🌻小説・14の魂🌻

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2023/07/23 09:37(曎新日時)

ご芧いただき、ありがずうございたす☺この物語は、あらかじめ決められた、14人の登堎人物たち(1目に掲茉)によっお、繰り広げられたす。圹名以倖は䜕も決たっおおりたせん。

メンバヌの皆さん、読んでくださる方ずもに、人物たちのキャラクタヌができあがる様子を楜しんでいただけるず幞いです🐀💕

※ただいたメンバヌ募集は〆切っおおりたす。

※盞談やご意芋などは、「小説③メン募・盞談🐀💚」たでお願いしたす✚

それでは、はじたりはじたり  

No.1160948 (スレ䜜成日時)

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付箋

No.101

「 ぀いおこないで。アタシには、やらなきゃいけないこずがあるの。」

少女は䜕の抑揚もない口調で呟く。そしお、先皋ず同じ方向に䞀歩螏み出した。子犬も同じ様に぀いおいったが、無芖する。

ゆっくりず、歩いおいく。


『そう やらなければならない。』
「   やら なきゃ。」
『お前は、やらなければならないんだ。』


 その声は、笑いを含んだ男性の声だった。少女にしか聞こえない、声。それが聞こえる床に、少女はい぀もそれに埓うのだった。

足が自然ず動く。

「りゥり ゥ」

突然、子犬が唞り始めた。さっきたでの楜しそうな雰囲気はない。たるで少女の䞭に響く声が聞こえおいお、それに譊戒しおいるようだった。
しかし、少女は構うこずなく歩を進める。ただ、前に 前に。

そしお、立ち止たった。
橋を䞁床枡り終える蟺りだった。

『さあ 行こう。』

少女はゆっくりず䜓の向きを倉える。歩道から、道路の方ぞ。

「キャンキャンキャン」

子犬が激しく鳎いた。しかし、その声が少女に届くこずはなかった。

「行、く 。」

※>>99 蚂正 
「産巣日が蚀っおた 」
→「塔子が蚀っおた 」

No.102

>> 101 「倏矎さん」
塔子は思わず、目の前の少女に呌びかけおいた。だが、圓然声は喉から先に出おこない。

「負けちゃダメ  ぬえに心の隙を芋せたら  」今床は俯き、独り蚀のように呟いた。自分が觊れおいるのが倏矎の意識あるいは無意識ずいうべきかだずいう事実はすっかり抜け萜ち、塔子自身がぬえぞの恐怖を芚えおいた。

「そこたでだ、塔子」
「産巣日」
䞍意に、すべおの情景が動きを止めた。

「塔子、お前は䞋がっおよい。ここから先は、我が術により意識を捜玢しよう。ぬえはやはりこの少女にたいし  蚘憶の改竄をおこなっおいる。少女が䞍幞ず感じ、封じ蟌めおいた蚘憶は、本来のものではないようだ」

No.103

>> 102 塔子は産巣日の小さな肩に手を䌞ばした。
「そうやっお、たた䞀人でやるの」
産巣日の芖線は氷氎を思わせる色に陰る。
「  䞋がれ、塔子」
「嫌だよ  眮いお行かないでよ、産巣日。私の知らない所で勝手に苊したないでよ」
塔子は掠れた声で呟く。産巣日はゆっくりず、塔子の掌を解いた。
「足手纏いだ  邪魔をするな」
産巣日の背䞭が遠ざかる。行っおしたう。
塔子は思う。
私は産巣日ず䞀緒だった。その時間は短いかもしれない。
それでも、それでもこんな颚に、ただその小さな埌ろ姿を芋送る為に費やした時間じゃない。
「足手纏いでも、邪魔でもっそれでも私はっ  」
塔子の蚀葉が途切れた。
産巣日の涙を芋るのは、初めおだった。
「もう  戻れぬかも知れぬのだぞ」
産巣日の声は滲んでいた。
「鵺は恐怖の蚘憶に䜏む。鵺の蚘憶は鵺其の物。韍平本䜓に非ずずも真の物の怪  意識を取り蟌たれれば、氞劫に眠りから醒めぬかもしれぬのだぞ」
塔子は頷いた。
「分かっおる」
「ならば  」
「それなら守っおよ。それでも行きたいんだよ。産巣日だけに、背負わせたくないんだよ  それだけ」
塔子はそう粟䞀杯笑った。震える足を粟䞀杯進めた。

No.104

>> 103 「  奜きにしろ」

産巣日はそれ以䞊、䜕も蚀わなかった。そしお再び映像が動きだした


「行、く  」

たるで催眠にでも掛かったように、少女は蚀葉の通りに、右足を車道に䞋ろした。
するず、たるでそれを埅ちかたえおいたかのように、車のラむトが圌女の姿を捕らえた。
圌女は車のラむトに気づいおいないのか、たた䞀歩、車道に歩を進めようずした。

圌女の背には、黒い靄が掛かっおいた。圢はハッキリずしないが、たるでその靄が、圌女を
背埌から埌抌ししおいるように映った。

『――産巣日、あれ!!――』

『――あぁ、間違いない――』


《鵺》だ。


圌女は虚ろな目で、たた䞀歩、車道に歩を進めた。車は、
スピヌドを緩める様子がない。
このたた行けば、最悪の事態は免れないだろう。産巣日ず塔子は、思わず固唟を飲んだ。

だがその盎埌、突然、黒い物䜓が圌女の足元に駆け寄った。

子犬だ。
子犬は圌女のスカヌトの裟に噛み぀き、圌女を必死で車道の倖ぞ匕っ匵り出そうずした。

No.105

子犬は匕っ匵る。粟䞀杯の力で。しかしその時、

バッ
ドガ
「キャィン」

少女の巊腕が、スカヌトにたずわり぀く子犬を物凄い力で剥がし、コンクリヌトの地面に叩き぀けた。子犬は党身に走る痛みに、悲痛な鳎き声を䞊げた。

『―― ――』

塔子は䞡手で顔を芆い、産巣日は黙っお埌ろの圱を睚む。過去の映像を芋おいるだけなのに、二人ずも少女を助けるこずが出来ないもどかしさを感じおいた。

が、その時。


「ガブ ガブリ゚ルそこにいるのか」

少し遠くの方から突然男性の声がした。

「キャン キャン」

子犬は、その声に応える。いや、呌んでいるず蚀うべきかもしれない。

産巣日は声のした方を芋る。
するず、闇を薄がんやり照らす街灯に䞀぀の人圱が浮かび䞊がった。必死でこちらに走っおくるのが芋える。塔子は、それを芋たずき思わず声を䞊げた。

『――あれは――』

その男性は子犬の元ぞ駆け぀けるず、芋た。 立ち尜くす少女に迫る䞀台の車を。

男性は 走った。

「危ない」





 産巣日は、呟く。

『――そうか、ここで来たか。――――――䞃仁。』

No.106

>> 105 「そう。ここで圌が珟れた。圌が叫ばなければ、倏矎が苊しむこずは無かったのにね」
その蚀葉に、圫刻のように蚘憶が動きを止めた。
「呜を倱うよりは䜙皋良い」
そう産巣日は呟いた。
「そうかい」
亀差点の䞭倮で、倏矎ず背䞭合わせに長身の男が立っおいた。
韍平だった。
圌の発する柄んだ声は産巣日の心を冷たく尖らせた。
「䜕故、倏矎を殺そうずした」
産巣日の問に韍平はこう答えた。
「圌女はずおも倧きく、矎しい想玉を持っおいたよ。その根を断぀為には鋭い刃が芁る」
「想玉を切り離すために、呜を奪おうずしたず蚀うのか」
韍平は自嘲気味に話を続けた。
「こうしお邪魔が入っおしたったけれどね。代わりに僕の真の姿を晒すこずで想玉を匕き出した。その行為が痕跡ずなっお君に感付かれおしたったのだから、皮肉な事だず思わないか」
産巣日は醒めた瞳で韍平を捉えた。
「貎様、倉わったな」
「倉わった」
「貎様は芋境無く蚘憶を喰らう。それでも  仕様も無い欲に憑かれおも、呜の重さだけは心埗おいた」
「  そうだったかな」
韍平は躊躇いがちに返事をした。
「䞀䜓䜕者がお前を突き動かす䜕故想玉を求めるのだ」

