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ツンデレ女 彩乃

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愛戦士( 30代 ♂ d27Hh )
11/10/28 20:28(更新日時)

高部 貴明 35歳が、3ヶ月間の出張中、自称 ツンデレ女 綾部 彩乃 23歳 と出会い、恋に落ちていく物語。

ただ、この彩乃

自分では、「うち、ツンデレ」
というが…

少し?いや…かなり天然。

No.1624490 11/06/30 20:37(スレ作成日時)

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No.1 11/06/30 21:47
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

「あっち~」
貴明は、暑さにめっぽう弱い。
寝る時など、クーラーの設定温度を、『16℃、風量 MAX』にして寝ている。
当然、寒くなるから、布団にくるまる。
なんとも、燃費の悪い男だ。


貴明の仕事は、外まわりの営業。営業とは言っても、一日3~4件、顧客に顔を出して、注文聞くだけの、御用聞き程度の仕事だ。
今は、全くやる気がない、ダメダメ営業マンだが、これでも少し前までは、会社の中で常にトップ争いを繰り広げていたのだから、信じられない。
当然、年収だって、以前は1000万位稼いでいたのに、今では、300万そこそこ。
物欲も無く、夢も無く、ただ、なんとなく生活している。


貴明は、取引先の中でも、中川商事が好きだった。
別に、かわいい子いる訳でも、注文をたくさん貰える訳ではない。
行く途中の公園が好きだった。

その公園のベンチには、屋根が付いていて、真夏の休憩場所には、もってこいだった。

いつも通り、ベンチに座って、20年以上吸い続けている、セブンスターに火をつけ、缶コーヒーを飲みながら、ボーとしていると、一人の男の子が近づいて来た。

目はクリクリ二重、髪の毛は真っ黒で、横と後ろを刈り上げ、全体的に短めに苅っている。
「いい顔してるなぁ」
と、貴明は心で思った。
「僕、いい顔してるなぁ、いくつ」

男の子は、右手で4本の指を立てながら、貴明の方に向けた。

「名前は?」

「っかき」

柿?貴明はもう一度聞いてみた。

「柿君っていうの?」

男の子は、小さくため息をついて

「た、か、あ、き」

と、言った。

No.2 11/07/01 17:03
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【5年前】

「たかさーん、有馬部長が呼んでるよー」
事務員の佐藤さん、明るくて、会社の雰囲気を、いつも明るくしてくれる存在。
「何だって?」
貴明が、少し嫌そうに聞く。
「また、どっか手伝って来いって言うんじゃないの~」
何故か、苦笑いを浮かべている。

貴明が勤めている会社は、主張が時々ある。
家のリフォームの会社で、業界でも、そこそこ名が通っている。
貴明は、毎月トップクラスの数字を作っていた為、新しい営業所の立ち上げの時には、呼ばれる事が多かった。


「有馬さん、なんですぅ?」
有馬が貴明を見るなり、まんべんの笑みを浮かべながら、近寄り、貴明の肩を抱きながら
「おう、今度はいいぞー。横浜だ‼。仕事だけじゃない、遊ぶ所もいっぱいあるからなぁー」
有馬はかなり盛り上がっている
「まだ、返事してないけど…」
と、貴明は心で思っていた。
「昼間はザキ、夜は野毛、関内も熱いぞ~。俺が若った頃は、よくザキブラしたもんだ」

「ザキブラですか…」
貴明が、思わずポロッと言うと。

「ザキブラも知らんのか。ザキってのは、伊勢佐木町の事でな…」
「それで、いつからです?」
貴明は、有馬の話が止まりそうもないので、さえぎるように言った。

「おう、明日からだ。心配すんな、泊まる所も用意してあるから、着替えだけ持っていけば、大丈夫だぞ。おっ、どんだけ遊んでも、立ち上げだからな、数字はキチッといつものように、頼むぞ‼」

いつもの事だが、なぜか今回は、あまり悪い気はしなかった。

No.3 11/07/01 17:41
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【横浜】


貴明は『騙された』、と思った。
3ヶ月泊まる所は、蒔田という駅から、20分位歩いた所にあるワンルームマンション。
繁華街まで歩いたら、1時間は掛かりそうな山の中。
仕事よりも、夜を楽しみたかった貴明は、愕然とした。
「ここで3ヶ月間、何しろって言うんだよ」


我慢出来たのは、3日間だけ、
「せっかく、目と鼻の先に楽園があるのに、電車で行ったろ」
誰も居ないが、決心する時は声に出した方がいい。

No.4 11/07/01 18:12
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【出会い】

「いらっしゃいませ」

ボーイに案内され、席に着く。

システムを聞き、飲み物を待つ。

貴明は、酒も女も大好きだが、女の子にハマる事はなかった。
心のどこかで
「どうせ営業だろ」
と思っているが、女好きな貴明は、ついつい来てしまう。
稼いだ金は、ほとんど飲みと風俗に消えていく。
この店は名前に惹かれた。

『乗りに来て~❤』

看板を見た時、一人で吹き出した。
なんとう、センスのなさ。
これで、エロさを出しているつもりなのか、店名が『乗りに来て~❤』って、おかしいだろう。

と思ったが、気になって入ってしまった。

店内は、非常に落ち着いた雰囲気で、『大人の空間』という感じ。
客層も比較的高めで、悪くない。
最近のギャバクラは、ろくに話もせず、カラオケに頼る嬢が多いいが、そのカラオケも無い様子。でも、『乗りに来て~❤』
よくわからん店だが、貴明は、気に入っていた。

No.5 11/07/01 18:27
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【出会い 2】


貴明は、この女の子を待っている時間が好きだった。
想像と妄想が頭の中で手を繋ぎながら、スキップしている。

小柄な子が近づいて来た。

貴明のテーブルの前で止まり、

「いらっしゃいませ。ベンツで~す」

貴明は吹き出しそうになった。

わかった。

女の子の源氏名が車の名前、そして、『乗りに来て~❤』…
ここのオーナーは、間違いなく、センスがない…

No.6 11/07/01 18:59
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【スットラ~イク】

