私たちヒトリゴト
―――わたしが私であるためには、どうしたらいいんだろう?
違う『わたし』たちは、
まだ存在してる。
いつまで、これは続くんだろう?―――
過去の枷に囚われたユミコの、
感情的なまどろみの間と、
並行して続く平凡に見せかけた日常生活。
ヒトリゴトが泡のようにあらわれる、そんなストーリー。
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「つまり、さ。
スキ、なんだけど……」
照れたように話す彼からその言葉を聞いたとたん、私は答えていた。
「わたしは、やめといた方がいいよ」
「……なんで?」
まただ。
ほんとは好きなくせに。
付き合いたいっていえばいいのに。
『でも、付き合ったら迷惑になる』
『わたしは、付き合っちゃいけないんだ』
「…わたし、きっと振り回すよ。迷惑かける………」
「……そんなの平気だよ。
それに、俺だって振り回したりするかもしれないし、束縛するかもしれないんだから。
…………それとも、
俺のことキライ?」
『ごめん。
……ごめんなさい。ちゃんと説明できなくて』
嫌になる。
うなだれてるわたしに、やっぱりうんざりする。
言葉が頭の中を満たして、私はわたしになっていく。
違うわたしに。
「ううん。
キライじゃない………スキだよ」
オドオドと自信なさげに、それでもはっきりと彼に伝える。
ああ、彼が嬉しそうな顔をしている。
今度はいつまで続くかな。
少しでも長く続かせるって、今度はもっと頑張るんだって。
そう、「彼女」は言ってるけど。
どうだろ?
結局、「彼女」は「彼」と付き合うことにした。
一応、「彼女」がココの主導権を握ってるんだから、「私たち」はなにも言えない。
あまり下手なことをして、また動けなくなるのも困る。
そう、そのことについてはなにも言わない。
とりあえず、「私」は、ね。
『続くと思うか?』
一人の人物が、私に話しかけてくる。
彼はなんだか複雑そうな表情をしていた。
『さあ?
別にいいんじゃない。本人がいいなら』
私はどっちだろうと、楽しくなれば構わなかった。
でも、
彼はそうもいかないんだろうな。
そう思うと、ちょっと気の毒かも。
……ちょっとだけね。
『なんなら賭ける?
あの子がいつまで続くか』
断ることは分かってたけど、一応、提案してみる。
案の定、
話しかけてきた時よりもさらに複雑さをました顔で断ってきた。
(っていうより、これは呆れられてる?)
『恵子。
おまえ、前より性格悪くなってねーか?』
『へきるには言われたくないよ。
あの子がヤりかけたとき、相手を殴りかけた人にはさ』
笑いながら言い返してやる。
言い返されたへきるは、口をとがらして視線をはずした。
『あれは、昔のことだろ…。
今はそんなことしてねーし』
あ、すねたすねた。
ついニヤニヤ笑っちゃう。
『だ、だいたい!
お前しつこいよっ。いつまで、何年も前のこと持ち出してくんだよっ』
昔のこと言われて恥ずかしいからって、私にあたんないで欲しいなあ。
事実なんだし。
それでも、私のニヤニヤ笑いとへきるイジリはやめられない。
からかいやすいやつって、どこにでも必ず一人はいるんだよね。
『まあいいじゃん。
何事もなかったんだから』
そう。
結局あのときはあの子が怖くなったのか、急に泣きだして行為も中断した。
へきるの方も、あの子に止められて手を引っ込めた。
とりあえずは、
「彼女」が「彼氏」を殴った
なーんてイヤな汚名(?)を着せられずにすんでよかったわけだ。
そのかわり、
その場は落ち着いたけど、そのあとあの彼とは結局別れちゃったんだよね。
どれだけ経っただろう。
家の前の車内のなかで、二人は話していた。
付き合ってなかなか会えない分、話はつきない。
