悪魔の日記
『一日一悪💀』
と題した日記帳を片手に、ある悪魔が地上界で生活を始める。
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🌙プロローグ
ある大晦日の夜。
一人の悪魔が、都会の中心で自分の新しい住処を眺め回している。
そこは高層マンションの十一階。
ツヤツヤのフローリング、システムキッチン、照明付きシーリングファン、薄型巨大テレビの前には革のソファー、それを取り巻くサラウンドスピーカー。
上質の白い壁紙にダークグレーの高級カーテン。
ウォシュレットトイレには暖かいスリッパを備えてあるし、シャワールームの浴槽は背の高い彼でも十分に足が伸ばせる。
寝室には収納のよいクローゼットがあり、ベッドはもちろんキングサイズだ。
地下の駐車場にはフェラーリのオープンカーが止まっている。
完璧、完璧なんだ。
ある一点を除けば……。
>> 3
📖記念すべき第一ページ
さて、まずは俺が日記を書かざるを得ない状況に陥った理由を簡単に説明しよう。
新年が始まって以来の十ヶ月と三十日間というもの、俺は毎日欠かさずプロテインを飲み、ジムに通い、美容整形手術を行った。
健康食品や早朝ランニングといった方法も試したが、どうも悪魔には不向きだったらしい。
まぁとにかく、努力のかいあって俺は理想の肉体を手に入れたと言っていい。
そう、お察しの通り、俺は地上での仕事をそっちのけにして肉体改造にいそしんだわけだ。
仕事にはノルマがある。
次の大晦日までにこれをクリアしないと、またあの退屈な地獄に送り返されてしまう。
大きな仕事をするには時間がないし、ここはやはり、小さな悪をコツコツと、だ。
というわけで、俺はここに仕事の記録を書き記す。
>> 5
🚬タバコ
その朝、ミックは人気のない通りをブラブラと歩いていた。
形のよい上がり目にサングラス、高い鼻、尖った顎。
パーカーにジーンズジャケットを羽織った身体は、服越しにも筋肉質なのがわかる。
が、若干細身なのは否めない。
強盗、誘拐、殺人、強姦、放火。
近頃の人間は悪魔の誘惑に乗りやすいという。
しかし、一方で悪魔のGOサインを待たずに悪に身を染める人間も多い。
そういった場合、それは悪魔の功績にはならない。
「俺は初心者なんだ」
ミックは自分に言い聞かせた。
「そんなでかいことに手を出して失敗するよりは……」
その時、薄暗い中に光を放つ自動販売機に彼は目を留めた。
タバコだ!
「禁煙中の喫煙者を誘惑するくらいなら、俺にだってできる」
ミックは指を鳴らす。
とたんに自動販売機は故障し、大量のタバコを吐き出した。
その中から適当に一つ取り上げると、彼は火をつけて口に咥えた。
そして……
📖
タバコなんか二度と吸うか!
今でも咳が止まらない。
人間どもはなんて自虐的なんだ。
しかし、愛煙家はあれを「旨い」と言っている。
もしかしたら、旨く吸う方法が……
いやいやいや、絶対ありえない。
もう絶対吸わない。
俺がもう少し力のある悪魔だったら、この世からタバコを消し去って、世界中の愛煙家を苦しめてやる。
ということで、今日は俺の住む地域一体のタバコ自動販売機を故障させてタバコ業界にささやかな打撃を与えると共に、禁煙ポスターを街中に貼りまくった。
愛煙家と嫌煙家の紛争が起こる日は近い。
📖十月三十一日
今日はハロウィン!
しかし、残念ながら俺の住む街ではハロウィン祭は行われなかった。
十月に入るなり黒とオレンジに染まっていたくせに、肝心の祭りをやらないなんて理解できない。
悪魔としては、ぜひともこのイベントに参加したいところだ。
ということで、俺は地獄の抜け穴を使い、ハロウィンを祝いに出かけた。
>> 8
🎃ジャック・オ・ランタン
地獄に下りたミックの背には、黒いコウモリに似た翼が生えている。
本来の姿はもっとおぞましいのだが、彼は今の身体が気に入っているので、あえてその姿には戻らなかった。
さて、どこのハロウィンが一番盛り上がっているかな?