No.107

「   。その問いに、答える必芁はないね。」
「䜕だず 」

産巣日は韍平を鋭い目で睚み、䜎い声で聞き盎した。しかし韍平は動じるこずはなく、ただ薄く笑っおいる。

「君達は僕を捕たえたい。それだけだろうだったらこんなずころでモタモタしおないで早く次の僕の手掛かりを芋぀けるこずだ。 さお。い぀たでもこんな所で話しおたら、圌女に迷惑だろう。」
「っ貎様逃げる気か」
「ははっ逃げるも䜕も。これは僕の実䜓じゃない。本圓の僕はずっくの昔に、ここにはいない。分かっおるはずだろう   それにね。僕は君に構っおる暇なんお、ないんだよ。」

その時だった。

バッ
「 」

突然、倜の闇ず曇倩が光によっお匕き裂かれる。産巣日はその眩しさに、思わず顔の前に手をかざした。

「ほら、圌女が目を醒たす。 僕は行くよ。意識を取り蟌たれなかっただけでも有り難いず思えよ。」
「くっ 埅お」

産巣日が叫ぶが、光は蟺りをどんどん癜に染め、韍平の姿はあっず蚀う間に芋えなくなっおしたった。そしお、産巣日の䜓も。

光に 包たれおいく 

No.108

>> 107 あの嵐の日、助けるこずのできなかったこの少女を、今床こそ救いたい。䞃仁は冷え切った倏矎の手を力をこめお握った。ガブリ゚ルもたた、二人に䜓をピッタリず寄せ、倏矎の頬を舐めた。

「うっ  」

雲間から埐々に光が差し蟌んでくるのず同時に、倏矎がゆっくり目を開けた。その茶色がかった瞳には、䞃仁ずガブリ゚ル、そしお倱っおいた自らの蚘憶が、はっきりず映っおいた。

「倏矎」

「ななみ 。アタシ、アタシね、党郚思い出したよ。怪我のこずも、芪のこずも。それず  完璧じゃないけどぬえのこず」

䞃仁には、分からないこずだらけだ。が、䜕より、倏矎の無事に安堵する気持ちが倧きかった。

「アタシの母さんは、病気だったんだ。䞭孊にあがったくらいかな。奜きだった料理もしなくなっお、窓の倖を眺めおがんやり過ごす時間がだんだん増えおきお  アタシや父さんの顔も忘れちゃっおさ。父さんは、そんな母さんの姿に耐えられなくなっお、家を出たんだ。でも でもさ。アむツが蚀うように、アタシには䞍幞しかなかったわけじゃない。父さんは母さんを奜きだったし、母さんも、アタシが走るのを芋るず、すっごく嬉しそうな顔をしおたんだ」

No.109

>> 108 倏矎は目を现めた。
たるで遠い日の蚘憶に、焊がれるかのように。

「ねぇ  ななみ」

「ん」

倏矎は䞃仁から目をそらすず、たるで躊躇うかのように、ナックリず口を開いた。
そしお、掠れたような小さな声で、䞃仁に問いかけた。

「私  独りじゃ  ないよね」


少しの沈黙が流れた。
それは、僅か数瞬の䜙癜だった。だが倏矎にずっおは、それは䜕十分にも感じられるような、長い沈黙だった。圌女は無意識に、䞃仁の服の裟を匷く握りしめおいた。

するずそれを解すかのように、圌女の䜓は、優しい枩もりに包み蟌たれた。
気が付くず、圌女は䞃仁に匷く抱きしめられおいた。
䞃仁もたた、掠れたような小さな声で囁いた。



「  独りじゃないさ  」



䞃仁はそれっきり口を噀んでしたったが、䞡の腕でしっかりず、倏矎のこずを抱きしめおいた。
倏矎もたた、握りしめおいた手を解いお、䞃仁の背に回した。
涙腺が緩み、倧粒の涙が止めどなく溢れるのを、圌女は制するこずができなかった。

No.110

店内は静寂に支配されおいた。
産巣日ず塔子は怅子に座っお目を閉じたたた、埮動だにしない。゚リず真理はずっず、それを緊匵した面持ちで芋぀めおいた。
「ねえ、ただ目を醒たさないのもう1時間は経ったず思うのだけど。」

真理が䞍安げに゚リに話しかけた。゚リは少し沈黙しおから応える。

「 埅぀しか、ないよ 。」
「その通り。私達には埅぀こずしか出来たせん。」

背埌から聞こえた声に、゚リず真理は振り向いた。そこでは矢島が足を組ながらグラスに泚がれた氎をのんびりず飲んでいた。

「心配ないですよ。仮にも神様である産巣日さんが぀いおたすからね。党員倏矎さんの蚘憶に残存しおいる真壁韍平の思念䜓に意識を取り蟌たれる ず蚀ったこずはないず思いたす。少々時間がかかっおいるようですが 。」

矢島がそう蚀い、党員が産巣日に芖線を泚いで沈黙した。 その時。

産巣日の目が、カッず芋開かれた。䞀同は䞀瞬驚き、真理は思わず立ち䞊がる。

「 あ産巣日さん、よかった倧䞈倫ですか」

しかし産巣日は真理の蚀葉が聞こえなかったかのように、空を睚んだたた蚀った。

「くそ 取り逃がした」

No.111

>> 110 同時に、塔子が緩やかに目を開いた。
その手には、瑪瑙色の想玉が握られおいる。真理のそれずは違い、䞭でチラチラず炎が揺れるように、赀い茝きを攟っおいた。

塔子は産巣日の手を取り、想玉をポトリずその掌に萜ずした。
産巣日はそれをしばらく芋぀め、自分を取り戻すため頭を振った。
「  塔子、すたぬ。取り乱しおいたようだ」

「産巣日さん、『取り逃がした』っおいうのは  」
゚リがすかさず尋ねる。

「時間がない、端的に蚀おう。我々は、倏矎の蚘憶の䞭で、ぬえの思念ず接觊した。が、それを捕らえる前に倏矎は目芚め、思念はぬえ本䜓のもずぞず垰っおしたったのだ」

「でもあそこで䞃仁が珟れたからこそ倏矎さんは  」

「蚀わずずもよい塔子、分かっおおる。我ずお、嚘の呜ず匕き換えに目的を遂げようなどずは考えおおらぬ。それに  」

「ぬえに関する収穫は皆無ではない。ですよね産巣日さん」
産巣日の蚀葉尻をずらえ、矢島が䌚話に割っお入った。

No.112

>> 111 産巣日は頷いた。
「韍平は恐らく、すぐ近くに居る」
厚房の奥から蚝しげな衚情で恭介が姿を珟した。
「随分ず話が飛躍したな」
産巣日は暪目に恭介を芋た。
「根拠はある  お前の取り戻した蚘憶に、韍平は居たか」
「  いや、居なかった」
恭介はロマヌノから芋せおもらった写真を持ち出した。真理ず倏矎は頷いた。写っおいる男は韍平に間違いない。
「やはりな」
「どういう事だ」
産巣日の肩に九官鳥のパロが留たった。
「我はお前ず因瞁の深いパロを転生させおたで蚘憶を蘇らせた。それはお前の蚘憶に、鵺が関わった痕を感じた故の事  䜕故取り戻した蚘憶に韍平の姿が無い」
矢島が話を継いだ。
「韍は人の姿にしお人に非ず  恭介さんに接觊した時には、お二人の蚘憶にある韍平ずは違う姿だった、ずいう事ですか」
それを聞くず恭介はハッずした。
「俺の蚘憶に出おきたのは䞉人  俺自身ず、韍平ず写っおいるアリヌチェを陀けば  」
恭介は銖を振った。
「有り埗ない  ロマヌノ先生が鵺だったっお蚀うのかだっお、先生はこの前店に来たばかりで  」
「そう。わざわざ店にやっお来お、写真ずいう手掛かりを残しおいった」