グチやくだらない話ばかりして、お互い離れたくなかった。
それから、
手をつないで抱きあって、
唇を重ねあう。
ぬくもりをすぐ近くに感じた。
緊張から「彼女」は体をこわばらせ、手が居場所なく宙をさまよう。
彼の胸にようやく置いてもどこか遠慮がちで、添えてるかんじ。
優しいキスを何度も繰り返し、
「彼女」のほんの少し開いた唇に、スッと舌が滑り込んできた。
遠慮がちだったお互いの舌が少しずつ絡んで、息が荒くなる。
と同時に、彼の胸に置いた手に力が入った。
「………ンッ」
甘い吐息と声が車内を満たし、
車内の空気の密度が濃くなっていく。
肩にあった手がゆっくりと下にさがり、服のスソから彼の手が侵入してくる。
「…あっ…」
小さく声を漏らし、体をひねって抵抗する。
小さな抵抗。
決して拒否ではない、甘い抵抗。
恥ずかしさと戸惑いで、身体が熱くなっていく。
彼の肩に置いた手にも、ついつい力が入る。
彼が気づかないうちに、太ももをすり合わせ、身じろぎする。
「………イヤ?」
囁くような、
彼の甘い吐息を身体全身に感じて、ゾクリと身体を小さく震わした。
「彼女」は恥ずかしさと、熱で火照る身体を感じながらうつ向く。
「い、イヤじゃないけど……で、でも………」
どもりながら、恥ずかしさいっぱいの顔を隠し、彼の腕と胸にしがみつく。
そのセリフを聞くと、
ゆっくりと、彼の手は再び「彼女」の中に侵入し始めた。
「イヤじゃないんなら………」
「で、でもっ……あっ、ンッ」
自分以外の温もりを肌で感じながら。
ゆっくりと、
でも素早く、
その手は、上へ這いあがってきた。
ブラが上にずらされ、
「彼女」のコンプレックスでもある胸に、その手はあっという間にたどり着いた。
胸は、ブラの代わりに彼の手で覆われ、
唇にまたキスが落とされる。
「……ユミちゃんの胸、あったかーい」
太ももがまた無意識に動く。
「ンッ…ぅ。は、恥ずかしいから、あんまりそんなこと………」
顔が熱くて、
下の違和感も、
胸にある手も、
すべてが恥ずかしくてたまらない。
「彼女」の胸に添えられた手が、ゆっくりと柔らかく動く。
反応を見ていた彼が、また唇を奪い、キスと愛撫が一緒に続く。
そんな甘い時間は、そう長くは続かない。
気づけば「彼女」の中には甘い時間のなかでも、不安がいつもモヤモヤ漂っていた。
『受け入れてくれたけど、……ほんとに大丈夫、なのかな』
『どういう意味の大丈夫なの?もう話はしたでしょ。
―――人格が分かれてるけどって』
情緒不安定な「彼女」・飛鳥(アスカ)が考えてると、うしろから厳しい声が飛ぶ。
『鏡香(キョウカ)ちゃん……。だって……』
飛鳥が、オドオドと視線を宙にさ迷わせる。
またこれだ。
自信がなくて、甘えた子どもみたいな飛鳥。
相手が強気にでるとすぐに自分の意見を飲み込んで、結果、いつもストレスためてる。
『話すって決めたのは飛鳥よ。
今さら、だってもなにもないでしょ?』
鏡香があからさまにイラついてるのが分かる。
キャリアウーマンみたいなテキパキ動くのが好きな鏡香。
根本的に、2人は正反対。
だからよく鏡香は、飛鳥の言動にイラついてる。
最近ではちょっと丸くなったけど、そのぶん付き合ってる相手や他の人格へ、助言(口出し?)をするようになった。
これは、私たちの脳内?心の中の会話。
確認がとれてるだけでも、「ユミコ(戸籍上のほんとの名前)」のなかには、私をふくむ8人の人(人格?の方が正しいかな)がいる。
●主人格【飛鳥(アスカ)】
マイペースでおおらか。
誰にでも優しいけど、子どもっぽくちょっと甘えてる。バカ正直。
自信がなくて、ときに卑屈になる情緒不安定なコ。
男性への警戒心が少なく、恋愛もオクテで純情、誠実というかマジメ。
ちょっとMっけがあるかな?
