新規スレ作成

リフレイン

10レス 918 Hit

日常の生活の中で
少しずつずれていく二人の距離は
やがて重ならない音になって
誰もいない空間に響いていく─





17/05/04 13:44(スレ作成日時) [RSS]

  • No: 1葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/05/04 14:01

    「おかえりなさい」
    帰ると、妻が玄関で、笑顔で出迎えた。
    「……は?」
     私は、眉間にシワを寄せ、前かがみになって靴を脱ぐ。
     リビングに入るまでの間、妻は、ずっと笑顔のままだった。
     なんとなくその笑顔を正面から見れずに、ソファーにカバンを放り投げる。
    「ねえ、今日はあなたの好きな物でまとめてみたの。はやく食べてみて」
     テーブルの上には、牛肉のそぼろ煮、カツオのたたき、コーンサラダが整然と並べてある。
    「……風呂、先に入る」
     そう言い残して、私は、足早に寝室へ向かう。
     クローゼットの前でネクタイをほどきながら、私は、
    「……何の、冗談だよ……」
    と、つぶやいた。


    食事中、妻は、ずっととりとめのないことをしゃべり続けていた。
     今日昼間見たテレビの話、部屋を模様替えしようとしたけどやめて、結局そのままになっていること、夕方、空の色がすごくきれいだったこと…
     私は、好物を口に運びながら、何も話さなかった。
     相槌さえも打たない。相槌がなくとも、妻のおしゃべりは、延々と続いていった。 

  • No: 2葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/05/14 16:34

    ふっと、話がとぎれ、妻がぼんやりと私を見つめる。
     食事を終えていた私は、やっと区切りがついた、と思い、「ごちそうさま」と、立ち上がった。
     寝室のベットに寝転んで、闇の中で目をこらす。
     妙に意識が冴えている。薄暗い中で、クローゼットやドレッサーや、ひとつひとつの家具の輪郭が、際立って見える。
     そのうちに、ドアが開き、妻が部屋に入ってきた。
     私は、あわてて目を閉じる。
     妻は、悪びれることもなく、ベットに入り、くるりと、私の横にもぐりこんだ。横を向いている私の背中に、やわらかい妻の気配がする。私は、じっと、身をこわばらせた。
     やがて、規則正しい妻の寝息が聞こえてきた。
     私は、それからしばらく寝付かれず、そっと、妻に体が触れないように、何度か寝返りを打った。
     妻は、微笑んだような表情で、深く、眠りに落ちていた。




    「自分ちの奥さんが何考えてるかなんて、わかんねーよなぁ」
     同僚の山口が、カウンターに置いたジョッキを握りしめたまま、だいぶろれつが回らなくなった口調で、言う。
    「ああ」
    「最近全然しゃべってないなと思って、久しぶりに早く帰ったら、帰ってなくて、仕方なくひとりでごはん食べてたら、あら、今日は早かったのねなんて言って、私英会話始めたからなんて、事後報告でごめんねなんて言われてもよー、それ、授業料、オレの働いた金でしょ?なんて、言ったら怒るから言えねーけどさあー」
     周りのガヤガヤとした喧騒と、食器やグラスが触れ合う雑多な金属音が、やけに耳につく。
     

  • No: 3葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/05/28 17:05

    私は酔えないたちなので、同じくらいの酒量で、すでに表情も服装も崩れている山口を、うらやましく思う。
    「あいつ、ほんとに英会話習ってんのかなあー、もてるヤツだからさあー、外人と浮気なんて、しないかなぁ…」
    「それは、ないだろう」
    「ええ?どういうこと?裕平クン、うちのカミさんは男にもてないって?そーいう意味?じゃ、聞くけどさ、おまえ、自分の奥さんが絶対に浮気しないって保障じゃなくって、確信みたいなもの、ある?」
    「うちは、もう、そういう段階じゃないから」
     私が言うと、山口の目が、ちょっと正気に戻った。
    「は?なに?もしかしておまえたち、やばいの?」
    「うん。いっそ浮気でもしてくれてたら、いいきっかけになる」
     山口は、けげんな顔をして、私を見る。
     店の中は、私達と同じようなサラリーマンや、OLたちの歓声で包まれ、酸化した油の匂いが、アルコールと混じっている。
     山口は、黙ったまま、会話の続きを待っているようなので、私は話し始めた。
    「ほんとは、こっちが悪いんだよ。ずっと放ってたから。もうちょっと、話も聞いてやればよかったんだけど… そんな余裕、なかったからさ。いつのまにか、顔を合わせたら、ケンカしかしなくなってた… よく、手が出なかったよ、お互い」
    「そうか… 身につまされる話だよなぁ」