No.113

>> 112 恭介の顔色が、埐々に倉わっお行く。焊りず戞惑いが混ざり合った衚情で、恭介は産巣日に詰め寄った。

「う  り゜だ!!
そんなバカなこずがあっおたたるか!!!先生だぞ!?
ロマヌノ先生が  鵺なわけ  」

恭介はそこたで蚀葉を玡ぐず、党身から力が抜けお行くかのように、ガクリずその堎に座り蟌んでしたった。頭の䞭では、様々な思惑が枊巻いおいる。
やがお沈黙がその堎を包み蟌んだ。
しばらく間を眮いおから、突然、産巣日が恭介の頭の䞊に右の手のひらを翳した。
そしお、たるで呪文でも唱えるかのように、『倧䞈倫。䜕も心配するな』ず、静かに、諭すように呟いた。
恭介はゆっくりず顔を䞊げ、産巣日の顔を芋぀めた。産巣日は包容力に満ちた衚情で、恭介を諭す。

「お前の垫は、鵺に身䜓を乗っ取られおはいるが、それも぀い最近のこずだ。
倧䞈倫、きっずすぐに救いだしおみせる」

「  本圓か  ?」

「あぁ。我は神だぞ、信甚するが良い」

そう蚀うず、産巣日は恭介の頭をスッず撫でた。するず恭介は、パタリずその堎に倒れ蟌んでしたった。
どうやら気を倱ったようだ。

「ほぅ、神通力ですね」

矢島がすかさず呟いた。

No.114

>> 113 《第八堎 远跡》

「さお  偉倧なる神の産巣日さん。さしあたりどうアプロヌチする぀もりです」

「黙れ、矢島。お前も気が぀いおいるであろう。これより先にぬえが韍の名を持たぬ者の肉䜓に取り憑いた䟋は無い。これがどういうこずか解るか」
恭介にロマヌノを救っおみせるず告げた時ずはたるで違う、沈痛な面持ちの産巣日だった。

「韍の性質は埐々に倱われ、ぬえの完党䜓に近付いおいる、ずいうわけですか  これはこれは、楜しんでいる堎合ではありたせんな」
矢島は取り繕うように咳払いをした。

しばし、沈黙が流れる。

゚リが食噚を片付けるカチャカチャずいう音だけが店内に響いた。

「私達にできるこずはある」
䞍意に、塔子が立ち䞊がった。私たち、ずいう衚珟に、真理ず゚リも顔を芋合わせた。

「実はな  ここからは、お前たち珟囜の人間にこそ、動いおもらわねばならぬのだ」

No.115

>> 114 「俺たちに、奎ず戊えずでも蚀うのか冗談じゃないな」
恭介が錻で笑い、そう蚀った。産巣日は銖を振る。
「人の力では坑う事叶わぬ  正盎に蚀えば、我の力でも磐石ずは蚀えぬだろう」
「元々の鵺でさえ、圓時最匷の陰陜垫達をしお倒せなかったのです。そしお蚎぀為に送った韍をも取り蟌んだ  今の力は、平安時代の比ではないでしょうから」
矢島はそう蚀っお、薄く笑った。
「お前達の『目』を貞しお欲しい」
産巣日はおもむろにそう蚀った。
「目っお  この目」
゚リは自分の右目を指差しお蚊いた。産巣日はコクンず頷いた。
「䜕、易い事だ  これから倖に出お、出来るだけ倚くの人ず、互いの目を芋お話をしおきお欲しい」
「  それだけ」
「それだけだ」
䞀同は拍子抜けに沈黙した。
「  䜕ずなく、分かったかも」
突然真理がそう呟いた。
「この街䞭の人を、監芖カメラにする  そんな感じ」
倏矎も頷いた。
「そっか。人の意識の䞭に入れるんだから、その人の芖芚を借りるくらい簡単っおこずか」
矢島は堪えきれないずいう颚に笑った。
「いやいや。皆さん随分ずこの垞軌を逞した䞖界に慣れおしたったようですね」

  • << 117 矢島の蚀葉に、真理ず゚リは互いに目を合わせた。 そしお、少し自嘲混じりの笑みを、どちらからずもなく浮かべた。 「さ、時間が惜しい。すたぬが早速始めおくれるか?」 産巣日の蚀葉に、二人は、い぀でもOKだず、返事を返した。 「奜機は今しかない。 珟時点での鵺の姿が分かっただけでも、倧きな収穫だ。 ダツは䞀床姿を倉えるず、暫くは他の䜓に移れないからな」 「  なるほど、確かにそれは奜郜合ね」 真理の蚀葉に、産巣日はコクリず頷いた。 鵺が恭介に接觊しおから、ただそんなに時間は経っおない。 運が良ければ、ただこの街にいる可胜性が高い。 真理ず゚リは店の裏から自転車を二台、抌しお出お来た。 恭介が趣味で集めおいる自転車で、晎れの日には店の入り口に、立お掛けお食っおある。 「じゃあ、行っおくるわ」 ゚リず真理は自転車に跚るず、そのたたスむヌっず滑り出した。 「  それで、私たちはコレからどうするの?」 塔子が産巣日に問い掛けた。

No.116

>> 115 《蚂正》
No.115のレスで恭介のセリフのシヌンがありたしたが、
誀りです🙇💊


真理、或いぱリのセリフで、
『私たちに戊えずでも蚀うの?冗談じゃないわ』
ず蚂正させお頂きたす🙇💊


匕き続き、本線をお楜しみ䞋さい。

No.117

>> 115 「俺たちに、奎ず戊えずでも蚀うのか冗談じゃないな」 恭介が錻で笑い、そう蚀った。産巣日は銖を振る。 「人の力では坑う事叶わぬ  正盎に蚀え  矢島の蚀葉に、真理ず゚リは互いに目を合わせた。
そしお、少し自嘲混じりの笑みを、どちらからずもなく浮かべた。

「さ、時間が惜しい。すたぬが早速始めおくれるか?」

産巣日の蚀葉に、二人は、い぀でもOKだず、返事を返した。

「奜機は今しかない。
珟時点での鵺の姿が分かっただけでも、倧きな収穫だ。
ダツは䞀床姿を倉えるず、暫くは他の䜓に移れないからな」

「  なるほど、確かにそれは奜郜合ね」

真理の蚀葉に、産巣日はコクリず頷いた。
鵺が恭介に接觊しおから、ただそんなに時間は経っおない。
運が良ければ、ただこの街にいる可胜性が高い。

真理ず゚リは店の裏から自転車を二台、抌しお出お来た。
恭介が趣味で集めおいる自転車で、晎れの日には店の入り口に、立お掛けお食っおある。

「じゃあ、行っおくるわ」

゚リず真理は自転車に跚るず、そのたたスむヌっず滑り出した。

「  それで、私たちはコレからどうするの?」

塔子が産巣日に問い掛けた。

No.118

産巣日はふぅ、ず息を぀くず怅子に深く腰掛けた。 そしおしばらく目を閉じお沈黙したあず 䞀蚀、蚀った。

「䌑む。」
「 は」

予想しおいなかった答えに、塔子は玠っ頓狂な声を䞊げた。

「 お前も今のうち䜓を䌑めるがいい。あや぀らの䜜業には、少し時間が掛かる。」
「ちょっ 䜕蚀っおるのよ時間が惜しいんじゃなかったの䌑んでなんかいられないでしょ」
「塔子。さっき倏矎の蚘憶に入ったずき 我らはだいぶ鵺の邪気を受けた。特に、人間であるお前の粟神は倧きく消耗しおいるはずじゃ。」

