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普通の日常の、異質な彼等

レス78 HIT数 8032 あ+ あ-

自由人( ♀ )
16/07/14 18:27(更新日時)

誰にも言えなかった秘密。

同じ経験をした友人や、一緒に体験をした彼を通し、私の秘密は秘密でなくなってきた…。


そんな私の秘密と、それに関わってきた人達を書いていこうと思います。


若干のフェイクはありますが、殆どが実話です。


(o>ω<o)ゞ


No.2314850 16/03/22 19:16(スレ作成日時)

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No.1 16/03/22 23:53
自由人0 ( ♀ )

思い起こせば、初めて「存在」に気付いたのは高校生の頃だった。

進学校に通っていた私は、中間や期末試験前は家中で一番静かで誘惑の少ない、仏間で試験勉強をしていた。

持ち込んでいたのは教材一式と折り畳みテーブル、それに布団。

夜中の2時くらいまで一心不乱に勉強し、眠気が強くなったら壁沿いに敷いた布団に潜って眠っていた。


No.2 16/03/23 00:11
自由人 ( ♀ )

眠りにつく寸前、必ず足音が聞こえてきた。


ぺりっ ぺりっ ぺりっ…

裸足で畳を歩く足音。
私の寝ている布団の周りを歩いている。


気にはなったが、あまりに強い眠気だったのでそのまま眠りに堕ちる。

それが試験期間中ずっと続いた。

昼間はすっかり忘れているし、そんなに怖いとも思っていなかったから、家族にも話さなかった。


No.3 16/03/23 00:25
自由人 ( ♀ )

高校生活最後の日、お世話になった勉強部屋(仏間)に泊まった。

私なりに感傷に浸っていたのだと思うんだけど、寝る前にご先祖様にお礼を…と思い、仏壇に手を合わせ、最後の夜を楽しみながら布団に横になった。


電気を消してもしばらくは寝付けなかったが、やはり足音は聞こえてきた。


ぺりっ ぺりっ ぺりっ…

ああ、来たな。
そう思ったとき、あることに気づいた。


私が寝ている布団は、片側を壁につけている。
だから、壁を通り抜けない限り、周りをぐるぐる回ることは出来ない筈だ。


でも足音は、当たり前のように布団周囲を同じペースで歩いている。

なんで?
不思議に思うも、少しずつ瞼が重くなり、足音に聞き入りながらも寝てしまっていた。

目を開けたら、何が見えたのだろう?
足音をたてている人物が見えたのだろうか?

でも、これも不思議なんだが足音が聞こえている間は、目を開けよう!とは思わなかった。


これは何年経っても、謎だった。

ただ、何かしら「存在」するものがあるのだろう。で、帳尻を合わせていたと思う。


No.4 16/03/23 00:42
自由人 ( ♀ )

高校を卒業した私は、短大近くのアパートへ引っ越した。
同じ県内だが実家では妹(中学生)と同室だったので、両親に懇願しアパートを借りて貰った。

条件は、学費と家賃以外は自分で稼ぐこと。


幸い、近所のコンビニとファーストフードで掛け持ちし、予想以上に稼ぐことが出来た。

何せ、ファーストフードで閉店まで働くと廃棄品を貰えたし、コンビニでも廃棄弁当等貰う事が出来たので食費が殆どかからない。

しかも学校とバイトで殆ど外にいて、アパートにはシャワー浴びて寝るために帰るようなもんで、光熱費も知れたもんだったから。

No.5 16/03/23 10:09
自由人 ( ♀ )

家具は最低限のものだけ買い揃えて貰えた。
小さな冷蔵庫、二合炊きの炊飯器、洋服ダンス。

それ以外は贅沢品と見なされ、欲しければ自分で買えという暗黙の了解。

洗濯機も贅沢品なのか、買っては貰えなかったので、毎月残ったバイト代を貯め小さな全自動洗濯機を購入した。(当時はまだ二層式が主流で、全自動は高価だった笑)

それまでは2~3日おきにコインランドリー通いをしていた。

そこでも面白い体験をすることとなる。

No.6 16/03/23 10:28
自由人 ( ♀ )

コインランドリーへは大体夜中に通っていた。

リュックに洗濯物と飲み物、お菓子、マンガ本を詰め、原付バイクで行っていた。


洗濯から乾燥までで大体1時間20分くらいかかったので、その間、マンガを読みながらオヤツタイムにしていた。

私が行く時間帯には、いつも同じような学生(大体男)が1人や2人は大量の洗濯物と共に来ていた。


私は高身長、痩せ型、まな板胸だったし、ショートカットで中性的に見られていた。
だから、他の客が男でも自然と雰囲気的に溶け込めていた。
ナンパや声かけなどされたこともなく、そういった危険は自分とは無縁だと自負すらしていた。


コインランドリーでのひとときすら、日常のひとこまになっていたそんなある日…。

No.7 16/03/23 10:51
自由人 ( ♀ )

コインランドリーの隣に小さな駐車場があり、その道路沿いの片隅に電話ボックスがあるのだが、いつも誰かが使用していた。

当時はまだ携帯電話なぞ普及しておらず、通信手段といえば家の固定電話か公衆電話のみの時代だった。

だからいつも誰かが使用していても違和感はなかったのに、今日は何故か違和感を感じた…。

ゴトンゴトンと乾燥機が回る騒音の中、マンガを読みながら意識は公衆電話へと向かっていた。

違和感の正体を探るため、窓からチラッと電話ボックスを覗いたりもした。

いる。
まだ話しているようだ。

こちらに背を向けた、長いスカートの女性の後ろ姿。

あ、そうか!
違和感が分かった!

いつも、同じ女性だからだ。
いつも、同じスカートの長さで、同じ後ろ姿を見ていたから違和感を感じたんだ!



No.8 16/03/23 11:01
自由人 ( ♀ )

あの女性は、あの服装しか持ってないのか?
毎回毎回、見るたび同じ服装じゃないか!

しかも毎回私がここに来る時から帰る時まで確実にいる。
最低でも毎回1時間半くらいは通話していることになる。


違和感の正体が分かり、モヤモヤが晴れたのかあとはまたマンガに集中し、時間を潰した。


帰りがけ電話ボックスを見ると、まだ通話しているようだった。

電話ボックスの薄緑の光は、暗闇を照す灯台のように人の心を惹き付けるのだろう…。


No.9 16/03/23 18:50
自由人 ( ♀ )

翌日は短大が休みだったため、朝からバイトだった。夕方バイトを上がり、久しぶりにバイクで近くをプラプラしてみた。


ふと…
昨夜の電話ボックスが気になり、行ってみることに。

ヤバイ。
お腹の虫が騒ぎだした!
電話ボックスは後回しだ。
先ずは腹ごしらえ。
近くのラーメン屋に入り、スペシャルセット(ラーメン、炒飯、餃子の王道セット)を注文した。


来た順に食べ尽くし、全て平らげるとまた興味は電話ボックスに戻っていた。

よし、行ってみよう!