ミックは時々地上界を覗きながら、地獄の暗闇を羽ばたいた。
あるところはショッピングモール。
あるところはミュージシャンのライヴ会場。
あるところは地域の子ども会。
あるところは……「おっと失礼」カップルが取り込み中だ。
どこも、カボチャちょうちんは爛々と輝いているのに、それらしい祭りは行われていない。
「やっぱハロウィンの本場に行くべきか」
それなら海外だ。
しかし、ここで問題になるのは、そこが自分の担当区域ではないということ。
つまり、よその地で悪を施しても自分の業績にはならないのだ。
「ハロウィンは祝いたいが、ちゃんと仕事もしておかないと」
>> 13
📖
昔ジャックという飲んだくれのケチな荒くれ男がいた。
あるハロウィンの日に、地獄からやってきた悪魔に遭遇し、彼は魂を取られそうになる。
しかし、ジャックは悪魔を騙して「ジャックから魂を取らない」という約束をさせた。
その後、彼は年老いて死んだが、生前の行いが悪かったために天国へ行けなかった。
だが、悪魔はジャックから魂を取らない約束をしているので、彼を地獄に入れてくれない。
そのため、ジャックは暗い道を彷徨い続けなければならなくなったが、悪魔は少しばかり同情し、彼に明かりをともしたカブを持たせた。
これがジャック・オ・ランタンの物語。
このカブがカボチャに置き換えられて、カボチャちょうちんになったわけだ。
📖十一月一日
悪魔は眠る必要がない。
食べる必要もないし、たとえ心臓が止まっても心肺蘇生術を施す必要もない。
要するに不死身なのだ。
だが、俺は食事を取るのは好きだ。
肉体改造の過程でプロテインを飲んだのがそのきっかけかもしれない。
味なんてほとんどわからないけど、食べ物が喉を通り腹に収まっていく感覚がなんともいえず快感だ。
ただ、物を食べるとトイレに行かなければならなくなるのが面倒ではあるのだが。
今日俺はある三ツ星レストランで食事をした。
>> 17
🍴マナー
窓際の席についたミックは、ジーッとテーブルを睨みつけていた。
前菜の料理が運ばれてきても、彼はじっとしている。
その視線の先に、二本の棒がそろえて並べられている。
箸だ。
食に興味を持った段階で、彼はテーブルマナーについて調べ上げ、今ではナイフもフォークも完璧に使いこなせる。
だが箸に関しては、とてもそんな器用な食べ方はできないと思い、鼻から調べていなかった。
「どうしろっていうんだ」
とりあえず水を飲みながら、彼は悩んでいる。
料理は洋食なのになぜ箸なんだ。
この街の人間はやはり少しおかしい。
チラッと斜め前のテーブルを見ると、夫婦らしい男女が箸を使って食事をしている。
ミックは気付かれないようにその手元を盗み見、それらしく箸を持った。
そして、また固まる。
「んん~」
開かない。
結局、彼はウェイターを呼び寄せてナイフとフォークを用意させた。
>> 21
🍴
ミックは「というわけで、今日の悪は不発だった」という文でこの日の日記を締めくくっているが、実はもう少し続きがある。
「よう、ミック・ホッパー」
巨漢に釘付けになっていたミックに声をかけたのは、小太りの剥げた男だった。
「ヘス・グリージー!」
ミックは見覚えのある悪魔に目を丸くした。
「すげぇだろ、あの男」
「ああ」
「俺の獲物なんだ」
ヘスはミックの向かいに座ると、仕事の成果を得意げに話し始めた。
富豪で美食家だった彼を、過食症に陥らせた過程を。
「食うためならどんな犠牲も犯罪もいとわねぇ。ヤツの魂は地獄行き確定だ」
ヘスはそう言うと、箸を使って食事を始めた。
ミックはなんとなく気落ちして、その日はまっすぐ家に帰った。
そして、生まれて初めて睡眠をとったのだった。
>> 24
🔫
「寝室を見て来い」
キャップを被った男はそう言い、苦心して手に入れた一丁の拳銃を相方に渡した。
相方はニット帽を深く被った若い男で、無言でうなずくと、恐る恐る奥へ進んだ。
寝室のドアは開けっ放しで、ベッドの上からはみ出した二本の足が見えている。
その足は靴を履いたままだ。
ニット帽はドキドキしながら、拳銃を強く握った。
首を伸ばして寝室をのぞき、ベッドにうつぶせている男の様子をうかがう。
「……?」
- << 27 🔫 ニット帽は爪先立ちになりながら、ベッドに倒れている男の顔をのぞこうとしていた。 「おい!」 キャップが押し殺した声でいう。 「なにしてやがる」 飛び上がりそうになったニットは、震える銃口で男を指した。 「こ、こいつ死んでるかも」 「何だと」 キャップは金品を見つけられなかった事で自棄になり、ニット帽から拳銃を奪い取った。 そして、男の背中に膝を突いてのしかかり、うなじに銃口を押し付ける。 「おい、起きろ!」 しかし、男は身動き一つとらなかった。 体温はあるような、ないような……。 キャップは男の背から降り、銃口を押し付けたまま彼を仰向けにした。 そして……