やれやれずいった颚に、産巣日は塔子にゆっくりず芖線を向ける。そしお目を閉じた。

「いざずいう時に䜿えぬ䜓など、圹に立たぬも同然。我は少し眠るこずにするぞ。」
「 ちょっず産巣日産巣日っおば」

 もう返事はない。産巣日は小さな息を立おおいるだけだった。

「 䜕お呑気な神様なのかしらね。」

塔子は完党に呆れおそう蚀った。


だが、


産巣日は眠っおいなかった。
目を閉じお 考えおいた。


鵺 やはり 私のこずを忘れおしたった、か 。

心で、虚しく呟いた。

No.119

>> 118 《第九堎 眠 》

翌朝。

「やっぱり、䞀番手っ取り早いのはコレよね」
駅からほど近い、垂内ではもっずも人通りの倚い亀差点。
゚リず真理は、ニダリずしながら互いの服装を芋぀めあった。
赀いサンバむザヌに、鮮やかなストラむプのシャツ。手にしおいるのは、新店オヌプンのファヌストフヌドのクヌポン刞だ。

「おはようございたヌす、ゞャックスバヌガヌでヌす新発売のハワむアンバヌガヌはいかがでしょうかヌ」
信号の向かい偎には、すでにハツラツずした様子でクヌポンを配る青幎がいた。

「おいおい、ななみたで䜕やっおんだよ  」

「いや、ほら、塔子いないずトレヌナヌの仕事できないしさ  やっおみるず意倖に楜しくっお  倏矎も䞀緒にやればいいのに」

「そんなしょうもないこずやっおられるかよアタシは普通にやるよ。ガブの散歩぀いでに、ちょっず走っおくるわ行こ、ガブ」
そう蚀うず、倏矎は信号の点滅する暪断歩道を軜快な足取りで走り去っお行った。

「俺は店で続けおみるから、゚リ、営業たでには戻れよ」
恭介もたた、自らの持ち堎ぞず足を向けた。

No.120

>> 119 「おいでおいで」
店の近くの公園は、異様か぀ほのがのずした光景を芋せおいた。
しゃがんだ塔子を䞭心に50匹もの野良猫が集䌚を開いおいる。
「  うん。そうそう  出来るだけたくさん  やっおくれる  うん、ありがずう」
塔子が手を振るず、猫たちはパッず四方に散っおいった。
「ほう、読心だけでなく䌝心も身に付けたしたか」
矢島がい぀もの埮笑を浮かべお歩いおきた。
「䜕かよく分からないけど、出来るかなっお思っおやっおみたら、案倖アッサリ」
塔子の蚀葉に矢島はクスクス笑った。
「皀代の動物䜿いですねえ」
「笑い事じゃないず思うんだけどなぁ  人間が神様からこんな力貰っちゃうのは」
塔子は足元の砂をいじりながら呟いた。
「それは貎方の力ですよ。貰ったのではなく、掘り起こしたず蚀うべき物です」
「垞識的に考えおこんなの人間には無理でしょ」
「人は自身を過小評䟡し過ぎですね。垞識を捚おれば、人の可胜性は存倖広いものですよ」
「随分人を誉めるんだ  蛇なのに」
塔子がそう蚀うず矢島は銖を振った。
「いやね、私にはどっちの事も分かるんですよ。蛇ずいうのは人でも神でもない、䞭途半端な存圚ですから」

No.121

>> 120 東偎のロヌルカヌテンを巻き䞊げるず、朝日が客垭のテヌブルに降り泚いだ。恭介は眩しさに目を现め、軜くのびをした。こんな時間の出勀は久々だ。今朝は女房ずも顔を合わせおいない。

あれからただ䞀週間も経っおいないのか  
厚房に塔子ず産巣日が初めお珟れた時のこずをふず思い出し、恭介は苊笑した。䞀床にいろいろなこずが起こりすぎお、急に歳を取ったような気分だ。

ロマヌノ先生を救わなければ。

そう焊る反面、この䞀週間のできごずはすべお幻で、このたた䜕事もなかったように日垞に戻っおしたいたい思いもあった。

〈  ョりスケ  〉

  
ふいに、誰かに名を呌ばれたような気がしお、恭介は入り口に顔を向けた。

しかし、誰の姿もない。

気のせいか  。

No.122

>> 121 恭介は厚房に戻り仕蟌みを続けようず思った。
しかし劙にもやもやした感じが恭介の螵を止めた。どうしおか気のせいにしおはいけないような雰囲気を、恭介は脈絡も無く感じた。
恭介は客垭を振り返った。窓の先には日垞の颚景がある。䜕凊にでもある道路ず街路暹。
䜕か違う。
突然、違和感が走る。歩道に立぀人圱の仕業だず、恭介は䞀瞬に理解する。
知っおいた。確かに知っおいた。
倚少、歳を感じさせたかもしれない。髪型も違うかも、䜓型も少し䜍倉わったかもしれない。
第䞀、朝日越しに窓から芋たディテヌルなんお分かるはずもない。
それでも芋間違いではないず確信できる。きっずそれは、本圓に特別な間柄にしかない䜕かの䜜甚だ。
「  アリヌチェ」
人圱が車道を枡る。恭介は匟き出されたように入り口のドアを開け攟぀。乱暎な動䜜がけたたたしく鈎を鳎らす。恭介の耳に響いたのは高い音だけ。圌女が振り返る。
「アリヌチェ」
叫んだ。倧声で呌んだ。圌女が䜕故そこに居るのか、韍平やロマヌノ先生ず関係があるのか、恭介は考えようずした。
「キョりスケ」
党おを遮る䞀蚀が耳を埋めた。
理由や因果が無くおもアリヌチェはただ、そこに居た。

No.123

>> 122 振り向いたアリヌチェの姿に、恭介は思わず芋ずれおしたった。
そこにあったのは、むタリアにいた頃の幌さの残る少女の姿ではなく、すっかり倧人の女性に成長したアリヌチェの姿だった。
圌女は焊点の合わない虚ろな県差しで、もう䞀床圌の名を呌んだ。

「キョりスケ  ?」

恭介はゆっくりずアリヌチェに歩み寄った。そしおアリヌチェの目の前たで来るず、カタコトのむタリア語で、そっず圌女に語りかけた。

「久しぶりだね、アリヌチェ」

圌女は、恭介のその声を聞くや吊や、衚情をほころばせお満面の笑みを浮かべた。

「キョりスケ、やっぱりキョりスケなのね!」

アリヌチェの手が恭介の顔に觊れる。

「おっ、おい  アリヌチェ!」

戞惑った恭介がそれを諫めようずするが、圌女はそんなこずなどお構いなしに、恭介の顔を懐かしそうになぞった。

「  目は芋えないけど、この顔の圢はハッキリず芚えおいるわ」

アリヌチェは目を閉じるず、恭介の頬を撫でながら静かにそう呟いた。恭介は口を噀むず、そっず圌女の手に觊れた。
圌女の手はむタリアにいた頃ず倉わらず、癜く、そしお綺麗な色をしおいた。

No.124

>> 123 「アリヌチェ。今は店の準備があるんだ。いや、実はそれ以倖にもいろいろあっお  」
恭介は、すこし焊りながら単語を繋いだ。
聞きたいこずも、蚀いたいこずも、山のようにあるようでいお、どこから蚀葉にしおいいかわからない。

「今倜、店が終わったら、たたここに来おもらえるか」

アリヌチェは悲しげな顔で俯いた。
「  キョりスケごめんなさい、私、もう行かなくちゃ。玄束があるの」

「行く、っお  むタリアに垰るのかそうだ、ロマヌノ先生は䞀緒に日本に来たんだろ」

「いえ、祖父は今重い病で  ベネチアの療逊所にいるの。私が日本に行くず蚀ったら、キョりスケに逢えないのが残念だっお蚀っおたわ」

「」

どういうこずだ  

No.125

ロマヌノ先生が日本にいない そんな銬鹿な

恭介は混乱しおいたが、必死に蚘憶を探った。 そう、぀いこの間。先生がここに来たこずを。

自分が出したパスタを、味が倉わったず蚀った。穏やかで、厳しい県差しを自分に向けお。あの時、アリヌチェの蚘憶ず共に 自分は気付かされたのだ。


料理を食べおもらう人ぞのもおなしの心。それを忘れおいたこずに。


昔から䜕も倉わっおいなかった。修業時代も、先生はあの県差しでい぀も自分に倧切なこずを教えお䞋さった。 あれは、ロマヌノ先生だったはずそうじゃなければ 誰なんだ


「キョヌスケ。」

そこに響いた透き通った声が、恭介を珟実䞖界ぞ匕き戻す。

そしお、次の瞬間

アリヌチェは、恭介をふわりず包み蟌んだ。

「 」
「䞀目でも。䌚えお よかった。でも、もう行かないず。玄束に遅れおしたう。」
「  。誰ずの、玄束なんだ」

圌女は答えない。ゆっくりず䞡腕を解き、出口に向かう。


 恭介は、劙な胞隒ぎを感じた。


「アリヌチェ 」

圌女は最埌に振り返るず、寂しく埮笑んだ。


「さようなら。キョヌスケ。」

No.126

>> 125 「アリヌチェ」

呌び止めたが、すでに圌女の姿はなかった。

目の前に珟れた時ず同じように、たばたきほどの間に姿を消したのだ。

幻  いやたさかな

頬にも手にも、ただアリヌチェが觊れた枩床が残っおいる。
恭介は、ふずこれず䌌た感芚を味わったこずを思い出した。ロマヌノ先生。あの時も、かれは颚に乗っお珟れたかのようにい぀の間にかテヌブルに腰掛け、恭介を呌んでいた。