貴明は固まった。

いや、あまりのドストライクに驚いた。

「可愛すぎて、固まってる?」
ベンツが意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。

貴明は思わず、
「はい」
と言って頷いてしまった。

目はクリクリ二重、唇はちょっと厚めでぽってりしてる。
顔はめちゃくちゃ小顔。
背も、150㎝位。

全てが貴明の好みだった。

No.7 11/07/01 19:18
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【似非(えせ)】

「なんでベンツにしたの?」
貴明は、彼女を見て、どうしても『ベンツ?』とう感じだった。
『ベンツ』というよりも、『ミラ』とかのように、軽の方が合っていると思ったからだ。


「はぁ~?お前アホか~。車だったらベンツやろ。それに、うち、ベンツしか知らんし」
彼女は、笑いながら答えた。

客に向かって「お前…」、凄すぎる接客だ。
しかも「あほ」…

でも、貴明は彼女のドストライクぶりに腹も立たず、それどころか、自分の事を『うち』と言った事に惹かれしまった。

男は京都弁に弱い。

余談だが、貴明の姪っ子(中3)も、自分の事をうちと言うが、これは、学校で流行っているだけの似非京都弁だ。


「京都出身なの?」

貴明は期待に胸を膨らませ、聞いた。

「東京」

こいつも、『似非』だった…

No.8 11/07/01 20:32
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【人間は顔】


「今、仕事帰りですか?」
こいつ、敬語使えるじゃねえかと思いながら、貴明は答えた。
「まぁね」

彼女が難しい顔をして
「なんて呼んだらいいの?」
「タカでいいよ」
「タカか…年上でしょ、タカさんにしといてあげる、それとも、タカ君?いや~あんた君じゃないね、タカさんにしよう」
『あんた…』
また戻ったと、思った。会って5分足らずなのに、まるで、昔から知っているかのように、『くんじゃないね…』と、決めつけられた。


『人間は顔じゃない…』と、よく聞く言葉だが、あれは嘘だ、ドストライクには、何を言われても、腹が立たない。
腹が立つどころか、全てが可愛く感じてしまう。

人間は顔だった…

No.9 11/07/02 00:18
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【しんご】


「ところでさぁ~。しんごに似てるってさぁ~言われない?」

「しんご?SMAPの?」

「おまえ、やっぱりアホだな、『しんご』っつったら柳沢 慎吾に決まってるじゃん」

また、戻ってる、「俺はタカさんじゃないの?」と貴明は思った。
それに、しんご=柳沢 慎吾…この感覚も微妙。

「今まで、柳沢 慎吾に似てるなんて、言われた事ないぞ。それに、俺あんなに歯でてないし」
「違うよ、鼻から上がそっくり」
と、右手で貴明の口を隠しながら、言った。

貴明は微妙な気分、
「柳沢 慎吾って、あの歯が特徴なんじゃないの…それに、カッコ良くはないような…」
そんな事を思っていた。

ただ、彼女は大喜び。

「うち、めっちゃタイプやねん。今日はいい事あるかも~」


また、似非京都弁。
それに、『今日はいい事あるかも~』って、俺との出会いは?
でも、タイプらしい。

複雑な一言だか、貴明の頭の中で、

『めっちゃタイプやねん』が、こだまし続けていた。

No.10 11/07/04 09:07
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【指輪】


「ん、嫁がいるんだ」
貴明の左手の薬指を見ながら、彼女が言った。
そして、口を『アヒル口』にしながら、顎を引き、上目づかいで
「ぶ~」と、少しすねたような素振りを見せた。

『ドッカーン‼』


タイプじゃない女の子に、この仕草をされると、殺意すら芽生える事もあるが、ドストライクにやられては、ひとたまりもない。
『キュン』どころの騒ぎでは収まらず、まさに『ドッカーン‼』が相応しい。

貴明も、営業とはわかっていても、正直、かなり嬉しかった。

が、

間髪いれず、あっけらかんと、彼女が言った
「まっ、どっちでもいいんだけど」


…😢


貴明、撃沈…

No.11 11/07/04 16:24
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【微妙】


「今日は仕事帰り❓」
「ん、そう」
「どこに住んでんの❓」
「今、出張で、3ヶ月だけ横浜に居るんだ」

すると、彼女が少し驚いた表情で
「マジ❓じゃあ、今は嫁いないじゃん。だったら3ヶ月間だけ、遊ぼうよ」

「いいね~」

普段、飲み慣れていた貴明は、『また営業か…』と思っていたが、もはや関係ない。
どうせどっかで、金を使うんだったら、お気に入りがいる店の方がいいに決まってる。

しらばっくれて、貴明は聞いてみた
「彼氏いくつ❓」

「それがさぁ、先月別れたばっかでさぁ。まぁ、不倫だったから、いいんだけど、やばかったよ、嫁と別れるなんて言いだしたからさぁ、叩っ切った、危なかったよ、こっちは、そんなマジじゃなかったから。ギリギリセーフ」
と、野球の審判の『セーフ』の真似をしながら言った。
「叩き切っちゃったんだ…」
貴明苦笑い。

微妙な心境…

No.12 11/07/04 16:49
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【愛は偉大】


気を取り直して、貴明から会話を続ける。
「休みの日とか、何してんの❓」
「だいたい、ゴロゴロしてるか~、買い物行くか~、あっ‼ボーリング好き。ボーリングやった事ある❓」


吉本新喜劇なら、全員でコケる程のボケ。
店のフロアを見渡したが、誰もコケていなかった。

「そりゃあ、35年も生きてれば、ボーリング位やった事あるわ」
「えっ❓そうなの❓うちこっち来て、初めてやったんだよ、あっ、そう言えば、元彼が『おまえ、初めてなの⁉』って、驚いてた」

『…元彼』

普通、嫌な気になる一言だが、不思議と嫌な気にならなかった。
それどころか『この娘は、何でも思った事を口にする、素直な娘なんだなぁ~』
と、プラス思考の貴明は思った。