  • No: 4葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/06/25 15:59

    手元のぬるいビールを見つめながら、私は続けた。
    「たぶんもう、元には戻れない。もともと美希は、さびしがりやだからな、ずっとそばについていてくれる男が必要なんだよ。女は手がかかると思ってたけど、妻は、それ以上だ」
     沈んだ空気にならないよう、冗談めかして言ったつもりだが、山口は、笑わなかった。
    「最初は、幸せにしてやろうと思うんだよなぁ… しょせん、別々に生きてきた人間が一緒に暮らすんだもんな。それなりにひびも入ってくるよ」
    「修復不可能だよ」
    「もう一度、話し合ってみろよ」
     私は、苦笑いして、ビールを飲み干す。
    「話し合うべきことは、全部話した。もうたくさんだ」
    「……」
    「はっきりしたら、報告するよ」
     山口は、しばらくうつむいて、カウンターに突っ伏して、
    「あー、悪酔いしそうー」と、背中を丸める。
     串の散らばった皿を寄せていると、私の目の前にある木目の壁が、一瞬、ゆらりと揺らいだ。



     はじまりは、初夏の明るい頃だった。

  • No: 5葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/08/13 22:13

    大学生の時だ。私も美希も、映画好きが集まったサークルで知り合い、自然に恋に落ちた。
     それぞれの好きな映画についてのレポートを書き上げる時、美希が私の一人暮らしのアパートに来たり、私が美希の女子寮に忍びこみ、一緒に過ごす時間が多くなり、いつのまにか、同じ夜を過ごすようになった。

  • No: 6葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/09/15 13:48

    朝になると、二人でベットから抜け出し、服を着て、何もなかったように大学に向かう。スリリングで、やさしい日々だった。
     そして、親密になるにつれ、ささいなことでケンカするようになった。
    いつも、美希が涙声になり、私に言う。
    「どうして、わかってくれないの?」
     そういう彼女の目は、キラキラと輝きながらうるんでいて、こいつには、オレがいなきゃダメだな、と思い、たいがい、こちらから折れてケンカは終わった。
     ある時、ふいに、美希から「生理がない」と言われた。
    驚いた私は、「とにかく病院に行け」と言ったが、彼女はしばらく、迷っていたようだった。
     落ちつかない日々を送り、単位を取ることに明け暮れ、彼女に会えず、連絡を取れないもどかしさにあせっているうちに、三週間ぐらい過ぎた。

  • No: 7葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/09/17 14:55

    夜の公衆電話から美希のダイヤルナンバーを押す。その時は、寮に不在だった。
     アパートに帰ってから連絡を入れた。
    電話越しの彼女の声は、かすれて渇いた声だった。
    「もう…流れちゃったの、赤ちゃん」
     真っ白になった頭の中で、彼女の話をまとめてみると、妊娠のごく初期の段階で、流産してしまったらしい。
     医師からは、まだ大学生だから、もっと大人になって体がしっかりしたら、子供も産めるようになる、と言われたらしかった。
    「ごめん…ついていてやれなくて」
     それしか言えなかった。
     すぐにでも飛んでいきたかったが、美希の寮の門限が過ぎていたので、その日は会えなかった。

  • No: 8葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/09/23 14:25

    漠然と考えていた想いが、徐々に決心に変わる。
     結婚するなら、美希しかいないということ。
     それからは、就職するために、ありとあらゆる努力をした。
     大学の就職担当員に面接を取り付けてくれるように頼み込み、反対する両親を説得し、内定を取り消された会社に直談判に行ったり、そんなくり返しで、なんとか、二人で生活するための道すじが見えてきた。
     すべてのことが、もう、遠い過去に思える。
     別れという結論が出た今となっては、彼女に言える言葉は何もない。
     言えるとしたら、やっぱり、「ごめん」としか、言いようがない。



    「……今朝から、体調がおかしいの」
     妻が、パジャマ姿のまま、リビングに出てきた。
    「今朝から?」
    「うん…… ううん、昨日の夜から… 食あたりかな」
     そのまま、ぐったりとソファーに横たわる美希を見下ろしながら、私は、「朝ごはんは?」と、聞いた。
    「トーストでもいいかなぁ… 自分で焼いてくれる?」

