣の家のカメを見たが割れていたり、消火に使ったのか空だった。
男は子供を抱いたまま街の外へと駆け出した。
しばらく行くと川に着いた。
しかしそこは地獄だった。
焼けただれた人々が川の中で死んでいる。
その人々の血や脂、煤や灰でとても飲める状態ではない。
その光景は上流でも変わらなかった。
中にはその水を飲んだ人の成れの果ての姿もある。
男は水を求めさらに上流へと走りだした。
時々息子に話しかけながら…
どれくらい走っただろうか、いや、走ることもままならない。
無理もない。
男の傷はかなり深く、もはや致命傷と言っても過言ではないほどだ。
ようやく飲めるほど澄んだ川にたどり着いた。
息子をそっと寝かせ左手で水を掬い息子の口へ運ぶ。
だが飲んでくれない…
息子はすでに絶命していた…
それでも息子の口に水を運ぶ…
何度も…何度も…
何度も…何度も…
翔太にはそれが「飲んでくれ…、お願いだから飲んでくれ…」と、聞こえるようだった。
やがて男は…
大粒の涙を流しながら…
絶叫し…
天を仰ぎ…
そのまま…
息をひきとった…
翔太は湖の畔に立っていた。
涙が溢れて止まらない。
華恋がそっと近づき頬を寄せる。
「辛い…?」
「ああ…。
さっきまで凄い憎んでたんだけどな…。」
「物の怪は倒さなくてはいけない存在。
でも、その根元が悪とは限らない…。」
翔太も華恋に寄りかかる。
「でも…、救えて良かった…。」
地平線のむこうの空から白々と夜が明け始めていた。
夜が明けて…。
この日は傷のこともあり、ゆっくり休養することとなった。
「今回はありがとう。なんかいっぱい助けてもらったね。」
「そうか?」
「うん。
途中浄化も1人で出来てたし。」
「う、うん。まあな。」
正直なところあまり覚えていない。
「でもあの後、華恋が吹き飛ばされた時、正直死んだと思った。
見かけによらず丈夫なんだな。」
「あれ、守護の力だよ。」
「え?そうなんだ。」
「守護はね、コントロール次第で肉体の硬質化、内蔵系の保護も可能なの。
まぁ今回衝撃が大きすぎてダメージ残っちゃったけどね。
だから、翔太君より丈夫なんだから二度とあんなことしないで!」
最後はちょっと怒り口調、あんなこととは水中で華恋の腕を放したことだろう。
丸1日休んだことで傷も癒え、体調も万全。
「よし!行くか!」
大声で叫び華恋の方を見る。
いつもなら「うん!」と、とびきりの笑顔を見せてくれるのだが表情が固い。
「どうした?」
「うん…。」
華恋はしばらく考えた後翔太に告げた。
「やっぱり…コントロールの練習しよ!」
「何で?時間ないんだろ?」
「あの時…、初めて会った夜、私が翔太君を守るって…。」
「ああ…。」
「だけど…、物の怪達の力を侮ってた…。
ううん。侮ってた訳じゃないけど、予想以上の力だった。」
拳を握りしめ、下唇をかむ。
「今回も、前回も…、守れなかった…。」
「そんなことないって。」
「ううん…。翔太君…。死んでもおかしくなかったんだよ。」
【死】という言葉に正直ゾッとした。
翔太が生きてきた時代は、はっきり言って【死】という危機感がまるでない。
今の自分がその【死】と隣り合わせだと改めて思うと、何も言えなくなっていた。
「物の怪はまだ、だんだん強くなっていく。
私が守りきれるという確証もまるでない。
…ごめんね…。
勝手なことばかり言って…。」
翔太はそっとうつむく華恋の頭を抱き寄せる。
「分かった。
分かったからこれ以上自分を責めるな。」
「ありがと…。」
華恋もまた、翔太の体に腕をまわした。
それから2週間…。
次の物の怪の領域まであと少しというところで華恋が立ち止まった。
「翔太君…。
次は前の2体と違うから十分気をつけてね。」
稀に見る華恋の険しい表情…。
こんな時は必ずよくないことがおこる。
「前と違うって?」
「前2体は根元となる霊体に様々な霊体が取り込まれ1つの思念体となった。
その思念体は集まった霊体の怨み、無念、懇願が合わさった新しい思念体。
故に本能的な行動、例えば殺す、喰らう、取り込むなどね。」
「うん…。」
「だけど今度の思念体には知能がある。」
「知能…?」
「根元となる霊体が他の霊体を完全に支配し力だけを強めていった。」
「そうなるとどうなるの?」
「知能があるのとないのでは敵としてのレベルが3~4桁違ってくる。」
「3~4桁!?」
翔太は思わず大声で叫んでしまった。
「今までは力でグイグイ押してくるだけだったけど、今度は違う。
敵は作戦を練ったり時には罠を仕掛けてくる。
もう一つ決定的に違うのが…
会話が出来るってこと。」
「そうなんだ…。」
「とにかく一筋縄ではいかないからね!」
翔太は甘くみていた。
華恋が言った「会話が出来る」ことがどんなに不利にはたらくのかを…。
そして2人は第3の物の怪の領域に入る。
翔太には自信があった。
この2週間何もしなかった訳ではない。
力のコントロールには練習に練習を重ね華恋なしの除霊にもあまり時間がかからなくなっていた。
それだけではない。
【守護】や【再生】のコントロールも上達し肉弾戦も常人とはかけ離れた力を発揮出来るようにまでなっていた。
そして今や恐怖に負けることなど有り得なかった。
不意に2人の前に男が現れた。
どう見ても霊体ではない。
生き残りだろうか、翔太がこっちに来て生きた人間に会うのは初めてだ。
「翔太君、気をつけて…。」
「え?」
翔太が華恋の方を振り返った瞬間!
ガシーン!
翔太の頭に男の正拳が炸裂!
…するところを華恋が防ぐ。
「まさか…、こいつが?」
男は拳を引っ込めニヤリと笑った。
「よろしく。翔太君…。」
翔太は背中に冷たい汗を感じた。
翔太がすかさず飛びかかる。
華恋が翔太に手を伸ばす。
しかし、寸での所で後ろに飛び退く物の怪。
「おっと!」
相変わらずニヤニヤ不敵な笑みを浮かべていた。
「こいつを喰らうと洒落にならん。
まだ鴉と違って免疫がないからな…。」
「免疫?」
「なんだ、そんなことも知らないのか?
華恋に聞いてみたらどうだ?」
「…?華恋?」
翔太が華恋の方を振り向く。
華恋は悲痛な表情を浮かべていた。
「どうした華恋。
教えてやればいい!
お前の母親のことを…。」
その言葉で華恋の表情が一変した。
翔太には見せたことのない怒りの顔。
怒りというよりどちらかと言うと無に近い。
その瞬間華恋が翔太の視界から消えた。
まるで突風が駆け抜けたと思ったら雷の音が鳴り響いた。
ドガァ!
消えた華恋がいつの間にか物の怪を蹴り上げていた。
天高く舞い上がる物の怪。
華恋の手が光り輝く。
華恋はゆっくりと光の弧を描き、その光を左手で持つ。
すかさず右手で光の矢を持ち、まるで弓矢の形をとった。
それを見ていた物の怪の顔が凍りついた。
「まっ…まて!
お前それを今使ったら鴉との戦の時どうすんだ!」
華恋は弓矢を引き狙いをつける。
だが、物の怪が落下するまでその弓矢を放つことはなかった。
そして光もそのまま消えた。
「ふぅ…。驚かせやがって。」
物の怪がゆっくり立ち上がる。
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