店を出る頃は、外はすっかり暗くなっていた。


No.10 16/03/23 19:03
自由人 ( ♀ )

しばらく走り、コインランドリーの明かりが見えてきた。

いつもの駐車場にバイクを停め、電話ボックスがある方向を向いた。

変だ。

いつもの薄緑の光が見えない。
近寄ってみると、ボックス自体はあるものの、灯りが点いていなかった。

不審に思い、そっと扉を開けてみた。


あれ?電話機がある場所に、何もない?
しかも暗くて良く見えない。

手探りで辺りを探ると、一枚の貼り紙に指先が当たった。

破らないよう、そっと剥がし、ボックスの外へ出た。

ダメだ、暗くて何が書いてあるのか分からない。

仕方ないのでコインランドリーに入り、そこで読むことにした。


No.11 16/03/23 19:15
自由人 ( ♀ )

その紙には、そこの電話ボックスが取り壊される旨、移転先に既に設置されてる旨が書いてあった。

日付を見ると、もう1ヶ月以上前から貼られているらしい…。


紙を握りつぶしたくなる衝動に駆られたが、そこは我慢した。

そしてまた電話ボックスへ戻り、何事もなかったかのように紙を元の位置に置いてきた。


バイクに跨がりエンジンをかける時、チラッと見たが、相変わらず灯りはついていない。


チッ。
舌打ちし、家路についた。


No.12 16/03/23 22:21
自由人 ( ♀ )

テレビもラジオもステレオも何もない部屋では、娯楽といえばマンガだけ。

中学生の頃から変わらない習慣の一つに、「勉強は試験直前のみ」というものがあり、今までそれで何とかやってこれたので、今更その習慣が改善されることはなかった。

本棚のない部屋に大量に積まれたマンガが、当時は最高の娯楽だった。中でもお気に入りは北斗の拳と、スケバン刑事。

しばらく読み耽っていたが、ふと、例の電話ボックスが気になり出した。

あの後ろ姿の女性。

肩までの髪に淡いオレンジのカーディガン。
薄茶色のロングスカート。
頭の中でぼんやり思い出していた女性の後ろ姿。

その頭がクルッと回転し、顔を向けた瞬間、ニッと笑った。



No.13 16/03/24 11:11
自由人 ( ♀ )

ハッ!とした瞬間、手にしていたマンガがバサッと落ちた。

そわそわと落ち着かなくなり、冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、立ったまま口をつけがぶ飲みした。

冷たい感触が、喉を伝わり胸から胃に流れるのがわかった。


確かめたい。
確かめたい。
確かめたい…。

いてもたってもいられず、ベッドからシーツを剥ぎ取り、枕カバーを外し、洗面所のタオルとバスタオルを全てリュックに押し込み、読みかけていたマンガを詰めたら家を飛び出した。

バイクで向かったのは、勿論あの電話ボックス。

いや、違う違う!
いつものコインランドリーだ!


No.14 16/03/24 20:05
自由人 ( ♀ )

いつもと同じ道順で、近付くにつれ気分も落ち着きだした。

コインランドリーの明かりと、薄緑の淡い光。


電話ボックス前を通過する時、いつも通りに女性がいるのが見えた。

駐車場にバイクを停め、コインランドリーに入り、いつものように洗濯を始めた。

今日は客がいない…。

静かな店内に、洗濯機の給水音だけが響く。


椅子に座り、マンガを手に取る。
チラッと窓から外を見た。

薄緑の光を放つ電話ボックスで背中を向けて立つ女性は、淡い光に包まれたまま誰と話しているのか、微動だにしなかった。

いつものように、乾燥まで終えると、洗濯物をテーブルに広げ、丁寧に畳んだ。
それをリュックに押し込み、コインランドリーを後にする。
向かったのは駐車場ではなく、電話ボックス。


拳をギュッと握り、フッと息を吐き、静かにノックをした。

振り向かない女性。

私はもう一度、今度は少し強めにノックをした。


No.15 16/03/24 23:44
自由人 ( ♀ )

全く気がつかないのか、振り向くこともなく身動きすらしない女性。

業を煮やした私は、ドアを開けた。

「すみません。」
「あの~、まだ話し中ですか?私も電話かけたいんで、早くして欲しいんだけど」


すると、先程まで全く反応のなかった女性が、ゆっくりこちらを向いた。

真っ赤な目から涙を滝のように流し、赤い口を歪めていた。


『電話が繋がらないの…』


と、私の頭の中に声が入って来た。


『あの人に何度も何度もかけているのに、電話が繋がらないの…』


また頭の中に響いてくる。

「ああ、この電話ボックスは、移転したらしいから。新しい場所は、この先を右に曲がった商店街の入り口にあるみたいだよ。」


数時間前に見た移転先を思い出し、教えた。


No.16 16/03/25 10:17
自由人 ( ♀ )

『ありがとう…』


スーッと霞のように消えてゆく女性。
完全に消える前に、私の方に手を伸ばした。
…ように見えた。


辺り一面暗闇になり、私はもう、確かめるものが何もないことで、その場を後にした。



バイクで帰宅し、荷物をドサッと玄関に放り投げると、ベッドに向かった。


イラッ…。


そのままベッドに倒れ込みたい衝動を抑え、箪笥の一番下の引き出しからシーツと枕カバーを取り出し、仏頂面でベッドメイキングを始めた。


散々な1日だった。
酷く疲れた。

自分の好奇心を恨みながら、シャワーも浴びずベッドに入ると、睡魔に襲われ逆らうことなく眠りに墜ちた。


No.17 16/03/25 20:17
自由人 ( ♀ )

それから少しの間は何事もなく、普通の日常のループだった。

短大ではじわじわと友達と呼べる女の子も出来たが、高校時代と同じく、この容姿のせいで「宝塚の男役」みたいな存在になりつつもあった。


やはり気軽に会話出来るのは、女子より男子とだった。

バイト先では、仲間の男子学生と男同士のような絡み方をしていた。
年上の女性の先輩からも可愛がられた。


同学年の女の子には羨望と嫉妬が入り雑じったような対応をされていた。


No.18 16/03/25 20:56
自由人 ( ♀ )

知り合いになった子や、友達になった子は、皆、私の住まいに興味津々だった。

同年代の独り暮らしが、羨ましくて仕方がないのだろう。
事あるごとに、うちに集まろう的な算段がなされたが、私は掛け持ちのバイトを口実に丁重に断っていた。

プライベートに他人を入れることに抵抗もあったが、殺風景で何もない部屋を見せることに恥ずかしさも感じていた。
だから、頑なに部屋への侵入を拒んでいたのだ。


しかし、それを後悔することになる出来事が起きた。


No.19 16/03/25 21:12
自由人 ( ♀ )

ある蒸し暑い梅雨の夜、時間はまだ8時を少し回った頃だったと思う。


雨が上がっていたので、窓を少し開けていたんだが、外から

ポクッ ポクッ ポクッ

と音がする。


よく耳を澄まさなければ聞こえないような僅かな音だったが、規則的に聞こえて来る。

時折、チーンという音が混じっていた。


…何だろう?


不思議だったが、ベッドに寝転がったままマンガを読み続けていた。


音は少しずつ大きくなってゆく。

ポクッ ポクッ ポクッ…
チーン
ポクッ ポクッ ポクッ…


ハッキリと聞こえるようになった頃、お経を詠む声も聞こえ始めた。


No.20 16/03/25 21:24
自由人 ( ♀ )

何処かで通夜でもやっているのだろう。

ポクッ ポクッ チーン
は、木魚を叩く音だと漸くここで気が付いた。


そうは思っても、読経の声や木魚の音は、段々大きくなってゆく。
まるで向こうから近付いて来ているように、不自然な大きさだ。


ついには、まるで窓のすぐ外から聞こえるような音量となり、堪えきれずマンガを閉じた。

誰かのイタズラかとも思い、少し開いている窓を、思い切り全開した。


ガラッ!



