新規スレ作成

リフレイン

17レス 2207 Hit

日常の生活の中で
少しずつずれていく二人の距離は
やがて重ならない音になって
誰もいない空間に響いていく─





17/05/04 13:44(スレ作成日時) [RSS]

  • No: 8葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/09/23 14:25

    漠然と考えていた想いが、徐々に決心に変わる。
     結婚するなら、美希しかいないということ。
     それからは、就職するために、ありとあらゆる努力をした。
     大学の就職担当員に面接を取り付けてくれるように頼み込み、反対する両親を説得し、内定を取り消された会社に直談判に行ったり、そんなくり返しで、なんとか、二人で生活するための道すじが見えてきた。
     すべてのことが、もう、遠い過去に思える。
     別れという結論が出た今となっては、彼女に言える言葉は何もない。
     言えるとしたら、やっぱり、「ごめん」としか、言いようがない。



    「……今朝から、体調がおかしいの」
     妻が、パジャマ姿のまま、リビングに出てきた。
    「今朝から?」
    「うん…… ううん、昨日の夜から… 食あたりかな」
     そのまま、ぐったりとソファーに横たわる美希を見下ろしながら、私は、「朝ごはんは?」と、聞いた。
    「トーストでもいいかなぁ… 自分で焼いてくれる?」

  • No: 9葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/10/02 16:58

    ふと、炊飯器を見ると、スイッチが入っておらず、中には冷たい米がそのまま水に浸っている。
     私は、黙って食パンの袋を探し、1枚、電子レンジの中に入れた。
    「……あー……だるいー…」
     美希の言葉を受け流して、コーヒーを作って、飲み、トーストだけの朝食をとって、そのまま会社に出かける。
     いつも、彼女は低血圧気味なので、朝から食事を終えても横になっていることが多く、ほおっておいても大丈夫だろうと思い、仕事に没頭し、一日が過ぎた。
     家に帰り着いて、玄関の明かりをつけて、ゾッとした。
     妻が、朝とまったく同じ様子で、髪をふり乱し、ソファーに横たわっている。
    「……まだ、具合悪い?」
     私の問いかけに答えず、彼女は、乱れた髪を少し持ち上げ、こくりとうなずいた。
     とりあえず寝室へと向かい、ネクタイを取り、妻に呼びかける。
    「ごはんはー?食べてないのー?」
     返事はない。

  • No: 10葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/10/05 15:14

    心配になり、リビングへ戻ると、彼女は、さっきと寸分たがわぬ様子だった。もうすでに肌寒い時刻だったが、チェックのパジャマのまま、身動きひとつしない。
     私の中で、何かが音をたてて崩れた。
    「明日… 病院に行ってみたら」
     自分の声が、やけに冷たく聞こえる。
    「平日だから、予約しないでも診察してもらえるだろ。子供じゃないんだから、一人で行ってこいよ」
    「うん……」
     胸の中で、明日の仕事のスケジュールと、妻の体調をはかりにかける。
     ギリギリのバランスで、仕事に針が下りた。
    「先、シャワー浴びるから」
     返事を待たず、リビングを出る。毛布を取り出すのも面倒くさいので、ヒーターのスイッチをつけた。




     翌日帰ると、美希は、外出着のまま寝室のベットの上にぼんやりと座っていた。
    「美希?」
     呼びかけると、彼女は、ゆっくりとこちらを見て、「行ってきたよ」と、低い声で言う。
    「どこに?」
    「病院」
    「……どうだった?」
    「先生が、家に電話するって。ご主人のいらっしゃる時間はいつですか、っていうから、今日の夜は早く帰ると思います、って答えた」
    「そう」 

