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レス 29 HIT数 3180 あ+ あ-

葉月( AmcTnb )
18-09-28 14:48(更新日時)

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日常の生活の中で
少しずつずれていく二人の距離は
やがて重ならない音になって
誰もいない空間に響いていく─






No.2466820 17/05/04 13:44(作成日時)
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No.1 17-05-04 14:01
葉月 ( AmcTnb )

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「おかえりなさい」
帰ると、妻が玄関で、笑顔で出迎えた。
「……は?」
 私は、眉間にシワを寄せ、前かがみになって靴を脱ぐ。
 リビングに入るまでの間、妻は、ずっと笑顔のままだった。
 なんとなくその笑顔を正面から見れずに、ソファーにカバンを放り投げる。
「ねえ、今日はあなたの好きな物でまとめてみたの。はやく食べてみて」
 テーブルの上には、牛肉のそぼろ煮、カツオのたたき、コーンサラダが整然と並べてある。
「……風呂、先に入る」
 そう言い残して、私は、足早に寝室へ向かう。
 クローゼットの前でネクタイをほどきながら、私は、
「……何の、冗談だよ……」
と、つぶやいた。


食事中、妻は、ずっととりとめのないことをしゃべり続けていた。
 今日昼間見たテレビの話、部屋を模様替えしようとしたけどやめて、結局そのままになっていること、夕方、空の色がすごくきれいだったこと…
 私は、好物を口に運びながら、何も話さなかった。
 相槌さえも打たない。相槌がなくとも、妻のおしゃべりは、延々と続いていった。 

No.2 17-05-14 16:34
葉月 ( AmcTnb )

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ふっと、話がとぎれ、妻がぼんやりと私を見つめる。
 食事を終えていた私は、やっと区切りがついた、と思い、「ごちそうさま」と、立ち上がった。
 寝室のベットに寝転んで、闇の中で目をこらす。
 妙に意識が冴えている。薄暗い中で、クローゼットやドレッサーや、ひとつひとつの家具の輪郭が、際立って見える。
 そのうちに、ドアが開き、妻が部屋に入ってきた。
 私は、あわてて目を閉じる。
 妻は、悪びれることもなく、ベットに入り、くるりと、私の横にもぐりこんだ。横を向いている私の背中に、やわらかい妻の気配がする。私は、じっと、身をこわばらせた。
 やがて、規則正しい妻の寝息が聞こえてきた。
 私は、それからしばらく寝付かれず、そっと、妻に体が触れないように、何度か寝返りを打った。
 妻は、微笑んだような表情で、深く、眠りに落ちていた。




「自分ちの奥さんが何考えてるかなんて、わかんねーよなぁ」
 同僚の山口が、カウンターに置いたジョッキを握りしめたまま、だいぶろれつが回らなくなった口調で、言う。
「ああ」
「最近全然しゃべってないなと思って、久しぶりに早く帰ったら、帰ってなくて、仕方なくひとりでごはん食べてたら、あら、今日は早かったのねなんて言って、私英会話始めたからなんて、事後報告でごめんねなんて言われてもよー、それ、授業料、オレの働いた金でしょ?なんて、言ったら怒るから言えねーけどさあー」
 周りのガヤガヤとした喧騒と、食器やグラスが触れ合う雑多な金属音が、やけに耳につく。
 

No.3 17-05-28 17:05
葉月 ( AmcTnb )

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私は酔えないたちなので、同じくらいの酒量で、すでに表情も服装も崩れている山口を、うらやましく思う。
「あいつ、ほんとに英会話習ってんのかなあー、もてるヤツだからさあー、外人と浮気なんて、しないかなぁ…」
「それは、ないだろう」
「ええ?どういうこと?裕平クン、うちのカミさんは男にもてないって?そーいう意味?じゃ、聞くけどさ、おまえ、自分の奥さんが絶対に浮気しないって保障じゃなくって、確信みたいなもの、ある?」
「うちは、もう、そういう段階じゃないから」
 私が言うと、山口の目が、ちょっと正気に戻った。
「は?なに?もしかしておまえたち、やばいの?」
「うん。いっそ浮気でもしてくれてたら、いいきっかけになる」
 山口は、けげんな顔をして、私を見る。
 店の中は、私達と同じようなサラリーマンや、OLたちの歓声で包まれ、酸化した油の匂いが、アルコールと混じっている。
 山口は、黙ったまま、会話の続きを待っているようなので、私は話し始めた。
「ほんとは、こっちが悪いんだよ。ずっと放ってたから。もうちょっと、話も聞いてやればよかったんだけど… そんな余裕、なかったからさ。いつのまにか、顔を合わせたら、ケンカしかしなくなってた… よく、手が出なかったよ、お互い」
「そうか… 身につまされる話だよなぁ」

No.4 17-06-25 15:59
葉月 ( AmcTnb )

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手元のぬるいビールを見つめながら、私は続けた。
「たぶんもう、元には戻れない。もともと美希は、さびしがりやだからな、ずっとそばについていてくれる男が必要なんだよ。女は手がかかると思ってたけど、妻は、それ以上だ」
 沈んだ空気にならないよう、冗談めかして言ったつもりだが、山口は、笑わなかった。
「最初は、幸せにしてやろうと思うんだよなぁ… しょせん、別々に生きてきた人間が一緒に暮らすんだもんな。それなりにひびも入ってくるよ」
「修復不可能だよ」
「もう一度、話し合ってみろよ」
 私は、苦笑いして、ビールを飲み干す。
「話し合うべきことは、全部話した。もうたくさんだ」
「……」
「はっきりしたら、報告するよ」
 山口は、しばらくうつむいて、カウンターに突っ伏して、
「あー、悪酔いしそうー」と、背中を丸める。
 串の散らばった皿を寄せていると、私の目の前にある木目の壁が、一瞬、ゆらりと揺らいだ。