そこには植木が疎らに植えられた、真っ暗な裏庭があるだけで、誰も居なかった。


居ないのに、読経は止まない。
益々、大きくなってくる。

頭に直接響くように、大音量となった読経と木魚は、容赦なく頭痛まで引き起こしてくれた。


No.21 16/03/25 22:55
自由人 ( ♀ )

こんな時、誰かいれば手分けして音の出所を探せるのに…。


くッ。
痛む頭をどうにか持ち上げ、無人島にいるような心細さをかなぐり捨てると、窓から顔を出し

「いい加減にしろ!!近所迷惑だッ!!」
と叫んだ。


ピタリと途絶えた音に本来の変な自信を取り戻し、急いでTシャツの上にパーカーを羽織った。


サンダルを引っ掛けると玄関から飛び出し、アパートの裏側に回った。

1階にある自分の部屋の窓まで来ると、辺りを見回してみた。

幸い、両隣は留守のようで、電気は自分の部屋にしか点いていなかった。


他所から見れば、まるで私の方が怪しいが、とにかく細心の注意を払い、気配を探った。


何もない。
何も、聞こえない。


あれだけ大音量だった読経も喧騒も、まるで嘘のように止んでいたのである。


しばらく周囲を彷徨き、後ろ髪引かれながらも部屋に戻った。


No.22 16/03/25 23:12
自由人 ( ♀ )

部屋に戻っても落ち着かなかった。

視線を感じるような
体の一点がチリチリするような焦燥感があった。


「人恋しい」
そんな気持ちを初めて知った。

誰かいれば…
誰かが一緒にいてくれてれば、先程の出来事を検証出来たのに。

誰かが一緒にいてくれてれば、笑い話に出来たのに。

誰かが一緒にいてくれてれば、気が紛れたのに…。


この部屋に誰も入れなかったのは、私自身。

痛切に思い知り、酷く後悔していた。



No.23 16/03/26 12:47
自由人 ( ♀ )

明日からの自分の方針が見えた気がした。

そうだ。
人との繋がりを持とう。
密接に、濃く、深く。

だけど、誰でも良い訳ではない。

スケバン刑事のサキには、三平がいた。
神 恭一郎もいた。

北斗の拳には、ラオウがいた。いや、ラオウは敵だ。
レイとかマミヤとか、頼りになり一緒に戦える仲間…。

それからジョジョには……


……

明日からの新たな仲間作りを夢見て、枕を抱いて眠りに墜ちた…。


No.24 16/03/26 12:56
自由人 ( ♀ )

それから数日、人を見る目が変わった。

獲物を狙うハンターのように、鋭い眼光でギラギラと物色していたと思う。

女友達からは
「どうしたの~?朝から不機嫌そうだけど…何かあった?」と言われ

バイト先では
「疲れてるんじゃない?働き過ぎだよ。少し休みな!」と言われる始末だった。


そこそこ喋れる友達ではダメだ。
秘密を共有し、共に解決したり切磋琢磨出来る、真の仲間でないと!

私の思惑は、日常の穏やかな空気の中で空回りし続け、心も折れそうな諦めの境地に達してしまう寸前だった。


No.25 16/05/05 16:12
名無し25 

続きはまだですか?


怖いけど でも続きを待ってます。

No.26 16/05/05 22:57
自由人 ( ♀ )

>> 25 ありがとうございます。

まさか待っていてくれる人がいたとは…(涙)

私の中では、過去から辿って現在まで、書きたいエピソードがたくさんあります。

拙い文章ですがなるべく判りやすいように、また更新していきますので宜しくお願い致します。


凄く嬉しいレスでした。
ありがとうございます!


No.27 16/05/05 23:22
名無し25 

>> 26 とんでもない😅、自分のペースでね😄

No.28 16/05/06 23:50
自由人 ( ♀ )

当時、宜保愛子さんという霊能者が一躍脚光を浴びていた。

テレビでもオカルトブームで、よく心霊特集等取り上げられていた。


実際はそんなに興味がなかったが、オカルトマニアを探すには、この話題しかなかった。
郷に入れば郷に従え、だ。

小学生の頃には、口裂け女。
中学生の頃には、コックリさん。
高校生の頃には、心霊写真が流行っていた。

今は…。
うん、やはり宜保愛子だろう。


とにかく他人との会話に、巧妙に「宜保愛子」なるキーワードを入れ込んでみた。

餌が大きいせいか、食い付く食い付く。

ただ、殆どの情報源はテレビや雑誌、友達からの又聞きだった。

私が求める「経験者」と「体験談」は、釣り上げることは出来なかった。


だが、好機は突然、何の前触れもなくやって来た。


No.29 16/05/07 00:05
自由人 ( ♀ )

交遊関係は広がったが、未だ自宅に招くような「真の友」には巡り会えずにいた。

自宅に招くには、「部屋のインテリア」より、「異質な何か」に興味を持った人が望ましい。

異質な存外を感じる自分には、同等の感じ方が出来る仲間が欲しかった。


悪目立ちが大嫌いな私は、自分の体験談を他人に語ったことはない。
いや、家族にすら、ない。


それは裏を返せば、否定されるのが怖かったから…
嘘つきと思われたり、イカレテルと思われるのが怖かったからで、だから尚更仲間が必要だったんだと思う。

季節は夏になっていた。


No.30 16/05/07 00:25
自由人 ( ♀ )

地元では割りと大きなお祭りに、高校時代の友達と行くことになった。

みんなが浴衣姿の中、私だけ唯一、ジーンズにTシャツ姿だった。

「あゆみも浴衣着ればいいのにぃ~」
「あ、でもあゆみの場合は甚平の方が似合いそう!」

(今更ながら、あゆみは私の仮名です)

など、てんでに好きなことを言いながら、きゃあきゃあはしゃいでお祭りを楽しんだ。


こういった友達との遊びでは、私はボディーガード的な役割も兼ねていた。

風貌からの役割なのだろう。
きゃあきゃあ言えないのだから、仕方ない。


「みんな、もうお祭りも終わったし、これからどうする?解散する?」

と私が切り出すと、数名が駄々を捏ねだした。

「まだ帰るの早いよ~!もう高校生じゃないんだから!!そうだ、飲みに行かない?知ってるお店があるんだぁ~」
という浴衣娘Aの発案で、お祭り二次会として場所を飲み屋に変えることになった。


内心「うげッ」と思ったが、この浴衣娘Aのおかげで私は欲しかったものを手にいれることになる。

まさに、好機は突然到来する!だ。


No.31 16/05/07 14:49
自由人 ( ♀ )

長い夏休み期間だけあって、みんなテンションが高かった。

飲み屋はマスターと奥さんが切り盛りする小さなお店で、言うなれば小綺麗な場末のスナックという感じだった。

カウンターと、ボックス席2つ。

カウンターにはサラリーマン風の男性客が、マスターと談笑していた。


私達は6人連れだったので、ボックス席2つを使うことが出来た。
浴衣娘Aの友達がマスターとママさんの娘らしく、Aもたびたび娘さんに連れられて来ているようだった。

あ。

ちなみに二十歳未満ではあるが、一応大学生と社会人の混合グループということで、飲酒は黙認してもらっていた。


カウンターの角には、硝子の花瓶に豪華な薔薇の花束が挿してあった。
大人の雰囲気と、女性的な雰囲気が居心地良かった。


No.32 16/05/07 16:12
自由人 ( ♀ )

