注目の話題
スカートの丈が床につきます
ディズニーの写真見せたら
妻の過去について

悪魔の日記

レス365 HIT数 18926 あ+ あ-

カルファーレ( Uc1Hh )
09/07/18 00:10(更新日時)

『一日一悪💀』
と題した日記帳を片手に、ある悪魔が地上界で生活を始める。

タグ

No.1158660 08/10/30 13:38(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 08/10/30 14:07
カルファーレ ( Uc1Hh )

🌙プロローグ

ある大晦日の夜。
一人の悪魔が、都会の中心で自分の新しい住処を眺め回している。
そこは高層マンションの十一階。
ツヤツヤのフローリング、システムキッチン、照明付きシーリングファン、薄型巨大テレビの前には革のソファー、それを取り巻くサラウンドスピーカー。
上質の白い壁紙にダークグレーの高級カーテン。
ウォシュレットトイレには暖かいスリッパを備えてあるし、シャワールームの浴槽は背の高い彼でも十分に足が伸ばせる。
寝室には収納のよいクローゼットがあり、ベッドはもちろんキングサイズだ。
地下の駐車場にはフェラーリのオープンカーが止まっている。
完璧、完璧なんだ。
ある一点を除けば……。

No.2 08/10/30 14:29
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 1 彼は大股にダイニングを横切ると、寝室に置いた全身鏡の前に立った。
そこに映っているのは骸骨のように痩せた人相の悪い男。
色艶の悪い肌、ぱさついた黒い髪。
それが彼に与えられた人間の身体だった。
人間に成りすまして仕事をするための仮の姿。
それにしても、人間に「あ、どうも、悪魔です」と言っても通用してしまいそうな容姿である。
彼は鏡のフレームを掴み、自分の顔を睨みつけた。
まるで三流映画のチンピラ、どうでもいい脇役、速攻で主人公にやられる雑魚役にぴったりじゃねぇか。
しかも年齢設定は二十代のはずなのに、明らかに老けて見える。

No.3 08/10/30 14:56
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 2 彼はくたびれたシャツを脱ぐ。
そして、貧相な自分の身体を眺めた。
俺が思い描く人間生活を送るには、こんな容姿では駄目だ。
変わらねば。
そう、金も時間もある。
地上での仕事をスムーズに行うためにも、自分自身のモチベーションをあげるためにも、まずは肉体改造だ!
悪魔は己が欲望を満たすための努力を惜しまない。
鏡の前で決意を固める彼をよそ目に、都心の公共広場ではカウントダウンが始まっていた。

さーん!

にーい!

いーち!

ハッピーニューイヤー🎉✨

No.4 08/10/30 16:05
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 3 📖記念すべき第一ページ

さて、まずは俺が日記を書かざるを得ない状況に陥った理由を簡単に説明しよう。
新年が始まって以来の十ヶ月と三十日間というもの、俺は毎日欠かさずプロテインを飲み、ジムに通い、美容整形手術を行った。
健康食品や早朝ランニングといった方法も試したが、どうも悪魔には不向きだったらしい。
まぁとにかく、努力のかいあって俺は理想の肉体を手に入れたと言っていい。

そう、お察しの通り、俺は地上での仕事をそっちのけにして肉体改造にいそしんだわけだ。
仕事にはノルマがある。
次の大晦日までにこれをクリアしないと、またあの退屈な地獄に送り返されてしまう。
大きな仕事をするには時間がないし、ここはやはり、小さな悪をコツコツと、だ。
というわけで、俺はここに仕事の記録を書き記す。

No.5 08/10/30 16:12
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 4 📖十月三十日

さっそく余談だが、今日俺はとんでもない事実に気付いた。
俺の人間名はミック・ホッパー。
これは地獄のやつらが勝手に決めた名だが、「ミック」ってのは地上界では「マイケル」って名の愛称らしい。
マイケル、つまり、大天使ミカエルに由来する名前だ。
今まで大天使の名を掲げて暮らしていたのかと思うと虫酸が走る。
地獄の低脳悪魔どものくそったれ。
いっそダミアンとかアイレスターとか、わかりやすくてもいいから悪魔に由来した名前をつけてほしかった。
人間生活もようやく板についてきたし、そのうち改名してもいいかもしれない。

