注目の話題
既婚者の人が同僚をホテルに誘う心理
20代のお姉さん
店員が水分補給してたら怒りますか?

不可解な誘拐事件

レス111 HIT数 20399 あ+ あ-

中谷月子( ♀ tD3ei )
19/08/25 16:22(更新日時)

【桜木咲江】


『なんかよぉ…面白いこと、ねぇのかよ?』

『あったとしても、勝也には教えねぇよ』

『っだよ、そりゃ!』

勝也が、意地悪を言った隆に向かってバスケットボールを投げつけた。

さっとかわした隆が、
『へなちょこバスケ部員だな』
と、笑った。


『ちょっと、あんた達っていつまで経っても、お子ちゃまよね。ねえ、咲江』


『……………………。』


『どうしたの?咲江。なんかテンション低くない?』

『あ…ゴメン。聞いてなかった。何?真美』

『勝也と隆は、子供だって言ったの』


『あははっ。でも、私達五人は、同じ学年だよ』

『それでも…ねえ、ユウちゃん。あんたぐらいよね、大人なのは』


真美がパソコンに向かっている祐一に声をかけた。

祐一は、チラッとこっちを見て、すぐにまたパソコンに目を戻した。


『ユウは、大人じゃなくて、単に大人しいだけだ』
勝也が笑いながらそう言った。



No.1844934 12/09/04 16:48(スレ作成日時)

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.111 19/08/25 16:22
自由人111 

記憶って忘れるんじゃなくて、消えてしまうんだと実感した。

No.110 12/11/02 23:35
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

にゃんこ
あなたが知ってることは、ほんの一部。
しかも、ねじ曲げられたこと。

私がどういう人間なのか、長いお付き合いの貴女なら、解ってくれると思います。

貴女にちゃんと説明出来ないことが、私はもどかしかった。

何も知らずに、突然捨てられた猫みたいにさせてしまって…

それとはまた話しが違いますが…
今、前に貴女とうまくいかなかったメンバー(分かると思います)と一緒にやっています。

以前の経緯から、貴女を誘うことはしませんでした。

これが最善だと判断しました。


こちらこそ、長い間お付き合いくださって、ありがとうございました。

寒くなってきました。
ご自愛のほどお祈り申し上げます。

No.109 12/11/02 23:23
ねこ ( ♀ h2Kunb )

月子さん
連絡 取れました。

本当に ありがとう🙇

No.108 12/11/02 10:57
ねこ ( ♀ h2Kunb )

月子さん
教えてください。🙇
初雪❄も 新スレには 仲間入りしてないのですか⁉

初雪❄を探してますが… 見つかりません。😢

私 新スレ たてました。《東京在住 初雪さん》 で検索出来ると思います。

良ければ お返事ください🙇




もしも… もしも… 初雪❄も私を探してくれているなら 連絡欲しい😢と お願いして頂けると幸いです。🙇


もちろん 月子さんとも 以前のように 冗談を言える関係に戻りたいです。😭

No.107 12/10/18 13:05
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙リコたんさん
初めまして。

読んでくださってありがとうございます。

はい。
作家として生業を立てていますが、ミクルさんとはご縁がありまして、こうして時々、掲載させて頂いています。

最初は、ただのオタクっぽいキャラのユウが次々と思いがけない発想と行動力を発揮する展開になりましたが…


キャラ設定は、書きながら決まっていくので、私も意外な展開だと思いました💧

また、次の作品でお会い出来るのを楽しみにしています。

No.106 12/10/18 11:11
リコたん ( 40代 ♀ DPOGh )

はじめまして😃
たまたま見つけて一気に読んでしまいました🎵

すごく面白かったです🎵お疲れ様でした


出版社とか…プロの方ですか👀💦


私的には
主人公❓名探偵ユウへの『お前何様だよ』のフレーズが好きなので
この決めゼリフ表記まででなくとも
もう少し早めの段階で 名探偵ユウが抜きん出た才能の持ち主であるアピールがあった方が良かった気がしました💦



あくまで ド素人意見です😔すみません💦


他の作品も探して読ませてもらいますねo(^-^)o


余談ですが私は
星新一さん 山村美沙さん 眉村さん あ名前ど忘れ💦などの小説が大好きです(*^^*)

No.105 12/10/18 01:02
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

わかりました。

とても残念ですが…


お元気で。

No.104 12/10/18 00:56
かめ ( ♀ h2Kunb )

返事ありがとう。

月子さん 今まで ありがとう。

これからも 小説 頑張ってくださいね。

No.103 12/10/17 23:41
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

かめ
良かったら、出版社に本の感想を送ってね😃

No.102 12/10/17 23:36
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

かめ

あのね。
かめだけは誰も直メを知らないから、伝えられないことがあったんだ。

それをここで公に説明することは出来ない。

かめは悪くない。

不愉快な思いをさせてしまったのは、私の配慮が足りなかったから。

ごめんなさい。

No.101 12/10/17 23:14
かめ ( ♀ h2Kunb )

やっと みんなのスレ見つけたのに💧… もう私は入れない💧

凄く 悲しい💧💧💧

No.100 12/10/17 14:40
かめ ( ♀ h2Kunb )

別スレなのに… ごめんなさい。
ham スレは どうしてしまったの⁉😭

No.99 12/09/20 09:57
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙98番さん

はじめまして。

すごい!
こんな絶賛を頂けて、とても感激しました。

98番さんは、よく本を読まれる方なのだろうな…
そう、想像しました。

と言うのも、98番さんのレスは、出版社から来る講評に似通っているからです。
内容を十分に把握して頂いた上での感想、私も清々しい気持ちで読ませて頂きました。

また、お目にかかりたいと思います。

No.98 12/09/20 09:46
自由人98 

月子さん、初めまして。
この小説…つい最近知りまして、17日に知り今読み終えました。

最後まで完結され、お疲れさまでした。
読みやすく、文章も簡潔で、でもちゃんと要所は捉えてて、読者を引き込ませるテク、興味湧く進め方…どれもこれも、月子さんの才能が素晴らしいと思えました。

そして視点(ユウ視点、真実視点と)を変えてのあらすじも違和感なく、なんということでしょう!!ちゃんと纏まりバトンの受け渡しもされているではないですか!?
もう、お見事!の一言につきます!!

こんな作品、早く気づけば良かったですが(すみません)、更新を待つことなく完結まで読めたので良しでしょうね。

私も良く小説読みます、同人誌も読みます(笑)
が、携帯小説は読んだことがなかったです。
正解にはミクルでちょくちょく小説を目にはしてましたが、やはり恋愛物が書きやすいのか多いですよね?
そしてなんとなくストーリーが想像できる、恋愛物はわかりやすいけど、あのどろどろした感じは私にはどうも馴染めません(笑)
なので途中で飽きてしまい読まなくなりました。

月子さんのような作品は大好きです。
恋愛物じゃなければ良い、そんな偏屈な私ですが、とにかく、引き込む内容とバランス、展開、月子さんのこの作品はどれも欠かすことなく仕上がってて、月子さんの他の作品も読んでみたい!!とそそりました。

提供して下さりありがとうございました。

No.97 12/09/17 22:34
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙96番さん

はじめまして。
読んでくださって、ありがとうございます。

見上げれば…は、あまりにも短編過ぎて、もっと続きが読みたかったとの声をたくさん頂いた小説です。

良かったら“猫”を読んでみてください。

それから、また次作でもお会い出来ることを楽しみにしています。

No.96 12/09/17 22:26
小説大好き96 

はじめまして

この小説偶然見つけて
一気に読みきってしまいました
面白くて引き込まれました

見上げれば空も探してみますね

No.95 12/09/17 08:40
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙ねこさん

おはようございます。
いつも、読んでくださってありがとうございます。


今回の物語は、高校生ではなくて、中学生達なんですよ。
(^-^)

後から分かったことですが、謎を解明していくキーマンである、ユウが実は18才だったので、全体的に大人びた印象になってしまったのかも知れませんね。


次作でも、ぜひお付き合いください。

No.94 12/09/17 07:07
ねこ ( ♀ h2Kunb )

月子さん
面白かった。o(^-^)o
消火器の指紋取り… 知識まで 凄いね。
私は 鑑識や 監察医 大好き😍

元 東京都監察医 上野先生の📖も 今度 読んでみたいなぁ~ と思っています。😁

高校生・先生との危険な恋が舞台で… 現実でも 起こりそうな話で ドキドキでした。

お疲れ様でした。🙇

📖離れしている 主婦の私も 楽しみにしています。
次回作も 気長に待ちますので ミクルに掲載してくださいね。😃

No.93 12/09/16 23:12
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙56番さん

こんばんは。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

私は、起承転結を予め考えずに書きます。

だから、書きながら物語が動き出す…そんな感じです。

後は、登場人物任せなので、私の役目は、ただのつじつま合わせw


また、次作でお目にかかりたいと思います。

No.92 12/09/16 23:04
旅人56 ( ♂ )

凄いね⁉

作品は初めて読んだけど、こんなに簡潔に終了させられるだけでも敬服‼

俺には絶対無理😅

No.91 12/09/15 23:44
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

タクさん

いつもありがとうございます。

一番良かったですか?
最高の誉め言葉ですね。

中学生達のストーリーなので、私の出来る範囲で死者は出したく無かったのが、本音です。

咲江が生きていて、本当にホッとしたのは、他でもない私だと思っています。


書きながら、私もどっぷりと文字が立体感した世界で楽しめた一作だと思います。
最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。

良かったら…
また、次作でお会いしましょう。

No.90 12/09/15 23:33
タク ( 20代 ♂ hRoDh )

スッゲェ面白かったです❗❗

一番好きかも🌟

何か 毎回言ってる気がするけど…😁
本当の気持ちです

月子さんお疲れさまでした🙇

No.89 12/09/15 23:15
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

ユジナーさん

なるほど…
あれは、主人公と空の、もっといろんな話を織り込めば良かったのかな?

ただ、夏休みの1ヶ月だけの生活だったから、あまりにもいろんな事が起きると、リアリティに欠けてしまいますよね?

私は、何にも考えずに書き始めて、後は登場人物任せなので、それは今後の課題として受け止めさせて頂きますね。

ありがとうございます。

No.88 12/09/15 23:06
ユジナー ( ♀ 1YkJh )

>> 87
フフッ・・・


月子さんが 翻弄されながら ストーリーが進んでいくのが とても愉快😁


作家の人は 皆さん大体、粗筋は決めているのかと!