お祭り屋台でたこ焼きやお好み焼き、焼き鳥等を買い食いして満腹になっていたが、乾杯のビールは美味しかった。

お通しに出された枝豆やチョコレートをつまみながら、ママさんを交えて女子会は盛り上がっていた。


23時になる頃にはカウンターの男性客も会計を済ませ、帰ったようだった。

客は私達だけとなり、カウンターの片付けを済ませたマスターも私達の女子会に参加して、益々賑やかになっていた。


ふっ…ッとカウンターの花瓶が気になった。

そちらを向くと、花瓶に挿した薔薇のすぐ上に、男性の顔が見えた。


後ろのボトル棚が見えるくらい透けた男の無表情な顔。眼鏡を掛けた中年だ。


すーッと前進したと思ったら、上半身まで透けて見えた。

そのまま前進し、こちらに向かって来る。



言葉を発する前に、そのまま私と隣に座っていた浴衣娘Bとの間をすり抜け、壁に消えてしまった。


なんだ。
ただの通りすがりか。


と思って何気なくBを見たら…

なんと、普段から大きめな目を更に1.5倍程大きく見開いて、口をポカンと空けていた。

見ている先は、男が消えていった壁。


「大丈夫?」
と聞いたら、私の方を振り返りながら
「今の何!?今の何!?今の何ィ~!?」
と半泣きで聞いてきた。


「見えたの?アレ。」
と聞くと

Bは首が折れるんじゃないかという程、コクンコクンと何度も頷いた。

涙目で唇が震えていた。


No.33 16/05/07 20:11
名無し25 

凄いhit数の伸びですよ。
気付いてました??

それだけ皆さんが見てるって事です。 頑張って下さい。

No.34 16/05/07 22:48
自由人 ( ♀ )

>> 33 25さん、毎度ありがとうございます。

hit数…伸びていますね、気がつきました。今頃(汗


正直、25さんしか見ている人がいないような感覚だったので、動揺してます。


読んでくださる皆様には本当に感謝の気持ちで一杯になります。

皆様、ありがとうございます。
25さん、ありがとうございます。


では、また少しずつ再開します。

No.35 16/05/07 23:00
自由人 ( ♀ )

私とBのやり取りを聞いて、他の浴衣娘達が

「何!?何!?どーしたのォ!?」
と、興味津々に聞いてきた。


Bはただただ、首をフルフルと横に振るだけ。

仕方ないから私から
「何でもないよ。ただ、Bが少し酔ったみたいだ。」

と、然り気無く濁しておいた。


みんなビールや水割りで、かなり顔が赤くなっていた。

そろそろ御開きにしたかったが(明日も朝から晩までバイト)、マスターから意外な提案があった。


「みんな、夜食でも食べないか?近くに深夜までやっているファミレスがあるから、みんなで行こうか!」

ママさんも、マスターの援護射撃で
「そうよ!せっかく盛り上がったんだもの。行きましょうよ!お店は閉めちゃうわ(笑)」

ということで、お祭り三次会はファミレスへ場所を移すことになった…。


Bは私のTシャツの裾を掴んで、帰っちゃダメ!と言いたげなチワワの目をしていた…。

No.36 16/05/07 23:10
自由人 ( ♀ )

ゾロゾロ歩いて5分程で、裏地から表通りに出た。

信号を渡ってすぐに、チェーン店のファミレスがある。


中に入ると店員さんの元気な「いらっしゃいませ何名様ですかぁ?」の声が響いた。

こんな時間なのに、割りと人がいるもんだな。

店内は、カップルや学生グループ、飲み上がりのサラリーマンやOLが席の半分くらいに着いていた。


私達は人数も多いので、一番奥の席を2席くっつけてもらい、そこへ座った。


それぞれに好きな物をオーダーしていく。


オーダーを取り終わった店員が去ると、店内の明るい照明や雰囲気に精神を回復させたBが

「ねえねえみんな聞いて!さっきね、凄いの見ちゃった!!」
と、テーブルに身を乗り出し話し始めた。


私はみんなの反応が怖くて、ポーカーフェイスを決めていた。


No.37 16/05/07 23:24
自由人 ( ♀ )

Bは、マスターとママさんをチラッと見ながら、

「カウンターの方から、オバケがこっちに来たの。うわあって思ったら、壁の中へ消えてっちゃった!あゆみも一緒に見たんだよ!ね、あゆみ!!」


話を振られた私は

「2人で同時に同じ錯覚を見るなんてあるのかな?Bが言ったように、半透明の男が、すうっと通って行ったよ。」


みんなびっくりした顔で、私とBを交互に見ていた。
私とBが黙って頷くと、口々に、怖いだの酔いすぎだのワイワイ言い始めた。


するとマスターが
「ああいうのは初めて見たのかな?繁華街や飲み屋では、結構目撃談は聞くよ。実は私もね、うっすらとした人影や気配は感じることがある。だから2人が言ってることも、多分そうなんだと思うよ。さっきは怖かったよね…可哀想に。」

と、Bを労るように話してくれた。



あ、そうか。
だから場所をここに移したんだ。

Bが怖がっていたから。

アレを見た現場で話せと言っても、Bは怯えて震えるだけだったろう。

私はマスターに感謝した。


No.38 16/05/08 01:00
自由人 ( ♀ )

時間も深夜に達していたし、私達はまだ未成年だと言うことで、注文した料理を平らげたら御開きとなった。

マスターがタクシーでみんなを送ってくれると言ってくれたが、各々自宅に電話し、駅まで迎えに来てもらうということで、マスターには駅まで送って貰うことになった。


私とBの体験談を聞いてから暫くは怪談話となったが、いつの間にかに話題は恋愛話となっていた。

一頻り恋話が終わるくらいにはデザートまで食べ尽くしていたので、ちょうど良いタイミングだったみたいだ。


駅で家族の迎えを待っている間、マスターが私にだけ小声で
「またお店においで。今度は一人で。紹介したい人がいるから、必ず来て欲しい。」


何だか意味深な発言だったが、声に出さずに了解のサインを送った。


ファミレスではマスターがご馳走してくれたので、最後にみんなで感謝し、迎えが来た順に解散となった。

私は実家の父に迎えを頼んでいた。
もっと早い時間帯ならアパートまで電車で帰れたのに、実家のある地元に来ていては深夜帰宅は実家に帰るしかない。


明日は始発でアパートに戻って、バイトに行かなきゃな~なんて考えていたら、父の車が駅前に到着した。

みんなに「おやすみ」と、マスターとママさんには「ありがとうございました。おやすみなさい」とお礼をし、父の車に向かった。

車から降りていた父も、マスター達に一礼してくれていた。


しかし車の中では
「酒くさいぞ!まさかタバコまで吸ってないよな?」等々の説教を食らいながら、久しぶりの父と家路についた。


この日が私にとって、世界が広がる第一歩となった日でもあった。


No.39 16/05/08 11:34
自由人 ( ♀ )

久しぶりの実家。

元々、自室は妹と同室だったが、アパートにベッドと机を移したので、妹の私物で占領されていた。

寝ているのかと思っていた妹が、ムクッと起きて

「姉ちゃん、久しぶり!」

と、笑顔を向けた。

「まだ起きてたの?てゆーか起こしちゃった?ベッドがないこと忘れてたよ。ここで雑魚寝するけどいい?」
と聞くと、妹の笑顔が曇り
「もう寝ちゃうの?聞いて欲しいことがあるのに…。少しだけ、相談に乗ってよ…。」


いつも無邪気な妹に悩み事があるなんて…
何だろう。

恋愛相談は苦手だ。

「恋愛相談ならねーちゃんでは無理だぞ。経験値が低い。」

「そんなことだったら学校の友達にするよ。姉ちゃんに相談したいのは、お母さんのことだよ?今日、お父さんが姉ちゃんを迎えに行ったんでしょ?お父さん、何か話さなかった?」