さて、今日の悪は……

No.6 08/10/30 17:09
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 5 🚬タバコ

その朝、ミックは人気のない通りをブラブラと歩いていた。
形のよい上がり目にサングラス、高い鼻、尖った顎。
パーカーにジーンズジャケットを羽織った身体は、服越しにも筋肉質なのがわかる。
が、若干細身なのは否めない。

強盗、誘拐、殺人、強姦、放火。
近頃の人間は悪魔の誘惑に乗りやすいという。
しかし、一方で悪魔のGOサインを待たずに悪に身を染める人間も多い。
そういった場合、それは悪魔の功績にはならない。
「俺は初心者なんだ」
ミックは自分に言い聞かせた。
「そんなでかいことに手を出して失敗するよりは……」
その時、薄暗い中に光を放つ自動販売機に彼は目を留めた。
タバコだ!
「禁煙中の喫煙者を誘惑するくらいなら、俺にだってできる」
ミックは指を鳴らす。
とたんに自動販売機は故障し、大量のタバコを吐き出した。
その中から適当に一つ取り上げると、彼は火をつけて口に咥えた。
そして……

No.7 08/10/30 17:22
カルファーレ ( Uc1Hh )

📖
タバコなんか二度と吸うか!

今でも咳が止まらない。
人間どもはなんて自虐的なんだ。
しかし、愛煙家はあれを「旨い」と言っている。
もしかしたら、旨く吸う方法が……
いやいやいや、絶対ありえない。
もう絶対吸わない。
俺がもう少し力のある悪魔だったら、この世からタバコを消し去って、世界中の愛煙家を苦しめてやる。

ということで、今日は俺の住む地域一体のタバコ自動販売機を故障させてタバコ業界にささやかな打撃を与えると共に、禁煙ポスターを街中に貼りまくった。
愛煙家と嫌煙家の紛争が起こる日は近い。

No.8 08/11/01 00:36
カルファーレ ( Uc1Hh )

📖十月三十一日

今日はハロウィン!
しかし、残念ながら俺の住む街ではハロウィン祭は行われなかった。
十月に入るなり黒とオレンジに染まっていたくせに、肝心の祭りをやらないなんて理解できない。
悪魔としては、ぜひともこのイベントに参加したいところだ。

ということで、俺は地獄の抜け穴を使い、ハロウィンを祝いに出かけた。

No.9 08/11/01 01:08
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 8 🎃ジャック・オ・ランタン

地獄に下りたミックの背には、黒いコウモリに似た翼が生えている。
本来の姿はもっとおぞましいのだが、彼は今の身体が気に入っているので、あえてその姿には戻らなかった。
さて、どこのハロウィンが一番盛り上がっているかな?
ミックは時々地上界を覗きながら、地獄の暗闇を羽ばたいた。

あるところはショッピングモール。

あるところはミュージシャンのライヴ会場。

あるところは地域の子ども会。

あるところは……「おっと失礼」カップルが取り込み中だ。

どこも、カボチャちょうちんは爛々と輝いているのに、それらしい祭りは行われていない。

「やっぱハロウィンの本場に行くべきか」
それなら海外だ。
しかし、ここで問題になるのは、そこが自分の担当区域ではないということ。
つまり、よその地で悪を施しても自分の業績にはならないのだ。
「ハロウィンは祝いたいが、ちゃんと仕事もしておかないと」

No.10 08/11/01 01:28
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 9 🎃

祭、仕事、祭、仕事……祭。
やはり、この国では両方なんて無理だろうか。
ミックはゆらゆら悩みながら、何気なく地上界を覗き込んだ。
その目の前に、巨大なジャック・オ・ランタン。
「お」

死霊と、魔女と、精霊の匂い。
甘ったるいお菓子の匂い。
浮かれた人間たち。
カラフルな街並みに飾られるカボチャ、カボチャ、カボチャ。
見つけた!
ミックは街に踏み出すと、嬉しそうに辺りを見回した。

No.11 08/11/01 01:49
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 10 📖

その街はハロウィン一色だった。
だが、なぜか仮装しているのは大人ばかりだ。
子供たちは仮装した大人からお菓子をもらっている。
俺の知っているハロウィンとは風習が違うらしい。