本当は見上げれば空の方が私は 好みです☺ でも 終わりが早過ぎて もぎ取られてしまったように 感じて・・少し寂しさは有りました😫

でも 温かい月子さん感性を感じて 好きだな~
見上げれば空のような 長編をいつか 読みたいですm(_ _)m

ありがとう💕💕



No.87 12/09/15 22:34
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙ユジナーさん

いつも、応援してくださってありがとうございます。

変わってきてますか?


確かに…
今回と、前の“見上げたら空”では、死人は出ませんでしたね(笑)


良く変わっていっているのなら、問題は無いのですが、悪く変わっているのなら、是非ともご指摘をください。

客観的なご意見は、参考になります。


相変わらず、恋愛小説の書けない小説家ですが、いつかトライしてみようと思っていますが…


登場人物の気ままな動きに、私自身が翻弄されています。


稚拙な小説に、最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。


また、次作でお会いしたいと思います。

No.86 12/09/15 22:25
ユジナー ( ♀ 1YkJh )

>> 85
月子さん お疲れ様でしたm(_ _)m

面白かった(^_^)v 毎日何度も 続きが更新されてますよ~に👀👀💦と楽しみでした

咲江ちゃんが 生きていてくれて 良かった~☺


月子さん 新作が出て読む度 面白くなってくと 感じてるのは・・私だけで無い!きっと 読み続けてきたファンは同じ思いで・・(*^o^*)


月子さんが変わってきたんではなくて 本領を発揮してるだけなんでしょうね😊

次は・・どんな・・少し 身体休めて下さい!お待ちしていますm(_ _)m



No.85 12/09/15 21:41
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


それから…


ユウが五億円を積んだ車を運転した件は、お咎めなしだった。


アイツ…

俺達には何も言わなかったが、子供の頃からドイツに住んでいて、日本に帰国した十二才の頃には、まだ日本語がほとんど話せなかったから、両親が家庭教師を付けて日本語を学ばせて、中学に入学したのは異例だが十六才の時。


だから、今は十八才で、しかも車の免許を取っていやがった!



初めてそれを知った俺達は、真美も交えて


『お前、いったい何者だよ!』


と、言わずにはいられなかった。



咲江は、俺達の様子を見上げて、弾けそうな笑顔を見せた。


         《完》



No.84 12/09/15 21:34
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


咲江の記憶は、事件のこともそうだが、所々が抜けていた。

杉田と付き合っていたことも、
妊娠していたことも…


お腹の赤ちゃんは、残念ながら流産してしまっていた。


でも、そのことを咲江は知らない方がいい…
俺達は、そう思った。


意識を取り戻してからの咲江は、声が出なかった。

咲江の親父さんに聞くと、ショックによる一時的な失声症だろう、時間が経てば声は出るようになると言っていた。



体調が万全とは言えない咲江は、卒業式には出席せずに、この部室で俺達を待っていた。


No.83 12/09/15 21:27
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


その場所に座っていた咲江が、俺達を見上げて、にっこりと微笑んだ。





咲江は…
生きていた。


発見された時には、意識不明の重体だったが、奇跡的に意識を取り戻した咲江は、事件のことを全く覚えていなかった。


もしも、咲江が生きていると犯人が知ったら、また狙われる可能性があると判断した警察は、マスコミの協力のもと、咲江は遺体で発見された、と発表して桜木病院ではなく警察病院に入院していた。

だから、桜木病院の看護師の朝倉順子に狙われることも無かった。


No.82 12/09/15 21:20
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


春だけど…
まだ、風は冷たかった。


その後、俺達は卒業式を迎えた…




“仰げば尊し…我が師の恩…”


体育館には、俺達の歌声が響き渡った…


俺は、この三年間の出来事が頭の中を駆け抜けていった。


多分、隆もユウも真美も同じだったと俺は思う。




卒業証書を手に、約束もしていないのに、俺達四人は当たり前のように部室に集まった。



『ねえ、咲江…、私達五人…揃ってここから卒業だよ』

真美が、咲江の指定席の窓辺に向かって、そう言った。


No.81 12/09/15 21:13
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


咲江の親父さんは、ユウのその言葉を聞き、
『そうか…、咲江に君たちのような友人がいることを誇りに思うよ。ありがとう』
と低い声で言った。


『私も、咲江のお父さんがこんなに素敵なお父さんだってこと、誇りに思います!』

真剣に言った真美の言葉に、咲江の親父さんは軽く笑って…


そして、手元に目を落とした…




桜木病院を出て、
『ユウちゃん、どうして咲江がまだ生きているかも知れないのに、お金を横撮りしたのよ!』

真美がしつこくユウに聞いた。


『咲江の親父さんの前では言えねーだろ?恐らく咲江はすでに殺されていると思った…なんてよ』


『ユウ…それは当たってたけど、確信があったのか?』
やっと状況が飲み込めた隆がユウに聞いた。


『100パーじゃないけどな…。過去の誘拐事件を徹底的に調べた統計だ』

と言った。




その足で、俺達は警察署に行って、それぞれが違う部屋で、これまでに起きたことを包み隠さずに話した。


狂言誘拐の実行犯として、刑事からさんざん怒られた。


だけど、未成年であること、悪意はなかったこと、そして結果的に、桜木病院で真犯人の逮捕に至ったことで、罪には問われなかった。

No.80 12/09/15 20:58
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『はい。ですが、愛情を試すとか、お父さんが浮気していたとか…、僕にはそれは杉田先生と結婚して、赤ちゃんを産みたい一心で咲江がついた嘘だと思います』


俺達は、口を挟まず黙って咲江の親父さんとユウの会話を聞いていた。


『君には、どうしてそれが分かるのかね?』


『お父さんは、すぐには警察に届けませんでした。五億…いえ、元々は一億円の予定でしたが…そんな大金よりも、咲江を大切に思っていらっしゃったからでしょう。そして、何よりも咲江自身が自分はお父さんに、ちゃんと愛されていると確信していたからこそ、確実に一億円を手に入れることが出来る狂言誘拐を計画したのだと思います』


No.79 12/09/15 20:55
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


四人で、ぞろぞろと桜木病院の院長室に入って行った。


『ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした』
ユウが、丁寧に頭を下げた。


テーブルを挟んだ、向かいのソファーには、腰を深く沈めた咲江の親父さんが、目を瞑って、何も言わずにユウが順序良く狂言誘拐から始まった、この事件の真相を説明するのを聞いていた。


目の前のテーブルには、五億円が置かれている。


ユウが説明を終えると、咲江の親父さんはやっと口を開いた。


『娘が…咲江が、私の愛情を試すと言ったのか…』

咲江の親父さんが、深いため息をついた。


No.78 12/09/15 20:36
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


俺は、思わず気が抜けたような声を出した。

『はあ?…って、ことは?』



ユウは、部室の片隅に積み重ねてある段ボール箱の一番上の箱を
『よっ…』
っと、声を上げて一つだけ床に下ろすと、それを開いた。

『五億円は、ここさ』


『だから…お前って、何者なんだよ…』
初めて目にした札束の詰まった箱の中を覗いて、俺はすっかり口癖になっている、このセリフが自然に口から出していた。


真美は、少しユウを睨むような目で、
『私さあ、犯人が五億円の取引方法をみんなで話してた時、なんとなくユウちゃんの様子がおかしいな…って、思ってたんだよね。どうしてあの時に私達に言わなかったの?』


『話そうか、迷ったんだけどね…あの直後に咲江の死体が発見されて、みんなは知らない方が良いと思ったんだ。知っていると、犯人に狙われる可能性があると思って…ね』


『だけど…結果的に咲江はすでに殺されていたわけだけど、もしも違ったら、ユウちゃんがお金を横撮りして殺されるかもって、思わなかったの?』



ユウちゃんは、真美の問いかけには答えず、
『これから、警察に行く前に、咲江の家に行こう』
そう言った。


No.77 12/09/15 20:21
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『ボイスチェンジャーが使われたのは、三回ではなくて四回だったんだ。朝倉順子は、その四回目の電話をかけに、ここに再び現れた。俺は、必ず来ると思っていた。身代金の受け渡し方法を咲江の親父さんに伝えるために、ね。だから、録音機能を追加しておいたんだ。もちろん、変換されない声が録音出来るように。で、その録音された会話で、犯人は大人の女性だと分かったけどさ、それが誰かまでは特定出来なかった。杉田と彼女を見かけるまではな…』


ユウのやや長い話を俺達は黙って聞いていた。
ユウは、ゆっくりと話してくれたから俺には意味が解ったが、隣で隆は首を傾げている。


俺は
『だから、あの時さあ、いきなり“先生達って結婚するんですか?”なんて急に聞いたんだな。二人の関係を確認するために』


『そういうこと』
ユウが答えた。


『ねえ、録音されてたのはどんな会話だったの?』
今度は真美が聞いた。


『朝倉順子が言ったのは、日時と場所を指定して、車のトランクに五億を積んで、車のキーをさしたまま立ち去れ…って内容だったよ』


『へえ、それで?』


『だから、俺が先回りして、その車を運転して五億円を先取りしておいた』

ユウが涼しい顔をして言った。


No.76 12/09/15 20:06
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『そういえばさ…、五億円はどうなったんだろう』
俺は気になっていたことを口にした。