「うーん…。酒くさいと言われたり、タバコ吸ってるかは聞かれたけど…。あと、いつもの説教ね。勉強しろとか、夜遊びするなとか、女らしくしろとかかな?」

妹は溜め息混じりに息をふうーッと吐き出すと

「お母さん、離婚を考えてるみたいなの…。まだ内緒にしてね?お父さん、付き合ってる女の人がいるみたいで、よくお父さんに電話がかかって来てたの。いつもお母さんが電話を取るんだけど、同じ女の人からで、凄く怪しんでた。」

私は黙って聞いていた。

「でね、少し前の日曜日、またお父さんに女の人から電話があって、お父さん出掛けて行っちゃったの…。それからお母さんはお父さんを無視してる。」

お父さんが浮気?
まさか…。

「その女の人って、誰か分からないの?」

「お父さんの会社の人なんだって。何年か前、お父さんぎっくり腰で入院したじゃん。その時、会社の人達でお見舞いに来てくれたでしょ?そのなかにいたって、お母さんが言ってた。」


うわー。
会社の部下(父は役職だったので)と浮気かよ。

ドラマみたいで現実味ない。


No.40 16/05/08 12:58
自由人 ( ♀ )

「それでお母さんは離婚って騒いでるの?帰って来た時、普通に会話したよ?明日の朝食どうするか聞かれた。」

「騒ぐってより、準備をしているみたい。住むところとか、引っ越しの準備とか。お父さんは気付いてないみたいだけど、お母さんはいつでも出て行けるようにしてるみたいだよ?私も直接は言われてないけど、隣の市(母の実家のある市)の高校を受験するように言われたからね…」


今でこそ不倫だ何だと良く耳にするが、当時はまだ「不倫」はあまり馴染みがなく(石田純一の不倫は文化発言でブレイク)、浮気とか愛人とか、そんな言い回ししか思い付かなかった。

父がどうしたいかは、妹も分からないらしい。

話をして安心したのか、妹はしきりに欠伸をし始めた。

「うん、話は分かったよ。お盆にはまた帰ってくるから、その時、お母さんに聞いてみる。お盆は何日か泊まると思うから、ちゃんと話をしよう。明日は始発で帰らなきゃならないから、もう寝るね。」


その言葉を合図に、妹も

「おやすみ~…」

と寝入ってしまったようだ。


突然聞いたから、全然実感が湧かないけど、美樹(妹)は毎日見ていたんだよな~。

はあッ。
どうしよう。

てかもう2時過ぎてるじゃないか!!


ダメだ寝なきゃ。


今日はたくさんのことがあり、酷く疲れていた。

ラグの上にタオルケットを敷き、毛布にくるまって眠った。



この一連の出来事も、今となっては全て1本の糸で繋がっていたんだと、当時はしらずにいた。

運命なんて大袈裟だけど、たった1つの切っ掛けで、なるようになっていく。


もうすでに、その流れは始まっていた。


No.41 16/05/09 23:20
自由人 ( ♀ )

遠くから聞こえてくる

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…

一定のリズムを保ちながら、時に遠く、時に近く感じる

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…

おばあちゃん、あの音は何?

お前にも聞こえるんかい?
ええ子じゃから耳、塞いどき
お前を迎えに来たらばあちゃん守れんけんの

ドンッ ドンッ ドンッ …

おばあちゃん、怖い

大丈夫じゃ
じさまが守ってくださるけ
ええ子じゃから安心して眠らんと

うん、あーちゃん寝るからおばあちゃん、ここにいてね

ドンッ ドンッ ドンッ …


ばあちゃんはいつでも、お前のそばにおるけん
見つからんうちに目を瞑らんね


うん、おやすみなさい…



真っ暗な世界に堕ちてゆく

No.42 16/05/09 23:56
自由人 ( ♀ )

「あゆみ」

「あゆみ、起きなさい」

「あゆみ、時間だから早く」

「あゆみ!!」


ハッとして目を覚ましたら、覗き込む母と目があった。

「あゆみ…泣いてたの?」

心配そうな母の表情。

顔がしっとりしている。
私、泣いてたのか…。

「大丈夫だよ。変な夢を見たからかな…。今何時?」

「もう5時過ぎたわよ?始発で行くって言ってたけどちゃんと起きれる?」


「うん…眠いけど大丈夫。とりあえず顔洗ってくるね」


夢を見て泣くなんて、子供の頃以来だ…。

寝不足で意識朦朧としながらも、洗面所で冷たい水を何度も顔に掛けた。


No.43 16/05/10 00:10
自由人 ( ♀ )

さすがに朝食をいただく余裕はなかったので、身支度を済ませると母に声をかけた。

「準備出来たのなら、駅まで送るから待ってなさい。今、お父さんの朝食を準備してるから。」

「お父さんはまだ起きてないの?いつも早起きだったのに。」

「最近はギリギリまで寝床にいるわよ?」


台所でせわしなく働く母を見て、昨夜の美樹の言葉を思い出した。

お母さん離婚したいみたい…


何度か躊躇ったが、やはり時間のある時でなきゃ、こんな話は出来ない。


今は知らない振りをしていよう。


鬱々と考えているうちに、朝食が出来たようだ。


「早く車に乗りなさい。始発に間に合うか分からないけど、急いで向かうから。」


駅までは車で7~8分。

早朝だからか、道路も駅の駐車場も空いていた。


停車した車から母も降りようとしたので

「ここで良いよ、またお盆に来るから連絡するね。ありがとう。」


ニコッと笑って、母に手を振りながら構内へ早足で向かった。


母はずっと、車の中で見送ってくれていた。


No.44 16/05/10 00:37
自由人 ( ♀ )

やはり始発には間に合わなかったが、早い時間帯の電車に乗ることが出来た。


ゴトゴトと揺られるたび、流れる景色が視界のなかで遠ざかる…

お父さんのこと、お母さんのこと、美樹に聞いた話はまだ私の中で現実味を帯びてはいなかった。


マスターから「またおいで」と言われたこと、不思議な体験を友達と共有出来たことが、意識の中でぐるぐる回っていた。


安穏とした生活が足元から崩れようとしている。


唇に自然と力が入った。


些細なことでも、積み重なれば大きな力を感じざるを得なくなる。


いや…些細でもなかったか。


私はどうすれば良い?

どう動けば良い?


おばあちゃん…。



No.45 16/05/10 11:02
自由人 ( ♀ )

考え事をしていたら降車駅に着いたことを報せるアナウンスが鳴った。

立ち上がると酷く疲労感があったが、ホームに降り立ちキオスクを探した。

お腹がすいた…。

おにぎりとお茶のペットボトルを購入し、改札口を抜けた。

駅からアパートまでは、歩いて5分程。
その5分ですら、しんどい。


アパートに着くと、ベッドに飛び込みたくなったが先ずはシャワーを浴びることにした。

朝はそんなに暑さを感じなかったが、今は一年で一番暑い季節。

昼には真夏日になり、怠さも増すだろう。


熱いシャワーは心地良かった。

着替えて窓を全開にすると、登校途中の小学生のグループが通るのが見えた。


No.46 16/05/10 11:27
自由人 ( ♀ )

シャワーのおかげで気分は良かったが、体は鉛のように重かった。

こめかみに鈍い痛みが走る。
お腹はすいていたが、食欲自体はなくなっている。
胃がキリキリ痛んでいた。

それでもバイトは休みたくなかった。

うちには電話がない。
公衆電話からかけるくらいなら、バイトに行った方がマシだと思ったからだ。

不便さを改めて実感した。


No.47 16/05/10 13:23
自由人 ( ♀ )