  • No: 11葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/11/03 16:26

    そっけなく返事をしながら、私は、あまり気は向かなかった。
     別れる妻の診察に付き添うのは、はっきりいってごめんだ。
     彼女のお母さんに頼もう、と考えを巡らす。どこか悪いところがあるなら、連絡を取って、病状の説明だけ後で聞こう。
     その時、自分たちの状況を伝えればいい。
     彼女のお母さんも離婚を経験した人なので、夫婦関係を維持する事の難しさは、だいたいわかってもらえるだろう。
     私の所よりも、母親の元にいるほうが、彼女だって体の調子も良くなるに違いない。
     黙々と、スーツからスウェットに着替えながら、自分に言いきかせるように考えをまとめる。

  • No: 12葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/11/12 16:01

    携帯を手に取ると、明日の仕事のスケジュール確認のラインが入っていた。
     操作しながら寝室を出て、リビングに向かう。
     お互いの親類の電話番号が書いてあるリストが、ふと、目につき、電話の白い受話器へと手が伸びかける。
    ─いや、もう少し、様子を見るか。
     妻の母親に電話するわずらわしさを考えて、ソファーに勢いよく座り込む。
     もう、何もかも、放り出してしまいたかった。
     リモコンを手に取り、薄暗い部屋のテレビをつけると、発光体のように青く光が差し、番組が始まった。



     外回りの時間を利用して、美希の通っている総合病院へと足を運んだ。

  • No: 13葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/11/30 16:23

    内科の受付で名前を告げると、若い男性の医師が現れた。
    「青木と申します」
     声の感じから、私と同じ世代の人間だとわかった。
    「どうも… お電話頂いた長峰です」
    「お忙しいところすいません。私も、内科の担当ではないんですが」
    「と、言いますと?」
    「正式には、心療内科です」
     美希の病気が、体の疾患だと思っていた私は、かなり、驚いた。─心の病気?
    「奥さんの血圧や心拍数が、通常よりかなり低下しているので、ちょっと専門的に検査したんですよ。なにか引っかかるものがあったので、脳検査しましたところ、少し… フィルムを、お見せしましょうか」
     青木医師が提示した脳のフィルムには、ところどころに、くっきりと空洞が映っていた。
    「萎縮でもなく、固まりでもない、いわば、欠落という状態です」
    「欠落… 」

  • No: 14葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/01/26 16:12

    「そうですね」青木医師は、フィルムをデスクに置き、ゆっくりと私の目を見た。
    「精神的な病気は、最近増加してます。ネットとかで、ご覧になったこと、ありますか?」
    「え、はい、少し」
    「ここ数年、心と体のバランスの崩れから、日常生活を人と同じようにおくれなくなっている人たちが増えてるんです。引きこもりとか、うつ病とか、まあ様々ですが、それでも体が健康であれば、精神の病が治った時、元通りに近い状態の日常生活を送れます。しかし、体に異常があれば、かなり難しい」
    「妻は… どういう病気なんですか?」
    「最近、生理痛がひどいとか、そういう事、おっしゃってないですか?」
    「いえ… 以前、一度流産しまして、それからは、毎月、特に変わった様子はなかったんですが… 」

  • No: 15葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/02/04 21:49

    「4、5年前ですかね」
    「はい、大学の頃です」
    「女性の場合、子宮の疾患は、かなり深く脳と関わっています。脳というか、精神、心の状態ですね。ストレスを抱え込んでいると、生理の周期も変化したりする。奥さんの場合は、他の人が1年くらいで修復できる子宮の欠落を、5年ほどのサイクルがあっても修復できていない。
    わかりますか?体の細胞も、治癒を拒否しているということです」
    「………」
    「脳の場合は─ まだ、研究も十分ではありません。はっきりしたことは言えませんが、あまり前例がない症状です。
    ここでは、他の医者とも連携をとって、一人の患者の症例を分析して─ 分析というのも、変な言い方ですが、早く良くなってもらえるように、努力しています。そのためには、本人だけでなく、ご家族とも力を合わせないといけない」
     私は、青木医師の言葉ひとつひとつを、焼け付くような気持ちで聞いていた。