●もうひとりの主人格【恵子(ケイコ)】
私のこと。基本的には明るめの性格で、場が暗いと盛り上げようとしちゃう。
お笑いとお酒、あと楽しいことが好き。
恋愛は熱しやすく冷めやすいけど積極的。めんどーごと嫌いで、ロマンチック苦手。
Sっけちょっとだけある、かな。
主に、私たち2人が「ユミコ」として存在してる。
私たち以外にも、他の人格としてまだまだ存在してるのもほんと。
考え方や好み、趣味もそれぞれ違う。
だからときどき、お互い衝突してしまう。
●サポート【へきる】
基本的に飛鳥に甘い。
男に近くて、恋愛関係の男だけ嫌い。男性目線の言動が多いフェミニスト(女に甘いってこと)。
性格は、短気でめんどくさがり屋。ケンカ上等。
なのに、なぜかお金の管理してる。
ロック系デザインが好き。
もちろん恋愛対象は女性。
●副人格兼サポート【鏡香(キョウカ)】
少し女王様気質で、言葉がちょっとキツイ。
キャリアウーマンタイプで、やりがいのある仕事があるとイキイキしてる。
計画通りに進まないとイライラ、優柔不断が嫌い。少し完璧主義者。
恋愛も、大人で知的な雰囲気を求めてる。
Sだね、絶対。
よく聞く多重人格とかあるけど、私たちが「そう」かなんて、もうどうでもよくなってる。
しょせん、医者が決めた病名や障害名がもしどうであろうと、この状態で生きていくことには変わりないんだから。
なんとかコントロールしながら生き抜いていくことも。
こんな状態で、たまに人間関係がうまくならなくても。
それでも、
この数十年間こんな感じで生きてたことには変わらないんだしね。
苦しさも、悔しさも、
楽しさも、馬鹿馬鹿しさも、
ぜんぶまとめて、なんとかなるんじゃないかなって思っちゃう。
でもこれは、私の―――恵子としての考えなだけで、飛鳥や鏡香はまた違うのかもしれないけどね。
お互いの感情が、言動が、混ざりあう場合もあるからトラブルはつきない。
そういうときは、みんなまとめてひとつになった方が、やっぱり楽なのかなとも思う………。
心のなかで飛鳥と鏡香が言い合ってる間も、外では彼氏との甘いキスと愛撫は続いてる。
彼氏の愛撫に、感じることは感じてるから、飛鳥も鏡香も本気のケンカにはなってない。
まあ。
彼氏とのあま~い時間のときに、こんな人格間の会話なんかせずにやることとっととやっちゃいなさいよって、私は思うんだけどさ。
『………あっ……ヤダ。
…ヤダヤダ……っ』
と急に、飛鳥が小さく叫び始めた。
飛鳥という存在が少し小さくなる。
とはいっても、これは「ユミコ」のなかの変化だし、小さくなるのもあくまで心のなかのイメージ。
見た目や、表情は変わらないから、彼氏も気づいてない。
(もしかしなくても、「シフト(交代)」しちゃうかな……これは。)
体がさっきより変な感じで、心がワクワクしてるのが分かる。
今、主導権は飛鳥から、違う「ワタシ」になるのを感じていた。
(これは、ややこしくなるかも。)
と、思う反面、どっかで楽しんでる私もいる。
彼女が恥ずかしがったために、結局はまた元の座席の位置に戻り、行為もまたキスまで戻ってしまっていた。
じゃれあいながら感じる、幸せと自分の状態への不安。
肉体のほうはというと。
さっきまでの愛撫で身体が火照り、下への違和感が波のようによせてはかえし、繰り返されていた。
初めてともいえる長く、密度が濃い快感に、彼女は恥ずかしさでどうしたらいいか分からなくなっていた。
そんなときだった。
火照った身体の奥底から、じわりじわりと何かがにじみ出る。
身体がゾクゾクして、自然と笑みがこぼれていた。
手が、隣の座席の彼をつかみ軽くキスする。
それから、お互いが求めるように自然とキスをしあい、だんだん深くなっていく。
舌をからめて、呼吸も荒く深く………。