愛とは偉大だ…

No.13 11/07/04 18:47
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【赤外線】


貴明が携帯の時計を気にする。
今日は偵察のつもりで出て来たので、あまり持ち合わせがない。

「時間大丈夫❓」
「うちは大丈夫」
「おまえじゃないよ、俺が店に入ってからの時間だよ」

ボケなのか、天然なのかよく分からん…


時間はもう少し大丈夫らしい。

「あっ、そうだ‼」
と、突然、彼女が携帯を取り出し
「連絡先教えてよ」
貴明も携帯を取り出して、赤外線でプロフィールを交換する。

貴明が閃いたかのように
「登録、ベンツじゃおかしいだろう、なんて呼んだらいい」
「お客さんは、ベンちゃんとか、べーちゃんって呼んでるよ」

「本名教えてよ」

No.14 11/07/04 19:08
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【機能停止】


「うち、自分の名前あんまり好きじゃないんだよね~」
ごまかしてるのか、本当に嫌いなのか、良くわからん。
普段、貴明は仕事上、相手の仕草や目の動きなどを見て、相手の真意を考えながら営業している。
特に、相手の真意を洞察する能力は、かなりのものだった。
だから、社内ではトップクラスの売り上げを出していた訳だが…


残念ながら、この力は完全に封じ込められていた。
恐るべし、ドストライク

「綾部 彩乃」


脳みそが完全に機能停止していたが、かろうじて耳だけは機能していたらしい。

「俺と似てるじゃん、俺、高部 貴明」

「いや~‼『あやあや』と『たかたか』だ~」
と、無邪気に笑いながら言った。
時には鋭いんだなと貴明は感心した。

この彩乃の一言で、
『こいつバカではない』
と思ってしまう貴明。

完全に機能停止だ…

No.15 11/07/04 19:57
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【戦果】


店を出て、『関内』の駅から地下鉄に乗って『蒔田』まで帰る。

地下鉄に揺られながら、貴明は、彩乃の事を考えていた。

『あれは、営業なのか❓』

『しかし、かわいかった』

『顔がタイプなだけじゃない、背もちっちゃくて、なんか、ちょこちょこして、可愛かったなぁ』恋するおやじになっていた。

貴明も、身長が165㎝と小柄だが、その貴明の口元位の高さだから、150㎝有るか無いか位だろう。

ぼーと考えているうち、『蒔田』の駅についた。
何気なく携帯を開くと、『Eメール着信アリ』の表示

『たかたか、あやあやだよ😺
今日はめっちゃ楽しかった。

今、焼き鳥さんだよ

仕事明けの『レモンサワー』と『かしら』は最高😸

おやすみ』


『お前は、おやじか‼普通ハートとか、使うじゃねえの❓』と心の中でツッコむが、そんな飾らないメールがやけに嬉しかった。

『焼き鳥か。いいね~😃
そこの焼き鳥うまいの❓』

と、わざと返事が来るように返信。

『めっちゃ旨いよ😺
今度、一緒に来ようよ😸』

ちゅドーン💣

貴明、大爆発‼


一緒に❓
ん❓
同伴❓ん❓
プライベート❓ん❓
いろいろ考えてみるが、脳みそが、まるっきり役に立たない。

とりあえず
『是非😃』

と、つまらない返信
そして、貴明は自分の戦果に満足しつつ、眠りについた。

他人から見れば、キャバ嬢のただの営業。
普段なら、貴明は自分を見失わないのだが…


残念…

No.16 11/07/05 08:15
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【確認】


あれから、一週間が過ぎた。

貴明は、新しい営業所の立ち上げという事もあり、仕事に追われていた。
もともと、『メール』というものが苦手な貴明は、自分からは連絡は取らず、また、彩乃からも連絡は来なかった。

その日も、仕事を終え、23:00頃帰宅し、シャワーを浴び、ビールを飲みながら、テレビを見ていた。

ヴィ~ン、ヴィ~ン

マナーモードにしていた携帯が、テーブルの上で暴れた。

開いて見ると、彩乃からだった。

『飲みに行きましょう😺来週あたりどうですか❓』

「マジで⁉」
貴明は思わず声に出してしまった。
まさか、本当に誘いが来るなんて。
『いや、喜ぶのは早過ぎる。同伴の誘いかもしれん』
一週間経てば、貴明の脳みそも、機能を回復し、多少冷静だった。

