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闇の中の天使

No.72 13/02/19 20:48
中谷月子 ( ♀ ezeSnb )
あ+あ-

≫71


これまでのことが、頭をよぎった。
私は深呼吸をした。
弟の起こした事件で、私の家族はバラバラになった。
家を取り囲む、マスコミ、野次馬達、
耳を覆いたくなるような罵声、ガラスの割れる音…

病院で曽根崎先生に再会して、しばらく過ごした田舎にある洋館。
知らされた母の死。
父や、弟はどうしているのだろう…

今、私が直面している虐めの問題。

ぐるぐると頭の中をこの短期間に起きたことが駆け巡った。

「由香里さん!」
矢島さんに名前を呼ばれ、私は我に帰ると声のした方を向いた。
スマホを胸のポケットにしまいながら、矢島さんが近付いてきた。
「由香里さん、大至急ご自宅にお戻りください」
「何か。あったんですか?」
矢島さんは神妙な目で「旦那さまがお亡くなりになりました」と、言った。

急いで矢島さんと二人、自宅に帰った。
「おば様!」
リビングのソファーには、おば様がいつもの落ち着いた顔で座って、ティーカップを手にしていた。
「おかえりなさい」
私に向いて、そう言った。「ゆかりさん、わたしはこれから主人の通夜や葬儀と告別式にでますから、数日間、ここを留守にします。怪我をしている佐伯さんには申し訳ないのですが、いろいろな段取りをお願いしなくてはなりませんから、佐伯さんも留守になります。主人の葬儀にはマスコミ関係者が来ることと思います。中にはまだ、あなたのお顔を覚えている者がいるかも知れません。ですから、あなたは葬儀の後の告別式が終わるまで、高校を休んでください。元会長の娘婿が亡くなったのに登校するのはおかしいですからね」と、いつもと変わらぬ口調で言った。
そして「塚田さん、留守の間、ゆかりをお願いしますね」と言った。「はい、奥様」「矢島さんはこの家にいて、ゆかりを守ってください。私の運転手は他の者に申しつけます」「かしこまりました」「佐伯さん、怪我をしているというのに、ごめんなさいね。喪服の用意はできてるかしら?」「はい、ご用意しております」
「それでは…」と、おば様はすくっと立ち上がった。
私は、一人っきりの夕食を終えて、しばらくしてからピアノのレッスンを始めた。
なんとかソナチネの第二楽章を弾き終え、ひと呼吸して、もう一度最初からゆっくりと弾き始めた。


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