しかし、大規模な仮装行列やアクロバティックなパフォーマンスなど、なかなかに盛り上がっていた。
欲を言えば、もっと不気味さがほしいところだが。

街には俺の他にも悪魔が紛れ込んでいた。
見るからに悪魔っぽい、仮装しなくても行列に参加できそうな連中だ。
だが、その中に一人……

No.12 08/11/01 02:12
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 11 🎃

仮装行列を眺めていたミックは、ふと首筋に凍り付くような視線を感じて振り返った。
そこに、黒い巻き髪に白いニット帽、ニットガウン、ブーツを履いた、女優顔負けのセクシーギャルが立っている。
目が合った瞬間、ミックは雷に打たれたような気がした。
いや、実際に彼女が放った雷撃に打たれていたかもしれない。
彼女も悪魔だった。
それも、ミックに限りなく近い匂いを放っている。
彼女もミックと同じ心持だったのだろう、嬉しそうな、照れたような顔をしていた。
「……一人?」
「ああ」
「私、アンジェラ・グラント」
「ミック・ホッパー」

No.13 08/11/01 04:09
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 12 📖

夜は街全体がライトアップされ、華やかさと不気味さがましてなお良かった。
それに、一人でうろつくよりはカップルでいるほうがよほど自然だったので、アンジェラに出会えたことは幸運だったと思う。

さて、ちょっと浮かれて長くなったが、そろそろ本題に入ろう。
皆様はハロウィンのシンボルとも言えるジャック・オ・ランタン――ちょうちんのジャックの由来をご存知だろうか。
知らない人のために、その物語を簡単に紹介する。

No.14 08/11/01 04:12
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 13 📖

昔ジャックという飲んだくれのケチな荒くれ男がいた。
あるハロウィンの日に、地獄からやってきた悪魔に遭遇し、彼は魂を取られそうになる。
しかし、ジャックは悪魔を騙して「ジャックから魂を取らない」という約束をさせた。
その後、彼は年老いて死んだが、生前の行いが悪かったために天国へ行けなかった。
だが、悪魔はジャックから魂を取らない約束をしているので、彼を地獄に入れてくれない。
そのため、ジャックは暗い道を彷徨い続けなければならなくなったが、悪魔は少しばかり同情し、彼に明かりをともしたカブを持たせた。

これがジャック・オ・ランタンの物語。
このカブがカボチャに置き換えられて、カボチャちょうちんになったわけだ。

No.15 08/11/01 04:30
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 14 📖

要するに何が言いたいかっていうと。
これはハロウィンに悪魔が騙されるっていう教訓なのだ。

言い訳ではない。

そういうわけで、俺はこの日取り立てるほどの悪を施さなかった。
しいて言うなら、子供たちにポイ捨てを促したくらいかな。
とにかく、俺はアンジェラとハロウィンの夜を十分満喫した。

No.16 08/11/01 04:44
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 15 🎃

日記を書き終えたミックの横に、いつの間にかアンジェラが立っていた。
「結局仕事しなかったんなら、海外に行けばよかったじゃない」
「っ……!」
バシッとノートを閉じると、ミックは振り返って彼女を見上げた。
「それは結果論だろ」
アンジェラは艶の良い唇に不敵な笑みを浮かべ、身をかがめる。

机の端で、地獄の灯火を宿したジャック・オ・ランタンがニヤニヤしていた。
「US❌」というテーマパークのタグをぶら下げて。

No.17 08/11/02 03:48
カルファーレ ( Uc1Hh )

📖十一月一日

悪魔は眠る必要がない。
食べる必要もないし、たとえ心臓が止まっても心肺蘇生術を施す必要もない。
要するに不死身なのだ。
だが、俺は食事を取るのは好きだ。
肉体改造の過程でプロテインを飲んだのがそのきっかけかもしれない。
味なんてほとんどわからないけど、食べ物が喉を通り腹に収まっていく感覚がなんともいえず快感だ。
ただ、物を食べるとトイレに行かなければならなくなるのが面倒ではあるのだが。

今日俺はある三ツ星レストランで食事をした。

No.18 08/11/02 04:23
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 17 🍴マナー

窓際の席についたミックは、ジーッとテーブルを睨みつけていた。
前菜の料理が運ばれてきても、彼はじっとしている。
その視線の先に、二本の棒がそろえて並べられている。
箸だ。
食に興味を持った段階で、彼はテーブルマナーについて調べ上げ、今ではナイフもフォークも完璧に使いこなせる。
だが箸に関しては、とてもそんな器用な食べ方はできないと思い、鼻から調べていなかった。
「どうしろっていうんだ」
とりあえず水を飲みながら、彼は悩んでいる。
料理は洋食なのになぜ箸なんだ。
この街の人間はやはり少しおかしい。

チラッと斜め前のテーブルを見ると、夫婦らしい男女が箸を使って食事をしている。
ミックは気付かれないようにその手元を盗み見、それらしく箸を持った。
そして、また固まる。
「んん~」
開かない。

結局、彼はウェイターを呼び寄せてナイフとフォークを用意させた。

No.19 08/11/02 04:28
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 18 🍴

食事をしていると、彼はふとある生き物の気配を感じ取った。
そう、レストランには絶対にいてはいけない生き物。
ゴキブリだ!
ゴキブリがどこかに潜んでいる!