ファーストフードでのバイトは散々だった。

顔色が悪いせいで、裏方業務に回された。
一緒にシフトに入っていた先輩には心配もかけた。

休憩時間も食欲はなく、少しの水分しか摂ることが出来なかった。

午後からは壁やシンクに凭れることも多くなった。

誰かが連絡したのだろう。
遅番だった筈のマネージャーが来て、早退しろと言われた。
助かった…。

立っているのもやっとだったから。

心配するみんなにお詫びをして、先輩に助けられながら着替えると店を出た。

マネージャーがタクシーを呼んでくれたので、バイクを置いたままタクシーで帰宅した。


そのままベッドに倒れ込み、深く深く眠った…。



No.48 16/05/10 14:38
自由人 ( ♀ )

遠くで音がする

幼い頃よく聞いた音
幼い頃怯えた音


ドンッ ドンッ ドンッ…

あゆみちゃんあそぼ…

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…

ごめんねあそべないの…

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…

あそぼぉよぉ あゆみちゃん…

音が近づいてきた

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ…

ねぇ あぁゆみぃちゃゃゃ………んンンンン…


ごめんなさいダメなの
おばあちゃんがダメだって
だからごめんなさい

ドンッ ドンッ ドンッ…

だぁいじょぉぶだよぉォォ…
おばあちゃん死んじゃったからぁぁぁ…



No.49 16/05/10 18:42
名無し49 

ワクワクして続きが楽しみ~✨

No.50 16/05/10 22:51
自由人 ( ♀ )

>> 49 ありがとうございます。

お声をかけていただけると励みになります。

完結までの流れは大体出来ていますが、表現力がイマイチで追い付きません(照

雑にならないよう、頑張って書いていきます!

レスありがとうございました。

No.51 16/05/10 23:23
自由人 ( ♀ )

ガバッ!と跳ね起きた。


全身汗だくで、酷く不快だった。

体調不良が原因であんな夢を見るのか、あんな夢を見たから体調不良なのか…

分からなかったが因果関係はありそうな気がしていた。


明日もバイトなのに…。

お盆に休みをとっているため、それまでは毎日シフトに入っている。


バイトのみんなに迷惑をかけたくない。

明日には体調を良くしなければ…


このままだと風邪をひいてしまう。
シャワーを浴びるか、せめて着替えなければ。


ベッドから立ち上がると、グラッとふらついてまたベッドに座り込んだ。


朝から何も食べてないんだもんな…当たり前か。

食欲なくても何か口にしよう。
確かおにぎりを買っておいた筈。


独りきりでこの体調で、どう乗り越えたら良いのか不安だった。

いつまでも車で見送ってくれた母の顔を思い出していた…。


No.52 16/05/10 23:29
自由人 ( ♀ )

ピンポーン!


玄関のインターホンが鳴った。
実は、このアパートでインターホンを聞くのは初めてだった。


時刻は夜の8時を過ぎている。
こんな時間に新聞の勧誘は来ないだろう。


居留守を使おうかとも思ったが、覗き穴から相手を見て判断しようと壁に手をつきながら玄関へ向かった。


ドアの向こうに立っていたのは、意外な人物だった。

No.53 16/05/11 10:27
自由人 ( ♀ )

ドアを開けると

「やっほー!元気になったぁ!? …て、まだ顔色良くないねぇ。ちょっとお邪魔して良い?」


バイト先の先輩である綾子さんは、やっほーのあたりからもう靴を脱いで部屋に入って来ていた。
了解もへったくれもないけど、綾子さんの元気な顔を見たらホッとした。


「綾子先輩。今日はすいませんでした…マネージャー呼んでくれたの綾子先輩なんでしょ?助かりました。本当に体調悪くて、倒れそうだったんで…。」

「やーだ、あゆちゃん!何を他人行儀してんのよ?困った時は、お互い様でしょ?それより病院は行ったの?」

「あッ…いや、保険証なくて。行ってません…真っ直ぐ帰ってきて、そのまま寝てました。」

綾子先輩は、部屋をぐるっと見渡し、

「何て言うか、さぁ。男らしい部屋だね。まさにあゆちゃんらしい。」

「え"ッ!!あんま見ないでくださいよ、恥ずかしいッ!!」

「あはは、ごめんね病人なのに。そっかぁ、寝ていてもその顔色なら、やっぱりシフトは無理だね…。あゆちゃんを帰した後、マネージャーがシフトどうするか心配してたから、代打を決めた方が良いですって言っておいたの。だから、あゆちゃんは安心して、ゆっくり休んで大丈夫だよ?


No.54 16/05/11 10:52
自由人 ( ♀ )

有り難かった。

たかがバイト先で知り合って、まだ半年も経たない付き合いの私の心配をここまでしてくれるなんて…。

他人との繋がりって本当に大切なんだな。


ここでふと気がついた!

「綾子先輩!どうやってうちを調べたんですか?住所なんか誰にも教えてない筈なのに…。」


「……うぅーん、どこまで話して良いのやら、はははッ。実はねぇ、マネージャーって私の彼氏なの!あッ、これは内緒にしていてね?」


2人が凄く仲が良いことは周知の事実だったから今更驚かないんだけど、それとうちがどう繋がる?


私が首をかしげながらも頷くと

「いつも飄々としてるあゆちゃんが突然女の子みたいに『か弱く』なって、マネージャーかなり驚いてさぁ、あゆちゃんが早退した後、『あいつ独り暮らしだよな?部屋で倒れてたりしないよなぁ?』なんて心配してたんだぁ。で、6時に上がった私が様子を見に来ることになったんだけど、住所が分からない!そこでマネージャーが、履歴書で住所を確認して教えてくれたってわけ!」

No.55 16/05/11 11:07
自由人 ( ♀ )


やめてくれ、泣きそうになる


「ついでに言うと、差し入れしてって言われて3,000円貰ったから、必要そうなもの買って来ちゃった!!」

にこにこ笑いながら話す綾子先輩…
もうダメだ。
決壊してしまう…

俯いて肩を震わす私に

「きゃ、あゆちゃん!!大丈夫!?具合悪くなった!?」

心配してくれる綾子先輩。

「大…丈夫。大丈夫ッす。グスッ。ありがとうございます、グスッ。」


顔を上げたら、涙がボロボロ出てきた。
止められない、視界が涙の膜で歪み、綾子先輩の笑顔が良く見えない。


そんな私を、綾子先輩は優しく宥め

「少し横になろうか、マネージャーには2~3日休養が必要だって連絡しておくから、あゆちゃんは体を治すことに集中して?さっ、ベッドに入って!」

ティッシュで涙(鼻水も…)を拭きながら頷き


「着替えて良いですか?さっきまで寝てて、かなり寝汗かいたから」

と言うと

「じゃ、少しキッチン借りるね!どーせ何も食べてないんでしょ?軽く食べられるもの作るね!」

と、綾子先輩は台所へ向かった。


あ、また涙と鼻水が…


グシグシ顔を拭きながら、着替えをした。
可愛いパジャマなんて持ってないから、無地の地味なスウェットだ。


ベッドへ入ると、台所からいろいろな音が聞こえてきた。


No.56 16/05/11 11:44
自由人 ( ♀ )

横になるとボーッとして来た。

バイトを休める安心感、食べられる安堵感、誰かがそばにいる幸せ…

窓を開けていたから、涼しげな風が入って来た。
ベッドの中は温かい。

居心地が良かった。

きっと良くなると、確信出来た。

また涙がひとすじ頬を伝った…。


No.57 16/05/11 13:52
自由人 ( ♀ )

