普通の日常の、異質な彼等
誰にも言えなかった秘密。
同じ経験をした友人や、一緒に体験をした彼を通し、私の秘密は秘密でなくなってきた…。
そんな私の秘密と、それに関わってきた人達を書いていこうと思います。
若干のフェイクはありますが、殆どが実話です。
(o>ω<o)ゞ
ガバッ!と跳ね起きた。
全身汗だくで、酷く不快だった。
体調不良が原因であんな夢を見るのか、あんな夢を見たから体調不良なのか…
分からなかったが因果関係はありそうな気がしていた。
明日もバイトなのに…。
お盆に休みをとっているため、それまでは毎日シフトに入っている。
バイトのみんなに迷惑をかけたくない。
明日には体調を良くしなければ…
このままだと風邪をひいてしまう。
シャワーを浴びるか、せめて着替えなければ。
ベッドから立ち上がると、グラッとふらついてまたベッドに座り込んだ。
朝から何も食べてないんだもんな…当たり前か。
食欲なくても何か口にしよう。
確かおにぎりを買っておいた筈。
独りきりでこの体調で、どう乗り越えたら良いのか不安だった。
いつまでも車で見送ってくれた母の顔を思い出していた…。
ドアを開けると
「やっほー!元気になったぁ!? …て、まだ顔色良くないねぇ。ちょっとお邪魔して良い?」
バイト先の先輩である綾子さんは、やっほーのあたりからもう靴を脱いで部屋に入って来ていた。
了解もへったくれもないけど、綾子さんの元気な顔を見たらホッとした。
「綾子先輩。今日はすいませんでした…マネージャー呼んでくれたの綾子先輩なんでしょ?助かりました。本当に体調悪くて、倒れそうだったんで…。」
「やーだ、あゆちゃん!何を他人行儀してんのよ?困った時は、お互い様でしょ?それより病院は行ったの?」
「あッ…いや、保険証なくて。行ってません…真っ直ぐ帰ってきて、そのまま寝てました。」
綾子先輩は、部屋をぐるっと見渡し、
「何て言うか、さぁ。男らしい部屋だね。まさにあゆちゃんらしい。」
「え"ッ!!あんま見ないでくださいよ、恥ずかしいッ!!」
「あはは、ごめんね病人なのに。そっかぁ、寝ていてもその顔色なら、やっぱりシフトは無理だね…。あゆちゃんを帰した後、マネージャーがシフトどうするか心配してたから、代打を決めた方が良いですって言っておいたの。だから、あゆちゃんは安心して、ゆっくり休んで大丈夫だよ?
」
有り難かった。
たかがバイト先で知り合って、まだ半年も経たない付き合いの私の心配をここまでしてくれるなんて…。
他人との繋がりって本当に大切なんだな。
ここでふと気がついた!
「綾子先輩!どうやってうちを調べたんですか?住所なんか誰にも教えてない筈なのに…。」
「……うぅーん、どこまで話して良いのやら、はははッ。実はねぇ、マネージャーって私の彼氏なの!あッ、これは内緒にしていてね?」
2人が凄く仲が良いことは周知の事実だったから今更驚かないんだけど、それとうちがどう繋がる?