アリヌチェずロマヌノ先生、どちらかがぬえの芋せた虚像であったのか。あるいはその䞡方か。
恭介は、深呌吞し、もう䞀床蚘憶を敎理しようず、フロントに眮いおあったメモ垳ずペンを取り、怅子に腰かけた。

そうだ。想玉に觊れれば、䜕か分かるかもしれない  
恭介の想玉は、䞭身の芋えない挆黒だった。倏矎や真理のものずはずいぶんむメヌゞが違った゚リに蚀わせるず、俺の腹黒さが出おいるずいうが、念のため産巣日から預かり、店の金庫に保管しおおいたのだ。

恭介は、慎重にダむダルを回し、扉を開けた。
  

No.127

>> 126 想玉が無い。
恭介はそれが信じられず、䜕床も手で金庫内を探った。
内郚に觊れた圢跡は党く無い。それなのに想玉だけが応然ず姿を消しおいる。
「今  䜕か来たな」
恭介が振り返るず、い぀の間にか産巣日が立っおいた。
「いや、アリヌチェが  それより芋おくれ。俺の想玉が無くなっおる」
「アリヌチェ」
産巣日は想玉の事を無芖しおそう蚊いた。
「  ロマヌノ先生の孫嚘だ。写真で芋ただろ」
産巣日は䞀頻り考え、それから頷いた。
「ならばその者がお前の想玉を盗み出したのであろうな」
「アリヌチェはそんな事はしない」
恭介は反射的に声を荒げた。産巣日は冷たい目で蚀った。
「我は『その者』ず蚀った。アリヌチェず蚀っおはおらぬ」
それを聞くず恭介は青ざめお呟いた。
「じゃあやっぱりあれは本物のアリヌチェじゃない  」
「が、鵺ではない」
産巣日はそう継いだ。
「鵺の気配は匷倧。幟重に隠そうずもこの距離で我が気付かぬ筈は無い  写真の件からも鵺はロマヌノで間違いない」
「じゃあアリヌチェは䞀䜓  」
「分からぬ。『目』の監芖に力を割いおいた故、気取り損ねた。しかし  人ならざる者であったのは確かだ」

No.128

>> 127 人ならざる者。
その蚀葉を聞いた瞬間、恭介は、䜕か䞍吉な予感を芚えた。
䜕か良くないこずが起こる。そんな気がした。

「ずりあえず、このこずは他蚀無甚だ」

「えっ  」

突然の産巣日の提案に、恭介は蚀葉を詰たらせた。

「ちょっ  ちょっず埅およ、なんで」

「想玉が奪われたずあっおは、皆の䞍安を煜るだけだ。䞍安は鵺に隙を䞎えかねない。だからこのこずは、他の連䞭には知られるな。良いな?」

産巣日の䞀方的な進蚀に、恭介はたた蚀葉を詰たらせた。

「  だけど、これからどうする!?もし想玉が鵺の手に枡っおるずしたら  ッッ!!」

「枡っおるずしたら」

産巣日が冷静に蚊ね返す。

「  えっず  どうなるんだ」

冷静になっお考えおみるず、実際にどれほどの実害が及ぶのか、恭介には知る由もなかった。
産巣日は呆れたように、小さくため息を぀いた。

「想玉はお䞻の心から生たれた産物だが、別に壊されようが汚されようが、お䞻に害は無い」

「あぁ  そうですか」

そう蚀われるず、想玉が盗たれたこずに察し、産巣日があたり関心を瀺さなかったのも玍埗が出来た。

No.129

深い闇の䞭でのこずだった。 そこがどこだかは分からない。

「 ご苊劎様。」

韍平が右手をさしのべ、そこに女性の手が重なる。 アリヌチェの手だった。その手は透けおいお、今にも消えおしたいそうだった。
韍平は甘く囁く。

「いい子だ。さあ、戻ろうね。」

そう蚀っお巊手に取り出したのは、蒌い光をがんやりず攟っおいる 想玉だった。
するず、アリヌチェの䜓はみるみる青みを垯びおいく。終いには䜓の圢も無くなり、もやもやした霧のようなものになった。
そしおすぅっず、それは巊手の想玉に吞い蟌たれおいった。想玉は党おの霧を取り蟌むず、よりいっそう深い茝きを増したように芋えた。

同時に、韍平は握っおいた右手をゆっくり開く。そこには黒い想玉が圚った。

「ふぅん。珍しい色だね。」

そう蚀いながらじっず芋぀めおいるず

「 」

挆黒の想玉が埮かに反応しおいるのが芋えた。脈打぀ように、光ったり消えたりしおいる。

「  。」

韍平は巊手の蒌い想玉を芋る。 同じ様に反応しおいた。それも、黒い想玉ずほが同じ間隔で光っおいる。

「 共鳎、しおいるのか。」

そこで、韍平はフッず笑った。

No.130

>> 129 「僕に無駄な垌望を持たせようずしおいるのかな」
韍平がそう呟くず、埌ろから䞀人の少女が姿を珟した。韍平の肘より䞋の小さな子だ。䞞く倧きな栗色の瞳が韍平を芋䞊げおいる。
「誰ず話しおるん」
「ああごめん、独り蚀だ」
「リュり兄、䞀人で話すの奜きやもんなあ」
少女は屈蚗なく笑う。
「別に奜きなわけじゃないよ  ほら矎姫、新しいのず借りおいたの、今日は二぀」
韍平は矎姫の持っおいるビンに黒い想玉ず蒌い想玉を入れた。
「黒いの初めお芋た  綺麗やなあ」
「ああ、綺麗だ」
「䞀緒に光っおる。黒いのず青いのっお仲良しなんかなあ」
「そうみたいだね」
「ええなあ、友達がおっお」
韍平は笑いながら、ビンの底に芖線を萜ずした。想玉はもう䞉぀しか入っおいない。
「奜盞性の想玉同士、盞乗効果で倚少は長く時間を皌げるが  しかし䞀から魂の鎖を創るにはやはり力の絶察量が  」
「たた独り蚀なん」
韍平はハッずしお矎姫を芋た。矎姫はしかめ面で韍平を睚んでいた。
「矎姫な、リュり兄の独り蚀、嫌や」
「どうしお」
「だっお  顔怖なるもん」
「  そうかな」
「鏡持っおくる」
韍平は笑っお矎姫の頭を撫でた。

No.131

>> 130 「なぁ、矎姫」

「うん」

韍平は撫でおいた手を止めるず、しゃがんで矎姫ず向き合った。
矎姫は銖を傟げお韍平の目を芋぀めた。

「  リュり兄は  たた遠くに行かなくちゃいけないんだ」

冷静に、諭すように、韍平は矎姫にそう告げた。
圌が矎姫の前から唐突に消えるのはい぀ものこずだが、今日はい぀もずは少し様子が違っおいた。矎姫もその違和感にすぐ気付いたらしく、咄嗟に韍平を問い詰めおいた。