ユウが
『ああ、そうだった。俺の携帯には、実は指紋がもう一つあったんだ』
思い出したように言った。


『それって…どういうことよ?』

真美の問いに、ユウは即答せず、もったいつけるように澄ました顔を見せた。

『誰の指紋だと思う?』
逆にユウが俺達に聞いてきた。



『誰っ?』


俺も隆も真美も、同時にユウに聞いた。

『朝倉順子のものさ。あの計画を知っている可能性がある人物だったからな』

『でも、警察の取り調べで、朝倉順子はお金を受け取っていないって…』



何だか、またややこしいことになってきたな…

俺は、バスケットボールを手で弄びながら、とにかくユウの話を聞くことにした。


No.75 12/09/14 18:38
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


【小林勝也】

『びっくりしたぜ』
『そうだよ。咲江だけじゃなくて真美まで杉田と…』

俺と隆は、しみじみと真美を見つめて言った。

ユウは、黙ってただ笑っていた。



真美がすっと立ち上がると
『ねえ、あんた達ってば私がホントに杉田と付き合ってたって思ったの?』
そう聞いた。


『なんだよ…それ』

真美は、腰の辺りに手をあててポーズを作ると


『忘れたの?私の将来の夢は、女優よ』

そう言うと、真美は満足した顔で俺達の顔を見た。



マジで、主演女優賞ものだった…
と、俺は思った。


No.74 12/09/14 18:31
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


取調室で
『雅也さん…、ひどいわ!二人もの生徒に手を出していたなんて…許せない!』
憎々しそうに、朝倉順子は血が滲むほどに唇を噛んだ。



その姿を見ながら刑事は頭を掻きながら
『いや…』
と、ただ呆れた顔をした。



無事に真美を助け出した後、刑事から
『もう時間が遅い』
との理由で後日、話を聞かせてもらうと言われ、俺達は名前と住所と電話番号を聞かれただけで、帰された。


それぞれの親が引き取りに来ていたが、とりわけ真美の母親は、号泣しながら真美を抱き締めていた。


No.73 12/09/14 18:23
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


杉田の車が去って、すぐに咲江は意識を取り戻した。



朝倉順子は、杉田の後を追って、その一部始終を隠れて見ていた。


目覚めた咲江は、状況が飲み込めず、キョロキョロしていた。

そこに、父親の病院に勤めている看護師の朝倉順子が現れた。


『あのね、私…杉田雅也さんの婚約者なの』

いきなりそう言われ、更に事情が分からなくなった咲江はパニックを起こした。

そして、
『ウソよ、だって杉田先生は私の赤ちゃんのパパになるのよ。私のパパだって、きっと認めてくれるもん!』


『ウソじゃないわ。あっちで雅也さんが待ってるの。一緒に行って確かめる?』

そう言って朝倉順子は川沿いの茂みに咲江を誘い込むと、背後から絞殺した。


そして、もみ合った時に咲江が落とした携帯電話を川に投げ捨てた。


その携帯電話の中には、ユウが発信機を取り付けてあった。


警察の最初の捜索では見つからなかった携帯が、朝倉順子の供述通り二度目の捜索で川から発見された。


ユウが言っていた、発信機から信号が出ていない原因の一つ…


水没。


No.72 12/09/14 18:10
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


我に返った杉田は、咲江に息があることを確認すると、そこにあった、ボイスチェンジャーが取り付けてある携帯電話を手に取り、咲江の自宅に電話をかけて、この誘拐が狂言であることを話そうとしたが、もしかすると咲江との関係がバレてしまうのではないかと危惧し、結局電話はせずに、元の場所に戻すと、咲江を抱え車の後部シートに乗せて、桜木病院の前で咲江をそっとおろした。

救急患者を受け入れているこの病院の前なら、すぐに誰かが咲江を見つけてくれるだろう。


杉田は、どう説得すれば咲江の中にいる小さな命を堕胎させられるのか…


そればかりを気にしていた。


No.71 12/09/14 18:01
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


咲江がアパートを出て、しばらくすると杉田は、もしかしたら本当に咲江が狂言誘拐を実行しているかも知れない…

と、気になり車を飛ばして学校に向かった。


部室に行き、ノックをすると案の定、咲江はそこにいた。


あれほどやめろと言ったのに…


思わずかっとなった杉田は、咲江の頬を平手で殴りつけた。

その反動で、咲江は倒れて机の角で頭をぶつけて気を失ってしまった。



咲江の後頭部にあった打撲痕は、この時のものだ。


No.70 12/09/14 17:55
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


真美の声を聞き、駆け付けた警備員の手から朝倉順子と杉田雅也の二人は警察に引き渡され、逮捕。


全てを自供した。




あの決行の日。
やはり、咲江は杉田のアパートに行っていた。

朝倉順子は、杉田雅也のアパートの前で、咲江と杉田の会話を立ち聞きしていた。

咲江が妊娠していて、産みたいと杉田に話していた。


杉田雅也は、
『桜木のお父さんが許してくれないよ』
と言い、堕胎を勧めたが、咲江が
『パパなら、きっと解ってくれる!…もし、許してくれなくても、…あのね、もうすぐ一億円が入るの。だから、それを持って二人で駆け落ちしてよ』
と言っていた。


そして、狂言誘拐の計画を朝倉順子は立ち聞きすることによって知った。


杉田は、そんな馬鹿な計画は中止して、帰りなさいと、咲江を諭していた。


No.69 12/09/14 15:37
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


朝倉順子が
『雅也さん…?生徒に手を出したのは…あの子だけじゃなかったの?』
と、動揺を隠せずわなわなと体を震わせていた。

大きく見開かれた朝倉順子の充血した目が、杉田を捉えた。


『ちょっと待てよ…坂本、お前…』
薄笑いなのか、引きつっているのか判別できない複雑な表情で、真美に近付こうとした杉田の背中を、朝倉順子の手から銀色の一光が走った。


その瞬間を見逃さず、俺は朝倉順子を突き飛ばした。

不意をつかれて倒れた朝倉順子を、勝也とユウがすぐさま取り押さえた。


そして、ほぼ同時に真美が廊下に飛び出すと、大声で叫んだ。



『誰か!誰か来てえぇーーーーーーーっ!』


No.68 12/09/14 15:28
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『うああーーーーーっ!』

慟哭のような叫び声。


それが真美の口から発せられたものだと認めるまでに、俺は数秒かかった。


突然の真美の絶叫に驚いたユウと勝也は、真美からそれぞれ半歩離れると上半身を反らせていた。



『じゃあ…、私はどうなるのよ!』
いきなり真美がそう叫ぶと、大粒の涙をぽろぽろと流した。


『杉田センセ、私のことだけが好きだって、言ってたじゃない!』


『お…おい、坂本!』


涙を流し続けながら、真美は叫び続けた。
『咲江とも、この彼女とも別れるって言ってたじゃない!私…信じてたのに…嘘つき!』



真美は、わんわんと子供のように声を上げて泣き続けた。


No.67 12/09/14 15:20
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


ゆっくりとドアが開き、杉田が入ってきた。


窓際に並んでいる三人と、首筋にメスをあてられている俺を見て、

『おまえら、何やってんだ?』

と、間抜けな声で言った。


『雅也さん、今は説明してる暇がないの。とにかく、こいつらを全員殺して!』

『順子…何言ってんだよ?』



『あ…あなたが悪いのよ!浮気なんてするから!』

『おい…、何のことだよ?』


『しらばっくれないで!私、知ってるのよ。あなた、生徒の桜木咲江と付き合っていたでしょう!しかも、妊娠までさせて…』


『まさか…お前が桜木を殺したのか?』

朝倉順子はフッと鼻で笑って
『そうよ。あの子、お父さんに話すって言っていたわ。院長が知ったら、あの院長のことだから愛娘の言うことを聞いて、きっとあなたと結婚させていたわ』




次の瞬間…
俺達は揃って目を丸くした。


No.66 12/09/14 13:01
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『悪いな、おまえら…』
と、俺は苦笑いを浮かべて言ったとたんに、朝倉順子は

『黙ってなさい!』と、怒鳴った。
俺は、びくっと体をすくめた。


朝倉順子は、俺のジーンズの後ろのポケットから左手で携帯を取り出すと、電話をかけた。



『わたしよ。今から病院に来て。裏口から入ってちょうだい。305号室に来て…いいから!言うことを聞いて!すぐに来て!』
そう言うと電話を切った。



『杉田先生を呼んだんですね?』
ユウが相変わらずの冷静な口調で聞いた。

『黙って!』
朝倉順子が尖った高い声で叫ぶように言った。

『お願い、黙って…』
俺も泣きそうな声で、朝倉順子に続いて言った。



二十分近く、この膠着状態が続いた。

そして、病室のドアが
ゆっくりと開いた…

No.65 12/09/14 12:52
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


俺の喉元には、看護師…後から知ったんだけど、名前は朝倉順子…が握っている手術用のメスが冷たく光っていた。


朝倉順子は
『あんた達、後ろに下がりなさい!』
と、前に会った時とは別人のような強い口調で言った。


言われた通りに、ユウも真美も勝也も後退した。


朝倉順子は、俺の背後に立って、右手に持ったメスを首筋に当てていたが、かすかにその手が震えているのが伝わってきた。

『ち…ちょっとぉ…、刺さないでよ…』
俺は思わず声を漏らした。


朝倉順子は
『もっと下がって!窓際に並びなさい』
と言い、言われた通りに向かって右から勝也、真美、ユウの順に窓際まで下がって並んだ。


俺は、三人と向き合う形で、背後には朝倉順子の持つメスが首にあてられたままだ。


No.64 12/09/14 12:41
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『真美…』
俺は、生きている真美を見つけ出すことができて、ほっとした…


