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リフレイン

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日常の生活の中で
少しずつずれていく二人の距離は
やがて重ならない音になって
誰もいない空間に響いていく─





17/05/04 13:44(スレ作成日時) [RSS]

  • No: 13葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/11/30 16:23

    内科の受付で名前を告げると、若い男性の医師が現れた。
    「青木と申します」
     声の感じから、私と同じ世代の人間だとわかった。
    「どうも… お電話頂いた長峰です」
    「お忙しいところすいません。私も、内科の担当ではないんですが」
    「と、言いますと?」
    「正式には、心療内科です」
     美希の病気が、体の疾患だと思っていた私は、かなり、驚いた。─心の病気?
    「奥さんの血圧や心拍数が、通常よりかなり低下しているので、ちょっと専門的に検査したんですよ。なにか引っかかるものがあったので、脳検査しましたところ、少し… フィルムを、お見せしましょうか」
     青木医師が提示した脳のフィルムには、ところどころに、くっきりと空洞が映っていた。
    「萎縮でもなく、固まりでもない、いわば、欠落という状態です」
    「欠落… 」

  • No: 14葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/01/26 16:12

    「そうですね」青木医師は、フィルムをデスクに置き、ゆっくりと私の目を見た。
    「精神的な病気は、最近増加してます。ネットとかで、ご覧になったこと、ありますか?」
    「え、はい、少し」
    「ここ数年、心と体のバランスの崩れから、日常生活を人と同じようにおくれなくなっている人たちが増えてるんです。引きこもりとか、うつ病とか、まあ様々ですが、それでも体が健康であれば、精神の病が治った時、元通りに近い状態の日常生活を送れます。しかし、体に異常があれば、かなり難しい」
    「妻は… どういう病気なんですか?」
    「最近、生理痛がひどいとか、そういう事、おっしゃってないですか?」
    「いえ… 以前、一度流産しまして、それからは、毎月、特に変わった様子はなかったんですが… 」

  • No: 15葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/02/04 21:49

    「4、5年前ですかね」
    「はい、大学の頃です」
    「女性の場合、子宮の疾患は、かなり深く脳と関わっています。脳というか、精神、心の状態ですね。ストレスを抱え込んでいると、生理の周期も変化したりする。奥さんの場合は、他の人が1年くらいで修復できる子宮の欠落を、5年ほどのサイクルがあっても修復できていない。
    わかりますか?体の細胞も、治癒を拒否しているということです」
    「………」
    「脳の場合は─ まだ、研究も十分ではありません。はっきりしたことは言えませんが、あまり前例がない症状です。
    ここでは、他の医者とも連携をとって、一人の患者の症例を分析して─ 分析というのも、変な言い方ですが、早く良くなってもらえるように、努力しています。そのためには、本人だけでなく、ご家族とも力を合わせないといけない」
     私は、青木医師の言葉ひとつひとつを、焼け付くような気持ちで聞いていた。

  • No: 16葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/03/24 15:10

    「よろしいですか?ご主人の協力があれば、奥さんも元気になれる。そのために、お時間をいただけますか?」
    「はい─ はい、わかりました」
     椅子の上のひざが、こまかくふるえるのがわかる。握りしめた手の指一本一本が、痛くなってきた。
    「私としては、しばらくはご主人のほうに、症状をお伝えしようと思っています」
     青木医師は、デスクのカルテを手に取り、椅子に座りなおした。
    「奥さんには… そうですね、カウンセリングということで、もう一度こちらに来るようにおっしゃって下さい。体の不調があるようなので、私と看護士でアドバイスしていきますから」

  • No: 17葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/04/29 16:15

    「はい… よろしくお願いします」
     私がそう言うと、青木医師は、うなずいてデスクのカルテに目を落とした。端正な横顔に、陰影ができる。
    「当分は、私が担当になると思います。奥さんのことで何か気になる点があれば、次回の診察の時にお聞かせください」
    私は、ぼう然として、青木医師が今言った事柄を考えた。
     診察室のドアを出てからも、どうしたらいいかわからず、とにかく仕事に戻ることにした。
     美希に電話してみたが、応答はない。
     ため息をつき、あきらめて、地下鉄の駅へと階段を降りた。


     家のリビングのテーブルには、食べかけのパンと、袋が数枚散らばっていた。

  • No: 18葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/06/28 11:15

    黙って僕が片付けると、美希が、
    「そのままにしといて」と言う。
    「…ちゃんと、昼、食べてるのか?」
    「まだ、ちょっとおなか痛いの」
    「ちゃんとごはん食べないからだろ」
    「だって、作るのもしんどいし、パンとか、軽いもののほうがいいの。心配しないで」
     アディダスの黒いジャージのまま、椅子に座り、じっとテレビを見続けている彼女を横目に、私は、新聞を広げる。
     他国のニュースを目で追って、ふと、生活面の、『主婦層に忍び寄るストレス症候群』という文字を見つけ、思わず紙面をめくった。
     ガサガサという音がわずらわしかったのか、美希が、テレビのボリュームを上げる。
     うつろな目でパンをかじる彼女の目は、やはり、なんだか異様だった。