また軽くキスを彼の唇にすると、どんどん場所を移動していく。
額へ、
まぶたへ、
鼻へ、
頬へ。
最後に耳にキスすると、そのまま舌をちろりとだし、彼の耳を舐める。
舌をちろちろ小刻みに動かし、彼の耳を舐めまわしたあと、そのままくわえる。
それは、
今までの恥ずかしげにうつ向き、手の置き場所にさえ戸惑っていた彼女じゃなかった。
笑顔で、なにより積極的に彼にキスする。
耳を舐めたかと思うと、次は首にキスをし、彼女は舌を這わせていった。
こうなると、彼も興奮したのか顔を持ち上げ、彼女の唇に舌を這わせ、深く吸いついてくる。
それから、彼女と同じように耳に舌をいれ、音をたてて舐めていく。
「初めてユミちゃんからキスしてくれたね。…嬉しい」
耳元でそう囁き、彼の舌が首へと這っていく。
と同時に、彼の手は再びゆっくり胸へと侵入し、先端をいじりだした。
「……ぁ。ハァ…ぅっ」
声が漏れると、さっきまでの手の動きが消え、最初のときと同じように彼へしがみつく。
「ま、待ってっ。い今のは違うの……っ」
快感と恥ずかしさのなかで、飛鳥は声を絞り出した。
「もしかして……、違う子になってた?」
察してくれたのか、彼が顔をあげ優しく聞いてくれる。
飛鳥はというと、首をこくこくと縦にふるばかり。
けど、会話してる間も、彼の右手は胸に置かれたまま。
「でも、ああいう積極的なユミちゃんもいいな」
満面の笑顔で返され、さらに飛鳥は困ったようにしどろもどろになる。
「で、でも…ぅう~…っ、恥ずかしすぎるよ……」
体を引き寄せられ、頭にキスをされる。
「オレは嬉しいけどね」
笑って彼が頭を優しくなでる。
まだ、彼の右手は胸の上。
「あ、あの。手ぇいれたまま話されてると、恥ずかしいんだけど………」
さすがに、恥ずかしさにたまらず声をあげた。
顔はあいかわらずうつ向きがちだけど。
「だって。あったかいからさ、出したくないよ」
イジワルそうに笑いながら、手を動かして固くなっている先端を指先でいじる。
身体は正直だ。
太ももが無意識に動く。
彼女も濡れてることくらいは分かる。
分かるからこそ、恥ずかしさが増していく。
また愛撫とキスの再開。
抵抗しながらも、震える快感に彼女は彼の愛撫の侵入を許していく。
自分の部屋で、ipodにいれてある曲が流されてる。
iPodに入れてある曲のジャンルは好みも違うからもちろんいろいろ。
そして、影響力が強い人格の好みや感情に左右される。
今、現在は飛鳥。
だから曲調もお気に入りの、まったりとしたポップス。
癒し系、かな。
本人はというと、さっきからため息ばかり。
ベットの上でごろりと寝転がっていた。
彼は一緒にはいない。
あれからしばらくあと、彼と家の前で別れを言い合い家に入った。
「『………ほんとイヤになる…もうっ』」
また、ため息とひとりごと。
こっちがうんざりする。
ようは、話を聞いて欲しいのね。
『いいじゃん。積極的なのもいいって喜んでたんだし』
『よくないっ!!
もう……ほんと、恥ずかしすぎる。あー、ヤダヤダっ!!』
顔をくしゃくしゃにして、ベットにふせる。
あまり悪いことじゃないと思う。あのくらいなら、ぜんぜん問題じゃない。
けど飛鳥にとっては、
「やらしい」
ってことになるみたい。
ときどき、飛鳥は純情とかでなく、ただの潔癖症なんじゃないかって思う。
『とりあえず、気をつけてれば摩紀(マキ)ちゃんにはならないんだから大丈夫だよ』
●快楽主義者【摩紀(マキ)】
エッチいことが好きな快楽主義者。とくに本番より前戯好きで、コスプレなんかも好き。
性格はよくて、飛鳥にも優しい。けど、飛鳥にとっては恥ずかしさと嫌悪の対象でしかない。
最近は、遠慮してるのかめったに出てこない。
SとM両方?ってか、バイかも?