ずっと、俺の頭の中では、咲江の遺体が発見された時のことがぐるぐると回っていたから。



真美は、両手足を縛られ、口には猿ぐつわが咬まされていた。


俺達がそれをほどくと、いきなり…



『ああ、怖かったあ!杉田の彼女を見かけてさあ、後をつけてみたら角を曲がったところでいきなり…』
と、大声でしゃべり出した真美を、俺達は慌てて制した。


ユウの予想通り、この部屋の患者は寝たきり状態らしいが、外に声が漏れるとヤバい。


『じゃあ、退散するか』
ユウがニヤリと笑った。

『だな』
俺も勝也も安心した顔を見せた。


そして、俺が先頭になって病室から出ようとドアをゆっくりと開けた。



『おい、隆?何やってんだよ。立ち止まってないで、早く出ろよ』
後ろから、勝也が俺をせっついた。



『あのさあ…ちょっと状況が変わった…』
俺は、小さな声で言った。


多分、その小声は震えていたと思う。


No.63 12/09/14 12:28
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


俺と勝也がゆっくりと歩いていると、ユウがいない。


俺達は足を止めて振り返り見ると、ユウは一つの部屋の前で立ち止まっていた。


俺と勝也はユウの立つ場所まで引き返した。


俺は、さっきよりももっと小さな声で
『ここか?』
と聞いた。

勝也は
『どうしてここだって分かるんだ?』
と聞いた。


ユウは、病室の入り口にあるプレートを読み上げた。
『西嶋トシ、九十八歳…もしも間違っても、ぐっすりと寝てるだろう』

ユウはすぐに、音を立てないようにゆっくりと、その病室のドアを開けて


小さな声で

『ビンゴ!』

と言った。



俺と勝也も病室を覗き込むと、ベッドの下でバタつかせている足が見えた。


No.62 12/09/14 12:18
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


俺達は、物陰にかくれて、看護師の顔を確認してから

『どうする?』
俺は、隣に立っている勝也に聞いた。


勝也は
『おい、ユウ。黙ってないで、何かいい考え無いのかよ?』
と、ユウに聞いた。


ユウは
『俺なら、どこに真美を隠すかな…って、考えてんだ』


『やっぱり、この病院のどこかに真美がいるってことか?』
勝也が小声でユウに聞いた。


『そう。杉田のオンボロアパートじゃなくて、場所は知らないが、あの彼女の住んでいる場所でもないだろう』


今度は俺がユウに聞いた。
『どうして彼女の家じゃないって分かるんだ?』


ユウも小声で話した。
『見張りがいないと不安だろ?彼女の家に杉田が行って、監禁している真美を見張っている可能性は、ゼロだ』


『なんで言い切れるんだよ?』


『さっき、部室で待ち合わせた時に、俺は途中で杉田のアパートに寄ったんだ。小窓から杉田の部屋を覗いたら、杉田は寝転がってテレビを見ていた』


『だから、ユウは、いつもより遅く来たのか…』
俺は感嘆に似た声を出した。


『だから…お前、何者なんだっつーの!』
勝也がそう言ってから、
『で、名探偵さん。どこに真美はいると思う?』
と聞いた。



ユウは
『見舞いに来る人がほとんどいなくて、急に容体の変化があることはめったになくて、警備員が慎重に見回らない場所だ』


『それって、寝たきり状態の患者の病室か?』

『そう』


『なるほどな、じゃあ探そう。入院病棟は、俺、けっこう詳しいんだ。行こうぜ』
勝也が先に立って、迷わず入院病棟に行き、階段を使って三階まで上がると、大部屋はスルーして、個室のゾーンを注意深く歩いた。


No.61 12/09/14 11:58
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


勝也は、この病院に入院していたことがある。

バスケの練習中に、右の鎖骨を骨折した時だ。

俺は勝也の見舞いに何度かここに来ているから、中のことは何となく覚えている。


普段は混雑している待合場所に並んだ長椅子や、カーテンが閉まっている受付や会計に人影はなく、もちろん昼間なら慌ただしく歩き回っている看護師や医者の姿もなく、静まり返っていた。


奥へと進んでいくと、救急外来にちらほらと順番待ちをしている数人の患者が座っているのが見えた。


『次の方、こちらへ…』

診察室から出て来た看護師は、長い髪をアップにしていたが、間違いなく杉田の彼女だった。


No.60 12/09/14 11:48
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


すぐに俺達は、桜木病院に行くことになった。


俺だけじゃなく、勝也もユウも自転車で来ていた。


俺達は、桜木病院に向かって全力で自転車のペダルを踏んだ。


もうすぐ春だというのに、夜風は冷たかったが俺達は汗をかくほど、必死で桜木病院へ向かった。


病院に着いた時、携帯の時計を見ると十時を過ぎていた。



当然のように、正面の出入り口の鍵は閉まっている。


俺達は裏に回ると、救急外来の患者の出入り口から病院に足を忍ばせて次々に入った。


警備室の前を通る時に、年配の警備員がちょうと大あくびをしていた。



こうして俺達は、簡単に桜木病院へ侵入することができた。

No.59 12/09/14 11:36
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


そしてユウが
『あの彼女…看護師って、杉田が言ってたよな?どこの病院の看護師だ?』
と、右手の人差し指を額に持っていき、考えていた。



『どこの病院か、聞かなかったよな?』
俺と勝也は顔を見合わせると、確認するように言った。



突然、ユウがはっとした表情で顔を上げると
『俺はとんでもない勘違いをしていたのかも知れない』
と、はっきりと言った。

『どういうことだ?』
俺はユウに聞いた。

『何だよ。言えよ、ユウ』
勝也もそう言った。


ユウは、小さな声で

『桜木病院…』


とだけ言った。



『それって、咲江の親父さんの病院じゃん…』
俺がそう言うと、勝也が続けて言った。


『もし…そうだとしたら…これって偶然じゃねえよな…?』

No.58 12/09/14 11:23
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

56番さん
57番さん

はじめまして。


頑張って書きますので、良かったら最後までお付き合いくださいね。


それでは…
続きです。


No.57 12/09/14 08:29
匿名57 

面白い❗
早く続き読みたいです✨
気になる😣

No.56 12/09/14 03:10
旅人56 ( ♂ )

えー❗

ここで中断⁉

寝れねえ😅

No.55 12/09/13 15:39
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


俺達は、とりあえず部室に集まることにした。



俺が部室に着くと、勝也がもう来ていて
『おい…、まさか真美にも何か…』
と、青い顔をして聞いてきた。



『犯人も、そんなに馬鹿じゃねえだろう。こんな身近で連続殺人なんかやらねえよ』

いつもだったら、もっと早く来るユウが、珍しく最後に来ると部室のドアを開けながら、そう言った。

その言葉を聞いて、俺と勝也は少しほっとした。


俺が
『なあ、ユウ。発信機!真美の居場所って、あの発信機で分かるんじゃねえか?』
と聞いたが、ユウはため息を一つついた後、
『この前、お前達の前で真美の鏡から発信機を取り出して見せたろ?あの時に外したままなんだ…』
と答えた。


俺は続けて
『じゃあさ、杉田のアパートに行ってみるか?』
と言ったが、今度は勝也が

『あのオンボロアパートで、監禁なんかするかよ。悲鳴とか物音で、すぐに近所の人が通報するよ』
と、却下した。



ユウが、
『なあ、杉田を信用していて、一番近い存在って誰だ?』
と聞いた。

俺と勝也は声を揃えて


『杉田の彼女!』
と、答えた。


No.54 12/09/13 15:25
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


【沼田隆】

俺は途中でユウと真美、勝也と別れて、家に帰った。

二階にある、自分の部屋のパイプベッドに寝転がり、天井の一点を見ていた。



何がなんだか…
わかんねえよ…


頭の中がゴチャゴチャだ。


下から母親が俺を呼ぶ声が聞こえた。

飯か…

そう思ったら
『隆!電話よ』

ベッドから起き上がり、階段を下りながら
『誰から?』
と聞いた。


『坂本さん、坂本真美ちゃんのお母さんから』


え…?
真美の…


俺は母親から受話器を受け取ると
『あ…どうも』
と言った。


真美の母親は、慌てた様子で
『あのね、真美がまだ帰らないの。沼田君達と一緒じゃないかと思って…ほら、咲江ちゃんの…あんな事件があった後だから、おばさん、すごく心配で…』


『あの…真美とは、夕方には別れました。俺、探しに行ってきます!あ、おばさん、俺の携帯番号を言っとくから、もし真美が帰ってきたら電話してください!』


電話を切ると、俺はすぐに勝也とユウに電話して、真美がまだ帰っていないことを伝えた。


ジーンズの後ろのポケットに携帯を突っ込むと
『ちょっと行ってくる!』
と、大声で母親に声をかけた。


後ろから
『ちょっと!隆、こんな時間に…』
と、母親の声がしたけど俺は振り向かずに家を飛び出して、自転車に乗った。


No.53 12/09/12 14:16
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『じゃあ…咲江を殺したのも…?』
私は声が震えた…


ユウちゃんは真剣な目になると
『杉田先生の可能性が高いな。咲江の妊娠が動機かも知れない』
と言った。


『教室と生徒の恋愛…しかも、妊娠…』
勝也が呟いた。


ユウちゃんが
『教師が殺人を犯す動機としては、十分だ…』
そう勝也と同じように呟くように言った。


『ねえ、これから私達はどうしたらいいの?』

『そうだよ、警察に行くか?』
勝也も焦った声に変わっていた。



『あのさあ…咲江の親父さんって、警察に内緒で五億円を犯人に渡したんだよな?それって、杉田先生が受け取ったってこと?』
隆が思い出したように口にした。


『そういえば…咲江のお父さん、すぐには警察に届けなくて…警察に届けた後に犯人から接触してきて、誰にも分からないように取り引きに応じたんだよね…』

『なあ…杉田が、すでに殺してる咲江の身代金…しかも五億も取る度胸あんのかなぁ…?』
隆が不思議そうに言った。


勝也が
『犯人は、どうやって金を受け取ったんだろう…』


ユウちゃんは、何も言わなかった。
黙っているユウちゃんに
『ねえ、杉田先生の彼女かな?』
と、思い付いたことを聞いてみた。


『真美、五億円がどれだけの量か分かるか?女性一人では持てない。とにかく、警察に話すには指紋だけでは証拠が薄いな…。部室の見回りに来て、携帯電話が置いてあったから、手に取って見ただけ…なんて言われたら終わりだしな』


その時、私はユウちゃんに対して、何か釈然としない感覚を覚えた…
それが何なのかは、後から分かることになる。


勝也が
『なあ、ユウの携帯、二回目の電話の発信履歴は?』
と聞いた。


ユウちゃんは
『ご丁寧に削除してあったよ』
と言った。



とにかく、杉田先生には気をつけることにして、私達はその日、解散した。


No.52 12/09/12 13:31
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


私は息を飲むと、
『咲江が…どうしてよ!』
と、ユウちゃんに向かって叫ぶように言った。


悲しそうな表情のままのユウちゃんは
『あの三叉路…。あの道には、杉田先生のアパートがあった。俺達の知る限り、咲江があの道を通る用は無いはずだ。…そこに、知っている人間が住んでいれば、行き先はそこしか考えられない。杉田先生のアパートだ…』


勝也が
『咲江が妊娠してたって相手…まさか…』

ユウちゃんが静かに言った。

『杉田先生だろうな…』



『私も、他の男子が相手だったら、咲江に付き合ってる人がいるって気付いたかも…。いつもと違うおしゃれをするとか、デートする気配とか…』


『誰にも言えない相手で、毎日学校でデートできる相手…ってわけか…』
やっと把握したように、隆が言った。


No.51 12/09/12 12:56
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


みんながそれを見て、思わず唾をゴクリと飲み込んだ…



『ねえ、この先に採取してたって指紋は、どこからとったものなの?』

『俺の携帯』


『ユウの携帯から?』
隆が聞いた。
勝也は何も言わなかったけど、身を乗り出して、パソコンの画面を見つめている。


『そう、俺の携帯電話。一回目の身代金を要求する電話を咲江の家に掛けた日、ボイスチェンジャーを取り付けたまま、俺は携帯を持って帰るのを忘れたんだ』

勝也がやっと口を開いた。
『ユウ…、この携帯から杉田先生の指紋が出たってことは…』


『恐らく、二回目の電話は、ボイスチェンジャーの付いたままの俺の携帯を使って、杉田先生がかけたんだろうな。身代金を五億に吊り上げる内容で…そして、俺達の中の裏切り者は…』



