ツンデレ女 彩乃
高部 貴明 35歳が、3ヶ月間の出張中、自称 ツンデレ女 綾部 彩乃 23歳 と出会い、恋に落ちていく物語。
ただ、この彩乃
自分では、「うち、ツンデレ」
というが…
少し?いや…かなり天然。
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「あっち~」
貴明は、暑さにめっぽう弱い。
寝る時など、クーラーの設定温度を、『16℃、風量 MAX』にして寝ている。
当然、寒くなるから、布団にくるまる。
なんとも、燃費の悪い男だ。
貴明の仕事は、外まわりの営業。営業とは言っても、一日3~4件、顧客に顔を出して、注文聞くだけの、御用聞き程度の仕事だ。
今は、全くやる気がない、ダメダメ営業マンだが、これでも少し前までは、会社の中で常にトップ争いを繰り広げていたのだから、信じられない。
当然、年収だって、以前は1000万位稼いでいたのに、今では、300万そこそこ。
物欲も無く、夢も無く、ただ、なんとなく生活している。
貴明は、取引先の中でも、中川商事が好きだった。
別に、かわいい子いる訳でも、注文をたくさん貰える訳ではない。
行く途中の公園が好きだった。
その公園のベンチには、屋根が付いていて、真夏の休憩場所には、もってこいだった。
いつも通り、ベンチに座って、20年以上吸い続けている、セブンスターに火をつけ、缶コーヒーを飲みながら、ボーとしていると、一人の男の子が近づいて来た。
目はクリクリ二重、髪の毛は真っ黒で、横と後ろを刈り上げ、全体的に短めに苅っている。
「いい顔してるなぁ」
と、貴明は心で思った。
「僕、いい顔してるなぁ、いくつ」
男の子は、右手で4本の指を立てながら、貴明の方に向けた。
「名前は?」
「っかき」
柿?貴明はもう一度聞いてみた。
「柿君っていうの?」
男の子は、小さくため息をついて
「た、か、あ、き」
と、言った。
【5年前】
「たかさーん、有馬部長が呼んでるよー」
事務員の佐藤さん、明るくて、会社の雰囲気を、いつも明るくしてくれる存在。
「何だって?」
貴明が、少し嫌そうに聞く。
「また、どっか手伝って来いって言うんじゃないの~」
何故か、苦笑いを浮かべている。
貴明が勤めている会社は、主張が時々ある。
家のリフォームの会社で、業界でも、そこそこ名が通っている。
貴明は、毎月トップクラスの数字を作っていた為、新しい営業所の立ち上げの時には、呼ばれる事が多かった。
「有馬さん、なんですぅ?」
有馬が貴明を見るなり、まんべんの笑みを浮かべながら、近寄り、貴明の肩を抱きながら
「おう、今度はいいぞー。横浜だ‼。仕事だけじゃない、遊ぶ所もいっぱいあるからなぁー」
有馬はかなり盛り上がっている
「まだ、返事してないけど…」
と、貴明は心で思っていた。
「昼間はザキ、夜は野毛、関内も熱いぞ~。俺が若った頃は、よくザキブラしたもんだ」
「ザキブラですか…」
貴明が、思わずポロッと言うと。
「ザキブラも知らんのか。ザキってのは、伊勢佐木町の事でな…」
「それで、いつからです?」
貴明は、有馬の話が止まりそうもないので、さえぎるように言った。
「おう、明日からだ。心配すんな、泊まる所も用意してあるから、着替えだけ持っていけば、大丈夫だぞ。おっ、どんだけ遊んでも、立ち上げだからな、数字はキチッといつものように、頼むぞ‼」
いつもの事だが、なぜか今回は、あまり悪い気はしなかった。
【横浜】
貴明は『騙された』、と思った。
3ヶ月泊まる所は、蒔田という駅から、20分位歩いた所にあるワンルームマンション。
繁華街まで歩いたら、1時間は掛かりそうな山の中。
仕事よりも、夜を楽しみたかった貴明は、愕然とした。
「ここで3ヶ月間、何しろって言うんだよ」
我慢出来たのは、3日間だけ、
「せっかく、目と鼻の先に楽園があるのに、電車で行ったろ」
誰も居ないが、決心する時は声に出した方がいい。
【出会い】
「いらっしゃいませ」
ボーイに案内され、席に着く。
システムを聞き、飲み物を待つ。
貴明は、酒も女も大好きだが、女の子にハマる事はなかった。
心のどこかで
「どうせ営業だろ」
と思っているが、女好きな貴明は、ついつい来てしまう。
稼いだ金は、ほとんど飲みと風俗に消えていく。
この店は名前に惹かれた。
『乗りに来て~❤』
看板を見た時、一人で吹き出した。
なんとう、センスのなさ。
これで、エロさを出しているつもりなのか、店名が『乗りに来て~❤』って、おかしいだろう。
と思ったが、気になって入ってしまった。
店内は、非常に落ち着いた雰囲気で、『大人の空間』という感じ。
客層も比較的高めで、悪くない。
最近のギャバクラは、ろくに話もせず、カラオケに頼る嬢が多いいが、そのカラオケも無い様子。でも、『乗りに来て~❤』
よくわからん店だが、貴明は、気に入っていた。
【出会い 2】
貴明は、この女の子を待っている時間が好きだった。
想像と妄想が頭の中で手を繋ぎながら、スキップしている。
小柄な子が近づいて来た。
貴明のテーブルの前で止まり、
「いらっしゃいませ。ベンツで~す」
貴明は吹き出しそうになった。
わかった。
女の子の源氏名が車の名前、そして、『乗りに来て~❤』…
ここのオーナーは、間違いなく、センスがない…
【スットラ~イク】