「出来たよ~!綾子特製鍋焼うどん!!食べて食べて!」

普段なら真夏に『鍋焼うどん』なんてとんでもない!!と拒否するが

「うゎ…美味しそう!いただきます!!」

ベッドから這い出して来た私は、小さなテーブルに置かれた鍋焼うどんにがっついた。

熱くて少ししょっぱくて、ぶつ切りのネギは半生だったけど、とても美味しかった。

涙が出ないよう、食べることにひたすら集中した。


「あはは、そんなに一気に食べたら胃がびっくりするよぉ?」

「綾子先輩、ハフハフ料理出来るんですね~ハフハフ。卵も入っててめちゃくちゃ美味しいですよ、マネージャーは幸せだぁ!!ハフハフ」


綾子先輩は、クスクス笑っていた。

私も食べ終えた頃には笑顔になれた。


他人との間に見えない壁があった…
それが今では見えなくなっている。


手を伸ばせば届くところで、綾子先輩は明るい笑顔を見せてくれていた。


No.58 16/05/11 16:24
自由人 ( ♀ )

「じゃ、私はこれで帰るね~。冷蔵庫に、プリンやヨーグルト、飲み物も入れておいたから、ちゃんと食べたり飲んだりしなさいね。
あと、レトルトのカレーは棚に入れておいたよ。体温計とアイスノンもね。熱っぽかったら使って!明日も来れたら様子見に来るね、おやすみ~。」


私がうどんを食べ終え、ベッドへ潜ると綾子先輩は帰って行った。

お姉さんみたいだ…。

綾子先輩は私より3つ年上で、バイト歴は長く、社員からの信頼も篤い。

サブマネージャー(社員)への登用も考えられているとマネージャーが言うくらいだった。


バイトからの人気もあるし、お客様からもウケが良かった。


デキる女は違う。


普段から綾子先輩には可愛がられていたが、先輩に対する気持ちは尊敬を超え、敬愛と言っても良いくらいになっていた。


自分の部屋がこんなに居心地良くなるなんて…。

体調もかなり、快方に向かっているようだった。


No.59 16/05/11 16:29
自由人 ( ♀ )

それから間もなくまた眠りに堕ちた。

寝てからも、そばに綾子先輩の温かい空気があるようで、安心感に包まれていた。


初めて自宅に他人が入った。

高揚感もひっくるめて、心地好い眠りにつくことが幸せだった。



No.60 16/05/11 23:31
自由人 ( ♀ )

翌日は多少ふらつくものの朝からきちんと起床し、シャワーを浴びてから朝食を済ませた。


洗濯物がたまっている。

いつものコインランドリーへ行こうかと思ったが、バイクをバイト先に置いてきたことを思い出した。


そういえばあのコインランドリーの駐車場にある公衆電話。
先週行った時には基礎部分のコンクリートだけ残って、ボックス自体はなくなっていた。

危なくないようにカラーコーンとロープで立ち入り禁止にしてあったよね?

あの女の人は、あれから一度も見ることはなかった。

どこへ行ってしまうんだろう…。
ちゃんと成仏出来たのかな…。


私には確かめる術も何もない。

あれも一期一会のうちに入るのだろうか。

暇だとこんなことばかり考えてしまうな…。


No.61 16/05/11 23:41
自由人 ( ♀ )

「あッッ!!」

突然、お祭り二次会で行ったスナックを思い出した。

マスターが意味深にも
「またおいで、今度は一人で」

と言っていたが、まさか…

私に興味があるとか?

いや、いや、いや。
それはないな。
あんなに綺麗なママさんがいるんだから、あり得ない。

紹介したい人がいると言っていたけど、詳しく聞けなかったから分からない。

彼氏候補でも紹介してくれるのかな…

でもそれなら浴衣娘達の方が、私より相手は気に入りそうなんだが。


お店の名前は何だったかな…。

場所は大体覚えてるけど、名前が出てこない。


そんなことを考えていたら、時間は10時を回っていた。


No.62 16/05/12 11:35
自由人 ( ♀ )

午前中はゴロゴロしながら過ごし、差し入れのプリンやヨーグルトを食べ、昼寝もした。午後3時頃にはふらつくこともなく、体は大分スッキリしていた。

足がないのは不便だった。

買い出しや洗濯は荷物が多くなる。
いつもならバイクでちょこちょこ用を足せるが、そのバイクはここにはない。

顔出しついでに、バイクを取りに行こうかな。

バイトも明後日には復帰したいし、それまでに身辺キチンとしておきたい。


身支度をするとリュックを背負い、家を出た。

暑いな…。
夕方近くになってもこの暑さ。
歩くとバテそうなので、バスに乗ることにした。


近所では子供達が追いかけっこをして遊んでいる。


あの小さな女の子が鬼の役みたいだな。

なかなか捕まえられず、手を伸ばしながら追いかけ回す姿を見て、頭の奥がチリッとした。


どこかで見た光景…。


バス停に着いても、子供達の声が聞こえていた。


No.63 16/05/12 12:57
自由人 ( ♀ )

私は幼い頃、父方のおばあちゃん宅に一時預けられていた。

妹を身籠った母が、妊娠初期から切迫流産になり入院したためだった。
容態が安定した頃には妊娠中毒にもなったらしく、結局産まれるまでずっと入院していたらしい。


父に手を引かれ、半日程費やし着いた父の実家は、山に囲まれた田舎の村だった。

4歳になったばかりの私は、父が一人で帰って行くと火がついたように泣きじゃくったらしい。


それから約一年、毎日おばあちゃんの農作業を手伝ったり、近所の牛舎を見に行ったり、川で小さな蟹を捕まえたりして暮らしたと聞いている。

記憶に残っているのは、おばあちゃんの古い大きな家と、山から流れてくる小川。
たくさんの田んぼとそれを囲むように聳える山々は、夜になると風を唸らせ、まるで檻のように私を閉じ込めていた。


No.64 16/05/12 13:42
自由人 ( ♀ )

バスで2つ目の停留所、そこから歩いて3分くらいでバイト先に着いた。

裏口からコソッと入り、事務所を覗くと店長とマネージャーが打ち合わせをしていた。

「おはようございます。昨日はご迷惑おかけしました。」
と、挨拶すると

「おう!もう出歩いて大丈夫なのか?シフトなら心配するなよ、夏休みだし学生のバイトはたくさんいる。お前の代わりも困らないから大丈夫だ。」

店長がそう言うと、マネージャーも

「うん、昨日より顔色は良くなったな。夏バテだったのか?お前は掛け持ちバイトしてるって聞いてたけど、無理してたんじゃないのか?そっちも休めるなら、しっかり休養とれよ!」

と、言ってくれた。

「心配かけてすいませんでした。掛け持ちの方は、週1~2回で中夜勤(17時~22時)なんで、夏休み期間はシフトに入らなかったんです。こっちがメインで 11時~18時までシフト組んで貰えるから時間も合わないし…だから大丈夫です。」

それから少し雑談し、裏方にいるバイト仲間に挨拶をして、店を出た。

駐車場でバイクを動かしていると、店内から手を振る綾子先輩の姿が見えた。


No.65 16/05/12 15:15
自由人 ( ♀ )

笑顔で先輩に手を振り返すと、エンジンを掛けた。

とりあえず一旦帰宅して、洗濯物を持ってコインランドリーに行かなきゃな。


バイトは明後日まで休みになった。
独り暮らしを始めてから、こんなに暇をもてあましたことはなかった。

夕食は久しぶりにご飯を炊こうかな、おかずは何にしよう…また缶詰か?