  • No: 16葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/03/24 15:10

    「よろしいですか?ご主人の協力があれば、奥さんも元気になれる。そのために、お時間をいただけますか?」
    「はい─ はい、わかりました」
     椅子の上のひざが、こまかくふるえるのがわかる。握りしめた手の指一本一本が、痛くなってきた。
    「私としては、しばらくはご主人のほうに、症状をお伝えしようと思っています」
     青木医師は、デスクのカルテを手に取り、椅子に座りなおした。
    「奥さんには… そうですね、カウンセリングということで、もう一度こちらに来るようにおっしゃって下さい。体の不調があるようなので、私と看護士でアドバイスしていきますから」

  • No: 17葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/04/29 16:15

    「はい… よろしくお願いします」
     私がそう言うと、青木医師は、うなずいてデスクのカルテに目を落とした。端正な横顔に、陰影ができる。
    「当分は、私が担当になると思います。奥さんのことで何か気になる点があれば、次回の診察の時にお聞かせください」
    私は、ぼう然として、青木医師が今言った事柄を考えた。
     診察室のドアを出てからも、どうしたらいいかわからず、とにかく仕事に戻ることにした。
     美希に電話してみたが、応答はない。
     ため息をつき、あきらめて、地下鉄の駅へと階段を降りた。


     家のリビングのテーブルには、食べかけのパンと、袋が数枚散らばっていた。

レスを投稿する

cookieが無効になっています。有効に変更をしてください。

あなたは、現在ログインしていません。このままでも投稿できますが、いくつかの制限があります。
詳しく見る
スレにレスを投稿します。 は必須項目です。
  • 未登録

画像を投稿するには、ログインが必要です。

ミクルログインIDの登録はこちら

ミクルログインIDをお持ちの方はこちら

  • 画像処理中
  • ※1000文字(改行も1文字に含む)まで入力可能。
  • ※メールアドレスの掲載やアフィリエイトサイトの宣伝など投稿のルールに反する投稿をした場合、一発で投稿停止処分となる場合がありますので、ご注意ください。

このスレをみた人は、こんなスレも見ています

  • 295510
    Hit

    168
    レス

    サレ夫の独り言携帯小説

    妻にW不倫された夫の独り言です。 結婚生活15年 平凡な家庭を襲った悲劇 家庭崩壊の危機 ノンフィクションです。

    甲斐更新日時12/11/30 19:49タグ 不倫 夫婦 家庭

  • 74348
    Hit

    135
    レス

    サレ夫の独り言②携帯小説

    サレ夫の独り言の続きです 結婚生活15年 W不倫した妻との修復 実際に修復途中ですが‥ 修復経過を綴っていきたいと思います 愚痴になることも多いと思いますが‥

    甲斐更新日時14/05/28 19:51タグ 不倫 修復 夫婦

  • 88452
    Hit

    146
    レス

    彼と彼閲覧専用 携帯小説

    私は綾子28歳 某外食チェーン店の事務方の仕事をしている。 営業部の部長と4年間の不倫関係を続けていた。 元カレとの別れ話しや、仕事の悩み事を嫌な顔をせずに親身になって聞いてくれた。そんな優しさ…

    あやこ更新日時11/09/29 17:51タグ 息子

  • 60697
    Hit

    102
    レス

    プチセックスレス夫婦の夜の生活閲覧専用 携帯小説

    第1子出産後かるーくセックスレスな私達。 先日はこっちから誘ったら 「眠くて今日は無理😩」と言われた。 断られて私が不機嫌になってたら翌日旦那から 「今度は頑張る👊」ってメールがきた。 「頑張る…

    ふにゃんこ更新日時10/09/23 23:55タグ セックスレス

  • 41820
    Hit

    74
    レス

    一度っきりの人生だから…閲覧専用 携帯小説

    皆様、はじめまして。 妻との運命的な出会い、3人の子ども達にも恵まれ、幸せなはずの人生… 思いもしなかった今、現実… 一度っきりの人生だから…… 妻が言った、この一言 これまでの人生を振り返…

    リョウ更新日時09/11/04 11:05タグ 夫婦 結婚生活 家族