遠い国へ

レス14 HIT数 579 あ+ あ-


2025/04/14 11:57(更新日時)

理加子と恵理子は、気が合う親友同士。
毎日の出来事も、いろいろな思いも、好きな物、好きな事、好きな人の話、などを、いつも共有してきた。
そんな二人の前に、やがてそれぞれの選択肢があらわれる。

どこにでもいる女の子、理加子と恵理子の、青春のひとコマの断片。



No.4133754 (スレ作成日時)

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No.1

「今日の帰り、家に寄ってもいい?」
理加子からそう言われたのは、まだ新学期が始まって間もない、のんびりしたムードが抜けきれない頃のことだった。
「うん。いいよ」
教室の中は、掃除を終わらせかけた生徒たちが、ふざけたり、ざわめいたり、帰り支度を始めたりしている。
私も、カバンに、ノートやプリントを入れながら、聞いた。
「このあいだ買ったコミック、見る?

「あ、それも見たいけど、私、あれ見たいんだ、えりちゃんのお母さんが持ってる雑誌」
私の母は、旅行代理店の関連の会社に勤めていて、時々、外国のファッション雑誌や、生活雑誌をもらって帰ってくることがあった。
「じゃあ、コンビニで何かスイーツ買って帰ろうよ」
「最近のおすすめってある?」
「えっとね、、、 Fマートかな。ケーキにしようか」
「飲み物どうする?」
「ダージリンがあるよ。いちごジャムがあるから、アップルティーにしよう!」

No.2

理加子と私は、帰り道も、おしゃべりが止まらない。
憧れの先輩に告白した同級生のこと、中学生の時につきあっていた彼氏から久しぶりにメールがきたこと、親戚の人がやっているカフェは、夜になったらお酒も出て、昔のCDとかレコードとかを貸してくれること、夏休みの予定、、
いつも、テスト前とかには、お互いの家で勉強したり、たまにはキッチンを使ってお菓子を作ったりしていたので、それぞれの両親にはあまり会ったことはないけど、私の母も、「今日、理加子と家で遊んでいい?」と聞くと、「いいわよ。火の元には注意してね」と、こころよく許してくれていた。

No.3

「海外留学とか、できたらいいなあ」
そういう理加子は、陽(ひ)に透ける茶色っぽい髪が、無造作に制服の肩のあたりまで伸びていて、毎日一緒にいる私でも、時々どきっとするほどエキゾチックというか、きれいな時がある。
今までに、同じ学校の男の子から何人か、つきあってほしいと言われたようだけど、「なんかピンとこなくて」交際とかまでには、発展しなかったらしい。

No.4

「えりちゃんは? 好きな人に、告白しないの?」
雑誌のページをめくりながら、理加子が聞く。
「うん、、、 なんか、ほんとに好きかどうか、わかんなくなってきた」
「なにそれ? 受験モードになる前に、気持ちを言っといたら?」
「だって、すごい美人の彼女がいるって、みんなから聞いたよ」
ケーキを食べ、アップルティーを飲んで、私達は、カップとお皿がのったトレイを部屋のすみに寄せて、雑誌を広げた。

No.5

カラフルで、少し異質な感じの服をまとったモデルたち、英語で書かれたお料理のレシピ、最新のお店情報、、
「すごいね。やっぱり、スタイルが良ければ、何着ても似合うよね」
「黒人の人ってさあ、どうしてこんなに脚がスリムなの?」
「この人、かっこいいと思う?」
「うーん、微妙。ね、この単語って、このあいだ習わなかった?」
「あーもう忘れた。でもさ、そのお料理、材料費だけで、もうアウトだってば」
さんざん雑誌のページをめくって、あれこれと他愛ないことを言いあい、やがて、二人とも、無言でそれぞれの誌面やコミックを読みふけりだした。

No.6

そんなことをしているうちに、あっという間に2時間ぐらい過ぎた。
「もうこんな時間?帰らなきゃ」
「結局、宿題しなかったね」
「明日、学校でやろうかなぁ」
「図書室も最近人が多いから、理科室がいいみたいよ」
私と理加子は、階段を下りて、玄関へ向かう。

No.7

「ケーキ、おいしかったね」 
「今度は駅前のコンビニまで行ってみようよ」
「そうだね。楽しみ! 私、忘れ物ないよね?」
理加子が、赤いバックの中を点検している時、ふいに、玄関のドアが開いた。
「、、、、あれ?」
少し驚いた表情の兄が、そこに立っていた。
「お兄ちゃん、なんで、今日はこんなに早いの?」
「ちょっと、パソコン入力に来たんだよ。、、、、こんにちは」
「こんにちは」
理加子は、いつもとちがう声のトーンで、上目づかいに頭を下げた。