貴明は固まった。
いや、あまりのドストライクに驚いた。
「可愛すぎて、固まってる?」
ベンツが意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。
貴明は思わず、
「はい」
と言って頷いてしまった。
目はクリクリ二重、唇はちょっと厚めでぽってりしてる。
顔はめちゃくちゃ小顔。
背も、150㎝位。
全てが貴明の好みだった。
【似非(えせ)】
「なんでベンツにしたの?」
貴明は、彼女を見て、どうしても『ベンツ?』とう感じだった。
『ベンツ』というよりも、『ミラ』とかのように、軽の方が合っていると思ったからだ。
「はぁ~?お前アホか~。車だったらベンツやろ。それに、うち、ベンツしか知らんし」
彼女は、笑いながら答えた。
客に向かって「お前…」、凄すぎる接客だ。
しかも「あほ」…
でも、貴明は彼女のドストライクぶりに腹も立たず、それどころか、自分の事を『うち』と言った事に惹かれしまった。
男は京都弁に弱い。
余談だが、貴明の姪っ子(中3)も、自分の事をうちと言うが、これは、学校で流行っているだけの似非京都弁だ。
「京都出身なの?」
貴明は期待に胸を膨らませ、聞いた。
「東京」
こいつも、『似非』だった…
【人間は顔】
「今、仕事帰りですか?」
こいつ、敬語使えるじゃねえかと思いながら、貴明は答えた。
「まぁね」
彼女が難しい顔をして
「なんて呼んだらいいの?」
「タカでいいよ」
「タカか…年上でしょ、タカさんにしといてあげる、それとも、タカ君?いや~あんた君じゃないね、タカさんにしよう」
『あんた…』
また戻ったと、思った。会って5分足らずなのに、まるで、昔から知っているかのように、『くんじゃないね…』と、決めつけられた。
『人間は顔じゃない…』と、よく聞く言葉だが、あれは嘘だ、ドストライクには、何を言われても、腹が立たない。
腹が立つどころか、全てが可愛く感じてしまう。
人間は顔だった…
【しんご】
「ところでさぁ~。しんごに似てるってさぁ~言われない?」
「しんご?SMAPの?」
「おまえ、やっぱりアホだな、『しんご』っつったら柳沢 慎吾に決まってるじゃん」
また、戻ってる、「俺はタカさんじゃないの?」と貴明は思った。
それに、しんご=柳沢 慎吾…この感覚も微妙。
「今まで、柳沢 慎吾に似てるなんて、言われた事ないぞ。それに、俺あんなに歯でてないし」
「違うよ、鼻から上がそっくり」
と、右手で貴明の口を隠しながら、言った。
貴明は微妙な気分、
「柳沢 慎吾って、あの歯が特徴なんじゃないの…それに、カッコ良くはないような…」
そんな事を思っていた。
ただ、彼女は大喜び。
「うち、めっちゃタイプやねん。今日はいい事あるかも~」
また、似非京都弁。
それに、『今日はいい事あるかも~』って、俺との出会いは?
でも、タイプらしい。
複雑な一言だか、貴明の頭の中で、
『めっちゃタイプやねん』が、こだまし続けていた。
【指輪】
「ん、嫁がいるんだ」
貴明の左手の薬指を見ながら、彼女が言った。
そして、口を『アヒル口』にしながら、顎を引き、上目づかいで
「ぶ~」と、少しすねたような素振りを見せた。
『ドッカーン‼』
タイプじゃない女の子に、この仕草をされると、殺意すら芽生える事もあるが、ドストライクにやられては、ひとたまりもない。
『キュン』どころの騒ぎでは収まらず、まさに『ドッカーン‼』が相応しい。
貴明も、営業とはわかっていても、正直、かなり嬉しかった。
が、
間髪いれず、あっけらかんと、彼女が言った
「まっ、どっちでもいいんだけど」
…😢
貴明、撃沈…
【微妙】
「今日は仕事帰り❓」
「ん、そう」
「どこに住んでんの❓」
「今、出張で、3ヶ月だけ横浜に居るんだ」
すると、彼女が少し驚いた表情で
「マジ❓じゃあ、今は嫁いないじゃん。だったら3ヶ月間だけ、遊ぼうよ」
「いいね~」
普段、飲み慣れていた貴明は、『また営業か…』と思っていたが、もはや関係ない。
どうせどっかで、金を使うんだったら、お気に入りがいる店の方がいいに決まってる。
しらばっくれて、貴明は聞いてみた
「彼氏いくつ❓」
「それがさぁ、先月別れたばっかでさぁ。まぁ、不倫だったから、いいんだけど、やばかったよ、嫁と別れるなんて言いだしたからさぁ、叩っ切った、危なかったよ、こっちは、そんなマジじゃなかったから。ギリギリセーフ」
と、野球の審判の『セーフ』の真似をしながら言った。
「叩き切っちゃったんだ…」
貴明苦笑い。
微妙な心境…
【愛は偉大】
気を取り直して、貴明から会話を続ける。
「休みの日とか、何してんの❓」
「だいたい、ゴロゴロしてるか~、買い物行くか~、あっ‼ボーリング好き。ボーリングやった事ある❓」
吉本新喜劇なら、全員でコケる程のボケ。
店のフロアを見渡したが、誰もコケていなかった。
「そりゃあ、35年も生きてれば、ボーリング位やった事あるわ」
「えっ❓そうなの❓うちこっち来て、初めてやったんだよ、あっ、そう言えば、元彼が『おまえ、初めてなの⁉』って、驚いてた」
『…元彼』
普通、嫌な気になる一言だが、不思議と嫌な気にならなかった。
それどころか『この娘は、何でも思った事を口にする、素直な娘なんだなぁ~』
と、プラス思考の貴明は思った。