『行く行く。
いつにする❓
でも、仕事終わってからだから、遅くなるよ』

と、探りを入れながらの返信。

『うちだって、0:00まで仕事だから、その後になっちゃうよ😺』

完全にプライベ~トの誘い。

貴明、再び機能停止…

No.17 11/07/05 13:28
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【大暴走】


『今からでもいいよ』と返信したい気持ちを抑えながら
『いつに、しよっか😊』
と返信。

『週末の方が楽でしょ😺』
『俺は、休みがあって無いようなものだから、いつでもいいよ😊そっちの休みの日は❓』
と、贅沢な事を言ってみる。

『いいの❓😺じゃあ、今度の月曜日にしよう😺』
貴明、大暴走‼
機能停止どころではない。

No.18 11/07/05 14:44
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【軌道修正】


来週の月曜日、20:00に関内駅の南口の改札で待ち合わせになった。

貴明も仕事を調整して、その日は、早めに仕事を切り上げられるようにした。
準備は万全。

貴明自身、こんな胸の高鳴りは久しぶり。

高校生1年生の時、初めて出来た彼女とのデートを思い出す。

仕事中も彩乃の顔を思い出す。

日が過ぎるのが、異常に永く感じた。

後4日、後3日、明後日

と、決戦の日が近づいて来る。

前日の日曜日の15:00頃、彩乃からメールが届いた。

『ヤバいよ。月曜日、あの焼き鳥屋さん、休みだって、他の日にする❓』

『アホかー‼違ーう』貴明は心で叫ぶ。

貴明は、焼き鳥屋でも、焼き肉でも何でもいいのだ、ただ、彩乃と会えれば、それでいいのに…
その時、貴明は少し不安になった。

『もしかしたら、彩乃は俺が焼き鳥が大好きで、それで、その焼き鳥屋に行きたがっているんだ』と思っているのでは…

不覚だった…

基本的に彩乃は『鈍い』娘だった事を忘れていた。

貴明、急遽、軌道修正に入る。

No.19 11/07/05 15:13
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【2時間】


『そっか。じゃあ焼き鳥屋さんは、次にして😊
違う店にしよう』

と、さり気なく❓『次もありますよね~』的な匂いをプンプンさせて返信。

『だって、焼き鳥食べたかったんでしょ❓
他の焼き鳥屋さん、知らないよ🙀』

二人の間には、かなりのズレが生じている事が判明。しかも、『次…』に至っては、無反応。
どうする貴明、とりあえず、会ってから軌道修正するか、早めに修正すべきか…


決断した。


今しかない。
そして、どんな反応が帰って来るのか…

『別に焼き鳥じゃなくてもいいよ、彩乃と会えれば、どこでもO.K😊』

これだけ、はっきり言えば、反応するだろう。
ただ、送信のボタンを押した後に、不安がよぎる。
もし、彩乃にその気がなければ、今度は自分が『叩き斬られる』からだ。

しかし、返信が来ない。
貴明は仕事中だったが、携帯が気になってしょうがない。

2時間経過…

No.20 11/07/05 15:28
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【ハート】


17:50にやっと返信が来た。

貴明は恐る恐るメールを開く

『いや~ん💕
うちもどこでもいいよ😸』

なっ‼なんですと‼
ハートが二つもピコピコ動いてますよー。

貴明は、彩乃の軌道修正という、非常に困難な任務を完遂し、満足気な笑みを浮かべた。

というよりも、ただ、だらしのないフニャフニャ状態になってしまった。
『場所は適当に決めとくから😃』
と、返信。

『O.K😺』
と、今度は直ぐに帰ってきた。


問題は、貴明は横浜に来てから、日が浅い為、店を全く知らなかった…

No.21 11/07/06 12:30
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【出陣】


いよいよ、決戦の月曜日。
貴明は、普段より少し早めに仕事を切り上げ、部屋に戻り、時計を見ると18:30だった。

シャワーを浴び、ホコリと汗を流し、ヒゲを剃った。

黒のボクサータイプのパンツを履き、ジーパンに白いTシャツ、後はスニーカーを履いてO.Kだ。

貴明は昔から、このスタイルを変えていない。

特に、ポリシーがある訳ではないが、どうも、流行りの服は照れ臭くて着れない。

実は高校生の時に、ファッションなるものに興味を持った事もあったが、その時付き合っていた彼女から、
「上と下、合ってないよ」
と言われ。

それ以来、ジーパンとTシャツという、貴明の中では、最も無難とされるコーディネート❓に、なってしまった。

まだ、時間に余裕はあったが、あまりのワクワクにお腹の下の方がこそばゆい感じになり、ジッとしていられず、部屋を出る事にした。


出陣である。

No.22 11/07/06 13:45
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【再会】


待ち合わせの時間より、20分位早く着いてしまった。

19:40の関内駅、平日という事もあってか、仕事帰りのスーツ姿の人が多いい。
既に、酔っ払っている人もいる。
金髪でギターを肩からさげている若者。

貴明は、行き交う人を観察して、楽しんでいた。
何気なく、目線を遠くに合わせる。

ただ、残念な事に、貴明は裸眼で0.1位しかない為、遠くはボヤケてよく見えない。

そんな中、ミニスカートを履いた女の子が、こっちに向かって、真っ直ぐ歩いてくる。

『あれか❓』

と、貴明は思ったが、顔がボヤケているので、確信がもてない。

すると、その女の子が、
大きく右手を上げて、

『わたしだよ』

と言わんばかりに、近づいて来る。

貴明は、照れくさそうに、右手を軽く上げた。

No.23 11/07/06 23:43
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【満足】


デニムのミニスカート、少し肩が出ているダボっとした白いブラウス、足元は黒いウェジソール。化粧は、仕事の時より薄め
「久しぶり」

と、言いながら彩乃が、貴明の顔をジッと見つめる。

「やっぱり、慎吾だ」

と、言いながらニコッと笑う。

『マジで、かわいい』
と、心で思う貴明。

「久しぶり。居酒屋でいい❓」
「どこでも、良いよ。って言うか、かわいいねとか、似合ってるねとかないの❓めっちゃ頑張ったんだけど」

「はっきり言っていい❓」
貴明が真剣じみた顔をする。
彩乃のも貴明を真似たかのような表情で
「いいよ」


「可愛すぎだな」
と、貴明はニコッと笑った。

彩乃も

「でしょう~わかる~。マジで頑張ったもん」

と、満足気。

No.24 11/07/07 08:48
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【放心状態】


まるで、雑誌の『POP TEEN』から飛び出して来たような彩乃。

貴明は、自然と緊張してしまう。

当然、そんな気配に彩乃が気づく訳もなく

「行こう」

と、元気に言いながら右手を差し出す。
貴明も

「おぅ」
と、左手を出し手を繋いだ。
その瞬間、頭に血が登り、鼓動が高鳴り、身体の中が熱くなるのを感じた。
勿論、貴明は今まで、女の子と手を繋いだ事位はある。
イケメンまではいかないが、それなりにイイ顔なので、学生の時も何人かに、告白されたり。
二十歳前後、ボーイズバーで働いていた事もあり、女性には慣れていた。
でも、この感覚…

小学校の時、運動会のフォークダンスで、好きな娘と手を繋いだ時のような感覚…


貴明、放心状態

No.25 11/07/07 10:34
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【指輪】


「ねぇ、気になる」
と言って、彩乃が繋いでいた手を持ち上げ、貴明の薬指を見ながら、小さい声で、少し寂しげに言った。

いままで、不倫は勿論、結婚する前も浮気すらした事がない貴明は、完全無防備でいた。

「あっ、ごめん」

と言って、慌てて指輪を外した。不思議と抵抗は無かった。

「やったー。これで、うちだけの物ね」

と言って、ギュッと手を握り、貴明の顔を下から見上げ、ニコッと笑い、
「行こうー」

と、貴明の手を握りながら、大きく振って、歩き出した。

No.26 11/07/07 16:32
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【COME BACK】