No.8

「勉強したの?」兄は、私と彼女を見ながらたずねる。
「うん、英語と、社会の勉強だよね」
「えりちゃん、私、もう帰るね、、、おじゃましました」
理加子は、兄の横をすりぬけて、帰っていった。兄も、一瞬ちょっと頭を下げてから、「気をつけてね」と言って、ドアを閉めた。
「お兄ちゃん、今日、晩ごはんは?」
「んー、かるく食べる」
「もしかして、合コン?」
「ちがうよ。レポートの資料集め」
「ほんとかなあ」
私の兄は、大学四年生だ。ヨーロッパ比較文化とかいう講座をとっていて、三年生の後半から、卒業論文に向けてのレポートを作らないといけないらしい。

No.9

「また、コンビニのケーキなんか食って。顔が、丸くなるぞ」
台所のゴミ箱を見ながら、兄は、そう言って、戸棚のキットカット大袋から2、3個取り出して、自分の部屋に向かった。
私も、「ごはんのおかわり、減らしてるから!」と言いながら、隣の部屋に入り、制服を着替えようとした。
部屋の中は、乱雑に置きっぱなした雑誌と、カップとお皿がのったトレイと、理加子の気配が残っている。
気配が濃ければ濃いほど、一人になった時はさみしい。
とりあえず着替えながら、私は、(女きょうだいが、いればいいのにな)と思った。


期末テストも終わり、プリントが返ってくると、クラスのみんなは、点数の良さ、悪さに一喜一憂しながら、日々を過ごしていた。

No.10

「えりちゃん、現国どうだった?」
「中間よりは良かったけど、、 ね、数学、追試があるんでしょ?」
「私、点数ギリギリ!夏休みまで学校来るの、イヤだなー」
クラスメイトとしゃべっていると、ふと、理加子が、自分の席から動いてない事に気がついた。
窓際の理加子の席に近づくと、イヤホンをして、小さなiPodを操作しながら、物思いにふける表情で、校庭をながめている。
「理加子」
声をかけると、「あ、えりちゃん、びっくりした」と、顔をあげて、イヤホンを耳から外した。
「テストどうだった?」
「もう、サイテー。実力テストのほうが、まだましだった」
「追試受ける?」
「うん、、、 ねえ、夏休み中、留学とかできると思う?」
思いがけない理加子の言葉に、私は、びっくりした。

No.11

「留学って、アメリカ?」
「うん。一週間ぐらいだったら、どうにかならないかなと思って」
「なんか、急な話だねえ」
私は、空っぽになっている、理加子の前の席の椅子に座った。
「三年生になったら、無理だもんね」
「そう。できれば、今年のうちになんとか行きたいんだけど。冬休みだったら、お正月と重なっちゃうし」
「工学部の彼は? どうするの?」

No.12

「あの人はもう、大学生だし。最初はまあまあ楽しかったけど、最近、あんまり連絡も取ってないし。今ごろ、キャンパスライフを満喫してるよ」
「ふうん」
「とりあえず、夏休みだけ金髪にして、外国人になってみようと思うんだけど。えりちゃんは、どうする?」
「えー?私は、ストレートパーマかけたいな」
そう言いながら、私は、ずっと先の予定まで考えている理加子が、ちょっと遠くなったような気がした。
冬休みの事なんて、家族に聞いてみないとわからないし、父の出張や、母の仕事が年末年始にかかると、留学どころか、旅行にも行けない可能性も高かった。

No.13

二学期の総合成績が良かったら、もしかしたら、私の受験前に、国内旅行ぐらい行けるかもしれない、、、
と思いながら、塾から帰り、ジャージに着替えて部屋のベットで仮眠していると、隣の部屋から、兄が話している声が聞こえてきた。
誰かに、何かを説明しているような感じだったが、途切れ途切れに、遠く、低く声が響いてくる。
たぶん、携帯電話で、彼女と話でもしてるんだろうと思いつつ、そのままぐっすり眠り込んでしまった。

No.14

妙な夢を見た。
旅行に行こうとして、駅に向かっているのに、迷ってしまい、やがて駅にたどり着くのだが、ビルの階段を下りていくと、また、同じような街並みが続いていて、結局、列車に乗り遅れてしまう夢だった。
どういう意味だろう、暗示だとしたら、いやな暗示だなぁ、、、と思いながら、朝食を食べにキッチンに行くと、兄の姿がなかった。
「お兄ちゃんは?」尋ねると、母は、
「今日は、ゼミの準備のお手伝いで忙しいって、もう大学に行ったわよ」
と、エプロンを外しながら、言った。

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