愛とは偉大だ…
【赤外線】
貴明が携帯の時計を気にする。
今日は偵察のつもりで出て来たので、あまり持ち合わせがない。
「時間大丈夫❓」
「うちは大丈夫」
「おまえじゃないよ、俺が店に入ってからの時間だよ」
ボケなのか、天然なのかよく分からん…
時間はもう少し大丈夫らしい。
「あっ、そうだ‼」
と、突然、彼女が携帯を取り出し
「連絡先教えてよ」
貴明も携帯を取り出して、赤外線でプロフィールを交換する。
貴明が閃いたかのように
「登録、ベンツじゃおかしいだろう、なんて呼んだらいい」
「お客さんは、ベンちゃんとか、べーちゃんって呼んでるよ」
「本名教えてよ」
【機能停止】
「うち、自分の名前あんまり好きじゃないんだよね~」
ごまかしてるのか、本当に嫌いなのか、良くわからん。
普段、貴明は仕事上、相手の仕草や目の動きなどを見て、相手の真意を考えながら営業している。
特に、相手の真意を洞察する能力は、かなりのものだった。
だから、社内ではトップクラスの売り上げを出していた訳だが…
残念ながら、この力は完全に封じ込められていた。
恐るべし、ドストライク
「綾部 彩乃」
脳みそが完全に機能停止していたが、かろうじて耳だけは機能していたらしい。
「俺と似てるじゃん、俺、高部 貴明」
「いや~‼『あやあや』と『たかたか』だ~」
と、無邪気に笑いながら言った。
時には鋭いんだなと貴明は感心した。
この彩乃の一言で、
『こいつバカではない』
と思ってしまう貴明。
完全に機能停止だ…
【戦果】
店を出て、『関内』の駅から地下鉄に乗って『蒔田』まで帰る。
地下鉄に揺られながら、貴明は、彩乃の事を考えていた。
『あれは、営業なのか❓』
『しかし、かわいかった』
『顔がタイプなだけじゃない、背もちっちゃくて、なんか、ちょこちょこして、可愛かったなぁ』恋するおやじになっていた。
貴明も、身長が165㎝と小柄だが、その貴明の口元位の高さだから、150㎝有るか無いか位だろう。
ぼーと考えているうち、『蒔田』の駅についた。
何気なく携帯を開くと、『Eメール着信アリ』の表示
『たかたか、あやあやだよ😺
今日はめっちゃ楽しかった。
今、焼き鳥さんだよ
仕事明けの『レモンサワー』と『かしら』は最高😸
おやすみ』
『お前は、おやじか‼普通ハートとか、使うじゃねえの❓』と心の中でツッコむが、そんな飾らないメールがやけに嬉しかった。
『焼き鳥か。いいね~😃
そこの焼き鳥うまいの❓』
と、わざと返事が来るように返信。
『めっちゃ旨いよ😺
今度、一緒に来ようよ😸』
ちゅドーン💣
貴明、大爆発‼
一緒に❓
ん❓
同伴❓ん❓
プライベート❓ん❓
いろいろ考えてみるが、脳みそが、まるっきり役に立たない。
とりあえず
『是非😃』
と、つまらない返信
そして、貴明は自分の戦果に満足しつつ、眠りについた。
他人から見れば、キャバ嬢のただの営業。
普段なら、貴明は自分を見失わないのだが…
残念…
【確認】
あれから、一週間が過ぎた。
貴明は、新しい営業所の立ち上げという事もあり、仕事に追われていた。
もともと、『メール』というものが苦手な貴明は、自分からは連絡は取らず、また、彩乃からも連絡は来なかった。
その日も、仕事を終え、23:00頃帰宅し、シャワーを浴び、ビールを飲みながら、テレビを見ていた。
ヴィ~ン、ヴィ~ン
マナーモードにしていた携帯が、テーブルの上で暴れた。
開いて見ると、彩乃からだった。
『飲みに行きましょう😺来週あたりどうですか❓』
「マジで⁉」
貴明は思わず声に出してしまった。
まさか、本当に誘いが来るなんて。
『いや、喜ぶのは早過ぎる。同伴の誘いかもしれん』
一週間経てば、貴明の脳みそも、機能を回復し、多少冷静だった。
『行く行く。
いつにする❓
でも、仕事終わってからだから、遅くなるよ』
と、探りを入れながらの返信。
『うちだって、0:00まで仕事だから、その後になっちゃうよ😺』
完全にプライベ~トの誘い。
貴明、再び機能停止…
【大暴走】
『今からでもいいよ』と返信したい気持ちを抑えながら
『いつに、しよっか😊』
と返信。
『週末の方が楽でしょ😺』
『俺は、休みがあって無いようなものだから、いつでもいいよ😊そっちの休みの日は❓』
と、贅沢な事を言ってみる。
『いいの❓😺じゃあ、今度の月曜日にしよう😺』
貴明、大暴走‼
機能停止どころではない。
【軌道修正】
来週の月曜日、20:00に関内駅の南口の改札で待ち合わせになった。
貴明も仕事を調整して、その日は、早めに仕事を切り上げられるようにした。
準備は万全。
貴明自身、こんな胸の高鳴りは久しぶり。
高校生1年生の時、初めて出来た彼女とのデートを思い出す。
仕事中も彩乃の顔を思い出す。
日が過ぎるのが、異常に永く感じた。
後4日、後3日、明後日
と、決戦の日が近づいて来る。
前日の日曜日の15:00頃、彩乃からメールが届いた。
『ヤバいよ。月曜日、あの焼き鳥屋さん、休みだって、他の日にする❓』
『アホかー‼違ーう』貴明は心で叫ぶ。
貴明は、焼き鳥屋でも、焼き肉でも何でもいいのだ、ただ、彩乃と会えれば、それでいいのに…
その時、貴明は少し不安になった。
『もしかしたら、彩乃は俺が焼き鳥が大好きで、それで、その焼き鳥屋に行きたがっているんだ』と思っているのでは…
不覚だった…