>> 25
🔫
「寝室を見て来い」
キャップを被った男はそう言い、苦心して手に入れた一丁の拳銃を相方に渡した。
相方はニット帽を深く被った若い男で、無…
🔫
ニット帽は爪先立ちになりながら、ベッドに倒れている男の顔をのぞこうとしていた。
「おい!」
キャップが押し殺した声でいう。
「なにしてやがる」
飛び上がりそうになったニットは、震える銃口で男を指した。
「こ、こいつ死んでるかも」
「何だと」
キャップは金品を見つけられなかった事で自棄になり、ニット帽から拳銃を奪い取った。
そして、男の背中に膝を突いてのしかかり、うなじに銃口を押し付ける。
「おい、起きろ!」
しかし、男は身動き一つとらなかった。
体温はあるような、ないような……。
キャップは男の背から降り、銃口を押し付けたまま彼を仰向けにした。
そして……
>> 28
🔫
彼は涙目を何度も瞬きながら、ふらふらと机に向かう。
そして白紙のページを開いた。
📖十一月二日
初めて眠った。
目が焼け爛れてしまったのかと思った。
眠っている間は心地よいが、起きる瞬間は腹を据えておかなければならない。
しかも日付が変わっている。
恐るべし睡眠。
🔫
あえて仕事のことには触れないまま、彼はノートを閉じたのだった。
- << 33 📖十一月三日 今日は実に不愉快だった。 先日出会った悪魔ヘス・グリージーは、俺と同じく去年の暮れに地上に派遣された、いわば同期だ。 にもかかわらず、ヤツはすでに人間の魂を得て、地獄のノルマを達成しようとしている。 なぜ、うだつの上がらない中年親父みたいな見た目のヤツに、この俺が負けなければならない? セクシーでスマートで、今流行のソフトマッチョな俺が。 そこで、俺は街に繰り出した。 ヤツにできたんだ。 俺にだって、魂の一つや二つ地獄送りにすることぐらいできるはずだ。
せっかくの小説の欄に感想なんか書いてしまって申し訳ありません🙇でも,とても面白くて,それを伝えたくて遂に書いてしまいました😣
いつも読ませて頂いていて,主さんの小説には楽しませてもらってます😊🙌私はファンタジックな世界がすごく好きで,主さんの小説を読んでいると妄想に浸れることが出来て,癒されます😁🎊
すごく文章力ありますね😃読みやすいです👿ゲヘヘ
私の楽しみの1つが主さんの小説の更新なので,ま~ったり待たせてもらいますね☺✨
もうホンマ応援してます😤🔥✨‼
>> 29
🔫
彼は涙目を何度も瞬きながら、ふらふらと机に向かう。
そして白紙のページを開いた。
📖十一月二日
初めて眠った。
目が焼け爛れてしま…
📖十一月三日
今日は実に不愉快だった。
先日出会った悪魔ヘス・グリージーは、俺と同じく去年の暮れに地上に派遣された、いわば同期だ。
にもかかわらず、ヤツはすでに人間の魂を得て、地獄のノルマを達成しようとしている。
なぜ、うだつの上がらない中年親父みたいな見た目のヤツに、この俺が負けなければならない?
セクシーでスマートで、今流行のソフトマッチョな俺が。
そこで、俺は街に繰り出した。
ヤツにできたんだ。
俺にだって、魂の一つや二つ地獄送りにすることぐらいできるはずだ。
>> 34
👼
ある薬局の棚の影。
一人の少女が落ち着かない様子で、周囲に目を配っていた。
男物の大きなパーカーの下から、制服と思しきスカートが見えている。
彼女は化粧品を選んでいるふりをして、陳列した商品を指でなぞったり、リップクリームの種類を見比べたりしていた。
しかし、彼女の狙いはすでに定まっている。
ある化粧品ブランド冬季限定色の、『スノークイーン』というラメ入りのマニキュアだ。
彼女の肩に掛かった通学鞄のチャックが、ほんの少しだけ開いている。
そう、もう後は、人の目を盗んで目の前のマニキュアを掴み、その隙間にねじ込むだけでよかった。
そのころミックはというと、ミネラルウォーターが並ぶ冷蔵棚の前で、『ダイエットウォーター』といういかにも胡散臭そうな水の成分表示を眺めながら、彼女の心の中に囁き続けていた。
「もうすぐ店員がレジの奥に入る。そのときがチャンス。あと十秒だ。八、七、六……」
>> 38
👼
店を出ようとする少女を追おうとして、ミックは立ち止まった。
足早に少女に歩み寄る店員がいる。
バレたのか!?