みんながユウちゃんをじっと見た。



ユウちゃんは悲しそうな表情で、こう続けた。



『裏切り者は…咲江だ…』



部室がねっとりとした嫌な空気で満たされたように感じた…

No.50 12/09/12 12:44
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『ユウ、もしかして、先生の指紋をとるのか?』


『勝也、大正解』
ユウちゃんがニヤリと笑った。



『お前って…何者だよ…』
勝也が驚いた顔をした。



ユウちゃんは、缶ジュースに現れた渦巻き状の部分にセロハンテープを貼って、粉の形を壊さないように、ゆっくりと剥がして、それを黒い画用紙に貼り付けた。


確かに指紋だ…。


すぐにそれをスキャンしてパソコンに取り込むと、先生の指紋がパソコンの画面に鮮明に映し出された。


『で…、こっちは予め採取しておいた指紋だ』
ユウがそう言って、別の渦巻き状のものをパソコンにの画面に出した。


並んだ2つの指紋…

ユウちゃんがマウスをゆっくりと動かすと…


その2つが…



見事に重なった…


No.49 12/09/12 12:35
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


ユウちゃんは、隆が持ってきた古びた消火器を受け取ると、
用意していた大きなモンキーレンチを使って、その蓋を開けた。


みんながユウちゃんを囲んで、その様子を黙って見ていた。

ユウちゃんは、消火器を傾けて、その中から薄いピンク色の粉を少量取り出した。

『これは、ごく一般的なABC消火器って言うんだ。この粉…消化剤は燐酸2水素アンモニウムって言って…、ま…難しいことはいいか。とにかくこの消火器に入っている粉は、粒子が細かいんだよ。…真美、化粧用の筆みたいなヤツ、持ってるか?』


私は、ポーチの中からチーク用のメイクブラシを出すと
『これでいい?』
と聞きながら、ユウちゃんにそれを渡した。


勝也が
『真美って、化粧とかするのか?』
と聞いた。

『学校ではしないけどね』
と、答えた。


ユウちゃんは渡されたメイクブラシをじっと見て
『これ、新品だな』
と言った。


『そうよ。今度使おうと思ってたの』

『ちょうどいい』
ユウちゃんが笑った。


そして、消火器のピンク色の粉をメイクブラシに付けると、缶ジュースの表面を優しく撫でるようにして、その粉を塗り付けた。


No.48 12/09/12 12:02
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

47番さん
はじめまして。

読んでくださって、ありがとうございます。


数日、サボってしまったので、今日からまた更新します。

良かったら、最後までお付き合いください🌙


No.47 12/09/11 20:34
名無し47 ( 20代 ♀ )

面白い!o(^▽^)o
犯人が誰かすごく気になります!
続き楽しみにしています。

No.46 12/09/11 02:03
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


裏切り者…

やっぱり私達の中にいるの?




私達は、部室に行くまで
それぞれが誰とも目を合わせることが出来なかった。



そして、部室に着いた時、ユウちゃんは慎重にあの缶ジュースが入ったそれを、ビニール袋から取り出した。


そして、部室の片隅にある消火器を指差すと
『隆、あれを持ってきて』
と言った。


訝しげにも隆は
『どーすんだよ?』
と、そう言いながらもユウちゃんに従った。


No.45 12/09/08 16:30
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


先生が出してくれたお煎餅は、意外にも美味しかった。

私達は、ジュースを飲みながら、お煎餅をポリポリと音を立てて食べた。
『先生って、今日は彼女さんとデートじゃないんですか?』
と、お煎餅を飲み込んでから私が聞くと、
『ああ、彼女は看護師だからな、今日は仕事だってさ』


隆が
『へえ…美人で看護師の彼女かぁ…いいなぁ…』
と、本気で羨ましそうに言った。


先生は、まんざらでも無い表情を見せながらも
『ああ見えて、気が強いんだよ』
と言うと、

『へぇー。すっげえ、優しそうに見えたけどなあ』
と勝也が言った。



それからは、卒業までもうすぐだ、とか他愛ない会話をした。

私達は、咲江の話はしなかった。



一時間くらいして、先生のアパートを出た。



『おい、ユウ。あれってどういうことだよ?』
勝也がジュースの事を聞いた。



『これから部室に戻ったら分かるよ。多分…裏切り者の正体も…な』
それだけを言うと、来た時と同じように、ユウちゃんは無言で歩いて行った。


No.44 12/09/08 16:15
中谷月子 ( ♀ tD3ei )



『ここって…』


古いアパートの一階の角部屋の前で、ユウちゃんが足を止めた。


手書きの黄ばんだ紙の表札には
“杉田”
と書いてあった。


『ねえ、ここって…杉田先生のアパート?』

『そうだよ』
と答えた後、ユウちゃんは迷わずドアをノックした。
インターホンは無い。


すぐに
『…どなた?』
と言いながら、ボサボサの頭で、よれよれのジャージ姿の杉田先生がドアを開けた。

『お…おまえら?』

『先生、遊びに来ちゃいました』
珍しく、ユウちゃんが愛想の良い顔で言った。


『なんだよ、急に…、仕方ねえな、ま、上がれよ』


『おじゃましまーす…』

私達は、先生の狭くて汚くて臭い部屋に上がった。


こたつの周りにぎゅうぎゅう詰めで、座った。

『これ、どうぞ』
ユウちゃんが途中で買った缶ジュースの入ったデイバックを広げて差し出した。

『お、サンキュ!』
先生は、デイバックの中から一本の缶ジュースを取った。

残りのジュースを私達に配りながら、ユウちゃんが
『先生、何か食べる物ないですか?』
と聞いた。


先生は缶ジュースをこたつの上に置いてから立ち上がると、
『そうだ。美味い煎餅があるんだ』
と言って、小さなキッチンの方に行った。


『先生、そのお煎餅って、賞味期限だいじょうぶっすかあ?』
と、隆が聞くと
『大丈夫だ…と、思う』
とキッチンから先生の声がした。



その時、ユウちゃんが素早くデイバックから、残りの一本の缶ジュースを取り出すとそれを先生の缶ジュースの隣に置き、さっき先生が手にした方のジュースの缶をハンカチで包むようにして持つと、予め用意してあったデイバックの中のビニール袋に入れた。


No.43 12/09/08 15:55
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

そして、翌日の土曜日。
お昼一時。


『よお』

『ねえ、隆は?』

『もう来る頃だけど…、あ。来た来た』


『悪りぃ。遅くなった』


ユウちゃんがみんなを見て、
『揃ったな。じゃあ、行こうか』
と言うと、この前もみんなで歩いた、住宅街に続く道を選んで歩き始めた。


『ユウ、どこに行くんだよ?』

隆の問いには答えず
『来れば分かるさ』
と、ユウちゃんはそう言ってスタスタと歩いた。


私達は、黙ってユウちゃんについて歩いた。



途中、ユウちゃんは一度だけ立ち止まって、自動販売機で同じ缶ジュースを六本買って、それを自分のデイバックに入れた。


No.42 12/09/08 15:47
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

警察から突然の発表があった。


犯人と思われる人物が、咲江の父親に接触してきていたことが解った。

咲江の遺体が発見される3日前だった。


咲江の父親は、犯人との直接交渉に応じ、五億円を渡していた。

すでに咲江が殺されているとは知らずに…



『明日の土曜日、集まれるか?』
前置き無く、ユウちゃんがみんなに聞いた。


『俺、栄子ちゃんとデートなんだよねぇ~』
隆がそう言うと、ユウちゃんは構わず
『じゃあ隆は抜きで、勝也と真美はどうだ?』
と言った。


『うそ、うそだってば!俺も行くってば…』


『じゃあ、明日の昼一時に、咲江の行方が分からなくなったっていう、あの三叉路で待ち合わせだ』


ユウちゃん…
何を考えているんだろう。


No.41 12/09/08 15:37
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

警察の捜査に進展は無かった。

今日も朝から、咲江を最後に目撃したおばさんがテレビで話していた。


顔は映っていない。
おばさんが胸の辺りで両手を組み、話している映像が繰り返し流れる。



《あの日、咲江ちゃんと会ったんです。そうねえ…暗くなる頃…五時半過ぎかしら。私はね、自転車だったから、向こうから歩いて帰ってきた咲江ちゃんと、軽く挨拶しただけなのよ。でね、買い物に行くっていうのに私ったら財布を忘れちゃって、家の方向に引き返したんだけど、その時に咲江ちゃんの姿は見えなかったわ。私、慌てていたから、テレビのニュースで事件を知るまで、気にかけてなかったわ。え?ええ、はい…咲江ちゃんに変わった様子は無かったし、怪しい人や車を見た覚えも無いのよ…》



あの日、咲江と私は五時半にコンビニの前で、一度別れたふりをしておいて、その後すぐに部室に戻る計画だった。


あのおばさんが財布を取りに引き返した時に、本当なら部室に戻る咲江と鉢合わせしているはず…

だって、あの道しか無いんだから…


それから、咲江が部室に戻ってきたのは七時頃だった。



その間の約一時間半…
咲江、…あなたは、どこにいたの?


No.40 12/09/08 15:22
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


咲江のお葬式。

マスコミ関係者も多くいた。


そして、たくさんの参列者。


みんなが咲江の死を悲しんでいる。
だけど、もしかするとこの中に、そうでは無い者が紛れ込んでいるのかも知れない…


そう思うと、私は胃の辺りに込み上げる不快感と共に、めまいがした。

『真美、大丈夫か?』
近くにいたユウちゃんが、私の肩を支えた。

『ありがとう。大丈夫…』



喪主である、咲江のお父さん。
顔色が悪く、お焼香に並ぶ人達に懸命に会釈している。

咲江のお母さんも、今にも倒れそうなほどに憔悴していた。


やっぱり、このご両親が咲江の事件に関わっているなんて、思えない!