基本的に彩乃は『鈍い』娘だった事を忘れていた。
貴明、急遽、軌道修正に入る。
【2時間】
『そっか。じゃあ焼き鳥屋さんは、次にして😊
違う店にしよう』
と、さり気なく❓『次もありますよね~』的な匂いをプンプンさせて返信。
『だって、焼き鳥食べたかったんでしょ❓
他の焼き鳥屋さん、知らないよ🙀』
二人の間には、かなりのズレが生じている事が判明。しかも、『次…』に至っては、無反応。
どうする貴明、とりあえず、会ってから軌道修正するか、早めに修正すべきか…
決断した。
今しかない。
そして、どんな反応が帰って来るのか…
『別に焼き鳥じゃなくてもいいよ、彩乃と会えれば、どこでもO.K😊』
これだけ、はっきり言えば、反応するだろう。
ただ、送信のボタンを押した後に、不安がよぎる。
もし、彩乃にその気がなければ、今度は自分が『叩き斬られる』からだ。
しかし、返信が来ない。
貴明は仕事中だったが、携帯が気になってしょうがない。
2時間経過…
【ハート】
17:50にやっと返信が来た。
貴明は恐る恐るメールを開く
『いや~ん💕
うちもどこでもいいよ😸』
なっ‼なんですと‼
ハートが二つもピコピコ動いてますよー。
貴明は、彩乃の軌道修正という、非常に困難な任務を完遂し、満足気な笑みを浮かべた。
というよりも、ただ、だらしのないフニャフニャ状態になってしまった。
『場所は適当に決めとくから😃』
と、返信。
『O.K😺』
と、今度は直ぐに帰ってきた。
問題は、貴明は横浜に来てから、日が浅い為、店を全く知らなかった…
【出陣】
いよいよ、決戦の月曜日。
貴明は、普段より少し早めに仕事を切り上げ、部屋に戻り、時計を見ると18:30だった。
シャワーを浴び、ホコリと汗を流し、ヒゲを剃った。
黒のボクサータイプのパンツを履き、ジーパンに白いTシャツ、後はスニーカーを履いてO.Kだ。
貴明は昔から、このスタイルを変えていない。
特に、ポリシーがある訳ではないが、どうも、流行りの服は照れ臭くて着れない。
実は高校生の時に、ファッションなるものに興味を持った事もあったが、その時付き合っていた彼女から、
「上と下、合ってないよ」
と言われ。
それ以来、ジーパンとTシャツという、貴明の中では、最も無難とされるコーディネート❓に、なってしまった。
まだ、時間に余裕はあったが、あまりのワクワクにお腹の下の方がこそばゆい感じになり、ジッとしていられず、部屋を出る事にした。
出陣である。
【再会】
待ち合わせの時間より、20分位早く着いてしまった。
19:40の関内駅、平日という事もあってか、仕事帰りのスーツ姿の人が多いい。
既に、酔っ払っている人もいる。
金髪でギターを肩からさげている若者。
貴明は、行き交う人を観察して、楽しんでいた。
何気なく、目線を遠くに合わせる。
ただ、残念な事に、貴明は裸眼で0.1位しかない為、遠くはボヤケてよく見えない。
そんな中、ミニスカートを履いた女の子が、こっちに向かって、真っ直ぐ歩いてくる。
『あれか❓』
と、貴明は思ったが、顔がボヤケているので、確信がもてない。
すると、その女の子が、
大きく右手を上げて、
『わたしだよ』
と言わんばかりに、近づいて来る。
貴明は、照れくさそうに、右手を軽く上げた。
【満足】
デニムのミニスカート、少し肩が出ているダボっとした白いブラウス、足元は黒いウェジソール。化粧は、仕事の時より薄め
「久しぶり」
と、言いながら彩乃が、貴明の顔をジッと見つめる。
「やっぱり、慎吾だ」
と、言いながらニコッと笑う。
『マジで、かわいい』
と、心で思う貴明。
「久しぶり。居酒屋でいい❓」
「どこでも、良いよ。って言うか、かわいいねとか、似合ってるねとかないの❓めっちゃ頑張ったんだけど」
「はっきり言っていい❓」
貴明が真剣じみた顔をする。
彩乃のも貴明を真似たかのような表情で
「いいよ」
「可愛すぎだな」
と、貴明はニコッと笑った。
彩乃も
「でしょう~わかる~。マジで頑張ったもん」
と、満足気。
【放心状態】
まるで、雑誌の『POP TEEN』から飛び出して来たような彩乃。
貴明は、自然と緊張してしまう。
当然、そんな気配に彩乃が気づく訳もなく
「行こう」
と、元気に言いながら右手を差し出す。
貴明も
「おぅ」
と、左手を出し手を繋いだ。
その瞬間、頭に血が登り、鼓動が高鳴り、身体の中が熱くなるのを感じた。
勿論、貴明は今まで、女の子と手を繋いだ事位はある。
イケメンまではいかないが、それなりにイイ顔なので、学生の時も何人かに、告白されたり。
二十歳前後、ボーイズバーで働いていた事もあり、女性には慣れていた。
でも、この感覚…
小学校の時、運動会のフォークダンスで、好きな娘と手を繋いだ時のような感覚…
貴明、放心状態
【指輪】
「ねぇ、気になる」
と言って、彩乃が繋いでいた手を持ち上げ、貴明の薬指を見ながら、小さい声で、少し寂しげに言った。
いままで、不倫は勿論、結婚する前も浮気すらした事がない貴明は、完全無防備でいた。
「あっ、ごめん」
と言って、慌てて指輪を外した。不思議と抵抗は無かった。
「やったー。これで、うちだけの物ね」
と言って、ギュッと手を握り、貴明の顔を下から見上げ、ニコッと笑い、
「行こうー」
と、貴明の手を握りながら、大きく振って、歩き出した。