結局、普通の居酒屋に入った。
とりあえず、生ビールを2つ注文し、つまみのメニューを見ていた。

ビールが届く

彩乃が
「枝豆と、ホタルイカの塩辛、あっ、タカは焼き鳥が好きなんでしょう、焼き鳥は盛り合わせでいい❓」

『タカ⁉』
貴明はその言葉を聞き逃さなかった。
「ん❓あ~盛り合わせでいいよ」

「とりあえず」
と、店員さんにメニューを渡す彩乃。

貴明はジョッキを手にして、
「二人の再会に…」

「んっ、あ~」
と、ほぼ無反応にジョッキを持ち上げる彩乃。

貴明は『こいつ、本当によくわからん奴だなぁ~』と思いながら、乾杯。
「ねぇ。呼び方だけど、彩乃でいい❓」

「別になんでもいいけど、店ではベンちゃんだから、反応鈍いかもよ」
「いいよ、じゃあ彩乃って呼ぶ事にする。あっ、でも店では『ベンちゃん』って呼ぶから大丈夫」
「そりゃそうだよ、店で『彩乃~』なんて呼ばれたら、シカトだね」

『そっちかよ‼』
と貴明は思った。
貴明としては『もう店は来ないでよ』とか『店に来なくたって、外で逢えるじゃん』とかそっちを期待していたのに、普通の返答…

更に、

「店来るなら、早い時間の方がいいよ。空いてるし」
と、ビール片手にニコニコ頷きながら、少し得意気に『いい情報でしょ』位の勢いで言われた。

『WHAT⁉』貴明は、一度、彩乃の頭をカチ割り脳ミソの具合を見て見たくなった。先程の『うちだけのものね。ニコッ』は、何処へ旅立ってしまわれたのか…


『カ~ム バ~ク』
と、海岸で叫びたい気持ちだった…

No.27 11/07/07 19:54
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【犬】


頼んだつまみが運ばれて来る。

「オヤジみたいでしょ」と、彩乃がホタルイカを食べながら言った。
「なにが❓」
「つまみだよ」

確かに『オヤジ』だと貴明も思った。普通、サラダとか、チーズ系のような気もしないでもない。
「でも、めったに外さないんだよ」

と自信満々。

「そう言えば、彩乃っていくつ❓」
「23」
と、ぶっきらぼうに答える。
「23か~、犬❓」

「タカすごいじゃん、タカは❓」

「犬」

「マジ❓タメ❓」

『おーい、俺が23歳な訳ねぇーだろー』と叫びたくなったが、

「違うよ、35歳」
と呆れたように言う。
「35歳じゃ、駄目か❓」
「あっ、全然。この前の不倫相手、20コ上だったから、気にしないで」
と軽~く、にこやかに言われた。

『良かった。12コしか違わなくて』なんて思う訳もなく、とてつもなく、彩乃が大人に見えた。

「不倫してたんだ」
と、貴明は口にしてしまった。

「これだって、不倫でしょ❓あっ、まだやってないから、これからだ」

その時、初めて貴明は、自分が生まれ初めて、不倫している事に気付いた。
今まで、自分はそういう事には縁が無い、というより、考えた事も無ければ、願望すら無かった。そんな事よりも、彩乃が言った
『これからか』が、貴明の頭の中をグルグル回っていた。

No.28 11/07/08 10:52
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

突然ですが、【感想スレ】を作りました。

ご意見、ご感想、どんな事でも構いませんので、是非、宜しくお願いします。

No.29 11/07/08 13:14
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【俺も】


「なんで、別れちゃったの❓」
気になってしょうがない貴明は、つい聞いてしまった。

「あ~、相手が凄いマジになっちゃって、離婚するとか言い出してさ、こっちは、そんな気無かったから、すぐ別れた」

と、彩乃は笑いながら言った。
貴明も、彩乃に合わせるかのように、ニコッとしたが、複雑な心境だった。
『遊びで付き合うならいいけど、マジになるなよ』と、釘を刺されたような…、この彩乃にマジになってしまったその彼が、自分と重なって見えるような…

ただ、間違いなく、彩乃の事が、どんどん好きになっている事は確かだった。

No.30 11/07/14 16:25
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【バカ貴】

貴明は、2杯目はレモンサワーに梅干しを入れてもらった。彩乃は、まだビールが残っている。

「この梅干しを、潰しながら飲むのが、好きなんだよね~」
と言いながら、貴明は箸で梅干しを潰す。

「梅干し、うまそう。じゃあ~梅酒」
と彩乃。

梅干し→梅→梅酒。
確かに、梅で繋がってはいるが、なんか違うような気がした。

貴明は思わず、
「梅酒に梅干し入ってないよ」
と、言ってしまった。

なぜか、彩乃が大笑い
「たか、バカでしょ。梅酒に梅干しが入ってる訳ないじゃん。
あっ‼たかとバカ似てる」
と言って、更に、無邪気に大笑い。

普通なら、頭に来るところだが、彩乃の笑い方が、まるで、子供が笑っているかのように、素直で無邪気な笑い方だったので、頭に来るどころか、無性に可愛く見えてしまった。

『マジで、可愛い過ぎる』
と貴明は思った。

正に、『バカ貴』…

No.31 11/07/14 18:48
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【今度こそ❓】

「ねぇ、うちって可愛くないの❓」
と、突然彩乃が聞いて来た。

「なんで❓」

「全然、指名が増えないんだ」

貴明も、不思議に思った。
はっきり言って、彩乃は可愛い。
目はクリクリ二重、鼻筋が通っていて、唇はポテットした感じで温かみを感じる。
顔はめちゃめちゃ小さく、背も150㎝位で細身。
貴明目線ではあるが、ほとんどの男は、『可愛い』と感じるはずである。
のちのち、わかる事だが、今の貴明には、何故、指名が少ないのか疑問だった。

「わかった、彩乃が可愛いすぎるんじゃない❓」
と、冗談ぽく貴明が言った。

「たか、いい事いうね~」
と、彩乃は顔を少し、横に傾けながら、貴明の肩をポンと叩いた。

「でもさぁ~、指名取れないと、あんまり稼げないんだよね~」
と、悩んでいるようにも、見えた。

「彩乃は、なんで夜働いてるの❓」

「寮があるからだよ、でも、ある程度貯めたら、辞めるんだ~、もう、客とかマジうざい」

「辞めて、何するの❓」
「わからん、普通に事務でもやるよ、そして恋に落ち、今度こそ、素敵な結婚生活‼完璧‼」

と、彩乃は一人で話を完結させうなずきながら、梅酒を空けた。

一方、貴明の気持ちは、またまた複雑。ただ、

『今度こそ』

が気になっていた。

No.32 11/07/15 07:53
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【彩乃ペース】