 はじまりは、初夏の明るい頃だった。

No.5 17-08-13 22:13
葉月 ( AmcTnb )

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大学生の時だ。私も美希も、映画好きが集まったサークルで知り合い、自然に恋に落ちた。
 それぞれの好きな映画についてのレポートを書き上げる時、美希が私の一人暮らしのアパートに来たり、私が美希の女子寮に忍びこみ、一緒に過ごす時間が多くなり、いつのまにか、同じ夜を過ごすようになった。

No.6 17-09-15 13:48
葉月 ( AmcTnb )

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朝になると、二人でベットから抜け出し、服を着て、何もなかったように大学に向かう。スリリングで、やさしい日々だった。
 そして、親密になるにつれ、ささいなことでケンカするようになった。
いつも、美希が涙声になり、私に言う。
「どうして、わかってくれないの?」
 そういう彼女の目は、キラキラと輝きながらうるんでいて、こいつには、オレがいなきゃダメだな、と思い、たいがい、こちらから折れてケンカは終わった。
 ある時、ふいに、美希から「生理がない」と言われた。
驚いた私は、「とにかく病院に行け」と言ったが、彼女はしばらく、迷っていたようだった。
 落ちつかない日々を送り、単位を取ることに明け暮れ、彼女に会えず、連絡を取れないもどかしさにあせっているうちに、三週間ぐらい過ぎた。

No.7 17-09-17 14:55
葉月 ( AmcTnb )

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夜の公衆電話から美希のダイヤルナンバーを押す。その時は、寮に不在だった。
 アパートに帰ってから連絡を入れた。
電話越しの彼女の声は、かすれて渇いた声だった。
「もう…流れちゃったの、赤ちゃん」
 真っ白になった頭の中で、彼女の話をまとめてみると、妊娠のごく初期の段階で、流産してしまったらしい。
 医師からは、まだ大学生だから、もっと大人になって体がしっかりしたら、子供も産めるようになる、と言われたらしかった。
「ごめん…ついていてやれなくて」
 それしか言えなかった。
 すぐにでも飛んでいきたかったが、美希の寮の門限が過ぎていたので、その日は会えなかった。

No.8 17-09-23 14:25
葉月 ( AmcTnb )

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漠然と考えていた想いが、徐々に決心に変わる。
 結婚するなら、美希しかいないということ。
 それからは、就職するために、ありとあらゆる努力をした。
 大学の就職担当員に面接を取り付けてくれるように頼み込み、反対する両親を説得し、内定を取り消された会社に直談判に行ったり、そんなくり返しで、なんとか、二人で生活するための道すじが見えてきた。
 すべてのことが、もう、遠い過去に思える。
 別れという結論が出た今となっては、彼女に言える言葉は何もない。
 言えるとしたら、やっぱり、「ごめん」としか、言いようがない。



「……今朝から、体調がおかしいの」
 妻が、パジャマ姿のまま、リビングに出てきた。
「今朝から?」
「うん…… ううん、昨日の夜から… 食あたりかな」
 そのまま、ぐったりとソファーに横たわる美希を見下ろしながら、私は、「朝ごはんは?」と、聞いた。
「トーストでもいいかなぁ… 自分で焼いてくれる?」

No.9 17-10-02 16:58
葉月 ( AmcTnb )

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ふと、炊飯器を見ると、スイッチが入っておらず、中には冷たい米がそのまま水に浸っている。
 私は、黙って食パンの袋を探し、1枚、電子レンジの中に入れた。
「……あー……だるいー…」
 美希の言葉を受け流して、コーヒーを作って、飲み、トーストだけの朝食をとって、そのまま会社に出かける。
 いつも、彼女は低血圧気味なので、朝から食事を終えても横になっていることが多く、ほおっておいても大丈夫だろうと思い、仕事に没頭し、一日が過ぎた。
 家に帰り着いて、玄関の明かりをつけて、ゾッとした。
 妻が、朝とまったく同じ様子で、髪をふり乱し、ソファーに横たわっている。
「……まだ、具合悪い?」
 私の問いかけに答えず、彼女は、乱れた髪を少し持ち上げ、こくりとうなずいた。
 とりあえず寝室へと向かい、ネクタイを取り、妻に呼びかける。
「ごはんはー?食べてないのー?」
 返事はない。

No.10 17-10-05 15:14
葉月 ( AmcTnb )

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心配になり、リビングへ戻ると、彼女は、さっきと寸分たがわぬ様子だった。もうすでに肌寒い時刻だったが、チェックのパジャマのまま、身動きひとつしない。
 私の中で、何かが音をたてて崩れた。
「明日… 病院に行ってみたら」
 自分の声が、やけに冷たく聞こえる。
「平日だから、予約しないでも診察してもらえるだろ。子供じゃないんだから、一人で行ってこいよ」
「うん……」
 胸の中で、明日の仕事のスケジュールと、妻の体調をはかりにかける。
 ギリギリのバランスで、仕事に針が下りた。
「先、シャワー浴びるから」
 返事を待たず、リビングを出る。毛布を取り出すのも面倒くさいので、ヒーターのスイッチをつけた。




 翌日帰ると、美希は、外出着のまま寝室のベットの上にぼんやりと座っていた。
「美希?」
 呼びかけると、彼女は、ゆっくりとこちらを見て、「行ってきたよ」と、低い声で言う。
「どこに?」
「病院」
「……どうだった?」
「先生が、家に電話するって。ご主人のいらっしゃる時間はいつですか、っていうから、今日の夜は早く帰ると思います、って答えた」
「そう」 

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