  • No: 9葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/10/02 16:58

    ふと、炊飯器を見ると、スイッチが入っておらず、中には冷たい米がそのまま水に浸っている。
     私は、黙って食パンの袋を探し、1枚、電子レンジの中に入れた。
    「……あー……だるいー…」
     美希の言葉を受け流して、コーヒーを作って、飲み、トーストだけの朝食をとって、そのまま会社に出かける。
     いつも、彼女は低血圧気味なので、朝から食事を終えても横になっていることが多く、ほおっておいても大丈夫だろうと思い、仕事に没頭し、一日が過ぎた。
     家に帰り着いて、玄関の明かりをつけて、ゾッとした。
     妻が、朝とまったく同じ様子で、髪をふり乱し、ソファーに横たわっている。
    「……まだ、具合悪い?」
     私の問いかけに答えず、彼女は、乱れた髪を少し持ち上げ、こくりとうなずいた。
     とりあえず寝室へと向かい、ネクタイを取り、妻に呼びかける。
    「ごはんはー?食べてないのー?」
     返事はない。

  • No: 10葉月(AmcTnb)スレ主更新時刻17/10/05 15:14

    心配になり、リビングへ戻ると、彼女は、さっきと寸分たがわぬ様子だった。もうすでに肌寒い時刻だったが、チェックのパジャマのまま、身動きひとつしない。
     私の中で、何かが音をたてて崩れた。
    「明日… 病院に行ってみたら」
     自分の声が、やけに冷たく聞こえる。
    「平日だから、予約しないでも診察してもらえるだろ。子供じゃないんだから、一人で行ってこいよ」
    「うん……」
     胸の中で、明日の仕事のスケジュールと、妻の体調をはかりにかける。
     ギリギリのバランスで、仕事に針が下りた。
    「先、シャワー浴びるから」
     返事を待たず、リビングを出る。毛布を取り出すのも面倒くさいので、ヒーターのスイッチをつけた。




     翌日帰ると、美希は、外出着のまま寝室のベットの上にぼんやりと座っていた。
    「美希?」
     呼びかけると、彼女は、ゆっくりとこちらを見て、「行ってきたよ」と、低い声で言う。
    「どこに?」
    「病院」
    「……どうだった?」
    「先生が、家に電話するって。ご主人のいらっしゃる時間はいつですか、っていうから、今日の夜は早く帰ると思います、って答えた」
    「そう」 

レスを投稿する

cookieが無効になっています。有効に変更をしてください。

あなたは、現在ログインしていません。このままでも投稿できますが、いくつかの制限があります。
詳しく見る
スレにレスを投稿します。 は必須項目です。
  • 未登録

画像を投稿するには、ログインが必要です。

ミクルログインIDの登録はこちら

ミクルログインIDをお持ちの方はこちら

  • 画像処理中
  • ※1000文字(改行も1文字に含む)まで入力可能。
  • ※メールアドレスの掲載やアフィリエイトサイトの宣伝など投稿のルールに反する投稿をした場合、一発で投稿停止処分となる場合がありますので、ご注意ください。

このスレをみた人は、こんなスレも見ています

  • 278743
    Hit

    168
    レス

    サレ夫の独り言携帯小説

    妻にW不倫された夫の独り言です。 結婚生活15年 平凡な家庭を襲った悲劇 家庭崩壊の危機 ノンフィクションです。

    甲斐更新日時12/11/30 19:49タグ 不倫 夫婦 家庭

  • 68423
    Hit

    135
    レス

    サレ夫の独り言②携帯小説

    サレ夫の独り言の続きです 結婚生活15年 W不倫した妻との修復 実際に修復途中ですが‥ 修復経過を綴っていきたいと思います 愚痴になることも多いと思いますが‥

    甲斐更新日時14/05/28 19:51タグ 不倫 修復 夫婦

  • 87566
    Hit

    146
    レス

    彼と彼閲覧専用 携帯小説

    私は綾子28歳 某外食チェーン店の事務方の仕事をしている。 営業部の部長と4年間の不倫関係を続けていた。 元カレとの別れ話しや、仕事の悩み事を嫌な顔をせずに親身になって聞いてくれた。そんな優しさ…

    あやこ更新日時11/09/29 17:51タグ 息子

  • 60241
    Hit

    102
    レス

    プチセックスレス夫婦の夜の生活閲覧専用 携帯小説

    第1子出産後かるーくセックスレスな私達。 先日はこっちから誘ったら 「眠くて今日は無理😩」と言われた。 断られて私が不機嫌になってたら翌日旦那から 「今度は頑張る👊」ってメールがきた。 「頑張る…

    ふにゃんこ更新日時10/09/23 23:55タグ セックスレス

  • 41496
    Hit

    74
    レス

    一度っきりの人生だから…閲覧専用 携帯小説

    皆様、はじめまして。 妻との運命的な出会い、3人の子ども達にも恵まれ、幸せなはずの人生… 思いもしなかった今、現実… 一度っきりの人生だから…… 妻が言った、この一言 これまでの人生を振り返…

    リョウ更新日時09/11/04 11:05タグ 夫婦 結婚生活 家族