「どこ  どこに行っおたうん?」

「  遠いずころだよ、すごく  遠いずころ」

「どこ?  どこそれ!?」

「蚀えないんだ」

「なんで!?なんで蚀われぞんのん!?」

「  」

「もう䌚われぞんのん  ?」

「  」

矎姫の問い掛けに、韍平からの返事はなかった。
幌いながらも、矎姫にはその沈黙が䜕を意味するのか、だいたいは察しが぀いた。
だが心のどこかでは、それを受け入れたいずする葛藀が生じおいた。

「リュり兄  」

矎姫の呌びかけに、韍平は芖線を萜ずしたたた、䜕も答えなかった。

No.132

韍平はしばらくしお矎姫にすっず背を向ける。そしお闇の向こうぞず歩き出した。しかし、その途䞭で振り向く。 ずおも優しい衚情で、こう蚀った。

「倧䞈倫。今いなくなるわけじゃない。たた䌚えるよ。」
「リュり兄。行っちゃ 嫌や。もう行かんずいおここに 居お」

矎姫は、目からぜろぜろず涙をこがしおそう蚎える。 しかし。

「   ごめんね。矎姫。」

その蚎えが届くこずはなかった。韍平は振り向くのを止め、歩く。 歩く。そこには、すすり泣きながら韍平の名を呌ぶ、1人の少女だけが残された。



 韍平は



もう少し。


笑っおいた。



もう少しなんだよ、矎姫。 僕の望みが、叶うのは。



自分の手の平を芋぀め、



僕の前からいなくなっおしたったあの人を 僕の手で、蘇らせる。



ぐっず握り拳を䜜る。



矎姫。協力しおもらうよ。  次に䌚うずきが、最埌になっちゃうね。






韍平は、闇に消えた。

No.133

>> 132 《第十堎 圌の地にお》

時を遡るこず十数幎。

韍平ずアリヌチェがはじめお出逢ったのは、枯町ゞェノノァのはずれにある、小さな教䌚でのこずだった。

このずき、韍平は真壁韍平そのもの。぀たり、ぬえに肉䜓をずられる以前の、いたっお玔粋な青幎である。


韍平は、初めおみるこの街の颚景に心躍らせ、倢䞭でシャッタヌを切っおいた。数倚くのクルヌズ船や持船が行き亀う枯にも憧れたが、韍平がもっずも奜んだのは、石造りの叀い街䞊みだった。
気に入った店や建物を芋぀けるず、奜奇心に任せお次々入っおいく。

そしお偶然足を螏み入れた教䌚で韍平が芋たのは、瀌拝堂にたった䞀人、祈りをささげる儚げな少女の姿であった。

No.134

>> 133 ステンドグラスから差し蟌む䞃色の光。その䞭に跪く少女はほのかな茝きを垯び、音の無い空間は時を刻む矩務を忘れる。
それは韍平に蚀わせれば無二の瞬間だった。
韍平は䜕も考えずにカメラに手を掛けた。しかし韍平の䞡手はそれ以䞊動かなかった。
「  どなたですか」
少女の高く枅らかな声が響いた。
「ごめん。邪魔する぀もりは無かったんだ  䜕お蚀うか、その、凄く絵になっおいたから」
少女は立ち䞊がっお韍平の方に振り向いた。
韍平は息を飲んだ。自分がどうしおカメラを構えるこずが出来なかったのか、瞬時に理解した。
玔癜のロヌブに包たれた少女の姿には他ずは決定的に違う、人ずは違う䜕かがあった。
䟋えば本物の聖女。実圚するのなら。
「  絵になる」
少女の声は楜噚の音色のように矎しい。韍平は迷い無く答えた。
「祈りを捧げる君の姿が、矎しい絵画みたいに様になっおいたから」
  怪し過ぎる。
韍平は蚀っおから気付いた。これでは自分が䞍審人物のようだ。
「あっ、誀解しないでほしいんだけど、別に僕はあやし  っお、あれ」
匁解を聞く少女の様子に、韍平は埮かな違和感を芚えた。
「君、もしかしお目が芋えない」

No.135

>> 134 少女は、䞀瞬䞍意を突かれたように、目を芋開いた。

「えぇ」

「  それはすたなかった」

「たぁ、䜕故謝るんですか」

少女は銖を傟げ、韍平に問いかけた。

「いや、あの  䜕ずなく」

「おかしな人」

少女はクスクスず埮笑んだ。その柔らかい衚情が、圌女の矎しさをより䞀局匕き立おた。
ステンドグラスの光が差し蟌み、圌女の無垢な笑みを照らしだす。
もしも女神ずいうものが実圚するのなら、今、目の前にいる少女こそがたさにそれだろう。
韍平は心の底からそう実感した。


「あっ  倧䞈倫なのかい芋えないんじゃ  」

少女は杖も䜿わずに、たるで芋えおいるかのように、突然韍平の方に歩み寄っおきた。
それを芋た韍平は、動揺を隠すこずが出来なかった。


「倧䞈倫です。この教䌚には小さい頃から通い぀めおいるので、杖がなくおも、どこに䜕があるのか分かるんです」

そういうず、圌女は歩幅を厩すこずなく、぀いには韍平の目の前たで歩み寄っおきた。
そしお二・䞉歩手前で立ち止たるず、少し奜奇心の混じった衚情で蚊ねおきた。

「芳光  の方ですか」

No.136

「そう、芳光できたんだ。それでたたたたこの教䌚を芋぀けおね。」
「そうですか。    。」

少女は少し黙り蟌む。䜕かを考えおいるようだ。 しばらくの間の埌、こう蚀った。


「もしかしお、日本の方ですか」


その問いに、韍平は驚いた。

「そうだけど。 䜕故分かったの」
「 いえ。蚀葉のアクセントが、以前芪しくしおいた日本人に䌌おいたので 。」

少女は 䜕か昔を懐かしむような衚情で、目を閉じる。


「あなた 名前は䜕ずおっしゃるのですか」
「 韍平だけど。真壁、韍平。」
「リュヌヘむ さん。もし宜しければ、私にこの街を案内させお頂けたせんか。」
「え、それは有り難いね。 でも君 たさか倖も自由に歩けるのかい」
「ふふ、盲導鳥が必芁ですけどね。」
「盲導 鳥」
「連れおきたしょうか。少し埅っおいお䞋さいね。」
「あ ちょっず、」

少女は韍平が止める間もなく、奥ぞずかけおいった。

No.137

>> 136 「それ  本物の九官鳥」

「ふふ 驚いた」

少女の肩には挆黒の鳥がちょんずずたっおいた。䞀瞬眮物かず芋玛うほど埮動だにしない。

「あ、自己玹介がただだったわね。私はアリヌチェ。家は枯の近くのレストラン。この子はパロ。今は私の友達よ」

アリヌチェは韍平を気遣い、簡単な単語を遞びながらゆっくり話した。

「パロ、この人はね  」

少女が韍平を指差した途端、九官鳥はいきなりバサバサず宙を舞った。

「キョヌスケキョヌスケ」

「パロ  」

No.138

>> 137 「頭が良い九官鳥なんだ。日本の知り合いの名前」
韍平は笑っお蚊いた。
「ええ  そう」
アリヌチェの衚情は䞀瞬に悲しく倉わった。空気が重くなる。
「ごめん  蚊かない方が良いこずだったみたいだ」
「  そんなこずないわ」
「そうだ、っお顔をしおる」
そう韍平が苊笑いで蚀うず、アリヌチェははっずしお顔を觊った。
「昔から芁らないこずばかり蚀っちゃうタチでさ」
「芁らないこず」
「昚日は撮圱犁止の堎所でカメラ出しお譊官に呌び止められ、逆ギレしお亀番で䞀時間説教食らったよ」
「バカ、バカ、リュヌヘむ、アホ」
「こい぀、頭が良すぎるんじゃないの」
アリヌチェは笑った。韍平はほっずしお呟いた。
「町、案内しおくれるんだよね」
「  ええ」
アリヌチェは明るい声で答えた。
「でも、僕もめがしい所は芋ちゃったしな。地元の人しか知らない穎堎ずか  」
そう韍平が蚊いた時、突然遠くからバむオリンの音色が響いおきた。
「ラ・カンパネラ  誰だろう」
「ラ・ノォヌチェ・デル・ドラゎよ」
韍の声。アリヌチェはそう呟いお䞀人で笑った。韍平には蚳が分からない。
「パガニヌニの墓は行っおないでしょう」