これは絶好のチャンスだ。
ゴキブリをめちゃくちゃに暴れさせよう。
レストランの客は食事どころではなくなり、食べ物を無駄にするだろう。
一日の売り上げをパーにしたレストランでは、店長がストレスと苛立ちから従業員に当たり、従業員は店長の嫌味を他の人間に当たるだろう。

ミックはゴキブリを人目につく場所へ呼び出した。
こそこそと壁際から出てきたゴキブリ。
よし、誰か気付……
グシャ!

No.20 08/11/02 04:38
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 19 🍴

ミックは痛ましそうに目を細めると、その靴の持ち主を見上げた。

通路を塞ぐ脂肪。
歩いているだけなのに荒い息。
汗のにおい。
それは地獄にもそういないくらいの巨漢だった。
哀れなゴキブリは彼のテーブルの下まで引きずられ、そこで事切れた。

誰もがこそこそと様子をうかがう中で、その男は運ばれてきた食事を食べ始める。

No.21 08/11/02 04:45
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 20 📖

あれは豚だ。
音は立てる、こぼす、そして早い。
俺の計画は失敗したというのに、レストランには不穏な空気が漂っていた。

No.22 08/11/02 05:00
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 21 🍴

ミックは「というわけで、今日の悪は不発だった」という文でこの日の日記を締めくくっているが、実はもう少し続きがある。

「よう、ミック・ホッパー」
巨漢に釘付けになっていたミックに声をかけたのは、小太りの剥げた男だった。
「ヘス・グリージー!」
ミックは見覚えのある悪魔に目を丸くした。
「すげぇだろ、あの男」
「ああ」
「俺の獲物なんだ」

ヘスはミックの向かいに座ると、仕事の成果を得意げに話し始めた。
富豪で美食家だった彼を、過食症に陥らせた過程を。
「食うためならどんな犠牲も犯罪もいとわねぇ。ヤツの魂は地獄行き確定だ」
ヘスはそう言うと、箸を使って食事を始めた。

ミックはなんとなく気落ちして、その日はまっすぐ家に帰った。
そして、生まれて初めて睡眠をとったのだった。

No.23 08/11/03 00:39
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 22 📖十一月二日










      

No.24 08/11/03 01:08
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 23 🔫強盗

この日、ミックは朝日が昇っても、
アンジェラが部屋を訪れても、
新聞の勧誘の電話が掛かってきても、
小さな地震が起こっても、
ヘリコプターの飛行音が響いても、
一度も目を覚まさなかった。
ベッドにうつ伏せに倒れこんだまま、死んだように眠っている。

これがミックにとって初めての睡眠だった。
起きてこないところを見ると、気に入ったようだ。

そして、その夜。
二人組みの男がカギをこじ開けて部屋に侵入してきたときも、
ミックはピクリとも動かなかった。

No.25 08/11/03 01:17
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 24 🔫

「寝室を見て来い」
キャップを被った男はそう言い、苦心して手に入れた一丁の拳銃を相方に渡した。
相方はニット帽を深く被った若い男で、無言でうなずくと、恐る恐る奥へ進んだ。

寝室のドアは開けっ放しで、ベッドの上からはみ出した二本の足が見えている。
その足は靴を履いたままだ。

ニット帽はドキドキしながら、拳銃を強く握った。
首を伸ばして寝室をのぞき、ベッドにうつぶせている男の様子をうかがう。
「……?」

  • << 27 🔫 ニット帽は爪先立ちになりながら、ベッドに倒れている男の顔をのぞこうとしていた。 「おい!」 キャップが押し殺した声でいう。 「なにしてやがる」 飛び上がりそうになったニットは、震える銃口で男を指した。 「こ、こいつ死んでるかも」 「何だと」 キャップは金品を見つけられなかった事で自棄になり、ニット帽から拳銃を奪い取った。 そして、男の背中に膝を突いてのしかかり、うなじに銃口を押し付ける。 「おい、起きろ!」 しかし、男は身動き一つとらなかった。 体温はあるような、ないような……。 キャップは男の背から降り、銃口を押し付けたまま彼を仰向けにした。 そして……