ああ、でも飛鳥の泣きそうな気分と嫌悪感で、心はぐちゃぐちゃ。
また不安定だ。
不安定になりすぎて、フラッシュバックしなきゃいいけど。
昔のこと思い出すと、不眠症がさらにひどくなるんだから。
『飛鳥。もう、安定剤飲んでゆっくり寝たら?』
「……………いらない」
ブスッとした可愛くない顔で、声にする。
もし誰かいたら、完全にひとりごと言う変な子だね。
『……い、……き…らい。
嫌い……もうわたしなんかキライ……消えたい……』
あーあ。
やっぱり暗闇に引きずり込まれちゃった。
また「鬱(ウツ)」状態だな。
こういうとき一番、苦手だ。
こっちの言葉が届きにくいし、ヘタしたら危ない考えで頭いっぱいになっちゃうから。
『いつものことだから。対応は忘れてないでしょう?』
また急に、物静かな声で話しかけられる。
ああ、出て来たんだ……。
『あぁ紫音(シオン)。
ハイハイ、対処の仕方くらい、もう分かってるってば』
手をひらひら降って、彼(彼女?)に応える。
●サポート【紫音(シオン)】
中性的。
性格は冷静で落ち着いてるから、よく他人格・他者に助言する。老成してる?マナーや礼儀にこだわる。
研究者っぽくて、好奇心旺盛。
「変」って言われることが嫌いで、普通にこだわる。
和物好きでお酒も日本酒。
恋愛にはほとんど無関心。
こういうときは、水を飲ませて、気を紛らわせるような違うこと―――例えば、携帯ゲームや音楽・マンガとか―――をさせる。
これでダメなら、あとは安定剤を飲ませて好きなだけ泣かせるしかない。
『……………わたしが、やっぱり悪いんだ。そう、悪いんだよね……。
ごめんなさい。…ごめんなさいごめんなさい………
お母さんは悪くないよ。わたしがぜんぶ悪い。
だから、ごめんなさい…。
こんなわたし、嫌い。
もうイヤっ。
消えたいよ……。
どうしてわたしは、こうなの?
仕事だってちゃんと就職してバリバリ働いて、普通の女の子になりたいのに。
……ほんとは、エッチなんかしたくない。ああいうのはまだ大丈夫だけど、エッチはイヤ。
怖い。
これはやっぱり変なの?
なんで、わたしの中に何人もいるの?
声がするの?
好きなものが変わるの?
多重人格?
そんなの分かんないよ……。
消えたい。
そうすれば、きっとお母さんもお父さんもみんな、わたしのこれからのこととか、心配したり不安にならなくて済むし、お金だってかからない。
でも。
でも、へきると約束した。
死なないって。
死ぬこと考えちゃダメだって。
だから、わたしは死なない。
死ねない。
消えれない。
けど、
苦しいよ、ツラいよ。
息が、苦しい……。
ほんとにわたしは生きてていいの?
ココにいていいの……?』
『……!
飛鳥っ!?息してっ!!
ゆっくりでいいからっ』
気づいたら呼吸が出来ない。
っていうか、してない。
ノドがなにかで塞がれてるみたいで、息がまともに吸えない。
体は動かせても、
頭のなかでどんなに叫んでても、
私が気づいたときには、息を無意識に止めてて、呼吸が出来ずにいた。
頭が鈍く、重い。
酸欠でクラクラもする。それに、ズキズキ痛む。
ああ、また過呼吸だ。
昔のことを思い出してさらに酷くなる前に、落ち着かせないと………。
『とりあえず水、飲んで。
ゆっくり、深呼吸ね』
子どもを諭すように、ゆっくり言い聞かせる。
『………死んでくれって。お母さんは、わたしよりお金がいいの?死んだら大学行くお金払わなくていいって………』
『それは数年前のことでしょ。
……昔のこと思い出さないで、ね?』
言葉がぐるぐる私たちの頭のなかを回って、昔の場面やあの人の顔・声が繰り返される。
場面がころころ変わって、心の傷をまた広げていく。
ヒステリックな声・顔。
誰に言っても、私たちのワガママや甘えって受け取られて、私たちが「悪いコ」になる。
母親を悪者扱いする子ども。
ワガママで自己チューな娘。
そして、飛鳥はそれを敏感に感じとって、素直に受け入れる。
自分は、「悪いコ」なんだって。
母親の言うように、
友達ができるか、
彼氏ができるのか、
心配になるくらい自分はワガママで自己チューで性格が悪い人間なんだって。
だから、顔はニコニコ人前では笑いながら、なにかあると呪文のように心のなかで繰り返す。
『しっかりしなきゃ』
『誰にも迷惑かけちゃダメ』
『甘えちゃダメ』
『弱みを人に見せちゃダメ』
『他人の前で泣いちゃダメ』
あの人に褒められるため、認められるため、完ぺきに近づこうとする。
「イイコ」であろうとする。
たとえ、呼吸がうまく出来なくなってても「イイコ」「いい人」は変わらない。
変えられない。
昔はあんなに泣き虫で甘えんぼなコが、人前で泣くことを怒られてからは、必死でガマンしてガマンしてガマンして………。
とうとう、
同い年の従姉妹が亡くなっても、大好きな祖母が亡くなっても、みんなが泣いてる葬式のなかで涙ひとつ見せなかった。
泣かなかった。
人前で、泣けなくなってた。
そして、そのことにまた罪悪感を感じて、自分を責める。
……ほんと、なにやってんの?アンタ。
声のまったくない叫び声をあげながら、今起こってるみたいに昔を思い出してまだ泣き続ける飛鳥。
それを私はぼんやりと見た。
鏡香ちゃんじゃないけど、すごくモヤモヤする。
悔しい?悲しい?イライラする?