【COME BACK】
結局、普通の居酒屋に入った。
とりあえず、生ビールを2つ注文し、つまみのメニューを見ていた。
ビールが届く
彩乃が
「枝豆と、ホタルイカの塩辛、あっ、タカは焼き鳥が好きなんでしょう、焼き鳥は盛り合わせでいい❓」
『タカ⁉』
貴明はその言葉を聞き逃さなかった。
「ん❓あ~盛り合わせでいいよ」
「とりあえず」
と、店員さんにメニューを渡す彩乃。
貴明はジョッキを手にして、
「二人の再会に…」
「んっ、あ~」
と、ほぼ無反応にジョッキを持ち上げる彩乃。
貴明は『こいつ、本当によくわからん奴だなぁ~』と思いながら、乾杯。
「ねぇ。呼び方だけど、彩乃でいい❓」
「別になんでもいいけど、店ではベンちゃんだから、反応鈍いかもよ」
「いいよ、じゃあ彩乃って呼ぶ事にする。あっ、でも店では『ベンちゃん』って呼ぶから大丈夫」
「そりゃそうだよ、店で『彩乃~』なんて呼ばれたら、シカトだね」
『そっちかよ‼』
と貴明は思った。
貴明としては『もう店は来ないでよ』とか『店に来なくたって、外で逢えるじゃん』とかそっちを期待していたのに、普通の返答…
更に、
「店来るなら、早い時間の方がいいよ。空いてるし」
と、ビール片手にニコニコ頷きながら、少し得意気に『いい情報でしょ』位の勢いで言われた。
『WHAT⁉』貴明は、一度、彩乃の頭をカチ割り脳ミソの具合を見て見たくなった。先程の『うちだけのものね。ニコッ』は、何処へ旅立ってしまわれたのか…
『カ~ム バ~ク』
と、海岸で叫びたい気持ちだった…
【犬】
頼んだつまみが運ばれて来る。
「オヤジみたいでしょ」と、彩乃がホタルイカを食べながら言った。
「なにが❓」
「つまみだよ」
確かに『オヤジ』だと貴明も思った。普通、サラダとか、チーズ系のような気もしないでもない。
「でも、めったに外さないんだよ」
と自信満々。
「そう言えば、彩乃っていくつ❓」
「23」
と、ぶっきらぼうに答える。
「23か~、犬❓」
「タカすごいじゃん、タカは❓」
「犬」
「マジ❓タメ❓」
『おーい、俺が23歳な訳ねぇーだろー』と叫びたくなったが、
「違うよ、35歳」
と呆れたように言う。
「35歳じゃ、駄目か❓」
「あっ、全然。この前の不倫相手、20コ上だったから、気にしないで」
と軽~く、にこやかに言われた。
『良かった。12コしか違わなくて』なんて思う訳もなく、とてつもなく、彩乃が大人に見えた。
「不倫してたんだ」
と、貴明は口にしてしまった。
「これだって、不倫でしょ❓あっ、まだやってないから、これからだ」
その時、初めて貴明は、自分が生まれ初めて、不倫している事に気付いた。
今まで、自分はそういう事には縁が無い、というより、考えた事も無ければ、願望すら無かった。そんな事よりも、彩乃が言った
『これからか』が、貴明の頭の中をグルグル回っていた。
【俺も】
「なんで、別れちゃったの❓」
気になってしょうがない貴明は、つい聞いてしまった。
「あ~、相手が凄いマジになっちゃって、離婚するとか言い出してさ、こっちは、そんな気無かったから、すぐ別れた」
と、彩乃は笑いながら言った。
貴明も、彩乃に合わせるかのように、ニコッとしたが、複雑な心境だった。
『遊びで付き合うならいいけど、マジになるなよ』と、釘を刺されたような…、この彩乃にマジになってしまったその彼が、自分と重なって見えるような…
ただ、間違いなく、彩乃の事が、どんどん好きになっている事は確かだった。
【バカ貴】
貴明は、2杯目はレモンサワーに梅干しを入れてもらった。彩乃は、まだビールが残っている。
「この梅干しを、潰しながら飲むのが、好きなんだよね~」
と言いながら、貴明は箸で梅干しを潰す。
「梅干し、うまそう。じゃあ~梅酒」
と彩乃。
梅干し→梅→梅酒。
確かに、梅で繋がってはいるが、なんか違うような気がした。
貴明は思わず、
「梅酒に梅干し入ってないよ」
と、言ってしまった。
なぜか、彩乃が大笑い
「たか、バカでしょ。梅酒に梅干しが入ってる訳ないじゃん。
あっ‼たかとバカ似てる」
と言って、更に、無邪気に大笑い。
普通なら、頭に来るところだが、彩乃の笑い方が、まるで、子供が笑っているかのように、素直で無邪気な笑い方だったので、頭に来るどころか、無性に可愛く見えてしまった。
『マジで、可愛い過ぎる』
と貴明は思った。
正に、『バカ貴』…
【今度こそ❓】
「ねぇ、うちって可愛くないの❓」
と、突然彩乃が聞いて来た。
「なんで❓」
「全然、指名が増えないんだ」
貴明も、不思議に思った。
はっきり言って、彩乃は可愛い。
目はクリクリ二重、鼻筋が通っていて、唇はポテットした感じで温かみを感じる。
顔はめちゃめちゃ小さく、背も150㎝位で細身。
貴明目線ではあるが、ほとんどの男は、『可愛い』と感じるはずである。
のちのち、わかる事だが、今の貴明には、何故、指名が少ないのか疑問だった。
「わかった、彩乃が可愛いすぎるんじゃない❓」
と、冗談ぽく貴明が言った。
「たか、いい事いうね~」
と、彩乃は顔を少し、横に傾けながら、貴明の肩をポンと叩いた。
「でもさぁ~、指名取れないと、あんまり稼げないんだよね~」
と、悩んでいるようにも、見えた。
「彩乃は、なんで夜働いてるの❓」