じゃあ、誰なの?
私達が計画した狂言誘拐に乗っかって、本当に咲江を誘拐して殺したのは…



No.39 12/09/08 15:12
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


それから数日後、警察から発表があった。


司法解剖の結果だった。

咲江の死因は頸部圧迫による絞殺だった。

殺される前に殴打されたと思われる打撲痕が後頭部にあり、胃の内容物から咲江は誘拐されたその日の内に殺害されていたと…


そして、咲江は


妊娠していた。




『ねえ、咲江の相手って誰だと思う?』

『それを知っているはずなのは、親友のお前。真美だろ?…』
勝也がこちらには向かずにそう言った。


私は、咲江から恋の相談をされたことも無いし、好きな人の話も聞いたことが無かった。


私達って、本当に親友だったのだろうか…


私は、咲江の何を知っていたのだろう…

悲しくなった。
胸が、苦しい…


No.38 12/09/08 14:59
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

早朝、犬の散歩をしていた老人が、リードを離してしまい、犬を追って入った川沿いの草が生い茂った場所に、うつ伏せになり、下半身を緩やかな流れの川の水に浸けた姿の咲江の死体を発見した…




全校生徒が体育館に集められ、黙祷をした後、校長先生が話を始めた。


『三年生の桜木咲江さんが残念なことに、亡くなられたことは皆さんはもう知っていると思います…』



し…ん、とした体育館。

校長先生の声が響く。

どこかしらからすすり泣く声が、聞こえてきた。



私は、堪えきれず、その場にペタリと座り込むと大声で泣いた。


恥ずかしさなんて



無かった…


No.37 12/09/08 14:50
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

それから私は、漠然とした、ただ憂鬱な日を過ごしていた。



ユウちゃんは、部室の片隅で、無言で何かを作り始めた。


勝也は、すでに引退しているバスケット部に顔を出して先輩面をしている。


隆は、とっくに失恋のショックから立ち直り、卒業までの残り1ヶ月とちょっとで彼女を作ると言って張り切っている。


でも…


それは、本当の笑顔では無いって…

私にはわかる。



こうして釈然としないまま、時間が過ぎて行こうとしていた時…


私達には受け止めようのない現実が突き付けられた…


No.36 12/09/06 22:03
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『よっ、先生じゃん!』
すぐに隆が声をかけた。


『お…お前達、何してんだよ?』


『先生、もしかして彼女ですか?』
勝也が女性のことをちらりと見ながら聞いた。


『まあ…な』
先生は、少し赤くなって答えた。


綺麗な女の人が笑顔で
『こんにちは。杉田先生がお世話になってます』
と言った。

『おい、世話をしてるのは俺だ』
と、杉田先生は彼女に言った。




『先生達って、結婚するんですか?』

いきなりユウちゃんが聞いた。


『な…なんだよ、率直な質問だな。まあ、そういうことだが…』

先生がそう答えたのに、ユウちゃんはそれに対して何も言わず、何か考え込んでいる。

『あ…あの、おめでとうございます!』
私は慌ててフォローするように言った。



『じゃ、また明日な』

夕方になり、私達は解散した。



咲江がどうしてあの道を曲がって歩いたのか、わからないままだった…。



No.35 12/09/06 21:50
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『でもさ、そのおばさんから姿を隠すために、こっちに曲がったってことはねえのか?』

『隆、咲江は超能力者じゃないのよ。おばさんが財布を忘れて引き返してくるって、予知できたと思うの?』


『そうだよ…な』



私達は、その道を曲がった。

普通の住宅街。
咲江が惹かれそうな可愛い物を売っているような店もない。


『咲江はどうしてこの道を歩いたんだろう…』


『おい…なあ、あれって杉田じゃね?』
勝也が言った方向には、私のクラスの担任の杉田先生が、スーパーのレジ袋を手に下げて歩いていた。

その隣には、髪の長いすごく綺麗な女の人が、杉田先生を見て笑っていた。


No.34 12/09/06 21:42
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『そのおばさんって、スーパーに行こうって時に、咲江とすれ違ったんだよな?でさ、家に忘れた財布を取りに引き返した時に、咲江の姿は見あたらなかった…って、言ってたよな』


『そう。だから、咲江は、あれから学校にはすぐに戻って無いってこと』

私達は歩きながら話した。

私は足を止めると
『この道しか無いのよ。咲江が曲がったとすれば…。スーパーと咲江の家の間にあるのは、この曲がり道が一つだけ』



四人で、その道を見つめた。


No.33 12/09/06 21:33
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『ねえ…。あの決行の日、ここに集まる前に咲江はどこに行ってたんだと思う?』

『そんなの分かんねえけど…、でも戻ってくるのが遅かったよな』

『でしょ?勝也。ねえ、みんなで行ってみない?咲江が歩いたはずの場所に』




コンビニの前。
『ここでね、私達アイスを買って食べたの』

『おまえら女子って、買い食いが好きだよなあ』

『うるさい、隆。男子と違って早弁はしないわよ!…で、ここで咲江と別れたの。咲江の家はあっち…で、テレビのインタビューに答えていた咲江を最後に目撃したっていう自転車に乗ったおばさんとは、この先で会ったらしいわ』


みんなで、そちらの方角を見た。


No.32 12/09/06 21:24
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


日曜日…。


私は自宅を出ると、何となく部室へ行った。


ぼんやりと、窓の外を眺めた。




“私さあ、パパから愛されてるのかな…”


咲江がここに座って言った言葉を思い返していた。

あれが…
あの言葉が、全ての始まりだった。



『よお…真美、来てたのか?』

『勝也、どうしたの?』

『家でいろいろ考えてても、何にも分かんないからさ…気分転換に来ただけだよ』


『そう。俺達も、ね』

勝也に次いで、隆とユウちゃんも部室に入ってきた。


『まあ、ここに来たって謎が解けるわけじゃねえんだけどな』
隆が言った。


No.31 12/09/06 21:17
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

刑事さんが出来るだけ優しい口調で話そうと努力してくれているのが分かる。

『咲江さんが行方不明になった日、夕方の五時半頃に咲江さんと一緒にコンビニにいたよね?』


『はい…。咲江とはよくあのコンビニに寄っていました』

『そうか。あの日はどんな話をしてたの?』

『よく覚えてないけど…いつもと変わらない感じ』

『いつもって?』

『好きな芸能人の話とか…、テレビで見たドラマの話とか…先生の悪口…とか』
そう言った後、私は隣に座っている担任の先生の顔をちらっと見た。

先生はバツの悪そうな表情を一瞬見せただけだった。



ここは、学校の生活指導室。

担任の先生が立ち会いのもと、私は刑事さんからいろいろ聞かれている。


『あの日…あの日だけじゃなくていいけど、変な人を見たことって無かった?』

『いいえ。ありません』

『そうですか…。では、咲江さんの様子がいつもと違ったとか、そんなことは?』


『いつもと…変わりありませんでした』


親友の私が真っ先に、こうして呼び出された。

この時に、咲江がお父さんと喧嘩をしてるってことを話すのをためらった。


もしも…
もしも、咲江のお父さんが関わっているとしたら、警察の目がお父さんに向いて、咲江の身に何か危険が及んだら…


そう思ったら、話せなかった…。


No.30 12/09/06 21:02
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


咲江の両親は、すでに警察に通報していたのだった。


咲江の安全を優先し、警察は水面下で捜査を始めていた。

だが、一向に捜査が進まず、とうとう公開捜査に踏み切った。


新聞やテレビには、咲江の笑顔の写真が大きく掲載され、映し出された。




『君が坂本真美さん?』

『はい』

『早速だけど、桜木咲江さんの事件はしってますね?』
刑事さんに聞かれて、私はこくりと頷いた。


No.29 12/09/06 20:03
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙17の中で

タクちゃん
とありますが、
ユウちゃんの間違いです。


書き間違えてすみません。

引き続き、お付き合いください。
m(_ _)m

No.28 12/09/06 00:09
中谷月子 ( ♀ tD3ei )




『ごめん…』


勝也がポツリと隆に謝った…。


『なあ…ボイスチェンジャーの事を知ってるヤツって…他にもいるぞ…』

『誰だよ、隆?』



『咲江の親父さん…』



『まさか…』
勝也が呆れた顔を見せた。

それに構わず、隆は話を続けた。
『だってさ、咲江は親父さんとうまくいってないって言ってただろ?親父さんと何かあって…こんな事になったんじゃねえか?』


『隆の言うこと…アリかも。だって、普通ならすぐに警察に通報するはずよ。盗聴器だって外したんだし…。何かやましい事があるから、通報しないの…かも』


こうして、あれこれと、いろんな可能性を言い合ったけれど、結局はどれも想像にしか過ぎない。



何も答えが出ないまま解散した私達は、翌日の急展開を知って驚いた…。


No.27 12/09/05 23:59
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『確かに、それも考えられる…な』
ユウちゃんが冷静な口振りで言った。




裏切り者?
嘘よ!
だって…
だって…


私達、ずっと友達だったじゃない!