なんて考えながら帰宅した。


適当に夕食を済ませると、また退屈になってしまった。

時間がありすぎる。

レポートを書く気分じゃないし、マンガも飽きた。
テレビが欲しいな…。


毎月少しずつ貯金している。
今は5万くらい貯まっていた。

一番欲しいのは洗濯機。
次にテレビとビデオデッキ…。


No.66 16/05/12 15:23
自由人 ( ♀ )

ベッドに凭れて欲しいものを考えながら、いつの間にかウトウトしていた。


ピンポーン!

あ、綾子先輩かな?

立ち上がって玄関へ向かった。
玄関のドアについている『ドアポスト』が、パタパタパタパタ開閉しているのが見えた。

先輩がいたずらしてるのかな?

ドアを開けようかと手を伸ばしたが、ふいに躊躇し、覗き穴を覗いた。


そこに居たのは綾子先輩ではなく

小さな女の子だった。


No.67 16/05/12 17:40
自由人 ( ♀ )

ピンポーン!

頭に響くインターホン

ドキッ!!
とした瞬間、現実に引き戻された。

ハッ、夢を見ていたのか…。
でも、2度目のインターホンはやけに響いたな…

するとまた、ピンポーン!


急いでドアに駆け寄ると、勢いよくドアを開けた。

No.68 16/05/12 17:42
自由人 ( ♀ )

「きゃ!!」「わッ!!」

綾子先輩と私は同時に短く叫び

「もうッ!!急に開けるんだから!」

と言う綾子先輩を見て、私はホッとしていた。


あの女の子が居たのは、夢だったのか…。
凄くリアルで、少し怖くなった。

綾子先輩がここに来たのも夢なんじゃないのか?


なんて考えていたら

「なーに怖い顔してんの!?入るわよぉ~。」

と、綾子先輩は靴を揃えてスタスタと部屋に入って行った。

ぽかんと間抜けな顔をしていたと思う。
綾子先輩が私の顔を見て笑いだした。

「どうしたの~?まだ驚いてるの?昨日、明日も来るって言ったでしょ?」

「あ、いえ、あの…転た寝してて…びっくりして、つい…」

と、しどろもどろになる私

「あっ、寝てたんだぁ!?ゴメンね?とりあえず様子を見に寄っただけだから、すぐ帰るね。」

ちょっとバツが悪そうな先輩…

心配して来てくれたのに、こちらが申し訳ない。

No.69 16/05/12 20:13
自由人 ( ♀ )

「夕方お店に来てたでしょ?店長もマネージャーも心配してたから、顔を見せてくれて良かったって言ってたよぉ!もうすっかり良さそうで安心ね。ちゃんとご飯とか食べたの?」

「はい。朝はおにぎり食べました。昼前にプリンとかいただいて、夜はちゃんとご飯を炊いて食べましたよ。調子は良くなってます。綾子先輩が来てくれなかったら、昨日はどうなってたか判らない…本当にありがとうございました!」

先輩の笑顔はホッとする。

私が男だったら、きっとマネージャーと取り合いになるんだろうな…。

勝てないだろうけど。


綾子先輩は、保冷バックをテーブルに上げて、中からいくつかタッパーを取り出した。

「うちの母親の得意料理を冷凍してもらったの!作るのがキツイ時には、解凍して食べてね。」

煮物や茹でた野菜なんかが透けて見えた。

「ありがとうございます!ありがたく頂きますね、美味しそう…お母さんにお礼を言ってください。」

そそくさと冷凍庫にしまった。
ガラガラだった冷凍庫は、先輩から貰ったアイスノンや食料で見事に埋まっていた。


No.70 16/05/12 21:01
自由人 ( ♀ )

「ねぇ、あゆちゃん…。こんなこと聞いて良いのか分からないけど…。」


急に真面目な顔になった先輩は、声のトーンを下げて聞いてきた。


「何か悩みとかあるの?思い過ごしだったら良いんだけど…昨日のあゆちゃん、別人みたいだった…思い詰めたような表情だったし、体調が悪いだけじゃなさそうな…気がしたの。」

最後はやっと聞き取れるような小声だった。


どうしよう…

打ち明けるべきか。
何もないと濁すべきか。


打ち明けたとして…
気持ち悪がられないか、怖がられないか、心配だった。

視線を泳がせる私に先輩は

「あ、言いにくいことだったら言わなくて良いの!無理はしないで!?ただね、私で力になれることなら、なりたいと思ってたから…。」



くッ!!
また目頭が熱くなる…。

綾子先輩は、もう十分私を救ってくれた。

本音を言うと、今の関係を壊したくないと思っている。


No.71 16/05/12 21:18
自由人 ( ♀ )

誤魔化して濁そうと思っていた私の口からは、思いもよらない言葉が出てきた。

「……変な夢を見るんです…。とても怖い夢…。」


空気が変わった。

部屋の照明が少し翳った気がした。

「夢?どんな、夢?」

ピシッ!

壁が鳴った。
台所の照明もパチッ…パチッ…と鳴っている。

先輩は続けて何かを言おうとしたが、部屋の異変にキョロキョロしだした。


「どこかで停電にでもなってるのかなぁ!?何か変じゃない?」

気丈にも、普通に振る舞っていたが、多分怖かったんだろう…。

玄関ドアの郵便受けがパタパタパタパタ開閉しているのを気づかない振りをしてるから。

絶対に、後ろを向かないようにしている。
肩が強張っているのが分かった。


「変な夢です!!熊とか狼が追いかけて来て、食べられてしまう怖い夢です!!」


目を瞑って怒鳴るように言った。


と、同時に部屋の空気は元に戻った。

No.72 16/05/12 23:09
自由人 ( ♀ )

「あゆちゃん…。」

先輩は、口を真一文字に結んで体に力を込めていた。

「あゆちゃん、私では力になれないかもしれない、けどね!だけどね、一緒に居ることは出来るから!!一緒に笑うことは出来るから!!だから、だから…急にいなくなったりはしないでょ…!!」

先輩の言葉には、力が籠っていた。
優しさと強さが籠っていた。

見捨てないと言われたようで、受け入れると言われたようで、泣きたいのに笑っていた。

笑いながら

「先輩!本当にありがとうございます!そして本当にごめんなさい!今は、今はまだ、それしか言えませんが…嬉しかった…迷惑じゃなければ、ずっとこうして先輩と仲良くさせてください!」


先輩もにっこり笑ってくれた。

少し前の、あの冷たい空気も緊張感も、今はない。



No.73 16/05/12 23:52
自由人 ( ♀ )

それから少しの間、他愛もない話をしていた。

バイト先での裏話や、店長の秘密(フサフサの頭は実はアデランスだったとか、その値段)、それからマネージャーとの馴れ初め…。
先輩は私に一緒に先輩の自宅に行くよう誘ってくれたが、私はやんわりと断った。
先輩は、帰る直前まで何度も連れ出そうとしていたが、断り続ける私に根負けし、また来るね!と言い残し帰って行った。

先輩の軽自動車のエンジン音が遠ざかるのが、少し寂しかった。


静寂が訪れ、ベッドに横になると急にマスターの顔が頭に浮かんだ。



No.74 16/06/08 19:32
名無し25 

どした?? 何かあった??

焦る必要はないんだけどさ、皆さんに近況報告してくれたら有り難いんだけどな😅😄

No.77 16/07/07 21:33
名無し25 

削除…


何が書かれてたんですか?😲

No.78 16/07/14 18:27
旅人78 

主さんこんにちは。
話に引き込まれました。
霊感がおありなんですね。
霊感のある方は、自身も何らかの悩みをかかえておられますが、主さんも同じですね。
その後はどうですか?

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主のみ
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