「寮があるからだよ、でも、ある程度貯めたら、辞めるんだ~、もう、客とかマジうざい」
「辞めて、何するの❓」
「わからん、普通に事務でもやるよ、そして恋に落ち、今度こそ、素敵な結婚生活‼完璧‼」
と、彩乃は一人で話を完結させうなずきながら、梅酒を空けた。
一方、貴明の気持ちは、またまた複雑。ただ、
『今度こそ』
が気になっていた。
【彩乃ペース】
「ねぇ、たかは、3ヶ月こっちに居るんでしょ❓」
「予定ではね」
そう、答えた瞬間、貴明は何とも言えない、淋しい気持ちになった。
「たかは、いつ休みなの❓」
「不定期だから、何曜日って、決まってないんだ」
「じゃぁ、休みが決まったら教えてよ。どっか遊び行こ」
「マジで⁉行く行く」
と、貴明は反射神経で言ってしまった。
『うん、いいよ』と、うなずく程度で返事をして、落ち着きのある、『大人の男』を演じたかったが、時既に遅し、気持ちをそのまま言葉に出してしまっていた。
「じゃあ、うちが、たかの休みに合わせてあげるよ」
「でも、平日になっちゃうよ」
「うちも、平日の方が休み易いから、それで良いよ」
「O.K‼彩乃はどっか行きたい所ある❓」
彩乃は、少し考えてから、
「象、見たい。うち、象大好き‼」
『象ですか…』と貴明は思ったが、
「上野動物園にする❓」
「もっと近場でないの❓上野は遠いいよ、なんか、面倒臭い」
『め、面倒臭いですか』と思ったが
「じゃぁ、どっか探しとく。出来るだけ近場で、象が居る所ね❓」
「うん‼」
と、嬉しそうな彩乃。
完全に彩乃ペース。
【次】
彩乃が席を立つ
「しっこ」
「いってらっしゃ~い」
彩乃が席を外している間に、貴明は会計を済ませておいた。
彩乃が戻って来た。
「彩乃は、時間大丈夫❓」
「ぜ~んぜん」
「じゃぁ、次行こっか‼」
「行こー‼」と、彩乃は、右手のこぶしを突き上げた。
店を出て、タクシーに乗り込む。
貴明が彩乃に聞いた
「バーとか好き❓」
「あんまり、行かな~い」
「じゃぁ、夜景でも見ながら、うまい酒でも飲むか」
「夜景‼いいじゃん‼」
またまた、彩乃の無邪気な笑顔。
貴明は、この笑顔がたまらなく好きだった。
タクシーは、ホテルの正面口に着いた。
【シリウス】
タクシーを降りて、貴明が歩き出すと、彩乃が後ろから手繋いで来た。
貴明が振り向くと、彩乃が
「へへっ」
と、微笑んだ。
二人は手を繋ぎながら、貴明が半歩前を歩き、彩乃が少し後ろから、『ちょこちょこ』と着いていく。
フロントを素通りし、フロントの奥にある、エレベーターに乗った。
貴明が最上階の『60』を押す。
エレベーターが動き出す。
なぜか二人は、タクシーを降りてから、一言も口を開いていなかった。
エレベーターが止まり、横浜で一番高い場所に位置するバー、『シリウス』に着いた。
【入場】
『シリウス』はランドマークタワーの最上階にある、ラウンジ(バー)である。
貴明は、必死に調べ、『きっと、ここの夜景なら、彩乃も喜んでくれるはず』と思い、この場所を選んだ。
店内は、薄暗い照明で、生演奏のジャズが心地よく流れている。
二人は、窓際の夜景がよく見える席に案内された。
ついさっきまで居た居酒屋とは違い、落ち着いた、大人の空間だった。
【オーダー】
「彩乃は、何にする❓」
「ねぇ、うちカクテルとか、よくわかんないんだけど」
と、小声で答えた。
「炭酸ぽいのと、フルーツっぽいジュースみたいのと、どっちがいい」
「フルーツ」
「ライチは好き❓」
笑顔で頷く彩乃。
ボーイが近づいて来て
「お決まりですか❓」
「ラフロイングをダブルのストレートで、それと、DITAをオレンジで割って下さい」
ボーイは小さく頷き、席から離れて行った。
【チュッ】
「ねぇねぇ」
と、小声で言いながら、彩乃が顔を近づけて来た。
多分、今までで一番近い距離。
普通なら、「ん❓」と言って耳を傾けるところだが、貴明は思わず、彩乃の唇に『チュッ』としてしまった。
彩乃は、目を見開き、貴明をキョトンとした目で見つめ、『なんだ❓』という顔をしている。
貴明は、『ヤベ、やっちまった‼早まった』と思った。
が、次の瞬間…
彩乃が、『ふにゃ』となって
「いや~ん」
貴明は、そんな彩乃を見て、腰が砕けそうになった。
「違うよ、夜景が凄いね」
と、彩乃が小声で言った。
どうも、タクシーを降りてから、彩乃の様子がおかしい。
『借りてきた猫』のようだった。
「彩乃、普通の大きさで喋って大丈夫だよ」
と貴明が言った直後、大きな笑い声が、他の席から聞こえた。
彩乃が、笑い声がした方向見て、振り返った時、
「ハハハー」
と、元の彩乃に戻いた。
「うちさぁ、こういう所来るの初めてなんだよね~。なんか、どうしていいか、わかんなくてさぁ。たか、大人じゃん」
「嫌だった❓」
彩乃は首を横に振って、
「最高‼、なんか、いい感じ」
貴明は、ホッとした。
【カクテル】
ボーイが飲み物を持って来て、テーブルにそっと置く。
彩乃の前に置かれた細長いグラスの中は、オレンジ色で、多分、底にブルーキュラソを沈め、バースプーンで、軽く煽ったのであろう、グラスの底の方から、かすかに青い色がオレンジ色へとグラデーションしている。
彩乃のは、グラスをテーブルに置いたまま、グラスを下の方から覗き込むように顔を近づけた。
貴明が
「どうした❓」
と聞くと、彩乃は顔を上げ、貴明を見ながら『ニッ』と笑い、