裏切るなんて…



『おい!誰だよ、裏切ったのは!』

『勝也、落ち着けよ』


『落ち着け?よく落ち着けるよな…なあ、隆…まさか、お前か?裏切り者は…』

『何言ってんだよ!勝也、それマジで言ってんのかよ!』



隆が勝也の胸ぐらを掴み、勝也は右手の拳を振り上げた。



『やめてよぉ!』


私は泣きながら怒鳴った。


ユウちゃんは黙っていた。


No.26 12/09/05 23:52
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

静まった部室。

『もう、俺達だけで秘密にしておくわけにはいかないな』
ユウちゃんの声が響いた。


『そうだよね…咲江が…大変なことになっちゃってるかも知れないんだもん…』

『じゃあ、咲江の親父さんに全部話そうぜ』

『隆、そりゃマズいだろ』

『なんでだよ?』

『本物の犯人が、咲江の家を見張ってるかもしれねぇじゃん。俺達の狂言誘拐から始まったんだからさあ…本物の犯人には俺達の行動を知られない方がいいんじゃねぇか?なあ、ユウ。…ユウ、何を考えてんだ?』
勝也の言葉で、私と隆はユウちゃんを見た。



『二度目の電話。つまり、犯人は…どうして俺達がボイスチェンジャーを使って電話をかけた事を知っていたんだろう…?』



隆が
『そりゃあ…』
と言っておいて
『…何でだ?』
そう言うと首を傾げた。



『まさか…俺達の中に裏切り者がいる…ってことか?』
引きつったような笑顔で、冗談めかして勝也がそう言った。

『そんな…やめてよ!』


No.25 12/09/05 18:42
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『じゃあ、俺のは?』

『隆のは…忘れてた。悪い』


『な…なんだよぉ、俺の身に何かあった時はどーすんだよぉ』
隆がすねた顔で文句を言ったけど、ユウちゃんはそれを無視して

『とにかく、咲江の居場所だ』
と言って、パソコンの電源を入れた。



『おかしな…』

『どうした?』

ユウちゃんが、これまでに無く真剣な目になった。
『発信機から信号が出てない』


『それ、どういうことなの?』


ユウちゃんは、パソコンの画面を見つめると
『考えられるのは、三つ。一つは、単純に故障。二つ目は、発信機を見つけられて破壊された。三つ目は…』
と言って、ため息をついた。


『なんだよ?』
勝也が急かした。



『三つ目は、水没』



『じゃあ…咲江がどっかに沈められてる可能性があるってこと?』
私は、そう聞いた後、震える両手で口元を押さえた。


ユウちゃんが
ゆっくりと頷いた。



私達は…
もう、何も言えなかった…。


No.24 12/09/05 18:19
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

みんなが羨望の眼差しを向けているのにはお構いなしで、ユウちゃんが

『とりあえず、咲江の居場所を確認してみるか…』
と言った。


『えっ!なんでユウちゃんに分かるの?』


ユウちゃんは、こっちを向いて
『ほら、この前。…隆が失恋した時に、死ぬだの騒いでるって時に、真美と咲江と勝也はカラオケボックスで盛り上がってて、携帯に気付かなかっただろ?あの後、何かあった時のためにそれぞれの居場所がすぐ分かるように発信機を仕掛けた。ったく、あん時の隆、どれだけ迷惑だったか…』
と、最後の方は愚痴に変わっていたけど、ユウちゃんが説明してくれた。


『マジ?俺にもかよ』

『ああ、勝也のは携帯に付けてあるバスケットボールのストラップの中だ』


勝也が携帯を取り出して、バスケットボール型のストラップをひねって半分にすると、小さなチップのようなものが出てきた。

『あ!あっ!これかよ。いつの間に…』
目を白黒させている。

『じゃあ、私にも?』

『もちろん。真美は…鏡を出して』
鏡を取り出すと、ミラーの部分を器用に外し、そこから勝也のと同じチップを出して、私に見せた。
『真美の場合は、鏡は絶対に手離さないだろうからな』
ユウちゃんが小さく笑った。


No.23 12/09/05 17:51
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『ちょっと待てよ。一度に訊かれても困る。まず、咲江が何者かに本当に誘拐されたのは間違い無いだろう。そして、その犯人は謎だ。ボイスチェンジャーは、誰にだって簡単に作れる。スピーカーってのは、電気信号を音波に変換して音を出すんだ。そこに雑音が入る仕組みにすれば、実際の音とは違う音が発生するわけだ』


『あのな、誰にだって簡単にって…、そりゃ違うんじゃねえか?』
隆の問いに、ユウちゃんが答えた。


『その機械が作れなくたって、ほら…スプレー缶のガスを吸ったら、声が変わるってお手軽なヤツもあるだろ?それに、スキューバダイビングの酸素タンクには、ほとんどの場合は圧縮空気を使うんだけど、酸素濃度を増やしたエンリッチド・エアを使うこともあるんだ。そのエアを吸い込んで、地上で喋ったらボイスチェンジャーと同じような声になる。…ま、いろんな方法があるってことだ』



『ユウ…お前って何でも知ってんだな』

呆れるほどに感動して、みんながユウちゃんを見つめた。


No.22 12/09/05 13:39
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『つまり…、他の誰かが咲江を本当に誘拐して、身代金を五億請求した。それが二回目の電話だ。そして、その犯人は…俺達がボイスチェンジャーを使っていることを知っているってことだ。だから、咲江の親父さんはさっきの勝也の電話に違和感を示さなかったんだ』



私達は、息を飲んだ…。

隆『咲江がマジで誘拐されたって?』

私『ねえ、ユウちゃん。このボイスチェンジャーって誰にでも作れるの?』

勝也『身代金五億って、誰が電話したんだよ!』


いっきにユウちゃんを質問攻めにした。

No.21 12/09/05 13:32
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『お…おい。なんかすっげぇ、ヤバいことになってねぇか?』
隆も青ざめて言った。

同じく青ざめている勝也が
『隆、慌てんなよ。金のことより、心配なのは咲江だ』


『勝也、確かにそうだな。だけど不思議なことがある』

『何だよ、ユウ』



『今の電話で、咲江の親父さんは、普通だった』


『何よ?普通って』

『そうだよ、親父さん咲江のことを心配して必死な感じだったぞ』


『俺達が咲江の家に電話したのは、二回だ。二回とも、このボイスチェンジャーを使って電話した。だけど、一回目と二回目の電話の間に、何者かが身代金を吊り上げる電話をしている。だから、咲江の家には少なくとも三回の電話があったってことだ』


私達は、黙ってユウちゃんの話を聞いていた。


『そこで、今の電話で咲江の親父さんが普通だったっていうことは、三回あった電話には、違和感が無かったってこと』

『ねえ、ユウちゃん…何が言いたいの?』


ユウちゃんが私達の方をじっと見た。


No.20 12/09/05 13:22
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

『そうだよな…、それで、何て言って電話するんだ?』
勝也がユウちゃんを見た。


『そりゃあ、“金の用意はできたか?”だろ』
ユウちゃんが即答した。


『分かった』
勝也は、ボイスチェンジャーを付けたユウちゃんの携帯を手にした。


『金の用意はできたか?…金の話が先だ!……無事だ…また電話する…』


盗聴器をはずされていたから、相手の声は聴こえなかった。

『ねえ、勝也。何て言ってた?』


勝也は真っ青な顔で、こう言った。



『咲江の声を聞かせろって…。それから…身代金を五億に吊り上げておいて、すぐに用意できるわけが無いだろう…って…』


『どういうこと?五億って…なによ…』

No.19 12/09/05 13:04
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『やっぱり変だわ。昨日、私達はここに七時過ぎまでいたよね?それなのに、咲江のお母さんが“夕方帰ってきてから調子が悪いって言い出した”って言ってたの』


『どうなってんだ…?』


私達四人は、首をひねるばかりだった。

隆が
『誘拐犯のふりをして、偵察の電話をかけてみっか?』
と言った。


『おい、隆。“ふり”じゃなくて、俺達は誘拐犯だぞ』
勝也が言った。

No.18 12/09/05 12:50
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『盗聴器は取り外されたみたいだな』
部室に戻ると、ユウちゃんがそう言った。

『そっか…じゃあ、私と咲江のお母さんとの会話は聴こえなかったのね』

ユウちゃんと隆が頷いた。


『それで、咲江のことは聞けたのか?』
咲江の家の中を偵察していた勝也が私に聞いた。


『やっぱり、熱があって寝込んでるって…。でも、勝也は咲江の部屋には誰もいなかったって確認したんでしょ?』

『ああ、いなかった』


『やっぱり変だわ…』

No.17 12/09/05 12:45
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

やっと授業が終わり、放課後。

私はクラスの誰よりも早く教室を出ると、部室に向かった。


タクちゃん

勝也
も、すぐに集まった。

そして、話し合った結果、咲江の家にお見舞いに行くことに決めた。

お見舞い…
偵察を兼ねて。



『じゃ、勝也行こうか』

私と勝也の二人で行くことになった。


インターホンを押すと
『はい…』
と、聞き覚えのある咲江のお母さんの声が聴こえた。


『坂本真美です』


少しして、玄関のドアが開くと、少しやつれた様子の咲江のお母さんが姿を見せた。

『坂本さん、わざわざ来て頂いて申し訳ないんだけど、咲江は熱が下がらなくて、寝てるのよ』
と、力無く言った。

『そうですか。昨日は元気そうだったのに…』

『夕方、学校から帰ってきてから体調が悪いって言って…』


『そうですか。じゃあ、明日もお休みになりそうですね』

『そうね。まだ熱があるから…』

『分かりました。それでは失礼します』

私が帰ろうとした時、
『あの、坂本さん!昨日、咲江は…あ…いえ、何でもないの。来てくれてありがとう』

そう言って、ドアは閉まった。



勝也が
『どうだった?こっちは咲江の部屋を覗いてみたけど、誰もいなかった。ついでに刑事らしい人もいなかった』
運動神経の良い勝也を連れて来たのは、こういうことだ。


『痛てっ…』

『血が出てるじゃないの』

『木に登った時に、枝で切ったんだ。バスケ引退してから体が鈍ってるからな』

『大丈夫なの?』

『大したことないって。それより部室に戻ろう。二人が待ちくたびれてるぞ』


『そうね…』


No.16 12/09/05 12:26
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

始業時間になり、とりあえず私達は、それぞれの教室に入った。

『じゃあ、放課後な…』
そう言って。



朝礼で、点呼をしながら担任の先生が、
『桜木は風邪で休みだと連絡があった』
と、さらっと言った。



咲江…
本当に風邪ひいちゃったのかな…。


私は、一日中胸騒ぎがしていた。


早く放課後にならないかな…


No.15 12/09/05 12:20
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

『もしもし、坂本と申します。咲江さんをお願いします。…はい、え?…そうですか…わかりました。では、咲江さんにお大事に、とお伝えください、…失礼します』


『おい、なんて言ってた?』
隆が待ちきれないように電話の内容を聞いた。


『咲江、風邪で寝込んでるから、今日は学校を休ませる…って』


それを聞いた勝也が
『この部室、夜は冷えるだろうからな…。具合が悪くなって帰っちまったんだな』
と言った。


『でも…おかしいわよ』


ユウちゃんが
『何がおかしいんだ?』
と聞いた。



『だって…自宅の電話に、あの桜木病院の院長先生が直接出ると思う?いつもなら、お手伝いさんが出るのに…』


No.13 12/09/04 22:53
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

🌙タクさん
レスありがとうございます。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

続きは、また明日。

おやすみなさい。

No.12 12/09/04 22:51
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

【坂本真美】


『おっはよ!咲江、誘拐初日はどうだった?』
そう笑いながら私は部室に入った。


『よお…真美か…』
先に来ていたユウちゃんが、私の方を振り向いた。


『ユウちゃん、咲江は?』

『さっき、俺が来た時には、もういなかったんだ』



続いて、勝也と隆も入ってきた。


『ねえ、どういうこと?』

ユウちゃんは私の質問には答えず、人差し指を額に当てて考えている。

隆が
『もしかして、夜になって心細くなって帰っちゃった…とか?』

勝也はそれを聞いて、
『うん、そうかも知れねーな』
と相槌を打った。


もうすぐ始業のベルが鳴る時間だ。
いくら帰ったとは言っても、登校してこないのは変だわ…


『私、咲江の携帯に電話してみる』


咲江の携帯は留守番電話につながって、話すことは出来なかった。

『じゃあ、家に電話してみっか?』

『分かった』
私は次は咲江の自宅に電話をかけた。


No.11 12/09/04 22:49
タク ( 20代 ♂ hRoDh )