私が首をかしげながらも頷くと
「いつも飄々としてるあゆちゃんが突然女の子みたいに『か弱く』なって、マネージャーかなり驚いてさぁ、あゆちゃんが早退した後、『あいつ独り暮らしだよな?部屋で倒れてたりしないよなぁ?』なんて心配してたんだぁ。で、6時に上がった私が様子を見に来ることになったんだけど、住所が分からない!そこでマネージャーが、履歴書で住所を確認して教えてくれたってわけ!」
やめてくれ、泣きそうになる
「ついでに言うと、差し入れしてって言われて3,000円貰ったから、必要そうなもの買って来ちゃった!!」
にこにこ笑いながら話す綾子先輩…
もうダメだ。
決壊してしまう…
俯いて肩を震わす私に
「きゃ、あゆちゃん!!大丈夫!?具合悪くなった!?」
心配してくれる綾子先輩。
「大…丈夫。大丈夫ッす。グスッ。ありがとうございます、グスッ。」
顔を上げたら、涙がボロボロ出てきた。
止められない、視界が涙の膜で歪み、綾子先輩の笑顔が良く見えない。
そんな私を、綾子先輩は優しく宥め
「少し横になろうか、マネージャーには2~3日休養が必要だって連絡しておくから、あゆちゃんは体を治すことに集中して?さっ、ベッドに入って!」
ティッシュで涙(鼻水も…)を拭きながら頷き
「着替えて良いですか?さっきまで寝てて、かなり寝汗かいたから」
と言うと
「じゃ、少しキッチン借りるね!どーせ何も食べてないんでしょ?軽く食べられるもの作るね!」
と、綾子先輩は台所へ向かった。
あ、また涙と鼻水が…
グシグシ顔を拭きながら、着替えをした。
可愛いパジャマなんて持ってないから、無地の地味なスウェットだ。
ベッドへ入ると、台所からいろいろな音が聞こえてきた。
「出来たよ~!綾子特製鍋焼うどん!!食べて食べて!」
普段なら真夏に『鍋焼うどん』なんてとんでもない!!と拒否するが
「うゎ…美味しそう!いただきます!!」
ベッドから這い出して来た私は、小さなテーブルに置かれた鍋焼うどんにがっついた。
熱くて少ししょっぱくて、ぶつ切りのネギは半生だったけど、とても美味しかった。
涙が出ないよう、食べることにひたすら集中した。
「あはは、そんなに一気に食べたら胃がびっくりするよぉ?」
「綾子先輩、ハフハフ料理出来るんですね~ハフハフ。卵も入っててめちゃくちゃ美味しいですよ、マネージャーは幸せだぁ!!ハフハフ」
綾子先輩は、クスクス笑っていた。
私も食べ終えた頃には笑顔になれた。
他人との間に見えない壁があった…
それが今では見えなくなっている。
手を伸ばせば届くところで、綾子先輩は明るい笑顔を見せてくれていた。
「じゃ、私はこれで帰るね~。冷蔵庫に、プリンやヨーグルト、飲み物も入れておいたから、ちゃんと食べたり飲んだりしなさいね。
あと、レトルトのカレーは棚に入れておいたよ。体温計とアイスノンもね。熱っぽかったら使って!明日も来れたら様子見に来るね、おやすみ~。」
私がうどんを食べ終え、ベッドへ潜ると綾子先輩は帰って行った。
お姉さんみたいだ…。
綾子先輩は私より3つ年上で、バイト歴は長く、社員からの信頼も篤い。
サブマネージャー(社員)への登用も考えられているとマネージャーが言うくらいだった。
バイトからの人気もあるし、お客様からもウケが良かった。
デキる女は違う。
普段から綾子先輩には可愛がられていたが、先輩に対する気持ちは尊敬を超え、敬愛と言っても良いくらいになっていた。
自分の部屋がこんなに居心地良くなるなんて…。
体調もかなり、快方に向かっているようだった。
翌日は多少ふらつくものの朝からきちんと起床し、シャワーを浴びてから朝食を済ませた。
洗濯物がたまっている。
いつものコインランドリーへ行こうかと思ったが、バイクをバイト先に置いてきたことを思い出した。
そういえばあのコインランドリーの駐車場にある公衆電話。
先週行った時には基礎部分のコンクリートだけ残って、ボックス自体はなくなっていた。
危なくないようにカラーコーンとロープで立ち入り禁止にしてあったよね?