No.26 08/11/03 01:35
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 25 🔫

「クソ、どうなってやがんだ」
とこぼしそうになるのを、キャップは噛み殺す。
なにしろ金目のものは何一つ見つからなかったのだ。
というか、この部屋には本当に何もなかった。
引き出しはすべて空。
よく冷えた冷蔵庫も空。
テレビのリモコンは、ビニール袋に入ったまま画面の横に置かれていた。
「本当に人が住んでるのか?」
キャップは部屋の明かりをつけてみたい衝動に駆られた。
暗闇の中でも、その部屋がホテルのように美しくメイキングされているのがわかる。
キャップはため息をつき、相方の元へ向かった。
寝室には何かあるかもしれない。

No.27 08/11/03 01:45
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 25 🔫 「寝室を見て来い」 キャップを被った男はそう言い、苦心して手に入れた一丁の拳銃を相方に渡した。 相方はニット帽を深く被った若い男で、無… 🔫

ニット帽は爪先立ちになりながら、ベッドに倒れている男の顔をのぞこうとしていた。
「おい!」
キャップが押し殺した声でいう。
「なにしてやがる」
飛び上がりそうになったニットは、震える銃口で男を指した。
「こ、こいつ死んでるかも」
「何だと」
キャップは金品を見つけられなかった事で自棄になり、ニット帽から拳銃を奪い取った。
そして、男の背中に膝を突いてのしかかり、うなじに銃口を押し付ける。
「おい、起きろ!」
しかし、男は身動き一つとらなかった。
体温はあるような、ないような……。
キャップは男の背から降り、銃口を押し付けたまま彼を仰向けにした。
そして……

No.28 08/11/03 02:04
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 27 🔫

数秒後、男たちの姿はなかった。

仰向けに寝かされたミックは、ぼんやりと虚空を見つめている。
そう、ミックは目を閉じるのを忘れていたのだ。
ついでに呼吸もしていなかった。
ミック・ホッパーの身体は本当に死んでいたのだった。

こうして、ある強盗事件は未遂に終わった。
そして、ミックは汚れた魂を得るチャンスを逃した。

さらに数時間たったころ、彼はようやくスゥーっと息を吸い込み、ぱちりと瞬きをした。
「いってぇ!」
乾いた眼球に瞼が張り付く。
彼は両目を押さえてうずくまった。

No.29 08/11/03 02:18
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 28 🔫

彼は涙目を何度も瞬きながら、ふらふらと机に向かう。
そして白紙のページを開いた。

📖十一月二日

初めて眠った。
目が焼け爛れてしまったのかと思った。
眠っている間は心地よいが、起きる瞬間は腹を据えておかなければならない。
しかも日付が変わっている。
恐るべし睡眠。

🔫

あえて仕事のことには触れないまま、彼はノートを閉じたのだった。

  • << 33 📖十一月三日 今日は実に不愉快だった。 先日出会った悪魔ヘス・グリージーは、俺と同じく去年の暮れに地上に派遣された、いわば同期だ。 にもかかわらず、ヤツはすでに人間の魂を得て、地獄のノルマを達成しようとしている。 なぜ、うだつの上がらない中年親父みたいな見た目のヤツに、この俺が負けなければならない? セクシーでスマートで、今流行のソフトマッチョな俺が。 そこで、俺は街に繰り出した。 ヤツにできたんだ。 俺にだって、魂の一つや二つ地獄送りにすることぐらいできるはずだ。

No.30 08/11/22 18:32
ごん ( kKlQh )

せっかくの小説の欄に感想なんか書いてしまって申し訳ありません🙇でも,とても面白くて,それを伝えたくて遂に書いてしまいました😣

いつも読ませて頂いていて,主さんの小説には楽しませてもらってます😊🙌私はファンタジックな世界がすごく好きで,主さんの小説を読んでいると妄想に浸れることが出来て,癒されます😁🎊