「マジ綺麗だね、これ旨いの❓」
貴明は『ニコッ』と微笑んで
「乾杯」
と言ってグラスを軽く持ち上げた。
彩乃も、貴明の真似をして、グラスをちょっとだけ持ち上げ
「乾杯」
と言って、グラスに口を付けた。
「これ旨‼ジュースみたい。たかのは何❓」
「これはウイスキーだよ」
「旨いの❓」
「ん~ちょっとクセがあるけど、俺は好き。飲んでみる❓あっ、でもお子ちゃまには無理かな」
と、少し意地悪そうに貴明が言うと、
「馬鹿にしてる❓見た目はロリでも、中身は大人だ‼貸してみ」
と、言って彩乃は貴明のグラスに口を付けた。
次の瞬間、彩乃が舌を出し、泣きそうな顔になった
「なんじゃこりゃ~酒~ていう酒だ。彩乃には無理。こっちの方が全然旨い」
と、何かに納得したようなそぶりで、自分のグラスを半分空けた。
【…】
彩乃が両腕のひじをテーブルの上に乗せ、その手の平の上にあごを乗せながら、夜景を眺めている。
「不思議。何か落ち着く」
と、彩乃がつぶやくように言った。
「これで隣が、福山 雅治なぁ~」
と、上目使いで、貴明を見る。
貴明は苦笑しながら
「悪かったなぁ、柳沢慎吾で」
「心配すんな‼福山雅治は、めちゃくちゃ格好いいと思うけど、うちのタイプじゃないんだよね~
だって、格好良すぎて緊張しちゃうでしょう❓
やっぱり慎吾ちゃんだね‼
だから、ほら」
と言って、貴明を指差した。
「どうも」
と複雑な心境で、貴明はペコリと頭を下げた。
「じゃあ、もし福山雅治と柳沢慎吾が目の前に居て、二人から告白されたら、どっち選ぶ❓」
「悩む~」
「…」
【エットン】
2杯目、貴明は『マッカラン 25年』、彩乃はオリジナルの『シリウス』を頼んだ。
彩乃も、場の雰囲気に慣れたらしく、あの無邪気な笑顔が出始めた。
「ねぇ、たか…
また、連れて来てね」
「姫がご希望とあれば、いつでも、お連れしますよ」
「やったー‼約束ね。
絶対だからね」
と、彩乃が右手の小指を立てる。
「約束、彩乃こそ、約束破るなよ」
と言って、二人は指切りをした。
「そろそろ、行こっか」
と、貴明が言うと、
「もう少し居たいけど、たか明日仕事でしょ❓」
「俺は大丈夫だけど、彩乃は❓」
「うちは、全然大丈夫‼」
「彩乃、早起き出来る❓」
「うち、朝はめちゃくちゃ強いよ‼
ん❓おまえ『エットン』だろー」
と、彩乃が貴明を指差しながら、言った。
「エットン❓」
「たか、『エットン』知らないの❓」
「何かに出てくる怪獣❓」
「違うよ、エッチな怪獣、だから『エットン』」
「何に出てくるの❓」
「うちが命名してやった」
彩乃が自慢気に言った。
「知るか‼」
「今日から、たかは『エットン』ね」
と、彩乃は貴明に微笑みかけた。
『エットン』誕生
【ハマった】
二人は店を出て、エレベーターに乗った。
彩乃が置くに入り、貴明はドアの前。
「エ~ットン」
「ん❓」
貴明が振り向くと、彩乃が貴明の首に両腕を回し、貴明にしがみつくようにキスをした。
貴明は、固まった。
彩乃が、「へへ、頂き」と微笑む。
「ヤバいな、彩乃にハマりそう」
彩乃がニコッと微笑み、小さい声で
「ハマれ、ハマれ」
と、上目使いで言った。
エレベーターのドアが開き、二人は、彩乃が貴明の腕にしがみつくよう格好で、フロントを素通りし、タクシー乗り場に向かった。
【ん❓】
二人はタクシーに乗り込んだ。
ここで、貴明は痛恨のミスに気付く。
土地勘がなく、どこにホテルがあるのか、どこのホテルがきれいなのか、全くわからない。
仕方がなく、貴明は運転手さんに、少し照れながら
「どっか、綺麗なホテルあります❓」
と言った。
すると彩乃が
「『モーション』が綺麗だよ」
と、普通に言った。
『ん❓』
またまた、複雑な貴明。
『なぜ、知ってるの❓』『誰と行ったの❓』脳裏を駆け巡る。
彩乃は、全く悪びる様子もない。
そんな彩乃を見て、スーパープラス思考の貴明は
『こいつ、嘘とか隠し事とか、出来ないそのまんまの娘だ』
と、思ってしまった。
「じゃあ、モーションに行って下さい」
【アジアンリゾート】
フロントの横にあるパネルで、部屋を選ぶ。
部屋のボタンを押すと、パネルの右側から、カードキーが出て来た。
貴明が、カードキーを持って、二人はエレベーターに乗った。
二人が選んだ部屋は501号室。
エレベーターが止まり、ドアが開く。
『501→』と壁に書いてあり、矢印の方向に進むと、一番奥の『501』が、点滅していた。
ドアノブの下に、カードキーを差し込むと、『カチッ』とロックが外れる音がした。
それまで黙っていた彩乃が、
「なんか、ワクワクしない❓」
「する」
と、言いながら貴明がドアを空けた。
二人は靴を脱ぎ、もう一つ中にあるドアを開けた。
二人同時に、「わぁ~」と、言ってしまった。
部屋の中は、アジアンリゾートのように飾り付けてあり、貴明が知るラブホテルとは、かけ離れていた。
「すんげぇな、最近のラブホテルは」
彩乃がベッドに向かって走り、ピョ~ンとベッドの上に正座をするようにのり、そのまま後ろにバタッと倒れた。
『パンツ見えてますけど…』
と、貴明が思っていると、
「たか~。ゴロンとしてみ~。気持ちいいぞ」
貴明も、彩乃の横に仰向けで倒れ込んだ。
ベッドが揺れ、彩乃の小さい体も、少し上下に揺れた。