あの女の人は、あれから一度も見ることはなかった。
どこへ行ってしまうんだろう…。
ちゃんと成仏出来たのかな…。
私には確かめる術も何もない。
あれも一期一会のうちに入るのだろうか。
暇だとこんなことばかり考えてしまうな…。
午前中はゴロゴロしながら過ごし、差し入れのプリンやヨーグルトを食べ、昼寝もした。午後3時頃にはふらつくこともなく、体は大分スッキリしていた。
足がないのは不便だった。
買い出しや洗濯は荷物が多くなる。
いつもならバイクでちょこちょこ用を足せるが、そのバイクはここにはない。
顔出しついでに、バイクを取りに行こうかな。
バイトも明後日には復帰したいし、それまでに身辺キチンとしておきたい。
身支度をするとリュックを背負い、家を出た。
暑いな…。
夕方近くになってもこの暑さ。
歩くとバテそうなので、バスに乗ることにした。
近所では子供達が追いかけっこをして遊んでいる。
あの小さな女の子が鬼の役みたいだな。
なかなか捕まえられず、手を伸ばしながら追いかけ回す姿を見て、頭の奥がチリッとした。
どこかで見た光景…。
バス停に着いても、子供達の声が聞こえていた。
私は幼い頃、父方のおばあちゃん宅に一時預けられていた。
妹を身籠った母が、妊娠初期から切迫流産になり入院したためだった。
容態が安定した頃には妊娠中毒にもなったらしく、結局産まれるまでずっと入院していたらしい。
父に手を引かれ、半日程費やし着いた父の実家は、山に囲まれた田舎の村だった。
4歳になったばかりの私は、父が一人で帰って行くと火がついたように泣きじゃくったらしい。
それから約一年、毎日おばあちゃんの農作業を手伝ったり、近所の牛舎を見に行ったり、川で小さな蟹を捕まえたりして暮らしたと聞いている。
記憶に残っているのは、おばあちゃんの古い大きな家と、山から流れてくる小川。
たくさんの田んぼとそれを囲むように聳える山々は、夜になると風を唸らせ、まるで檻のように私を閉じ込めていた。
バスで2つ目の停留所、そこから歩いて3分くらいでバイト先に着いた。
裏口からコソッと入り、事務所を覗くと店長とマネージャーが打ち合わせをしていた。
「おはようございます。昨日はご迷惑おかけしました。」
と、挨拶すると
「おう!もう出歩いて大丈夫なのか?シフトなら心配するなよ、夏休みだし学生のバイトはたくさんいる。お前の代わりも困らないから大丈夫だ。」
店長がそう言うと、マネージャーも
「うん、昨日より顔色は良くなったな。夏バテだったのか?お前は掛け持ちバイトしてるって聞いてたけど、無理してたんじゃないのか?そっちも休めるなら、しっかり休養とれよ!」
と、言ってくれた。
「心配かけてすいませんでした。掛け持ちの方は、週1~2回で中夜勤(17時~22時)なんで、夏休み期間はシフトに入らなかったんです。こっちがメインで 11時~18時までシフト組んで貰えるから時間も合わないし…だから大丈夫です。」
それから少し雑談し、裏方にいるバイト仲間に挨拶をして、店を出た。
駐車場でバイクを動かしていると、店内から手を振る綾子先輩の姿が見えた。
「きゃ!!」「わッ!!」
綾子先輩と私は同時に短く叫び
「もうッ!!急に開けるんだから!」
と言う綾子先輩を見て、私はホッとしていた。
あの女の子が居たのは、夢だったのか…。
凄くリアルで、少し怖くなった。
綾子先輩がここに来たのも夢なんじゃないのか?