どう表現していいのか、分かんないよ……。
イヤだよ、私だってこんなの。
もう、うんざり。
けど、それでも私は生きたい。
だって楽しいことまだたくさんあるんだから。
色んな経験したいし、恋愛だってもっと楽しみたい。
……まあ、今の彼氏はたしかに笑顔はカワイイとは思うけど、あんまり私のタイプじゃないかな。
飛鳥は私で。
鏡香ちゃんやへきるや紫音、摩紀ちゃんだって私。
みんなでひとつ。
なのに、好きなものがみんな違う。
私が好きなものもへきるは嫌いだったり、へきるが好きなものを私が嫌いだったり。
考えてることも違ってたり。
って、あ~っもうっ!
こんなめんどーなことも、暗いことも、ほんとは私嫌いなんだからっ。
それに、早く泣き止まないと、酸欠でいつかほんとに倒れちゃうよ!?
ほんとは主導権握ってる相手に抵抗すると、苦しくなるから無理やりはイヤなんだけど………。
私は泣いてる飛鳥はそのままに、体だけを無理やり動かしてみる。
そのまま薬をとって、ペットボトルの水を飲む。
落ち着くまで時間はあるけど、とりあえずこれで元に戻ると思う。
健忘症、だっけ?
今考えてるようなイヤなことだけ、モヤがかかったみたいにぼんやりしてきて、しばらくしたら忘れてしまう。
そうすればまた普通に戻れるんだから。
きっと大丈夫。
……都合のいい話だよね。
でも。
生きていくために必要だから、忘れるんだと思う。
こうなった原因は虐待?
でも虐待の基準とか、それって誰が決めるわけ。
おえらい教授とか。
世間?それとも、子ども自身?
どこまでしたら『虐待』になるんだろ?
べつに、はっきり何をされたわけじゃない。
虐待じゃ、ない。
……たぶん。
ただの過保護と過干渉。
それからよく、欠点を並べられるってだけ。
誰かと比べられるのは、どの家庭でもあるし、たまにあるヒステリックな叱り方もよくある話。
そう、よくある話。
それに耐えられるかどうかは、親子の相性次第、なのかも。
バカ正直でちょっとひねくれた言葉の受け取りかたを小学校のときからしてたら、あっという間に、こんなんになってた。
自分を否定して、追いつめられたり追いつめたり。
思春期の「感情」も、自分への拒絶と痛みでどんどん変化して、1つの『ユミコ』っていう人格から枝分かれしちゃってた。
そのときの状況や感情によって、私たちは変化する。
ときどき絵の具のように、混ざり合った人格になるときだってある。
そのとき、そのときを生きるためにどうやら変化するみたい。
コントロールは、お互いが取り合ってる。
バランスよく、たまに紫音や鏡香ちゃんに助言してもらいながら。
それでも、よくこんなんで普通になんとか生活出来てるなって思う。
このままでいいのか不安になって、病院にもいろいろ行ってみたけど、ほんとうのことはどこにも言えなかった。
性格や好みが変わる私たちの存在も、話せない。
診察して話そうとすると頭は真っ白になるし、病院や目上の人に会うような公の場は、決まって紫音にシフトするから。
もともと紫音は、他人から「普通じゃない」と思われるのがキライで、病院の『心療内科』とか自体があまりスキじゃなかった。
そのかわり、心理学や今の私たちの状態を勉強するのがスキで、好奇心も私たちのなかでは一番強い。
だから、私たちをよく観察して、診断する。
シロート判断だけど、いろんな単語が今まで紫音から出てきた。
『解離性同一障害』も最初は考えてみたけど、いろんな点で違うみたい。
他には、『解離性』『人格障害』『統合失調症』『共依存』『過呼吸』……。
そのときどきの状態で判断して、当てはまるものをいくつか考えみてるみたい。
病名や障害名とかではないけど、『アダルトチャイルド』てのにも当てはまるらしいし……。
こんないろいろのことが解決して、ほんとの意味で落ち着くのはいつになるんだろ?