No.139

>> 138 「えっ  あぁ」

韍平がそう答えるず、アリヌチェは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「それじゃあ、今から行きたしょう」

そういうず、たるで無邪気な子䟛のように、アリヌチェは韍平の手を匕いた。
先ほどたでの、倧人しそうなむメヌゞずは打っお倉わっお、少女はずおも元気が良く積極的な性栌だった。
きっずコレが圌女の玠の姿なのだろう――



――「リュヌヘむ  は、日本のどこから来たの」

アリヌチェは色々な質問をしおきた。
おかげで二人の䌚話が途切れるこずはなかった。

「長厎だよ」

「ナガサキ  どんなずころ」

「綺麗な枯町さ。西掋颚の建物もたくさんあるんだ」

「ぞぇ  」

アリヌチェは目を茝かせお、異囜長厎の町を思い浮かべた。
異囜の地の颚景を想像するこずは出来なかったが、代わりに、圌女は町の空気や銙りを想像しおいた。
枩かい颚、どこからずもなく運ばれおくる朮の銙り  。

簡単なむメヌゞだが、そんな枯町のむメヌゞが、圌女の䞭には出来あがっおいた。

No.140

2人が䌚話しおいるうちに、目的地は芋えおきた。 パガニヌニの墓。そこで、韍平は䜕かに反応しお立ち止たった。

「たただ。」
「えっ 䜕がですか」
「バむオリンの音だよ。 さっきも、教䌚で。」

韍平は、音がする方向を探るようにきょろきょろずする。アリヌチェはああ ず蚀うず、くすりず笑った。

「ラ・ノォヌチェ・デル・ドラゎ 韍の声。」
「 さっきも蚀っおたね。それっお、䜕なの」
「ここに昔から䌝わっおいる郜垂䌝説よ。たずはお墓の前に行っおみたしょう。」

韍平は、はしゃぐアリヌチェに手を匕かれお墓のすぐ近くたで走る。韍平は戞惑っおいた。

郜垂 䌝説

バむオリンの音は 確かに。今。はっきりず聞こえおいるのだから。近くたで来るず、より倧きく聞こえおきた。優雅で、切ない この音色が。


「これが、かの有名なパガニヌニの墓。知っおる圌の奏でるバむオリンの技巧は、悪魔に魂を売っお手に入れたものだず蚀われるほどに玠晎らしかったの。」
「うヌん聞いたこずがあるような、ないような あはは、僕音楜はよく分からないから。」
「 韍の声は、それに関係しおいるのよ。」
「」

No.141

>> 140 「パガニヌニの奏でるノァむオリンの音色はね、“ドラゎの鳎き声”ずも呌ばれたの。圌の挔奏はドラゎにしか聞こえない響きを持っおいお、その旋埋にドラゎが共鳎しお歌いだす  」

アリヌチェは、その现い指先を指揮者のようにリズムに乗せお動かした。

「リュりヘむのリュり  ドラゎの意味なんでしょ日本語は、前にすこし芚えたの」

「おいおい、僕はドラゎじゃないよ」

韍平は冗談ぜく受け流したが、胞の奥でわずかに動悞が速たるのを感じた。

この堎所に来たのは初めおだし、パガニヌニずいう名も、聞いたこずがある皋床だ。䜕の瞁もないはずの音楜。

しかし、韍平の耳には、懐かしさをもったノァむオリンの音色が、今なおはっきりず流れおいた。

No.142

>> 141 「  リュりヘむ」

「え」

突然のアリヌチェの呌びかけに、思わず声が裏返る。
笑われるかず思ったが、アリヌチェの衚情はいたっお真面目なものだった。

「リュりヘむ、どうかしたの」

「え  どうっお」

「手が震えおる」

指摘されお、初めお、自分の手が震えおいるこずに気付いた。
小刻みに震える巊手。
するず、その巊手をそっず、アリヌチェの手が包み蟌んだ。
韍平は思わずたじろいだ。䞀気に、胞の錓動が高たるのを感じた。
いくら芪しくなったずは蚀え、ただ出䌚っおから䞀時間も経っおいないのだ。
おたけに異性に察する免疫も乏しかったため、突然手を握られたこずに察する衝撃は尋垞ではなかった。

韍平の巊手を包み蟌むアリヌチェの手は、枩かかった。
韍平は䞍思議な安らぎを芚えた。
アリヌチェの手から流れ蟌んできた熱が、党身を䌝っお、韍平の動悞を萜ち着かせる。

『韍の声』の挔奏が、どんどん遠くなっお行く。
韍平は、䞀瞬倢を芋おいるような錯芚に襲われた。

映像が芋えた。
――矎しい、芋たこずもないような幻想的な宮殿。
――神々しい老人達の姿。

No.143

>> 142 蟺り䞀面に霧がかかっおはっきりは分からないが、老人達は䞋界を芋䞋ろすような栌奜で、ひそひそず話をしおいるようだ。

【珟囜  】

【海を枡ったか  】

【やはり黄泉の  】

遠くの話し声は、どこか日本語のようにも思えたが、聞き慣れない単語が倚い。

韍平が目を閉じお、この癜昌倢に身を委ねかけた時だった。

【韍の文字  】

突然、萜雷のような音がしお目の前が真っ癜になる。

「」

「リュりヘむ」

アリヌチェは、䞀瞬びくりずした韍平の手を驚いお振りほどいた。

No.144

>> 143 韍平は数回匷く瞬きする。景色は倉わらない。
「具合が悪いの」
「倧䞈倫だよ  䜕お蚀うか  ずにかく倧䞈倫。䜕ずもないから」
アリヌチェの芗き蟌む瞳に韍平は笑顔を䜜った。
「私が郜垂䌝説なんお蚀っおあなたをからかったから  」
「からかった」
韍平ははっずしお耳を柄たせた。ノァむオリンの挔奏は曲を倉えお今も続いおいる。
「そうだ。さっきからこのノァむオリン  」
「ええ、私にもちゃんず聞こえおいるわ」
アリヌチェは舌を出しお笑う。
「若いノァむオリニストが亀代で匟いおるの。䌝説を実珟させようっおね」
「それっお  ああ、そういうこずか」
韍平は溜め息を぀いお䞋を向く。
「この町の連䞭は、そうやっお芳光客を隙しお楜しんでるわけだ」
「そう蚀われるずちょっず蟛いなあ  䌝説もこうやっお実感した方が印象的でしょ」
「トラりマになるずいう意味では」
「本圓に悪かったわ  お詫びに家でお昌を食べない」
「挔技䞊手の䞊に商売䞊手だね」
「お詫びに代金取るほどケチじゃありたせん」
アリヌチェは少し怒った口調で蚀う。
しかし、ただ担がれただけなのだろうか。韍平には埮かな匕っ掛かりが残っおいた。

No.145

>> 144 ――アリヌチェに案内され、韍平はゞェノノァ垂内のレストランにやっおきおいた。
倖芳はずおも叀颚で、結構な幎季の入った石造りの建物だ。
店の看板には『・・《Lacrima di Sirena》』ず曞かれおいる。
【人魚のしずく】ず蚀う意味だ。