「ねぇ、たかは、3ヶ月こっちに居るんでしょ❓」

「予定ではね」

そう、答えた瞬間、貴明は何とも言えない、淋しい気持ちになった。

「たかは、いつ休みなの❓」

「不定期だから、何曜日って、決まってないんだ」

「じゃぁ、休みが決まったら教えてよ。どっか遊び行こ」

「マジで⁉行く行く」

と、貴明は反射神経で言ってしまった。
『うん、いいよ』と、うなずく程度で返事をして、落ち着きのある、『大人の男』を演じたかったが、時既に遅し、気持ちをそのまま言葉に出してしまっていた。

「じゃあ、うちが、たかの休みに合わせてあげるよ」

「でも、平日になっちゃうよ」

「うちも、平日の方が休み易いから、それで良いよ」

「O.K‼彩乃はどっか行きたい所ある❓」

彩乃は、少し考えてから、

「象、見たい。うち、象大好き‼」

『象ですか…』と貴明は思ったが、

「上野動物園にする❓」

「もっと近場でないの❓上野は遠いいよ、なんか、面倒臭い」

『め、面倒臭いですか』と思ったが
「じゃぁ、どっか探しとく。出来るだけ近場で、象が居る所ね❓」

「うん‼」
と、嬉しそうな彩乃。

完全に彩乃ペース。

No.33 11/07/15 20:50
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【次】


彩乃が席を立つ

「しっこ」

「いってらっしゃ~い」
彩乃が席を外している間に、貴明は会計を済ませておいた。

彩乃が戻って来た。

「彩乃は、時間大丈夫❓」

「ぜ~んぜん」

「じゃぁ、次行こっか‼」

「行こー‼」と、彩乃は、右手のこぶしを突き上げた。

店を出て、タクシーに乗り込む。

貴明が彩乃に聞いた

「バーとか好き❓」

「あんまり、行かな~い」

「じゃぁ、夜景でも見ながら、うまい酒でも飲むか」

「夜景‼いいじゃん‼」
またまた、彩乃の無邪気な笑顔。
貴明は、この笑顔がたまらなく好きだった。

タクシーは、ホテルの正面口に着いた。

No.34 11/07/15 21:17
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【シリウス】

タクシーを降りて、貴明が歩き出すと、彩乃が後ろから手繋いで来た。
貴明が振り向くと、彩乃が

「へへっ」

と、微笑んだ。

二人は手を繋ぎながら、貴明が半歩前を歩き、彩乃が少し後ろから、『ちょこちょこ』と着いていく。
フロントを素通りし、フロントの奥にある、エレベーターに乗った。

貴明が最上階の『60』を押す。
エレベーターが動き出す。
なぜか二人は、タクシーを降りてから、一言も口を開いていなかった。

エレベーターが止まり、横浜で一番高い場所に位置するバー、『シリウス』に着いた。

No.35 11/07/15 23:52
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【入場】


『シリウス』はランドマークタワーの最上階にある、ラウンジ(バー)である。
貴明は、必死に調べ、『きっと、ここの夜景なら、彩乃も喜んでくれるはず』と思い、この場所を選んだ。

店内は、薄暗い照明で、生演奏のジャズが心地よく流れている。

二人は、窓際の夜景がよく見える席に案内された。

ついさっきまで居た居酒屋とは違い、落ち着いた、大人の空間だった。

No.36 11/07/16 07:14
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【オーダー】


「彩乃は、何にする❓」
「ねぇ、うちカクテルとか、よくわかんないんだけど」
と、小声で答えた。

「炭酸ぽいのと、フルーツっぽいジュースみたいのと、どっちがいい」

「フルーツ」

「ライチは好き❓」

笑顔で頷く彩乃。

ボーイが近づいて来て
「お決まりですか❓」

「ラフロイングをダブルのストレートで、それと、DITAをオレンジで割って下さい」

ボーイは小さく頷き、席から離れて行った。

No.37 11/07/16 07:54
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【チュッ】


「ねぇねぇ」
と、小声で言いながら、彩乃が顔を近づけて来た。
多分、今までで一番近い距離。
普通なら、「ん❓」と言って耳を傾けるところだが、貴明は思わず、彩乃の唇に『チュッ』としてしまった。

彩乃は、目を見開き、貴明をキョトンとした目で見つめ、『なんだ❓』という顔をしている。
貴明は、『ヤベ、やっちまった‼早まった』と思った。

が、次の瞬間…

彩乃が、『ふにゃ』となって

「いや~ん」

貴明は、そんな彩乃を見て、腰が砕けそうになった。

「違うよ、夜景が凄いね」
と、彩乃が小声で言った。

どうも、タクシーを降りてから、彩乃の様子がおかしい。
『借りてきた猫』のようだった。

「彩乃、普通の大きさで喋って大丈夫だよ」
と貴明が言った直後、大きな笑い声が、他の席から聞こえた。

彩乃が、笑い声がした方向見て、振り返った時、
「ハハハー」
と、元の彩乃に戻いた。

「うちさぁ、こういう所来るの初めてなんだよね~。なんか、どうしていいか、わかんなくてさぁ。たか、大人じゃん」

「嫌だった❓」

彩乃は首を横に振って、
「最高‼、なんか、いい感じ」


貴明は、ホッとした。

No.38 11/07/17 21:04
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【カクテル】


ボーイが飲み物を持って来て、テーブルにそっと置く。
彩乃の前に置かれた細長いグラスの中は、オレンジ色で、多分、底にブルーキュラソを沈め、バースプーンで、軽く煽ったのであろう、グラスの底の方から、かすかに青い色がオレンジ色へとグラデーションしている。