スゲェ良い所で終わった😱

続きが気になるぅ~⤴⤴

No.10 12/09/04 22:39
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

勝也が
『じゃ、そろそろ俺達は帰るよ。続きはまた明日だ。そうだ、咲江、さっきコンビニで飯とか飲み物買っといたから』


『ありがと。勝也』

『咲江、何があってもここから出るんじゃないぞ』
ユウちゃんが真剣な口振りで言った。


『分かった。みんな…ありがとね』



みんなが帰ると、古びた部室は、私一人になった。


そこに
私が自分で自宅に仕掛けた盗聴器の内容がスピーカーから聴こえてきた。


『ねえ!あなた、どうするの?』

『警察に届けるしか無いだろう』

『そんな…それじゃ咲江は…、盗聴器を仕掛けてるって、犯人は言ってたのよね?』

『ああ、そうだ。これからは筆談にしよう』


パパのその言葉を最後に、スピーカーからは何も聴こえなくなった。



静まり返った小さな空間…

その時、部室のドアをノックする音がした。


誰か忘れ物でもしたのかな…?



私は、そっとドアに近付いた。
ドアの向こう側から、小さな声が聞こえた。


私は鍵を外し、ドアを開けながら
『なーんだ。驚いた、誰かと思ったら…』
と言っていると、いきなり入ってきた相手に殴られて…



そのまま気が遠く…
遠くなった。


No.9 12/09/04 21:40
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『旦那様、お電話です』
家政婦のスミさんが、桜木病院の院長である私のパパに言った。

『スミさん、咲江はまだ帰ってないのか?』

『はい…そろそろかと…』

『まったく、困った娘だ…もしもし、桜木ですが』



『一度しか言わないから、良く聞け。娘を誘拐した』

『何だと?』

『無事に帰して欲しければ、明日の昼までに続き番号じゃない現金で一億用意しろ。お宅の家と電話には盗聴器を仕掛けている。警察に通報すれば、すぐに分かる。その時点でゲームオーバーだ。また連絡する』


『ちょっと待て!咲江の声を…』

そこで勝也は電話を切った。


ユウちゃんが作ったボイスチェンジャーを使って、男か女かも判らないようにしてある。


私達は、息をひそめてスピーカーから流れ出るその会話を聴いていた。


『いよいよ始まったな』
いつになく隆が真面目な声になった。

『そうね。いよいよ…だね』
そう私は言ってから、真美の顔を見て
『真美、怖い?』
と聞いた。

真美は頬を少し赤らめて
『ううん…ドキドキしちゃう!』
と、跳ねるような声で言った。


『俺もドキドキしちゃう!』
おどけた隆の言葉に、みんなで笑った。

勝也が
『咲江、戻って来るの遅せぇよ。計画中止かと思ったぞ』


私は
『ゴメンナサイ』
と、遅刻したことをみんなに謝った。


No.8 12/09/04 21:19
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『まあ…、もし捕まっても俺達は未成年だし、愛情を試すためで悪意は無いんだから、大したことにはならないか』
ユウちゃんは、覚悟を決めた様子で、それだけ言うと真剣な顔で考え込んだ。



そして…
決行の日。

私は授業が終わると、いつものように真美と並んで校門を出た。

いつものように笑い、くだらない話にまた笑いながら歩き、コンビニに寄ってアイスを買うと、店の前で立ち話をしながら食べた。

いくらでも話題はある。


『あ、そろそろだね』
そう言ったのは真美の方だった。

私は深く頷くと、笑顔を作って
『じゃあ、…また明日ね』
軽く手を振って、コンビニの前で真美と別れた。


自宅に帰る道を歩いていると、前から来た自転車に乗った女の人が声をかけてきた。

『あら、咲江ちゃん。今、帰り?』

『はい。友達とおしゃべりしてたら遅くなっちゃった。おばさんは、買い物?』

『そう、玉子を買い忘れちゃって…。もう暗くなるから気をつけてね』

『はい。さよなら』

私の家の隣に住んでるおばさんだった。

私はおばさんの自転車が見えなくなるまで見てから、周りを見回して誰もいない事を確認すると、小さくスキップをして、自宅の方向とは違う道を選んで曲がった。


No.6 12/09/04 17:47
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

『そうなんだ…じゃあ、ユウちゃんってば、その大変なことを乗り越える自信が無いんだね…』

私は、ユウちゃんを挑発するような口調で言ってみた。


ユウちゃんは、右手の人差し指をおでこに当てると
『そりゃ…綿密な作戦を立てたら…』
と言った。


『じゃあ、決まり!私、誘拐されるわ』


勝也が
『うわっ…面白いことねぇのかなんて、冗談なのに…すっげえ展開になってきたな』
と、嬉しそうに言った。



こうして
私達五人は、狂言誘拐事件を計画し、実行することになった。


No.5 12/09/04 17:41
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

『そっかぁ!警察に知らせずに、身代金を払ってくれて、すごく心配すれば、咲江を愛してるってことだよね』
真美が賛同した。



『戦後に起きた身代金目的の誘拐事件は二百八十八件。その内、未解決なのはたったの八件だ。誘拐は、金を取りに現れなくてはいけないから、それだけリスクの高い犯罪ってことだ』
突然、パソコンに向かっていたユウちゃんがそう言った。


『じゃあさあ、金を取りに行かなきゃ捕まんねえんだろ?金が目的じゃねえし…』
隆がユウちゃんに聞いた。


『まあな、だけど十中八九警察に通報するだろうから、金を受け取るか、受け取らないかは別として、警察の捜査をうまく乗り越えながら狂言誘拐を演じるのは難しいぞ』
ユウちゃんは、そう言うとポケットから携帯を出して
『見ろよ、この携帯。これだって持ってるだけで微弱な電波で居場所が特定される時代だからな』
と言った。


『じゃあ…誘拐も却下だね』
さっきまで賛同していた真美がユウちゃんの話を聞いて、また考え込む様子を見せた。


No.4 12/09/04 17:28
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『うーん…、家出するとか?』
と、真美が提案した。

でも、空かさず勝也が
『真美、単純だな。すぐに警察に捜索願が出されて大騒ぎになって、終わり…だろ?』


『そっか。ねえ、隆は何か良い考え無いの?』
真美が隆を見た。


『そうだな…髪を金髪にして、タバコを吸って夜遊びをする!どうだ?』


『はあ?それで、どうやって愛情を試すんだよ?バーカ』
勝也の一言で、隆の提案も却下された。

『バカって、何だよ!じゃあ勝也は何か良いアイデアがあんのかよ?』
隆が唇を尖らせた。

そして、誰もが黙った…
その時…


『例えば…誘拐される、とか…』


私は、校庭の桜の木を見つめて、そう口にした。


No.3 12/09/04 17:19
中谷月子 ( ♀ tD3ei )


『何、それ?』
私の言葉を聞いた真美が、きょとんとした顔になった。


『子供の頃ってさあ、パパとすっごく仲が良かったのに、最近はケンカばっか…なんだよね』

『そりゃ、親父さんは咲江のことを心配してっからだろ?』
隆が珍しくまともな事を言った。



『それがね…実は、パパが浮気してたの…』



みんなが黙った。


私は話を続けた。
『ママがそれを知って、大喧嘩になったの。…そしたらパパが“うるさい!咲江を連れて出ていけ”って、ママに怒鳴ったんだよね』


『うゎ…マジかよ』
そう言ってから、
『夫婦喧嘩の最中だから、きっと気が立ってたんじゃねえか?』
と、勝也が慰めるように言った。


真美も
『そうだよ、咲江のお父さん、その相手とはすぐに別れて、きっと元通りの家庭になるよ』
と、根拠の無い慰めの言葉をくれた。



『だって、パパは“咲江を連れて出ていけ”って言ったんだよ。…あのさぁ、パパが本当に私のことを愛しているのかを試す方法って、無いのかな?』


No.2 12/09/04 17:07
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

そして…

坂本真美と私、桜木咲江は、中学に入学してから奇跡的に三年間同じクラスで、親友だ。


真美は、おしゃれが好きで、ヒマさえあればいつも鏡を覗いている。

将来の夢は、女優らしい。



そして…



そして、私は…
ぼんやりと、蕾が膨らみ始めた校庭の桜の木を窓から眺めていた…。


急に勝也が
『咲江?やっぱり、お前、変だぞ』
と言いながら私の顔を覗き込んだ。


『なあに?何か悩みでもあるの?』
真美も心配そうな顔になった。


『へぇ、大病院の院長の一人娘でも悩みって、あるんだな』
隆がいつものノリでからかうように言った。


ユウちゃんは、聞いているのか、いないのかパソコンに向かっている。



『私さぁ…パパから愛されてるのかな…』

私は、呟くようにそう声に出した。


No.1 12/09/04 16:57
中谷月子 ( ♀ tD3ei )

バスケ部のキャプテンだった小林勝也。

高校受験と、中学卒業を控えて、三年生は引退となり
『退屈だあ』
とか
『面白いことないのか?』
と、繰り返しぼやいている。


その勝也の幼稚園からの幼なじみの沼田隆。
最近、片思いだった女子にふられて、かなり落ち込んでいる。
でも、そんな表情は見せないおどけ役。


春日祐一は、頭が良くて物静かで…
で、何を考えているのか分からない。

いつもパソコンに向かっているかと思えば、私達には何かも分からない機械を急に作り始めたりする。


いつの間にか、この今では廃部となった卓球部の空いた部室で、こうして時間を共にするようになった。

が…
クラスが違うのと、あれこれと自分の話をしない祐一は、どこか謎めいている。

投稿順
新着順
主のみ
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