「先に聞いおおきたいんだが、ここが君の家なのかい」

「えぇ、そうよ」

そういうずアリヌチェは、䜕のためらいもなく店のドアを開けた。
この時間は開店しおいないらしく、『準備䞭』ず曞かれた看板がドアに掛けられおいた。

「おじいちゃん、いる」

アリヌチェは誰もいない店内に呌びかける。
するず奥の方から、䞀人の老人が姿を珟した。

「おぉ、アリヌチェか。たた客を連れおきたのか」

「えぇ、日本の方よ」

「あっ  どうも、真壁韍平です」

老人は特に驚いた様子もなく、『そうか』ず蚀う味気のない返事が返っおきた。

「  あるもので良ければ、䜕か䜜ろう。たぁ、ゆっくりしおいきなさい」

矢継ぎ早にそう呟くず、老人はそそくさず店の奥に消えお行っおしたった。

「ごめんなさいね。人芋知りが激しいの、うちのおじいちゃん」

「  そのようだね」

No.146

アリヌチェはくすっず笑った。

「でもね、おじいちゃんのパスタは倩䞋䞀品なのよ。」
「ぞぇ。むタリアず蚀えばやっぱりパスタなんだね。」

韍平が少し叀びた店内を芋回しながら蚀う。するず、アリヌチェは少し心配そうな顔を韍平に向けた。

「お気に召さないかしら 」
「えっいやいやそういう意味じゃないよ。僕パスタ倧奜物だから。」
「そう」
「タバスコをかけお食べるのが奜きなんだ。」

韍平は明るく蚀った。心なしかうっずりずした衚情を浮かべおいるように芋える。そんな様子を芋おいたアリヌチェは、安心したように たた笑った。

「良かった。でもかけすぎはダメよパスタ本来の味を損ねおしたうから。」
「 うヌん、僕結構かけちゃうんだよなぁ。」

頭を掻きながら苊笑いした時。


キむィ ン
「っ」

韍平は埮かに衚情を歪めた。
 そう。それはパガニヌニの墓を出た時からずっず付きたずっおいた。


䜕なんだ この耳鳎り 。


頭に圓おおいた手をこめかみに持っおくる。そしおぎゅっず指を折り畳んだ。アリヌチェはそんな韍平の様子にただ気付いおいないようだ。


「パスタ、すぐ出来るず思うわ。」

No.147

>> 146 皋なくしおパスタが出来䞊がった。
「  どうぞ」
「枡り蟹ですか」
「ああ、ちょうど旬だからな」
韍平は枡り蟹のトマト゜ヌスパスタを䞀口運ぶ。途端に蟹の身の甘さずトマトの爜やかな酞味、生き生きずした新鮮な銙りが口いっぱいに調和しお広がった。
「  矎味い」
それはお䞖蟞や意識的な物ではなく、本圓に自然にこがれた蚀葉だった。
「枡り蟹のトマト゜ヌスはりチ䞀番の看板メニュヌだもの」
「でも、これはホントに矎味いよ。日本じゃ食えそうにない」
韍平は半分真面目にそう蚀った぀もりだったが、アリヌチェは笑顔で銖を振る。
「いいえ、日本でも食べられるわ。私が保蚌する」
「どうしお分かるの」
「それはね、日本にはキョりスケがいるから。圌がおじいちゃんの味を知っおる」
韍平は玍埗しお頷いた。
「そっか、圌は料理修業で来おたんだ  でもやっぱり食べられないかもしれないな」
「どうしお」
「こんな矎味いんじゃ行列が凄くお食えないかも。僕、䞊ぶの苊手なんだ」
「䜕それ」
「冗談の぀もり」
䞍意に無蚀だったロマヌノが口を開いた。
発せられた蚀葉は酷く意倖なものだった。
「君の名前  字はどう曞く」

No.148

>> 147 「はい」

韍平は呆気にずられたように、芖線をロマヌノに向けた。

「名前だよ、どういう字なんだい」

「えっず  」

韍平は、テヌブルの䞊の玙ナプキンを䞀枚取るず、䞊着のポケットからボヌルペンを取り出し、『韍平』ず蚀う文字を曞き滑らせた。
アリヌチェがそれを、暪からゞッず芋おいる。

「  字が汚いずか蚀わないように」

「気にしないで、芋えないから」

「おっず、そうだった  倱瀌」

玙ナプキンをロマヌノに手枡すず、圌は食い入るように、それに芖線を萜ずした。
䜕やら『韍』ずいう文字を凝芖しおいる。

「ふむ  この『カンゞ』ず蚀う奎はどうも圢が耇雑だな」

「どう曞くの」

アリヌチェはロマヌノの䞀蚀に、すっかり興味をそそられたようだ。
突然韍平の手を取るず『私にも曞き方を教えお』ずせがんできた。
韍平はアリヌチェの嘆願に戞惑いを隠せずにはいられなかった。

「あっ  えっず  」

「おぉ、ちょうど良い。私もアリヌチェも日本語の勉匷をしおいおね。
良かったらもう少し教えおくれないか」

「あ  えぇ、良いですよ」

No.149

「それじゃあいいかい『韍』を倧きく曞いおみるからね。」
「ええ、倧䞈倫よ。」

アリヌチェは韍平の手に自分の手を重ねたたた、にっこりず頷いた。ロマヌノはじっずナプキンを芋おいる。

1分皋経っお、『韍』の1文字が出来䞊がった。

「曞けたよ。アリヌチェはこれだけで、もうどんな字か分かるのかい」
「凄く難しいけれど、䜕ずなくどんな字かは分かったわ。」
「 アリヌチェっおホントは芋えおるんじゃ」

そんな韍平の冗談を、アリヌチェは「想像にお任せするわ」ず軜く流しおみせた。
その内、

「これが リュりか。」

ロマヌノが感心しお呟いた。

「はい。たぁ、日本でも普段はそんなに䜿わない挢字ですよ。」
「少しアリヌチェから聞いたのだが この『韍』はここで蚀う『ドラゎ』の意味なのかね」
「そうみたいですね。」

No.150

>> 149 それから䞉人は、たわいない䞖間話をしお過ごした。枯で働く男たちの話。アリヌチェの子䟛の頃の話。レストランの倉わったお客さんの話。
韍平が時折手ぶりを亀えそうになるず、ロマヌノがアリヌチェを指さしおせき払いをした。

「では  僕はそろそろホテルに戻りたす。アリヌチェ、たた䌚えるかな」
「ええ、もちろんよ、リュり。よい旅を」
韍平は店の入り口の扉に手をかけた。

「ああ  埅ちなさい、リュりヘむ。これを持っおいくずいい」
そう蚀うずロマヌノは、棚から出しおきた小さなガラスの小瓶を䞀぀、韍平の手に乗せた。

「  」
「お守りだよ。これから先に起こる倧きな灜いから、お前を守っおくれる  」
「はは たるで、僕に䜕かあるず決たっおいるみたいな蚀い方だ」

ロマヌノは急に真面目な顔になった。

「心圓たりがないならいいさ。ずにかく持っおいけ」
「でもこれ、䜕も入っおいたせんよ  」

  • << 151 「これから、入れるこずになる。これから」 「  はあ」 曖昧な返事で韍平は受け取った。 その瞬間に、党おは終わった。完了した。倖から芋えるやりずりはそれだけだった。 その時ロマヌノから韍平ぞ、鵺は乗り移った。 「そうですね。これから入れる」 韍平はたるで圓然ずいう颚に、迷いなく瓶を䞊着のポケットに収めた。 「  リュりヘむ」 アリヌチェは目に芋えない、けれども決定的な倉化を敏感に感じ取ったようだった。 いや、感じた。 韍平には人の感情が手に取るように分かっおいる。たるで目に芋えるように、䞍安、疑念、そんな色が芋える。 「どうしたの、アリヌチェ」 韍平は平然を、以前のたたを装っお蚊いた。 アリヌチェは䜕も答えなかった。ただ、閉じられたたぶたを韍平に向けるだけだった。 真摯に䜕かを確かめるように。 䜕かに気付いおいる アリヌチェの顔を芋た時、韍平にそんな勘が走った。勘なんお䜕の意味もないのに。感情の芋える今の韍平にずっおは。 気付くはずはない。想像が及ぶはずもない。ロマヌノずしお生きた時間にも韍平ずしお生きる時間にも。 自分の  鵺ずしおの時間はどこにも残らないのだから。
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りェブ小説家デビュヌをしおみたせんか 私小説や゚ッセむから、本栌掟の小説など、自分の䜜品をミクルで公開しおみよう。※時に未完で終わっおしたうこずはありたすが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしたしょう。

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