彩乃のは、グラスをテーブルに置いたまま、グラスを下の方から覗き込むように顔を近づけた。

貴明が
「どうした❓」
と聞くと、彩乃は顔を上げ、貴明を見ながら『ニッ』と笑い、

「マジ綺麗だね、これ旨いの❓」

貴明は『ニコッ』と微笑んで

「乾杯」

と言ってグラスを軽く持ち上げた。
彩乃も、貴明の真似をして、グラスをちょっとだけ持ち上げ

「乾杯」

と言って、グラスに口を付けた。

「これ旨‼ジュースみたい。たかのは何❓」

「これはウイスキーだよ」

「旨いの❓」

「ん~ちょっとクセがあるけど、俺は好き。飲んでみる❓あっ、でもお子ちゃまには無理かな」
と、少し意地悪そうに貴明が言うと、

「馬鹿にしてる❓見た目はロリでも、中身は大人だ‼貸してみ」
と、言って彩乃は貴明のグラスに口を付けた。
次の瞬間、彩乃が舌を出し、泣きそうな顔になった
「なんじゃこりゃ~酒~ていう酒だ。彩乃には無理。こっちの方が全然旨い」

と、何かに納得したようなそぶりで、自分のグラスを半分空けた。

No.39 11/07/18 08:04
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【…】


彩乃が両腕のひじをテーブルの上に乗せ、その手の平の上にあごを乗せながら、夜景を眺めている。

「不思議。何か落ち着く」
と、彩乃がつぶやくように言った。

「これで隣が、福山 雅治なぁ~」
と、上目使いで、貴明を見る。

貴明は苦笑しながら
「悪かったなぁ、柳沢慎吾で」

「心配すんな‼福山雅治は、めちゃくちゃ格好いいと思うけど、うちのタイプじゃないんだよね~
だって、格好良すぎて緊張しちゃうでしょう❓
やっぱり慎吾ちゃんだね‼
だから、ほら」
と言って、貴明を指差した。

「どうも」
と複雑な心境で、貴明はペコリと頭を下げた。

「じゃあ、もし福山雅治と柳沢慎吾が目の前に居て、二人から告白されたら、どっち選ぶ❓」

「悩む~」

「…」

No.40 11/07/19 18:04
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【エットン】


2杯目、貴明は『マッカラン 25年』、彩乃はオリジナルの『シリウス』を頼んだ。

彩乃も、場の雰囲気に慣れたらしく、あの無邪気な笑顔が出始めた。

「ねぇ、たか…
また、連れて来てね」

「姫がご希望とあれば、いつでも、お連れしますよ」

「やったー‼約束ね。
絶対だからね」

と、彩乃が右手の小指を立てる。

「約束、彩乃こそ、約束破るなよ」

と言って、二人は指切りをした。

「そろそろ、行こっか」
と、貴明が言うと、

「もう少し居たいけど、たか明日仕事でしょ❓」
「俺は大丈夫だけど、彩乃は❓」

「うちは、全然大丈夫‼」

「彩乃、早起き出来る❓」

「うち、朝はめちゃくちゃ強いよ‼
ん❓おまえ『エットン』だろー」
と、彩乃が貴明を指差しながら、言った。
「エットン❓」

「たか、『エットン』知らないの❓」

「何かに出てくる怪獣❓」

「違うよ、エッチな怪獣、だから『エットン』」
「何に出てくるの❓」

「うちが命名してやった」
彩乃が自慢気に言った。
「知るか‼」

「今日から、たかは『エットン』ね」

と、彩乃は貴明に微笑みかけた。


『エットン』誕生

No.41 11/07/19 18:31
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【ハマった】


二人は店を出て、エレベーターに乗った。
彩乃が置くに入り、貴明はドアの前。

「エ~ットン」

「ん❓」

貴明が振り向くと、彩乃が貴明の首に両腕を回し、貴明にしがみつくようにキスをした。

貴明は、固まった。

彩乃が、「へへ、頂き」と微笑む。

「ヤバいな、彩乃にハマりそう」

彩乃がニコッと微笑み、小さい声で

「ハマれ、ハマれ」

と、上目使いで言った。


エレベーターのドアが開き、二人は、彩乃が貴明の腕にしがみつくよう格好で、フロントを素通りし、タクシー乗り場に向かった。

No.42 11/07/19 19:10
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【ん❓】


二人はタクシーに乗り込んだ。
ここで、貴明は痛恨のミスに気付く。
土地勘がなく、どこにホテルがあるのか、どこのホテルがきれいなのか、全くわからない。
仕方がなく、貴明は運転手さんに、少し照れながら

「どっか、綺麗なホテルあります❓」

と言った。

すると彩乃が

「『モーション』が綺麗だよ」

と、普通に言った。
『ん❓』
またまた、複雑な貴明。
『なぜ、知ってるの❓』『誰と行ったの❓』脳裏を駆け巡る。

彩乃は、全く悪びる様子もない。
そんな彩乃を見て、スーパープラス思考の貴明は
『こいつ、嘘とか隠し事とか、出来ないそのまんまの娘だ』
と、思ってしまった。


「じゃあ、モーションに行って下さい」

No.43 11/07/20 16:16
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【アジアンリゾート】


フロントの横にあるパネルで、部屋を選ぶ。
部屋のボタンを押すと、パネルの右側から、カードキーが出て来た。
貴明が、カードキーを持って、二人はエレベーターに乗った。