恋愛のほうもなんとか出来てるけど、ただ長続きはしてない。
飛鳥が情緒不安定になって、自己否定し始めたりすることや、お互いの好みもあるからね。
ほんとのとこは、なかなか難しい。
最初に付き合った人は、高校一年のときだった。
初々しくて、キスすらしない上にお互い奥手で、手すらも繋げない。
デート(?)もお互いの共通の男友達と三人で、みたいな笑っちゃうようなもの。
でも数ヶ月で破局。
別れた原因は、飛鳥が情緒不安定になって、
『やっぱ付き合わない方がいいんだよ』
で、振っちゃった、っと。
ちなみにその頃、私はまだ存在してなかったんだけどね。
次に付き合ったのが高校三年。
今までのなかで一番、相性はよかったみたいだけどね。
一時期、別れてまたヨリ戻して、それから大学行ってもまだ遠距離してたっけ。
初めての一人暮らしの部屋に呼んで、手料理もかいがいしく振る舞って……。
で、やっぱりそういう雰囲気になるよね。
初めての不安と怖さで飛鳥は、半泣き気味。
しかも、私たちの中ではへきるがイライラして、殴りそう(体勢的には蹴りそうかな?)な勢い。
それを、飛鳥が必死に抑えてて、その間にも彼氏の愛撫は続いて。
って、中から状況見てたらワケわかんないし、ほんと笑っちゃいそうなこの状況。
「どんな三角関係やのっ」って感じ。
いよいよ、彼の手が下に伸びてきて……、ってとこで飛鳥ギブアップ。
半泣きのまま、やっぱり今日は止めようって。
さらに泣いちゃうし、あの時の彼の気持ち考えたら、申し訳ないんだけどさ……。
で、しばらく数週間後にまた不安定になって別れちゃった。
原因の少しは、へきるにもあったんだけどさ。
へきるにとって、彼はあんまり好きなタイプじゃなかったみたい。
ナルシストっぽい感じが嫌で、さらにそんな男と初めてのエッチなんて……って。
まあ、もともとへきるは恋愛対象の男は全員嫌いだから、彼が悪いわけじゃないし仕方がないんだけどね。
普段は仲のいい男友だちっていう認識なくせに、飛鳥がスキになって恋人同士になると……微妙な顔をする。
さらにキスしたり、エッチな雰囲気になると、不機嫌というか嫌悪感がこみあげてイライラするみたい。
ちなみに。
あのあとへきるは、飛鳥に怒られるわ泣かれるわで、あれ以来、恋愛に関しては口出しはいっさいしないようになった。
相手に危害をくわえようとするのももちろんね。
まあこんな感じで、飛鳥が付き合うと交際期間は短い。
で、決まって振る理由は、『わたしはこんな(不安定だし人格別れてる)だから、付き合わない方がいいんだよ』だ。
これじゃあ相手はワケわかんないよね。
私たちにしたらちゃんとした理由なんだけど、相手はきっと頭んなかハテナいっぱいだと思う。
最短で一週間とかだしなあ。
そのときの原因は、
会うたびに毎回エッチぃ雰囲気になるのが、ストレス感じて……。
っていう、恋人なのに意味分かんない理由だった。
好きだったけど、やっぱりエッチぃことするのは、イヤ!ってこと?
初めて私たちのことや、人格(性質)が変わるって話もして、それでも付き合うって言ってくれた人だったんだけどね。
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 152HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 528HIT 旅人さん
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彼女持ちが女性のお願いで個人的な飲み会を開くってあります?
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9レス 196HIT 匿名さん (30代 女性 ) - もっと見る