「ハハ、面白~い」
彩乃の、あの無邪気な笑い方。
「ねぇ、たか、一緒にお風呂でアワアワしよ‼」
「いいね~」
「じゃ~んけ~ん、ポン」
言い出しっぺの彩乃が負けた。
「しょうがないなぁ~」
と、ポーンとベッドを降りて、バスルームに向かった。
【ロリコン】
「わぁー‼たか来てみ‼風呂すげぇよ‼」
貴明が、バスルームを覗くと、確かに凄い。
浴槽は、白く丸に近い形をしていて、3~4人は入れそうな位だった。
貴明が、服を脱いでいると、
「ねぇ、たか」
彩乃がベッドの上で、女の子座りをしながら、
「はい」
と、言ってバンザイをした。
貴明は、彩乃の服をぬがして、ブラを外そうとすると、
「ちょっと、暗くしない❓」
貴明が、ベッドの枕元にあるパネルで、部屋を薄暗くした。
「この位じゃないと、恥ずかしいよ」
貴明が、ブラを外すと、彩乃が
「残念なおっぱい登場~ははは~」
と、笑った。
「やったー。当たり‼俺、微乳大好き‼」
「おまえは、ロリコンか⁉」
と、彩乃が笑う。
二人は、バスルームに向かった。
【アワアワ】
彩乃が貴明の頭を洗い、お互いに体を洗いっこして、アワアワに入る。
貴明が浴槽に寄りかかり、その貴明に彩乃が寄りかかる。
彩乃がクルッと振り返り、貴明の上にまたがるように乗り、貴明の首に両腕を回し、ジッと貴明の目を見つめる。
貴明は体を起こし、キスをした。
彩乃が
「のぼせちゃうよ、出よ」
二人ベッドに向かった。
【合体】
貴明が先にベッドに入る。
彩乃が、バスローブを着たまま、ベッドに入って来る。
彩乃が上半身だけ、貴明の上に乗せながら、
「たか、筋肉すごいね。腕と胸なんか、マッチョみたい」
「学生の頃、柔道やってたから…でも、腹はポニョポニョだよ」
「どれ‼」
彩乃が貴明の腹を突っついた。
「はは、本当だ。ポニョポニョだ。でも、うちポニョポニョ好き」
貴明、我慢の限界…
「いやん💕」
合体
【バツイチ】
貴明の腕枕で、彩乃が貴明の胸に顔をうずめていた。
「ねぇ~」
と、言いながら、彩乃は、クルッと体を回し、腹這いの姿勢で肘をつき、手のひらの上にあごを乗せた姿勢になった。
「嫁と別れれば」
「へっ❓」
確か、先程聞いた話では、不倫相手がマジになったから、別れたと言っていたのに…
「別れて、うちと結婚しよ‼たかが、別れたら速攻なのに…」
実際、貴明の離婚は、時間の問題だった。
ただ、正式に決まった訳でもないので、貴明は言えなかった。
「たか、手見せて」
貴明は、右手を彩乃に差し出した。
「どれどれ」
「あっ、やっぱり、うちと一緒。結婚線が2本出てる。しかも、かなりぶっとい」
と言って、彩乃が自分の結婚線を見せた。
「ねっ‼一緒でしょ‼うちは、既にバツイチ、たかも、これからバツイチ。やったー」
普通はどう思うのだろうか、『ヤバイ』とか『危険』とか思うのだろうか。ただ、この時、貴明は、本当に嬉しかった。
彩乃は、今思っている事を、そのまま口に出してしまう。
そんな彩乃が、とても愛おしく思えた。
それと、貴明は、この時、初めて彩乃がバツイチと知った。
【事実】
「彩乃の結婚してたんだ」
「言ってなかったけ❓うちバツイチだよ」
「聞いてもいいの❓」
「何でも聞いて、たかには、全部答えてあげる」
「いくつの時❓」
「18。出来ちゃった婚」
「何で別れちゃったの❓」
「…マザコンでさぁ。最後なんて、向こうの母親が出てきて、子供持ってっちゃった。うちは、親の反対押し切って結婚しちゃったからさ…て言うか、うちの親は、兄ちゃんだけ居ればいいんだよ。
もう何年も家帰ってないし、親父もその方が都合がいいんじゃない…」
彩乃は、ニコッと笑った。
貴明は、その事についてそれ以上聞けなかった。
ただ、『親父』の事が気になっていた。
「次は❓」
と、彩乃が聞いてくる。
【結婚】
「たか、なんで結婚したの❓恋愛❓やっぱり出来ちゃった❓」
「恋愛ではないなぁ~。出来てもいない」
「じゃあなんで❓策略結婚とか❓」
「策略⁉そんな身分じゃないよ。ただ、なんとなく、結婚してみたくてさぁ~。今は後悔してる」
「うちに会ったから❓」
嬉しそうに、彩乃は自分を指差した。
貴明は、少し照れながら2回うなずいた。
「かなり、後悔してる。まさか、俺自身、本気で惚れるなんて、無いと思ってた」
貴明は、モテなかった訳ではない。
どちらかと言えば、モテる部類に入る。
ただ、仕事…と言うより金を稼ぐ事に夢中だった。常に女より仕事を取って来た。
いつの頃からか、『付き合う』という事が面倒臭くなっていた。
ただ、30を過ぎた頃から、家庭という物に憧れ始め、その時、目の前に居た娘と結婚してしまった。それだけだった。
「誰でも良かったんだ。一人暮らしが永かったから、寂しかったんだよね」
「ふ~ん。結婚っていろいろあるんだね」
【】
「たかは、いつまで横浜に居るの❓」
「6月いっぱい」
「そっかぁ~。じゃぁ、それまで、いっぱい思い出作ろうね」
と言って、貴明にキスをした。
「あ~気持ちいい。たかの唇、柔らかくてプニュプニュ」
彩乃が貴明の胸に、顔をうずめた。
「落ち着く」
貴明は『幸せ』というものを感じ、『彩乃を離したくない』と思っていた。
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