ミックは店員を阻止しようと、左手を軽く上げた。
しかし、その指を鳴らす前に、何者かに手首を掴まれた。
びっくりして振り返った彼の前に、背の高い、色白の男が立っている。
淡いブロンドの短い髪、白いシャツ、くたびれたジーンズ、皮を編んだサンダル。
澄んだ青い瞳が、厳しい眼差しでミックを見つめていた。
「君?精算はこちらですよ」
やさしい口調の店員に少女が捕まるのを背中で聞きながら、ミックは石像のように青ざめ、固まっていた。
なぜなら、その男は人の姿をした天使だったからだ。
>> 42
🌴海
ミックは愛車であるフェラーリのオープンカーを飛ばしていた。
他の走行車は自然と彼の車を避けたし、信号も都合よく青に変わるので、黒いツヤツヤのフェラーリは常に時速200キロを維持している。
そしてミックが走り去った後では、いつもとは違うタイミングで変わる信号のせいで大渋滞と玉突き事故が絶えなかった。
これはミック自らが要因となっているので大した功績にはならないが、それでも苛立った人間たちのいさかいを誘ったのだから、立派な仕事の一環だ。
ミックはサングラス越しに、道路標示を見上げた。
「この先は海か」
海で為せる悪って、何かないかな。
生真面目にそんなことを考えながら、ミックはさらに車を飛ばした。
>> 43
🌴
ところが、そんな思案は無駄に終わった。
「そうか」
ミックは車を堤防に寄せて止め、浜辺に向かって歩きながら呟く。
「今は冬じゃねぇか」
あたりには冷たい風が吹きすさび、長い海岸線には重たい波が打ち寄せては、ずるずると引いていく。
当然、人影はまったくなかった。
人間がいないのでは仕事の仕様がない。
しかし、せっかく来たのだからと、ミックは海沿いに浜辺を散歩した。
ブラブラと歩いているうち、ミックは何者かの悲しみが辺りに満ちていることに気付いた。
空は目が眩むくらいに晴れ渡っているというのに、海はどことなく灰色に塞いでいるのだ。
なんだ?
やけに孤独を感じるな。
ミックは目を凝らし、長い浜辺を観察した。
そして、彼は一人の人間を発見したのだった。
- << 47 🌴 その女は乾いた流木に腰を下ろし、寒さをも忘れたかのようにぼんやりと海を眺めている。 ミックはすぐにぴんときた。 こいつは、思い悩んで海まで来ちまった人間だ。 生と死の狭間まで来て、迷っている勇気のねぇやつだ。 そう、後は悪魔が、その背中を押してやるだけ。
こんにちわー\(≧▽≦)🌷🌷また書きこんでしまいました🙏
ホントは毎日見にこさせてもらっているんです(というか,実は僣越ながらマイスレッドに登録させて頂いてるんです🙇⤵⤵)が,主サンの大事な小説に,まるで落書きの様な私のレスを混入させて良いものかと・・・でも,エールを贈りたい🎊‼楽しみなのを伝えたい‼‼というジコチューな考えで😢,結局実行してしまいました👿私はワルくない💦‼ミックに誘惑されたんた(;'皿´)ワラ💜
いやー,本当に面白いです😚ミックのお間抜けなところは,もう愛嬌ですよね。1人で声をあげて笑ってしまう事もしばしば・・・(-"-;)💧💧
天使さんが出てきたくだりは驚きました。天界からの使者も降り立ってたんですね☺でも,あるイミ,ミックより天使さんの方が冷めてますよね👀❓❓何というか・・・「作品」と発言した辺りが,クーーール‼‼まぁミックが熱血ヤロウな訳じゃないのですが😁💦💦
これから年が明けるまで,果たしてミックは悪を誘発,実行させることができるのか⁉ヒーロー番組を見てるみたいにドキドキしながら心待ちにさせて頂いてます😊🍀どうか,ムリにならない程度で頑張ってくださいね☺✨✨🎀
>> 45
いらっしゃい、レスありがとう😺💕
楽しみにしていただいて、しかもマイスレ登録済みなんて光栄です😚🎵
ごんさんのレスは元気が出ますねぇぇ✨
私にとっては迷惑どころかありがたいですよ😢💓
きっとミックが私の邪魔をしようとして失敗したに違いない👿🌟
先に登場した天使の性格はミックと対照的に描いたつもりです👼
仕事熱心なのですが、ミックのように楽しみを求めず仕事と割り切っている、エリート天使といったところかな👔
まぁ、天使にもいろいろいるんですね(笑)
リアルタイムの大晦日に間に合うように仕上げたかったんだけど、スランプが長かったから間に合うかなぁ💨💦
でも、頑張りますので、どうぞ末永くお付き合いのほどを🙌✨
また感想・指摘などいただけると勉強&励みになります‼🙇🙇
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