すごく文章力ありますね😃読みやすいです👿ゲヘヘ

私の楽しみの1つが主さんの小説の更新なので,ま~ったり待たせてもらいますね☺✨

もうホンマ応援してます😤🔥✨‼

No.31 08/11/23 00:05
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 30 こんばんは😃💦
まさかレスが付くなんて思ってなくて、すごく驚きました😲✨
めっちゃ嬉しい半面、なんだか恥ずかしいです💕💦
いつも行き当たりばったりのアイデアで書き始め、最後まで続かないのが私の悪いところで……😠
でも、せっかく読んでくださっている方がいらっしゃるのだから、最後まで頑張ります💪
伝えたいことが多すぎて逆に言葉足らずな文章になってますが、そちらの技術も少しずつ磨けたらと思います⭐
とても励まされました、ありがとうございます😊❤

No.33 08/11/23 04:46
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 29 🔫 彼は涙目を何度も瞬きながら、ふらふらと机に向かう。 そして白紙のページを開いた。 📖十一月二日 初めて眠った。 目が焼け爛れてしま… 📖十一月三日

今日は実に不愉快だった。

先日出会った悪魔ヘス・グリージーは、俺と同じく去年の暮れに地上に派遣された、いわば同期だ。
にもかかわらず、ヤツはすでに人間の魂を得て、地獄のノルマを達成しようとしている。
なぜ、うだつの上がらない中年親父みたいな見た目のヤツに、この俺が負けなければならない?
セクシーでスマートで、今流行のソフトマッチョな俺が。

そこで、俺は街に繰り出した。
ヤツにできたんだ。
俺にだって、魂の一つや二つ地獄送りにすることぐらいできるはずだ。

No.34 08/11/23 05:59
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 33 👼天使

根拠のない自信を胸に街へやってきたミックだが、慎重さを事欠くような真似はしなかった。
自分は低級悪魔で、いきなり人間に殺意を芽生えさせるような強い力を持ち合わせていないことは、重々承知だ。
「何事にも取っ掛かりが大切だ」
彼は心の中で呟いた。
小さな悪は大いなる悪への第一歩。
そう、まずは『万引き』あたりから始めるとしよう。
これだって、立派な犯罪だ。
ターゲットは、大人になりきれていない少年少女。
もっとも誘惑に弱い年代を手堅く狙うことにした。

No.35 08/11/24 01:01
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 34 👼

ある薬局の棚の影。
一人の少女が落ち着かない様子で、周囲に目を配っていた。
男物の大きなパーカーの下から、制服と思しきスカートが見えている。
彼女は化粧品を選んでいるふりをして、陳列した商品を指でなぞったり、リップクリームの種類を見比べたりしていた。
しかし、彼女の狙いはすでに定まっている。
ある化粧品ブランド冬季限定色の、『スノークイーン』というラメ入りのマニキュアだ。
彼女の肩に掛かった通学鞄のチャックが、ほんの少しだけ開いている。
そう、もう後は、人の目を盗んで目の前のマニキュアを掴み、その隙間にねじ込むだけでよかった。

そのころミックはというと、ミネラルウォーターが並ぶ冷蔵棚の前で、『ダイエットウォーター』といういかにも胡散臭そうな水の成分表示を眺めながら、彼女の心の中に囁き続けていた。
「もうすぐ店員がレジの奥に入る。そのときがチャンス。あと十秒だ。八、七、六……」

No.36 08/11/25 12:20
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 35 📖

あと五秒。

No.37 08/11/25 12:21
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 36 四、三、二、一。

少女はマニキュアを掴むと、すばやく鞄にねじ込んだ。

No.38 08/11/25 12:27
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 37 📖

俺は指を鳴らして飛び上がりたいのをこらえた。
そう、人を誘惑するのなんて簡単なんだ。
ストレス社会なんて言われている、このご時勢では。
俺のシナリオでは、これに味を占めた少女がどんどん万引きを繰り返し、友達を誘い、仕舞いには万引き団なる組織を結成するにいたる――

ハズだった。

No.39 08/11/25 12:47
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 38 👼

店を出ようとする少女を追おうとして、ミックは立ち止まった。
足早に少女に歩み寄る店員がいる。
バレたのか!?
ミックは店員を阻止しようと、左手を軽く上げた。
しかし、その指を鳴らす前に、何者かに手首を掴まれた。
びっくりして振り返った彼の前に、背の高い、色白の男が立っている。
淡いブロンドの短い髪、白いシャツ、くたびれたジーンズ、皮を編んだサンダル。
澄んだ青い瞳が、厳しい眼差しでミックを見つめていた。