  • No: 19葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/07/08 12:00

    脳の欠落─
     その言葉が、考えたくなくても、何度も心の中に浮かび上がる。
     テーブルの上に散らばったままのパンくずを、気にすることもなく、パンをかじり続ける彼女の姿は、確かに以前と違う。
     きれい好きだったので、食事の時は必ず私とセットになっている白い皿を使っていたし、栄養も気にして、間食なんかほとんどしなかった。
     ダイエットの必要もないような、スリムな体型だし、逆に、「もっと食べたら」と人からすすめられるくらい、かぼそく骨ばった感じだ。
     そういえば、普段、元気そうにしてたから、妻の健康の事まであまり考えてやらなかったな、と、しみじみと思う。
     突然、美希は立ち上がり、スタスタと冷蔵庫に向かって歩き出し、扉を開けると、中から缶コーヒーを一本取り出した。
     冷蔵庫の扉を開けたまま、プルタプを引き、ゴクゴクと飲み始める。
    「……冷たいんじゃないの?」
     温めて飲んだら?と言おうとする私に、美希は、
    「ほっといて」
    と答え、無理にのどに流し込むように、缶コーヒーを一本飲み終えた。

  • No: 20葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/07/22 16:19

    じっと目で追っていると、彼女は、流し台に空の缶を置き、また戻ってきて、椅子に座る。
     テレビを見続ける彼女の顔には、表情がまるでない。
     私に話しかけることもない。私から話しかけようか、と思ったが、じっと一点に集中した彼女の視線に、あきらめ、新聞を開きなおし、続きを読んだ。


     その日、美希の母親から連絡が入った。
    「娘から聞いたんですけど… 最近、あの子、病院に通ってるみたいで… 」
    「─ええ、すいません、私も忙しくて、そちらのほうにお伝えしようと思ってたんですけど」
    「いえ、いいのよ。裕平さんはお仕事があるから。私も、このあいだから、なんやかやとバタバタしていて、ろくにあの子と連絡もとってなかったから、びっくりしたんだけど… なんだか、病院通いも、長くなるようなこと言ってたんで、心配になってね。
    あなたのほうも、出張とか何とか、家を空けることもあるでしょう?
    ちょっと、久しぶりに、娘の様子を見に行こうかと思いましてね」
    「はい」
    「ごめんなさいね、今月は立て込んでいて、下旬になったら、いろいろと交通機関の予約も取れると思うんですけど」
    「うちは─、25日以降だったら、私の仕事も一段落つくんですが」
     話し合った結果、美希の母親が、家を訪れる日が決まった。

  • No: 21葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/08/12 15:19

    「それじゃ、娘によろしく伝えてね」
     電話が切れたあと、私は、美希に、「今度、おかあさんが来るそうだよ」と言ったが、彼女の返事はなかった。
     近頃は、ずっと、部屋のカーペットの上にうずくまり、ひざをかかえている時間が増えている。
     雑誌を読んだり、テレビを見るわけでもない。頭をあげたり、時々体の向きを変えたりするが、だいたいいつも同じように、ダンゴムシのようにうずくまっている。
     私は、食器を片付けながら、このあいだの診察のことを思い返した。
     結局、あれからずっと、担当医は青木医師だ。
     家での様子を伝えると、彼は、レントゲンを見つめて、言った。
    「奥さんの場合、体の機能の回復が、ちょっと極端に遅いんですよね─。血圧も、なかなか正常値まで上がらない。内臓の活動にも、ストップがかかった状態です。おうちでは、ちゃんと食事も採ってられますよね?」
    「いえ… すすめても、食べない時もあります」
    「─まあ、もともと、食が細いようなお話は、聞いてますが」
     青木医師は、椅子に座ったまま、腕組みをして、私を見据えた。
     私は、ふと、学生時代に、部活動の先輩から説教された場面を思い出した。
    「回復力が、前進してません。どちらかというと、退行しています」

  • No: 22葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻18/08/18 11:42

    「退行?」
    思わず、聞き返した。病室の白い壁が、くっきりとその白さを増す。
    「外国では、心や精神の病にもいろいろと名称があり、研究の結果、分類もされています。人が退行していくと、ちゃんと回復していた機能が突然バランスを崩し、異常体となる─ たとえば、『古傷が痛む』という言葉がありますよね?」
    「はい」
    「子供の頃、骨折して、治癒したと思っていた手足が、なんらかの理由─事故かなにかで─寝たきりになると、再び骨折していた頃と同じように骨が痛み、動かせなくなる、そういったようなことです」
    「……はい」
    「スポーツの経験は、ありますか?」
    「水泳と、野球をしていました」
    「まあ、オリンピックでさかんにとりあげられるスポーツは、専門のドクターもそろってるんですけどね。問題なのは、小さい国で、ルールも何も決めずに行われる競技です。選手がケガをしても、治らないうちに試合をする。またケガをする。しかし試合は続く。結局、スポーツしかできない体になるんですよ」
    「スポーツしかできない体?」
    「リタイアした後、人の助けなしに、日常生活が送れなくなるんです」
    「──」
     私が黙り込むと、彼は、腕時計をちらっと見て、話を続けた。
    「女性の場合は、男性より体が弱いし、出産して子供も育てなければならない。スポーツ選手と比べるのは、無茶かもしれません。
    でも、その分、ストレスが表面化する機会が、男性より少ないんです。
    ストレスを抱え込んだままの人は、どんどん体の機能を退化させていきます」

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