二人が選んだ部屋は501号室。

エレベーターが止まり、ドアが開く。

『501→』と壁に書いてあり、矢印の方向に進むと、一番奥の『501』が、点滅していた。

ドアノブの下に、カードキーを差し込むと、『カチッ』とロックが外れる音がした。

それまで黙っていた彩乃が、

「なんか、ワクワクしない❓」

「する」

と、言いながら貴明がドアを空けた。

二人は靴を脱ぎ、もう一つ中にあるドアを開けた。

二人同時に、「わぁ~」と、言ってしまった。
部屋の中は、アジアンリゾートのように飾り付けてあり、貴明が知るラブホテルとは、かけ離れていた。

「すんげぇな、最近のラブホテルは」

彩乃がベッドに向かって走り、ピョ~ンとベッドの上に正座をするようにのり、そのまま後ろにバタッと倒れた。

『パンツ見えてますけど…』
と、貴明が思っていると、

「たか~。ゴロンとしてみ~。気持ちいいぞ」

貴明も、彩乃の横に仰向けで倒れ込んだ。

ベッドが揺れ、彩乃の小さい体も、少し上下に揺れた。

「ハハ、面白~い」
彩乃の、あの無邪気な笑い方。

「ねぇ、たか、一緒にお風呂でアワアワしよ‼」
「いいね~」

「じゃ~んけ~ん、ポン」

言い出しっぺの彩乃が負けた。

「しょうがないなぁ~」
と、ポーンとベッドを降りて、バスルームに向かった。

No.44 11/07/20 16:32
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【ロリコン】


「わぁー‼たか来てみ‼風呂すげぇよ‼」

貴明が、バスルームを覗くと、確かに凄い。
浴槽は、白く丸に近い形をしていて、3~4人は入れそうな位だった。


貴明が、服を脱いでいると、
「ねぇ、たか」

彩乃がベッドの上で、女の子座りをしながら、

「はい」

と、言ってバンザイをした。

貴明は、彩乃の服をぬがして、ブラを外そうとすると、

「ちょっと、暗くしない❓」

貴明が、ベッドの枕元にあるパネルで、部屋を薄暗くした。

「この位じゃないと、恥ずかしいよ」

貴明が、ブラを外すと、彩乃が

「残念なおっぱい登場~ははは~」

と、笑った。

「やったー。当たり‼俺、微乳大好き‼」

「おまえは、ロリコンか⁉」

と、彩乃が笑う。

二人は、バスルームに向かった。

No.45 11/07/20 16:43
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【アワアワ】


彩乃が貴明の頭を洗い、お互いに体を洗いっこして、アワアワに入る。

貴明が浴槽に寄りかかり、その貴明に彩乃が寄りかかる。

彩乃がクルッと振り返り、貴明の上にまたがるように乗り、貴明の首に両腕を回し、ジッと貴明の目を見つめる。

貴明は体を起こし、キスをした。

彩乃が

「のぼせちゃうよ、出よ」

二人ベッドに向かった。

No.46 11/07/20 16:57
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【合体】


貴明が先にベッドに入る。
彩乃が、バスローブを着たまま、ベッドに入って来る。
彩乃が上半身だけ、貴明の上に乗せながら、
「たか、筋肉すごいね。腕と胸なんか、マッチョみたい」

「学生の頃、柔道やってたから…でも、腹はポニョポニョだよ」

「どれ‼」

彩乃が貴明の腹を突っついた。

「はは、本当だ。ポニョポニョだ。でも、うちポニョポニョ好き」


貴明、我慢の限界…


「いやん💕」


合体

No.47 11/07/20 17:47
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【バツイチ】


貴明の腕枕で、彩乃が貴明の胸に顔をうずめていた。

「ねぇ~」

と、言いながら、彩乃は、クルッと体を回し、腹這いの姿勢で肘をつき、手のひらの上にあごを乗せた姿勢になった。

「嫁と別れれば」

「へっ❓」

確か、先程聞いた話では、不倫相手がマジになったから、別れたと言っていたのに…

「別れて、うちと結婚しよ‼たかが、別れたら速攻なのに…」

実際、貴明の離婚は、時間の問題だった。
ただ、正式に決まった訳でもないので、貴明は言えなかった。

「たか、手見せて」

貴明は、右手を彩乃に差し出した。

「どれどれ」

「あっ、やっぱり、うちと一緒。結婚線が2本出てる。しかも、かなりぶっとい」

と言って、彩乃が自分の結婚線を見せた。

「ねっ‼一緒でしょ‼うちは、既にバツイチ、たかも、これからバツイチ。やったー」

普通はどう思うのだろうか、『ヤバイ』とか『危険』とか思うのだろうか。ただ、この時、貴明は、本当に嬉しかった。
彩乃は、今思っている事を、そのまま口に出してしまう。
そんな彩乃が、とても愛おしく思えた。


それと、貴明は、この時、初めて彩乃がバツイチと知った。

No.48 11/07/20 18:01
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【事実】


「彩乃の結婚してたんだ」

「言ってなかったけ❓うちバツイチだよ」

「聞いてもいいの❓」

「何でも聞いて、たかには、全部答えてあげる」

「いくつの時❓」

「18。出来ちゃった婚」
「何で別れちゃったの❓」

「…マザコンでさぁ。最後なんて、向こうの母親が出てきて、子供持ってっちゃった。うちは、親の反対押し切って結婚しちゃったからさ…て言うか、うちの親は、兄ちゃんだけ居ればいいんだよ。
もう何年も家帰ってないし、親父もその方が都合がいいんじゃない…」

彩乃は、ニコッと笑った。

貴明は、その事についてそれ以上聞けなかった。
ただ、『親父』の事が気になっていた。

「次は❓」

と、彩乃が聞いてくる。

No.49 11/07/20 18:26
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【結婚】


「たか、なんで結婚したの❓恋愛❓やっぱり出来ちゃった❓」

「恋愛ではないなぁ~。出来てもいない」

「じゃあなんで❓策略結婚とか❓」

「策略⁉そんな身分じゃないよ。ただ、なんとなく、結婚してみたくてさぁ~。今は後悔してる」

「うちに会ったから❓」
嬉しそうに、彩乃は自分を指差した。

貴明は、少し照れながら2回うなずいた。

「かなり、後悔してる。まさか、俺自身、本気で惚れるなんて、無いと思ってた」

貴明は、モテなかった訳ではない。
どちらかと言えば、モテる部類に入る。

ただ、仕事…と言うより金を稼ぐ事に夢中だった。常に女より仕事を取って来た。
いつの頃からか、『付き合う』という事が面倒臭くなっていた。
ただ、30を過ぎた頃から、家庭という物に憧れ始め、その時、目の前に居た娘と結婚してしまった。それだけだった。

「誰でも良かったんだ。一人暮らしが永かったから、寂しかったんだよね」

「ふ~ん。結婚っていろいろあるんだね」

No.50 11/07/21 07:06
愛戦士 ( 30代 ♂ d27Hh )

【】


「たかは、いつまで横浜に居るの❓」

「6月いっぱい」

「そっかぁ~。じゃぁ、それまで、いっぱい思い出作ろうね」

と言って、貴明にキスをした。

「あ~気持ちいい。たかの唇、柔らかくてプニュプニュ」

彩乃が貴明の胸に、顔をうずめた。

「落ち着く」

貴明は『幸せ』というものを感じ、『彩乃を離したくない』と思っていた。

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