「君?精算はこちらですよ」
やさしい口調の店員に少女が捕まるのを背中で聞きながら、ミックは石像のように青ざめ、固まっていた。
なぜなら、その男は人の姿をした天使だったからだ。

No.40 08/11/25 13:03
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 39 👼

「不運でしたね」
天使は無表情に言った。
そして、ミックの向こうを見つめる。
ミックが振り返ると、少女が店員に連れられて店の奥に入っていくところだった。
「私の完全無欠なる作品が、君の獲物を改心させるでしょう」
「作品?」
「あの店員です。彼は非の打ち所が無い善人だ。私の作品です」
ミックは天使の手を振りほどいた。
「俺の獲物を逃がしやがったな」
「私が仕向けたのではない」
天使は喚くミックに落ち着いて言った。
「君のほうから近づいてきたのだ」

No.41 08/11/25 13:21
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 40 📖

まさか天使に出会うとは。
せっかく魂を得るチャンスだったのに、台無しだ。
それにしても、不愉快な物言いの天使だった。
作品だ?
ちょっと上手くいってるからってチョーシ乗りやがって。
これだから天使は嫌いだ。
自尊心が強くて高飛車で。

人間ってのは石膏像じゃない。
絵画でもなけりゃ、小説の主人公でもない。
生き物なんだ。
完全なる善にも悪にもなりえない。
いつかあの“作品”も、作者の想像を超える奇想天外な行動をとるだろう。
そのときに言ってやりたいものだ。
「不運でしたね」って。

No.42 08/11/26 03:55
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 41 📖十一月四日

今日は天気が悪い。
寒くなるに連れて空気が澄んでいくのか、やけに空が青くてうんざりだ。
こんな日は家に引きこもっているのが一番。

と思ったが、そういう訳にもいかない。
俺には時間がないからだ。
昨日は天使に邪魔されて悔しい思いをしたので、今日は車で少し遠くへ出てみることにした。

No.43 08/11/26 04:13
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 42 🌴海

ミックは愛車であるフェラーリのオープンカーを飛ばしていた。
他の走行車は自然と彼の車を避けたし、信号も都合よく青に変わるので、黒いツヤツヤのフェラーリは常に時速200キロを維持している。
そしてミックが走り去った後では、いつもとは違うタイミングで変わる信号のせいで大渋滞と玉突き事故が絶えなかった。
これはミック自らが要因となっているので大した功績にはならないが、それでも苛立った人間たちのいさかいを誘ったのだから、立派な仕事の一環だ。

ミックはサングラス越しに、道路標示を見上げた。
「この先は海か」
海で為せる悪って、何かないかな。
生真面目にそんなことを考えながら、ミックはさらに車を飛ばした。

No.44 08/11/26 04:45
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 43 🌴

ところが、そんな思案は無駄に終わった。
「そうか」
ミックは車を堤防に寄せて止め、浜辺に向かって歩きながら呟く。
「今は冬じゃねぇか」
あたりには冷たい風が吹きすさび、長い海岸線には重たい波が打ち寄せては、ずるずると引いていく。
当然、人影はまったくなかった。
人間がいないのでは仕事の仕様がない。
しかし、せっかく来たのだからと、ミックは海沿いに浜辺を散歩した。

ブラブラと歩いているうち、ミックは何者かの悲しみが辺りに満ちていることに気付いた。
空は目が眩むくらいに晴れ渡っているというのに、海はどことなく灰色に塞いでいるのだ。
なんだ?
やけに孤独を感じるな。
ミックは目を凝らし、長い浜辺を観察した。
そして、彼は一人の人間を発見したのだった。

  • << 47 🌴 その女は乾いた流木に腰を下ろし、寒さをも忘れたかのようにぼんやりと海を眺めている。 ミックはすぐにぴんときた。 こいつは、思い悩んで海まで来ちまった人間だ。 生と死の狭間まで来て、迷っている勇気のねぇやつだ。 そう、後は悪魔が、その背中を押してやるだけ。

No.45 08/11/26 15:11
ごん ( kKlQh )