なんて考えていたら
「なーに怖い顔してんの!?入るわよぉ~。」
と、綾子先輩は靴を揃えてスタスタと部屋に入って行った。
ぽかんと間抜けな顔をしていたと思う。
綾子先輩が私の顔を見て笑いだした。
「どうしたの~?まだ驚いてるの?昨日、明日も来るって言ったでしょ?」
「あ、いえ、あの…転た寝してて…びっくりして、つい…」
と、しどろもどろになる私
「あっ、寝てたんだぁ!?ゴメンね?とりあえず様子を見に寄っただけだから、すぐ帰るね。」
ちょっとバツが悪そうな先輩…
心配して来てくれたのに、こちらが申し訳ない。
「夕方お店に来てたでしょ?店長もマネージャーも心配してたから、顔を見せてくれて良かったって言ってたよぉ!もうすっかり良さそうで安心ね。ちゃんとご飯とか食べたの?」
「はい。朝はおにぎり食べました。昼前にプリンとかいただいて、夜はちゃんとご飯を炊いて食べましたよ。調子は良くなってます。綾子先輩が来てくれなかったら、昨日はどうなってたか判らない…本当にありがとうございました!」
先輩の笑顔はホッとする。
私が男だったら、きっとマネージャーと取り合いになるんだろうな…。
勝てないだろうけど。
綾子先輩は、保冷バックをテーブルに上げて、中からいくつかタッパーを取り出した。
「うちの母親の得意料理を冷凍してもらったの!作るのがキツイ時には、解凍して食べてね。」
煮物や茹でた野菜なんかが透けて見えた。
「ありがとうございます!ありがたく頂きますね、美味しそう…お母さんにお礼を言ってください。」
そそくさと冷凍庫にしまった。
ガラガラだった冷凍庫は、先輩から貰ったアイスノンや食料で見事に埋まっていた。
「ねぇ、あゆちゃん…。こんなこと聞いて良いのか分からないけど…。」
急に真面目な顔になった先輩は、声のトーンを下げて聞いてきた。
「何か悩みとかあるの?思い過ごしだったら良いんだけど…昨日のあゆちゃん、別人みたいだった…思い詰めたような表情だったし、体調が悪いだけじゃなさそうな…気がしたの。」
最後はやっと聞き取れるような小声だった。
どうしよう…
打ち明けるべきか。
何もないと濁すべきか。
打ち明けたとして…
気持ち悪がられないか、怖がられないか、心配だった。
視線を泳がせる私に先輩は
「あ、言いにくいことだったら言わなくて良いの!無理はしないで!?ただね、私で力になれることなら、なりたいと思ってたから…。」
くッ!!
また目頭が熱くなる…。
綾子先輩は、もう十分私を救ってくれた。
本音を言うと、今の関係を壊したくないと思っている。
誤魔化して濁そうと思っていた私の口からは、思いもよらない言葉が出てきた。
「……変な夢を見るんです…。とても怖い夢…。」
空気が変わった。
部屋の照明が少し翳った気がした。
「夢?どんな、夢?」
ピシッ!
壁が鳴った。
台所の照明もパチッ…パチッ…と鳴っている。
先輩は続けて何かを言おうとしたが、部屋の異変にキョロキョロしだした。
「どこかで停電にでもなってるのかなぁ!?何か変じゃない?」
気丈にも、普通に振る舞っていたが、多分怖かったんだろう…。
玄関ドアの郵便受けがパタパタパタパタ開閉しているのを気づかない振りをしてるから。
絶対に、後ろを向かないようにしている。
肩が強張っているのが分かった。
「変な夢です!!熊とか狼が追いかけて来て、食べられてしまう怖い夢です!!」
目を瞑って怒鳴るように言った。
と、同時に部屋の空気は元に戻った。
「あゆちゃん…。」
先輩は、口を真一文字に結んで体に力を込めていた。
「あゆちゃん、私では力になれないかもしれない、けどね!だけどね、一緒に居ることは出来るから!!一緒に笑うことは出来るから!!だから、だから…急にいなくなったりはしないでょ…!!」
先輩の言葉には、力が籠っていた。
優しさと強さが籠っていた。
見捨てないと言われたようで、受け入れると言われたようで、泣きたいのに笑っていた。
笑いながら
「先輩!本当にありがとうございます!そして本当にごめんなさい!今は、今はまだ、それしか言えませんが…嬉しかった…迷惑じゃなければ、ずっとこうして先輩と仲良くさせてください!」
先輩もにっこり笑ってくれた。
少し前の、あの冷たい空気も緊張感も、今はない。
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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