こんにちわー\(≧▽≦)🌷🌷また書きこんでしまいました🙏

ホントは毎日見にこさせてもらっているんです(というか,実は僣越ながらマイスレッドに登録させて頂いてるんです🙇⤵⤵)が,主サンの大事な小説に,まるで落書きの様な私のレスを混入させて良いものかと・・・でも,エールを贈りたい🎊‼楽しみなのを伝えたい‼‼というジコチューな考えで😢,結局実行してしまいました👿私はワルくない💦‼ミックに誘惑されたんた(;'皿´)ワラ💜

いやー,本当に面白いです😚ミックのお間抜けなところは,もう愛嬌ですよね。1人で声をあげて笑ってしまう事もしばしば・・・(-"-;)💧💧

天使さんが出てきたくだりは驚きました。天界からの使者も降り立ってたんですね☺でも,あるイミ,ミックより天使さんの方が冷めてますよね👀❓❓何というか・・・「作品」と発言した辺りが,クーーール‼‼まぁミックが熱血ヤロウな訳じゃないのですが😁💦💦

これから年が明けるまで,果たしてミックは悪を誘発,実行させることができるのか⁉ヒーロー番組を見てるみたいにドキドキしながら心待ちにさせて頂いてます😊🍀どうか,ムリにならない程度で頑張ってくださいね☺✨✨🎀

No.46 08/11/26 16:44
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 45 いらっしゃい、レスありがとう😺💕
楽しみにしていただいて、しかもマイスレ登録済みなんて光栄です😚🎵
ごんさんのレスは元気が出ますねぇぇ✨
私にとっては迷惑どころかありがたいですよ😢💓
きっとミックが私の邪魔をしようとして失敗したに違いない👿🌟

先に登場した天使の性格はミックと対照的に描いたつもりです👼
仕事熱心なのですが、ミックのように楽しみを求めず仕事と割り切っている、エリート天使といったところかな👔
まぁ、天使にもいろいろいるんですね(笑)

リアルタイムの大晦日に間に合うように仕上げたかったんだけど、スランプが長かったから間に合うかなぁ💨💦
でも、頑張りますので、どうぞ末永くお付き合いのほどを🙌✨
また感想・指摘などいただけると勉強&励みになります‼🙇🙇

No.47 08/11/26 16:56
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 44 🌴 ところが、そんな思案は無駄に終わった。 「そうか」 ミックは車を堤防に寄せて止め、浜辺に向かって歩きながら呟く。 「今は冬じゃねぇか」… 🌴

その女は乾いた流木に腰を下ろし、寒さをも忘れたかのようにぼんやりと海を眺めている。
ミックはすぐにぴんときた。
こいつは、思い悩んで海まで来ちまった人間だ。
生と死の狭間まで来て、迷っている勇気のねぇやつだ。
そう、後は悪魔が、その背中を押してやるだけ。

No.48 08/11/26 17:36
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 47 🌴

心身健全な人間に自殺を促し、それが成功すれば大した功績だ。
だが、それには多大なるリスクと時間が伴う。
それに比べて最後の瞬間に手を貸してやることは、ポイントは低いものの手軽で手っ取り早い。
ミックは口元がほころぶのを噛み殺し、女の心に囁きかけるのに必要な近さまで歩み寄る。
棚からぼた餅とはこういうことだ。

海から風がビュウビュウと強く吹き付ける。
その時、女は何かを感じ取ったのか、いきなり振り返った。
「!?」
硬直し、サングラスの奥の目をぱちくりと瞬いたミックだったが、内心では飛び上がるほどに驚いた。
潜むプロフェッショナルとも言える悪魔の気配を感じ取るなんて!

No.49 08/11/26 17:47
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 48 🌴

女もまた驚いた様子で、気まずそうに軽く会釈した。
ミックはどうしていいものかわからず、その場にしばらくたたずんでいた。
彼が驚きのあまり彼女から目を離さないので、彼女もまたミックから目を離せないでいる。

どうしよう?
いや、落ち着け。
まだ悪魔だとバレたわけじゃない。

No.50 08/11/26 20:28
カルファーレ ( Uc1Hh )

>> 49 📖

こうなったら、人間のフリをして直接その女に死を勧めるしかない。
そう思い、俺は女の横に座った。

  • << 51 🌴 ……。 「寒いっすね」 「そうですね」 ……。 「何してるんスか?」 「海を見ているんです」 「ですよね」 ……。 「あなたは何をしに海へ?」 「俺?えーと」 まさか真実は言えない。 「海を見に」 「そうですか。一緒ですね」 「そうですね」 ……。 ……。 ………………。
投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